説明

駆動システム及び駆動方法、並びに露光装置及び露光方法

【課題】プレートステージを駆動する、高帯域でロバストな駆動システムを設計する。
【解決手段】 操作量に従って駆動されるプレートステージPSTの位置(第1制御量)Xを計測する干渉計18Xが設置されたプレートテーブルPTBが示す共振モードに対して逆相の共振モードを示すキャリッジ30に、プレートステージPSTの位置(第2制御量)Xを計測する干渉計18Xが設置される。干渉計18X及び干渉計18Xを用いることにより、プレートステージPSTの駆動する、高帯域でロバストな駆動システムを設計することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動システム及び駆動方法、並びに露光装置及び露光方法に係り、特に、操作量を与えて制御対象を駆動する駆動システム及び駆動方法、並びに前記駆動システムを備える露光装置及び前記駆動方法を利用する露光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子、半導体素子等の電子デバイス(マイクロデバイス)を製造するリソグラフィ工程では、主として、ステップ・アンド・リピート方式の投影露光装置(いわゆるステッパ)、ステップ・アンド・スキャン方式の投影露光装置(いわゆるスキャニング・ステッパ(スキャナとも呼ばれる))などが用いられている。液晶表示素子用の露光装置(液晶露光装置)に対しては、基板の大型化に伴い、スキャナなどの走査型投影露光装置が主流となっている。
【0003】
電子デバイス(マイクロデバイス)は、基板(ガラスプレート、ウエハ等)上に複数層のパターンを重ねて形成することによって製造される。このため、露光装置には、マスクのパターンを基板上の各ショット領域に既に形成されたパターンに正確に重ね合わせて転写すること、すなわち高い重ね合わせ精度が要求される。
【0004】
高い重ね合わせ精度を達成するために、基板を保持して移動する基板ステージの精密且つ安定な制御技術が必要となる。ここで、近年、基板ステージとして、走査露光時における基板の走査方向に移動するキャリッジと、該キャリッジの上に支持されて基板を保持して非走査方向に移動する基板テーブルと、を備えるガントリー・ステージが主に採用されている。ガントリー・ステージなどでは、基板ステージの精密且つ安定な制御の障害要因となる共振が発生する。特に、近時においては、基板ステージの大型化に伴い、その共振周波数が低い傾向にある。
【0005】
このような基板ステージの共振帯域を含む高帯域で且つ共振周波数の変動に対してもロバストな制御系を、ノッチフィルタを用いて構築するための理論的枠組みとして、H∞制御理論を代表とするアドバンストロバスト制御理論を利用したステージ制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。アドバンストロバスト制御理論では、センサを追加して制御対象を1入力多出力系とするが、追加するセンサの配置に制約はなく、また、ノミナルモデルのモデル化誤差に対しても安定なフィードバック制御器を設計することができる。しかし、一般的に、制御対象の構造、重み関数の次数等に応じて制御器の設計自由度が増えるため、フィードバック制御器の高帯域化とロバスト性とはトレードオフの関係になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−73111号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様によれば、操作量を与えて制御対象を駆動する駆動システムであって、前記制御対象の第1部分の位置に関連する第1制御量を計測する第1計測器と、剛体モードに対し前記第1部分と逆相の共振モードとなる前記制御対象の第2部分の位置に関連する第2制御量を計測する第2計測器と、前記第1計測器の計測結果を微分して前記第1部分の速度を求める第1微分器と、前記第2部分の速度に対する目標値を前記第1制御量に対応する量に変換するフィルタと、該フィルタを介した前記目標値と前記第1微分器の出力との差を用いて第1の量を求める第1の制御器と、前記第2計測器の計測結果を微分して前記第2部分の速度を求める第2微分器と、前記目標値と前記第2微分器の出力との差を用いて第2の量を求める第2の制御器と、前記第1及び第2の量の和を求めて該和を前記操作量として前記制御対象に与える加算器と、を有する制御部と、を備える駆動システムが、提供される。
【0008】
これによれば、制御対象を精密且つ安定に駆動することが可能となる。
【0009】
第2の態様によれば、エネルギビームで物体を露光して前記物体上にパターンを形成する露光装置であって、前記物体を保持して所定面上を移動する移動体を前記制御対象とする第1の態様の駆動システムを備える露光装置が、提供される。
【0010】
これによれば、物体を保持する移動体を精密且つ安定に駆動することが可能となり、ひいては物体に対する高精度な露光が可能になる。
【0011】
第3の態様によれば、操作量を与えて制御対象を駆動する駆動方法であって、前記制御対象の第1部分の位置に関連する第1制御量と、剛体モードに対し前記第1部分と逆相の共振モードとなる前記制御対象の第2部分の位置に関連する第2制御量と、を計測することと、前記第1制御量の計測結果を微分して前記第1部分の速度を求め、前記第2部分の速度に対する目標値を前記第1制御量に対応する量に変換し、該目標値と前記第1部分の速度との差を用いて第1の量を求め、前記第2制御量の計測結果を微分して前記第2部分の速度を求め、前記目標値と前記第2部分の速度との差を用いて第2の量を求め、前記第1及び第2の量の和を求めて該和を前記操作量として前記制御対象に与えて、該制御対象を駆動することと、を含む駆動方法が、提供される。
【0012】
これによれば、制御対象を精密且つ安定に駆動することが可能となる。
【0013】
第4の態様によれば、エネルギビームで物体を露光して前記物体上にパターンを形成する露光方法であって、第3の態様の駆動方法により、前記物体を保持して所定面上を移動する移動体を、前記制御対象として駆動することを含む露光方法が、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る露光装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】プレートステージを示す斜視図である。
【図3】露光装置のステージ制御に関連する構成を示すブロック図である。
【図4】1入力1出力系のフィードバック制御系におけるプレートステージの入出力応答を表現する伝達関数(振幅及び位相)の周波数応答特性を示すボード線図である。
【図5】図5(A)及び図5(B)は、それぞれ、1入力2出力系のフィードバック制御系におけるプレートステージのキャリッジ及びプレートテーブルの入出力応答を表現する伝達関数の周波数応答特性を示すボード線図である。
【図6】1入力2出力系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)を表すブロック図である。
【図7】図7(A)はプレートステージの力学的運動(並進運動)を表現する力学模型の一例を示す図、図7(B)は図7(A)の力学模型に含まれる力学パラメータを示す表である。
【図8】図8(A)及び図8(B)は、それぞれ第1及び第2条件に対する、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)、プレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)、及び本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)のそれぞれの閉ループ伝達関数の周波数応答特性を示すボード線図(シミュレーション結果)である。
【図9】図9(A)及び図9(B)は、それぞれ第1及び第2条件に対する、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)、プレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)、及び本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)のそれぞれに対するナイキスト線図である。
【図10】図10(A)及び図10(B)は、それぞれ第1及び第2条件に対する、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)、プレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)、及び本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)のそれぞれに対する感度関数の極及び零点を示す図である。
