電動機駆動装置
【課題】現行システムに対して必要最小限な装置を付加するだけで、装置の信頼性を低下させることなく電動機巻線抵抗の測定、電動機巻線温度測定及び電動機巻線過熱保護を行える電動機駆動装置を提供する。
【解決手段】演算処理装置CPU41により通電角度を固定し、演算処理装置CPU41からのPWM信号の時間幅を計測するとともに、電流検出素子6及び電流検出手段31の検出結果、母線電圧検出手段11によって検出された母線電圧及び前記計測したPWM時間幅に基づき電動機3の巻線抵抗を算出し、予め設定したMAPによって巻線温度を推定する演算処理装置CPU42を付加的に設けた。
【解決手段】演算処理装置CPU41により通電角度を固定し、演算処理装置CPU41からのPWM信号の時間幅を計測するとともに、電流検出素子6及び電流検出手段31の検出結果、母線電圧検出手段11によって検出された母線電圧及び前記計測したPWM時間幅に基づき電動機3の巻線抵抗を算出し、予め設定したMAPによって巻線温度を推定する演算処理装置CPU42を付加的に設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍空調装置・家電機器の電動機駆動等に利用する電動機駆動装置に関するものであり、特にテスターや温度センサを用いずに巻線抵抗・温度算出を行う機能を付加した電動機駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低廉・高性能な可変電圧・可変周波数インバータが実用化されるに従って、各種の可変速電動機駆動の応用分野が開拓されてきた。その中で、大トルク・大容量のインバータが求められるようになってきている。一方、駆動装置の高性能化とともに、装置の信頼性向上の観点から、電動機の過熱焼損保護に対する要求も年々高まってきている。
現在、電動機を駆動するために用いる電動機巻線抵抗は、テスターやミリオーム計等を用いて事前に手動で測定して制御定数として設定する方法の他に、センサレス制御技術の進化を受け推定シーケンスを付加して定数推定を自動的に行う方法等が提案されてきている。
また、電動機巻線温度計測・過熱焼損防止に関しては、バイメタルやサーミスタ等により直接巻線温度を計測して行う方法が一般に用いられ、例えば電動機固定子のスロット内にある電動機巻線の隙間にセンサを設置する等で温度計測が行われる。また、温度計測の場合も、巻線抵抗同様に推定・保護シーケンスを付加して定数推定を自動的に行う等の手法が提案されている。
【0003】
例えば、コイルの両端電圧を測定し、予め設定した設定電圧と比較することによりコイルの状態を検知して過熱焼損保護を行う保護装置が開示されている(例えば特許文献1参照)。
また、複数のインバータを並列運転した場合の誘導電動機一次・二次巻線抵抗値の推定を行うインバータ装置が開示されている(例えば特許文献2参照)。
また、3つの異なる周波数を用いて誘導電動機の一次・二次巻線抵抗値を含む電気的定数の各パラメータを推定する誘導電動機制御装置が開示されている(例えば特許文献3参照)。
また、試験電源の有効電力と無効電力を演算することにより誘導電動機の一次・二次巻線抵抗値を含む電気的定数の各パラメータを推定する誘導電動機制御装置が開示されている(例えば特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−174019号公報(第4頁,第1図、第3図)
【特許文献2】特許第3302799号公報
【特許文献3】特許第3526876号公報(第7頁〜第8頁,図1〜図4)
【特許文献4】特許第3771239号公報(第16頁〜第17頁,図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜4で示される従来例では、電動機巻線抵抗の測定や、電動機巻線温度測定・電動機巻線の過熱保護は前記のように構成されているので、1システム内で行うものが多く、ユーザの要望等によって、電動機巻線の種別を変更する場合や・生産途中における電動機構成要素の素材変更を伴う場合や、システムの構成要素自体の変更を余儀なくされる場合(インバータ交換等)など、システムの小変更に対して設置上あるいは構造上の制約が多く、信頼性の確保が難しかった。
また、汎用インバータ等を用いて独自なシステム構築を行う場合、電動機巻線温度測定・電動機巻線の過熱保護を行う際に、上記と同様の問題により信頼性の確保が難しかった。
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、現行システムに対して必要最小限な装置を付加するだけで、装置の信頼性を低下させることなく電動機巻線抵抗の測定や、電動機巻線温度測定・電動機巻線の過熱保護を行える電動機駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る電動機駆動装置は、直流電圧源と、電動機を駆動するインバータと、インバータを制御する第1の演算処理装置と、直流母線経路の電流を検出する電流検出手段と、直流母線経路の電圧を検出する母線電圧検出手段と、PWM信号の時間幅を計測するとともに、電流検出手段の出力、母線電圧検出手段の検出結果及び計測したPWM時間幅に基づき電動機の巻線抵抗を算出する第2の演算処理装置と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、温度センサによらない手法で電動機巻線抵抗を検出するので、設置制約や構造制約の観点から直接の巻線抵抗・巻線温度のセンシングが困難な場合であっても、それほどコストアップせずに巻線抵抗を測定することができる。なお、この巻線抵抗測定が行われることにより、事前に得られた巻線抵抗と巻線温度の関係を用いて巻線温度を求めることが可能となり、ひいては電動機巻線の過度な温度上昇に対して瞬時に精度良く電動機巻線の過熱保護を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1に係る電動機駆動装置及びその方法について図面を参照しながら説明する。図1は、実施の形態1における電動機駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示す装置は、直流電圧源1、インバータ2、同期電動機3、直流母線経路に挿入された抵抗・カレントトランス等の電流検出素子6、母線電圧検出回路11、PWM信号のバッファ回路21、電流検出回路31、インバータを制御する演算処理装置であるCPU41、電動機巻線抵抗・巻線温度を算出するための外部演算処理装置であるCPU42、CPU41とCPU42の通信回路43とから構成される。なお、図1では直流電圧源1、インバータ2、直流母線経路に挿入された抵抗で構成された電流検出素子6、母線電圧検出回路11、PWM信号のバッファ回路21、電流検出回路31、CPU41、CPU42、を一枚の電子基板51上に実装しているようにしているが、必要に応じて各ブロックを分けて、複数枚の基板構成としても良い。
