説明

運転支援装置及び運転支援方法

【課題】運転負荷を加重させることなく、乗員に与える触覚刺激により運転支援情報を伝達する。
【解決手段】所定タイミングにおける車両の走行地点及び車速を含む走行状態を取得する走行状態取得機能と、各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境を参照し、車両の走行状態に基づいて、車両とその車両の乗員の仮想注視点との離隔度を算出するとともに、その離隔度を含む所定離隔領域における車両の将来走行位置を算出する将来走行位置算出機能と、走行環境を参照し、将来走行位置を走行する際の理想走行位置を取得し、この理想走行位置に対する将来走行位置の偏差に基づいて、車両の誘導量を算出する誘導量算出機能と、算出された誘導量に応じた触覚刺激を含む運転支援情報を乗員に与えさせる情報伝達機能と、を実行するコントローラ10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の運転を支援する運転支援装置及び運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置に関し、自車両の走行環境と運転者の操作遅れに基づいて、将来の状態における自車両のリスクポテンシャルを算出し、そのリスクポテンシャルに応じた触覚刺激(運転者用シートの左右サイド部からの押圧力)を運転者に伝達することにより、運転者の操作遅れを考慮した情報伝達を行う運転操作補助装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−155000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、運転者に与えられる触覚刺激に対応する走行場面と、運転者が得る視覚刺激の対象となる走行場面との整合が考慮されていないため、与えた触覚刺激により乗員の運転負荷が加重される場合があるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、車両の走行地点及び車速を含む走行状態に基づいて、予め準備された走行環境情報を参照し、車両とその車両の乗員の仮想注視点との離隔度を含む所定離隔領域における車両の将来走行位置を算出し、その将来走行位置を走行する際の理想走行位置に対する将来走行位置の偏差から導出された車両の誘導量に応じた触覚刺激を乗員に与えることにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、運転者に与える触覚刺激に対応する走行場面と運転者が得る視覚刺激に対応する走行場面とが整合するため、運転負荷を加重させることなく運転を支援することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
<第1実施形態>
図面に基づいて、第1実施形態に係る運転支援システム100について説明する。本実施形態においては、車両に搭載され、その車両の運転を支援する運転支援システム100を含む車載装置1000を例にして説明する。
【0008】
図1に示すように、運転支援システム100は、コントローラ10と各触覚刺激伝達装置20(21〜22)とを有する。また、運転支援システム100は、車載装置1000に含まれるナビゲーション装置200、車両コントローラ300、及び測距・測位装置400と、CAN(Controller Area Network)その他の車載LANによって接続され、相互に情報の授受を行う。
【0009】
本実施形態の運転支援システム100は、車両を運転する乗員に触覚刺激を与えることにより運転支援情報を伝達する装置である。
【0010】
図1に示すように、運転支援システム100のコントローラ10は、本実施形態に係る運転支援情報の生成処理を実行するためのプログラムを格納したROM(Read Only Memory )12と、このROM12に格納されたプログラムを実行することで、運転支援システム100として機能する動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)11と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)13と、を備える。なお、動作回路としては、CPU(Central Processing Unit)11に代えて又はこれとともに、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いることができる。
【0011】
次に、運転支援システム100のコントローラ10が備える処理機能について説明する。コントローラ10は、所定タイミングにおける車両の走行地点及び車速を含む走行状態を取得する走行状態取得機能と、各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境情報を参照し、車両の走行状態に基づいて、車両とその車両の乗員の仮想注視点との離隔度を算出するとともに、離隔度を含む所定離隔領域における車両の将来走行位置を算出する将来走行位置算出機能と、走行環境情報を参照し、将来走行位置を走行する際の理想走行位置を算出し、この理想走行位置に対する将来走行位置の偏差に基づいて、車両の誘導量を算出する誘導量算出機能と、この誘導量算出機能により算出された誘導量に応じた触覚刺激を含む運転支援情報を乗員に与える情報伝達機能と有する。そして、各機能を実現するためのソフトウェアと、上述したコントローラ10を含むハードウェアの協働により各機能を実行する。
【0012】
以下、上述した運転支援システム100のコントローラ10が実現する機能についてそれぞれ説明する。
【0013】
まず、運転支援システム100の走行状態取得機能について説明する。運転支援システム100は、車両の走行状態を取得する。この車両の走行状態は、所定タイミングにおける車両の走行地点、車速、操舵角、ヨーレート、を含む。
【0014】
所定タイミングにおける車両の走行地点は、ナビゲーション装置200から取得する。ナビゲーション装置200は、GPS(Global Positioning System)211を含む自車位置検出装置210を有し、自車両の位置をGPS(Global Positioning System)211の測位機能により検出する。
【0015】
また、所定タイミングにおける車速、操舵角、ヨーレートは、車両コントローラ300から取得する。車両コントローラ300は、車速センサ310、操舵角センサ320、ヨーレートセンサ330を有する。車速センサ310は、車輪の回転数や変速機の出力側の回転数を計測することにより自車両の車速Vを検出し、検出した自車速をコントローラ10に出力する。また、操舵角センサ320は、車両に取り付けられたステアリングホイールの操舵角αを検出し、コントローラ10に出力する。ヨーレートセンサ330は、自動車の旋回方向への回転角の変化する速度を検出し、コントローラ10へ出力する。
【0016】
