説明

車両用バッテリの制御装置

【課題】電池性能の劣化進行度合が小さいと判断される車両用バッテリに対し、その蓄電量の使用範囲を適切に設定することにより、電池性能を十分に活用することが可能な車両用バッテリの制御装置を提供する。
【解決手段】バッテリ7の蓄電量の使用範囲を決定する使用範囲決定手段(コントローラ8)と、バッテリ7の蓄電量を検出する蓄電量検出手段(コントローラ8,バッテリ電圧センサ81a,バッテリ電流センサ81b)と、車両走行時にバッテリ7の蓄電量が、使用範囲決定手段によって決定された使用範囲内となるようにバッテリ7の充放電を制御する蓄電量制御手段(コントローラ8)と、バッテリ7の蓄電量の劣化進行度合を検出する劣化進行度合検出手段(コントローラ8等)と、を備え、使用範囲決定手段は、劣化進行度合検出手段によって検出された劣化進行度合が所定の閾度合よりも小さいときに使用範囲を拡大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バッテリの制御装置に係り、特に車両走行のための駆動力を出力するモータに電力を供給する車両用バッテリの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリの蓄電量の使用範囲に上限値(SOC100%より小)と下限値(SOC0%より大)を設けて、この使用範囲内で充放電制御を行うことが行われている(例えば、特許文献1,2参照)。上記使用範囲内での使用により、バッテリの完全放電又は満充電を回避して、バッテリの電池性能の劣化進行を抑制することができる。
【0003】
ところで、エンジンとモータとを併用するハイブリッド車両には、車両走行用の駆動力を出力するモータに電力を供給するため、高電圧バッテリが搭載されている。そして、この高電圧バッテリでも、通常、バッテリ性能の劣化進行を抑制するため、バッテリの蓄電量の使用範囲に上限値と下限値を設けて、この使用範囲内で充放電制御が行われる。
【0004】
【特許文献1】特開2001−157369号公報
【特許文献2】特開2004−186087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、各バッテリは、生産バラツキや使用バラツキによって、電池性能の劣化進行度合は異なる。このような電池性能の劣化進行度合の異なるバッテリに対して、蓄電量の使用範囲の上限値及び下限値が画一的に同じ値に設定されると、設計上の劣化進行度合よりも劣化進行度合が小さいバッテリでは、設計上の劣化進行度合と同じ、又は設計上の劣化進行度合よりも劣化進行度合が大きいバッテリと比較して、劣化進行度合の割に、過度にバッテリの使用範囲が制限されることになる。このため、劣化進行度合の小さいバッテリでは、その電池性能を十分に活用できないという問題があった。そして、電池容量が大きい上記高電圧バッテリでは、この問題が顕著であった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、電池性能の劣化進行度合が小さいと判断される車両用バッテリに対し、その蓄電量の使用範囲を適切に設定することにより、電池性能を十分に活用することが可能な車両用バッテリの制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は、車両走行のための駆動力を出力するモータに電力を供給すると共に、車両に備えられたエンジンの作動によって駆動されるジェネレータの発電電力及び車両制動時の前記モータからの回生電力によって充電される車両用バッテリの制御装置であって、車両用バッテリの蓄電量の使用範囲を決定する使用範囲決定手段と、車両用バッテリの蓄電量を検出する蓄電量検出手段と、車両走行時に蓄電量検出手段によって検出された車両用バッテリの蓄電量が、使用範囲決定手段によって決定された使用範囲内となるように車両用バッテリの充放電を制御する蓄電量制御手段と、車両用バッテリの蓄電量の劣化進行度合を検出する劣化進行度合検出手段と、を備え、使用範囲決定手段は、劣化進行度合検出手段によって検出された劣化進行度合が所定の閾度合よりも小さいときに使用範囲を拡大することを特徴としている。
【0008】
このように構成された本発明によれば、使用範囲決定手段が決定した車両用バッテリの蓄電量の使用範囲に、車両用バッテリの蓄電量を保持するように、蓄電量制御手段がバッテリの充放電を制御する。これにより、車両用バッテリを、電池性能の劣化進行度合が大きくならない範囲で使用することができる。
