説明

金属微粒子インクペースト及び有機酸処理金属微粒子

【課題】取り扱いの容易な、金属ナノ粒子よりも大きな粒子径の金属微粒子を用いて、180℃以下、10分以下の低温短時間焼成においても、実用上問題の無い良好な電気伝導度が達成可能な金属微粒子インクペーストとそのための有機酸処理金属微粒子を提供する。
【解決手段】金属微粒子と分散媒とを含む金属微粒子インクペーストにおいて、該インクぺーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板に塗布した後、180℃で10分間焼成して形成された膜厚10μmの薄膜の電気伝導度が10S/cm以上である金属微粒子インクペースト。金属微粒子を、常圧下沸点が200℃以下で電離定数Kaが1.0×10−5以上の有機酸で処理してなる有機酸処理金属微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温短時間焼成で実用上問題の無い電気伝導度を有する焼結膜が得られる金属微粒子インクペースト、詳しくは、特定の範囲の粒子径を有する金属微粒子、有機金属化合物及び分散媒、或いは有機酸で表面処理した金属微粒子、有機金属化合物及び分散媒を含むことにより低温短時間焼結性が改善された金属微粒子インクペースト及びその製造方法と、この金属微粒子インクペーストを利用した導電性薄膜、導電性細線、電極、太陽電池、プリント配線板及び多層プリント配線板、さらにこの金属微粒子インクペーストに有用な有機酸処理された金属微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平均粒子径が数nm〜数10nm程度の金属ナノ粒子と呼ばれる金属超微粒子においては、粒子表面に存在するエネルギー状態の高い活性な金属原子の割合が多くなるために、当該金属ナノ粒子を構成する金属の融点よりもかなり低い温度で焼結させることができることが知られている。例えば、清浄な表面を有する銀ナノ粒子であれば、200℃以下においても焼結可能である。
【0003】
このような金属ナノ粒子の性質を利用して、200〜350℃近辺の比較的低い焼成温度で処理された場合に、実用上問題の無い良好な電気伝導度を示す種々の導電性金属インク、導電性金属ペーストが開発されている。
【0004】
例えば分散剤で被覆された粒子径100nm以下の金属ナノ粒子のみからなる導電性金属ペースト、導電性金属インクを、230℃で60分間焼成することにより形成された配線パターンが3.3×10S/cmの良好な電気伝導度を示すことが報告されている(特許文献1)。
【0005】
また、より低い処理温度での焼成で良好な電気伝導度を達成することを目的として、粒子状の酸化銀と3級脂肪酸銀塩からなる銀化合物ペーストが提案されている。この銀化合物ペーストでは、粒子径500nm以下の酸化銀微粒子の低温自己還元反応と、3級脂肪酸銀塩の低温分解による銀生成反応が利用されており、150℃、30分間の焼成で2.2×10S/cm、200℃、10分間の焼成で3.3×10S/cmの良好な電気伝導度を示すことが報告されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2004−273205号公報
【特許文献2】特開2003−203522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術のうち、特許文献1の技術では、次のような問題がある。
粒子径が100nm以下の金属ナノ粒子の低温焼結性は、金属ナノ粒子表面におけるエネルギー状態の高い金属原子の存在割合が多くなり、表面が高活性となることに由来している。従って、このように活性表面が露出した金属ナノ粒子においては凝集体を形成し易く、凝集体形成後は低温焼結性が失われてしまう。特許文献1では、この凝集体の形成を防止するために、金属ナノ粒子表面を分散剤で被覆しているが、分散剤の被覆により安定化するが故に、低温焼成時に被覆分散剤が脱離し難く、この結果、200℃以下の低温焼成においては良好な電気伝導度は達成されていない。このため、特許文献1では、230℃での焼成が必要となる。
【0007】
一方、特許文献2に記載される酸化銀微粒子と3級脂肪酸銀塩からなる銀化合物ペーストでは、200℃以下の低温焼成において良好な電気伝導度が達成されているが、用いられるフィラーは粒子状の酸化銀微粒子、特に粒子径500nm以下の粒子状酸化銀微粒子に限られ、200℃焼成で10分の焼成時間、150℃では30分以上の焼成時間が必要である。また、150℃より低い焼成温度において良好な電気伝導度は達成されていない。
【0008】
従って、本発明は、取り扱いの容易な、金属ナノ粒子よりも大きな粒子径の金属微粒子を用いて、180℃以下、より好ましくは150℃程度の焼成温度で10分以下の短時間焼成、またさらには150℃より低い焼成温度でも、実用上問題の無い良好な電気伝導度が達成可能な金属微粒子インクペーストとそのための有機酸処理金属微粒子を提供することを課題とする。
本発明は、また、かかる金属微粒子インクペーストを低温焼成してなる導電性薄膜及び導電性細線と、これを利用した電極及び太陽電池、プリント配線板並びに多層プリント配線板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、金属微粒子を特定の有機酸で表面処理することにより低温焼結性が改善されること、また、特定の範囲の粒子径を有する金属微粒子又は特定の有機酸で表面処理した金属微粒子と有機金属化合物及び分散媒を含む金属微粒子インクペーストにおいて、優れた低温焼結性及び短時間焼結性が得られることを見出した。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 金属微粒子と分散媒とを含む金属微粒子インクペーストにおいて、該インクぺーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板に塗布した後、180℃で10分間焼成して形成された膜厚10μmの薄膜の電気伝導度が10S/cm以上である金属微粒子インクペースト。
【0011】
[2] さらに、有機金属化合物を含む[1]に記載の金属微粒子インクペースト。
【0012】
[3] 粒度分布の累積粒度曲線における積算量が90%である粒子径D90が0.1μm以上5μm以下の金属微粒子と、有機金属化合物と、分散媒とを含む金属微粒子インクペースト。
【0013】
[4] 金属微粒子が、常圧下沸点が200℃以下で電離定数Kaが1.0×10−5以上の有機酸で処理された金属微粒子である[1]ないし[3]のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【0014】
[5] 常圧下沸点が200℃以下で電離定数Kaが1.0×10−5以上の有機酸で処理してなる有機酸処理金属微粒子と、有機金属化合物と、分散媒とを含む金属微粒子インクペースト。
【0015】
[6] 有機金属化合物が脂肪酸金属塩である[1]ないし[5]のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【0016】
[7] 脂肪酸金属塩が3級脂肪酸金属塩及び/又は脂肪酸金属塩とアミン化合物とを反応させて得られる有機金属化合物である[6]に記載の金属微粒子インクペースト。
【0017】
[8] 脂肪酸金属塩が脂肪酸銀塩である[6]又は[7]に記載の金属微粒子インクペースト。
【0018】
[9] 分散媒に対する有機金属化合物の重量比が0.25以上10.0以下である[2]ないし[8]のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【0019】
[10] 有機金属化合物に対する金属微粒子の重量比が0.5以上5以下である[2]ないし[9]のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【0020】
