説明

4−アルキルレソルシノール誘導体及びこれを有効成分とする美白剤

【課題】 美白効果や安全性に優れる4−アルキルレソルシノール誘導体を提供する。
【解決手段】 4−(1−メチルプロピル)レソルシノール及び4−(1−メチルブチル)レソルシノールから選ばれる4−アルキルレソルシノール誘導体及びその塩。これら誘導体は、メラニン生成抑制効果、チロシナーゼ活性阻害作用が高く、細胞毒性が低い。本発明の4−アルキルレソルシノール誘導体は、4−プロピオニルレソルシノールあるいは4−ブチリルレソルシノールに対し、有機金属化合物を反応させてカルボニル炭素にメチル基を導入した後、還元するか、あるいは、4−アセチルレソルシノールに対し、有機金属化合物を反応させてカルボニル炭素にエチル基あるいはn−プロピル基を導入した後、還元することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−アルキルレソルシノール誘導体、特に美白効果と安全性に優れる4−アルキルレソルシノール誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚のしみ、そばかすなどの色素沈着は、ホルモンの異常や紫外線の刺激がきっかけとなって、表皮色素細胞内でのメラニン産生が亢進し、メラニンが表皮に過剰に沈着するため生ずる。
このようなメラニン色素の異常沈着の防止、改善を目的として、美白剤を皮膚外用剤に配合することが行われている。美白剤としては、古くはビタミンCやハイドロキノン、コウジ酸などが知られており、これらはメラニン生成に不可欠なチロシナーゼの活性を阻害することなどにより、メラニン生成を抑制する。
【0003】
また、美白を目的とした化合物も合成されており、例えば特許文献1には、チロシナーゼ活性阻害作用を有する4−アルキルレソルシノール誘導体が記載されている。
しかしながら、その効果や安全性等において十分満足できるものはなく、さらなる改善が望まれるところであった。また、特許文献1には、4位アルキル基が直鎖アルキル基やイソアミル基であるレソルシノール誘導体が記載されているが、4位アルキル基がその1位に分岐鎖を有するアルキル基であるものは記載されていない。
【特許文献1】特開平2−49715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記背景技術に鑑みなされたものであり、その目的は、美白効果や安全性に優れる化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を達成するために本発明者らが鋭意検討を行った結果、4−(1−メチルプロピル)レソルシノール及び4−(1−メチルブチル)レソルシノールに、優れたメラニン生成抑制作用がありまた安全性も非常に高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる4−アルキルレソルシノール誘導体及びその塩は、4−(1−メチルプロピル)レソルシノール及び4−(1−メチルブチル)レソルシノールから選ばれる4−アルキルレソルシノール誘導体及びその塩である。
本発明にかかる美白剤は、前記4−アルキルレソルシノール誘導体及びその薬理的に許容できる塩の少なくとも一つを有効成分とする。
また、本発明にかかるメラニン生成抑制剤は、前記4−アルキルレソルシノール誘導体及びその薬理的に許容できる塩の少なくとも一つを有効成分とする。
また、本発明にかかる皮膚外用剤は、前記4−アルキルレソルシノール誘導体及びその薬理的に許容できる塩から選ばれる少なくとも一つを配合する。
【0006】
また、本発明にかかる4−(1−メチルプロピル)レソルシノール又は4−(1−メチルブチル)レソルシノールの製造方法は、4−プロピオニルレソルシノール又は4−ブチリルレソルシノールに対し、有機金属化合物を反応させてカルボニル炭素にメチル基を導入した後、還元することを特徴とする。
また、本発明にかかる4−(1−メチルプロピル)レソルシノールあるいは4−(1−メチルブチル)レソルシノールの製造方法は、4−アセチルレソルシノールに対し、有機金属化合物を反応させてカルボニル炭素にエチル基あるいはn−プロピル基を導入した後、還元することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
