説明

電気光学ディスプレイにおける透明電極用の改善されたエッチング特性を有する2層型透明導体スキーム

フラットパネルディスプレイ(LDC、ELD、プラズマディスプレイ、LED、OLED)、タッチパネル、光学フィルター、太陽電池および他の用途における透明な電極を製造するのに適した2層型透明導体スキームが提示される。上層は典型的にインジウム・スズ酸化物からなり、より薄い下層はAlでドープされた酸化亜鉛(AZO)、または酸化ガリウムでドープされたZnO(GZO)、またはAlおよびGaの両方でドープされたZnO(AGZO)からなる。下層は上層よりも顕著に高い湿式化学エッチング速度を有し、これにより上部のITO層のより迅速でより均一なエッチングを可能にし、そうしてITO「アイランド」の形成を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状固体系(layered solid system)、特に透明な導電性フィルム、これらの透明電極層としての、とりわけ電気光学ディスプレイにおける、特にLCD、PDP、EL、LED、FEDおよびOLEDといったフラットパネルディスプレイにおける使用、ならびに前記系の製造およびその構造化に関する。
【背景技術】
【0002】
解決すべき課題および従来技術
層状固体系、特に基材上の薄膜の形態のものはよく知られており、例えば、光学コーティング、干渉フィルタ、表面処理といった種々の目的に応用されており、とりわけ透明導電性フィルム(TCF)が、例えば電気光学ディスプレイのための電極として、および例えばタッチスクリーンなどのタッチセンシティブ入力デバイスのための材料として使用されている。明らかに、これらのシステムのいくつかは、それらが用いられるデバイスの好ましい機能性を達成するために、それらの基材を部分的にのみ被覆するような様式で構築されなければならない。
【0003】
TCFは、産業界において長年にわたり重点的に研究されてきた(例えば、“Semiconducting Transparent Thin Films”, H. L. Hartnagel et al., Institute of Physics Publishing, Bristol and Philadelphia, ISBN 0 7503 0322 0, p.1 ff参照)。大部分のTCFは、例えばガラスなどの透明な基材上に、いくつかの薄膜加工によりコーティングされてきた。これらのTCFフィルムは、電子デバイス、とりわけ電気光学ディスプレイを製造するために、導電性電極を形成すべくエッチングされる。シリコンベースの半導体集積回路と異なり、TCF回路は光の透過を可能にすることから、多くの電気光学的用途にはるかに適している。
【0004】
透明な電子デバイスは、現在の技術、例えば液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、エレクトロルミネセンス(EL)、電界放射ディスプレイ(FED)、タッチパネル、太陽電池、導波管スイッチ、光学フィルター、透明EMIシールドおよび他の多くの用途などに既に広く応用されている。それらの基本特性の要件は、高い透過率、低い比抵抗、良好な環境安定性およびエッチング性を含む。そのうえ、TCFフィルムはまた、それぞれの工場でこれらの電子デバイスのための複雑な処理フローの要件を満たすために、いくつかのアルカリ溶液、高湿度および高温に対して耐化学性であるべきである。例えば、インジウム・スズ酸化物(ITO)は、電磁スペクトルの可視域における優れた光透過性、良好な比抵抗、高い硬度および良好な環境安定性を有している。したがって、これは全てのTCFに最も広く用いられる材料となった。
【0005】
しかしながら、大部分のTCFは、n型半導体である(例えば、“New n-type transparent conducting oxides”, T. Minami, MRS Bulletin, August 2000, p. 38 ff参照)。したがって、それらの比抵抗は、対応する厚みの金属フィルム程低くなることはできない。例えば、最も広く材料TCFとして使われている結晶化したインジウム・スズ酸化物(ITO)フィルムの比抵抗は、典型的にはおよそ2・10−4Ω・cmの値を有する。これに対し、アルミフィルムの比抵抗は、典型的にはおよそ5・10−6Ω・cmである。TCFのこの固有の特性は、低い抵抗を有する薄いTCFフィルムの薄い電極を実際に実現することを極めて困難なものにしている。他方、最新のディスプレイの性能の改善のためには、極めて薄い導電性電極がディスプレイの解像度を高めるために要求されており、これはTCFシートのより低い抵抗が強く要求されていることを意味している。
【0006】
工業用途のために開発された2つの異なるエッチング技術があり、1つ目はウェットエッチングであり、2つ目はドライエッチングである。ウェットエッチング処理は、大部分の生産ラインに適用されており、それは、一方で、比較的コストの低い機械のみを要するという利点を有し、そして他方で、それには大量生産に対して優れた適合性を有する。しかしながら、ウェットエッチング処理においては、エッチャントの組成、エッチング温度、エッチング時間およびTCFフィルムの表面特性などの、いくつかの実験的なパラメータを慎重に考慮しなければならない。エッチング速度があまりに高いと、サイドエッチングおよび望まない樹枝状パターンの形成が容易に誘発される。エッチング速度があまりに小さいと、エッチング処理のスループットは制限される。一般に、処理コストを節約するために、比較的高いエッチング速度が好まれる。
【0007】
M. C. Bartelt et al., Colloids and Surfaces, A, 165 (2000) p. 373 ffで論じられているように、一般的に、浸漬処理であるかまたは吹付け処理であるかに関わらず、任意のウェットエッチング処理の始めに、エッチャントはTCFフィルムの表面に吸着される。その後、化学反応がエッチャントとTCFフィルムとの間の接触面で起こる。エッチング処理の進行中に、TCF中のアイランド構造が、空孔核形成(vacancy nucleation)、成長する空孔アイランドの吸着原子、および空孔アイランドの融合を介して形成される。エッチング処理がほとんど完了した後、ほとんどの空孔アイランドは結合し、ごく小部分のTCFが、エッチング除去されずに残る。残存TCF領域のこれらの残った部分は、通常「TCFアイランド」と呼ばれる。
【0008】
実用的な用途、例えばディスプレイにおいて、これらのアイランド構造(TCFアイランド)は、それぞれの電気回路の短絡を誘導し、そしてその結果、電極の機能を破壊する。したがって、これらの出現を抑制しなければならない。TCFアイランドの数を制限し、そしてさらにはそれらを完全にエッチングするための簡単な方法は、エッチング時間の増加である。しかしながら、製造スループットはこの方策により低減し、その結果、製造コストは増加する。
【0009】
