説明

エンジンマウント構造

【課題】エンジンマウント構造において、車両の低速走行時で、走行風の流速が低い場合でも、走行風をエンジンルーム内に迎え易くし、閉塞感の強いエンジンルーム内の空気流を効果的に循環させ、このエンジンルームの換気を良好とし、これにより、エンジン周囲の温度を低く抑えてエンジン出力向上の阻害要因をなくし、また、ラジエータ自体の放熱効率を上げてラジエータによる冷却水の冷却性能を良くし、更に、排気系付近に位置するエンジンマウントを走行風によって効率良く冷却することにある。
【解決手段】エンジンマウントメンバのメンバ側導風部とエンジンマウントカバーのカバー側導風部とを、エンジンのエンジン本体の側方且つ下方に形成される空間の雰囲気をエンジン本体からの距離に応じて分ける階層構造とするように配設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンマウント構造に係り、特に閉塞感の強いエンジンルームの内部に収納搭載される縦置きエンジンのエンジンマウント付近に導風部を設けるエンジンマウント構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンマウント構造においては、図11に示す如く、フロアの下方に設けた左右一対のサイドフレームを繋ぐように配設されたエンジンマウントメンバ202に、エンジンを弾性支持するエンジンマウントとしての左側エンジンマウント204を設け、この左側エンジンマウント204の上側には、エンジンのエンジン本体からの熱を遮断するエンジンマウントカバー206を設け、このエンジンマウントカバー206をエンジン本体の左側面に取り付けたエンジンマウントブラケット208に支持させている。
【0003】
また、キャブオーバ型車両のエンジンルームにあっては、キャビンのフロアを上方に突出するようにへこませて形成しているので、風の通り抜けが悪く、車両の低速走行時には熱がこもり易い。また、エンジンのシリンダ軸線を水平に近づくようにエンジンを傾斜させた場合に、該エンジンにおいては、排気側が吸気側より低くなるように配設される。これは、エンジンの全高を抑えることで、乗員の利便性を得やすさにつながるエンジンルームの高さを抑えることにも寄与するが、走行風が流れる車両の底面側に排気系を臨ませることによって、走行風によって冷却し易くし、熱をこもりにくくしている。一方、車両においては、快適性等の様々な要望によって車体が大きく且つ重くなる傾向があり、その重い車体に見合うようなエンジンの出力向上も必要となるため、その阻害要因となるエンジン周囲の温度を極力低く抑えようとしている。
【0004】
従来、エンジンマウント構造には、縦置きエンジンのエンジンマウントとしての前側マウント付近に導風部を設けたものがあり、つまり、エンジンマウントブラケットに導風部を設け、この導風部により走行風を上方に導き上げることで、エンジンルーム全体を換気しようとするものがある。
また、エンジンマウント構造には、エンジンマウントブラケットを車両の中央側に配設することなく、エンジンマウントメンバやエンジンマウントブラケットとの間に十分なクリアランスを確保して過給機を取り付けたものがある。
更に、エンジンマウント構造には、キャブオーバ型車両において、アンダカバーの前部で且つマウント用防振ゴムの前方部位に切り欠きを形成し、アンダカバーとエンジンの点火プラグとの高さ方向中間部位に略水平で副アンダカバーを配設したものがある。
【特許文献1】特開2000−168372号公報
【特許文献2】特開平10−280967号公報
【特許文献3】実開平3−121988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、キャブオーバ型車両のエンジンマウント構造においては、車両の走行速度がある程度高い場合に、走行風の流速が高いので、エンジンルームの換気が良好になり、ラジエータ自体の放熱効率も上がることもあって、ラジエータによる冷却水の冷却性能が非常に良いものである。
しかし、車両の低速走行時には、走行風の流速自体が低いため、エンジンルーム内で空気流の循環が漫然として良好な換気にならず、エンジン周囲の温度を下げることができず、また、ラジエータ自体の放熱効率も下がることもあって、ラジエータによる冷却水の冷却性能が悪くなる。