説明

金型温度制御装置

【課題】キャビティと加熱装置の間に回転式の入子を配置することによってキャビティの部分的な金型温度制御を可能にする金型温度制御装置を提供する。
【解決手段】可動側取り付け板1及び固定側取り付け板12のそれぞれに可動金型M及び固定金型Sを設けてなる1対のプラスチック成形金型の温度制御を行なう金型温度制御装置において、プラスチック成形金型のキャビティC外周にこのキャビティCを加熱させる加熱装置11、前記キャビティCと加熱装置の間の、金型と当接する部分と金型に当接しない部分を側面に有する回転式入子21、この回転式入子とキャビティCの間に温度センサ8を配置している金型温度制御装置において、回転式入子の金型と当接する部分と金型に当接しない部分が前記キャビティCと前記加熱装置の間で回転することにより、加熱装置からキャビティへCの熱伝導を調整し、キャビティC周辺の金型温度を一定に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真複写装置等の光学レンズなどのように高度な成形精度を求められる射出成形金型、例えば、プラスチック成形金型の温度制御を行なう金型温度制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可動側取り付け板及び固定側取り付け板のそれぞれに可動金型及び固定金型を設けてなる1対のプラスチック成形金型は一般に良く知られており、その成形金型からの成形品取り出し機及び金型温度管理方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1では、冷水と加熱した水の混合比を制御してポンプで金型内の水の循環量を調整することにより、金型温度を調整することを開示している。しかし、この方法では従来の一般的な金型温度制御方法と大きな違いはなく、キャビティ内の部分的な温度制御が困難である。
【0003】
図6は従来のプラスチック成形金型の可動側取り付け板に取り付けられた可動金型を示す平面図である。図7は図6の可動金型をA−A断面で示す概略図である。図8は従来のプラスチック成形金型の固定側取り付け板に取り付けられた固定金型を示す平面図である。図9は図8の固定金型をA−A断面で示す概略図である。
従来の1対のプラスチック成形金型を形成する可動側取り付け板に取り付けられた可動金型M及び固定側取り付け板に取り付けられた固定金型Sが示されている。
先ず、図6及び図7に示すCOR(可動)側の可動金型Mは、可動側取り付け板1、スペーサブロック5(図7)、バックアッププレート4(図7)、サポートピン3、エジェクタープレート6(図7)、CORプレート2、COR入子7を含んでいる。
次に、図8及び図9に示すCAV(固定)側の固定金型Sは、固定側取り付け板12、ランナストリッパプレート14、CAV(固定)側プレート13、CAV入子16からなる3プレート金型構造を含んでいる。
【0004】
このように一般的な金型では、例えば、ヒータなどの加熱装置11(又は水、油など)を所定の温度にして金型に設置又は循環させることによって目的の金型温度に制御している。
しかし、図6に示すように、熱電対天側8、熱電対中側9、熱電対地側10でキャビティ内の実測をすると、1〜2°Cほどの温度差が発生してしまう。このような金型の温度差は、加熱装置(又は水、油など)の設置位置や流路のレイアウトによって、できるだけ最小限に抑え留必要がある。
【特許文献1】特開2002−240119公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、金型には型開閉動作やエジェクトを行うためのピンなどが配置されており、加熱装置の設置位置や流路のレイアウトには制約があり、均一な金型温度を得るのは困難である。
そのため、複写機の光学レンズなどのような高精度な表面形状を求められる射出成形品を製造する場合、射出成形品の表面にウェルド不良やヒケ不良が発生したり、複屈折が大きくなったりする問題があった。
