説明

III族窒化物半導体基板およびIII族窒化物半導体基板の製造方法

【課題】III族窒化物半導体で構成される基板を生産する際の歩留まりを改善することを課題とする。
【解決手段】基板の表面から裏面まで貫通する貫通孔20を有するIII族窒化物半導体(AlGa1−x−yInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1))で構成される基板30と、貫通孔20の内部に充填され、貫通孔20を塞ぐ、組成一様のIII族窒化物半導体で構成される充填材40と、を有するIII族窒化物半導体基板10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体基板およびIII族窒化物半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体(AlGa1−x−yInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1))で構成される基板およびその製造方法が多く研究されている。III族窒化物半導体で構成される自立基板の製造方法としては、サファイヤ基板等の異種基板上にIII族窒化物半導体層をエピタキシャル成長させた後、異種基板を取り除くことで、III族窒化物半導体で構成される基板(自立基板)を製造する手段などが知られている。
【0003】
ここで、III族窒化物半導体で構成される基板(自立基板)には、例えば異種基板上にエピタキシャル成長させる製造方法等に起因して、自立基板の表面から裏面まで貫通する貫通ピットおよび/または貫通クラックが形成されてしまう場合がある。このような貫通ピットおよび/または貫通クラックを有する自立基板の場合、自立基板上に滴下した液体(例:レジスト液)が貫通ピットおよび/または貫通クラックを介して漏れてしまったり、または、自立基板の真空吸着に不具合が生じたりする。このため、貫通ピットおよび/または貫通クラックを有する自立基板は、素子形成のために使用することができない。しかし、このような自立基板を使用せずに廃棄してしまうと、自立基板を生産する際の歩留まり(以下、「生産歩留まり」という)が低下してしまう。
【0004】
特許文献1には、上記問題を解決可能な手段として、貫通ピットおよび/または貫通クラック内にGaN多結晶を形成し、貫通ピットおよび/または貫通クラックを埋めて塞ぐ技術が開示されている。そして、貫通ピットおよび/または貫通クラック内にGaN多結晶を形成する手段としては、以下のような手段が記載されている。まず、顕微鏡を使用して貫通ピットおよび/または貫通クラックを有するGaN自立基板の表面を観察しながら、位置決め機構と特殊な吐出ノズルを備えた注入装置を用いて液体状態のガリウムを貫通ピットおよび/または貫通クラック内に注入する。その後、アンモニアガスを含む雰囲気中でGaN自立基板を300℃以上1200℃以下の温度で加熱する。当該処理により、貫通ピットおよび/または貫通クラック内に注入されたガリウムが窒化して、貫通ピットおよび/または貫通クラック内にGaN多結晶が形成されると記載されている。なお、貫通ピットおよび/または貫通クラック内に注入された液体状態のガリウムは、表面張力のため貫通ピットおよび/または貫通クラック内に留まると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−162855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、貫通ピットの径は「〜数百μm程度」であるため、特許文献1に記載の技術の場合、アンモニアガスが液体状態のGaに充分に供給されず、表面のみが窒化されると考えられる。すなわち、貫通ピットおよび/または貫通クラック内に埋められた充填材は、GaN多結晶とガリウムとが混在したものであると考えられる。
【0007】
このように、特許文献1に記載の技術の場合、貫通ピットおよび/または貫通クラックをGaN多結晶とガリウムとが混在した充填材で埋めることで上記問題(液漏れ、真空吸着の不具合)は解決しているが、貫通ピットおよび/または貫通クラック内に金属が残存することで、新たに金属汚染の問題が発生している。また、充填材が、GaN多結晶とガリウムとが混在したもの、すなわち、線膨張係数が異なるものが混在したものとなっているので、加熱処理中に充填材が剥がれ落ちる恐れがある。さらに、ガリウムが混在することで機械強度が劣るという不都合が生じ得る。このような新たな問題が発生する特許文献1に記載の技術の場合、依然、自立基板の生産歩留まりは改善されていない。
【0008】
