説明

インバータ装置

【課題】。コントローラが停止原因を特定できるインバータ装置の提供を目的とする。
【解決手段】直流電源に接続されるインバータ回路と、インバータ回路からモータへコントローラが指令する周波数の交流電流を出力させる制御回路と、制御回路用の電圧を制御回路へ出力する制御回路電源と、制御回路電源の温度を検出する温度検出器とを備え、制御回路電源は所定温度にて出力を停止する温度保護機能を備えており、制御回路は、温度検出器の検出温度が上昇し所定温度に接近すると、制御回路電源の温度が所定温度に接近したことをコントローラへ送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コントローラが停止原因を特定できるインバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来実施されているインバータ装置の回路、作動について以下説明する。図4に従来のインバータ装置120とその周辺の電気回路図を示す。運転前に、センサレスDCブラシレスモータ11(以降モータと称す)を構成する磁石回転子5の位置決めが行われる。位置決めは、インバータ装置120からモータ11を構成する固定子巻線4へ直流電流を出力することで行われる。
【0003】
運転時においては、制御回路107が、インバータ回路を構成するスイッチング素子2(IGBT、FET,トランジスタ等が用いられる)を制御することにより、バッテリー1からの直流電圧がPWM変調でスイッチングされ、正弦波状の交流電流がモータ11を構成する固定子巻線4へ出力される。これにより、モータ11が駆動される。ダイオード3は、固定子巻線4に流れる電流の循環ルートとなる。電流検出器106の検出電流値は、制御回路107へ送られ、消費電力算出、スイッチング素子2保護などに用いられ、更には、磁石回転子5の位置推定に用いられる。制御回路電源8は、バッテリー1からの直流電圧を制御回路用に降圧している。スイッチング素子2の温度を検出する温度センサ80は、スイッチング素子2の放熱用ヒートシンクに設置されている。そして、温度センサ80により検出される温度が高いと、インバータ回路の出力を低減、停止するなどの保護を行う(例えば、特許文献1参照)。制御回路107は、運転回転数を指令するコントローラ(図示せず)と、通信線12を介してデータの送受信を行っている。
【特許文献1】特開平8−48140号公報(第7頁、第1図、第8頁、第4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、インバータ装置においては、インバータ回路のスイッチング素子用ヒートシンクの温度が高いと、インバータ回路の出力を低減、停止するなどの保護を行う。このインバータ回路の出力低減、停止状態は、制御回路から通信線を介してコントローラへ送信される。そのため、コントローラは、インバータ装置の状態を把握できる。
【0005】
一方、制御回路電源には、温度上昇した場合、自らの保護のために出力を停止するものがある。制御回路は、制御回路電源の温度が上昇すると、インバータ回路の出力を低減するなどの対処を行うことができ、これをコントローラへ送信できる。然しながら、制御回路電源が出力を停止してしまうと、制御回路は作動しなくなるため、コントローラへ送信できなくなる。そのため、コントローラは、インバータ装置の状態(故障による停止、スイッチング素子温度保護による停止、制御回路電源温度保護による停止:これらの原因区分)を把握できなくなる。
【0006】
本発明はこのような従来の課題を解決するものであり、コントローラが停止原因を特定できるインバータ装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のインバータ装置は、直流電源に接続されるインバータ回路と、インバータ回路からモータへコントローラが指令する周波数の交流電流を出力させる制御回路と、制御回路用の電圧を御回路へ出力する制御回路電源と、制御回路電源の温度を検出する温度検出器とを備え、制御回路電源は所定温度にて出力を停止する温度保護機能を備えており、制御回路は、温度検出器の検出温度が上昇し所定温度に接近すると、制御回路電源の温度が所定温度に接近したことをコントローラへ送信するものである。
【0008】
これにより、制御回路電源の温度が所定温度に達し制御回路が作動しなくなる前に、制御回路がコントローラへ制御回路電源の温度が所定温度に接近したことを送信する。そのため、制御回路電源が出力を停止して、制御回路が作動しなくなり、コントローラへ送信できなくなった時、コントローラはインバータ装置が制御回路電源の温度保護により停止したと判断できる。従って、コントローラがインバータ装置停止の原因を特定できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のインバータ装置は、コントローラがインバータ装置停止の原因を特定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1の発明のインバータ装置は、直流電源に接続されるインバータ回路と、インバータ回路からモータへコントローラが指令する周波数の交流電流を出力させる制御回路と、制御回路用の電圧を制御回路へ出力する制御回路電源と、制御回路電源の温度を検出する温度検出器とを備え、制御回路電源は所定温度にて出力を停止する温度保護機能を備えており、制御回路は、温度検出器の検出温度が上昇し所定温度に接近すると、制御回路電源の温度が所定温度に接近したことをコントローラへ送信するものである。
【0011】