そして、本発明では、劣化進行度合検出手段が検出した車両用バッテリの蓄電量の劣化進行度合が所定の閾度合よりも小さいとき、すなわち車両用バッテリの蓄電量の劣化進行が遅いときには、その時点でその車両用バッテリは通常の車両用バッテリと比べて電池性能の劣化状態に余裕があるので、使用範囲決定手段は車両用バッテリの蓄電量の使用範囲を拡大する。
これにより、車両用バッテリの電池性能の劣化進行度合は大きくなるが、蓄電量の使用範囲が拡大されるので、車両走行性能を向上させることができる。また、蓄電量の使用範囲の拡大により、回生電力の回収電気量を増大させ、且つ、車両用バッテリの充電のためのエンジン始動回数を減少させることができるので、車両の燃費向上を図ることができる。
【0009】
また、本発明において好ましくは、使用範囲決定手段は、前記劣化進行度合検出手段によって検出された劣化進行度合が前記閾度合以上のとき、前記使用範囲が拡大されていた場合には使用範囲を元に戻す。このように構成された本発明によれば、蓄電量の使用範囲が拡大されたことにより、電池性能の劣化進行が早まり、電池性能の劣化状態に余裕がなくなったときには、蓄電量の使用範囲が元に戻される。これにより、電池性能の劣化が進行し過ぎることを防止することができる。
【0010】
また、本発明において、具体的には、劣化進行度合検出手段は、車両用バッテリの内部抵抗値を検出する内部抵抗検出手段を含み、この内部抵抗検出手段によって検出された内部抵抗値の上昇度合に基づいて車両用バッテリの劣化進行度合を検出する。このように構成された本発明によれば、内部抵抗値の検出により簡易に車両用バッテリの劣化進行度合を検出することができる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、使用範囲決定手段は、劣化進行度合検出手段によって検出された劣化進行度合と閾度合との差が大きいほど、使用範囲の拡大幅を大きく設定する。このように構成された本発明によれば、車両用バッテリの性能劣化進行度合が小さければ(遅ければ)、車両用バッテリの電池性能の劣化進行度合を早めることができるマージンが大きいので、使用範囲の拡大幅をより大きく設定することができる。これにより、車両走行性能をさらに向上させると共に、車両の燃費をさらに向上させることができる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、使用範囲決定手段は、車両用バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段を含み、この温度検出手段によって検出された車両用バッテリの温度が所定温度未満のときは、使用範囲の下限値と上限値の拡大幅を同じに設定し、温度検出手段によって検出された車両用バッテリの温度が所定温度以上のときは、使用範囲の下限値の拡大幅よりも上限値の拡大幅を小さく設定する。このように構成された本発明によれば、車両用バッテリの温度が高い状態で蓄電量を大きくすると(高SOC)、電池性能の劣化進行が早まるので、車両用バッテリの温度が所定温度以上の場合には、使用範囲の上限値の拡大幅を小さくし、高SOCとなることを回避している。これにより、電池性能の劣化進行度合が大きくなり過ぎることを防止することができる。
【0013】
また、上記の目的を達成するために、本発明は、車両走行のための駆動力を出力するモータに電力を供給すると共に、車両に備えられたエンジンの作動によって駆動されるジェネレータの発電電力及び車両制動時の前記モータからの回生電力によって充電される車両用バッテリの制御装置であって、車両用バッテリの蓄電量の使用範囲を決定する使用範囲決定手段と、車両用バッテリの蓄電量を検出する蓄電量検出手段と、車両走行時に蓄電量検出手段によって検出された車両用バッテリの蓄電量が、使用範囲決定手段によって決定された使用範囲内となるように車両用バッテリの充放電を制御する蓄電量制御手段と、車両用バッテリの内部抵抗値を検出する内部抵抗検出手段と、を備え、使用範囲決定手段は、内部抵抗検出手段によって検出された内部抵抗値の上昇度合が所定の閾度合よりも小さいときに前記使用範囲を拡大することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用バッテリの制御装置によれば、電池性能の劣化進行度合が小さいと判断される車両用バッテリに対し、その蓄電量の使用範囲を適切に設定することにより、電池性能を十分に活用することが可能な車両用バッテリの制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。先ず、図1乃至図8により、本発明の実施形態による車両用バッテリの制御装置を説明する。
