説明

農用作業車

【課題】GPSにより車体位置を計測しつつ、自律的に直進走行する農用作業車において、ティーチング経路を折れ線状や曲線状に生成することを可能とする技術を提供する。
【解決手段】GPSユニット102と、処理部110を備え、目標経路上を自律的に走行する田植機1であって、GPSユニット102により計測される位置情報に基づいて、ティーチング開始時から終了時まで、田植機1の車体位置を所定の間隔ごとに測定して、複数の車体位置(測定点Aから点G)を記録し、該記録に基づいて、走行した前後二つの測定点を直線で結ぶ線分の集合として、処理部110によりティーチング経路を生成し、該ティーチング経路に対して平行な目標経路を生成し、該平行な目標経路の線間距離は作業幅(即ち、植付幅aに植付条数bを乗じた距離(6a))とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律直進走行が可能である農用作業車の技術に関し、より詳しくは、GPS装置を用いた自律走行の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農用作業車において、地磁気方位センサを用いて、スタート時に車体の向きを所定の方位にセットした上でティーチング処理を行い、車体の向き(方位)を記憶することにより、以後は地磁気方位センサで検出した車体の向きをフィードバックしながら操舵機構を制御し、ティーチング時に記憶した所定の方位に直進走行することを可能とした技術が公知となっており、例えば、特許文献1にその技術が開示されている。
この技術を用いれば、例えば、作物を略直線状に揃えて植え付けることが容易に可能となり、オペレータの負担を軽減しつつ、作業性を向上させることができる。
しかしながら、従来技術においては、ティーチング経路が方位情報のみで生成されるため、直線状のティーチング経路しか生成することができなかった。そのため、圃場が長方形でなく変形している場合等には、自律走行による植付作業を行うことができない範囲が発生していた。
つまり、従来はティーチング経路を折れ線状や曲線状に生成することが困難な状況であった。
【0003】
さらに従来より、GPSやセンサ類を備え、GPSにより車体位置を計測しつつ、障害物センサや倣いセンサ等の各種センサからの情報に基づいて自律的に走行・作業を行う農用作業車も知られている。例えば、特許文献2にその技術が開示されている。
【特許文献1】特開平2−287708号公報
【特許文献2】特開2004−16160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明では、このような現状を鑑み、GPSにより車体位置を計測しつつ、自律的に直進走行する農用作業車において、ティーチング経路を折れ線状や曲線状に生成することを可能とする技術を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
即ち、請求項1においては、GPS装置と、ティーチング経路生成手段を備え、目標経路上を自律的に走行する農用作業車であって、前記GPS装置により計測される位置情報に基づいて、ティーチング開始時から終了時まで、前記農用作業車の車体位置を所定の間隔ごとに測定して、複数の車体位置(測定点)を記録し、該記録に基づいて、走行した前後二つの測定点を直線で結ぶ線分の集合として、前記ティーチング経路生成手段によりティーチング経路を生成し、該ティーチング経路に対して平行な目標経路を生成し、該平行な目標経路の線間距離は、車体に装着した作業機において設定する作業幅とすること、を特徴としたものである。
【0007】
請求項2においては、前記農用作業車の車体位置を計測する間隔は、ハンドルの切れ角度に応じて可変とすること、を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0009】
請求項1においては、ティーチング経路を直線だけでなく、折れ線や曲線として設定することができ、変形圃場や曲がった畦等の一辺に合わせて平行に自律走行させて植え付けることが可能となり、無駄な植付スペースをなくしてきれいに植え付けることが可能となる。
【0010】
