説明

高圧タンクの製造装置および高圧タンクの製造方法

【課題】ライナへの繊維の巻き付けの際の繊維束の拡幅率を向上することができる高圧タンクの製造装置を提供する。
【解決手段】ライナとライナの外面に繊維を巻き付けて構成された補強層とを有する高圧タンクを製造するための高圧タンクの製造装置であって、ライナの外面に繊維を巻き付ける際にライナを振動させる振動手段を有する高圧タンクの製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクの製造装置および高圧タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車や天然ガス自動車等には、燃料ガスとしての水素ガスや天然ガス等を貯蔵する高圧タンクが搭載される。高圧タンクとして、樹脂製または金属製タンク(ライナ:内容器)の外面に単位密度当りの強度が非常に高い炭素繊維強化プラスチック材(CFRP材)等を巻き付けて補強した高圧タンクが知られている。このような高圧タンクを製造する際、例えばフィラメントワインディング法のように炭素繊維等の繊維束にエポキシ樹脂等の樹脂溶液を含浸させた状態で樹脂製タンクの外面に巻き付けた後、樹脂を硬化させて補強層を形成する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
フィラメントワインディング法で高圧タンクを製造する場合、炭素繊維等の繊維束をできるたけ拡幅した状態(幅を拡げた状態)でライナに巻き付けた方が、高圧タンクの強度等の点で好ましい。
【0004】
繊維束の拡幅が少ないと、ライナに繊維を巻く際、繊維層間に空隙や繊維折れ等が発生して、タンク強度低下の原因となることがある。また、例えば、ライナに繊維を巻き付ける前に拡幅ローラ等によって繊維東を押し付けて繊維束を拡幅する方法があるが、拡幅率(拡幅前の繊維束の幅に対する拡幅後の繊維束の幅の比率)が充分ではなく(例えば、拡幅率120〜140%程度)、また、ライナに繊維を巻き付ける前に繊維束の幅を拡げても、実際にライナに巻き付けられるまでに張力やガイドローラ等の影響で繊維束の幅が狭まってしまう(例えば、拡幅率100〜130%程度)と、拡幅効果が少なくなる。さらに、拡幅ローラ等によって繊維束を拡幅させる際に繊維の張力を上げ過ぎると繊維の損傷が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−019315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ライナへの繊維の巻き付けの際の繊維束の拡幅率を向上することができる高圧タンクの製造装置および高圧タンクの製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けて構成された補強層とを有する高圧タンクを製造するための高圧タンクの製造装置であって、ライナの外面に繊維を巻き付ける際に前記ライナを振動させる振動手段を有する高圧タンクの製造装置である。
【0008】
また、前記高圧タンクの製造装置において、前記振動手段が、前記ライナの回転軸方向に振動させるものであることが好ましい。
【0009】
また、前記高圧タンクの製造装置において、前記振動手段が、超音波振動発生装置であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けて構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造方法であって、ライナの外面に繊維を巻き付ける際に前記ライナを振動させる高圧タンクの製造方法である。
【0011】
また、前記高圧タンクの製造方法において、前記ライナの回転軸方向に振動させることが好ましい。
【0012】
また、前記高圧タンクの製造方法において、前記振動が、超音波振動であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、ライナの外面に繊維を巻き付ける際にライナを振動させることにより、ライナへの繊維の巻き付けの際の繊維束の拡幅率を向上することができる高圧タンクの製造装置および高圧タンクの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の一例の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置における繊維の巻き付け部分の構成の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態における高圧タンクの製造方法における高圧タンクの軸方向の断面を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態における繊維束の拡幅の状態を示す概略断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の一例の全体構成の概略を図1に示す。また、本実施形態に係る高圧タンクの製造装置における繊維の巻き付け部分の構成の一例の概略を図2に示す。
【0017】
図1に示すように、高圧タンクの製造装置1は、繊維巻き付け装置10を備える。繊維巻き付け装置10は、ライナ22を支持するための回転支持部12を有する。図2に示すように、この回転支持部12には、ライナ22を振動させる振動手段としての振動発生装置14が設置されており、ライナ22に所定の周波数および所定の方向の振動を与えることができる。
