説明

車両用走行安全装置

【課題】複数のレーダ装置を設けた場合に生じる不検知領域に物体が存在すると予測される場合に、接触回避効果を高める。
【解決手段】送受信手段が複数備えられており、回避支援手段は、自車前方の領域であって一の送受信部の検知領域および他の送受信部の検知領域間の不検知領域に外挿部により外挿された制御対象物体が存在する場合には(ステップS14:Yes)、不検知領域以外に外挿部により外挿された制御対象物体が存在する場合の作動内容(ステップS8)よりも、接触回避効果の高い作動内容(ステップS11)を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用走行安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波レーダによって障害物を検知し、この検知状態に応じて車両のブレーキ等の作動機器を制御する障害物検知装置において、ミリ波レーダによって検出されていた障害物が検出されなくなったときに、この障害物の位置を推定する障害物位置推定手段を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。この障害物検知装置では、障害物位置推定手段が作動しているときには、障害物が推定されたものであることから、ブレーキ等の作動機器の制御を停止するようになっている。
【特許文献1】特開2007−153196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、自車周辺に存在する物体を広範囲で捕捉することを目的として、自車周辺の所定の検知領域に渡り電磁波を送信し物体からのその反射波を受信する送受信手段を複数設けることが考えられる。この場合、一の送受信手段の検知領域および他の送受信手段の検知領域間に不検知領域が生じることがある。この不検知領域においては、物体が存在する可能性が高いため、あくまで予測であるという理由で上記のように制御を停止してしまうことは適当でない。
【0004】
したがって、本発明は、送受信手段を複数設けた場合に生じる不検知領域に物体が存在すると予測される場合に、接触回避効果を高めることができる車両用走行安全装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、所定の時間間隔で自車(例えば実施形態における自車V)周辺の所定の検知領域に渡り電磁波を送信するとともに自車周辺に存在する物体(例えば実施形態における物体B1〜B4)からの前記電磁波の反射波を受信する送受信手段(例えば実施形態におけるレーダ装置2L,2R)と、自車の走行状態を検出する走行状態検出手段(例えば実施形態における自車各種センサ3)と、前記送受信手段の受信結果および前記走行状態検出手段の検出結果に基づいて自車と物体との相対位置および相対速度よりなる相対関係を算出する相対関係算出手段(例えば実施形態における相対関係算出部13)と、該相対関係算出手段によって前回までに算出された自車と物体との相対関係に基づいて該物体と自車との相対関係を予測する予測手段(例えば実施形態における予測部14)と、該予測手段により予測された物体と自車との相対関係と前記相対関係算出手段により今回算出された物体と自車との相対関係とに基づいて前回の物体と今回の物体とが同一物体であるか否かを判定する同一性判定手段(例えば実施形態における同一性判定部16)と、該同一性判定手段によって同一物体であると判定された回数が所定の判定回数に達した物体を制御対象物体であると認識する制御対象物体認識手段(例えば実施形態における制御対象物体認識部17)と、前回までに制御対象物体であると認識されていた物体と同一物体であると前記同一性判定手段によって判定される物体が検知されない場合に、前記予測手段により予測された物体を制御対象物体として外挿する外挿手段(例えば実施形態における外挿部18)と、前記制御対象物体と自車との相対関係に基づいて前記制御対象物体と自車との接触の可能性の有無を判定する接触可能性判定手段(例えば実施形態における接触可能性判定部19)と、該接触可能性判定手段により接触の可能性が有ると判定された場合に自車に備えた接触回避手段(例えば実施形態における警報装置5、自動ブレーキ装置6)を作動させるとともに、前記制御対象物体が外挿されたものか否かに基づいて前記接触回避手段