説明

電動ポンプ装置

【課題】起動してから素早く必要な油圧を発生させることができるとともに、安定して油圧を供給することのできる電動ポンプ装置を提供する。
【解決手段】マイコン22は、モータ13の回転状態を維持することにより必要な油圧が変速機構に供給される安定状態であるか否かを判定し、安定状態である場合に電流フィードバック制御のゲインKを、起動状態で設定される高応答ゲインよりも小さな低応答ゲインに変更するPIゲイン設定部51を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータによりオイルポンプを駆動して油圧を発生させる電動ポンプ装置がある(例えば、特許文献1参照)。こうした電動ポンプ装置は、例えば一時停車時にエンジンを自動停止する所謂アイドルストップ機能を備えた車両に搭載され、エンジンにより駆動されるオイルポンプが停止するアイドルストップ時に、変速機構等の油圧作動機器に油圧を供給するようになっている。
【0003】
一般に、この種の電動ポンプ装置に設けられる制御装置は、目標油圧に対応する電流指令値に実電流値を追従させるべく電流フィードバック制御を実行することにより、モータに対して駆動電力を供給している。そして、このモータへの駆動電力の供給を通じてオイルポンプで発生する油圧を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−280088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電動ポンプ装置が起動してからオイルポンプで発生する油圧が目標油圧に達するまでの間は、速やかに必要な油圧を発生させるために素早くモータの回転数(モータ角速度)を上昇させることが望ましい。そこで、電流フィードバック制御の応答性が高くなるようにそのゲインを設定することが考えられる。
【0006】
一方、例えば上記のようにアイドルストップ時に油圧を供給する電動ポンプ装置では、その作動時に車両が停止していることため、外乱が小さく、また目標油圧もほとんど変化しない。そのため、目標油圧に達した後は、モータの回転状態を維持することにより油圧作動機器に必要な油圧が供給される状態(安定状態)となる。このような安定状態では、電流フィードバック制御の高い応答性は必要とされないばかりか、応答性が高いと、例えばノイズ等に対して過敏に反応することにより、かえってモータの回転を不安定にしてしまう虞がある。
【0007】
このように、起動時に必要な油圧を速やかに発生させるために電流フィードバック制御の応答性を高くした場合、これに背反して、安定状態でモータの回転が不安定になり易く、ひいてはオイルポンプから供給される油圧変動につながり、異音や振動が発生する虞があった。なお、このような問題は、アイドルストップ時に油圧を供給する電動ポンプ装置に限らず、他の用途に用いられる電動ポンプ装置でも同様に生じ得る。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、起動してから素早く必要な油圧を発生させることができるとともに、安定して油圧を供給することのできる電動ポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、油圧を発生させるオイルポンプと、前記オイルポンプを駆動するモータと、前記モータへの駆動電力の供給を通じて前記オイルポンプの作動を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、モータ制御信号を出力する制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいて駆動電力を出力する駆動回路とを有し、前記制御信号出力手段は、目標油圧に対応する電流指令値に前記モータに供給される実電流値を追従させるべく電流フィードバック制御を実行することにより前記モータ制御信号を生成する電動ポンプ装置であって、前記モータの回転状態を維持することにより必要な油圧が油圧作動機器に供給される安定状態であるか否かを判定する状態判定手段と、前記状態判定手段により安定状態であると判定された場合に、前記電流フィードバック制御の応答性を下げるべく該電流フィードバック制御のゲインを変更するゲイン変更手段とを備えたことを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、安定状態であると判定されると、電流フィードバック制御の応答性を下がるようにゲインが変更されるため、安定状態でない状態(例えば起動してから油圧が目標油圧に達するまでの起動状態)で電流フィードバック制御の応答性を高くしつつ、安定状態でモータの回転が不安定になることを抑制できる。