酸化アルミニウムでドープされた酸化亜鉛(AZO)はTCFのための可能な材料として記載されている(Y. Igasaki et al., Applied Surface Science, 169-170 (2001) p. 508-511; T., K. Ellmer et al., Thin Solid Films, 317 (1998) pp. 413-416; T. Minami et al., Thin Solid Films, 366 (2000) pp. 63-68 and M. Miyazaki et al., J of Non-Crystalline Solid, 218 (1997) pp. 323-328)。AZOは良好な光透過率によって特徴づけられ、スパッタリングによりコーティングが容易である。しかし、単層のTCFとしては、AZOはITOと比較してより劣悪な温度および化学安定性を有する。しかしながら、良好な温度および化学安定性は、例えばディスプレイ用途において必要である。
【0010】
上記のように、TCFは、デバイスの長期作動におけるより良好な信頼性のために、化学製品に対して十分な安定性を示さなければならない。しかしながら、TCFはまた、構造化された導電性電極の製造を容易にするために、良好なエッチング性を示す必要もある。基本的に、これらの2つの要件は、相互に相反するものである。化学製品に対する良好な耐性を有する材料は、通常貧弱なエッチング性を有しており、そしてその逆もまた真である。したがって、従来技術からの材料のこれらの欠点を示さないか、または少なくともそれらをより小さい程度で示すにすぎない、改善されたTCFに対する要求がある。
【0011】
液晶ディスプレイ(LCD)は、情報を表示するために広く使われている。用いられる電気光学モードは、例えばねじれネマチック(TN)モード、超ねじれネマチック(STN)モードおよび電気制御複屈折(ECB)モード、およびこれらの種々の変更形態、ならびにその他のモードである。いずれも、基材または液晶層に対して実質的に垂直な電場を用いるこれらのモードのほかに、基材または液晶層に対して実質的に平行な電場を用いる電気光学モード、例えばインプレーンスイッチング(IPS)モードも存在する(例えば、DE 40 00 451とEP 0 588 568を比較されたい)。
【0012】
表面上に配向され、液晶材料の均一な整列を達成するために典型的には前処理されている液晶媒体自体を用いる種々の異なるモードの他に、低分子量の液晶材料と高分子材料との複合的な系、例えばポリマー分散液晶(PDLC)系、曲線配列ネマティック相(nematic curvilinearily aligned phase、NCAP)系、例えばWO 91/05 029に開示されているような、ポリマーネットワーク(PN)系、または軸対称マイクロドメイン(axially symmetric micro-domain、ASM)系などを用いる製品もある。これらの複合系は、典型的には、複合層に対して実質的に垂直な電場を用いる。
【0013】
LCDは、直視型ディスプレイばかりでなく、投写型ディスプレイにも用いられている。これらの用途のほかに、LCD、とりわけPDLCなど、そして特に、当業者に知られた、いわゆるリバースタイプPDLCまたはリバースモードPDLCなどの複合系を含むLCDが、実用的な用途に使用されている。これらのリバースタイプPDLCは、逆のコントラストをもたらす。すなわち、これらは、通常のPDLCとは反対に、無印加状態(non-powered state)で透光性であり、印加状態で散乱性である。これは、重合前または重合中に配向することができ、そして好ましくは配向され、したがって、その配向が液晶系において保存されるメソゲン性ポリマーを高分子材料として用いることにより、一般的かつ好ましく達成される。
【0014】
複合系においては、有効な散乱状態を達成し、かつ良好なコントラストを実現するために、比較的高い複屈折(Δn)を有する液晶媒体が要求される。リバースタイプPDLCについては、Δnはメソゲン性ポリマーのΔn、ならびに硬化した液晶系におけるメソゲン性ポリマーの有効Δnに適合しなければならない。
複合系のポリマー前駆体との良好な適合性および複合系形成の最中における容易な相分離は、かかる用途のための液晶に対する自明な要件である。
【0015】
自然発生的に誘導される相分離(spontaneous induced phase separation、SIPS)が生じる系もあるが、大部分の系においては、相分離は自然発生的に開始せず、そしてより一層重要なのは、大部分の系においてそれがこの方法では完了しないということである。むしろ、相分離は、熱活性化開始剤または光開始剤であってもよい開始剤を利用して重合を開始することにより開始される。相分離が熱または放射線への暴露によって開始される系、とりわけ、化学線照射による硬化に関して、液晶媒体は暴露条件下で安定でなければならない。これは、UVへの暴露に対して特に安定である液晶媒体の使用を要求する、それ以外の点では好ましいUV硬化に特に当てはまる。媒体の複屈折はむしろ同時に高くなるはずであるから、これは困難な要件である。
【0016】
最も典型的な望まれない代償は、不十分に高い透明点、不利に狭いネマチック相範囲、ネマチック相の安定性の下限におけるむしろ高い温度、あまりに低い誘電異方性とそれ故にあまりに高い動作電圧、好ましくない弾性定数、あまりに高い粘性値、そして最後に重要なことだが、UV照射への暴露に対するあまりに低い安定性またはその組合せである。
LCDで使用されるもう一つの有望な電気光学モードは、光学補償ベンド(OCB)モードである。このモードは例えばYamaguchi et al., “Wide-Viewing-Angle Display Mode for the Active-Matrix LCD Using Bend-Alignment Liquid-Crystal Cell”, SID 93, Digest, p. 277 (1993)に記載されている。
【0017】
このモードは極めて有望である。これは、有利な視聴角依存性を特徴とするため、特に直視的な用途に好適である。また、応答時間も極めて短い。しかしながら、ディスプレイのグレー階調を変化させるビデオレート応答については、応答時間をさらに改善する必要がある。従来のTNディスプレイと比較して、OCBディスプレイにおいて、ダイレクターの変形量ははるかに少ない。TNディスプレイでは、ダイレクターは無印加状態において基材に対してほぼ平行に向いており、駆動電圧を印加するとその向きが基材に対してほぼ垂直に変化する一方、OCBディスプレイでは、ダイレクターの配向は同じ最終的な配向に変化するものの、すでにほとんどホメオトロピックな、曲がった開始状態から始まる。したがって、用いる液晶媒体のより高い複屈折が必要である。
【0018】
したがって、広いネマチック相範囲、低い粘度、用いるディスプレイモードに関して適切な光学異方性Δn、特に、OCBおよびPDLCのような複合系については好適な高いΔnといった実際の用途に適した特性、そして複合系については、特に複合系用のポリマー前駆体との相応に良好な適合性、そして、ポリマーの前駆体の硬化条件下における、特に化学線での硬化のための十分な安定性を有する液晶媒体に対する顕著な要求が存在する。
【0019】