の作動内容を設定する回避支援手段(例えば実施形態における回避方法設定部20、車両制御部21)と、を備えた車両用走行安全装置(例えば実施形態における走行安全装置1)であって、前記送受信手段が複数備えられており、前記回避支援手段は、自車前方の領域であって一の送受信手段の検知領域(例えば実施形態における検知領域AL)および他の送受信手段の検知領域(例えば実施形態における検知領域AR)間の不検知領域(例えば実施形態における不検知領域AN)に前記外挿手段により外挿された制御対象物体が存在する場合には、前記不検知領域以外に前記外挿手段により外挿された制御対象物体が存在する場合よりも接触回避効果の高い作動内容を設定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明によれば、送受信手段が、所定の時間間隔で自車周辺の所定の検知領域に渡り電磁波を送信し物体からその反射波を受信すると、相対関係算出手段が、この受信結果と走行状態検出手段による自車の走行状態の検出結果とに基づいて自車と物体との相対関係を算出することになる。そして、予測手段が、前回までに相対関係算出手段で算出された自車と物体との相対関係に基づいて物体と自車との相対関係を予測し、同一性判定手段が、予測された物体と自車との相対関係と相対関係算出手段により今回算出された物体と自車との相対関係とに基づいて前回の物体と今回の物体とが同一物体であるか否かを判定することになり、制御対象物体認識手段がこの同一性判定手段によって同一物体であると判定された回数が所定の判定回数に達した物体を制御対象物体であると認識する。そして、前回までに制御対象物体であると認識されていた物体と同一物体であると同一性判定手段によって判定される物体が検知されない場合に、外挿手段が、予測手段により予測された物体を制御対象物体として外挿することになるが、自車前方の領域であって一の送受信手段の検知領域および他の送受信手段の検知領域間の不検知領域に外挿手段により外挿された制御対象物体が存在する場合には、この不検知領域に実際に物体が存在する可能性が高いことから、回避支援手段が、不検知領域以外に外挿手段により外挿された制御対象物体が存在する場合よりも接触回避効果の高い作動内容で、自車に備えた接触回避手段を作動させる。したがって、送受信手段を複数設けた場合に生じる不検知領域に物体が存在すると予測される場合に、接触回避効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態に係る車両用走行安全装置について添付図面を参照しながら説明する。
【0008】
図1に示すように、本実施形態における車両用走行安全装置1は、レーダ装置(送受信手段)2L,2Rと、自車各種センサ(走行状態検出手段)3と、制御装置4と、警報装置(接触回避手段)5と、自動ブレーキ装置(接触回避手段)6と、で構成されている。また、制御装置4は、相対関係算出部(相対関係算出手段)13と、予測部(予測手段)14と、範囲設定部15と、同一性判定部(同一性判定手段)16と、制御対象物体認識部(制御対象物体認識手段)17と、外挿部(外挿手段)18と、接触可能性判定部(接触可能性判定手段)19と、回避方法設定部(回避支援手段)20と、車両制御部(回避支援手段)21とで構成されている。
【0009】
レーダ装置2L,2Rは、自車の周辺情報を所定の時間間隔(例えば、0.1秒間隔)で検知するものであり、具体的には、交差車両、先行車両、他車線先行車両や障害物等の物体の情報を取得する。レーダ装置2L,2Rは、例えばレーザ光やミリ波等の電磁波によるビームスキャン型のレーダ30と、自車進行方向前方の検知領域に向けて電磁波を発信すると共に、この発信された電磁波が検知領域内に存在する物体によって反射されることで生じた反射波を受信して相対関係算出部13に出力する制御部31とを備えて構成されている。レーダ装置2L,2Rの検知領域AL,ARは、三次元での角度方向に対して設定された複数の走査領域に分割されており、制御部31は複数の走査領域に分割された検知領域を走査する。
【0010】