【0018】
本実施形態に係る高圧タンクの製造方法および高圧タンクの製造装置1の動作について説明する。
【0019】
図1,2に示すように、ライナ22は、繊維巻き付け装置10の回転支持部12に設置される。例えば、略円柱状のライナ22は図3に示すようなライナ22の軸を通したシャフト28によって、図2に示すように回転支持部12に支持される。回転支持部12によってライナ22が回転され、図1のボビン16から繰り出された繊維束26がライナ22の外面に巻き付けられる。繊維束26には、例えば、繊維巻き付け装置10の上流側で、エポキシ樹脂等の熱硬化性の樹脂溶液が含浸され、その後、図2に示すように繊維ガイド部18で角度調整されて、ライナ22に巻き付けられる。このとき、繊維束26を巻き付けながら、振動発生装置14によりライナ22自体を振動させる。こうして、ライナ22の外面に繊維束26が拡幅された状態で所定の厚みおよび所定の方向で巻き付けられる。
【0020】
ここで、繊維束を拡幅するとは、例えば図4に示すように、繊維束26を構成する繊維30を拡げて繊維束26を略扁平な状態にすることを意味する。
【0021】
なお、回転支持部12に、例えば空気等のガスを供給するガスボンベに通じるガス供給管が接続されて、空気等のガスをガス供給管および回転支持部12を通じてライナ22内に供給して、ライナ22内を加圧状態として繊維を巻き付けてもよい。これにより、繊維束26の巻き付けによりライナ22が変形するのを防止することができる。
【0022】
繊維束26の巻き付け工程後、高圧タンク20は、加熱炉等において熱処理される。高圧タンク20は、例えば130℃程度で、10〜15時間程度加熱される。この加熱により、熱硬化性樹脂等が含浸された繊維束26が熱硬化され、図3に示すような補強層24が形成される。その後、高圧タンク20は冷却される。このようにして、ライナ22の外面に補強層24が形成された高圧タンク20が製造される。
【0023】
このように、繊維束26をライナ22に巻き付けると同時に振動発生装置14によってライナ22の例えば回転軸方向に振動を与えて、ライナ22自体を振動させることにより、繊維束26の拡幅率を向上させることができる。繊維束26をライナ22に巻き付けながら、直接拡幅することで、繊維東26の拡幅率を向上させることができる。したがって、繊維束26を繊維巻き付け装置10の上流側で拡幅ローラ等の拡幅手段により拡幅した状態で巻き付ける場合以上に、拡幅率を向上することができる。
【0024】
また、巻き付ける繊維束26が樹脂を含浸している場合、樹脂の粘度等により拡幅しにくい傾向にあるが、ライナ22に振動を与えることにより、繊維束26がより拡幅しやすくなる。また、ライナ22に振動を与えることによって拡幅させるために、繊維束26の張力を必要以上に上昇させなくてもよいので、繊維の折損等の損傷を防止することができる。
【0025】
このように、フィラメントワインディング法によりライナ22に繊維束26を巻き付ける際に、繊維束26の拡幅率が向上することにより、繊維層間の空隙や繊維折れ等の発生が抑制され、得られる高圧タンクの強度および疲労強度等が向上し、かつ、良好な品質で、また品質の安定した高圧タンクを製造することができる。また、繊維束26を巻き付けながら拡幅できるため、生産性が低下しない。
【0026】
高圧タンク20は、ライナ(内容器)22、補強層(外層)24を含んで構成されている。また、高圧タンク20は、ガス充填・放出口等を備えてもよい。
【0027】
ライナ22は、略円柱状等に形成されてなり、例えば高圧水素ガスなどの媒体をその内部に収容するためのものであり、水素ガス等のガスに直接接触する層である。ライナ22の形状、サイズ、厚みは使用目的、仕様等に応じたものを任意に選択することができる。ライナ22の厚みは、例えば、2mm〜4mmの範囲である。
【0028】
ライナ22は、樹脂材料、金属等を含んで構成される。ライナ22を構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。ライナを構成する金属としては、アルミ合金等の金属が挙げられる。ライナの肉厚やライナを構成する材料の種類は、ライナ22に要求される強度、気密性、成形性等に応じて適宜選択することができる。これらのうち、強度や耐ガス透過性等の点からナイロン等のポリアミド樹脂が好ましい。
【0029】
樹脂材料から構成されるライナ22は、例えば、上記樹脂の射出成形により成形される。例えば、金型にポリアミド樹脂等の樹脂を流し込んで、略半円柱体を2つ成型し、それらをレーザ等により溶着して樹脂のライナ22が成形される。この射出成形により、厚みが略均一なライナ22が成形される。
【0030】
補強層24は、ライナ22の外側を覆うように設けられてライナ22を補強する層であり、例えば、繊維およびマトリックス樹脂を含んで構成される。補強層24を構成する繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維等が挙げられる。
【0031】
また、補強層24を構成するマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。これらのうち、強度や接着性等の点からエポキシ樹脂が好ましい。
【0032】
補強層24は、例えば、繊維の繊維束にマトリックス樹脂溶液を含浸させた状態でライナ22の外面に巻き付けた後、樹脂を硬化させて形成することができる。
【0033】
補強層24の厚みは、巻き付ける繊維束26の層数等により調整することができ、例えば、20mm〜40mmの範囲である。