インバータ2は、スイッチング素子4a〜4f及びダイオード5a〜5fで構成される周知回路である。
PWM信号のバッファ回路21は、必要に応じてPWM論理を反転可能なバッファIC等で構成される。
電流検出手段31は、電流検出素子6を構成する抵抗の両端に発生した電圧をCPU等に取り込み電流換算できるようにするA/D変換器、増幅器等で構成される。母線電圧検出手段11は、直流母線電圧をCPU等に取り込み電圧換算できるようにする抵抗・コンデンサ等から成る分圧回路、A/D変換器、増幅器等で構成される。
【0010】
図1の装置では、CPU41が電流検出素子6及び電流検出手段31によって検出された電動機3の電流情報及び母線電圧検出手段11によって検出された母線電圧情報に基づいて、電動機3を駆動するインバータ2の制御を行う。
図2はCPU41によるインバータ2の制御を示す流れ図であり、電動機の電流情報Iu〜Iwからインバータ2に出力するPWMデューティを作成する過程の一例を示している。
本処理フローは、電流検出手段31によって得られた電動機電流Iu〜Iwから励磁電流Iγとトルク電流Iδを算出する励磁電流及びトルク電流を求める手段101aと、励磁電流Iγとトルク電流Iδと周波数指令f*とから次回の電圧指令ベクトルVγ*及びVδ*を演算するγ軸電圧・δ軸電圧指令演算手段101bと、Vγ*及びVδ*及び母線電圧Vdcからインバータの出力電圧Vu〜Vwを算出する二相三相変換手段101cと、Vu〜VwからインバータのPWM信号Tup〜Twnを作成するPWM信号作成手段101dと、インバータ2のPWM信号Up〜Wnを発生するPWM信号発生手段101eとから構成される。
なお、これらの各手段はCPU41によって実現される。
【0011】
はじめに電流検出について説明する。インバータ2のスイッチング素子4a〜4fは、上下アームについていずれか一方がONされるものであるから、スイッチングモードは、23=8通り存在する。本文では、各相の上アーム(4a〜4c)を基準としたスイッチング状態の表記として、スイッチング素子ON状態を1、OFF状態を0とし、各スイッチングモードの基本電圧ベクトルを次のように称する。
【0012】
【数1】
【0013】
基本電圧ベクトル発生区間において、電流検出素子6上を電動機電流が流れる。よってこのタイミングで電流検出手段31(増幅器、AD変換器)によりIu〜Iwの情報を演算処理装置CPU41内で処理できる数値として三相分の電流情報を取得することができる。本例では、電動機制御に用いる電流検出手段として直流母線経路に挿入される抵抗素子(電流検出素子6)を利用する方法を示したが、電動機3とインバータ2の接続線等にカレントトランスを挿入して電動機電流検出を行うことで、三相電流情報を得ても良い。
【0014】
Iu〜Iwは、図2に示す励磁電流及びトルク電流を求める手段101aにより、励磁電流(γ軸電流Iγ)及びトルク電流成分(δ軸電流Iδ)に変換される。具体的には、Iu〜Iwを数2に示すような変換行列[C1]を用いることで行う。ただし、式中のθはインバータ回転角で、回転方向が時計回りの場合を示す。
【0015】
【数2】
【0016】
なお、パルスエンコーダ等の回転子位置を検出するセンサを用いる場合、回転子の電気角周波数とインバータの回転周波数はほぼ一致するので、回転子の電気角周波数と同一周波数でインバータが回転する座標系をdq座標系と一般的に称する。また、パルスエンコーダ等の回転子位置を検出するセンサを用いない場合は、演算処理装置CPU41でdq軸座標を正確に捉えることができず、実際にはdq座標系と位相差Δθだけずれてインバータが回転している。このような場合を想定して、一般的にはインバータの出力電圧と同一周波数で回転する座標系をγδ座標系と称し、回転座標系とは区別して扱うこととしているが、本文の実施例ではセンサを用いない場合の例を示しているのでこの慣例を踏襲してγδを添え字としている。
【0017】
次に、γ軸電圧・δ軸電圧指令演算手段101bにより、励磁電流Iγとトルク電流Iδと周波数指令f*から速度制御を含む各種ベクトル制御を行い、次回のγ軸電圧指令及びδ軸電圧指令Vγ*、Vδ*を求める。
【0018】
その後、二相三相変換手段101cにより三相分の出力電圧Vu、Vv、Vwを得る。ここでは二相三相変換手段を用いる例を示しているが、Vγ*、Vδ*より得られる指令電圧ベクトルより空間ベクトル変調等を用いても良い。
PWM信号作成手段101dは、出力電圧Vu、Vv、Vwが得られるようにPWM信号のON時間またはOFF時間Tup〜Twnを演算する。これを受けて、PWM信号発生手段101eによりPWM信号Up〜Wnを発生し、インバータ2のスイッチング素子4a〜4fを制御し、電動機3を駆動する。
【0019】
次に、電動機巻線抵抗・温度検出について説明する。また、抵抗・温度検出は、従来のテスターや温度センサにより行わず、インバータのPWM制御を用いて、温度センサによらない手法で実施する。また、多種モータやモータ・インバータのシステム組合せ変更に対応するため、本検出に関する演算は外部演算処理装置であるCPU42を用いる。インバータ2を制御するCPU41の運転モード情報は通信回路43を介してCPU42に伝達される。電動機巻線抵抗・温度の検出は、上記運転モードが電圧ベクトル出力方向固定運転モード(三相電圧形インバータの出力電圧ベクトルの出力方向を所定の位相方向に固定するモード)である時に必要に応じて実施する。すなわち抵抗・温度の検出が必要なタイミングにおいて、外部演算処理装置CPU42から演算処理装置CPU41に対して、電圧ベクトル出力方向固定運転モードを要求し許可された後にCPU42が電動機巻線抵抗・温度の検出を実施する。
【0020】
図4に、電動機巻線抵抗・温度検出のフローを示す。
例として、二相変調を用いて通電角を固定してUV相(二相)に通電する場合の電動機巻線抵抗・温度の検出について以下説明する。
【0021】
ステップ101aにて、外部演算処理装置であるCPU42からCPU41に対して通信回路43を介して電圧ベクトル出力方向固定運転モードの要求信号を送信する(可能な場合には出力電圧ベクトルの位相角の指定も含めて要求する)。
CPU41がこの要求信号を受信すると、ステップ101bにて、CPU41から外部演算処理装置CPU42に対して電圧ベクトル出力方向固定運転モードの許可信号を送信する。