本発明では、III族窒化物半導体で構成される基板の生産歩留まりを改善することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、基板の表面から裏面まで貫通する貫通孔を有するIII族窒化物半導体(AlGa1−x−yInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1))で構成される基板と、前記貫通孔の内部に充填され、前記貫通孔を塞ぐ、組成一様のIII族窒化物半導体で構成される充填材と、を有するIII族窒化物半導体基板が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、基板の表面から裏面まで貫通する貫通孔を有するIII族窒化物半導体(AlGa1−x−yInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1))で構成される基板を準備する工程と、前記貫通孔の内部に、組成一様のIII族窒化物半導体で構成される充填材を埋設し、前記貫通孔を塞ぐ工程と、を有するIII族窒化物半導体基板の製造方法が提供される。
【0011】
本発明によれば、基板の表面から裏面まで貫通する貫通孔の内部に充填材を充填することで貫通孔を塞ぐので、貫通孔を介した液漏れや真空吸着の不具合を解消することができる。また、貫通孔内に充填する充填材は、組成一様のIII族窒化物半導体で構成されるので、金属汚染等の新たな問題が発生することはない。結果、III族窒化物半導体基板の生産歩留まりを改善することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、III族窒化物半導体で構成される基板の生産歩留まりを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態のIII族窒化物半導体基板の平面概略図の一例である。
【図2】本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法に用いる装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のIII族窒化物半導体基板の実施形態について図面を用いて説明する。
【0015】
図1に、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の平面概略図を示す。
【0016】
図示するように、本実施形態のIII族窒化物半導体基板10は、基板の表面から裏面まで貫通する貫通孔20を有するIII族窒化物半導体基板30と、貫通孔20の内部に充填され、貫通孔20を塞ぐ、組成一様のIII族窒化物半導体で構成される充填材40と、を有する。
【0017】
III族窒化物半導体基板30は、III族窒化物半導体(AlGa1−x−yInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1))で構成される基板である。III族窒化物半導体基板30の製造方法は特段制限されず、III族窒化物半導体で構成される自立基板を製造するあらゆる従来技術を利用することができる。このようなIII族窒化物半導体基板30には、表面から裏面まで貫通する貫通孔20が1つ以上形成されている。なお、III族窒化物半導体基板30の平面形状、大きさ等は設計的事項である。
【0018】
貫通孔20は、いわゆる貫通ピットおよび/または貫通クラックが該当する。なお、貫通孔20の数、大きさ、形状、位置等は図1に示すものに限定されない。
【0019】
充填材40は、組成一様のIII族窒化物半導体(AlGa1−x−yInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1))で構成される。そして、充填材40は、貫通孔20の内部に充填され、貫通孔20を塞ぐ。
【0020】
ここでの「組成一様」とは、1つの貫通孔20に埋められていた充填材を全て取り出し、SEM−EDXで観察した際、95%以上が1つの組成のIII族窒化物半導体で構成されていることをいう。
【0021】
また、「貫通孔20を塞ぐ」の意味について説明する。本実施形態では、半導体基板10上に滴下した液体(例:レジスト液)が貫通孔20を介して漏れてしまったり、または、III族窒化物半導体基板10を真空吸着する際に不具合が生じたりする不都合を抑制することを目的として、貫通孔20を塞ぐ。よって、「貫通孔20を塞ぐ」とは、半導体基板10上に滴下した液体が、貫通孔20を介して裏面に漏れるのを抑制できる構成であってもよい。具体的には、「貫通孔20を塞ぐ」とは、半導体基板10をスピンコータ(商品名:ミカサ1H−DX2)にて100Pa以下で真空吸着後、半導体基板10上にレジスト液(商品名:東京応化PMER P−HM1300PM)を滴下し、当該滴下から120秒経過後、半導体基板10の裏面を観察した際、貫通孔20を介してレジスト液が裏面に到達していない状態にすることであってもよい。
