説明

配線形成方法

【課題】樹脂基板上に、接着層等を形成するための別の工程を加えることなく、基板との密着性の高い導電性配線を簡単に形成することができる配線形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】樹脂基板1上に、導電性微粒子を含有する分散溶液の塗布層3を形成する工程と、レーザ光6を塗布層3の特定領域に連続的に照射していくことで、導電性微細配線4を形成する工程と、導電性微細配線4以外の領域の材料を除去する工程とを備え、塗布層3の厚さをd、塗布層3の光吸収係数をα、レーザ光6の入射光強度をI0、樹脂基板1上に到達するレーザ光6の透過光強度をI1とするとき、以下の関係式から成り立つことを特徴とする。
log(I1/I0)=−αd

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基板上に導電性配線を形成すると共に、導電性配線と樹脂基板との密着性を向上させることができる配線形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電子デバイス製造において、樹脂基板上に微細な導電性配線を形成する方法としては、銀や銅などの導電膜をスパッタリング、真空蒸着、無電解めっき等により全面に成膜した後、フォトリソグラフィ法により所望の配線にエッチングする方法、マスクを通して無電解めっきや真空蒸着により所望の導電性配線を形成する方法、導電ペーストを用いて樹脂基板上に直接描画する方法等が知られている。しかし、上述のプロセスでは、装置が大型化してしまったり、手間のかかる工程が必要であったり、解像度が不足していたりなどの諸問題があり、簡便な方法で、かつ高精細な導電性微細配線を形成できる方法が望まれている。
【0003】
一方、粒子直径サイズが1〜数百nmである極微粒子(以下、ナノ粒子という)は、量子サイズ効果などの特有な効果を発現する機能材として、近年その開発が脚光を浴びており、ナノ粒子を含有したインク材料を用いて導電性微細配線を形成する技術開発も行われている。ナノ粒子材料を利用して、例えば、インクジェット法やスクリーン印刷法などによる導電性微細配線形成方法なども各種提案されているが、配線の微細化や、位置精度などの問題を伴うものである。
【0004】
このような工法の例として例えば、(特許文献1)のような導電性微細配線形成方法が提案されている。
【0005】
この工法では、樹脂基板上に、インクジェットもしくはスクリーン印刷工法により微細なパターンを形成後、焼成を行うことで導電性微細配線を得ることができる。また、基板との密着性を向上させるために、事前に接着層を形成しておくと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−247572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した工法は、確かに樹脂基板上に導電性微細配線を形成することができ、また基板との密着性を向上させるための方策も示されている。しかし、基板との密着性を高めるためには、接着層等を形成するための別のプロセスも必要であり、簡便な方法とはいえない。
【0008】
そこで、本発明は、上記に課題に鑑みてなされたものであって、接着層等を形成するための別の工程を加えることなく、樹脂基板上に、基板との密着性の高い導電性配線を簡単に形成することができる配線形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、樹脂基板上に、導電性微粒子を含有する分散溶液の塗布層を形成する工程と、レーザを前記塗布層の特定領域に連続的に照射していくことで、導電性配線を形成する工程と、前記導電性配線以外の領域の材料を除去する工程とを備え、前記塗布層の厚さをd、前記塗布層の光吸収係数をα、前記レーザの入射光強度をI0、前記樹脂基板上に到達する前記レーザの透過光強度をI1とするとき、以下の関係式から成り立つことを特徴とする配線形成方法である。
【0010】
log(I1/I0)=−αd
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接着層等を形成するための別の工程を加えることなく、樹脂基板上に、基板との密着性の高い導電性微細配線を簡単に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施例による配線形成のプロセス図
