説明

高周波フロントエンドモジュール及びその製造方法

【課題】高密度化を実現しつつ、加工精度や組立精度を向上することができる高周波フロントエンドモジュールを提供する。
【解決手段】高周波フロントエンドモジュール1において、第1の電極31、この第1の電極31上の誘電体膜32及びこの誘電体膜32上の第2の電極33を有し、第1の電極31、誘電体膜32及び第2の電極33の各々の膜厚及び面積のばらつきが0.2%以内に制御されたキャパシタ3と、キャパシタ3を表面上に作り付ける基板2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波フロントエンドモジュール及びその製造方法に関し、特に基板上にキャパシタ又は薄膜圧電共振器を回路構成の一部として搭載した高周波フロントエンドモジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信技術の発展は目覚ましく、更に通信情報の高速伝送を目的とした開発が続けられている。特に、PHS(Personal Handy-phone System)、第3世代携帯通信、無線LAN(Local Area Network)等の導入により、市場において、2GHz前後の周波数帯域が使用されるようになってきた。無線通信の利用者数、無線通信端末数は飛躍的に増大する傾向にある。無線通信技術において、情報伝送量の高速化を目的として搬送波の周波数そのものは更に高周波数化の傾向にある。無線LANシステムにおいては、5GH帯域までの高周波数帯域の商用化が開始されている。
【0003】
高周波数帯域を利用する無線通信端末(無線通信機器)においては、小型化並びに軽量化に対する要求が強い。特に、パーソナルコンピュータ(PC)の用途において、PCカードとして使用することができるように、無線通信端末を薄く製作することが重要である。このPCカードに限らず、一般的な無線通信端末は、高周波(RF)信号を処理する高周波フロントエンド部と、デジタル信号を処理するベースバンド(BB)部とを備えている。
【0004】
ベースバンド部は信号の変調処理や復調処理をデジタル信号において処理する回路であり、シリコン(Si)基板をベースとした半導体集積回路(半導体チップ)としてベースバンド部を製作することができる。従って、半導体製造プロセス技術を利用して、例えば1mm以下まで非常に薄型のベースバンド部を製作することができる。
【0005】
一方、高周波フロントエンド部は、高周波信号の増幅処理、周波数変換処理等をアナログ信号において処理する回路である。従って、抵抗、コンデンサ、インダクタ、発振器、フィルタ等の多数の受動部品を含む複雑な構成を備え、シリコン基板をベースとした半導体集積回路として高周波フロントエンド部を製作することは難しい。
【0006】
半導体製造プロセス技術は微細化を主軸とした開発を広範囲に進めているので、この半導体製造プロセス技術を利用し製作することができるベースバンド部の小型化や高機能化を進めることは容易である。ところが、高周波フロントエンド部を構築する受動部品は各々仕様によって定められた機能を持っているので、受動部品を省略することが難しい。更に、半導体製造プロセス技術の利用が難しいことから、半導体集積回路の製作とは別に半導体製造プロセス技術を利用しないで受動部品を製作し、1つの共通基板上に半導体集積回路と受動部品とを実装してアッセンブリとして製作することが主流であった。
【0007】
ところが、受動部品の小型化が進み、又受動部品数が増加する傾向にあり、アッセンブリを高密度に実装することが要求されている。同時に、アッセンブリの製作上のスループットを向上すること、更にアッセンブリの製作上の組立精度を向上することが要求されている。ここでは、無線通信技術における要求として説明しているが、前述の抵抗等の受動部品に対する要求は、無線通信技術にとどまらず、受動部品を利用するあらゆる技術、例えば電子部品技術についても同様である。
【0008】
このような課題を解決する技術として、薄膜圧電共振器や薄膜集積キャパシタを製作する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。薄膜圧電共振器は、電極間に圧電性薄膜を挟み、中空構造により共振構造を構築するものであり、発振器やフィルタとして利用することができる。一方、薄膜集積キャパシタは、同様に電極間に誘電体膜を挟む構造を有し、半導体製造プロセス技術を利用して基板に薄膜集積キャパシタを集積化することができる。
