説明

難燃性エポキシ組成物並びにプリプレグ、積層板及びプリント配線板

【課題】リン化合物の添加量を制約しつつ、ノンハロゲンで難燃性を付与し、且つ、銅箔引き剥がし強さ及び絶縁層のガラス転移温度を上げ、絶縁層のZ方向熱膨張を小さくできる金属張り積層板用エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】実質的にハロゲンを含まないものであって、(A)3官能以上の多官能エポキシ樹脂、(B)窒素原子を含むフェノールノボラック樹脂、(C)芳香族環を含む非反応性リン化合物、(D)無機充填材、(E)アミン系硬化促進剤とフェノールノボラック樹脂の塩である硬化促進剤を含むエポキシ樹脂組成物とする。そして、樹脂固形分中のリン含有量を0.6〜1.5質量%、無機充填材を、樹脂固形分100質量部に対して20〜110質量部、好ましくは70〜110質量部とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的にハロゲンを含まない難燃性エポキシ樹脂組成物に関する。また、このエポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグ、積層板ないしは金属箔張り積層板、プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器を組込むプリント配線板には、燃えにくいこと、燃え広がらないことといった安全性が求められている。そこで、プリント配線板の絶縁層を構成するエポキシ樹脂に臭素化エポキシ樹脂を選択し、或いは、エポキシ樹脂の硬化剤として臭素化フェノールノボラック樹脂やテトラブロモビスフェノールA等を使用して、難燃性を付与している。
【0003】
しかし、近年の環境安全意識の高まりより、ノンハロゲンで難燃性を付与するという方向に変わりつつあり、難燃性付与剤として、ハロゲン化合物に代わり、リン化合物を添加することが注目されている。
【0004】
リン化合物を使用する技術として、
(1)エポキシ樹脂にその硬化反応に関与しない非反応性リン酸エステルを配合すること(特許文献1)。
(2)エポキシ樹脂にその硬化反応に関与する反応性リン酸エステルを配合すること(特許文献2、3)。
(3)エポキシ樹脂に反応性リン酸エステルで変性したリン変性エポキシ樹脂を配合すること(特許文献4)。
などがある。これらは、燃焼時の熱分解で生成するポリリン酸の炭化皮膜が酸素及び熱から樹脂を遮蔽することによって難燃効果を発揮する。
【0005】
また、上記リン化合物を使用する技術のほかに、
(4)エポキシ樹脂に窒素原子を含有する樹脂を配合したり、水酸化アルミニウム等の水酸化物を配合すること(特許文献5)。
などがある。これらは、燃焼時に発生する窒素ガスにより酸素遮蔽をしたり、燃焼時の熱分解により放出される水によって難燃効果を発揮する。
【0006】
【特許文献1】特開2002−80565号公報
【特許文献2】特開2000−212391号公報
【特許文献3】特開2002−249540号公報
【特許文献4】特開平11−166035号公報
【特許文献5】特開2002−103518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プリント配線板や多層プリント配線板は、部品実装のために、半田付やリフロー工程において高温に曝される。更に、環境問題の観点から、半田付には鉛フリー半田の採用が主流となりつつあり、このような場合には、プリント配線板や多層プリント配線板は、更に高温に曝されることになる。従って、プリント配線板や多層プリント配線板の絶縁層には、実装部品直下の銅箔ランドが高温により剥がれない銅箔引き剥がし強さが要求されるのは勿論のこと、Tgが高いことが要求される。
また、スルーホールを有するプリント配線板や多層プリント配線板には、常態温度と高温の繰り返し熱衝撃を受けても、スルーホールめっきの剥がれや層間の導通抵抗が増加しないように、絶縁層の膨張収縮によるZ方向(厚さ方向)の熱膨張率も同時に小さいことが要求される。
【0008】
しかし、難燃性を付与するために添加する芳香族環を含む非反応性リン化合物は、アミン系硬化促進剤存在下では低温で加水分解してジメチルフェノールを生成し、当該ジメチルフェノールがエポキシ樹脂と優先的に反応することにより、エポキシ樹脂と硬化剤の本来の反応を阻害する。その結果、十分な架橋反応が起こらないため、絶縁層のガラス転移温度を高くできない。また、上記(2)にあるような反応性リン酸エステルを使用した場合にも、反応性リン酸エステルがエポキシ樹脂と優先的に反応し、硬化剤との反応架橋点が減少するため、ガラス転移温度を高くできない。
