説明

電圧制御発振回路

【課題】発振周波数を制御するPLL回路で生成可能な制御電圧の最大値を低電圧化しても、可変容量ダイオードに印加される電圧の可変範囲を広げることができ、しかも簡単な回路構成で実現でき、発振器の小型化を図ること。
【解決手段】この電圧制御発振回路1は、発振用トランジスタ2と、可変容量ダイオード16を有し発振用トランジスタ2に接続された共振回路13と、電源電圧が印加される電源端子T2とグラウンドとの間に介挿されると共に可変容量ダイオード16に対して並列に接続されたコレクタ抵抗RCと、コレクタ抵抗RCのグラウンド側の端部とグラウンドとの間に介挿され発振周波数を制御する制御電圧が印加される制御用トランジスタ21とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量ダイオードに制御電圧を印加して発振周波数を制御する電圧制御発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可変容量ダイオードを用いた電圧制御発振回路では、回路出力である発振信号の一部をPLL回路に入力して可変容量ダイオードの制御電圧を生成し、この制御電圧を可変容量ダイオードに印加して所望の発振周波数に安定化させていた。ところが、最近はPLL回路の駆動電圧を低電圧化する傾向にある。PLL回路出力である制御電圧の最大値が小さくなると、可変容量ダイオードに印加する制御電圧の電圧幅が狭くなる。このため、従来通りの広帯域の電圧制御発振回路を設計しようとした場合、より狭い電圧幅で調整できるように制御電圧感度(KV)を高くせざるを得ず、SSB Phase Noise等の雑音特性の劣化を招いていた。
【0003】
一方、極めて狭い制御電圧幅で可変容量ダイオードの制御ができ、PLL回路の低電源電圧化を実現しようとした電圧制御発振器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。図4は特許文献1に記載された電圧制御発振器の構成図である。電圧制御発振回路100は、発振器101の発振周波数を決定する共振回路の一部に可変容量ダイオード102を有し、その両端の電圧を制御して容量を変化させ、発振周波数を制御する。電圧制御発振回路100の出力信号を分周器103へ入力して発振周波数を分周する。位相比較器105において分周器103の出力信号と基準周波数信号frefの位相を比較して位相差信号を生成し、チャージポンプ106へ出力する。チャージポンプ106では位相比較器105の出力信号に応じて充放電電流を生成し、フィルタ回路107で充放電電流を平滑化してから電圧制御発振回路100へ供給する。このとき、反転回路108にてフィルタ回路107の出力電圧と基準電圧Vrefとの差電圧を反転した信号を生成し、電圧制御発振回路100の2つの入力端子の一方にはフィルタ回路107の出力電圧を印加し、他方の入力端子には反転回路108の出力電圧を印加し、可変容量ダイオード102の両端の電圧を差動で同時に制御する。
【0004】
以上のように、特許文献1に記載された電圧制御発振器は、PLL回路出力であるフィルタ回路107の出力電圧の反転電圧(正確には基準電圧Vrefとの差電圧を反転させた電圧)を生成し、PLL回路出力の非反転電圧と反転電圧とを可変容量ダイオード102の両端電圧とした。これにより、PLL回路の出力電圧よりも可変容量ダイオード102の制御電圧の電圧幅を大きくすることができる。
【特許文献1】特開2003−249852号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された電圧制御発振器の場合、PLL回路出力となる出力電圧と基準電圧Vrefとの差電圧を生成し、この差電圧を反転させる反転回路108が必要となるので、回路構成が複雑化し、電圧制御発振器の小型化を妨げるといった問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、発振周波数を制御するPLL回路で生成可能な制御電圧の最大値を低電圧化しても、可変容量ダイオードに印加される電圧の可変範囲を広げることができ、しかも簡単な回路構成で実現でき、発振器の小型化を図ることのできる電圧制御発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電圧制御発振回路は、発振用トランジスタと、可変容量ダイオードを有し前記発振用トランジスタに接続された共振回路と、電源電圧が印加される電源端子とグラウンドとの間に介挿されると共に前記可変容量ダイオードに対して並列に接続された抵抗と、前記抵抗のグラウンド側の端部とグラウンドとの間に介挿され発振周波数を制御する制御電圧が印加される可変抵抗手段と、を具備したことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、電源端子とグラウンドとの間に介挿された抵抗の両端電圧が可変容量ダイオードに印加されるので、電源電圧と抵抗の抵抗値を適切に選択することで、制御電圧が低くても可変容量ダイオードに印加される電圧の可変範囲を広げることができる。特に、可変容量ダイオードに印加される電圧の最大値を高くすることができ、高い周波数にまで発振周波数を広げることができる。しかも、抵抗と可変抵抗手段といった簡単な回路構成で実現でき、発振器の小型化を図ることができる。