液晶ディスプレイ(LCD)は、情報を表示するために広く使われている。使用される電気光学モードは、例えばねじれネマチック(TN)モード、超ねじれネマチック(STN)モード、光学補償ベンド(OCB)モードおよび電気制御複屈折(ECB)モード、ならびにこれらの種々の変更形態などである。いずれも基材および液晶層に対して実質的に垂直な電場を用いるこれらのモードの他に、例えばインプレーンスイッチングモード(例えばDE 40 00 451およびEP 0 588 568に記載のもの)などの、基材および液晶層に対して実質的に平行な電場を使う電気光学モードもある。特にこの電気光学モードは、最新のデスクトップモニター用のLCDに用いられている。
【0020】
本発明による液晶媒体は、好ましくはPDLCディスプレイに、そして特にリバースタイプPDLCのディスプレイに用いられる。
本発明によるディスプレイは、好ましくはアクティブマトリクス(アクティブマトリクスLCD、略してAMD)によって、好ましくは薄膜トランジスター(TFT)のマトリクスによってアドレスされる。しかしながら、本発明の液晶はまた、他の既知のアドレス手段を有するディスプレイにおいて有益に用いることもできる。
【0021】
これらのディスプレイのために、改善された特性を有する新しい液晶媒体が必要である。特に、複屈折(Δn)は十分に高くなければならない。さらに、誘電異方性(Δε)は適度に低い作動電圧を許容するのに十分高くなければならない。好ましくは、Δεは6より高く、そして極めて好ましくは7より高く、または8よりも高くさえあるべきであるが、好ましくは15より高くあるべきではなく、特に10より高くあるべきではない。さもなければ、混合物の比抵抗は、大部分のAMDにとって容認できないほど低くなる傾向がある。このパラメータの他に、媒体は十分に広い範囲のネマチック相、むしろ小さい回転粘度、そして上記のとおり、少なくとも適度に高い比抵抗を示さなければならない。
【0022】
LCD、そして特にAMDディスプレイに適した高い値の複屈折を有する液晶組成物は、例えばU.S.P. 5,328,644およびJP 06-264 059 (A)から知られている。これらの組成物には、しかしながら、重大な欠点がある。それらのほとんどは、他の短所とともに、あまりに低い値の複屈折を有し、および/またはあまりに高い活動電圧を必要とする。それらの多くはまた、あまりに低い比抵抗を有し、および/または不利に長い応答時間をもたらし、および/または高分子前駆体との適合が良好ではなく、および/または照射に対して充分に安定ではない。
【0023】
したがって、広いネマチック相範囲、高いΔε、使用されるディスプレイモードに応じた適切に高い光学的異方性Δn、十分に高い比抵抗、そして特に低い粘度、および照射に対する、特にUV照射に対する優秀な安定性といった、実際の用途に適した特性を有する液晶媒体に対する顕著な需要がある。
【発明の開示】
【0024】
本発明
驚くべきことに、従来技術の材料の欠点を示さないか、少なくともより小さい程度でそれらを示すにすぎない層状系、そして特にTCFを提供し得ることが今回見出された。これらの層状系、特にTCFは、革新的な、多層構造の実現によって提供され、各種デバイス、好ましくは電子または電気光学デバイスに導入される。これらの層状デバイス、特に多層TCF(MTCF)において、エッチング性は、第1エッチング可能層の下への、それ自体が第1エッチング可能層よりも良好なエッチング性を有するバッファー層の導入によって、従来技術からの材料よりも顕著に高くなっている。
【0025】
したがって、本発明の1つの側面は:
−基材、
−エッチング可能材料からなる、第1エッチング可能層と称する第1の固体エッチング可能層、および、
−前記基材と前記第1エッチング可能層との間に位置する、前記第1の層のエッチング可能材料と異なるエッチング可能材料からなる、バッファー層と称する第2の固体エッチング可能層
を含むことを特徴とする層状固体系であり、
好ましくは、
−前記第2のエッチング可能層(バッファー層)は、前記第1エッチング可能層よりも実質的に高いエッチング速度を有し、
より好ましくは、
−層状固体系は、エッチング可能層が前記基材を部分的にのみ被覆している構造化された系である。
【0026】
本発明の特に好ましい側面は:
−基材、
−エッチング可能材料からなる、第1エッチング可能層と称する第1の固体のエッチング可能透明層、および、
−前記基材と前記第1エッチング可能層との間に位置する、前記第1の層のエッチング可能材料と異なるエッチング可能材料からなる、バッファー層と称する第2の固体の、好ましくは薄い、エッチング可能透明層、
を含む層状系であることを特徴とする、透明な導電性フィルムである。
【0027】
本発明のもう一つの好ましい側面は、
−基材、
−エッチング可能材料からなる、第1エッチング可能層と称する第1の固体のエッチング可能透明層、および、
−前記基材と前記第1エッチング可能層との間に位置する、前記第1の層のエッチング可能材料と異なるエッチング可能材料からなる、バッファー層と称する第2の固体の、好ましくは薄い、エッチング可能透明層、
を含む構造化された層状系、
を含むことを特徴とする、構造化された透明な導電性フィルムである。
【0028】
本発明による構造化された透明導電性薄膜は、各種デバイス、好ましくは電気または電気光学デバイスにおける電極として有益に使用され、これもまた本発明の目的である。
さらに、層状系を製造する方法、ならびにこれらの系を含むデバイスも本発明の目的である。
上記全ての態様に適用される本発明の好ましい態様において、
−前記第2のエッチング可能層(バッファー層)は、前記第1エッチング可能層より相当に高いエッチング速度を有する。
【0029】
エッチング速度は、一般的に、単位時間あたりに除去される層の厚さとして定義され、典型的にはnm/秒で与えられる。ここでは、本出願全体と同様に、エッチング速度は、別記のない限り、エッチング可能材料層の厚さの半分が除去される時点において決定される平均エッチング速度によって定義される。各層の厚さは、プロファイラーまたはエリプソメーターを用いることにより適宜測定することができ、それは好ましくはプロファイラーにより測定される。
【0030】
1種の同一のエッチャントが同じエッチング温度で用いられた場合、好ましくは、バッファー層のエッチング速度は第1エッチング可能層より高く、好ましくは5%〜1,000%の範囲の量、より好ましくは50%〜500%の範囲の量、そして最も好ましくは100%〜300%範囲の量だけ高い。最初の厚さは、エリプソメーターまたはプロファイラーで測定することができる。その後の、層の50%の厚さを除去するエッチング時間は、エッチング処理を慎重に制御することにより測定することができる。第1エッチング可能層およびバッファー層のエッチング速度は、それぞれ、単位時間あたりに除去される層の厚さとして決定することができる。
【0031】
ITOフィルムを、好ましくは第1エッチング可能層として含む、本発明による多層系(MTCF)のために用いられる好ましいエッチャントは、下記の例1に記載されている。別記のない限り、好ましいエッチング温度は45+/−1℃である。このエッチャントとこのエッチング温度はまた、エッチング速度決定のための基準として好ましいものである。
好ましくは、第1エッチング可能層は、
【化1】