4−(1−メチルプロピル)レソルシノール及び4−(1−メチルブチル)レソルシノールは、優れたメラニン生成抑制作用を有し、細胞毒性も低い。よって、皮膚に塗布することにより、高い美白効果と安全性が発揮される。また、本発明の製造方法によれば、レソルシノールの4位に1−メチルプロピルあるいは1−メチルブチルのような1−分岐アルキル基を容易かつ効率的に導入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の4−(1−メチルプロピル)レソルシノール及び4−(1−メチルブチル)レソルシノールは、レソルシノールの4位に、1−メチルプロピルあるいは1−メチルブチルが導入された誘導体であり、具体的には下記の化学式で示される。
化合物1:4−(1−メチルプロピル)レソルシノール
【化1】

【0009】
化合物2:4−(1−メチルブチル)レソルシノール
【化2】

【0010】
これらのうち、4−(1−メチルプロピル)レソルシノールが特に好ましい。
なお、前記4−アルキルレソルシノール誘導体がキラル炭素を有する場合には、各異性体あるいはその混合物も本発明に包含される。
【0011】
本発明にかかる4−アルキルレソルシノール誘導体(I)は、次の反応式Aのようにして製造することができる。なお、反応式AにおいてRは1−メチルプロピルあるいは1−メチルブチルであり、R、Rはそれぞれメチル、エチル、あるいはn−プロピルである。Rが1−メチルプロピルである場合、R、Rの何れか一方がメチルであり、他方がエチルである。Rが1−メチルブチルである場合、R、Rの何れか一方がメチルであり、他方がn−プロピルである。
【0012】
【化3】

【0013】
反応式Aにおいて、レソルシノールとRCOOHで示されるカルボン酸とのフリーデル−クラフツアシル化反応により、一般式(II)で示される4−アシルレソルシノールが得られる。なお、前記カルボン酸は、そのハロゲン化物あるいは酸無水物を用いることもできる。
次いで、4−アシルレソルシノール(II)に有機金属化合物によるアルキル化を行ってRをカルボニル炭素に導入し、化合物(III)とする。
最後にこれを還元し、本発明の4−アルキルレソルシノール誘導体(I)が得られる。
【0014】
反応式Aの第1段階は、公知のフリーデル−クラフツアシル化反応により行うことができる。酸触媒として、例えば塩化アルミニウム、塩化アンチモン、塩化鉄、塩化チタン、塩化ビスマス、塩化亜鉛、塩化スズ、リン酸、ポリリン酸、硫酸、五酸化二リン、三フッ化ホウ素などが用いられる。溶媒としては例えば、ニトロメタン、アセトニトリル、二硫化炭素、ジクロロメタン、クロロホルム、水などが用いられるが使用する原料化合物あるいは酸触媒に応じて選択すれば良い。反応温度、反応時間は使用する原料化合物に応じて変化させれば良いが、通常0℃から溶媒の還流温度の範囲で行われる。
【0015】
反応式Aの第2段階のアルキル化反応で用いる有機金属化合物としては、RMgXで示されるグリニャール試薬(Xはハロゲン原子を表す。Xの定義は以下においても同じである)、RLiで示されるアルキルリチウム、RCdで示されるジアルキルカドミウム、RAlで示されるトリアルキルアルミニウム等が挙げられる。溶媒としては、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、トルエン等の芳香族類等が用いられるが、使用する原料化合物あるいは有機金属化合物に応じて選択すれば良い。反応温度、反応時間は使用する原料化合物に応じて変化させれば良いが、通常−78℃から溶媒の還流温度の範囲で行われる。
【0016】
第3段階の還元は、触媒として、例えば、パラジウム−炭素、水酸化パラジウムを触媒として用いた接触還元や、金属スズや塩化スズ等のスズ化合物を用いた還元により行うことができる。接触還元は、通常、メタノールやエタノール、酢酸エチル、酢酸のような溶媒中、常圧もしくは加圧下にて行われる。スズ化合物を用いた還元は、通常塩酸等を併用して酸性条件下で行われる。いずれの場合も反応温度、反応時間は使用する原料化合物に応じて変化させれば良い。反応温度は通常、0℃から溶媒の還流温度の範囲で行われる。
なお、上記の反応式において用いられている原料化合物のうち、特に記載のないものは商業上入手可能であるか、あるいは公知の方法を用いて対応する原料から容易に合成することができる。
【0017】
前記特許文献1では、4−アルキルレソルシノール誘導体を得る方法として、
(i)レソルシノールと、飽和カルボン酸とを塩化亜鉛存在下で縮合させ、該縮合物を亜鉛アマルガム/塩酸で還元する方法、
(ii)レソルシノールと、アルキルアルコールとをアルミナ触媒を使用して高温下で反応させる方法
が記載されている。
しかし、(i)の方法では、アシル化に続いて還元しているため、本発明のように1位に分岐鎖を有するアルキル基Rをレソルシノールに導入することはできない。
