説明

エンジンマウントの変位量計測方法

【課題】高速な振動現象の下にあっても、エンジンマウントのマウント軸として配設されるボルトの中心の3軸並進量、及び、該ボルトの3軸回転量を高精度に算出することができる、エンジンマウントの変位量計測方法を提供する。
【解決手段】ボルト12の一端に配設した検出体34の3次元座標をステレオカメラ33で計測することにより、ボルト12の中心Kの位置座標O及びボルト12の姿勢角を算出するカメラ計測工程と、ボルト12の一端に配設した加速度ピックアップ31で計測したボルト12の3軸加速度を二階積分することにより、ボルト12の3軸変位量を算出する加速度検出具計測工程と、ボルト12の姿勢角に基づいてボルト12の3軸変位量をカメラ座標系における変位量に変換する変位量変換工程と、ボルト12の中心Kの位置座標Oに基づいて加速度検出具計測工程において行う二階積分の初期値を修正する座標修正工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンマウントの変位量計測方法に関し、より詳しくは、エンジンマウントの変位量の計測において、計測精度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの重量を支えるとともに、エンジンからボデーへの振動の伝達を防ぎ、また路面からの入力やエンジン自体が発生するトルク反力によってエンジン本体の姿勢が変化しないようにするため、エンジンをボデーに固定する際にエンジンマウントが用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
前記エンジンマウントは車両のNVH(騒音・振動・ハーシュネス)に大きな影響を与えるため、エンジンマウントがボデーに与えるボデー伝達力を評価することが重要となる。そして、前記ボデー伝達力は、エンジンマウントの動バネ係数と、エンジンマウントの変形量(エンジンマウントの中心の変位量)を計測することによって求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−17877号公報
【特許文献2】特開平6−122325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術における、エンジンマウントの変位量を計測する方法について、図6から図8を用いて説明する。
図6は従来技術に係る第一のエンジンマウントの変位量計測方法について示した図である。図6に示す如く、本方法においては、エンジンマウント本体である防振弾性体に配設される、エンジンマウントのマウント軸であるボルトの上方及び側方に、前記ボルトの軸心に直交する方向(図6中のX軸方向及びY軸方向)にポテンショメータ型の直線変位計を2個配設し、前記直線変位計から延出させたプローブを前記ボルトに当接させる。そして、前記直線変位計で前記ボルトの変位量を計測することにより、エンジンマウントの変位量を計測するのである。
【0006】
しかし、前記方法によれば、エンジンマウントにおけるマウント軸の2次元変位(図6中のX軸方向及びY軸方向の変位)しか計測することができず、また前記マウント軸のねじれ(こじり変形)を計測することもできない。さらに計測の応答性も低いため、高速な振動現象を捉えることはできなかった。
【0007】
図7は従来技術に係る第二のエンジンマウントの変位量計測方法について示した図である。図7(a)に示す如く、本方法においては、エンジンマウントのマウント軸であるボルトの一端に3個の検出体を配設する。そして、ステレオカメラにより前記検出体の3次元座標を計測し、制御装置における演算機能でボルトの変位量を算出することにより、エンジンマウントの変位量を求めるのである。
【0008】
しかし、前記方法によればステレオカメラの撮影周期が大きいため1秒あたりの撮影枚数が少なくなる。このため、図7(b)に示す如く、ステレオカメラによる計測値だけでは実際の変位量を反映させることが困難であり、高速な変位量を高精度に計測することができなかった。
【0009】
図8は従来技術に係る第三のエンジンマウントの変位量計測方法について示した図である。図8(a)に示す如く、本方法においては、エンジンマウントのマウント軸であるボルトの一端に加速度計測具である加速度ピックアップを配設する。そして、該加速度ピックアップでボルトの加速度を計測し、制御装置における演算機能で該加速度を二階積分してボルトの変位量を算出することにより、エンジンマウントの変位量を求めるのである。
