説明

エポキシ基含有シリコーン樹脂

【課題】常温でのべたつき及び柔軟性がなく、硬化収縮が少なく、透明性を有し、耐光性に優れ、高温下での黄変の少ないエポキシ基含有シリコーン樹脂、その製造方法及び該化合物の硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】エポキシ当量が200〜1000g/eq.であり、25℃での粘度が500〜1000000mPa・sであり、式(1)で表される組成式を有するエポキシ基含有シリコーン樹脂。SiX(OR2O)a(OR2OH)b(OR1c(3-2a-b-c)/2 (1) 式中、Xは2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、R1はメチル基又はエチル基、R2は炭素数1〜20のアルキレン基を示し、0.5≦a+b<1.5、bは0<b≦0.5、cは0<c≦1.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエポキシ基含有シリコーン樹脂、その製造方法及び該樹脂とカチオン性硬化触媒を含む硬化性樹脂組成物に関する。この硬化性樹脂組成物は、電子材料、例えば発光ダイオード(LED)封止に適しする。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、電気特性、接着性、耐熱性等に優れることから主に塗料分野、土木分野、電気分野の多くの用途で使用されている。特に、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ビスフェノールF型ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂は、耐水性、接着性、機械物性、耐熱性、電気絶縁性、経済性などが優れることから種々の硬化剤と組み合わせて広く使用されている。しかし、これらの樹脂は芳香環を含むことから、紫外線等により劣化しやすく、耐候性、耐光性を求められる分野では使用上の制約があった。
【0003】
青色、白色LED装置の分野においては、芳香族を含むエポキシ樹脂組成物を封止材として使用すると、LED素子から放出される光により樹脂が劣化、経時黄変し、輝度が低下するといった問題が生じている。
【0004】
【特許文献1】特許第3537119号公報
【特許文献2】特許第3415047号公報
【特許文献3】特開平9−213997号公報
【特許文献4】特開2000−196151号公報
【特許文献5】特開2003−277473号公報
【特許文献6】特開平10−110102号公報
【0005】
特許文献1には、芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られる水素化エポキシ樹脂及び硬化剤を含有する電気・電子材料用エポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献2には、芳香族エポキシを水素化して得られる水素化エポキシ樹脂、環状脂肪族エポキシ樹脂及び硬化剤を含有する硬化性エポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献3及び4には、環状オレフィンを酸化して得られる脂環式エポキシ樹脂を配合しエポキシ樹脂組成物が開示されている。特許文献5には、芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られるエポキシ当量が230〜1000g/eq.の水素化エポキシ樹脂又は芳香族エポキシ樹脂を水素化して得られる水素化エポキシ樹脂と多価カルボン酸を反応して得られるエポキシ当量が230〜1000g/eq.のエポキシ樹脂と環状オレフィンをエポキシ化して得られる脂環式エポキシ樹脂、酸無水物硬化剤又はカチオン重合開始剤を含有するLED封止用エポキシ樹脂組成物が提案されている。
【0006】
一方、特許文献6には耐候性に優れるシリコーン化合物を主鎖に持つエポキシ化合物を用いた樹脂組成物が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの樹脂組成物は、耐光性や耐熱性には一定の効果が認められるが、硬化収縮がひどく樹脂が割れるなどハンドリング面に問題があるものや、近年のLEDの高出力化による素子接合部分での発熱による経時黄変や、発光波長の短波長化による劣化には追従し切れておらず、更なる耐熱性、耐光性の改善が求められている。
【0008】