よって、閉塞感の強いエンジンルーム内を換気するように空気流を大きくうねらせることは、弱い走行風では困難になり、改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、車両のフロア内にエンジンルームを形成し、このエンジンルームの内部に収納搭載される縦置きエンジンのエンジンマウント付近に導風部を設けるエンジンマウント構造において、前記フロアの下方に設けた左右一対のサイドフレームを繋ぐようにエンジンマウントメンバを配設し、このエンジンマウントメンバに前記エンジンマウントを設け、前記エンジンマウントの下方にある前記エンジンマウントメンバにメンバ側導風部を設ける一方、前記エンジンマウントの上方にあるエンジンマウントカバーにはカバー側導風部を設け、前記メンバ側導風部と前記カバー側導風部とを、前記エンジンのエンジン本体の側方且つ下方に形成される空間の雰囲気を前記エンジン本体からの距離に応じて分ける階層構造とするように配設したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明のエンジンマウント構造は、車両の低速走行時で、走行風の流速が低い場合でも、走行風をエンジンルーム内に迎え易くし、閉塞感の強いエンジンルーム内の空気流を効果的に循環させ、このエンジンルームの換気を良好とし、これにより、エンジン周囲の温度を低く抑えてエンジン出力向上の阻害要因をなくし、また、ラジエータ自体の放熱効率を上げてラジエータによる冷却水の冷却性能を良くし、更に、排気系付近に位置するエンジンマウントを走行風によって効率良く冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明は、閉塞感の強いエンジンルームの換気を良好にすることを、エンジンマウントメンバに設けたメンバ側導風部とエンジンマウントカバーに設けたカバー側導風部とによって実現するものである。
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を詳細且つ具体的に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1〜図8は、この発明の第1実施例を示すものである。
【0010】
図7、図8において、2はキャブオーバ型の車両、4は車体ボディ、6はダッシュパネル、8はフロア、10はフロア8内に形成されたエンジンルーム、12Lはフロア8の下方に設けられた左サイドフレーム、12Rはフロア8の下方で左サイドフレーム12Lに対峙して設けられた右サイドフレーム、14F・14Fは前輪、14B・14Bは後輪である。
【0011】
車体ボディ4の前部には、ヘッドランプ16が取り付けられている。
【0012】
フロア8は、車両2の前部側で上方に突出したフロアセンタトンネル18を形成し、また、フロントフロア20と、リアロアフロア22と、上方に突出したリアアッパフロア24とを備えている。フロントフロア20とリアロアフロア22との間には、上方に突出してエンジンルーム10を形成するエンジンルームパネル26が設けられている。このフロントフロア20とリアロアフロア22とは、左サイドフレーム12L・右サイドフレーム12Rの上端面と略同じ高さ位置に配設されている。
【0013】
このフロア8は、エンジンルームパネル26の前側壁面からダッシュパネル6の下部に繋がる通風路18Aをフロントセンタトンネル18で形成し、また、エンジンルーム10の車両前方近くでは、車両2の中心2Cから車両幅方向外側に向かって高さが低くなる階段状のフロア面としている。フロントセンタトンネル18は、車両2の中心2Cを通り、この中心2Cに対して、より高い放熱源となる排気系側が位置する車両左側が車両右側よりも広く形成されている。このフロントセンタトンネル18は、その幅が左右一対の左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとの間の幅よりも狭く設定され、この左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとの間に挟まれる空間と協働して大きな通風路18Aを形成している。この通風路18Aの内部には、通路断面積を損なわないように、各種配管等の部品が配索される。
【0014】
左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとは、車両2の前部側から順次に、前部メンバ28とサブフレーム(サスペンションメンバ・ラジエータサポートメンバ)30と前側クロスメンバ32と中間側クロスメンバ34とで繋がれている。
【0015】
エンジンルーム10は、上側がエンジンルームパネル26で形成され、図8に示す如く、平面視で、エンジンルーム外形線10Mとエンジンルーム上部開口線10Nとによって所定の形状に形成され、後述のように、エンジン36が傾斜して配設されることにより閉塞感の強いものである。
【0016】
このエンジンルーム10を形成しているエンジンルームパネル26の前側壁面のうち、排気系側が位置する車両左側の面が、吸気側の位置する車両右側の面よりも車両2の前側にずれて位置(偏倚)しており、これにより、エンジンルーム10としての空間を大きくし、より多くの冷却空気、冷却風を取り込めるものである。
【0017】