【0009】
このように、絶縁層をエポキシ樹脂で構成したプリント配線板や多層プリント配線板は、ノンハロゲンで難燃性を付与できたとしても、銅箔引き剥がし強さ及び絶縁層のガラス転移温度を上げ、絶縁層のZ方向熱膨張を小さくすることは容易でない。
本発明が解決しようとする課題は、リン化合物の添加量を制約しつつ、ノンハロゲンで難燃性を付与し、且つ、銅箔引き剥がし強さ及び絶縁層のガラス転移温度を上げ、絶縁層のZ方向熱膨張を小さくできるガラス繊維基材のプリプレグ、積層板ないしは金属張り積層板、プリント配線板ないしは多層プリント配線板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するために、本発明に係る難燃性エポキシ樹脂組成物は、実質的にハロゲンを含まないものであって、
(A)3官能以上の多官能エポキシ樹脂
(B)窒素原子を含むフェノールノボラック樹脂
(C)芳香族環を含む非反応性リン化合物
(D)無機充填材
(E)アミン系硬化促進剤とフェノールノボラック樹脂の塩である硬化促進剤
を含む。そして、樹脂固形分中のリン含有量が0.6〜1.5質量%、無機充填材が、樹脂固形分100質量部に対して20〜110質量部であることを特徴とする。
無機充填材は、好ましくは、樹脂固形分100質量部に対して70〜110質量部である。
【0011】
本発明に係るプリプレグは、上記難燃性エポキシ樹脂組成物をガラス繊維基材に含浸し乾燥してなるものである。
【0012】
本発明に係る積層板は、上記プリプレグをプリプレグ層の一部ないし全部として加熱加圧成形してなるものである。
【0013】
本発明に係る金属箔張り積層板は、上記積層板の少なくとも片面に金属箔が一体化されているものである。
【0014】
本発明に係るプリント配線板は、上記プリプレグの層を加熱加圧成形してなる絶縁層を備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
既述のように、芳香族環を有する非反応性リン化合物は、アミン系硬化促進剤存在下の低温で加水分解しジメチルフェノールを生成する。このジメチルフェノールがエポキシ樹脂と優先的に反応し、エポキシ樹脂と硬化剤の本来の反応を阻害している。
しかし、本発明に係る難燃性樹脂組成物は、アミン系硬化促進剤とフェノールノボラック樹脂の塩を硬化促進剤としており、これは低温では硬化促進剤としては作用しない。前記塩は、高温になってフェノール樹脂とアミン系硬化促進剤とに分解し、この段階で初めて硬化促進剤として作用する。そして、この段階では、温度潜在性により、エポキシ樹脂と硬化剤の架橋反応が良好に進み、ガラス転移温度が十分に高いエポキシ樹脂硬化物とすることができる。
【0016】
樹脂固形分中のリン含有量は、少ないと難燃効果を十分に発揮することはできず、多いとガラス転移温度を十分に高くすることができない。従って、上記0.6〜1.5質量%の範囲とする。
無機充填材は、熱による振動がない。従って、エポキシ樹脂硬化物中に存在する無機充填材は、積層板(絶縁層)のZ方向熱膨張を抑制する作用をする。樹脂固形分中の無機充填材が少ないと全体への分散が均一にならないため、部位による熱膨張のばらつきが大きくなる。一方、樹脂固形分中の無機充填材が多いと積層板(絶縁層)の弾性率が高くなり、金属箔と樹脂界面の接着力が低くなる。従って、上記20〜110質量部の範囲とする。好ましくは、70〜110質量部の範囲とする。
【0017】
このように、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いることにより、ノンハロゲンで十分な難燃性を確保でき、且つ、高いガラス転移温度と小さい熱膨張係数を満足するプリント配線板を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る難燃性エポキシ樹脂組成物において、窒素原子を含むフェノールノボラック樹脂は、アミノトリアジン変性フェノールノボラック樹脂やメラミン変性フェノールノボラック樹脂等である。しかし、特に、制約するものではない。
芳香族環を含む非反応性リン化合物は、大八化学製「PX−200」に代表される縮合型リン酸エステル、トリフェニルホスフェ−ト、トリクレシジルホスフェ−ト、クレジルジフェニルホスフェ−ト、オクチルジフェニルホスフェ−ト等である。これらは、特に制約することなく、単独又は2種以上を組合せて用いることができる。但し、十分な難燃性の付与とガラス転移温度を低下させないことを考慮し、樹脂固形分中のリン含有量が0.6〜1.5質量%の範囲となる量で配合する。