その後、ステップ201aにてCPU41は通電角固定で励磁を開始する。
以下、CPU41とCPU42との間の通信により出力電圧ベクトルの位相角指定が可能で、位相角が330[deg]である場合の例を中心に説明する。
図5に、(a)二相変調を用いてUV相通電する時の上アーム論理と(b)電圧ベクトルの様子の一例を示す(概念図のため、図中のデュイーティ比は実際とは異なる)。この場合、U(+)相とV(−)相に出力すれば良いことがベクトル図から分かる。
【0022】
【数3】
【0023】
【数4】
【数5】
【0024】
【数6】
【0025】
【数7】
【数8】
【0026】
【数9】
【0027】
図5(a)のようなPWMでUV相に通電し、過電流にかからないようにパルス幅を調整しながら所定時間経過すると、各部波形は図7のようになる。
図7は上からU相上アーム出力Up、V相上アーム出力Vp、W相上アーム出力Wpを示す。
【0028】
図4のステップ201bにおいて、CPU42は電圧計測を行う。
ここで、電動機駆動に汎用インバータを用いる場合、CPU41から出力される出力電圧を正確に把握できない場合がある。そこで、システムの一部に汎用装置を用いた場合でもそれほどコストアップせずに精度良く出力電圧(平均値)を求めるために、PWMのパルス幅(デューティ)を外部の計測装置{ここでは外部演算処理装置であるCPU42}を用いて測定する方法を考案した。
CPU42によりV4またはV5発生時のパルス幅(デューティ)、またはV0発生時のパルス幅(デューティ)を計測することで、直流電圧の印加比率を算出できる。すなわち、電動機巻線に印加される電圧を算出することが可能である。空間ベクトル変調では、通電角と各相のパルス幅(デューティ)の関係が一意に決まる。よって少なくとも1相のパルス幅(デューティ)情報が得られれば、母線電圧との比率で平均出力電圧換算が可能である(出力電圧ベクトルの位相角の指定が可能であれば、1相のパルス幅情報で確実に平均出力電圧の算出が行える)。
【0029】
図8に、パルス幅(デューティ)計測の一例を示す。ここではCPU41から出力されたU相上アームのPWM信号に関して、バッファ回路21を経由した後の信号をCPU42のI/Oポート等に入力する。CPU42は本パルス信号の立ち上がり、立ち下がりのエッジを検出し、CPU42内部に設定されたカウンタにてパルス幅計測を行う。計測はカウンタをスタートさせてから2回目以降の数値を用いる。図8では、パルスのエッジ方向の切替でカウントを終了・開始し、U相上アームのON幅をA、OFF幅をBとしてCPU42内のメモリーに記憶することで、CPU42によって時間換算できる。
【0030】
一般に民生機用インバータのPWMは数k〜数十kHzのキャリア周波数fcでチョッピングして実施される。よって、数百ms〜数秒程度の時間連続あるいは所定間隔ごとに計測を行えば、相当数の計測母数となり、十分なサンプル数が確保できる。CPU42はパルスが安定に発生できる区間で、計測した複数の値の平均値を計算する等してON幅Ton・OFF幅Toffを求める。通常、PWMパルス発生時にはリンギング等のノイズが発生するので、明らかに誤検出していると判断できる場合には、他のデータとの数値比較等して算出に用いないことで検出精度が向上できる。この場合、CPU42はリンギングの発生時間とマージンの時間を含めた所定の時間経過後のデータを取り込むようにする。さらに、キャリア周波数fcまたはキャリア周期Tc・デッドタイム等が既知の場合はTon、Toffのいずれか一方の計測で良い(一方の計測であってもデューティ換算可能である)。
【0031】
また、CPU42はステップ301bにて、母線電圧検出回路11を用いてA/D変換された検出回路出力xdcを取り込む。次に、CPU42はステップ301cにて、xdcを検出回路で定まるゲイン換算して母線電圧Vdcを求める。電動機巻線抵抗検出・巻線温度検出を高精度で行う必要がある際は、Vdcとxdcの関係を事前に計測してゲイン換算に反映しておくことで、以下の直流電圧算出が精度良く行える。
【0032】
次に、CPU42はステップ201cにて、ステップ201bにて求めたTon・Toffと、ステップ301cにて求めたVdcから、数10を用いて、UV巻線間に印加される直流電圧Edを算出する。ここで、TcはTon・Toffの合計{キャリア周期}を示す。
【0033】
【数10】
【0034】
一方、CPU42はステップ401bにおいて、電流検出素子6の両端電圧Vshの計測を行う。
電流検出は、電流検出素子6に電流が流れることで発生する両端電圧Vshを検出して行う。図5(a)の場合、V4またはV5発生時は電流検出素子6に電流が通電された状態での両端電圧Vsh(ON)が観測される。V4発生時のケースの電流経路を図9(a)に示し、V5発生時のケースの電流経路を図9(b)に示す。
【0035】
【数11】
【0036】
また、V0発生時は電流検出素子6に電流が通電されない状態での両端電圧Vsh(OFF)が観測される。また、このケースの電流経路を図9(c)に示す{ゼロベクトル発生時には、ダイオード5dを通る経路でUV相に電流が流れ続ける}。従って、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwは図7に示すようにそれぞれプラス、マイナス、ゼロとなる。即ち、UV相を流れる電流は直流となる。そこで、インバータ2と電動機3の接続線の経路に直流成分を検出可能なカレントトランス(DCCT)を挿入することでもUV相に流れる電流を検出できる。
なお、このとき電動機は誘導電動機であるため、回転しないで停止している。
【0037】
上述のように、Vsh(ON){必要に応じてVsh(OFF)も}を計測すればUV相に通電される電流を算出することが可能である。
通常、Vshは微少信号であるので、電流検出手段31は非反転増幅回路等でVshを増幅し、さらにA/D変換してCPU42内に取り込む。CPU42は取り込んだVshを電流に換算する。
図10に、VshをA/D変換してCPU42内に取り込む際の一例を示す。U相の上アーム信号のエッジ切替タイミング等で割込処理を行い、所定のタイミングでA/Dサンプルホールドを行い、データをCPU42内の図示しないメモリーに記憶する。
【0038】
また、図11に、非反転増幅回路の一例を示す(Vrefはオフセットを持たせた場合の基準電位)。OPアンプIC101Aの非反転入力端子V(+)は増幅回路のゲインを考慮し数12で表せる。またV(+)は、数13のようにVrefと電流検出素子6両端電圧Vsh間の分圧でも表せる。これらより、Vshを数14で表すことができる。これにより、図10に示すように、電流検出素子6に通電中及び必要に応じて非通電中(本例では、Vrefが0[V]でない場合等)の情報をCPU42内に取り込むことで、Vsh{非通電中も計測した場合はVrefも}算出が可能となる。