一方、シリコーン化合物を主鎖に持つエポキシ樹脂の多くは、シリコーン骨格に由来する高い可とう性を持つことに加え、エポキシ当量が少なくとも1000g/eq.以上と非常に大きいために、硬化剤を用いて熱硬化性樹脂組成物としたときの架橋密度が低く、多くが軟質である。このため、使用条件での強度が低く、硬化物でありながら表面にべたつき性を生じやすい。また、エポキシ基を有さなくても、一般的なシリコーン化合物の樹脂組成物の多くは表面のべたつき、軟質という特徴を持つ。これら軟質なシリコーン化合物をLED封止材として用いるためには、短所を補うために製造工程でマウンターが封止部分に接触しないような製造方法をとる必要があり、デザインや用途に制限を受ける。また、封止材も多層構造をとるなどの複雑な手法をとる必要があり、量産性や物理的強度にも問題があるのが実情である。そこで、本発明は上記封止材等の用途に適する樹脂組成物、その硬化物、それに使用される新規なエポキシ基含有シリコーン樹脂及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。この結果、特定のエポキシ基含有シリコーン樹脂を、特定のカチオン性硬化触媒を用いて処理すると、常温でのべたつきがなく、強度に優れ、硬化収縮が少なく、透明性を有し、耐光性に優れ、高温下での黄変の少ない硬化性樹脂組成物を与えることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、エポキシ当量が200〜1000g/eq.であり、25℃での粘度が500〜1000000mPa・sであり、式(1)で表される組成式を有し、式(a)で表される結合を有することを特徴とするエポキシ基含有シリコーン樹脂である。
【化1】

(式中、Xは式(b)で表される2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、R1はメチル基又はエチル基を示し、R2は鎖中に脂肪族環を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を示し、0.5≦a+b<1.5、bは0<b≦0.5、cは0<c≦1.5である。)
【0011】
また、本発明は、一般式(2)
SiX(OR13 (2)
で表されるシラン化合物と、
一般式(3)
HO-R2-OH (3)
(式中、R2は鎖中に脂肪族環を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を示す。)で表される第1級アルコールとを、脱アルコール縮合触媒の存在下で、第1級アルコール中のOH基1モルに対してシラン化合物中のアルコキシ基が1.5〜3モルとなる割合で用いて脱アルコール縮合反応させることを特徴とするエポキシ基含有シリコーン樹脂の製造方法である。ここで、X、R1及びR2は式(1)のそれらと同じ意味を有する。
【0012】
上記エポキシ基含有シリコーン樹脂又はエポキシ基含有シリコーン樹脂の製造方法において、1)R1がメチル基であること、2)R2が式(4)で表されるアルキレン基であること、及びエポキシ基含有シリコーン樹脂の製造方法において、3)3官能以上の第一級アルコールを、一般式(2)で表される2価の第一級アルコールに対して0〜30%併用して反応させることは本発明の好ましい態様である。
【化2】

【0013】
更に、本発明は上記エポキシ基含有シリコーン樹脂とカチオン性硬化触媒を含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物又はその硬化物である。上記硬化性樹脂組成物又は硬化物において、カチオン性硬化触媒が、熱カチオン性硬化触媒であること、又はスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート塩骨格を有することは、本発明の好ましい態様である。
【0014】
式(1)で表される組成式を有するエポキシ基含有シリコーン樹脂は、理論上の構造式は式(1a)で表される。
【化3】

【0015】
各Si原子からの3つの結合のうち1つはXと結合し、2つは−OR2O−で表されるネットワークを理論構造上持っている。しかし、実際は未縮合(不完全縮合)反応の結果として、式(2a),(3a)及び(4a)で表される未架橋部位及び未反応部位が存在する。式(1a)〜(4a)において、X、R1及びR2は式(1)のそれらと同じ意味を有する。また、Y1及びY2は、独立に−OR2O−、あるいは−O−を表す。
【0016】
【化4】

【0017】
つまり、Siが酸素結合に関する結合様式として次の4種類がある。
1):「架橋している−OR2O−」
2):「架橋している−O−」
3):「未架橋部位の−OR2OH」
4):「未反応部位の−OR1
この4種類の結合様式は、それぞれ存在する数が異なる。そこで、1)の結合様式をaと、3)の結合様式をbと、4)の結合様式をcとおくと、2)の結合様式は「1.5−a,b,cの変数」で表すことができる。ここで、1.5は(4a)が単独で重合した場合のSi原子1個に対する酸素原子の数である。3)と4)の結合様式は末端部位なので、b,cにかかる係数は等しく、1/2がかかる。1の結合様式はSi原子1つに対して必ず−OR2O−が1つ架橋しているので、係数は2/2がかかる。2)の結合様式は単独架橋の係数1.5から、それぞれの結合様式(2/2)a,(1/2)b,(1/2)cを引いた、{3/2−(2/2)a−(1/2)b−(1/2)c}で表される。