【0010】
しかし、前記方法によれば加速度から変位量を算出するため、図8(b)に示す如く、数値積分を二階行う際の積分誤差が時間の経過とともに増大し、変位量を高精度に求めることができなかった。
【0011】
そこで本発明では、上記現状に鑑み、高速な振動現象の下にあっても、エンジンマウントのマウント軸として配設されるボルトの中心の3軸並進量、及び、該ボルトの3軸回転量を高精度に算出することができる、エンジンマウントの変位量計測方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0013】
即ち、請求項1においては、エンジンマウントのマウント軸の一端に配設した、少なくとも3個の検出体の3次元座標をステレオカメラで計測することにより、前記マウント軸の中心の位置座標、及び、前記マウント軸の姿勢角を算出する、カメラ計測工程と、前記マウント軸の一端に配設した加速度検出具で計測した、前記マウント軸の加速度を二階積分することにより、前記マウント軸の変位量を算出する、加速度検出具計測工程と、前記カメラ計測工程で算出した前記マウント軸の姿勢角に基づいて、前記加速度検出具計測工程で算出した前記マウント軸の変位量を、カメラ座標系における変位量に変換する、変位量変換工程と、前記カメラ計測工程で算出した前記マウント軸の中心の位置座標に基づいて、前記加速度検出具計測工程において行う二階積分の初期値を修正する、座標修正工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
本発明により、高速な振動現象の下にあっても、エンジンマウントのマウント軸として配設されるボルトの中心の3軸並進量、及び、該ボルトの3軸回転量を高精度に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るエンジンマウントの変位量計測装置の概要を示した図。
【図2】本発明に係るエンジンマウントの変位量計測方法におけるフローチャートについて示した図。
【図3】本発明に係るエンジンマウントの変位量計測方法のカメラ計測工程及び加速度検出具計測工程について示した図。
【図4】本発明に係るエンジンマウントのボルトの姿勢角を示した図。
【図5】(a)は本発明に係るエンジンマウントの変位量計測方法における変位量計測結果について示した図、(b)は同じく変位誤差について示した図。
【図6】従来技術に係る第一のエンジンマウントの変位量計測方法について示した図。
【図7】(a)は従来技術に係る第二のエンジンマウントの変位量計測方法について示した図、(b)は同じく変位量計測結果について示した図。
【図8】(a)は従来技術に係る第三のエンジンマウントの変位量計測方法について示した図、(b)は同じく変位誤差について示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0018】
[エンジンマウントの変位量計測装置30]
まず始めに、エンジンマウントの変位量計測装置30について、図1を用いて説明をする。
図1に示す如く、エンジンマウントの変位量計測装置30の計測対象であるエンジンマウント10は、主に、ボデーに配設されるブラケット21と、該ブラケット21に設置される防振弾性体11と、エンジンマウント10の固定用のマウント軸であって、前記防振弾性体11の軸心部分に配設されるボルト12と、で構成されている。そして、前記ボルト12と、図示しないエンジンに配設されたブラケットとが連結されることにより、エンジンがボデーに支持されるのである。このような構成により、エンジンマウント10を介してボデーがエンジンの重量を支えるとともに、エンジンからボデーへの振動の伝達を防ぎ、また路面からの入力やエンジン自体が発生するトルク反力によってエンジン本体の姿勢が変化しないようにしている。
【0019】
そして本実施形態においては、図1に示す如く、前記ボルト12の一端に3個の検出体34a・34b・34cが配設されており、ステレオカメラ33・33で前記検出体34a・34b・34cのそれぞれの3次元座標X1・X2・X3を計測可能に構成されている。なお、前記検出体はボルト12の一端に4個以上配設しても差し支えない。