また、(ii)の方法では、レソルシノールに複数のアルキル基が導入された多置換体が副生しやすい。そのため、モノ置換体の収率は低く、高くても30%前後である。また、アルキルアルコールの求電子部位(カチオン)が転移してしまうためか、4位のモノ置換体を得たとしても複雑な生成物であったり、転移体しか得られなかったりするなど、目的化合物を単一化合物として得ることは難しい。
本発明の製造方法によれば、目的とする1−メチルプロピルあるいは1−メチルブチルをレソルシノールの4位に容易に導入することができる。
なお、上記反応式AのR、Rを適宜変えれば、他の1位−分岐アルキル基についても導入可能である。
【0018】
本発明で提供される4−アルキルレソルシノール誘導体(I)は、必要に応じて塩とすることができ、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、およびマグネシウムなどから誘導される塩、特にナトリウムおよびカリウムの塩を挙げることができる。
これらの塩は通常の方法により容易に製造することができ、例えば、相当する酸性化合物を、所望の薬理的に許容することのできるカチオンを含む水溶液で処理し、続いて得られた溶液を蒸発乾固(好ましくは減圧下)することにより、容易に調製することができる。あるいは、酸性化合物の低級アルコール溶液と、所望する金属アルコキシドとを一緒に混合し、次に、得られた溶液を前記と同じ方法で蒸発乾固させることによっても、これらの塩を調製することができる。いずれの場合でも、反応の完了および所望する最終生成物の最大収量を保証するために、試薬を化学量論的量で使用することが好ましい。
【0019】
本発明にかかる4−アルキルレソルシノール誘導体はチロシナーゼ活性を阻害する。よって、本発明の4−アルキルレソルシノール誘導体はメラニンの生合成を阻害あるいは抑制するので、美白剤として有用であり、皮膚外用剤に好適に配合される。そして、本発明の4−アルキルレソルシノール誘導体は細胞毒性が非常に低いため、配合量を高く設定することができる。なお、4−アルキルレソルシノール誘導体(I)のうち、4−(1−メチルプロピル)レソルシノールが特に好ましい。
【0020】
本発明の皮膚外用剤は、4−アルキルレソルシノール誘導体(I)を通常の皮膚外用剤に配合し、常法により製造することができる。
本発明の4−アルキルレソルシノール誘導体を皮膚外用剤に配合して用いる場合、外用剤全量中に通常0.001〜20質量%、好ましくは0.01〜10質量%配合する。配合量が少なすぎると効果が十分に発揮されず、一方、過剰に配合しても増量に見合った効果の大きな向上は認められない。
【0021】
本発明の皮膚外用剤には、上記必須成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲内で、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる他の成分、例えば油分、湿潤剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、界面活性剤、防腐剤、保湿剤、香料、水、アルコール、増粘剤、粉末、色材、生薬、その他各種薬効成分等を必要に応じて適宜配合することができる。
さらに、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の他の美白剤も適宜配合することができる。
【0022】
本発明の皮膚外用剤は、化粧料、医薬品、医薬部外品の分野において広く適用可能である。その剤型は、皮膚に適用可能であれば特に限定されず、例えば、溶液状、乳化状、固形状、半固形状、粉末状、粉末分散状、水−油二層分離状、水−油−粉末三層分離状、軟膏状、ゲル状、エアゾール状、ムース状、スティック状等、任意の剤型が適用できる。また、その使用形態も任意であり、例えば化粧水、乳液、クリーム、パック、エッセンス、ジェル等のフェーシャル化粧料や、ファンデーション、化粧下地、コンシーラー等のメーキャップ化粧料などが挙げられる。
以下、具体例を挙げてさらに本発明を説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
メラニン生成抑制効果、チロシナーゼ活性阻害、細胞毒性
メラニン生成抑制効果、チロシナーゼ活性阻害作用、ならびに細胞毒性を次のようにして調べた。
(メラニン生成抑制試験)
マウスB16メラノーマ細胞を96ウェルプレートに2,000〜3,500細胞/ウェルで播種した。翌日、試験物質溶液(溶媒:ジメチルスルホキシド)を添加した。試験物質添加から3日後に、細胞の黒さを顕微鏡下で観察し、黒さの度合いを試験物質無添加群と比較して、以下の基準に従って判定した。
