説明

インホイールモータの冷却装置

【課題】車体側からケーシングの内部に潤滑油を供給するときに、被潤滑部に確実に潤滑油を供給することの可能な、インホイールモータの冷却装置を提供する。
【解決手段】ホイール3の内側空間に配置され、かつ、車輪2と動力伝達可能に接続される電動モータ13を収容したケーシング7と、車輪2およびケーシング7を懸架装置8を介して支持する車体12と、ケーシング7の内部7Aに収容され、かつ、ケーシング7の内部に存在する被潤滑部23を潤滑および冷却する潤滑油とを有する、インホイールモータの冷却装置において、車体12に設けられ、かつ、ケーシング7の内部7Aの潤滑油を吸入および吐出するポンプ27と、ポンプ27の吐出口27Bとケーシング7の内部7Aとを接続する第1油路31とが設けられており、第1油路31におけるケーシング7側の開口端31Aが、被潤滑部23よりも上方に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の各車輪毎に電動モータを設け、そのモータを潤滑油により冷却する構成の、インホイールモータの冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用の車輪は懸架装置を介在させて車体により支持されている。また、車輪に動力を伝達する電動モータを、車輪と共に懸架装置により支持する構成のインホイールモータが知られている。このインホイールモータでは、ケーシング内に電動モータを設け、その電動モータの回転軸を車輪に動力伝達可能に接続する構成となっている。この電動モータで力行および回生がおこなわれると、電動モータの温度が上昇するため、ケーシングに潤滑油を供給して電動モータを冷却する冷却機構が提案されている。このようなインホイールモータに用いられる冷却機構の一例が、特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたインホイールモータは、車輪側に電動モータが設けられており、また、車輪に制動力を与えるブレーキ装置も車輪側に設けられている。前記電動モータは、コイルおよび固定子および回転子を有している。この電動モータとブレーキ装置とが配管により接続されており、この配管には第1オイルポンプが設けられている。
【0003】
一方、車体側には、ブレーキペダルおよびラジエータが設けられており、前記ブレーキ装置とラジエータとがブレーキホースにより接続されている。このブレーキホースの途中には、ブレーキペダルの操作に基づいて開閉されるバルブが設けられている。また、車体側にはオイルタンクが設けられており、ラジエータとオイルタンクとが配管により接続されている。このオイルタンクと前記電動機とがブレーキホースにより接続されており、そのブレーキホースには第2オイルポンプが設けられている。そして、電動モータのコイルに電流が流れると、コイルが発熱する点が記載されている。また、ブレーキオイルは、電動モータ、ブレーキ装置、配管、ブレーキホース、ラジエータ内を循環流動し、第2オイルポンプによりオイルタンクから圧送されたブレーキオイルは、ブレーキホースを流動して電動モータに到達する。ここで、ブレーキオイルは主にコイルに接触してこれを冷却する。電動モータから熱を吸収したブレーキオイルは、電動モータの底部に滞留する。滞留したブレーキオイルは、第1オイルポンプにより圧送されて配管を流動してブレーキ装置に達し、さらに、ブレーキホースを流動してラジエータに到達する。ブレーキオイルは、ラジエータで熱を放熱する。放熱により温度の下がったブレーキオイルは、オイルタンクに流動する。なお、車両を制動するためにブレーキペダルが操作されるとバルブが閉じられ、ブレーキオイルの流動が停止されるが、第1オイルポンプは引き続き稼働しているためブレーキ装置の油圧室の油圧が上昇して、車輪の回転が制動される。
【0004】
【特許文献1】特開2005−289158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたインホイールモータの冷却装置では、車体のオイルタンクから供給されたオイルが、ブレーキホース内を流動して電動モータに到達するときに、オイルをコイルに確実に接触させられない場合もあり、その点で改良の余地が残されていた。