これにより、起動時に素早く必要な油圧を発生させることができるとともに、油圧作動機器に安定して油圧を供給することができ、異音や振動が発生することを抑制できる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動ポンプ装置において、前記状態判定手段は、前記モータの回転状態を示すパラメータに基づいて前記安定状態であるか否かを判定することを要旨とする。
【0012】
すなわち、制御装置は、電流フィードバック制御を実行しているため、モータの回転状態を維持することにより油圧作動機器に必要な油圧が供給される安定状態では、モータの回転状態を示すパラメータがあまり変化しなくなる。従って、上記構成のようにモータの回転状態を示すパラメータを用い、例えばその変化量等を判定することで、容易に安定状態であるか否かを判定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、起動してから素早く必要な油圧を発生させることができるとともに、安定して油圧を供給することのできる電動ポンプ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】変速機構に油圧を供給するための油圧回路を示す概略構成図。
【図2】電動ポンプ装置の電気的構成を示すブロック図。
【図3】回転位置信号生成部の電気的構成を示すブロック図。
【図4】モータコイルの端子電圧及び回転位置信号の波形図。
【図5】ゲイン変更処理の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示す電動ポンプ装置1は、一時停車時にエンジン2を自動停止する所謂アイドルストップ機能を備えた車両(図示略)に搭載されている。この電動ポンプ装置1は、エンジン2により駆動されるメインポンプ3とともに、油圧作動機器である変速機構4(本実施形態では、無段変速機)に油圧(作動油)を供給するための油圧回路5に設けられている。そして、アイドリングストップ時等、エンジン2の停止時におけるメインポンプ3の代替として、変速機構4への油圧の供給を実行する。
【0016】
詳述すると、メインポンプ3は、エンジン2に駆動連結されており、同エンジン2の駆動により、オイルパン11から作動油を吸入して変速機構4に油圧を供給する。一方、電動ポンプ装置1は、油圧を発生させるオイルポンプ12と、オイルポンプ12を駆動するモータ13と、モータ13への駆動電力の供給を通じてオイルポンプ12の作動を制御する制御装置としてのEOPECU14とを備えている。そして、電動ポンプ装置1は、モータ13によってオイルポンプ12が駆動されることにより、オイルパン11から作動油を吸入して変速機構4に油圧を供給する。なお、オイルポンプ12の出口油路15には、その停止時における作動油の逆流を禁止する逆止弁16が設けられている。
【0017】
車両には、エンジン2及び変速機構4の作動を制御する上位ECU18が設けられている。上位ECU18には、車速やアクセル開度等の各種センサ値が入力されるようになっており、上位ECU18は、入力されるこれら各状態量に基づいてこれらエンジン2及び変速機構4の作動を制御する。例えば、上位ECU18は、上記車速やアクセル開度等に基づいて所定の停止条件が成立したと判定するとエンジン2を停止させるとともに、所定の再始動条件が成立したと判定するとエンジン2を再始動させるアイドルストップ制御を実行する。
【0018】
また、EOPECU14は、上位ECU18に接続されており、同上位ECU18からの制御信号(後述する電流指令値I*を含む)に基づき、アイドルストップ時にモータ13を駆動してオイルポンプ12から変速機構4に油圧を供給する構成となっている。
【0019】
次に、電動ポンプ装置の電気的構成について説明する。
図2に示すように、EOPECU14は、モータ13に三相(U,V,W)の駆動電力を供給する駆動回路21と、駆動回路21にモータ制御信号を出力してモータ13を駆動する制御信号出力手段としてのマイコン22とを備えている。なお、本実施形態では、モータ13には、センサレスタイプのブラシレスモータが採用されており、EOPECU14は、120度(電気角)毎に通電相及び通電方向を切り替える120度矩形波通電により、モータ13に駆動電力を供給する。