【0039】
【数12】
【数13】
【数14】
【0040】
次にCPU42はステップ401cにて、電流検出素子6の両端電圧に所定ゲインGを乗ずることで、数15に示すように直流電流を算出する。
【0041】
【数15】
【0042】
ここで、定常時(通電から所定時間経過した後)の電圧方程式は、UV二相に通電し、2つのスイッチング素子を動作させるので、数16で表せる。ここで、Rは1相の巻線抵抗値、Vce(sat)は1つのスイッチング素子のON電圧、IはUV相に流れる電流値またはスイッチング素子のON区間に電流検出素子6に流れる電流値(図7のVshの電流換算値)を示す。
以上より、CPU42はステップ201dにて、数17のように巻線抵抗値Rを算出する。
【0043】
【数16】
【数17】
【0044】
通常、直流母線の経路に挿入された電流検出素子6は、過電流検出に用いられる。上記直流電流の検出には、前述のDCCTを用いても良いが、抵抗素子で構成された電流検出素子6を用いて行うことで、それほどのシステムのコストUP無しに、しかも少ない部品点数で電流検出回路を構成でき、電動機巻線抵抗の検出が可能となる。
また、外部演算処理装置(CPU42)を付加することで、汎用のインバータや汎用ICを使用しても、モータ交換時等システム変更に対しても、高い精度で巻線抵抗検出を行うことが可能となる。
【0045】
また、図12に示すように、電動機巻線抵抗値と電動機巻線温度は、1次の線形特性を有する。
よってステップ201eにて、上記手法かあるいは抵抗・温度計測を事前に行うことにより、事前に測定した「巻線抵抗−巻線温度」特性のMAPを作成しておき、必要時にこのMAPを参照することで、検出された巻線抵抗から巻線温度を推定することが可能である。
【0046】
次に、ステップ501aで、CPU42からCPU41に通信回路43を介して電圧ベクトル出力方向固定運転モード終了要求を送信する。
最後に、ステップ501bで、CPU41からCPU42に対して通信回路43を介して電圧ベクトル出力方向固定運転モード終了連絡を送信し、一連のシーケンスを終了する。
【0047】
以上、この実施の形態1によれば、巻線抵抗や温度の測定を行い、巻線が過熱状態であれば、運転停止など運転モードを調整することで、電動機巻線の過熱焼損を防止できるため信頼性の高い電動機駆動システムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施の形態1における電動機駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における各相電流からPWM信号を発生するフローの一例を示す図である。
【図3】実施の形態1におけるインバータ回転角と電圧ベクトルを示す図である。
【図4】実施の形態1における電動機巻線抵抗・巻線温度算出のフローの一例を示す流れ図である。
【図5】実施の形態1における(a)直流電圧印加時の上アーム論理と(b)電圧ベクトルの様子(インバータ回転角330度付近への通電角固定励磁の場合の例)を示す説明図である。
【図6】図4の各相電圧の様子{(a)はV4発生時、(b)はV5発生時}を示す説明図である。
【図7】実施の形態1における各相上アーム出力及び電流検出素子両端電圧及び各相電流の様子(インバータ回転角330度付近への通電角固定励磁の場合の例)を示す説明図である。
【図8】実施の形態1におけるパルス幅(デューティ)計測の一例を示すタイムチャートである。
【図9】実施の形態1における直流電圧印加時の電流経路の一例(インバータ回転角330度付近への通電角固定励磁の場合の例)を示す概念図である。
【図10】VshをA/D変換してCPU42内に取り込む際の一例を示すタイムチャートである。
【図11】実施の形態1による電流検出回路の一例を示す図である。
【図12】実施の形態1による巻線抵抗と巻線温度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 直流電圧源、2 インバータ、3 電動機、4a〜4f スイッチング素子、5a〜5f ダイオード、6 電流検出素子、11 母線電圧検出回路、21 バッファ回路、31 電流検出手段、41 演算処理装置、42 演算処理装置、43 通信回路、51 制御基板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍空調装置・家電機器の電動機駆動等に利用する電動機駆動装置に関するものであり、特にテスターや温度センサを用いずに巻線抵抗・温度算出を行う機能を付加した電動機駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低廉・高性能な可変電圧・可変周波数インバータが実用化されるに従って、各種の可変速電動機駆動の応用分野が開拓されてきた。その中で、大トルク・大容量のインバータが求められるようになってきている。一方、駆動装置の高性能化とともに、装置の信頼性向上の観点から、電動機の過熱焼損保護に対する要求も年々高まってきている。
現在、電動機を駆動するために用いる電動機巻線抵抗は、テスターやミリオーム計等を用いて事前に手動で測定して制御定数として設定する方法の他に、センサレス制御技術の進化を受け推定シーケンスを付加して定数推定を自動的に行う方法等が提案されてきている。
また、電動機巻線温度計測・過熱焼損防止に関しては、バイメタルやサーミスタ等により直接巻線温度を計測して行う方法が一般に用いられ、例えば電動機固定子のスロット内にある電動機巻線の隙間にセンサを設置する等で温度計測が行われる。また、温度計測の場合も、巻線抵抗同様に推定・保護シーケンスを付加して定数推定を自動的に行う等の手法が提案されている。
【0003】
例えば、コイルの両端電圧を測定し、予め設定した設定電圧と比較することによりコイルの状態を検知して過熱焼損保護を行う保護装置が開示されている(例えば特許文献1参照)。
また、複数のインバータを並列運転した場合の誘導電動機一次・二次巻線抵抗値の推定を行うインバータ装置が開示されている(例えば特許文献2参照)。
また、3つの異なる周波数を用いて誘導電動機の一次・二次巻線抵抗値を含む電気的定数の各パラメータを推定する誘導電動機制御装置が開示されている(例えば特許文献3参照)。
