説明

MEMSセンサ

【課題】 SOI層のシリコンウエハで形成された枠体部と対向基板とが金属結合部を介して固定されたMEMSセンサにおいて、金属結合部を覆う保護絶縁層を欠陥無く形成できるようにしたMEMSセンサを提供する。
【解決手段】 対向絶縁層22に第1の金属層31aが形成され、機能層のシリコンウエハから分離された枠体部14に第2の金属層32aが形成され、第1の金属層31aと第2の金属層32aとが共晶接合または拡散接合で結合されている。第1の金属層31aのはみ出し部31cと対向する部分で、枠体部14に凹部18が形成され、はみ出し部31cと凹部18の底表面18bとの間に空隙部19aが形成される。CVD法などで成膜される保護絶縁層41が空隙部19aを経て金属結合部30aの外側部に欠陥なく成膜されるようになり、第1の金属層31aまたは第2の金属層32aの腐食を防止しやすくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン(Silicon)層を微細加工して形成されたMEMSセンサに係り、特に、動作領域が金属結合部で囲まれて封止されているMEMSセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
以下の特許文献1に記載されているMEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)センサは、2つのシリコンウエハが、SiO2層の絶縁層(Insulator)を挟んで一体に接合されたSOI層を加工して形成されている。
【0003】
SOI層の一方のシリコンウエハが主基板となり、他方のシリコンウエハが機能層となる。機能層が微細加工されて、可動部とこの可動部を支持する支持部とが形成され、さらに機能層の一部によって可動部と支持部とを有する動作領域を囲む枠体部が形成されている。また、シリコンウエハで形成された対向基板が、機能層に重ねられ、前記枠体部と対向基板とが接合されて、前記動作領域が外部領域から区画されて密閉されている。
【0004】
以下の特許文献1に記載された発明は、対向基板の表側に現れている絶縁層の表面にアルミニウム層が形成され、枠体部の表面にゲルマニウム層が形成され、アルミニウム層とゲルマニウム層とが加熱されて加圧されて共晶接合または拡散接合により結合されて金属結合部が形成されている。この金属結合部を用いると、加熱および加圧という簡単な作業で、対向基板と枠体部とを接合して動作領域を密閉できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−98281号公報
【特許文献2】特開平6−289049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、共晶接合または拡散接合で金属結合部を形成するのに適した金属は耐蝕性に劣るものが多く、例えば、アルミニウムは酸化しやすく、ゲルマニウムは水分と反応しやすい。したがって、MEMSセンサの使用環境が悪いと、金属結合部が腐食して欠損し、動作領域の封止が不十分になるという課題が生じる。
【0007】
そこで、特許文献2に記載されているように、機能層と対向基板の接合部の周囲にパッシベーション層すなわち保護絶縁層を形成することで、金属結合部の腐食を防止し、または腐食を遅らせることが可能である。
【0008】
しかし、特許文献1に記載のように、機能層の枠体部と対向基板との対向部に金属結合部を形成する場合に、加熱および加圧処理の際にアルミニウム層が金属結合部の外側に流失し、アルミニウム層とこれと対向する枠体部との隙間が極端に狭くなり、あるいはアルミニウム層と枠体部とが接触することがある。この場合に、金属結合層の外側で且つ枠体部と対向基板との対向部の隙間内にパッシベーション層を連続して形成するのが困難になるという新たな課題が発見された。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、動作空間を囲む枠体部と対向基板とを結合する金属結合部の腐食を防止しやすい構造のMEMSセンサを提供することを目的としている。
【0010】
また本発明は、金属結合部の外側において枠体部と対向基板とが対向する隙間内に保護絶縁層を成膜しやすくして、金属結合部の腐食を防止しやすくしたMEMSセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、主基板と、対向基板と、前記主基板と前記対向基板との間に位置する機能層とを有するMEMSセンサにおいて、