【0018】
本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂は、上記式(1)で表される組成式を有し、上記式(a)で表される結合を有する。そして、本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂は、エポキシ当量が200〜1000g/eq.ある必要があり、好ましくは200〜500g/eq.の範囲である。この範囲にあると、硬化物が硬質であり、耐熱性、透明性、耐UV性に優れる硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0019】
本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂は、25℃における粘度が500〜1000000mPa・s、好ましくは500〜50000mPa・sの液状重合物である。この範囲の粘度であることで、カチオン硬化させた際に十分な硬度を得るに足る硬化性樹脂組成物を得ることができる。25℃における粘度が低すぎると、1分子中のエポキシ基数が少なく、カチオン硬化した際に十分な硬度が得られない。また、粘度が高すぎると、カチオン性硬化触媒を均一に分散することが困難となり、均質な硬化物が得られない。
【0020】
本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂は、式(a)に示すようにSiは最大3個の−OR2O−と結合し、重合することができるが、1個のSiに対する−OR2O−の数は式(1)のaで表される。所望の粘度の樹脂となるためにはaは0.5以上、1.5未満に限定される。好ましくは0.7〜1.3の範囲である。この−OR2O−は式(a)に示す−OR2O−であり、両端はSiに結合するものであり、−OR2OHとして存在する基を含まない。Siの少なくとも一部は末端基となる−OR2OH及びOR1と結合して重合度が制御される。1個のSiに対する−OR2OHの数は式(1)のbで表され、OR1の数は式(1)のcで表される。bは0より大きく0.5以下である必要があり、好ましくは0.001〜0.4の範囲である。cは0より大きく1.5以下である必要があり、好ましくは0.001〜0.5の範囲である。そして、a+bは0.5以上、1.5未満である必要があり、好ましくは0.7〜1.3の範囲である。Oの数は式(1)の(3−2a−b−c)/2で表される。したがって、Oの数は1未満である必要があり、好ましくは0〜0.5の範囲である。なお、式(1)又は式(a)におけるXは式(b)で表される基、すなわち2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を示す。
【0021】
本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂を製造する方法は、限定されるものではないが、次に述べる本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂の製造方法が適する。そこで、本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂の製造方法の説明をしつつ、本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂についても説明するが、それは一例と理解される。
【0022】
本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂の製造方法においては、上記一般式(2)で表されるシラン化合物と一般式(3)で表される第1級アルコールを反応させて脱アルコール縮合反応を生じさせる。一般式(2)、(3)において、X、R1及びR2は、式(1)におけるX、R1及びR2と同じ意味を有する。したがって、一般式(2)、(3)のX、R1及びR2を説明することにより、式(1)が理解される。
【0023】
一般式(2)において、R1はメチル基及びエチル基を表す。このようなR1を有するシラン化合物は、トリクロロシランとメタノールあるいはエタノールを反応させ、ついでビニルシクロヘキセンオキシドを白金触媒下付加反応させることで得ることができるが、これに限定されるものではない。好ましいシラン化合物は、原料入手の容易さ及び合成時のハンドリング面、エポキシ樹脂組成物とした際の物性面から、R1がメチル基であるエポキシ基含有シラン化合物であるが、2種以上を使用することもできる。
【0024】
反応で得られるエポキシ基含有シリコーン樹脂の粘度調整やエポキシ基濃度の調整、硬化物の熱安定性などに変化を与える目的で、上記シラン化合物と共に本発明の効果を損なわない範囲の少量のエポキシ基を有しないシランモノマーやアルコキシ基を2以下有するシラン化合物等の他のシランモノマーを使用することもできる。
