説明

車両用走行制御装置

【課題】車両にて発電した電力を蓄電せずに有効利用できる車両用走行制御装置を提供すること。
【解決手段】車両に生ずる排熱によって発電する排熱発電部2と、電力供給により車両に制動力を与える電磁式リターダ3と、電力供給により電動機として機能し車両に走行駆動力を与え走行駆動力の供給により発電機として機能して発電するモータジェネレータ4と、車両の走行駆動時に排熱発電部2により発電された電力をモータジェネレータ4に供給し車両の減速時にモータジェネレータ4により発電された電力を電磁式リターダ3に供給するECU5とを備えて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両にて発電した電力を用いて走行制御する車両用走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両にて発電を行うものとして、特開2006−220045号公報に記載されるように、車両減速時に発電機として機能するモータジェネレータを備えるハイブリッド車両が知られている。このハイブリッド車両は、減速時にモータジェネレータで発電した電力をバッテリに蓄電し、駆動時にモータジェネレータに電力供給して電動機として機能させるものである。
【特許文献1】特開2006−220045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような車両では、車両にて発電した電力をバッテリに蓄電するため、車両に重量の大きいバッテリを搭載する必要がある。この場合、バッテリの重量により車両の燃費を悪化させる原因となる。このため、車両にて発電した電力をバッテリに蓄電せずに有効利用する技術の開発が望まれている。
【0004】
そこで本発明は、車両にて発電した電力を蓄電せずに有効利用できる車両用走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明に係る車両用走行制御装置は、車両に生ずる排熱によって発電する排熱発電手段と、電力供給により前記車両に制動力を与える電磁式リターダと、電力供給により電動機として機能し前記車両に走行駆動力を与え、走行駆動力の供給により発電機として機能して発電するモータジェネレータと、前記車両の走行駆動時に前記排熱発電手段により発電された電力を前記モータジェネレータに供給し、前記車両の減速時に前記モータジェネレータにより発電された電力を前記電磁式リターダに供給する電力供給制御手段とを備えて構成されている。
【0006】
この発明によれば、車両の走行駆動時に排熱発電手段により発電された電力をモータジェネレータに供給してその電力を走行駆動力として用い、車両の減速時にモータジェネレータにより発電された電力を電磁式リターダに供給してその電力を制動力として用いることができる。このため、車両の走行駆動時及び減速時に発電した電力をバッテリに蓄電することなく有効に利用することができる。
【0007】
また本発明に係る車両用走行制御装置は、輸送用車両に搭載されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両減速時に発電した電力を電磁式リターダに供給して補助ブレーキ力として用い、車両駆動時に発電した電力をモータジェネレータに供給して走行駆動力として用いることにより、車両にて発電した電力を蓄電せずに有効利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
図1は本発明の実施形態に係る車両用走行制御装置の構成概要図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る車両用走行制御装置1は、車両で発電した電力を走行駆動力や走行制動力として用いて走行制御する装置であり、例えば輸送用車両に搭載される。輸送用車両は、例えば高速道路、自動車専用道路を走行して輸送を行うトラックなどが該当する。この車両用走行制御装置1は、排熱発電部2、電磁式リターダ3、モータジェネレータ4及びECU(Electronic Control Unit)5を備えている。
【0012】
排熱発電部2は、車両に搭載される熱源の排熱により発電する排熱発電手段であって、例えばエンジン11に接続される排気管12に取り付けられ、エンジン11の排気ガスの排熱により発電するものが用いられる。この場合、排熱発電部2としては、排熱の熱エネルギを得て発電できるものものであればいずれのものであってもよいが、例えば熱電変換素子を備えたものが用いられる。