請求項2においては、ステアリングハンドルの切れ角が小さいときは長く、切れ角が大きい時は短い間隔で計測するようになり、畦の形状に容易に倣わせることが可能となり、より滑らかな目標経路を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係る田植機の全体的な構成を示した側面図、図2は同じく田植機の全体的な構成を示した平面図、図3は同じく田植機のメーターパネル部の構成を示した斜視図である。図4は同じく自律走行表示ランプ点灯時の流れを示すフロー図、図5は本発明の一実施例に係るGPS装置の全体的な構成を示した模式図、図6は本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の状況を示す第一の模式図、図7は本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の状況を示す第二の模式図、図8は本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の状況を示す第三の模式図、図9は本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の状況を示す第四の模式図、図10は本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の状況を示す第五の模式図、図11は本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の流れを示すフロー図、図12は本発明の一実施例に係る目標経路生成方法を示す模式図である。
尚、以下に示す本発明の実施例の説明においては、農用作業車の一例として、田植機を例にとって説明を行うが、本発明を適用する農用作業車を田植機に限定するものではなく、例えば、トラクタや散布作業機等であってもよく、圃場表面を走査しつつ作業を行う農用作業車に広く適用することが可能である。
【0012】
まず始めに、本発明を実施するための最良の形態に係る田植機の全体構成について、図1及び図2を用いて説明する。
ここで説明する田植機1は、例えば6条植えの乗用田植機とし、機体の後部に昇降リンク機構27を介して植付部4を装着している。
また、車体フレーム3の前部上方にエンジン2を搭載し、前下部にフロントアクスルケース6aを介して前輪6を支持するとともに、後部にリアアクスルケース8aを介して後輪8を支持している。
上記エンジン2はボンネット9に覆われ、該ボンネット9の上方には門型状の取付フレーム24を配設している。そして、前記取付フレーム24の左右両側に予備苗載台10・10を配設し、また上部中央に後述するGPSアンテナ101および操作筐体128を固設している。
また、ボンネット9後部のダッシュボード5上にメーターパネル7やハンドル14を配置しており、該ボンネット9の両側とその後部の車体フレーム3上は車体カバー12で覆われている。
ハンドル14の後方位置には座席13を配置し、ボンネット9の両側と座席13の前部、座席13の左右両側、及び座席13の後方をステップとしている。
【0013】
田植機1の後部に設けられる植付部4には、ここでは6条分の苗載台16が設けられ、植付爪支持部となる植付伝動ケースの後部に設けるロータリーケース22・22・・・や該ロータリーケース22に取り付けられる植付爪や、センターフロート34や、サイドフロート35等が設けられている。
前記苗載台16は前高後低に配設して、苗載台16の下部は下ガイドレール18、前面の上部は上ガイドレール19によって左右往復摺動自在に支持されている。
この下ガイドレール18及び上ガイドレール19は、植付センターケース20や植付フレーム23等を介して支持されている。
また、植付センターケース20より左右両側方へ連結パイプ(図示せず)を突設して、伝動ケース(図示せず)を固設し、該伝動ケースを平行に後方へ突出させて、該伝動ケースの後部両側に一方向に回転させるロータリーケース22・22・・・を配置し、該ロータリーケース22・22・・・に植付爪を設けている。
尚、ロータリーケース22・22・・・は、1条分の苗載台16に対して1組配設されるので、上記6条用の田植機の場合には6つ設けられている。
更に、前記植付センターケース20の前部にはローリング支点軸を介して前記昇降リンク機構27と連結され、該昇降リンク機構27はトップリンク25やロワーリンク26等より構成され、座席13下方に配置したアクチュエータと油圧シリンダとからなる昇降シリンダ(不図示)によって植付部4を昇降できるようにしている。