図1は本発明の実施形態における車両用バッテリの制御装置を含む車両の概略構成図、図2は図1の電気ブロック図、図3は車両用バッテリの直流抵抗値の時間変化を示すグラフ、図4は車両用バッテリのSOCの使用範囲の時間変化を示すグラフ、図5はSOC使用範囲設定処理のフローチャート、図6は車両用バッテリの温度,SOC及び直流抵抗値との関係を表すグラフ、図7は車両用バッテリの直流抵抗値変化率とSOCの使用範囲幅との関係を示すグラフ、図8はSOCの使用範囲幅と最大回生電気量との関係を示すグラフである。
【0016】
本実施形態では、シリーズハイブリッド方式のハイブリッド車両に本発明の車両用バッテリの制御装置を適用した例を示す。なお、本発明の車両用バッテリの制御装置は、シリーズハイブリッド方式に限定されることなく、パラレルハイブリッド方式やシリーズ・パラレルハイブリッド方式等の他の方式にも適用することができる。
【0017】
図1及び図2に示すように、車両1は、エンジン2と、エンジン2のクランクシャフトに連結されたジェネレータ3と、ジェネレータ3に接続されたモータ4と、モータ4の出力軸に動力伝達機構を介して連結された車輪5と、ジェネレータ3及びモータ4に接続されたインバータ・コンバータ6と、インバータ・コンバータ6に接続された高電圧バッテリ7(以下「バッテリ7」という)と、これらを制御するためのコントローラ8を備えている。
【0018】
エンジン2は、コントローラ8からの制御信号によって作動し、クランクシャフトを介してジェネレータ3を駆動する。これにより、ジェネレータ3は交流電力を発生させ、モータ4及びインバータ・コンバータ6に交流電力を供給する。
インバータ・コンバータ6は、ジェネレータ3からの交流電力を直流電力に変換し、直流電力をバッテリ7に供給する。これにより、バッテリ7を充電することができる。また、インバータ・コンバータ6は、バッテリ7の直流電力を交流電力に変換して、モータ4に供給することができる。
【0019】
モータ4は、ジェネレータ3及びインバータ・コンバータ6からの交流電力により駆動し、動力伝達機構を介して車輪5に車両走行用の駆動力を出力する。
また、車両1は、制動時に車輪5からの動力でモータ4を駆動し、これにより車両1の制動力を発生させると共に、モータ4の駆動で発電した回生電力により、インバータ・コンバータ6を介してバッテリ7を充電することができる。
【0020】
このような構成により、車両1では、車両始動時及び低トルク時には、バッテリ7の電力をインバータ・コンバータ6を介してモータ4に供給してモータ4を駆動する。また、中トルク時には、エンジン2の始動によりジェネレータ3を駆動し、ジェネレータ3の発電電力をモータ4に供給してモータ4を駆動する。さらに、高トルク時には、エンジン2の作動によるジェネレータ3の発電電力とバッテリ7の電力の両方をモータ4に供給してモータ4を駆動する。このように、車両1は、エンジン2及びバッテリ7から供給される電力によってモータ4を駆動させ、このモータ4の駆動力によって走行するようになっている。
【0021】
図2に示すように、コントローラ8は、バッテリコントローラ81と、HEVコントローラ82とを有している。なお、バッテリコントローラ81の機能をHEVコントローラ82に組み込んで、コントローラ8をHEVコントローラ82のみに一体化した構成としてもよい。また、以下に説明するバッテリコントローラ81とHEVコントローラ82の各機能の分担をコントローラ8内で変更してもよい。コントローラ8は、後述するセンサ等を含んで本発明の車両用バッテリの制御装置を構成する。
【0022】
本実施形態のバッテリコントローラ81は、SOC制御を行うように構成されている。すなわち、バッテリコントローラ81は、所定条件でバッテリ7の蓄電量(SOC)の使用範囲を拡大し、その使用範囲の上限値及び下限値を表す信号をHEVコントローラ82に出力するようになっている。SOCは、バッテリの電気容量に対して充電している電気量を比率で表したものである。本明細書では、蓄電量をSOCと同義で使用する。バッテリコントローラ81は、本発明の使用範囲決定手段に相当する。
【0023】
HEVコントローラ82は、要求された駆動力をモータ4から車輪5に出力するように、エンジン2,ジェネレータ3,モータ4及びインバータ・コンバータ6等を制御するものである。HEVコントローラ82は、バッテリコントローラ81から上限値,下限値及びSOCを表す信号を受け取り、SOCの上限値と下限値で規定される使用範囲内でバッテリ7を使用するように、バッテリ7の充放電制御を行う。HEVコントローラ82は、本発明の蓄電量制御手段に相当する。