【図2】本実施例による配線形成装置の模式図
【図3】本実施例による配線形成装置の制御ブロック図
【図4】本実施例による配線形成装置の制御フロー図
【発明を実施するための形態】
【0013】
請求項1記載の発明の配線形成方法は、樹脂基板上に、導電性微粒子を含有する分散溶液の塗布層を形成する工程と、レーザを塗布層の特定領域に連続的に照射していくことで、導電性微細配線を形成する工程と、導電性微細配線以外の領域の材料を除去する工程とを備え、塗布層の厚さをd、塗布層の光吸収係数をα、レーザの入射光強度をI0、樹脂基板上に到達するレーザの透過光強度をI1とするとき、以下の関係式から成り立つことを特徴とする導電性微細配線形成方法である。
【0014】
log(I1/I0)=−αd
これにより、接着層等を形成するための別の工程を加えることなく、樹脂基板上に、基板との密着性の高い導電性微細配線を簡単に形成することができる。
【0015】
請求項2記載の発明の配線形成方法は、上記発明において、透過光強度I1が5mW以上であって、レーザ照射により導電性配線を形成していくと同時に、形成する導電性配線と接する樹脂基板の表層も形状変形させるというものであり、樹脂基板上に導電性配線を形成すると共に、導電性配線と樹脂基板との密着性を向上させるという作用を有する。
【0016】
請求項3記載の発明の配線形成方法は、上記発明において、樹脂基板のガラス転移温度が、50℃以上、300℃以下というものであり、効率よく導電性配線を形成することができる。
【0017】
請求項4記載の発明の配線形成方法は、上記発明において、波長の異なる2種類のレーザ光を同時に照射して、第1のレーザ光は塗布層で吸収され、第2のレーザ光は樹脂基板で吸収されるというものであり、2種類のレーザ光で塗布層と樹脂基板とをそれぞれ最適な条件にして、導電性配線の形成を行うことができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0019】
本発明の配線、より具体的には導電性微細配線の形成方法は、導電性のナノ粒子(特許請求の範囲における導電性微粒子に対応する)を含有する導電性ナノ粒子分散溶液を用いることを特徴とする。
【0020】
まず始めに、導電性微細配線形成の大まかなプロセスを図1を用いて説明する。図1は、本実施例による配線形成のプロセス図であるが、図1(a)は樹脂基板1上に塗布層3が形成された状態の断面図であり、図1(b)はレーザ照射により導電性微細配線4が形成されている途中状態の断面図、図1(c)は導電性微細配線4が形成された状態の断面図である。まず、第1のステップとして、後述するディッピング法、スピンコート法などにより樹脂基板1上に塗布層3を形成して図1(a)の状態になる。次に第2のステップとして、図1(a)の状態の塗布層3に対してレーザ光6を照射しながら、樹脂基板1とレーザ光6を相対的に移動させることで、導電性微細配線4が形成されると共に、樹脂基板表層の熱変形により樹脂基板表面租部2が形成されることで導電性微細配線4との密着性が向上する。第3のステップとして、前ステップで形成された導電性微細配線4以外の余剰な塗布層3を適当な溶剤などにより除去することで、樹脂基板1上に樹脂基板表面租部2と共に導電性微細配線4だけが残されることになる。
【0021】
以下に、各プロセスに関する詳細な説明を行う。
【0022】
一般的に、導電性を示す金属または複合金属の物性値は、バルク材料とナノ粒子とでは大きく異なることが知られている。例えば、銀ナノインクと呼ばれる導電性ナノ粒子分散溶液中に含まれる銀(Ag)のナノ粒子の平均粒子径は5〜10nm程度と非常に小さい。このため粒子表面の格子歪みが通常の銀のバルク材料と比べて大きく、それゆえ各種特徴が現れてくる。例えば、融点(厳密には、溶融する状態と定義できないかもしれないが)で比較すると、銀のバルク材料の融点は約900℃であるのに対して、銀のナノ粒子では200℃以下で溶融状態となるものもある。一方、銀のナノ粒子が溶融した状態での比抵抗値は、バルク材料と比べて、同程度もしくは若干劣る程度の比抵抗値が得られる。そこで、バルク材料の融点である900℃の領域では、例えば樹脂材料等を基板として用いることはできないが、200℃程度であれば、耐熱温度の高い樹脂材料、例えばポリイミドなどの樹脂材料を基板として利用することが可能となる。