からなる材料の群から選択されるフィルムからなる。好ましい態様では、それは導電性の、好ましくはドープされた酸化物か、または特に好ましくはITOである。
【0032】
好ましくは、バッファー層は、以下の材料の群、酸化アルミニウムでドープされた酸化亜鉛(略:AZO)、酸化ガリウムでドープされた酸化亜鉛(略:GZO)または酸化アルミニウムおよび酸化ガリウムで同時にドープされた酸化亜鉛(略:AGZO)、Ag、Auなどから選択される材料、好ましくはAZOおよびGZOから選択される材料からなる。
本発明の好ましい態様において、第1エッチング可能層は、透明な、好ましくは導電性の層である。好ましくは、第1エッチング可能層の材料の比抵抗は10−2Ω・cmまたはそれ未満、より好ましくは10−3Ω・cmまたはそれ未満、そして最も好ましくは2・10−4Ω・cmまたはそれ未満である。
【0033】
本発明のさらなる好ましい態様において、バッファー層は透明な、導電性の層である。好ましくは、バッファー層の材料の比抵抗は10−2Ω・cmまたはそれ未満、より好ましくは10−3Ω・cmまたはそれ未満、そして、最も好ましくは2・10−4Ω・cmまたはそれ未満である。
そして、本発明の特に好ましい態様において、両方のエッチング可能層、第1エッチング可能層およびバッファー層は、それぞれ互いに独立して、個々の層の各々について特定された、材料の比抵抗の好ましい条件を満たす材料からなる、透明な、好ましくは導電性の層である。
【0034】
好ましくは、第1の固体エッチング可能層は、50nm以上〜700nm以下、より好ましくは80nm以上〜420nm以下、そして最も好ましくは100nm以上〜300nm以下の範囲の厚さを有する。
好ましくは、バッファー層は、0.1nm以上〜50nm以下、より好ましくは0.5nm以上〜40nm以下、より好ましくは1nm以上〜30nm以下、そして最も好ましくは4nm以上〜26nm以下の範囲の厚さを有する。
好ましくは、バッファー層の厚さは好ましくは第1エッチング可能層よりも薄く、好ましくはそれぞれの厚さの比は、1/2またはそれ未満、好ましくは1/5またはそれ未満、そして最も好ましくは1/10またはそれ未満である。
【0035】
MTCFの透過率、そして特に本出願によるMTCFの第1エッチング可能層の透過率は、とりわけ、必要とされるシート抵抗に依存する。好ましくはMTCF、そして特に本出願によるMTCFの第1エッチング可能層は、550nmにおいて70%またはこれを超える透過率、より好ましくは75%またはこれを超える透過率を有する。
好ましくは、本出願によるMTCFの透明なバッファー層は、550nmにおいて70%またはこれを超える透過率、より好ましくは75%またはこれを超える透過率を有する。
【0036】
好ましくは、本出願による多層状透明導電性薄膜(MTCF)は、550nmにおいて75%またはこれを超える透過率、より好ましくは75%またはこれを超える透過率を有する。
本発明の好ましい態様において、バッファー層は、酸化アルミニウムでドープされた酸化亜鉛(略:AZO)、酸化ガリウムでドープされた酸化亜鉛(略:GZO)、または酸化アルミニウムおよび酸化ガリウムで同時にドープされた酸化亜鉛(略:AGZO)からなる材料の群から選択されるフィルムからなる。
【0037】
好ましくは、本発明により、AZO、GZOまたはAGZOは、スパッタリングによって適用される。好ましくは、0.5原子%以上〜8原子%以下、好ましくは1原子%以上〜4原子%以下、そして最も好ましくは約2原子%のAlでドープされたZnOから好ましくなるAZOが、TCFフィルムのエッチング性を改善するためのバッファー層として用いられる。あるいは、しかしまた好ましくは、0.5原子%以上〜8原子%以下、好ましくは1原子%以上〜4原子%以下、そして最も好ましくは約2原子%のGaでドープされたZnOから好ましくなるGZOが、TCFフィルムのエッチング性を改善するためのバッファー層として用いられる。別の態様では、0.2原子%以上〜6原子%以下、好ましくは0.5原子%以上〜3原子%以下、そして最も好ましくは約1原子%のAlおよびGaのそれぞれでドープされたZnOから好ましくなるAGZOが用いられる。
【0038】
上記のような本発明による適切なバッファー層が、基材の表面と第1エッチング可能層との間に適用される場合、すなわち基材の表面上への第1エッチング可能層の堆積の前に、エッチャントはまた、第1エッチング可能層を表面から始めて取り除く。ここで再度、第1エッチング可能層は、空孔核形成および成長によりアイランド構造にエッチングされる。一部の場所では、第1エッチング可能層は、他の場所よりも速くエッチングされる。したがって、第1エッチング可能層がより速くエッチングされるそれらの場所では再び、それはそこで最初に取り除かれることになる。ここでは、しかしながら、エッチャントは、第1エッチング可能層が最初に取り除かれるそれらの場所でバッファー層と接触し、従来技術の場合のように、基材自体とは接触しない。ここで、エッチャントは、バッファー層と接触して、バッファー層の材料と反応し、これもエッチング除去する。バッファー層のエッチング速度が第1エッチング可能層のそれより高いため、バッファー層は第1エッチング可能層の残りの部分よりもなお速くエッチング除去される。したがって、バッファー層は、まだ完全にエッチング除去されていない第1エッチング可能層と基材との間の領域からもエッチング除去され、したがって、エッチャントにアクセスできる第1エッチング可能層の残存する部分の表面は効果的に増大して、エッチャントが表面と第1エッチング可能層の残りの部分との間に達し、そうしてそれらの「裏側」からもそれらをエッチング除去することを可能にする。したがって、MTCFのエッチングのために必要とする総時間は、第1エッチング可能層のみからなるTCFと比較して顕著に減少する。
【0039】
しかしながら、ここで強調しなければならないのは、第1エッチング可能層の基本的な特性が、先に述べたように、本発明による構造化された電極の形成方法によって保存され、したがってMTCFの特性を決定付けていることである。したがって、構造化された領域における、保護層、例えばフォトレジストによって被覆され、したがってエッチング処理によって取り除かれなかった残りのMTCFは、組み合わされた層状構造の電気的性質を決定付ける。
【0040】
耐化学性、硬度、信頼性および安定性に関する組み合わされた層状構造の特性もまた、第1エッチング可能層自体と同じか、またはほとんど同じであり、エッチング性だけが向上している。アイランド−エッチング機構により、エッチャントは、バッファー層と直接反応し、エッチング性を増強することができる。
多層構造におけるバッファー層の存在の、構造の光学特性への影響があったとしても、それはごく軽度のものにすぎない。薄い透明層の光学の理論(例えば、“Thin-film Optical Filters”, H. Macleod, Institute of Physics Publishing, Bristol and Philadelphia, ISBN 0 7503 0688 2 (2001) p. 86 ff.)によれば、多層光学フィルムの各層の屈折率への影響が予想される。それは実験によって試験することができるか、ソフトウェアによってシミュレーションすることができる。
【0041】
バッファー層の屈折率が、オーバーレイされた第1エッチング可能層より低い場合において、透過率は、バッファー層なしで用いられる同じ第1エッチング可能層のそれと比較して増大する。この効果は、典型的な無反射コーティングのために広く使われている。しかしながら、一般的に、本発明による層系の光透過率は、系の層の屈折率と膜厚を最適化することにより制御可能である。バッファーの厚さが第1エッチング可能層の厚さと比較して小さいならば、可視光の波長にわたる透過スペクトルは極めて類似している。層系の色干渉は顕著に変化せず、そして、よく知られた措置によって制御できる。
【0042】
AZOがバッファー層として、かつITOが第1エッチング可能層として用いられる場合において、AZOのバッファー層の屈折率がITO層化ガラスよりもごくわずかに小さいため、層状系(ITO/AZO)の透過率を制御することは比較的容易である。特に、例えばAZOからなるバッファー層の導入は、例えば100nmまたは125nmの厚さのITOの第1エッチング可能層を有する系の透過率を改善することさえできる。
好ましくは、本発明によれば、第1エッチング可能層とバッファー層とを含む複合フィルムは、1工程でエッチングされる。
別記のない限り、層状系(MTCF)の透過率は可視光の透過率として定義され、典型的には550nmにおける%で与えられる。それは、分光光度計を用いて適宜決定することができる。
【0043】
別記のない限り、MTCFの平均シート抵抗は、導電層の導電率として定義され、典型的にはΩ/□で与えられる。それは、よく知られた4点プローブ(Valdes, L.G. Proc. I.R.E., 42 (1954) pp. 420-427; Smits, F.M., “Measurement of Sheet Resistivity with the Four-Point Probe”, BSTJ, 37 (1958) pp. 711-718 and American Soc. For Testing and Materials, ASTM F 84, Part 43)により、適宜かつ好ましく決定することができる。4点プローブの電極は銅であり、シート抵抗は好ましくは室温で測定される。個別の4点測定器Resistest RT-80、Napson、Japanを用いる。
【0044】
4点測定器は、電圧計と測定回路とから組み立てられてなる。動作原理は例えば、言及した参考文献に記載されており、ここでは簡潔に述べるにとどめる。4つのプローブ(連続してA、B、C、Dとラベルされたもの)が、ガラス板の表面に接触する。これらは、直線に配列される。連続する任意の2つの隣接するプローブ間の距離は5mmである。小さな電流、一般的に4.53mAのものを最も外部の2つのプローブ(AとD)の間で発生させ、その後中心の2つのプローブ(BとC)の間の電圧を測定する。中心の2つのプローブ(BとC)の間で測定される電圧の絶対値は、ガラスのシート抵抗に比例する。
【0045】
本出願によるMTCFの第1エッチング可能層の平均シート抵抗、好ましくは本出願による全MTCFの平均シート抵抗は、好ましくは0.1Ω/□以上〜60Ω/□以下、より好ましくは1Ω/□以上〜30Ω/□以下、特に最も好ましくは3Ω/□以上〜20Ω/□以下、そして最も好ましくは5Ω/□以上から15Ω/□以下、好ましくは10Ω/□以下までの範囲にある。
45℃および下記例1で与えられる条件での本出願によるMTCFの平均除去時間(average time to clear)は、好ましくは1秒以上〜800秒以下、より好ましくは5秒以上〜300秒以下、より好ましくは10秒以上〜300秒以下、そして最も好ましくは20秒以上〜150秒以下の範囲にある。
【0046】
本出願により用いられる第1エッチング可能層のエッチング速度は、好ましくは0.1nm/秒以上〜10nm/秒以下、より好ましくは0.2nm/秒以上〜3nm/秒以下、そして最も好ましくは0.3nm/秒以上〜1nm/秒以下の範囲にある。
本出願により用いられるバッファー層のエッチング速度は、好ましくは0.15nm/秒以上〜15nm/秒以下、より好ましくは0.25nm/秒以上〜8nm/秒以下、そして最も好ましくは0.35nm/秒以上〜2nm/秒以下の範囲にある。
別記のない限り、この出願で与えられるパラメータの範囲はすべて極限値を含む。
【0047】
この出願を通して、別記のない限り、全ての濃度は質量パーセントで与えられ、それぞれの完全な混合物に関するものであり、すべての温度は百分度(摂氏)で、すべての温度の差は百分度で与えられる。別記のない限り、全ての物性は、"Merck Liquid Crystals, Physical Properties of Liquid Crystals", Status Nov. 1997, Merck KGaA, Germanyによって決定されたものであり、かつ決定され、20℃の温度について与えられる。光学的異方性(Δn)は、589.3nmの波長で決定される。誘電異方性(Δε)は、1kHzの周波数で決定される。透過率の決定のために、市販のZeiss、Germanyの分光光度計MMS-2 380 nm〜780 nm Messstelle 2を用いる。閾値電圧、ならびに他の全ての電気光学的特性は、Merck KGaA、Germanyで調製した試験セルで決定した。Δεの決定のための試験セルは、22μmのセルギャップを有した。電極は、1.13cmの面積および保護リングを有する円形のITO電極であった。配向層は、ホメオトロピック配向(ε‖)についてはレシチンであり、ホモジニアス配向(ε⊥)についてはJapan Synthetic RubberからのポリイミドAl-1054であった。容量(capacities)は、周波数応答アナライザーSolatron 1260で、0.3Vrmsの電圧を有する正弦波を用いて決定した。電気光学測定において用いた光は白色光であった。用いた設備は、Otsuka、Japanの市販の器材であった。特性電圧(characteristic voltage)は、垂直観察下で決定した。閾値電圧(V10)、ミッドグレー(mid-grey)電圧(V50)および飽和電圧(V90)は、それぞれ10%、50%および90%の相対コントラスト(relative contrast)値について決定した。
【0048】
適切な添加物を加えることにより、本発明による層状固体系、そして特にMTCFを、すべての既知の種類の用途、特に、このようなTCFを用いるまたは用いないフラットパネルディスプレイ装置、例えばLCD、PDP、OLED、EL、LED、FEDなどにおいて、そして特に電気光学システムにおいて、または、例えば、太陽電池、タッチパネル、導波管スイッチ、光学フィルターおよび透明EMI(EMP)シールドにおいて使用可能となるように改変することができる。
【0049】

