説明

車両用駆動力制御装置

【課題】 2輪駆動に駆動形態を切り替えることができる4輪駆動車において、駆動形態が電子制御装置(ECU)に直接入力されない場合に、その駆動形態に応じた駆動力の制御が行えるようにする。
【解決手段】 フロントの車輪FL、FRの車輪速度とリアの車輪RL、RRの車輪速度との偏差に基づいて駆動形態が2輪駆動であるか4輪駆動であるかを求める。そして、その結果に基づいて駆動輪軸重量を設定して路面最大トルク値を求め、そこからトルク低減量を演算して、車両状態量に応じたエンジントルクを求め、このエンジントルクに基づいてエンジン制御をすることで、車両の安定化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2輪駆動に駆動形態を切り替えることができる4輪駆動車についての駆動力の制御を行う車両用駆動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両旋回挙動の悪化を防止するための挙動制御装置の1つとして、特許文献1に記載されているものがある。この挙動制御装置では、車両の挙動状態量が所定のしきい値を超えている場合には、車両旋回挙動が悪化するものとして、エンジンの出力トルクを低減し、車両旋回挙動の安定化を図るようにしている。
【特許文献1】特開平9−125999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
2輪駆動に駆動形態を切り替えることができる4輪駆動車においては、その時その時の駆動形態をエンジンECUに取り込みむことで、その駆動形態に応じた適切なエンジントルク値が求められるようになっている。
【0004】
しかしながら、エンジンECUに駆動形態が取り込めないような場合、例えば、エンジンECUに対して駆動形態を入力するための配線が断線した場合等においては、駆動形態に応じた適切なエンジントルク値を求めることができなくなる。従って、フェイルセーフの観点から好ましくない。
【0005】
また、エンジンECUの入力端子を減らすことでコスト削減を図りたいような場合には、このような駆動形態を入力するためだけに用いられる端子を省くことが有効であるが、その場合には、上記と同様に、駆動形態をエンジンECUに取り込むことができなくなり、駆動形態に応じた適切なエンジントルク値を求めることができなくなる。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、2輪駆動に駆動形態を切り替えることができる4輪駆動車において、駆動形態が電子制御装置(ECU)に直接入力されない場合においても、その駆動形態に応じた駆動力の制御が行えるようにした車両用駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、駆動形態判定手段(310)にて、フロント車輪(FL、FR)の車輪速度とリア車輪(RL、RR)の車輪速度との偏差から2輪駆動か4輪駆動かという駆動形態を判定すると共に、駆動力低減量演算手段(230〜250)にて、駆動形態判定手段での判定結果に基づいて駆動形態に応じた駆動輪軸重量を設定して駆動力の低減量を求める。そして、駆動力制御手段(170)にて、駆動力低減量演算手段で求められた駆動力の低減量に基づいて、駆動輪に発生させる駆動力の調整を行うことを特徴としている。
【0008】
このように、フロント車輪の車輪速度とリア車輪の車輪速度との偏差に基づいて、駆動形態が2輪駆動であるか4輪駆動であるかを求めるようにすれば、2輪駆動か4輪駆動かというその時その時の駆動形態を示す信号を用いなくても、駆動形態を求めることができる。このため、2輪駆動に駆動形態を切り替えることができる4輪駆動車において、駆動形態がECU(1)に直接入力されない場合においても、その駆動形態に応じた駆動力の制御が行えるようにすることができる。これにより、旋回時やトラクション制御時に駆動形態に応じた最適な駆動力制御を実行することが可能となる。
【0009】
したがって、駆動形態を示す信号が元々ECUに入力されるはずであるのにも関わらず配線の断線などによって入力されなくなってしまった場合のようなフェールセーフ時に対応して、また、そのような信号が元々ECUに入力されないようなシステムに対応して、駆動形態に応じた駆動力制御を実行することが可能となる。
【0010】
このような駆動力制御装置としては、例えば、請求項2に示されるように、駆動態判定手段での判定結果に基づいてトルク低減量を求めるトルク低減量演算手段を駆動力低減量演算手段として用い、トルク低減量に基づいてエンジン(EG)に発生させるエンジントルクを制御するエンジン制御手段を駆動力制御手段として用いるようなエンジン制御による駆動力制御を行うものが挙げられる。
