説明

4サイクルエンジンの潤滑装置

【課題】クランク軸周りの潤滑不良を防止し、動弁室へのオイルの滞留を確実に抑止可能な4サイクルエンジンの潤滑装置を提供する。
【解決手段】4サイクルエンジン1の潤滑装置は、油溜室7が傾いて油溜室7内のオイルAの油面の位置が変化しても油面下に位置する吸入部55bからオイルAを吸い上げてクランク室5aに送る送油通路54と、一端側が動弁室30の内部に間隔をあけて複数開口し、他端側がクランク室5aに開口し、クランク室5aの負圧時に動弁室30とクランク室5aとを連通する直通通路47を有する。直通通路47のクランク室5a内に開口する開口端部47aは、ピストン13が上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストン13の移動に伴って開口する位置に設けられ、クランク室5aが負圧になると、動弁室30内に溜まるオイルは直通通路47を介してクランク室5a内に戻される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4サイクルエンジンの潤滑装置に関し、さらに詳細には、様々な姿勢で使用してもエンジン内を潤滑するオイルが循環する4サイクルエンジンの潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
草木を対象とした可搬型の刈払機(トリマー)や背負式作業機のように、作業者自身が携帯若しくは背負って作業を行う作業機の駆動エンジンとして、従来から2サイクルエンジンが用いられている。しかしながら、2サイクルエンジンは、環境問題に関する意識の高まりや排ガス規制の強化等により、4サイクルエンジンを駆動源に置き換えるニーズが高まっている。
【0003】
この4サイクルエンジンは、必要な部品数が2サイクルエンジンと比較して多いため重くなり易く、特に携帯型作業機では、作業者が作業機を携帯しながら作業を行うのが前提となるので、エンジンの軽量化が求められる。
【0004】
そこで、潤滑用のポンプを別に設けることなくクランク室内の圧力変動を利用してオイルを循環させる4サイクルエンジン用の潤滑装置が提案されている(特許文献1参照)。この潤滑装置は、クランク軸内に穿設されてオイルタンク内とクランク室内を連通する第1油路を介し、クランク室内が負圧になるのを利用してオイルタンク内で生成されたオイルミストをクランク室内に供給してクランク軸周りを潤滑する。またオイルタンク内で生成されて飛散するオイルミストは、クランク室内が正圧になるのを利用して正立状態においてオイルタンクの上方に配置された第1動弁室内の動力伝達機構(吸気弁や排気弁)や第2動弁室内のカム装置に送られてこれらの駆動部品を潤滑する。
【0005】
第2動弁室を形成するヘッドカバー内には仕切り板が設けられ、この仕切り板によってヘッドカバー内の上側がブリーザ室としてヘッドカバー内の下側が第2動弁室として画成されている。ブリーザ室は、第2動弁室側に開口する連通部を介して第2動弁室に連通している。仕切り板には、箱状に形成された仕切り体が溶着されて、仕切り板と仕切り体との間にオイル回収室が形成されている。仕切り板には第2動弁室内の動力伝達機構側に延びる吸い上げ管が設けられ、仕切り体にはヘッドカバーの天井面側へ延びる吸い上げ管が設けられている。また仕切り板には、オイル回収室に連通して第2動弁室側へ突出した導管が設けられ、この導管はクランク室に連通している。
【0006】
この潤滑装置は、クランク軸の回転に伴いピストンが移動してクランク室が負圧になると、導管を介してオイル回収室が負圧化されて、第2動弁室内又はブリーザ室内に溜まるオイルが吸い上げ管を介して吸引されてクランク室に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−147213号公報(段落0041〜0051、図5、図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、クランク軸周りには高いオイル濃度を必要とし、動弁装置にはクランク軸周りほど高いオイル濃度を必要としない。
【0009】