これにより、制御回路電源の温度が所定温度に達し制御回路が作動しなくなる前に、制御回路がコントローラへ制御回路電源の温度が所定温度に接近したことを送信する。そのため、制御回路電源が出力を停止して、制御回路が作動しなくなり、コントローラへ送信できなくなった時、コントローラはインバータ装置が制御回路電源の温度保護により停止したと判断できる。従って、コントローラがインバータ装置停止の原因を特定できる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明のインバータ装置において、電動圧縮機に搭載され当該電動圧縮機のモータを駆動するものである。インバータ装置は電動圧縮機に搭載されるため、当該電動圧縮機タからの熱を受ける。そのため、温度上昇による制御回路の停止をコントローラが特定できる本インバータ装置は有用である。
【0013】
第3の発明は、第1または第2の発明のインバータ装置において、車両に搭載されるものである。車両に搭載されるインバータ装置は、温度環境が厳しい。そのため、温度上昇による制御回路の停止をコントローラが特定できる本インバータ装置は有用である。
【0014】
第4の発明は、第3の発明のインバータ装置において、エンジンに搭載されるものである。エンジンに搭載されるインバータ装置は、エンジンからの熱を受ける。そのため、温度上昇による制御回路の停止をコントローラが特定できる本インバータ装置は有用である。
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。尚、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るインバータ装置20とその周辺の電気回路である。運転前に、モータ11を構成する磁石回転子5の位置決めが行われる。位置決めは、インバータ装置20からモータ11を構成する固定子巻線4へ直流電流を出力することで行われる。
【0017】
運転時について以下説明する。制御回路7は、モータ11を構成する磁石回転子5による固定子巻線4の誘起電圧を演算し、磁石回転子5の位置推定を行う。そして、この位置推定、コントローラ50から通信線12を介して受信する運転回転数指令等に基づき、インバータ回路10を構成するスイッチング素子2を制御し、バッテリー1からの直流電圧をPWM変調でスイッチングすることにより、正弦波状の交流電流をモータ11の固定子巻線4へ出力する。制御回路7は、上アームスイッチング素子U、V、W、下アームスイッチング素子X、Y、Zと、ドライブ回路などを介して接続線18により接続されており、各スイッチング素子を制御している。制御回路電源8は、バッテリー1からの直流電圧を降圧し制御回路7に供給している。電流検出器としてのシャント抵抗6の検出電流値は、制御回路7へ送られ、消費電力算出、スイッチング素子2の保護などに用いられ、更には、磁石回転子5の位置推定に用いられる。
【0018】
次に、コントローラ50によるインバータ装置20停止の原因特定について以下説明する。スイッチング素子2の温度を検出する温度センサ80は、スイッチング素子2の放熱用ヒートシンク(図示せず)に設置されている。そして、温度センサ80により検出される温度が高いと、インバータ回路10の出力を低減、停止するなどの保護を行う。例えば、温度センサ80により検出される温度が80℃に達すると、制御回路7はインバータ回路10の出力を低減させる。それでも、100℃に達すると、制御回路7はインバータ回路10の出力を停止させる。そして、制御回路7は、運転回転数を指令するコントローラ50へ、通信線12を介して、上記温度センサ80により検出される温度ないし出力低減中、出力停止中であることを送信する。これにより、コントローラ50は、インバータ装置20は、スイッチング素子2の温度保護により出力低減中または出力停止中の状態であると判断できる。
【0019】
また、制御回路電源8の温度を検出する温度センサ9は、制御回路電源8の近傍に設置されている。そして、温度センサ9により検出される温度が高いと、インバータ回路10の出力を低減などの保護を行う。例えば、温度センサ9により検出される温度が80℃に達すると、制御回路7はインバータ回路10の出力を低減させる。そして、制御回路7は、運転回転数を指令するコントローラ50へ、通信線12を介して、上記温度センサ9により検出される温度ないし出力低減中であることを送信する。これにより、コントローラ50は、インバータ装置20は、制御回路電源8の温度保護による出力低減中の状態であると判断できる。
【0020】
それでも、温度センサ9により検出される温度が上昇し100℃に接近し98℃に達すると、制御回路7は、温度センサ9の検出温度が所定温度100℃に接近したことをコントローラ50へ通信線12を介して送信する。これにより、コントローラ50は、インバータ装置20は、制御回路電源8の自らの温度保護により出力停止に至ると判断する。そして、温度センサ9により検出される温度が100℃に達すると、制御回路電源8は自らの保護のために出力を停止する。ここで、制御回路7の作動が停止するためコントローラ50との通信が途絶える。従って、コントローラ50は、インバータ装置20は制御回路電源8自らの温度保護により出力停止に至ったと判断する。一方、制御回路7から、温度センサ9の検出温度が所定温度100℃に接近したことがコントローラ50へ通信線12を介して送信されておらずに、制御回路7とコントローラ50との通信が途絶えた場合、故障と判断する。
【0021】
上記のようにコントローラ50は、スイッチング素子2の温度保護による出力停止状態、制御回路電源8自らの温度保護による出力停止状態を把握できる。また、過電流などによる停止状態は、シャント抵抗6の検出電流値により把握できる。それ以外の停止状態は、故障による停止状態と判断する。従って、コントローラ50は、インバータ装置20の停止原因を特定することができる。制御回路電源8及び温度センサ9をプリント基板上に表面実装すれば、制御回路電源8と温度センサ9の相対位置関係の固定、温度検出が容易になる。