【0025】
エポキシ基を持たないシランモノマーとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどの3官能アルコキシシランモノマー、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルトリエトキシシラン、ジイソプロピルトリメトキシシラン、ジイソプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどの2官能アルコキシシランモノマーが挙げられ、必要に応じて2種以上を用いてもよい。
【0026】
エポキシ基を持たないシランモノマーを使用する場合は、シラン化合物と第1級アルコールを反応させる際に投入してもよいし、予めシラン化合物と第1級アルコールを反応させたのち、投入してもよい。
【0027】
一般式(3)において、R2は鎖中に脂肪族環を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を表す。一般式(3)で表される2価の第1級アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの直鎖型第1級アルコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4,4’−ビシクロヘキサンジメタノール、デカリンジメタノールなどの脂肪族環型第1級アルコールなどが挙げられ、その1以上を用いることができる。好ましい第一級アルコールは、経済面と熱硬化性樹脂組成物とした際の物性を考えると、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。
【0028】
本発明の製造方法において、得られるシリコーン樹脂の粘度調整やエポキシ基濃度の調整、カチオン硬化触媒を用いて処理した硬化物の熱安定性などに変化を与える目的で、一般式(3)で表される2価の第1級アルコールと共に、本発明の効果を損なわない範囲で少量の3官能以上のアルコール化合物を1種以上使用してもよい。
【0029】
このような3官能以上のアルコールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、1,3,5−トリヒドロキシメチルシクロヘキサンなどの化合物が挙げられる。
【0030】
3官能以上のアルコール化合物を使用する場合は、2価の第1級アルコールに対して0〜30モル%の範囲とすることがよい。30%を超えると、3官能以上のアルコール化合物とエポキシ基含有アルコキシシランとの縮合反応の寄与が大きくなり、ゲル化を起こす。また、この場合は、シラン化合物と2価の第1級アルコールとを反応させる際に投入しても良いし、予め(A)と(B)を反応させ、その後3官能以上のアルコール化合物を投入してもよい。
【0031】
上記シラン化合物と第1級アルコールとを反応させる方法は、通常のメトキシシリコーンとシラノールの反応と同様、公知の方法で合成することができる。第1級アルコールとシラン化合物のモル比(第1級アルコールのOH基とシラン化合物のアルコキシ基のモル比)は、反応時のハンドリング及び硬化物の耐熱性、耐光性の観点からOH基:アルコキシ基=1:1.5〜1:3.0である。アルコキシ基のモル比が1.5未満である場合、反応中にゲル化が起こやすく反応制御が難しくなり、モル比が3.0を超える場合は、未反応のエポキシ基含有アルコキシシランが多量に残存することに由来し熱硬化後の樹脂がやわらかくなり、べたつきを生じる。また、硬化物の高温環境下での収縮が大きくなり樹脂が割れやすくなるため好ましくない。
【0032】
上記反応は、無溶媒で行うことができるが、必要に応じて、反応に悪影響を与えない希釈溶媒を用いてもよい。この希釈溶媒の例としては、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどの脂肪族ケトン類、ベンゼン、トルエン、オルトキシレン、メタキシレン、パラキシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの脂肪族アミド類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類が挙げられる。これらの有機溶媒は、2種以上を選択して混合溶媒として使用してもよい。
【0033】
上記反応では、脱アルコール縮合触媒を用いることが好ましい。脱アルコール縮合触媒としては、Si原子に結合しているアルコキシ基とアルコール性水酸基が反応して脱アルコールを起こすものであるならば公知のものを採用できる。
【0034】