【0006】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、車体側からケーシングの内部に潤滑油を供給するときに、被潤滑部に確実に潤滑油を供給することの可能な、インホイールモータの冷却装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、ホイールにタイヤを取り付けた車輪と、前記ホイールの内側空間に配置され、かつ、前記車輪と動力伝達可能に接続される電動モータを収容したケーシングと、前記車輪および前記ケーシングを懸架装置を介して支持する車体と、前記ケーシングの内部に存在する被潤滑部と、前記ケーシングの内部に収容され、かつ、被潤滑部に供給される潤滑油とを有する、インホイールモータの冷却装置において、前記車体に設けられ、かつ、前記ケーシングの内部の潤滑油を吸入および吐出するポンプと、このポンプの吐出口と前記ケーシングの内部とを接続する第1油路とが設けられており、この第1油路における前記ケーシング側の開口端が、前記被潤滑部よりも上方に配置されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の構成に加えて、前記ポンプの吸入口と前記ケーシングの内部とを接続する第2油路と、この第2油路に設けられ、かつ、前記ポンプに吸入される前の潤滑油を冷却するオイルクーラーとを有していることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2の構成に加えて、前記第1油路にバルブが設けられており、前記ケーシングの内部の油温が、予め定められた閾値を越えているか否かを判断する油温判断手段と、前記ケーシングの内部の油温が閾値を越えた場合は、前記ポンプを駆動して前記ケーシングの内部の潤滑油を吸入および吐出させ、かつ、前記バルブを開放する制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2の構成に加えて、前記第1油路にバルブが設けられており、前記ケーシングが前記車体に対して上下方向に振動する時の加速度を判断する加速度判断手段と、前記加速度が閾値を越えた場合は、前記ポンプを駆動して前記ケーシングの内部の潤滑油を吸入および吐出させ、かつ、前記バルブを開放する制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、ケーシングの内部に収容された潤滑油を、車体に設けたポンプにより吸入および吐出し、ポンプから吐出された潤滑油を、第1油路を経由させてケーシングの内部に戻し、被潤滑部を潤滑および冷却することができる。また、第1油路におけるケーシング側の開口端が、被潤滑部よりも上方に配置されているため、潤滑油が重力で落下またはケーシングの内面に沿って(接触して)下降することで、被潤滑部に潤滑油を確実に供給できる。
【0012】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られる他に、ケーシングの内部の潤滑油が第2油路を経由してオイルポンプに吸入される過程で、その潤滑油がオイルクーラーにより冷却される。
【0013】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、ケーシングの内部の油温が閾値を越えた場合は、ポンプを駆動してケーシングの内部の潤滑油を吸入するとともに、ポンプから吐出された潤滑油が第1油路を経由してケーシングに戻される。したがって、ケーシング内部の油温の上昇を抑制でき、被潤滑部を冷却する冷却性能が向上する。
【0014】
請求項4の発明によれば、請求項2の発明と同様の効果を得られる他に、ケーシングが車体に対して上下方向に振動する時の加速度が閾値を越えた場合は、ポンプを駆動してケーシングの内部の潤滑油を吸入するとともに、ポンプから吐出された潤滑油が第1油路を経由してケーシングに戻される。したがって、ケーシングの内部で潤滑油が跳躍または飛散または散乱する場合でも、被潤滑部に潤滑油を確実に供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明のインホイールモータは、車輪を支持する懸架装置が、ストラット形式またはダブルウィッシュボーン形式またはスイングアーム形式またはマルチリンク形式のいずれであっても、この発明を適用可能である。