このエンジンルーム10の内部には、縦置きのエンジン36が収納搭載されている。このエンジン36は、図1に示す如く、エンジン本体38がシリンダブロック40とシリンダヘッド42とにより構成され、傾斜して車両2に設置される。
【0018】
シリンダヘッド42には、図7、図8に示す如く、車両幅方向左側で、排気パイプ44を接続した排気マニホルド46が車両後方に延びて取り付けられているとともに、下側にオイルクーラ48とオイルフィルタ50とが取り付けられている。排気マニホルド46の周囲には、断熱する目的の排気マニホルドカバー52が上下から挟持するように設けられている。
【0019】
また、このエンジン36には、後部位で、変速機54とトランスファ56とが順次に連結されている。このエンジン36と変速機54とトランスファ56とは、一体的に結合されてパワーユニット58を構成し、フロア8の下方で且つ左右一対の左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとの間に設置される。
【0020】
トランスファ56には、フロントプロペラシャフト60とリアプロペラシャフト62とが接続している。このリアプロペラシャフト62は、リア差動機64に接続している。このリア差動機64には、後輪14B・14Bを取り付けたリアアクスル軸66が設けられている。
【0021】
フロントプロペラシャフト60と左サイドフレーム12Lとの間には、中間側クロスメンバ32の下方で車両後方に延びる前記排気パイプ44が配設される。
【0022】
車両2の前部においては、左サイドフレーム12Lと車両幅方向左側の前輪14Fとの間に左側緩衝装置68Lが配設されているとともに、右サイドフレーム12Rと車両幅方向右側の前輪14Fとの間に右側緩衝装置68Rが配設され、また、サブフレーム30よりも車両前方側にラジエータ70が配設され、更に、サブフレーム30と前側クロスメンバ30との間にフロント差動機設置用スペース72が形成されている。サブフレーム30は、前輪14F及びラジエータ70を懸架するように設けられている。
【0023】
また、左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとは、サブフレーム30と中間側クロスメンバ34との間で、車両幅方向に延びるエンジンマウントメンバ74で繋がれている。
【0024】
このエンジンマウントメンバ74は、図3〜図6に示す如く、車両幅方向に延びる略水平な中央保持部76と、この中央保持部76の車両左側の端部位で車両幅方向左側の上方に傾斜して延びる左側傾斜部(立ち上がり部)78と、この左側傾斜部78の先端で略水平に延びる左側取付部80と、中央保持部76の車両右側の端部位で車両幅方向右側の上方に傾斜して延びる右側傾斜部(立ち上がり部)82と、この右側傾斜部82の先端で略水平に延びる右側取付部84とから形成されている。
【0025】
このエンジンマウントメンバ74は、傾斜したエンジン本体38の下部を支持するように、左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとの離間する全幅にわたって略U字形状に形成されている。このエンジンマウントメンバ74において、車両幅方向に延出する中間部の中央保持部76は、左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rの下端面に取り付けられる両端部の左側取付部80、右側取付部84よりも低い位置となり、車両2の底面に面する構成部材の中でも、最も下方側に位置している。
【0026】
右側傾斜部82の上面には、右側メンバマウントブラケット86が固設されている。また、左側取付部80には、左側取付孔88・88が形成され、また、右側取付部84には、右側取付孔90・90が形成されている。
【0027】
また、このエンジンマウントメンバ74は、図1に示す如く、左側取付部80、右側取付部84が、下方からの下側クッション材92及び取付ボルト94と、上方からの上側クッション材96及びカラー材98とによって左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rに取り付けられている。
【0028】
更に、このエンジンマウントメンバ74は、図3、図4に示す如く、中央保持部76の上面で下方に窪んだエンジン用逃げ部100とプロペラシャフト用逃げ部102とが形成されている。
【0029】
また、このエンジンマウントメンバ74には、図1、図3に示す如く、前縁面に、左側傾斜部78に対応するとともに、この左側傾斜部78の車両幅方向外側に延出するように左側取付部80に対応し且つ下側から上側で車両後方に傾斜するメンバ側導風部104が設けられている。エンジンマウントメンバ74のメンバ側導風部104が設けられた部位は、図2に示す如く、断面がハット形状に形成されている。
【0030】
