説明

MEMSデバイス

【課題】パッドから取り出す電気信号のS/N比を向上させることが可能なMEMSデバイスを提供する。
【解決手段】SOI基板100を用いて形成されたミラー形成基板(デバイス本体)1を備える。ミラー形成基板1は、第1のシリコン層100aに形成され電気信号を生成する可動電極(機能部)22と、第1のシリコン層100a上に形成され電気信号を取り出すためのパッド13aと、第1のシリコン層100aにおいてパッド13aが形成された島状の導電部11acとを有する。導電部11acと第1のシリコン層100aにおける導電部11acの周辺部位とを絶縁分離するように第1のシリコン層100aに第1の分離部10aaが形成され、第2のシリコン層100bのうち導電部11acおよび絶縁層100cとともに寄生コンデンサを構成する部分の面積を低減するように第2のシリコン層100bに第2の分離部10bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(micro electro mechanical systems)デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロマシニング技術などを利用して形成されるMEMSデバイスとして、例えば、光スキャナ(マイクロスキャナ)、加速度センサ、ジャイロセンサなどが広く知られている。
【0003】
この種のMEMSデバイスとしては、マイクロマシニング技術によりSOI(Siliconon Insulator)ウェハを加工することにより形成され、電気信号を発生する機能部および機能部で発生する電気信号を取り出すためのパッドが、SOIウェハにおける絶縁層上のシリコン層側に形成されたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、図11に示す構成のマイクロスキャナ400が開示されている。このマイクロスキャナ400は、レーザ光を反射するミラー416および櫛歯状の電極としての可動櫛歯部412,414を有する可動部410と、可動部410を回転方向に揺動自在に支持する固定部420とを備えている。ここにおいて、固定部420には、可動部410を支持する2本の支持梁434,436が形成されている。また、固定部420と可動部410とは、支持梁434,436により連結されている部位を除いて、可動部410を両側から囲む溝402,404によって分離されている。
【0005】
また、固定部420には、可動櫛歯部412,414に対向する櫛歯状の電極として、駆動用固定櫛歯部422a,424aと、検出用固定櫛歯部422b,424bとが設けられている。また、固定部420には、駆動用固定櫛歯部422a,424aに電気的に接続された駆動用パッド426,428が設けられるとともに、検出用固定櫛歯部422b,424bに電気的に接続された検出用パッド430,432が設けられている。
【0006】
ここで、駆動用固定櫛歯部422a,424aは、シリコン層447と二酸化シリコン層405とポリシリコン層406との3層構造を有しており、検出用パッド430,432は、ポリシリコン層406の延長された部位上に形成されている。また、固定部420は、SOIウェハにおける絶縁層449直下のシリコン基板からなるベース部448を有している。要するに、固定部420においては、シリコン層447とベース部448との間に絶縁層449が介在している。
【0007】
上述のマイクロスキャナ400では、可動櫛歯部412,414と駆動用固定櫛歯部422a,424aとの間に駆動信号としてのパルス電圧を印加することで、静電引力により可動部410を上記回転方向に往復振動させてレーザ光を走査することができる。また、マイクロスキャナ400では、可動部410の回転角度に基づいて、可動櫛歯部412,414と検出用固定櫛歯部422b,424bとの間の静電容量が変化するので、この静電容量の変化に基づいて可動部410の回転角度を検出することができる。要するに、このマイクロスキャナ400では、可動櫛歯部412,414と検出用固定櫛歯部422b,424bとが、電気信号を発生する機能部を構成し、検出用パッド430,432が、機能部で発生する電気信号を取り出すためのパッドを構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−245890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、図11に示した構成のマイクロスキャナ400では、検出用パッド430,432直下のポリシリコン層406,406とシリコン層447,447との間の寄生容量、および、シリコン層447,447とベース部448との間の寄生容量が大きく、検出用パッド430,432から取り出す電気信号のS/N比が低下してしまう。
【0010】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、パッドから取り出す電気信号のS/N比を向上させることが可能なMEMSデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のMEMSデバイスは、第1のシリコン層と第2のシリコン層との間に絶縁層が介在するSOI基板を用いて形成されたデバイス本体を備え、前記デバイス本体は、前記第1のシリコン層に形成され電気信号を生成する機能部と、前記第1のシリコン層上に形成され前記電気信号を取り出すためのパッドと、前記第1のシリコン層において前記パッドが形成された島状の導電部とを有し、前記導電部と前記第1のシリコン層における前記導電部の周辺部位とを絶縁分離するように前記第1のシリコン層における前記絶縁層側とは反対の表面から前記絶縁層に達する第1の分離部が形成され、前記第2のシリコン層のうち前記導電部および前記絶縁層とともに寄生コンデンサを構成する部分の面積を低減するように前記第2のシリコン層における前記絶縁層側とは反対の表面から前記絶縁層に達する第2の分離部が形成されてなることを特徴とする。
【0012】
このMEMSデバイスにおいて、前記第2の分離部が空隙であることが好ましい。
【0013】
このMEMSデバイスにおいて、前記第2の分離部は、前記第1の分離部の前記第2のシリコン層側への投影領域に重なるように形成されてなることが好ましい。
【0014】
このMEMSデバイスにおいて、前記デバイス本体における前記第2のシリコン層の前記表面側に接合された保護基板を備えることが好ましい。
【0015】
このMEMSデバイスにおいて、前記保護基板は、ガラス基板であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のMEMSデバイスにおいては、第1のシリコン層の一部により構成されパッドが形成された導電部と第2のシリコン層との間の寄生容量を低減でき、パッドから取り出す電気信号のS/N比を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1のMEMSデバイス(光スキャナ)におけるデバイス本体(ミラー形成基板)を示し、(a)は概略平面図、(b)は(a)のB−B概略断面図である。
【図2】同上のMEMSデバイスを示し、(a)は概略平面図、(b)は(a)のA−A概略断面図である。
【図3】同上のMEMSデバイスの概略斜視図である。
【図4】同上のMEMSデバイスの製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図5】同上のMEMSデバイスの動作説明図である。
【図6】実施形態2のMEMSデバイス(光スキャナ)におけるデバイス本体(ミラー形成基板)を示し、(a)は概略平面図、(b)は(a)のD−D概略断面図である。
【図7】同上のMEMSデバイスの概略分解斜視図である。
【図8】同上のMEMSデバイスにおけるデバイス本体の概略斜視図である。
【図9】同上のMEMSデバイスの製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図10】同上のMEMSデバイスの他の構成例を示す要部概略断面図である。
【図11】従来例のマイクロスキャナを示し、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は(a)のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態1)
本実施形態では、MEMSデバイスの一例として、光スキャナ(以下、MEMS光スキャナと称する)を例示する。
【0019】
以下、本実施形態のMEMS光スキャナについて図1〜図3を参照しながら説明する。
【0020】