すなわち、左右の車輪が独立して上下方向に動作する、独立懸架装置を用いることが可能である。この発明におけるインホイールモータは、車両の前輪または後輪のいずれにも適用可能である。この発明において、電動モータは、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを兼備したモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この発明におけるケーシングは、箱形状の中空部材であり、電動モータ、回転軸、軸受、潤滑油などを収容する容器である。この発明における油路は、潤滑油が通る経路であり、この油路には、配管、ホース、チューブ、ポート、貫通孔、開口部などが含まれる。
【0016】
つぎに、この発明に係るインホイールモータを有する車両の具体例を、図面に基づいて説明する。図1は車両1の概念図である。車輪2は、環状のホイール3と、そのホイール3の外周に取り付けられたタイヤ4とを有している。このタイヤ4の外周が路面に接触する。車輪2は、前輪または後輪のいずれでもよく、右車輪または左車輪のいずれでもよい。図1では、便宜上、単数の車輪1を示している。前記ホイール3は、車両1の高さ方向に沿って形成された円板形状部5と、円板形状部5の外周に連続して形成され、かつ、ほぼ水平方向に延ばされた円筒部6とを有している。そして、円筒部6の内側にケーシング7が配置されている。このケーシング7は中空の箱形状に構成された容器であり、このケーシング7は、懸架装置8により支持されている。
【0017】
この実施例では、懸架装置8の構成部品としてアッパアーム9およびロアアーム10およびナックルアーム11が示されており、アッパアーム9の一端が、車体12に対して支持軸(図示せず)を中心として揺動可能に接続されている。このアッパアーム9の他端にナックルアーム11の一端が接続され、そのナックルアーム11の他端がケーシング7に接続されている。また、ロアアーム10の一端が、車体12に対して支持軸(図示せず)を中心として揺動自在に接続されており、ロアアーム10の他端が前記ケーシング7に接続されている。さらに、懸架装置8は、ロアアームと車体12との間に配置されたショックアブソーバ(図示せず)およびスプリング(図示せず)を有しており、スプリングにより車体12の荷重が支持されている。
【0018】
前記ケーシング7の内部7Aには前記車輪2との間で動力伝達をおこなう電動モータ13が収納されている。電動モータ13はステータおよびロータを有しており、そのロータと一体回転する出力軸14が設けられており、その出力軸14には駆動ギヤ15が形成されている。また、ケーシング7の内部7Aには回転軸16が設けられており、この回転軸16には従動ギヤ17が形成されている。そして、駆動ギヤ15と従動ギヤ17とが噛合されている。また出力軸14の回転中心となる軸線(図示せず)と、回転軸16の回転中心となる軸線(図示せず)とが平行に、かつ、水平に配置されており、回転軸の16軸線は車輪2の軸線と共通である。さらに、出力軸14の軸線は回転軸16の軸線よりも上方に配置されている。また、回転軸16とホイール3との間の動力伝達経路には減速機18が設けられている。
【0019】
この減速機18は、回転軸16のトルクを増幅してホイール3に伝達する伝動装置であり、減速機18は遊星歯車機構により構成されている。この減速機18は、同軸上に配置されたサンギヤ19およびリングギヤ20と、サンギヤ19およびリングギヤ20に噛合するピニオンギヤ21を、自転、かつ公転可能に支持したキャリヤ22とを、回転要素として有する。つまり、減速機18は、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。そして、サンギヤ19が前記回転軸16と一体回転するように設けられており、リングギヤ20は回転不可能に固定されており、キャリヤ22がホイール3と一体回転する構成である。なお、ケーシング7の内部7Aには、ホイール3および回転軸16および出力軸14を回転可能に支持する軸受(図示せず)が設けられている。
【0020】