ここで、図2に示すように、レーダ装置2L,2Rは、自車Vの前端部における左右両側に取り付けられている。そして、レーダ装置2Lは、自車周辺の前方やや左側にあって前方ほど拡大する平面視略二等辺三角形状の所定の検知領域ALに渡り電磁波を送信することになり、レーダ装置2Rは、自車周辺の前方やや右側にあって前方ほど拡大する平面視二等辺三角形状の所定の検知領域ARに渡り電磁波を送信することになる。検知領域ALと検知領域ARとは、自車Vの車幅方向の中央を通り自車Vの前後方向に延びる中心線を中心に鏡面対称となっており、自車Vに対し反対側且つ相互近接側の一部領域がラップする。これにより、自車前方の領域であって検知領域ALと検知領域ARとの間は、いずれのレーダ30でも検知できない不検知領域ANとなっている。この不検知領域ANは、検知領域ALと検知領域ARと自車Vとで閉じられた領域となっており、平面視が先細の略二等辺三角形状をなしている。そして、レーダ装置2Lの制御部31およびレーダ装置2Rの制御部31は、取得した各情報を図1に示す相対関係算出部13へ向けて出力する。
【0011】
自車各種センサ3は、自車の走行状態の情報として、例えば自車の速度(車速)を検出する車速センサや、ヨー角(車両重心の上下方向軸回りの回転角度)やヨーレート(車両重心の上下方向軸回りの回転角速度)を検出するヨーレートセンサや、自車の横加速度(以下、横Gと略す)を検出する横Gセンサや、操舵角(運転者が入力した操舵角度の方向と大きさ)を検出する操舵角センサや、実舵角(操舵輪の転舵角の方向と大きさ)を検出する舵角センサや、操舵トルクを検出する操舵トルクセンサを備えている。また、人工衛星を利用して自車の位置や交差点情報等の道路データを測定するためのGPS(Global Positioning System)信号等の測位信号や自車の外部の情報発信装置から発信される位置信号等、さらには、適宜のジャイロセンサや加速度センサ等の検出結果に基づいて自車の現在位置および進行方向を検出する位置センサや、方向指示器やブレーキのオン/オフ状態を検知する各センサ等を備えて構成されている。これらのセンサからなる自車各種センサ3は、自車の走行状態を検出するものであり、上述した各センサで取得した情報を相対関係算出部13へ向けて出力する。
【0012】
相対関係算出部13は、レーダ装置2L,2Rおよび自車各種センサ3から出力された情報を受信し、これらの情報に基づいて自車と自車前方の物体との相対位置および相対速度よりなる相対関係を前記各時間間隔毎に算出するものである。相対関係算出部13は、算出した情報を予測部14および同一性判定部16へ向けて出力する。
【0013】
予測部14は、相対関係算出部13によって前回までに算出された自車と物体との相対位置および相対速度よりなる相対関係に基づいて、該物体と自車との今回検知時点での相対関係を予測する。予測部14は、予測した相対関係の情報を範囲設定部15および外挿部18に出力する。
【0014】
範囲設定部15は、予測部14で予測した物体の今回の相対位置を中心に所定の設定範囲を設定する。範囲設定部15は、設定した設定範囲の情報を同―性判定部16に出力する。
【0015】
同―性判定部16は、予測部14により予測された物体と自車との今回検知時点での相対関係と、相対関係算出部13により今回算出された物体と自車との相対関係とに基づいて前回の物体と今回の物体とが同一物体であるか否かを判定する。具体的には、相対関係算出部13が今回算出した物体の予測でない実際の相対位置が、予測部14により予測された物体と自車との今回検知時点での相対関係に基づき範囲設定部15で設定された前記設定範囲内にある場合に、今回算出した物体が前回検知した物体と同一物体であると判定する。同―性判定部16は、同一物体と判定した物体の情報を、制御対象物体認識部17へ向けて出力する。
【0016】
制御対象物体認識部17は、同一性判定部16により同一物体であると判定された回数が所定の判定回数(具体的には3回)に達した物体を、制御対象物体であると認識する。制御対象物体認識部17は、認識した制御対象物体の情報を、接触可能性判定部19へ向けて出力する。
【0017】
外挿部18は、前回までに制御対象物体であると認識されていた物体と同一物体であると同一性判定部16によって判定される物体が今回検知されない場合に、予測部14により予測された今回検知時点での物体を今回検知時点での制御対象物体として外挿する。外挿部18は、外挿した制御対象物体の情報を、接触可能性判定部19へ向けて出力する。
【0018】