このメンバ側導風部104は、板状部材からなり、走行風を下方から上方に導くものであり、エンジンマウントメンバ74の左端部から中間部位にかけて立ち下がる左側傾斜部78の高低差を利用して設けられている。また、この板状部材からなるメンバ側導風部104は、表面の法線が斜め前上方に指向するだけでなく、車両2の反対側方向にも斜めに延長して指向し、全体としては、エンジンマウントメンバ74の左端部から左側傾斜部78にかけて連続した湾曲面に形成されている。
【0031】
パワーユニット58は、エンジンマウント機構106によって車両2に弾性支持される。このエンジンマウント機構106は、エンジンマウントメンバ74の車両幅方向左側でエンジン36の車両左側を支持する左側マウント部108と、エンジンマウントメンバ74の車両幅方向右側でエンジン36の車両右側を支持する右側マウント部110と、変速機54の後端上側を支持する後側マウント部112とからなる。
【0032】
左側マウント部108は、シリンダブロック40の排気側の下方で、排気系の排気パイプ44及び排気マニホルド46が存在する部位を支持するものであり、左側傾斜部78の上面に接して設けられるエンジンマウントとしての左側エンジンマウント114と、この左側エンジンマウント114を上方から覆うエンジンマウントカバー116とを備えている。このエンジンマウントカバー116は、エンジン36の車両左側の側面に取り付けられた左側エンジンマウントブラケット118に連結される。
【0033】
左側エンジンマウント114は、左側傾斜部78に対応して設置されるものであり、この左側傾斜部78に係止される一側係止ピン120−1Aを有する一側保持部120−1と、エンジンマウントカバー116を介して左側エンジンマウントブラケット118に係止される他側係止ピン120−2Aを有する他側保持部120−2との間に、ゴム材等からなる弾性体122を介設して構成されている。この弾性体122は、図2に示す如く、車両前側に前側面部124Fを形成しているとともに、車両後側に後側面部124Bを形成している。よって、この左側エンジンマウント114は、そのレイアウト上、排気系の排気パイプ44及び排気マニホルド46からの熱の影響を受け易いものである。
【0034】
エンジンマウントカバー116は、排気パイプ44等の排気系からの熱を遮断するとともに、下方からの走行風を左側エンジンマウント114の弾性体122側に導くものであり、左側エンジンマウント114の上面を覆う中間部126と、この中間部126の一側で車両前方側に連設され且つ前側下方に傾斜する前方カバー側導風部128と、中間部126の他側で車両後方側に連設された後方カバー側導風部130とを備え、エンジンマウントメンバ74のメンバ側導風部104よりも車両幅方向内側に位置し、且つ、水平よりエンジン本体38の傾斜に沿うように傾斜して設けられている。このエンジンマウントカバー116には、車両前後方向に指向した複数列のリブ116Aが形成されている。これにより、左側マウント部108においては、エンジンマウントカバー116が、車両底面下方の風の流れと車両側方の風の流れとに跨って臨むように傾斜し、エンジン36側の雰囲気、特に、排気マニホールド46の周囲の雰囲気と左側エンジンマウント114の周囲の雰囲気とを、車両前後方向の走行風の流れを妨げないようにしつつ区画している。
【0035】
また、図1、図2に示す如く、エンジンマウントカバー116の前方カバー側導風部128の前端縁部128E及び後方カバー側導風部130の後端縁部130Eは、エンジンマウントカバー116の中間部126に比べて、車両前方向及び車両後方向に延出し、エンジンマウントメンバ74を中心とする仮想円弧線74Gに沿うように下方側に折り曲げて形成される。また、この前端縁部128E及び後端縁部130Eは、風の流れを区画するだけではなく、集熱及び放熱板の機能を果たし、また、走行風をエンジンマウントメンバ74の周りについて曲線を描いて流れるように緩やかに案内して整流するとともに、シリンダブロック40付近のオイルフィルタ50の交換の作業等も容易とする。この場合に、図2に示す如く、前方カバー側導風部128は、メンバ側導風部104と略平行にして斜めに傾いて形成され、また、後方カバー側導風部130は、左側エンジンマウント114の弾性体122の後側面部124Bに対応し且つ該後側面部124Bと略平行で下方に向かって形成されている。これにより、走行風の弱い流れの場合には、エンジンマウントカバー116の形状変更によって区画形成することにより、比較的少ない走行風の流量でも、確実に空気流の流れを生じさせて走行風を循環させ、左側エンジンマウント114側に部分的に温度の低い領域を形成し、相対的に高いエンジンルーム10側の温度の熱を熱伝導で奪わせることで、比較的に全体の温度を下げることができるものである。
【0036】