[11] 金属微粒子が銀及び/又は銅微粒子である[1]ないし[10]のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【0021】
[12] 金属微粒子が銀微粒子である[11]に記載の金属微粒子インクペースト。
【0022】
[13] 有機酸が炭素数1〜3の有機酸である[4]ないし[12]のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【0023】
[14] 分散媒が芳香族系溶剤、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、酢酸エステル系溶剤、及び飽和炭化水素系溶剤からなる群より選ばれる1種以上である[1]ないし[13]のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【0024】
[15] 分散工程を含むことを特徴とする[1]ないし[14]のいずれかに記載の金属微粒子インクペーストの製造方法。
【0025】
[16] 分散工程が、分散媒に金属微粒子を加えて分散させた後、有機金属化合物を加えて再度分散させる工程である[15]に記載の金属微粒子インクペーストの製造方法。
【0026】
[17] [1]ないし[14]のいずれかに記載の金属微粒子インクペーストを焼成してなる導電性薄膜。
【0027】
[18] [17]に記載の導電性薄膜を備えてなる電極。
【0028】
[19] [18]に記載の電極を備える太陽電池
【0029】
[20] [1]ないし[14]のいずれかに記載の金属微粒子インクペーストを焼成してなる導電性細線。
【0030】
[21] [20]に記載の導電性細線を備えてなるプリント配線板。
【0031】
[22] [1]ないし[14]のいずれかに記載の金属微粒子インクペーストをビアホールに充填して焼成してなる導通部を有する多層プリント配線板。
【0032】
[23] 金属微粒子を、常圧下沸点が200℃以下で電離定数Kaが1.0×10−5以上の有機酸で処理してなる有機酸処理金属微粒子。
【0033】
[24] 有機酸が炭素数1〜3の有機酸である[23]に記載の有機酸処理金属微粒子。
【0034】
[25] 金属微粒子が銀及び/又は銅微粒子である[23]又は[24]に記載の有機酸処理金属微粒子。
【0035】
[26] 金属微粒子が銀微粒子である[25]に記載の有機酸処理金属微粒子。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、金属微粒子、有機金属化合物及び分散媒を含む金属微粒子インクペーストにおいて、180℃以下の加熱で表面が活性化して相互に焼結することが可能な粒径範囲の金属微粒子を用いることにより、或いはまた、150℃以下の温度で分解して金属原子を生成する有機金属化合物を用い、これらを、加熱分解した有機物と分散媒が焼結体から速やかに放出されるような組成比で混合してインクペースト化することにより、低温短時間の焼成で実用上問題の無い良好な電気伝導度を達成することが可能となる。
【0037】
また、金属微粒子を、加熱処理過程において金属微粒子表面で溶融塩を形成後、引き続いてその溶融塩が分解してエネルギー状態の高い活性な金属原子を形成し得る有機酸で処理して用いることにより、金属微粒子の粒子径に依らず、低温焼成において、有機酸から生成した活性金属原子が金属微粒子の表面で増加し、この結果、取り扱いの容易な、金属ナノ粒子よりも大きな粒子径の金属微粒子であっても、150℃以下での低温焼結が可能となる。そして、かかる有機酸処理金属微粒子と、150℃以下の温度で分解して金属原子を生成する有機金属化合物、さらには低温分解が可能となるように特定の配位子を配位させた有機金属化合物、及び分散媒を用いてインクペースト化することにより、より一層の低温短時間焼成で、実用上問題の無い良好な電気伝導度が達成可能となる。
【0038】
また、このような本発明の金属微粒子インクペーストにより、低温短時間焼成にて導電性に優れた導電性薄膜ないし導電性細線を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0040】
[有機酸処理金属微粒子]
まず、本発明の有機酸処理金属微粒子について説明する。
【0041】
本発明の有機酸処理金属微粒子は、金属微粒子を、常圧下沸点が200℃以下で電離定数Kaが1.0×10−5以上の有機酸で処理してなるものであり、具体的には、金属微粒子に該有機酸を担持してなるもの、又は担持後に有機溶剤で洗浄したものである。
【0042】
<有機酸>
本発明において、金属微粒子を処理する有機酸は、常圧下での沸点が200℃以下で、電離定数Kaが1.0×10−5以上のものである。
電離定数Kaが1.0×10−5より小さいと、加熱処理過程において前述した高活性金属原子を形成するための溶融塩を形成し難く、常圧下での沸点が200℃よりも高いものであると、溶融塩の分解後に有機物が残存してしまい、前述した高活性金属原子による焼結の障害となってしまう問題が生じる。
本発明で用いる有機酸は、好ましくは常圧下での沸点が150℃以下、より好ましくは120℃以下で、電離定数Kaが5.0×10−5以上、より好ましくは7.0×10−5以上のものである。
また、炭素数が過度に多い有機酸であると溶融塩の分解後に有機物が残存し易くなり、前述した高活性金属原子による焼結の障害となってしまうことから、炭素数が1〜3の有機酸が好ましい。
【0043】
以下に、本発明に好適な有機酸の分子式と、融点と常圧下沸点と電離定数Kaを示すが、本発明で用い得る有機酸は、何ら以下のものに限定されるものではない。これらの有機酸のうち、特にギ酸、トリフルオロ酢酸が好ましく、ギ酸がより好ましい。なお、有機酸は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0044】
【表1】

【0045】
<金属微粒子>
本発明に係る金属微粒子の粒子径は特に限定されないが、本発明の目的である、取り扱いの容易な、金属ナノ粒子よりも大きな粒子径の金属微粒子に対する低温短時間焼結性付与を考慮すると、本発明は粒子径20nm以上、特に粒子径50nm以上の金属微粒子に対して有用であり、粒子径100nm以上の金属微粒子に対してより有用である。ただし、金属微粒子の粒子径が過度に大きいと、インクペーストにおける分散安定性が悪くなり、また焼結体層における金属微粒子間の隙間空間が大きくなり、緻密な焼結体層が形成されず、良好な電気伝導度が得られなくなるため、金属微粒子の平均粒子径は10μm以下、特に5μm以下、とりわけ1μm以下であることが好ましい。
【0046】
なお、ここで、金属微粒子の粒子径とは、粒度分布における累積粒度曲線においてその積算量が50%〜90%を占めるときの粒子径D50〜D90における粒子径のことであり、特に好ましくは、積算量が90%のD90における粒子径のことである。
【0047】
特に、本発明で用いる金属微粒子は、後述の電気伝導度を達成するために、粒度分布の累積粒度曲線における積算量が90%である粒子径D90が0.1μm以上であることが好ましく、更に好ましくは0.2μm以上、特に好ましくは0.3μm以上である。金属微粒子の粒子径D90が小さすぎると、表面活性が高すぎて、強い分散剤で被覆する必要があり、分散剤の被覆により安定化するが故に、低温焼成時に被覆分散剤が脱離し難く低温短時間焼結の妨げになるおそれがある。また、金属微粒子の粒子径D90の上限は5μm以下、更に好ましくは2μm以下、特に好ましくは1μm以下であることが好ましい。金属微粒子の粒子径が大きすぎると、上述の如く、インクペーストにおいて金属微粒子が沈殿してしまい均一なインクペーストに成り難く、分散安定性が悪くなるといった問題点がある。
【0048】
また、本発明に係る金属微粒子の金属の種類は特に限定されないが、プリント配線板の配線への利用など産業上の利用を考慮すると、銅、銀、パラジウム、白金等の貴金属が好ましく、特に銀、銅が好ましく、とりわけ銀が好ましい。金属微粒子はこれらの金属の2種以上の合金よりなるものであっても良く、2種以上の金属微粒子の混合物であっても良い。また、金属微粒子の表面を他の金属で被覆したコアシェル型微粒子であっても良い。例えば、銀微粒子と銅微粒子との混合物であっても良く、銀/銅合金の微粒子であっても良く、また、銀微粒子表面を銅で被覆したコアシェル型微粒子であっても良い。
