農用走行車輌
【課題】ブレーキペダルの踏込みにより主変速レバーを自動的に中立位置に移動する機構を備えた農用走行車輌において、ブレーキ状態での作業機の運転点検を可能とする。
【解決手段】副変速レバーが中立位置以外の位置(植付)にあっては、ロック部材76がワイヤー82を介して回動し、切欠き部76a,75bの間にロックピン77を挟んで、主変速レバー22と主変速操作部材75とを一体に回動する。この状態では、ブレーキペダルを踏むことにより、融通機構75c,79を介して主変速レバー22を中立位置に移動する。副変速レバーを中立位置にすると、ロックピン77を介する連係を解除して、主変速レバー及びブレーキペダルが独立して操作可能となる。
【解決手段】副変速レバーが中立位置以外の位置(植付)にあっては、ロック部材76がワイヤー82を介して回動し、切欠き部76a,75bの間にロックピン77を挟んで、主変速レバー22と主変速操作部材75とを一体に回動する。この状態では、ブレーキペダルを踏むことにより、融通機構75c,79を介して主変速レバー22を中立位置に移動する。副変速レバーを中立位置にすると、ロックピン77を介する連係を解除して、主変速レバー及びブレーキペダルが独立して操作可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は田植機、農用トラクター、コンバイン等の農用走行車輌に関し、詳しくは、その動力伝達系につき、ブレーキペダルの踏込みにより前進または後進状態の主変速レバーを自動的に中立位置に移動する機構を有する農用走行車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
農用走行車輌において、走行(前進、後進)中にブレーキペダルを踏むと主変速レバーとブレーキペダルとの連係機構により主変速レバーが中立位置まで戻され、かつ主変速レバーに連動する主変速用無段変速装置(例えば静油圧式無段変速装置(HST))が中立状態となり、ブレーキが掛かる構造になっているもの(特許第4021790号公報、特開2008−37317号公報)が提案されている。この従来構成によると、副変速(走行、植付け)を中立状態にして静止状態で作業機の運転点検をなす場合、主変速の作動中にブレーキを掛けると上記の連係機構が作動して主変速が中立状態となるので、ブレーキを掛けない状態での作業機の運転点検が余儀なくされ、機体が完全に静止せずに動いてしまう虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4021790号公報
【特許文献2】特開2008−37317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記実情に鑑み、農用走行車輌において、ブレーキペダルの踏込みにより前進または後進状態の主変速レバーを自動的に中立位置に移動する機構を備えた動力伝達系につき、副変速の中立状態での静止状態を保ったまま、ブレーキの作動に係わらず主変速レバーを作動でき、したがって静止状態での作業機の運転点検を安全にできる機構を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、伝動上流側から主変速装置(35)、作業動力伝達系(S)へ分岐する分岐部(36)、副変速装置(39)そして機体停止ブレーキ(41)を順次配置した走行動力伝達系(M)を備え、前記主変速装置(35)を主変速レバー(22)により前進側、中立位置及び後進側を含んで操作するとともに、前記副変速装置(39)を副変速レバー(23)により中立位置を含んで操作し、かつブレーキペダル(25)により前記機体停止ブレーキ(41)を操作してなる農用走行車輌において、
前記ブレーキペダル(25)のブレーキ作動に連動して、前記主変速レバー(22)を中立位置に移動するように、前記ブレーキペダル(25)と前記主変速レバー(22)とを連係する連係機構(25、49、50、67、70、71、72、73、75)と、
前記連係機構に介在し、前記副変速レバー(23)の中立位置にあっては、前記ブレーキペダル(25)と主変速レバー(22)との連係を解除する連係解除機構(23、82、76、77)と、
を備えたことを特徴とする。
【0006】
なお、括弧内の符合は図面を参照するためのものであって、特許請求の範囲に記載の構成を何ら限定するものではない。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る本発明によると、副変速レバーを中立にして連係解除機構を入に操作し、主変速レバーを作動させると、分岐部を介して主変速装置からの動力が作業動力伝達系に伝達し、作業動力のみが取り出され、かつブレーキを操作をしてもこの状態は維持されるので、本農用走行車輌の機体をブレーキを掛けて静止状態を確保して作業動力伝達系並びに作業機の点検作業が安全に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る農用走行車輌の全体側面図。
【図2】本発明に係る農用走行車輌の全体平面図。
【図3】本農用走行車輌の動力伝動図。
【図4】本農用走行車輌のミッションケース回りの変速機構並びにブレーキ機構の配置を示す全体平面図。
【図5】図4の左側面図。
【図6】図4の右側面図。
【図7】本農用走行車輌の変速機構並びにブレーキ構造図。
【図8】本農用走行車輌のブレーキ操作連動図。
【図9】主変速構造の要部(主変速操作部)の分解斜視図。
【図10】主変速レバーの動作(ロック状態)図。
【図11】主変速レバーの動作(ロック状態の解除)図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。図1、図2は本発明の適用される農用走行車輌の全体を示し、図3〜図9はその部分構成を示し、図10、図11はその動作を示す。以下の説明において、前部又は前方、後部又は後方を当該農用走行車輌の進行方向に合わせて定義する。
【0010】
図1、図2に示すように、本農用走行車輌1は、操向自在の左右一対の前輪2と操向不能の左右一対の後輪3とを備えた走行機体5の後部に、6条植え仕様に構成された苗の植付け作業機6が油圧シリンダによって作動する平行四連式のリンク機構7を介して昇降自在に連結される。
【0011】
前記走行機体5の機体フレーム9の前部には、前輪2を軸支したミッションケース10(図3〜図6)が連結固定されるとともに、機体フレーム9の後部には、後輪3を軸支した後部伝動ケース11がローリング自在に支持されている。また、ミッションケース10から前方に延出された前部フレーム12(図5)を含む前部機体13にボンネット15で覆われたエンジン16(図3)が搭載されている。そして、エンジン16の後方に位置する搭乗運転部には、前輪2を操向操作するためのステアリングハンドル19、運転座席20、ステップ21が配されるとともに、該ステアリングハンドル19回りには主変速レバー22、副変速レバー23、機体停止ペダル(ブレーキペダル)25が配される。更に、機体前部の左右には、予備の苗を複数段に載置収容する予備苗のせ台26が備えられている。