【0023】
さらに具体的には、上記導電性ナノ粒子は、20℃における比抵抗値が20μΩ・cm以下(好ましくは10μΩ・cm以下)である金属または複合金属材料であることが望ましい。このような条件を満足する金属としては、Au,Ag,Cu,Zn,Cd,Al,In,Tl,Sn,Co,Niなどが挙げられる。これらの中でもAu,Ag,Cu,Al,Zn,SnおよびInが比抵抗値および融点がより低いので好ましい。
【0024】
また、導電性ナノ粒子が複合金属からなる場合、Au,Ag,Cu,Al,Zn,SnおよびInの少なくとも1種を含有する複合金属を用いるのが好ましい。かかる複合金属としては、Cu−Zn,Cu−Sn,Al−Cu,Cu−Sn−Pd,Cu−Ni,Au−Ag−Cu,Au−Zn,Au−Ni,Ag−Cu−Zn,Ag−Cu−Zn−Sn,Sn−Pb,Ag−In,Cu−Ag−Ni,Ag−Pd,Ag−Cuなどが挙げられるが、もちろんこれらに限定されるものではない。複合金属中の各金属の組成比については特に制限はなく、種々選択できる。
【0025】
さらに、金属および複合金属は不純物元素を含んでいてもよいが、その量は1%未満であることが好ましい。不純物元素としては、Fe,Cr,W,Sb,Bi,Pd,Rh,Ru,Ptなどの金属、また金属以外にも、P,B,C,N,Sなどの非金属、Na,Kなどのアルカリ金属、およびMg,Caなどのアルカリ土類金属が挙げられる。これらの不純物元素は、1種もしくは2種以上含有されていてもよい。
【0026】
本発明で用いる導電性ナノ粒子分散溶液は、上記の金属または複合金属のナノ粒子を製造した後、適当な溶媒に分散させることによって調製することができる。分散溶媒としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶媒が利用可能であるが、これに限定されるものではなく、ナノ粒子の分散性、安定性が確保でき、かつ後処理で扱いやすく、100℃程度の低温沸点を有するものであればよい。なお、この様にして調製した導電性ナノ粒子分散溶液をそのまま塗布液として用いてもよいし、例えば、粘度調整のために濃縮、脱塩、精製、希釈等の種々の処理を施した後に塗布液として用いてもよい。
【0027】
導電性微細配線を形成する樹脂基板としては、ポリカーボネート;ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エポキシ樹脂;フッ素樹脂;ナイロン;ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、ポリイミド等を挙げることができ、所望によりそれらを複合させたり、積層させたりしたものなど併用したものを用いてもよい。
【0028】
上述した導電性ナノ粒子分散溶液を用いて塗布層を基板上に形成する。形成される塗布層としては、できるだけ均一な膜厚の方が望ましい。一般的には、スピンコート塗布法などの簡便な方法により比較的均一な薄膜層を形成できるものであるが、より厚膜を形成するためにはディッピング法などが適当である。
【0029】
次に、上述したように樹脂基板上に形成した塗布層にレーザ光を照射して導電性微細配線を形成する配線形成装置について図2〜図4を用いて説明する。図2は、本実施例による配線形成装置の模式図、図3は、本実施例による配線形成装置の制御ブロック図、図4は、本実施例による配線形成装置の制御フロー図である。
【0030】
さらに、このようなプロセスを詳細に説明する。
【0031】
図2において、1は樹脂基板、2は照射されるレーザ光の一部が樹脂基板1の表層まで到達することによって形成される樹脂基板表面租部、3は導電性ナノ粒子分散溶液の塗布層(以下、塗布層という)、4は塗布層3のうちレーザ光照射によって形成された導電性微細配線、5はレーザ光を微小スポットに絞り込むための集光レンズ、6はレーザ光、7は集光レンズアクチュエータ、8はXY軸基準位置ガイド、9はXYステージアクチュエータである。
【0032】