また、金属微粒子は金属化合物微粒子であっても良い。金属化合物微粒子としては、酸化銀、酸化銅、酸化パラジウム、酸化白金等の酸化金属微粒子が好ましく、中でも酸化銀、酸化銅微粒子が好ましい。
【0049】
<処理方法>
前述の有機酸で金属微粒子を処理して、本発明の有機酸処理金属微粒子を得る方法としては、前記有機酸で金属微粒子を処理することが可能であれば特に限定されないが、前記有機酸と金属微粒子を撹拌、混合し、余剰の前記有機酸を金属微粒子から分離した後、金属微粒子を乾燥するか或いは有機溶媒で洗浄する方法が好ましい。この処理方法において、乾燥又は有機溶媒による洗浄前に、撹拌、混合、分離を繰り返しても良い。また、この処理方法において、前記有機酸が溶解する溶剤と前記有機酸を混合した溶液を用いても良く、この場合、溶液の濃度を調節することにより金属微粒子への前記有機酸の担持量を調節することができる。
【0050】
この有機酸による処理方法において、撹拌、混合、分離の手段は特に限定されないが、乾燥手段においては、自然乾燥、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下での自然乾燥、室温真空乾燥などが好ましい。また、前記乾燥手段において、機械的な粉砕手段を併用しても良い。前記乾燥手段において乾燥時間、真空度などを調節することにより金属微粒子への前記有機酸の担持量を調節することができる。
【0051】
また、有機酸の担持後、有機溶媒で洗浄する場合において、用いる有機溶媒としては、アセトン、シクロヘキサノン、インホロン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶剤、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル系溶剤等、或いはこれらの有機溶媒の2種以上の混合溶剤を用いることができる。
【0052】
このような有機溶媒による洗浄方法としては、有機酸を担持させた金属微粒子と有機溶媒とを、混合、撹拌した後、固液分離し、その後乾燥する方法が挙げられる。
洗浄に用いる有機溶媒量は任意である。
また、有機酸担持後の金属微粒子を有機溶媒で洗浄する場合は、前述の如く、有機酸と金属微粒子とを撹拌、混合、分離した後、乾燥を行った後に有機溶媒で洗浄しても良く、乾燥を行わずに有機溶媒で洗浄しても良いが、乾燥を行わずに有機溶媒洗浄することが効率的である。
この有機溶媒による洗浄方法において、撹拌、混合、分離の手段は特に限定されないが、乾燥手段においては、自然乾燥、室温真空乾燥などが好ましい。また、前記乾燥手段において、機械的な粉砕手段を併用しても良い。
有機酸担持後の金属微粒子をこのような有機溶媒で洗浄する際の有機溶媒の種類、使用量や洗浄方法、洗浄時間等を適宜調整することにより、金属微粒子への有機酸の担持量を調節することができる。
【0053】
本発明における有機酸処理の別の方法としては、前記有機酸の蒸気に金属微粒子を曝す方法が挙げられ、この方法では、前記有機酸の分圧、暴露時間を調節することにより金属微粒子への前記有機酸の担持量を調節することができる。この場合においても、この担持処理後に、上述のように有機溶剤による洗浄を行っても良い。
【0054】
上述した方法によって有機酸処理された金属微粒子が得られるが、この処理の程度によって、金属微粒子表面における有機酸の担持量が異なっている。金属微粒子への有機酸の担持量に関しては、前述したように低温焼結が可能となる活性金属原子の増加が得られる量であれば良く、特に限定されない。
【0055】
なお、前述したように、前記有機酸で処理された金属微粒子の表面においては、低温加熱下でエネルギー状態の高い活性な金属原子が増加することにより低温短時間焼結が可能となる。この場合、低温加熱下で高活性な金属原子が増加した金属微粒子相互はもとより、高活性な金属原子が増加した金属微粒子と高活性な金属原子の少ない金属微粒子相互においても、増加した高活性な金属原子の表面拡散により低温焼結が可能となる。
従って、本発明の有機酸処理金属微粒子を使用する場合、本発明の有機酸処理金属微粒子と有機酸で処理されていない金属微粒子とを含む混合物として用いても良い。この場合、有機酸で処理されていない金属微粒子は、有機酸処理金属微粒子の金属微粒子と同一の金属微粒子であっても良く、異なるものであっても良い。いずれの場合においても、本発明の有機酸処理金属微粒子による低温短時間焼結性を有効に得るために、例えば、後述の金属微粒子インクペーストに用いる場合、全金属微粒子の10重量%以上、好ましくは20重量%以上を本発明の有機酸処理金属微粒子とすることが好ましい。
【0056】
[金属微粒子インクペースト]
本発明の第1の態様に係る金属微粒子インクペーストは、金属微粒子と分散媒とを含む金属微粒子インクペーストにおいて、該インクぺーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板に塗布した後、180℃で10分間焼成して形成された膜厚10μmの薄膜が10S/cm以上の電気伝導度を示すものであり、この金属微粒子インクペーストにおいて、更に有機金属化合物が含まれていても良い。
【0057】
また、本発明の第2の態様に係る金属微粒子インクペーストは、粒度分布の累積粒度曲線における積算量が90%である粒子径D90が0.1μm以上5μm以下の金属微粒子と、有機金属化合物と、分散媒とを含むものである。
第1及び第2の態様に係る金属微粒子インクペーストにおいて、金属微粒子は、常圧下沸点が200℃以下で電離定数Kaが1.0×10−5以上の有機酸で処理された有機酸処理金属微粒子であっても良い。即ち、前述の如く、本発明の有機酸処理金属微粒子は、低温短時間焼結が可能であるため、これをフィラーとして、有機金属化合物及び分散媒と組み合わせることにより、低温短時間焼成で良好な電気伝導度が達成可能な金属微粒子インクペーストを得ることができる。
【0058】
また、本発明の第3の態様に係る金属微粒子インクペーストは、常圧下沸点が200℃以下で電離定数Kaが1.0×10−5以上の有機酸で処理してなる有機酸処理金属微粒子と、有機金属化合物と、分散媒とを含むものである。
【0059】
以下に、このような本発明の金属微粒子インクペーストについて説明する。
なお、本発明において、「分散媒」とは溶剤も包含する広義の分散ないし溶解媒体をさす。
【0060】
<金属微粒子>
本発明の金属微粒子インクペーストに含まれる金属微粒子は、好ましくは、前述の本発明の金属微粒子インクペーストの説明において、有機酸で処理される金属微粒子として説明したものであり、また、本発明の金属微粒子インクペーストに含有される有機酸処理金属微粒子は、前述の本発明の有機酸処理金属微粒子である。
【0061】
本発明の金属微粒子インクペーストは、金属微粒子として、有機酸で処理されていない金属微粒子のみを含むものであっても良く、本発明の有機酸処理金属微粒子のみを含むものであっても良く、有機酸で処理されていない金属微粒子と有機酸処理金属微粒子とを含むものであっても良いが、前述の如く、好ましくは、金属微粒子インクペースト中の全金属微粒子における10重量%以上、特に20重量%以上、とりわけ50重量%以上は、本発明の有機酸処理金属微粒子であることが好ましい。ただし、後述の実施例9,11,12に示すように、本発明においては、有機酸処理していない金属微粒子のみを用いても、十分に目的を達成することができる。
【0062】
なお、金属微粒子インクペースト中には、材質や平均粒子径の異なる2種以上の金属微粒子が含まれていても良く、また、異なる有機酸で処理された金属微粒子や、有機酸担持量の異なる有機酸処理金属微粒子が2種以上含まれていても良い。
【0063】
<有機金属化合物>