このような触媒の例としては、オクチル酸錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジマレエート、ジブチルアミンー2−ヘキソエート、ジメチルアミンアセテート、エタノールアミンアセテート、酢酸テトラメチルアンモニウム、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレート等のアルミニウム化合物等が挙げられる。これらの触媒は、2種以上を選択して用いてもよい。
【0035】
上記触媒はそれぞれ単独で、あるいは溶解する溶媒にあらかじめ溶解させておき、しかる後反応系内に投入してもよい。触媒の使用割合は、得られるシリコーン樹脂に対して、通常0.001〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%である。
【0036】
上記反応での温度条件については、特に制限されないが、通常20℃〜200℃、好ましくは50℃〜150℃である。20℃以下では反応が非常に遅く経済的ではない。また、200℃以上になると、エポキシ基を含有するシラン化合物単独での重合が起こり、またアルコール性水酸基とエポキシ基の反応が起こりやすくなり反応制御が難しくなる。
【0037】
この合成反応では、シラン化合物の−Si−O−R1と第1級アルコールの−R2−OHとの縮合反応が起こり、R1OHが副生して、−Si−O−R2−O−Si−O−のような連鎖結合が生じて樹脂が生成する。第1級アルコールの−OHの使用量がシラン化合物のO−R1より少量であるため、−Si−O−R1の一部は反応せずに残り、硬化した樹脂とはならない。そして、副反応として、水とアルコキシシランによるシラノール基の生成およびアルコキシ基とシラノール基の縮合によるSi−O−Si結合の生成、及び水酸基とエポキシ基の付加反応によるエポキシ環開環反応が起こるので、得られる樹脂はこれらを含む混合物となる。しかし、主反応が全体の60モル%以上であることが好ましい。
【0038】
この反応は上記エポキシ当量及び粘度のエポキシ基含有シリコーン樹脂が得られるように反応時間等の条件を調整することがよい。エポキシ当量が1000g/eq.を超える場合は反応時の副反応の影響が大きい場合であり、このようなシリコーン樹脂からは適切な硬度の硬化物が得られない。本発明の製造方法で得られるエポキシ基含有シリコーン樹脂は、式(1)で表される組成式を有する本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂であることが好ましいが、それを主成分とするシリコーン樹脂であってもよく、それに限定されない。
【0039】
本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂は、貯蔵安定性や硬化物の物性改良のために、本発明の効果を損なわない程度で反応後に残留するアルコキシ基を、一価のアルコールやシリル化剤を用いてエンドキャップ(末端処理)してもよい。
【0040】
一価のアルコールとしては、けい素原子に結合したアルコキシ基と反応して脱アルコールするものであれば公知のアルコールを採用できる。例えば、1−ヘキサノール、シクロヘキサンメタノール、シクロヘキサンエタノールなどの第1級モノアルコールの1種以上が挙げられる。
【0041】
シリル化剤としては、けい素原子に結合したアルコキシ基と反応して脱アルコールするものを採用できる。例えば、アルキルシリル化合物のけい素原子にハロゲン基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトリル基、トリフルオロアセチル基、アセトアミド基、トリフルオロアセトアミド基が1つ結合している化合物、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザンなどの1種以上が挙げられる。
【0042】
これら1価のアルコール又はシリル化剤は、シラン化合物と第1級アルコールとを反応させる際に投入し、反応系内で末端処理してもよいし、予め本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂を合成した後で末端処理してもよい。
【0043】
本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂は、エポキシ基と反応性を有する硬化剤と、必要に応じて硬化促進剤、その他の添加剤を配合してエポキシ樹脂組成物とすることができる。このエポキシ樹脂組成物は、熱処理を施すことで、透明性に優れる硬化樹脂を与える。