無機充填材は、タルク、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛等である。特に、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムは、燃焼時の熱で分解して水を放出し消火を促進するので、難燃性を付与する上で好ましい。これらの無機充填材は、単独又は2種以上を組合せて用いることができる。但し、積層板(絶縁層)のZ方向熱膨張係数を小さくすることと弾性率を大きくしすぎない(金属箔と樹脂界面の接着力を確保する)ことを考慮し、樹脂固形分100質量部に対する無機充填材量が20〜110質量部、好ましくは、70〜110質量部の範囲となる量で配合する。
【0019】
本発明に係るプリプレグ、積層板ならびにプリント配線板は、次のようにして製造し得る。
プリプレグは、ガラス繊維織布に上記エポキシ樹脂組成物のワニスを含浸し加熱乾燥して、エポキシ樹脂の硬化を半硬化状態まで進める。
積層板は、上記プリプレグをプリプレグ層の一部ないし全部として使用し、加熱加圧成形して製造する。この場合、所定厚みの金属箔(例えば銅箔)をプリプレグ層の片面又は両面に載置して加熱加圧成形することにより、金属箔張り積層板とすることができる。
プリント配線板は、上記プリプレグの層を加熱加圧成形した絶縁層を備えるものである。例えば、上記金属箔張り積層板の金属箔をエッチング加工して回路形成をしたプリント配線板、さらには、このプリント配線板の片面又は両面にプリプレグを介して金属箔を載置して加熱加圧成形により一体化し、表面の金属箔をエッチング加工して回路形成をした多層構造のプリント配線板等である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明に係る実施例を説明する。
実施例1〜7、比較例1〜2
ガラス繊維織布(厚さ:200μm,単位質量:215g/m,旭シュエーベル製「#7628」)に含浸する難燃性エポキシ樹脂組成物として、以下を準備した。
3官能エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン製「E1032」)、アミノトリアジン変性フェノールノボラック樹脂(大日本インキ化学工業製「LA7052」)、縮合型リン酸エステル(大八化学製「PX−200」)、アミン系硬化促進剤として、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5のフェノールノボラック樹脂塩(サンアプロ製「U−CAT881」)をメチルエチルケトンに溶解し、エポキシ樹脂ワニスを調整した。
上記エポキシ樹脂ワニスの樹脂固形分中のリン含有量(以下「リン含有量」という)を、各例毎に表1に示した量となるよう調整した。また、このエポキシ樹脂ワニスには、水酸化アルミニウム(昭和電工製「HS−330」)を配合してホモミキサで分散し、樹脂固形分100質量部に対する無機充填材の量(以下「無機充填材量」という)を、各例毎に表1に示した量となるよう調整した。
上記エポキシ樹脂ワニスをガラス繊維織布に含浸し、150℃で5分間乾燥して、プリプレグを得た。樹脂の含有量は、45質量%である。このプリプレグを5枚重ね、その両面に18μmの銅箔を配し、温度190℃、圧力3.9MPaの条件で、90分間加熱加圧し、銅張り積層板を得た。
【0021】
【表1】

【0022】
実施例8〜17、比較例3〜4
リン含有量と無機充填材量を各例毎に表2及び表3のとおりとなるよう調整したエポキシ樹脂ワニスを使用した以外は、上記実施例と同様にして銅張り積層板を得た。
【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
比較例5〜11
アミン系硬化促進剤として、2−エチル4−メチルイミダゾ−ル(四国化成製「キュアゾール2E4MZ」)を使用した以外は、実施例1〜7と同様にして、銅張り積層板を得た。
【0026】
上記の各実施例と比較例における銅張り積層板について、難燃性、ガラス転移温度、熱膨張係数及び吸湿させた銅張り積層板のリフロー工程におけるふくれについて評価した結果を表4〜表6に示した。
表中に示した各特性は、次のようにして評価した。
【0027】
難燃性:銅箔を全面エッチングにより除去した積層板について、UL−94試験方法に基づき残炎時間(秒)を測定した。