本発明の金属微粒子インクペーストで用いる有機金属化合物は、加熱処理過程において分解して活性な金属原子を生成することが可能な脂肪酸金属塩が好ましく、特に低温焼成で分解して活性な金属原子を生成可能な3級脂肪酸金属塩及び/又は脂肪酸金属塩とアミン化合物とを反応させて得られる脂肪酸金属塩にアミン化合物が配位した構造を有するもの(以下「アミン配位脂肪酸金属塩」と称する場合がある。)が好ましい。より低温で分解して活性な金属原子が生成可能なことから、前記3級脂肪酸金属塩及び/又は脂肪酸金属塩にアミン化合物を反応させて得られるものの脂肪酸金属塩は、脂肪酸銀塩であることが好ましい。
【0064】
また、本発明において使用し得る脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、炭素数5〜30、特に7〜20、とりわけ8〜15のものが好ましく、具体的には次のようなものが挙げられる。
【0065】
(1級脂肪酸)
ヘキサン酸
オクタン酸
デカン酸
ドデカン(ラウリン)酸
テトラデカン(ミリスチン)酸
ヘキサデカン(パルミチン)酸
オクタデカン(ステアリン)酸
【0066】
(2級脂肪酸)
2−エチル酪酸
2−メチルヘキサン酸
2−エチルヘキサン酸
2−プロピルペンタン酸
【0067】
(3級脂肪酸)
ピバリン酸
ネオヘプタン酸
ネオノナン酸
ネオデカン酸
【0068】
これらのうち、本発明においては、前述の如く、特に3級脂肪酸金属塩、とりわけ、3級脂肪酸銀塩が好ましく、従って、3級脂肪酸銀塩としては、ピバリン酸銀塩、ネオヘプタン酸銀塩、ネオノナン酸銀塩、ネオデカン酸銀塩などが挙げられる。この中で、低温で分解し有機物の残存の影響が少ないことから特にネオデカン酸銀塩を用いることが好ましい。
【0069】
また、脂肪酸金属塩に反応させるアミン化合物は、脂肪酸金属塩と反応しうるものであれば良く、特に限定はされないが、前記脂肪酸金属塩の場合と同様に、アミン配位脂肪酸金属塩の分解後に有機物が残存し難いことから炭素数が3〜20の1、2、3級アミンが好ましく、さらに好ましくは炭素数が5〜10の1、2、3級アミンである。さらにまた、形成されるアミン配位脂肪酸金属塩の安定性の面から、炭素数が5〜10の1級又は2級アミンがより好ましい。具体的にはアミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、イソペンチルアミン、2−メチルブチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、N−メチルブチルアミンなどが挙げられる。
【0070】
本発明に係るアミン配位脂肪酸金属塩は、前記脂肪酸金属塩と上記アミン化合物とをモル比1:2〜1:20、好ましくは1:2〜1:10で仕込み、不活性ガス雰囲気下で加熱して反応させることにより得ることができる。不活性ガス雰囲気下の加熱反応において、反応終了前に未反応のアミン化合物が気化してしまう場合は、アミン化合物の仕込み量を脂肪酸金属塩とアミン化合物のモル比1:2よりも多くなるようにし、反応終了後に未反応のアミン化合物を減圧留去する。加熱温度、加熱時間は生成した有機金属化合物が分解しない範囲に抑えるよう前記脂肪酸金属塩及びアミン化合物の種類によって適宜調節すれば良い。また、前述したようにアミン化合物の仕込み量を脂肪酸金属塩とアミン化合物のモル比1:2よりも多くし、反応終了後に未反応のアミン化合物を減圧留去してアミン配位脂肪酸金属塩を得る場合の減圧留去においても、生成したアミン配位脂肪酸金属塩が分解しないように真空度、加熱温度及び加熱時間を適宜調節すれば良い。
また、反応に用いるアミン化合物は、反応前に水酸化カリウムなどの脱水剤と共に加熱還流を行って脱水操作を行っても良い。
【0071】
通常、脂肪酸金属塩とアミン化合物との反応時の加熱温度は30〜130℃、特に40〜100℃で、加熱時間は5分〜4時間、特に15分〜3時間とすることが好ましい。
【0072】
上記のように反応して得られるアミン配位脂肪酸金属塩としては、特に、脂肪酸金属塩にアミン化合物が2配位したものが好ましく、また、このようなアミン化合物2配位のアミン配位脂肪酸金属塩を主成分とするものが好ましい。
【0073】
これらの有機金属化合物が加熱処理過程で分解して生成する活性な金属原子は、前述した本発明の有機酸処理金属微粒子表面で加熱処理過程において前記有機酸から生成する活性な金属原子と同様であるため、本発明の金属微粒子相互の低温短時間焼結を損なうことがない点において、本発明の金属微粒子インクペーストの構成要素として有効である。また、これらの有機金属化合物が加熱処理過程で分解して生成する活性な金属原子は、本発明の有機酸処理金属微粒子が低温で形成する焼結体層の隙間空間を埋めることが可能であるため、より緻密な焼結体層が形成可能となり、良好な電気伝導度を達成することができる点においても、本発明の金属微粒子インクペーストの構成要素として有効である。
【0074】
本発明の金属微粒子インクペーストにおいて、これらの有機金属化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0075】
なお、本発明の金属微粒子インクペーストには、上述の有機金属化合物と共に、一般的な分散剤を併用しても良く、この場合、前記有機金属化合物と併用可能な分散剤として、次のようなものも用いることができる。
BYK−Chemie社製分散剤BYKシリーズ、ソルビタンモノラウレートに代表されるソルビタン誘導体(SPANシリーズ、Tweenシリーズ)、アニオン系界面活性剤(スルホン酸系、カルボン酸系)、カチオン系界面活性剤(4級アンモニウム塩系)、アルキルアミン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリピリジン、ポリスチレンスルホン酸、ヒドロキシプロピルセルロース、或いはこれらの共重合体。
【0076】
これらの併用可能な分散剤についても1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0077】
本発明の金属微粒子インクペーストにおける、金属微粒子と上記有機金属化合物の含有比率(金属微粒子/有機金属化合物)は、重量比で0.5以上、5以下の範囲が好ましく、より好ましくは1以上、3以下の範囲である。この範囲よりも有機金属化合物の含有比率が多くなると、加熱分解に要する時間がかかるため、短時間焼成を妨げることになる。或いは、焼成後の焼結膜等の焼結体内に残存する有機成分が多くなり、導電性を妨げることになる。一方、この範囲よりも金属微粒子の含有比率が多くなると、焼結膜等の焼結体の膜質が脆くなり、かつ基材との密着性を低下させてしまう。
【0078】
また、有機金属化合物と共に、前記併用可能な分散剤を混合使用する場合、焼成後の焼結膜等の焼結体内に残存する有機成分量を少なくし、導電性を極端に妨げないようにするために、前記併用可能な分散剤と前記有機金属化合物の含有比率は、重量比で、併用可能な分散剤/有機金属化合物=0.001〜0.5の範囲となるようにすることが好ましい。
【0079】
<分散媒>
本発明に係る金属微粒子インクペーストに用いられる分散媒は、金属微粒子(或いは本発明の有機酸処理金属微粒子)及び有機金属化合物や必要に応じて用いられる前記併用可能な分散剤と反応せずに、インクペーストの分散安定性、化学的安定性が保たれるものであれば特に制限されず、例えば、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル系溶剤、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジオクチルアミン、N−メチルブチルアミン、トリエチルアミン、トリオクチルアミン等のアミン系溶剤、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカンなどの飽和炭化水素系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、THF、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル系溶剤などが例示される。中でも、チクソトロピー性等のインクペーストにおける良好な印刷物性のためには、芳香族系溶剤、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、酢酸エステル系溶剤、飽和炭化水素系溶剤が好ましく、これらのうち、特に、インクペーストの化学的安定性のためには、グリコールエーテル系溶媒、酢酸エステル系溶剤が好ましい。