センターフロート34及びサイドフロート35は、上述した昇降リンク機構27の後部に連結される植付センターケース20や植付伝動ケースの下方にリンク機構を介して支持されている。
このセンターフロート34又はサイドフロート35には、角度センサが設けられ、後述する昇降用等のコントロールユニットに接続されている。
これにより、該コントロールユニットは、該角度センサより得られるフロートの角度に応じて、昇降シリンダを作動させて昇降リンク機構27を上下動させることによって、植付部4の昇降制御を行って適切に植付作業を行えるようにしている。
左右両側方の苗載台16の下方に設けられるパイプにはマーカ36・36設けられており、該パイプを回動させることでマーカ36・36を左右両側へ突出させることが可能となり圃場にマーキングが可能となる。
以上が、本発明を実施するための最良の形態に係る田植機の全体構成についての説明である。
【0014】
次に、本発明の一実施例に係る農用作業車のメーターパネルについて、図1乃至図4を用いて説明をする。
図1または図2に示す如く、田植機1のメーターパネル7は、座席13に着座したオペレータ前方のダッシュボード5上に、オペレータから容易に視認できる車体中央付近の位置に配設されている。
【0015】
図3に示す如く、メーターパネル7上には、自動運転表示ランプ41、ティーチング表示ランプ42、GPS通信表示ランプ43、異常表示ランプ44、自律走行位置表示ランプ45、自動運転切替SW46、ティーチングSW47および自律運転SW48等を設けている。また、植付作業で消費される苗や肥料の残量が少なくなったことをオペレータに知らせるために、苗つぎ警告ランプ49、肥料補給警告ランプ50等が設けられている。但し、これらのスイッチやランプ等の配置位置は、図3に示す配置位置に限定されるものではなく、オペレータの操作性を考慮した位置に適宜配置することができる。
【0016】
自動運転表示ランプ41は、自動運転中に点灯するように構成しており、オペレータが自動運転表示ランプ41の点灯状態を確認することにより、現在自動運転中であるか否かを一目見て把握できる構成としている。
ティーチング表示ランプ42は、ティーチングが実行されていない時には消灯しており、また、ティーチングSW47を一度押下してティーチング中である時には、ランプを点滅するようにし、さらに、ティーチングSW47をもう一度押下してティーチングが完了した時には、ランプが点灯するように構成している。このように、オペレータがティーチング表示ランプ42の点灯状態を確認することにより、ティーチング状態を一目見て把握できる構成としている。
GPS表示ランプ43は、GPSユニット102がGPS衛星と通信可能な状態であるときには点灯するように構成しており、オペレータがGPS表示ランプ43の点灯状態を確認することにより、GPSユニット102による測位が使用可能か否かが一目見て把握できる構成としている。
異常表示ランプ44は、田植機1の本体各部やシステムに異常が発生した場合に点灯するようにしており、オペレータが異常表示ランプ44の点灯状態を確認することにより、田植機1各部が正常に作動しているか否かについて、田植機1の運転状態を一目見て把握できる構成としている。
【0017】
自律走行位置表示ランプ45は、左方ズレ表示ランプ45aと、正常走行表示ランプ45bと、右方ズレ表示ランプ45cにより構成している。
図4に示す如く、本発明において、自律運転SW48が「入」の状態であり、田植機1が自律走行する時(S01)には、田植機1は処理部110により生成した目標経路に沿って自律的に走行するようにしている。このとき、自律走行中の実際の走行経路をGPSユニット102により測定し(S02)、目標経路と実際の走行経路の差異(ズレ量)を処理部110で演算し(S03)、予め設定した閾値と比較して判定をするようにしている(S04)。
【0018】
前記ズレ量が閾値を越えない範囲である場合には、前記正常走行表示ランプ45bを点灯するようにしており(S04)、オペレータは田植機1が目標経路に沿って正常に自律走行していることを一目見て確認することができるように構成している。