本実施形態のMEMS光スキャナは、SOI基板100を用いて形成され可動部20にミラー面21が設けられたミラー形成基板1を備えている。また、MEMS光スキャナは、ミラー形成基板1においてミラー面21が設けられた一表面側に接合された第1のカバー基板2を備えている。また、光スキャナは、ミラー形成基板1の他表面側に接合された第2のカバー基板3を備えている。なお、本実施形態では、ミラー形成基板1が、デバイス本体を構成し、第2のカバー基板3が、保護基板を構成している。
【0021】
ミラー形成基板1は、枠状(ここでは、矩形枠状)の外側フレーム部10と、外側フレーム部10の内側に配置された上述の可動部20と、外側フレーム部10の内側で可動部20を挟む形で配置され外側フレーム部10と可動部20とを連結した一対の捩りばね部30,30とを有している。各捩りばね部30,30は、捩れ変形が可能となっている。
【0022】
外側フレーム部10は、外周形状および内周形状それぞれが矩形状に形成されている。ここにおいて、MEMS光スキャナは、ミラー形成基板1および各カバー基板2,3それぞれの外周形状が、矩形状であり、各カバー基板2,3の外形寸法を、ミラー形成基板1の外形寸法に合わせてある。
【0023】
ミラー形成基板1は、可動部20の平面視形状が矩形状であり、ミラー面21の平面視形状も矩形状としてある。
【0024】
ミラー形成基板1は、上述のSOI基板100をバルクマイクロマシニング技術などにより加工することによって形成してある。このSOI基板100は、導電性を有する第1のシリコン層(活性層)100aと第2のシリコン層(シリコン基板)100bとの間に絶縁層(SiO層)100cが介在している。なお、SOI基板100は、第1のシリコン層100aの厚さを30μm、第2のシリコン層100bの厚さを400μmに設定してあるが、これらの数値は一例であり、特に限定するものではない。また、SOI基板100の一表面である第1のシリコン層100aの表面は(100)面としてある。
【0025】
また、第1のカバー基板2は、それぞれパイレックス(登録商標)ガラスなどからなる2枚のガラス板を厚み方向に重ねて接合することにより形成した第1のガラス基板200を用いて形成してある。また、第2のカバー基板3は、パイレックス(登録商標)ガラスなどからなる第2のガラス基板300を加工することにより形成してある。なお、第1のガラス基板200および第2のガラス基板300の厚さは、0.5mm〜1.5mm程度の範囲で設定してあるが、これらの数値は一例であり、特に限定するものではない。
【0026】
ミラー形成基板1の外側フレーム部10は、SOI基板100の第1のシリコン層100a、絶縁層100c、第2のシリコン層100bそれぞれを利用して形成してある。そして、ミラー形成基板1は、外側フレーム部10のうち第1のシリコン層100aにより形成された部位が、第1のカバー基板2の外周部と全周に亘って接合され、外側フレーム部10のうち第2のシリコン層100bにより形成された部位が、第2のカバー基板3の外周部と全周に亘って接合されている。また、ミラー形成基板1は、上記一表面側において、外側フレーム部10に、後述の2つのパッド13,13が形成されている。各パッド13,13は、平面視形状が円形状であり、第1の金属膜(例えば、Al−Si膜など)により構成されている。なお、本実施形態では、各パッド13,13の膜厚を500nmに設定してあるが、この数値は一例であり、特に限定するものではない。
【0027】
また、ミラー形成基板1の可動部20および各捩りばね部30,30は、SOI基板100の第1のシリコン層100aを用いて形成されており、外側フレーム部10よりも十分に薄肉となっている。また、可動部20に設けられたミラー面21は、光源(レーザ光源など)からの光を反射するものであり、可動部20において第1のシリコン層100aにより形成された部位上に形成した第2の金属膜(例えば、Al−Si膜など)からなる反射膜21aの表面により構成されている。なお、本実施形態では、反射膜21aの膜厚を500nmに設定してあるが、この数値は一例であり、特に限定するものではない。
【0028】
以下では、図1(a),(b)それぞれの左下に示すように、平面視において一対の捩りばね部30,30の並設方向に直交する方向をx軸方向、一対の捩りばね部30,30の並設方向をy軸方向、x軸方向およびy軸方向に直交する方向をz軸方向として説明する。
【0029】
ミラー形成基板1は、一対の捩りばね部30,30がy軸方向に並設されており、可動部20が、外側フレーム部10に対して一対の捩りばね部30,30の回りで変位可能となっている(y軸方向の軸回りで回動可能となっている)。つまり、一対の捩りばね部30,30は、外側フレーム部10に対して可動部20が揺動自在となるように外側フレーム部10と可動部20とを連結している。言い換えれば、外側フレーム部10の内側に配置される可動部20は、可動部20から相反する2方向へ連続一体に延長された2つの捩りばね部30,30を介して、外側フレーム部10に揺動自在に支持されている。ここで、一対の捩りばね部30,30は、両者のy軸方向に沿った中心線同士を結ぶ直線が、平面視で可動部20の重心を通るように形成されている。なお、各捩りばね部30,30は、厚み寸法(z軸方向の寸法)を30μm、幅寸法(x軸方向の寸法)を、5μmに設定してあるが、これらの数値は一例であり、特に限定するものではない。また、可動部20およびミラー面21の平面視形状は、矩形状に限らず、例えば、円形状でもよい。また、外側フレーム部10の内周形状も矩形状に限らず、例えば、円形状でもよい。
【0030】
上述のミラー形成基板1は、可動部20において一対の捩りばね部30,30を結ぶ方向(一対の捩りばね部30,30の並設方向)に直交する方向(つまり、x軸方向)の両側に形成された櫛形状の可動電極22を備えている。さらに、ミラー形成基板1は、外側フレーム部10に形成され可動電極22の複数の可動櫛歯片22bに対向する複数の固定櫛歯片12bを有する櫛形状の固定電極12を備えている。ここにおいて、可動電極22と固定電極12とで、静電力により可動部20を駆動する静電駆動式の駆動手段を構成している。なお、本実施形態では、駆動手段が、静電力により可動部20を駆動するものであるが、静電駆動式に限らず、例えば、電磁力によって可動部20を駆動する電磁駆動式でもよいし、圧電素子によって可動部20を駆動する圧電駆動式でもよい。
【0031】
上述の固定電極12は、平面視形状が櫛形状であり、外側フレーム部10のうちy軸方向に沿った枠片部において第1のシリコン層100aにより形成された部位の一部が、櫛骨部12aを構成している。そして、固定電極12は、櫛骨部12aにおける可動部20との対向面(外側フレーム部10におけるy軸方向に沿った内側面)に、多数の固定櫛歯片12bが一対の捩りばね部30,30の並設方向に沿って列設されている。ここで、各固定櫛歯片12bは、第1のシリコン層100aの一部により構成されている。
【0032】
一方、可動電極22は、可動部20における固定電極12の櫛骨部12a側の櫛骨部22aの側面(可動部20におけるy軸方向に沿った側面)において、第1のシリコン層100aの一部により構成され固定櫛歯片12bにそれぞれ対向する多数の可動櫛歯片22bが上記並設方向に列設されている。ここで、各可動櫛歯片22bは、第1のシリコン層100aの一部により構成されている。
【0033】
櫛形状の固定電極12と櫛形状の可動電極22とは、それぞれの櫛骨部12a,22aが互いに対向し、固定電極12の各固定櫛歯片12bが可動電極22の櫛溝に入り組んでおり、固定櫛歯片12bと可動櫛歯片22bとが、y軸方向において互いに離間している。したがって、駆動手段では、固定電極12と可動電極22との間に電圧が印加されることにより、固定電極12と可動電極22との間に互いに引き合う方向に作用する静電力が発生する。なお、y軸方向における固定櫛歯片12bと可動櫛歯片22bとの間の隙間は、例えば、2μm〜5μm程度の範囲で適宜設定すればよい。
【0034】
ミラー形成基板1の外側フレーム部10において第1のシリコン層100aにより形成された部位には、一方のパッド13(図1における左側のパッド13a)が可動電極22,22に電気的に接続されるとともに他方のパッド13(図1における右側のパッド13b)が固定電極12,12に電気的に接続され、且つ、固定電極12,12と可動電極22,22とが電気的に絶縁されるように、複数(ここでは、3つ)のスリット10aが絶縁層100cに達する深さで形成されている。これにより、外側フレーム部10において第1のシリコン層100aにより形成された部分は、可動部20の可動電極22,22と同電位になる第1の導電性構造体11aと、固定電極12,12と同電位になる第2の導電性構造体11bとに分けられている。