ガラス転移温度及び熱膨張係数:Dupont TMA 2940型(TAインスツルメンツ製)により、室温〜260℃まで、10℃/分の速度の昇温を2サイクル繰り返して、2サイクル目の膨張量の変曲点をガラス転移温度(℃)とした。また、30〜80℃までの温度に対するZ方向の膨張量を熱膨張係数(ppm/℃)とした。いずれも試料数n=3の平均値とばらつき(R)で示した。
ふくれ:50×50mmに裁断した銅張り積層板をエッチングして、幅10mmの銅箔を10mm間隔で残した試料(n=10)を準備し、これをプレッシャークッカー(121℃,0.2MPa)に6時間投入する。その後、前記試料をリフロー装置(ライン速度0.5m/分,最高温度265℃−10秒間になるよう調整)に通し、銅箔表面にふくれが発生した試料数を確認した。
【0028】
【表4】

【0029】
【表5】

【0030】
【表6】

【0031】
実施例1〜7と比較例1〜2の対照から、樹脂固形分中のリン含有量を0.6〜1.5質量%の範囲にすることにより、難燃性、ガラス転移温度、Z方向の熱膨張係数が良好になり、且つ、吸湿後リフロー工程によるふくれが少ないことを理解できる。比較例1ではリン含有量が少ないために難燃性が不十分であり、一方、比較例2ではリン含有量が多いためにガラス転移温度が下がり、また、吸湿後リフロー工程によるふくれが多くなることを理解できる。
【0032】
実施例1〜7と比較例5〜11の対照から、より高いガラス転移温度を得るためには、硬化促進剤として、アミン系硬化促進剤とフェノールノボラック樹脂との塩を使用すべきであることを理解できる。
【0033】
実施例8〜17と比較例3〜4の対照から、樹脂固形分100質量部に対し、水酸化アルミニウムを20〜110質量部の範囲とすることにより、難燃性、ガラス転移温度、熱膨張係数が良好で、且つ、吸湿後リフロー工程によるふくれが少ないことを理解でき、更に小さい熱膨張係数を得るには、水酸化アルミニウムを70〜110質量部の範囲にすれば良いことを理解できる。
【0034】
図1は、実施例1〜7と比較例5〜11の積層板について、芳香族環を含む非反応性リン化合物に起因した樹脂固形分中のリン含有量と積層板のガラス転移温度との関係を示したものである。
図1からも、硬化促進剤として、アミン系硬化促進剤とフェノールノボラック樹脂との塩を使用することにより、高いガラス転移温度を得られることを理解できる。好ましいリン含有量は、0.6〜1質量%であることも理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1〜7と比較例5〜11の積層板について、芳香族環を含む非反応性リン化合物に起因した樹脂固形分中のリン含有量と積層板のガラス転移温度との関係を示した曲線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にハロゲンを含まない難燃性エポキシ樹脂組成物であって、
(A)3官能以上の多官能エポキシ樹脂
(B)窒素原子を含むフェノールノボラック樹脂
(C)芳香族環を含む非反応性リン化合物
(D)無機充填材
(E)アミン系硬化促進剤とフェノールノボラック樹脂の塩である硬化促進剤
を含み、
樹脂固形分中のリン含有量が、0.6〜1.5質量%、
無機充填材が、樹脂固形分100質量部に対して20〜110質量部であることを特徴とする難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
無機充填材が、樹脂固形分100質量部に対して70〜110質量部であることを特徴とする請求項1記載の難燃性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の難燃性エポキシ樹脂組成物をガラス繊維基材に含浸し乾燥してなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項4】
請求項3記載のプリプレグの層を一部ないし全部として加熱加圧成形してなることを特徴とする積層板。
【請求項5】
請求項4記載の積層板の少なくとも片面に金属箔が一体化されている金属箔張り積層板。
【請求項6】
請求項3記載のプリプレグの層を加熱加圧成形してなる絶縁層を備えたことを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【公開番号】特開2006−28201(P2006−28201A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204054(P2004−204054)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】