説明

車両制御方法

【課題】従来の手法の抱える不都合を回避しつつ急停車後の再発進性を良化する。
【解決手段】エンジンが出力する駆動力をトルクコンバータを介してCVTに入力し駆動輪に伝達するようにしたものにおいて、前進レンジ若しくは後進レンジでの停車時に、CVTの変速比が所定閾値以下となっているかまたはその直前の走行状態から停車に至る過程での減速度が所定閾値以上であったことを判定し、前記変速比が所定閾値以下または前記減速度が所定閾値以上であると判定した場合にエンジン出力を増大させてクリープ力を補償する制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVTを具備する車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されたCVT(Continuously Variable Transmission)では、通常、停車に際して変速比を最ローの状態(即ち、変速比が最も大きい)に戻す制御が行われる。だが、急減速して停車した場合には、変速比が最ローになるよりも先に車両が静止してしまうことがある。CVTは、その回転要素が静止した状態では変速比の変更が困難であるため、急減速して停車した後は再発進性が低下することになる。また、特に、登坂路における停車後の再発進では、変速比が最ローでないことからクリープ力が不足し、運転者がブレーキペダルからアクセルペダルへ足を移す瞬間に車両が後退するといったことも起こり得る。
【0003】
このような問題への対策はかねてから検討されている。例えば、発進用の副伝達機構をCVTと並列に設けておけば、CVTの変速比の状態如何にかかわらず再発進時には副伝達機構を介して適切なトルク伝達を実現できる(下記特許文献1を参照)。また、CVTの下流即ち出力側にクラッチを設けておけば、停車時にクラッチを遮断して、CVTをエンジン駆動しながら変速比を変えることができる(下記特許文献2を参照)。さらには、パーキング(P)レンジ若しくはニュートラル(N)レンジでの停車時のようにCVTに入力されるトルクが0となっている間に強制的に変速比を最ローの状態に戻すことも不可能ではない(下記特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開2000−110858号公報
【特許文献2】特開平11−159596号公報
【特許文献3】特開2002−181180号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の手法では、言うまでもなくコスト増を招き、加えて副伝達機構を配置する空間を確保しなければならない設計上の不利もある。特許文献2の手法では、停車時にCVTを空回しすることになるのでそれだけメカロスが生じる。そして、特許文献3の手法では、前進(D)レンジ若しくは後進(R)レンジで停車、再発進する状況には対処できない。
【0005】
以上に鑑みてなされた本発明は、従来の手法の抱える不都合を回避しつつ急停車後の再発進性を良化することを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するべく、本発明に係る車両制御方法では、エンジンが出力する駆動力をトルクコンバータを介してCVTに入力し駆動輪に伝達するようにしたものにおいて、前進レンジ若しくは後進レンジでの停車時に、CVTの変速比が所定閾値以下となっているかまたはその直前の走行状態から停車に至る過程での減速度が所定閾値以上であったことを判定し、前記変速比が所定閾値以下または前記減速度が所定閾値以上であると判定した場合にエンジン出力を増大させる制御を行うこととした。
【0007】
ここで、請求項にいう「停車」とは、車速が完全に0になった状態だけでなく、車速が非常に小さな値(例えば、時速5km/h以下)になった状態をも含む。エンジン出力の増大は、例えばアイドル回転数の上昇、点火時期の進角等によって具現できる。
【0008】
なお、エンジンが出力する駆動力を発進クラッチを介してCVTに入力し駆動輪に伝達するとともに停車時にクリープ力を与えるようにしたものにおいては、前記変速比が所定閾値以下または前記減速度が所定閾値以上であると判定した場合にクリープ力を増大させる制御を行ってもよい。クリープ力の増大は、例えばエンジン出力の増大や、発進クラッチの係合力増大等によって具現できる。
【0009】
加えて、前記判定ステップにて路面の勾配が所定以上の登坂路であるかどうかを併せて判定し、路面の勾配が所定以上の登坂路であると判定したことを条件に前記制御ステップを実行することとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の手法の抱える不都合を回避しつつ急停車後の再発進性を良化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に示すものは、本発明の適用対象となる無段変速機の一例である。エンジン2が出力する駆動力は、トルクコンバータ3を介して入力軸30を回転させる。入力軸30の回転は、遊星歯車機構を用いた前後進切替装置4を介して駆動軸510に伝わり、CVT5における変速を経て従動軸520を回転させる。従動軸520には出力ギヤ524が固設され、この出力ギヤ524はデファレンシャル装置6のリングギヤと噛合して出力軸60ひいては図示しない駆動輪を回転させる。
【0012】