【0034】
繊維束26は、例えば、上記繊維が10,000〜40,000本程度束ねられたものである。
【0035】
振動発生装置14は、回転支持部12に内蔵してもよいし、回転支持部12の外部に設置してもよい。
【0036】
ライナ22に与える振動については特に制限はないが、例えば、周波数が超音波領域、音波領域等の振動を与えればよい。ライナ22に細かい振動を抑制して与えることができる等の点で超音波振動が好ましい。
【0037】
ライナ22に与える振動の方向については特に制限はないが、例えば、繊維を巻き付ける際のライナ22の回転軸方向、あるいはライナ22の回転軸に対して垂直方向等とすればよい。拡幅率がより向上する等の点で、振動方向はライナ22の回転軸方向が好ましい。通常、繊維束26の巻き付け方向は、ライナ22の回転軸に対して垂直方向、または斜め方向であり、いずれの場合もライナ22に与える振動の方向はライナ22の回転軸方向であればよいが、もちろん、ライナ22に与える振動の方向を繊維の巻き付け方向に応じて変更してもよい。
【0038】
繊維束26の拡幅率は、拡幅前の繊維束の幅に対する拡幅後の繊維束の幅の比率(%)として定義されるが、本実施形態に係る製造装置および製造方法によってライナ22に振動を与えることにより、例えば、拡幅率として120%以上、150%以上、あるいは200%以上にまで向上させることができる。
【0039】
本実施形態に係る製造装置および製造方法において、ライナ22に繊維束26を巻き付ける前に、拡幅ローラ等の拡幅手段を設けて、拡幅ローラ等に繊維束26を押し付けて予めある程度拡幅しておいてもよい。
【0040】
本実施形態に係る高圧タンク20は、例えば、移動体に搭載され、内部に高圧ガスを貯蔵する高圧タンクである。また、高圧タンク20は、据え置き型の高圧タンクであってもよい。
【0041】
ここで、移動体としては、二輪の車両、バスや乗用車等の四輪以上の自動車のほか、電車、船舶、航空機、ロボットなどが挙げられ、特に燃料電池車両である。高圧ガスとしては、水素ガスや圧縮天然ガスなどが挙げられる。
【0042】
本実施形態に係る高圧タンクの製造装置および高圧タンクの製造方法により得られる繊維束は、樹脂溶液を含浸させて硬化した繊維強化プラスチック材(FRP材)等として、各種素材の強化材等に用いることができる。例えば、炭素繊維の場合、炭素繊維の繊維束にエポキシ樹脂等の樹脂溶液を含浸させた炭素繊維強化プラスチック材(CFRP材)として、高圧タンク、自動車用シャフト、航空機の胴体、部品等の補強材として用いることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
図1に示すような高圧タンクの製造装置を使用して、炭素繊維束の拡幅を行った。振動発生装置として超音波振動発生装置を用いた。樹脂ライナを回転させて、超音波振動発生装置によって樹脂ライナの回転軸方向に超音波振動を与えながら、炭素繊維の繊維束(繊維約24,000本がエポキシ樹脂により束ねられたもの)を樹脂ライナに巻き付けた。炭素繊維の拡幅率を測定したところ、150%であった。
【0045】
(比較例1)
炭素繊維の巻き付け時に超音波振動を与えなかった以外は実施例1と同様にして炭素繊維の繊維束を樹脂ライナに巻き付けた。炭素繊維の拡幅率を測定したところ、110%であり、実施例1より低かった。
【符号の説明】
【0046】
1 高圧タンクの製造装置、10 繊維巻き付け装置、12 回転支持部、14 振動発生装置、16 ボビン、18 繊維ガイド部、20 高圧タンク、22 ライナ(内容器)、24 補強層(外層)、26 繊維束、28 シャフト、30 繊維。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けて構成された補強層とを有する高圧タンクを製造するための高圧タンクの製造装置であって、
ライナの外面に繊維を巻き付ける際に前記ライナを振動させる振動手段を有することを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧タンクの製造装置であって、
前記振動手段が、前記ライナの回転軸方向に振動させるものであることを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高圧タンクの製造装置であって、
前記振動手段が、超音波振動発生装置であることを特徴とする高圧タンクの製造装置。
【請求項4】
ライナと前記ライナの外面に繊維を巻き付けて構成された補強層とを有する高圧タンクを製造する高圧タンクの製造方法であって、
ライナの外面に繊維を巻き付ける際に前記ライナを振動させることを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記ライナの回転軸方向に振動させることを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記振動が、超音波振動であることを特徴とする高圧タンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−236926(P2011−236926A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106161(P2010−106161)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】