2:非常に黒い、1:黒い、0:同等、−1:白い、−2:非常に白い
視感判定値が小さいほど、メラニン生成が抑制されていることを意味する。
【0024】
(細胞毒性)
マウスB16メラノーマ細胞を96ウェルプレートに2,000〜3,500細胞/ウェルで播種した。翌日、試験物質溶液(溶媒:ジメチルスルホキシド)を添加した。試験物質添加から3日後に、培地を吸引除去してバッファー(リン酸緩衝液50mM、pH6.8)で2回洗浄後、蛍光試薬(ヘキスト33342)を0.001%含むE−MEM培地を100μl添加して、37℃で反応させた。30分後に励起波長355nm、測定波長460nmで蛍光を測定し、その値を細胞数の相対値として試料無添加群に対する試料添加群の細胞数比率(%細胞数)を算出した。%細胞数が高いほど細胞毒性が低いことを意味する。
【0025】
(チロシナーゼ活性阻害試験)
マウスB16メラノーマ細胞を96ウェルプレートに2,000〜3,500細胞/ウェルで播種した。翌日、培地を吸引除去してバッファー(リン酸緩衝液50mM、pH6.8)100μLで2回洗浄後、1%Triton X−100を含むバッファー(リン酸緩衝液50mM、pH6.8)を45μl加えて細胞を壊し、475nmの吸光度を測定した。さらに、10mM L−ドーパ溶液5μlと、試験物質溶液(溶媒:ジメチルスルホキシド)を添加し、37℃で反応させた。60分後に再度475nmの吸光度を測定した。この値からL−ドーパ添加前の測定値を差し引いた値を算出し、試験物質無添加群の値をチロシナーゼ活性率100%として、試験物質添加群のチロシナーゼ活性率を計算した。チロシナーゼ活性率が小さいほどチロシナーゼ活性阻害作用が高いことを意味する。
【0026】
表1に、本発明の4−(1−メチルプロピル)レソルシノール(化合物1)、ならびに4−(1−メチルブチル)レソルシノール(化合物2)の結果を示す。視感判定値、チロシナーゼ活性率からわかるように、化合物1〜2は優れたメラニン生成抑制効果、チロシナーゼ活性阻害作用を有し、かつ高濃度でも細胞毒性がほとんどない。
(表1)
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被験化合物 (濃度) 視感判定値 チロシナーゼ活性率(%) 細胞数(%)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
化合物1 (1×10−4wt%) −1.5 19 105
(2×10−3wt%) −2.0 10 92
化合物2 (1×10−4wt%) −1.0 36 97
(1×10−3wt%) −2.0 16 85
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0027】
表2は、4−(3−メチルブチル)レソルシノール(比較化合物1)、4−n−ブチルレソルシノール(比較化合物2)及び4−(2−メチルプロピル)レソルシノール(比較化合物3)の結果を示している。これらと比較すると、終濃度1×10−4wt%において、化合物1〜2は比較化合物1〜3に比べて視感判定値が小さく、メラニン生成抑制効果が強いことがわかる。また、チロシナーゼ活性率についても化合物1〜2は比較化合物1〜3に比べて低いことから、チロシナーゼ活性阻害作用が強いことがわかる。
また、高濃度(1×10−3wt%〜2×10−3wt%)においても、化合物1〜2は細胞数80%以上を維持し、極めて高いメラニン生成抑制効果およびチロシナーゼ活性阻害作用を示した。一方、比較化合物1〜3は高濃度では、細胞数が50%未満に減少し、細胞毒性が現れていることがわかる。なお、本試験においては、細胞数が著しく減少した場合(60%未満)には細胞毒性が現れているとして視感判定値、チロシナーゼ活性率は無効と判断した。
【0028】
(表2)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
被験化合物 (濃度) 視感判定値 チロシナーゼ活性率(%) 細胞数(%)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
比較化合物1(1×10−4wt%) −0.5 84 84
(1×10−3wt%) − 49 46
比較化合物2(1×10−4wt%) −0.5 50 121
(2×10−3wt%) − 10 38
比較化合物3(1×10−4wt%) −0.5 40 102
(2×10−3wt%) − 38
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