【0009】
上記電圧制御発振回路において、前記可変抵抗手段はトランジスタで構成できる。
【0010】
また、上記電圧制御発振回路において、前記可変抵抗手段はNPN型トランジスタで構成できる。可変抵抗手段をNPN型トランジスタで構成する場合、前記可変容量ダイオードは、アノードが前記NPN型トランジスタのコレクタに接続され、前記NPN型トランジスタのエミッタが接地され、前記NPN型トランジスタのベースに前記制御電圧が印加される。
【0011】
また、上記電圧制御発振回路において、前記可変抵抗手段はPNP型トランジスタで構成できる。可変抵抗手段をPNP型トランジスタで構成する場合、前記可変容量ダイオードは、アノードが前記PNP型トランジスタのエミッタに接続され、前記PNP型トランジスタのコレクタが接地され、前記PNP型トランジスタのベースに前記制御電圧が印加される。
【0012】
また、上記電圧制御発振回路において、前記可変抵抗手段は電界効果トランジスタで構成できる。可変抵抗手段を電界効果トランジスタで構成する場合、前記可変容量ダイオードは、アノードが前記電界効果トランジスタのソースに接続され、前記電界効果トランジスタのドレインが接地され、前記電界効果トランジスタのゲートに前記制御電圧が印加される。
【0013】
また、上記電圧制御発振回路において、前記抵抗の電源端子側の端部と前記可変容量ダイオードのカソードとの間に設けられた第1のチョークインダクタと、前記抵抗のグラウンド側の端部と前記可変容量ダイオードのアノードとの間に設けられた第2のチョークインダクタとを具備することができる。
【0014】
このように、共振回路と可変容量ダイオードに電圧を印加する回路との間に、第1及び第2のチョークインダクタを設けることにより、共振回路側から可変容量ダイオードに電圧を印加する回路が高周波的に切り離され、共振回路のQ低下を防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、発振周波数を制御するPLL回路で生成可能な制御電圧の最大値を低電圧化しても、可変容量ダイオードに印加される電圧の可変範囲を広げることができ、しかも簡単な回路構成で実現でき、発振器の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る電圧制御発振器の構成図である。
同図に示す電圧制御発振器1は、発振用トランジスタ2のコレクタがコンデンサ3を介して高周波的に接地され、ベース、エミッタ間およびエミッタ、コレクタ間にそれぞれ帰還コンデンサ4,5が接続されている。発振用トランジスタ2のエミッタは二つの帰還コンデンサ4,5の接続点に接続されると共にエミッタバイアス抵抗6を介して接地されている。発振用トランジスタ2のコレクタは、チョーク用コイル7を介して直流電源Vccに接続されている。チョーク用コイル7の発振用トランジスタ2側の一端とグラウンドとの間に分圧用抵抗8,9が直列に接続されていて、一方の分圧用抵抗8と他方の分圧用抵抗9との中間接続点が発振用トランジスタ2のベースに接続されている。また、発振用トランジスタ2のエミッタは直流カットコンデンサ11を介して出力端RFoutに接続され、発振用トランジスタ2のベースには直流カットコンデンサ12を介して共振回路13が接続されている。
【0017】
共振回路13はストリップラインで構成されるインダクタ14とコンデンサ15との並列共振回路で構成されている。インダクタ14の一端とコンデンサ15の一端とが接続され、インダクタ14及びコンデンサ15の他端はそれぞれ接地されている。共振回路13には可変容量ダイオードとしてのバラクタダイオード16が並列に接続されている。バラクタダイオード16のアノードはコンデンサ17を介して高周波的に接地され、カソードはコンデンサ18を介してインダクタ14及びコンデンサ15の一端部に接続されている。バラクタダイオード16の両端に印加される電圧によって共振回路13の共振周波数が変化する。
【0018】