【0011】
この場合、請求項3に示されるように、駆動力低減量演算手段は、車両が走行中の路面における路面μ値を取得する路面μ値取得手段(230)と、路面μ値取得手段が取得した路面μ値の場合に発生させ得る路面最大トルク値(Tmax)を求める路面最大トルク値演算手段(240)と、路面最大トルク値演算手段によって求められた路面最大トルク値からの低減割合(TrqDown)を求める低減割合演算手段(250)とを有して構成され、低減割合演算手段で求められた低減割合を路面最大トルク値に掛けたものを低減量とする。そして、エンジン制御手段は、低減量を路面最大トルク値から引いた値を要求するエンジントルク(EngTrq)として、エンジンに発生させることになる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、駆動形態判定手段は、フロント車輪の平均車輪速度(AveFr)とリア車輪の平均車輪速度(AveRr)との偏差から、駆動形態を判定することを特徴としている。
【0013】
このように、フロント車輪の平均車輪速度とリア車輪の平均車輪速度との偏差から、駆動形態を判定することができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、加速度が正のときを駆動形態の判定のタイミングとすることことを特徴としている。
【0015】
このように、加速度が正のときには、フロント車輪の車輪速度とリア車輪の車輪速度との偏差が明確に現れる。したがって、確実に駆動形態を判定することが可能となる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、車速が0になった後、車速が増加したときを駆動形態の判定のタイミングとすることを特徴としている。
【0017】
このように、車速が0になった後、車速が増加したときに駆動形態を判定するようにすれば、通常、駆動形態の変更を行うタイミングに合わせて、駆動形態の判定を行うことが可能となる。
【0018】
請求項7に記載の発明では、駆動力低減量演算手段は、駆動形態判定手段での判定結果が得られていないときには、駆動形態が2輪駆動であるものとするデフォルト2輪駆動を採用し、2輪駆動用の駆動輪軸重量に基づいて、駆動力の低減量を求めることを特徴としている。
【0019】
このように、デフォルト2輪駆動を採用することにより、駆動力を小さ目に設定することができ、車両をあまり走らせない側、つまり安全性重視とすることができる。
【0020】
請求項8に記載の発明では、駆動力低減量演算手段は、駆動形態判定手段での判定結果が得られていないときには、駆動形態が4輪駆動であるものとするデフォルト4輪駆動を採用し、4輪駆動用の駆動輪軸重量に基づいて、駆動力の低減量を求めることを特徴としている。
【0021】
このように、デフォルト4輪駆動を採用することにより、駆動力を大き目に設定することができ、車両を走らせる側、つまり加速性能重視とすることができる。
【0022】
請求項9に記載の発明では、駆動形態が2輪駆動であった場合に、駆動力低減量演算手段で、車両の縦方向の加速度に応じて、駆動輪軸重量を補正させ、この補正後の駆動輪軸重量に基づいて低減量を求めるようにすることを特徴としている。
【0023】
このように、車両の縦方向の加速度に応じて駆動輪軸重量の補正することで、より正確な駆動輪軸重量を求めることが可能となる。
【0024】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0026】
(第1実施形態)
本発明の一実施形態を適用した車両用駆動力制御装置について説明する。
【0027】
図1に、本発明の一実施形態にかかる車両用駆動力制御装置を実現した車両制御システムの全体構成を示す。以下、この図に基づいて車両制御システムの構成について説明する。
【0028】
図1に示されるように、車両制御システムは、エンジンEG、変速装置GS、ブレーキ液圧制御装置BPC、各車輪FL、FR、RL、RR毎に備えられたホイールシリンダWfl、Wfr、Wrl、Wrr、各種センサ群および電子制御装置(以下、ECUという)1を備えた構成となっている。
【0029】
なお、車輪FL、FR、RL、RRは、それぞれ左フロント、右フロント、左リア、右リアの車輪を示している。そして、以下の説明で用いている「**」は、車輪FL〜RRを示す添え字に相当するものである。
【0030】