【0012】
なお、前記植付け作業機6は、6条分の苗を載置して左右方向に設定ストロークで往復移動される苗載せ台29、苗載せ台29下端から1株分づつ苗を切り出して圃場に植付けてゆく6組の回転式の植付け装置30、植付け伝動軸31、整地装置32、駆動軸33、等を備えてなる。
【0013】
図3はこの農用走行車輌の動力伝動構造を示す。前記ミッションケース10の側面には、エンジン16に連動しベルト駆動される主変速(前進、中立、後進を含む。)用の主変速装置の一例としての静油圧式無段変速装置(以下「HST」)35が連結され、その出力がミッションケース10に入力(上流)されて走行動力伝達系Mと作業動力伝達系Sとに分岐される。そして、動力の伝達は上流から下流に向けてなされる。
【0014】
作業動力伝達系Sの動力は、作業動力分岐部としてのワンウエイクラッチ機能付き4段ギヤ変速の株間変速機構36を経て作業用動力取出し軸(PTO軸)37から取り出され、前記した伝動軸31を介して植付け機6に伝動される。
【0015】
走行動力伝達系Mの動力は、スライドギヤ式の副変速機構39によって高低2段に変速された後、前輪系と後輪系とに再度分岐され、前輪系の動力は前輪動力軸40を介して左右の前輪2に伝達され、また後輪系の動力はその動力軸上に機体停止ブレーキ41が介装されるとともに伝動軸42を介して前記した後部伝動ケース11に伝達される。
【0016】
一方、後部伝動ケース11に伝達された後輪系の動力は、後輪動力軸43上に配された多板式のサイドクラッチ44を介して左右の後輪3に伝達されるとともに、その動力は更に分岐されて前記した整地装置32の駆動軸33に連動する。
【0017】
更に図3において、Pはエンジン16の動力を得て駆動される油圧ポンプであって、その圧油は前記した苗植付け機6のリンク機構7を作動する油圧シリンダなどに送られる。
【0018】
図4〜図6は本農用走行車輌の変速機構並びにブレーキ機構の全体の関連を示す。図4に示されるように、ハンドルシャフト19aを挟んで左方に主変速レバー22が配され、右方に副変速レバー23、ブレーキペダル25が配されてなるが、これらの主変速レバー22、副変速レバー23、ブレーキペダル25は、前記したHST35、ミッションケース10への入力作用をなすとともに、これらの相互間においても連係的に作動する。
【0019】
主変速レバー22は「前進速」「中立」「後進速」の連続的な移動設定がなされ、伝達ロッド46を介してHST35に連動する。
【0020】
副変速レバー23は「走行」「植付け」「中立」の移動設定がなされ、その設定に対応して伝達ロッド47を介してミッションケース10内の副変速機構39に連動する。
【0021】
ブレーキペダル25はその関連部材(ロッド49、ブレーキシャフト50、ブレーキ操作ロッド51)を介してミッションケース10内の機体停止ブレーキ41に連動する。詳しくは、ブレーキペダル25は踏板25aと支点a回りに回転するアーム部25bとからなり、ロッド49が一端を該アーム部25bに連結点bを介し、他端をブレーキシャフト50の端部に固設された支点c回りに回転するアーム材52を介して取り付けられる。アーム材52の後方にはロッド49を後方に引き戻すばね材53が配され、ブレーキペダル25を常時元位置に復帰させる。ブレーキ操作ロッド51は本体部51aと該本体部51aの下端に枢着される揺動杆51bとからなり、ブレーキシャフト50に固設されるアーム材55を介して取り付けられ、該ブレーキシャフト50の回転動はアーム材55、本体部51aを介し、揺動杆51bの変位をミッションケース10内に伝える。
【0022】
更に図4〜図6に示されるとおり、前部機体13の前部フレーム12にはエンジン16を取り付けるエンジンマウント56が載置固定される。エンジンマウント56上に載置されるエンジンプーリ57とHST35とには駆動用ベルト59が掛け渡される。
【0023】
そして、ミッションケース10は、縦方向の合わせ面10Aをもって一体的に組み立てられ、側部にフロントアクスル10Bを有し、その前部が前部取付け部材60を介して前部フレーム12に取り付けられるとともに、後部が後部取付け部材61を介して機体フレーム9に取り付けられる。
【0024】
この取付け構造において、前部取付け部材60は平板体が断面コの字形状に折り込まれてなり、そのフランジ部に開設されたボルト孔と前部フレーム12及びミッションケース10に開設されたボルト孔とを対応させ、それらのボルト孔に装着された取付けボルト62を締め込んでミッションケース10の前部を取り付けている。後部取付け部材61も同じく平板体が断面コの字形状に折り込まれてなり、そのフランジ部に開設されたボルト孔と機体フレーム9及びミッションケース10に開設されたボルト孔とを対応させ、それらのボルト孔に装着された取付けボルト63を締め込んでミッションケース10の後部を取り付けている。
【0025】
本取付け構造において、前部取付け部材60及び後部取付け部材61はともに、そのフランジ部をもってミッションケース10をその側面から挟み込む。また、ミッションケース10のボルト孔は横方向に貫通され、該ボルト孔に挿通される取付けボルト62,63は一本もの(貫通ボルト)とされ、一体化がなされる。
【0026】
本取付け構造によれば、ミッションケース10の前後部をコの字形平板の取付け部材60,61で挟み込んで止めるので、ミッションケース10の合わせ面10Aが開きが阻止される。
【0027】
図7、図8により、主変速レバー22とブレーキペダル25との連係機構について更に詳細に説明する。ブレーキペダル25の各関連部材(ロッド49、アーム材52、ばね材53、ブレーキシャフト50、アーム材55、ブレーキ操作ロッド51)は既に述べたとおりであり、ブレーキペダル25の踏込みによる制動動作は各関連部材を介してミッションケース10内の機体停止ブレーキ41に伝えられる。
【0028】
一方、ブレーキシャフト50の他端部には、主変速レバー25側との連係をなす別な関連部材が配される。すなわち、ブレーキシャフト50の他端部には揺動するアーム材66が固設され、主変速レバー22側に届くロッド67の一端を連結点eを介してこのアーム材66に連結し、他端を主変速レバー22側に横水平状に配された回転軸69に固設されるとともに連結点f回りに揺動する第1アーム材70の揺動部に連結される。また、同じ回転軸69の別位置に固設されるとともに連結点g回りに揺動する第2アーム材71が取り付けられる。更に該第2アーム材71は連結点gを共有し、前後に並べて配される2つの揺動部71a,71bを有する。そして、第2アーム材71の揺動部71a,71bにはそれぞれ第1連係ロッド72、第2連係ロッド73の下端部が連結され、第1及び第2連係ロッド72,73の上端部は後記する主変速操作部45の一部を構成する主変速操作部材75に融通機構を介して連結している。
【0029】