*細胞毒性のため、無効
【0029】
比較化合物1 4−(3−メチルブチル)レソルシノール
【化4】

【0030】
比較化合物2 4−n−ブチルレソルシノール
【化5】

【0031】
比較化合物3 4−(2−メチルプロピル)レソルシノール
【化6】

【実施例2】
【0032】
製造例1 4−(1−メチルプロピル)レソルシノール(化合物1)
2’,4’−ジヒドロキシアセトフェノン(25.30g)のテトラヒドロフラン溶液(250ml)に、氷冷下、臭化エチルマグネシウムのジエチルエーテル溶液(3.0M、164.3ml)を2時間30分かけて滴下した。室温で20時間撹拌した後、氷冷下、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。
残渣(33.10g)の酢酸エチル溶液(350ml)に20%水酸化パラジウム−炭素(3.35g)を加え、水素ガス雰囲気下、室温で15時間撹拌した。触媒を濾去後、濾液を濃縮し、残渣(30.30g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル600g、ヘキサン:酢酸エチル=7:1〜2:1)に付し、淡黄色油状の標題化合物(19.31g,収率約70%)を得た。
1H-NMR (DMSO-d6)δ: 0.76 (3H, t, J=7.3 Hz), 1.06 (3H, d, J=6.8 Hz), 1.41-1.53 (2H, m), 2.84 (1H, sextet, J=6.8 Hz), 6.14 (1H, dd, J=8.2, 2.9 Hz), 6.23 (1H, d, J=2.9 Hz), 6.78 (1H, d, J=8.2 Hz), 8.79 (1H, s), 8.84 (1H, s).
【0033】
比較製造例1 4−(1−メチルプロピル)レソルシノール(化合物1)
前記特許文献1記載の(ii)の方法に準じ、化合物1の合成を試みた。具体的には、レソルシノール(2.00g)とリン酸(10ml)の混合物に、2−ブタノール(1.35g)を加え、115℃で8.5時間攪拌した。反応液を酢酸エチルにて希釈し、有機層を1N水酸化ナトリウム水溶液、1N塩酸および飽和食塩水で順次洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、酢酸エチルを濃縮した。残渣(2.38g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル70g、ヘキサン:酢酸エチル=4:1)に付し、茶褐色粘性液体の目的化合物1(1.04g、収率約34%)を得た。
【0034】
比較製造例1では、反応生成物中に下記のようにベンゼン環に2つ以上の1−メチルプロピル基が導入されたと見られる副生成物が多数生成し、また、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等による精製も困難であったため、製造例1に比べて目的化合物1の収率は低かった。
【化7】

【0035】
製造例2 4−(1−メチルブチル)レソルシノール(化合物2)
2’,4’−ジヒドロキシアセトフェノン(13.69g)のテトラヒドロフラン溶液(205 ml)に、氷冷下、臭化n−プロピルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液(2.0M、180ml)を90分間かけて滴下した。室温で8時間撹拌した後、氷冷下、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮した。
残渣(20.38g)の酢酸エチル溶液(150ml)に20%水酸化パラジウム−炭素(1.50g)を加え、水素ガス雰囲気下、室温で8時間撹拌した。触媒を濾去後、濾液を濃縮し、残渣(19.47g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル400g、ヘキサン:酢酸エチル=4:1)に付し、淡黄色油状の標題化合物(15.97g)を得た。
1H-NMR (DMSO-d6)δ: 0.82 (3H, t, J=7.3 Hz), 1.06 (3H, d, J=7.3 Hz), 1.09-1.25 (2H, m), 1.34-1.53 (2H, m), 2.95 (1H, sextet, J=7.3 Hz), 6.14 (1H, dd, J=8.2, 2.4 Hz), 6.23 (1H, d, J=2.4 Hz), 6.79 (1H, d, J=8.2 Hz), 8.78 (1H, s), 8.83 (1H, s).