また、アミン系溶剤の場合、インクペースト製造前に水酸化カリウムなどの脱水剤と共に加熱還流を行って脱水操作を行っても良い。
また、溶剤の沸点および蒸発速度、インクペーストのレオロジー特性、基材への濡れ性が良好となるものが好ましく、そのためには、イソホロン、エチルセロソルブ、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ジプロピルアミン、N−メチルブチルアミンが好ましい。
【0080】
これらの分散媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0081】
本発明の金属微粒子インクペーストにおける分散媒の含有割合は、次のような固形分濃度の金属微粒子インクペーストを調製することができるような含有割合であることが好ましい。
即ち、本発明の金属微粒子インクペーストの固形分濃度は、該金属微粒子インクペーストの分散安定性を得るため、および該金属微粒子インクペーストを用いて均一な膜厚および均一な膜質を有する塗布膜を得るために、前記金属微粒子と前記有機金属化合物や必要に応じて用いられる前記併用可能な分散剤の総量を固形分とした場合の固形分濃度として50〜95重量%が好ましく、60〜90重量%がより好ましい。
従って、このような固形分濃度となるように、分散媒使用量が調節される。
【0082】
また、本発明の金属微粒子インクペーストにおいて、分散媒に対する前記有機金属化合物の含有比率(有機金属化合物/分散媒)は、重量比で0.25以上、10.0以下の範囲が好ましく、より好ましくは0.35以上、8.0以下の範囲である。この範囲よりも分散媒の含有比率が多くなると焼成時の分散媒の揮発に要する時間が長くなるため、短時間焼成を妨げることになり、またインクペーストの良好な印刷特性の一つであるチクソトロピー性を損なってしまう。一方、この範囲よりも有機金属化合物の含有比率が多くなると有機金属化合物の加熱分解に要する時間が長くなるため、短時間焼成を妨げることになり、また金属微粒子及び有機金属化合物の分散性が悪くなり、インクペーストの均一分散性が損なわれる。
【0083】
<電気伝導度>
本発明の金属微粒子インクペーストは、少なくとも金属微粒子、分散媒を含み、該インクペーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板に塗布した後、180℃で10分間焼成して形成された膜厚10μmの焼結薄膜の電気伝導度が10S/cm以上であることが好ましく、5×10S/cm以上であることがより好ましく、10S/cm以上であることが特に好ましい。この焼結薄膜の電気伝導度が低すぎると導電性細線などに応用する際に実用上問題のない電流を流すためには、太くまた厚い線形状が必要になるといった点で問題がある。
【0084】
なお、ここで、「膜厚10μm」とは、金属微粒子インクペーストをバーコーター等により、エポキシシランで表面処理したガラス基板に塗布した後、180℃で10分間焼成して形成された焼結膜の膜厚を、面積30cm×10cmの領域において、触針法により測定し、5点の測定値の平均値を算出したときの平均膜厚を、小数点以下第1位を四捨五入したときに「10μm」となるような膜厚であり、9.5μm〜10.5μmの範囲の平均膜厚となるような膜厚をさす。
なお、後述の実施例における膜厚とは、この平均膜厚を示している。
【0085】
特に、本発明の金属微粒子インクペーストは、このような電気伝導度を達成するために、金属微粒子として、粒度分布の累積粒度曲線における積算量が90%である粒子径D90が、0.1μm以上5μm以下、更に好ましくは0.2μm以上2μm以下、特に好ましくは0.3μm以上1μm以下の金属微粒子及び/又は有機酸処理金属微粒子と、有機金属化合物と、分散媒とを含むことが好ましい。このような組み合わせを用いることで、180℃以下、10分以下の低温短時間焼成でも実用上問題ない電気伝導度を得る事ができる。
【0086】
[金属微粒子インクペーストの製造方法]
本発明の金属微粒子インクペーストの製造方法としては、前記金属微粒子、前記有機金属化合物や必要に応じて用いられる前記併用可能な分散剤及び分散媒を混合、分散させて、均一なインクペースト状に加工する方法であれば良く、特に制限されないが、具体的には、ボールミル、ジェットミル、アイガーミル、ペイントシェーカー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ロールミル、ニーダー、混練機等を用いる方法が挙げられる。
【0087】
特に、有機金属化合物を含む本発明の金属微粒子インクペーストの製造方法としては、前記金属微粒子を分散媒に加えて分散させた後に、有機金属化合物を加えて再度分散させる分散工程を経て製造する方法であることが好ましい。即ち、有機金属化合物共存下で本発明の金属微粒子を分散媒中に分散させると、有機金属化合物が系内の粘度を増加させるために、本発明の金属微粒子の分散性を低下させ、この結果、形成される焼結膜に金属微粒子の凝集塊に由来する突起が見られるなど、膜欠陥が生じるといった問題点がある。従って、金属微粒子を予め分散媒中に分散させた後、有機金属化合物を加えて更に分散させる方法が好ましい。
【0088】
[導電性薄膜、導電性細線]
本発明の導電性薄膜及び導電性細線は、上述した本発明の金属微粒子インクペーストを焼成させてなるものである。
ここで、導電性薄膜とは、通常、膜厚5000Å〜20μmの導電性の薄膜をさし、導電性細線とは、通常、線幅5μm〜300μm、好ましくは5〜200μm、より好ましくは5〜100μmの導電性の細線をさす。なお、この導電性細線の厚さは、通常5000Å〜20μm程度である。
【0089】
本発明の導電性薄膜及び導電性細線は、具体的には、本発明の金属微粒子インクペーストを支持基材に塗布した後、焼成することにより形成される。
【0090】
導電性薄膜、導電性細線の支持基材としては、ガラス基板、樹脂基板、セラミック基板などが挙げられる。樹脂基板としては、具体的にはポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルホンなどよりなる基板が挙げられる。このような支持基材は、その表面に、シランカップリング剤等の表面処理剤による処理を施してもかまわない。この場合、導電性薄膜または導電性細線前駆体である本発明の金属微粒子インクペーストに含まれる分散媒等の成分に対する基材との濡れ性が良好になるように表面エネルギーを調整することになる。
【0091】
このような支持基材上に本発明の金属微粒子インクペーストを塗布する方法としては、バーコート法、ブレードコート法、ダイコート法、ロールコート法などが挙げられる。細線パターンを形成させる場合は、インクジェット法、スクリーン印刷法等を用いることができる。
【0092】
本発明の導電性薄膜又は導電性細線は、支持基材上に本発明の金属微粒子インクペーストを薄膜状又は細線状に塗布して形成された導電性薄膜前駆体又は導電性細線前駆体を焼成することにより、形成される。
【0093】
ここで、焼成雰囲気は、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気、脱気雰囲気などいずれでも良いが、通常空気雰囲気とされ、焼成温度は180℃以下とされる。焼成温度は180℃より高い温度で焼成することも可能であるが、本発明における低温焼結性の利点を有効に活用するために、焼成温度は180℃以下、特に150℃以下が好ましい。ただし、焼成温度が低過ぎると導電性を発現し得ないことから、焼成温度は80℃以上、特に100℃以上とすることが好ましい。