そこで、本発明の目的は、キャビティと加熱装置の間に回転式の入子を配置することによってキャビティの部分的な金型温度制御を可能にする金型温度制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、可動側取り付け板及び固定側取り付け板のそれぞれに可動金型及び固定金型を設けてなる1対のプラスチック成形金型の温度制御を行なう金型温度制御装置であって、前記プラスチック成形金型のキャビティ外周にこのキャビティを加熱させる加熱装置と、前記キャビティと前記加熱装置との間に位置しており且つ金型と当接する部分と金型に当接しない溝を側面に有する回転式入子と、この回転式入子と前記キャビティとの間に配置された温度センサと、を有した金型温度制御装置において、前記回転式入子の金型と当接する部分と金型に当接しない部分が回転することにより、前記加熱装置から前記キャビティへの熱伝導を調整し、前記キャビティ周辺の金型温度を一定に保持することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記回転式入子の駆動に電動、油圧、空圧などの駆動装置を用いる請求項1記載の金型温度制御装置を特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、前記回転式入子には、熱伝導に優れたアルクイン300、ベリリウム銅、テルル銅などを用いる請求項2記載の金型温度制御装置を特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、前記回転式入子の金型と当接しない部分には、例えば、エア、水、油などを流す請求項3記載の金型温度制御装置を特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、前記回転式入子の金型と当接する部分には、例えば、無給油ブッシュを用いた請求項4記載の金型温度制御装置を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加熱装置(又は水、油など)の設置位置や流路とキャビティの間に断熱効果のある溝を有する部分と熱を伝導する部分を有する回転式入子を複数個設置することによって、個々の回転式入子を制御することによって金型の温度差をなくすことができ、射出成形品の表面にウェルド不良やヒケ不良が発生しなくなり、複屈折が小さい高精度な表面を有する成形品を提供することができる。
また、加熱装置により昇温された金型の温度が部分的に変化した時に、金型と当接する部分と金型に当接しない溝を側面に有した回転式入子が回転することにより加熱装置からの熱を調整するため、キャビティ周辺の金型温度を一定に保持することができ、成形品の表面にウェルド不良やヒケ不良がなくなり、複屈折が小さい高精度な表面を有する成形品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1はプラスチック成形金型の本発明による可動側取り付け板に取り付けられた可動金型を示す平面図である。図2は図1の可動金型をA−A断面で示す概略図である。図3はプラスチック成形金型の本発明による固定側取り付け板に取り付けられた固定金型を示す平面図である。図4は図3の固定金型をA−A断面で示す概略図である。
図1乃至図4では、1対のプラスチック成形金型の温度差をなくす本発明による金型温度制御装置の実施の形態を示している。先ず、図1及び図2の可動側取り付け板に取り付けられたCOR(可動)側金型Mは、可動側取り付け板1、スペーサブロック5(図2)、バックアッププレート4(図2)、サポートピン3、エジェクタープレート6(図2)、CORプレート(可動側型板)2、COR(可動)側入子7を含んでいる。
【0010】
可動金型Mは、また、金型温度を所定の温度まで上げる加熱装置11、キャビティ温度を測定する第1の熱電対(天側)8、第2の熱電対(中側)9、第3の熱電対(地側)10、キャビティCの温度差を回転により個々に制御する断熱溝15を有する第1の回転式入子(天側)21、第2の回転式入子(中側)22、第3の回転式入子(地側)23を含んでいる。
可動金型Mは、さらに、回転式入子21、22、23を回転させる駆動装置18、回転式入子21、22、23の断熱部にエアを供給するエアコンプレッサ24、断熱部にエアを供給する吸気口19、断熱部のエアを排出する排気口20、駆動装置18の電力を供給する駆動装置配線路25を含んでいる。
回転式入子21、22、23の金型と当接しない溝(図示せず)に、エア、水、油などを流すことにより、金型温度の熱偏差を小さくすることができることから、表面にウェルド不良やヒケ不良がなく、複屈折が小さい高精度な表面を有する成形品を提供できる。回転式入子21、22、23の金型と当接する部分には明瞭には示してないが無給油ブッシュ32が配置されている。
【0011】