エンジンEGは、スロットル制御装置TH及び燃料噴射装置FIを備えた内燃機関であり、ドライバの駆動要求に応じたアクセルペダルAPでの操作量およびECU1からのエンジン制御信号に基づいて駆動される。具体的には、スロットル制御装置THは、アクセルペダルAPの操作に応じてメインスロットルバルブMTのメインスロットル開度を制御すると共に、ECU1からの制御信号に応じてサブスロットルバルブSTを駆動し、サブスロットル開度を制御するようになっている。また、燃料噴射装置FIは、ECU1からの制御信号に基づいて駆動され、燃料噴射量を制御するようになっている。これらスロットル制御装置TH及び燃料噴射装置FIの駆動により、エンジンEGにおけるエンジン回転数が制御されるようになっている。
【0031】
なお、本実施形態に示す車両は、2輪駆動のときにはFR駆動となるFR駆動主体の4輪駆動車であり、エンジンEGが変速装置GSを通じて、センタディファレンシャルDC及びフロント・リヤディファレンシャルDR1、DR2を介して車両フロントおよびリアの車輪FL、FR、RL、RRに連結された構成となっている。
【0032】
変速装置GSは、トランスミッションのギヤ位置の切替えを行うものである。変速装置GSでのギヤ位置は、変速装置GS内に設けられたギヤ位置センサからECU1に伝えられるようになっており、また、ECU1からのギヤ位置制御信号に基づいて調整されるようになっている。
【0033】
ブレーキ液圧制御装置BPCは、ドライバの制動要求に応じて踏み込まれるブレーキペダルBPの操作量と、ECU1で実行される駆動力制御に基づく制動要求に応じて、各車輪FL、FR、RL、RRそれぞれに装着されたホイールシリンダWfl、Wfr、Wrl、Wrrに加えられるブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)を調整するものである。具体的には、ブレーキ液圧制御装置BPCには、図示しないマスタシリンダが備えられていると共に、このマスタシリンダの出力ブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)を検出する圧力センサPSが備えられている。そして、圧力センサPSの出力信号がECU1に入力されるように構成され、ECU1からのブレーキ制御信号に基づいてブレーキ液圧制御装置BPCに備えられた図示しないアクチュエータ(例えばソレノイド等)が駆動されることで、ホイールシリンダ圧が調整されるようになっている。
【0034】
各種センサ群は、上記した各センサに加え、車輪速度センサWS1〜WS4、ブレーキスイッチセンサBS、スロットルセンサTS、エンジン回転数センサER、操舵角センサSS、縦方向および横方向の加速度センサGX、GYおよびヨーレートセンサYSを有して構成される。
【0035】
車輪速度センサWS1〜WS4は、各車輪FL、FR、RL、RRに配設されている。これら各車輪速度センサWS1〜WS4がECU1に接続され、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号をECU1に向けて出力するようになっている。
【0036】
ブレーキスイッチセンサBSは、ドライバがブレーキペダルBPを踏み込んだことを検出するものである。このブレーキスイッチセンサBSからの検出信号はECU1に入力されるようになっている。
【0037】
スロットルセンサTSは、アイドル域か出力域かを検出すると共に、メインスロットルバルブMT及びサブスロットルバルブSTのスロットル開度を検出するものである。このスロットルセンサTSからは、アイドル域か出力域かをオンオフ信号で表したアイドルスイッチ信号と、各スロットルバルブMT、STのスロットル開度信号が出力され、これら各信号がECU1に向けて出力されるようになっている。このスロットルセンサTSのアイドルスイッチ信号に基づき、アクセルペダルAPの操作、非操作を検出できるようになっている。
【0038】
エンジン回転数センサERは、エンジン回転数を検出するためのものである。エンジン回転数はエンジントルクのパラメータとなるもので、エンジンEGの種類毎にエンジン回転数に応じたエンジントルク曲線が決まっている。
【0039】
操舵角センサSSは、ステアリングの回転角度に応じた出力を発生させるもので、操舵角を求めるものである。縦方向の加速度センサGXは、車両の進行方向における加速度を検出するためのものであり、横方向の加速度センサGYは、車幅方向における加速度を検出するためのものである。また、ヨーレートセンサYSは、車両回転軸周りのヨー角速度を検出するためのものである。
【0040】