【0022】
なお、充填材40は、貫通孔20を塞ぐように充填されていればよく、その他の充填の仕方は特段制限されない。例えば、充填材40は、貫通孔20の内部を完全に埋めるように充填されてもよいし、または、一部のみを埋めるように充填されてもよい。その他、充填材40は、貫通孔20の内部のみに存在するよう充填されてもよいし、または、貫通孔20の内部と外部に跨るように充填されてもよい。例えば、充填材40は、III族窒化物半導体基板30の第1の面全面または一部に形成されたIII族窒化物半導体で構成された層と、この層と一体に形成され、貫通孔20の内部に充填された部分と、を含んで構成されてもよい。この例の場合、上記第1の面は、素子形成面とは反対側の面とするのが好ましい。
【0023】
このような充填材40は、III族窒化物半導体基板30を構成するIII族窒化物半導体と同じ組成のIII族窒化物半導体で構成されてもよい。このように構成すれば、充填材40とIII族窒化物半導体基板30との密着性が良好となるので、貫通孔20を塞ぐという観点で望ましい。
【0024】
また、充填材40は、多結晶のIII族窒化物半導体および単結晶のIII族窒化物半導体いずれで構成されてもよいが、多結晶のIII族窒化物半導体で構成されるのが望ましい。充填材40を多結晶のIII族窒化物半導体で構成すれば、単結晶のIII族窒化物半導体よりも多結晶のIII族窒化物半導体の方が形成し易いので、プロセス安定性に優れるほか、生産速度の点においても優れるので、低コスト化が実現できる。
【0025】
以上説明した本実施形態のIII族窒化物半導体基板10によれば、貫通孔20を充填材40で塞ぐことができるので、III族窒化物半導体基板10上に滴下した液体(例:レジスト液)が貫通孔20を介して漏れてしまったり、または、III族窒化物半導体基板10を真空吸着する際に不具合が生じたりする不都合を抑制することができる。
【0026】
また、本実施形態のIII族窒化物半導体基板10によれば、貫通孔20を塞ぐ充填材40が組成一様のIII族窒化物半導体で構成されているので、特許文献1に記載の技術のように、金属汚染等の新たな問題が発生することがない。
【0027】
すなわち、本実施形態のIII族窒化物半導体基板10によれば、III族窒化物半導体で構成される自立基板の生産歩留まりを改善することができる。
【0028】
また、充填材40を、貫通孔20の内部と外部(素子形成面と反対側の面)に跨るように充填した場合、貫通孔20の外部に位置する充填材40を除去する工程を設けなくて済むので、工程数を減らすことができ、作業効率が向上する。
【0029】
次に、本実施形態のIII族窒化物半導体基板10の製造方法の一例について説明する。
【0030】
本実施形態のIII族窒化物半導体基板10の製造方法は、
(1)基板の表面から裏面まで貫通する貫通孔20を有するIII族窒化物半導体基板30を準備する工程と、
(2)貫通孔20の内部に、組成一様のIII族窒化物半導体で構成される充填材40を埋設し、貫通孔20を塞ぐ工程と、
を有する。
【0031】
なお、上記(2)の工程は、以下で説明する第1工程を有してもよい。また、上記(2)の工程は、第1工程に加えて、以下で説明する前処理工程を有してもよい。さらに、上記(2)の工程は、第1工程に加えて、または、第1工程および前処理工程に加えて、以下で説明する第2工程を有してもよい。以下、第1工程、前処理工程、および、第2工程について説明する。
【0032】
第1工程は、III族窒化物半導体基板30の第1の面上に、組成一様のIII族窒化物半導体の層を形成することで、貫通孔20内の少なくとも一部を埋設し、貫通孔20を塞ぐ工程である。
【0033】
III族窒化物半導体基板30の第1の面は、素子形成面とは反対側の面とすることができる。第1の面上にIII族窒化物半導体の層を形成する手段としては、気相エピタキシャル成長法、ナトリウムフラックス液相成長法、アモノサーマル成長法、スパッタ法、分子線エピタキシャル成長法、MOVPE法などを利用することができる。このような手段を用いて第1の面上にIII族窒化物半導体の層を形成すると、貫通孔20内の少なくとも一部を埋設し、貫通孔20を塞ぐ充填材40を形成することができる。
【0034】
ここで、上記手段により、貫通孔20内の少なくとも一部を埋設し、貫通孔20を塞ぐ充填材40が形成されるメカニズムは明らかでない。しかし、本実施形態においては、上記手段により、貫通孔20内の少なくとも一部を埋設し、貫通孔20を塞ぐ充填材40が形成される点が重要であり、そのメカニズムは問題とならない。そして、本発明者は、上記手段により、貫通孔20内の少なくとも一部を埋設し、貫通孔20を塞ぐ充填材40が形成されることを確認している。