また、図3において、10はレーザ駆動電流制御部、11は集光レンズ位置制御部、12はXYステージ位置制御部、14は描画パターンデータ、15はレーザ光源、13は描画パターンデータ14に基づいて、集光レンズ5の位置データ、XYステージの位置データや移動速度、レーザ光源15の駆動電流データを算出する演算部である。なお、ここで、樹脂基板1の表面(または基板保持部材の基板保持面)内の互いに直交する2つの方向をX軸およびY軸としている。
【0033】
ここで、XYステージアクチュエータ9は、特許請求の範囲における駆動手段に対応し、XYステージ位置制御部12は、同じく駆動制御手段に対応し、レーザ駆動電流制御部10と集光レンズ位置制御部11は、同じくレーザ光照射制御手段に対応し、演算部13は、同じく演算手段に対応している。ここで、レーザ光源15と集光レンズアクチュエータ7は、特許請求の範囲におけるレーザ光照射手段に対応し、XYステージアクチュエータ9は、同じく駆動手段に対応し、XYステージ位置制御部12は、同じく駆動制御手段に対応し、レーザ駆動電流制御部10と集光レンズ位置制御部11は、同じくレーザ光照射手段に対応し、演算部13は、同じく演算手段に対応している。
【0034】
上記のように構成した配線形成装置についての動作を図4に示す。動作シーケンスの最初のステップとしては、立体物の回転軸を回転ステージの軸に合わせるように設置し、さらにレーザ光の集光スポットが立体物の基準位置マーカに合うように立体物の回転位置を調整する。次に、形成する導電性微細配線の描画パターンデータに基づいてスタート位置までXYステージ、回転ステージを移動させる。以降は、ユーザが設定した描画パターン、描画速度、レーザ出力の各データにしたがって、塗布層にレーザを照射していくが、より具体的には、塗布層上の描画条件の変化点、つまりXYステージアクチュエータ、回転ステージアクチュエータ、レーザ光源へ15の出力を変化させる必要がある位置での各データに基づいてシーケンシャルに制御を行っていく。全ての描画パターンデータに対して、以上のようなシーケンス制御を繰り返すことによって、ユーザが設定した所望の描画パターンが得られるものである。なお、ここではXYステージアクチュエータ9によって立体物5を移動制御する場合を説明したが、もちろん、両者が相対的に変位すればよいのであって、レーザ光側を移動制御させてもよい。
【0035】
上記のように構成した配線形成装置についての動作を図4に示す。動作シーケンスの最初のステップとしては、XY軸基準位置ガイドからの位置情報を基にして描画スタート位置まで、XYステージを移動させる。以降は、ユーザが設定した描画パターン、描画速度、レーザ出力の各データにしたがって、基板にレーザを照射していくが、より具体的には、基板上の描画条件の変化点、つまりXYステージアクチュエータ、レーザへの出力を変化させる必要がある位置での各データに基づいてシーケンシャルに制御を行っていくことによって、ユーザが設定した所望の描画パターンが得られるものである。
【0036】
また、導電性微細配線4の線幅は、塗布層3へのレーザ光6の照射スポットのサイズ、形状によって決まってくる。当然、より細い配線を形成する場合には、集光レンズ5によりレーザ光6を微小スポットに集光する必要がある。また、本質的に導電性微細配線4の形成は、レーザ光照射による熱エネルギー変化である。導電性微細配線4を形成するために樹脂基板1に対してレーザ光6を照射、スキャンしていくので、このスキャン速度によって塗布層3のある部位に投入される熱エネルギーは変わってくるため、レーザ光6の照射強度とスキャン速度の制御は重要である。
【0037】
さて、導電性微細配線と樹脂基板との密着性に関して説明する。通常、樹脂基板上の塗布層に対してレーザ光を照射し、導電性微細配線を形成するプロセスにおいて、照射するレーザ光の必要エネルギーは、塗布層に含まれるナノ粒子が結合して導電性微細配線へと変化するために必要なエネルギーであればよい。そのため、仮に、過剰なエネルギーのレーザ光を照射してしまうと、樹脂基板に熱によるダメージを与えてしまうため、照射するレーザ光は必要最小限度に制御されるものである。例えば、耐熱性の指標であるガラス転移温度が50℃以下の樹脂基板では、導電性微細配線を形成するために照射される必要最小レーザ光であっても、前述の理由により使用することが出来ない。
【0038】