【0024】
詳しくは、バッテリ7の現在のSOCが使用範囲の上限値より大きい場合、HEVコントローラ82は、中トルク以上の要求では、エンジン2の出力トルクを低減してジェネレータ3の発電量を抑え、その不足分をバッテリ7から供給して、バッテリ7のSOCを下げるように制御を行う。また、バッテリ7の現在のSOCが使用範囲の下限値より小さい場合、HEVコントローラ82は、モータ4を駆動するために必要な電力以上の発電量が得られるようにエンジン2を駆動してジェネレータ3を発電させ、その余剰分をバッテリ7に供給して充電するように制御を行う。
【0025】
バッテリコントローラ81は、バッテリ電圧センサ81a,バッテリ電流センサ81b,バッテリ温度センサ81c等と接続されている。
バッテリ電圧センサ81a,バッテリ電流センサ81bは、それぞれバッテリ7の電圧,電流を検出してバッテリコントローラ81に出力している。バッテリコントローラ81は、これらの電圧,電流検出値等に基づいてバッテリ7のSOCを算出し、これをHEVコントローラ82に出力する。具体的には、バッテリコントローラ81は、電流検出値を積算して電流の入力及び出力の合計から、SOCの変動分を計算し、さらに電圧検出値等とSOCとの対応関係を示す内部データを加味して補正することにより、現在のSOCを算出する。バッテリコントローラ81,バッテリ電圧センサ81a及びバッテリ電流センサ81bは、本発明の蓄電量検出手段に相当する。
【0026】
また、バッテリコントローラ81は、バッテリ電圧センサ81a,バッテリ電流センサ81bからの電圧,電流検出値等に基づいてバッテリ7の内部直流抵抗値R(以下「内部抵抗値R」,「直流抵抗値R」ともいう)を算出する。具体的には、バッテリコントローラ81は、定格電圧から現在の電圧検出値を差し引いて電圧低下分を計算し、さらにこの電圧低下分を現在の電流検出値で割ることによって直流抵抗値Rの抵抗増加量を計算し、初期抵抗値R0に抵抗増加量を加算することにより直流抵抗値Rを算出する。
【0027】
この内部抵抗値Rは、バッテリ7の電気容量又は最大蓄電量と相関関係があり、内部抵抗値Rの上昇は、バッテリ7の電気容量の低下、すなわち電池性能の劣化進行を表す。
図3の線A1で示すように、バッテリ7は、所定の設定条件で使用された場合、その直流抵抗値Rが、生産時における初期抵抗値R0から電池性能の劣化進行に伴って時間経過と共に大きくなっていき、設計寿命tL経過時に設定抵抗値RTHに達するように設計されている。
【0028】
バッテリコントローラ81は、図3に示すバッテリ7の直流抵抗値Rの時間変化(すなわち線A1)を内部メモリに設計抵抗値データとして記憶している。設計抵抗値データにおける直流抵抗値Rの設定変化率はaである。設計抵抗値データでは、直流抵抗値Rが直線的に変化すると仮定しているので、時間によらず設定変化率aは一定値である。
なお、図3は、直流抵抗値Rの時間変化が直線状になるように、時間軸が適宜に設定されている。すなわち、バッテリ7の種類等によって、時間軸を時間そのものとしてもよいし、時間の平方根としてもよいし、時間の対数(常用対数,自然対数等)としてもよい。
【0029】
バッテリコントローラ81は、所定時に直流抵抗値Rを算出し、その時点での直流抵抗値Rから、バッテリ7の電池性能の劣化進行度合を検出する。バッテリコントローラ81,バッテリ電圧センサ81a及びバッテリ電流センサ81bは、本発明の劣化進行度合検出手段又は内部抵抗検出手段に相当する。
【0030】
具体的には、バッテリコントローラ81は、例えば、時間t1(図3参照)に検出した直流抵抗値R1と、内部タイマにより検出した経過時間、すなわち劣化進行開始時である時間t0(生産時又は使用開始時)から時間t1までの経過時間とに基づいて、時間t0から時間t1までにおける全体的な直流抵抗値Rの変化率kを算出する。変化率kは、直流抵抗値Rの抵抗増加量(=R1−R0)を経過時間で割ることにより算出される。この変化率kが劣化進行度合として扱われる。そして、変化率kが閾度合である設計抵抗値データの設定変化率aよりも小さければ、バッテリ7の劣化進行度合が小さいと判定される(図5のステップS15参照)。
【0031】
ここで、本実施形態では、バッテリ性能の劣化進行度合判定のために、設定変化率aを閾度合としている。すなわち、閾度合はバッテリ7において設計寿命との関連で元々設定された電池性能劣化進行度合の大きさである。具体的には、バッテリ7は、閾度合を保持して使用すると、設計寿命で直流抵抗値Rが使用限界(設定抵抗値RTH)に到達する。