また、車両が走行する地点を含む車線とその車両との相対位置関係は、測距・測位装置400から取得する。測距・測位装置400は、車両の側方を撮像する側方カメラ410と車両の進行方向前方を撮像する前方カメラ420とを有する。
【0017】
側方カメラ410は、例えば左右のサイドミラー下部にそれぞれ取り付けられた小型のCCD(Charge Coupled Device)カメラ、またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等であり、車両側方道路の状況を画像として検出する。側方カメラ20による検知領域は、車両の左右それぞれ0mから2m程度であり、この領域に含まれる側方道路風景が画像として取り込まれる。測距・測位装置400は、側方カメラ410により検出された撮像画像に含まれるレーンマーカの画像情報に基づき、自車両が走行する車線と自車両との距離(車線内横位置)車線に対する自車両の走行方向の角度などの相対位置関係を算出する。
【0018】
また、前方カメラ420は、フロントウィンドウ上部に取り付けられた小型のCCD(Charge Coupled Device)カメラまたはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)カメラ等であり、前方道路の状況を画像として検出する。測距・測位装置400は、前方カメラ420により検出された自車両前方領域の撮像画像に含まれるレーンマーカの画像情報に基づき、自車両が走行する車線と自車両との距離(車線内横位置)車線に対する自車両の走行方向の角度などの相対位置関係を算出する。自車両が走行する車線のレーンマーカを認識し、自車両の現在位置における車線内横位置、車線に対する自車角度を検出する。このように、前方カメラ420を用いて走行状態を検出する手法によれば、走行支援システムに要するカメラセンサの数を低減させることができる。なお、測距・測位の手法は特に限定されず、出願時において利用可能な手法を用いることができる。
【0019】
そして、測距・測位装置400は、算出した相対位置関係に係る走行状態をコントローラ10の要求に応じて送出する。つまり、コントローラ10は、走行状態を取得する。なお、撮像画像からレーンマーカの画像情報を抽出し、レーンマーカの画像情報に基づいて相対位置関係を求める処理は、コントローラ10において実行するようにしてもよい。
【0020】
次に、運転支援システム100の将来走行位置算出機能について説明する。
【0021】
この将来走行位置算出機能は、各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境情報を参照し、車両の走行状態に基づいて、車両と当該車両の乗員の仮想注視点との離隔度を算出する離隔度算出処理と、この離隔度を含む所定離隔領域における車両の将来走行位置を算出する将来走行位置算出処理とを行う。
【0022】
まず、離隔度の算出処理について説明する。コントローラ10は、運転支援処理の実行開始タイミングにおける車両の走行地点と車両の乗員の仮想注視点との離隔度を求める。この離隔度を求めるにあたっては、各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境情報を参照する。走行環境情報は、各地点を含む走行路の曲率、及び/又は各地点を含む走行路の車線幅を含む。本実施形態の走行環境情報は、ナビゲーション装置200のメモリに読み込み可能な状態で記憶されている。ナビゲーション装置200は、コントローラ10の要求に応じて、所定の地点の走行環境情報を送出する。
【0023】
車両の走行地点と仮想注視点との離隔度は、時間又は距離によって表現することができる。
【0024】
図2から図4に基づいて、車両が仮想注視点に到達するまでの到達時間により表現される離隔度の算出手法を説明する。
【0025】
コントローラ10は、まず、仮想注視点を決定する。本実施形態における仮想注視点はタンジェントポイントである。タンジェントポイントとは、図2に示すように、走行路のカーブ内側の車線境界が成す円に対して、運転する乗員の視点から引いた接線における接点である。このタンジェントポイントは、運転者の視覚特性研究において、カーブ走行時、運転者が主に見る地点であることが知られている。もちろん、実際の走行試験により運転する乗員の視点を観察し、多くの乗員が見る地点、乗員が長い時間見る地点を抽出し、これを仮想注視点として定義してもよい。
【0026】
コントローラ10は、各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境情報を参照し、車両の走行状態に基づいて、車両が当該車両の乗員の仮想注視点(例えばタンジェントポイント)に到達するまでの到達時間を離隔度として算出する。
【0027】
具体的に、図3に示すように、コントローラ10は、車両コントローラ300から取得した車速V(走行状態)と、ナビゲーション装置200から取得した走行路の曲率R(走行環境)とに基づいて、下式(2)により得られる見開き角θを用いて、下式(1)により得られる到達時間TTPを算出する。
【0028】
TTP=(R+w)sinθ/Vcosθ ・・・(1)
cosθ=R/(R+w) ・・・(2)
ただし、Rは走行路の曲率、Vは車速、θは車両の進行方向を基準とした見開き角である。また、wは車線幅に応じた定数であり、本例では車線幅の半分の値である。
【0029】
また、本実施形態のコントローラ10は、車両の走行地点を含む走行路の車線幅を取得する機能を備える。これにより、実際の走行路の車線幅に基づいて到達時間を算出することができるので、車線道幅を固定の値としてTTC及びTLCその他の到達時間を算出するよりも精度を高めることができる。
【0030】
このように、仮想注視点として、カーブ走行中に運転者が見ている時間が最も長いタンジェントポイントを用いることにより、実際の注視点に近い地点を特定することができるとともに、この地点における運転支援情報を提示することができる。
【0031】
また、図4に示すように、コントローラ10は、車両コントローラ300から取得した車速V(走行状態)と、ナビゲーション装置200から取得した走行路の曲率R(走行環境)とに基づいて、下式(2)により得られる見開き角θを用いて、下式(1)により得られる到達時間TLCを算出する。
【0032】
TLC=(R+w)tanθ/V ・・・(3)
cosθ=R/(R+w) (wは係数)・・・(4)
ただし、Rは走行路の曲率、Vは車速、θは車両の進行方向を基準とした見開き角である。また、wは車線幅に応じた定数であり、本例では車線幅の半分の値である。
【0033】
このように、タンジェントポイントの近傍乃至略一致する地点に至る到達時間TLCを用いることにより、到達時間TTCを用いる場合と同様の効果を得ることができるとともに、到達時間TTC算出ではカーブ内側の車線情報が必要なのに対し、到達時間TLC算出に用いるのはカーブ外側の車線情報を用いるため、カーブ内側の車線情報が取得できない場合に到達時間TTCの代替として用いることができる。
【0034】