つぎに、ケーシング7の内部7Aには被潤滑部23が存在しており、この被潤滑部23を冷却および潤滑する冷却機構について説明する。この被潤滑部23には、通電により発熱する電動モータ13、軸受の摺動部分、ギヤ同士の噛み合い部分などが含まれる。これらの被潤滑部23を潤滑および冷却するオイル(潤滑油)が貯溜されたオイル溜まり24が、ケーシング7の底部に形成されている。また、オイル溜まり24のオイルを吸入して吐出するオイルポンプ25が、ケーシング7の内部7Aに設けられている。このオイルポンプ25は、回転軸16の動力により駆動されてオイルの吸入および吐出をおこなう構成である。このオイルポンプ25としては回転形のオイルポンプ、例えば、歯車ポンプ、ベーンポンプ、ねじポンプなどを用いることが可能である。このオイルポンプ25の吸入管26がオイル溜まり24に浸漬されている。このオイルポンプ25から吐出されたオイルを、前記潤滑油必要部23に供給するオイル供給系統(図示せず)がケーシング7の内部7Aに設けられている。このオイル供給系統は、配管、ケーシング7に形成された孔、ケーシング7の内壁面、ケーシング7の内部7Aに設けられたタンクなどにより構成されている。
【0021】
一方、冷却機構の一部は車体12に設けられている。この車体12にはオイルポンプ27が設けられている。このオイルポンプ27の構造としては回転形のオイルポンプ、例えば、歯車ポンプ、ベーンポンプ、ねじポンプなどを用いることが可能である。このオイルポンプ27は、電動機により駆動されてオイルの吸入および吐出をおこなう。このオイルポンプ27の吸入口27Aと、前記オイル溜まり24とを接続する油路28が形成されている。この油路28におけるオイル溜まり24側の端部28Aは、オイルポンプ25の吸入管26の下端26Aよりも下方に配置されている。より具体的には、ケーシング7の底部に端部28Aが配置されている。
【0022】
また、油路28の途中にはオイルクーラー29が設けられている。このオイルクーラー29は車体12に設けられており、オイルクーラー29は、油路28を通るオイルを冷却する冷却機構である。オイルクーラー29は、空冷式または水冷式あるいは、蒸気圧縮式の冷凍サイクルによるオイルクーラーでもよい。さらに、油路28におけるオイルクーラー29とオイル溜まり24との間には、逆止弁(チェックバルブ)30が設けられている。この逆止弁30は車体12側に設けられているとともに、逆止弁30およびオイルクーラー29は、オイル溜まり24の液面よりも上方に設けられている。この逆止弁30は、油路28におけるオイルの流れ方向を決定するバルブであり、この逆止弁30は、オイル溜まり24のオイルがオイルクーラー29に向けて流れるときに開放される一方、オイルクーラー29からオイル溜まり24に向けてオイルが流れようとすると閉じられる構成である。
【0023】
さらに、オイルポンプ27の吐出口27Bと、前記ケーシング7の内部7Aとを接続する油路31が設けられている。この油路31がケーシング7に接続された開口端31Aは、ケーシング7の内部7Aで最も高い箇所、つまり、電動モータ13のコイルの上端よりも高い箇所に配置されている。この油路31には逆止弁(チェックバルブ)32が設けられている。この逆止弁32は車体12側に設けられている。逆止弁32は、油路31におけるオイルの流れ方向を決定するバルブであり、この逆止弁32は、オイルポンプ27から吐出されたオイルが、ケーシング7の内部7Aに向けて流れるときに開放される一方、油路31内で逆止弁32とケーシング7との間にあるオイルが、オイルポンプ27に向けて流れようとすると閉じられる構成である。
【0024】
さらにまた、油路31における逆止弁32とケーシング7の内部7Aとの間、より具体的には、油路31におけるケーシング7の内部7Aに最も近い箇所にはバルブ33が設けられている。このバルブ33は、油路31からケーシング7内部7Aに供給されるオイルの流量を制御する流量制御弁であり、バルブ33は、ポートの開閉を制御信号により制御することが可能なソレノイドバルブである。なお、油路31における逆止弁32とバルブ33との間の領域は、バルブ33よりも高い位置に配置されている。また、バルブ33は逆止弁32よりも下方に位置している。さらに、上記の油路28,31は、金属製の配管、または、ゴム材料を主体とする可撓性のホース(フレキシブルホース)により形成されている。具体的には、オイル溜まり24とオイルクーラー29とを接続する油路28の一部は、ロアアーム10の形状に倣って、あるいはロアアーム10に接触して取り回されている。また、オイルポンプ27とケーシング7とを接続する油路31の一部は、アッパアーム9およびナックルアーム11の形状に倣って、あるいは接触して取り回されている。なお、アッパーアーム9およびロアアーム10およびナックルアーム11は、車体12に対して揺動するため、その揺動部分には、可撓性を有するホースを用いて油路を構成することが望ましい。