【0035】
第1の導電性構造体11aは、各捩りばね部30,30それぞれに連続一体に連結された2つのアンカー部11aa,11abと、一方のパッド13aが形成された島状(ここでは、平面視矩形状)の導電部11acと、一方のアンカー部11aaと島部11acとをつなぐ平面視L字状の導電部11adとで構成されている。また、第2の導電性構造体11bは、第1のシリコン層100aのうち第1の導電性構造体11a以外の残りの部分からなり、他方のパッド13bが形成されている。本実施形態では、スリット10aのうち、島状の導電部11acを囲んでいる部位が、島状の導電部11acと第1のシリコン層100aにおける当該導電部11acの周辺部位とを絶縁分離するように第1のシリコン層100aにおける絶縁層100c側とは反対の表面から絶縁層100cに達する第1の分離部10aaを構成している。したがって、第1の分離部10aaは、空隙となっている。
【0036】
また、ミラー形成基板1は、一方のパッド13aの下方に、第2のシリコン層100bにおける絶縁層100c側とは反対の表面から絶縁層100cに達する第2の分離部10bが形成されている。この第2の分離部10bは、第2のシリコン層100bのうち島状の導電部11acおよび絶縁層100cとともに寄生コンデンサを構成する部分の面積を低減するように形成されている。図1に示した例では、第2の分離部10bは、第1の分離部10aaの第2のシリコン層100b側への投影領域に重なるように形成されている。ここにおいて、第1のシリコン層100a側では、島状の導電部11acと平面視L字状の導電部11adとを連続させる必要があるので、第1の分離部10aaが開ループ状に形成されているのに対して、第2の分離部10bは、閉ループ状に形成されている。また、第2の分離部10bは、空隙となっている。
【0037】
ここで、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第1のシリコン層100aに形成する各スリット10aをトレンチとし、各スリット10aの平面視形状を外側フレーム部10の外側面側に開放されない形状としてある。しかして、本実施形態のMEMS光スキャナでは、外側フレーム部10にスリット10a,10a,10aを形成した構造を採用しながらも、外側フレーム部10と第1のカバー基板2との接合性が低下するのを防止することが可能となる。また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第2のシリコン層100bに形成する第2の分離部10bをトレンチとし、第2の分離部10bの平面視形状を外側フレーム部10の外側面に開放されない形状としてある。しかして、本実施形態のMEMS光スキャナでは、外側フレーム部10に第2の分離部10bを形成した構造を採用しながらも、外側フレーム部10と第1のカバー基板2との接合性が低下するのを防止することが可能となる。そして、本実施形態のMEMS光スキャナでは、外側フレーム部10と各カバー基板2,3とで囲まれる空間の気密性を確保することができる。
【0038】
第1のカバー基板2は、上述のように第1のガラス基板200を用いており、第1のガラス基板200の厚み方向に貫通して各パッド13それぞれを全周に亘って露出させる2つの貫通孔202が形成されている。ここにおいて、第1のガラス基板200の各貫通孔202は、ミラー形成基板1から離れるにつれて開口面積が徐々に大きくなるテーパ状に形成されている。各貫通孔202は、サンドブラスト法により形成してある。各貫通孔202の形成方法は、サンドブラスト法に限定するものではなく、ドリル加工法やエッチング法などを採用してもよい。
【0039】
本実施形態のMEMS光スキャナでは、各パッド13の平面視形状を円形状としてあり、各貫通孔202の第1のミラー形成基板1側での開口径が各パッド13の直径よりも大きくなるようにしてある。各パッド13の直径は、0.5mmに設定してあるが、特に限定するものではない。また、各パッド13の平面視形状は、必ずしも円形状である必要はなく、例えば、正方形状としてもよいが、各貫通孔202の開口径を小さくするうえでは円形状の方が正方形状よりも好ましい。
【0040】
ところで、各パッド13の一部が厚み方向において第1のカバー基板2に重なる場合には、各パッド13の厚みの影響で接合性や気密性が損なわれて製造時の歩留まり低下や、動作安定性の低下、経時安定性の低下の原因となる懸念がある。したがって、このような場合には、外側フレーム部10の幅寸法(外側フレーム部10の外側面と内側面との距離)を増大させる必要が生じて、MEMS光スキャナの小型化が制限されてしまうことが考えられる。
【0041】
これに対して、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第1のカバー基板2が各パッド13と重なることがなく、第1のカバー基板2と外側フレーム部10との間に各パッド13の一部が介在することもない。したがって、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第1のカバー基板2とミラー形成基板1の外側フレーム部10との接合が各パッド13により妨げられるのを防止することができる。その結果、本実施形態のMEMS光スキャナでは、各パッド13の厚みの影響で接合性や気密性が損なわれるのを防止することができ、外側フレーム部10の幅寸法を増大させずに歩留まりの向上による低コスト化を図れるとともに、動作安定性の低下、経時安定性の低下を抑制することが可能となる。
【0042】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、ミラー形成基板1の外側フレーム部10と各カバー基板2,3とで囲まれる気密空間を真空(真空雰囲気)とすることで、低消費電力化を図りつつ可動部20の機械振れ角を大きくすることが可能となる。そこで、本実施形態のMEMS光スキャナでは、上記気密空間を真空とするとともに、第2のカバー基板3におけるミラー形成基板1との対向面において外側フレーム部10に接合される部位よりも内側の適宜部位に非蒸発型ゲッタ(図示せず)を設けてある。なお、非蒸発型ゲッタは、例えば、Zrを主成分とする合金やTiを主成分とする合金などにより形成すればよい。また、本実施形態のMEMS光スキャナにおいて、外側フレーム部10と第1のカバー基板2と第2のカバー基板3とで囲まれた上記気密空間を不活性ガス雰囲気(例えば、ドライ窒素ガス雰囲気など)としてもよい。本実施形態のMEMS光スキャナでは、上記気密空間を真空雰囲気と不活性ガス雰囲気とのいずれにしても、ミラー面21の酸化を防止できるから、ミラー面21の材料の選択肢が多くなるとともに、ミラー面21の反射特性の経時変化を抑制することができる。
【0043】
第1のガラス基板200は、ミラー形成基板1との対向面に、可動部20の変位空間を確保するための凹部(以下、第1の凹部と称する)201を有している。ここで、第1のガラス基板200は、上述のように2枚のガラス板を接合して形成されている。そこで、第1のガラス基板200は、ミラー形成基板1に近い側に配置するガラス板(以下、第1のガラス板と称する)において第1の凹部201に対応する部位に、厚み方向に貫通する開孔部を形成し、ミラー形成基板1から遠い側に配置するガラス板(以下、第2のガラス板と称する)を平板状としてある。したがって、第1のガラス基板200は、サンドブラスト加工などにより第1の凹部201が形成されたものに比べて、第1の凹部201の内底面を滑らかな表面とすることができ、第1の凹部201の内底面での拡散反射、光拡散、散乱損失などを低減できる。
【0044】
第2のカバー基板3は、第2のガラス基板300を用いて形成されており、厚み方向の両面を平面状としてある。第2のカバー基板3については、可動部20の厚みや、SOI基板100の第2のシリコン層100bの厚みなどに応じて、第2のガラス基板300におけるミラー形成基板1側の一表面に、可動部20の変位空間を確保するための凹部(以下、第2の凹部と称する)を形成してもよい。第2のガラス基板300の上記一表面に第2の凹部を形成する場合は、例えば、サンドブラスト法などにより形成すればよい。なお、第2のカバー基板3は、光を透過させる必要がないので、第2のガラス基板300に限らず、例えば、シリコン基板を用いて形成してもよく、この場合の第2の凹部は、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して形成すればよい。
【0045】