なお、到達時間Tを算出するにあたり、仮想注視点としてはタンジェントポイントに限定されず、タンジェントポイントへ至る到達時間TTPや到達時間TLCと略等しい到達時間の地点Xがあれば、その地点Xへの到達時間TTXを用いてもよい。
【0035】
また、離隔度を、車両の走行位置から仮想注視点までの距離により表現することもできる。この場合、コントローラ10は、各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境を参照し、車両の走行状態に基づいて、車両がその車両の乗員の仮想注視点までの距離を離隔度として算出するとともに、距離を含む所定距離域における車両の将来走行位置を算出する。具体的に、コントローラ10は、ナビゲーション装置200から取得した自車両の位置と、この自車両の位置に基づいて、走行環境情報220の地図情報223、走行路情報222を参照して求めた仮想注視点との距離を算出する。この距離は、地図情報223を参照して求める。
【0036】
続いて、将来走行位置の算出手法について説明する。コントローラ10は、算出された到達時間(TTC,TLC,TTX)を含む所定到達時間帯における車両の将来走行位置を算出する。つまり、図5に示すように、コントローラ10は、乗員が仮想注視点に到達するタイミング及びこのタイミングの前後において走行すると予測される位置(将来走行位置)を算出する。ここで、到達時間を含む所定到達時間帯は特に限定されず、到達時間に所定値を加算又は減算した値域である。この所定到達時間帯は、実際に運転負荷の増減を調べる実験等により、適宜定義することができる。
【0037】
コントローラ10は、(所定到達時間帯に含まれる)到達時間と車速とに基づいて将来走行位置を求める。
【0038】
また、コントローラ10は、測距・測位装置400から取得した、車両と走行する地点を含む車線との相対位置関係(車線内横位置、車線に対する自車角度)と、車両コントローラ300から取得した走行状態に含まれる車速Vとに基づいて、所定到達時間帯に走行すると予測される将来走行位置を算出する。
【0039】
また、コントローラ10は、さらに、車両コントローラ300から取得した車両との操舵角を考慮し、相対位置関係、車速及び操舵角に基づいて、所定到達時間帯に走行すると予測される将来走行位置を算出してもよい。
【0040】
また、コントローラ10は、さらに、車両コントローラ300から取得した車両のヨーレートを考慮し、相対位置関係、車速及びヨーレートに基づいて、所定到達時間帯に走行すると予測される将来走行位置を算出してもよい。
【0041】
なお、到達時間を距離に変換し、所定距離域内において走行すると予測される将来走行位置を算出してもよい。
【0042】
次に、コントローラ10の誘導量算出機能について説明する。コントローラ10は、走行環境を参照し、将来走行位置を走行する際の理想走行位置を取得し、この理想走行位置に対する将来走行位置の偏差に基づいて、車両の誘導量を算出する。
【0043】
コントローラ10は、ナビゲーション装置200が有する走行環境情報220に含まれる、各走行路又は各地点ごとに車両が走行するのに適した理想走行地点を参照し、将来走行位置における理想走行位置を取得する。
【0044】
また、コントローラ10は、走行環境情報に含まれる走行路の車線幅を参照し、将来走行位置における理想走行位置を算出してもよい。本実施形態では、走行路の位置と車線幅に基づいて、車線幅の中心に位置する車線中央位置を理想走行位置として算出する。そして、コントローラ10は、図6に示すように、この理想走行位置に対する将来走行位置の偏差を求める。
【0045】
また、図7に示すように、本実施形態におけるコントローラ10は、理想走行位置としての車線中央位置に対する将来走行位置の偏差を算出する。車線中央位置からの偏差により誘導量を算出するため、道路中央への誘導効果を期待することができる
このように、自車両が将来走行位置を通過する際の理想走行位置からのずれ量を算出する。このずれ量(偏差)は、理想走行位置に自車両を導く誘導量と関係づけることができる。このため、本実施形態のコントローラ10は、理想走行位置に対する将来走行位置の偏差に基づいて、車両の誘導量、すなわち乗員に与える触覚刺激を算出する。車両の誘導量と触覚刺激(触覚刺激の態様又は触覚刺激の強さを含む)との関係は、予め定義することが好ましい。
【0046】
コントローラ10は、誘導量に応じた触覚刺激を乗員に与えるための駆動指令を後述する触覚刺激伝達装置20へ送出する。
【0047】
続いて、コントローラ10の指令に従い、触覚刺激を含む運転支援情報を乗員に与える触覚刺激伝達装置20について説明する。
【0048】
本実施形態の触覚刺激伝達装置は、可動部を含み、可動部を駆動することにより、乗員に触覚刺激を与える押圧装置21と、振動部を含み、振動部を駆動することにより乗員に触覚刺激を与える振動装置22とを有する。
【0049】
まず、押圧装置21について説明する。この押圧装置21は、位置が変化する可動部材211と、この可動部材211を駆動する駆動機構212とを有する。可動部材211が動くことにより、その位置が変化する。可動部材211の位置が変化することにより、可動部材211が乗員に接触し又は乗員を押圧することにより、乗員に触覚刺激を与える。
【0050】
図8Aに示すように、本実施形態では、乗員のシートに押圧装置21を設ける。本実施形態の押圧装置21は、可動部材としてのサイドサポート部211と、駆動機構としてのシート駆動機構212とを有する。サイドサポート部211は、シートの横側(乗員の側面)を支える部材である。
【0051】
図8Aに示すように、シート左右の網掛け部で示す位置に、サイドサポート部211を設ける。このサイドサポート部211が駆動することにより、乗員に接触又は乗員を押圧し、乗員に触覚刺激を与える。
【0052】
図8Bは、サイドサポート部211のシート駆動機構212を示す。図8Bに示すように、シートの骨格をなすシートフレームに、左右1対のサイドサポートフレームを回転可能に設ける。このサイドサポートフレームはクッションで覆われて図8Aに示すサイドサポート部211として機能する。
【0053】
また、サイドサポートフレームは、上下1対の回転支持部を介してシートフレームに支持される。さらにこの回転支持部にはリンク1が結合される。さらに左右のリンク1をリンク3で結合し、略平行リンク構造を為す構成とする。リンク3の中間部にはリンク2を介してモータ回転軸を取り付ける。これにより、モータの回転角が左右サイドサポートフレームの揺動運動として伝えられる。モータそのものはシートフレームに固定される。なお、これらの構成要素とは別に、シート本来の機能を果たすためにヘッドレスト取り付け部やクッション支持のためのスプリングが取り付けられる。
【0054】