【0020】
駆動回路21は、スイッチング素子としての複数のFET(電界効果型トランジスタ)23a〜23fを接続してなる。具体的には、駆動回路21は、FET23a,23d、FET23b,23e、及びFET23c,23fの各組の直列回路を並列に接続してなり、FET23a,23d、FET23b,23e、FET23c,23fの各接続点24u,24v,24wはそれぞれモータ13の各相のモータコイル25u,25v,25wに接続されている。
【0021】
つまり、駆動回路21には、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(スイッチングアーム)として、各相に対応する3つのスイッチングアームを並列に接続してなる周知のPWMインバータが採用されている。また、マイコン22の出力するモータ制御信号は、駆動回路21を構成する各FET23a〜23fのスイッチング状態を規定するゲートオン/オフ信号となっている。そして、それぞれのゲート端子に印加されるモータ制御信号に応答して各FET23a〜23fがオン/オフし、各相のモータコイル25u,25v,25wへの通電相及び通電方向(通電パターン)が切り替わることにより、車載電源(バッテリ)26の直流電圧が三相の駆動電力に変換され、モータ13へと出力される。
【0022】
EOPECU14には、上記した上位ECU18に加え、モータコイル25u,25v,25wの端子電圧Vu,Vv,Vwを検出するための電圧センサ27u,27v,27w、及びモータ13に通電される実電流値Iを検出するための電流センサ28が接続されている。
【0023】
マイコン22は、各端子電圧Vu,Vv,Vwに基づいてロータ29の回転位置を推定し、通電パターンを決定する。また、マイコン22は、上位ECU18から出力される目標油圧に対応した電流指令値I*に実電流値Iを追従させるための電流フィードバック制御を実行することにより各FET23a〜23fのオン時間の割合であるデューティ比を決定する。なお、上位ECU18は、電動ポンプ装置1(オイルポンプ12)で発生する油圧やエンジン回転数等に基づいて電流指令値I*を演算する。そして、マイコン22は、決定された通電パターン及びデューティ比を有するモータ制御信号を出力することにより、モータ13に三相の駆動電力を供給し、この駆動電力の供給を通じてオイルポンプ12で発生する油圧を制御する。
【0024】
詳述すると、マイコン22は、各端子電圧Vu,Vv,Vwに基づいてロータ29の回転位置を示す回転位置信号S1〜S3を生成する回転位置信号生成部31と、電流指令値I*及び実電流値Iに基づいてデューティ比を示すデューティ指令値D*を生成する電流フィードバック制御部32とを備えている。また、マイコン22は、これら回転位置信号S1〜S3及びデューティ指令値D*に基づいてモータ制御信号を生成するモータ制御信号生成部33を備えている。
【0025】
図3に示すように、回転位置信号生成部31は、抵抗値の等しい2つの抵抗R1,R2を直列接続してなる分圧回路41と、分圧回路41から出力される基準電圧V0(本実施形態では、車載電源26の1/2の電圧)と端子電圧Vu,Vv,Vwとをそれぞれ比較する3つのコンパレータ42u,42v,42wとを備えている。各コンパレータ42u,42v,42wは、端子電圧Vu,Vv,Vwと基準電圧V0との比較に基づいて回転位置信号S1〜S3をモータ制御信号生成部33に出力する。具体的には、各コンパレータ42u,42v,42wは、端子電圧Vu,Vv,Vwが基準電圧V0よりも大きい場合には、回転位置信号S1〜S3として「1(ハイレベル)」を出力し、端子電圧Vu,Vv,Vwが基準電圧V0以下である場合には、回転位置信号S1〜S3として「0(ローレベル)」を出力する。
【0026】