以下に挙げる例は、本発明をいかようにも制限することなく、これを例示するものである。
しかしながら、これらは典型的な好ましい態様を例示する。これらは典型的で好ましい態様の使用を示し、それらの構造を例示的に説明する。さらに、これらは層状系の電気的、光学的特性および安定性の可能なバリエーションを示し、当業者にどの特性を達成することができ、どのような範囲でそれらを変更することができるかを説明する。とりわけ、好ましく達成することができる種々の特性の組合せが、このようにして当業者に対して良好に定義される。
【0050】
例1
多層系を、1.1mmの厚さのソーダライムガラスの基材上に、SiOフィルム、AZOフィルムおよび従来のITOフィルムをスパッタリングにより順次堆積させることによって調製した。3種のフィルムの層厚さは、それぞれ25nm、6nmおよび120nmである。層状構造のこれらのパラメータは、表1にまとめてある。
【0051】
【表1】

注記:*:AZO:2原子%のAlを有するZnO、
NA:適用せず
【0052】
ガラス基材の寸法は14インチ×16インチ、厚さは1.1mmである。導電層のシート抵抗は、4点プローブにより、各々のシートの9つの位置で測定した。これらの9つの位置は、以下の略図に示すように基材の長さと幅の両方を3つの部分に等しく分けることによって得た、基材の表面の9つの部分のそれぞれの中心に位置する。
【0053】
【表2】