ここで、塗布層を透過して樹脂基板表面にまで到達するレーザ光を考えてみると、レーザ光が、厚さdの塗布層を透過するとし、入射光強度I0、透過光強度I1、光吸収係数α、とすると
log(I1/I0)=−αd
となり、この関係式で規定される透過光が強すぎると樹脂基板自体が焼けてしまうことになる。
【0039】
しかしながら、本願は、この現象を逆に利用して、透過光が適当なエネルギーとなるように照射するレーザ光を制御し、樹脂基板に熱によるダメージで樹脂基板自体が使用不可とならないよう、樹脂基板の極表層だけが熱的変形をうけるだけに留めるように行うものである。
【0040】
一般的に、基板上に何かの薄膜等を形成する際に、基板との密着性を向上させる手法の中に、サンドブラストなどにより事前に基板表面を荒らしておくような方法がある。先に述べた基板表層の熱的な変形というのは、正にこの基板表面を荒らしておくという状態と同様のものである。また、樹脂基板表層の熱的変形と、導電性微細配線の形成は、一度のレーザ照射によって同時におこるものであるから、形成される導電性微細配線の下面は微小に変形した樹脂基板表層に沿ったような形状となっているため、当然、基板との密着性が向上する。以上のことは、樹脂基板上で生じる効果であって、例えばガラス基板上では期待できない。もちろん、樹脂基板と比べて耐熱温度が高いガラス基板であっても、強いレーザ光を照射すればガラス基板表面が熱変形する。しかし、そのような強いレーザ光を照射すると、アブレーションにより導電性微細配線自体が形成されない。また同様の理由により、樹脂基板のガラス転移温度が300℃以上の樹脂基板も不適当である。
【0041】
実際には、樹脂基板に必要以上のダメージを与えず、基板表層だけに熱的変形を作り出すために照射するレーザ光の強度は、塗布層の厚み、光吸収率と、樹脂基板のガラス転移温度、光吸収率などによって大きく変わるものであるため、適当な透過光強度となるように照射するレーザ光強度は制御されなければならない。
【0042】
例えば、樹脂基板のガラス転移温度、基板厚みなどにもよるが、塗布層を透過して基板表層まで到達するレーザ光強度を10mW程度だとすると、1%から20%程度の光透過率となっている塗布層に対して、1000mWから50mW程度のレーザ光を照射するのが適当である。ただし、塗布層の光透過率が低い場合には樹脂基板表面を変形させるため照射するレーザ光を強くする必要があるが、前述したように、レーザ光が強すぎるとアブレーションがおこってしまうため注意が必要である。また、逆に塗布層の光透過率が高い場合には、塗布層をメタル化するためのエネルギーで樹脂基板がダメージを受けてしまうため同様に注意が必要である。
【0043】
また、レーザ照射の走査速度について説明する。
【0044】
この基板密着性向上の効果は、レーザ照射による樹脂基板表層の熱変化によるものであるため、レーザの照射スキャン速度も当然影響するが、例えば、スキャン速度を低くしていくと、樹脂基板表層がうける熱エネルギーは増加していくが、単純な線形の関係とはならない。前述したように、樹脂基板表層の前段に塗布層があり、レーザ照射によりメタル化していく。この塗布層のメタル化によって光透過率は急激に低下し、樹脂基板表層まで到達するレーザ光のエネルギーは僅かなものとなる。したがって、例えばスキャン速度を半分にしたからといって、樹脂基板表層のあるエリアがうけるレーザ光のエネルギーは2倍となるわけではない。実際には、塗布層のメタル化と樹脂基板表層の熱変化との時間的競争の過渡変化であるため、スキャン速度を多少変化させても樹脂基板表層がうける熱量変化はあまり変化しない。したがって、スキャン速度を変えることにより樹脂基板表層がうける熱量を制御する方法はあまり有効な手段ではない。
【0045】
そのため、上述するように、レーザ光強度を調整することで、樹脂基板と配線層との密着性を高めている。
【0046】