【特許文献1】特開2000−69594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、薄膜圧電共振器を製作する技術、薄膜集積キャパシタを製作する技術のそれぞれを利用したとしても、アッセンブリの高密度化を実現しつつ、アッセンブリの製作上のスループット並びに組立精度を向上するという抜本的な解決をすることができない。特に、薄膜集積キャパシタを高い加工精度において製作しても、薄膜圧電共振器の加工精度が低ければ、加工精度は薄膜圧電共振器により決定されてしまう。従って、高周波フロントエンドモジュールを量産化することが難しかった。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、高密度化を実現しつつ、加工精度や組立精度を向上することができる高周波フロントエンドモジュールを提供することである。更に、本発明の目的は、低コスト化を実現しつつ、設計の再現性を向上することができる高周波フロントエンドモジュールを提供することである。更に、本発明の目的は、製造上のスループットを向上することができる高周波フロントエンドモジュールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の実施の形態に係る第1の特徴は、高周波フロントエンドモジュールにおいて、第1の電極、第1の電極上の誘電体膜及び誘電体膜上の第2の電極を有し、第1の電極、誘電体膜及び第2の電極の各々の膜厚及び面積のばらつきが0.2%以内に制御されたキャパシタと、キャパシタを表面上に作り付ける基板とを備える。
【0012】
本発明の実施の形態に係る第2の特徴は、高周波フロントエンドモジュールにおいて、第1の電極、第1の電極上の誘電体膜及び誘電体膜上の第2の電極を有し、第1の電極、誘電体膜及び第2の電極の各々の膜厚及び面積のばらつきが0.2%以内に制御されたキャパシタと、第3の電極、第3の電極上の圧電体膜及び圧電体膜上の第4の電極を有し、第3の電極、圧電体膜及び第4の電極の各々の膜厚及び面積のばらつきが0.2%以内に制御された薄膜圧電共振器と、キャパシタ及び薄膜圧電共振器を表面上に作り付ける基板とを備える。
【0013】
本発明の実施の形態に係る第3の特徴は、第1の特徴又は第2の特徴の高周波フロントエンドモジュールにおいて、キャパシタの誘電体膜が、第1の誘電体膜と、第1の誘電体膜上に積層され第1の誘電体膜の温度依存性を打ち消し合う第2の誘電体膜とを備え、キャパシタが、温度補償機能を有することである。
【0014】
本発明の実施の形態に係る第4の特徴は、高周波フロントエンドモジュールの製造方法において、第1の電極、第1の電極上の誘電体膜及び誘電体膜上の第2の電極を有するキャパシタを形成する工程と、第3の電極、第3の電極上の圧電体膜及び圧電体膜上の第4の電極を有し、第1の電極と第3の電極とが同一工程において形成され、誘電体膜と圧電体膜とが同一工程において形成され、第2の電極と第4の電極とが同一において形成された薄膜圧電共振器を形成する工程と、キャパシタ及び薄膜圧電共振器を基板の表面上に作り付ける工程とを備える。
【0015】
本発明の実施の形態に係る第5の特徴は、高周波フロントエンドモジュールの製造方法において、製造用基板上に第1の電極を形成し、第1の電極上に誘電体膜を形成し、誘電体膜上に第2の電極を形成し、第1の電極、誘電体膜及び第2の電極を有するキャパシタの集合体を形成する工程と、集合体のキャパシタを個々に分割する工程と、キャパシタの分割されたそれぞれを基板の表面上に作り付ける工程とを備える。
【0016】
本発明の実施の形態に係る第6の特徴は、高周波フロントエンドモジュールの製造方法において、第1の製造用基板上に第1の電極を形成し、第1の電極上に誘電体膜を形成し、誘電体膜上に第2の電極を形成し、第1の電極、誘電体膜及び第2の電極を有するキャパシタの第1の集合体を形成する工程と、第1の製造用基板上又は第2の製造用基板上に第3の電極を形成し、第3の電極上に圧電体膜を形成し、圧電体膜上に第4の電極を形成し、第3の電極、圧電体膜及び第4の電極を有する薄膜圧電共振器の第2の集合体を形成する工程と、第1の集合体のキャパシタを個々に分割する工程と、第2の集合体の薄膜圧電共振器を個々に分割する工程と、キャパシタの分割されたそれぞれを基板の表面上に作り付ける工程と、薄膜圧電共振器の分割されたそれぞれを基板の表面上に作り付ける工程とを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高密度化を実現しつつ、加工精度や組立精度を向上することができる高周波フロントエンドモジュールを提供することができる。