各ガラス基板200,300のガラス材料としては、硼珪酸ガラスであるパイレックス(登録商標)やテンパックス(登録商標)を用いればよい。また、本実施形態では、各カバー基板2,3の厚さを0.5mm〜1.5mm程度の範囲で設定し、第1の凹部201の深さを0.3mm程度に設定してあるが、これらの数値は一例であり、特に限定するものではない。
【0046】
以下、本実施形態のMEMS光スキャナの製造方法について図4を参照しながら説明するが、(a)〜(d)は図2(a)のA−B断面に対応する部分の概略断面を示している。
【0047】
まず、半導体基板であるSOI基板100の上記一表面側に所定膜厚(例えば、500nm)の金属膜(例えば、Al−Si膜)をスパッタ法や蒸着法などにより成膜する金属膜形成工程を行う。続いて、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して金属膜をパターニングすることにより各パッド13および反射膜21aを形成する金属膜パターニング工程を行うことによって、図4(a)に示す構造を得る。なお、本実施形態では、各パッド13と反射膜21aとの材料および膜厚を同じに設定してあるので、各パッド13と反射膜21aとを同時に形成しているが、各パッド13と反射膜21aとの材料や膜厚が相違する場合には、各パッド13を形成するパッド形成工程と反射膜21aを形成する反射膜形成工程とを別々に設ければよく、パッド形成工程と反射膜形成工程との順序はどちらが先でもよい。
【0048】
上述の各パッド13および反射膜21aを形成した後、SOI基板100の上記一表面側で、第1のシリコン層100aのうち可動部20、一対の捩りばね部30,30、外側フレーム部10、各固定電極12、各可動電極22に対応する部位を覆うようにパターニングされた第1のレジスト層130を形成する。続いて、第1のレジスト層130をマスクとして、第1のシリコン層100aをパターニングする第1のシリコン層パターニング工程(表面側パターニング工程)を行うことによって、図4(b)に示す構造を得る。なお、第1のシリコン層パターニング工程では、第1のシリコン層100aを絶縁層100cに達する深さ(第1の所定深さ)までエッチングする。この第1のシリコン層パターニング工程を行うことによって、各スリット10aも形成される。第1のシリコン層パターニング工程での第1のシリコン層100aのエッチングは、誘導結合プラズマ(ICP)型のエッチング装置などのように、異方性の高いエッチングが可能なドライエッチング装置により行えばよい。また、第1のシリコン層パターニング工程では、絶縁層100cをエッチングストッパ層として利用している。
【0049】
上述の第1のシリコン層パターニング工程の後、SOI基板100の上記一表面側の第1のレジスト層130を除去する。その後、SOI基板100の上記一表面側の全面に第2のレジスト層131を形成し、続いて、SOI基板100の他表面側で、第2のシリコン層100bのうち外側フレーム部10に対応する部位以外を露出させるようにパターニングされた第3のレジスト層132を形成する。そして、第3のレジスト層132をマスクとして、第2のシリコン層100bをパターニングする第2のシリコン層パターニング工程を行うことによって、図4(c)に示す構造を得る。この第2のシリコン層パターニング工程では、第2のシリコン層100bを絶縁層100cに達する深さ(第2の所定深さ)までエッチングする。この第2のシリコン層パターニング工程を行うことによって、第2の分離部10b(図1参照)を構成するスリット(トレンチ)も形成される。第2のシリコン層パターニング工程での第2のシリコン層100bのエッチングは、誘導結合プラズマ(ICP)型のエッチング装置などのように、異方性が高く垂直深堀が可能なドライエッチング装置により行えばよい。また、第2のシリコン層パターニング工程では、絶縁層100cをエッチングストッパ層として利用している。
【0050】
上述の第2のシリコン層パターニング工程の後、SOI基板100の絶縁層100cにおいて外側フレーム部10と可動部20との間の部位、可動電極22と固定電極12との間の部位を、SOI基板100の上記他表面側からエッチングする絶縁層パターニング工程を行うことでミラー形成基板1を形成する。続いて、第2のレジスト層131および第3のレジスト層132を除去する。その後、ミラー形成基板1と、第1のカバー基板2および第2のカバー基板3とを陽極接合などにより接合する接合工程を行うことによって、図4(d)に示す構造のMEMS光スキャナを得る。
【0051】
上述の接合工程では、ミラー形成基板1のミラー面21を保護する観点から、第1のカバー基板2とミラー形成基板1とを接合する第1の接合過程を行ってから、ミラー形成基板1と第2のカバー基板3とを接合する第2の接合過程を行うことが好ましい。ここで、第1の接合過程では、先ず、第1のガラス基板200に第1の凹部201や各貫通孔202を形成した第1のカバー基板2とミラー形成基板1とを重ねた積層体を、所定真空度(例えば、10Pa以下)の真空中で所定の接合温度(例えば、300℃〜400℃程度)に加熱した状態で、第1のシリコン層100aと第1のカバー基板2との間に第1のカバー基板2側を低電位側として所定電圧(例えば、400V〜800V程度)を印加し、この状態を所定の接合時間(例えば、20分〜60分程度)だけ保持すればよい。また、第2の接合過程では、上述の第1の接合過程に準じて、第2のシリコン層100bと第2のカバー基板3との陽極接合を行う。なお、ミラー形成基板1と各カバー基板2,3を接合する接合方法は、陽極接合に限らず、例えば、常温接合法などでもよい。また、第1のシリコン層パターニング工程の後に、SOI基板100と第1のカバー基板2とを接合し、その後、第2のシリコン層パターニング工程、絶縁層パターニング工程を行うことでミラー形成基板1を形成し、その後、ミラー形成基板1と第2のカバー基板3とを接合するようにしてもよい。
【0052】
ところで、本実施形態のMEMS光スキャナの製造方法では、接合工程が終了するまでの全工程をミラー形成基板1および各カバー基板2,3それぞれについてウェハレベルで行うことでウェハレベルパッケージ構造体を形成するようにし、当該ウェハレベルパッケージ構造体から個々のMEMS光スキャナに対応するチップに分割する分割工程を行う。
【0053】
要するに、本実施形態のMEMS光スキャナの製造方法では、ミラー形成基板1を複数形成した第1のウェハと、第1のカバー基板2を複数形成した第2のウェハおよび第2のカバー基板3を複数形成した第3のウェハとを接合することでウェハレベルパッケージ構造体を形成した後、ウェハレベルパッケージ構造体からミラー形成基板1の外形サイズに分割するようにしているので、各カバー基板2,3の平面サイズをミラー形成基板1の外形サイズに合わせることができるから、小型のMEMS光スキャナセンサを簡易なプロセスで製造することができ、また、量産性を高めることが可能となる。
【0054】
次に、本実施形態のMEMS光スキャナの動作について簡単に説明する。
【0055】
本実施形態のMEMS光スキャナでは、互いに対向する可動電極22と固定電極12との間に、可動部20を駆動するためのパルス電圧を一対のパッド13,13を介して印加することにより、可動電極22・固定電極12間に静電力が発生し、可動部20がy軸方向の軸回りで回動する。しかして、本実施形態のMEMS光スキャナでは、可動電極22・固定電極12間に所定の駆動周波数のパルス電圧を印加することにより、周期的に静電力を発生させることができ、可動部20を揺動させることができる。
【0056】
ここで、上述の可動部20は、内部応力に起因して、静止状態でも水平姿勢(xy平面に平行な姿勢)ではなく、きわめて僅かであるが傾いているので、例えば、可動電極22・固定電極12間にパルス電圧が印加されると、静止状態からであっても、可動部20に略垂直な方向(z軸方向)の駆動力が加わり、可動部20が一対の捩りばね部30,30を回動軸として当該一対の捩りばね部30,30を捩りながら回動する。そして、可動電極22・固定電極12間の駆動力を、可動櫛歯片22bと固定櫛歯片12bとが完全に重なりあうような姿勢となったときに解除すると、可動部20は、慣性力により、一対の捩りばね部30,30を捩りながら回動し続ける。そして、可動部20の回動方向への慣性力と、一対の捩りばね部30,30の復元力とが等しくなったとき、当該回動方向への可動部20の回動が停止する。このとき、可動電極22・固定電極12間に再びパルス電圧が印加されて静電力が発生すると、可動部20は、一対の捩りばね部30,30の復元力と駆動手段の駆動力とにより、それまでとは逆の方向への回動を開始する。可動部20は、駆動手段の駆動力と一対の捩りばね部30,30の復元力とによる回動を繰り返して、一対の捩りばね部30,30を回動軸として揺動する。