【0036】
比較製造例2 4−(1−メチルブチル)レソルシノール(化合物2)
前記特許文献1記載の(ii)の方法に準じ、下記反応式のように化合物2の合成を試みた。具体的には、レソルシノール(2.05g)とリン酸(10ml)の混合物に、2−ペンタノール(1.60g)を加え、115℃で24時間攪拌した。反応液を酢酸エチルにて希釈し、有機層を1N水酸化ナトリウム水溶液、1N塩酸および飽和食塩水で順次洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、酢酸エチルを濃縮した。残渣(2.45g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル120g、ヘキサン:酢酸エチル=4:1)に付し、茶褐色粘性液体(1.05g)を得た。
これは、NMRの積分値から、目的化合物2と下記化合物3との混合物(混合比約3:2)であると推察された。この混合物に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等による精製を試みたが非常に困難であり、目的化合物2を単離することはできなかった。
【0037】
化合物3:4−(1−エチルプロピル)レソルシノール
【化8】


化合物21H-NMR (CDCl3)δ: 0.87 (3H, t, J=7.2 Hz), 1.18 (3H, d, J=7.2 Hz), 1.21-1.34 (2H, m), 1.62-1.72 (m, 2H), 2.95 (1H, sextet, J=7.2 Hz), 5.19 (2H, brs), 6.31 (1H, d, J=2.4 Hz), 6.40 (1H, d, J=8.2 Hz), 6.95 (1H, dd, J=8.2, 2.4 Hz).
化合物31H-NMR (CDCl3)δ: 0.79 (6H, t, J=7.3 Hz), 1.45-1.60 (4H, m), 2.63 (m, 1H), 5.19 (2H, brs), 6.31 (1H, d, J=2.4 Hz), 6.40 (1H, d, J=8.2 Hz), 6.95 (1H, dd, J=8.2, 2.4 Hz).
【0038】
化合物3は、下記のような2−ペンタノールの求電子部位の転移により生じたものと考えられる。
【化9】

【実施例3】
【0039】
皮膚外用剤
処方例1 クリーム
(処方)
ステアリン酸 5.0 質量%
ステアリルアルコール 4.0
イソプロピルミリステート 18.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 3.0
プロピレングリコール 10.0
化合物1 0.1
苛性カリ 0.2
亜硫酸水素ナトリウム 0.05
防腐剤 適量
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
イオン交換水にプロピレングリコールと苛性カリを加え溶解し、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を徐々に加え、全部加え終わってからしばらくその温度に保ち反応を起こさせる。その後、ホモミキサーで均一に乳化し、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0040】
処方例2 クリーム
(処方)
ステアリン酸 5.0 質量%
ソルビタンモノステアリン酸エステル 2.5
ポリオキシエチレン(20モル)
ソルビタンモノステアリン酸エステル 1.5
アルブチン 7.0
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
プロピレングリコール 10.0
化合物2 0.05
グリセリントリオクタノエート 10.0
スクワレン 5.0
パラジメチルアミノ安息香酸オクチル 3.0
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.01
エチルパラベン 0.3
香料 適 量
イオン交換水 残 余
(製法)
イオン交換水をプロピレングリコールおよびエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩を加えて溶解し、70℃に保った(水相)。その他の成分を混合して過熱溶解して70℃に保ち(油相)、水相に油相を除々に加えて70℃で予備乳化を行い、ホモミキサーにて均一に乳化した後、よくかき混ぜながら30℃まで冷却した。
【0041】
処方例3 クリーム
(処方)
固形パラフィン 5.0 質量%
ミツロウ 10.0
ワセリン 15.0
流動パラフィン 41.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 2.0
POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 2.0
石けん粉末 0.1
硼砂 0.2
化合物1 0.05
化合物2 0.05
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
イオン交換水に石けん粉末と硼砂を加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相をかきまぜながら徐々に加え反応を行う。反応終了後、ホモミキサーで均一に乳化し、乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0042】
処方例4 乳液
(処方)
ステアリン酸 2.5 質量%
セチルアルコール 1.5
ワセリン 5.0
流動パラフィン 10.0
POE(10)モノオレイン酸エステル 2.0
ポリエチレングリコール1500 3.0
トリエタノールアミン 1.0
カルボキシビニルポリマー 0.05
(商品名:カーボポール941,Noveon, Inc.)