図9A及び図9Bは、押圧装置21の動作を説明するための図である。図9Aは、制御OFF時とモータ駆動時における、駆動機構212の動きの概要を示す図である。図9Aに示すように、制御OFF時において、サイドサポートフレームは停止している。他方、モータ駆動時において、サイドサポートフレームは所定の回転方向(例えばヨー方向)に回転する。また、図9Bは、制御OFF時とモータ駆動時における、サイドサポート部211の動きの概要を示す図であり、乗員がシートに座っている状態を上部から見た図である。図9Bに示すように、制御OFF時において、サイドサポート部211は停止している。他方、モータ駆動時において、サイドサポート部211は所定の回転方向(例えばヨー方向)に回転する。
【0055】
ここではサイドサポート部211を可動部材211の一例として説明したが、乗員の背面を支えるシートバックサポート部、乗員の肩部分を支えるショルダサポート部、乗員の腰部分を支えるランバサポート部、乗員の腰〜ウエストにかけての左右側面を支えるシートクッションサイドサポート、乗員の大腿部を支えるサイサポートのいずれか一つ又はこれらを組み合わせてもよい。
【0056】
さらに、押圧装置21の第2の例を説明する。図10は、他の押圧装置21を示す図である。図10に示すように、左右のサイドサポートフレームはリンク1で互いに結合される。さらにこのリンク1は、リニアガイドのスライドレール部分を兼ねており、リニアガイドのスライダに相当する部分がシートフレームに固定される。これにより、左右のサイドサポートフレームは一体となってシートフレームに対して横方向に変位できるように支持される。さらにリンク1(すなわちスライドレール)背面にはラック歯を設けておき、このラックに噛み合うピニオンギアをシートフレームに対して固定されたモータで駆動することにより、サイドサポートフレームの左右移動を行う。
【0057】
制御OFF時において、図11の左図に示す位置にあったサイドサポートは、モータ駆動時においては図11の右図に示すように、車体横方向に平行移動する。
【0058】
さらに、押圧装置21の態様は限定されず、図12に示すように、シートの一部分に設けられた可動部材211と、この可動部材211をヨー方向もしくは横方向に変位させる駆動機構212とを設けてもよい。
【0059】
続いて、振動装置22について説明する。この振動装置22は、任意の周波数で振動する振動部材221と、この振動部材221を駆動する駆動機構222とを有する。振動部材221が振動することにより、その振動が乗員に伝わり、乗員に触覚刺激を与える。
【0060】
図13に示すように、本実施形態では、乗員のシートの左右両側にそれぞれ振動部材221を設ける。本実施形態の振動装置22は、シート左右サイド部にバイブレータ(振動部材)221を設ける。このバイブレータ(振動部材)221が振動することにより、乗員に振動が伝わり、乗員に触覚刺激を与える。
【0061】
続いて、算出された誘導量に応じた触覚刺激を乗員に与える制御手法について説明する。押圧装置21の駆動機構211、振動装置22の駆動機構222は、コントローラ10から取得した誘導量に基づいて、乗員に与える触覚刺激の態様及び触覚刺激の強さを求める。触覚刺激の態様とは、押圧力による触覚刺激、振動による触覚刺激、乗員の体の所定部分に与える触覚刺激などの態様を含む。
【0062】
本実施形態の押圧装置21の駆動機構211、振動装置22の駆動機構222は、誘導する方向に応じた乗員の体の一部分に触覚刺激を与え、誘導量が大きいほど強い(乗員が強いと感じる)触覚刺激を与える。
【0063】
図14は、押圧装置21の駆動機構211に設けられたアクチュエータの制御量Sactと誘導量Iとの関係を示す図である。図14に示す制御手法例では、内側駆動を正とした場合に、シートに設けられた押圧装置21の駆動機構212は、それぞれ逆方向に動作し、左右共に車線はみ出し位置で駆動範囲が飽和するよう設定する。駆動機構212による可動部材211の駆動方向と理想走行位置からの偏差の関係は逆方向であり、例えば車両進行方向に対して右方向への偏差が算出された場合は、シートの可動部材211を左方向へ変位させる。
【0064】
また、振動装置22の駆動機構222は、算出された誘導量Iに基づいて、振動部材221から発生させる振動の大きさを設定する。自車両が将来位置で車線右側に偏差がある場合は、右サイド部に内蔵された振動部材221を振動させ、逆に左側に偏差がある場合は左サイド部に内蔵された振動部材221を振動させる。このとき、誘導量Iが大きくなるほど、振動の振幅が大きくなるよう設定することが好ましい。また、誘導量Iが大きくなるほど振動の周波数を大きくするようにしてもよい。
【0065】
図15及び図16は、押圧装置21の駆動機構211に設けられたアクチュエータの制御量Sactと誘導量Iとの関係の他の制御例を示す図である。図15に示すように、誘導量Iが小さいときは触覚刺激の量(変位量、振幅、周波数)を小さくし、誘導量Iが大きくなると急激に触覚刺激の量(変位量、振幅、周波数)を大きくするように制御してもよい。また、図16に示すように、誘導量が小さいときには、触覚刺激を与えないようにすることもできる。
【0066】
続いて、図17のフローチャート図に基づいて、本実施形態の運転支援システム100の制御手順を説明する。
【0067】
まず、運転支援システム1000が起動され、制御処理が開始される。この処理内容は、コントローラ10において一定間隔、例えば50msec毎に連続的に行われる。
【0068】
まず、ステップS10において、コントローラ10は自車両の走行状態を取得する(S10)。コントローラ10は、処理の基準となる位置を特定するため、ナビゲーション装置200から車両の走行地点を取得する。また、コントローラ10は、自車両の走行地点の変化を予測するため、車両コントローラ300から車速と操舵角を取得する。さらに、本例において、コントローラ10は、将来走行位置を求めるため、測距・測位装置400から車両と走行する地点とを含む車線との相対関係を取得する。具体的に、コントローラ10は、側方カメラ410によって検出された自車両の左右領域の撮像画像から認識されたレーンマーカに基づいて、自車両の現在位置における車線内横位置、車線に対する自車角度を検出する。これにより、車両の車線に対する実際の相対位置を導くことができる。
【0069】
次に、ステップ20において、コントローラ10は離隔度を算出する。本例では、車両が仮想注視点に到達するために要する到達時間を離隔度として算出する。コントローラ10は、ナビゲーション装置200にアクセスし、各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境を参照する。このとき、コントローラ10は、走行道路の曲率Rを取得する。なお、走行道路の曲率Rは、測距・測位装置400の撮像画像と走行状態とに基づいて求めることもできる。
【0070】
コントローラ10は、仮想注視点として、運転者が走行時に見ている時間が長いとされるタンジェントポイントを用い、図3又は図4に示す手法を用いてタンジェントポイントへの到達時間TTPを算出する。
【0071】
続いて、ステップ30において、コントローラ10は、ステップS10において算出された到達時間を含む到達時間帯における車両の将来走行位置を算出する。コントローラ10は、ステップS10で取得した自車両の相対位置関係と、車速Vと、操舵角αに基づき、車両の将来位置を算出する。