従って、エンジンマウントメンバ74のメンバ側導風部104とエンジンマウントカバー116の前方カバー側導風部128及び後方カバー側導風部130とは、エンジン36のエンジン本体38の側方且つ下方に形成される空間Sの雰囲気をエンジン本体38からの距離に応じて分ける階層構造132とするように配設される。この階層構造132は、走行速度が高いときに、走行風の強い流れによってエンジンルーム10の全体にわたって換気し、一方、走行速度が低く、走行風の弱い流れの際には、上記の熱伝導を併用して、効率良くエンジンルーム10内の雰囲気温度を低くすることができる。
【0037】
また、エンジンマウントメンバ74を取り付けるサイドフレームである左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rの車両幅方向外側には、この左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rの上端面よりも低い位置で、具体的には、左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rの下端面と略同じ高さ位置で、略水平に延びる面部として、左フロントステップフロア134L、右フロントステップフロア134Rが設けられる。これは、左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rよりも車両幅方向外側のフロア8をステップ用フロア面(面部)として下げて設けたものであ。一般的に、ラダーフレーム上に形成されるフロア8は、左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rの上面に載置されるので、底面の構造が起伏の激しい形状になり、風の流れを大きく乱してしまう場合がある。そこで、このような影響を低減する構造として、この実施例においては、左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rの下端面と略同じ位置に、ステップ用フロア面として、左フロントステップフロア134L、右フロントステップフロア134Rを設けている。
【0038】
また、この左フロントステップフロア134L、右フロントステップフロア134Rは、エンジンルーム10よりも車両前方側に延出され、また、サブフレーム30とエンジンマウントメンバ74との間に対応する位置に配設され、後部がエンジンルーム10の側方に重なるように、車両2の前部が前輪14F・14Fのホイールハウスの後下部に至るように車両前後方向に長く形成され、車両幅方向も左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rの側面下部から車体のアウタパネルまで至るように広く、略平坦に形成され、走行風の流れを、巻き込みによる渦の発生といった乱れを抑止することで、整流するものである。
【0039】
車両2の前部においては、左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとを挟んで車両2の内側には、左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとの下方にわたって位置するカバー部材として、リアスプラッシュガード136が設けられている。このリアスプラッシュガード136は、エンジンルーム10の下方より直前方で、水平に延出され、前輪14F及びラジエータ70を懸架するサブフレーム30の後部と、左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rとを覆うように設けられている。
【0040】
従って、左フロントステップフロア134L、右フロントステップフロア134Rは、エンジンルーム10よりも車両前方側に延出する一方、左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとを挟んで車両2の内側には、左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとの下方にわたって設けられるカバー部材としてのリアスプラッシュガード136が設けられる。このリアスプラッシュガード136は、エンジンルーム10の下方より直前方であり、その側方且つ外方では、左フロントステップフロア134L、右フロントステップフロア134Rが重なっていることで、全体としてエンジンルーム10の車両前方をC字形状に囲むような略平坦面を連続的に形成する。これにより、左サイドフレーム12Lと右サイドフレーム12Rとの離間した幅が変化しても、起伏の少ない面が繋がっていることで、上述したような走行風の整流効果を生み、この整流効果は、高速走行時に、走行抵抗を減らし、燃費の向上や騒音の低減を図るものである。
【0041】
