説明

カルボキシメチルアルギニン生成抑制剤

【課題】コラーゲンのメイラード反応後期生成物(AGEs)であるカルボキシメチルアルギニンの生成を抑制し、生体内のタンパク質の機能障害を抑制し得る、カルボキシメチルアルギニン生成抑制剤の提供。
【解決手段】ルチン、 クエルセチン、アストラガリン、クエルセチン−3−O−サンブビオシド、ルテオリン−7−O−グルコシド、又はペンタアセテートクエルセチンなどを有効成分として含む、カルボキシメチルアルギニン生成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシメチルアルギニン生成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体中のタンパク質は還元糖と非酵素的に反応して糖化される。この反応は、一般的にメイラード反応と呼ばれており、前期段階及び後期段階の反応から構成される。メイラード反応の前期段階は、タンパク質を構成するアミノ酸の側鎖アミノ基やN末端アミノ基が糖のカルボニル基と反応し、シッフ塩基を経由してアマドリ転位化合物を生成するというものである。この反応の生成物として、ヘモグロビンA1Cや糖化アルブミンが知られており、該生成物は糖尿病の臨床マーカーとして広く用いられている。基本的には、現在では生体内のすべてのタンパク質が糖化されると考えられており、その結果としてのタンパク質の機能障害が数多く報告されている。
【0003】
メイラード反応の後期段階は、前期段階により生成したアマドリ転位化合物が、脱水、酸化、縮合といった複雑な不可逆的反応を経て、蛍光性、褐色変化あるいは分子内・分子間架橋形成を特徴とするメイラード反応の最終生成物を生じる段階である。そして、後期段階の最終生成物はAGEs(Advanced Glycation End products)と呼ばれる。メイラード反応の後期生成物(AGEs)は加齢に伴って生体蛋白に蓄積し、例えばAGE化を受けたコラーゲンは繊維芽細胞に対してアポトーシスを誘導することが知られている。コラーゲンに特異的に蓄積するAGE構造体の一つとして、カルボキシメチルアルギニン(CMA)が知られている。特許文献1には、N-カルボキシメチルアルギニンまたはN-カルボキシメチルアルギニン 残基を有するペプチドもしくはタンパク質に対する抗体、並びに上記抗体を含む免疫試薬が記載されており、当該抗体はCMAの検出又はグリケーションの研究に有用であることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−243732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、カルボキシメチルアルギニン(CMA)は、コラーゲンに特異的に蓄積するAGE構造体の一種である。CMAの生成を抑制する物質が見つかれば、当該物質は、コラーゲンのAGE化を抑制することによって、皮膚及び血管等、生体蛋白の変性を抑制することができる可能性が考えられる。即ち、本発明は、カルボキシメチルアルギニンの生成を抑制できる活性を有する物質を同定し、カルボキシメチルアルギニン生成抑制剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、先ず、コラーゲンに特異的に蓄積するAGE構造体の一つであるカルボキシメチルアルギニン(CMA)に特異的な抗体を作製し、CMAの生成を阻害する化合物を検索した。その結果、本明細書に記載の式(1)、式(2)又は式(3)で示される化合物がCMAの生成を顕著に抑制することを明らかにした。さらに、これらの式(1)から式(3)で示される化合物は繊維芽細胞に対して毒性を示さないことも確認した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 下記の式(1)、式(2)又は式(3)で示される化合物、若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、カルボキシメチルアルギニン生成抑制剤。
【化1】

(式中、R1は水素原子、−COCH3、又は糖の残基を示し、R2は水素原子、又は−COCH3を示し、R3は水素原子、−OH、−OCOCH3、又は−O−糖を示し、R4は水素原子、−OH、又は−OCOCH3を示し、R5は−OH、又は−OCOCH3を示し、Xylは、β-D-キシロピラノシル基を示し、glcAはβ-D-グルクロノピラノシル基を示す、rhaはα-L-ラムノピラノシド基を示す。)
【0008】
(2) 式(1)で示される化合物が、ルチン(Rutin)、 クエルセチン(Quercetin)、アストラガリン(Astragalin)、クエルセチン3−O−サンブビオシド(Quercetin 3-O-sambubioside)、ルテオリン−7−O−グルコシド(Luteolin-7-O-glucoside)、又はペンタアセテートクエルセチン(Penta acetate quercetin)の何れかである、(1)に記載のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤。
【0009】
(3) コラーゲンのメイラード反応の後期生成物(AGE)化を抑制するために用いる、(1)又は(2)に記載のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤。
【0010】