【0094】
本発明においては、特に、180℃以下、例えば180〜150℃、10分以下、例えば10〜0.5分の低温短時間焼成での良導電性の発現が可能であることから、支持基材として、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の耐熱温度の低い安価な汎用樹脂基板を使用することができるという利点がある。
【0095】
なお、焼成時間は焼成温度や、形成する導電性薄膜の厚さや導電性細線の線幅等によっても異なるが、通常5〜60分程度である。
【0096】
このような焼成を行うことにより、前述の如く、焼成過程において、前記有機酸が担持された金属微粒子の表面においては、低温加熱下でエネルギー状態の高い活性な金属原子が増加し、高活性な金属原子の表面拡散により低温の金属微粒子間の融着が促進されるとともに、分散剤の脂肪酸金属塩又は脂肪酸金属塩とアミン化合物を反応して得られる有機金属化合物が加熱処理過程で分解して生成する活性な金属原子も、同様に焼結体層の隙間空間を埋めることが可能であるため、より緻密な焼結体層が形成可能となり、良好な電気伝導度が達成できる。
【0097】
なお、本発明により達成される電気伝導度としては通常7×10〜6×10S/cm、好ましくは1×10〜6×10S/cm、より好ましくは5×10〜6×10S/cm程度である。
【0098】
本発明の電極は、このようにして形成される導電性薄膜を備えるものであり、本発明のプリント配線板は、このようにして形成される導電性細線を備えるものである。また、前述の本発明の金属微粒子インクペーストをビアホールに充填して焼成することにより、プリント配線板同士を電気的に導通させた本発明の多層プリント配線板を形成することができる。この場合の焼成条件も上述の導電性薄膜や導電性細線の場合と同様である。
【0099】
本発明の導電性薄膜を備える本発明の電極の用途としては、太陽電池用途、ディスプレイ用途、TFT用途等が挙げられる。
また、本発明の導電性細線を備える本発明のプリント配線板の用途としては、テレビ用途、ホームビデオ用途、一般電子機器用途、携帯用電子機器用途、アンテナ用途等が挙げられる。
また、本発明の多層プリント配線板の用途としては、高性能電子機器用途、コンピュータ用途、デジカメ用途、ビデオカメラ用途、携帯用電子機器用途等が挙げられる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制約されるものではない。
【0101】
<実施例1>
熱重量・示差熱同時測定(TG−DTA測定:SEIKO TG−DTA−320)による粒子径D50=600nmの銀微粒子(Aldrich社製)の焼結に由来する発熱ピークは約180℃であった。この平均粒子径600nmの銀微粒子とギ酸(キシダ化学社製)を重量比1:1.2の割合で撹拌、混合した後、遠心分離により銀微粒子を沈殿させてギ酸上澄みを除去する操作を5回繰り返した後、得られた銀微粒子を自然乾燥させた。熱重量・示差熱同時測定及び示差熱天秤・質量分析同時測定(TG−MS測定:リガク製THERMOFLEX TAS 300/TG 8101D、島津製作所製GC−MS(QP−5000/GC−17A))によるこの自然乾燥後の銀微粒子の焼結に由来する発熱ピークは約80℃であり、発生ガス曲線・イオンクロマトグラムにおいて80℃以上の温度でCO由来のピークが観測された。これらの結果から、ギ酸は銀微粒子に担持されており加熱分解によって銀微粒子が低温焼結化することが示された。
【0102】
<実施例2>
TG−DTA測定(SEIKO TG−DTA−320)による粒子径D50=300nmの銅微粒子(サンミック商事社製)の焼結に由来する発熱ピークは約220℃であった。この平均粒子径300nmの銅微粒子とギ酸(キシダ化学社製)を重量比約1:5の割合で撹拌、混合した後、遠心分離により銅微粒子を沈殿させてギ酸上澄みを除去する操作を3回繰り返した後、得られた銅微粒子を自然乾燥させた。TG−DTA測定(SEIKO TG−DTA−320)によるこの自然乾燥後の銅微粒子の焼結に由来する発熱ピークは約180℃であり、ギ酸未処理の銅微粒子の発熱ピーク(220℃)よりも、低温化していた。これらの結果から、ギ酸は銅微粒子に担持されており加熱分解によって銅微粒子が低温焼結化することが示された。
【0103】
<実施例3>
銀微粒子(三井金属社製、粒子径D90=0.5μm)とギ酸を重量比1:1.2の割合で混合、撹拌した後、遠心分離によりギ酸を除去し、窒素雰囲気下で乾燥させることによりギ酸担持銀微粒子を作製した。
このギ酸担持銀微粒子に3級脂肪酸銀塩であるネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)を、重量比でギ酸担持銀微粒子:ネオデカン酸銀塩=2:1の割合で、分散媒であるイソホロンに固形分濃度が75重量%になるように添加後、超音波ホモジナイザーにより分散し、銀微粒子インクペーストを得た。
得られた銀微粒子インクペーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板上にバーコーターにより塗布し、150℃で30分間、空気中で焼成した。
得られた導電性薄膜(膜厚12.2μm)の電気伝導度を、空気中、室温でvan der Pauw法(ADVANTEST社製 R6144電圧/電流発生器及びKeithley Instruments社製 2000型デジタルマルチメータ使用)により測定した結果、1.17×10S/cmであった。
【0104】
<実施例4>
固形分濃度が83重量%になるように調製した以外は、実施例3と同様の条件で銀微粒子組成物を作製し、同様に、ガラス基板に塗布し、150℃、30分焼成後の電気伝導度を測定したところ、1.26×10S/cmであった。
【0105】
<実施例5>
実施例1と同様に調製したギ酸担持銀微粒子にネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)を、重量比でギ酸担持銀微粒子:ネオデカン酸銀塩=1.5:1の割合で、分散媒であるエチルセロソルブに固形分濃度が75重量%になるように添加後、超音波ホモジナイザーにより分散し、銀微粒子インクペーストを得た。得られた銀微粒子インクペーストを用い、実施例3と同様にガラス基板に塗布し、150℃、30分焼成後の電気伝導度を測定したところ、1.24×10S/cmであった。
【0106】
<実施例6>
50mL三口フラスコにネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)0.52g(1.9ミリモル)を導入しフラスコ内を窒素雰囲気に置換した。その後、窒素気流下において、水酸化カリウムにて還流脱水操作を施したヘキシルアミン(Aldrich社製)1.68g(16.6ミリモル)を導入し、撹拌しながら55℃で2.75時間加熱した。加熱後、反応系から過剰のヘキシルアミンを55℃で20分かけて減圧留去して、ヘキシルアミン配位ネオデカン酸銀塩を得た。
得られたヘキシルアミン配位ネオデカン酸銀塩0.35gと実施例3における操作と同様の操作で得られたギ酸担持銀微粒子1.21g(ギ酸担持銀微粒子:ヘキシルアミン・ネオデカン酸銀塩(重量比)=3.5:1)を、分散媒であるヘキシルアミン(Aldrich社製、使用前に水酸化カリウムを用い還流脱水操作を施した)に固形分濃度が75重量%になるように添加後、超音波ホモジナイザーにより30秒分散して銀微粒子インクペーストを得た。
得られた銀微粒子インクペーストをエポキシシランで表面処理したガラス基板上にバーコーターにより塗布し、空気中130℃で30分間焼成した。
焼成により得られた薄膜(膜厚5.7μm)について、実施例3と同様に電気伝導度を測定したところ、6.4×10S/cmであった。
【0107】
<実施例7>
銀微粒子(三井金属社製、粒子径D90=0.5μm)とギ酸(純度98〜100%)を重量比1:1.2の割合で混合、攪拌した後、遠心分離によりギ酸を除去し、窒素雰囲気下で乾燥させることによりギ酸担持銀微粒子を作製した。