また、前記ボルト12の一端に加速度検出具である加速度ピックアップ31が配設されており、該加速度ピックアップ31でボルト12の3軸加速度(ax、ay、az)を計測可能に構成されている。
【0020】
さらに、前記ステレオカメラ33・33及び加速度ピックアップ31のそれぞれは制御装置32と電気的に接続されており、前記ステレオカメラ33・33及び加速度ピックアップ31で計測された前記検出体34a・34b・34cの3次元座標X1・X2・X3及びボルト12の3軸加速度(ax、ay、az)を前記制御装置32に入力可能に構成されている。
【0021】
前記制御装置32は、入力機能、表示機能、記憶機能、通信機能、及び、各種の演算機能等を備えている。そして、前記演算機能は後述するように、前記検出体34a・34b・34cの3次元座標X1・X2・X3に基づいて前記ボルト12の中心Kの3軸並進量(3次元座標Oの変位量)、及び、前記ボルト12の姿勢角(3軸回転量)(θ、φ、ψ)を算出し、また、ボルト12の3軸加速度(ax、ay、az)を二階積分してボルトの3軸変位量(dx、dy、dz)を算出するのである。
【0022】
[エンジンマウントの変位量計測方法]
次に、本発明の一実施形態に係るエンジンマウントの変位量計測方法について、図2から図5を用いて説明する。
図2に示す如く、本実施形態に係るエンジンマウントの変位量計測方法は、エンジンマウント10のマウント軸であるボルト12の一端に配設した3個の検出体34a・34b・34cの3次元座標X1・X2・X3を、ステレオカメラ33・33で計測することにより、前記ボルト12の中心Kの位置座標O、及び、前記ボルト12の姿勢角(θ、φ、ψ)を算出する、カメラ計測工程(図2中のステップS1、S2)と、前記ボルト12の一端に配設した加速度ピックアップ31で計測した、前記ボルト12の3軸加速度(ax、ay、az)を二階積分することにより、前記ボルト12の3軸変位量(dx、dy、dz)を算出する、加速度検出具計測工程(図2中のステップS3、S4)と、前記カメラ計測工程で算出した前記ボルト12の姿勢角(θ、φ、ψ)に基づいて、前記加速度検出具計測工程で算出した前記ボルト12の3軸変位量(dx、dy、dz)を、カメラ座標系における変位量(x、y、z)に変換する、変位量変換工程(図2中のステップS5)と、前記カメラ計測工程で算出した前記ボルト12の中心Kの位置座標Oに基づいて、前記加速度検出具計測工程において行う二階積分の初期値を修正する、座標修正工程(図2中のステップS6)と、を備える。
【0023】
それぞれの工程について、以下に具体的に説明する。
図3においては、説明の便宜上、前記ボルト12は軸心を上下に向けた状態で図示するものとする。
まず、カメラ計測工程では、図1に示す如く、ステレオカメラ33・33が前記検出体34a・34b・34cで形成される三角形の3点である、3次元座標X1・X2・X3を計測する(ステップS1)。
【0024】
そして、前記制御装置32における演算機能で、前記3次元座標X1・X2・X3に基づいて、前記ボルト12の中心Kの位置座標O、及び、前記ボルト12の姿勢角(θ、φ、ψ)を算出するのである(ステップS2)。
詳細には、前記検出体34a・34b・34cとボルト12の中心Kとの相対的な位置関係は不変であるので、図3のように検出体34a・34b・34cがそれぞれ別の位置に変位し、検出体34a´・34b´・34c´に位置したとしても、新たな3次元座標X1´・X2´・X3´より、新たな中心Kの位置座標を算出するのである。また、図4に示す如く、前記中心Kを原点としたときの、ボルト12軸心のx軸回り、y軸回り、z軸回りそれぞれの回転角を姿勢角(θ、φ、ψ)として算出するのである。
【0025】
一方、加速度検出具計測工程では、前記加速度ピックアップ31で前記ボルト12の3軸加速度(ax、ay、az)を計測する(ステップS3)。
【0026】
そして、前記制御装置32における演算機能で、前記ボルト12の3軸加速度(ax、ay、az)を二階積分することにより、前記ボルト12の3軸変位量(dx、dy、dz)を算出するのである(ステップS4)。
【0027】
次に、変位量変換工程では、前記制御装置32における演算機能で、前記カメラ計測工程で算出した前記ボルト12の姿勢角(θ、φ、ψ)に基づいて、前記加速度検出具計測工程で算出した前記ボルト12の3軸変位量(dx、dy、dz)を、カメラ座標系における変位量(x、y、z)に変換する(ステップS5)。