(4) 皮膚外用剤として用いる、(1)から(3)の何れかに記載のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明により新規なカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤が提供される。また、本発明のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤は、繊維芽細胞に対して毒性を示さないことが確認されている。本発明のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤は、コラーゲンのAGE化を抑制することによって、皮膚及び血管等、生体蛋白の変性を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
皮膚に蓄積するAGEの生成を抑制し、皮膚の老化を抑制する試みがなされているが、蛍光を測定してAGEを定量しており、AGE構造体が特定されていない。本発明者は、カルボキシメチルアルギニン(CMA)に着目し、本構造体が酸加水分解に対して不安定であるため、通常の手法では機器分析で測定が困難であるため、CMAに対する特異的モノクローナル抗体を作製し、CMAの測定系を確立した。これにより、CMA生成阻害作用を示す化合物の検索が可能となった。また、カルボキシメチルリジン(CML)の生成を抑制する化合物が報告されているが、本発明者はカルボキシメチルアルギニン(CMA)がコラーゲンに顕著に生成するAGE構造体であることも確認した。
【0013】
(1)モノクローナル抗CMA抗体の製造方法
モノクローナル抗CMA抗体を作製するための抗原としては、カルボキシメチルアルギニンを用いることができる。カルボキシメチルアルギニンは、アルギニンとグリオキサールをNaOH溶液中で反応させ、HClで中性に戻した後、イオン交換カラムにアプライし、各分画を薄層クロマトグラフィーを用いてアセトニトリルで展開し、ニンヒドリン陽性でアルギニンとは異なる化合物を含むフラクションを回収することによって取得することができる。
【0014】
(2)モノクローナル抗体の作製
モノクローナル抗体は常法により作成することができる。モノクローナル抗体を作製するためには、先ず、ヘモシアニン蛋白又はヒト血清アルブミンなどのタンパク質に結合させたCMAを抗原として、哺乳動物、例えばラット、マウス、ウサギなどに投与する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いないときは0.1〜100mgであり、アジュバントを用いるときは1〜100μgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜5週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜5回免疫を行う。そして、最終の免疫日から1〜60日後、好ましくは1〜14日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞又は局所リンパ節細胞が好ましい。
【0015】
細胞融合ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えば P3X63-Ag.8.U1(P3U1)、NS-Iなどのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0016】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、1×106〜1×107個/mlの抗体産生細胞と2×105〜2×106個/mlのミエローマ細胞とを混合し(抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞比5:1が好ましい)、細胞融合促進剤存在のもとで融合反応を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量1000〜6000ダルトンのポリエチレングリコール等を使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0017】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液を例えばウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に3×105個/well程度まき、各ウエルに選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、14日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0018】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清中に、目的とする抗体が存在するか否かをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、特に限定されるものではない。例えば、ハイブリドーマとして生育したウエルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法、放射性免疫測定法などの標識免疫測定法等によってスクリーニングすることができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。
【0019】
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。細胞培養法においては、ハイブリドーマを10%ウシ胎児血清含有RPMI-1640培地、MEM培地又は無血清培地等の動物細胞培養培地中で、通常の培養条件(例えば37℃、5% CO2濃度)で7〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得する。
【0020】