ここで、図4に示すように、端子電圧Vu,Vv,Vwは、位相が120度ずつ異なっており、電気角180度のうち、通電された120度の通電区間では電源電圧が検出され、通電が休止された60度の休止区間では各モータコイル25u,25v,25wに生じた誘起電圧(逆起電力)が検出される。なお、各FET23a〜23fがオンからオフに切り替わる時には、同FET23a〜23fの寄生ダイオード(図示略)に起因したノイズが生じる。そして、回転位置信号S1〜S3は、端子電圧Vu,Vv,Vwが基準電圧V0となる時点(ゼロクロス点)で変化し、上記ノイズを除去することにより、ロータ29の回転位置に応じて(101)→(100)→(110)→(010)→(011)→(001)の順序で規則的に変化する。
【0027】
図2に示すように、電流フィードバック制御部32は、電流指令値I*及び実電流値Iが入力されて電流偏差ΔIを演算する減算器45と、この電流偏差ΔIに基づいてデューティ指令値D*を演算するフィードバック演算部(F/B演算部)46とを備えている。フィードバック演算部46は、入力された電流偏差ΔIに所定のゲイン(PIゲイン)Kを乗ずることにより、デューティ指令値D*を演算する。なお、デューティ指令値D*の値が大きいほど、デューティ比は高くなる。そして、電流フィードバック制御部32は、このように演算されたデューティ指令値D*をモータ制御信号生成部33に出力する。
【0028】
モータ制御信号生成部33は、回転位置信号生成部31から入力される回転位置信号S1〜S3に対応する通電パターン、及び電流フィードバック制御部32から入力されるデューティ指令値D*に示されるデューティ比を有するモータ制御信号を生成する。また、モータ制御信号生成部33は、ゼロクロス点間の時間間隔、すなわちロータ29が電気角で60度回転して回転位置信号S1〜S3の示す信号パターンが変化する時間間隔を計測している。そして、最新のゼロクロス点から上記時間間隔に応じた所定の切り替え時間が経過した時点で通電パターンが切り替わるように、生成したモータ制御信号を駆動回路21の各FET23a〜23fに出力する。これにより、モータ13に三相の駆動電力が供給される構成となっている。なお、本実施形態では、所定の切り替え時間は、直近のゼロクロス点間の時間間隔の1/2の時間である。
【0029】
(ゲイン変更処理)
次に、本実施形態のマイコンによる電流フィードバック制御のゲインを電動ポンプ装置の作動状態に応じて変更するゲイン変更処理について説明する。
【0030】
上述のように、起動時に必要な油圧を変速機構4に速やかに供給するために、電流フィードバック制御の応答性が高くなるようにそのゲインKを高く設定することが考えられる。しかし、電動ポンプ装置1は、車両が停止しているアイドルストップ時に油圧を供給するものであることから外乱が小さく、また目標油圧もほとんど変化しない。そのため、目標油圧に達した後は、モータ13の回転状態を維持することにより必要な油圧が供給される安定状態となる。そして、このような安定状態で電流フィードバック制御の応答性が高いと、モータ13の回転を不安定にしてしまう虞がある。
【0031】
この点を踏まえ、EOPECU14は、モータ13が起動してからオイルポンプ12で発生する油圧が目標油圧に達するまでの起動状態をすぎ、モータ13の回転状態を維持することにより必要な油圧が変速機構4に供給される安定状態であるか否かを判定する。そして、安定状態である場合には、起動状態に比べ、電流フィードバック制御のゲインKを低くするようにしている。
【0032】
詳述すると、マイコン22の電流フィードバック制御部32には、ゲインKを変更するPIゲイン設定部51と、回転位置信号S1〜S3に基づいてモータ角速度(ロータの角速度)ωを演算する角速度演算部52が設けられている。PIゲイン設定部51には、上記電流センサ28により検出される実電流値I及び角速度演算部52により演算されるモータ角速度ωが入力される。このPIゲイン設定部51は、モータ13の起動時には、ゲインKをフィードバック制御の応答性が高い高応答ゲインK1に設定する。そして、PIゲイン設定部51は、これらモータ13の回転状態を示すモータ角速度ω及び実電流値Iに基づいて安定状態であるか否かを判定し、安定状態である場合に、ゲインKを高応答ゲインK1よりも小さな低応答ゲインK2に変更する。すなわち、本実施形態では、PIゲイン設定部51が状態判定手段及びゲイン変更手段に相当する。
【0033】