融通機構は、上記主変速操作部材75に、その回動中心である回転軸22Aを中心として形成された2個の円弧状の長孔75c,75cと、これら長孔に嵌挿しかつ前記第1及び第2連係ロッド72,73の上端部に取付けられたピン79,79とからなり、ブレーキペダル25を踏圧していないブレーキ開放状態にあっては、変速レバー22のすべての変速域での操作を可能とし、ブレーキペダル25を踏圧してブレーキ作動状態にあっては、主変速レバー22がどの位置にあっても中立位置に連係する。
【0030】
これらの一連のブレーキペダル25、該ペダル25に枢着されるロッド49から第1・第2連係ロッド72,73及び上記融通機構に至る連係機構は、ブレーキペダル25と主変速レバー22との連係を図る「連係機構」の主たる部分を構成する。これにより(詳しくは後述)、ブレーキペダル25の踏込みにより前記ロッド67の引込み動により主変速操作部45を作動させ、主変速レバー22を強制的に変位動させる。
【0031】
本実施形態の主変速レバー22の主変速操作部45の構成を説明する。図9に示されるように、本主変速操作部45は、回転軸22Aが一体に固設されてなる主変速レバー22、主変速操作部材(デテント板とも称される)75及びロック部材76がそれぞれ回転軸22A回りに回転自在に相平行して配されるとともに、これらに直交かつ跨がってロックピン77が配される構成を採る。
【0032】
ここで、主変速レバー22は、その基部22Bがばね部材を保持する平板、及び前記回転軸22Aの固着される型材の組立て体よりなり、伝達ロッド46を介してHST35に連結しているが、その機能を果すものであればその構成に限定されない。主変速操作部材75は回転中心孔75aを有する板状体をなし、上辺部に切欠き部75bが所定形状をもって凹設され、回転中心孔75aを挟んで2つの円弧状をなす上記長孔75cが開設され、下辺部にノッチ75dが形成されてなる。各長孔75cには各1つの取付けピン79が移動可能に装着され、該取付けピン73に前記した第1・第2連係ロッド72,73の上端が連結される。該主変速操作部材75は上記回転中心孔75に回転軸22Aが嵌挿され回転自在に支持されている。更に、主変速レバー22の基部22Bと主変速操作部材75との間にばね部材80が介装され、主変速レバー22を主変速操作部材75に向く方向(横方向)に付勢している。
【0033】
ロック部材76は方形の上辺から後辺にかけて切欠き段部76aが形成された板状体をなし、側面部に突設されたボス部76bに回転軸22Aが貫通状に挿通され、該回転軸22A回りに回動可能となっている。該ロック部材76と主変速操作部材75との間にばね部材81が配され、両部材が後述するロック状態となるように付勢している。更に、ロック部材76の側部にはボス部76b(回転中心)より離れた位置で、かつ前記ばね部材81との反対側でボーデンワイヤー82のインナーワイヤー82aの一端が止着される。該インナーワイヤー82の他端は副変速レバー23に導かれ(後述)、本実施形態で採る「連係解除機構」の一部をなす。
【0034】
ロックピン77は、主変速レバー22の基部22Bの側面に直交状に固設され、主変速操作部材75の切欠き部75b及びロック部材76の段部76aに当接状態を保って配される。
【0035】
また、主変速操作部材75のノッチ75dに対し、その下方よりノッチ付勢部材83が所定の付勢力をもって当接され、主変速操作部材75に一定の負荷を与えている。すなわち、該ノッチ付勢部材83は回転軸部83a、ばね板部83b、ローラ83cよりなり、ばね板部83bがノッチ75dに当接するローラ83cに対し所定の押付け力を与える。そして、本実施形態では、高速側にいくに従いノッチ75dの山の高さが高くされている。これにより、従来採られていた当該主変速操作部材(デテント)75に加える荷重を軽減でき、低速付近のレバー操作荷重が軽くなり、急な発進を回避でき、運転操作の安全を期することができる。
【0036】
図10、図11において、主変速操作部45のロック部材76とボーデンワイヤー82と副変速レバー23との連係機構を説明する。この連係機構は、本実施形態で採る「連係解除機構」の構成の一部をなすものであって、インナーワイヤー82aを介してロック部材76の移動操作をなし、ロック部材76のロック状態及び該ロック部材76のロック解除状態を実現する。詳しくは、主変速操作部45側では、ボーデンワイヤー82のインナーワイヤー82aの一端部のロック部材76への止着は前記したとおりであり(図9)、該ボーデンワイヤー82のアウターワイヤー82bはロック部材76に近接する主変速操作部材75に固定された取付け部材89に止着される。これにより、主変速操作部材75及びロック部材76が一体に回動する状態にあっては、ボーデンワイヤー82の長さ変化はなく、該ボーデンワイヤー82の他端部に連結されている副変速レバー23に何等影響を及ぼすことはない。副変速レバー23側では、ボーデンワイヤー82の他端部は、そのインナーワイヤー82aが該副変速レバー23の基部寄りにばね体90を介して止着される。このボーデンワイヤー82の他端部でもそのアウターワイヤー82bが機体側に固定された取付け部91に止着されるものであり、該インナーワイヤー82の動作の安定をなす。なお、インナーワイヤー82の他端部の止着点と副変速レバー23の支点hとの距離によりインナーワイヤー82の押し引きのストロークが決定されるものである。
【0037】
本実施形態で採る「連係解除機構」は、既に述べた主変速操作部材75、ロック部材76、ロックピン77を含め、当該ロック部材76からボーデンワイヤー82を介して副変速レバー23に至る一連の連係機構により構成される。なお、以上述べたことより明らかなとおり、本「連係解除機構」はロック機能、該ロック状態の解除機能、更にロック状態の復帰機能の多機能を持つ。
【0038】
このように構成された本実施形態のブレーキペダルと主変速レバーとの「連係機構」及びその「連係解除機構」を備えた農用走行車輌1の作用を図10、図11更に図8を参照して説明する。
【0039】
図10は、主変速レバー22が中立「N」に入れられ、副変速レバー23が植付け「植」(低速段)に操作され、ブレーキペダル25が踏み込まれていない状態を示す。主変速レバー22を操作すると、伝達ロッド46を介してHST35が作動し、主変速レバーの操作位置に対応した前進又は後進の所定変速比に設定され、また副変速レバー23に連動する伝達ロッド47を介して副変速機構39へ低速が設定され、本農用走行車輌1は、比較的低速で走行し、作業機6の駆動と共に植付け作業が行われる。
【0040】
このとき、副変速レバー23の植付け「植」位置状態ではインナーワイヤー82aは引き作用をなし、該インナーワイヤー82aを介して主変速操作部45のロック部材76が回転軸22Aを中心に時計方向へ回動し、ロックピン77をその切欠き段部76aで押し込み、主変速レバー22と主変速操作部材75とが一体に回転操作されるロック部材76のロック状態となる。
【0041】
