説明

長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法及び製造装置

【課題】 長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの冷却効果を高めると共に、水分過多による樹脂の劣化を抑え、更には、冷却不足による装置への溶融樹脂の付着を抑制し、装置運転トラブルを防止できる長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法及び、その製造装置を提供する。
【解決手段】 長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造工程における冷却工程として、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドに水滴を噴霧した後、エアを吹き付け前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの冷却を行うことを特徴とし、エアの吹付けは前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの上部から、垂直下方向より進行方向側に角度をつけて行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続した無機繊維束を強化材とした長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、連続強化繊維に、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として含浸させて、これをペレットとした長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料が知られている。長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法としては、マトリックス樹脂原料を押出機にて可塑化し溶融させ、溶融した樹脂を含浸ダイに充填させるとともに、回巻体等から引き出された強化繊維を含浸ダイ中に通過させることにより、強化繊維すなわちフィラメントの集合体であるストランド中に樹脂が含浸した状態となり、これをノズル等の含浸槽出口孔により賦形された連続強化物(長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド)をペレタイザーなどによって切断することにより得られる。
【0003】
ペレタイザーなどで前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドを切断する際、装置部品への溶融された熱可塑性樹脂の付着を防止するため、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドを冷却する必要があるが、水槽を通過させて冷却する方法が一般的に使用されている。
【0004】
また、下記特許文献1には、含浸ダイのノズルから引き抜かれ、含浸槽出口孔により付形された長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの表面温度を、熱可塑性樹脂の結晶化温度範囲内になるように主に空冷槽で冷却し、該温度範囲内で少なくとも2つ以上の賦形冷却スリットを通過させている。
【特許文献1】特開平10−329225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、含浸ダイから長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドは水平方向に引き抜かれているため、水槽を通過させて長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドを冷却させる場合、ロッド出入り口孔の設けられた水槽を水平方向に通過させている。そのため、水槽のロット浸入及び排出口から冷却用の冷却水が常時流れ落ちているため、水槽の液面管理が必要であった。液面が下がると、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドに冷却水を接触または浸漬させることができず、冷却が充分行えないので、引き取り装置等に溶融樹脂が付着しかねなく、製造工程に支障をきたしてしまう。また、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドから溶出する水溶性成分や、その他水中又は水面に異物等が含まれていた場合、それが長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド表面に付着し、それにより長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドが汚染することがあった。更には、熱可塑性樹脂として吸湿性の高い樹脂を用いた場合、液面管理を慎重に行わなくては水分過多となる可能性があり、製品品質を損ないかねないものであった。
【0006】
また、空冷冷却では、冷却効率があまりよくないため、冷却時間を要するといった問題点があった。
【0007】
したがって、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの冷却効果を高めると共に、水分過多による樹脂の劣化を抑え、更には、冷却不足による装置部品への溶融樹脂の付着を抑制し、装置運転トラブルを防止できる長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法は、回巻体から引き出された強化繊維を熱可塑性樹脂に含浸させる含浸工程と、含浸工程で得られた、熱可塑性樹脂の含浸した強化繊維である長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドを冷却させる冷却工程と、冷却工程後の前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドを切断するカッティング工程とを有する長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法において、前記冷却工程として、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドに水滴を噴霧した後、エアを吹き付け前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの冷却を行うことを特徴とする。
【0009】
また、本発明では、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの上部から、垂直下方向より進行方向側に角度をつけてエアを吹き付けることが好ましい。
【0010】