以上の説明では、1種類のレーザ光を用いて、樹脂基板上に導電性微細配線の形成と、基板との密着性向上という2つの機能を狙ったものであるが、2種類のレーザ光を用いることも可能である。例えば、全く波長の異なる2種類のレーザ光を利用して、第1のレーザ光は主に塗布層で吸収され、導電性微細配線を形成することに寄与し、第2のレーザ光は塗布層ではほとんど吸収されずに、樹脂基板で吸収され、前述と同様の効果により基板密着性の向上に寄与するというものである。もちろん、塗布層と樹脂基板の光吸収波長特性が類似していないことが必要であったり、2種類のレーザ光を同時に、同じ位置に精度良く照射できるような複雑な手段が必要であるものの、工程が増えるわけではないので有効な手段のひとつである。具体的には、市販されている銀ナノインクを用いて、スピンコート塗布法により形成できる100nm厚の塗布膜の光吸収率波長特性は、赤外である800nmで20%、青である450nmで80%程度となっており、波長によって大きく異なっていることがわかる。したがって一例として、前述の第1のレーザ光として450nm程度、第2のレーザ光として800nm程度のレーザ光を用いることができる。
【0047】
ここで、本発明に用いられるレーザ光6の波長は、塗布層3で吸収、発熱するものであれば、紫外光から赤外光まで任意のものを選択することができる。代表的なレーザとしては、AlGaAs,InGaAsP,GaN系などの半導体レーザ、Nd:YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザ、ArF,KrF,XeClなどのエキシマレーザ、色素レーザ、ルビーレーザなどの固体レーザ、He−Ne,He−Xe,He−Cd,CO2,Arなどの気体レーザ、自由電子レーザなどが挙げられる。また、これらのレーザの第2高調波、第3高調波などの高次高調波を利用してもよい。さらに、これらのレーザは、連続で照射しても、パルスで複数回照射してもよい。さらには、上述したように低温度でも微細配線が形成可能な導電性ナノ粒子で塗布層3を形成しているため、比較的低出力の半導体レーザも利用可能である。このような低出力の半導体レーザは、制御性の面からみても望ましいものである。また、低出力のレーザ光源15を複数用いて、各レーザ光源1から出射されるレーザ光6を光学系により1つのレーザ光6に重ね合わせてもよい。この場合、多少光学系が複雑になるものの、低出力のレーザ光源15を使える利点がある。
【0048】
レーザ光源15に必要な照射エネルギーは、導電性ナノ粒子の種類、サイズ、塗布層3の厚みなどに依存しているため一概には言えないが、導電性ナノ粒子が実質的にアブレーションせずに、溶融するようなエネルギーとしなければならない。また、複数のレーザ光源15と複数の光学系を用いると、それぞれの光学系の相対位置制御や、集光レンズ位置の独立制御などシステム構成が複雑になってくるが、上述したものと同様のプロセスを用いて、同じパターンにはなるが複数の導電性微細配線を同時に形成できるため、生産性が高くなるという効果を有する。なお、複数のレーザ光源15を用いるのではなく、1つのレーザ光源15から出力されるレーザ光6を分光して、複数の集光レンズを含む光学系を用いても、上述と同様に複数の導電性微細配線を同時に形成できる。しかし、この場合には、レーザ光源15が1つで済むという利点はあるものの、1つのレーザ光源15に頼ることになるので高出力タイプのレーザ光源15が必要となり、またレーザ光源15自身の出力制御によって、各光学系への光出力を個別に制御できないため、各光学系の中で減衰率を独立に制御できる可変フィルタのようなものを用いる必要がある。
【0049】
以上のような手段により、レーザ光2の照射、スキャンによって、塗布層3の所定の位置に導電性微細配線4を形成することができるが、さらに所望の導電性微細配線4以外の材料の除去を行う必要がある。適切に除去できれば特に方法に拘るものではないが、簡便な方法としては、適当な溶剤により除去することができる。ここで用いる溶剤としては、余剰材料を溶解できるものであればよい。例えば、元々の導電性ナノ粒子分散溶液自体の溶媒として用いているトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶媒が利用可能である。具体的には、レーザ光2による導電性微細配線形成を行った樹脂基板を、上述の適当な溶剤の中に浸す。樹脂基板上に残る導電性微細配線部分以外の余剰材料は、溶剤中に溶解拡散するため除去されることになる。
【0050】
このようにして、レーザ光が照射、スキャンされなかった部分の塗布層が除去され、導電性微細配線のみが残ることになる。また、余剰材料の溶解拡散を補助促進するために、超音波洗浄などの物理的な作用によるプロセスを併用しても構わない。