次に、図3及び図4の可動側取り付け板に取り付けられたCAV(固定)側金型Sは、固定側取り付け板12、ランナストリッパプレート14、CAVプレート(固定側型板)13、CAV(固定側)入子16、回転入子用COR(可動側)入子17にCOR(可動)側と同様に断熱溝(図示せず)を有する第1、第2及び第3の回転式入子29、30、31と駆動装置18、エアコンプレッサ24、吸気口19及び排気口20を含んでいる。
また、固定金型Sは、金型温度を所定の温度まで上げる加熱装置11、キャビティ温度を測定する第1の熱電対(天側)33、第2の熱電対(中側)34、第3の熱電対(地側)35を含んでいる。
【0012】
要するに、本発明の特徴は、可動側取り付け板1及び固定側取り付け板12のそれぞれに可動金型m及び固定金型Sを設けてなる1対のプラスチック成形金型の温度制御を行なう金型温度制御装置であって、プラスチック成形金型のキャビティ外周にこのキャビティCを加熱させる加熱装置11と、キャビティと加熱装置11との間に位置しており且つ金型と当接する部分と金型に当接しない溝を側面に有する回転式入子21〜23、29〜31と、この回転式入子とキャビティとの間に配置された温度センサ8、9、10と、を有した金型温度制御装置において、回転式入子の金型と当接する部分と金型に当接しない部分が回転することにより、加熱装置からキャビティへの熱伝導を調整し、キャビティ周辺の金型温度を一定に保持するようにした構成にある。
【0013】
図5は本発明による回転式入子を示す概略斜視図である。図5の回転式入子は可動及び固定金型M及びSに回転式入子21、22、23、29、30、31として使用する回転式入子である。その断熱部にエアを吸気する回転式入子吸気口26、回転式入子吸気口27、回転式入子吸気口28を含んでいる。
この時に、金型のCOR(可動)側、CAV(固定)側ともに回転式入子21、22、23、29、30、31の駆動装置18は電動、空圧、油圧などを用いることにより、熱電対8、9、10からフィードバックされた測定値に対して短時間に回転式入子21、22、23、29、30、31を回転させて金型の温度差を短時間で制御する。
【0014】
回転式入子の材質として、アルクリン300、ベリリウム銅、テルル銅などを用いることにより、優れた熱伝導を得ることができる。また、回転式入子の断熱溝にエア、水、油を流すことにより、回転式入子21、22、23、29、30、31とこれらの回転式入子21、22、23、29、30、31の断熱部に当接している金型の温度を効率よく低下させることが可能となる。
これにより回転式入子21、22、23、29、30、31と金型が当接している部分に、例えば、明瞭には図示してないが無給油ブッシュ32を用いることにより、回転式入子29、30、31と金型の当接部が円滑になり、磨耗を抑制するため、回転式入子29、30、31と金型の当接部金型温度の熱偏差を小さくすることができ、高寿命の金型、及び表面にウェルド不良やヒケ不良がなく、複屈折が小さい高精度な表面を有する成形品が得られる。
回転式入子には熱伝導に優れたアルクイン300、ベリリウム銅、テルル銅などを用いたことにより、加熱装置11からの熱伝導率が高くなり、金型温度の熱偏差を小さくすることができることから、表面にウェルド不良やヒケ不良がなく、複屈折が小さい高精度な表面を有する成形品を提供できる。
【0015】
金型を加熱装置11により昇温させると、本実施の形態では、COR(可動)側、及びCAV(固定)側の各12箇所に設置された熱電対により、金型温度が測定される。この時に、回転式入子は断熱溝を天側と地側に向けた状態にすることにより、加熱装置(又は水、油など)からキャビティCへ効率よく熱を伝導させることができる。
また、加熱装置(又は水、油など)11が所定の温度に達しても、金型に部分的な温度差があった時には熱電対8、9、10が温度差を感知して駆動装置18にフィードバックすることによって、例えば、金型温度が部分的に高い場合には高い金型温度を示した熱電対8、9、10の近くに設置された回転式入子29、30、31を90°回転させる。
これにより加熱装置(又は水、油など)11とキャビティCの間に断熱溝が平行に入るために熱伝導の低下(冷却効果)が得られることになり、キャビティCの温度差をなくすことができる。
【0016】