例1の典型的なシートの9つの領域の中心で得られたシート抵抗の結果を、表2に示す。
【表3】

注記:シート抵抗:Ω/□
【0054】
次に、シートの光学的挙動を調査した。シートの透過率は、550nmにおける空気と比較した透過率として決定した。これらの試験の結果は、表1に含めてある。
次に、シートのエッチング挙動を決定した。用いたエッチング液は、48.4容量%のHCl水溶液(>32%)、3.8容量%のHNO(65%)および48.1の容量%の脱イオン水からなる。観察されたエッチング速度も、表1に含めてある。
層を完全に除去するためのエッチング時間として定義される「除去時間」は、(45+/−1)℃の温度で90秒、そして、(30+/−1)℃の温度で240秒と決定された。これらの試験の結果もまた表1に含めてある。ここで、得られるシート抵抗が1・10Ω/□より大きいときに、層が完全に除去されるものと定義する。
【0055】
次に、シートを、エッチング中における、微小構造の形成に関して調査した。エッチング速度決定用および除去時間決定用と同じエッチング液を用いた。従来のフォトリソグラフィー技法をエッチングパターンに適用した。フォトレジスト材料(Clariant、SwitzerlandのAZ AFP-750ε‖)を、Kondo-Seimitsu、Japanのスピンコーターで、シートの1つの表面に適用した。100℃で90秒間加熱(プリベーク)し、MA-5601-ML露光機、DNK、Japanにより、35mW/cmの放射力にて70mJの放射フラックスで露光し、2.38%の水酸化テトラメチルアンモニウムへの23℃、60秒間の浸漬による現像の後、シートを再度、今度は220℃で70分間加熱した(ポストベーク)。その後、ウェットエッチング処理を(45+/−1)℃の温度で行った。エッチング処理を様々な時間で中断し、結果を顕微鏡下で観察した。30秒後、ITOは、フォトレジストによってカバーされない領域でアイランド構造にエッチングされたのが明らかに見られるのに対し、他の領域はまったくエッチングされていなかった。120秒の時間の後、残存するITO−アイランドはもはや観察されなかった。
【0056】
最後に、シートを5つの別々の試験からなる信頼性試験に供した。
第1に、「粘着テープ試験」をMIL-M13508 4.4.6に従って行い、法線照度(normal illumination)の下、肉眼で視認できる外観の変化についてシートを調査した。
第2に、MIL EE-12397-Bに従ったゴムを用いたMIL C-675-C 4.5.10に従った「ゴム試験」を適用し、再度、法線照度(normal illumination)の下、肉眼で視認できる外観の変化についてシートを調査した。
第3に、NaOH中での化学安定性を、濃度5%の水酸化ナトリウム溶液中、55+/−1℃にて30分間、超音波攪拌下に試験した。NaOH中での化学安定性に関する試験の結果は、得られたシート抵抗および試験中におけるその変化により決定した。
【0057】
第4に、温度安定性を決定した。これは、シートを40分以内に300℃まで加熱し、それらを300℃で30分間維持し、その後それらを周囲空気中、120分間室温に放冷することからなる温度サイクルの完了後のシート抵抗の変化として定義される。
第5に、湿度安定性を決定した。これは、60+/−2℃の温度かつ90+/−5%の相対湿度での24時間の処置の後のシート抵抗の変化として定義される。
本例により調製したシートは、5つの安定性試験のすべてをパスし、その結果は表1に含めてある。
【0058】
比較例1−1
多層系を例1と同様に調製するが、ここではAZOフィルムはITOフィルムの下に堆積されていない。この多層系のそれぞれの厚さの値もまた、比較のために表1に示されている。この多層系は、Merckグループの企業である台湾のMerck Display Technologiesから、STNディスプレイへの適用のための典型的なITO被覆ガラスである「MDT #300 fully oxidized ITO glass」として入手可能である。
比較例1−1の典型的なシートの9つのスポットで得られたシート抵抗の結果を表3に示す。
【0059】
【表4】