【図11】図11(A)はプレートステージの駆動軌跡を示す図、図11(B)〜図11(D)には、それぞれ、ノミナルモデル(プラント変動なし)の場合、X2センサ(干渉計18X)についての1μmのオフセットがある場合、プラント変動モデル、すなわちばね定数kに対し図7(B)に与えられた値の0.7倍の値を用いた場合におけるプレートステージの追従誤差の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図1〜図11(D)に基づいて説明する。
【0016】
図1には、本実施形態に係るフラットパネルディスプレイ、例えば液晶表示装置(液晶パネル)などの製造に用いられる露光装置110の概略構成が示されている。露光装置110は、液晶表示素子パターンが形成されたマスクMと、プレートステージPSTに保持されたガラスプレート(以下、「プレート」という)Pとを、投影光学系PLに対して所定の走査方向(ここでは、図1における紙面内左右方向であるX軸方向とする)に沿って同一速度で同一方向に相対走査し、マスクMのパターンをプレートP上に転写するスキャニング・ステッパ(スキャナ)である。以下においては、露光時にマスクMとプレートPとが投影光学系PLに対してそれぞれ相対走査される方向をX軸方向(X方向)とし、水平面内でこれに直交する方向をY軸方向(Y方向)、X軸及びY軸に直交する方向をZ軸方向(Z方向)とし、X軸、Y軸、及びZ軸回りの回転(傾斜)方向をそれぞれθx、θy、及びθz方向として説明を行う。
【0017】
露光装置110は、照明系IOP、マスクMを保持するマスクステージMST、投影光学系PL、マスクステージMST及び投影光学系PLなどが搭載された不図示のボディ、プレートPをプレートホルダPHを介して保持するプレートステージPST、及びこれらの制御系等を備えている。制御系は、露光装置110の構成各部を統括制御する主制御装置(不図示)及びその配下のステージ制御装置50(図3等参照)によって主に構成される。
【0018】
照明系IOPは、例えば米国特許第5,729,331号明細書などに開示される照明系と同様に構成されている。すなわち、照明系IOPは、図示しない光源(例えば、水銀ランプ)から射出された光を、それぞれ図示しない反射鏡、ダイクロイックミラー、シャッター、波長選択フィルタ、各種レンズなどを介して、露光用照明光(照明光)ILとしてマスクMに照射する。照明光ILとしては、例えばi線(波長365nm)、g線(波長436nm)、h線(波長405nm)などの光(あるいは、上記i線、g線、h線の合成光)が用いられる。また、照明光ILの波長は、波長選択フィルタにより、例えば要求される解像度に応じて適宜切り替えることが可能になっている。
【0019】
マスクステージMSTには、回路パターンなどがそのパターン面(図1における下面)に形成されたマスクMが、例えば真空吸着(あるいは静電吸着)により固定されている。マスクステージMSTは、不図示のボディの一部である鏡筒定盤の上面に固定されたX軸方向に伸びる一対のマスクステージガイド(不図示)上に、不図示の気体静圧軸受(例えばエアベアリング)を介して非接触状態で支持(浮上支持)されている。マスクステージMSTは、例えばリニアモータを含むマスクステージ駆動系MSD(図1では不図示、図3参照)により、走査方向(X軸方向)に所定のストロークで駆動されるとともに、Y軸方向、及びθz方向にそれぞれ適宜微少駆動される。マスクステージMSTのXY平面内の位置情報(θz方向の回転情報を含む)は、マスク干渉計システム16により計測される。
【0020】
マスク干渉計システム16は、マスクステージMSTの端部に設けられた移動鏡(又は鏡面加工された反射面)15に測長ビームを照射し、移動鏡15からの反射光を受光することにより、マスクステージMSTの位置を計測する。その計測結果はステージ制御装置50に供給され(図3参照)、ステージ制御装置50は、マスク干渉計システム16の計測結果に基づいて、マスクステージ駆動系MSDを介してマスクステージMSTを駆動する。
【0021】
投影光学系PLは、マスクステージMSTの図1における下方において、不図示のボディの一部(鏡筒定盤)に支持されている。投影光学系PLは、例えば米国特許第5,729,331号明細書に開示された投影光学系と同様に構成されている。すなわち、投影光学系PLは、マスクMのパターン像の投影領域が例えば千鳥状に配置された複数、例えば5つの投影光学系(マルチレンズ投影光学系)を含み、Y軸方向を長手方向とする長方形状の単一のイメージフィールドを持つ投影光学系と同等に機能する。ここでは、3つの投影光学系がY軸方向に所定間隔で配置され、残りの2つの投影光学系が、3つの投影光学系から+X側に離間して、Y軸方向に所定間隔で配置されている。本実施形態では、複数(5つ)の投影光学系のそれぞれとしては、例えば両側テレセントリックな等倍系で正立正像を形成するものが用いられている。また、以下では投影光学系PLの千鳥状に配置された複数の投影領域をまとめて露光領域と呼ぶ。
【0022】
照明系IOPからの照明光ILによってマスクM上の照明領域が照明されると、マスクMを通過した照明光ILにより、投影光学系PLを介してその照明領域内のマスクMの回路パターンの投影像(部分正立像)が、投影光学系PLの像面側に配置される、表面にレジスト(感応剤)が塗布されたプレートP上の照明領域に共役な照明光ILの照射領域(露光領域)に形成される。そして、マスクステージMSTとプレートステージとの同期駆動によって、照明領域(照明光IL)に対してマスクMを走査方向(X軸方向)に相対移動させるとともに、露光領域(照明光IL)に対してプレートPを走査方向(X軸方向)に相対移動させることで、プレートPの走査露光が行われ、プレートP上にマスクMのパターンが転写される。すなわち、本実施形態では照明系IOP及び投影光学系PLによって基板P上にマスクMのパターンが生成され、照明光ILによるプレートP上の感応層(レジスト層)の露光によってプレートP上にそのパターンが形成される。
【0023】
プレートステージPSTは、投影光学系PLの下方(−Z側)に配置されている。プレートステージPSTは、X軸方向(走査方向)に移動するキャリッジ30と、該キャリッジ30の上に支持されてプレートPを保持して非走査方向に移動するプレートテーブルPTBとを備えている。
【0024】
図2には、プレートステージPSTが、プレート干渉計システム18(18X、18Y、18X、18X、図3参照)とともに、斜視図にて示されている。プレートテーブルPTBは、図2に示されるように、平面視矩形板状の部材から成り、その上面の中央にプレートP(図2では不図示、図1参照)を吸着保持するプレートホルダPHが固定されている。プレートテーブルPTBは、複数、例えば3つの支持機構(不図示)を介してYスライダ32Y上に支持されている。各支持機構は、プレートテーブルPTBを支持するとともに、その支持点にてプレートテーブルPTBをZ軸方向に駆動するアクチュエータ(例えばボイスコイルモータ等)を含む。3つの支持機構により、プレートテーブルPTBは、Yスライダ32Y上で、3自由度方向(Z軸、θx方向、及びθyの各方向)に微小駆動される。
【0025】
Yスライダ32Yは、逆U字状のXZ断面を有し、エアベアリング(不図示)等を介して非接触で、Y軸方向に伸びるYビーム(Yガイド)34Yに上方から係合している。Yビーム34Yの内部には、例えば複数のコイルがY軸方向に所定間隔で配置され、Yスライダ32Yの内面側には、例えば複数の永久磁石が、配置されている。Yビーム34YとYスライダ32Yとによって、可動子であるYスライダ32YをY軸方向に駆動するムービングマグネット型のYリニアモータ36Yが構成されている。プレートテーブルPTBが、Yリニアモータ36Yによって、Yビーム34Yに沿ってY軸方向に駆動される。なお、Yリニアモータ36Yとしては、ムービングマグネット型に限らず、ムービングコイル型のリニアモータを用いることもできる。
【0026】
Yビーム34Yの長手方向の一端と他端の下面には、Xスライダ32X1,32X2が固定されている。Xスライダ32X1,32X2は、それぞれ、逆U字状のYZ断面を有し、Y軸方向に離間して配置され、かつX軸方向に延設された一対のXガイド34X1,34X2にエアベアリング(不図示)等を介して非接触で、上方から係合している。Xガイド34X1,34X2は、それぞれ、不図示の防振部材を介して(あるいは直接)床面F上に設置されている。
【0027】
Xガイド34X1,34X2のそれぞれの内部には、例えば複数のコイルがX軸方向に所定間隔で配置され、Xスライダ32X1,32X2の内面側には、それぞれ、複数の永久磁石が配置されている。Xガイド34X1とXスライダ32X1とによって、可動子であるXスライダ32X1をX軸方向に駆動するムービングマグネット型のXリニアモータ36Xが構成されている。同様に、Xガイド34X2とXスライダ32X2とによって、可動子であるXスライダ32X2をX軸方向に駆動するムービングマグネット型のXリニアモータ36Xが構成されている。