また、前記ズレ量が閾値を越えている場合には、ズレを補正するように自律走行手段124に対して信号を出力し(S06)、そして、基準線に対するズレの方向を判断し(S07)、左方にズレが生じている場合には前記左方ズレ表示ランプ45aを点灯し(S08)、または、右方にズレが生じている場合には前記右方ズレ表示ランプ45cを点灯するようにしている(S09)。
このように、オペレータは田植機1が目標経路から外れて自律走行していることを一目見て確認することができるように構成しており、自律運転SW48の「入」状態が継続している(S01)間は、前記のステップを繰り返し、現在位置と目標経路との差異を確認する手順を繰り返しながら目標経路に沿って自律走行するようにしている(S05)。
【0019】
自動運転切替SW46は、自律運転を行うか否かを切替えるためのスイッチであり、スイッチの回動位置によって、自動走行モードか手動走行モードを選択できるようにしている。そして、自動運転モードに切替えている状態であれば、後述する自律運転SW48を「入」とすることにより自律運転をすることができ、手動運転モードに切替えている状態においては、自律運転SW48を「切」とするようにしている。
尚、本実施例においては、図3に示す如く、自動運転切替SW46として回転式のスイッチを採用した例を示しているが、自動運転切替SW46のスイッチの種類を限定するものではない。
【0020】
ティーチングSW47は、ティーチング作業を行うためのスイッチであり、本実施例においては、図3に示す如く、押し込み式のボタン型スイッチにより構成している。
そして、オペレータがティーチングを開始したいときにティーチングSW47を一度押下することによりティーチングが開始され、ティーチングを終了したいときにティーチングSW47をもう一度押下することによりティーチング作業が終了するように構成している。
尚、本実施例ではティーチングSW47をボタン型の押し込み式スイッチで構成した例を示しているが、本発明に適用するスイッチの種類をこれに限定するものではない。
【0021】
自律運転SW48は、自律走行の入切を切替えるためのスイッチであり、例えば、ボタン型の押し込み式スイッチ等により構成することができる。そして、自律運転SW48を押下して「入」とするときに自律走行を開始し、また、自律運転SW48をもう一度押下して「切」とするときに自律走行を終了するように構成している。
さらに詳述すると、自律運転SW48を押下することにより、田植機1は直線植付部を自律的に走行したり、また枕地においては、次の植付開始位置に向かって自動的に旋回走行したりすることができる。
自律運転SW48をボタン型の押し込みスイッチにより構成する場合には、自律的に旋回走行をするためには、自律走行開始後の最初の旋回時には旋回方向を指示するために、オペレータが所望する旋回方向に自律運転SW48を回動操作する必要がある。そして、それ以降は枕地に到達する度に左右交互に自動的に旋回走行し、次の植付開始位置まで自律的に走行するようにしている。
【0022】
但し、図3に示す如く、本実施例では、自律運転SW48を自動車の方向指示器の如くレバー式のスイッチで構成するようにしている。そして、自律運転SW48を下側の「入」状態と、上側の「切」状態を取り得るように構成して、また、左右に対応する略前後の回動操作で旋回方向(左右)を指示することができるようにしている。
尚、本実施例では自律運転SW48をボタン型の押し込み式スイッチやレバー型スイッチで構成した例を示しているが、本発明に適用する自律運転SW48のスイッチの種類をこれらに限定するものではない。
【0023】
苗つぎ警告ランプ49は、植付部4の各条に配設された苗つぎ警告SW(図示せず)の入切に応じて点灯および消灯するように構成されている。苗つぎ警告SWは、例えば、機械式のリミットスイッチ等により構成し、苗つぎ警告SWが苗または苗マットにより押圧されている場合にはスイッチが「切」となり、この場合には苗つぎ警告ランプ49を消灯するようにし、また、苗が植え付けられて苗または苗マットが苗つぎ警告SWを押圧しなくなった場合にはスイッチが「入」となり、この場合には苗つぎ警告ランプ49を点灯するように構成している。
尚、苗つぎ警告SWは、例えば光学式等の非接触型センサを採用して、苗または苗マットの有無を検知する構成としてもよく、本発明に適用する苗つぎ警告SWの種類を限定するものではない。
【0024】