【0051】
いずれの場合においても、洗浄処理が不十分だと、余剰材料が残ってしまうし、反対に洗浄処理が過剰であれば、所望の導電性微細配線自体にダメージを与えてしまう可能性があるため、適当な洗浄処理条件というのが必要になってくる。以上によって、樹脂基板上への導電性微細配線の形成が終了する。
【0052】
なお、上述の余剰材料の除去処理を行った後であれば、導電性微細配線が形成済みの樹脂基板全体に対して、アニーリング等の後処理工程を行ってもよい。このようにすることで、もう少し高い温度でのアニーリング処理が必要なナノ粒子材料の種類では、導電性微細配線の抵抗率を低減したり、内壁面との密着強度を向上させることができる。
【0053】
また、上述した説明では、レーザ光を塗布層に照射する場合を例に挙げたが、塗布層の配線形成領域に熱エネルギーを供給することができるものであれば、本発明を適用することができる。
【0054】
以上のように本発明は、耐熱温度の低い樹脂基板上に、ナノ粒子を含む塗布層を形成し、そこにレーザ光を照射することにより、導電性微細配線を形成し、同時に接着層等を形成するための別の工程を加えることなく基板との高い密着性を確保できる配線形成方法を提供することができ、例えば、FPCなどのフレキシブルな基板を形成するプロセスに有用である。
【0055】
以下に、樹脂基板の例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の主旨から逸脱しない限り適宜変更することができる、したがって本発明の範囲は以下の具体例に制限されるものではない。
【0056】
〔ポリイミド基板の場合〕
ここでは、比較的耐熱温度が高いポリイミド基板(厚さ:0.5mm)を用いた場合について説明する。導電性微粒子分散溶液としてはアルバック社製の銀ナノメタルインク(Ag1T(製品名))を用い、平均粒径は5nmとなっており、導電性のナノ粒子を含有した分散溶液としては平均的なものであり、溶媒はトルエンを主成分とした有機溶剤となっている。まず、スピンコーティング法で導電性微粒子分散溶液の塗布層を形成する。適当な量の導電性微粒子分散溶液を基板上に滴下し、800rpmの速度で、30秒ほど回転させると、2μm程度の塗布膜が形成される。その後、溶媒を乾燥除去するために、1時間程度、室温で放置する。ナノ粒子の金属化が進行しない温度(70℃以下)程度であれば、乾燥炉などを利用してもよい。
【0057】
その後、塗布層が形成できた樹脂基板に対してレーザ光を照射、スキャンを行う。用いるレーザ光源15としては、YAGの2倍波である波長532nmのレーザ光を出力するDPSSレーザを利用した。このレーザ光源15の直後に配されるコリメートレンズ、光路を遮断できるシャッタ、塗布層に集光するための集光レンズなどの光学系によって、レーザ光源15からの出射光をターゲットである基板上の塗布層に集光することができ、所望する導電性微細配線のサイズ、形状に対して、レーザ光の集光形状を合わせこむように光学系を調整する必要がある。また、上述の集光レンズは、レーザ光の光軸に対して平行に微動できるように設置されており、集光レンズ位置制御部によって集光位置の微調整が可能となっている。
【0058】
このような条件下で必要なレーザ光源出力を考えてみる。上述のポリイミド基板に対してレーザ光強度:約10mW程度を照射することで基板表層に密着性向上に寄与するような熱変形をおこすことができ、ここから逆算すると、前述の工程により形成された塗布層での波長532nmに対する透過率は約20%程度であること、集光レンズなどの光学素子での光利用効率が65%程度であることから、レーザ光源15の出力としては約75mW程度の出力が必要であることになる。また、レーザ光のスキャン速度は500μm/s程度が適当である。
【0059】
また、本実施例では、微細配線形成用のレーザ光を照射、スキャンする際に、レーザ光は固定位置とし、基板の方を平面方向に移動させる。レーザ光の照射光軸に対して鉛直方向に配したXY2軸のステージ(基板保持手段に対応する)に基板を保持する。このXY2軸のステージも上述の集光レンズと同様に外部制御可能であり、コンピュータなどの自動制御によって基板表面の任意の位置に対して、正確にレーザ光を照射可能である。このようにして、基板上に形成した塗布層の配線形成領域にレーザ光を照射、スキャンする。