また、このリアスプラッシュガード136よりも車両前方で、該リアスプラッシュガード136から離間したサブフレーム30とラジエータ70との間に、フロントスプラッシュガード138が設けられている。
【0042】
これらリアスプラッシュガード136、フロントスプラッシュガード138は、水や土石等の異物から車両2の各部を保護するだけでなく、その上方のフロントセンタトンネル18に面する通風路18Aと、その下方の車両下方を流れる走行風とを分ける機能も有する。
【0043】
また、左サイドフレーム12L、右サイドフレーム12Rの車両幅方向外側には、中間側クロスメンバ34よりも車両後方に位置して左リアステップフロア140L、右リアステップフロア140Rが設けられている。
【0044】
右側マウント部110は、図1に示す如く、右側傾斜部82の上面に接して設けられる右側エンジンマウント142を備えている。この右側エンジンマウント142は、詳述しないが、前記左側エンジンマウント114と同様に構成され、エンジン36の車両右側に取り付けられた右側エンジンマウントブラケット144に連結され、エンジン36の右側を弾性支持している。
【0045】
後側マウント部112は、図1に示す如く、変速機54の後端部位を弾性支持するリアマウント146を備えている。このリアマウント146は、連結ブラケット148を介して変速機54の後端部位の上方に取り付けられるとともに、リアマウントブラケット150を介して車体側に連結される。
【0046】
次に、この第1実施例の作用を説明する。
【0047】
図2に示す如く、エンジンマウントカバー116にあっては、上方のエンジン36の排気系からの熱を遮断して左側エンジンマウント114を保護するとともに、前方カバー側導風部128により、エンジンマウントメンバ74のメンバ側導風部104との間に空間Sを形成し、車両前方からの走行風を逃がさず、取り入れる効果を生じさせる。そして、この走行風を左側エンジンマウント114の弾性体122にメンバ側導風部104側からの当てるとともに、従来より強い風を左側エンジンマウント114に受け入れさせることにより、その走行風を弾性体122の側面を経て後方カバー側導風部130にて受け止めさせ、そして、その走行風が後方カバー側導風部130によって左側エンジンマウント114の弾性体122の後側面部124Bまで回って到達することにより、空気層に循環が生じ、排気系の熱の影響を受け易い左側エンジンマウント114の弾性体122を効率良く冷却し、左側エンジンマウント114を保護することができる。
【0048】
よって、左側エンジンマウント114の遮熱、昇温防止の効果を得て、また、エンジンマウントメンバ74に取り付けたメンバ側導風部104は、車両前方からの走行風を跳ね上げ、より多くの走行風を確保するとともに、車両下方からの走行中における、水、泥、小石等の外部からの障害物に対し、左側エンジンマウント114を保護することができる。
【0049】
また、この左側エンジンマウント114部位を通過した走行風は、エンジンルーム10内に至り、このエンジンルーム10内の空気流の循環を良好として換気を良くするので、車両2が低速走行時で、弱い走行風でも、閉塞感の強いエンジンルーム10内を換気するように空気流を大きくうねらせることができ、エンジン36周囲の温度を下げ、また、エンジンルーム10の良好な換気によってラジエータ70自体の放熱効率も上がり、ラジエータ70による冷却水の冷却性能を良くする。
【0050】
この結果、この実施例によれば、フロア8下方に設けた左右一対のサイドフレーム12L、12Rを繋ぐようにエンジンマウントメンバ74を配設し、このエンジンマウントメンバ74にエンジンマウントとしての左側エンジンマウント114を設け、この左側エンジンマウント114の下方にあるエンジンマウントメンバ74にメンバ側導風部104を設ける一方、左側エンジンマウント114の上方にあるエンジンマウントカバー116にはカバー側導風部としての前方カバー側導風部128、後方カバー側導風部130を設け、メンバ側導風部104と前方カバー側導風部128、後方カバー側導風部130とを、エンジン36のエンジン本体38の側方且つ下方に形成される空間Sの雰囲気をエンジン本体38からの距離に応じて分ける階層構造132とするように配設したことにより、車両2の低速走行時で、走行風の流速が低い場合でも、走行風をエンジンルーム10内に迎え易くし、閉塞感の強いエンジンルーム10内の空気流を効果的に循環させ、このエンジンルーム10の換気を良好とし、これにより、エンジン36周囲の温度を低く抑えてエンジン36の出力向上の阻害要因をなくし、また、ラジエータ70自体の放熱効率を上げてラジエータ70による冷却水の冷却性能を良くし、更に、排気系付近に位置するエンジンマウントである左側エンジンマウント114を走行風によって効率良く冷却し、この左側エンジンマウント114の保護を図ることができる。
【0051】