そして、この苗つぎ警告SWは、前記自律運転SW48をインターロックするように構成しており、つまり、苗つぎ警告SWが「切」の場合のみ、自律運転SW48が有効となるようにしている。
【0025】
肥料補給警告ランプ50は、植付部4の各条に配設された施肥機(図示せず)に設けられた肥料補給警告SW(図示せず)の入切に応じて点灯および消灯するように構成されている。肥料補給警告SWは、例えば、機械式のリミットスイッチ等により構成し、肥料補給警告SWが肥料により押圧されている場合にはスイッチが「切」となり、この場合には肥料補給警告ランプ50を消灯するようにし、また、肥料が消費されて肥料が肥料補給警告SWを押圧しなくなった場合にはスイッチが「入」となり、この場合には肥料補給警告ランプ50を点灯するように構成している。
尚、肥料補給警告SWは、例えば光学式の非接触型センサを採用して、肥料の有無を検知する構成としてもよく、本発明に適用する肥料補給警告SWの種類を限定するものではない。
【0026】
そして、この肥料補給警告SWは、前記自律運転SW48をインターロックするように構成しており、つまり、肥料補給警告SWが「切」の場合のみ、自律運転SW48が有効となるようにしている。
以上が、本発明の一実施例に係る農用作業車のメーターパネルについての説明である。
【0027】
次に、本発明に適用する一実施例に係るGPSについて、図5を用いて説明をする。
GPS(グローバル・ポジショニング・システム)とは、元来航空機・船舶等の航法支援用として開発されたシステムであって、上空約二万キロメートルを周回する二十四個のGPS衛星(六軌道面に四個ずつ配置)、GPS衛星の追跡と管制を行う管制局、測位を行うための利用者の受信機で構成される。
GPSを用いた測量方法としては、単独測位、相対測位、DGPS(ディファレンシャルGPS)測位、RTK−GPS(リアルタイムキネマティック−GPS)測位など種々の方法が挙げられるが、本実施例では測定精度の高いRTK−GPS測位方式を採用している。
【0028】
RTK−GPS(リアルタイムキネマティック−GPS)測位は、位置が判っている基準局(基準局ユニット104)と、位置を求めようとする観測点(移動局ユニット103)とで同時にGPS観測を行い、基準局で観測したデータを無線等の方法で観測点にリアルタイムで送信し、基準局の位置成果に基づいて観測点の位置をリアルタイムに求める方法である。
詳しくは、基準局と観測点の両点で位相の測定(相対測位)を行い、基準局で観測した位相データを観測点に送信する。観測点のGPS受信機では、受信データと基準局から送信されたデータとをリアルタイムで解析することにより、観測点の位置を決定する。
なお、本発明に適用するGPSを用いた測量方法は前記の他の方法であってもよく、限定されるものではない。
【0029】
図5に示す如く、本発明のGPSの実施の一形態であるGPSユニット102は、主に、田植機1本体に搭載される移動局ユニット103と、圃場(本実施例では水田等)の近くに設置される基準局ユニット104からなる。該基準局ユニット104は地面に固定された基準局の役割を果たし、移動局ユニット103は位置を求めようとする移動局(観測点)として機能する。
【0030】
移動局ユニット103は、アンテナ108を具備したGPSアンテナ101の他、信号処理部109や、信号記憶部106や、該信号処理部109及び該信号記憶部106を収納する操作筐体128等から構成される。
本実施例では、操作筐体128上の図示しないボタン等を操作することより、GPSアンテナ101のアンテナ108で受信されたGPS衛星125・125・・・からの電波信号が、有線若しくは無線によって信号処理部109(本実施例では操作筐体128に収納されている。)を経て、信号記憶部106(本実施例では操作筐体128に収納されている。)に記憶される。
また、本実施例においては、GPSアンテナ101は、棒状の取り付けポール120の上端部に取り付けられ、該GPSアンテナ101の下方に操作筐体128を配設するようにしている。これにより、オペレータが操作筐体128を操作する際に、オペレータにより電波信号が遮られて通信が途絶えることがないような構成としている。
また、圃場計測時など、GPSアンテナ101を持って移動しながら計測を行う場合に、取り付けポール120を持つことにより、GPSアンテナ101が常に頭上に位置するような構成としている。