【0028】
ここで、一対のXスライダ32X1,32X2と、Yビーム34Yとを含んで、キャリッジ30(図1参照)が構成され、キャリッジ30が、一対のXリニアモータ36X,36Xによって、X軸方向に駆動される。また、一対のXリニアモータ36X,36Xが異なる推力(駆動力)を発生することで、一対のXリニアモータ36X,36Xによって、キャリッジ30が、θz方向に駆動されるようになっている。なお、Xリニアモータ36X,36Xとしては、ムービングマグネット型に限らず、ムービングコイル型のリニアモータを用いることもできる。
【0029】
本実施形態では、上述したYリニアモータ36Y、一対のXリニアモータ36X,36X、及び3つの支持機構(不図示)によって、プレートテーブルPTBを6自由度方向(X軸,Y軸,Z軸,θx,θy,θzの各方向)に駆動するプレートステージ駆動系PSD(図3参照)が構成されている。プレートステージ駆動系PSD(の構成各部)は、ステージ制御装置50によって制御される(図3参照)。
【0030】
図2に戻り、プレートテーブルPTBの上面には、その中央にプレートPを吸着保持するプレートホルダPHが固定されている。また、プレートテーブルPTBの上面には、−X端部及び+Y端部に、それぞれX軸に直交する反射面を有する移動鏡(平面ミラー)17X、Y軸に直交する反射面を有する移動鏡(平面ミラー)17Yが、固定されている。また、Xスライダ32X1の上面にはコーナーキューブ17Xが、Xスライダ32X2の上面にはコーナーキューブ(不図示)が、それぞれ固定されている。
【0031】
プレートステージPSTの位置は、プレート干渉計システム18(図3参照)によって計測されている。プレート干渉計システム18は、図2に示される4つの干渉計18X,18Y、18X及び18Xを含む。
【0032】
干渉計18Xは、プレートテーブルPTBに設けられた移動鏡17XにX軸に平行な少なくとも3本の測長ビームを照射し、それぞれの反射光を受光して、プレートテーブルPTBのX軸方向、θz方向、及びθy方向の位置を計測する。干渉計18Yは、プレートテーブルPTBに設けられた移動鏡17YにY軸に平行な少なくとも2本の測長ビームを照射し、それぞれの反射光を受光して、プレートテーブルPTBのY軸方向及びθx方向の位置を計測する。
【0033】
干渉計18Xは、Xスライダ32X1上に固定されたコーナーキューブ17XにX軸に平行な測長ビームを照射し、その反射光を受光してキャリッジ30のX軸方向の位置(X位置)を計測する。同様に、干渉計18Xは、Xスライダ32X上に固定されたコーナーキューブ(不図示)にX軸に平行な測長ビームを照射し、その反射光を受光してキャリッジ30のX軸方向の位置(X位置)を計測する。
【0034】
プレート干渉計システム18の各干渉計の計測結果は、ステージ制御装置50に供給される(図3参照)。ステージ制御装置50は、後述するように、プレートステージPSTの速度を用いて、プレートステージ駆動系PSD(より正確には、一対のXリニアモータ36X,36X及びYリニアモータ36Y)を介してプレートステージPST(プレートテーブルPTB)をXY平面内で駆動する。ここで、ステージ制御装置50は、プレート干渉計システム18の各干渉計からの位置に関する計測結果を微分器に通すことによりプレートステージPSTの速度を算出する。また、プレートステージPST(プレートテーブルPTB)のX軸方向の駆動に際して、後述するように、干渉計18Xの計測結果と、干渉計18X及び18Xの少なくとも一方の計測結果とが用いられる。
【0035】
なお、ステージ制御装置50は、露光時などに、不図示のフォーカス検出系の検出結果に基づいて、プレートステージ駆動系PSD(より正確には、3つの支持機構(不図示))を介してプレートテーブルPTBをZ軸、θy及びθzの少なくとも一方向に微小駆動する。
【0036】
図3には、露光装置110のステージ制御に関連する制御系の構成が示されている。図3の制御系は、例えばマイクロコンピュータなどを含むステージ制御装置50を中心として構成されている。
【0037】
露光装置110では、予め行われたプレートのアライメント計測(例えば、EGA等)の結果に基づいて、以下の手順で、プレートPの複数のショット領域が露光される。すなわち、主制御装置(不図示)の指示に応じて、ステージ制御装置50が、マスク干渉計システム16及びプレート干渉計システム18の計測結果を監視して、マスクステージMSTとプレートステージPSTとをそれぞれの走査開始位置(加速開始位置)に移動する。そして、ステージMST,PSTをX軸方向に沿って同一方向に同期駆動する。これにより、前述のようにして、プレートP上の1つのショット領域にマスクMのパターンが転写される。走査露光中、ステージ制御装置50は、例えば補正パラメータに従って、マスクステージMSTとプレートステージPSTの同期駆動(相対位置及び相対速度)を微調整する。これにより、前工程レイヤに形成されたパターンに重なるように、マスクMのパターンの投影像が位置合わせされる。
【0038】
1つのショット領域に対する走査露光が終了すると、ステージ制御装置50が、プレートステージPSTを、次のショット領域に対する走査開始位置(加速開始位置)へ移動(ステッッピング)させる。そして、次のショット領域に対する走査露光を行う。このようにして、プレートPのショット領域間のステッピングとショット領域に対する走査露光とを繰り返すことにより、プレートP上の全てのショット領域にマスクMのパターンが転写される。
【0039】
次に、プレートステージPSTを駆動する駆動システム(プレートステージPSTの駆動を制御する制御系)の設計について説明する。
【0040】
本実施形態では、並進方向、一例としてX軸方向にプレートステージPSTを駆動する駆動システムについて説明する。また、比較のため、従来技術についても、簡単に説明する。
【0041】
従来技術では、1入力1出力系(SISO系)のフィードバック制御系(閉ループ制御系)が構築される。この1入力1出力系(SISO系)のフィードバック制御系を、露光装置110に適用する場合を考える。この場合、干渉計18Xにより、制御対象であるプレートステージPST(プレートテーブルPTB)のX位置(制御量)が計測される。その計測結果Xは、ステージ制御装置50に供給される。ステージ制御装置50は、計測結果Xを用いて操作量U(Xリニアモータ36X,36Xが発する駆動力F、又はXリニアモータ36X,36Xのコイルに流す電流量I等)を求め、求められた操作量Uをプレートステージ駆動系PSDへ送る。プレートステージ駆動系PSDは、受信した操作量Uに従って、例えば、駆動力Fに等しい駆動力を発する、或いは電流量Iに等しい量の電流をXリニアモータ36X,36Xのコイルに流す。これにより、プレートステージPSTの駆動が制御される。
【0042】
図4には、上述の1入力1出力系(SISO系)のフィードバック制御系におけるプレートステージPST(プレートテーブルPTB)の入出力応答(操作量Uに対する制御量Xの応答)を表現する伝達関数P(=X/U)の周波数応答特性を示すボード線図(振幅(ゲイン)|P(s)|及び位相arg(P(s)))、すなわちゲイン線図(上側の図)及び位相線図(下側の図)が示されている。ここで、s=jω=j2πf、j=√(−1)、fは周波数である。図中、実線は、例えば後述する力学模型に基づいて求められた理論結果を示し、一点鎖線は、実験結果(実験機を用いて測定された結果)を示す。実験では、操作量Uに対して制御量Xを測定し、その結果を定義式(P=X/U)に適用することにより、伝達関数Pの周波数応答特性が求められている。
【0043】
伝達関数Pの周波数応答特性において、10数Hz付近に、共振モード(共振振舞い)が現れることが確認できる。伝達関数Pは、基本的な振舞いとして、周波数fの増加に対して、その振幅を単調に減少し、位相を一定に保つ。これらは、ゲイン線図及び位相線図において、それぞれ、右下がりの直線及び傾き零の直線を示す。そして、伝達関数Pは、共振振舞いとして、10数Hz付近において、振幅を急激に増加そして減少し、位相を急激に減少そして増加する。これらは、ゲイン線図及び位相線図において、それぞれ、連続する山と谷の形及び谷の形を示す。すなわち、伝達関数Pは、10数Hz付近において、剛体モードに対して逆相の共振モードを示す。
【0044】
上述の共振モード(共振振舞い)は、近年の露光装置の大型化により、より低周波数域に現れ、プレートステージPSTの駆動の精密かつ安定な制御の大きな妨げになっている。なお、図4の周波数応答特性の実験結果において、高周波数域(数10Hz以上)において激しい振動振舞いが見られるが、ここでは特に問題としない。
【0045】