【0060】
導電性微細配線を形成するためのレーザ光の照射、スキャンを完了した後、余剰材料の除去を行う。ここでは、元々のナノ粒子分散溶媒であるトルエン溶液を用いて、配線形成済みの立体物を浸漬させる。さらに、余剰材料の溶解拡散を補助促進するために、超音波洗浄機の中に1分ほど入れることで、余剰材料をできるだけ除去する。
【0061】
以上のようなプロセスによって、比抵抗値:20μΩ・cm、ライン/スペース幅:10/10μm程度の導電性微細配線が得られる。
【0062】
また、同じポリイミド基板であっても、塗布層の厚さが変わると照射するレーザ光の条件も変わる。
【0063】
例えばディップコートにより塗布膜を形成して、厚さが10μm程度になると、前述したスピンコートによる塗布膜の約5倍の厚みとなり、レーザ光の透過率も1/5の4%程度になる。この場合、レーザ光の出力は375mW程度が適当であり、光学系を経て、塗布膜後の透過光は、前述同様に約10mW程度になる。要するに、ポリイミド基板表層に到達するレーザ光が10mW程度となるように調整を行えば、基板との密着性を確保した導電性微細配線が形成できる。
【0064】
〔PET基板の場合〕
次に、比較的耐熱温度が低いPET基板(厚さ:0.5mm)を用いた場合について説明する。塗布層の形成工程、余剰材料の除去工程などは前述同様であり、また用いるレーザ光源も同様のもので構わないが、レーザの出力は変える必要がある。やはりPET基板の耐熱温度が低いために、塗布膜後のレーザ透過光は7〜8mW程度が適当であり、ここから逆算すると、ポリイミド基板と比較してレーザ出力は多少低く設定する必要があり、60mW程度が適当である。また、スキャン速度も500〜1000μm/s程度が適当である。このような条件では、比抵抗値は50μΩ・cmと多少高くなってしまうが、ポリイミド基板の場合と同様に、ライン/スペース幅:10/10μm程度で、密着性の高い導電性微細配線が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明にかかる配線形成方法は、耐熱温度の低い樹脂基板上に、基板との高い密着性を有する導電性微細配線を形成する場合に有用である。
【符号の説明】
【0066】
1 樹脂基板
2 樹脂基板表面租部
3 塗布層
4 導電性微細配線
5 集光レンズ
6 レーザ光
7 集光レンズアクチュエータ
8 XY軸基準位置ガイド
9 XYステージアクチュエータ
10 レーザ駆動電流制御部
11 集光レンズ位置制御部
12 XYステージ位置制御部
13 演算部
14 描画パターンデータ
15 レーザ光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板上に、導電性微粒子を含有する分散溶液の塗布層を形成する工程と、
レーザを前記塗布層の特定領域に連続的に照射していくことで、導電性配線を形成する工程と、
前記導電性配線以外の領域の材料を除去する工程とを備え、
前記塗布層の厚さをd、前記塗布層の光吸収係数をα、前記レーザの入射光強度をI0、前記樹脂基板上に到達する前記レーザの透過光強度をI1とするとき、以下の関係式から成り立つことを特徴とする配線形成方法。
log(I1/I0)=−αd
【請求項2】
前記透過光強度I1が5mW以上であって、レーザ照射により前記導電性配線を形成していくと同時に、形成する前記導電性配線と接する前記樹脂基板の表層も形状変形させることを特徴とする請求項1記載の配線形成方法。
【請求項3】
前記樹脂基板のガラス転移温度が、50℃以上、300℃以下のものであることを特徴とする請求項1記載の配線形成方法。
【請求項4】
波長の異なる2種類のレーザ光を同時に照射して、第1のレーザ光は前記塗布層で吸収され、第2のレーザ光は前記樹脂基板で吸収されることを特徴とする請求項1記載の配線形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−14716(P2011−14716A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157609(P2009−157609)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】