この従来の潤滑装置は、オイルタンク内で生成されたオイルミストをクランク室内と動弁室内に供給するので、動弁装置に供給するオイルミスト濃度とクランク室に供給するオイルミスト濃度が実質同じものになる。そのため、オイルミストの生成が充分でなかったり、生成されたオイルミストの供給が充分でないと、クランク軸周りを充分に潤滑できなくなる。また、動弁室内へオイルミストが過剰に送り込まれると、動弁室内に滞留するオイルの量が多くなりすぎて、ブローバイガスの燃焼室への排出と共にオイルが多く排出されてしまい、オイルが早期に消費されてしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、クランク軸周りの潤滑不良を防止するとともに、動弁室へのオイルの滞留を確実に抑止することができる4サイクルエンジンの潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決するため、本発明は、ピストンの往復動によるクランク室内の圧力変動を利用して、クランク室と別に設けられた油溜室に貯留するオイル(例えば、実施形態における潤滑オイルA)を、クランク室及び吸・排気の各バルブ機構を収納した動弁室に供給して各部の潤滑を行いながらオイルを循環させるとともに、オイルの循環経路中に含まれるブローバイガスを動弁室から燃焼室に排出する4サイクルエンジンの潤滑装置であって、油溜室にオイルが規定量の範囲で貯留された状態で、油溜室が傾いてオイルの油面の位置が変化しても、オイルの油面下に位置する吸入部を有し、クランク室内の負圧時に油溜室とクランク室とを連通して油溜室内のオイルを吸入部から吸い上げてクランク室に送る送油通路が設けられ、送油通路のクランク室内に開口する開口端部は、ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストンの移動に伴って開口する位置に設けられ、一端側が動弁室の内部に間隔をあけて複数開口し、他端側がクランク室に開口し、クランク室の負圧時に動弁室と該クランク室とを連通する直通通路(例えば、実施形態における直通通路47,連結通路45,吸引管46)が設けられ、直通通路のクランク室内に開口する開口端部は、ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストンの移動に伴って開口する位置に設けられ、クランク室が負圧になると、動弁室内のオイルが直通通路を介してクランク室内に送られることを構成要件とする(請求項1)。
【0012】
吸入部は、油溜室にオイルが規定量の範囲で貯留された状態で、油溜室が傾いてオイルの油面の位置が変化しても、オイルの油面下に位置するように構成される。具体的には、吸入部は、ゴム等の弾性材料製の管体と、管体の先端部に取り付けられた吸入口付きの錘とを有してなり、錘は重力により鉛直下方に移動可能に取り付けられる。このため、吸入部はエンジンが傾いても油溜室のオイルの油面下に没した状態にあるので、送油通路を介して吸入部から吸い込んだオイルをクランク室内に充分に送ることができる。
【0013】
直通通路の一端側は、動弁室の内部に間隔をあけて複数開口したものである。具体的には、4サイクルエンジンが傾斜することで、動弁室内でのオイルの滞留位置が変化しても、直通通路の一端側は、その滞留位置に開口するよう、間隔をあけて複数設けられる。
【0014】
直通通路のクランク室に開口する開口端部は、ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストンの移動に伴って開口する位置に設けられる。この開口端部は、ピストンの移動に伴って開口し始めるタイミングで、クランク室内が負圧となるような位置に設けられている。そして、ピストンが上死点に達した時点では、既に開口端部は完全に開口しているので、動弁室でオイルミストが液化してオイルが多く滞留しても、強い負圧でクランク室にオイルを一気に送ることができ、動弁室へのオイルの滞留を抑止することができる。
【0015】
ここで、液状のオイルを吸い込むためにはある程度の強い負圧が必要となる。そして、直通通路の複数の開口のうち一つのみがオイルを吸い込み、残りの開口が空気を吸い込む状況でも、強い負圧が必要となる。本発明では、クランク室内が最も強い負圧になるタイミングで動弁室とクランク室が連通しているので、より効率的に動弁室からクランク室にオイルを送ることができる。
【0016】
ところで、クランク室の圧力変動の過程における、弱い負圧のタイミングで直通通路が開口し始めると、クランク室への空気の吸入量が多くなりすぎて、オイルを吸い込むのに充分な強さの負圧が得られない場合がある。本発明では、直通通路が開口し始める位置を設計的に調整することで、より良くオイルを吸い込むのに適した強さの負圧を得ることができる。なお、本発明によれば、ピストンが上死点から上死点近傍位置に向かって移動する間にも直通通路が開口したままになり、クランク室内が正圧になることで、クランク室から動弁室にオイルやオイルミストが逆流する場合も想定される。このような場合には、オイルやオイルミストがクランク室から動弁室へ流れるのを規制する一方向弁を、直通通路に設けることで、逆流を防止することができる。