CVT5は、駆動プーリ51及び従動プーリ52と、両プーリ51、52に巻き掛けられたベルト53とを要素とするベルト式のものである。駆動プーリ51は、駆動軸(プーリ軸)510に固設された固定シーブ511と、駆動軸510上にローラスプラインを介して軸方向に変位可能に支持された可動シーブ512と、可動シーブ512の後背に配設された液圧サーボ513とを備えており、液圧サーボ513を操作し可動シーブ512を変位させることを通じて変速比を無段階に変更できる。また、従動プーリ52は、従動軸(プーリ軸)520に固設された固定シーブ521と、従動軸520上にローラスプラインを介して軸方向に変位可能に支持された可動シーブ522と、可動シーブ522の後背に配設された液圧サーボ523とを備えており、液圧サーボ523を操作し可動シーブ522を変位させることを通じてトルク伝達に必要なベルト推力を与えられる。
【0013】
エンジン2、CVT5等は、電子制御装置1により制御される。エンジン2の燃料噴射制御を司る電子制御装置(EFI ECU)とCVT5の変速比制御を司る電子制御装置(CVT ECU)とは、別個であってもよく一体であってもよい。電子制御装置1は、CPU、RAM、ROM、I/Oインタフェース等を包有してなる。電子制御装置1は、駆動プーリ51の回転速度をセンシングする入力側回転速度センサ71、従動プーリ52の回転速度をセンシングする出力側回転速度センサ72や、車速センサ(出力側回転速度センサ72と同一であることがある)73、スロットル開度センサ74、エンジン回転数センサ75、冷却水温センサ76、シフトレバーのレンジを知得するためのセンサ77等と接続しており、各センサ71、72、73、74、75、76、77の出力信号を受信してそれらの情報を取得する。並びに、電子制御装置1は、エンジン2の燃料噴射弁や点火プラグ、液圧サーボ513、523等と接続しており、燃料噴射量や点火時期、CVT5における変速比等を制御する。制御用のプログラムは予めROMに格納されており、その実行の際にROMからRAMに読み込まれ、CPUで解読される。
【0014】
その上で、電子制御装置1は、プログラムに従い、図2に示す判定部101及び制御部102としての機能を発揮する。判定部101は、前進レンジ若しくは後進レンジでの停車時に、CVT5の変速比が所定閾値以下となっていることを判定する。及び/または、その直前の走行状態から停車に至る過程での減速度が所定閾値以上であったことを判定する。変速比は、駆動プーリ51の回転速度と従動プーリ52の回転速度との比として算出できる。但し、可動シーブ512の変位をセンシングするセンサ(接触センサ等)を実装している場合、このセンサを介して変速比を計測することができる。減速度は、車速値を一定周期で反復的にサンプリングし、ある時点の車速値と他の時点の車速値との差分をとることで算出できる。減速度を参照するのは、停車した場所が登坂路であるかどうかを推し量る意味合いもある。即ち、減速度が所定閾値以上であったときに、勾配が所定以上の登坂路で停車したものと間接的に判定するのである。但し、路面の勾配をセンシングするセンサ(傾斜センサ等)を実装している場合には、このセンサを介して停車場所の勾配を計測し、これを所定閾値と比較して直接的に判定を下すことができる。
【0015】
そして、制御部102は、判定部101において前記変速比が所定閾値以下及び/または前記減速比が所定閾値以上であると判定された場合に、エンジン出力を増大させる制御を行う。具体的には、アイドル回転数を上げたり、点火時期を進角させたりする。EFI ECUとCVT ECUとが別個に存在しているのであれば、CVT ECUがエンジン出力増大の必要性の有無を判定してEFI ECUにエンジン出力を増大すべき旨の指令を発する構成とするか、あるいは、CVT ECUからEFI ECUに車速やプーリ回転速度等の情報を送ってEFI ECUにエンジン出力増大の必要性の有無の判定及びエンジン出力増大制御の両方を担わせる構成とする。
【0016】
電子制御装置1がプログラムに従い実行する処理の手順を、図3ないし図6のフロー図を参照して述べる。図3に示すように、電子制御装置1は、シフトレバーのレンジが前進レンジ若しくは後進レンジにある状況下において(ステップS1)、車速が所定閾値(例えば、5km/h)以下となり停車に至ると判断したときに(ステップS2)、CVT5の変速比が所定閾値(例えば、1.6)以下となっているか否かを判定する(ステップS3)。即ち、十分な再発進性を担保するべく、停車までに変速比の変更を完遂できたかどうかを判定する。また、その直前の走行状態から停車に至る過程での減速度が所定閾値以上であったか否かを判定する(ステップS4)。減速度が所定閾値以上ならば、急減速しての停車であって、変速比の変更を完遂できていない蓋然性が高い。並びに、勾配が所定以上の登坂路で停車したものと推認され、そうであればクリープ力の不足を補う必要が生じるのである。
【0017】