ECU1は、マイクロコンピュータCMPを有している。マイクロコンピュータCMPには、入力ポートIPT、出力ポートOPT、プロセシングユニットCPU、記憶手段となるROM2及びRAM3などが備えられ、これら各部がバスを介して相互に接続された構成となっている。
【0041】
上記した車輪速度センサWS1〜WS4、ブレーキスイッチBS等の出力信号は増幅回路AMPを介して入力ポートIPTからプロセシングユニットCPUに入力されるようになっている。また、出力ポートOPTからは、駆動回路ACTを介して、スロットル制御装置TH及びブレーキ液圧制御装置BPCに向けてそれぞれの制御信号が出力される。
【0042】
ROM2には駆動力制御を実行するためのプログラムが記憶されている。プロセッシングユニットCPUは、イグニッションスイッチ(図示せず)がオンされている間、ROM2に記憶されたプログラムに従った処理を実行するものであり、RAM3は、そのプログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶させるものである。
【0043】
以上のように構成された制御システムにより駆動力制御処理が実行される。駆動力制御処理は、ECU1により実行され、ECU1において演算された各種演算値を用いて実行される。この駆動力制御処理に用いられる各種演算値に関しては、エンジン制御などにおいて周知のものであるため、詳細については説明を省略する。
【0044】
図2に、駆動力制御処理のフローチャートを示す。この駆動力制御のフローチャートに示される各処理は、イグニッションスイッチがオンされてマイクロコンピュータが起動されるとECU1で実行されるもので、各車輪FL、FR、RL、RRに対して実行される。以下、駆動力制御処理について説明するが、駆動力制御で行われるここの制御のうち周知の部分に関しては、説明を省略するものとする。
【0045】
まず、ステップ100では、信号読み込みが行われる。これにより、操舵角センサSS、縦方向および横方向の加速度センサGX、GY、ヨーレートセンサYS、さらには車輪速度センサWS1〜WS4からの検出信号が読み込まれる。そして、これらの検出信号を用いて各物理量、つまり操舵角、縦方向および横方向の加速度、ヨーレート、車輪速度等の物理量が求められる。また、このステップでは、図示しない他のECUで求められた車速などの物理量の読み込みも行われる。この読み込みは、ECU1と他のECUとを繋ぐ通信バス(図示せず)を介して行われる。
【0046】
なお、ECU1のうち、このステップ100を実行する部分、つまり車輪速度や縦方向の加速度の検出や他のECUからの読み込みによる車速の取得等を行う部分が、本発明でいう車輪速度検出手段、車速取得手段、縦方向加速度検出手段に相当するものである。
【0047】
続いて、ステップ110では、車両状態量が演算される。ここでいう車両状態量とは、例えば上記ステップ100で求められた各物理量や図示しない他のECUで求められた物理量に基づく演算によって得られる値であり、車両が安定しているか否かの指標となる値である。この車両状態量としては、例えば、横方向の加速度と車速およびヨーレートの積の偏差で示される横滑り速度や、車体の前後速度に対する横滑り速度の比で示されるスリップ角等が挙げられる。なお、この車両状態量に関しては、例えば上述した特許文献1等において周知なものである。
【0048】
次に、ステップ120では、制御介入判定が行われる。この制御介入判定は、駆動力制御を実行する必要があるか否かの判定を行うものであり、ステップ110で求められた車両状態量が所定のしきい値を超えているか否か等によって判定される。
【0049】
このステップで否定判定された場合には、駆動力制御を実行する必要がないものとして、そのまま処理が終了となる。そして、肯定判定された場合に、駆動力制御を実行するべく、ステップ130以降の処理が実行される。
【0050】
ステップ130では、目標スリップ量が演算される。ここでいう目標スリップ量は、上述した車両状態量を考慮した場合に、車両を安定化させるために必要となるスリップ量、もしくは、車両を安定化方向に導くに際し、エンジン特性などを考慮したときに目標値として設定し得るスリップ量の上限値のことを示す。
【0051】
ステップ130で目標スリップ量が演算されると、ステップ140にてブレーキ圧力制御処理が実行される。このブレーキ圧力制御処理とは、ステップ130で求められた目標スリップ量を達成するために要求されるブレーキ液圧制御装置BPCでの目標ブレーキ液圧を求めるものである。
【0052】
次に、ステップ150において、トルク制御量演算処理が実行される。このトルク制御量演算処理のフローチャートを図3に示し、この図を参照して説明する。
【0053】