【0017】
また、本発明は、クランク室内の正圧時にクランク室と油溜室とを連通して、クランク室内で生成されるオイルミストを油溜室に送る連通路が設けられ、油溜室から動弁室にオイルミストを供給する供給通路が設けられ、供給通路には、バルブ機構の駆動部品を収容するバルブ駆動室が設けられ、バルブ駆動室の油溜室側底部と直通通路との間に、バルブ駆動室内のオイルをクランク室に戻すための戻し通路が設けられていることを構成要件とする(請求項2)。
【0018】
連通路は、クランク室内で生成されたオイルミストを油溜室に送るためのものである。バルブ駆動室は、駆動部品を収容する必要があるので、一定の広がりを持たせる必要がある。一方、供給通路は、オイルミストの循環経路として機能させるために、バルブ駆動室ほどの広がりを必要としない。供給通路は、その途中にバルブ駆動室を形成し、バルブ駆動室に連通する供給通路に比べてバルブ駆動室は広がりを持つ構造となる。バルブ駆動室の底部とは、供給通路の一部とバルブ駆動室の接続箇所に形成される段差のことである。
【0019】
供給通路に供給されたオイルミストは、バルブ機構の駆動部品を潤滑する時に、バルブ機構の駆動部品に付着して液化する。ここで液化したオイルは、戻し通路を介してクランク室に戻されるので、さらに濃度低下したオイルミストが動弁室に供給される。戻し通路を介してクランク室にオイルを充分に戻せない時があっても、供給通路の途中にバルブ機構の駆動部品があるので、この駆動部品が抵抗として機能して動弁室へのオイルの流出を抑止できる。そして、必要以上に濃度の高いオイルミストが油溜室から供給通路に供給されたとしても、戻し通路の一方の開口端部がバルブ駆動室の油溜室側底部に設けられるのでオイルがバルブ機構の駆動部品を通過する前に底部に留まることができ、オイルとしてクランク室に戻される。供給通路や戻し通路の形状は設計的事項であり、このような設計的事項を考慮することで、より適切な濃度のオイルミストを動弁室に供給することができる。なお、バルブ駆動室のオイルは、直通通路を介してクランク室に送られることにもなるので、前述と同様に効率良くクランク室に送られる。
【0020】
また、本発明は、送油通路のクランク室側に開口する開口端部は、直通通路のクランク室側の開口端部が開口する前に開口する位置に設けられていることを構成要件とする(請求項3)。
【0021】
送油通路のクランク室側の開口端部は、直通通路のクランク室側の開口端部が開口する前に開口するので、送油通路の開口端部が開口した時点では直通通路の開口端部は閉じている。このため、送油通路を介して先ずクランク室にオイルを充分に供給することができ、その後に直通通路の開口端部が開口することで空気も充分に供給できる。なお、直通通路と送油通路のそれぞれの開口端部が同時に開口した状況ではクランク室に粘性の低い空気ばかりが吸い込まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係わる4サイクルエンジンの潤滑装置によれば、油溜室にオイルが規定量の範囲で貯留された状態で、油溜室が傾いてオイルの油面の位置が変化しても、オイルの油面下に位置する吸入部を備えて、クランク室内の負圧時に油溜室とクランク室とを連通して油溜室内のオイルを吸入部から吸い上げてクランク室に送る送油通路を有し、送油通路のクランク室内に開口する開口端部を、ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストンの移動に伴って開口する位置に設けることにより、油溜室が傾いても吸入部は油溜室のオイルの油面下に没した状態にあるので、送油通路を介して油溜室から液状のまま吸い込んだオイルをクランク室内に充分に送ることができ、クランク軸周りの潤滑不良を防止することができる。
【0023】
また、一端側が動弁室の内部に間隔をあけて複数開口し、他端側がクランク室に開口し、クランク室の負圧時に動弁室と該クランク室とを連通する直通通路を設け、直通通路のクランク室内に開口する開口端部を、ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストンの移動に伴って開口する位置に設けることにより、ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かって移動すると、直通通路の一端側がクランク室内に開口して、クランク室内の負圧を効果的に直通通路に作用させることができる。このため、動弁室内に溜まるオイルを確実に吸引してクランク室に戻し、動弁室内のオイルの滞留を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる4サイクルエンジンの潤滑装置において、ピストンが上死点に位置するときの潤滑装置の概略説明図を示す。