更に、本発明によれば、低コスト化を実現しつつ、設計の再現性を向上することができる高周波フロントエンドモジュールを提供することができる。更に、本発明によれば、製造上のスループットを向上することができる高周波フロントエンドモジュールの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、実施の形態において、同一の構成要素には同一の符号を付け、重複する説明は省略する。
【0019】
(第1の実施の形態)
本発明者は、無線通信端末の高周波フロントエンド部の小型化並びに高密度化に最適な受動部品のアセンブリ方法、特に薄膜を高精度において膜厚制御並びに面積制御を行うことにより基板に受動部品を作り付け、高周波フロントエンドモジュールを構築する方法について鋭意検討を行った。その結果、基本的には、薄膜圧電共振器を作製する成膜技術を有効に利用して高周波フロントエンドモジュールを構築することにより、小型化並びに高密度化を実現しつつ、周波数等の調節を必要とせずに加工精度並びに組立精度を向上することができ、低コスト化を実現することができ、更に製造上のスループットを向上することができる高周波フロントエンドモジュールを作製方法を見出した。ここで、受動部品には、抵抗、コンデンサ、インダクタ、フィルタ、発振器、MEMS(Micro Electro Mechanical System)を用いた超小型のスイッチ等が含まれる。更に、受動部品には、セラミック中の弾性波を用いたFBRA(Film Bulk Acoustic Resonator)或いはBAW(Bulk Acoustic Wave)素子、及び弾性表面波を用いたSAW(Surface Acoustic Wave)素子が含まれる。
【0020】
[高周波フロントエンドモジュールのキャパシタの構造]
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1は、第1の電極31、この第1の電極31上の誘電体膜32及びこの誘電体膜32上の第2の電極33を有し、第1の電極31、誘電体膜32及び第2の電極33の各々の膜厚及び面積のばらつきが0.2%以内に制御されたキャパシタ3と、キャパシタ3を表面上に作り付ける基板2とを備えている。
【0021】
キャパシタ3は、モノリシックにより構成された高精度キャパシタであり、基本的には誘電体膜32にAlN膜を使用し、この誘電体膜32を第1の電極31と第2の電極33との両電極で挟み込んだ構造を有する。キャパシタ3を表面上に作り付ける基板2には、第1の実施の形態においてCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)技術を利用して半導体集積回路を搭載したシリコン単結晶基板が使用されている。
【0022】
キャパシタ3を構成する第1の電極31、誘電体膜32、第2の電極33のそれぞれの薄膜は、すべてプラズマやプラズマ中に導入する窒素又はアルゴン等のガス圧を高精度に制御されたスパッタリング法を利用して形成されている。これらの第1の電極31、誘電体膜32、第2の電極33の各々の膜厚のばらつきは0.2%以下に制御されている。第1の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1においては、従来の受動部品を搭載する場合に比べて、キャパシタ3を基板2上に作り込むことができるので、高さ(厚さ)を1.5mmから0.2mm程度まで大幅に減少することができる。更に、膜厚のばらつきを極めて小さくすることができるので、高周波フロントエンドモジュール1の組立プロセスにおいて、歩留まりを95%以上に上昇させることができた。
【0023】
キャパシタ3の第1の電極31、第2の電極33のそれぞれには厚さ0.1μmのAl薄膜が使用され、誘電体膜32には厚さ0.5μmのAlN膜が使用される。発振器として使用されるキャパシタ3は高周波フロントエンドモジュールにおける周波数に影響を与えるため、膜厚制御は極めて高い精度の値が必要である。高周波帯域を使用する無線システムは通常厳しく使用周波数帯域が管理されており、例えばW−CDMA方式においては2GHzの帯域が許可されている。実際にこの周波数帯域の多数の無線通信システムの使用者は分割して帯域を使用するので、メインとなる搬送用周波数に対して0.3%程度の制御が不可欠になる。これまで、このような精度を実現することができるキャパシタとの受動部品は存在していたが、種々のトリミングにより周波数調整が必要であった。このため、受動部品、更には高周波フロントエンド部の制作には極めてコストが高くなり、製品サイズも大型であった。
