説明

ガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置および方法

【課題】ガスエンジンにおいて給気中に気体燃料を噴射供給する燃料供給弁の異常を検知する装置および方法、特に、燃料供給弁において運転中に発生する閉弁時のガス漏洩を検出することができるガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置および方法を提供する。
【解決手段】給気ポート13に設置した酸素濃度センサ51と、酸素濃度センサ51の酸素濃度信号を入力し、給気ポート13の酸素濃度が予め記憶された閾値より低い場合に燃料供給弁26の異常と判定して異常信号を出力する異常発信装置とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジンにおいて給気中に気体燃料を噴射供給する燃料供給弁の異常を検知する装置および方法、特に、燃料供給弁において運転中に発生する閉弁時のガス漏洩を検出することができる異常検知装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮天然ガス、液化プロパンガス、圧縮水素などの気体燃料を利用するガスエンジンは、電力供給はもとより、排熱を利用したコージェネレーション設備などにも利用できる、高効率でクリーンなエンジンとして大きな注目を集めている。
一般に、多連のシリンダを備えるガスエンジンは、気体燃料供給系として、ガス燃料貯留装置から圧力調整弁とフィルタを通って気体燃料が供給される燃料ガス供給ヘッダーと、エンジンシリンダ毎に設けられ、燃料ガス供給ヘッダーから枝管を介して気体燃料が供給される燃料供給弁とを備える。燃料供給弁は、給気ポート内に気体燃料を噴射することにより、所定量の燃料ガスを均等に混合した給気を生成して、エンジンサイクル毎に開く給気弁を介してエンジンシリンダ内に供給するように構成されている。
【0003】
ガスエンジンでは、エンジンサイクル毎に気体燃料を供給する必要があり、また、エンジンシリンダ内で効率よく燃焼させるため、ガス濃度を的確に調整する必要がある。さらに、ガスエンジンでは、エンジンシリンダに供給する燃料の容積がガソリンなどの液体燃料と比較して大きい。
このため、燃料供給弁には、たとえば電磁力駆動により開弁期間を規定することによって正確に計量して燃料ガスを供給できるようにした、短いストロークで大きな開口を形成する形式の、大容量で高速動作可能な電磁弁が利用されている。
【0004】
このような燃料供給弁として、弁体と弁座が複数の同心円状の溝が付いた大面積の平面で接するようになっていて、開弁時にはたとえば0.3mm弱程度のわずかなストロークでも弁体の溝と弁座の溝が連通して開口となるため大量のガスを通すことができ、強力なソレノイドと強力なバネにより全閉と全開の間で2〜3ms程度の高速開閉を行うことができる、ソレノイド駆動のフェースタイプのポペット弁などを使用することができる。
【0005】
燃料供給弁の燃料ガスの供給側には目の細かいフィルタが設置されており、また給気配管から燃料供給弁への逆流は少ないので、普通は、異物が燃料供給弁の弁座部分に到達することはない。しかし、フィルタの異常やエンジンシリンダにおける異常によっては、燃料供給弁に異物が侵入して噛み込む事態が発生しないともいえない。燃料供給弁は、弁体と弁座の大面積のフェース同士が当接して閉止するので、フェースの間に異物が噛み込むと、わずかなギャップができただけでも大量のガスが漏れ出すことになる。
【0006】
燃料供給弁にガス漏洩異常が発生すると、エンジンシリンダにおける混合気のガス濃度が可燃範囲より濃い側に外れる場合に燃焼しなくなるばかりでなく、未燃の混合気が排気マニホールドに流れ下って他のシリンダからの排気ガスと集合して混合したときに、排気ガス中の酸素によって燃料ガスが希釈されて、排気マニホールド内の混合気が可燃範囲に属する空燃比を示すようになる場合が生じる。