【0072】
具体的に、まず車速Vと操舵角αを用いて自車両の旋回半径rを算出する。算出手法としては、例えば特開2006−155000に示される手法を用いることができる。本実施形態の将来走行位置は、自車両の車線内での相対位置を基点に、旋回半径rで定まる進路に沿って車速Vで走行した場合に、到達時間TTPを含む所定到達時間帯に自車両が到達する位置である。
【0073】
続くステップS40において、コントローラ10は、将来走行位置を走行する際の理想走行位置を取得し、この理想走行位置に対する将来走行位置の偏差に基づいて、車両の誘導量を算出する。本例における理想走行位置は、走行車線の車線中央である。
【0074】
本実施形態では、誘導量Iを将来走行位置における車線中央からの横方向距離である偏差Xfを用いて下式(5)により算出する。ただし、k11は、車両の性能に応じて設定してもよいし、車種ごとの車両実験結果に基づいて設定してもよい。
【0075】
I=k11・Xf ・・・(5)
また、ステップS40において、誘導量Iを、将来走行位置における自車両と車線の偏角Yfを考慮し、下記の式(6)を用いて算出することもできる。ただし、k13、k14は、車両の性能に応じて設定してもよいし、車種ごとの車両実験結果に基づいて設定してもよい。
【0076】
I=k13・Xf+k14・Yf ・・・(6)
なお、左右の車線からの距離を用いて誘導量Iを算出してもよい。誘導量Iの算出手法は特に限定されず、例えば車線中央(理想走行位置)からの偏差を示す値であれば、誘導量Iとして用いることができる。
【0077】
算出された誘導量は、触覚刺激伝達装置20へ送出される。
【0078】
ステップS50において、触覚刺激伝達装置20は、誘導量に応じた触覚刺激を含む運転支援情報を乗員に与える。
【0079】
触覚刺激伝達装置20は、算出された誘導量Iに基づき、押圧装置21又は振動装置22の駆動機構212、222が備えるアクチュエータを駆動させる。触覚刺激伝達装置20は、図14〜16に示す誘導量Iと駆動量との関係を用いて制御量を決定し、押圧装置21の可動部材211を動かし、又は振動装置22の振動部材221を振動させる。以上で、1回の処理を終了する。
【0080】
<実験例>
図18〜図20に基づいて、本実施形態の実験結果を説明する。
【0081】
本実験例は、実際の道路を走行するのではなく、車両の前方に擬似的に道路情報を投影することができるドライビングシミュレータを用いて行った。本実験例で用いた車両は、第1実施形態において説明するサイドサポート部211と駆動機構212とを有する押圧装置21を備える。また、第1実施形態ではナビゲーション装置200、車両コントローラ300、測距・測位装置400から走行状態及び走行環境を得るが、本実験例においては、ドライビングシミュレータが、走行状態及び走行環境を算出する。
【0082】
本実験例で使用した走行コースは、直線と一定曲率のカーブから成る仮想の道路である。
【0083】
本実験を行う被験者(運転者)に対しては、所定のタンジェントポイントを注視し、車線中央を走行するよう指示した上で、一定車速で運転を行わせた。
【0084】
その際、将来走行地点への到達時間を含む時間帯、例えば、測定開始時点(0秒)から1.5秒先までの時間帯において、所定周期(所定のタイミング)で将来走行位置における車線中央に対する将来走行位置の偏差量に応じてサイドサポート部211を左右に移動させることにより、乗員に押圧力を与えて運転支援情報を伝達した。
【0085】
実験条件を変えて、複数回本実験を行い、運転負荷の評価を行った。運転負荷の評価手法としては、ステアリングエントロピー法による運転者負荷評価法(中山沖彦ら;国際交通安全学会誌Vol.26,No.4,243頁〜250頁)又は、このステアリングエントロピー法と傾向が略一致する、操舵角速度の標準偏差を用いた。
【0086】
ところで、運転者の違和感は主観的なものであるため、自動車性能の向上においてこの違和感の低減を検証するためには、運転者の違和感を定量的な指標値として示す必要がある。本実験例においては、運転者の違和感を運転負荷として評価する。本実験例では、触覚刺激を与えるタイミングを変化させた場合の運転負荷を評価することにより、どのような場面で運転負荷が低減するのか、つまり、どのような場面で運転者の違和感が低減されるのかを考察する。
【0087】
図18は、実験により得られた、触覚刺激を与えたタイミングと運転負荷との関係を示す図である。
【0088】
図18に示されるように、タイミングSSX3において触覚刺激を与えた場合に、運転負荷が最小となる傾向が見られる。また、このタイミングSSX3は、曲率と車速から算出されるタンジェントポイント(仮想注視点)への到達時間に相当する。この結果によれば、タンジェントポイント(仮想注視点)への到達時間を含む所定到達時間帯における誘導量(将来走行位置と理想走行位置との偏差)に応じた触覚情報を与えると、乗員が感じる触覚刺激と視覚刺激との感覚が一致するため、乗員の違和感を低減させ、結果として運転負荷を低減させることができる。
【0089】
また、図18に示されるように、触覚刺激を行わない場合、離隔領域(所定到達時間帯)以外のタイミングで触覚刺激を与えると、運転負荷が相対的に高くなる。
【0090】
図19は、触覚刺激を与えるタイミングと運転負荷との実験結果を示す図である。つまり、図18の実験結果を自車両に対する位置関係として示す図である。図19に示すように、仮想注視点への到達時間を含む到達時間帯において触覚刺激を与えた場合は運転負荷が低減し、到達時間帯を外れた時間帯において触覚刺激を与えた場合は運転負荷が高まる。本実験例によれば、視覚刺激の対象と触覚刺激の対象を一致させることにより、運転負荷を低減できるタイミングで、触覚刺激による運転誘導情報を乗員に伝達することができる。
【0091】
図20は、所定到達時間帯で触覚刺激を与えた場合の運転誘導効果と、触覚刺激を与えない場合の運転誘導効果との比較結果を示す図である。本実験例では、車両が車線中央を走行するように運転の誘導を行うので、車線中央からの偏差の絶対値平均に基づいて運転誘導の効果を定量的に評価する。図20に示すように、仮想注視点までの到達時間を含む所定到達時間帯において走行する将来走行位置の情報を提示することにより、車線中央からの偏差の絶対値平均が小さくなり、運転誘導の効果が高いことを確認できた。このように、本実験例により、将来走行位置における誘導量に対応する触覚刺激を乗員に与えることにより、適切な運転支援を行うことができる。
【0092】
本発明は以上のように構成され、以上のように作用するので、以下の効果を奏する。
【0093】
本実施形態によれば、車両とその車両の乗員の仮想注視点との離隔度を含む所定離隔領域における車両の将来走行位置を算出し、その将来走行位置を走行する際の理想走行位置に対する将来走行位置の偏差から導出された車両の誘導量に応じた触覚刺激を乗員に与えるため、運転者に与える触覚刺激に対応する走行場面と運転者が得る視覚刺激に対応する走行場面とが整合するため、運転者の違和感を低減し、運転負荷を加重させることなく運転を支援することができる。