即ち、副変速レバー23の「植付け」位置では、ロック部材76の切欠き段部76aと主変速操作部材75の切欠き部75bとの間にロックピン77を挟み込み、該ロックピン77を介して主変速操作部材75と主変速レバー22が一体に回動するロック状態となり、主変速レバー22と主変速操作部材75とは連係関係を保持する。この際、ボーデンワイヤー82の主変速側は、インナーワイヤー82aがロック部材76に固定され、アウターワイヤー82bが主変速操作部材75に固定されているので、ロック部材76及び主変速操作部材75が一体に回動している状態ではインナーワイヤー82aとアウターワイヤー82bとの相対変位はなく、副変速レバー23に影響を及ぼすことはない。なお、副変速レバー23が「走行」位置に入れられた場合には、ばね体90がインナーワイヤー82aの引き作用を許容し、ロック状態を保持することに変わりがない。
【0042】
主変速レバー22を前進「F」に入れると、主変速操作部45では主変速レバー22と主変速操作部材75とは連係を保ったまま本農用走行車輌1は所定の通常運転がなされる。すなわち、主変速レバー22に連動する伝達ロッド46を介してHST35へ前進が指示され、副変速レバー23に連動する伝達ロッド47を介して副変速機構39へ低速が指示される。これにより、本農用走行車輌1は低速前進しつつ、苗植え作業がなされる。この際、図8に示されるように、主変速操作部材75では、該主変速操作部材75の下方から導かれる第1連係ロッド72の上端の取付けピン79が後方の長孔75cに対して相対的に上方に移動し、また第2連係ロッド73の上端の取付けピン79が後方の長孔75cに対して相対的に下方に移動する。即ち、主変速レバー22の操作は、融通機構により吸収され、ブレーキペダル25に影響を及ぼすことはない。
【0043】
この状態(「前進」「植付け」)でブレーキペダル25が踏み込まれると、ブレーキペダル25からミッションケース10の機体停止ブレーキ41に至る連係機構を介してブレーキが作動し、かつ、ブレーキペダル25から主変速操作部45に至る一連の連係機構が作動して主変速操作部45の主変速操作部材75を作動する。
【0044】
詳しくは、図8に示されるように、ブレーキペダル25側ではロッド49が前方へ引かれ、ブレーキシャフト50を介して主変速操作部45側に至るロッド67が後方へ引かれ、主変速操作部45側の第1アーム材70を回転軸69を中心に時計方向に回転させる。これにより、第2アーム材71も回転軸69を中心に時計方向に回転し、該第2アーム材71の2つの揺動部71a,71bは第1及び第2連係ロッド72,73を把持したまま下方へ下がる(図8の2点鎖線表示)。そして、一方の第1連係ロッド72は下方に下がるが長孔75cの途中に止まり、他方の第2連係ロッド73は長孔75cの下端に当接して下方への押下げ力を付与し、これにより主変速操作部材75は回転軸22Aを中心に時計方向に中立位置に回転することになる。このときロック部材76のロック状態により主変速レバー22と主変速操作部材75とが連係しているので、主変速レバー22を同じく時計方向に回転させ、中立位置に導く。これにより、HST35は中立となる。
【0045】
なお、本操作は主変速レバー22が後進であっても同様であり、また、ブレーキペダル25の踏み具合によっては主変速レバー22の中立位置に至る途中で止まり、低速度を維持することも含む。このブレーキが入となると同時にHST35が中立を採ることにより、本実施形態では主クラッチが不要とされる。
【0046】
図11(実線表示)に示すように副変速レバー23を植付け「植」から中立「N」に操作する。これにより、インナーワイヤー82aが緩み、かつ主変速操作部45ではばね部材80の引張り作用によって、ロック部材76は回転軸22Aを中心に反時計回りに回動しその切欠き段部76aがロックピン77から外れ、ロックピン77によってロック状態となっていた主変速操作部材75と主変速レバー22とはその連係が切れることになる。すなわち、ロック状態が解除される。主変速操作部材75と主変速レバー22との連係が切れる。これにより、主変速レバー22を中立「N」位置から前進「F」側に自由に操作して、HST35を変速することができると共に、ブレーキペダル25を、上記主変速操作レバー22に影響を及ぼすことなく、操作して機体停止ブレーキ41を作動することができる。
【0047】
この状態で、主変速レバー22を中立「N」位置から前進「F」側に操作する(図11の2点鎖線表示)。すなわち、主変速レバー22に連動する伝達ロッド46を介してHST35へ前進が指示され、副変速レバー23に連動する伝達ロッド47を介して副変速機構39へ中立が指示される。
【0048】
これにより、本農用走行車輌1のミッションケース10では、エンジン16の回転は、HST35を介して伝達され、走行動力伝達系Mへの伝達は副変速機構39が中立を維持することにより遮断されるが、分岐部である株間変速機構36より作業伝達系Sの動力は伝達されて作業用動力取出し軸37から取り出され、伝動軸31を介して植付け機6に伝達される。
【0049】
したがって、本農用走行車輌1は機体の走行を停止させた状態で植付作業機6だけが動くことになる。なお、本操作はブレーキペダル25を踏んで、機体停止(駐車)ブレーキ41を掛けたままでも可能であることは勿論である。すなわち、ブレーキペダル25を踏んだ場合、その踏込み作用はペダル25から主変速操作部45に至る一連の連係機構により主変速操作部材75を作動させるが、主変速操作部材75と主変速レバー22とは連係が切れているので、主変速レバー22への影響はない。これにより、走行機体5を機体停止ブレーキ41により確実に停止した状態で、作業機6を駆動してメンテナンスを行うことができる。
【0050】
なお、本操作は主変速レバー22が後進に操作されても上記に準じて作動し、同様の作用をなす。
【0051】
本実施形態では、農用走行車輌の一例としての田植え機への適用を示したが、農用トラクター、コンバインへの適用を除外するものではない。
【0052】
また、本実施形態で具体的に開示した連係解除機構に限定されず、主変速レバーとブレーキペダルとの連動を解除する操作具を別に設ける態様を採ることもできる。
【符号の説明】
【0053】
1 農用走行車輌
22 主変速レバー
23 副変速レバー
25 ブレーキペダル
35 主変速装置(HST)
36 分岐部
39 副変速装置
41 ブレーキ(機体停止ブレーキ)
25、49、50、67、70、71、72、73、75 連係機構
23、82、76、77 連係解除機構
【技術分野】
【0001】
この発明は田植機、農用トラクター、コンバイン等の農用走行車輌に関し、詳しくは、その動力伝達系につき、ブレーキペダルの踏込みにより前進または後進状態の主変速レバーを自動的に中立位置に移動する機構を有する農用走行車輌に関する。
【背景技術】
【0002】