さらに詳述すると、PIゲイン設定部51は、所定のサンプリング周期で上記モータ角速度ω及び実電流値Iを検出しており、同PIゲイン設定部51に設けられたメモリ53に一周期前の実電流値I及びモータ角速度ωを記憶している。また、PIゲイン設定部51は、実電流値I及びモータ角速度ωのそれぞれの前回値(一周期前の実電流値I及びモータ角速度ω)からの変化量X,Yを演算し、これら変化量X,Yが閾値としての各前回値の所定割合Xth,Yth以下であるか否かを判定する。なお、本実施形態では、所定割合Xth,Ythは各前回値の10%程度の値に設定されている。そして、PIゲイン設定部51は、所定の判定時間継続して変化量X,Yが各前回値の所定割合Xth,Yth以下である場合に、安定状態であると判定し、ゲインKを高応答ゲインK1から低応答ゲインK2に変更する。なお、角速度演算部52は、ゼロクロス点間の時間間隔に基づいてモータ角速度ωを演算する。
【0034】
次に、本実施形態のマイコン(PIゲイン設定部)による電流フィードバック制御のゲイン変更の処理手順を図5のフローチャートに従って説明する。
上位ECU18からオイルポンプ12で油圧を発生させる旨の制御信号が入力されると、マイコン22は、起動状態であることを示す起動フラグがセットされているか否かを判定し(ステップ101)、起動フラグがセットされている場合には(ステップ101:YES)、ゲインKの値を高応答ゲインK1に設定する(ステップ102)。なお、初期状態では、起動フラグがセットされるようになっている。続いて、実電流値I及びモータ角速度ωを取得して(ステップ103)、当該実電流値I及びモータ角速度ωをメモリ53に記憶する(ステップ104)。そして、実電流値I及びモータ角速度ωの前回値をメモリ53から読み出して変化量X,Y及び所定割合Xth,Ythを演算し(ステップ105)、変化量X,Yがそれぞれ所定割合Xth,Yth以下であるか否かを判定する(ステップ106)。
【0035】
マイコン22は、変化量Xが所定割合Xthより大きい場合、又は変化量Yが所定割合Ythより大きい場合には(ステップ106:NO)、継続して変化量X,Yがそれぞれ所定割合Xth,Yth以下であることを示す継続フラグをクリアする(ステップ107)。これに対し、変化量X,Yがそれぞれ所定割合Xth,Yth以下である場合には(ステップ106:YES)、継続フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ108)。そして、継続フラグがセットされていない場合には(ステップ108:NO)、継続フラグをセットし(ステップ109)、変化量X,Yがそれぞれ所定割合Xth,Yth以下となっている時間を示すタイマをクリアして(ステップ110:t=0)、タイマtが所定タイマ値t0よりも大きいか否かを判定する(ステップ111)。一方、継続フラグがセットされている場合には(ステップ108:YES)、タイマtをインクリメントし(ステップ112:t=t+1)、ステップ111に移行する。
【0036】
そして、マイコン22は、タイマtが所定タイマ値t0よりも大きくなると(ステップ111:YES)、安定状態になったと判定して起動フラグをクリアし(ステップ113)、ゲインKの値を低応答ゲインK2に設定する(ステップ114)。なお、タイマtが所定タイマ値t0以下の場合には(ステップ111:NO)、ステップ113及びステップ114の処理を実行しない。また、起動フラグがセットされていない場合には(ステップ101:NO)、ステップ102〜ステップ114の処理を実行しない。
【0037】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)マイコン22は、モータ13の回転状態を維持することにより必要な油圧が変速機構4に供給される安定状態であるか否かを判定し、安定状態である場合に電流フィードバック制御のゲインKを、起動状態で設定される高応答ゲインK1よりも小さな低応答ゲインK2に変更するPIゲイン設定部51を備えた。
【0038】
上記構成によれば、安定状態であると判定されると、ゲインKが低応答ゲインK2に変更されるため、起動状態で同ゲインKを高応答ゲインK1としつつ、安定状態でモータ13の回転が不安定になることを抑制できる。これにより、起動時に素早く必要な油圧を発生させることができるとともに、変速機構4に安定して油圧を供給することができ、異音や振動が発生することを抑制できる。特に、本実施形態の電動ポンプ装置1は、車両が停止しているアイドルストップ時に油圧を供給するものであり、その起動・停止が繰り返される。すなわち、電動ポンプ装置1(モータ13)の作動状態が頻繁に変わるため、上記のようにゲインKを変更して起動状態での応答性の向上及び安定状態でのモータ13の回転の安定化を図る効果は大である。