そして、前記熱可塑性樹脂はポリアミド樹脂であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置は、回巻体から強化繊維を引取る引取り機と、引取られた強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させる含浸ダイと、含浸させた長繊維熱可塑性樹脂ロッドを冷却する冷却装置と、冷却された前記長繊維熱可塑性樹脂ロッドを切断する切断機を備えた長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置において、前記冷却装置は、前記長繊維熱可塑性樹脂ロッドに対して水滴を噴霧する水滴噴霧機と、水滴の噴霧された前記長繊維熱可塑性樹脂ロッドに、エアを吹き付けるエア噴射機とを有し前記水滴噴霧機は、孔径0.5〜3.0mmの複数の噴霧口を有することを特徴とする。
【0012】
また、前記エア噴射機は、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの上部から、垂直下方向より進行方向側に角度をつけてエアを吹き付けるように設置されていることが好ましい。
【0013】
そして、前記熱可塑性樹脂はポリアミド樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドを水滴噴霧で冷却しているため、特に液面の管理を行う必要がなく、短時間で効果的に冷却でき、冷却不足による装置部品への溶融樹脂の付着を抑制し、装置運転トラブルを防止できる。また、従来の水槽浸漬による冷却に比べ、樹脂の吸水量が少なく、得られる長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の品質劣化が生じにくい。更に、長繊維熱可塑性樹脂ロッドに付着した水滴を、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの上部から、垂直下方向より進行方向側に角度をつけてエアを吹き付けて除去することで、含浸ダイ出口に飛散することがなく、効率的に付着した水分を除去できる。そして、本発明は、吸水性が問題となるポリアミド樹脂に適用した場合に特に有効である。
【0015】
よって、本発明は、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの冷却効果を高めると共に、水分過多による樹脂の劣化を抑え、更には、冷却不足による装置への溶融樹脂の付着を抑制し、装置運転トラブルを防止でき、品質の良い長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において用いることのできる、強化繊維の種類としては、特に限定はなく、例えばガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、芳香族ポリアミド繊維等の高融点繊維等がいずれも使用できる。これらの繊維は、通常公知の集束剤で100〜6000本、好ましくは200〜4500本集束させて、繊維束として用いる。これらの繊維の中では、得られる長繊維強化樹脂構造物の強度や価格などを考慮すると、ガラス繊維であることが好ましい。
【0017】
また、強化繊維の繊維径は、6〜30μmのものが好ましく、より好ましくは9〜18μmである。
【0018】
マトリックス樹脂として用いる熱可塑性樹脂としては、結晶性および非晶性の両者を含み、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612等のポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルアミド、ポリエーテルイミド、アクリロニトリル・スチレン樹脂等のその他の熱可塑性樹脂およびこれらの組み合わせが使用できる。
【0019】
本発明では、水分を過剰に接触させることなく熱可塑性樹脂ロッドを冷却するため、吸湿性の高い樹脂、特にポリアミド樹脂に好適に用いることができる。
【0020】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置は、例えば、図1に示される装置によって基本的に構成される。
【0021】
図1において、含浸ダイ4は、図示しない回巻体から引き出された複数本の連続した繊維束1が導入される繊維束導入口5aを一端に有している。また、内部には導入された繊維束1を開繊させて、押出機3から溶融樹脂供給経路2を介して供給された溶融熱可塑性樹脂を含浸させる含浸機構を備えている。こうして樹脂が含浸された繊維束1は、所定本数ごと集束され、含浸ダイ4の他端部に設けられたダイス5から引き出されるようになっている。なお、ダイス5bの孔径は目的とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の繊維含有率や形状によって適宜設定される。
【0022】
含浸ダイ4の前方にはダイス5bより引き出された長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6を冷却する冷却装置7が配設されている。
【0023】
この冷却装置7は図2に示すように、複数本の冷却水管11aを長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6の走行方向に対して直交する方向で複数本平行に配列し、各冷却水管11aに0.5〜3.0mmの孔径の複数の水滴噴霧口を設けて構成された水滴噴霧機11を有している。
【0024】
更にこの水滴噴霧機11の前方には、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6に付着した水滴を吹き飛ばすためのエア噴霧機12が配設されている。エア噴霧機12は、そのノズルを垂直下方向よりその進行方向に角度αをつけて傾かせて配置されている。すなわち、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6の進行方向に対して垂直下方向より角度αで進行方向に向けてエアを噴霧するようになっている。なお、ここで角度αは、垂線方向Gと、エア噴射機のノズル方向Aとでなされる角度である。
【0025】
この冷却装置7の更に前方には、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6を引き出すための引き取り機8が配設されている。引き取り機8は一対のローラで、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6を挟んで送り出す構造をなしている。この引き取り機8の更に前方には、引き取られた長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6を所定の長さに切断するペレタイザー9が配設されている。
【0026】
次に上記装置を用いた本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法について説明する。
【0027】
図示しない回巻体等から引き出された連続した無機繊維の繊維束1を、繊維束導入孔5aから含浸ダイ4に導入して、溶融した熱可塑性樹脂を含浸させる。そして、ダイス5bを通して含浸ダイ4から引き出すことで、余分な熱可塑性樹脂を除去され、所定の繊維含有率で、所定の形状に賦形された所望の長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6が得られる。
【0028】