また、試験電源の有効電力と無効電力を演算することにより誘導電動機の一次・二次巻線抵抗値を含む電気的定数の各パラメータを推定する誘導電動機制御装置が開示されている(例えば特許文献4参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−174019号公報(第4頁,第1図、第3図)
【特許文献2】特許第3302799号公報
【特許文献3】特許第3526876号公報(第7頁〜第8頁,図1〜図4)
【特許文献4】特許第3771239号公報(第16頁〜第17頁,図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜4で示される従来例では、電動機巻線抵抗の測定や、電動機巻線温度測定・電動機巻線の過熱保護は前記のように構成されているので、1システム内で行うものが多く、ユーザの要望等によって、電動機巻線の種別を変更する場合や・生産途中における電動機構成要素の素材変更を伴う場合や、システムの構成要素自体の変更を余儀なくされる場合(インバータ交換等)など、システムの小変更に対して設置上あるいは構造上の制約が多く、信頼性の確保が難しかった。
また、汎用インバータ等を用いて独自なシステム構築を行う場合、電動機巻線温度測定・電動機巻線の過熱保護を行う際に、上記と同様の問題により信頼性の確保が難しかった。
【0006】
この発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、現行システムに対して必要最小限な装置を付加するだけで、装置の信頼性を低下させることなく電動機巻線抵抗の測定や、電動機巻線温度測定・電動機巻線の過熱保護を行える電動機駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る電動機駆動装置は、直流電圧源と、電動機を駆動するインバータと、インバータを制御する第1の演算処理装置と、直流母線経路の電流を検出する電流検出手段と、直流母線経路の電圧を検出する母線電圧検出手段と、PWM信号の時間幅を計測するとともに、電流検出手段の出力、母線電圧検出手段の検出結果及び計測したPWM時間幅に基づき電動機の巻線抵抗を算出する第2の演算処理装置と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、温度センサによらない手法で電動機巻線抵抗を検出するので、設置制約や構造制約の観点から直接の巻線抵抗・巻線温度のセンシングが困難な場合であっても、それほどコストアップせずに巻線抵抗を測定することができる。なお、この巻線抵抗測定が行われることにより、事前に得られた巻線抵抗と巻線温度の関係を用いて巻線温度を求めることが可能となり、ひいては電動機巻線の過度な温度上昇に対して瞬時に精度良く電動機巻線の過熱保護を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態1に係る電動機駆動装置及びその方法について図面を参照しながら説明する。図1は、実施の形態1における電動機駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示す装置は、直流電圧源1、インバータ2、同期電動機3、直流母線経路に挿入された抵抗・カレントトランス等の電流検出素子6、母線電圧検出回路11、PWM信号のバッファ回路21、電流検出回路31、インバータを制御する演算処理装置であるCPU41、電動機巻線抵抗・巻線温度を算出するための外部演算処理装置であるCPU42、CPU41とCPU42の通信回路43とから構成される。なお、図1では直流電圧源1、インバータ2、直流母線経路に挿入された抵抗で構成された電流検出素子6、母線電圧検出回路11、PWM信号のバッファ回路21、電流検出回路31、CPU41、CPU42、を一枚の電子基板51上に実装しているようにしているが、必要に応じて各ブロックを分けて、複数枚の基板構成としても良い。
インバータ2は、スイッチング素子4a〜4f及びダイオード5a〜5fで構成される周知回路である。
PWM信号のバッファ回路21は、必要に応じてPWM論理を反転可能なバッファIC等で構成される。
電流検出手段31は、電流検出素子6を構成する抵抗の両端に発生した電圧をCPU等に取り込み電流換算できるようにするA/D変換器、増幅器等で構成される。母線電圧検出手段11は、直流母線電圧をCPU等に取り込み電圧換算できるようにする抵抗・コンデンサ等から成る分圧回路、A/D変換器、増幅器等で構成される。
【0010】
図1の装置では、CPU41が電流検出素子6及び電流検出手段31によって検出された電動機3の電流情報及び母線電圧検出手段11によって検出された母線電圧情報に基づいて、電動機3を駆動するインバータ2の制御を行う。
図2はCPU41によるインバータ2の制御を示す流れ図であり、電動機の電流情報Iu〜Iwからインバータ2に出力するPWMデューティを作成する過程の一例を示している。
本処理フローは、電流検出手段31によって得られた電動機電流Iu〜Iwから励磁電流Iγとトルク電流Iδを算出する励磁電流及びトルク電流を求める手段101aと、励磁電流Iγとトルク電流Iδと周波数指令f*とから次回の電圧指令ベクトルVγ*及びVδ*を演算するγ軸電圧・δ軸電圧指令演算手段101bと、Vγ*及びVδ*及び母線電圧Vdcからインバータの出力電圧Vu〜Vwを算出する二相三相変換手段101cと、Vu〜VwからインバータのPWM信号Tup〜Twnを作成するPWM信号作成手段101dと、インバータ2のPWM信号Up〜Wnを発生するPWM信号発生手段101eとから構成される。
なお、これらの各手段はCPU41によって実現される。
【0011】
はじめに電流検出について説明する。インバータ2のスイッチング素子4a〜4fは、上下アームについていずれか一方がONされるものであるから、スイッチングモードは、23=8通り存在する。本文では、各相の上アーム(4a〜4c)を基準としたスイッチング状態の表記として、スイッチング素子ON状態を1、OFF状態を0とし、各スイッチングモードの基本電圧ベクトルを次のように称する。
【0012】
【数1】
【0013】
基本電圧ベクトル発生区間において、電流検出素子6上を電動機電流が流れる。よってこのタイミングで電流検出手段31(増幅器、AD変換器)によりIu〜Iwの情報を演算処理装置CPU41内で処理できる数値として三相分の電流情報を取得することができる。本例では、電動機制御に用いる電流検出手段として直流母線経路に挿入される抵抗素子(電流検出素子6)を利用する方法を示したが、電動機3とインバータ2の接続線等にカレントトランスを挿入して電動機電流検出を行うことで、三相電流情報を得ても良い。
【0014】