接触可能性判定部19は、制御対象物体認識部17で制御対象物体と判定された物体、または外挿部18で制御対象物体として外挿された物体と、自車との相対関係に基づいて制御対象物体と自車との接触の可能性の有無を判定する。具体的には、制御対象物体の予測進路、および自車の進路予測等から、自車と物体との接触の可能性の有無を判定する。そして、自車と物体との接触の可能性がある場合には、接触するまでの時間Trを算出する。接触可能性判定部19は、算出結果を回避方法設定部20へ向けて出力する。
【0019】
回避方法設定部20は、接触可能性判定部19により接触の可能性が有ると判定された場合に、車両制御部21によって自車に備えた警報装置5および自動ブレーキ装置6の少なくともいずれか一方を作動させる。その際に、制御対象物体が外挿されたものか否かに基づいて警報装置5および自動ブレーキ装置6の作動内容を設定する。また、回避方法設定部20は、接触可能性判定部19から出力された、接触するまでの時間Trに基づいて、警報装置5および自動ブレーキ装置6による接触回避制御のうち取るべき手法を決定する。そして、回避方法設定部20は、この情報を車両制御部21へ向けて出力する。
【0020】
車両制御部21は、回避方法設定部20から出力された情報を受信し、この情報に基づいて警報装置5および自動ブレーキ装置6を作動させる。
【0021】
なお、警報装置5は、視覚的に警報を発生させる表示装置および聴覚的に警報を発生させる音声発生装置である。警報装置5は、車両制御部21から入力される制御信号に応じて、表示装置に所定の警報情報を表示したり、所定の警報灯を点滅させることによって、物体との接触発生の可能性があることを乗員に認識させたり、音声発生装置によって、車両制御部21から入力される制御信号に応じて所定の警報音や音声案内等を出力する。
【0022】
自動ブレーキ装置6は、車両制御部21から入力される制御信号に応じて自車の制動装置を駆動するものであり、弱いブレーキをかけて自車に比較的小さい第1設定値(例えば0.25G)の減速度を発生させ、この減速度を体感させることによって物体との接触の可能性があることを乗員に認識させたり(警報ブレーキ作動)、強いブレーキをかけて自車に第1設定値よりも大きな第2設定値(例えば0.6G)の減速度を発生させ、物体と自車との接触を回避したりする(緊急ブレーキ作動)。
【0023】
次に、図3のフローチャートに基づいて、本実施形態に係る車両用走行安全装置1の制御内容を説明する。なお、図3のフローチャートの処理が所定の時間間隔で実行される。
【0024】
まず、ステップS1において、自車各種センサ3およびレーダ装置2L,2Rの検知情報を取り込み、ステップS2において、制御対象物体認識処理を行う。
【0025】
つまり、制御対象物体認識処理においては、まず、相対関係算出部13が、レーダ装置2L,2Rのいずれか物体を検知した一方と自車各種センサ3とから出力された情報に基づいて自車と物体との相対位置および相対速度よりなる相対関係を算出する。次に、予測部14が、相対関係算出部13によって前回までに算出された自車と物体との相対位置および相対速度よりなる相対関係に基づいて、物体と自車との今回検知時点での相対位置および相対速度よりなる相対関係を予測して、範囲設定部15が、このように予測した相対関係のうちの物体の今回の相対位置を中心に所定の設定範囲を設定し、同―性判定部16が、相対関係算出部13により今回算出された物体の相対位置がこの設定範囲内にあるか否かで前回の物体と今回の物体とが同一物体であるか否かを判定する。
【0026】
そして、同一性判定部16により今回の物体が同一物体であると判定した場合、制御対象物体認識部17が、今回を合わせてこの物体が同一物体であると判定された回数が所定の判定回数(例えば3回)に達した場合、この物体を、制御対象物体であると認識する。つまり、図2に示すように、物体B1が検知され、次の処理サイクルでこれと同一物体であると判定される物体B2が検知され、次の処理サイクルでこれと同一物体であると判定される物体B3が検知されると、この物体B3を制御対象物体であると認識する。
【0027】
また、図2に示すように、前回までに制御対象物体であると認識されていた物体B3と同一物体であると同一性判定部16によって判定される物体が今回検知されない場合には、外挿部18が、予測部14により予測された今回検知時点での物体B4を今回検知時点での制御対象物体として外挿する。
【0028】