【0028】
また、座標修正工程では、前記制御装置32における演算機能で、前記カメラ計測工程で算出した前記ボルト12の中心Kの位置座標Oに基づいて、前記加速度検出具計測工程において行う二階積分の初期値を修正する(ステップS6)。詳しくは、前記ステレオカメラ33・33の撮影周期は、前記加速度ピックアップ31による前記ボルト12の3軸加速度(ax、ay、az)の計測周期に比べて大きいので、前記カメラ計測工程でボルト12の中心Kの位置座標Oが算出されるたびに、加速度検出具計測工程において行う二階積分の初期値を修正するのである。
【0029】
本発明によれば前記のように構成することにより、高速な振動現象の下にあっても、エンジンマウント10のマウント軸として配設されるボルト12の中心Kの3軸並進量(3次元座標Oの変位量)、及び、該ボルト12の姿勢角(θ、φ、ψ)を高精度に算出することができる。
【0030】
具体的には、前記のように前記加速度ピックアップ31による前記ボルト12の3軸加速度(ax、ay、az)の計測周期は、前記ステレオカメラ33・33の撮影周期に比べて小さいので、図5(a)に示す如く、ステレオカメラでは計測できなかった実際の変位量を反映して、高速かつ高精度に計測することが可能となるのである。
【0031】
また、前記の如くカメラ計測工程で算出した前記ボルト12の中心Kの位置座標Oに基づいて、前記加速度検出具計測工程において行う二階積分の初期値を修正する構成としている。ステレオカメラ33・33による計測は、該加速度ピックアップ31でボルト12の加速度を計測し、該加速度を二階積分してボルト12の変位量を算出する構成とは異なって誤差が時間の経過とともに増大することはない。このため、図5(b)に示す如く、数値積分を二階行う際の積分誤差をステレオカメラ33・33の撮影周期ごとに補正することにより、該積分誤差を一定周期ごとに、一定範囲に減少させることができるのである。即ち、変位誤差の補正をしない場合に比べて、変位量を高精度に求めることが可能となるのである。
【0032】
また、本実施形態においては、前記カメラ計測工程、前記加速度検出具計測工程、前記変位量変換工程、及び前記座標修正工程を、所定の時刻毎に繰り返すことにより、計測対象である車両の実動状態でリアルタイムにエンジンマウント10の変形特性が計測できる構成としているのである。
【0033】
さらに、前記ボルト12の中心Kの3軸並進量(3次元座標Oの変位量)、及び、該ボルト12の姿勢角(θ、φ、ψ)のデータを前記記憶機能に蓄積する構成としている。これにより、該データをエンジンマウント10の設計、及び、車両のNVH評価へフィードバックすることが可能となるのである。
【符号の説明】
【0034】
10 エンジンマウント
11 防振弾性体
12 ボルト
31 加速度ピックアップ
33 ステレオカメラ
34 検出体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンマウントのマウント軸の一端に配設した、少なくとも3個の検出体の3次元座標をステレオカメラで計測することにより、前記マウント軸の中心の位置座標、及び、前記マウント軸の姿勢角を算出する、カメラ計測工程と、
前記マウント軸の一端に配設した加速度検出具で計測した、前記マウント軸の加速度を二階積分することにより、前記マウント軸の変位量を算出する、加速度検出具計測工程と、
前記カメラ計測工程で算出した前記マウント軸の姿勢角に基づいて、前記加速度検出具計測工程で算出した前記マウント軸の変位量を、カメラ座標系における変位量に変換する、変位量変換工程と、
前記カメラ計測工程で算出した前記マウント軸の中心の位置座標に基づいて、前記加速度検出具計測工程において行う二階積分の初期値を修正する、座標修正工程と、を備える、
ことを特徴とする、エンジンマウントの変位量計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−169595(P2010−169595A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13635(P2009−13635)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】