このギ酸担持銀微粒子と3級脂肪酸銀塩であるネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)を、重量比でギ酸担持銀微粒子:ネオデカン酸銀塩=1.5:1の割合で、分散媒であるエチルセロソルブにギ酸担持銀微粒子とネオデカン酸銀塩の固形分濃度が89重量%になるように添加後、超音波ホモジナイザーにより分散し、銀微粒子インクペーストを得た。この銀微粒子インクペーストにおけるネオデカン酸銀塩とエチルセロソルブの重量比(ネオデカン酸銀塩/エチルセロソルブ)は3.2である。この銀微粒子インクペーストは流動後すみやかに固化するチクソトロピー性を示した。
得られた銀微粒子インクペーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板上にバーコーターにより塗布し、180℃で10分間、180℃で3分間、及び150℃で10分間、空気中でそれぞれ焼成して各々焼結膜を得た。得られた各焼結膜の膜厚は10.3μmであった。
得られた各焼結膜の電気伝導度を、実施例3と同様に測定した結果、下記表2に示す通りであった。
【0108】
【表2】

【0109】
<実施例8>
実施例7と同様に調製したギ酸担持銀微粒子に、ネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)を、重量比でギ酸担持銀微粒子:ネオデカン酸銀塩=2:1の割合で、分散媒であるエチルセロソルブにギ酸担持銀微粒子とネオデカン酸銀塩の固形分濃度が83重量%になるように添加後、超音波ホモジナイザーにより分散し、銀微粒子インクペーストを得た。この銀微粒子インクペーストにおけるネオデカン酸銀塩とエチルセロソルブの重量比(ネオデカン酸銀塩/エチルセロソルブ)は1.6である。この銀微粒子インクペーストは流動後すみやかに固化するチクソトロピー性を示した。
得られた銀微粒子インクペーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板上にバーコーターにより塗布し、180℃で10分間、180℃で3分間、及び150℃で8分間、空気中でそれぞれ焼成して各々焼結膜を得た。得られた各焼結膜の膜厚は10.2μmであった。
得られた各焼結膜の電気伝導度を、実施例3と同様に測定した結果、下記表3に示す通りであった。
【0110】
【表3】

【0111】
<実施例9>
銀微粒子(三井金属社製、粒子径D90=0.5μm)と3級脂肪酸銀塩であるネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)を、重量比で銀微粒子:ネオデカン酸銀塩=1.5:1の割合で、分散媒であるエチルセロソルブに銀微粒子とネオデカン酸銀塩の固形分濃度が85重量%になるように添加後、超音波ホモジナイザーにより分散し、銀微粒子インクペーストを得た。この銀微粒子インクペーストにおけるネオデカン酸銀塩とエチルセロソルブの重量比(ネオデカン酸銀塩/エチルセロソルブ)は2.3である。この銀微粒子インクペーストは流動後すみやかに固化するチクソトロピー性を示した。
得られた銀微粒子インクペーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板上にバーコーターにより塗布し、180℃で10分間、及び180℃で5分間、空気中でそれぞれで焼成して各々焼結膜を得た。得られた各焼結膜の膜厚は10.4μmであった。
得られた各焼結膜の電気伝導度を、空気中、室温で4探針法(ダイアインスツルメンツ社製 ロレスタGP MCP−T600型使用)により測定した結果、下記表4に示す通りであった。
【0112】
【表4】

【0113】
<実施例10>
銀微粒子(三井金属社製、粒子径D90=0.5μm)とギ酸(純度98〜100%)を重量比1:1.2の割合で混合、攪拌した後、遠心分離によりギ酸を除去した。その後、ギ酸と同体積のアセトンを加え混合、撹拌した後、遠心分離によりアセトンを除去し、窒素雰囲気下で乾燥させることによりギ酸処理銀微粒子を作製した。
このギ酸処理銀微粒子と3級脂肪酸銀塩であるネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)を、重量比でギ酸処理銀微粒子:ネオデカン酸銀塩=1.5:1の割合で、分散媒であるエチルセロソルブにギ酸処理銀微粒子とネオデカン酸銀塩の固形分濃度が89重量%になるように添加後、超音波ホモジナイザーにより分散し、銀微粒子インクペーストを得た。この銀微粒子インクペーストにおけるネオデカン酸銀塩とエチルセロソルブの重量比(ネオデカン酸銀塩/エチルセロソルブ)は3.2である。この銀微粒子インクペーストは流動後すみやかに固化するチクソトロピー性を示した。
得られた銀微粒子インクペーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板上にバーコーターにより塗布し、180℃で10分間、180℃で3分間、及び150℃で10分間、空気中でそれぞれ焼成して各々焼結膜を得た。得られた各焼結膜の膜厚は10.2μmであった。
得られた各焼結膜の電気伝導度を、実施例3と同様に測定した結果、下記表5に示す通りであった。
【0114】
【表5】

【0115】
<実施例11>
銀微粒子(三井金属社製、粒子径D90=0.5μm)と3級脂肪酸銀塩であるネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)を、重量比で銀微粒子:ネオデカン酸銀塩=1.5:1の割合で、分散媒であるエチルセロソルブに銀微粒子とネオデカン酸銀塩の固形分濃度が75重量%になるように添加後、超音波ホモジナイザーにより分散し、銀微粒子インクペーストを得た。この銀微粒子インクペーストにおけるネオデカン酸銀塩とエチルセロソルブの重量比(ネオデカン酸銀塩/エチルセロソルブ)は1.2である。この銀微粒子インクペーストは流動後すみやかに固化するチクソトロピー性を示した。
得られた銀微粒子インクペーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板上にバーコーターにより塗布し、180℃で10分間、及び180℃で5分間、空気中でそれぞれ焼成して各々焼結膜を得た。得られた各焼結膜の膜厚は10.1μmであった。
得られた各焼結膜の電気伝導度を、実施例9と同様に測定した結果、下記表6に示す通りであった。
【0116】
【表6】

【0117】
<実施例12>
銀微粒子(三井金属社製、粒子径D90=0.5μm)と3級脂肪酸銀塩であるネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)を、重量比で銀微粒子:ネオデカン酸銀塩=1.5:1の割合で、重量比で1:1の割合のエチルセロソルブとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの混合分散媒に銀微粒子とネオデカン酸銀塩の固形分濃度が60重量%になるように添加後、超音波ホモジナイザーにより分散し、銀微粒子インクペーストを得た。この銀微粒子インクペーストにおけるネオデカン酸銀塩と混合分散媒の重量比(ネオデカン酸銀塩/混合分散媒)は0.6である。この銀微粒子インクペーストは流動後すみやかに固化するチクソトロピー性を示した。
得られた銀微粒子インクペーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板上にバーコーターにより塗布し、180℃で10分間、及び180℃で5分間、空気中でそれぞれ焼成して各々焼結膜を得た。得られた各焼結膜の膜厚は10.0μmであった。
得られた各焼結膜の電気伝導度を、実施例9と同様に測定した結果、下記表7に示す通りであった。
【0118】
【表7】

【0119】
<実施例13>