【0032】
図3の線A2,線A3は、それぞれ電池性能の劣化進行が設計値よりも遅いバッテリ7における直流抵抗値Rの時間変化,電池性能の劣化進行が設計値よりも早いバッテリ7における直流抵抗値Rの時間変化を示している。電池性能の劣化進行が早いバッテリ7は、その直流抵抗値Rが設計寿命tL経過前に設定抵抗値RTHに達するので、早めに交換しなければならない。一方、電池性能の劣化進行が遅いバッテリ7は、その直流抵抗値Rが設計寿命tL経過後に設定抵抗値RTHに達するので、設計寿命tL経過後もしばらく使用し続けることができる。しかしながら、設計寿命tL経過時が交換時期に設定されている場合には、使用可能であるにもかかわらずやはりバッテリ7を交換しなければならないという問題がある。
【0033】
バッテリ温度センサ81cは、バッテリ7の温度に関する温度検出値を検出し、温度検出信号としてバッテリコントローラ81に出力する。温度が高いとバッテリ7の性能劣化が進行し易くなる。このため、バッテリコントローラ81は、温度検出信号から算出したバッテリ7の温度を考慮してSOC制御を行う。バッテリコントローラ81及びバッテリ温度センサ81cは、本発明のバッテリ温度検出手段に相当する。
【0034】
次に、図3及び図4に基づいて、本実施形態のコントローラ8のSOC制御の概略を説明する。
図3の線Aは、電池劣化進行度合が小さいバッテリ7に対して、本実施形態のSOC制御を行った場合のバッテリ7の内部抵抗値Rの時間変化を示している。
線a1で示す期間(時間t0−t1)は、バッテリ7は通常の蓄電量の使用範囲(充放電範囲)で使用されている。すなわち、図4に示すように、バッテリ7は、SOCの上限値が70%,下限値が30%で規定される通常のSOC使用範囲W1で使用されている。この使用範囲は、SOC50%を中心として上限方向及び下限方向にそれぞれ20%の幅を有し、全体として使用範囲幅が40%となるように設定されている。
【0035】
そして、線Aの例では、時間t1にバッテリ7の電池性能の劣化進行度合を検出する処理が行われている。この場合、直流抵抗値Rの変化率kが設定変化率aよりも小さく、劣化進行度合が小さいと判定される。これにより、バッテリ7の蓄電量の使用範囲は、SOC使用範囲W2に拡大される。拡大幅は、後述するようにバッテリ7の温度に応じて決定される。線Aの例では、時間t1で、上限方向(満充電方向)への拡大幅WU及び下限方向(完全放電方向)への拡大幅WLがそれぞれ10%に設定されている。これにより、SOC使用範囲W2は、使用範囲が20%拡大され、全体として使用範囲幅が60%となっている。
【0036】
SOCの使用範囲幅が拡大されることにより、車両1は、回生電力を拡大幅分だけバッテリ7に多く取り込むことができる。これにより、回生電力を効率的に回収し、燃費を向上させることができる。
また、SOCの使用範囲幅が下限方向に拡大されることにより、車両1は、SOCの低下に伴ってバッテリ7を充電するために、エンジン2を作動させる回数を低減することができる。すなわち、拡大前は、SOC30%でエンジン2を作動させる必要があるが、拡大後は、SOC20%でエンジン2を作動させればよくなる。
このように、SOCの使用範囲幅が60%に拡大されることにより、車両1は、バッテリ7の電力をより多く活用して、燃費向上を図ることができる。
【0037】
SOCの使用範囲幅の拡大により、時間t1以降は、図3の線a2で示すように、バッテリ7は劣化進行度合が大きくなるため、直流抵抗値Rの傾き(変化率)が大きくなる。
さらに、時間t2にバッテリ7の電池性能の劣化進行度合が検出されると、時間t2時点では、直流抵抗値Rの変化率kが設定変化率aと等しいので、SOCの使用範囲は、通常の使用範囲(上限値70%,下限値30%)に戻される。
【0038】
これにより、時間t2以降は、再び直流抵抗値Rの変化率kが設定変化率aよりも小さくなる(線a3)。
さらに、時間t3にバッテリ7の電池性能の劣化進行度合が検出され、直流抵抗値Rの変化率kが設定変化率aよりも小さいと判定されると、SOCの使用範囲は拡大される。これにより、時間t3以降は、直流抵抗値Rの変化率kが設定変化率aよりも大きくなる(線a4)。そして、設計寿命tLで、直流抵抗値Rが設定抵抗値RTHに到達する。
【0039】