【0025】
さらに、車体12側には電動モータ13に電力を供給する電源(図示せず)が設けられている。電源としては、蓄電装置、例えば、放電および充電をおこなうことのできる二次電池を用いることができる。二次電池は、バッテリおよびキャパシタのいずれでもよい。さらに、電源として、燃料電池を用いることも可能である。この燃料電池は水素と酸素との反応により起電力を生じる発電機である。そして、電源とケーシング7内に設けられた電動モータ13のコイルとが、電気回路により接続されている。さらに、電動モータ13およびオイルポンプ27およびバルブ33を制御する電子制御装置34が、車体12に設けられている。この電子制御装置34には、車速、アクセル開度、オイル溜まり24の温度、シフトポジション、バネ下加速度などを示す信号が入力され、その信号に基づいて電動モータ13およびオイルポンプ27およびバルブ33が制御される。ここで、バネ下加速度について説明する。車両1の走行中に、懸架装置8のスプリングにより荷重が支持されない部品、つまり、ケーシング7および電動モータ13および車輪2などが、車体12に対して上下方向に振動する時の加速度が、バネ下加速度である。このバネ下加速度は、加速度センサにより検知される。なお、図1に示された車輪2を冷却する冷却機構は、各車輪2毎に別個に設けられている。
【0026】
つぎに、この実施例の作用を説明する。前記シフトポジションとして前進ポジション(ドライブポジション)が選択され、かつ、アクセルペダルが踏み込まれて、車両1を前進させる条件が成立すると、電源から電動モータ13に電力が供給される。電動モータ13が電動機として駆動すると、電動モータ13のトルクは、回転軸16および減速機18を経由して車輪2に伝達されて駆動力が発生する。減速機18では、サンギヤ19にトルクが入力されると、固定されているリングギヤ20が反力要素となり、キャリヤ22から出力されたトルクがホイール3に伝達される。このとき、サンギヤ19の回転数に対してキャリヤ22の回転数の方が低回転数であり、減速機18でトルクが増幅される。これに対して、シフトポジションとして後進ポジション(リバースポジション)が選択され、かつ、アクセルペダルが踏み込まれた場合は、電動モータ13の回転方向が、前進ポジションの場合とは逆になる。さらに、車両1の惰力走行時には車両1の運動エネルギを電動モータ13に伝達して回生制御をおこない、発生した電力を蓄電装置に蓄電することも可能である。
【0027】
前記電動モータ13のコイルへの通電、回転軸16の回転などにより、被潤滑部23の温度が上昇し、あるいは摺動部分で摩耗や焼き付きが生じるため、オイル溜まり24のオイルを被潤滑部23に供給して冷却および潤滑する。先に、オイルポンプ27を駆動することなく、ケーシング7の内部7Aを冷却および潤滑する作用を説明する。前記回転軸16の動力でオイルポンプ25が駆動され、オイル溜まり24のオイルがオイルポンプ25に吸入されて、そのオイルポンプ25から吐出される。オイルポンプ25から吐出されたオイルが被潤滑部23に供給されて、被潤滑部23が冷却および潤滑される。
【0028】
つぎに、車体12側に設けられたオイルポンプ27の駆動および停止を含む冷却機構の作用および制御例を、図2のフローチャートに基づいて説明する。まず、各車輪2毎にケーシング7内のオイル溜まり24の油温が監視される(ステップS1)。具体的には、油温センサにより油温が検知される。そして、油温センサにより検知される油温が、予め定められている閾値を越えたか否かが判断される(ステップS2)。この閾値は、ケーシング7内に設けられている部品、例えば、電動モータ13の性能および耐久性、各ギヤおよび軸受の耐久性などを考慮して実験、またはシミュレーションにより求めた値であり、この閾値は電子制御装置34に記憶されている。
【0029】