腹水形成法の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを約1×107個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採集する。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0021】
(3)ELISA法
前記標識免疫測定法の好適な例として、酵素を標識とした免疫測定法であるELISA法を挙げることができる。ELISA法は、例えば、96穴プレートに検体またはその希釈液を入れて、4℃〜室温で一晩、または37℃で1〜3時間程度静置して検出すべきカルボキシメチルアルギニンを吸着させて固相化する。次に、本発明の抗体を反応させ、次いであらかじめ酵素を結合させた抗免疫グロブリン抗体(二次抗体)を反応させる。最後に酵素と反応する適当な発色性の基質(例えば、酵素がホスファターゼならp−ニトロフェニルリン酸等)を加え、この発色によって抗体を検出する。
【0022】
(4)カルボキシメチルアルギニン生成抑制(阻害)試験
コラーゲン、あるいはジェラチンをグルコースあるいはリボースと、カルボキシメチルアルギニン生成抑制剤の候補化合物の存在下、試験管内で37℃、1週間保温し、PBSで透析した後、カルボキシメチルアルギニンに対するモノクローナル抗体を用いたELISAによって生成阻害効果を検討することができる。
【0023】
本発明では、上記試験によって、下記の式(1)、式(2)又は式(3)で示される化合物が、カルボキシメチルアルギニン生成抑制作用を有する化合物として同定された。
【化2】

(式中、R1は水素原子、−COCH3、又は糖の残基を示し、R2は水素原子、又は−COCH3を示し、R3は水素原子、−OH、−OCOCH3、又は−O−糖を示し、R4は水素原子、−OH、又は−OCOCH3を示し、R5は−OH、又は−OCOCH3を示し、Xylは、β-D-キシロピラノシル基を示し、glcAはβ-D-グルクロノピラノシル基を示す、rhaはα-L-ラムノピラノシド基を示す。)
【0024】
1が示す糖の残基及びR3が示す−O−糖における糖の種類は特に限定されないが、例えば、グルコース、ガラクトース、ラムノース、グルコース-グルコース、グルコース-ラムノースが挙げられる。
【0025】
本発明のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤の有効成分としては、式(1)、式(2)又は式(3)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等のアミンとの塩などが挙げられる。この他、生理的に許容されるものであれば塩の種類は特に限定されることはない。
【0026】
本発明で用いる式(1)から(3)の化合物は、公知化合物であるか、又は本明細書中の実施例1に記載の方法又はそれに準じた方法により調製・入手することができる。生薬・天然物から化合物を抽出・分離するためには、まず生薬・天然物に含まれる成分をメタノールまたは、水に溶出させる。その後、得られたメタノール抽出エキスおよび水抽出エキスを各種クロマトグラフィーにて、徐々に分離していき、最終的に単一化合物に分離する。また、一部の化合物は、有機合成手法により誘導体化を行う。そして、単離された化合物は、核磁気共鳴 (NMR)分光法や質量(MS)分析法を用いて構造解析を行い、化学構造を決定することができる。
【0027】
また、本発明で用いる化合物は以下の文献にも記載されている。
Rutin and Quercetin;
Li, Xiangjun; Zhang, Yuping; Yuan, Zhuobin. Chromatographia (2002), 55(3/4), 243-246.
【0028】
Astragalin;
Takamura, Chika; Hirata, Tetsuya; Yamaguchi, Yasuyo; Ono, Masateru; Miyashita, Hiroyuki; Ikeda, Tsuyoshi; Nohara, Toshihiro. Journal of Natural Medicines (2007), 61(2), 220-221.
【0029】
Quercetin 3-O-sambubioside;
Webby, Rosemary F. DSIR, Petone, N. Z. Phytochemistry (1991), 30(7), 2443-4.
【0030】
Luteolin-7-O-glucoside;
Hatam, Natiq A. R.; Seifert, K. Planta Medica (1994), 60(6), 600.
【0031】
本発明のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤を対象者に投与する場合の投与量は、対象者の年齢、体重、症状等に応じて適宜設定することができるが、一般的には、成人一人一日当たり有効成分として0.1〜1000mg /kg体重、特に0.1〜500mg/kg体重を1〜数回に分けて投与することができる。
【0032】
本発明のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤の投与経路は、特に限定されず、例えば、経口投与、又は非経口投与(皮膚に塗布、又は静脈注射、皮下注射、皮内注射、腹腔内注射、筋肉内投与等)を行うことができる。
【0033】