農用走行車輌において、走行(前進、後進)中にブレーキペダルを踏むと主変速レバーとブレーキペダルとの連係機構により主変速レバーが中立位置まで戻され、かつ主変速レバーに連動する主変速用無段変速装置(例えば静油圧式無段変速装置(HST))が中立状態となり、ブレーキが掛かる構造になっているもの(特許第4021790号公報、特開2008−37317号公報)が提案されている。この従来構成によると、副変速(走行、植付け)を中立状態にして静止状態で作業機の運転点検をなす場合、主変速の作動中にブレーキを掛けると上記の連係機構が作動して主変速が中立状態となるので、ブレーキを掛けない状態での作業機の運転点検が余儀なくされ、機体が完全に静止せずに動いてしまう虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4021790号公報
【特許文献2】特開2008−37317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記実情に鑑み、農用走行車輌において、ブレーキペダルの踏込みにより前進または後進状態の主変速レバーを自動的に中立位置に移動する機構を備えた動力伝達系につき、副変速の中立状態での静止状態を保ったまま、ブレーキの作動に係わらず主変速レバーを作動でき、したがって静止状態での作業機の運転点検を安全にできる機構を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、伝動上流側から主変速装置(35)、作業動力伝達系(S)へ分岐する分岐部(36)、副変速装置(39)そして機体停止ブレーキ(41)を順次配置した走行動力伝達系(M)を備え、前記主変速装置(35)を主変速レバー(22)により前進側、中立位置及び後進側を含んで操作するとともに、前記副変速装置(39)を副変速レバー(23)により中立位置を含んで操作し、かつブレーキペダル(25)により前記機体停止ブレーキ(41)を操作してなる農用走行車輌において、
前記ブレーキペダル(25)のブレーキ作動に連動して、前記主変速レバー(22)を中立位置に移動するように、前記ブレーキペダル(25)と前記主変速レバー(22)とを連係する連係機構(25、49、50、67、70、71、72、73、75)と、
前記連係機構に介在し、前記副変速レバー(23)の中立位置にあっては、前記ブレーキペダル(25)と主変速レバー(22)との連係を解除する連係解除機構(23、82、76、77)と、
を備えたことを特徴とする。
【0006】
なお、括弧内の符合は図面を参照するためのものであって、特許請求の範囲に記載の構成を何ら限定するものではない。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係る本発明によると、副変速レバーを中立にして連係解除機構を入に操作し、主変速レバーを作動させると、分岐部を介して主変速装置からの動力が作業動力伝達系に伝達し、作業動力のみが取り出され、かつブレーキを操作をしてもこの状態は維持されるので、本農用走行車輌の機体をブレーキを掛けて静止状態を確保して作業動力伝達系並びに作業機の点検作業が安全に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る農用走行車輌の全体側面図。
【図2】本発明に係る農用走行車輌の全体平面図。
【図3】本農用走行車輌の動力伝動図。
【図4】本農用走行車輌のミッションケース回りの変速機構並びにブレーキ機構の配置を示す全体平面図。
【図5】図4の左側面図。
【図6】図4の右側面図。
【図7】本農用走行車輌の変速機構並びにブレーキ構造図。
【図8】本農用走行車輌のブレーキ操作連動図。
【図9】主変速構造の要部(主変速操作部)の分解斜視図。
【図10】主変速レバーの動作(ロック状態)図。
【図11】主変速レバーの動作(ロック状態の解除)図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態を説明する。図1、図2は本発明の適用される農用走行車輌の全体を示し、図3〜図9はその部分構成を示し、図10、図11はその動作を示す。以下の説明において、前部又は前方、後部又は後方を当該農用走行車輌の進行方向に合わせて定義する。
【0010】
図1、図2に示すように、本農用走行車輌1は、操向自在の左右一対の前輪2と操向不能の左右一対の後輪3とを備えた走行機体5の後部に、6条植え仕様に構成された苗の植付け作業機6が油圧シリンダによって作動する平行四連式のリンク機構7を介して昇降自在に連結される。
【0011】
前記走行機体5の機体フレーム9の前部には、前輪2を軸支したミッションケース10(図3〜図6)が連結固定されるとともに、機体フレーム9の後部には、後輪3を軸支した後部伝動ケース11がローリング自在に支持されている。また、ミッションケース10から前方に延出された前部フレーム12(図5)を含む前部機体13にボンネット15で覆われたエンジン16(図3)が搭載されている。そして、エンジン16の後方に位置する搭乗運転部には、前輪2を操向操作するためのステアリングハンドル19、運転座席20、ステップ21が配されるとともに、該ステアリングハンドル19回りには主変速レバー22、副変速レバー23、機体停止ペダル(ブレーキペダル)25が配される。更に、機体前部の左右には、予備の苗を複数段に載置収容する予備苗のせ台26が備えられている。
【0012】
なお、前記植付け作業機6は、6条分の苗を載置して左右方向に設定ストロークで往復移動される苗載せ台29、苗載せ台29下端から1株分づつ苗を切り出して圃場に植付けてゆく6組の回転式の植付け装置30、植付け伝動軸31、整地装置32、駆動軸33、等を備えてなる。
【0013】
図3はこの農用走行車輌の動力伝動構造を示す。前記ミッションケース10の側面には、エンジン16に連動しベルト駆動される主変速(前進、中立、後進を含む。)用の主変速装置の一例としての静油圧式無段変速装置(以下「HST」)35が連結され、その出力がミッションケース10に入力(上流)されて走行動力伝達系Mと作業動力伝達系Sとに分岐される。そして、動力の伝達は上流から下流に向けてなされる。
【0014】
作業動力伝達系Sの動力は、作業動力分岐部としてのワンウエイクラッチ機能付き4段ギヤ変速の株間変速機構36を経て作業用動力取出し軸(PTO軸)37から取り出され、前記した伝動軸31を介して植付け機6に伝動される。
【0015】
走行動力伝達系Mの動力は、スライドギヤ式の副変速機構39によって高低2段に変速された後、前輪系と後輪系とに再度分岐され、前輪系の動力は前輪動力軸40を介して左右の前輪2に伝達され、また後輪系の動力はその動力軸上に機体停止ブレーキ41が介装されるとともに伝動軸42を介して前記した後部伝動ケース11に伝達される。
【0016】
一方、後部伝動ケース11に伝達された後輪系の動力は、後輪動力軸43上に配された多板式のサイドクラッチ44を介して左右の後輪3に伝達されるとともに、その動力は更に分岐されて前記した整地装置32の駆動軸33に連動する。
【0017】