このように、本実施形態では、所定時にバッテリ7の劣化進行度合を検出し、そのときの劣化進行度合に応じて、SOCの使用範囲を通常の使用範囲又は拡大使用範囲に変更している。これにより、バッテリ7を設計寿命tLまで使用可能とし、且つ、バッテリ7のSOCの使用範囲を拡大することにより、バッテリ7の電池性能を十分に活用することができる。
【0040】
なお、劣化進行度合が大きい場合に、バッテリ7の設計寿命tLを達成するように、SOCの使用範囲を狭める制御を行ってもよいが、SOCの使用範囲を狭めると車両性能が制限されてしまう。このため、本実施形態では、バッテリ7が劣化進行し易いものであった場合(図3の線A3参照)にはSOC制御を行わず、バッテリ7が劣化進行し難いものであった場合(図3の線A2参照)にSOC制御を行って車両性能を向上させるようにしている。
【0041】
次に、図5に基づいて、コントローラ8(バッテリコントローラ81)のSOC制御処理フローの概略を説明する。
コントローラ8は、この処理を所定時間毎(例えば1ヶ月毎)に繰り返し行っている。まず、コントローラ8は、バッテリ電圧センサ81a,バッテリ電流センサ81b,バッテリ温度センサ81cから、それぞれ電圧検出値,電流検出値,温度検出値を読み込む(ステップ10)。
コントローラ8は、読み込んだ電圧検出値及び電流検出値に基づいて、バッテリ7の現在のSOCと直流抵抗値Rを算出する(ステップS11,S12)。
【0042】
次に、コントローラ8は、算出した直流抵抗値Rを規格化する(ステップS13)。直流抵抗値Rは、バッテリ7の温度及び温度検出時のSOCによって変動する。このため、バッテリ7の劣化進行度合を同一基準条件(例えば、温度25℃、SOC50%)で比較するために、この規格化処理を行う。
【0043】
バッテリコントローラ81は、図6に示す規格化データを内部メモリに記憶している。すなわち、この規格化データは、基準条件(温度25℃、SOC50%)でのバッテリ7の直流抵抗値Rに対して、各温度及びSOCの組合せで直流抵抗値Rがどのように変化するか(何倍の値になるか)を示している。したがって、規格化データから処理時の温度及びSOCに対応する倍率を読み込み、ステップS12で算出した直流抵抗値R(実測値)をこの倍率で割ることにより、基準条件での値に換算した直流抵抗値R(規格値)を算出することができる。
【0044】
次に、コントローラ8は、ステップS13で算出した直流抵抗値Rの規格値を用いて、処理時における直流抵抗値Rの変化率kを算出する(ステップS14)。
そして、コントローラ8は、この変化率kが、設計抵抗値データにおける設定変化率aより小さいか否かを判定する(ステップS15)。
【0045】
変化率kが設定変化率aよりも小さくない場合(ステップS15;No)、コントローラ8は、SOCの使用範囲を通常の使用範囲に決定し(ステップS16)、処理を終了する。
これは、バッテリ7の固有の電池性能の劣化進行度合が通常と同じか、通常よりも大きい場合に該当する。この場合、コントローラ8は、SOCの使用範囲を初期設定の使用範囲のままに保持する。
また、これは、バッテリ7の固有の電池性能の劣化進行度合が小さく、SOCの使用範囲幅が拡大されたことにより劣化進行が早まり、その結果、この処理時点での劣化進行度合が大きくなっている場合にも該当する。この場合、コントローラ8は、拡大されているSOCの使用範囲を初期設定の使用範囲に変更する。
【0046】
一方、変化率kが設定変化率aよりも小さい場合(ステップS15;Yes)、コントローラ8は、SOCの使用範囲の拡大処理を行い(ステップS17)、処理を終了する。
このSOCの使用範囲の拡大処理では、コントローラ8は、ステップS14で算出した変化率kの大きさに応じてSOCの使用範囲幅W2の大きさ(ΔSOC)が決定される。すなわち、コントローラ8(バッテリコントローラ81)は、図7に示すような、変化率kとSOCの拡大使用範囲幅W2の大きさ(ΔSOC)との対応関係を表すデータをメモリに記憶している。図7の例では、変化率kが設定変化率a以上のときは、ΔSOCは通常の使用範囲である40%であり、変化率kが0に近づくにつれ、ΔSOCは80%に一次関数的に近づく。このΔSOCは、SOC50%を中心とした使用範囲幅であり、ΔSOCが80%では、上限値が90%,下限値が10%となる。
【0047】
図8は、本実施形態において、ΔSOCが40%から80%まで増加したときの、最大回生電気量の変化を示している。最大回生電気量は、SOCの使用範囲幅(充放電範囲)に比例し、ΔSOCが40%のときを基準として、ΔSOCが60%のとき1.5倍、ΔSOCが80%のとき2倍となる。
