説明

エンジンの始動時制御装置

【課題】この発明は、始めてのエンジン始動時に、エンジンの燃料系に溜まっている空気を、専用部品を設けることなく抜くことができ、システムの簡素化を果たすことを目的とする。
【解決手段】この発明は、燃料噴射弁から噴射される燃料噴射量を制御する燃料噴射制御装置と、前記燃料噴射制御装置に接続してこの燃料噴射制御装置が故障しているかどうかを診断する外部装置と、前記外部装置を前記燃料噴射制御装置に接続し、前記外部装置により前記燃料噴射制御装置の記憶部に、エアパージ実行フラグを記憶させる記憶処理手段と、初めてのクランキング時に、前記燃料噴射制御装置の記憶部にエアパージ実行フラグが記憶されている場合にのみ、エアパージを実行するエアパージ実行手段とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエンジンの始動時制御装置に係り、特に、始めてのエンジン始動時に、エンジンの燃料系に溜まっている空気を、専用部品を設けることなく抜くことができるエンジンの始動時制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるエンジンには、燃料タンクの燃料を燃料配管に圧送し、燃料噴射弁から噴射供給する燃料系を備えているものがある。このような車両の工場ラインでの組み立て後、最初のエンジン始動時は、エンジンの燃料系(燃料タンクから燃料噴射弁までの燃料流路)に空気が溜まっているため、クランキング中に空気が抜けきるまで燃料噴射弁から燃料が噴射されず、クランキングが長引いて始動に時間が必要となる問題がある。また、このような時間を必要とすることから、生産性が低下するという問題が発生している。
【0003】
このような問題への対応策としては、車両組付け後に、燃料タンクから燃料噴射弁までの燃料流路から空気を抜くエアパージ制御を行なう技術として、車両組立後のエンジンが初回始動であることを検出した場合に、燃料噴射弁の開弁時間を強制的に延長するエアパージ制御を行うエンジンの始動時制御装置がある。
【特許文献1】特開平8−100696号公報
【特許文献2】特開2003−20976号公報
【0004】
この始動時制御装置は、車両の工場ラインでの組み立て後、最初のエンジン始動時に有効な技術であり、通常時(燃料タンクから燃料噴射弁までの間の燃料流路が燃料で満たされている場合)に使用すると、オーバーリッチによる失火を起こす可能性があるため、エアパージ実行の時期に注意する必要がある。
【0005】
これらの問題を解決するためのエンジンの始動時制御装置には、所定検査信号を入力する入力端子を設け、この入力端子に所定入力信号を入力した状態で始動した場合は、エアパージ制御を行なうように設定しているものがある。
【特許文献3】特開平8−326583号公報
【特許文献4】特開平9−242582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献3、4に開示されるエンジンの始動時制御装置は、所定検査信号を入力する専用の入力端子を別途に設ける必要があるため、システムの複雑化を招き、コストの上昇を招く問題があった。
【0007】
この発明は、始めてのエンジン始動時に、エンジンの燃料系に溜まっている空気を、専用部品を設けることなく抜くことができ、システムの簡素化を果たすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、燃料噴射弁から噴射される燃料噴射量を制御する燃料噴射制御装置と、前記燃料噴射制御装置に接続してこの燃料噴射制御装置が故障しているかどうかを診断する外部装置と、前記外部装置を前記燃料噴射制御装置に接続し、前記外部装置により前記燃料噴射制御装置の記憶部に、エアパージ実行フラグを記憶させる記憶処理手段と、初めてのクランキング時に、前記燃料噴射制御装置の記憶部にエアパージ実行フラグが記憶されている場合にのみ、エアパージを実行するエアパージ実行手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明のエンジンの始動時制御装置は、エンジンの燃料系に溜まっている空気を抜くエアパージを行うための専用部品を設ける必要がなく、初めてのエンジン始動に必要な時間を短くすることができる。これにより、このエンジンの始動時制御装置は、システムの簡素化に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明のエンジンの始動時制御装置は、初めてのクランキング時に、エアパージ実行フラグが記憶されている場合にのみ、エアパージを実行することで、エアパージを行うための専用部品を設ける必要を無くし、システムの簡素化を果たすものである。
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0011】
図1〜図4は、実施例を示すものである。図1はエアパージ実行フラグ書き込みのフローチャート、図2はエアパージ実行のフローチャート、図3は始動時制御装置を搭載した車両の概略側面図、図4は始動時制御装置のシステムブロック図である。図3において、1は車両、2はエンジン、3は変速機、4は燃料タンク、5は燃料配管、6は燃料噴射弁、7は車輪である。車両1に搭載されたエンジン2は、燃料タンク4の燃料を燃料配管5に圧送し、燃料噴射弁6からエンジン2の吸気ポートや燃焼室に燃料を噴射供給する燃料系を備えている。燃料噴射弁6は、燃料噴射制御装置8により燃料噴射量を制御される。