【0035】
なお、第1の面上にIII族窒化物半導体の層を形成する処理は、400℃以上800℃以下の温度条件で行われてもよい。本発明者は、このような温度条件でIII族窒化物半導体の層を形成した場合、多結晶のIII族窒化物半導体の層が形成されやすくなるが、III族窒化物半導体の層の形成速度が速くなることを確認している。すなわち、当該手段を用いることで、III族窒化物半導体基板10の生産効率が向上する。
【0036】
前処理工程は、上記第1工程の前に、III族窒化物半導体基板30の上記第1の面に対して、算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上となるよう表面処理を行う工程である。
【0037】
前処理工程を有する場合、第1工程では、算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上である第1の面上に、III族窒化物半導体の層を形成することとなる。かかる場合、多結晶のIII族窒化物半導体の層が形成されやすくなるが、III族窒化物半導体の層の形成速度が速くなり、生産効率が向上する。そして、本発明者は、このような手段により第1の面上にIII族窒化物半導体の層を形成した場合においても、貫通孔20内の少なくとも一部を埋設し、貫通孔20を塞ぐ充填材40が形成されることを確認している。
【0038】
なお、算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上となるような表面処理の具体的手段としては、例えば、ダイヤモンドやアルミナ、SiC等を用いたラップ研磨や、シリカ等を用いたCMP、または、スライス、サンドブラスト、研削、エッチング等を採用することができる。
【0039】
第2工程は、第1工程の後に、貫通孔20内のIII族窒化物半導体を残し、III族窒化物半導体30の第1の面上に形成されたIII族窒化物半導体の層を除去する工程である。
【0040】
第2工程の具体的手段は特段制限されないが、例えば、ダイヤモンドスラリーを用いたラッピングにより、III族窒化物半導体30の第1の面上に形成されたIII族窒化物半導体の層を除去してもよい。
【0041】
以上説明した本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法によれば、貫通孔20を充填材40で塞ぐことができるので、III族窒化物半導体基板10上に滴下した液体(例:レジスト液)が貫通孔20を介して漏れてしまったり、または、III族窒化物半導体基板10を真空吸着する際に不具合が生じたりする不都合を抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法によれば、貫通孔20を塞ぐ充填材40が組成一様のIII族窒化物半導体で構成されているので、特許文献1に記載の技術のように、金属汚染等の新たな問題が発生することがない。
【0043】
すなわち、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法によれば、III族窒化物半導体で構成される自立基板の生産歩留まりを改善することができる。
【0044】
また、特許文献1に記載の技術の場合、顕微鏡を使用して貫通ピットおよび/または貫通クラックを有するGaN自立基板の表面を観察しながら液体状態のガリウムを貫通ピットおよび/または貫通クラック内に注入する必要があるため非常に手間である。これに対し、本実施形態のIII族窒化物半導体基板の製造方法は、特許文献1に記載の技術のように、顕微鏡を使用して貫通ピットおよび/または貫通クラックを有するGaN自立基板の表面を観察しながら液体状態のガリウムを貫通ピットおよび/または貫通クラック内に注入する等の作業を行う必要がないため、作業性に優れる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施例に限定されない。
【0046】
<実施例1>
本実施例では、図2に示した構造の装置を用いたHVPE法により、GaN基板に形成された貫通ピットの穴埋めを行った。
【0047】
<GaN基板>
直径5μm以上2mm以下の貫通ピットが形成されているGaN基板を準備した。GaN基板は、直径2インチの円形で、(0001)Ga面および(000−1)N面を有する。
【0048】
<前処理>
上記GaN基板を研磨した。具体的には、まず、セラミック円盤上にワックスを用いてGaN基板を接着保持した。また、片面ラッピング装置に鋳物定盤を取り付け、粒径10μm以上20μm以下のダイヤモンドスラリーを滴下した。
【0049】