これにより、本実施形態では、充放電範囲の増大によって最大回生電気量を増大させることができるので、例えば、長い下り坂で大量の回生エネルギーが発生する場合に、最大で2倍の量の発生したエネルギーを回収することができるようになり、これにより車両1の燃費を向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態では、充放電範囲の増大によって車両走行性能を向上させることができる。例えば、エンジン2とバッテリ7を併用して高トルクを出力する場合の継続時間を最大で2倍まで拡大することができる。
また、本実施形態では、充放電範囲の増大によって、SOCの使用範囲の下限値が拡大されるので、バッテリ7の充電のためにエンジン2を始動させる回数を低減することができ、これにより車両1の燃費を向上させることができる。
【0049】
上記実施形態では、図4に示すように、SOCの使用範囲を拡大するとき(時間t1)、上限方向への拡大幅WU及び下限方向への拡大幅WLを同じ大きさに設定しているが、これに限らず、図9に示すように、劣化度合検出時のバッテリ温度に応じて、拡大幅WU及び拡大幅WLを異なった大きさに設定してもよい。図9の例では、拡大幅WUが5%,拡大幅WLが10%に設定されており、SOC使用範囲W2は55%である。
【0050】
バッテリ温度が高い場合は、SOCの使用範囲の上限値が大きいと、バッテリ性能の劣化度合が大きくなる。このため、図9の例では、バッテリ温度が大きい場合は、上限方向への拡大幅WUを、下限方向への拡大幅WLよりも小さくして、バッテリ性能の劣化を抑制している。コントローラ8は、図5のステップS17の処理において、バッテリ温度に応じて、変化率kとΔSOCとの対応関係を表すデータ(図7参照)から算出される値よりも、拡大幅WUを小さく設定する。例えば、バッテリ温度が所定温度よりも高いときに、コントローラ8が拡大幅WUを所定量だけ小さく設定するように構成してもよいし、バッテリ温度が高いほど、コントローラ8が拡大幅WUをより小さく設定するように構成してもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、閾度合を設計変化率aに設定しているが、これに限らず、任意に設定してもよい。例えば、閾度合を設計変化率aよりも大きな値に設定してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、バッテリ性能の劣化度合を、劣化進行開始時である時間t0から劣化検出時までの全体的な直流抵抗値Rの変化率kと設定変化率aとの比較によって決定していたが、これに限らず、バッテリ性能の劣化度合を、劣化検出時の直流抵抗値Rの測定値と、設計抵抗値データによるこの時点での直流抵抗値Rの予想値との比較によって決定してもよい。この場合、劣化度合判定時の直流抵抗値Rの設計抵抗値データによる予想値が閾度合に相当する。
【0053】
また、上記実施形態では、図3に示すように、時間t1,t2,t3にバッテリ性能の劣化度合を検出して、この検出結果に応じてSOCの使用範囲を変更した例を示しているが、劣化度合の検出をより頻繁に行うことにより、線Aを線A1の下側において、より線A1に近づけるように制御することができる。この劣化度合の検出及びSOCの使用範囲の変更を行う頻度は、予め設定した時間間隔(例えば1ヶ月毎,1年毎等)であってもよい。また、劣化度合の検出頻度は、劣化度合の変化をモニターするために短期間毎(例えば毎日,所定走行距離毎等)に設定し、この検出結果に応じて、SOCの使用範囲の変更処理を適宜のタイミングで行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態における車両用バッテリの制御装置を含む車両の概略構成図である。
【図2】図1の電気ブロック図である。
【図3】本発明の実施形態における車両用バッテリの直流抵抗値の時間変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態における車両用バッテリのSOCの使用範囲の時間変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態におけるSOC使用範囲設定処理のフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態における車両用バッテリの温度,SOC及び直流抵抗値との関係を表すグラフである。
【図7】本発明の実施形態における直流抵抗値変化率とSOCの使用範囲幅との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態におけるSOCの使用範囲幅と最大回生電気量との関係を示すグラフである。