【0039】
(2)PIゲイン設定部51は、実電流値I及びモータ角速度ωの変化量X,Yが所定の判定時間継続してそれぞれ所定割合Xth,Yth以下である場合に安定状態であると判定するようにした。
【0040】
すなわち、マイコン22は、電流フィードバック制御を実行しているため、安定状態では、実電流値I及びモータ角速度ωがあまり変化しなくなる。従って、上記構成のように、実電流値I及びモータ角速度ωを用いることで、容易に精度良く安定状態であるか否かを判定することができる。
【0041】
(3)モータ13をセンサレスタイプのブラシレスモータにより構成した。そして、EOPECU14は、モータコイル25u,25v,25wに生じる誘起電圧に基づいてロータ29の回転位置を推定し、モータ13に三相の駆動電力を供給するようにした。上記構成によれば、温度により性能が大きく変化するホール素子等の回転センサを用いないため、電動ポンプ装置1をエンジン室等の高温環境下に配置しても、精度良くモータ13の作動を制御することができる。
【0042】
ここで、本実施形態では、最新の検出したゼロクロス点から、直近のゼロクロス点間の時間間隔に応じた所定の切り替え時間が経過した時点で通電パターンを切り替える。そのため、応答性が高く、モータ角速度ωが急激に変動すると、通電パターンの切り替えタイミングが、実際のロータ29の回転位置に対応した適切なタイミングから大きくずれてしまう虞があり、脱調が起こり易くなる。従って、本実施形態のように、オイルポンプ12の駆動源にセンサレスタイプのブラシレスモータを採用する構成において、安定状態でゲインKを低応答ゲインK2に変更することにより、安定状態でのモータ13の回転の安定化を図る効果は大である。
【0043】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、実電流値I及びモータ角速度ωを用いて安定状態であるか否かを判定したが、これに限らず、例えば実電流値I及びモータ角速度ωのいずれか一方のみを用いて安定状態であるか否かを判定するようにしてもよい。また、モータ13の回転状態を示すパラメータとして実電流値I及びモータ角速度ω以外に、例えばモータ13の角加速度等、他のパラメータを用いてもよい。
【0044】
・上記実施形態において、安定状態と判定した後に、例えばロータ29が脱調したか否かを判定し、脱調した場合には起動フラグをクリアして、再度、ゲインKの値が高応答ゲインK1に設定されるようにしてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、モータ13の回転状態を示すパラメータに基づいて安定状態であるか否かを判定したが、これに限らず、例えば油圧センサによりオイルポンプ12で発生する油圧を検出し、この検出された油圧に基づいて安定状態であるか否かを判定するようにしてもよい。例えば、検出される油圧の変化量が所定の判定時間継続して閾値以下の場合に安定状態であると判定することができる。
【0046】
・上記実施形態では、モータ13にセンサレスタイプのブラシレスモータを採用したがこれに限らず、例えばロータ29の回転位置を検出するホール素子等の回転センサを有するブラシレスモータやブラシ付きの直流モータ等を採用してもよい。
【0047】
・上記実施形態では、本発明を、アイドルストップ機能を備えた車両に搭載され、変速機構に油圧を供給する電動ポンプ装置に具体化した。しかし、これに限らず、例えば電動油圧パワーステアリング(EHPS:electronic hydraulic power steering)用の電動ポンプ装置、他の用途に用いる電動ポンプに具体化してもよい。
【0048】
次に、上記各実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)請求項2に記載の電動ポンプ装置において、前記状態判定手段は、前記実電流値及びモータ角速度の変化量が所定の判定時間継続してそれぞれ閾値以下である場合に安定状態であると判定することを特徴とする電動ポンプ装置。上記構成によれば、精度良く安定状態であるか否かを判定することができる。
【0049】