注記:シート抵抗:Ω/□
【0060】
この表における結果と表2における結果との比較から、例1のシート抵抗がこの比較例、比較例1−1のそれと極めて類似していることが明らかである。
ここでもまた、シートの光学的挙動を調査した。シートの透過率は、550nmでの空気と比較した透過率として決定した。表1に示したこの比較例、比較例1−1の550nmでの透過率は、例1のそれと極めて類似している。
除去時間は、ここでは、(45+/−1)℃の温度で500秒、そして(30+/−1)℃の温度で1,500秒超と決定された。
【0061】
次に、このシートを、例1に記載したとおりに、エッチング中の微小構造の形成に関して調査した。120秒の時間の後、フォトレジストによって被覆されておらず、かつエッチングされていないか、または部分的にしかエッチングされていない、明瞭に視認できるITOの領域が存在した。360秒後、非エッチング領域または部分エッチング領域はもはや観察されなかった。しかしながら、いくつかの残存ITOアイランドが依然残っていた。
シートは、例1に記載したとおりに行われた5つの安定性試験の全てをパスした。結果を表1に示す。
【0062】
比較例1−2
この比較例では、多層系を再度例1と同様に調製するが、ここではAZOフィルムのみが堆積され、ITOフィルムは全く堆積されていない。この多層系のそれぞれの厚さの値もまた、比較のために表1に示されている。
比較例1−2の典型的なシートの9つのスポットで得られたシート抵抗の結果を表4に示す。
【表5】

注記:シート抵抗:Ω/□
【0063】
この表から、例1のシート抵抗がこの比較例、比較例1−2よりも顕著に低く、したがって、例1のシートが比較例1−2のものよりも実際の用途にはるかに適していることが明らかである。
ここでもまた、シートの光学的挙動を調査した。シートの透過率は、ここでも550nmでの空気と比較した透過率として決定し、例1および比較例1−1の結果と極めて類似しているその結果を表1に含めた。
【0064】
除去時間は、ここでは、(45+/−1)℃の温度で60秒、そして(30+/−1)℃の温度で45秒と決定された。エッチング処理中、AZOフィルムは剥離し、剥離したフィルムは人間の肉眼による検査によってエッチング液中に観察することができた。
次に、このシートを、例1に記載したとおりに、エッチング中の微小構造の形成に関して調査した。結果を表1に示す。
シートは、前記例1に記載した5つの安定性試験に供した。これらのシートは、最初の2種の安定性試験をパスしたが、残りの3種の安定性試験は明らかに不合格であった。
【0065】
例1と比較例1−1および1−2との比較の概要
Merckグループの企業であるMerck Display Technologies, Taiwanから入手可能なSTN用途用の典型的なITOガラスである比較例1−1のITOガラスと比較して、本発明による例1の多層系は、同様の電気および光学特性を有している。例1および比較例1−1の両方のシートは、5つの信頼度試験全てをパスした。しかしながら、本発明による例1の多層系のエッチング挙動は、明らかに異なるエッチング機構および大幅に向上した除去時間を示した。それは、顕著に短い時間内に、しばしば生じる一時的な網目形状にエッチングすることができた。これに加えて、この半エッチング層(semi-etched layer)は、基材表面から迅速に除去することができた。電気光学ディスプレイの製造に用いられる典型的な条件の下では、本発明による例1の多層系は、比較例1−1の系と比較してウェットエッチング処理に要する時間をおよそ82%節約し、さらにITO−アイランドは残らない。
【0066】
比較例1−2の系は、例1および比較例1の系のいずれよりも顕著に大きく、そしてそれ故より良好なエッチング速度、そして結果としてより短く、より良好な除去時間を示すが、デバイス、例えば、STNディスプレイの実用的な製造に容易に適用することはできない。それは、他の2つの系よりも明らかに高く、したがってより劣悪なシート抵抗を有しており、実行した5種の信頼性試験のうち3つについて不合格であった。
【0067】
例2
例1と同様に、多層系を、1.1mmの厚さのソーダライムガラスの基材上に、SiOフィルム、AZOフィルムおよび従来のITOフィルムをスパッタリングにより順次堆積させることによって調製した。しかしながらここでは、3種のフィルムの層厚さは、それぞれ35nm、24nmおよび145nmである。層状構造のこれらのパラメータは、表5にまとめてある。
【0068】
【表6】

注記:*:AZO:2原子%のAlを有するZnO、
NA:適用せず
【0069】
ガラス基材の寸法は、例1で用いたものと同じである。シートは、例1に記載されたのと同じ調査および試験に供した。これらの試験の結果は表5に含めてある。
例2の典型的なシートの9つのスポットで得られたシート抵抗の結果を、表6に示す。
【表7】

注記:シート抵抗:Ω/□
【0070】
次に、シートの光学的挙動、エッチング挙動および除去時間を調査した。これらの試験の結果は、表5に含めてある。
次に、シートを、エッチング中における、微小構造の形成に関して調査した。これらの試験の結果もまた、表5に含めてある。
最後に、シートを、例1に記載された5つの別々の信頼性試験に供した。シートは、5つの安定性試験のすべてをパスした。これらの試験の結果も表5に含めてある。
【0071】
比較例2
多層系を例1と同様に、例2で適用されたのと同じITOフィルムおよびSiOフィルムで調製するが、ここでは、比較例1−1と同様、AZOフィルムはITOフィルムの下に堆積されていない。この多層系のそれぞれの厚さの値もまた、比較のために表5に示されている。この多層系は、台湾のMerck Display Technologiesから、STN用途のための典型的なITO被覆ガラスである「MDT #370 fully oxidized ITO glass」として入手可能である。
比較例2の典型的なシートの9つのスポットで得られたシート抵抗の結果を表7に示す。
【表8】