前記機能層によって、可動部と、前記可動部を支持する支持部と、前記可動部および前記支持部が位置する動作領域と外部領域とを区画する枠体部とが形成され、前記枠体部と前記主基板とが、前記動作領域の全周を囲む絶縁層を介して接合され、前記枠体部と前記対向基板とが、前記動作領域の全周を囲む金属結合部を介して接合されており、
前記金属結合部では、前記枠体部の対向面と前記対向基板の対向面の一方に第1の金属層が他方に第2の金属層が形成され、前記第1の金属層は前記第2の金属層よりも加熱時の粘度が低く、前記第1の金属層と前記第2の金属層とが加熱され加圧されて互いに接合されており、
前記枠体部または前記対向基板のうちの前記第1の金属層に対向する対向面に、前記第1の金属層から離れる凹部が形成され、前記外部領域では、前記凹部の表面から前記第1の金属層の表面にわたって連続する保護絶縁層が形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明は、金属結合部からはみ出した第1の金属層に対向する部分で、枠体部または対向基板に凹部を形成している。よって、金属結合部に隣接する外部領域において、第1の金属層のはみ出し部と枠体部または対向基板の隙間を広げることができる。そのため、枠体部と対向基板とが対向する隙間内に保護絶縁層を途切れることなく形成しやすくなる。保護絶縁層を途切れることなく形成することで、金属結合部の腐食を防止しやすくなる。
【0013】
または、本発明は、前記外部領域では、前記凹部の表面から前記第1の金属層および前記第2の金属層の表面にわたって連続する保護絶縁層が形成されているものであってもよい。
【0014】
本発明は、前記保護絶縁層は、CVD法で形成される無機絶縁層である。
CVD法で無機絶縁層を形成すると、金属結合部に隣接する外部領域において、枠体部と対向基板との隙間内に連続する保護絶縁層を形成しやすくなる。
【0015】
本発明は、前記第1の金属層は、加熱され加圧されたときに、前記金属結合部から前記外部領域へはみ出し、前記第1の金属層のはみ出した部分の厚さ寸法が、前記金属結合部の厚さ寸法よりも大きく、前記第1の金属層のはみ出した部分の表面に前記凹部が対向しているものが好ましい。
【0016】
さらに本発明は、前記第1の金属層のはみ出した部分の表面と、前記凹部の底表面との間に隙間が形成されており、この隙間内に前記無機絶縁層が入り込んでいるものが好ましい。
【0017】
本発明では、前記凹部の前記金属結合部側の内端である段差部は、その表面が前記凹部の底表面と垂直に延びているものが好ましい。
【0018】
上記構成では、第1の金属層のはみ出した部分と凹部との間の隙間の内容積を、金属接合部に隣接する奥部まで広く形成でき、無機絶縁層を第1の金属層と第2の金属層とが接合されている領域を十分に覆えるように形成できる。
【0019】
本発明は、前記第1の金属層が形成されている前記対向面において前記第1の金属層が付着している付着領域が、前記第1の金属層と前記第2の金属層との結合部よりも、前記外部領域に向けて延び出ているものとして構成できる。
【0020】
例えば、前記第1の金属層が形成されている前記対向面には、前記第2の金属層と対向する接合平面と、前記接合平面の前記外部領域側の端部において前記対向面を窪ませる段差部が形成されており、前記付着領域が、前記段差部よりも前記外部領域まで延び出ているものである。
【0021】
本発明は、前記第1の金属層と前記第2の金属層との結合部の幅寸法に対し、前記結合部からの前記付着領域の延び出る長さが、前記幅寸法の1/2以上であることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明は、前記付着領域が、前記第1の金属層と前記第2の金属層との結合部から前記動作領域と前記外部領域の双方へはみ出ており、そのはみ出し量が、前記動作領域よりも前記外部領域の方が広いものとして構成できる。
【0023】
上記のように、第1の金属層と対向面との付着領域を、前記第1の金属層と前記第2の金属層との結合部よりも外部領域に向けて大きく延ばすことにより、第1の金属層と第2の金属層が接合されるときの第1の金属層のはみ出し面積を増加させることができ、第1の金属層の外部領域へのはみ出し部の厚さ寸法を薄くできる。その結果、外部領域にはみ出している第1の金属層と、この第1の金属層と対向する対向面との間隔を広げることができ、前記保護絶縁層を、第1の金属層や第2の金属層を覆う状態に形成しやすくなる。
【0024】