【0057】
本実施形態のMEMS光スキャナでは、可動部20と一対の捩りばね部30,30とにより構成される振動系の共振周波数の略2倍の周波数のパルス電圧を印加することにより、可動部20が共振現象を伴って駆動され、機械振れ角(xy平面に平行な水平面を基準としたときの傾き)が大きくなる。なお、可動電極22・固定電極12間への電圧(駆動電圧)の印加形態や周波数は特に限定するものではなく、例えば、可動電極22・固定電極12間に印加する電圧を正弦波電圧としてもよい。
【0058】
ところで、本実施形態のMEMS光スキャナを用いるシステムにおいては、MEMS光スキャナを駆動する駆動回路から可動電極22・固定電極12間に印加する駆動用の電圧信号よりなる駆動信号S1(図5参照)に、当該駆動信号S1に比べて高周波の検出用の電圧信号よりなる検出用信号S2(図5参照)を重畳させるようにすれば、固定フレーム部10に対する可動部20の相対的な位置(機械振れ角)の変化に応じて、可動電極22・固定電極12間の静電容量に変化が生じ、検出用信号S2に微小な電圧変化が生じるから、可動電極22に電気的に接続されているパッド13aと固定電極12に電気的に接続されているパッド13bとの間の検出用信号S2を監視することにより、可動部20の機械振れ角を検知することが可能となる。ここで、検出用信号S2を監視するには、例えば、駆動信号S1よりも高周波の検出用信号S2を通過させるハイパスフィルタと、ハイパスフィルタの出力の振幅成分を取り出す検波回路と、検波回路の出力に基づいて機械振れ角を求めるためのプログラムが搭載されたマイクロコンピュータなどからなる信号処理部とを備えた制御装置を用いればよい。なお、駆動信号S1と検出用信号S2とに関しては、例えば、〔駆動信号S1の周波数〕:〔検出用信号S2の周波数〕を1:100程度とすればよく、駆動信号S1の周波数を50kHz、検出用信号S2の周波数を5MHzとすればよい。また、検出用信号の振幅は、例えば、駆動信号S1の振幅の20分の1程度に設定すればよい。ただし、駆動信号S1の周波数や振幅、検出用信号S2の周波数や振幅、駆動信号S1と検出用信号S2との周波数比や振幅比は特に限定するものではない。また、図5に示した駆動信号S1は、正弦波状としてあるが、これに限らず、矩形波状でもよい。また、制御装置の構成も特に限定するものではない。
【0059】
本実施形態では、可動電極22と固定電極12とが、第1のシリコン層100aに形成され電気信号を生成する機能部を構成し、パッド13a,13bが、第1のシリコン層100a上に形成され電気信号を取り出すためのパッドを構成している。
【0060】
以上説明した本実施形態のMEMS光スキャナでは、島状の導電部11acと第1のシリコン層100aにおける当該導電部11acの周辺部位とを絶縁分離するように第1のシリコン層100aに第1の分離部10aaが形成され、第2のシリコン層100bのうち導電部11acおよび絶縁層100cとともに寄生コンデンサを構成する部分の面積を低減するように第2のシリコン層100bに第2の分離部10bが形成されているので、第1のシリコン層100aの一部により構成されパッド13aが形成された導電部11acと第2のシリコン層100bとの間の寄生容量を低減でき、パッド13aから取り出す電気信号のS/N比を向上させることが可能となる。
【0061】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第2の分離部10bが空隙なので、第2の分離部10bが有機絶縁材料(例えば、ポリイミドなど)や無機絶縁材料(例えば、SiOなど)により形成されている場合に比べて、第2のシリコン層100bのうち第2の分離部10bに囲まれた部分と第2の分離部10bの外側の部分との間に形成される寄生容量を低減できる。
【0062】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第2の分離部10bが、第1の分離部10aaの第2のシリコン層100b側への投影領域に重なるように形成されているので、第2の分離部10bが、第1の分離部10aaの投影領域に重ならずに、当該投影領域よりも外側に形成されている場合や、当該投影領域の内側に形成されている場合に比べて、寄生容量を低減することが可能となる。
【0063】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、ミラー形成基板1における第2のシリコン層100bの絶縁層側とは反対の表面側に接合された保護基板である第2のカバー基板3を備えているので、ミラー形成基板1に第2の分離部10bを設けたことによる脆弱性を補償することが可能となる。言い換えれば、本実施形態のMEMS光スキャナでは、ミラー形成基板1を第2のカバー基板3により補強することができる。
【0064】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第2のカバー基板3が、第2のガラス基板300により構成されているので、デバイス本体であるミラー形成基板1と保護基板である第2のカバー基板3とを陽極接合により容易に接合することができる。
【0065】
(実施形態2)
本実施形態では、MEMSデバイスの一例として、実施形態1と同様、MEMS光スキャナを例示する。
【0066】
以下、本実施形態のMEMS光スキャナについて図6〜図8を参照しながら説明する。
【0067】
本実施形態のMEMS光スキャナの基本構成は実施形態1と略同じであって、可動部20および第2のカバー基板3などの構造が相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0068】
本実施形態では、可動部20が、外側フレーム部(固定フレーム部)10に一対の捩りばね部30,30(以下、第1の捩りばね部30,30と称する)を介して揺動自在に支持された枠状(ここでは、矩形枠状)の可動フレーム部23と、可動フレーム部23の内側に配置されミラー面21が設けられたミラー部24と、可動フレーム部23の内側でミラー部24を挟む形で配置され可動フレーム部23とミラー部24とを連結し捩れ変形が可能な一対の捩りばね部25,25(以下、第2の捩りばね部25,25と称する)とを有している。
【0069】
第2の捩りばね部25,25は、第1の捩りばね部30,30の並設方向(y軸方向)とは直交する方向(x軸方向)に並設されている。要するに、可動部20は、一対の第2の捩りばね部25,25がx軸方向に並設されており、ミラー部24が、可動フレーム部23に対して一対の第2の捩りばね部25,25の回りで変位可能となっている(x軸方向の軸回りで回動可能となっている)。つまり、一対の第2の捩りばね部25,25は、可動フレーム部23に対してミラー部24が揺動自在となるように可動フレーム部23とミラー部24とを連結している。言い換えれば、可動フレーム部23の内側に配置されるミラー部24は、ミラー部24から相反する2方向へ連続一体に延長された2つの第2の捩りばね部25,25を介して可動フレーム部23に揺動自在に支持されている。ここで、一対の第2の捩りばね部25,25は、両者のx軸方向に沿った中心線同士を結ぶ直線が、平面視でミラー部24の重心を通るように形成されている。なお、各第2の捩りばね部25は、厚み寸法(z軸方向の寸法)を30μm、幅寸法(y軸方向の寸法)を、30μmに設定してあるが、これらの数値は一例であり、特に限定するものではない。また、ミラー部24およびミラー面21の平面視形状は、矩形状に限らず、例えば、円形状でもよい。また、可動フレーム部23の内周形状も矩形状に限らず、例えば、円形状でもよい。
【0070】
上述の説明から分かるように、ミラー部24は、一対の第1の捩りばね部30,30の軸回りの回動と、一対の第2の捩りばね部25,25の軸回りの回動とが可能である。要するに、本実施形態のMEMS光スキャナは、ミラー部24のミラー面21が、2次元的に回動可能に構成されている。ここで、可動部20は、可動フレーム部23における第1のカバー基板2側とは反対側に、可動フレーム部23を支持する枠状の支持体29が一体に設けられており、支持体29が可動フレーム部23と一体に回動可能となっている。
【0071】
そこで、第2のカバー基板3は、第2のガラス基板300におけるミラー形成基板1側の上記一表面に、可動部20の変位空間を確保するための第2の凹部301を形成してある。