【図9】本発明の他の実施形態における車両用バッテリのSOCの使用範囲の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1 車両
2 エンジン
3 ジェネレータ
4 モータ
5 車輪
6 インバータ・コンバータ
7 高電圧バッテリ
8 コントローラ
81 バッテリコントローラ
81a バッテリ電圧センサ
81b バッテリ電流センサ
81c バッテリ温度センサ
82 HEVコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両走行のための駆動力を出力するモータに電力を供給すると共に、車両に備えられたエンジンの作動によって駆動されるジェネレータの発電電力及び車両制動時の前記モータからの回生電力によって充電される車両用バッテリの制御装置であって、
車両用バッテリの蓄電量の使用範囲を決定する使用範囲決定手段と、
車両用バッテリの蓄電量を検出する蓄電量検出手段と、
車両走行時に前記蓄電量検出手段によって検出された車両用バッテリの蓄電量が、前記使用範囲決定手段によって決定された使用範囲内となるように車両用バッテリの充放電を制御する蓄電量制御手段と、
車両用バッテリの蓄電量の劣化進行度合を検出する劣化進行度合検出手段と、を備え、
前記使用範囲決定手段は、前記劣化進行度合検出手段によって検出された劣化進行度合が所定の閾度合よりも小さいときに前記使用範囲を拡大することを特徴とする車両用バッテリの制御装置。
【請求項2】
前記使用範囲決定手段は、前記劣化進行度合検出手段によって検出された劣化進行度合が前記閾度合以上のとき、前記使用範囲が拡大されていた場合には使用範囲を元に戻すことを特徴とする請求項1に記載の車両用バッテリの制御装置。
【請求項3】
前記劣化進行度合検出手段は、車両用バッテリの内部抵抗値を検出する内部抵抗検出手段を含み、この内部抵抗検出手段によって検出された内部抵抗値の上昇度合に基づいて車両用バッテリの劣化進行度合を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用バッテリの制御装置。
【請求項4】
前記使用範囲決定手段は、前記劣化進行度合検出手段によって検出された劣化進行度合と前記閾度合との差が大きいほど、前記使用範囲の拡大幅を大きく設定することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用バッテリの制御装置。
【請求項5】
前記使用範囲決定手段は、車両用バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段を含み、
この温度検出手段によって検出された車両用バッテリの温度が所定温度未満のときは、前記使用範囲の下限値と上限値の拡大幅を同じに設定し、
前記温度検出手段によって検出された車両用バッテリの温度が所定温度以上のときは、前記使用範囲の下限値の拡大幅よりも上限値の拡大幅を小さく設定することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用バッテリの制御装置。
【請求項6】
車両走行のための駆動力を出力するモータに電力を供給すると共に、車両に備えられたエンジンの作動によって駆動されるジェネレータの発電電力及び車両制動時の前記モータからの回生電力によって充電される車両用バッテリの制御装置であって、
車両用バッテリの蓄電量の使用範囲を決定する使用範囲決定手段と、
車両用バッテリの蓄電量を検出する蓄電量検出手段と、
車両走行時に前記蓄電量検出手段によって検出された車両用バッテリの蓄電量が、前記使用範囲決定手段によって決定された使用範囲内となるように車両用バッテリの充放電を制御する蓄電量制御手段と、
車両用バッテリの内部抵抗値を検出する内部抵抗検出手段と、を備え、
前記使用範囲決定手段は、前記内部抵抗検出手段によって検出された内部抵抗値の上昇度合が所定の閾度合よりも小さいときに前記使用範囲を拡大することを特徴とする車両用バッテリの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−308122(P2008−308122A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160340(P2007−160340)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】