そして、GPSアンテナ101と取り付けポール120を田植機1に取り付けた状態で、該信号記憶部106に記憶された情報をRTK演算部に送信する。RTK演算部では、後述する基準局ユニット104から送信されてくる情報を記憶している記憶部105の情報と、信号記憶部106から送信されてくる情報とを演算し、車体位置を認識する。
【0031】
一方、図5に示す如く、基準局ユニット104は、GPSアンテナ114、信号処理部115、処理部116、操作部117、表示部118、無線部119などで構成されている。
そして、GPSアンテナ114で受信されたGPS衛星125・125・・・からの電波信号を、信号処理部115にて解析し、処理部116を介して無線データに変換する等して、無線部119から田植機1側の無線部113に該無線データを送信する。
このようにして、田植機1側の無線部113に送られてきた情報は、前述のように記憶部105に記憶され、RTK演算部が、前記信号記憶部106から送信されてくる情報と、記憶部105に記憶されている情報とをもとに車体位置を演算する。
【0032】
そして、田植機1が移動を始めたときは、田植機1側部に配設されたアンテナ108で受信されたGPS衛星125・125・・・からの電波信号が、有線若しくは無線によって信号処理部109等を経て、RTK演算部に送信され、RTK演算部では、基準局ユニット104から送信されてくる情報を記憶している記憶部105の情報と、該信号処理部109から随時送信されてくる情報とを演算し、田植機1の現在位置を認識するのである。
【0033】
操作部111は後述する自律走行の設定などを行うためのインターフェースであり、処理部110にケーブル接続されている。表示部112は処理部110にケーブル接続されており、処理部110におけるデータ処理の状況や、操作部111により入力された各種設定を表示する。
【0034】
処理部110はCPUやRAMやROM等を備える制御手段であり、その内部に自律走行プログラム121を格納し、GPSユニット102により得られた位置情報や、処理部110に接続される内界センサ122や傾斜センサ123等の各種センサからの信号に基づいて、当該圃場における自律走行経路を生成するとともに自律走行手段124に指令を出して田植機1に自律走行をさせたり、自律走行の目標経路を生成するものである。
自律走行プログラム121は、田植機1に自律走行による田植作業を行わせるためのプログラムである。自律走行プログラム121に基づく自律走行の詳細については後述する。
【0035】
また、自律走行手段124としては、例えば油圧アクチュエータを用いることができ、該油圧アクチュエータと前記ハンドル14をリンク機構等により連結する構成とし、処理部110からの信号に応じて油圧アクチュエータを伸縮させるようにして、油圧アクチュエータの伸縮に応じてハンドル14を左右に回動させて自動的に操舵するように構成することができる。これにより、目標経路と実際の走行経路の差異を処理部110にフィードバックすることにより、目標経路と実際の走行経路にズレが生じている場合であっても、ハンドル14を自動的に回動させて走行経路を補正して、田植機1を正確に目標経路に沿って自律走行させることができる。尚、前記油圧アクチュエータのかわりに油圧モータ等を使用する構成としても良い。
以上が、本発明に適用する一実施例に係るGPSについての説明である。
【0036】
次に、本発明の一実施例に係る目標経路の生成方法について、図6乃至図11を用いて説明をする。
図6、図7または図11に示す如く、目標経路を生成するためには、まずティーチング作業を実行してティーチング経路(基準線)を生成するようにしている。
尚、本実施例では、図6に示すような変形圃場を例示して説明を行っているが、圃場の形状は、これに限定するものではない。
図6に示す如く、ティーチング作業においては、田植機1に設けられたGPSアンテナ101の位置を基準として田植機1の車体位置を計測するようにしている。
まず、ティーチング開始時にティーチングSW47を一度押下し、その押下した時のGPSアンテナ101の位置を開始点(点A)として記憶部105に記憶するようにしている(S11)。
【0037】
その後、オペレータがティーチング経路への設定を所望する経路上を手動運転により圃場の形状に沿って走行し、その際所定間隔ごとに車体位置を自動的に計測し、計測した車体位置を測定点(即ち、点B〜点G)として記憶部105に記録するようにしている(S12〜S17)。