まず、ステップ200では、駆動形態が求められ、4輪駆動状態であるか否かが判定される。この判定は、図4に示される駆動形態設定処理に基づいて実行される。ECU1のうち、この駆動形態設定処理を実行する部分が、駆動形態判定手段に相当する。
【0054】
駆動形態設定処理では、まず、図4に示されるステップ300において、フロントの車輪FL、FRの車輪速度平均値AveFrとリアの車輪RL、RRの車輪速度平均値AveRrが演算されれ、ステップ310において、これら車輪速度平均値AveFrと車輪速度平均値AveRrとの偏差(AveRr−AveFr)が所定のしきい値Kを超えているか否かが判定される。そして、ステップ310において肯定判定された場合には、ステップ320に進んで2輪駆動状態であるとされ、否定判定された場合には、ステップ330に進んで4輪駆動状態であるとされる。例えば、2輪駆動状態になること、または、4輪駆動状態になることが所定のフラグがセットされること等によって示される。
【0055】
すなわち、駆動形態として2輪駆動が設定されている場合には、FR駆動主体での駆動が行われることになるため、加速時には、瞬間的にリア2輪(車輪RL、RR)の車輪速度がフロント2輪(車輪FL、FR)の車輪速度よりも高くなる。このため、2輪駆動時と4輪駆動時それぞれの場合において、車輪速度平均値AveFrと車輪速度平均値AveRrとを比較すると、図5(a)、(b)に示され、2輪駆動時には、車輪速度平均値AveFrと車輪速度平均値AveRrとの偏差(AveRr−AveFr)が所定のしきい値Kを超えるが、4輪駆動時には超えない。
【0056】
このような駆動状態設定処理によって駆動形態が求められ、その時の駆動形態がフラグなどで示されると、図3に示したステップ200において、その駆動形態に応じた判定が為される。なお、この駆動状態設定処理は、所定の演算周期毎にタイマ割り込み処理として実行される。
【0057】
そして、ステップ200で肯定判定されるとステップ210に進み、否定判定されるとステップ220に進む。
【0058】
ステップ210、220では、駆動形態に応じた駆動輪軸重量の設定が為される。すなわち、ステップ210では、駆動輪軸重量として4輪駆動用のものが設定され、ステップ220では、駆動輪軸重量として2輪駆動用のものが設定される。
【0059】
4輪駆動用の駆動輪軸重量とは車両重量そのものを示しており、4輪駆動時にはその4輪によって車両重量すべてを支えていることから、車両重量が駆動輪軸重量として設定される。2輪駆動用の駆動輪軸重量とは重量配分に応じた車両重量のことを示し、例えば車両重量配分が50:50である場合には、車両重量の1/2が駆動輪軸重量として設定される。
【0060】
なお、2輪駆動時における駆動輪軸重量は、車両の縦方向の加速度に応じて設定を変えることもできる。例えば加速度が正の場合には駆動重量をその分増加させ、加速度が負の場合には駆動重量を減少させることもできる。このような加速度と駆動輪軸重量との関係は、例えば図6の実線で示すようなマップで示すことができ、このマップとステップ100で読み込まれた縦方向の加速度から適宜設定変更することが可能である。もちろん、2輪駆動時にFR駆動主体の駆動になるのではなく、FF駆動主体となる車両の場合には、フロントの2輪が駆動輪となることになるが、この場合には、図6中の破線で示したように、加速度が正の場合には駆動重量をその分減少させ、加速度が負の場合には駆動重量を増加させることになる。これにより、より正確な駆動輪軸重量を設定することが可能となる。
【0061】
続いて、ステップ230では、入力処理が実行される。この入力処理では、ギヤ位置の入力および路面μ値の入力が行われる。ギヤ位置に関しては、上述したギヤ位置は、変速装置GSから伝えられるようになっており、路面μ値は、ECU1とは異なるECU(例えばブレーキECU)などにおいて求められた値が入力されるようになっている。なお、ECU1のうち、この路面μ値を取得する部分が路面μ値取得手段に相当する。
【0062】
そして、ステップ240に進み、路面最大トルク値演算処理が実行される。ここでは、数式1に基づいて路面最大トルク値Tmaxが演算される。なお、ECU1のうち、この路面最大トルク値Tmaxを演算する部分が、路面最大トルク値演算手段に相当する。
【0063】
(数1)
Tmax=駆動輪軸重量×路面μ値×タイヤ半径/(ギヤ比×ファイナルギヤ比)