本発明のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤は、有効成分として含有する式(1)、式(2)又は式(3)で示される化合物に加えて、医薬組成物で通常用いられている添加物を含有することができる。この様な任意の添加物としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、可溶化剤、分散剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、安定剤、等張剤等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。腑形剤としては、乳糖、白糖、ブドウ糖などの糖類、デンプン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等の無機物、結晶セルロース、蒸留水、精製水、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油等の一般に使用されているものを例示することができる。本発明のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤は、これらの添加物を用いて常法によって製剤化することができる。また、本発明のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤は、他の医薬品と混合して使用したり、併用することもできる。
【0034】
例えば、本発明のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤は、皮膚外用剤として使用することができる。皮膚外用剤の剤形としては、ローション剤、クリーム剤、軟膏、乳液、パック等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、皮膚外用剤には、所望により、多価アルコール、保湿剤、増粘剤、炭化水素、エステル、アルコール、高級脂肪酸、界面活性剤、粉体成分、色剤、香料、抗酸化剤、紫外線吸収剤、抗炎症剤等から選択される1以上の成分を適宜配合することができる。
【0035】
また、本発明のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤は、食品形態として製造することもできる。食品形態としては、飲料、又は固形又は半固形の食品等が挙げられ、特定保健用食品として用いることもできる。
【0036】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
実施例1:各種阻害剤の調製
(1)3-O-β-D-xylopyranosyl-(1→2)-β-D-glucuronopyranosyl complogenin 22-O-α-L-rhamnopyranoside (Complogenin glycoside)の抽出・分離法
マメ科植物イヌゲンゲGueldenstaedtia multiflora BGE. の根あるいは全草を乾燥したものである生薬「甜地丁」の根1.5 kgを容積5Lのプラスチック容器に入れ、その容器に甜地丁が浸る程度のメタノールを入れ、その後、80〜100℃の水浴で5時間熱をかけ、甜地丁に含まれる成分をメタノールに溶出させる。そのメタノール溶出液をナス型フラスコに入れ、フラスコをエバポレーターに装着しメタノールを除去することで、メタノール抽出エキス111 gを得た。このメタノール抽出エキスをDiaion HP-20カラムクロマトグラフィー(70 mm×500 mmガラスオープンカラム)にかけ、水(6 L)、メタノール(6 L)、アセトン(3 L)で連続的に溶出した。次に、メタノール溶出画分(43 g中10 g)をMCI gelカラムクロマトグラフィー(40 mm×600 mmガラスオープンカラム)にかけ、40%メタノール/水(4 L)、50%メタノール/水(2 L)、60%メタノール/水(2 L)、70%メタノール/水(2 L)、80%メタノール/水(2 L)で連続的に溶出し、溶媒システム60%メタノール/水では6つのフラクション(Fr. 1〜Fr. 6)に分画した。さらに、そのFr. 4(468.7 mg)をChromatrex ODSカラムクロマトグラフィー(20 mm×400 mmガラスオープンカラム)にかけ、溶媒システム60%メタノール/水(1 L)により8つのフラクション(Fr. I〜Fr. VIII)分画し、Fr. II(145.4 mg)をシリカゲルクロマトグラフィー(15 mm×170 mmガラスオープンカラム)にかけ、溶媒システム(クロロホルム:メタノール:水=7:3:0.5, 0.3 L)で溶出することで3-O-β-D-xylopyranosyl-(1→2)- β-D-glucuronopyranosyl complogenin 22-O-α-L-rhamnopyranoside(9.5 mg)を単離した。
【0038】
(2)AstragalinおよびQuercetin 3-O-sambubiosideの抽出・分離法
トチュウ科植物トチュウEucommia ulmoides Oliv. の緑色葉577.6 gを容積2L容器に入れ、水(65℃)で5時間抽出し、その水抽出液をろ過し、ろ液(1.5 L)を得た。次に、そのろ液をDiaion HP-20カラムクロマトグラフィー(70 mm×500 mmガラスオープンカラム)にかけ、水(6 L)、30%メタノール/水(10 L)、50%メタノール/水(6 L)、80%メタノール/水(6 L)、メタノール(6 L)で連続的に溶出した。その50%メタノール/水溶出画分(9.0 g)をShephadex LH-20カラムクロマトグラフィー(35 mm×700 mmガラスオープンカラム)にかけ、溶媒システム50%メタノール/水(2 L)及び、メタノール(2 L)で8つのフラクション(Fr. 1〜Fr. 8)に分画した。そのFr. 6はastragalin(55 mg)であった。さらに、Fr. 4(441 mg)をChromatrex ODSカラムクロマトグラフィー(30 mm×300 mmガラスオープンカラム)にかけ、溶媒システム30%メタノール/水(1 L)で溶出することでquercetin 3-O-sambubioside(155 mg)を単離した。