【図2】本発明の一実施の形態に係わる4サイクルエンジンの潤滑装置において、送油通路のクランク室側の開口端部が開き、直通通路のクランク室側の開口端部が閉じた状態にあるときの潤滑装置の概略説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の4サイクルエンジンの潤滑装置の好ましい実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。潤滑装置は4サイクルエンジンに搭載されるものであるので、この潤滑装置を搭載した4サイクルエンジンについて図1(概略説明図)を用いて説明する。なお、図1は、ピストンが上死点に位置した状態にあるときの4サイクルエンジンを示している。
【0026】
4サイクルエンジン1(以下、単に「エンジン1」と記す。)は、図1に示すように、シリンダヘッド3aが設けられたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の下部に取り付けられてクランク室5aを形成するクランクケース5と、クランクケース5の下方に配設された油溜室7とを備える。油溜室7は、クランクケース5と別個に設けられ、潤滑オイルA(以下、単に「オイルA」と記す。)を貯留する。
【0027】
シリンダブロック3とクランクケース5との接続部分には、クランク軸(図示せず)が回転自在に支持され、このクランク軸にはカウンタウェイトやこれに連結されたコンロッド等を介してピストン13が連接されている。ピストン13はシリンダブロック3内に設けられたシリンダ3b内に摺動自在に挿入されている。
【0028】
シリンダブロック3内に設けられたシリンダ3bの上壁には、気化器(図示せず)及び排気マフラ(図示せず)にそれぞれ連通する吸気ポート及び排気ポートが設けられ、これらの各ポートには、ポートを開閉する吸気バルブ及び排気バルブが配設されている。
【0029】
これらのバルブを駆動する動弁機構20は、クランク軸に固着されたバルブ駆動ギヤ21、バルブ駆動ギヤ21によって駆動されカムが連接されたカムギヤ22、ロッカーアーム(図示せず)等の部品により構成される。この動弁機構20のうちバルブ駆動ギヤ21及びカムギヤ22は、シリンダブロック3の頭部に形成された動弁室30と油溜室7とを連通する供給通路51の途中に設けられたバルブ駆動室52内に収容され、ロッカーアーム等の部品は、動弁室30内に設けられている。
【0030】
油溜室7とシリンダブロック3との間には、送油通路54が設けられている。送油通路54の油溜室側の端部には、吸入部55が取り付けられている。吸入部55は、ゴム等の弾性材料により形成されて容易に撓むことができる管体55aと、管体55aの先端部に取り付けられた吸入口付きの錘55bとを有してなる。吸入部55の錘55bは、重力により鉛直下方に移動可能に取り付けられており、これにより油溜室7が傾いても、規定量の範囲で貯留されるオイルAの油面下に吸入部55の吸入口を没入させることができる。
【0031】
送油通路54は、ピストン13の上昇によりクランク室5a内が負圧化傾向となったときに、クランク室5a内と油溜室7とを連通させて油溜室7からオイルAを吸い上げてクランク室5a内に供給する部分である。送油通路54のクランク室5a側に開口する開口端部54aの位置は、ピストン13が上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストン13の移動に伴って開口する位置に設けられ、上死点近傍位置に移動したピストン下部のスカート部13aの下死点方向側に位置している。従って、送油通路54の開口端部54aは、ピストン13が上死点に達した時点では既に全開している。送油通路54の開口端部54aの位置の詳細については後述する。
【0032】
送油通路54の途中には、一方向弁57が設けられている。この一方向弁57は、クランク室5aの圧力変化に応じて開閉し、油溜室7内に対しクランク室5a内の圧力が低い状態で開いて送油通路54を連通状態にし、クランク室5a内の圧力の方が高い状態で閉じるように構成されている。
【0033】