化合物1 0.01
亜硫酸水素ナトリウム 0.01
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
少量のイオン交換水にカルボキシビニルポリマーを溶解する(A相)。残りのイオン交換水にポリエチレングリコール1500とトリエタノールアミンを加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、A相を加えホモミキサーで均一乳化し、乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0043】
処方例5 乳液
(処方)
マイクロクリスタリンワックス 1.0 質量%
密ロウ 2.0
ラノリン 20.0
流動パラフィン 10.0
スクワラン 5.0
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 4.0
POE(20)ソルビタンモノオレイン酸エステル 1.0
プロピレングリコール 7.0
化合物2 1.0
亜硫酸水素ナトリウム 0.01
エチルパラベン 0.3
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
イオン交換水にプロピレングリコールを加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し、加熱融解して70℃に保つ(油相)。油相をかきまぜながらこれに水相を徐々に加え、ホモミキサーで均一に乳化する。乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0044】
処方例6 ゼリー
(処方)
95%エチルアルコール 10.0 質量%
ジプロピレングリコール 15.0
POE(50)オレイルエーテル 2.0
カルボキシビニルポリマー 1.0
(商品名:カーボポール940,Noveon, Inc.)
苛性ソーダ 0.15
L−アルギニン 0.1
化合物1 5.0
2−ヒドロキシ−4−メトキシ
ベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム 0.05
エチレンジアミンテトラアセテート・
3ナトリウム・2水 0.05
メチルパラベン 0.2
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
イオン交換水にカーボポール940を均一に溶解し、一方、95%エタノールに化合物1、POE(50)オレイルエーテルを溶解し、水相に添加する。次いで、その他の成分を加えたのち苛性ソーダ、L−アルギニンで中和させ増粘する。
【0045】
処方例7 美容液
(処方)
(A相)
エチルアルコール(95%) 10.0 質量%
POE(20)オクチルドデカノール 1.0
パントテニールエチルエーテル 0.1
化合物1 2.0
メチルパラベン 0.15
(B相)
水酸化カリウム 0.1
(C相)
グリセリン 5.0
ジプロピレングリコール 10.0
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
カルボキシビニルポリマー 0.2
(商品名:カーボポール940,Noveon, Inc.)