本実施の形態では、PLL回路20が電圧制御発振器1の発振周波数を制御する。電圧制御発振器1の出力端RFoutから出力される発振信号をPLL回路20に取り込む。PLL回路20は、発振周波数を分周する分周器と、分周器の出力信号と基準周波数信号frefの位相を比較して位相差信号を生成する位相比較器と、位相比較器の出力信号に応じて充放電電流を生成するチャージポンプと、チャージポンプで生成した充放電電流を平滑化するフィルタ回路とを備える。すなわち、PLL回路20が発振信号を取り込んで、発振信号の周波数と目標周波数との差分をなくす制御電圧Vctlを生成する。本実施の形態は、PLL回路20の生成する制御電圧Vctlの可変範囲は従来のままとし、バラクタダイオード16に印加する前段で制御電圧Vctlから電圧の最大値を大きくした制御電圧VDに変換している。このための、具体的な回路構成は次の通りである。
【0019】
PLL回路20から出力される制御電圧Vctlは制御電圧端子T1に印加される。制御電圧端子T1をチョーク用コイル22経由で可変抵抗手段としての制御用トランジスタ21のベースに接続している。制御用トランジスタ21のコレクタはコレクタ抵抗RC及びチョーク用コイル23を直列に介して直流電源Vccの印加される電源端子T2に接続している。制御用トランジスタ21のエミッタはエミッタ抵抗REを介して接地している。コレクタ抵抗RCの電源側端部を、第1のチョーク用インダクタ24を直列に介して、バラクタダイオード16のカソードに接続し、コレクタ抵抗RCのトランジスタ側端部を、第2のチョーク用インダクタ25を直列に介して、バラクタダイオード16のアノードに接続している。すなわち、バラクタダイオード16の両端にはコレクタ抵抗RCの両端の電圧が制御電圧VDとして印加される。コレクタ抵抗RCの両端に現れる電圧は、直流電圧Vcc、コレクタ抵抗RCの抵抗値、エミッタ抵抗REの抵抗値、及び制御用トランジスタ21に印加される制御電圧Vctlによって決まる。直流電圧Vccを大きくし、コレクタ抵抗RCを大抵抗とし、エミッタ抵抗REを小抵抗とすれば、コレクタ抵抗RCの両端に現れる電圧の最大値を制御電圧Vctlの最大値よりも2倍以上大きくすることができる。なお、第1及び第2のチョーク用インダクタ24,25のトランジスタ側はコンデンサ26,27を介して高周波的に接地されている。
【0020】
以上のように構成された本実施の形態では、コレクタ抵抗RCを大きな抵抗とし、エミッタ抵抗REを小さな抵抗とし、直流電源Vccを大きな電圧として、コレクタ抵抗RCの両端から大きな電圧を取り出す。例えば、制御用トランジスタ21のベースに印加される制御電圧Vctlを1V〜5Vの可変幅とし、直流電源Vcc=10V、コレクタ抵抗RC=2Ω、エミッタ抵抗RE=1Ωとする。この場合、バラクタダイオード16の両端にかかる電圧VDは、VD=0.6V〜8.6Vとなり、制御電圧Vctlの可変幅の2倍となる。しかも、バラクタダイオード16に印加される電圧VDの最大値が高くなっているので、高い周波数にまで発振周波数を広げることができる。
【0021】
このように、PLL回路20の制御電圧端子T1とバラクタダイオード16との間に制御用トランジスタ21を挿入し、制御用トランジスタ21のコレクタ抵抗RCの両端の電圧をバラクタダイオード16の両端に印加することにより、PLL回路出力の制御電圧Vctlよりも大きな電圧可変幅を実現できる。発振器用の直流電源VccをPLL回路の出力電圧(Vctl)の2倍程度に設定すれば、バラクタダイオード16の両端に印加する電圧の最大値も2倍にでき、制御電圧感度(KV)を低めに設定しても十分な周波数可変幅を実現できる。また、制御電圧感度(KV)を低めに設定することにより、回路Qを高く維持でき、SSB Phase Noise等の雑音特性を改善できる。
【0022】
また、バラクタダイオード16の両端にかかる電圧VDの最大値を高くすることができるため、高い周波数にまで発振周波数を広げることができる。また、コレクタ抵抗RCの両端をバラクタダイオード16の両端に対してチョーク用インダクタ24,25を介して接続したので、共振回路13側からみたPLL回路20側(制御用トランジスタ26を含む)が高周波的に切り離され、共振回路13のQの低下を防止できる。
【0023】
図2は図1に示す電圧制御発振器において、制御用トランジスタを電界効果トランジスタ(FET)に代えた変形例を示す図である。FET以外の構成要素は、図1に示す電圧制御発振器と同一であるので、同一要素には同一符号を付して説明の重複を避ける。
【0024】
図2に示すように、PLL回路20の出力端子とバラクタダイオード16との間にFET30を挿入し、FET30のソース抵抗RSの両端の電圧をバラクタダイオード16の両端に印加することにより、本来の制御電圧Vctlよりも大きな電圧可変幅を実現している。