クランク室5aの底部と油溜室7との間には、クランク室5aと油溜室7を連通する連通路59が設けられている。この連通路59は、クランク室5a内で生成されたオイルミスト及び、このオイルミストが液化したオイルを油溜室7に送るためのものである。連通路59のクランク室側に開口する開口端部59aにはリード弁60が設けられている。このリード弁60は、クランク室5aの圧力変化に応じて開閉可能に構成され、ピストン13が下死点側に移動するときのクランク室内の正圧によって開いて連通路59を連通状態にするように構成されている。このためリード弁60が開いて連通路59が連通状態になると、クランク室5a内のオイルミスト及びオイルが連通路59を通って油溜室7内に送られる。
【0034】
連通路59の油溜室側の開口端部59bは、油溜室7内の略中央で開口し、油溜室7の傾斜状態に拘わらず、規定量以下で貯留されたオイルAの油面上となる位置に配置されている。
【0035】
供給通路51の開口端部51aは、油溜室7内の内部空間の略中央部で開口し、油溜室7の傾斜状態に拘わらず、規定量以下で貯留されたオイルAの油面の位置が変化しても油面下に没することがないように配置されている。さらに、開口端部51aに対して開口端部59bが突出するように配置している。
【0036】
このように、供給通路51の開口端部51aに対し連通路59の開口端部59bが油溜室7内に突出するように配置されているので、連通路59の開口端部59bから吐出するオイルミストが供給通路51の開口端部51aに直接に入ることはない。さらに好ましくは連通路59と供給通路51は、各開口端部側に進むに従って隣接する開口端部と離れる方向に配置されてもよい。
【0037】
連通路59の開口端部59bの近傍には、開口端部59bから吐出するオイルミストを液化させる液化部40が設けられている。液化部40は、開口端部59bから吐出するオイルミストを付着させて液化させる衝突板41を備え、衝突板41の供給通路側端部に、連通路59の延伸方向後側に突出する突出部41aを設け、開口端部59bと開口端部51aの間を突出部41aで遮蔽するように構成されている。
【0038】
このようにすると、連通路59の開口端部59bから吐出するオイルミストは衝突板41に衝突してオイルに液化され、衝突板41の端部から排出されて油溜室7に貯留するオイルに戻される。開口端部59bから吐出して液化することなく残ったオイルミストは突出部41aに阻止されて供給通路51の開口端部51aに直接に入ることは殆どない。
【0039】
従って、連通路59から吐出するオイルミストはその大部分が液化される。このため、油溜室7内に貯留するオイルミストの濃度を低くすることができ、供給通路51に供給されるオイルミストの濃度を低下させることができる。
【0040】
供給通路51の動弁室30側の開口端部51bは、動弁室30のシリンダブロック3側に開口している。このため、供給通路51を流れるオイルミストはバルブ駆動室52内の動弁機構20を潤滑し、開口端部51bから吐出して動弁室30内に供給されて動弁室30内のロッカーアーム等を潤滑する。
【0041】
動弁室30内には、動弁室30内に溜まったオイルを吸引するために吸引管46が複数設けられている。そして、吸引管46と連結通路45が接続されている。連結通路45は動弁室30のクランク室5aとは反対側に設けられ、吸引管46はこれに連通して動弁室30内のクランク室側へ延びるように設けられ、吸引管46の先端は開口している。吸引管46の開口先端部は、動弁室30内のクランク室側底面からオイルを吸い上げるために、動弁室30のクランク室側底面の近傍位置に配置されている。そして、吸引管46は動弁室30の隅部に配置されて、動弁室30が上方に位置する状態でエンジン1が傾いても、いずれかの吸引管46を介して動弁室30内に溜まるオイルが吸引されるようになっている。
【0042】
また連結通路45には小孔44が複数設けられている。この小孔44は、動弁室30のクランク室5aとは反対側の隅部に配置され、動弁室30が下方に位置する反転状態にエンジン1が傾いても、いずれかの小孔44を介して動弁室30内に溜まるオイルを吸引できる。
【0043】
連結通路45には直通通路47が設けられ、クランク室5a内の負圧時に、動弁室30とクランク室5aとが直通通路47を介して連通する。直通通路47のクランク室側の開口端部47aの位置は、送油通路54の開口端部54aと同様に、ピストン13が上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストン13の移動に伴って開口する位置に設けられ、上死点近傍位置に移動したピストン下部のスカート部13aの下死点方向側に位置している。従って、直通通路47の開口端部47aは、ピストン13が上死点に達した時点では既に全開している。