しかし、有機アミン化合物、ジシアンジアミド及びその誘導体、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール及びその誘導体、ビスフェノールA、ビスフェノールF、臭素化ビスフェノールA、ナフタレンジオール、4,4’−ビフェノールなどの2価フェノール化合物、フェノールやナフトール類とホルムアルデヒドあるいはキシリレングリコール類との縮合反応により得られるノボラック樹脂あるいはアラルキルフェノール樹脂、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、メチル化無水ヘキサヒドロフタル酸、無水ナジック酸、水素化無水ナジック酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの酸無水物化合物、アジピン酸ヒドラジドなどのヒドラジド化合物を硬化剤として適用すると、初期の透明度が高い硬化物が得られはするが、長期にわたる高温環境下、あるいは紫外線照射下で黄変が進行しやすい。よって、本硬化性樹脂組成物を高温環境下、あるいは紫外線照射下で長期にわたり使用される用途について、このような硬化剤を適用することは好ましくない。
【0044】
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明のエポキシ基含有シリコーン樹脂又は本発明の製造方法で得られたエポキシ基含有シリコーン樹脂と、カチオン硬化性触媒とを含む。特に、熱カチオン性硬化触媒を用いることで、耐候性の強い硬化物樹脂組成物を得ることができる。この硬化物は硬化物の初期の透明性が優れるばかりでなく、高温環境下、長時間の紫外線照射下に曝しても初期の透明度をほぼ保持している。また、シリコーン樹脂組成物の多くに見られる表面のべたつき、軟質という性質もなく、ハンドリングの面においても通常のエポキシ樹脂と同等の作業性を有する。
【0045】
熱カチオン性硬化触媒としては、公知のものであれば種々の化合物を適用できる。例えば、スルホニウムカチオン、ヨードニウムカチオンを有する有機カチオン分子と、テトラフルオロほう素アニオン、ヘキサフルオロリンアニオン、ヘキサフルオロひ素アニオン、ヘキサフルオロアンチモンアニオン等のルイス酸性を有するアニオン種で構成されているオニウム塩化合物等が挙げられる。この中で、スルホニウムカチオンを有する有機カチオン分子とヘキサフルオロアンチモンアニオンで構成されているオニウム塩を用いることが望ましい。
【0046】
特に、本発明における熱硬化性樹脂をLED封止用途として使用する際には、酸化防止剤を配合し、加熱時の酸化劣化を防止し着色の少ない硬化物とすることが好ましい。
【0047】
酸化防止剤としては公知のものであれば種々の化合物を適用できる。例えば、2,6−tert−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−tert−ブチル−p−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのモノフェノール類、2,2−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)などのビスフェノール類、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどの高分子型フェノール類、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−tert−ブチル4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのオキサホスファフェナントレンオキサイド類が挙げられる。これらの酸化防止剤は必要に応じて2種類以上を用いてもよい。
【0048】
また、本発明のシリコーン樹脂は、硬化物の硬度などの物性を高めるといった目的で、他の硬化性樹脂システムに配合して使用することもできる。硬化性樹脂システムとして本発明のシリコーン樹脂と共に使用される樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、硬化性アクリル樹脂、硬化性アミノ樹脂、硬化性メラミン樹脂、硬化性ウレア樹脂、硬化性ウレタン樹脂、硬化性オキセタン樹脂、硬化性エポキシ/オキセタン複合樹脂等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらの樹脂と配合する場合、当業者によく知られている条件で、任意の割合で用いることができる。
【0049】
本発明の硬化物は、上記硬化性樹脂組成物を熱硬化させることにより得られる。
【発明の効果】
【0050】
本発明のシリコーン化合物を用いた硬化性樹脂組成物は、常温でべたつき、軟質性を有さず、透明で耐光性、耐熱性、耐硬化収縮性に優れる硬化物を与える。したがって、本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物は、塗料、コーティング剤、印刷インキ、レジストインキ、接着剤、半導体封止材等の電子材料分野、成型材料、注型材料及び電気絶縁材料分野に有用である。特に、LED分野において有用であり、LED封止用硬化性樹脂組成物として優れる。
【実施例】
【0051】