しかして、ステップS3、S4の判定がポジティブであった場合には、可動シーブ512の変位駆動が間に合わずCVT5の変速比を最ローの状態まで戻すことができなかったとして、エンジン2の出力を増大させる(ステップS5)。ステップS5の結果、クリープ力が増強され、CVT5の変速比が最ローとなっていないことに起因する再発進性の低下が補償される。登坂路における停車後の再発進でも、運転者が精神的余裕を持ってブレーキペダルからアクセルペダルへと踏み替えることができる。因みに、車速が0になる以前にステップS3〜S5を実行開始するのは、プーリ51、52が停止していると回転速度センサ71、72を介して変速比を知得することはできず、加えて、車両が完全に停止してから判定及びエンジン出力制御を行うのではタイムラグを生じ、一時的にせよクリープ力が不足する懸念もあるからである。但し、可動シーブ512の変位をセンシングするセンサを実装している場合には、プーリ51、52が停止していても変速比を知得可能であって、車速が0になってからステップS3〜S5を実行開始する態様もとり得る。
【0018】
また、図3に示しているフローと異なり、ステップS3、S4の何れか一方の判定がポジティブであることを条件にステップS5を実行するものとしても構わない。図4または図5に示す通り、ステップS3、S4の何れか一方の判定を省略することも許される。
【0019】
図6に示すように、ステップS5のエンジン出力の増大制御を解除する(ステップS11)にあたっては、シフトレバーのレンジがパーキングレンジ若しくはニュートラルレンジでなくアクセル開度が所定閾値(例えば、20%)以上となった場合(ステップS6、S7)、車速が所定閾値(例えば、10km/h)以上となった場合(ステップS8)、CVT5の変速比が所定閾値(例えば、1.8)以上となった場合(ステップS9)、または、パーキングレンジ若しくはニュートラルレンジが所定時間(例えば、3秒)以上継続した場合(ステップS10)の何れかを条件とする。何れの条件も、クリープ力を必要としなくなった状態を示すものである。
【0020】
本実施形態によれば、前進レンジ若しくは後進レンジでの停車時に、CVT5の変速比が所定閾値以下となっていることを判定する判定ステップS3、またはその直前の走行状態から停車に至る過程での減速度が所定閾値以上であったことを判定する判定ステップS4を実行し、前記変速比が所定閾値以下及び/または前記減速度が所定閾値以上であると判定した場合にエンジン出力を増大させる制御ステップS5を実行することとしたため、従来の手法の抱える不都合を回避しつつ急停車後の再発進性を良化できる。
【0021】
加えて、判定ステップS4にて路面の勾配が所定以上の登坂路であるかどうかを併せて判定し、路面の勾配が所定以上の登坂路であると判定したことを条件に制御ステップS5を実行するようにしており、真にクリープ力の不足が問題となる状況下で適切にクリープ力を補償できる。
【0022】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、エンジン2とCVT5との間にトルクコンバータ3を介設している無段変速機を想定していたが、エンジン2とCVT5との間に電磁パウダクラッチや湿式多板クラッチ等の断接及びクリープ制御が可能な発進クラッチを介設している無段変速機に本発明を適用することも可能である。このときの電子制御装置1(の制御部102)は、制御ステップにて、エンジン出力を増大させたり、発進クラッチの係合力を増大させたりしてクリープ力を増大させる制御を行う。
【0023】
その他各部の具体的構成は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の適用対象となる無段変速機を例示する図。
【図2】本発明に係る車両制御装置の機能ブロック図。
【図3】本発明に係る車両制御方法の手順を示すフロー図。
【図4】同フロー図。
【図5】同フロー図。
【図6】同フロー図。
【符号の説明】
【0025】
1…電子制御装置
2…エンジン
3…トルクコンバータ
5…CVT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンが出力する駆動力をトルクコンバータを介してCVTに入力し駆動輪に伝達するようにしたものにおいて、
前進レンジ若しくは後進レンジでの停車時に、CVTの変速比が所定閾値以下となっているかまたはその直前の走行状態から停車に至る過程での減速度が所定閾値以上であったことを判定する判定ステップと、
前記変速比が所定閾値以下または前記減速度が所定閾値以上であると判定した場合にエンジン出力を増大させる制御を行う制御ステップと
を実行する車両制御方法。
【請求項2】
エンジンが出力する駆動力を発進クラッチを介してCVTに入力し駆動輪に伝達するとともに停車時にクリープ力を与えるようにしたものにおいて、
前進レンジ若しくは後進レンジでの停車時に、CVTの変速比が所定閾値以下となっているかまたはその直前の走行状態から停車に至る過程での減速度が所定閾値以上であったことを判定する判定ステップと、
前記変速比が所定閾値以下または前記減速度が所定閾値以上であると判定した場合にクリープ力を増大させる制御を行う制御ステップと
を実行する車両制御方法。
【請求項3】
前記判定ステップにて路面の勾配が所定以上の登坂路であるかどうかを併せて判定し、路面の勾配が所定以上の登坂路であると判定したことを条件に前記制御ステップを実行する請求項1または2記載の車両制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−270629(P2007−270629A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93757(P2006−93757)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】