前記燃料噴射制御装置8は、電子的に記憶されたプログラムにより制御対象を制御する電子制御装置として、車両1に搭載されている。また、車両2には、他の電子制御装置として、例えば変速機3の変速制御装置9等を搭載している。これら燃料噴射制御装置8や変速制御装置9等は、車載ネットワークシステムのシリアル通信線又はCAN(CONTROLLER AREA NETWORK)通信線からなる車内通信線10により接続している。
車内通信線10には、コネクタ装置11の車両側コネクタ12を接続している。車両側コネクタ12には、コネクタ装置11の外部装置側コネクタ13を結合・離脱可能に設けている。外部装置側コネクタ13は、シリアル通信線又はCAN(CONTROLLER AREA NETWORK)通信線からなる車外通信線14により車両1の外部に設けられた外部装置、たとえば故障診断テスタ15に接続している。
【0012】
車内通信線10を介して接続された複数の電子制御装置である燃料噴射制御装置8や変速制御装置9等は、図4に示すように構成される。なお、電子制御装置である燃料噴射制御装置8や変速制御装置9等は、同様に構成されているので、燃料噴射制御装置8を例示して説明する。
燃料噴射制御装置8は、外部装置である故障診断テスタ15との間で車内通信線10によりコネクタ装置11を介してデータ通信を行う通信ポート16を設け、後述の入力処理回路21からの信号に基づいて制御対象である燃料噴射弁6に対する最適制御量を演算し、この演算結果に基づいた制御信号を出力する中央処理装置(CPU)17を設け、制御対象を制御するための制御用のプログラムや情報を格納する不揮発性メモリからなるプログラム記憶部(ROM)18を設け、中央処理装置17が演算を行うための情報を保存する書き換え可能なデータ記憶部(RAM)19を設けてる。
また、燃料噴射制御装置8は、制御用のセンサ(例えば、エンジン回転速度センサ、エンジン水温センサ、バッテリ電圧センサ等)20からの信号を信号入力線21により入力して波形処理する入力処理回路22を設け、中央処理装置17からの制御信号を受けて制御用のアクチュエータである前記燃料噴射弁6に駆動信号を出力信号線23により出力する出力制御回路24を設け、他の電子制御装置である前記変速機制御装置9等との間で車内通信線10によりデータ通信を行う通信ポート25を設け、車両1に搭載された電力を供給する電源26とイグニション信号(IG信号)を入力するイグニションスイッチ27とが接続される電源供給回路28を設けている。
【0013】
前記車両1の電源26は、車両側電源ライン29と車両側グランドライン30とを、コネクタ装置11の車両側コネクタ12に接続している。電源26は、このコネクタ装置11の外部装置側コネクタ13を介して、外部装置側電源ライン31と外部装置側グランドライン32とにより前記故障診断テスタ15に接続される。
故障診断テスタ15は、コネクタ装置11を介して燃料噴射制御装置8や変速制御装置9等に接続されると、電源26から電源を供給されて起動する。故障診断テスタ15は、起動により故障診断機能が動作し、通信ポート16を介して燃料噴射制御装置8や変速制御装置9に接続し、データ記憶部19のデータ保持部(バックアップRAM)33に保存された故障コードDTCや走行状態等の情報から、燃料噴射制御装置8や変速制御装置9が故障しているかどうかを判断する。データ保持部33は、電源オフ時にも、書き込まれた情報の記憶保持が可能なように、電池等から電源を供給される。
【0014】
前記故障診断テスタ15には、記憶処理手段34を備えている。記憶処理手段34は、工場ラインにて故障診断テスタ15を燃料噴射制御装置8に接続し、故障診断テスタ15の故障診断機能によりエアパージ実行フラグを燃料噴射制御装置8に送信し、データ記憶部19のデータ保持部33にエアパージ実行フラグを記憶させる。
また、燃料噴射制御装置8には、プログラム記憶部18にエアパージ実行手段35を備えている。エアパージ実行手段35は、エンジン2の初めてのクランキング時に、燃料噴射制御装置8のデータ記憶部19にエアパージ実行フラグが記憶されている場合にのみ、エアパージを実行する。また、エアパージ実行手段35は、エンジン2の初めてのクランキングの実行後に、エアパージ実行フラグを消去する。
前記燃料噴射弁6を制御する燃料噴射制御装置8と、前記燃料噴射制御装置8を故障診断する外部装置である故障診断テスタ15と、前記燃料噴射制御装置8にエアパージ実行フラグを記憶させる記憶処理手段34と、前記エアパージ実行フラグによりエアパージを実行し、エアパージ実行フラグを消去するエアパージ実行手段35とによって、エンジン2の始動時制御装置36を構成する。
エンジン2の始動時制御装置36は、車両1の工場ラインでの組み立て後、最初のエンジン2の始動時に、エアパージ実行フラグがある場合に、燃料タンク4から燃料噴射弁6までの燃料流路から空気を抜くために、燃料噴射弁6を開弁動作させてエアパージを行ない、エアパージの実行後に、エアパージ実行フラグを消去する。
【0015】
次に作用を説明する。
エンジン2の始動時制御装置36は、図1に示すように、車両1の工場ラインにおいて、故障診断テスタ15を燃料噴射制御装置8に接続すると、制御がスタートし(A01)、故障診断テスタ15から燃料噴射制御装置8のデータ記憶部19のデータ保持部33にエアパージ実行フラグの書き込み要求があったかを判断する(A02)。