ここでいう路面最大トルク値Tmaxとは、ステップ230で入力された路面μ値およびギヤ位置から考えて、発生させ得る最も大きなトルク値のことを意味している。この数式1における駆動輪軸重量に、上述したステップ210、220で設定された4輪用もしくは2輪用の駆動輪軸重量が代入されることで、路面最大トルク値Tmaxが演算される。なお、数式1におけるタイヤ半径やギヤ比およびファイナルギア比は、駆動力制御装置が適用される車両ごとに異なるものであり、予めECU1に記憶されている。
【0064】
次に、ステップ250では、トルク低減量が演算される。ここでいうトルク低減量は、ステップ130で求められた目標スリップ量となるようにする場合に、路面最大トルク値Tmaxをどの程度低減させる必要があるかという低減量を示したものである。この低減量は、路面最大トルク値からの低減割合TrqDownとして、例えば、ステップ110で求められた車両状態量に基づいて求められ、図7に示すマップから求められる。
【0065】
なお、この場合における実際のトルク低減量は、低減割合TrqDownを用いて次式のように表される。
【0066】
(数2)
トルク低減量=TrqDown/100×Tmax
そして、トルク低減量が求められると、ステップ260にて、実際に発生させたいエンジントルクEngTrqが演算される。この実際に発生させたいエンジントルクEngTrqは、次式のようにして求められる。
【0067】
(数3)
EngTrq=(100−TrqDown)/100×Tmax
なお、ECU1のうち、このようにトルク低減量を演算する部分、つまりステップ230〜250の処理を実行する部分が、駆動力低減量演算手段、トルク低減割合演算手段、トルク低減量演算手段に相当する。
【0068】
このようにして、トルク制御量演算処理が完了すると、図2に示すステップ160に進み、アクチュエータ制御が実行される。このアクチュエータ制御は、上述したステップ140におけるブレーキ圧力制御処理で求められたブレーキ液圧を達成するために必要とされるアクチュエータ制御を実行するものである。例えば、この処理では、ブレーキ液圧制御装置BPCに備えられる図示しないソレノイドへの通電のオンオフタイミングやポンプ駆動用のモータへの通電のオンオフタイミングなどが演算され、その演算結果に従ってソレノイドやモータへの通電が実行される。
【0069】
そして、ステップ170に進み、トルク要求が為される。つまり、上述したステップ260で求められたエンジントルクEngTrqを発生させるべく、エンジンEGの制御が行われる。これにより、スロットル制御装置THによるメインスロットルバルブMTでのメインスロットル開度の制御やサブスロットルバルブSTでのサブスロットル開度の制御、さらには、燃料噴射装置FIによる燃料噴射量の制御が実行され、所望のエンジントルクEngTrqが実現される。なお、ECU1のうち、この所望のエンジントルクEngTrqとなるようにエンジン制御を実行する部分が、駆動力制御手段、エンジン制御手段に相当する。
【0070】
以上のように、フロントの車輪FL、FRの車輪速度とリアの車輪RL、RRの車輪速度との偏差に基づいて駆動形態が2輪駆動であるか4輪駆動であるかを求めている。そして、その結果に基づいて駆動輪軸重量を設定して路面最大トルク値Tmaxを求め、そこからトルク低減量を演算して、車両状態量に応じたエンジントルクEngTrqを求めることで、車両が安定化するようにしている。
【0071】
このように、本実施形態の車両駆動力制御装置によれば、2輪駆動か4輪駆動かというその時その時の駆動形態を示す信号を用いなくても、駆動形態を求めることができる。このため、2輪駆動に駆動形態を切り替えることができる4輪駆動車において、駆動形態がECU1に直接入力されない場合においても、その駆動形態に応じた駆動力の制御が行えるようにすることができる。これにより、旋回時やトラクション制御時に駆動形態に応じた最適な駆動力制御を実行することが可能となる。
【0072】
したがって、駆動形態を示す信号が元々ECU1に入力されるはずであるのにも関わらず配線の断線などによって入力されなくなってしまった場合のようなフェールセーフ時に対応して、また、そのような信号が元々ECU1に入力されないようなシステムに対応して、駆動形態に応じた駆動力制御を実行することが可能となる。
【0073】
なお、上記図4に示す駆動形態設定処理によって2輪駆動であるか4輪駆動であるかという駆動形態を特定できるようになっているが、それがまだ特定されていないときには、デフォルト2輪駆動もしくはデフォルト4輪駆動とすることができる。
【0074】
デフォルト2輪駆動とは、2輪駆動であるか4輪駆動であるかという駆動形態を特定できない場合に、2輪駆動であると暫定的に決め、駆動輪軸重量として2輪駆動用のものが採用されるようにすることを言う。また、デフォルト4輪駆動とは、2輪駆動であるか4輪駆動であるかという駆動形態を特定できない場合に、4輪駆動であると暫定的に決め、駆動輪軸重量として4輪駆動用のものが採用されるようにすることを言う。