以上のステップS2における制御対象物体認識処理によって認識された制御対象物体、つまり制御対象物体認識部17で制御対象物体と判定された物体B3あるいは外挿部18で制御対象物体として外挿された物体B4の予測進路、および自車の進路予測等から、接触可能性判定部19が、ステップS3において、自車と物体B4との接触の可能性の有無を判定する。ステップS3において自車と物体B4との接触の可能性が有ると判定されると、ステップS4において、物体B4に自車が接触するまでの時間Trを算出する。この時間Trは、例えば、制御対象物体と自車と相対距離を相対速度で除算することにより算出される。なお、ステップS3において、自車と物体B4との接触の可能性がないと判定されると、今回の処理を終了する。
【0029】
ステップS5において、接触するまでの時間Trが警報作動しきい値Ta以下である場合には、ステップS6において、回避方法設定部20が、警報装置5により警報を発生させる指令信号を車両制御部21へ向けて出力する。すると、車両制御部21が警報装置5を作動させ、第1段階の警報としてアラーム表示およびアラーム音声により警報を発生させることになる。他方、ステップS5において、接触するまでの時間Trが警報作動しきい値Ta以下でない場合には、警報は不要と判断して今回の処理を終了する。
【0030】
ステップS6の後、回避方法設定部20は、ステップS7において、接触するまでの時間Trが警報作動しきい値Taよりも短い警報ブレーキ作動しきい値Tb以下であるか否かを判定し、接触するまでの時間Trが警報ブレーキ作動しきい値Tb以下である場合には、ステップS8において、自動ブレーキ装置6により警報ブレーキ作動を行う指令信号を車両制御部21へ向けて出力する。すると、車両制御部21が自動ブレーキ装置6を作動させ、警報ブレーキ作動を行う。つまり、ステップS6での警報装置5による警報に併せて、第2段階の警報として、自車を第1設定値(例えば0.25G)の減速度で減速させ、この減速度を体感させることによって物体との接触発生の可能性があることを乗員に認識させる。他方、ステップS7において、接触するまでの時間Trが警報作動しきい値Tb以下でない場合には、ステップS6における警報装置5のみの警報とし、警報ブレーキ作動は不要と判断して今回の処理を終了する。
【0031】
ステップS8の後、回避方法設定部20は、ステップS9において、接触するまでの時間Trが警報ブレーキ作動しきい値Tbよりも短い緊急ブレーキ作動しきい値Tc以下であるか否かを判定し、接触するまでの時間Trが緊急ブレーキ作動しきい値Tc以下である場合には、ステップS10において、上記したステップS2において認識された制御対象物体が外挿データであるか否かを判定する。そして、回避方法設定部20は、制御対象物体が外挿データでない場合には、ステップS11において、自動ブレーキ装置6により緊急ブレーキ作動を行う指令信号を車両制御部21へ向けて出力する。すると、車両制御部21が自動ブレーキ装置6を作動させ、緊急ブレーキ作動を行う。つまり、自車を第1設定値よりも大きな第2設定値(例えば0.6G)の減速度で減速させて自車と物体との接触を回避する。そして、回避方法設定部20は、ステップS12において、予め設定された作動時間T(例えば1秒)が経過した後に自動ブレーキ装置6による緊急ブレーキ作動を解除する指令信号を車両制御部21へ向けて出力する。すると、車両制御部21が自動ブレーキ装置6の作動を解除する。ステップS9において、接触するまでの時間Trが緊急ブレーキ作動しきい値Tc以下でなければ、ステップS6における警報装置5の警報およびステップS8における自動ブレーキ装置6の警報ブレーキ作動のみとし、緊急ブレーキ作動は不要と判断して今回の処理を終了する。
【0032】