次に、この長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドを冷却するため、冷却装置7へ導入する。冷却装置7に導入された長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6は、水滴噴霧機11から水滴が噴霧され、冷却が行われる。その際、冷却装置7内広域にわたり水滴を噴霧させるよりも個々の長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6に直接噴霧させる方が、冷却効率がよく、水滴噴霧量が少なくてよい。
【0029】
また、水滴噴霧機11からの水滴噴霧角度βは、0<β<30であることが好ましい。水滴噴霧角度βを30°以下とすることで長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドと水滴噴霧機との位置調整が容易となる。なお、水滴噴霧角度βとは、重力方向に向かう垂線Gと、水滴噴霧機からの水滴噴霧方向Bとのなす角度を意味する。
【0030】
水滴の噴霧時間は1.5〜6秒であることが好ましく、より好ましくは2〜4秒である。噴霧時間が1.5秒以下では冷却が不充分で、溶融した熱可塑性樹脂が装置などに付着してしまう恐れがあり、6秒以上では、熱可塑性樹脂が過剰に吸水してしまい、樹脂の劣化が生じ、機械的強度等の品質を損ないかねないので好ましくない。そのため、特にポリアミド樹脂は吸水性の点から上記範囲内で行うことが好ましい。
【0031】
また、噴射口の形状は、円形の他、通常用いられる形状が採用でき、水滴噴霧機の孔径は0.5〜3.0mmであることが好ましい。孔径が0.5mm未満であると、水滴の粒径が小さくなりすぎ、雰囲気中での滞留時間が長く、また、進行している長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドが空気を巻き込んでいるため冷却効果が劣り、3.0mmを超えると、水滴が長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドに均一に付きにくくなるため、冷却効果が劣り好ましくない。よって、上記理由から、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドに噴霧する水滴の粒径は300〜4000μmが好ましく、より好ましくは500〜2000μmである。
【0032】
次いで、付着している水滴を除去するため、エア噴霧機で水滴除去が行われる。その際前述したように、垂直下方向より進行方向側に傾き、角度αをつけてエアを吹き付けることが好ましく、角度αは10<α<30であることがより好ましい。垂直下方向より進行方向側に傾けてエアを噴射することで、水滴の除去効率が高く、また、除去した水滴が飛散してダイス5bや含浸ダイ4内に混入することがない。
【0033】
そして、冷却された長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド6を引き取りロール8で引き取り、回転式切断刃等の付いたペレタイザー9で所定の長さに切断することで、長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの冷却効果を高めると共に、水分過多による樹脂の劣化を抑え、品質の良い長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置を示す基本構成図である。
【図2】同装置における冷却装置7内部を示す側面図である。
【符号の説明】
【0036】
1:繊維束
2:溶融樹脂供給経路
3:押出機
4:含浸ダイ
5a:繊維束導入孔
5b:ダイス
6:長繊維強化熱可塑性樹脂ロッド
7:冷却装置
8:引き出し機
9:ペレタイザー
11:水滴噴霧機
11a:冷却水管
12:エア噴射機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回巻体から引き出された強化繊維を熱可塑性樹脂に含浸させる含浸工程と、含浸工程で得られた、熱可塑性樹脂の含浸した強化繊維である長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドを冷却させる冷却工程と、冷却工程後の前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドを切断するカッティング工程とを有する長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法において、
前記冷却工程として、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドに水滴を噴霧した後、エアを吹き付け、前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの冷却を行うことを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
【請求項2】
エアの吹付けを前記長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの上部から、垂直下方向より進行方向側に角度をつけて行う請求項1に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂である請求項1又は2に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
【請求項4】
回巻体から強化繊維を引取る引取り機と、引取られた強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させる含浸ダイと、含浸させた長繊維熱可塑性樹脂ロッドを冷却する冷却装置と、冷却された前記長繊維熱可塑性樹脂ロッドを切断する切断機とを備えた長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置において、
前記冷却装置は、前記長繊維熱可塑性樹脂ロッドに対して水滴を噴霧する水滴噴霧機と、水滴の噴霧された前記長繊維熱可塑性樹脂ロッドに、エアを吹き付けるエア噴射機とを有し、
前記水滴噴霧機は、孔径0.5〜3.0mmの複数の噴霧口を有することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
【請求項5】
前記エア噴射機は、長繊維強化熱可塑性樹脂ロッドの上部から、垂直下方向より進行方向側に角度をつけてエアを吹き付けるように設置されている請求項4に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂である請求項4又は5に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−110874(P2006−110874A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300967(P2004−300967)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】