上述の共振モード(共振振舞い)を相殺し、プレートステージPSTの駆動を精密かつ安定に制御するために、プレート干渉計システム18の干渉計18X(第1計測器)に加えて干渉計18X(第2計測器)を用いることにより、加えてプレートステージPSTの(X軸方向の)速度を用いて、1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系を構築する。ここで、キャリッジ30の位置は、干渉計18X、18Xのいずれによっても計測することができ、両者の計測値の平均によっても得られるが、ここでは、説明の便宜上、干渉計18Xを用いるものとする。
【0046】
この1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系では、干渉計18X,18Xにより、それぞれ、プレートステージPST(制御対象)を構成するプレートテーブルPTB(制御対象の第1部分)及びキャリッジ30(制御対象の第2部分)のX軸方向の位置(制御量)X,Xが計測される。これらの計測結果(X,X)は、ステージ制御装置50に供給される。ステージ制御装置50は、計測結果(X,X)を用いてそれぞれプレートテーブルPTB(制御対象の第1部分)及びキャリッジ30(制御対象の第2部分)のX軸方向の速度V,Vを求め、これらの結果を用いて操作量U(駆動力F)を求め、求められた操作量Uをプレートステージ駆動系PSDへ送信する。プレートステージ駆動系PSD(Xリニアモータ36X,36X)は、受信した操作量U(駆動力F)に従って、駆動力Fに等しい駆動力をキャリッジ30(第2部分)に加える。これにより、プレートステージPSTが駆動される。
【0047】
図5(A)には、キャリッジ30の入出力応答(操作量U(駆動力F)に対する速度V)を表現する伝達関数P(=V/U)の周波数応答特性を示すボード線図、すなわちゲイン線図(上側の図)及び位相線図(下側の図)が示されている。また、図5(B)には、プレートテーブルPTBの入出力応答(操作量U(駆動力F)に対する速度V)を表現する伝達関数P(=V/U)の周波数応答特性を示すボード線図、すなわちゲイン線図(上側の図)及び位相線図(下側の図)が示されている。
【0048】
プレートテーブルPTBに対する伝達関数Pの周波数応答特性(図5(B))は、前述の周波数応答特性(図4)と同様の振舞いを示す。これに対し、キャリッジ30に対する伝達関数Pの周波数応答特性は、伝達関数Pの周波数応答特性と相反する振舞い(逆相の共振モード)、すなわち剛体モードに対して同相の共振モードを示す。伝達関数Pは、周波数fの増加に対して、その振幅を急激に減少そして増加し、位相を急激に増加そして減少する。これらは、図5(A)のゲイン線図及び位相線図において、それぞれ、連続する谷と山の形及び山の形を示している。
【0049】
また、1入力2出力系(SIMO系)の制御対象に対するフィードバック制御を用いた露光装置が、特開2006−203113号公報に記載されている。しかし、2つの出力を合成して1出力とし、1入力1出力系(SISO系)の制御対象に対して1つの制御器を設計する構成であるため、で十分とは言えなかった。
【0050】
本実施形態に係る露光装置110では、1入力2出力系(SIMO系)のフィードバック制御系を構築するにあたり、第1計測器(干渉計18X(移動鏡17X))が設置されたプレートステージPSTの第1部分(プレートテーブルPTB)が示す共振モードに対して逆相の共振モードを示すプレートステージPSTの第2部分(キャリッジ30(Xスライダ32X1))に、第2計測器(干渉計18X(コーナーキューブ17X))を設置している。これにより、目的のフィードバック制御系の構築が可能となる。
【0051】
図6には、本実施形態に係る速度を用いるプレートステージPSTの駆動システムに対応する1入力2出力系(SIMO系)の閉ループ制御系(フィードバック制御系)を示すブロック図が示されている。この閉ループ制御系に対応する駆動システムは、制御対象であるプレートステージPSTの第1部分(プレートテーブルPTB)の(X軸方向の)位置(第1の制御量X)及び第2部分(キャリッジ30)の(X軸方向の)位置(第2の制御量X)をそれぞれ計測するプレート干渉計システム18の干渉計18X,18Xと、プレートステージPSTの速度に関する目標値Rと第1及び第2の制御量の計測結果(X,X)の微分、すなわち速度(V,V)とに基づいて操作量Uを演算し、その結果をプレートステージ駆動系PSDに送信してプレートステージPSTの駆動を制御するステージ制御装置50と、を含む。
【0052】
ここで、目標値、制御量、操作量等は、時間の関数として定義されるが、図6及びそれを用いた説明では、制御ブロック図の説明に際しての慣習に従い、それらのラプラス変換を用いて説明を行うものとする。また、後述する演算式U(R−V,R−V)についても、ラプラス変換形においてその定義を与えるものとする。また、以降においても、特に断らない限り、ラプラス変換(ラプラス変換形)を用いて説明するものとする。
【0053】
ステージ制御装置50は、本体部50及び目標生成部51を含む。なお、これら各部は、実際には、ステージ制御装置50を構成するマイクロコンピュータとソフトウェアによって実現されるが、ハードウェアによって構成しても勿論良い。
【0054】
目標生成部51は、微分器51、比例器(比例ゲインKp)51、減算器51、及び加算器51を含み、プレートステージPSTの目標値(目標位置)Rから目標速度Rを生成して本体部50に供給する。ここで、微分器51は、目標位置Rを微分して(sR)、加算器51に送る。減算器51は、目標位置Rと干渉計18XからフィードバックされるプレートテーブルPTBのX位置Xの計測結果との差(R−X)を生成して、比例器51に送る。比例器51は、その差を比例ゲインKp倍して(Kp(R−X))、加算器51に送る。加算器51は、微分器51及び比例器51からの出力の和((Kp+s)R−KpX)を生成し、目標速度Rとして本体部50に供給する。
【0055】
本体部50は、2つの制御器50,50、2つの減算器50,50、加算器50、フィルタ50、及び2つの微分器50,50を含む。
【0056】
2つの微分器50,50は、それぞれ、干渉計18X,18XからフィードバックされるプレートテーブルPTB及びキャリッジ30のX位置X,Xの計測結果を微分して速度V,Vを求め、これらの結果をそれぞれ減算器50,50に供給する。減算器50は、目標速度RとプレートテーブルPTB(伝達関数P)の速度Vとの差、すなわち偏差(R−V)を算出し、制御器50に供給する。フィルタ50(伝達関数C)は、中間量Cを生成して、減算器50に供給する。ここで、フィルタ50は、プレートテーブルPTB(伝達関数P)の速度に対する目標速度Rをキャリッジ30(伝達関数P)の速度に対応する目標値に変換するフィルタであり、その伝達関数はC=P/Pと与えられる。減算器50は、中間量Cとキャリッジ30(伝達関数P)の速度Vとの差、すなわち偏差(C−V)を算出し、制御器50に供給する。ここで、X位置X,Xはそれぞれ干渉計18X,18Xによって計測されるが、図6では図示が省略されている。以降の閉ループ制御系のブロック図においても同様に計測器は図示が省略される。
【0057】
制御器50(伝達関数C)は、偏差(R−V)が零となるように、演算(制御演算)により中間量C(R−V)を算出し、加算器50に送出する。同様に、制御器50(伝達関数C)は、偏差(C−V)が零となるように、制御演算により中間量C(C−V)を算出し、加算器50に送出する。ここで、C,Cは、それぞれ、制御器50,50の伝達関数である。伝達関数とは、入力信号r(t)と出力信号C(t)とのラプラス変換の比R(s)/C(s)、すなわちインパルス応答関数のラプラス変換関数である。
【0058】
加算器50は、制御器50,50の出力(中間量)を加算して操作量Uを求める。このように、ステージ制御装置50は、干渉計18X,18Xの計測結果(X,X2)の微分、すなわち速度(V,V2)と目標位置Rとに基づいて演算式U(R−V,C−V)=C(R−V)+C(C−V)で表される制御演算を行って操作量Uを求め、該操作量Uを制御対象であるプレートステージPSTに与える。これにより、操作量Uに従ってプレートステージPSTが駆動され、その位置が制御される。
【0059】
なお、上述のフィードバック制御系は、P−PI型の制御系を構成している。
【0060】
本実施形態のP−PI型フィードバック制御系の応答特性T及び感度特性Sは、それぞれ、次のように求められる。
【0061】
【数1】

【0062】