【0039】
(3)Luteolin-7-O-glucosideの抽出・分離法
ノウゼンカズラ科植物アメリカキササゲCatalpa bignonioides Walt. の葉310 gを容積1 Lのプラスチック容器に入れ、その容器にアメリカキササゲが浸る程度のメタノールを入れ、その後、80〜100℃の水浴で5時間熱をかけ、アメリカキササゲに含まれる成分をメタノールに溶出させる。そのメタノール溶出液をナス型フラスコに入れ、フラスコをエバポレーターに装着しメタノールを除去することで、メタノール抽出エキス50.8 gを得た。このメタノール抽出エキスをDiaion HP-20カラムクロマトグラフィー(50 mm×300 mmガラスオープンカラム)にかけ、水(2 L)、メタノール(1.8 L)、アセトン(1 L)で連続的に溶出した。次に、メタノール溶出画分(19.5 g)をToyo peal HW-40Cカラムクロマトグラフィー(40 mm×500 mmガラスオープンカラム)にかけ、溶媒システムメタノール(2 L)により6つのフラクション(Fr. 1〜Fr. 6)に分画した。さらに、そのFr. 4(1.73 g)をSephadex LH-20カラムクロマトグラフィー(25 mm×700 mmガラスオープンカラム)にかけ、溶媒システム、メタノール(1 L)により7つのフラクション(Fr. I〜Fr. VII)に分画し、Fr. IIL(306 mg)をシリカゲルクロマトグラフィー(25 mm×300 mmガラスオープンカラム)にかけ、溶媒システム(クロロホルム:メタノール:水=9:1:0.1, 1 L)で溶出することでLuteolin-7-O-glucosideを単離した。
【0040】
(4)Penta acetate quercetinの調製法
Quercetin (300 mg)を100 mlの茄子型フラスコに秤量し、ピリジン(2 ml)と無水酢酸(2 ml)を加えて、室温で2時間攪拌する。反応液に氷を加え、析出する沈殿をブフナーロート(直径3 cm)で吸引濾過して回収する。得られた沈殿(400 mg)にエタノール(5 ml)を加えて加温して溶解させ、室温で一晩放置することで、Penta acetate quercetin(280mg)を針状結晶として得た。
【0041】
(5)(+)-Catechin, Rutin, Quercetinは市販品(和光純薬)を購入して、以下で使用した。
【0042】
(6)比較用の物質について
比較用の物質は、以下の文献に記載されている。
Kakkalide;
Yamazaki, Takashi; Nakajima, Yoshijiro; Niiho, Yujiro; Hosono, Tsuyoshi; Kurashige, Tatsuo; Kinjo, Junei; Nohara, Toshihiro. Journal of Pharmacy and Pharmacology (1997), 49(8), 831-833.
Medicarpin;
Soby, Scott; Caldera, Sriyani; Bates, Robert; VanEtten, Hans. Phytochemistry (1996), 41(3), 759-65.
Medicarpin-β-glucoside;
Al-Khalil, Suleiman; Masalmeh, Amneh; Abdalla, Shtaywy; Tosa, Hideki; Iinuma, Munekazu. Journal of Natural Products (1995), 58(5), 760-3.
【0043】
Esculeoside A and Esculeogein A;
Fujiwara, Yukio; Takaki, Ayumi; Uehara, Yukie; Ikeda, Tsuyoshi; Okawa, Masafumi; Yamauchi, Ken; Ono, Masateru; Yoshimitsu, Hitoshi; Nohara, Toshihiro. Tetrahedron (2004), 60(22), 4915-4920.
Tomatine;
Ikeda, Tsuyoshi; Yamauchi, Ken; Nakano, Daisuke; Nakanishi, Kenji; Miyashita, Hiroyuki; Ito, Shin-ichi; Nohara, Toshihiro. Tetrahedron Letters (2006), 47(26), 4355-4359.
Desgalactotigonin;
Ikeda, Tsuyoshi; Tsumagari, Hidetsugu; Honbu, Takehiko; Nohara, Toshihiro. Biological & Pharmaceutical Bulletin (2003), 26(8), 1198-1201.
【0044】
Neoaspidistrin;
Chen, Changxiang; Zhou, Jun. Yunnan Zhiwu Yanjiu (1994), 16(4), 397-400.
Timosaponin AIII;
Meng, Zhi-Yun; Zhang, Jian-Ying; Xu, Sui-Xu; Sagahara, Kazunori. Planta Medica (1999), 65(7), 661-663.