50mL三口フラスコにネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)0.52g(1.9ミリモル)を導入し、フラスコ内を窒素雰囲気に置換した。その後、窒素気流下において、水酸化カリウムにて還流脱水操作を施したヘキシルアミン(Aldrich社製)1.68g(16.6ミリモル)を導入し、撹拌しながら55℃で2.75時間加熱した。加熱後、反応系から過剰のヘキシルアミンを55℃で20分かけて減圧留去して、ヘキシルアミン配位ネオデカン酸銀塩を得た。
得られたヘキシルアミン配位ネオデカン酸銀塩0.35gと、実施例7における操作と同様の操作で得られたギ酸担持銀微粒子1.21g(ギ酸担持銀微粒子:ヘキシルアミン配位ネオデカン酸銀塩(重量比)=3.5:1)を、分散媒であるヘキシルアミン(Aldrich社製、使用前に水酸化カリウムを用い還流脱水操作を施した)に、ギ酸担持銀微粒子とヘキシルアミン・ネオデカン酸銀塩の固形分濃度が75重量%になるように添加後、超音波ホモジナイザーにより30秒分散して銀微粒子インクペーストを得た。
得られた銀微粒子インクペーストをエポキシシランで表面処理したガラス基板上にバーコーターにより塗布し、180℃で10分間、及び130℃で30分間、空気中でそれぞれ焼成して各々焼結膜を得た。得られた各焼結膜の膜厚は10.0μmであった。
得られた各焼結膜の電気伝導度を、実施例3と同様に測定した結果、下記表8に示す通りであった。
【0120】
【表8】

【0121】
<実施例14>
実施例9におけると同様の銀微粒子に対して実施例9と同様の条件でギ酸を担持させた。
このギ酸担持銀微粒子19.0gに分散媒であるエチルセロソルブ3.90gを加え、氷冷しながら30分間超音波ホモジナイザーにより分散を行った。その後、ネオデカン酸銀塩(和光純薬社製)12.6gを加えてタッチミキサーを10分間掛けた。さらにその後に、この銀微粒子インクペーストを氷冷しながら超音波ホモジナイザーを10分間掛けた。ここで、調製された銀微粒子インクペーストにおけるエチルセロソルブに対するギ酸担持銀微粒子とネオデカン酸銀塩の固形分濃度は89.0重量%、固形分の重量比はギ酸担持銀微粒子:ネオデカン酸銀塩=1.5:1である。
得られた銀微粒子インクペーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板上にバーコーターにより塗布し、150℃で10分間、空気中で焼成した。得られた焼結膜(膜厚10.4μm)の電気伝導度を、実施例3と同様に測定した結果、1.50×10S/cmであった。
また、得られた焼結膜の膜厚を触針法で測定したところ、平均膜厚より10μm以上大きいスパイクピークは、30mmの測定長の中で2箇所のみであり、SEM観察においても目立った銀微粒子凝集塊は観察されなかった。従って、調製したインクペーストにおける銀微粒子の分散性は非常に良好であることが確認された。
【0122】
以上の結果から、本発明によれば、180℃以下の低温短時間焼成で、優れた導電性を発現させることができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子と分散媒とを含む金属微粒子インクペーストにおいて、
該インクぺーストを、エポキシシランで表面処理したガラス基板に塗布した後、180℃で10分間焼成して形成された膜厚10μmの薄膜の電気伝導度が10S/cm以上である金属微粒子インクペースト。
【請求項2】
さらに、有機金属化合物を含む請求項1に記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項3】
粒度分布の累積粒度曲線における積算量が90%である粒子径D90が0.1μm以上5μm以下の金属微粒子と、有機金属化合物と、分散媒とを含む金属微粒子インクペースト。
【請求項4】
金属微粒子が、常圧下沸点が200℃以下で電離定数Kaが1.0×10−5以上の有機酸で処理された金属微粒子である請求項1ないし3のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項5】
常圧下沸点が200℃以下で電離定数Kaが1.0×10−5以上の有機酸で処理してなる有機酸処理金属微粒子と、有機金属化合物と、分散媒とを含む金属微粒子インクペースト。
【請求項6】
有機金属化合物が脂肪酸金属塩である請求項1ないし5のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項7】
脂肪酸金属塩が3級脂肪酸金属塩及び/又は脂肪酸金属塩とアミン化合物とを反応させて得られる有機金属化合物である請求項6に記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項8】
脂肪酸金属塩が脂肪酸銀塩である請求項6又は7に記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項9】
分散媒に対する有機金属化合物の重量比が0.25以上10.0以下である請求項2ないし8のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項10】
有機金属化合物に対する金属微粒子の重量比が0.5以上5以下である請求項2ないし9のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項11】
金属微粒子が銀及び/又は銅微粒子である請求項1ないし10のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項12】
金属微粒子が銀微粒子である請求項11に記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項13】
有機酸が炭素数1〜3の有機酸である請求項4ないし12のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項14】
分散媒が芳香族系溶剤、エーテル系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、酢酸エステル系溶剤、及び飽和炭化水素系溶剤からなる群より選ばれる1種以上である請求項1ないし13のいずれかに記載の金属微粒子インクペースト。
【請求項15】
分散工程を含むことを特徴とする請求項1ないし14のいずれかに記載の金属微粒子インクペーストの製造方法。
【請求項16】
分散工程が、分散媒に金属微粒子を加えて分散させた後、有機金属化合物を加えて再度分散させる工程である請求項15に記載の金属微粒子インクペーストの製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし14のいずれかに記載の金属微粒子インクペーストを焼成してなる導電性薄膜。
【請求項18】
請求項17に記載の導電性薄膜を備えてなる電極。
【請求項19】
請求項18に記載の電極を備える太陽電池
【請求項20】
請求項1ないし14のいずれかに記載の金属微粒子インクペーストを焼成してなる導電性細線。
【請求項21】
請求項20に記載の導電性細線を備えてなるプリント配線板。
【請求項22】
請求項1ないし14のいずれかに記載の金属微粒子インクペーストをビアホールに充填して焼成してなる導通部を有する多層プリント配線板。
【請求項23】
金属微粒子を、常圧下沸点が200℃以下で電離定数Kaが1.0×10−5以上の有機酸で処理してなる有機酸処理金属微粒子。
【請求項24】
有機酸が炭素数1〜3の有機酸である請求項23に記載の有機酸処理金属微粒子。
【請求項25】
金属微粒子が銀及び/又は銅微粒子である請求項23又は24に記載の有機酸処理金属微粒子。
【請求項26】
金属微粒子が銀微粒子である請求項25に記載の有機酸処理金属微粒子。

【公開番号】特開2008−198595(P2008−198595A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4596(P2008−4596)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】