【0094】
本発明では、車速と道路の曲率から算出される仮想注視点までの到達時間を算出し、到達時間を含む到達時間帯に走行する将来走行位置での誘導量を触覚刺激により乗員に与えるので、触覚刺激で伝達される情報に対する時間感覚と視覚刺激により得る情報に対する時間間隔と略一致させることができるため、乗員の違和感を低減させることができ、運転負荷を低減させることができる。
【0095】
ちなみに、人間の知覚研究においては、視覚、触覚、聴覚、などの各感覚は相互に関連を持っていることが知られている。典型的な例として、共感覚がある。これはC音を聞くと目の前に赤色模様が同時に見えてくるといった現象である。また、視覚で得た情報と、触覚で得た情報が食い違う場合、より発達した視覚が優位となり、触覚刺激の伝達がブロックされる視覚優位という現象も知られている。共感覚と視覚優位を考慮した場合、乗員が違和感を持たないようにするためには、運転者に与える触覚刺激は運転者が得る視覚情報と一致させる必要がある。本発明によれば、運転者が見る仮想注視点までの離隔度と同等の離隔度にある将来走行位置における誘導量を触覚刺激として与えるため、乗員の違和感を低減させることができ、運転負荷を低減させることができる。
【0096】
また、各地点と走行路の曲率及び車線幅と車両の車速に基づいて、到達時間を算出するため、車両がタンジェントポイントに到達するために要する時間を正確に算出することができる。タンジェントポイントは運転者がカーブ走行中に主に注視する地点であるので、実際に運転者が注視する地点を仮想注視点として設定することができる。これにより、運転者に与える触覚刺激は運転者が得る視覚情報と高い精度で一致させることができる。
【0097】
さらに、到達時間TTPを式1及び式2を用いて算出することにより、走行路の曲率、車速、車線幅などの走行環境及び走行状態が反映された到達時間を算出することができる。
【0098】
TTP=(R+w)sinθ/Vcosθ ・・・(1)
cosθ=R/(R+w)・・・(2)
ただし、Rは走行路の曲率、Vは車速、θは車両の進行方向を基準とした見開き角、wは車線幅に応じた定数である。
【0099】
さらにまた、到達時間TLCを式3及び式4を用いて算出することにより、到達時間TTCを用いる場合と同様の効果を得ることができるとともに、到達時間TTC算出ではカーブ内側の車線情報が必要なのに対し、到達時間TLC算出に用いるのはカーブ外側の車線情報を用いるため、カーブ内側の車線情報が取得できない場合に到達時間TTCの代替として用いることができる。
【0100】
TLC=(R+w)tanθ/V ・・・(3)
cosθ=R/(R+w) (wは係数)・・・(4)
ただし、Rは走行路の曲率、Vは車速、θは車両の進行方向を基準とした見開き角、wは車線幅に応じた定数である。
【0101】
また、本実施形態のコントローラ10は、車両の走行地点を含む走行路の車線幅を取得する機能を備えるので、実際の走行路の車線幅に基づいて到達時間を算出することができるため、車線道幅を固定の値としてTTC及びTLCその他の到達時間を算出するよりも精度を高めることができる。
【0102】
また、仮想注視点までの離隔度は、距離によって表現することもでき、多様な算出手法から有利な手法を選択することができる。
【0103】
本実施形態において、将来走行位置を算出する際に、車両とその車両が走行する地点を含む車線との相対位置関係を用いることにより、車線に対する相対位置関係が考慮された正確な将来走行位置を算出することができる。また、車両と車線との相対位置関係を用いることにより、曲率の小さいカーブを含む走行路においても、将来走行位置を算出することができる。
【0104】
同じく、将来走行位置を算出する際に、車両の操舵角及び車速を用いることにより、車両の操舵方向が考慮された正確な将来走行位置を算出することができる。また、車両の操舵角及び車速を用いることにより、曲率の大きいカーブを含む走行路においても、将来走行位置を算出することができる。
【0105】
同じく、将来走行位置を算出する際に、車両のヨーレート及び車速を用いることにより、車両のヨーレートが考慮された正確な将来走行位置を算出することができる。また、車両のヨーレート及び車速を用いることにより、曲率の大きいカーブを含む走行路においても、将来走行位置を算出することができる。
【0106】
また、誘導量を算出する際、理想走行位置としての車線中央位置に対する将来走行位置の偏差に基づいて誘導量を算出するため、道路中央への誘導効果を期待することができる
さらに、可動部材211を駆動して乗員に触覚刺激を与えることにより、可動部材211の移動方向を誘導方向に対応づけ又は可動部材211の移動量を誘導量に対応づけることができる。具体的に、運転者に接触する部分(例えばサイドサポート部211)を左右方向に駆動させることにより、乗員に与える触覚刺激の方向と誘導方向の関係を運転者に直観的に認識させることができる。また、運転者に接触する部分(例えばサイドサポート部211)の移動量を増減することにより、乗員に与える触覚刺激の強さと誘導量の関係を運転者に直観的に認識させることができる。
【0107】
さらにまた、振動部材221を振動させ乗員に触覚刺激を与えることにより、振動部材221の振動部分を誘導方向に対応づけ又は振動部材221の振動量を誘導量に対応づけることができる。具体的に、運転者の右側と左側にそれぞれ接触する部分に内蔵された振動部材221の何れか一方を振動させることにより、乗員に与える触覚刺激の方向と誘導方向の関係を運転者に直観的に認識させることができる。また、運転者に接触する部分に内蔵された振動部材221の振動の周波数や振幅を増減することにより、乗員に与える触覚刺激の強さと誘導量の関係を運転者に直観的に認識させることができる。
【0108】
このように、シートに内蔵された振動部材221により運転者に刺激を与えるため、触覚受容器の中で主に振動に反応するマイスナー小体とバチニ小体を刺激することができ、押圧力を与える場合と比べて、順応による感度低下を抑えることができる。
【0109】
<第2実施形態>
続いて、第2実施形態の走行支援システム100´について説明する。第2実施形態における走行支援システム100´は、第1実施形態の走行支援システムと基本的に共通する。ここでは重複した説明を避けるため、異なる点を中心に説明する。
【0110】
図21は、第2実施形態の走行支援システム100´を含む車載装置1000のブロック構成である。図21に示すように、第1実施形態の運転支援100と異なる点は、触覚刺激伝達装置20が操舵誘導装置22を備える点である。この操舵誘導装置22は、操舵反力を発生させるトルク発生機構231と、この操舵反力に応じてステアリングの操作性を変化させる駆動機構232とを有する
本実施形態のコントローラ10は、情報伝達処理を行う際に操舵誘導指令機能を実現する。本実施形態のコントローラ10は、算出された誘導量に応じた操舵反力を発生させ、この操舵反力により触覚刺激を含む運転支援情報を乗員に与えさせる指令を生成し、触覚刺激伝達装置20へ送出する。