これらの動作を連続的に各回転式入子29、30、31で行い、かつ回転式入子29、30、31の駆動に電動、油圧、空圧などの駆動装置を用いたことにより、熱電対8、9、10からフィードバックされた信号に対して、迅速に回転式入子29、30、31を回転させて金型温度の熱偏差を小さくすることができるので、キャビティCの温度を一定に保つことができ、表面にウェルド不良やヒケ不良がなく、複屈折が小さい成形品を得られる。
加熱装置11により昇温された金型の温度が部分的に変化したときに、金型と当接する部分29b、30b、31bと金型に当接しない溝(部分)29a、30a、31aを側面に有した回転式入子29、30、31が回転することにより加熱装置11からの熱を調整するため、キャビティ周辺の金型温度を一定に保持することができ、成形品の表面にウェルド不良やヒケ不良がなく、複屈折が小さい高精度な表面を持つ成形品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】プラスチック成形金型の本発明による可動側取り付け板に取り付けられた可動金型を示す平面図である。
【図2】図1の可動金型をA−A断面で示す概略図である。
【図3】プラスチック成形金型の本発明による固定側取り付け板に取り付けられた固定金型を示す平面図である。
【図4】図3の固定金型をA−A断面で示す概略図である。
【図5】本発明による回転式入子を示す概略斜視図である。
【図6】従来のプラスチック成形金型の可動側取り付け板に取り付けられた可動金型を示す平面図である。
【図7】図6の可動金型をA−A断面で示す概略図である。
【図8】従来のプラスチック成形金型の固定側取り付け板に取り付けられた固定金型を示す平面図である。
【図9】図8の固定金型をA−A断面で示す概略図である。
【符号の説明】
【0018】
C キャビティ、M 可動金型、S 固定金型、1 可動側取り付け板、8 温度センサ(第1の熱電対)、9 温度センサ(第2の熱電対)、10 温度センサ(第3の熱電対)、11 加熱装置、15 断熱溝、18 駆動装置、21 第1の回転式入子(可動金型側)、22 第2の回転式入子(可動金型側)、23 第3の回転式入子(可動金型側)、24 エアコンプレッサ、29 第1の回転式入子(固定金型側)、29a 金型と当接しない部分(溝)、29b 金型と当接する部分、30 第2の回転式入子(固定金型側)、30a 金型と当接しない部分(溝)、30b 金型と当接する部分、31 第3の回転式入子(固定金型側)、31a 金型と当接しない部分(溝)、31b 金型と当接する部分、32 無給油ブッシュ、33 温度センサ(固定金型の第1の熱電対)、34 温度センサ(固定金型の第2の熱電対)、35 温度センサ(固定金型の第3の熱電対)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動側取り付け板及び固定側取り付け板のそれぞれに可動金型及び固定金型を設けてなる1対のプラスチック成形金型の温度制御を行なう金型温度制御装置であって、前記プラスチック成形金型のキャビティ外周にこのキャビティを加熱させる加熱装置と、前記キャビティと前記加熱装置との間に位置しており且つ金型と当接する部分と金型に当接しない溝を側面に有する回転式入子と、この回転式入子と前記キャビティとの間に配置された温度センサと、を有した金型温度制御装置において、前記回転式入子の金型と当接する部分と金型に当接しない部分が回転することにより、前記加熱装置から前記キャビティへの熱伝導を調整し、前記キャビティ周辺の金型温度を一定に保持することを特徴とする金型温度制御装置。
【請求項2】
前記回転式入子の駆動に電動、油圧、空圧などの駆動装置を用いることを特徴とする請求項1記載の金型温度制御装置。
【請求項3】
前記回転式入子には、熱伝導に優れたアルクイン300、ベリリウム銅、テルル銅などを用いることを特徴とする請求項2記載の金型温度制御装置。
【請求項4】
前記回転式入子の金型と当接しない部分には、例えば、エア、水、油などを流すことを特徴とする請求項3記載の金型温度制御装置。
【請求項5】
前記回転式入子の金型と当接する部分には、例えば、無給油ブッシュを用いたことを特徴とする請求項4記載の金型温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−203672(P2007−203672A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27474(P2006−27474)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】