なお、本明細書に記載の発明の範囲としては、前記第1の金属層が形成されている前記対向面において前記第1の金属層が付着している付着領域が、前記第1の金属層と前記第2の金属層との結合部よりも、前記外部領域に向けて延び出ているものであれば、前記凹部を形成しないものであっても含まれる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、動作領域を囲む枠体部と対向基板とを金属結合部を介して接合しているので加熱および加圧による比較的簡単な作業で動作領域を封止する金属結合部を形成することができる。そして、金属結合部よりも外側に保護絶縁膜が形成されているため、金属結合部の腐食を防止しやすくなる。
【0026】
本発明は、金属結合部からはみ出した第1の金属層との対向する対向面に凹部が形成されているため、第1の金属層とその対向面との隙間を広くでき、連続する保護絶縁層を金属結合部に達する位置まで形成しやすくなる。
【0027】
また、第1の金属層と対向面との付着領域を、金属結合部から外部領域に向けて大きく延ばすことによっても、第1の金属層とその対向面との隙間を広くでき、連続する保護絶縁層を金属結合部に達する位置まで形成しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態のMEMSセンサの全体構造を示す断面図、
【図2】(A)は図1のA部の拡大断面図、(B)は第1の実施の形態の変形例を示す拡大断面図、
【図3】第2の実施の形態におけるA部に相当する拡大断面図、
【図4】本発明の第3の実施の形態のMEMSセンサの一部を示す断面図、
【図5】図4のB部であって金属結合部が形成される前の状態を示す拡大断面図、
【図6】図4のB部であって金属結合部が形成された後の状態を示す拡大断面図、
【図7】比較例におけるA部に相当する拡大断面図、
【図8】図2に示す実施の形態に対応する実施例の断面写真、
【図9】図3に示す実施の形態に対応する実施例の断面写真、
【図10】図6に示す実施の形態に対応する実施例の断面写真、
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1に示すMEMSセンサは、主基板1と対向基板2の間に、機能層10が挟まれている。主基板1と機能層10の各部は、絶縁層3a,3bを介して接合されている。主基板1と機能層10および絶縁層3a,3bは、SOI(Silicon on Insulator)層を加工して形成されている。ここで使用するSOI層は、2つのシリコンウエハが、SiO2層である絶縁材料層(Insulator)を挟んで一体に接合されたものである。SOI層の一方のシリコンウエハが、主基板1として使用され、他方のシリコンウエハが機能層10として使用される。
【0030】
機能層10を構成するシリコンウエハが微細加工され、可動部11とこの可動部11を支持する支持部12と、可動部11と支持部12との間に位置して可動部11を図1の図示上下に移動自在に支持する弾性変形部13とが形成されている。さらに、機能層10を構成するシリコンウエハの一部で、前記可動部11および支持部12の周囲全周を囲む枠体部14が形成されている。
【0031】
機能層10を構成するシリコンウエハの微細加工の後に、前記SOI層のSiO2層である絶縁材料層が部分的に除去され、残った絶縁材料層によって、前記絶縁層3a,3bが形成される。
【0032】
絶縁層3bによって機能層10の支持部12が主基板1に固定されている。可動部11ならびに弾性変形部13と主基板1との間には絶縁層が存在しておらず、主基板1と対向基板2との間の動作領域15において、可動部11が図示上下方向へ移動自在である。
【0033】
可動部11と支持部12と弾性変形部13および枠体部14の加工は、高密度プラズマを使用した深堀RIEなどのイオンエッチング手段で、機能層10のシリコンウエハの一部を除去することで行われる。絶縁材料層の一部を除去して絶縁層3a,3bを形成する工程は、シリコンを溶解せずにSiO2層を溶解できる選択性の等方性エッチング処理により行われる。
【0034】
SOI層の一方のシリコンウエハで形成される主基板1は、厚さ寸法が0.2〜0.7mm程度であり、他方のシリコンウエハで形成される可動部11と支持部12と弾性変形部13ならびに枠体部14は、厚さ寸法が10〜30μm程度である。絶縁層3a,3bの厚さは1〜3μm程度である。
【0035】
対向基板2は、厚さ寸法が0.2〜0.7mm程度の単層のシリコンウエハ21と、シリコンウエハ21の表面に形成された対向絶縁層22とで構成されている。対向絶縁層22は、SiO2、Si34またはAl23などの無機絶縁層であり、スパッタ工程またはCVD工程で形成される。