【0022】
尚、上記実施の形態において、制御回路電源8は、バッテリー1からの直流電圧を降圧し制御回路7に供給しているが、バッテリー1からの直流電圧に限らず他の電源の電圧でも良い。シャント抵抗6は、電源ラインのプラス側に設けても良い。また、下アームスイッチング素子と電源ラインのマイナス側に設けても良い。電流検出器としては、シャント抵抗に限らず、ホール素子を用いた電流検出器などでも良い。インバータ回路10とモータ11との間に設け、直接モータ電流を検出しても良い。
【0023】
(実施の形態2)
図2に、電動圧縮機40の右側にインバータ装置20を密着させて取り付けた図を示す。金属製筐体32の中に圧縮機構部28、モータ11等が設置されている。冷媒は、吸入口33から吸入され、圧縮機構部28(この例ではスクロール)がモータ11で駆動されることにより、圧縮される。この圧縮された冷媒は、モータ11を通過する際にモータ11を冷却し、吐出口34より吐出される。
【0024】
インバータ装置20は電動圧縮機40に取り付けられるように、ケース30を使用している。発熱源となるインバータ回路部10は、低圧配管38を介して低圧冷媒で冷却される。電動圧縮機40の内部でモータ11の固定子巻線4に接続されているターミナル39は、インバータ回路部10の出力部に接続される。保持部35でインバータ装置20に固定される接続線36には、バッテリー1への電源線と回転数信号を送信するエアコンコントローラ(図示せず)との通信線12がある。
【0025】
インバータ装置20は電動圧縮機40に搭載されるため、当該電動圧縮機40の圧縮機構部28などから熱を受ける。そのため、温度上昇による制御回路7の停止をエアコンコントローラが特定できる本インバータ装置20は有用である。
【0026】
尚、上記実施の形態において、電動圧縮機の圧縮機構部をスクロールとしたが、これに限るものではない。また、圧縮された冷媒がモータを冷却する高圧型について示したが、低圧型でもよい。
【0027】
(実施の形態3)
図3は、本発明のインバータ装置を圧縮機に一体に構成(実施の形態2)し、空調装置に適用して車両60のエンジン70に搭載した一例を示す。インバータ装置一体型電動圧縮機61及び室外熱交換器63、室外ファン62が、車両60の前方のエンジンルーム(乃至モータルーム)に搭載される。一方、車両室内には室内送風ファン65、室内熱交換器67、エアコンコントローラ64が配置されている。空気導入口66から車外空気を吸込み、室内熱交換器67で熱交換した空気を車室内に送風する。
【0028】
車両に搭載されるインバータ装置一体型電動圧縮機61は、車室外にあるため熱環境が厳しい。特に、エンジンに搭載されるインバータ装置は、エンジンからの熱を直接受ける。そのため、温度上昇による制御回路7の停止をエアコンコントローラ64が特定できる本インバータ装置20は有用である。
【0029】
尚、上記各実施の形態において、直流電源をバッテリーとしたが、これに限るものではなく、商用交流電源を整流した直流電源などでもよい。モータをセンサレスDCブラシレスモータとしたが、リラクタンスモータ、誘導モータなどにも適用できる。正弦波駆動に限らず120度通電方式などにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明にかかるインバータ装置は、コントローラがインバータ装置の停止原因を特定できる。そのため、各種民生用製品、各種産業用機器に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態1に係るインバータ装置とその周辺の電気回路図
【図2】本発明の実施の形態2に係るインバータ装置一体型電動圧縮機の断面図
【図3】本発明の実施の形態3に係るインバータ装置を搭載した車両の模式図
【図4】従来のインバータ装置とその周辺の電気回路図
【符号の説明】
【0032】
1 バッテリー
2 スイッチング素子
4 固定子巻線
5 磁石回転子
6 シャント抵抗(電流検出器)
7 制御回路
8 制御回路電源
9 温度センサ(制御回路電源用)
10 インバータ回路
11 センサレスDCブラシレスモータ
12 通信線
20 インバータ装置
40 電動圧縮機
50 コントローラ
60 車両
70 エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源に接続されるインバータ回路と、前記インバータ回路からモータへコントローラが指令する周波数の交流電流を出力させる制御回路と、前記制御回路用の電圧を前記制御回路へ出力する制御回路電源と、前記制御回路電源の温度を検出する温度検出器とを備えたインバータ装置において、前記制御回路電源は所定温度にて出力を停止する温度保護機能を備え、前記制御回路は、前記温度検出器の検出温度が上昇し前記所定温度に接近すると、前記制御回路電源の温度が前記所定温度に接近したことを前記コントローラへ送信するインバータ装置。
【請求項2】
電動圧縮機に搭載され当該電動圧縮機のモータを駆動する請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
車両に搭載される請求項1または請求項2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
エンジンに搭載される請求項3に記載のインバータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−296712(P2009−296712A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145312(P2008−145312)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】