上記したステップS10において、制御対象物体が外挿データである場合、回避方法設定部20は、ステップS13において、外挿回数Crを1つインクリメントし、ステップS14において、外挿データの制御対象物体が、上記した一のレーダ装置2Lの検知領域ALと他のレーダ装置2Rの検知領域ARとの間の不検知領域ANに存在するか否かを判断する。制御対象物体が、不検知領域ANに存在する場合に、回避方法設定部20は、ステップS15において、外挿回数Crが、予め設定された外挿しきい値C(例えば3回)以下であるか否かを判定し、外挿回数Crが外挿しきい値C以下である場合には、ステップS11において、自動ブレーキ装置6により緊急ブレーキ作動を行う指令信号を車両制御部21へ向けて出力し、車両制御部21によって自動ブレーキ装置6を作動させ、緊急ブレーキ作動を行わせる。そして、回避方法設定部20は、ステップS12において、作動時間Tの経過後に自動ブレーキ装置6による緊急ブレーキ作動を解除する指令信号を車両制御部21へ向けて出力し、車両制御部21により自動ブレーキ装置6の作動を解除させる。他方、ステップS15において、外挿回数Crが外挿しきい値C以下でない場合、ステップS10において外挿データであると判定された制御サイクルが繰り返され、ステップS13でインクリメントされる外挿回数が増えて、外挿データの信頼度が下がっていることから、そのまま処理を終了する。
【0033】
上記したステップS14において、外挿データの制御対象物体が不検知領域ANに存在しない場合に、回避方法設定部20は、ステップS16において、外挿データの制御対象物体が、これを外挿前に検知していたレーダ装置2L,2Rのうちの一方ではなく、外挿前に検知していなかった他方で検知したか否かを判定する。レーダ装置2L,2Rのうちの他方で、外挿データの制御対象物体を検知した場合には、ステップS15において、外挿回数Crが外挿しきい値C以下である場合に、ステップS11において、自動ブレーキ装置6により緊急ブレーキ作動を行う指令信号を車両制御部21へ向けて出力し、車両制御部21によって自動ブレーキ装置6を作動させ、緊急ブレーキ作動を行わせる。そして、回避方法設定部20は、ステップS12において、作動時間Tの経過後に自動ブレーキ装置6による緊急ブレーキ作動を解除する指令信号を車両制御部21へ向けて出力し、車両制御部21により自動ブレーキ装置6の作動を解除させる。つまり、ステップS9において、この外挿データの制御対象物体に自車が接触するまでの時間Trが緊急ブレーキ作動しきい値Tc以下である状況下では、レーダ装置2L,2Rのうちの一方で検知されていた制御対象物体が、このレーダ装置に対して外挿データとなり、不検知領域AN内に存在していなくても、他方のレーダ装置で検知された場合には、すぐに緊急ブレーキ作動を行わせる。これは、例えば、制御対象物体が一方のレーダ装置で検知されずに外挿データとなり、しかも相対移動速度が速く、不検知領域ANを通り越してしまうような場合に、他方のレーダ装置で検知されたら、ステップS2で行う、物体が同一物体であると判定される回数が所定の判定回数に達するのを待つことなく、すぐに緊急ブレーキ作動を行わせるのである。他方、ステップS16において、外挿データの制御対象物体がレーダ装置2L,2Rのうちの他方で検知されなければ今回処理を終了する。
【0034】
以上に述べた本実施形態に係る車両用走行安全装置1によれば、レーダ装置2L,2Rが、所定の時間間隔で自車周辺の所定の検知領域AL,ARに渡り電磁波を送信し物体からその反射波を受信すると、相対関係算出部13が、この受信結果と自車各種センサ3による自車の走行状態の検出結果とに基づいて自車と物体との相対関係を算出することになる。そして、予測部14が、前回までに相対関係算出部13で算出された自車と物体との相対関係に基づいて物体と自車との相対関係を予測し、同一性判定部16が、予測された物体と自車との相対関係と、相対関係算出部により今回算出された物体と自車との相対関係とに基づいて前回の物体と今回の物体とが同一物体であるか否かを判定することになり、制御対象物体認識部17がこの同一性判定部16によって同一物体であると判定された回数が所定の判定回数に達した物体を制御対象物体であると認識する。そして、前回までに制御対象物体であると認識されていた物体と同一物体であると同一性判定部16によって判定される物体が検知されない場合に、外挿部18が、予測部14により予測された物体を制御対象物体として外挿することになるが、自車前方の領域であってレーダ装置2Lの検知領域ALおよび他のレーダ装置2Rの検知領域AR間の不検知領域ANに、外挿部18により外挿された制御対象物体が存在する場合には、この不検知領域ANに実際に物体が存在する可能性が高いことから、回避方法設定部20および車両制御部21が、不検知領域AN以外に外挿部18により外挿された制御対象物体が存在する場合よりも接触回避効果の高い作動内容で、自車に備えた自動ブレーキ装置6を作動させる。