【0036】
機能層10のシリコンウエハで形成された枠体部14と対向基板2は、封止用の金属結合部30aを介して固定されている。機能層10のシリコンウエハで形成された支持部12と対向基板2は、導通用の金属結合部30bを介して固定されている。
【0037】
封止用の金属結合部30aでは、対向基板2を構成している対向絶縁層22の表面に第1の金属層31aが形成され、枠体部14に第2の金属層32aが形成されている。導通用の金属結合部30bにおいても、対向絶縁層22の表面に第1の金属層31bが形成され、機能層10の支持部12に第2の金属層32bが形成されている。
【0038】
第1の金属層31a,31bと第2の金属層32a,32bは、加熱および加圧工程で、共晶接合または拡散接合される金属材料の組み合わせである。また、加熱処理されたときに、第1の金属層31a,31bが第2の金属層32a,32bよりも粘度が低くなる。例えば、第1の金属層31a,31bがアルミニウムあるいはアルミニウムを含む合金であり例えばアルミニウム−銅合金で形成され、第2の金属層32a,32bがゲルマニウムで形成されている。
【0039】
共晶接合または拡散接合が可能な他の金属材料の組み合わせは、第1の金属層31a,31bがアルミニウムまたはアルミニウムを含む合金であり、第2の金属層32a,32bが亜鉛である。その他、第1の金属層−第2の金属層の組み合わせは、金−シリコン、金−インジウム、金−ゲルマニウム、金−錫などである。上記金属の組み合わせでは、それぞれの金属の融点以下の温度である450℃以下の比較的低い温度で金属間の接合を行うことが可能になる。
【0040】
MEMSセンサの製造工程では、SOI層の機能層10を加工して、可動部11と支持部12および弾性変形部13を形成し、さらに枠体部14を形成する。さらにSOI層の中間層である絶縁材料層をエッチングして絶縁層3a,3bを形成する。一方、対向基板2は、シリコンウエハ21の表面に対向絶縁層22を成膜して、対向絶縁層22の表面の形状を図1に示すように加工する。
【0041】
対向基板2の対向絶縁層22の対向面に、第1の金属層31a,31bをスパッタ工程などで形成し、機能層10の支持部12および枠体部14の対向面に、第2の金属層32a,32bを形成する。図1に示すように、第1の金属層31a,31bと第2の金属層32a,32bとを接触させた状態で、450℃以下の比較的低い温度で加熱し加圧して、第1の金属層31a,31bと第2の金属層32a,32bを接合させ、金属結合部30a,30bを形成する。
【0042】
封止用の金属結合部30aは、動作領域15の全周を囲んで設けられる。接合後は、可動部11と支持部12を有する動作領域15と外部領域16とが、金属結合部30aで遮断されて動作領域15が密封される。前記接合工程を不活性ガスの雰囲気下で行えば、動作領域15に不活性ガスを充填することもできる。
【0043】
導通用の金属結合部30bでは、対向絶縁層22の内部に金属配線層35が形成され、金属配線層35が第1の金属層31bに導通している。したがって、シリコンで形成されている支持部12と可動部11は、金属結合部30bを介して金属配線層35と導通している。
【0044】
図1に示すように、対向絶縁層22の表面には、可動部11に対向する対向電極層36が設けられ、この対向電極層36は、対向絶縁層22の内部に引回された図示しない金属配線層と導通している。
【0045】
このMEMSセンサは、加速度センサとして使用することができる。MEMSセンサに対して図示上下のいずれかの向きの加速度が作用すると、その反作用により、動作領域15内で可動部11が加速度と逆の向きに移動する。その結果、可動部11と対向電極層36との距離が変化する。この距離の変化を静電容量の変化として検出すると、加速度の向きと大きさを検出することができる。その他、MEMSセンサは、圧力センサ、振動型ジャイロ、またはマイクロリレーなどとして使用することができる。
【0046】
図1は、MEMSセンサの全体構造を説明するための模式図であり、金属結合部30aの形状や寸法比などは、実際の製品を忠実に再現したものではない。一方、図8は、実際の製品における図1のA部に相当する部分の断面を映した電子顕微鏡写真であり、図2(A)は図8の写真に基づいて作図したA部の部分拡大断面図である。
【0047】