本実施形態では、制御器50,50を設計するために、すなわち伝達関数C,Cを決定するために、簡素化された力学模型(剛体模型)を用いてプレートステージPSTの力学的運動を表現する。ここでは、図7(A)に示されるように、プレートステージPSTが第1計測器(干渉計18X)が設置されたプレートテーブルPTB及び第2計測器(干渉計18X)が設置されたキャリッジ30の2部分から構成されるものとする。そして、これらの部分のX軸方向の運動を、ばねにより連結された2つの剛体の運動、より詳細には、図7(A)に示されるように、プレートステージ駆動系PSD(Xリニアモータ36X,36X)に対応する駆動系から駆動力Fを与えられてX軸方向に並進する剛体Cr(キャリッジ30に対応する)と、剛体Cr上の回転中心Oにてばねを介して連結され、回転中心Oに関して(θ方向に)回転する剛体Tb(プレートテーブルPTBに対応する)との運動として表現する。なお、2つの剛体はばねとダンパにより連結されるものとする、或いは注目する2つの剛体を含む2以上の剛体がばね(又はばねとダンパ)により連結されるものとして表現しても良い。
【0063】
ここで、剛体Tb,CrのX位置をそれぞれX,X、速度をそれぞれV,V、質量をそれぞれM,M、剛体Tbの(回転中心Oに関する)慣性モーメントをJ、粘性(剛体Crの速度に比例する抵抗)をC、剛体Tbと剛体Crとの間の減衰係数をμ、ばね定数(剛体Tbと剛体Crとの間のねじり剛性)をk、剛体Tbの重心と回転中心Oとの間の距離をL、剛体Tb,CrのそれぞれのX位置(X,X)計測の基準位置間のZ軸方向に関する離間距離をlとする。なお、図7(B)の表に、これらの力学パラメータの値が示されている。これらの値は、後述する式(3)により表されるモデル式が、それぞれ、図5(A)及び図5(B)に示される周波数応答特性の実験結果、すなわち操作量U(F)に対する第1及び第2制御量X,Xの実測結果の微分値V,Vを式(3)に適用することにより求められる伝達関数P,Pの周波数応答特性を再現するように、最小自乗法等を用いて決定されたものである。
【0064】
上述の剛体模型において、剛体Tb,Crの入出力応答(駆動力Fに対する速度V,Vの応答)を表す伝達関数P,Pは、ラプラス変換形において、次のように与えられる。
【0065】
【数2】

【0066】
上記の伝達関数P,Pを用いて、伝達関数C,Cを決定する。便宜のため、伝達関数P,P,C,Cを、分数式形P=NP1/D,P=NP2/D,C=NC1/D、C=NC2/Dにおいて表す。ただし、
P1=b122+b11s+b10 …(4a)
P2=b222+b21s+b20 …(4b)
=s+C/(M1+M2) …(4c)
=a32+(a2−a3C/(M1+M2))s+a0(M1+M2)/C …(4d)
である。
【0067】
ここで、図7(A)の剛体模型では、剛体Tbの回転中心Oに関する(θ方向への)回転をX軸方向への移動と表現しているため、厳密には、伝達関数P,Pの分母部分を剛体モードDと共振モードDの積の形に表すことができない。しかし、分母部分の厳密形、ただし共振モードDの1次のダンピング係数のみを考慮した形(次式(5))において、右辺第2項の係数が係数aより十分小さい。従って、十分良い近似で、伝達関数P,Pの分母部分を剛体モードDと共振モードDの積の形に表すことができる。
【0068】
【数3】

【0069】
上記の関係式を用いて、フィードバック制御系(図6)に対する閉ループ伝達関数の特性方程式ACLは、1+C+Cの分数式の分子部分により与えられる。すなわち、
CL=D+NC1P1+NC2P2 …(6)
特性方程式ACLにおいて、任意の解析関数αを用いて、
C1P1+NC2P2=αD …(7)
を満たすようにNC1,NC2を決定する。これにより、開ループ伝達関数(次式(8))が得られ、P,Pのそれぞれに含まれる共振振舞いを与える極(すなわちP,Pのそれぞれが示す共振モード)が極零相殺される。
【0070】
【数4】

【0071】
特性方程式ACLが安定な極を持つように極配置する。ここでは、制御器50,50が共振モードDの変動に依存しないように、NC1,NC2にDが含まれない構成を考える。すなわち、
aNP1+bNP2=D …(9)
ただし、a,bは定数である。(7)式より、NC1=aα、NC2=bαと定まる。
次に、定数a,bを決定する。式(4a)〜(4d)及び式(9)式より、次のように与えられる。
【0072】
【数5】

ここで、上記第2式の右辺第2項を無視すると、次のように定まる。
【0073】
【数6】

なお、この近似は、粘性Cが小さい場合に良い近似となる。
【0074】
定数a,bは、質量M,Mおよび距離L,lのみに依存し、ばね定数k、減衰係数μ,粘性C等、プレートステージPSTの状態に応じて変化し得るパラメータに依存しないことに注目する。これは、閉ループ伝達関数においてP,Pの共振モードが相殺され、剛体Tb,Crの質量M,M(すなわちプレートテーブルPTB及びキャリッジ30の質量)および距離L,lが変化しない限り、閉ループ伝達関数の振舞いは如何なるプレートステージPSTの状態の変化に対しても不変であることを意味する。
【0075】
最後に、D,αを決定する。制御器50,50(伝達関数C,C)をPI型制御器にするために、次のように与える。
【0076】
【数7】

以上より、伝達関数C,Cが決定された。
【0077】
発明者らは、上で設計した制御器50,50(伝達関数C,C)を用いて構築されるSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRCと呼ぶ)のパフォーマンスを、シミュレーションにより検証した。また、比較のため、PID型制御器とノッチフィルタの組み合わせからなる従来の1入力1出力系(SISO系)のフィードバック制御系(PID+Notchと呼ぶ)(例えば特開2006−203113号公報参照)及びプレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRCと呼ぶ。詳細説明は省略する。)のパフォーマンスも検証した。なお、SISO系であるPID+Notchにおいて、ナイキスト線図上の中心(−1.0)、半径0.5の円の境界まで高帯域化を行った。この時の帯域は2.5Hzである。PID型SRCにおいて、その帯域を50Hzとした。P−PI型SRCにおいて、PID型SRCと同等以上の性能となるよう、マイナーループの帯域を50Hz、アウターループの比例ゲインKp=100とした。
【0078】
プレートステージPSTの力学的運動(応答特性)は、前述の剛体模型(伝達関数C,C)を用いて再現されている。シミュレーションでは、剛体模型(伝達関数C,C)について2つの条件を適用する。第1条件として、ノミナルモデル、すなわち全ての力学パラメータに対し図7(B)に与えられた値を、第2条件として、プラント変動モデル、ここではばね定数kに対し図7(B)に与えられた値の0.7倍の値を、その他の力学パラメータに対し図7(B)に与えられた値を、適用する。
【0079】
図8(A)及び図8(B)には、それぞれ第1及び第2条件に対する、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)の感度関数(閉ループ伝達関数)S(及びT=1−S;Tは相補感度関数)の周波数応答特性を示すゲイン線図が示されている。また、比較のため、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)及びプレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)の感度関数S(及びT=1−S;Tは相補感度関数)の周波数応答特性を示すゲイン線図も示されている。
【0080】
図8(A)に示される第1条件(ノミナルモデル)に対する周波数応答特性では、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)、プレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)ともに、特異な振る舞いはしていない。
【0081】
図8(B)に示される第2条件に対する周波数応答特性では、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)について、図8(A)におけるノミナルモデルに対する周波数応答特性からの変化が確認できる。これに対し、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)(及びSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC))については、図8(A)におけるノミナルモデルに対する周波数応答特性から大きな変化はしていない。これは、前述の通り、制御器50,50の伝達関数C,C(定数a,b)が質量M,Mおよび距離L,lのみに依存し、ばね定数k等、プレートステージPSTの状態に応じて変化し得るパラメータに依存しないからである。なお、10数Hz付近において微小な特異な振舞いを確認することができる。これは、フィルタCnに由来する振舞いであり、−20dB以下であるため、システム制御上、無視できる程度の微小な振舞いである。この結果は、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系は、如何なるプレートステージPSTの状態の変化に対してもロバストであることを示唆している。