そして、ステップS2で肯定的に判断された場合は、該当する車輪2を駆動する電動モータ13の性能および耐久性、該当する車輪2のケーシング7内に設けられた各ギヤおよび軸受の耐久性などが低下する可能性がある。そこで、該当するケーシング7のオイル溜まり24のオイルを、オイルクーラー29により冷却してからケーシング7内に戻す制御をおこない(ステップS3)。リターンする。このステップS3では、バルブ33が開放され、かつ、オイルポンプ(O/P)27の作動が開始される。このように、オイルポンプ27が作動されると、オイル溜まり24のオイルが油路28に流れ込んで逆止弁30が開放され、その油路28のオイルがオイルクーラー29により冷却されてからオイルポンプ27に吸入される。このオイルポンプ27からオイルが吐出されると、逆止弁32が開放されて油路31をオイルが流れ、そのオイルがバルブ33を経由してケーシング7の内部7Aに供給される。
【0030】
このケーシング7の内部7Aに供給されたオイルは自重により落下、またはケーシング7の内壁に沿って下降する。このようにオイルが落下、または下降する過程で、電動モータ13のコイルにオイルが直接接触して熱を奪い、コイルが冷却される。また、ギヤ同士の噛み合い部分および軸受の摺動部分が、オイルにより冷却および潤滑される。そして、油路31からケーシング7の内部7Aに供給されたオイルは、オイル溜まり24に戻る。このように、ケーシング7の内部7Aおよび油路28,31に亘ってオイルの循環経路が形成されている。そして、オイル溜まり24の油温が上昇した場合は、そのオイルをケーシング7の外部に取り出してオイルクーラー29で冷却してから、再度ケーシング7内に戻すことができ、被潤滑部23に対する冷却性能が向上する。
【0031】
これに対して、前記ステップS2の判断時点で油温が閾値以下である場合は、ステップS2で否定的に判断されるとともに、バルブ33を閉じ、かつ、オイルポンプ27を停止する制御がおこなわれ(ステップS4)、ステップS1に戻る。つまり、オイル溜まり24のオイルは、オイルポンプ25により吸入および吐出される作用を繰り返し、オイル溜まり24のオイルがオイルクーラー29により冷却されることはない。また、バルブ33は逆止弁32よりも下方に設けられているため、バルブ33が閉じられると、オイルクーラー29により冷却されたオイルが油路31内に保持されて待機し、以後のルーチンでバルブ33が開放されたときに、油路31に保持されていたオイルがケーシング7内に供給される。なお、ステップS1ないしS4の処理は、各車輪2毎に別個におこなうことが可能である。この図2の制御例は請求項3の発明に対応しており、図2に示された機能的手段と、この発明との対応関係を説明すると、ステップS1が、この発明の油温判断手段に相当し、ステップS3が、この発明の制御手段に相当する。
【0032】
つぎに、車体12側に設けられたオイルポンプ27の駆動および停止を含む冷却機構の作用および他の制御例を、図3のフローチャートに基づいて説明する。まず、各車輪2毎に、バネ下加速度が加速度センサにより監視される(ステップS11)。ついで、実際のバネ下加速度が、予め定めた閾値を越えたか否かが判断される(ステップS12)。前記ケーシング7は懸架装置8を介して車体12に支持されており、路面状況により車体12と車輪2とが上下方向に相対移動すると、ケーシング7内でオイルが飛散して、オイル溜まり24の液面が低下する。すると、オイルポンプ25がエアを吸入してしまい、オイルポンプ25から吐出されるオイル量が減少する可能性がある。そこで、オイルポンプ25からエアが吸入されることとなるバネ下加速度の閾値を、シミュレーションまたは実験により求め、かつ、その閾値を電子制御装置34に記憶してあり、ステップS12の判断では電子制御装置34に記憶されている閾値を用いる。
【0033】
そこで、ステップS12で肯定的に判断された場合は、ステップS3の処理をおこないステップS11に戻る。図3のステップS3の処理は、図2のステップS3の処理と同じである。この実施例では、油路28のオイル溜まり24側の端部が、吸入管26の下端よりも下方に配置されているため、ケーシング7が上下方向に振動してオイル溜まり24の液面が低下しても、オイル溜まり24のオイルを、油路28を経由してからオイルポンプ27により吸入し、かつ、油路31からケーシング7の内部7Aに供給することができる。したがって、被潤滑部23に対する冷却性能および潤滑性能の低下を回避できる。また、被潤滑部23における潤滑不足が解消され、動力損失を抑制できる。これに対して、ステップS12の判断時点で、実際のバネ下加速度が閾値以下である場合は、オイルポンプ25によりエアが吸入されることがないため、ステップS12で否定的に判断されてステップS4の処理をおこない、ステップS11に戻る。図3のステップS4の処理は、図2のステップS4の処理と同じである。この図3の制御例は請求項4の発明に対応しており、図3に示された機能的手段と、この発明との対応関係を説明すると、ステップS11が、この発明の加速度判断手段に相当し、ステップS3が、この発明の制御手段に相当する。