Iu〜Iwは、図2に示す励磁電流及びトルク電流を求める手段101aにより、励磁電流(γ軸電流Iγ)及びトルク電流成分(δ軸電流Iδ)に変換される。具体的には、Iu〜Iwを数2に示すような変換行列[C1]を用いることで行う。ただし、式中のθはインバータ回転角で、回転方向が時計回りの場合を示す。
【0015】
【数2】
【0016】
なお、パルスエンコーダ等の回転子位置を検出するセンサを用いる場合、回転子の電気角周波数とインバータの回転周波数はほぼ一致するので、回転子の電気角周波数と同一周波数でインバータが回転する座標系をdq座標系と一般的に称する。また、パルスエンコーダ等の回転子位置を検出するセンサを用いない場合は、演算処理装置CPU41でdq軸座標を正確に捉えることができず、実際にはdq座標系と位相差Δθだけずれてインバータが回転している。このような場合を想定して、一般的にはインバータの出力電圧と同一周波数で回転する座標系をγδ座標系と称し、回転座標系とは区別して扱うこととしているが、本文の実施例ではセンサを用いない場合の例を示しているのでこの慣例を踏襲してγδを添え字としている。
【0017】
次に、γ軸電圧・δ軸電圧指令演算手段101bにより、励磁電流Iγとトルク電流Iδと周波数指令f*から速度制御を含む各種ベクトル制御を行い、次回のγ軸電圧指令及びδ軸電圧指令Vγ*、Vδ*を求める。
【0018】
その後、二相三相変換手段101cにより三相分の出力電圧Vu、Vv、Vwを得る。ここでは二相三相変換手段を用いる例を示しているが、Vγ*、Vδ*より得られる指令電圧ベクトルより空間ベクトル変調等を用いても良い。
PWM信号作成手段101dは、出力電圧Vu、Vv、Vwが得られるようにPWM信号のON時間またはOFF時間Tup〜Twnを演算する。これを受けて、PWM信号発生手段101eによりPWM信号Up〜Wnを発生し、インバータ2のスイッチング素子4a〜4fを制御し、電動機3を駆動する。
【0019】
次に、電動機巻線抵抗・温度検出について説明する。また、抵抗・温度検出は、従来のテスターや温度センサにより行わず、インバータのPWM制御を用いて、温度センサによらない手法で実施する。また、多種モータやモータ・インバータのシステム組合せ変更に対応するため、本検出に関する演算は外部演算処理装置であるCPU42を用いる。インバータ2を制御するCPU41の運転モード情報は通信回路43を介してCPU42に伝達される。電動機巻線抵抗・温度の検出は、上記運転モードが電圧ベクトル出力方向固定運転モード(三相電圧形インバータの出力電圧ベクトルの出力方向を所定の位相方向に固定するモード)である時に必要に応じて実施する。すなわち抵抗・温度の検出が必要なタイミングにおいて、外部演算処理装置CPU42から演算処理装置CPU41に対して、電圧ベクトル出力方向固定運転モードを要求し許可された後にCPU42が電動機巻線抵抗・温度の検出を実施する。
【0020】
図4に、電動機巻線抵抗・温度検出のフローを示す。
例として、二相変調を用いて通電角を固定してUV相(二相)に通電する場合の電動機巻線抵抗・温度の検出について以下説明する。
【0021】
ステップ101aにて、外部演算処理装置であるCPU42からCPU41に対して通信回路43を介して電圧ベクトル出力方向固定運転モードの要求信号を送信する(可能な場合には出力電圧ベクトルの位相角の指定も含めて要求する)。
CPU41がこの要求信号を受信すると、ステップ101bにて、CPU41から外部演算処理装置CPU42に対して電圧ベクトル出力方向固定運転モードの許可信号を送信する。
その後、ステップ201aにてCPU41は通電角固定で励磁を開始する。
以下、CPU41とCPU42との間の通信により出力電圧ベクトルの位相角指定が可能で、位相角が330[deg]である場合の例を中心に説明する。
図5に、(a)二相変調を用いてUV相通電する時の上アーム論理と(b)電圧ベクトルの様子の一例を示す(概念図のため、図中のデュイーティ比は実際とは異なる)。この場合、U(+)相とV(−)相に出力すれば良いことがベクトル図から分かる。
【0022】
【数3】
【0023】
【数4】
【数5】
【0024】
【数6】
【0025】
【数7】
【数8】
【0026】
【数9】
【0027】
図5(a)のようなPWMでUV相に通電し、過電流にかからないようにパルス幅を調整しながら所定時間経過すると、各部波形は図7のようになる。
図7は上からU相上アーム出力Up、V相上アーム出力Vp、W相上アーム出力Wpを示す。
【0028】
図4のステップ201bにおいて、CPU42は電圧計測を行う。
ここで、電動機駆動に汎用インバータを用いる場合、CPU41から出力される出力電圧を正確に把握できない場合がある。そこで、システムの一部に汎用装置を用いた場合でもそれほどコストアップせずに精度良く出力電圧(平均値)を求めるために、PWMのパルス幅(デューティ)を外部の計測装置{ここでは外部演算処理装置であるCPU42}を用いて測定する方法を考案した。
CPU42によりV4またはV5発生時のパルス幅(デューティ)、またはV0発生時のパルス幅(デューティ)を計測することで、直流電圧の印加比率を算出できる。すなわち、電動機巻線に印加される電圧を算出することが可能である。空間ベクトル変調では、通電角と各相のパルス幅(デューティ)の関係が一意に決まる。よって少なくとも1相のパルス幅(デューティ)情報が得られれば、母線電圧との比率で平均出力電圧換算が可能である(出力電圧ベクトルの位相角の指定が可能であれば、1相のパルス幅情報で確実に平均出力電圧の算出が行える)。
【0029】
図8に、パルス幅(デューティ)計測の一例を示す。ここではCPU41から出力されたU相上アームのPWM信号に関して、バッファ回路21を経由した後の信号をCPU42のI/Oポート等に入力する。CPU42は本パルス信号の立ち上がり、立ち下がりのエッジを検出し、CPU42内部に設定されたカウンタにてパルス幅計測を行う。計測はカウンタをスタートさせてから2回目以降の数値を用いる。図8では、パルスのエッジ方向の切替でカウントを終了・開始し、U相上アームのON幅をA、OFF幅をBとしてCPU42内のメモリーに記憶することで、CPU42によって時間換算できる。
【0030】
一般に民生機用インバータのPWMは数k〜数十kHzのキャリア周波数fcでチョッピングして実施される。よって、数百ms〜数秒程度の時間連続あるいは所定間隔ごとに計測を行えば、相当数の計測母数となり、十分なサンプル数が確保できる。CPU42はパルスが安定に発生できる区間で、計測した複数の値の平均値を計算する等してON幅Ton・OFF幅Toffを求める。通常、PWMパルス発生時にはリンギング等のノイズが発生するので、明らかに誤検出していると判断できる場合には、他のデータとの数値比較等して算出に用いないことで検出精度が向上できる。この場合、CPU42はリンギングの発生時間とマージンの時間を含めた所定の時間経過後のデータを取り込むようにする。さらに、キャリア周波数fcまたはキャリア周期Tc・デッドタイム等が既知の場合はTon、Toffのいずれか一方の計測で良い(一方の計測であってもデューティ換算可能である)。