【0044】
また直通通路47の開口端部47aは、供給通路54のクランク室側の開口端部54aが開口した後に開口する位置に設けられている。このため、図2に示すように、送油通路54の開口端部54aが全開した状態の時点では直通通路47の開口端部47aは閉じているので、クランク室内の負圧が直通通路47に作用することなく送油通路54に作用して、クランク室5aに先ずオイルを充分に供給することができ、そして開口端部47aが開口することで、空気も充分に供給できる。
【0045】
また直通通路47に、動弁室30からクランク室5a側への流れを許容し、クランク室5aから動弁室30側への流れを規制する一方向弁48を設けるのがよい。このようにすることで、クランク室5aから動弁室30へオイルやオイルミストが逆流することを確実に防止することができる。
【0046】
動弁室30の略中央部にはブリーザ通路36の一端部が開口し、ブリーザ通路36の他端部がエアクリーナ63に接続されている。ブリーザ通路36は、ブローバイガスを燃焼室へ排出することを目的として設けられている。動弁室30内のオイルミストやブローバイガスは、ブリーザ通路36を介してエアクリーナ63に送られ、エアクリーナ63に設けられたオイルセパレータ63aによりオイルとブローバイガスに気液分離される。ブリーザ通路36の一端部は、動弁室30の略中央部に開口するので、動弁室30にオイルが多く滞留しても、容易にそのオイルを吸い込むことはない。このブリーザ通路36には一方向弁36bが設けられ、この一方向弁36bによりエアクリーナ63から動弁室30側へのブローバイガスやオイルミストの逆流を防止している。
【0047】
気液分離されたオイルは、エアクリーナ63とクランク室5aを連通する環流通路65を通ってクランク室5aに送られる。環流通路65にはクランク室側への流れのみを許容する一方向弁65aが設けられている。一方、気液分離されたブローバイガスは、吸気とともに燃焼室に送られる。
【0048】
バルブ駆動室52の油溜室側の底部と直通通路47との間には、バルブ駆動室52内のオイルをクランク室5a内に戻すための戻し通路66が設けられている。戻し通路66と直通通路47は、一方向弁48と動弁室30の間に接続される。クランク室5aの負圧時には、戻し通路66を介してバルブ駆動室52に溜まるオイルが吸引される。この戻し通路66は、一方向弁48を介してクランク室5aと接続するので、クランク室5aからバルブ駆動室52へオイルが逆流することは殆どない。
【0049】
このように戻し通路66と直通通路47とを連通するように設けることにより、供給通路51から動弁室30に必要以上にオイルが供給されることはない。
【0050】
またバルブ駆動室52と送油通路54との間には、流量調整通路67が設けられている。流量調整通路67がバルブ駆動室52内の空気を吸い込むことで、送油通路54を介してクランク室5aに供給されるオイルの流量が調整される。この空気の吸い込み量が多ければ、送油通路54を介して供給されるオイルの流量は減少する。流量調整通路67は、バルブ駆動室52の底部から離し、バルブ駆動室52に滞留するオイルを吸い込みにくい位置に設けるのが良い。このようにすることで、流量調整通路67は、バルブ駆動室52で戻し通路66よりも動弁室30側に接続されているので、オイルを吸い込むこともない。
【0051】
流量調整通路67の送油通路54への接続位置は、送油通路54に設けられた一方向弁57よりも油溜室側に位置している。このため、一方向弁57によりオイルの供給を遮断すると、一方向弁57よりも油溜室側の送油通路54内にはオイルが溜まり、流量調整通路67と送油通路54の接続部位にはオイルが溜まった状態になる。このため、流量調整通路67から送油通路54が空気を吸い込むタイミングで、空気だけが送油通路54を流れることはなく、バルブ駆動室52から送り込まれた空気とともに送油通路54内のオイルがクランク室5aに送られる。
【0052】
この流量調整通路67には、バルブ駆動室52から送油通路54に送られる空気の流量を調整する流量絞り68が設けられている。流量絞り68を調整してバルブ駆動室52から吸い込まれる空気の量を調整することで、送油通路54を介してクランク室5aに供給されるオイルの流量を調整することができる。つまり、流量調整通路67の内径を気にせず、流量絞り68の設計のみで容易にオイルの流量調整ができる。
【0053】