【0072】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、外側フレーム部10と第1のカバー基板2と第2のカバー基板3とで囲まれる気密空間を真空とすることで、低消費電力化を図りつつ可動部20の機械振れ角を大きくすることが可能となるので、上記気密空間を真空とするとともに、第2の凹部301の内底面に、フィルム状のゲッタ4を配置してある。なお、ゲッタ4としては、非蒸発型ゲッタが好ましく、例えば、Zrを主成分とする合金やTiを主成分とする合金などにより形成すればよい。
【0073】
ここにおいて、第2のガラス基板300の上記一表面に第2の凹部301を形成する場合は、例えば、サンドブラスト法などにより形成すればよい。また、第2のカバー基板3についても、第1のカバー基板2と同様、2枚のガラス板を接合して形成してもよく、ミラー形成基板1に近い側に配置するガラス板(以下、第3のガラス板と称する)において第2の凹部301に対応する部位に厚み方向に貫通する開孔部を形成するとともに、ミラー形成基板1から遠い側に配置するガラス板(以下、第4のガラス板と称する)を平板状としてもよい。第2のカバー基板3は、光を透過させる必要がないので、第2のガラス基板300に限らず、ミラー形成基板1との接合が容易で且つ半導体基板(SOI基板100)の材料であるSiとの線膨張率差が小さな材料により形成された基板であればよく、例えば、シリコン基板を用いて形成してもよく、この場合の第2の凹部301は、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して形成すればよい。
【0074】
なお、本実施形態では、第1のカバー基板2および第2のカバー基板3の厚さを0.5mm〜1.5mm程度の範囲で設定し、第1の凹部201および第2の凹部301の深さを300μm〜800μmの範囲で設定してあるが、これらの数値は一例であり、可動部20のz軸方向への変位量に応じて適宜設定すればよく(つまり、可動部20の回動運動を妨げない深さであればよく)、特に限定するものではない。
【0075】
また、本実施形態のMEMS光スキャナは、外側フレーム部10に、3つのパッド13が平面視において一直線上に並ぶように略等間隔で並設されており、第1のカバー基板2に、各パッド13それぞれを各別に露出させる3つの貫通孔202が貫設されている。
【0076】
また、ミラー形成基板1は、実施形態1と同様、可動部20において一対の第1の捩りばね部30,30を結ぶ方向(一対の第1の捩りばね部30,30の並設方向)に直交する方向(つまり、x軸方向)の両側に形成された櫛形状の可動電極22(以下、第1の可動電極22と称する)と、外側フレーム部10に形成され第1の可動電極22の複数の可動櫛歯片22bに対向する複数の固定櫛歯片12bを有する櫛形状の固定電極12(以下、第1の固定電極12と称する)とを備えている。さらに、ミラー形成基板1は、ミラー部24において一対の第2の捩りばね部25,25を結ぶ方向(一対の第2の捩りばね部25,25の並設方向)に直交する方向(つまり、y軸方向)の両側に形成された櫛形状の第2の可動電極27と、可動フレーム部23に形成され第2の可動電極27の複数の可動櫛歯片27bに対向する複数の固定櫛歯片26bを有する櫛形状の第2の固定電極26とを備えている。そして、ミラー形成基板1は、第1の可動電極22と第1の固定電極12との組、第2の可動電極27と第2の固定電極26との組、それぞれが静電力により可動部20を駆動する静電駆動式の駆動手段を構成している。
【0077】
上述の第2の固定電極26は、平面視形状が櫛形状であり、櫛骨部26aが可動フレーム部23の一部により構成されている。そして、第2の固定電極26の櫛骨部26aにおけるミラー部24との対向面(可動フレーム部23におけるx軸方向に沿った内側面)には、多数の固定櫛歯片26bが一対の第2の捩りばね部25,25の並設方向に沿って列設されている。一方、第2の可動電極27はミラー部24の一部により構成されており、第2の固定電極26の櫛骨部26a側の側面(ミラー部24におけるx軸方向に沿った側面)には、固定櫛歯片26bにそれぞれ対向する多数の可動櫛歯片27bが上記並設方向に列設されている。ここで、櫛形状の第2の固定電極26と櫛形状の第2の可動電極27とは、櫛骨部26a,27aが互いに対向し、第2の固定電極26の各固定櫛歯片26bが第2の可動電極27の櫛溝に入り組んでおり、固定櫛歯片26bと可動櫛歯片27bとが、x軸方向において互いに離間している。したがって、ミラー形成基板1は、第2の固定電極26と第2の可動電極22との間に電圧が印加されることにより、第2の固定電極26と第2の可動電極27との間に、互いに引き合う方向に作用する静電力が発生する。なお、x軸方向における固定櫛歯片26bと可動櫛歯片27bとの間の隙間は、例えば、2μm〜5μm程度の範囲で適宜設定すればよい。
【0078】
ミラー形成基板1は、外側フレーム部10において第1のシリコン層100aにより形成された部位に複数(ここでは、3つ)のスリット10aを形成するとともに、可動部20の可動フレーム部23において第1のシリコン層100aにより形成された部位に複数(ここでは、4つ)のスリット20aを形成してある。これにより、ミラー形成基板1は、3つのパッド13のうち図6(a)における真ん中のパッド13(13b)が第1の固定電極12と電気的に接続されて同電位となり、右側のパッド13(13a)が第1の可動電極22および第2の可動電極26と電気的に接続されて同電位となり、左側のパッド13(13c)がミラー部24の第2の可動電極27と電気的に接続されて同電位となっている。
【0079】
ここで、外側フレーム部10の複数のスリット10aは、絶縁層100cに達する深さで形成されている。本実施形態においても、実施形態1と同様、各スリット10aをトレンチとし、各スリット10aの平面視形状を外側フレーム部10の外側面側に開放されない形状とすることで、外側フレーム部10にスリット10aを形成した構造を採用しながらも、外側フレーム部10と第1のカバー基板2との接合性が低下するのを防止し、外側フレーム部10と各カバー基板2,3とで囲まれる空間の気密性を確保している。
【0080】
また、可動部20における可動フレーム部23の各スリット20aは、トレンチとしてあり、SOI基板100の絶縁層100cの一部と第2のシリコン層100bの一部とで構成される上述の支持体29における絶縁層100cに達する深さに形成してある。要するに、本実施形態では、可動フレーム部23に複数のスリット20aを形成した構成を採用しながらも支持体29により可動フレーム部23を支持しているので、可動フレーム部23と支持体29とが、一対の第1の捩りばね部30,30の軸回りで一体に回動可能となっている。ここにおいて、支持体29は、可動フレーム部23のうち各固定櫛歯片26bおよび各可動櫛歯片22bを除く部位を覆う枠状(矩形枠状)に形成されている(図8参照)。また、可動フレーム部23の複数のスリット20aは、支持体29を含めた可動部20の重心が、平面視において一対の第1の捩りばね部30,30のy軸方向に沿った中心線を結ぶ直線の略真ん中に位置するように形状を設計してある。しかして、本実施形態のMEMS光スキャナでは、可動部20が一対の第1の捩りばね部30,30の軸回りでスムーズに揺動し、反射光のスキャンが適正に行われる。なお、本実施形態では、支持体29において第2のシリコン層100bにより構成される部位の厚さを、外側フレーム部10において第2のシリコン層100bにより構成される部位と同じ厚さに設定してあるが、同じに限らず、厚くしてもよいし薄くしてもよい。
【0081】
なお、ミラー形成基板1は、外側フレーム部10と第1のカバー基板2とで囲まれた空間側において、第1のシリコン層100aの反射膜21aが形成されていない部位の表面に、シリコン酸化膜111a(図9(f)参照)が形成されている。
【0082】
以下、本実施形態のMEMS光スキャナの製造方法について図9を参照しながら説明するが、図9の(a)〜(f)は図7のA−B断面に対応する部分の概略断面を示している。
【0083】
まず、SOI基板100の上記一表面側および上記他表面側それぞれに熱酸化法などによりシリコン酸化膜111a,111bを形成する酸化膜形成工程を行うことによって、図9(a)に示す構造を得る。
【0084】
その後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用してSOI基板100の上記一表面側のシリコン酸化膜(以下、第1のシリコン酸化膜と称する)111aをパターニングする第1のシリコン酸化膜パターニング工程を行うことによって、図9(b)に示す構造を得る。この第1のシリコン酸化膜パターニング工程では、第1のシリコン酸化膜111aのうち、可動部20において反射膜21aの形成予定領域以外の部分、第1の捩りばね部30,30などに対応する部位などが残るように、第1のシリコン酸化膜111aをパターニングする。