計測間隔は、例えば走行距離を基準としたり、また走行時間を基準として設定することができるが、本実施例では、この計測間隔をハンドル14の切れ角と対応付けるようにしており(S12)、ハンドル14を左右いずれかの方向に回動している場合(即ち、曲線走行時)には、直進走行時に比して計測間隔を短めに設定するようにしている(S13)。さらにこのとき、ハンドル14の切れ角の大小に略反比例させて計測間隔を可変するようにしている。つまり、走行軌跡の曲率半径が小さくなるほど計測間隔を短くして、より短い線分の集合によりティーチング経路を生成するようにしている。
即ち、田植機1の車体位置を計測する間隔は、ハンドル14の切れ角度に応じて可変としており、これにより、ハンドル14の切れ角が小さいときは長く、切れ角が大きい時は短い間隔で計測するようになり、畦の形状に容易に倣わせることが可能となり、より滑らかな目標経路を生成することができるのである。
【0038】
そして、ティーチング終了時にティーチングSW47をもう一度押下するようにし、その押下した時のGPSアンテナ101の位置を終了点(点G)として記憶部105に記憶してティーチング作業を終了するようにしている(S18)。
【0039】
次に、図7に示す如く、記憶部105に記憶した前記開始点(点A)、各測定点(点B〜点F)および前記終了点(点G)の情報に基づいて、RTK演算部および処理部110により、隣り合う各点を結ぶ折れ線状の線分の集合(即ち、線分AB、線分BC、線分CD、線分DFおよび線分FGの集合)としてティーチング経路(基準線)を生成して記憶部105に記憶するようにしている(S19)。このように、曲線部を折れ線状の線分の集合として取り扱うことにより、走行軌跡が曲線状になっている場合であっても容易に基準線を生成することができる。
【0040】
次に、図8に示す如く、前記基準線を構成する複数の各線分(即ち、線分AB、線分BC、線分CD、線分DFおよび線分FG)に対して平行で、かつ、一定の間隔だけ離間した複数の直線(図8中に破線で示す各直線)を生成し、該複数の直線の互いに隣り合う直線との交点(点a〜点g)を求めて、該交点(点a〜点g)のうち隣り合う交点を結ぶ折れ線を生成して、処理部110により目標経路を生成する構成としている。
尚、基準線と目標経路との間隔は、田植機1の植付部4において設定されている作業幅(即ち、植付幅aと植付条数bを乗じた距離)に基づいて、処理部110にて生成するようにしている(S13)。
つまり、目標経路の間隔Wを、次式により求めるようにしている。
W=a*b
本実施例では、6条植えの乗用田植機を例にとって説明をしているため、6条分全ての植付爪を使用する場合には、植付条数b=6であるため、目標経路の間隔W=6aとなる。
【0041】
次に、図9に示す如く、前述の通り生成した一つの目標経路を基準としてさらに線間距離を6aとして新たな目標経路を生成するようにし、これを繰り返すことでティーチング経路(基準線)を構成する各線分と平行であって、かつ、線間距離を6aとする目標経路をN列生成するようにしている(S20)。
尚、本実施例においては、前記Nは整数を意味しており、Nが負の整数である場合には機体進行方向に対して左方にN列の目標経路を生成し、また、Nが正の整数である場合には機体進行方向に対して右方にN列の目標経路を生成するようにしている。さらに、N=0の場合には、機体の進行経路上に(即ち、ティーチング経路と重なるようにして)目標経路を生成するようにしている。
つまり、図10に示す如く、本実施例においては、基準線に対して右方(走行軌跡の曲率半径が小さくなる方向)に目標経路を生成する場合だけでなく、基準線に対して左方(走行軌跡の曲率半径が大きくなる方向)にも目標経路を生成することができ、基準線から左右いずれの方向に対しても目標経路を生成することができる。
【0042】
即ち、GPSユニット102と、処理部110を備え、目標経路上を自律的に走行する田植機1であって、GPSユニット102により計測される位置情報に基づいて、ティーチング開始時から終了時まで、田植機1の車体位置を所定の間隔ごとに測定して、複数の車体位置(測定点Aから点G)を記録し、該記録に基づいて、走行した前後二つの測定点を直線で結ぶ線分の集合として、処理部110によりティーチング経路を生成し、該ティーチング経路に対して平行な目標経路を生成し、該平行な目標経路の線間距離は作業幅(即ち、植付幅aに植付条数bを乗じた距離(6a))としている。