排気マニホールドにおける混合気が可燃範囲にあれば、排気マニホールドで着火し燃焼することにより放出されるエネルギーが、排気マニホールドの下流に存在する過給機、排気ガス浄化用の触媒、ボイラ、消音機などを損傷させるおそれがある。
【0007】
このため、燃料供給弁の閉弁時にガス漏洩が生じたときには、直ちにそれを検知して、エンジンの停止など、何らかの対策をとることができるようにすることが望まれる。このためには、ガスエンジンの動作中に燃料供給弁のガス漏洩を直ちに検知する異常検知装置が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−250141号公報
【特許文献2】特開2002−332878号公報
【0009】
特許文献1は、ロータリエンジンなどのガスエンジンに燃料として水素を供給する水素噴射弁について、閉止時に開いたままとなりガスの漏洩を生じる故障すなわち開故障を検出する装置について開示している。開示された開故障検出装置は、水素噴射弁の上流に遮断弁を設けて、検査するときに水素噴射弁と遮断弁を閉止して、これら弁に挟まれた燃料供給通路内の圧力を観察し、圧力が低下すれば水素噴射弁に漏洩があると判断するものである。
特許文献1記載の装置は、水素の遮断弁を閉止して検査する必要があるので、エンジンが停止しているときにしか検査できない。したがって、運転中に異物が噛み込んで完全な閉止ができなくなる事故を発生後直ちに検知して対策することには使用できない。
【0010】
特許文献2は、ガスエンジンの給気マニホールドに供給する給気中に燃料ガスを噴射するインジェクタ(ニードル弁)のガス漏れを検出できるようにした燃料噴射装置を開示している。開示された燃料噴射装置は、排気マニホールドの酸素濃度を検出して求める実測の空気過剰率と、エンジンの回転数と給気マニホールドにおける過給圧とから求める目標の空気過剰率との偏差が無くなるように燃料噴射装置のインジェクタの開度を調整し、そのときの開弁指令と使用初期の同じ条件におけるインジェクタの開弁指令との差が大きくなったら意図しない漏洩が生じていると判定するものである。
【0011】
特許文献2記載の装置は、給気に対するガス燃料の噴射装置における漏洩を検出するものであるが、多連のシリンダの各々に分配する前の給気マニホールドにおける空気過剰率を調整するものであるため、1つのシリンダに異常が生じる事態に対応するものではない。また、排気マニホールドにおける空気過剰率の測定値が用いられるので、少なくとも排気マニホールドに変化が現れるまで異常を検知することができず、迅速な対応をとるための助けにならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
シリンダから排出されたばかりの排気ガスにおける酸素濃度は、燃料供給弁が正常で正常燃焼したときには12%から13%程度であり、失火したときは約20%となる。これに対して、燃料供給弁がたとえば異物の噛み込みなどで完全閉止できない故障が発生したときは、給気ポートの給気に気体燃料が高濃度に溜まり、燃料濃度が可燃範囲を外れた給気がシリンダに供給された場合には、燃焼室で燃焼しないで排気されるので、排気ポートにおける酸素濃度は大きく低下する。
【0013】
この現象を利用して、シリンダ毎に、排気ポートに酸素濃度センサを設置して、排気ガス中の酸素濃度を計測し、排気ガス中の酸素濃度が正常燃焼時の値より大きく下回る場合に警報を発生するようにすることが考えられる。
【0014】
しかし、排気ポートにおける酸素濃度に基づいて燃料供給弁の異常を検知する方法は、少なくとも燃料過多の低酸素混合気が排気ポートに排気されるまで異常検知することができない。したがって、排気マニホールドで他のシリンダから流入する酸素と混合してアフターファイアを生じる現象を効果的に抑制することは困難である。