更に図3において、Pはエンジン16の動力を得て駆動される油圧ポンプであって、その圧油は前記した苗植付け機6のリンク機構7を作動する油圧シリンダなどに送られる。
【0018】
図4〜図6は本農用走行車輌の変速機構並びにブレーキ機構の全体の関連を示す。図4に示されるように、ハンドルシャフト19aを挟んで左方に主変速レバー22が配され、右方に副変速レバー23、ブレーキペダル25が配されてなるが、これらの主変速レバー22、副変速レバー23、ブレーキペダル25は、前記したHST35、ミッションケース10への入力作用をなすとともに、これらの相互間においても連係的に作動する。
【0019】
主変速レバー22は「前進速」「中立」「後進速」の連続的な移動設定がなされ、伝達ロッド46を介してHST35に連動する。
【0020】
副変速レバー23は「走行」「植付け」「中立」の移動設定がなされ、その設定に対応して伝達ロッド47を介してミッションケース10内の副変速機構39に連動する。
【0021】
ブレーキペダル25はその関連部材(ロッド49、ブレーキシャフト50、ブレーキ操作ロッド51)を介してミッションケース10内の機体停止ブレーキ41に連動する。詳しくは、ブレーキペダル25は踏板25aと支点a回りに回転するアーム部25bとからなり、ロッド49が一端を該アーム部25bに連結点bを介し、他端をブレーキシャフト50の端部に固設された支点c回りに回転するアーム材52を介して取り付けられる。アーム材52の後方にはロッド49を後方に引き戻すばね材53が配され、ブレーキペダル25を常時元位置に復帰させる。ブレーキ操作ロッド51は本体部51aと該本体部51aの下端に枢着される揺動杆51bとからなり、ブレーキシャフト50に固設されるアーム材55を介して取り付けられ、該ブレーキシャフト50の回転動はアーム材55、本体部51aを介し、揺動杆51bの変位をミッションケース10内に伝える。
【0022】
更に図4〜図6に示されるとおり、前部機体13の前部フレーム12にはエンジン16を取り付けるエンジンマウント56が載置固定される。エンジンマウント56上に載置されるエンジンプーリ57とHST35とには駆動用ベルト59が掛け渡される。
【0023】
そして、ミッションケース10は、縦方向の合わせ面10Aをもって一体的に組み立てられ、側部にフロントアクスル10Bを有し、その前部が前部取付け部材60を介して前部フレーム12に取り付けられるとともに、後部が後部取付け部材61を介して機体フレーム9に取り付けられる。
【0024】
この取付け構造において、前部取付け部材60は平板体が断面コの字形状に折り込まれてなり、そのフランジ部に開設されたボルト孔と前部フレーム12及びミッションケース10に開設されたボルト孔とを対応させ、それらのボルト孔に装着された取付けボルト62を締め込んでミッションケース10の前部を取り付けている。後部取付け部材61も同じく平板体が断面コの字形状に折り込まれてなり、そのフランジ部に開設されたボルト孔と機体フレーム9及びミッションケース10に開設されたボルト孔とを対応させ、それらのボルト孔に装着された取付けボルト63を締め込んでミッションケース10の後部を取り付けている。
【0025】
本取付け構造において、前部取付け部材60及び後部取付け部材61はともに、そのフランジ部をもってミッションケース10をその側面から挟み込む。また、ミッションケース10のボルト孔は横方向に貫通され、該ボルト孔に挿通される取付けボルト62,63は一本もの(貫通ボルト)とされ、一体化がなされる。
【0026】
本取付け構造によれば、ミッションケース10の前後部をコの字形平板の取付け部材60,61で挟み込んで止めるので、ミッションケース10の合わせ面10Aが開きが阻止される。
【0027】
図7、図8により、主変速レバー22とブレーキペダル25との連係機構について更に詳細に説明する。ブレーキペダル25の各関連部材(ロッド49、アーム材52、ばね材53、ブレーキシャフト50、アーム材55、ブレーキ操作ロッド51)は既に述べたとおりであり、ブレーキペダル25の踏込みによる制動動作は各関連部材を介してミッションケース10内の機体停止ブレーキ41に伝えられる。
【0028】
一方、ブレーキシャフト50の他端部には、主変速レバー25側との連係をなす別な関連部材が配される。すなわち、ブレーキシャフト50の他端部には揺動するアーム材66が固設され、主変速レバー22側に届くロッド67の一端を連結点eを介してこのアーム材66に連結し、他端を主変速レバー22側に横水平状に配された回転軸69に固設されるとともに連結点f回りに揺動する第1アーム材70の揺動部に連結される。また、同じ回転軸69の別位置に固設されるとともに連結点g回りに揺動する第2アーム材71が取り付けられる。更に該第2アーム材71は連結点gを共有し、前後に並べて配される2つの揺動部71a,71bを有する。そして、第2アーム材71の揺動部71a,71bにはそれぞれ第1連係ロッド72、第2連係ロッド73の下端部が連結され、第1及び第2連係ロッド72,73の上端部は後記する主変速操作部45の一部を構成する主変速操作部材75に融通機構を介して連結している。
【0029】
融通機構は、上記主変速操作部材75に、その回動中心である回転軸22Aを中心として形成された2個の円弧状の長孔75c,75cと、これら長孔に嵌挿しかつ前記第1及び第2連係ロッド72,73の上端部に取付けられたピン79,79とからなり、ブレーキペダル25を踏圧していないブレーキ開放状態にあっては、変速レバー22のすべての変速域での操作を可能とし、ブレーキペダル25を踏圧してブレーキ作動状態にあっては、主変速レバー22がどの位置にあっても中立位置に連係する。
【0030】
これらの一連のブレーキペダル25、該ペダル25に枢着されるロッド49から第1・第2連係ロッド72,73及び上記融通機構に至る連係機構は、ブレーキペダル25と主変速レバー22との連係を図る「連係機構」の主たる部分を構成する。これにより(詳しくは後述)、ブレーキペダル25の踏込みにより前記ロッド67の引込み動により主変速操作部45を作動させ、主変速レバー22を強制的に変位動させる。
【0031】
本実施形態の主変速レバー22の主変速操作部45の構成を説明する。図9に示されるように、本主変速操作部45は、回転軸22Aが一体に固設されてなる主変速レバー22、主変速操作部材(デテント板とも称される)75及びロック部材76がそれぞれ回転軸22A回りに回転自在に相平行して配されるとともに、これらに直交かつ跨がってロックピン77が配される構成を採る。
【0032】