【0013】
電磁式リターダ3は、電力供給により作動し車両に制動力を与えるものであって、例えばロータ31及び励磁部32を備えて構成される。ロータ31は、鋼製のリング体であって、車両のプロペラシャフトなどの駆動軸13に取り付けられ、駆動軸13と共に回転する。励磁部32は、車両の減速時に磁界を発生させロータ31に渦電流を生じさせるものであり、コイルなどにより構成される。この励磁部32は、ロータ31の周面から所定の距離だけ離間させて配置されている。図1では、ロータ31の外周側に配置されているが、ロータ31の内面側に配置されていてもよい。
【0014】
モータジェネレータ4は、電力供給により電動機として機能して車両に走行駆動力を与え、走行駆動力の供給により発電機として機能して発電するものである。このモータジェネレータ4は、車両の駆動軸13に取り付けられている。
【0015】
ECU5は、装置全体の制御を行うものであり、例えばCPU、ROM、RAM、入力信号回路、出力信号回路、電源回路などにより構成されている。このECU5は、車両の走行駆動時に排熱発電部2により発電された電力をモータジェネレータ4に供給し、車両の減速時にモータジェネレータ4により発電された電力を電磁式リターダ3に供給する電力供給制御手段として機能する。
【0016】
車両用走行制御装置1は、接続切替部6、スイッチング部7及び直流変圧器8を備えている。接続切替部6は、排熱発電部2、電磁式リターダ3、モータジェネレータ4の接続を切り替えるものであり、ECU5の切替制御信号を受けて接続切替を行う。接続切替部6は、ECU5の切替制御信号を受けて切替制御可能なスイッチにより構成され、モータジェネレータ4と排熱発電部2側、電磁式リターダ3側との接続切替を行う。
【0017】
スイッチング部7は、電磁式リターダ3の作動時に供給される電圧をスイッチングするものであり、ECU5の作動制御信号を受けてスイッチングするスイッチにより構成される。スイッチング部7は、接続切替部6と電磁式リターダ3との間に配設されている。
【0018】
直流変圧器8は、排熱発電部2により発電された電圧をモータジェネレータ4の駆動要求に応じた電圧に変圧する変圧手段であって、ECU5の変圧制御信号を受けて作動する。この直流変圧器8は、排熱発電部2と接続切替部6との間に配設されている。
【0019】
ECU5には、リターダレバー91、スロットルセンサ92及びクラッチペダルセンサ93が接続されている。リターダレバー91は、電磁式リターダ3の操作レバーであり、ECU5にリターダ操作信号を入力する。スロットルセンサ92は、スロットルバルブのスロットル開度を検出するセンサであり、ECU5にスロットル開度信号を入力する。クラッチペダルセンサ93は、クラッチペダルの踏み込み量を検出するセンサであり、クラッチペダルの操作信号をECU5に入力する。
【0020】
次に、本実施形態に係る車両用走行制御装置1の動作について説明する。
【0021】
図2は、本実施形態に係る車両用走行制御装置1の基本動作を示すフローチャートである。図2における制御処理は、例えばECU5により所定時間(例えば10ms程度)ごとに繰り返し実行される。図3は、本実施形態に係る車両用走行制御装置1におけるモータジェネレータ4の入力電圧演算処理を示すフローチャートである。
【0022】
まず図2のS10に示すように、運転操作情報の読み込み処理が行われる。運転操作情報の読み込み処理は、運転操作に関する情報、例えばリターダレバー91の操作信号、スロット開度信号、クラッチペダル信号を読み込む処理である。
【0023】
そして、S12に移行しリターダ作動要求があるか否かが判断される。この判断は、リターダレバー91の操作信号に基づいて判断される。例えば、リターダレバー91の操作信号がオンを示すものである場合にはリターダ作動要求があると判断され、リターダレバー91の操作信号がオフを示すものである場合にはリターダ作動要求がないと判断される。
【0024】
S12にてリターダ作動要求がないと判断された場合には、排熱発電部2で発電された電力をモータジェネレータ4に供給し、モータジェネレータ4を電動機として機能させる。それに際し、まず電力上限値P1、電力変換効率目標値N1の演算処理が行われる(S14)。電力上限値P1は、アクセル開度(スロットル開度)に基づいて設定される値であり、例えば図4に示すように、予めECU5に設定されるアクセル開度TA−電力上限値P1のマップを用いて演算される。電力変換効率目標値N1は、クラッチペダル位置(ペダル踏み込み量)に基づいて設定される値であり、例えば図5に示すように、予めECU5に設定されるクラッチペダル位置X−電力変換効率目標値N1のマップを用いて演算される。図5において、クラッチペダル位置Xが大きくなるほどクラッチが切れる方向に作動し、電力変換効率目標値N1が小さく設定される。