精製水 残余
(製法)
A相、C相をそれぞれ均一に溶解し、C相にA相を加えて可溶化する。次いでB相を加えたのち充填を行う。
【0046】
処方例8 パック
(処方)
(A相)
ジプロピレングリコール 5.0 質量%
POE(60)硬化ヒマシ油 5.0
(B相)
化合物1 0.05
オリーブ油 5.0
酢酸トコフェロール 0.2
エチルパラベン 0.2
香料 0.2
(C相)
亜硫酸水素ナトリウム 0.03
ポリビニルアルコール 13.0
(ケン化度90、重合度2,000)
エタノール 7.0
精製水 残余
(製法)
A相、B相、C相をそれぞれ均一に溶解し、A相にB相を加えて可溶化する。次いでこれをC相に加えたのち充填を行う。
【0047】
処方例9 固形ファンデーション
(処方)
タルク 43.1 質量%
カオリン 15.0
セリサイト 10.0
亜鉛華 7.0
二酸化チタン 3.8
黄色酸化鉄 2.9
黒色酸化鉄 0.2
スクワラン 8.0
イソステアリン酸 4.0
モノオレイン酸POEソルビタン 3.0
オクタン酸イソセチル 2.0
化合物1 0.5
防腐剤 適量
香料 適量
(製法)
タルク〜黒色酸化鉄の粉末成分をブレンダーで十分混合し、これにスクワラン〜オクタン酸イソセチルの油性成分、化合物1、防腐剤、香料を加え良く混練した後、容器に充填、成型する。
【0048】
処方例10 乳化型ファンデーション(クリームタイプ)
(処方)
(粉体部)
二酸化チタン 10.3 質量%
セリサイト 5.4
カオリン 3.0
黄色酸化鉄 0.8
ベンガラ 0.3
黒色酸化鉄 0.2
(油相)
デカメチルシクロペンタシロキサン 11.5
流動パラフィン 4.5
ポリオキシエチレン変性
ジメチルポリシロキサン 4.0
化合物1 0.5
(水相)
精製水 50.0
1,3−ブチレングルコール 4.5
ソルビタンセスキオレイン酸エステル 3.0
防腐剤 適量
香料 適量
(製法)
水相を加熱撹拌後、十分に混合粉砕した粉体部を添加してホモミキサー処理する。更に加熱混合した油相を加えてホモミキサー処理した後、撹拌しながら香料を添加して室温まで冷却する。
【0049】
処方例11 化粧水
(1)化合物1 0.05 質量%
(2)アスパラギン酸 1.0
(3)酢酸トコフェロール 0.01
(4)グリセリン 4.0
(5)1,3−ブチレングリコール 4.0
(6)エタノール 8.0
(7)POE(60)硬化ヒマシ油 0.5
(8)メチルパラベン 0.2
(9)クエン酸 0.05
(10)クエン酸ナトリウム 0.1
(11)香料 0.05
(12)精製水 残 余
(製法)
(12)に(2)、(4)、(5)、(9)及び(10)を溶解して精製水溶液とした。別に、(6)に(1)、(3)、(7)、(8)、及び(11)を溶解し、これを前述の精製水溶液に加えて可溶化し、濾過して化粧水を得た。
【0050】
処方例12 化粧水
A:アルコール相
エタノール 5.0 質量%
POEオレイルエーテル 2.0
2−エチルヘキシル−p−ジメチルアミノベンゾエート 0.18
化合物2 0.1
香料 0.05
B:水相
1,3ブチレングリコール 9.5
ピロリドンカルボン酸ナトリウム 0.5
乳清抽出液 5.0
ニコチン酸アミド 0.3
グリセリン 5.0
ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン 1.0
エチレンジアミンヒドロキシエチル3酢酸3Na 1.0
リジン 0.05
トラネキサム酸 1.0
精製水 残余
(製法)
Aのアルコール相をBの水相に添加し、可溶化して化粧水を得た。
上記処方例の皮膚外用剤はいずれも美白効果を発揮するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4−(1−メチルプロピル)レソルシノール及び4−(1−メチルブチル)レソルシノールから選ばれる4−アルキルレソルシノール誘導体及びその塩。
【請求項2】
請求項1記載の4−アルキルレソルシノール誘導体及びその薬理的に許容できる塩の少なくとも一つを有効成分とする美白剤。
【請求項3】
請求項1記載の4−アルキルレソルシノール誘導体及びその薬理的に許容できる塩の少なくとも一つを有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【請求項4】
請求項1記載の4−アルキルレソルシノール誘導体及びその薬理的に許容できる塩から選ばれる少なくとも一つを配合した皮膚外用剤。
【請求項5】
4−プロピオニルレソルシノール又は4−ブチリルレソルシノールに対し、有機金属化合物を反応させてカルボニル炭素にメチル基を導入した後、還元することを特徴とする、4−(1−メチルプロピル)レソルシノール又は4−(1−メチルブチル)レソルシノールの製造方法。
【請求項6】
4−アセチルレソルシノールに対し、有機金属化合物を反応させてカルボニル炭素にエチル基あるいはn−プロピル基を導入した後、還元することを特徴とする、4−(1−メチルプロピル)レソルシノールあるいは4−(1−メチルブチル)レソルシノールの製造方法。


【公開番号】特開2006−124358(P2006−124358A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318482(P2004−318482)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】