【0085】
第1のシリコン酸化膜パターニング工程の後、SOI基板100の上記一表面側に所定膜厚(例えば、500nm)の金属膜(例えば、Al−Si膜)をスパッタ法や蒸着法などにより成膜する金属膜形成工程を行い、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して金属膜をパターニングすることにより各パッド13および反射膜21aを形成する金属膜パターニング工程を行うことによって、図9(c)に示す構造を得る。なお、本実施形態では、各パッド13と反射膜21aとの材料および膜厚を同じに設定してあるので、各パッド13と反射膜21aとを同時に形成しているが、各パッド13と反射膜21aとの材料や膜厚が相違する場合には、各パッド13を形成するパッド形成工程と反射膜を形成する反射膜形成工程とを別々に設ければよい。
【0086】
上述の各パッド13および反射膜21aを形成した後、SOI基板100の上記一表面側で、第1のシリコン層100aのうち可動フレーム部23、ミラー部24、一対の第1の捩りばね部30,30、一対の第2の捩りばね部25,25、外側フレーム部10、第1の固定電極12、第2の可動電極22、第2の固定電極26、第2の可動電極27に対応する部位を覆うようにパターニングされた第1のレジスト層130を形成する。その後、第1のレジスト層130をマスクとして、第1のシリコン層100aをパターニングする第1のシリコン層パターニング工程(表面側パターニング工程)を行うことによって、図9(d)に示す構造を得る。この第1のシリコン層パターニング工程では、第1のシリコン層100aを絶縁層100cに達する深さ(第1の所定深さ)までエッチングする。第1のシリコン層パターニング工程での第1のシリコン層100aのエッチングは、誘導結合プラズマ型のエッチング装置などのように、異方性の高いエッチングが可能なドライエッチング装置により行えばよい。また、第1のシリコン層パターニング工程では、絶縁層100cをエッチングストッパ層として利用している。
【0087】
上述の第1のシリコン層パターニング工程の後、SOI基板100の上記一表面側の第1のレジスト層130を除去する。その後、SOI基板100の上記一表面側の全面に第2のレジスト層131を形成する。続いて、SOI基板100の他表面側で、第2のシリコン層100bのうち外側フレーム部10、支持体29に対応する部位以外を露出させるようにパターニングされた第2のレジスト層132を形成する。その後、第3のレジスト層132をマスクとして、第2のシリコン層100bをパターニングする第2のシリコン層パターニング工程を行うことによって、図9(e)に示す構造を得る。この第2のシリコン層パターニング工程では、第2のシリコン層100bを絶縁層100cに達する深さ(第2の所定深さ)までエッチングする。第2のシリコン層パターニング工程での第2のシリコン層100bのエッチングは、誘導結合プラズマ型のエッチング装置などのように、異方性が高く垂直深堀が可能なドライエッチング装置により行えばよい。また、第2のシリコン層パターニング工程では、絶縁層100cをエッチングストッパ層として利用している。
【0088】
上述の第2のシリコン層パターニング工程の後、SOI基板100の絶縁層100cの不要部分をSOI基板100の上記他表面側からエッチングする絶縁層パターニング工程を行うことでミラー形成基板1を形成する。続いて、第2のレジスト層131および第3のレジスト層132を除去する。その後、ミラー形成基板1と、第1のカバー基板2および第2のカバー基板3とを陽極接合などにより接合する接合工程を行うことによって、図9(f)に示す構造のMEMS光スキャナを得る。
【0089】
上述の接合工程では、ミラー形成基板1のミラー面21を保護する観点から、第1のカバー基板2とミラー形成基板1とを接合する第1の接合過程を行ってから、ミラー形成基板1と第2のカバー基板3とを接合する第2の接合過程を行うことが好ましい。ここで、第1の接合過程では、先ず、第1のガラス基板200に第1の凹部201や各貫通孔202などを形成した第1のカバー基板2とミラー形成基板1とを重ねた積層体を、所定真空度(例えば、10Pa以下)の真空中で所定の接合温度(例えば、300℃〜400℃程度)に加熱した状態で、第1のシリコン層100aと第1のカバー基板2との間に第1のカバー基板2側を低電位側として所定電圧(例えば、400V〜800V程度)を印加し、この状態を所定の接合時間(例えば、20分〜60分程度)だけ保持すればよい。また、第2の接合過程では、上述の第1の接合過程に準じて、第2のシリコン層100bと第2のカバー基板3との陽極接合を行う。なお、ミラー形成基板1と各カバー基板2,3を接合する接合方法は、陽極接合に限らず、例えば、常温接合法などでもよい。また、第1のシリコン層パターニング工程の後に、SOI基板100と第1のカバー基板2とを接合し、その後、第2のシリコン層パターニング工程、絶縁層パターニング工程を行うことでミラー形成基板1を形成し、その後、ミラー形成基板1と第2のカバー基板3とを接合するようにしてもよい。
【0090】
以下、本実施形態のMEMS光スキャナの動作について説明する。
【0091】
本実施形態のMEMS光スキャナでは、例えば、第1の可動電極22および第2の固定電極26が電気的に接続されたパッド13aの電位を基準電位として、第1の固定電極12および第2の可動電極27それぞれの電位を周期的に変化させることにより、可動部20を一対の第1の捩りばね部30,30の軸回りで回動させることができるとともに、ミラー部24を一対の第2の捩りばね部25,25の軸回りで回動させることができる。
【0092】
要するに、本実施形態のMEMS光スキャナでは、対向する第1の固定電極12と可動電極22との間に、可動部20を駆動するためのパルス電圧を一対のパッド13b,13aを介して印加することにより、第1の固定電極12・第1の可動電極22間に静電力が発生し、可動部20がy軸方向の軸回りで回動する。また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、対向する第2の固定電極26と第2の可動電極27との間に、ミラー部24を駆動するためのパルス電圧を一対のパッド13a,13cを介して印加することにより、第2の固定電極26・第2の可動電極27間に静電力が発生し、ミラー部24がx軸方向の軸回りで回動する。しかして、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第1の固定電極12・第1の可動電極22間に所定の第1の駆動周波数のパルス電圧を印加することにより、周期的に静電力を発生させることができ、可動部20全体を揺動させることができ、さらに、第2の固定電極26・第2の可動電極27間に所定の第2の駆動周波数のパルス電圧を印加することにより、周期的に静電力を発生させることができ、可動部20のミラー部24を揺動させることができる。
【0093】
本実施形態のMEMS光スキャナでは、第1の固定電極12・第1の可動電極22間に、可動部20と一対の第1の捩りばね部30,30とにより構成される振動系の共振周波数の略2倍の周波数のパルス電圧を印加することにより、可動部20が共振現象を伴って駆動され、機械振れ角(xy平面に平行な水平面を基準としたときの傾き)が大きくなる。また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第2の固定電極26・第2の可動電極27間に、ミラー部24と一対の第2の捩りばね部25,25とにより構成される振動系の共振周波数の略2倍の周波数のパルス電圧を印加することにより、ミラー部24が共振現象を伴って駆動され、機械振れ角(可動フレーム部23における第1のカバー基板2側の表面に平行な面を基準としたときの傾き)が大きくなる。
【0094】