次に、本発明を合成例、実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1
2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(KBM−303:信越化学(株)製)153g(アルコキシ基1.86モル)、1,4−シクロヘキサンジメタノール(SKY CHDM:新日本理化(株)製)67g(OH基0.93モル)、ジブチル錫ジラウレート(関東化学(株)製)0.6gを、温度計、冷却管、窒素導入管、攪拌翼の付いた1Lの4つ口セパラブルフラスコに投入し、攪拌しながらマントルヒーターを用いて内温を110℃まで上昇させ、生成するメタノールを系外へ留出させながら7時間保持し、その後110℃の温度で、5mmHgの減圧下で1時間撹拌した。このようにしてエポキシ基含有シリコーン樹脂Iを186g得た。この化合物の重量平均分子量はポリスチレン換算で1460、25℃での粘度は2500センチポイズ、エポキシ当量は363g/eq.であった。シリコーン化合物IのGPCチャートを図1、IRスペクトルを図2に示す。
【0053】
合成例1
SKY CHDMを38g(OH基0.53モル)用いた以外は実施例1と同様にして反応を行ったところ、重量平均分子量がポリスチレン換算で835、25℃での粘度が401センチポイズ、エポキシ当量は288g/eq.であるエポキシ基含有シリコーン樹脂II170g得た。
【0054】
合成例2
SKY CHDMを92.5g(OH基1.28モル)用いた以外は実施例1と同様にして反応を行った。110℃に到達して4時間後に反応物が軟質な塊と化した。この塊をTHFに24時間浸漬したが大部分が溶解せず膨潤したため、ゲル化したと判断した。
【0055】
実施例2
実施1で得られたエポキシ基含有シリコーン樹脂Iを100重量部に対して、熱カチオン性硬化触媒である、3−メチルー2−ブチルテトラメチレンスルフォニウムヘキサフルオロアンチモネート(商品名:アデカオプトン CP−77 旭電化工業(株)製)を0.2重量部投入、更にオキサホスファフェナントレンオキサイド系酸化防止剤(SANKO−HCA:三光(株)製)0.2重量部添加し、よく混合、真空脱気して金型内で、100℃で4時間、更に140℃で12時間硬化して厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0056】
比較例1
合成例1で得られたエポキシ基含有シリコーン樹脂IIを100重量部用いた以外は実施例2と同様にして厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0057】
実施例3
実施例1で得られたエポキシ基含有シリコーン樹脂I75重量部、リカシッドMH(メチルヘキサヒドロ無水フタル酸:新日本理化(株)製)35重量部(エポキシ基と酸無水物基のモル比=1:1)、SANKO−HCAを0.2部加え、よく混合、真空脱気したのち、硬化促進剤(PX−4ET:日本化学工業(株)製テトラ−n−ブチルホスホニウムo,o’−ジエチルホスホロジチオネート)0.5重量部を添加して、金型内で100℃で4時間、更に140℃で12時間硬化して厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0058】
比較例2
合成例1で得られたシリコーン化合物80部、リカシッドMHを47部に変更した以外は実施例3と同様にして厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0059】
比較例3
シリコーン化合物Iの代わりに3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(商品名:セロキサイド2021P ダイセル化学(株)製)を50部、リカシッドMHを65部を用いた以外は実施例3と同様にして厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0060】
比較例4
セロキサイド2021Pを100部用いた以外は比較例1と同様にして厚さ4mmの樹脂板を作成した。
【0061】
得られた樹脂板状硬化物のガラス転移温度、初期透過度、耐熱性、耐光性、表面のべたつき性、硬度(デュロメータ、typeD)、金型取り外し後の硬化収縮及び耐熱試験後の硬化物の形状変化を表1に示す。
【0062】
硬化物のガラス転移温度(Tg)の測定
硬化物のガラス転移温度をセイコー電子工業(株)製熱応力歪測定装置TMA/SS120Uを用いて測定し、線膨張率の変化した温度をガラス転移温度とした。昇温速度は5℃/分とした。
【0063】
硬化物の初期透過度
日立製作所製自記分光光度計U−3410を用いて、厚さ4mm硬化物の400nmの透過度を測定した。
【0064】
耐熱性の測定
硬化物を空気中で150℃72時間保持したのち、初期透過度と同様にして400nmの透過度を測定した。