次いで、セラミック円盤上に保持したGaN基板を鋳物定盤上に装填した後、セラミック円盤上へ所定の錘を乗せ、面圧を100g/cmに調整した。そして、鋳物定盤を20rpmにて回転させ、1時間研磨を行った。当該処理をGa面およびN面両方に行い、算術平均粗さRa=0.1μm程度の研磨面を得た。
【0050】
<充填材の形成>
次に、高純度ガリウムをHVPE装置の石英製Gaソースボートの中に充填し、Gaソースボートを石英製リアクター内の所定位置に配置した。なお、以下の説明において、ガスの供給量の単位としては、標準状態に換算した単位である「sccm」を使用する。
【0051】
次に、上記前処理後のGaN基板をHVPE装置のホルダー上に配置し、回転させた。そして、Nガスをリアクター内に供給してリアクター内の空気を置換した後、Nガスの供給を止め、Hガスに切り替え、Hガスを10000sccmでリアクター内に供給した。そして、ヒータによってリアクターを加熱した。ここでの加熱方法は、リアクターの外壁をヒータにより加熱するいわゆるホットウォール法を利用した。
【0052】
次に、GaN基板が熱により分解しないよう、リアクター温度が400℃以上になったら、リアクター内にNHを2000sccmで供給した。そして、成長部リアクターの温度が1050℃、Gaソースボートの温度が800℃に達した後、Gaソースボート上に200sccmでHClガスを供給することでGaClを生成し、これをGaN基板上のGa面に供給して、気相成長を開始した。
【0053】
そして、気相成長から1時間後、Gaボートに供給していたHClを停止することで、気相成長を停止させた。また、ヒータを停止し、リアクター内を室温まで冷却した。この時、GaNの分解を抑制するため、成長部リアクター温度が400℃以下になるまで、2000sccmでGaN基板上にNHを供給した。
【0054】
そして、リアクター温度が100℃以下になると、Hガスの供給を止めるとともに、Nガスをリアクター内に供給して、リアクター内のHガスをNガスで置換した。この時、Nガスを10000sccmで供給した。
【0055】
置換完了後、GaN基板を取り出して観察すると、貫通ピット内に組成一様の多結晶GaNが充填され、貫通ピットが塞がれていた。
【0056】
<後処理>
次いで、上記貫通ピットが塞がれたGaN基板を研磨した。具体的には、まず、セラミック円盤上にワックスを用いてGaN基板を接着保持した。また、片面ラッピング装置に鋳物定盤を取り付け、粒径1μm以上2μm以下のダイヤモンドスラリーを滴下した。
【0057】
次いで、セラミック円盤上に保持したGaN基板を鋳物定盤上に装填した後、セラミック円盤上へ所定の錘を乗せ、面圧を200g/cmに調整した。そして、鋳物定盤を100rpmにて回転させ、1時間研磨を行った。当該処理をGa面およびN面両方に行い、Ra=0.5nm程度の研磨面を得た。
【0058】
上記処理後、GaN基板を観察すると、貫通ピット内に組成一様の多結晶GaNが充填され、貫通ピットが塞がれていた。
【0059】
<実施例2>
本実施例では、実施例1の「充填材の形成」工程における、「成長部リアクターの温度が1050℃、Gaソースボートの温度が800℃に達した後、Gaソースボート上に200sccmでHClガスを供給することでGaClを生成し、これをGaN基板上のGa面に供給して、気相成長を開始した。」処理を、「成長部リアクターの温度が800℃、Gaソースボートの温度が800℃に達した後、Gaソースボート上に200sccmでHClガスを供給することでGaClを生成し、これをGaN基板上のGa面に供給して、気相成長を開始した。」処理に変更した点以外は、実施例1と同様にした。
【0060】
本実施例においても、「充填材の形成」工程の後、GaN基板を観察すると、貫通ピット内に組成一様の多結晶GaNが充填され、貫通ピットが塞がれていた。
【0061】
また、「後処理」工程後、GaN基板を観察すると、貫通ピット内に組成一様の多結晶GaNが充填され、貫通ピットが塞がれていた。
【0062】
<実施例3>
本実施例では、実施例1の「充填材の形成」工程における、「Hガスを10000sccmでリアクター内に供給しながら、ヒータによってリアクターを加熱し、リアクター温度が400℃以上になったら、リアクター内にNHを2000sccmで供給した。そして、成長部リアクターの温度が1050℃、Gaソースボートの温度が800℃に達した後、Gaソースボート上に200sccmでHClガスを供給することでGaClを生成し、これをGaN基板上のGa面に供給して、気相成長を開始した。」処理を、「Hガスを10000sccmでリアクター内に供給しながら、ヒータによってリアクターを加熱し、リアクター温度が400℃以上になったら、リアクター内にNHを10000sccmで供給した。そして、成長部リアクターの温度が1050℃、Gaソースボートの温度が800℃に達した後、Gaソースボート上に1500sccmでHClガスを供給することでGaClを生成し、これをGaN基板上のGa面に供給して、気相成長を開始した。」処理に変更した点以外は、実施例1と同様にした。