つまり、不検知領域AN以外に外挿部18により外挿された制御対象物体が存在する場合は、ステップS14での判断がNoとなるため、それ以前のステップS8において自動ブレーキ装置6による警報ブレーキ作動を行うまでであるが、不検知領域ANに外挿部18により外挿された制御対象物体が存在する場合には、ステップS14での判断がYesになり、その後のステップS11において自動ブレーキ装置6による緊急ブレーキ作動を行う。したがって、複数のレーダ装置2L,2Rを設けた場合に生じる不検知領域ANに物体が存在すると予測される場合には、接触回避効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用走行安全装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る車両用走行安全装置のレーダ装置の検知領域等を示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る車両用走行安全装置の制御内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 車両用走行安全装置
2L,2R レーダ装置(送受信手段)
3 自車各種センサ(走行状態検出手段)
4 制御装置
5 警報装置(接触回避手段)
6 自動ブレーキ装置(接触回避手段)
13 相対関係算出部(相対関係算出手段)
14 予測部(予測手段)
16 同一性判定部(同一性判定手段)
17 制御対象物体認識部(制御対象物体認識手段)
18 外挿部(外挿手段)
19 接触可能性判定部(接触可能性判定手段)
20 回避方法設定部(回避支援手段)
21 車両制御部(回避支援手段)
AL,AR 検知領域
AN 不検知領域
B1〜B4 物体
V 自車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の時間間隔で自車周辺の所定の検知領域に渡り電磁波を送信するとともに自車周辺に存在する物体からの前記電磁波の反射波を受信する送受信手段と、
自車の走行状態を検出する走行状態検出手段と、
前記送受信手段の受信結果および前記走行状態検出手段の検出結果に基づいて自車と物体との相対位置および相対速度よりなる相対関係を算出する相対関係算出手段と、
該相対関係算出手段によって前回までに算出された自車と物体との相対関係に基づいて該物体と自車との相対関係を予測する予測手段と、
該予測手段により予測された物体と自車との相対関係と前記相対関係算出手段により今回算出された物体と自車との相対関係とに基づいて前回の物体と今回の物体とが同一物体であるか否かを判定する同一性判定手段と、
該同一性判定手段によって同一物体であると判定された回数が所定の判定回数に達した物体を制御対象物体であると認識する制御対象物体認識手段と、
前回までに制御対象物体であると認識されていた物体と同一物体であると前記同一性判定手段によって判定される物体が検知されない場合に、前記予測手段により予測された物体を制御対象物体として外挿する外挿手段と、
前記制御対象物体と自車との相対関係に基づいて前記制御対象物体と自車との接触の可能性の有無を判定する接触可能性判定手段と、
該接触可能性判定手段により接触の可能性が有ると判定された場合に自車に備えた接触回避手段を作動させるとともに、前記制御対象物体が外挿されたものか否かに基づいて前記接触回避手段の作動内容を設定する回避支援手段と、
を備えた車両用走行安全装置であって、
前記送受信手段が複数備えられており、
前記回避支援手段は、自車前方の領域であって一の送受信手段の検知領域および他の送受信手段の検知領域間の不検知領域に前記外挿手段により外挿された制御対象物体が存在する場合には、前記不検知領域以外に前記外挿手段により外挿された制御対象物体が存在する場合よりも接触回避効果の高い作動内容を設定することを特徴とする車両用走行安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−211557(P2009−211557A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55494(P2008−55494)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】