ところで、本実施形態のMEMS光スキャナを用いるシステムにおいては、MEMS光スキャナを駆動する第1の駆動回路から第1の可動電極22・第1の固定電極12間に印加する駆動用の電圧信号よりなる第1の駆動信号に、当該第1の駆動信号に比べて高周波の検出用の電圧信号よりなる第1の検出用信号を重畳させるようにすれば、固定フレーム部10に対する可動フレーム部23の相対的な位置(機械振れ角)の変化に応じて、第1の可動電極22・第1の固定電極12間の静電容量に変化が生じ、第1の検出用信号に微小な電圧変化が生じるから、第1の可動電極22に電気的に接続されているパッド13aと第1の固定電極12に電気的に接続されているパッド13bとの間の第1の検出用信号を監視することにより、固定フレーム部10に対する可動フレーム部23の機械振れ角を検知することが可能となる。同様に、MEMS光スキャナを駆動する第2の駆動回路から第2の可動電極27・第2の固定電極26間に印加する駆動用の電圧信号よりなる第2の駆動信号に、当該第2の駆動信号に比べて高周波の検出用の電圧信号よりなる第2の検出用信号を重畳させるようにすれば、可動フレーム部23に対するミラー部24の相対的な位置(機械振れ角)の変化に応じて、第2の可動電極27・第2の固定電極26間の静電容量に変化が生じ、第2の検出用信号に微小な電圧変化が生じるから、第2の可動電極27に電気的に接続されているパッド13cと第2の固定電極26に電気的に接続されているパッド13aとの間の第1の検出用信号を監視することにより、固定フレーム部10に対する可動フレーム部23の機械振れ角を検知することが可能となる。
【0095】
要するに、本実施形態では、第1の可動電極22と第1の固定電極12との組、第2の可動電極27と第2の固定電極26との組が、第1のシリコン層100aに形成され電気信号を生成する機能部を構成し、パッド13a,13cが、第1のシリコン層100a上に形成され電気信号を取り出すためのパッドを構成している。
【0096】
ここにおいて、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第1のシリコン層100aのうちパッド13aが形成された島状(ここでは、平面視矩形状)の導電部11adと、パッド13cが形成された島状の導電部11acとを備えている。そして、スリット10aのうち、島状の導電部11ac,11adを囲んでいる部位が、島状の導電部11ac,11adと第1のシリコン層100aにおける当該導電部11ac,11adの周辺部位とを絶縁分離するように第1のシリコン層100aにおける絶縁層100c側とは反対の表面から絶縁層100cに達する第1の分離部10aa,10aaを構成している。したがって、第1の分離部10aa,10aaは、空隙となっている。
【0097】
また、ミラー形成基板1は、パッド13a,13cそれぞれの下方に、第2のシリコン層100bにおける絶縁層100c側とは反対の表面から絶縁層100cに達する第2の分離部10b,10bが形成されている。この第2の分離部10b,10bは、第2のシリコン層100bのうち島状の導電部11ac,11adおよび絶縁層100cとともに寄生コンデンサを構成する部分の面積を低減するように形成されている。図6に示した例では、第2の分離部10b,10bは、第1の分離部10aa,10aaの第2のシリコン層100b側への投影領域に重なるように形成されている。ここにおいて、第1のシリコン層100a側では、第1の分離部10aa,10aaが開ループ状に形成されているのに対して、第2の分離部10b,10bは、閉ループ状に形成されている。また、第2の分離部10b,10bは、空隙となっている。
【0098】
以上説明した本実施形態のMEMS光スキャナでは、島状の導電部11ac,11adと第1のシリコン層100aにおける当該導電部11ac,11adの周辺部位とを絶縁分離するように第1のシリコン層100aに第1の分離部10aa,10aaが形成され、第2のシリコン層100bのうち導電部11ac,11adおよび絶縁層100cとともに寄生コンデンサを構成する部分の面積を低減するように第2のシリコン層100bに第2の分離部10b,10bが形成されているので、第1のシリコン層100aの一部により構成されパッド13c,13aが形成された導電部11ac,11adと第2のシリコン層100bとの間の寄生容量を低減でき、パッド13c,13aから取り出す電気信号のS/N比を向上させることが可能となる。
【0099】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第2の分離部10b,10bが空隙なので、第2の分離部10bが有機絶縁材料(例えば、ポリイミドなど)や無機絶縁材料(例えば、SiOなど)により形成されている場合に比べて、第2のシリコン層100bのうち第2の分離部10bに囲まれた部分と第2の分離部10bの外側の部分との間に形成される寄生容量を低減できる。
【0100】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第2の分離部10b,10bが、第1の分離部10aa,10aaの第2のシリコン層100b側への投影領域に重なるように形成されているので、第2の分離部10b,10bが、第1の分離部10aa,10aaの投影領域に重ならずに、当該投影領域よりも外側に形成されている場合や、当該投影領域の内側に形成されている場合に比べて、寄生容量を低減することが可能となる。
【0101】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、ミラー形成基板1における第2のシリコン層100bの絶縁層側とは反対の表面側に接合された保護基板である第2のカバー基板3を備えているので、ミラー形成基板1に第2の分離部10bを設けたことによる脆弱性を補償することが可能となる。言い換えれば、本実施形態のMEMS光スキャナでは、ミラー形成基板1を第2のカバー基板3により補強することができる。
【0102】
また、本実施形態のMEMS光スキャナでは、第2のカバー基板3が、第2のガラス基板300により構成されているので、デバイス本体であるミラー形成基板1と保護基板である第2のカバー基板3とを陽極接合により容易に接合することができる。
【0103】
ところで、上述のMEMS光スキャナでは、第2の分離部10b、10bを空隙としてあるが、図10に示すように、第2の分離部10b,10bをガラスにより形成してもよく、この場合には、ミラー形成基板1の機械的強度を高めることが可能となる。
【0104】
上記各実施形態では、MEMSデバイスの一例としてMEMS光スキャナについて例示したが、MEMSデバイスは、MEMS光スキャナに限らず、例えば、加速度センサやジャイロセンサ、振動エネルギを電気エネルギに変換する振動式の発電デバイス、圧電層の厚み方向の縦振動モードを利用する共振子を備えたBAW(Bulk Acoustic Wave)共振装置、赤外線センサなどでもよい。
【符号の説明】
【0105】
1 ミラー形成基板(デバイス本体)
3 第2のカバー基板(保護基板)
10aa 第1の分離部
10b 第2の分離部
11ac 導電部
11ad 導電部
13(13a) パッド
13(13b) パッド
13(13c) パッド
22 可動電極(機能部)
100 SOI基板
100a 第1のシリコン層
100b 第2のシリコン層
100c 絶縁層
300 第2のガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のシリコン層と第2のシリコン層との間に絶縁層が介在するSOI基板を用いて形成されたデバイス本体を備え、前記デバイス本体は、前記第1のシリコン層に形成され電気信号を生成する機能部と、前記第1のシリコン層上に形成され前記電気信号を取り出すためのパッドと、前記第1のシリコン層において前記パッドが形成された島状の導電部とを有し、前記導電部と前記第1のシリコン層における前記導電部の周辺部位とを絶縁分離するように前記第1のシリコン層における前記絶縁層側とは反対の表面から前記絶縁層に達する第1の分離部が形成され、前記第2のシリコン層のうち前記導電部および前記絶縁層とともに寄生コンデンサを構成する部分の面積を低減するように前記第2のシリコン層における前記絶縁層側とは反対の表面から前記絶縁層に達する第2の分離部が形成されてなることを特徴とするMEMSデバイス。
【請求項2】
前記第2の分離部が空隙であることを特徴とする請求項1記載のMEMSデバイス。
【請求項3】
前記第2の分離部は、前記第1の分離部の前記第2のシリコン層側への投影領域に重なるように形成されてなることを特徴とする請求項1または請求項2記載のMEMSデバイス。
【請求項4】
前記デバイス本体における前記第2のシリコン層の前記表面側に接合された保護基板を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のMEMSデバイス。
【請求項5】
前記保護基板は、ガラス基板であることを特徴とする請求項4記載のMEMSデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−24897(P2012−24897A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167527(P2010−167527)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】