図1に示す第1の金属層31aと第2の金属層32aは、加熱および加圧工程に移行する前の状態を示している。すなわち図1は、共晶接合または拡散接合される前の第1の金属層31aと第2の金属層32aを示している。図2(A)は、加熱および加圧工程を経て、第1の金属層31aと第2の金属層32aとが共晶接合または拡散接合されて金属結合部30aが形成された後の状態を示している。
【0048】
図1と図2(A)に示すように、対向絶縁層22の表面(対向面)に接合平面22aが形成されている。接合平面22aの両側に段差部22b,22bが形成され、段差部22b,22bよりも動作領域15側と外部領域16側とで、対向絶縁層22の表面(対向面)が、接合平面22aよりも低く窪んでいる。加熱および加圧工程の前の段階では、接合平面22aに第1の金属層31aが一定の膜厚で成膜されている。図1に示すように、第1の金属層31aの幅寸法はW1である。
【0049】
図1に示すように、枠体部14の表面(対向面)に接合平面14aが形成され、接合平面14aの両側には、段差部14b,14bを介して接合平面14aよりも一段上側(対向絶縁層22から離れる側)に後退した後退平面14cが形成されている。加熱および加圧工程の前の段階では、第2の金属層32aが、接合平面14aからその両側の後退平面14c,14cにわたってほぼ一定の膜厚で成膜されている。このとき、第2の金属層32aと第1の金属層31aとが接触する部分の幅寸法がW2である。
【0050】
前記幅寸法W2は、第1の金属層31aの幅寸法W1よりも短い。その結果、機能層10と対向基板2とを重ねるときに、機能層10と対向基板2とが平面方向に位置ずれしても、第1の金属層31aと第2の金属層32aとが幅寸法W2の範囲で対向しやすくなる。すなわち、幅寸法W1と幅寸法W2は、加工公差や主基板1と対向基板2とを対面させるときの位置決め公差などを加味して、第1の金属層31aと第2の金属層32aとが幅寸法W2の範囲で対向できるように決められる。
【0051】
図1と図2(A)に示すように、対向絶縁層22の接合平面22aと枠体部14の接合平面14aとが対向している部分よりも外側の領域において、枠体部14の表面(対向面)に凹部18が形成されている。凹部18は、前記後退平面14cと連続する段差表面18aと、前記後退平面14cよりも一段上側(対向絶縁層22から離れる側)に後退する底表面18bとを有している。
【0052】
第1の金属層31aと第2の金属層32aとが合わせられ、加熱および加圧されて第1の金属層31aと第2の金属層32aとが共晶接合しまたは拡散接合して金属結合部30aが形成される。このときに、加熱時に粘度が低下した第1の金属層31aの一部が、金属結合部30aから外部領域16に向かってはみ出し、その後に硬化する。図2では、金属結合部30aから流出して硬化した第1の金属層31aのはみ出し部を符号31cで示している。
【0053】
図2(A)および図8に示すように、第1の金属層31aのはみ出し部31cの厚さ寸法は、金属結合部30aの厚さ寸法よりも大きい。はみ出し部31cは、枠体部14の接合平面14aよりも上方(対向絶縁層22から離れる方向)に突出し、さらに後退平面14cよりも上方に突出している。しかし、枠体部14には、はみ出し部31cに対向する凹部18が形成され、はみ出し部31cの頂部と凹部18の底表面18bとの間に空隙部19aが形成されやすくなっている。
【0054】
MEMSセンサは、第1の金属層31a,31bと第2の金属層32a,32bとを接合させた後に、その表面にパッシベーション層すなわち保護絶縁層41を付着させる。保護絶縁層41は、封止用の金属結合部30aを外部環境から保護するためのものであり、対向絶縁層22と枠体部14との対向部の内部に入り込んで金属結合部30aに付着させることができるようにCVD法によって成膜される無機絶縁層である。CVD法によって成膜可能な無機絶縁層は、Si34、SiO2、PSGなどである。
【0055】
図2(A)に示すように、第1の金属層31aのはみ出し部31cと凹部18の底表面18bとの間に空隙部19aが形成されているために、保護絶縁層41を、凹部18の底表面18bと段差表面18aおよび第2の金属層32aの表面から第1の金属層31aの表面まで途切れることなく連続して成膜することができる。第1の金属層31aと第2の金属層32aおよび両金属層が結合した金属結合部30aの側部が保護絶縁層41で覆われるので、両金属層が腐食しにくくなり、金属結合部30aによる封止機能を長期間維持できるようになる。
【0056】