【0015】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ガスエンジンにおいて給気中に気体燃料を噴射供給する燃料供給弁の異常を検知して報知できる装置および方法、特に、燃料供給弁において運転中に発生する閉弁時の気体燃料漏洩を迅速に検出することができるガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、本発明のガスエンジンにおいて気体燃料を給気ポートに供給する燃料供給弁の異常検知装置は、給気ポートに設置した酸素濃度センサと、酸素濃度センサの酸素濃度信号を入力し、給気ポートの酸素濃度が予め記憶された閾値より低い場合に燃料供給弁の異常と判定して異常信号を出力する異常発信装置と、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、上記課題を解決するため、本発明のガスエンジンにおいて気体燃料を給気ポートに供給する燃料供給弁の異常検知方法は、給気ポートにおける酸素濃度を測定し、測定した酸素濃度が予め設定された閾値より低下した場合に燃料供給弁の異常と判定して異常信号を出力することを特徴とする。
【0018】
燃料供給弁が正常な時は、燃料供給弁の閉弁状態では気体燃料が給気ポートに流入しないので、酸素濃度は大気とほぼ同じ値になっている。また、燃料供給弁の開弁期間においても、給気弁が開いていて、燃料供給弁から供給された気体燃料は給気に搬送されて燃焼室に素早く送入されてしまうため、酸素濃度センサに燃料噴射ジェットが直接掛からない限り、酸素濃度の測定値は大気とほぼ同じ値になる。
【0019】
一方、燃料供給弁に異物の噛み込みなど何らかの異常が発生して弁が完全閉止できない状態になると、気体燃料が高圧の燃料ヘッダーから給気ポートに供給され続ける。その状態で給気弁が閉止されると空気の供給が止まるので、給気ポートの酸素濃度は急激に低下していく。特に、エンジンの回転速度が低い場合は、1サイクル中に吸気弁が閉じている実際の時間が長くなるので、給気ポート内の酸素濃度は著しく低下する。
【0020】
本発明のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置は、酸素濃度センサにより給気ポート内の酸素濃度を監視しておいて、酸素濃度が適当な閾値より低下したときに、燃料供給弁に異常が発生したと判断して警報する。
【0021】
本発明では、燃料供給弁に漏洩事故が発生したときには、同じサイクル中で給気行程が終了した直後に燃料供給弁の異常を検知することができる。また、測定対象の酸素濃度は、正常時には全期間に亘ってほぼ20〜21%と狭い幅で安定している上、異常時には酸素濃度が急激に低下するので、異常検出のための閾値はたとえば15%など比較的高く設定することにより、高速回転でも検出し易くし、また低速回転であっても迅速に検出することができる。
本発明により、エンジン運転中に発生した異物噛み込みなど、燃料供給弁の異常を発生後直ちに高い信頼性で検知して報知するので、燃料漏洩事故が大きな事故に発展しないように適切な対策をとることができる。
【0022】
なお、異常検知装置は、サイクル位相に基づいて、クランク軸の回転が適宜な位相位置になったときに、酸素濃度情報を取得するようにしてもよい。サイクル位相は、クランク軸の回転を検出する回転位相計から直接入力する測定信号に基づいて判定することができる。また、エンジン制御装置を経由して入力することもできる。さらに、特定の位相位置では、エンジン制御装置が生成する指令信号を入力して情報取得タイミングとして利用することもできる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置および方法は、ガスエンジンにおいて燃料供給弁に異物の噛み込みなどを原因とする閉弁期間の漏洩異常が発生したときに、エンジンの稼働中でも直ちに異常を検知して異常信号を発生するので、排気マニホールドにおける燃焼などの事故に発展する前に有効な措置をとることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の1実施例に係るガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置を説明するフローシートである。
【図2】本実施例における酸素濃度センサの取付位置を示す断面図である。
【図3】本実施例における燃料供給弁異物噛み込み時の給気ポート内酸素濃度を表すグラフである。