【0031】
また、CPU42はステップ301bにて、母線電圧検出回路11を用いてA/D変換された検出回路出力xdcを取り込む。次に、CPU42はステップ301cにて、xdcを検出回路で定まるゲイン換算して母線電圧Vdcを求める。電動機巻線抵抗検出・巻線温度検出を高精度で行う必要がある際は、Vdcとxdcの関係を事前に計測してゲイン換算に反映しておくことで、以下の直流電圧算出が精度良く行える。
【0032】
次に、CPU42はステップ201cにて、ステップ201bにて求めたTon・Toffと、ステップ301cにて求めたVdcから、数10を用いて、UV巻線間に印加される直流電圧Edを算出する。ここで、TcはTon・Toffの合計{キャリア周期}を示す。
【0033】
【数10】
【0034】
一方、CPU42はステップ401bにおいて、電流検出素子6の両端電圧Vshの計測を行う。
電流検出は、電流検出素子6に電流が流れることで発生する両端電圧Vshを検出して行う。図5(a)の場合、V4またはV5発生時は電流検出素子6に電流が通電された状態での両端電圧Vsh(ON)が観測される。V4発生時のケースの電流経路を図9(a)に示し、V5発生時のケースの電流経路を図9(b)に示す。
【0035】
【数11】
【0036】
また、V0発生時は電流検出素子6に電流が通電されない状態での両端電圧Vsh(OFF)が観測される。また、このケースの電流経路を図9(c)に示す{ゼロベクトル発生時には、ダイオード5dを通る経路でUV相に電流が流れ続ける}。従って、U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwは図7に示すようにそれぞれプラス、マイナス、ゼロとなる。即ち、UV相を流れる電流は直流となる。そこで、インバータ2と電動機3の接続線の経路に直流成分を検出可能なカレントトランス(DCCT)を挿入することでもUV相に流れる電流を検出できる。
なお、このとき電動機は誘導電動機であるため、回転しないで停止している。
【0037】
上述のように、Vsh(ON){必要に応じてVsh(OFF)も}を計測すればUV相に通電される電流を算出することが可能である。
通常、Vshは微少信号であるので、電流検出手段31は非反転増幅回路等でVshを増幅し、さらにA/D変換してCPU42内に取り込む。CPU42は取り込んだVshを電流に換算する。
図10に、VshをA/D変換してCPU42内に取り込む際の一例を示す。U相の上アーム信号のエッジ切替タイミング等で割込処理を行い、所定のタイミングでA/Dサンプルホールドを行い、データをCPU42内の図示しないメモリーに記憶する。
【0038】
また、図11に、非反転増幅回路の一例を示す(Vrefはオフセットを持たせた場合の基準電位)。OPアンプIC101Aの非反転入力端子V(+)は増幅回路のゲインを考慮し数12で表せる。またV(+)は、数13のようにVrefと電流検出素子6両端電圧Vsh間の分圧でも表せる。これらより、Vshを数14で表すことができる。これにより、図10に示すように、電流検出素子6に通電中及び必要に応じて非通電中(本例では、Vrefが0[V]でない場合等)の情報をCPU42内に取り込むことで、Vsh{非通電中も計測した場合はVrefも}算出が可能となる。
【0039】
【数12】
【数13】
【数14】
【0040】
次にCPU42はステップ401cにて、電流検出素子6の両端電圧に所定ゲインGを乗ずることで、数15に示すように直流電流を算出する。
【0041】
【数15】
【0042】
ここで、定常時(通電から所定時間経過した後)の電圧方程式は、UV二相に通電し、2つのスイッチング素子を動作させるので、数16で表せる。ここで、Rは1相の巻線抵抗値、Vce(sat)は1つのスイッチング素子のON電圧、IはUV相に流れる電流値またはスイッチング素子のON区間に電流検出素子6に流れる電流値(図7のVshの電流換算値)を示す。
以上より、CPU42はステップ201dにて、数17のように巻線抵抗値Rを算出する。
【0043】
【数16】
【数17】
【0044】
通常、直流母線の経路に挿入された電流検出素子6は、過電流検出に用いられる。上記直流電流の検出には、前述のDCCTを用いても良いが、抵抗素子で構成された電流検出素子6を用いて行うことで、それほどのシステムのコストUP無しに、しかも少ない部品点数で電流検出回路を構成でき、電動機巻線抵抗の検出が可能となる。
また、外部演算処理装置(CPU42)を付加することで、汎用のインバータや汎用ICを使用しても、モータ交換時等システム変更に対しても、高い精度で巻線抵抗検出を行うことが可能となる。
【0045】
また、図12に示すように、電動機巻線抵抗値と電動機巻線温度は、1次の線形特性を有する。
よってステップ201eにて、上記手法かあるいは抵抗・温度計測を事前に行うことにより、事前に測定した「巻線抵抗−巻線温度」特性のMAPを作成しておき、必要時にこのMAPを参照することで、検出された巻線抵抗から巻線温度を推定することが可能である。
【0046】
次に、ステップ501aで、CPU42からCPU41に通信回路43を介して電圧ベクトル出力方向固定運転モード終了要求を送信する。
最後に、ステップ501bで、CPU41からCPU42に対して通信回路43を介して電圧ベクトル出力方向固定運転モード終了連絡を送信し、一連のシーケンスを終了する。
【0047】
以上、この実施の形態1によれば、巻線抵抗や温度の測定を行い、巻線が過熱状態であれば、運転停止など運転モードを調整することで、電動機巻線の過熱焼損を防止できるため信頼性の高い電動機駆動システムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施の形態1における電動機駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における各相電流からPWM信号を発生するフローの一例を示す図である。
【図3】実施の形態1におけるインバータ回転角と電圧ベクトルを示す図である。
【図4】実施の形態1における電動機巻線抵抗・巻線温度算出のフローの一例を示す流れ図である。