図2(A)に示すように、凹部18の範囲は、対向絶縁層22の側端面22cから金属結合部30aの端部まで、すなわちほぼ段差部14bの下で第1の金属層31aと第2の金属層32aとの接合境界面の端部までである。対向絶縁層22の側端面22cから凹部18の内端部までの奥行き寸法Lは5〜50μmであり、凹部18の最大深さ寸法Dは0.5〜5μmである。奥行き寸法Lと深さ寸法Dが前記範囲であると、加熱および加圧工程で軟化した第1の金属層31aが、対向絶縁層22の側端面22cまで流れることがなく、しかも第1の金属層31aのはみ出し部31cと凹部18の底表面18bとの間に十分な広さの空隙部19aを形成して、保護絶縁層41を金属結合部30aの側端部まで成膜しやすくなる。
【0057】
図2(B)は、第1の実施の形態のMEMSセンサの変形例を示している。
図2(B)に示す変形例は、枠体部14において第2の金属層32aが形成されている接合平面14aの外部領域16側の段差部14bが、凹部18の底表面18bと垂直な面となっている。そのため、凹部18の内端部の空間を広くでき、凹部18とはみ出し部31cとが対向する空隙部19aを奥側まで広い内容積で形成することができる。そのため、空隙部19aの奥まで保護絶縁層41を形成しやすくなり、金属結合部30aを保護絶縁層41で確実に覆えるようになる。
【0058】
なお、図2(B)の変形例において、段差表面18aと底表面18bとを互いに垂直な面として連続した形状としてもよい。さらに、後退平面14cと段差表面18aを無くし、段差部14bと底表面18bとが互いに垂直な面として連続したものであってもよい。
【0059】
図9は、第2の実施の形態のMEMSセンサのA部の断面を示す電子顕微鏡写真であり、図3は図9の電子顕微鏡写真に基づいて作図したA部の拡大断面図である。
【0060】
図3と図9に示すMEMSセンサは、第1の金属層31aのはみ出し部31cの膨らみ寸法が大きく、はみ出し部31cが、枠体部14の後退平面14cの表面に位置する第2の金属層32aのエッジ部に当たっており、後退平面14cの下側に空間部19bが形成されている。
【0061】
この場合も、第1の金属層31aのはみ出し部31cに、枠体部14の凹部18が対向し、はみ出し部31cと凹部18の底表面18bとの間に空隙部19aが形成されやすくなっている。そのため、CVD法によって、保護絶縁層41が、凹部18の底表面18bから段差表面18aを経てはみ出し部31cの表面に連続して成膜され、第1の金属層31aと第2の金属層32aが、いずれも外気に晒されるのを防止でき、第1の金属層31aや第2の金属層32aの腐食を防止できるようになる。
【0062】
図4は、第3の実施の形態のMEMSセンサの部分断面図、図5はそのB部の拡大図である。図4と図5は、第1の金属層31aと第2の金属層32aが共晶接合または拡散接合される前の状態を示している。図6は第1の金属層31aと第2の金属層32aが共晶接合または拡散接合された後のB部の拡大図であり、図10に示す実施例の電子顕微鏡写真を参考にした模式的である。
【0063】
図4ないし図6では、図1ないし図3と同じ構造部分に同じ符号が付されている。
図4に示すように、対向基板2の一部である対向絶縁層22の表面(対向面)に、第1の金属層31aがスパッタ工程などで成膜されている。図4では、対向絶縁層22の表面に第1の金属層31aが付着している付着領域の幅寸法がW3で示されている。図1においても説明したように、第2の金属層32aと第1の金属層31aとが対向する部分の幅寸法がW2であり、図6に示すように、第1の金属層31aと第2の金属層32aとが共晶接合または拡散接合されたときの金属結合部30aの幅寸法がほぼW2に一致している。
【0064】
図4に示すように、対向絶縁層22の表面に第1の金属層31aが付着している付着領域は、幅寸法Waの範囲で、金属結合部30aよりも外部領域16に向けて延長されており、幅寸法Wbの範囲で、金属結合部30aよりも動作領域15に向けて延長されている。外部領域16に向けての延長部の幅寸法Waは、動作領域15に向けての延長部の幅寸法Wbよりも十分に広く設定されている。
【0065】
対向絶縁層22の表面(対向面)に接合平面22aが形成されて、その表面に第1の金属層31aが形成されているが、第1の金属層31aの付着領域は、接合平面22aの外部領域16側の端部を決めている段差部22bを超えて、さらに幅寸法Wcの範囲で外部領域16に向けて延び出ている。
【0066】