【0024】
また、第1の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1と同様に、基板上に直接形成するキャパシタも存在していたが、この場合は、膜厚等のばらつきを10%以下に制御することが困難であった。しかしながら、第1の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1においては、膜厚の加工精度と面積の加工精度との双方を両立させることによって、キャパシタ3の加工精度を著しく高めることができる。キャパシタ3の面積、すなわち第1の電極31、誘電体膜32、第2の電極33のそれぞれの面積の加工精度はパターンニングの光リングラフィー精度を高めることによって著しく高めることができる。第1の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1において、キャパシタ3の1辺を約100μmに設定しているが、リソグラフィーの加工精度は0.15μm以下において制御することができる。加工精度を面積換算率により表せば0.2%以下である。キャパシタ3の厚さ、すなわち第1の電極31、誘電体膜32、第2の電極33のそれぞれの膜厚の加工精度は、成膜時のプラズマやガス圧を精密に制御したスパッタリング装置により行われ、こちらも0.2%以下に制御することができる。結果として、基板2に作り込まれたキャパシタ3の加工精度は0.3%以下において制御することができ、高周波フロントエンドモジュール1においてシステム仕様を十分に満たす発振器を構築することができる。なお、前述した加工精度が、0.2%を超える場合は結果としてキャパシタ面積の精度が著しく悪化し、高周波フロントエンドに要求される仕様を確保できないという問題があるため、好ましくない。
【0025】
[高周波フロントエンドモジュールの回路構成]
第1の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1は、図2に示すように、基準発振器10を備え、キャパシタ3は基準発振器10を構築する受動部品として使用される。図2に示す基準発振器10においては、キャパシタ3と、薄膜圧電共振器4と、帰還用トランジスタ又はダイオードからなる能動部品5とを備えている。
【0026】
また、図示しないが、キャパシタ3は、入力整合回路、雑音整合回路等の整合回路の一部を構築するキャパシタとして使用することもできる。更に、図示しないが、キャパシタ3は、薄膜圧電共振器4と共に、電圧制御発振器(Voltage Controlled Oscillator)を構築することができる。
【0027】
このように構成される第1の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1においては、キャパシタ3の膜厚制御及び面積制御を高精度に行ったので、高密度化を実現しつつ、加工精度や組立精度を向上することができる。更に、高周波フロントエンドモジュール1においては、低コスト化を実現しつつ、設計の再現性を向上することができる。
【0028】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態は、前述の図2に示す基準発振器10を構築するキャパシタ3及び薄膜圧電共振器4を基板2に作り付けた例を説明するものである。図3及び図4に示すように、第2の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1は、第1の電極31、この第1の電極31上の誘電体膜32及びこの誘電体膜32上の第2の電極33を有し、第1の電極31、誘電体膜32及び第2の電極33の各々の膜厚及び面積のばらつきが0.2%以内に制御されたキャパシタ3と、第3の電極41、この第3の電極41上の圧電体膜42及びこの圧電体膜42上の第4の電極43を有し、第3の電極41、圧電体膜42及び第4の電極43の各々の膜厚及び面積のばらつきが0.2%以内に制御された薄膜圧電共振器4と、キャパシタ3及び薄膜圧電共振器4を表面上に作り付ける基板2とを備えている。