【0034】
なお、図2および図3の制御例は並行しておこなってもよいし、いずれか一方の制御例をおこなってもよい。図2および図3の制御例を並行しておこなったときに、いずれか一方の制御例でステップS3に進み、他方の制御例でステップS4に進んだ場合は、ステップS3の処理をおこなえばよい。さらに、図2または図3の制御例のいずれか一方を先におこない、他方を後でおこなうことも可能である。ここで、この実施例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、オイルポンプ27が、この発明のポンプに相当し、油路31が、この発明の第1油路に相当し、油路28が、この発明の第2油路に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明のインホイールモータの冷却装置を示す概念図である。
【図2】図1に示された冷却装置の制御例を示すフローチャートである。
【図3】図1に示された冷却装置の他の制御例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
2…車輪、 3…ホイール、 4…タイヤ、 7…ケーシング、 7A…内部、 8…懸架装置、 12…車体、 13…電動モータ、 23…被潤滑部、 27…オイルポンプ、 27A…吸入口、 27B…吐出口、 28,31…油路、 31A…開口端、 33…バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイールにタイヤを取り付けた車輪と、前記ホイールの内側空間に配置され、かつ、前記車輪と動力伝達可能に接続される電動モータを収容したケーシングと、前記車輪および前記ケーシングを懸架装置を介して支持する車体と、前記ケーシングの内部に存在する被潤滑部と、前記ケーシングの内部に収容され、かつ、被潤滑部に供給される潤滑油とを有する、インホイールモータの冷却装置において、
前記車体に設けられ、かつ、前記ケーシングの内部の潤滑油を吸入および吐出するポンプと、このポンプの吐出口と前記ケーシングの内部とを接続する第1油路とが設けられており、この第1油路における前記ケーシング側の開口端が、前記被潤滑部よりも上方に配置されていることを特徴とするインホイールモータの冷却装置。
【請求項2】
前記ポンプの吸入口と前記ケーシングの内部とを接続する第2油路と、
この第2油路に設けられ、かつ、前記ポンプに吸入される前の潤滑油を冷却するオイルクーラーと
を有していることを特徴とする請求項1に記載のインホイールモータの冷却装置。
【請求項3】
前記第1油路にバルブが設けられており、
前記ケーシングの内部の油温が、予め定められた閾値を越えているか否かを判断する油温判断手段と、
前記ケーシングの内部の油温が閾値を越えた場合は、前記ポンプを駆動して前記ケーシングの内部の潤滑油を吸入および吐出させ、かつ、前記バルブを開放する制御手段と
を備えていることを特徴とする請求項2に記載のインホイールモータの冷却装置。
【請求項4】
前記第1油路にバルブが設けられており、
前記ケーシングが前記車体に対して上下方向に振動する時の加速度を判断する加速度判断手段と、
前記加速度が閾値を越えた場合は、前記ポンプを駆動して前記ケーシングの内部の潤滑油を吸入および吐出させ、かつ、前記バルブを開放する制御手段と
を備えていることを特徴とする請求項2に記載のインホイールモータの冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−227130(P2009−227130A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75601(P2008−75601)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】