【0111】
また、本実施形態のコントローラ10は、誘導量算出処理を行う際に、将来走行位置を走行する際の理想操舵角を算出し、この理想操舵角に対する車両の操舵角の偏差に基づいて、車両の誘導量を算出する機能を実現する。
【0112】
図22は、本実施形態の処理手順を示すフローチャート図である。ステップS10〜ステップS30の処理は第1実施形態のステップS10〜ステップS30の処理と共通する。
【0113】
ここでは、ステップS60以降の処理について説明する。
【0114】
ステップ60において、ステップS30において算出される将来走行位置Pが、車線中央等で規定される理想走行位置上に存在するように、理想操舵角βを算出する。具体的には、理想操舵角βと車速Vを用いて、例えば特開2006−155000に示される手法を用いて旋回半径r2を算出する。そして、自車両の車線内での相対位置を基点に、旋回半径r2で定まる進路に沿って車速Vで走行した場合に、到達時間TTP秒後に到達する将来走行位置Pを算出し、将来走行位置Pにおける目標軌道との偏差Xf2を算出する。この偏差Xf2がゼロとなるように理想操舵角βを算出する。
【0115】
ステップ70において、現在の操舵角αと理想操舵角βを用いて、例えば下記の式(7)により誘導量Iを算出する。ただし、k12は、車両の性能に応じて設定してもよいし、車種ごとの車両実験結果に基づいて設定してもよい。
【0116】
I=k12・(β−α) ・・・(7)
ステップ80において、ステップ70で算出された誘導量Iに基づき、トルク発生機構231により操舵反力を発生させる。具体的には、現在の操舵角αが理想操舵角βに対して足りない場合には操舵を切り増す方向にトルクを発生させ、逆に現在の操舵角αが理想操舵角βに対して大きい場合には、操舵を戻す方向にトルクを発生させる。トルク発生量は、誘導量Iが大きいほど大きくする。
【0117】
本実施形態は、以上のように構成され、動作するので以下の効果を奏する。
【0118】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0119】
また、実際の操舵角αと理想操舵角βとの差に基づきトルクを発生させ、その操作反力により触覚刺激を乗員に与えるため、操舵を行う運転者は直感的に触覚情報を知覚することができるので、乗員を効果的に誘導することができる。
【0120】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0121】
すなわち、本明細書では、本発明に係る運転支援装置の一態様として運転支援システム100を例にして説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0122】
また、本明細書では、本発明に係る運転支援装置の一態様として、CPU11、ROM12、RAM13を含むコントローラ10を備えた運転支援システム100を一例として説明したが、これに限定されるものではない。
【0123】
また、本明細書では、本願発明が備える走行状態取得手段が実現する走行状態取得機能と、本願発明が備える将来走行位置算出手段が実現する将来走行位置算出機能と、本願発明が備える誘導量算出手段が実現する誘導量算出機能と、本願発明が備える情報伝達手段が実現する情報伝達機能とを実行するコントローラ10を備える運転支援システム100を例にして説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0124】
また、本明細書では、本願発明の操舵誘導指令部を含む情報伝達手段の一例として、操舵誘導指令機能を実現するコントローラ10を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0125】
また、本明細書では、理想操舵角に対する車両の操舵角の偏差に基づいて車両の誘導量を算出する誘導量算出手段の一例として、理想操舵角に対する車両の操舵角の偏差に基づいて車両の誘導量を算出する機能を実現するコントローラ10を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】第1実施形態の運転支援システム100を含む車載装置1000のブロック構成図である。
【図2】仮想注視点の一例を説明するための図である。
【図3】離隔度の算出手法の第1の例を説明するための図である。
【図4】離隔度の算出手法の第2の例を説明するための図である。
【図5】将来走行位置を求める手法の例を説明するための図である。
【図6】誘導量を求める手法の第1の例を説明するための図である。
【図7】誘導量を求める手法の第2の例を説明するための図である。
【図8A】押圧装置21の第1の例を示す図である。
【図8B】図8Aに示す押圧装置21の駆動機構の一例を示す図である。
【図9A】押圧装置21の動作の一例を説明するための図である。
【図9B】図8Aに示す押圧装置21の動作の一例を説明するための他の図である。
【図10】押圧装置21の第2の例を示す図である。
【図11】図10に示す押圧装置21の動作を説明するための図である。
【図12】押圧装置21の第3の例を示す図である。
【図13】振動装置22の設置例を示す図である。
【図14】押圧装置21の駆動機構211に設けられたアクチュエータの制御量Sactと誘導量Iとの第1の関係例を示す図である。
【図15】押圧装置21の駆動機構211に設けられたアクチュエータの制御量Sactと誘導量Iとの第2の関係例を示す図である。
【図16】押圧装置21の駆動機構211に設けられたアクチュエータの制御量Sactと誘導量Iとの第3の関係例を示す図である。
【図17】第1実施形態の運転支援システム100の処理を説明するためのフローチャート図である。
【図18】触覚刺激を与えるタイミングと運転負荷との実験結果を示す図である。
【図19】触覚刺激を与えるタイミングと運転負荷との関係を説明するための図である。
【図20】所定到達時間帯で触覚刺激を与えた場合の運転誘導効果と、触覚刺激を与えない場合の運転誘導効果との比較結果を示す図である。
【図21】第2実施形態の運転支援システム100´を含む車載装置1000のブロック構成図である。
【図22】第2実施形態の運転支援システム100´の処理を説明するためのフローチャート図である。
【符号の説明】
【0127】
1000…車載装置
100,100´…運転支援システム
10…コントローラ
11…CPU
12…ROM
13…RAM
20…触覚刺激伝達装置
21…押圧装置21
211…可動部材
212…駆動機構
22…振動装置
221…振動部材
222…駆動機構
200…ナビゲーション装置
210…自車位置検出装置
220…走行環境情報
300…車両コントローラ
310…車速センサ
320…操舵角センサ
330…ヨーレートセンサ
400…測距・測位装置
410…側方カメラ
420…前方カメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を運転する乗員に触覚刺激を与えることにより、運転支援情報を伝達する運転支援装置において、