【0075】
2輪駆動用の駆動輪軸重量が用いられる場合と4輪駆動用の駆動輪軸重量が用いられる場合とで、路面最大トルク値Tmaxを比較してみると、2輪駆動用の方が4輪駆動用よりも駆動輪軸重量が小さくなることから、路面最大トルク値Tmaxも同様に小さくなる。このため、デフォルト2輪駆動とする場合には、路面最大トルク値Tmaxが小さめに設定されることによって、エンジンEGに要求される最終的なエンジントルクEngTrqも比較的小さなものとなる。逆に、デフォルト4輪駆動とする場合には、路面最大トルク値Tmaxが大き目に設定されることによって、エンジンEGに要求される最終的なエンジントルクEngTrqも比較的大きなものとなる。
【0076】
したがって、車両をより走らせる側、つまり加速性能重視とする場合にはデフォルト4輪駆動を採用することが好ましく、車両をあまり走らせない側、つまり安全性重視とする場合にはデフォルト2輪駆動を採用するのが好ましい。
【0077】
(他の実施形態)
上記実施形態では、駆動形態の判定を所定の演算周期毎に行う場合について説明したが、これは単なる一例であり、他のタイミングで行うようにしても構わない。
【0078】
例えば、車両の縦方向の加速度センサGxの検出信号に基づいて求められる縦方向の加速度が正になった場合を検知し、そのタイミングの時に駆動形態を判定するようにすれば、フロントの車輪FL、FRとリアの車輪RL、RRの各車輪速度の差が明確に現れ、確実に駆動形態を判定することが可能となる。
【0079】
また、駆動形態の変更は、通常、車両を停止させたときに行われるため、車両が走行スタートしたタイミングの時に駆動形態を判定するようにしても良い。この場合、例えば車速がゼロになった後に車速が増加したときを走行スタートしたタイミングとして採用することができる。
【0080】
上記第1実施形態では、車両駆動力制御装置の一例としてブレーキ制御とエンジン制御の双方が行えるものを例に挙げ、エンジントルクEngTrqを2輪駆動と4輪駆動とで調整するというエンジン制御のみによって駆動力制御を実行するものについて説明したが、これに限るものではない。すなわち、ブレーキ制御のみによって駆動力制御を実行するものであっても構わない。要するに、2輪駆動に駆動形態を切り替えることができる4輪駆動車において、駆動形態がECU1に直接入力されない場合に、その駆動形態に応じた駆動力の制御を行うことができるものであれば、どのような駆動力制御形態であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる車両用駆動力制御装置を実現した車両制御システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す車両制御システムに備えられるECUが実行する駆動力制御処理のフローチャートである。
【図3】図2に示す駆動力制御処理中で行われるトルク制御量演算処理のフローチャートである。
【図4】図1に示す車両制御システムに備えられるECUが実行する駆動形態設定処理のフローチャートである。
【図5】2輪駆動時と4輪駆動時それぞれの場合において、車輪速度平均値AveFrと車輪速度平均値AveRrとを比較した図である。
【図6】加速度と駆動輪軸重量との関係を示すグラフである。
【図7】路面最大トルク値Tmaxからの低減割合TrqDownと車両状態量との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0082】
1…ECU、EG…エンジン、GS…変速装置、BPC…ブレーキ液圧制御装置、FL、FR、RL、RR…車輪、Wfl、Wfr、Wrl、Wrr…ホイールシリンダ、WS1〜WS4…車輪速度センサ、BS…ブレーキスイッチセンサ、ST…スロットルセンサ、SS…操舵角センサ、Gx、Gy…縦方向および横方向の加速度センサ、YS…ヨーレートセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備えられるフロント車輪(FL、FR)およびリア車輪(RL、RR)それぞれの車輪速度を求める車輪速度検出手段と、
前記フロント車輪(FL、FR)の車輪速度と前記リア車輪(RL、RR)の車輪速度との偏差から2輪駆動か4輪駆動かという駆動形態を判定する駆動形態判定手段(310)と、
前記駆動形態判定手段(310)での判定結果に基づいて、駆動輪軸重量を設定し、この駆動輪軸重量に基づいて、駆動力の低減量を求める駆動力低減量演算手段(230〜250)と、