注記:シート抵抗:Ω/□
【0072】
この表から、例2のシート抵抗がこの比較例、比較例2のそれと極めて類似していることが明らかである。
ここでもまた、シートの光学的挙動を調査した。例2のシートの透過率は、この比較例、比較例2よりもわずかに低い。
除去時間は、ここでは、45℃の温度で580秒と決定された。
この比較例、比較例2のシートは、例1に記載した5つの安定性試験の全てをパスした。比較のため、結果を表5に示す。
【0073】
例2と比較例2との比較の概要
比較例2のITOガラスと比較して、本発明による例2の多層系は、同様の電気的および光学的特性を有している。例2および比較例2のシートはいずれも、5つの信頼性試験全てをパスした。しかしながら、本発明による例2の多層系のエッチング挙動は、明らかに異なるエッチング機構および大幅に向上した除去時間を示した。電気光学ディスプレイの製造に用いられる典型的な条件の下では、本発明による例2の多層系は、比較例2の系と比較してウェットエッチング処理に要する時間をおよそ83%節約し、さらに残留するITOアイランドは観察されない。
【0074】
例3
多層系を、例1と同様に、1.1mmの厚さのソーダライムガラスの基材上に、SiOフィルム、GZOフィルムおよび従来のITOフィルムをスパッタリングにより順次堆積させることによって調製した。3種のフィルムの層厚さは、それぞれ25nm、6nmおよび120nmである。層状構造のこれらのパラメータは、表8にまとめてある。
【0075】
【表9】

注記:*:GZO:2原子%のGaを有するZnO、
NA:適用せず
【0076】
シートは、例1に記載されたとおりに調査した。
例3の典型的なシートの9つのスポットで得られたシート抵抗の結果を、表9に示す。
【表10】

注記:シート抵抗:Ω/□
シートの透過率は、550nmにおける空気と比較した透過率として決定し、表8に含めてある。
観察されたエッチング速度、および(45+/−1)℃の温度で85秒と決定された除去時間もまた、表8に含めてある。
【0077】
次に、シートを、エッチング中における、微小構造の形成に関して調査した。エッチング速度決定用および除去時間決定用と同じエッチング液を用いた。従来のフォトリソグラフィー技法をエッチングパターンに適用した。フォトレジスト材料(Clariant、SwitzerlandのAZ AFP-750ε‖)を、Kondo-Seimitsu、Japanのスピンコーターで、シートの1つの表面に適用した。100℃で90秒間加熱(プリベーク)し、MA-5601-ML露光機、DNK、Japanにより、35mW/cmの放射力にて70mJの放射フラックスで露光し、2.38%の水酸化テトラメチルアンモニウムへの23℃、60秒間の浸漬による現像の後、シートを再度、今度は220℃で70分間加熱した(ポストベーク)。その後、ウェットエッチング処理を(45+/−1)℃の温度で行った。120秒の時間の後、残存するITO-アイランドはもはや観察されなかった。
最後に、シートを、例1に記載された5つの信頼性試験に供した。これらの試験の結果は表8に含めてある。シートは、5つの安定性試験のすべてをパスした。
【0078】
比較例3
多層系を例3と同様に調製するが、ここでは、GZOフィルムは堆積されていない。この多層系のそれぞれの厚さの値もまた、比較のために表8に示されている。この多層系は、台湾のMerck Display Technologiesから、STN用途のための典型的なITO被覆ガラスである「MDT #300 fully oxidized ITO glass」として入手可能である。
比較例3の典型的なシートの9つのスポットで得られたシート抵抗の結果を表10に示す。
【表11】

注記:シート抵抗:Ω/□
【0079】
この表から、例3のシート抵抗がこの比較例、比較例3のそれと極めて類似していることが明らかである。
ここでもまた、シートの光学的挙動を調査した。シートの透過率は、550nmでの空気と比較した透過率として決定した。ここで、550nmでの透過率としては、この比較例、比較例3と極めて類似していた。
除去時間は、ここでは、(45+/−1)℃の温度で500秒と決定された。
シートは、例3に記載した5つの安定性試験の全てをパスした。結果を同様に表8に示す。
【0080】
例3と比較例3との比較の概要
Merck Display Technologies, Taiwanから入手可能な比較例3のITOガラスと比較して、本発明による例3の多層系は、同様の電気的および光学的特性を有している。いずれの例も、5つの信頼性試験全てをパスした。しかしながら、例3の多層系のエッチング挙動は、明らかに異なるエッチング機構および大幅に向上した除去時間を示した。電気光学ディスプレイの製造に用いられる典型的な条件の下では、例3の多層系は、比較例3の系と比較してウェットエッチング処理に要する時間をおよそ83%節約し、さらに残存するITOアイランドは観察されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−基材、
−エッチング可能材料からなる、第1エッチング可能層と称する第1の固体層、および、
−前記基材と前記第1エッチング可能層との間に位置し、エッチング可能材料からなる、バッファー層と称する、第2の固体層
を含むことを特徴とする、層状固体系。
【請求項2】
バッファー層が、第1エッチング可能層よりも相当に高いエッチング速度を有することを特徴とする、請求項1に記載の系。
【請求項3】
バッファー層のエッチング速度が、第1エッチング可能層よりも5%以上〜1,000%以下の範囲の量だけ高いことを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の系。
【請求項4】
第1エッチング可能層とバッファー層のうちの少なくとも1つが透明層であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の系。
【請求項5】
第1エッチング可能層とバッファー層の両方が透明層であることを特徴とする、請求項4に記載の系。
【請求項6】
第1エッチング可能層とバッファー層のうちの少なくとも1つが導電層であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の系。
【請求項7】
第1エッチング可能層と前記バッファー層の両方が導電層であることを特徴とする、請求項6に記載の系。
【請求項8】
第1エッチング可能層がITOからなることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の系。
【請求項9】
バッファー層が、材料AZO、GZOおよびAGZOの群から選択される材料からなることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の系。
【請求項10】
バッファー層の厚さが、0.1nm以上〜50nm以下の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の系。
【請求項11】
1または2以上の導電層の20℃におけるシート抵抗が、0.1Ω/□以上〜100Ω/□以下の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の系。
【請求項12】
系の550nmにおける透過率が70%またはこれを超えることを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の系。
【請求項13】
基材が、第1および第2のエッチング可能層により被覆されている領域と、これらの層により被覆されていない領域とに構造化されていることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載の系。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の系を含むデバイス。
【請求項15】
電気光学デバイスであることを特徴とする、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれかに記載の系の電気光学デバイスへの使用。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれかに記載の層状系を用いる、構造化された系を製造する方法。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれかに記載の系を用いることを特徴とする、電気光学デバイスを製造する方法。
【請求項19】
基材が、少なくとも2つのエッチング可能層によって、
−最初に、エッチング可能材料からなるバッファー層により、そして
−次に、バッファー層上に、第1エッチング可能層と称する固体層により、
連続して被覆されることを特徴とする、構造化された系を製造する方法。

【公表番号】特表2007−530311(P2007−530311A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553474(P2006−553474)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000910
【国際公開番号】WO2005/081055
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(307008059)シン アン エスエヌピー タイワン カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】