所定タイミングにおける車両の走行地点及び車速を含む走行状態を取得する走行状態取得手段と、
各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境を参照し、前記車両の走行状態に基づいて、前記車両と当該車両の乗員の仮想注視点との離隔度を算出するとともに、前記離隔度を含む所定離隔領域における前記車両の将来走行位置を算出する将来走行位置算出手段と、
前記走行環境を参照し、前記将来走行位置を走行する際の理想走行位置を取得し、この理想走行位置に対する前記将来走行位置の偏差に基づいて、前記車両の誘導量を算出する誘導量算出手段と、
前記誘導量算出手段により算出された誘導量に応じた触覚刺激を含む運転支援情報を前記乗員に与えさせる情報伝達手段と有する運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援装置において、
前記将来走行位置算出手段は、各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境を参照し、前記車両の走行状態に基づいて、前記車両が当該車両の乗員の仮想注視点に到達するまでの到達時間を前記離隔度として算出するとともに、前記到達時間を含む所定到達時間帯における前記車両の将来走行位置を算出することを特徴とする運転支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の運転支援装置において、
前記走行環境は、各地点と走行路の曲率及び車線幅が対応づけられた情報を含み、
前記将来走行位置算出手段は、前記各地点と走行路の曲率及び車線幅と前記車両の車速に基づいて、前記到達時間を算出することを特徴する運転支援装置。
【請求項4】
請求項3に記載の運転支援装置において、
前記将来走行位置算出手段は、前記各地点と走行路の曲率及び車線幅と前記車両の車速に基づいて、式(1)及び式(2)により前記到達時間TTPを算出することを特徴する運転支援装置。
TTP=(R+w)sinθ/Vcosθ ・・・(1)
cosθ=R/(R+w)・・・(2)
ただし、Rは走行路の曲率、Vは車速、θは車両の進行方向を基準とした見開き角、wは車線幅に応じた定数である。
【請求項5】
請求項3に記載の運転支援装置において、
前記将来走行位置算出手段は、前記各地点と走行路の曲率及び車線幅と前記車両の車速に基づいて、式(3)及び式(4)により前記到達時間TLCを算出することを特徴する運転支援装置。
TLC=(R+w)tanθ/V ・・・(3)
cosθ=R/(R+w) (wは係数)・・・(4)
ただし、Rは走行路の曲率、Vは車速、θは車両の進行方向を基準とした見開き角、wは車線幅に応じた定数である。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の運転支援装置において、
前記将来走行位置算出手段は、所定タイミングにおける車両の走行地点を含む走行路の車線幅を取得する運転支援装置。
【請求項7】
請求項1に記載の運転支援装置において、
前記将来走行位置算出手段は、各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境を参照し、前記車両の走行状態に基づいて、前記車両が当該車両の乗員の仮想注視点までの距離を前記離隔度として算出するとともに、前記距離を含む所定距離域における前記車両の将来走行位置を算出することを特徴とする運転支援装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の運転支援装置において、
前記走行状態は、車両と当該車両が走行する地点を含む車線との相対位置関係を含み、
前記将来走行位置算出手段は、前記相対位置関係と前記走行状態に含まれる車速とに基づいて前記将来走行位置を算出する運転支援装置。
【請求項9】
請求項8に記載の運転支援装置において、
前記走行状態は、車両の操舵角をさらに含み、
前記将来走行位置算出手段は、前記相対位置関係と前記走行状態に含まれる車速及び操舵角に基づいて前記将来走行位置を算出する運転支援装置。
【請求項10】
請求項8に記載の運転支援装置において、
前記走行状態は、車両のヨーレートをさらに含み、
前記将来走行位置算出手段は、前記相対位置関係と前記走行状態に含まれる車速及びヨーレートに基づいて前記将来走行位置を算出する運転支援装置。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか一項に記載の運転支援装置において、
前記誘導量算出手段は、前記将来走行位置を走行する際の前記車線中央位置を算出し、この車線中央位置に対する前記将来走行位置の偏差に基づいて、前記車両の誘導量を算出することを特徴する運転支援装置。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか一項に記載の運転支援装置において、
情報伝達手段は可動部を含み、前記可動部を駆動することにより乗員に触覚刺激を与えることを特徴とする運転支援装置。
【請求項13】
請求項1〜11の何れか一項に記載の運転支援装置において、
情報伝達手段は振動部を含み、前記振動部を駆動することにより乗員に触覚刺激を与えることを特徴とする運転支援装置。
【請求項14】
請求項1〜11の何れか一項に記載の運転支援装置において、
情報伝達手段は操舵誘導指令部を含み、前記操舵誘導指令部は、前記誘導量算出手段により算出された誘導量に応じた操舵反力を発生させ、この操舵反力により触覚刺激を含む運転支援情報を前記乗員に与えさせることを特徴とする運転支援装置。
【請求項15】
請求項14に記載の運転支援装置において、
前記走行状態は、車両の操舵角を含み、
前記誘導量算出手段は、前記将来走行位置を走行する際の理想操舵角を算出し、この理想操舵角に対する前記車両の操舵角の偏差に基づいて、前記車両の誘導量を算出することを特徴する運転支援装置。
【請求項16】
乗員に触覚刺激を与えることにより、運転支援情報を伝達する運転支援方法において、
所定タイミングにおいて取得した車両の走行地点及び車速を含む走行状態に基づいて、各地点と走行路の環境とが予め対応づけられた走行環境を参照し、前記車両と当該車両の乗員の仮想注視点との離隔度を含む所定離隔領域における前記車両の将来走行位置を算出し、
前記走行環境を参照して導出された前記将来走行位置を走行する際の理想走行位置に対する前記将来走行位置の偏差に基づいて、前記車両の誘導量を算出し、
前記誘導量に応じた触覚刺激を前記乗員に与える命令を生成し、送出する運転支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−128667(P2010−128667A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300989(P2008−300989)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】