【0025】
そして、S16に移行し、モータジェネレータ4に入力される入力電圧Vmの演算処理が行われる。モータジェネレータ4に入力される入力電圧Vmは、S14で演算された電力上限値P1、電力変換効率目標値N1を用いて演算される。この入力電圧Vmの演算処理の詳細については、後述する。
【0026】
そして、S18に移行し、変圧制御処理が行われる。変圧制御処理は、排熱発電部2から出力される電圧を変圧制御する処理であり、モータジェネレータ4に入力電圧がVmとなるようにECU5から直流変圧器8に変圧制御信号を出力する。これにより、図6に示すように、排熱発電部2で発電された電力は、直流変圧器8で変圧され、接続切替部6を介してモータジェネレータ4に入力される。モータジェネレータ4は、電動機として機能し、回転駆動して駆動軸13に走行駆動力Tを与える。
【0027】
一方、S12にてリターダ作動要求があると判断された場合には、接続切替処理が行われる。接続切替処理は、モータジェネレータ4と電磁式リターダ3が接続されるように、接続切替部6のスイッチ接続を切り替える処理である。そして、S22に移行し、リターダ制御処理が行われる。リターダ制御処理は、電磁式リターダ3を作動制御する処理であり、ECU5からスイッチング部7に制御信号を出力して行われる。この制御信号としては、スイッチング部7のスイッチをオンオフさせるパルス信号が用いられる。制御信号のデューティー比を調整することにより、電磁式リターダ3が発生する制動力を制御することができる。
【0028】
このリターダ制御処理が行われることにより、図7に示すように、モータジェネレータ4で発電された電力は、接続切替部6及びスイッチング部7を介して電磁式リターダ3に入力される。このため、電磁式リターダ3の励磁部32が磁界を発生させ、ロータ31に渦電流を生じさせる。これにより、ロータ31の回転が抑制され、大きな制動力S1が得られる。このとき、発電機として機能するモータジェネレータ4にも制動力S2が生じているが、電磁式リターダ3により生ずる制動力S1と比べると小さくものとなる。そして、S18、S22の処理を終えたら、一連の制御処理を終了する。
【0029】
次に、本実施形態に係る車両用走行制御装置1における入力電圧演算処理について説明する。
【0030】
この入力電圧演算処理は、排熱発電部2の電力をモータジェネレータ4に供給して走行駆動力を得る場合に、モータジェネレータ4に入力する入力電圧Vmを演算する処理である。この処理は図2のS16で実行される処理であり、その詳細を図3に基づいて説明する。
【0031】
まず図3のS160に示すように、排熱発電部2の出力電圧Vs、出力電流Isの読み込み処理が行われる。そして、排熱発電部2の出力電力Psの演算処理が行われる(S161)。この出力電力Psの演算処理は、出力電圧Vsと出力電流Isを乗ずることにより出力電力Psを算出する処理である。
【0032】
そして、S162に移行し、排熱発電部2の出力電力Psが排熱発電部2の最大出力電力値Psmaxより大きく、電力上限値P1が排熱発電部2の最大出力電力値Psmaxより大きく、電力変換効率目標値N1であるか否かが判断される。S162にて排熱発電部2の出力電力Psが排熱発電部2の最大出力電力値Psmaxより大きく、電力上限値P1が排熱発電部2の最大出力電力値Psmaxより大きく、電力変換効率目標値N1であると判断された場合には、最大出力電力値Psmaxとして排熱発電部2の出力電力Psが設定され、排熱発電電圧値V0として出力電圧Vsを2で除した値(Vs/2)が設定される。
【0033】
そして、S164に移行し、電圧値Vm1の演算処理が行われる。電圧値Vm1は、排熱発電部2の発電量、モータジェネレータ4の回転数などに基づいて決定される電圧値であり、次の式(1)により算出される。
【0034】
Vm1=(n・A+(n・A+4・Pm・Rm)1/2)/2 …(1)
【0035】
この式(1)において、nはモータジェネレータ4の回転数、Aはモータジェネレータ4の設計で決定される定数、PmはP1とPsmax・N1のうち小さい方の値が設定されるモータジェネレータ消費電力(min(P1、Psmax・N1))、Rmはモータジェネレータ4の電気抵抗値である。
【0036】