【0065】
耐光性の測定
硬化物をQパネル社製耐候性試験機QUVを用いて、600時間UV照射した後の400nmの透過度を、初期透過度と同様にして測定した。QUVのランプにはUVA340nmを用い、ブラックパネル温度は55℃とした。
【0066】
表面のべたつき性
硬化物を室温の状態でポリエチレン製の袋に入れ、表面を接触させたとき、硬化物がポリエチレン製の袋に少しでも張り付いた場合をべたつき性有りと判定した。
【0067】
硬度の測定
テクロック(株)性硬度計デュロメータTYPE−Dを用いて、室温での硬化物の表面硬度を測定した。
【0068】
硬化収縮による硬化物の形状変化の有無
金型を外したとき、硬化収縮による硬化物の形状変化を目視にて判定した。○:金型の形状を保っている。△:金型の形状を保っているが硬化物中にヒビ割れが生じている。×:金型の形状を保たず、樹脂が割れている。
【0069】
耐熱試験後の硬化物の形状変化
上記の耐熱性の測定に用いた硬化物のうち、金型を外した際に初期の形状を保っているものの形状変化を目視にて判定した。○:金型取り出し時の形状を保っている。×:形状を保たず、樹脂が割れている。
【0070】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】シリコーン化合物IのGPCチャート
【図2】シリコーン化合物IのIRスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ当量が200〜1000g/eq.であり、25℃での粘度が500〜1000000mPa・sであり、式(1)で表される組成式を有し、式(a)で表される結合を有することを特徴とするエポキシ基含有シリコーン樹脂。
【化1】

(式中、Xは式(b)で表される2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、R1はメチル基又はエチル基、R2は鎖中に脂肪族環を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を示し、0.5≦a+b<1.5、bは0<b≦0.5、cは0<c≦1.5である。)
【請求項2】
一般式(1)におけるR1がメチル基である請求項1に記載のエポキシ基含有シリコーン樹脂。
【請求項3】
一般式(2)
SiX(OR13 (2)
(式中、Xは2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、R1はメチル基又はエチル基を示す。)で表されるシラン化合物と、
一般式(3)
HO-R2-OH (3)
(式中、R2は鎖中に脂肪族環を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を示す。)で表される第1級アルコールとを、脱アルコール縮合触媒の存在下で、第1級アルコール中のOH基1モルに対してシラン化合物中のアルコキシ基が1.5〜3モルとなる割合で用いて脱アルコール縮合反応させることを特徴とするエポキシ基含有シリコーン樹脂の製造方法。
【請求項4】
3官能以上の第一級アルコールを、一般式(2)で表される2価の第一級アルコールに対して0〜30%併用して反応させる請求項3に記載のエポキシ基含有シリコーン樹脂の製造方法。
【請求項5】
一般式(3)におけるR2が、式(4)
【化2】

で表されるアルキレン基である請求項3又は4に記載のエポキシ基含有シリコーン樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項3又は4に記載のエポキシ基含有シリコーン樹脂の製造方法で得られた請求項1記載のエポキシ基含有シリコーン樹脂。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のエポキシ基含有シリコーン樹脂とカチオン性硬化触媒を含むことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
カチオン性硬化触媒が、熱カチオン性硬化触媒である請求項7に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
カチオン性硬化触媒が、スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート塩骨格を有する請求項7に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−248169(P2008−248169A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93183(P2007−93183)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(000221557)東都化成株式会社 (53)
【Fターム(参考)】