また、エンジンマウントカバー116は、エンジンマウントメンバ74のメンバ側導風部104よりも車両幅方向内側に位置し、水平よりエンジン本体38の傾斜に沿うように傾斜して設けられたことにより、車両2の底面側及び側面側を流れる走行風の両方に対して、走行風に成層の流れを形成することができ、走行風を左側エンジンマウント114の弾性体122やエンジンルーム10側に円滑に流すことができる。
【0052】
更に、エンジンマウントカバー116の前方カバー側導風部128の前端縁部128E及び後方カバー側導風部130の後端縁部130Eは、該エンジンマウントカバー116の中間部126に比べて車両前方向及び車両後方向に延出し、エンジンマウントメンバ74を中心とする仮想円弧線74Gに沿うように下方側に折り曲げて形成されたことにより、エンジンマウントメンバ74の周りに風の流れを生成することで、部材の背圧で乱される影響を小さくして、円滑な風の流れとすることができる。
【0053】
更にまた、エンジンマウントメンバ74のメンバ側導風部104は、該エンジンマウントメンバ74の立ち上がり部である左側傾斜部78に対応して形成され、この左側傾斜部78の車両幅方向外側に延出するように設けられたことにより、局部的に、下方に突出したり、側方に突出したりしないので、高速走行時にも抵抗を増すことがなく、また、エンジンルーム10の直下を塞がないので、整備性も向上することができる。
【0054】
また、エンジンマウントメンバ74を取り付ける各サイドフレーム12L、12Rの車両幅方向外側には、該サイドフレーム12L、12Rの上端面よりも低い位置で略水平に延びる面部としての左フロントステップフロア134L、右フロントステップフロア134Rが設けられたことにより、メンバ側導風部104よりも上流側の車両底面を起伏の少ない形状にすることで、走行風が整流され、メンバ側導風部104のガイド機能がより確実になされ、特に、前輪14Fの後方位置での風の乱れを抑制し、走行風を整流にすることができる。
【0055】
更に、面部である左フロントステップフロア134L、右フロントステップフロア134Rは、エンジンルーム10よりも車両前方側に延設する一方、左右一対のサイドフレーム12L、12Rに挟んで車両2の内側には、該サイドフレーム12L、12Rの下方にわたって位置するカバー部材としてのリアスプラッシュガード136が設けられたことにより、メンバ側導風部104よりも上流側の車両底面を起伏の少ない形状にすることで、走行風が整流され、メンバ側導風部104のガイド機能がより確実になされ、特に、エンジンルーム10の前側を囲むように広く形成し、走行風の乱れを抑制して整流することができる。
【実施例2】
【0056】
図9は、この発明の特別構成であり、第2実施例を示すものである。
【0057】
以下の実施例においては、上述の第1実施例と同一機能を果たす箇所には同一符号を付して説明する。
【0058】
この第2実施例の特徴とするところは、以下の点にある。即ち、エンジンマウントカバー116の後方カバー側導風部130の左右の両端部には、走行風を弾性体122の後側面部124Bに効率良く回り込ませるように、前方側に斜めに広がった一対の左側誘導部162L・右側誘導部162Rを設けた。
【0059】
この第2実施例の構成によれば、弾性体122の側面からの走行風が一対の左側誘導部162L・右側誘導部162Rによって積極的に内側に取り込まれ、この走行風が弾性体122の後側面部124Bに効率良く回り込むので、弾性体122の冷却性能を向上することができる。
【実施例3】
【0060】
図10は、この発明の特別構成であり、第3実施例を示すものである。
【0061】
この第3実施例の特徴とするところは、以下の点にある。即ち、エンジンマウントカバー116の前方カバー側導風部128の前端縁部128Eには、メンバ側導風部104とで形成される空間Sの開口部位に位置して車両前方側からの小石等の外部からの障害物の侵入を阻止するように、複数本の障害物阻止部材172を設けた。
【0062】
この第3実施例の構成によれば、車両前方側からの小石等障害物は、障害物阻止部材172によって空間S内への侵入が阻止されることから、左側エンジンマウント114の保護を図ることができる。
【0063】
また、この発明においては、エンジンマウントメンバのメンバ側導風部には、可撓性の延長部材(例えば、ゴムシート)を設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
エンジンのエンジン本体の側方且つ下方に形成される空間の雰囲気をエンジン本体からの距離に応じて分ける階層構造とするようにメンバ側導風部とカバー側導風部とを配設することを、他の車体構造にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施例においてエンジンマウント構造の斜視図である。