そして、S165に移行し、電圧変動値ΔVが設定される。電圧変動値ΔVは、入力電圧Vmの変動値であり、例えば入力電圧Vmの1/4程度の振幅の正弦波が設定される。そして、S166に移行し、モータジェネレータ4の入力電圧Vmの演算処理が行われる。この演算処理は、次の式(2)に示すように、電圧値Vm1と電圧変動値ΔVを加算して入力電圧Vmを算出する処理である。
【0037】
Vm=Vm1+ΔV …(2)
【0038】
そして、このS166の処理を終えたら、一連の制御処理を終了する。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る車両用走行制御装置1によれば、車両の走行駆動時に排熱発電部2により発電された電力をモータジェネレータ4に供給してその電力を走行駆動力として用い、車両の減速時にモータジェネレータ4により発電された電力を電磁式リターダ3に供給してその電力を制動力として用いることができる。このため、車両の走行駆動時及び減速時に発電した電力をバッテリに蓄電することなく有効に利用することができる。
【0040】
また、本実施形態に係る車両用走行制御装置1によれば、車両で発電した電力をバッテリに蓄電することなく車両の駆動力や制動力として用いるため、バッテリ搭載により車両重量を増加させることない。従って、車両の燃費の悪化を防止しつつ、発電電力を有効利用することができる。従って、輸送用車両に適用することにより非常に有用である。特に、高速道路などを走行する長距離輸送車両、リターダを搭載している大型貨物車両に最適である。
【0041】
また、車両の走行駆動時に排熱発電部2により発電された電力をモータジェネレータ4に供給する際、モータジェネレータ4の回転数に応じてその入力電圧を算出し、排熱発電部2の最大電力に応じて直流変圧器8によって変圧制御を行うため、モータジェネレータ4の駆動に必要な電力を適宜供給することができる。また、アクセル開度やクラッチペダル位置の変数(P1、N1)として変圧効率を設定することにより、運転者の望む動力を得ることができる。
【0042】
なお、上述した各実施形態は本発明に係る車両用走行制御装置の一例を示すものである。本発明に係る車両用走行制御装置は、このようなものに限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しないように実施形態に係る車両用走行制御装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用走行制御装置の構成概要図である。
【図2】図1の車両用走行制御装置における基本動作処理を示すフローチャートである。
【図3】図1の車両用走行制御装置における入力電圧演算処理を示すフローチャートである。
【図4】図3の入力電圧演算処理における電力上限値の演算に用いるマップの説明図である。
【図5】図3の入力電圧演算処理における電力変換効率目標値の演算に用いるマップの説明図である。
【図6】図1の車両用走行制御装置の走行駆動時における動作説明図である。
【図7】図1の車両用走行制御装置の減速時における動作説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1…車両用走行制御装置、2…排熱発電部、3…電磁式リターダ、4…モータジェネレータ、5…ECU、6…接続切替部、7…スイッチング部、8…直流変圧器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に生ずる排熱によって発電する排熱発電手段と、
電力供給により前記車両に制動力を与える電磁式リターダと、
電力供給により電動機として機能し前記車両に走行駆動力を与え、走行駆動力の供給により発電機として機能して発電するモータジェネレータと、
前記車両の走行駆動時に前記排熱発電手段により発電された電力を前記モータジェネレータに供給し、前記車両の減速時に前記モータジェネレータにより発電された電力を前記電磁式リターダに供給する電力供給制御手段と、
を備えた車両用走行制御装置。
【請求項2】
輸送用車両に搭載されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−284971(P2008−284971A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130873(P2007−130873)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】