【0029】
第2の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1のキャパシタ3及び基板2は第1の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1のキャパシタ3及び基板2と基本的には同一である。第2の実施の形態において、薄膜圧電共振器4には例えばFBARを実用的に使用することができる。薄膜圧電共振器4において、第3の電極41はキャパシタ3の第1の電極31と同一の電極成膜バッチ処理により形成され、圧電体膜42はキャパシタ3の誘電体膜32と同一の薄膜成膜バッチ処理により形成され、更に第4の電極43はキャパシタ3の第2の電極33と同一の電極成膜バッチ処理により形成されている。基本的には、薄膜圧電共振器4のそれぞれの薄膜とキャパシタ3のそれぞれの薄膜とは同一材料により構成されている。
【0030】
キャパシタ3の2次元加工及び薄膜圧電共振器4の2次元加工はいずれもフォトリソグラフィー技術を用いて行うことで、キャパシタ3の面積のばらつき及び薄膜圧電共振器4の面積のばらつきは非常に小さくなる。具体的には、面積のばらつきは0.5%以内に収めることができる。また、パターンニングの光リングラフィーの精度を高めることにより、面積のばらつきを減少することができる。通常、薄膜圧電共振器4の単独製作においては面積のばらつきを減少するために、過度に高精度化を実施する必要があるが、第2の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1においては、基板2上に作成するキャパシタ3、薄膜圧電共振器4のそれぞれの薄膜の膜厚のばらつきを制御すると共に、同時に面積のばらつきを制御することによって、結果としてキャパシタ3の加工精度並びに薄膜圧電共振器4の加工精度を著しく向上することができる。
【0031】
薄膜圧電共振器4が作り付けられた基板2には空洞共振器を構築するように空洞2Hが配設されている。空洞2Hは、第2の実施の形態において基板2の裏面から表面に向かってエッチング加工により形成され、裏面から表面に通じる貫通孔により形成されているが、本実施形態ではこれに限定されるものではなく、基板2の表面側に凹部を形成し、この凹部内に音響反射層を配設してもよい。
【0032】
このように構成される第2の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1においては、各々の膜厚のばらつき並びに面積のばらつきを高精度において制御したキャパシタ3及び薄膜圧電共振器4を基板2に作り付けることにより、従来、かさばり、コストを要した温度補正型水晶発振器(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillator)を使用することがなくなり、高密度化並びに小型化を実現しつつ、加工精度や組立精度を向上することができる。更に、高周波フロントエンドモジュール1においては、低コスト化を実現しつつ、設計の再現性を向上することができる。
【0033】
(第3の実施の形態)
本発明の第3の実施の形態は、前述の第1の実施の形態又は第2の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1のキャパシタ3に温度補償機能を備えた例を説明するものである。その他の形態は第1の実施の形態と同様なため、説明を省略する。キャパシタ3の誘電体膜32には圧電性を有するAlN膜が使用され、このAlN膜には温度依存性がある。温度依存性は無線通信システムの使用温度範囲において大きな容量値の変化を生ずる。このような容量値の変化を防止するために、第3の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1のキャパシタ3の誘電体膜は、図5に示すように、第1の誘電体膜32と、この第1の誘電体膜32上(第3の実施の形態においては下側)に積層され第1の誘電体膜32の温度依存性を打ち消し合う第2の誘電体膜35とを備えている。すなわち、第3の実施の形態においては、キャパシタ3の第1の電極31と第1の誘電体膜32との間に第2の誘電体膜35が挟み込まれている。なお、図5においては、第2の誘電体膜35は、第1の誘電体膜32の下層に形成された例で説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、第1の誘電体膜32の上層に形成されていてもよい。