【0082】
本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)は、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)に対して20倍高帯域化したのに加えて、プラント変動(ばね定数kのノミナルモデルからの変動)に対してロバストである。また、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)に対して本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)では、プレートステージPSTを駆動する上で特に重要な低周波数帯域(10Hz以下)において、約80dB(約10000倍)、外乱抑圧特性が向上している。
【0083】
図9(A)及び図9(B)には、それぞれ第1及び第2条件に対する、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)と、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)と、プレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)とのそれぞれに対するナイキスト線図が示されている。いずれの条件及び制御系においても、ナイキスト軌跡は点(−1,0)を囲まず、ナイキストの安定条件を満たす。その上で、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)は、特にSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)と同等以上の帯域であるにも関わらず、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)及びSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)に対して安定余裕が大きくなっていることがわかる。これは、PID型の閉ループの次数が4次であるのに対して、P−PD型の閉ループの次数が3次と小さいからである。
【0084】
図10(A)及び図10(B)は、それぞれ第1及び第2条件に対する、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)と、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)と、プレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)とのそれぞれに対する感度関数の極及び零点が示されている。
【0085】
発明者らは、さらに、図11(A)に示されるプレートステージPSTの目標軌道(位置及び速度のそれぞれに関する目標値)に対して、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)と、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)と、プレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)とのそれぞれの追従性能を検証した。ここで、各制御器はサンプリング周波数5kHzでTustin変換により離散化し、速度は位置の差分から算出した。さらに、各制御系ともに、フィードフォワード制御器に剛体PTCおよび共振・反共振をキャンセルするフィルタを用いた。このフィルタはD/NP1をTustin変換により離散化したものである。また、時刻3sに10Nのステップ外乱を印加した。
【0086】
図11(B)〜図11(D)には、それぞれ、ノミナルモデル(プラント変動なし)の場合、第2計測器(干渉計18X)について第1計測器(干渉計18X)からのオフセット1μmがある場合、プラント変動モデル、すなわちばね定数kに対し図7(B)に与えられた値の0.7倍の値を用いた場合における位置に関する制御誤差の時間変化が示されている。
【0087】
図11(B)において、いずれの制御系についても、PTCにより、加減速時の時間応答は良好である。時刻3sに印加された外乱により、従来のSISO系のフィードバック制御系(PID+Notch)に対する制御誤差は大きくなるのに対し、大幅な高帯域化が可能な本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)とプレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)に対する制御誤差はいずれも小さい。SIMO系のフィードバック制御系では、外乱を十分に抑圧できることがわかる。
【0088】
図11(C)において、プレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)について、時間に対してほぼ一定の誤差が生じている。露光装置110では、干渉計18X,18XによるプレートステージPSTのX位置計測の基準位置、すなわち移動鏡17Xとコーナーキューブ17Xの設置位置にオフセットがある。位置を用いたフィードバック制御系(PID型SRC)では、このオフセットを取り除くためにハイパスフィルタを接続して、低周波数帯域において制御量をカットしている。しかし、このハイパスフィルタによる遅れにより誤差が生じている。この問題は、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)により、解消されていることが分かる。
【0089】
図11(D)において、フィードフォワード制御器とプラントとのミスマッチから加減速時の追従性能は悪化する。しかし、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)では、ほとんどの領域で制御誤差は十分小さく、0.1μm以下であることが分かる。
【0090】
以上説明したように、本実施形態に係る露光装置110によると、プレートステージPST(制御対象)の位置(第1制御量)Xを計測する干渉計18X(第1計測器)が設置されたプレートテーブルPTB(制御対象の第1部分)が示す共振モードと逆相の剛体モードに対する共振モードを示すキャリッジ30(制御対象の第2部分)に、プレートステージPSTの位置(第2制御量)Xを計測する干渉計18X(第2計測器)が設置される。第1及び第2計測器を用いることにより、高帯域でロバストなプレートステージPSTの駆動を制御する駆動システムを設計することが可能となる。
【0091】
また、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)では、微分器51、比例器(比例ゲインKp)51等から構成されるP型の目標生成部51により、目標位置Rと干渉計18XからフィードバックされるプレートテーブルPTBのX位置Xとを用いて目標速度Rを生成し、本体部50に供給する構成を採用している。これにより、プレートステージPSTの駆動精度が飛躍的に改善される。なお、プレートステージPSTの駆動精度が十分である場合には、P型の目標生成部51の導入は必ずしも必要ではない。
【0092】
また、プレートステージPSTの位置を用いたSIMO系のフィードバック制御系(PID型SRC)では、第1及び第2計測器(干渉計18X,18X)によるプレートステージPSTのX位置計測の基準位置、すなわち移動鏡17Xとコーナーキューブ17Xの設置位置にオフセットがあるため、このオフセットを取り除くためにハイパスフィルタを接続して低周波数帯域において制御量をカットしなければならない。しかし、共振が現れる帯域が低く制御量がカットされる周波数帯域に重複する場合、共振モードを自己相殺するための(Pの共振モードをPの共振モードにより相殺するための)信号までもがカットされてしまうため、かえって制御精度の低下を招いてしまうことがあり得る。これに対し、本実施形態のSIMO系のフィードバック制御系(P−PI型SRC)では、プレートステージPSTの速度を用いるため、すなわちオフセットを取り除くためのハイパスフィルタの導入は不要であるため、係る問題は解消されている。これにより、共振が現れる帯域に関係なく、高帯域でロバストなプレートステージPSTの駆動を制御する駆動システムを設計することが可能となる。
【0093】