この判断(A02)がNOの場合は、この判断(A02)を繰り返す。この判断(A02)がYESの場合は、記憶処理手段34によりエアパージ実行フラグをデータ記憶部19のデータ保持部33に書き込んで記憶(XPURGE=1)させ(A03)、制御を終了する(A04)。
データ記憶部19のデータ保持部33に書き込まれたエアパージ実行フラグは、電源のON・OFF(イグニッションスイッチ27のON・OFF)が行われても、記憶保持される。
【0016】
このエンジン2の始動時制御装置36は、図2に示すように、車両1の工場ラインでの組み立て後において、初めてエンジン2を始動すると、制御がスタートし(B01)、クランキングが開始されたかを判断する(B02)。
この判断(B02)がNOの場合は、この判断(B02)を繰り返す。この判断(B02)がYESの場合は、エアパージ実行フラグがデータ記憶部19のデータ保持部33に記憶(XPURGE=1)されているかを判断する(B03)。
この判断(B03)がYESの場合は、エアパージ制御を実行し(B04)、エンジン2の始動が完了したかを判断する(B05)。
この判断(B05)がNOの場合は、エアパージ制御の実行(B04)に戻る。この判断(B05)がYESの場合は、エアパージ実行手段35によりデータ記憶部19のデータ保持部33に記憶されているエアパージ実行フラグを消去(XPURGE=0)し(B06)、制御を終了する(B07)。
一方、前記エアパージ実行フラグがデータ記憶部19に記憶されているかの判断(B03)がNOの場合は、通常のエンジン1の始動制御を実行し(B08)、制御を終了する(B07)。
【0017】
このように、エンジン2の始動時制御装置36は、故障診断テスタ15を燃料噴射制御装置8に接続し、故障診断テスタ15の記憶処理手段34によって燃料噴射制御装置8のデータ記憶部19にエアパージ実行フラグを記憶させ、エアパージ実行手段35によって、初めてのクランキング時に、燃料噴射制御装置8のデータ記憶部19にエアパージ実行フラグが記憶されている場合にのみ、エアパージを実行する。
これにより、始動時制御装置36は、エアパージ実行フラグによって、車両の工場ラインでの組み立て後の最初のエンジン始動時に、エンジン2の燃料タンク4から燃料配管5を介して燃料噴射弁6に至るまでの燃料系に溜まっている空気を迅速に抜くことができるので、エンジン1の燃料系に溜まっている空気を抜くエアパージを行うための専用部品を設ける必要がなく、初めてのエンジン始動に必要な時間を短くすることができる。このため、このエンジン2の始動時制御装置36は、システムの簡素化に貢献できる。
また、エンジン2の始動時制御装置365は、エアパージ実行手段35によって、初めてのクランキングの実行後に、エアパージ実行フラグを消去している。
これにより、始動時制御装置36は、クランキングを一度でも行うとエアパージ実行フラグを消去して、エンジン始動後に不要となった制御仕様を、自動的に消去することができる。このため、このエンジン2の始動時制御装置36は、消去し忘れによる二回目以降の始動制御に悪影響を与えることがない。
【産業上の利用可能性】
【0018】
この発明のエンジンの始動時制御装置は、専用部品を設ける必要がなく、初めてのエンジン始動に必要な時間を短くすることができ、システムの簡素化に貢献できるものであり、燃料噴射弁を備えたエンジンの電子制御装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例を示すエンジンの始動時制御装置のエアパージ実行フラグ書き込みのフローチャートである。
【図2】実施例を示すエンジンの始動時制御装置のエアパージ実行のフローチャートである。
【図3】実施例を示すエンジンの始動時制御装置を搭載した車両の概略側面図である。
【図4】実施例を示すエンジンの始動時制御装置のシステムブロック図である。
【符号の説明】
【0020】
1 車両
2 エンジン
4 燃料タンク
5 燃料配管
6 燃料噴射弁
8 燃料噴射制御装置
11 コネクタ装置
15 故障診断テスタ
17 中央処理装置
19 データ記憶部
33 データ保持部
34 記憶処理手段
35 エアパージ実行手段
36 始動時制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁から噴射される燃料噴射量を制御する燃料噴射制御装置と、
前記燃料噴射制御装置に接続してこの燃料噴射制御装置が故障しているかどうかを診断する外部装置と、
前記外部装置を前記燃料噴射制御装置に接続し、前記外部装置により前記燃料噴射制御装置の記憶部に、エアパージ実行フラグを記憶させる記憶処理手段と、
初めてのクランキング時に、前記燃料噴射制御装置の記憶部にエアパージ実行フラグが記憶されている場合にのみ、エアパージを実行するエアパージ実行手段とを備えたことを特徴とするエンジンの始動時制御装置。
【請求項2】
前記エアパージ実行手段は、初めてのクランキングの実行後に、前記エアパージ実行フラグを消去することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの始動時制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−79574(P2009−79574A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−251215(P2007−251215)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】