【0034】
第1の誘電体膜32は、前述の第1の実施の形態及び第2の実施の形態に係るキャパシタ3の誘電体膜32と同様に例えばAlN膜で構成されている。第2の誘電体膜35は、第1の誘電体膜32に対して反対方向の補償傾向を備える、例えばシリコン酸化膜を実用的に使用することができる。例えば、キャパシタ3の第1の電極31に厚さ0.1μmのAl薄膜を使用し、第1の誘電体膜32には厚さ0.5μmのAlN膜を使用する場合、第2の誘電体膜35には厚さ0.2μmのシリコン酸化膜を使用することができる。AlN膜とシリコン酸化膜とは温度に対する膜の伸縮する方向が異なるので、互いに温度に対する依存性を補償し合うことができる。なお、第2の誘電体膜35すなわち温度依存性補償膜は、シリコン酸化膜に限定されるものではなく、第1の誘電体膜32の温度依存性を打ち消す方向に膜の伸縮を有する誘電体薄膜であれば好適に使用することができる。ここで、キャパシタ3を構築する薄膜は、第2の誘電体膜35を含めて、プラズマやガス圧を高精度に制御したスパッタリング法により成膜されている。
【0035】
このように構成される第3の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1においては、第1の実施の形態又は第2の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1により得られる効果に加えて、キャパシタ3に温度補償機能を備えたので、温度変化に伴う容量値の変動を防止することができる。また、第3実施の形態に係る高周波数フロントエンドモジュール1においては、前述の温度補正型水晶発振器を完全に置き換えることができ、モジュール体積において約3分の1以下に小型化することができる。
(第4の実施の形態)
本発明の第4の実施の形態は、前述の第1の実施の形態乃至第3の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1のキャパシタ3をバリキャップの参照用キャパシタとして使用する例を説明するものである。図6に示すように、高周波フロントエンドモジュール1は、参照用容量値生成部11と、コンパレータ12と、電圧増幅器13と、増幅器14と、バリキャップ15とを備えている。ここで、参照用容量値生成部11には、前述の第1の実施の形態乃至第3の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1のキャパシタ3を備えている。コンパレータ12には制御信号が入力される。バリキャップ15の出力は可変キャパシタンスである。
【0036】
図6に示す以外にも、その他の整合回路のキャパシタとして、第1の実施の形態乃至第3の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1のキャパシタ3を用いることでき、その効果は絶大である。すなわち、第1の実施の形態乃至第3の実施の形態に係るキャパシタ3をその他の整合回路として備えることにより、小型化並びに高密度化を実現することができることは同様であるが、整合回路におけるマッチングのばらつきを著しく減少することができ、製造上のスループットを向上することができるだけでなく、無線通信システムの性能も著しく向上することができる。受信感度は安定状態して3dB以上上昇した。
【0037】
(第5の実施の形態)
本発明の第5の実施の形態は、前述の第1の実施の形態乃至第4の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1に作り付けられるキャパシタ3の製造方法を説明するものである。
【0038】
最初に、製造用基板60上に、前述の図1又は図4に示す第1の電極31、誘電体膜32、第2の電極33のそれぞれを成膜する(図7(A)参照。)。これら第1の電極31、誘電体膜32、第2の電極33のそれぞれは、半導体製造プロセス技術を利用して、膜厚のばらつきを高精度において制御したスパッタリング法により成膜されている。更に、第1の電極31、誘電体膜32、第2の電極33のそれぞれは規則的に配列された複数のキャパシタ3を製造されるようになっており、この段階では相互に連結された複数のキャパシタ3の集合体が製造されている。ここで、製造用基板60には例えばシリコン半導体ウエハを実用的に使用することができる。