また、プレートステージPSTの位置(第1及び第2制御量)X,Xの計測結果を微分して求められる速度V,Vを用いて操作量を求めるための演算式U(V,V)=C+Cにおいて、伝達関数C,Cを、プレートステージPSTの第1及び第2部分(プレートテーブルPTB及びキャリッジ30)の応答を表現する伝達関数P,Pのそれぞれに含まれる共振モードに対応する極が開ループ伝達関数C+Cにおいて相殺されるように決定する。さらに、伝達関数P,Pの具体形を、第1及び第2部分の運動をばねにより連結された2つの剛体の運動として表現する力学模型(剛体模型)を用いて与える。これにより、閉ループ伝達関数においてP,Pの共振振舞い(共振モード)が相殺され(Pの共振モードがPの共振モードにより相殺され)、第1及び第2部分の質量(すなわちプレートテーブルPTB及びキャリッジ30の質量)および距離L,lが変化しない限り、如何なる状態の変化に対してもロバストなプレートステージPSTの駆動を制御する駆動システムを設計することが可能となる。
【0094】
また、本実施形態に係る露光装置110によると、プレートステージPSTの第1部分(プレートテーブルPTB)の第1制御量(位置)を計測するとともに、第1部分が示す共振モードと逆相の剛体モードに対する共振モードを示すプレートステージPSTの第2部分(キャリッジ30)の第2制御量(位置)を計測し、それらの計測結果を微分して求められる速度と目標値とに基づいて制御演算を行って操作量を求め、得られた操作量をプレートステージ駆動系PSDに与えることにより、プレートステージPSTの駆動を制御する。これにより、プレートステージPSTを精密且つ安定に駆動することが可能となる。
【0095】
また、制御器50,50(伝達関数C,C)を、プレートステージPSTの第1及び第2部分の応答を表現する伝達関数P,Pのそれぞれに含まれる共振モードに対応する極が開ループ伝達関数C+Cにおいて相殺されるように設計(決定)する。これにより、閉ループ伝達関数においてP,Pの共振振舞い(共振モード)が相殺され(Pの共振モードがPの共振モードにより相殺され)、高帯域でロバストなプレートステージPSTの駆動の制御が可能となる。
【0096】
また、本実施形態に係る露光装置110は、上述のように設計されたプレートステージPSTの駆動システムを備えるため、プレートステージPSTを精密且つ安定に駆動することが可能となり、露光精度、すなわち重ね合わせ精度の向上が可能となる。
【0097】
なお、上記実施形態では、X軸方向についてのプレートステージPSTの駆動を制御する場合について説明したが、Y軸方向及びZ軸方向についてのプレートステージPSTの駆動を制御する場合についても、同様にして、フィードバック制御系を設計することができ、同等の効果を得ることができる。
【0098】
また、上記実施形態では、プレート干渉計システム18の各干渉計の計測結果を微分器50,50に通すことによりプレートステージPSTの速度を算出し、その結果を用いてプレートステージ駆動系PSDを介してプレートステージPST(プレートテーブルPTB)をXY平面内で駆動することとした。これに限らず、プレート干渉計システム18の各干渉計とは独立の速度計測器を設置し、それらを用いて速度を計測し、その計測結果を用いてプレートステージPST(プレートテーブルPTB)をXY平面内で駆動することとしてもよい。係る場合、図6のフィードバック制御系を表すブロック図において、微分器50,50は不要であり、代わりにプレートテーブルPTBの速度Vの計測結果を積分してX位置Xを求め、その結果を目標生成部51にフィードバックする積分器が必要となる。
【0099】
なお、プレート干渉計システム18の構成は、上記の構成に限らず、目的に応じて、適宜、さらに干渉計を追加した構成を採用することができる。また、プレート干渉計システム18に代えて、あるいはプレート干渉計システム18とともにエンコーダ(又は複数のエンコーダから構成されるエンコーダシステム)を用いても良い。
【0100】
なお、上記各実施形態は、サイズ(長辺又は直径)が500mm以上の基板が露光対象物である場合に特に有効である。
【0101】
また、照明光は、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)、KrFエキシマレーザ光(波長248nm)などの紫外光や、F2レーザ光(波長157nm)などの真空紫外光であっても良い。また、照明光としては、例えばDFB半導体レーザ又はファイバーレーザから発振される赤外域、又は可視域の単一波長レーザ光を、例えばエルビウム(又はエルビウムとイッテルビウムの両方)がドープされたファイバーアンプで増幅し、非線形光学結晶を用いて紫外光に波長変換した高調波を用いても良い。また、固体レーザ(波長:355nm、266nm)などを使用しても良い。
【0102】
また、上記実施形態では、投影光学系PLが、複数本の光学系を備えたマルチレンズ方式の投影光学系である場合について説明したが、投影光学系の数はこれに限らず、1つ以上あれば良い。また、マルチレンズ方式の投影光学系に限らず、例えばオフナー型の大型ミラーを用いた投影光学系などであっても良い。また、上記実施形態では投影光学系PLとして、投影倍率が等倍系のものを用いる場合について説明したが、これに限らず、投影光学系は拡大系及び縮小系のいずれでも良い。
【0103】
また、上記各実施形態(のステージ駆動システム)は、一括露光型又はスキャニング・ステッパなどの走査型露光装置、及びステッパなどの静止型露光装置のいずれにも適用することができる。また、ショット領域とショット領域とを合成するステップ・アンド・スティッチ方式の投影露光装置にも上記各実施形態は適用することができる。また、上記各実施形態は、投影光学系を用いない、プロキシミティ方式の露光装置にも適用することができるし、光学系と液体とを介して基板を露光する液浸型露光装置にも適用することができる。この他、上記各実施形態は、2つのパターンを、投影光学系を介して基板上で合成し、1回のスキャン露光によって基板上の1つのショット領域をほぼ同時に二重露光する露光装置(米国特許第6,611,316号明細書)などにも適用できる。
【0104】
また、露光装置の用途としては、角型のガラスプレートに液晶表示素子パターンを転写する液晶用の露光装置に限定されることなく、例えば半導体製造用の露光装置、薄膜磁気ヘッド、マイクロマシン及びDNAチップなどを製造するための露光装置にも広く適用できる。また、半導体素子などのマイクロデバイスだけでなく、光露光装置、EUV露光装置、X線露光装置、及び電子線露光装置などで使用されるマスク又はレチクルを製造するために、ガラス基板又はシリコンウエハなどに回路パターンを転写する露光装置にも上記各実施形態を適用できる。なお、露光対象となる物体はガラスプレートに限られるものでなく、例えばウエハ、セラミック基板、あるいはマスクブランクスなど、他の物体でも良い。
【0105】
液晶表示素子(あるいは半導体素子)などの電子デバイスは、デバイスの機能・性能設計を行うステップ、この設計ステップに基づいたマスク(あるいはレチクル)を製作するステップ、ガラスプレート(あるいはウエハ)を製作するステップ、上述した各実施形態の露光装置、及びその露光方法によりマスク(レチクル)のパターンをガラスプレートに転写するリソグラフィステップ、露光されたガラスプレートを現像する現像ステップ、レジストが残存している部分以外の部分の露出部材をエッチングにより取り去るエッチングステップ、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除くレジスト除去ステップ、デバイス組み立てステップ、検査ステップ等を経て製造される。この場合、リソグラフィステップで、上記実施形態の露光装置を用いて前述の露光方法が実行され、ガラスプレート上にデバイスパターンが形成されるので、高集積度のデバイスを生産性良く製造することができる。
【符号の説明】
【0106】
16…マスク干渉計システム、18…プレート干渉計システム、18X,18Y,18X,18X…干渉計、30…キャリッジ、32X1,32X2…Xスライダ、32Y…Yスライダ、34X1,34X2…Xガイド、34Y…Yガイド、36X,36X…Xリニアモータ、36Y…Yリニアモータ、50…ステージ制御装置、50…本体部、50,50…制御器、50,50…減算器、50…加算器、50…フィルタ、50,50…微分器、51…目標生成部、51…微分器、51…比例器、51…減算器、51…加算器、110…露光装置、M…マスク、MSD…マスクステージ駆動系、MST…マスクステージ、P…プレート、PL…投影光学系、PSD…プレートステージ駆動系、PST…プレートステージ、PTB…プレートテーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作量を与えて制御対象を駆動する駆動システムであって、
前記制御対象の第1部分の位置に関連する第1制御量を計測する第1計測器と、
剛体モードに対し前記第1部分と逆相の共振モードとなる前記制御対象の第2部分の位置に関連する第2制御量を計測する第2計測器と、