なお、流量絞り68は、流量調整通路67と別体に設ける必要はなく、流量調整通路67の一部として構成されてもよい。例えば、シリンダブロック3とクランクケース5のシール面に沿って流量調整通路67の一部を形成し、シール面で送油通路54と接続すると、流量絞り68を容易に構成することができる。
【0054】
つまり、潤滑装置の循環経路は、送油通路54、連通路59、供給通路51、吸引管46、小孔44、連結通路45、直通通路47、ブリーザ通路36、環流通路65、戻し通路66、流量調整通路67を有して構成されている。
【0055】
エンジン1が始動されると、ピストン13の昇降運動によりクランク室5aに圧力変化が生じ、ピストン13の上昇時にはクランク室5aが減圧されて負圧化傾向となり、ピストン13の下降時にはクランク室5aが昇圧されて正圧化傾向となる。
【0056】
クランク室5aが負圧化傾向となり、ピストン13の上死点近傍への移動に伴い送油通路54の開口端部54aが開き始め、クランク室5aと油溜室7が連通すると、送油通路54にクランク室5a内の負圧が作用する。エンジン1が傾いても送油通路54の吸入部55は、油溜室7のオイルAの油面下に没した状態にあり、油溜室7からオイルAが吸い込まれてクランク室5a内に送られる。開口端部54aは、これが全開となった時点で直通通路47の開口端部47aがまだ閉じた状態にあるので(図2参照)、クランク室5a内の負圧を充分に送油通路54に作用させることができる。そのため、油面下より汲み上げられるオイルAをクランク室5a内に充分に供給することができる。
【0057】
クランク室5a内に送られたオイルは、ピストン13,クランクシャフトなどの駆動部品を潤滑し、同時にそれらの駆動部品により飛散されてオイルミストになる。オイルミストの一部はクランク室5aの壁面に付着して再度液化される。
【0058】
図1に示すように、ピストン13が上死点近傍から上死点側にさらに移動すると、直通通路47の開口端部47aも開口し、クランク室5a内の負圧が直通通路47に作用させることができる。そして、直通通路47を介して充分な空気をクランク室5aへ供給し、オイルミストを生成できる。また、動弁室30内にオイルが多く滞留してもクランク室5aに戻すことができる。
【0059】
ピストン13が上死点から下降するときには、クランク室5aが正圧に変わり、リード弁60は開放されて、クランク室5aと油溜室7は連通する。そして、クランク室5a内で昇圧されたオイルミスト及びオイルが連通路59を通って油溜室7に送られ、油溜室7内の圧力が高まる。連通路59から吐出するオイルミストは液化部40によって液化されてオイルとなり、油溜室7に貯留される。油溜室7内に残ったオイルミストの濃度は、クランク室5a内での濃度よりも低くなる。なお、クランク室5aが正圧になると、一方向弁47a、57の作用によってクランク室5aから動弁室30及び油溜室7へのオイルが逆流しないよう直通通路47、送油通路54を遮断し、次いで開口端部47a、54aがピストン13により閉じられる。
【0060】
油溜室7内の圧力が高まることで、油溜室7内と動弁室30の間に圧力勾配ができ、油溜室7内に溜まるオイルミストは、供給通路51を介して動弁室30に送られる。油溜室7から動弁室30にオイルミストを送る過程で、供給通路51に設けられたバルブ駆動室52内の動弁機構20の各部品は潤滑される。この際オイルミストの一部は液化する。
【0061】
バルブ駆動室52で液化されてなったオイルは、戻し通路66、直通通路47を介してクランク室5aに送ることができる。このため、バルブ駆動室52でオイルが過度に滞留することを抑止でき、動弁室30にオイルが流出することを抑止できる。またオイルが供給通路51を塞ぐ事を防止できる。
【0062】
動弁室30に供給されたオイルミストは、動弁室30内に設けられた動弁機構を潤滑し、直通通路47を介してクランク室5aに送られる。また動弁室30内に供給されたオイルミストが液化して滞留してもクランク室5a内の強い負圧が作用して、クランク室5a内にオイルを送ることができ、動弁室30でオイルが滞留することを抑止できる。
【0063】
従って、動弁室30からブリーザ通路36を介してブローバイガスを排出する際のオイルの放出を抑えることができる。
【0064】
このように、本願発明の4サイクルエンジン1の潤滑装置は、油溜室7にオイルAが規定量の範囲で貯留された状態で、油溜室7が傾いてオイルAの油面の位置が変化しても、オイルAの油面下に位置する吸入部55bから油溜室7内のオイルAを吸い上げてクランク室5aに送る送油通路54を有し、送油通路54のクランク室内に開口する開口端部54aは、ピストン13が上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストン13の移動に伴って開口する位置に設けられているので、油溜室7が傾いても送油通54路を介して油溜室7から吸い込んだオイルAをクランク室5a内に充分に送ることができ、クランク軸周りの潤滑不良を防止することができる。