前記駆動力低減量演算手段(230〜250)で求められた前記駆動力の低減量に基づいて、駆動輪に発生させる駆動力の調整を行う駆動力制御手段(170)と、
を具備していることを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項2】
前記駆動力低減量演算手段(230〜250)は、前記駆動形態判定手段での判定結果に基づいて、トルク低減量を求めるトルク低減量演算手段であり、
前記駆動力制御手段(170)は、前記トルク低減量に基づいてエンジン(EG)に発生させるエンジントルクを制御するエンジン制御手段であることを特徴とする請求項1に記載の車両駆動力制御装置。
【請求項3】
前記駆動力低減量演算手段(230〜250)は、
車両が走行中の路面における路面μ値を取得する路面μ値取得手段(230)と、
前記路面μ値取得手段(230)が取得した前記路面μ値の場合に発生させ得る路面最大トルク値(Tmax)を求める路面最大トルク値演算手段(240)と、
前記路面最大トルク値演算手段(240)によって求められた前記路面最大トルク値からの低減割合(TrqDown)を求める低減割合演算手段(250)とを有し、
前記低減割合演算手段(250)で求められた前記低減割合(TrqDown)を前記路面最大トルク値演算手段(240)で求められた前記路面最大トルク値(Tmax)に掛けたものを前記低減量とするものであり、
前記エンジン制御手段(170)は、前記低減量を前記路面最大トルク値(Tmax)から引いた値を要求するエンジントルク(EngTrq)として、前記エンジン(EG)に発生させることを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項4】
前記駆動形態判定手段(310)は、前記フロント車輪(FL、FR)の平均車輪速度(AveFr)と前記リア車輪(RL、RR)の平均車輪速度(AveRr)との偏差から、前記駆動形態を判定することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項5】
前記車両の縦方向の加速度を検出する縦方向加速度検出手段(100)を有し、
前記駆動形態判定手段(310)は、前記縦方向加速度検出手段(100)が検出した加速度が正のときに、前記駆動形態の判定を行うようになっていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項6】
前記車両の車速を検出する車速検出手段(100)を有し、
前記駆動形態判定手段(310)は、前記車速検出手段(100)が検出した車速が0になった後、車速が増加したときに、前記駆動形態の判定を行うようになっていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項7】
前記駆動力低減量演算手段(230〜250)は、前記駆動形態判定手段(310)での判定結果が得られていないときには、駆動形態が2輪駆動であるものとするデフォルト2輪駆動を採用し、2輪駆動用の駆動輪軸重量に基づいて、駆動力の低減量を求めることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項8】
前記駆動力低減量演算手段(230〜250)は、前記駆動形態判定手段(310)での判定結果が得られていないときには、駆動形態が4輪駆動であるものとするデフォルト4輪駆動を採用し、4輪駆動用の駆動輪軸重量に基づいて、駆動力の低減量を求めることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の車両用駆動力制御装置。
【請求項9】
前記車両の縦方向の加速度を検出する縦方向加速度検出手段(100)を有し、
前記駆動力低減量演算手段(230〜250)は、前記駆動形態判定手段(310)で駆動形態が2輪駆動であるという判定結果が得られた場合に、前記車両の縦方向の加速度に応じて、前記駆動輪軸重量を補正し、この補正後の駆動輪軸重量に基づいて前記低減量を求めることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の車両用駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−144569(P2006−144569A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332030(P2004−332030)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】