接合平面22aの幅寸法は段差部22b,22bによって決められているが、図1に示すように、第2の金属層32aと第1の金属層31aとを幅寸法W2の範囲で確実に対面させるためには、接合平面22aの全域に第1の金属層31aが形成されることが必要である。そのため、接合平面22aの加工精度と、第1の金属層31aのスパッタ領域を決めるレジスト層の成膜精度の公差などを加味して、第1の金属層31aの幅寸法を、接合平面22aの幅寸法にさらに公差分のマージンを加算して決めておくことが必要である。
【0067】
図4に示すように、第1の金属層31aの付着領域が、段差部22bから動作領域15に向けて寸法Wdだけはみ出しているが、このはみ出し寸法Wdは前記公差に基づくマージンによって生じているものであり、付着領域を段差部22bから動作領域15に向けて延長させることを意図したものではない。これに対し、第1の金属層31aの付着領域が、段差部22bから外部領域16に向けてはみ出している寸法Wcは、公差を加味したマージン分であるはみ出し寸法Wdよりも十分に広く設定されている。すなわち、第1の金属層31aは、段差部22bを超えて外部領域16に向けてはみ出させることを意図して成膜されている。
【0068】
図6に示すように、加熱および加圧工程を経て、第1の金属層31aと第2の金属層32aとが共晶接合または拡散接合されて金属結合部30aが形成されると、第1の金属層31aと第2の金属層32aとの加圧力によって、溶融状態の粘度の低い第1の金属層31aが金属結合部30aから外部領域16に向けて押出され、それが硬化して第1の金属層31aのはみ出し部33が形成される。
【0069】
図4に示すように、加熱および加圧工程の前に、第1の金属層31aと対向絶縁層22との付着領域が、段差部22bから幅寸法Wcの範囲で外部領域16に向けて広く延長して形成されているため、図6に示すように、第2の金属層32aの加圧力により外部領域16に向けて押出される第1の金属層31aは、幅寸法Waの幅広い延長部に沿って流れ出る。第1の金属層31aは、その裾野が外部領域16に向けて広がってから硬化するために、はみ出し部33の対向絶縁層22からの厚さ寸法を低くできる。
【0070】
その結果、はみ出し部33の表面33aと、枠体部14に形成された凹部18の底表面18bとの空隙部19aを広くでき、CVD法で形成される保護絶縁層41を、空隙部19aの内面に形成しやすくなる。この保護絶縁層41が、凹部18の底表面18bと段差表面18aおよびはみ出し部33の表面にかけて連続的に形成されやすくなり、動作領域15を密閉して保護しやすくなる。
【0071】
図4に示す第1の金属層31aの外部領域16に向けての延長部の幅寸法Waは、第2の金属層32aが加圧されたときに、第1の金属層31aが金属結合部30aからはみ出る量を調べることで適正な値として設定できる。例えば、Waは、W2/2以上であり、W2以下であることが好ましい。
【0072】
図7は比較例を示す図1のA部の拡大断面図である。図7に示す比較例は、枠体部14の対向面に凹部18が形成されておらず、後退平面14cが、第1の金属層31aのはみ出し部31cと対向している。また、第1の金属層31aと対向絶縁層22との付着領域が、ほぼ段差部22bの位置で止まっており、第1の金属層31aのはみ出し部31cが外部領域16に向けて広げられていない。そのため、はみ出し部31cの頂部が後退平面14cに接触しやすくなる。
【0073】
はみ出し部31cと後退平面14cとが接触すると、その接触部の外側に、外部領域16に連続する鋭角に収束する対向空間19cが形成される。鋭角に収束する対向空間19cに対して、保護絶縁層41の付着が不安定となり、保護絶縁層41が連続成膜されずに欠陥部が形成されやすい。この欠陥部に露出する第1の金属層31aから腐食が進行して金属結合部30aに至り、金属結合部30aにより封止欠陥が発生しやすくなる。
【0074】
なお、前記実施の形態では、対向基板2の一部である対向絶縁層22に第1の金属層31aが設けられ、枠体部14に第2の電極層32aが設けられ、枠体部14の対向面に、第1の電極層31aのはみ出し部31cに対向する凹部18が形成されている。本発明は、これとは逆に、対向絶縁層22に第2の金属層32aが設けられ、枠体部14に第1の金属層31aが設けられ、対向絶縁層22に、第1の電極層31aのはみ出し部31cと対向する凹部18が形成されているものであってもよい。
【0075】