(ロ)請求項1又は2、上記(イ)のいずれか一項に記載の電動ポンプ装置において、前記モータは、センサレスタイプのブラシレスモータにより構成され、前記制御装置は、モータコイルに生じる誘起電圧に基づいてロータの回転位置を推定することにより前記モータに駆動電力を供給することを特徴とする電動ポンプ装置。上記構成によれば、温度により性能が大きく変化するホール素子等の回転センサを用いないため、エンジン室等の高温環境下に配置しても、精度良くモータの作動を制御することができる。
【0050】
ここで、上記構成では、各モータコイルの誘起電圧が基準電位となる時点(ゼロクロス点)を検出することにより、ロータの回転位置を推定する。そして、検出したゼロクロス点から、過去のゼロクロス点間の時間間隔(モータ角速度)に応じた所定の切り替え時間が経過した時点で通電相及び通電方向を切り替えて三相の駆動電力を供給する。そのため、応答性が高く、モータ角速度が急激に変動すると、通電パターンの切り替えタイミングが、実際のロータの回転位置に対応した適切なタイミングから大きくずれてしまう虞があり、脱調が起こり易くなる。従って、請求項1の発明を適用して安定状態でのモータの回転の安定化を図る効果は大である。
【0051】
(ハ)請求項1又は2、上記(イ)、(ロ)のいずれか一項に記載の電動ポンプ装置において、前記オイルポンプは、前記油圧作動機器に作動油を供給するための油圧回路にエンジンにより駆動されるメインポンプとともに設けられるものであって、前記制御装置は、アイドルストップ時に前記油圧作動機器への油圧供給を補完すべく前記オイルポンプを作動させることを特徴とする電動ポンプ装置。上記構成によれば、車両が停止しているアイドルストップ時に油圧を供給するものであり、電動ポンプ装置の起動・停止が繰り返される。すなわち、電動ポンプ装置(モータの)の作動状態が頻繁に変わるため、請求項1の発明を適用して起動状態での応答性の向上及び安定状態でのモータの回転の安定化を図る効果は大である。
【符号の説明】
【0052】
1…電動ポンプ装置、2…エンジン、3…メインポンプ、4…変速機構、5…油圧回路、12…オイルポンプ、13…モータ、14…EOPECU、18…上位ECU、21…駆動回路、22…マイコン、25u,25v,25w…モータコイル、29…ロータ、31…回転位置信号生成部、32…電流フィードバック制御部、33…モータ制御信号生成部、41…分圧回路、42u,42v,42w…コンパレータ、45…減算器、46…フィードバック演算部…、51…PIゲイン設定部、52…角速度演算部、53…メモリ、I…実電流値、I*…電流指令値、K…ゲイン、K1…高応答ゲイン、K2…低応答ゲイン、X,Y…変化量、Xth,Yth…所定割合、ω…モータ角速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧を発生させるオイルポンプと、前記オイルポンプを駆動するモータと、前記モータへの駆動電力の供給を通じて前記オイルポンプの作動を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、モータ制御信号を出力する制御信号出力手段と、前記モータ制御信号に基づいて駆動電力を出力する駆動回路とを有し、前記制御信号出力手段は、目標油圧に対応する電流指令値に前記モータに供給される実電流値を追従させるべく電流フィードバック制御を実行することにより前記モータ制御信号を生成する電動ポンプ装置であって、
前記モータの回転状態を維持することにより必要な油圧が油圧作動機器に供給される安定状態であるか否かを判定する状態判定手段と、
前記状態判定手段により安定状態であると判定された場合に、前記電流フィードバック制御の応答性を下げるべく該電流フィードバック制御のゲインを変更するゲイン変更手段とを備えたことを特徴とする電動ポンプ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ポンプ装置において、
前記状態判定手段は、前記モータの回転状態を示すパラメータに基づいて前記安定状態であるか否かを判定することを特徴とする電動ポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−157141(P2012−157141A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13258(P2011−13258)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】