【0039】
次に、前述した集合体を複数のキャパシタ3が存在するように分割し、キャパシタ分割集合体30を形成する。ここで、個々のキャパシタ3の面積のばらつきに影響を及ぼさないように、マージンを確保して分割される。図7(A)に示すように、製造用基板60上に位置合わせされた転写基板61を重ね合わせ、製造用基板60上のキャパシタ分割集合体30を転写技術により転写基板61に貼り付ける。図7(B)にキャパシタ分割集合体30の構成を示す。
【0040】
次に、転写基板61に転写されたキャパシタ分割集合体30は、図7(C)に示すように、光リソグラフィ技術及びエッチング技術を利用し、面積のばらつきを高精度に制御して、有効領域のみ残すように、個々のキャパシタ3として実質的に形成される。
【0041】
図7(D)及び図7(E)に示すように、キャパシタ分割集合体30をダイシングにより物理的に分割し、個々の細分化されたキャパシタ3を形成する。キャパシタ3の面積の加工精度の向上はダイシングでは高められないので、前述のように光リソグラフィ技術及びエッチング技術により加工精度を向上するようになっている。
【0042】
そして、細分化されたキャパシタ3は、前述の第1の実施の形態乃至第4の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1において説明したように、基板2の表面上に作り付けられる。
【0043】
なお、薄膜圧電共振器4の製造方法は、キャパシタ3の製造方法と実質的に同一であるので、ここでの説明は省略する。
【0044】
このような第5の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュール1の製造方法においては、キャパシタ3、薄膜圧電共振器4のそれぞれを半導体集積回路と同様な製造プロセスを用いて製作することができるので、製造上のスループットを著しく向上することができる。更に、キャパシタ3(薄膜圧電共振器4も同様である)の面積のばらつきを決定する加工を光リソグラフィ技術及びエッチング技術により実行しているので、加工精度を著しく向上することができる。更に、半導体製造プロセス技術を利用して小型化並びに高密度化されたキャパシタ3及び膜厚圧電共振器4を1度に大量に製作することができるので、材料の利用効率、製作効率等を高めることができ、低コスト化を実現することができる。
【0045】
本発明は、前述の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において種々に変更することができる。例えば、前述の第1実施の形態乃至第5の実施の形態のそれぞれを単独に適応してもよいし、複数組み合わせて適応してもよい。更に、本発明は、MEMS等の機械部品を基板上に作り付け、高周波フロントエンドモジュール1を構築してもよい。更に、本発明は、高周波フロントエンドモジュール1に、FBARフィルタ、ラメ波フィルタ等を作り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュールの要部断面図である。
【図2】第1の実施の形態に係る基準発振器の回路図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュールの斜視図である。
【図4】図3に示す高周波フロントエンドモジュールの断面図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュールの要部断面図である。
【図6】本発明の第4の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュールの回路構成図である。
【図7】(A)〜(B)本発明の第5の実施の形態に係る高周波フロントエンドモジュールの製造方法を説明する工程斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1 高周波フロントエンドモジュール
10 基準発振器
11 参照用容量値生成部
12 コンパレータ
13 電圧増幅器
14 増幅器
15 バリキャップ
2 基板
3 キャパシタ
30 キャパシタ分割集合体
31 第1の電極
32 誘電体膜、第1の誘電体膜
33 第2の電極
35 第2の誘電体膜
4 薄膜圧電共振器
41 第3の電極
42 圧電体膜
43 第4の電極
60 製造用基板
61 転写用基板