これにより、ティーチング経路を直線だけでなく、折れ線や曲線として設定することができ、変形圃場や曲がった畦等の一辺に合わせて平行に自律走行させて植え付けることが可能となるのである。そして、無駄な植付スペースをなくして、きれいに植え付けることが可能となるのである。
【0043】
また、図12に示す如く、目標経路の生成を繰り返していくうちに、交点Cnと交点Dnの位置関係が逆転してくる(即ち、当初交点Cnが交点Bn側に生成されて、かつ、交点Dnが交点En側に生成されていたものが、交点Cnが交点En側に生成されて、かつ、交点Dnが交点Bn側に生成されるようになる)と、同じ法則性のもとではうまく目標経路を生成することができない。そこで、交点Cnと交点Dnの位置関係が逆転した以後には(本実施例では、図12に示す交点C(n−3)および交点D(n−3)以後)は、交点CnおよびDnを考慮せず、線分BnCnと線分DnEnの交点(本実施例では、図12中の点p1乃至点p4)を新たに生成し、この交点で折れ線となる目標経路を生成するようにしている。
以上が、本発明の一実施例に係る目標経路の生成方法についての説明である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施例に係る田植機の全体的な構成を示した側面図。
【図2】同じく田植機の全体的な構成を示した平面図。
【図3】同じく田植機のメーターパネル部の構成を示した斜視図。
【図4】同じく自律走行表示ランプ点灯時の流れを示すフロー図。
【図5】本発明の一実施例に係るGPS装置の全体的な構成を示した模式図。
【図6】本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の状況を示す第一の模式図。
【図7】本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の状況を示す第二の模式図。
【図8】本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の状況を示す第三の模式図。
【図9】本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の状況を示す第四の模式図。
【図10】本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の状況を示す第五の模式図。
【図11】本発明の一実施例に係る目標経路生成作業の流れを示すフロー図。
【図12】本発明の一実施例に係る目標経路生成方法を示す模式図。
【符号の説明】
【0045】
1 田植機
4 植付部
48 自律運転SW
102 GPSユニット
110 処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS装置と、
ティーチング経路生成手段を備え、
目標経路上を自律的に走行する農用作業車であって、
前記GPS装置により計測される位置情報に基づいて、
ティーチング開始時から終了時まで、
前記農用作業車の車体位置を所定の間隔ごとに測定して、
複数の車体位置(測定点)を記録し、
該記録に基づいて、
走行した前後二つの測定点を直線で結ぶ線分の集合として、
前記ティーチング経路生成手段によりティーチング経路を生成し、
該ティーチング経路に対して平行な目標経路を生成し、
該平行な目標経路の線間距離は、
車体に装着した作業機において設定する作業幅とすること、
を特徴とする農用作業車。
【請求項2】
前記農用作業車の車体位置を計測する間隔は、
ハンドルの切れ角度に応じて可変とすること、
を特徴とする請求項1記載の農用作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−72963(P2008−72963A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256115(P2006−256115)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】