前記第1計測器の計測結果を微分して前記第1部分の速度を求める第1微分器と、前記第2部分の速度に対する目標値を前記第1制御量に対応する量に変換するフィルタと、該フィルタを介した前記目標値と前記第1微分器の出力との差を用いて第1の量を求める第1の制御器と、前記第2計測器の計測結果を微分して前記第2部分の速度を求める第2微分器と、前記目標値と前記第2微分器の出力との差を用いて第2の量を求める第2の制御器と、前記第1及び第2の量の和を求めて該和を前記操作量として前記制御対象に与える加算器と、を有する制御部と、を備える駆動システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2部分の位置に対する目標値の微分と前記第2計測器の計測結果とを用いて前記第2部分の速度に対する目標値を生成する目標生成器をさらに備える、請求項1に記載の駆動システム。
【請求項3】
前記目標生成器は、前記第2部分の位置に対する目標値を微分する第3微分器と、前記第2部分の位置に対する目標値と前記第2計測器の計測結果との差を求める減算器と、該減算器の出力を定数倍する比例器と、前記第3微分器の出力と前記比例器の出力とを加算する加算器と、を有する、請求項2に記載の駆動システム。
【請求項4】
前記目標生成器を備える前記制御部によりP−PI型制御系が構成される、請求項3に記載の駆動システム。
【請求項5】
前記目標生成器を除く前記制御部の構成各部により構成される速度マイナーループと前記目標生成器により構成される位置アウターループとを有する、請求項2〜4のいずれか一項に記載の駆動システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1及び前記第2制御量の微分のラプラス変換V,Vと前記第1及び第2制御器のそれぞれに対応する伝達関数C,Cとを用いてラプラス変換形U(V,V)=C+Cで表現される演算式に従って前記操作量U(V,V)を求める閉ループ制御系を、前記制御対象と共に構成し、
前記伝達関数C,Cは、前記第1及び第2部分に対応する伝達関数P,Pのそれぞれに含まれる前記共振モードに対応する極が伝達関数C+Cにおいて相殺されるように決定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載の駆動システム。
【請求項7】
前記伝達関数P,Pの具体形は、前記第1及び第2部分の運動をばね又はばねとダンパにより連結された少なくとも2つ以上の剛体の運動として表現する力学模型を用いて与えられる請求項6に記載の駆動システム。
【請求項8】
前記伝達関数P,Pは、前記操作量と前記第1及び第2制御量の微分のラプラス変換(U,V,V)を用いてP=V/U,P=V/Uと定義され、
前記力学模型に含まれる各種パラメータは、前記操作量に対する前記第1及び第2制御量の実測結果の微分値を、前記定義式P=V/U,P=V/Uに適用することにより求められる前記伝達関数P,Pの周波数応答特性を、前記伝達関数P,Pの具体形が再現するように決定されている請求項7に記載の駆動システム。
【請求項9】
前記伝達関数P,Pは、前記剛体モード及び前記共振モードの特性をそれぞれ表現する関数D,Dを用いて分数式P=NP1/D,P=NP2/Dにより表され、
前記伝達関数C,Cは、分数式C=NC1/D,C=NC2/Dにより表され、
前記伝達関数C,Cの分母部分Dは、D+α(αは任意の解析関数)が任意の安定な極を有するように決定されている請求項6〜8のいずれか一項に記載の駆動システム。
【請求項10】
前記伝達関数C,Cの分子部分NC1,NC2は、前記閉ループ制御系の伝達関数の特性方程式ACL=D+NC1P1+NC2P2がACL=(D+α)Dを満たすように、前記任意の解析関数α及び前記剛体モードに係るパラメータのみにより与えられる定数a,bを用いてNC1=aα、NC2=bαと決定されている請求項9に記載の駆動システム。
【請求項11】
エネルギビームで物体を露光して前記物体上にパターンを形成する露光装置であって、
前記物体を保持して所定面上を移動する移動体を前記制御対象とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の駆動システムを備える露光装置。
【請求項12】
前記移動体は、前記所定面上を移動する第1移動体と、該第1移動体上で前記物体を保持して移動する第2移動体とを有し、
前記制御対象の前記第1及び第2部分は、それぞれ、前記第1及び第2移動体に含まれる請求項11に記載の露光装置。
【請求項13】
操作量を与えて制御対象を駆動する駆動方法であって、
前記制御対象の第1部分の位置に関連する第1制御量と、剛体モードに対し前記第1部分と逆相の共振モードとなる前記制御対象の第2部分の位置に関連する第2制御量と、を計測することと、
前記第1制御量の計測結果を微分して前記第1部分の速度を求め、前記第2部分の速度に対する目標値を前記第1制御量に対応する量に変換し、該目標値と前記第1部分の速度との差を用いて第1の量を求め、前記第2制御量の計測結果を微分して前記第2部分の速度を求め、前記目標値と前記第2部分の速度との差を用いて第2の量を求め、前記第1及び第2の量の和を求めて該和を前記操作量として前記制御対象に与えて、該制御対象を駆動することと、を含む駆動方法。
【請求項14】
前記駆動することでは、前記第2部分の位置に対する目標値の微分と前記第2計測器の計測結果とを用いて前記第2部分の速度に対する目標値を生成する、請求項13に記載の駆動方法。
【請求項15】
前記第2部分の位置に対する目標値を微分し、前記第2部分の位置に対する目標値と前記第2計測器の計測結果との差を求め、該差を定数倍し、前記微分と前記差の出力とを加算する、請求項14に記載の駆動方法。
【請求項16】
前記駆動することでは、前記第1及び前記第2制御量の微分のラプラス変換V,Vと前記第1及び第2の量を求めるための伝達関数C,Cとを用いてラプラス変換形U(V,V)=C+Cで表現される演算式に従って前記操作量U(V,V)を求め、
前記伝達関数C,Cは、前記第1及び第2部分に対応する伝達関数P,Pのそれぞれに含まれる前記共振モードに対応する極が伝達関数C+Cにおいて相殺されるように決定される請求項13〜15のいずれか一項に記載の駆動方法。
【請求項17】
前記伝達関数P,Pの具体形は、前記第1及び第2部分の運動をばね又はばねとダンパにより連結された少なくとも2つ以上の剛体の運動として表現する力学模型を用いて与えられる請求項16に記載の駆動方法。
【請求項18】
前記伝達関数P,Pは、前記操作量と前記第1及び第2制御量の微分のラプラス変換(U,V,V)を用いてP=V/U,P=V/Uと定義され、
前記力学模型に含まれる各種パラメータは、前記操作量に対する前記第1及び第2制御量の実測結果の微分値を、前記定義式P=V/U,P=V/Uに適用することにより求められる前記伝達関数P,Pの周波数応答特性を、前記伝達関数P,Pの具体形が再現するように決定されている請求項17に記載の駆動方法。
【請求項19】
前記伝達関数P,Pは、前記剛体モード及び前記共振モードの特性をそれぞれ表現する関数D,Dを用いて分数式P=NP1/D,P=NP2/Dにより表され、
前記伝達関数C,Cは、分数式C=NC1/D,C=NC2/Dにより表され、
前記伝達関数C,Cの分母部分Dは、D+α(αは任意の解析関数)が任意の安定な極を有するように決定されている請求項16〜18のいずれか一項に記載の駆動方法。
【請求項20】
前記伝達関数C,Cの分子部分NC1,NC2は、前記閉ループ制御系の伝達関数の特性方程式ACL=D+NC1P1+NC2P2がACL=(D+α)Dを満たすように、前記任意の解析関数α及び前記剛体モードに係るパラメータのみにより与えられる定数a,bを用いてNC1=aα、NC2=bαと決定されている請求項19に記載の駆動方法。
【請求項21】
エネルギビームで物体を露光して前記物体上にパターンを形成する露光方法であって、
請求項13〜20のいずれか一項に記載の駆動方法により、前記物体を保持して所定面上を移動する移動体を、前記制御対象として駆動することを含む露光方法。
【請求項22】
前記移動体は、前記所定面上を移動する第1移動体と、該第1移動体上で前記物体を保持して移動する第2移動体とを有し、
前記制御対象の前記第1及び第2部分は、それぞれ、前記第1及び第2移動体に含まれる請求項21に記載の露光方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−114297(P2013−114297A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257246(P2011−257246)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】