ここで、主変速レバー22は、その基部22Bがばね部材を保持する平板、及び前記回転軸22Aの固着される型材の組立て体よりなり、伝達ロッド46を介してHST35に連結しているが、その機能を果すものであればその構成に限定されない。主変速操作部材75は回転中心孔75aを有する板状体をなし、上辺部に切欠き部75bが所定形状をもって凹設され、回転中心孔75aを挟んで2つの円弧状をなす上記長孔75cが開設され、下辺部にノッチ75dが形成されてなる。各長孔75cには各1つの取付けピン79が移動可能に装着され、該取付けピン73に前記した第1・第2連係ロッド72,73の上端が連結される。該主変速操作部材75は上記回転中心孔75に回転軸22Aが嵌挿され回転自在に支持されている。更に、主変速レバー22の基部22Bと主変速操作部材75との間にばね部材80が介装され、主変速レバー22を主変速操作部材75に向く方向(横方向)に付勢している。
【0033】
ロック部材76は方形の上辺から後辺にかけて切欠き段部76aが形成された板状体をなし、側面部に突設されたボス部76bに回転軸22Aが貫通状に挿通され、該回転軸22A回りに回動可能となっている。該ロック部材76と主変速操作部材75との間にばね部材81が配され、両部材が後述するロック状態となるように付勢している。更に、ロック部材76の側部にはボス部76b(回転中心)より離れた位置で、かつ前記ばね部材81との反対側でボーデンワイヤー82のインナーワイヤー82aの一端が止着される。該インナーワイヤー82の他端は副変速レバー23に導かれ(後述)、本実施形態で採る「連係解除機構」の一部をなす。
【0034】
ロックピン77は、主変速レバー22の基部22Bの側面に直交状に固設され、主変速操作部材75の切欠き部75b及びロック部材76の段部76aに当接状態を保って配される。
【0035】
また、主変速操作部材75のノッチ75dに対し、その下方よりノッチ付勢部材83が所定の付勢力をもって当接され、主変速操作部材75に一定の負荷を与えている。すなわち、該ノッチ付勢部材83は回転軸部83a、ばね板部83b、ローラ83cよりなり、ばね板部83bがノッチ75dに当接するローラ83cに対し所定の押付け力を与える。そして、本実施形態では、高速側にいくに従いノッチ75dの山の高さが高くされている。これにより、従来採られていた当該主変速操作部材(デテント)75に加える荷重を軽減でき、低速付近のレバー操作荷重が軽くなり、急な発進を回避でき、運転操作の安全を期することができる。
【0036】
図10、図11において、主変速操作部45のロック部材76とボーデンワイヤー82と副変速レバー23との連係機構を説明する。この連係機構は、本実施形態で採る「連係解除機構」の構成の一部をなすものであって、インナーワイヤー82aを介してロック部材76の移動操作をなし、ロック部材76のロック状態及び該ロック部材76のロック解除状態を実現する。詳しくは、主変速操作部45側では、ボーデンワイヤー82のインナーワイヤー82aの一端部のロック部材76への止着は前記したとおりであり(図9)、該ボーデンワイヤー82のアウターワイヤー82bはロック部材76に近接する主変速操作部材75に固定された取付け部材89に止着される。これにより、主変速操作部材75及びロック部材76が一体に回動する状態にあっては、ボーデンワイヤー82の長さ変化はなく、該ボーデンワイヤー82の他端部に連結されている副変速レバー23に何等影響を及ぼすことはない。副変速レバー23側では、ボーデンワイヤー82の他端部は、そのインナーワイヤー82aが該副変速レバー23の基部寄りにばね体90を介して止着される。このボーデンワイヤー82の他端部でもそのアウターワイヤー82bが機体側に固定された取付け部91に止着されるものであり、該インナーワイヤー82の動作の安定をなす。なお、インナーワイヤー82の他端部の止着点と副変速レバー23の支点hとの距離によりインナーワイヤー82の押し引きのストロークが決定されるものである。
【0037】
本実施形態で採る「連係解除機構」は、既に述べた主変速操作部材75、ロック部材76、ロックピン77を含め、当該ロック部材76からボーデンワイヤー82を介して副変速レバー23に至る一連の連係機構により構成される。なお、以上述べたことより明らかなとおり、本「連係解除機構」はロック機能、該ロック状態の解除機能、更にロック状態の復帰機能の多機能を持つ。
【0038】
このように構成された本実施形態のブレーキペダルと主変速レバーとの「連係機構」及びその「連係解除機構」を備えた農用走行車輌1の作用を図10、図11更に図8を参照して説明する。
【0039】
図10は、主変速レバー22が中立「N」に入れられ、副変速レバー23が植付け「植」(低速段)に操作され、ブレーキペダル25が踏み込まれていない状態を示す。主変速レバー22を操作すると、伝達ロッド46を介してHST35が作動し、主変速レバーの操作位置に対応した前進又は後進の所定変速比に設定され、また副変速レバー23に連動する伝達ロッド47を介して副変速機構39へ低速が設定され、本農用走行車輌1は、比較的低速で走行し、作業機6の駆動と共に植付け作業が行われる。
【0040】
このとき、副変速レバー23の植付け「植」位置状態ではインナーワイヤー82aは引き作用をなし、該インナーワイヤー82aを介して主変速操作部45のロック部材76が回転軸22Aを中心に時計方向へ回動し、ロックピン77をその切欠き段部76aで押し込み、主変速レバー22と主変速操作部材75とが一体に回転操作されるロック部材76のロック状態となる。
【0041】
即ち、副変速レバー23の「植付け」位置では、ロック部材76の切欠き段部76aと主変速操作部材75の切欠き部75bとの間にロックピン77を挟み込み、該ロックピン77を介して主変速操作部材75と主変速レバー22が一体に回動するロック状態となり、主変速レバー22と主変速操作部材75とは連係関係を保持する。この際、ボーデンワイヤー82の主変速側は、インナーワイヤー82aがロック部材76に固定され、アウターワイヤー82bが主変速操作部材75に固定されているので、ロック部材76及び主変速操作部材75が一体に回動している状態ではインナーワイヤー82aとアウターワイヤー82bとの相対変位はなく、副変速レバー23に影響を及ぼすことはない。なお、副変速レバー23が「走行」位置に入れられた場合には、ばね体90がインナーワイヤー82aの引き作用を許容し、ロック状態を保持することに変わりがない。
【0042】
主変速レバー22を前進「F」に入れると、主変速操作部45では主変速レバー22と主変速操作部材75とは連係を保ったまま本農用走行車輌1は所定の通常運転がなされる。すなわち、主変速レバー22に連動する伝達ロッド46を介してHST35へ前進が指示され、副変速レバー23に連動する伝達ロッド47を介して副変速機構39へ低速が指示される。これにより、本農用走行車輌1は低速前進しつつ、苗植え作業がなされる。この際、図8に示されるように、主変速操作部材75では、該主変速操作部材75の下方から導かれる第1連係ロッド72の上端の取付けピン79が後方の長孔75cに対して相対的に上方に移動し、また第2連係ロッド73の上端の取付けピン79が後方の長孔75cに対して相対的に下方に移動する。即ち、主変速レバー22の操作は、融通機構により吸収され、ブレーキペダル25に影響を及ぼすことはない。
【0043】