【0045】
Dioscin;
Ono, Masateru; Nishimura, Kazuya; Suzuki, Keita; Fukushima, Takeshi; Igoshi, Keiji; Yoshimitsu, Hitoshi; Ikeda, Tsuyoshi; Nohara, Toshihiro. Chemical & Pharmaceutical Bulletin (2006), 54(2), 230-233.
Isotubocaposide B and Isotubocaposigenin;
Kiyota, Naoko; Shingu, Kazushi; Yamaguchi, Koki; Yoshitake, Yasuyuki; Harano, Kazunobu; Yoshimitsu, Hitoshi; Ikeda, Tsuyoshi; Nohara, Toshihiro. Chemical & Pharmaceutical Bulletin (2007), 55(1), 34-36.
Diosgenin;
Noguchi, Eishin; Fujiwara, Yukio; Matsushita, Sayaka; Ikeda, Tsuyoshi; Ono, Masateru; Nohara, Toshihiro. Chemical & Pharmaceutical Bulletin (2006), 54(9), 1312-1314.
Cilistol A
Zhu, X.-H.; Takagi, M.; Ikeda, T.; Midzuki, K.; Nohara, T. Phytochemistry (2001), 56(7), 741-745.
【0046】
実施例2:CMA あるいはCMA 化タンパク質に対するモノクローナル抗体の作製
(1)カルボキシメチルアルギニン(CMA)の作製法
0.1 Mアルギニンと0.1 Mグリオキサールを1 N NaOH溶液25mL中で37度、24時間反応し、1H HClで中性に戻した。イオン交換カラムであるDowex 50 10 mLにアプライした後、1mLずつ分取し、各分画を薄層クロマトグラフィーを用いて80%アセトニトリルで展開し、ニンヒドリン陽性でアルギニンとは異なる化合物を含むフラクションを回収した。その後、アミノ酸分析機で単一化合物であることを確認した。その後、NMRで構造解析を行い、CMA(Iijima Kら、Biochem. J. 347, 23-27, 2000)と同一であることを確認した。
【0047】
(2)CMA あるいはCMA 化タンパク質に対するモノクローナル抗体の作製
(i) 抗体産生細胞の採取
常法に従いCMA 1 mgを10 mgのカルボジイミイドと4 mgのヘモシアニン蛋白(KLH: keyhole limpet hemocyanin)あるいはヒト血清アルブミン(HSA)と1 mlのリン酸緩衝液中で1時間反応し、CMA付加体であるCMA-KLH、CMA-HSAを作製した。その後マウス1匹に付き0.1 mgのCMA -KLHをフロイント完全アジュバント(FCA)で免疫、その2週間後、4週間後に同量のCMA-KLHをフロイント不完全アジュバント(FIA)で皮内に追加免疫を行った。3回免疫後より2週間後、尾静脈より採血を行い抗体価が上昇していることをCMA-HSAを抗原としたELISAにより評価し、5000倍希釈した抗血清とCMA-HSAが有意に反応することを確認した後、動物から脾臓を摘出し抗体産生細胞を採集した。
【0048】
(ii)細胞融合
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞(P3U1)との細胞融合を行う。細胞融合は、血清を含まないRPMI-1640培地中で、1×106 〜1×107 個/mlの抗体産生細胞と2×105 〜2×106個/mlのミエローマ細胞とを平均分子量1000〜6000ダルトンのポリエチレングリコール存在下で混合した。その後、HAT培地存在下で10日間培養した後、培養上清0.05 mlを採取し、ELISAの一次抗体として使用した。ELISAは、10 μg/mlのCMA-KLHあるいはCML-HSAを各ウェルに0.05 mlずつ固相化した。抗体に結合した一次抗体はHRP標識した抗マウスIgG抗体で検出し、その後、1,2-phenylenediamine dihydrochlorideで発色し、ELISAリーダーで492 nmの吸光度を測定した。融合細胞のクロ-ニングは、限界希釈法等により行い、最終的にCMA-KLH陽性でCML-HSA陰性のモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立した。その後、類似AGE構造体である、CML、Ne-(carboxyethyl)lysine (CEL)、S-(carboxymethyl)cysteine (CMC)、未修飾のアルギニンと交差反応を示さない株をELISAにて選択した。
【0049】
(iii)モノクローナル抗体の採取