【図5】実施の形態1における(a)直流電圧印加時の上アーム論理と(b)電圧ベクトルの様子(インバータ回転角330度付近への通電角固定励磁の場合の例)を示す説明図である。
【図6】図4の各相電圧の様子{(a)はV4発生時、(b)はV5発生時}を示す説明図である。
【図7】実施の形態1における各相上アーム出力及び電流検出素子両端電圧及び各相電流の様子(インバータ回転角330度付近への通電角固定励磁の場合の例)を示す説明図である。
【図8】実施の形態1におけるパルス幅(デューティ)計測の一例を示すタイムチャートである。
【図9】実施の形態1における直流電圧印加時の電流経路の一例(インバータ回転角330度付近への通電角固定励磁の場合の例)を示す概念図である。
【図10】VshをA/D変換してCPU42内に取り込む際の一例を示すタイムチャートである。
【図11】実施の形態1による電流検出回路の一例を示す図である。
【図12】実施の形態1による巻線抵抗と巻線温度の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 直流電圧源、2 インバータ、3 電動機、4a〜4f スイッチング素子、5a〜5f ダイオード、6 電流検出素子、11 母線電圧検出回路、21 バッファ回路、31 電流検出手段、41 演算処理装置、42 演算処理装置、43 通信回路、51 制御基板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧源と、
この直流電圧源の供給電力により電動機を駆動するインバータと、
PWM信号を生成して前記インバータを制御する第1の演算処理装置と、
前記直流電圧源が接続される直流母線経路の電流を検出する電流検出手段と、
前記直流母線経路の電圧を検出する母線電圧検出手段と、
前記第1の演算処理装置からのPWM信号の時間幅を計測し、
前記電流検出手段の検出結果、前記母線電圧検出手段によって検出された母線電圧及び前記計測したPWM時間幅に基づき前記電動機の巻線抵抗を算出する第2の演算処理装置と、
を具備することを特徴とする電動機駆動装置。
【請求項2】
前記第1の演算処理装置は通電角度を所定の位置に固定して前記インバータを制御し、
前記第2の演算処理装置は、前記通電角度が所定の位置に固定された状態において前記電動機の巻線抵抗を算出することを特徴とする請求項1記載の電動機駆動装置。
【請求項3】
前記第1の演算処理装置は2相変調で前記インバータを制御することを特徴とする請求項2記載の電動機駆動装置。
【請求項4】
前記第2の演算処理装置は、少なくとも1相のPWMパルス幅のON時間またはOFF時間を計測することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電動機駆動装置。
【請求項5】
前記第2の演算処理装置は、PWMパルス幅のON時間中またはOFF時間中に前記電流検出手段の検出結果を取り込むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電動機駆動装置。
【請求項6】
前記第2の演算処理装置は、PWMパルス幅のON時間中またはOFF時間中に所定時間経過後に前記電流検出手段の検出結果を取り込むことを特徴とする請求項5記載の電動機駆動装置。
【請求項7】
事前に得られた巻線抵抗と巻線温度の関係を記憶する記憶手段を備え、
前記第2の演算処理装置は、前記算出した電動機の巻線抵抗から前記記憶手段に記憶された巻線抵抗と巻線温度の関係を用いて前記電動機の巻線温度を求めることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電動機駆動装置。
【請求項1】
直流電圧源と、
この直流電圧源の供給電力により電動機を駆動するインバータと、
PWM信号を生成して前記インバータを制御する第1の演算処理装置と、
前記直流電圧源が接続される直流母線経路の電流を検出する電流検出手段と、
前記直流母線経路の電圧を検出する母線電圧検出手段と、
前記第1の演算処理装置からのPWM信号の時間幅を計測し、
前記電流検出手段の検出結果、前記母線電圧検出手段によって検出された母線電圧及び前記計測したPWM時間幅に基づき前記電動機の巻線抵抗を算出する第2の演算処理装置と、
を具備することを特徴とする電動機駆動装置。
【請求項2】
前記第1の演算処理装置は通電角度を所定の位置に固定して前記インバータを制御し、
前記第2の演算処理装置は、前記通電角度が所定の位置に固定された状態において前記電動機の巻線抵抗を算出することを特徴とする請求項1記載の電動機駆動装置。
【請求項3】
前記第1の演算処理装置は2相変調で前記インバータを制御することを特徴とする請求項2記載の電動機駆動装置。
【請求項4】
前記第2の演算処理装置は、少なくとも1相のPWMパルス幅のON時間またはOFF時間を計測することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電動機駆動装置。
【請求項5】
前記第2の演算処理装置は、PWMパルス幅のON時間中またはOFF時間中に前記電流検出手段の検出結果を取り込むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電動機駆動装置。
【請求項6】
前記第2の演算処理装置は、PWMパルス幅のON時間中またはOFF時間中に所定時間経過後に前記電流検出手段の検出結果を取り込むことを特徴とする請求項5記載の電動機駆動装置。
【請求項7】
事前に得られた巻線抵抗と巻線温度の関係を記憶する記憶手段を備え、
前記第2の演算処理装置は、前記算出した電動機の巻線抵抗から前記記憶手段に記憶された巻線抵抗と巻線温度の関係を用いて前記電動機の巻線温度を求めることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電動機駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−28911(P2010−28911A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184467(P2008−184467)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000004422)日本建鐵株式会社 (152)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000004422)日本建鐵株式会社 (152)
【Fターム(参考)】
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