【0025】
図3(a)はバラクタダイオードの制御電圧−KV特性を示している。同図に示すように制御電圧が高くなるのに従ってKVが低下する。このため、何の補正もしない場合にはロックアップタイム等のPLL性能に制御電圧のLo/Hi間で図3(a)のような傾きが生じていた。
【0026】
一方、図3(b)に示すように、FETのゲート電圧−出力電圧特性は、HFE(増幅率)のエンハンス効果により、ゲートに掛かる電圧が高くなるほど、バラクタダイオード16のカソードへの印加電圧の変化率が高くなる。
【0027】
したがって、図3中に示すように、バラクタダイオードのKVが低下する領域R1において、バラクタダイオード16のカソードへの印加電圧の変化率が高くなる領域R2が対応するので、バラクタダイオードの制御電圧−KV特性を補正することができる。
【0028】
なお、以上の説明では、制御用トランジスタとしてNPN型トランジスタ(21)を例示したが、PNP型トランジスタであっても同様に用いることがきる。この場合、バラクタダイオード16は、アノードがPNP型トランジスタのエミッタに接続され、PNP型トランジスタのコレクタが接地され、PNP型トランジスタのベースに制御電圧が印加される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電圧制御発振器の構成図
【図2】制御用トランジスタをFETに代えた変形例を示す図
【図3】(a)バラクタダイオードの制御電圧−KV特性を示す図、(b)FETのゲート電圧−出力電圧特性を示す図
【図4】特許文献1に記載された従来の電圧制御発振器の構成図
【符号の説明】
【0030】
1…電圧制御発振器
2…発振用トランジスタ
3…コンデンサ
4、5…帰還コンデンサ
6…エミッタバイアス抵抗
7、24、25…チョーク用インダクタ
8,9…分圧用抵抗
11、12…直流カットコンデンサ
13…共振回路
14…インダクタ
15…コンデンサ
16…バラクタダイオード
20…PLL回路
RC…コレクタ抵抗
RE…エミッタ抵抗
RS…ソース抵抗
RD…ドレイン抵抗




【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振用トランジスタと、可変容量ダイオードを有し前記発振用トランジスタに接続された共振回路と、電源電圧が印加される電源端子とグラウンドとの間に介挿されると共に前記可変容量ダイオードに対して並列に接続された抵抗と、前記抵抗のグラウンド側の端部とグラウンドとの間に介挿され発振周波数を制御する制御電圧が印加される可変抵抗手段と、を具備したことを特徴とする電圧制御発振回路。
【請求項2】
前記可変抵抗手段は、トランジスタであることを特徴とする請求項1記載の電圧制御発振回路。
【請求項3】
前記可変抵抗手段は、NPN型トランジスタであり、
前記可変容量ダイオードは、アノードが前記NPN型トランジスタのコレクタに接続され、
前記NPN型トランジスタのエミッタが接地され、
前記NPN型トランジスタのベースに前記制御電圧が印加される、
ことを特徴とする請求項2記載の電圧制御発振回路。
【請求項4】
前記可変抵抗手段は、PNP型トランジスタであり、
前記可変容量ダイオードは、アノードが前記PNP型トランジスタのエミッタに接続され、
前記PNP型トランジスタのコレクタが接地され、
前記PNP型トランジスタのベースに前記制御電圧が印加される、
ことを特徴とする請求項2記載の電圧制御発振回路。
【請求項5】
前記可変抵抗手段は、電界効果トランジスタであり、
前記可変容量ダイオードは、アノードが前記電界効果トランジスタのソースに接続され、
前記電界効果トランジスタのドレインが接地され、
前記電界効果トランジスタのゲートに前記制御電圧が印加される、
ことを特徴とする請求項2記載の電圧制御発振回路。
【請求項6】
前記抵抗の電源端子側の端部と前記可変容量ダイオードのカソードとの間に設けられた第1のチョークインダクタと、
前記抵抗のグラウンド側の端部と前記可変容量ダイオードのアノードとの間に設けられた第2のチョークインダクタと、
を具備したことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電圧制御発振回路。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−98689(P2010−98689A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270106(P2008−270106)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】