【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極、該第1の電極上の誘電体膜及び該誘電体膜上の第2の電極を有し、前記第1の電極、前記誘電体膜及び前記第2の電極の各々の膜厚及び面積のばらつきが0.2%以内に制御されたキャパシタと、
前記キャパシタを表面上に作り付ける基板と、
を備えたことを特徴とする高周波フロントエンドモジュール。
【請求項2】
第1の電極、該第1の電極上の誘電体膜及び該誘電体膜上の第2の電極を有し、前記第1の電極、前記誘電体膜及び前記第2の電極の各々の膜厚及び面積のばらつきが0.2%以内に制御されたキャパシタと、
第3の電極、該第3の電極上の圧電体膜及び該圧電体膜上の第4の電極を有し、前記第3の電極、前記圧電体膜及び前記第4の電極の各々の膜厚及び面積のばらつきが0.2%以内に制御された薄膜圧電共振器と、
前記キャパシタ及び前記薄膜圧電共振器を表面上に作り付ける基板と、
を備えたことを特徴とする高周波フロントエンドモジュール。
【請求項3】
前記キャパシタは整合回路構成の一部として前記基板の表面上に作り付けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波フロントエンドモジュール。
【請求項4】
前記薄膜圧電共振器は基準発振器の一部として前記基板の表面上に作り付けられることを特徴とする請求項2に記載の高周波フロントエンドモジュール。
【請求項5】
前記薄膜圧電共振器は電圧制御発振器の一部として前記基板の表面上に作り付けられることを特徴とする請求項2に記載の高周波フロントエンドモジュール。
【請求項6】
前記キャパシタの誘電体膜は、第1の誘電体膜と、この第1の誘電体膜上に積層され前記第1の誘電体膜の温度依存性を打ち消し合う第2の誘電体膜とを備え、前記キャパシタは、温度補償機能を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高周波フロントエンドモジュール。
【請求項7】
第1の電極、該第1の電極上の誘電体膜及び該誘電体膜上の第2の電極を有するキャパシタを形成する工程と、
第3の電極、該第3の電極上の圧電体膜及び該圧電体膜上の第4の電極を有し、前記第1の電極と前記第3の電極とが同一工程において形成され、前記誘電体膜と前記圧電体膜とが同一工程において形成され、前記第2の電極と前記第4の電極とが同一において形成された薄膜圧電共振器を形成する工程と、
前記キャパシタ及び前記薄膜圧電共振器を基板の表面上に作り付ける工程と、
を備えたことを特徴とする高周波フロントエンドモジュールの製造方法。
【請求項8】
製造用基板上に第1の電極を形成し、前記第1の電極上に誘電体膜を形成し、前記誘電体膜上に第2の電極を形成し、前記第1の電極、前記誘電体膜及び前記第2の電極を有するキャパシタの集合体を形成する工程と、
前記集合体の前記キャパシタを個々に分割する工程と、
前記キャパシタの分割されたそれぞれを基板の表面上に作り付ける工程と、
を備えたことを特徴とする高周波フロントエンドモジュールの製造方法。
【請求項9】
第1の製造用基板上に第1の電極を形成し、前記第1の電極上に誘電体膜を形成し、前記誘電体膜上に第2の電極を形成し、前記第1の電極、前記誘電体膜及び前記第2の電極を有するキャパシタの第1の集合体を形成する工程と、
前記第1の製造用基板上又は第2の製造用基板上に第3の電極を形成し、前記第3の電極上に圧電体膜を形成し、前記圧電体膜上に第4の電極を形成し、前記第3の電極、前記圧電体膜及び前記第4の電極を有する薄膜圧電共振器の第2の集合体を形成する工程と、
前記第1の集合体の前記キャパシタを個々に分割する工程と、
前記第2の集合体の前記薄膜圧電共振器を個々に分割する工程と、
前記キャパシタの分割されたそれぞれを基板の表面上に作り付ける工程と、
前記薄膜圧電共振器の分割されたそれぞれを前記基板の表面上に作り付ける工程と、
を備えたことを特徴とする高周波フロントエンドモジュールの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−317997(P2007−317997A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148144(P2006−148144)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】