【0063】
本実施例においても、「充填材の形成」工程の後、GaN基板を観察すると、貫通ピット内に組成一様の多結晶GaNが充填され、貫通ピットが塞がれていた。
【0064】
また、「後処理」工程後、GaN基板を観察すると、貫通ピット内に組成一様の多結晶GaNが充填され、貫通ピットが塞がれていた。
【0065】
上記実施例により、本発明によれば、GaN基板に形成された貫通ピットを、金属汚染等の新たな問題が発生することなく、多結晶GaNで構成された充填材で塞ぐことが可能であることが示された。
【0066】
すなわち、本発明によれば、III族窒化物半導体で構成される自立基板の生産歩留まりを改善することができる。
【0067】
ここで、上記実施例ではGa面にGaNを気相成長させたが、N面にGaNを気相成長させることも可能である。しかし、Ga面にGaNを気相成長させた方が、貫通ピット内にGaNが充填されやすいことを本発明者は確認している。
【0068】
なお、本発明者は、GaN基板に形成された貫通ピットの他、貫通クラックについても同様の作用効果が得られることを確認している。また、GaN基板以外のIII族窒化物半導体基板に形成された貫通ピットおよび貫通クラックについても、同様の作用効果が得られることを確認している。さらに、HVPE法の他、上述の他の手段を用いて、III族窒化物半導体の層を形成した場合においても、同様の作用効果が得られることを確認している。
【符号の説明】
【0069】
10 III族窒化物半導体基板
20 貫通孔
30 III族窒化物半導体基板
40 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面から裏面まで貫通する貫通孔を有するIII族窒化物半導体(AlGa1−x−yInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1))で構成される基板と、
前記貫通孔の内部に充填され、前記貫通孔を塞ぐ、組成一様のIII族窒化物半導体で構成される充填材と、
を有するIII族窒化物半導体基板。
【請求項2】
請求項1に記載のIII族窒化物半導体基板において、
前記充填材は、多結晶のIII族窒化物半導体で構成されるIII族窒化物半導体基板。
【請求項3】
基板の表面から裏面まで貫通する貫通孔を有するIII族窒化物半導体(AlGa1−x−yInN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1))で構成される基板を準備する工程と、
前記貫通孔の内部に、組成一様のIII族窒化物半導体で構成される充填材を埋設し、前記貫通孔を塞ぐ工程と、
を有するIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法において、
前記貫通孔を塞ぐ工程は、
前記III族窒化物半導体で構成される基板の第1の面上に、組成一様のIII族窒化物半導体の層を形成することで、前記貫通孔内の少なくとも一部を埋設し、前記貫通孔を塞ぐ第1工程を有するIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法において、
前記貫通孔を塞ぐ工程は、
前記第1工程の前に、前記第1の面に対して、算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以上となるよう表面処理を行う前処理工程、をさらに有するIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法において、
前記第1工程では、400℃以上800℃以下の温度条件でIII族窒化物半導体の層を形成するIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法において、
前記貫通孔を塞ぐ工程は、
前記第1工程の後に、前記貫通孔内の前記III族窒化物半導体を残し、前記第1の面上に形成されたIII族窒化物半導体の層を除去する第2工程をさらに有するIII族窒化物半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−56800(P2012−56800A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202300(P2010−202300)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】