プリスタン0.5 mlを予め腹腔に投与したBalb/cマウスに、得られたハイブリドーマを約1×107 個腹腔内投与し、およそ10日後に腹水を採集した。得られた腹水よりプロテインGアフィニティークロマトグラフィーを用いてイムノグロブリンGを精製した。本ハイブリドーマが産生する抗体(3F5)はアイソタイピングの結果、IgG1であった。
【0050】
(iv)モノクローナル抗CMA抗体の反応性
上記で得られたハイブリドーマ3F5が産生するモノクローナル抗体(以下、モノクローナル抗体3F5と称する)の反応性を調べた。具体的には、0.1 mlのCMA-HSA (0.1 μg/ml)をイムノプレートに固相化した後、1 mMから段階希釈したCMA, CML, CEL, CMC, アルギニン0.05 mlと0.1 μg/mlの3F5を等量混合し、混合液0.1 mlをイムノプレートの各ウェルに加えた。その後、イムノプレートに結合した抗体3F5はHRP標識抗マウスIgG抗体で検出を行った。
【0051】
モノクローナル抗体3F5とCMAとの反応性を図1に示す。図1に示すとおり、本発明のモノクローナル抗体3F5は、その類似構造であるNe-(carboxymethyl)lysine (CML)、CEL、 CMC、及びアルギニンと交差反応性を示さなかった。通常は、類似のAGE構造体と交差反応を示すが、本発明の抗体は非常に特異性が高いことから、CMAの特異的な検出が可能になった。
【0052】
実施例3:リボースとジェラチンの反応液中のカルボキシメチルアルギニンの測定
5 mg/mlのリボースと2 mg/mlのジェラチンを化合物、各0.1 mM存在下、0.1 Mリン酸緩衝液(pH 7.4)中で、37℃で1週間保温した後、PBSで24時間透析を行った。各サンプル10 μg/ml、0.1 mlをイムノプレートに固相化した後、PBSで可溶化した0.5% gelatin溶液でプレートをブロッキングした。その後、カルボキシメチルアルギニンに対するモノクローナル抗体3F5(1μg/ml)を0.1mlずつ各ウェルに加え、1時間保温した。洗浄後、HRP標識抗マウスIgG抗体を各ウェルに加え1時間保温した。洗浄後、1,2-フェニレンジアミン二塩酸塩により5分間発色して吸光度492 nmを測定した。
【0053】
CMA生成阻害率の測定結果を図2及び図3に示す。CMA特異抗体であるモノクローナル抗体3F5を用いて、ジェラチン-リボース系から生成するCMAの生成率を測定した結果、図4に示す構造を有する化合物が高いCMA生成阻害効果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、モノクローナル抗体3F5とCMAとの反応性を示す。
【図2】図2は、CMA生成阻害率の測定結果を示す。
【図3】図3は、CMA生成阻害率の測定結果を示す。
【図4】図4は、CMA生成阻害効果を有する化合物を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)、式(2)又は式(3)で示される化合物、若しくはその塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、カルボキシメチルアルギニン生成抑制剤。
【化1】

(式中、R1は水素原子、−COCH3、又は糖の残基を示し、R2は水素原子、又は−COCH3を示し、R3は水素原子、−OH、−OCOCH3、又は−O−糖を示し、R4は水素原子、−OH、又は−OCOCH3を示し、R5は−OH、又は−OCOCH3を示し、Xylは、β-D-キシロピラノシル基を示し、glcAはβ-D-グルクロノピラノシル基を示す、rhaはα-L-ラムノピラノシド基を示す。)
【請求項2】
式(1)で示される化合物が、ルチン(Rutin)、 クエルセチン(Quercetin)、アストラガリン(Astragalin)、クエルセチン3−O−サンブビオシド(Quercetin 3-O-sambubioside)、ルテオリン−7−O−グルコシド(Luteolin-7-O-glucoside)、又はペンタアセテートクエルセチン(Penta acetate quercetin)の何れかである、請求項1に記載のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤。
【請求項3】
コラーゲンのメイラード反応の後期生成物(AGE)化を抑制するために用いる、請求項1又は2に記載のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤。
【請求項4】
皮膚外用剤として用いる、請求項1から3の何れかに記載のカルボキシメチルアルギニン生成抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−96731(P2009−96731A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267547(P2007−267547)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】