また、図4ないし図6に示すように、第1の金属層31aの付着領域を第1の金属層31aと第2の金属層32aとの対向部よりも外部領域16に延長させることで、はみ出し部33と枠体部14との間の空隙部19aを広くできる効果を奏することができる。本明細書の発明の範囲としては、第1の金属層31aの付着領域を第1の金属層31aと第2の金属層32aとの対向部よりも外部領域16に延長させたものであって、はみ出し部33に対向する凹部18が形成されていない発明も含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1 主基板
2 対向基板
3a,3b 絶縁層
10 機能層
11 可動部
12 支持部
13 弾性変形部
14 枠体部
14a 接合平面
14b 段差部
14c 後退平面
15 動作領域
16 外部領域
18 凹部
18a 段差表面
18b 底表面
19a 空隙部
22 対向絶縁層
22a 接合平面
30a,30b 金属結合部
31a,31b 第1の金属層
31c,33 はみ出し部
32a,32b 第2の金属層
41 保護絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主基板と、対向基板と、前記主基板と前記対向基板との間に位置する機能層とを有するMEMSセンサにおいて、
前記機能層によって、可動部と、前記可動部を支持する支持部と、前記可動部および前記支持部が位置する動作領域と外部領域とを区画する枠体部とが形成され、前記枠体部と前記主基板とが、前記動作領域の全周を囲む絶縁層を介して接合され、前記枠体部と前記対向基板とが、前記動作領域の全周を囲む金属結合部を介して接合されており、
前記金属結合部では、前記枠体部の対向面と前記対向基板の対向面の一方に第1の金属層が他方に第2の金属層が形成され、前記第1の金属層は前記第2の金属層よりも加熱時の粘度が低く、前記第1の金属層と前記第2の金属層とが加熱され加圧されて互いに接合されており、
前記枠体部または前記対向基板のうちの前記第1の金属層に対向する対向面に、前記第1の金属層から離れる凹部が形成され、前記外部領域では、前記凹部の表面から前記第1の金属層の表面にわたって連続する保護絶縁層が形成されていることを特徴とするMEMSセンサ。
【請求項2】
前記外部領域では、前記凹部の表面から前記第1の金属層および前記第2の金属層の表面にわたって連続する保護絶縁層が形成されている請求項1記載のMEMSセンサ。
【請求項3】
前記保護絶縁層は、CVD法で形成される無機絶縁層である請求項1または2記載のMEMSセンサ。
【請求項4】
前記第1の金属層は、加熱され加圧されたときに、前記金属結合部から前記外部領域へはみ出し、前記第1の金属層のはみ出した部分の厚さ寸法が、前記金属結合部の厚さ寸法よりも大きく、前記第1の金属層のはみ出した部分の表面に前記凹部が対向している請求項1ないし3のいずれかに記載のMEMSセンサ。
【請求項5】
前記第1の金属層のはみ出した部分の表面と、前記凹部の底表面との間に隙間が形成されており、この隙間内に前記無機絶縁層が入り込んでいる請求項4記載のMEMSセンサ。
【請求項6】
前記凹部の前記金属結合部側の内端である段差部は、その表面が前記凹部の底表面と垂直に延びている請求項1ないし5のいずれかに記載のMEMSセンサ。
【請求項7】
前記第1の金属層が形成されている前記対向面において前記第1の金属層が付着している付着領域が、前記第1の金属層と前記第2の金属層との結合部よりも、前記外部領域に向けて延び出ている請求項1ないし6のいずれかに記載のMEMSセンサ。
【請求項8】
前記第1の金属層が形成されている前記対向面には、前記第2の金属層と対向する接合平面と、前記接合平面の前記外部領域側の端部において前記対向面を窪ませる段差部が形成されており、前記付着領域が、前記段差部よりも前記外部領域まで延び出ている請求項7記載のMEMSセンサ。
【請求項9】
前記第1の金属層と前記第2の金属層との結合部の幅寸法に対し、前記結合部からの前記付着領域の延び出る長さが、前記幅寸法の1/2以上である請求項7または8記載のMEMSセンサ。
【請求項10】
前記付着領域は、前記第1の金属層と前記第2の金属層との結合部から前記動作領域と前記外部領域の双方へはみ出ており、そのはみ出し量は、前記動作領域よりも前記外部領域の方が広い請求項7ないし9のいずれかに記載のMEMSセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−40677(P2012−40677A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7630(P2011−7630)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】