【0065】
また、一端側が動弁室30の内部に間隔をあけて複数開口し、他端側がクランク室5aに開口し、クランク室5aの負圧時に動弁室30とクランク室5aとを連通する直通通路47を設け、直通通路47のクランク室5a内に開口する開口端部47aが、ピストン13が上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間にピストン13の移動に伴って開口する位置に設けることにより、ピストン13が上死点近傍位置から上死点に向かって移動すると、クランク室5a内の負圧を効果的に直通通路47に作用させることができ、動弁室5a内に溜まるオイルを確実に吸引してクランク室5aに戻し、動弁室30内のオイルの滞留を抑止することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 4サイクルエンジン
5a クランク室
7 油溜室
13 ピストン
30 動弁室
45 連結通路(直通通路)
46 吸引管(直通通路)
47 直通通路
47a、51a、54a、59b 開口端部
51 供給通路
52 バルブ駆動室
54 送油通路
55 吸入部
59 連通路
66 戻し通路
A 潤滑オイル(オイル)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの往復動によるクランク室内の圧力変動を利用して、前記クランク室と別に設けられた油溜室に貯留するオイルを、前記クランク室及び吸・排気の各バルブ機構を収納した動弁室に供給して各部の潤滑を行いながらオイルを循環させるとともに、前記オイルの循環経路中に含まれるブローバイガスを前記動弁室から燃焼室に排出する4サイクルエンジンの潤滑装置であって、
前記油溜室にオイルが規定量の範囲で貯留された状態で、前記油溜室が傾いて前記オイルの油面の位置が変化しても、前記オイルの油面下に位置する吸入部を有し、前記クランク室内の負圧時に前記油溜室と前記クランク室とを連通して前記油溜室内のオイルを前記吸入部から吸い上げて前記クランク室に送る送油通路が設けられ、
前記送油通路の前記クランク室内に開口する開口端部は、前記ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間に前記ピストンの移動に伴って開口する位置に設けられ、
一端側が前記動弁室の内部に間隔をあけて複数開口し、他端側が前記クランク室に開口し、前記クランク室の負圧時に前記動弁室と該クランク室とを連通する直通通路が設けられ、
前記直通通路の前記クランク室内に開口する開口端部は、前記ピストンが上死点近傍位置から上死点に向かって移動する間に前記ピストンの移動に伴って開口する位置に設けられ、
前記クランク室が負圧になると、前記動弁室内のオイルが前記直通通路を介して前記クランク室内に送られることを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項2】
前記クランク室内の正圧時に前記クランク室と前記油溜室とを連通して、前記クランク室内で生成されるオイルミストを前記油溜室に送る連通路が設けられ、
前記油溜室から前記動弁室にオイルミストを供給する供給通路が設けられ、
前記供給通路には、前記バルブ機構の駆動部品を収容するバルブ駆動室が設けられ、
前記バルブ駆動室の前記油溜室側底部と前記直通通路との間に、前記バルブ駆動室内のオイルを前記クランク室に戻すための戻し通路が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項3】
前記送油通路の前記クランク室側に開口する開口端部は、前記直通通路の前記クランク室側の開口端部が開口する前に開口する位置に設けられていること を特徴とする請求項1又は2に記載の4サイクルエンジンの潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−74833(P2011−74833A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227135(P2009−227135)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000137292)株式会社マキタ (1,210)
【Fターム(参考)】