【図2】第1実施例において左側マウント部での走行風の流れを説明する図である。
【図3】第1実施例においてエンジンマウントメンバ及び左側マウント部の斜視図である。
【図4】第1実施例においてエンジンマウントメンバの平面図である。
【図5】第1実施例において図4の矢印Vによるエンジンマウントメンバの正面図である。
【図6】第1実施例において図4の矢印VIによるエンジンマウントメンバの側面図である。
【図7】第1実施例において車両の側面図である。
【図8】第1実施例において車両の平面図である。
【図9】第2実施例においてエンジンマウントカバーの斜視図である。
【図10】第3実施例においてエンジンマウントメンバ及び左側マウント部の斜視図である。
【図11】従来においてエンジンマウントメンバ及び左側マウント部の斜視図である。
【符号の説明】
【0066】
2 車両
8 フロア
10 エンジンルーム
12L 左サイドフレーム
12R 右サイドフレーム
26 エンジンルームパネル
30 サブフレーム
36 エンジン
38 エンジン本体
40 シリンダブロック
42 シリンダヘッド
44 排気パイプ
46 排気マニホルド
58 パワーユニット
70 ラジエータ
74 エンジンマウントメンバ
76 中央保持部
78 左側傾斜部
80 左側取付部
82 右側傾斜部
84 右側取付部
104 メンバ側導風部
106 エンジンマウント機構
108 左側マウント部
114 左側エンジンマウント
116 エンジンマウントカバー
122 弾性体
124F 前側面部
124B 後側面部
126 中間部
128 前方カバー側導風部
130 後方カバー側導風部
132 階層構造
134L 左側フロントステップフロア
134R 右側フロントステップフロア
136 リアスプラッシュガード
138 フロントスプラッシュガード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロア内にエンジンルームを形成し、このエンジンルームの内部に収納搭載される縦置きエンジンのエンジンマウント付近に導風部を設けるエンジンマウント構造において、前記フロアの下方に設けた左右一対のサイドフレームを繋ぐようにエンジンマウントメンバを配設し、このエンジンマウントメンバに前記エンジンマウントを設け、前記エンジンマウントの下方にある前記エンジンマウントメンバにメンバ側導風部を設ける一方、前記エンジンマウントの上方にあるエンジンマウントカバーにはカバー側導風部を設け、前記メンバ側導風部と前記カバー側導風部とを、前記エンジンのエンジン本体の側方且つ下方に形成される空間の雰囲気を前記エンジン本体からの距離に応じて分ける階層構造とするように配設したことを特徴とするエンジンマウント構造。
【請求項2】
前記エンジンマウントカバーは、前記エンジンマウントメンバの前記メンバ側導風部よりも車両幅方向内側に位置し、水平より前記エンジン本体の傾斜に沿うように傾斜して設けられたことを特徴とする請求項1に記載のエンジンマウント構造。
【請求項3】
前記エンジンマウントカバーの前端縁部及び後端縁部は、該エンジンマウントカバーの中間部に比べて車両前方向及び車両後方向に延出し、前記エンジンマウントメンバを中心とする仮想円弧線に沿うように下方側に折り曲げて形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジンマウント構造。
【請求項4】
前記エンジンマウントメンバの前記メンバ側導風部は、該エンジンマウントメンバの立ち上がり部に対応して形成され、この立ち上がり部の車両幅方向外側に延出するように設けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエンジンマウント構造。
【請求項5】
前記エンジンマウントメンバを取り付ける前記サイドフレームの車両幅方向外側には、該サイドフレームの上端面よりも低い位置で略水平に延びる面部が設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエンジンマウント構造。
【請求項6】
前記面部は、前記エンジンルームよりも車両前方側に延設する一方、前記左右一対のサイドフレームを挟んで前記車両の内側には、前記サイドフレームの下方にわたって位置するカバー部材が設けられたことを特徴とする請求項5に記載のエンジンマウント構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−8389(P2007−8389A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194132(P2005−194132)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】