この状態(「前進」「植付け」)でブレーキペダル25が踏み込まれると、ブレーキペダル25からミッションケース10の機体停止ブレーキ41に至る連係機構を介してブレーキが作動し、かつ、ブレーキペダル25から主変速操作部45に至る一連の連係機構が作動して主変速操作部45の主変速操作部材75を作動する。
【0044】
詳しくは、図8に示されるように、ブレーキペダル25側ではロッド49が前方へ引かれ、ブレーキシャフト50を介して主変速操作部45側に至るロッド67が後方へ引かれ、主変速操作部45側の第1アーム材70を回転軸69を中心に時計方向に回転させる。これにより、第2アーム材71も回転軸69を中心に時計方向に回転し、該第2アーム材71の2つの揺動部71a,71bは第1及び第2連係ロッド72,73を把持したまま下方へ下がる(図8の2点鎖線表示)。そして、一方の第1連係ロッド72は下方に下がるが長孔75cの途中に止まり、他方の第2連係ロッド73は長孔75cの下端に当接して下方への押下げ力を付与し、これにより主変速操作部材75は回転軸22Aを中心に時計方向に中立位置に回転することになる。このときロック部材76のロック状態により主変速レバー22と主変速操作部材75とが連係しているので、主変速レバー22を同じく時計方向に回転させ、中立位置に導く。これにより、HST35は中立となる。
【0045】
なお、本操作は主変速レバー22が後進であっても同様であり、また、ブレーキペダル25の踏み具合によっては主変速レバー22の中立位置に至る途中で止まり、低速度を維持することも含む。このブレーキが入となると同時にHST35が中立を採ることにより、本実施形態では主クラッチが不要とされる。
【0046】
図11(実線表示)に示すように副変速レバー23を植付け「植」から中立「N」に操作する。これにより、インナーワイヤー82aが緩み、かつ主変速操作部45ではばね部材80の引張り作用によって、ロック部材76は回転軸22Aを中心に反時計回りに回動しその切欠き段部76aがロックピン77から外れ、ロックピン77によってロック状態となっていた主変速操作部材75と主変速レバー22とはその連係が切れることになる。すなわち、ロック状態が解除される。主変速操作部材75と主変速レバー22との連係が切れる。これにより、主変速レバー22を中立「N」位置から前進「F」側に自由に操作して、HST35を変速することができると共に、ブレーキペダル25を、上記主変速操作レバー22に影響を及ぼすことなく、操作して機体停止ブレーキ41を作動することができる。
【0047】
この状態で、主変速レバー22を中立「N」位置から前進「F」側に操作する(図11の2点鎖線表示)。すなわち、主変速レバー22に連動する伝達ロッド46を介してHST35へ前進が指示され、副変速レバー23に連動する伝達ロッド47を介して副変速機構39へ中立が指示される。
【0048】
これにより、本農用走行車輌1のミッションケース10では、エンジン16の回転は、HST35を介して伝達され、走行動力伝達系Mへの伝達は副変速機構39が中立を維持することにより遮断されるが、分岐部である株間変速機構36より作業伝達系Sの動力は伝達されて作業用動力取出し軸37から取り出され、伝動軸31を介して植付け機6に伝達される。
【0049】
したがって、本農用走行車輌1は機体の走行を停止させた状態で植付作業機6だけが動くことになる。なお、本操作はブレーキペダル25を踏んで、機体停止(駐車)ブレーキ41を掛けたままでも可能であることは勿論である。すなわち、ブレーキペダル25を踏んだ場合、その踏込み作用はペダル25から主変速操作部45に至る一連の連係機構により主変速操作部材75を作動させるが、主変速操作部材75と主変速レバー22とは連係が切れているので、主変速レバー22への影響はない。これにより、走行機体5を機体停止ブレーキ41により確実に停止した状態で、作業機6を駆動してメンテナンスを行うことができる。
【0050】
なお、本操作は主変速レバー22が後進に操作されても上記に準じて作動し、同様の作用をなす。
【0051】
本実施形態では、農用走行車輌の一例としての田植え機への適用を示したが、農用トラクター、コンバインへの適用を除外するものではない。
【0052】
また、本実施形態で具体的に開示した連係解除機構に限定されず、主変速レバーとブレーキペダルとの連動を解除する操作具を別に設ける態様を採ることもできる。
【符号の説明】
【0053】
1 農用走行車輌
22 主変速レバー
23 副変速レバー
25 ブレーキペダル
35 主変速装置(HST)
36 分岐部
39 副変速装置
41 ブレーキ(機体停止ブレーキ)
25、49、50、67、70、71、72、73、75 連係機構
23、82、76、77 連係解除機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝動上流側から主変速装置、作業動力伝達系へ分岐する分岐部、副変速装置そして機体停止ブレーキを順次配置した走行動力伝達系を備え、前記主変速装置を主変速レバーにより前進側、中立位置及び後進側を含んで操作するとともに、前記副変速装置を副変速レバーにより中立位置を含んで操作し、かつブレーキペダルにより前記機体停止ブレーキを操作してなる農用走行車輌において、
前記ブレーキペダルのブレーキ作動に連動して、前記主変速レバーを中立位置に移動するように、前記ブレーキペダルと前記主変速レバーとを連係する連係機構と、
該連係機構に介在し、前記副変速レバーの中立位置にあっては、前記ブレーキペダルと主変速レバーとの連係を解除する連係解除機構と、
を備えたことを特徴とする農用走行車輌。
【請求項1】
伝動上流側から主変速装置、作業動力伝達系へ分岐する分岐部、副変速装置そして機体停止ブレーキを順次配置した走行動力伝達系を備え、前記主変速装置を主変速レバーにより前進側、中立位置及び後進側を含んで操作するとともに、前記副変速装置を副変速レバーにより中立位置を含んで操作し、かつブレーキペダルにより前記機体停止ブレーキを操作してなる農用走行車輌において、
前記ブレーキペダルのブレーキ作動に連動して、前記主変速レバーを中立位置に移動するように、前記ブレーキペダルと前記主変速レバーとを連係する連係機構と、
該連係機構に介在し、前記副変速レバーの中立位置にあっては、前記ブレーキペダルと主変速レバーとの連係を解除する連係解除機構と、
を備えたことを特徴とする農用走行車輌。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−194948(P2011−194948A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61644(P2010−61644)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
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