【図4】本実施例の異常検出原理を説明するグラフである。
【図5】本実施例の給気ポートにおける異常時の酸素濃度変化例を示すグラフである。
【図6】本実施例の異常検出手順を説明する流れ図ある。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置および方法の実施形態について説明する。なお、図番の異なる図面においても、同一の機能を有する構成要素には同一の参照番号を付して、理解の容易化を図った。
図1は、本発明の1実施例に係る燃料供給弁の異常検知装置を適用したガスエンジンの概要を示すフローシートである。
【0026】
本実施例に係るガスエンジン10は、液体燃料を使う内燃機関と同様、シリンダヘッド20とエンジンシリンダ11の側壁とピストン12で囲まれた空間を燃焼室とし、燃焼室には給気弁15を介して給気ポート13が接続され、排気弁16を介して排気ポート14が接続されている。
給気弁15を開いて燃焼室に燃料ガスと混合された給気を供給し、点火プラグ19で点火すると燃焼室内のガスが膨張してピストン12がエンジンシリンダ11の中を押し下げられ、コネクティングロッドを介してクランク軸21を回転させる。
【0027】
クランク軸21は、ガスエンジンを構成する多連のシリンダそれぞれのピストンにより適宜な位相差をもって駆動されて連続的に回転する。クランク軸21の回転に伴いピストン12が下死点を通過して押し上げられている間に排気弁16が開いて、燃焼ガスが排気ポート14を通して排除される。
クランク軸21が回転することにより発電機22を駆動して電力を生成することができる。
燃焼室は、ピストン12が往復運動する主燃焼室17と、主燃焼室17の天井部に開口を有し点火プラグ19が設けられた副室18で構成して、性能向上を図っている。
【0028】
給気は、過給機35を通って給気マニホールド23に供給される。給気マニホールド23は、複数のシリンダの給気ポート13と枝管で接続され、各シリンダに均質の給気を分配する。なお、過給機35は排気ガスのエネルギーを使って給気の密度を高めるもので、給気の密度を高めることによってエンジンの出力を増大させることができる。
【0029】
ガスエンジン10の各シリンダでは、シリンダ毎に、それぞれ給気ポート13において給気中に気体燃料を噴射注入して、適宜なガス濃度を有する混合気を生成し燃焼室に供給する。
一方、排気ポート14に排出された排気ガスは、複数のシリンダの排気ポート14と枝管で接続された排気マニホールド24に集合した後に、過給機35、脱臭脱硝装置36、ボイラ37、消音機38などの排気ガス処理装置を順次通過して、大気に放出される。
脱臭脱硝装置36は、吸着材や触媒などを用いて、臭気成分と窒素酸化物を除去する装置である。
【0030】
気体燃料は、ボンベやタンクなどの気体燃料貯留装置31に供給され保持されていて、遮断弁32を介してレギュレータ33に供給され、レギュレータ33で適宜な圧力に調整された上で燃料ヘッダー25に供給される。燃料ヘッダー25は、シリンダ毎に枝管28を備えて、枝管28の先に絞り34を介して燃料供給管29を接続している。燃料供給管29の下端は燃料供給弁26の供給口に接続されて、燃料供給弁26にヘッダー25からの気体燃料を供給する。
【0031】
燃料供給弁26は、わずかなストロークで大きな開口を形成して短時間で大量のガスを流せる電磁弁で、平板で形成された弁座と、弁座の平板の平面と接して流路を遮断する平板で形成された弁体を有する、ソレノイド駆動のフェースタイプのポペット弁などが使用される。なお、弁座の平板と弁体の平板には、それぞれ同心円状に貫通溝が形成されていて、弁座と弁体が平面接触するときには、貫通溝同士が互いにずれて当たって通路を遮断して閉弁状態になり、弁座と弁体が離れるときには僅かに別れただけで複数の貫通溝同士が導通して大きな開口を形成するようになっている。
【0032】
また、燃料ヘッダー25における気体燃料を十分高い圧力に調整して、燃圧と給気圧との差圧を50〜200kPa程度にすることにより、大流量を確保することができる。
さらに、燃料供給弁26の弁体を引きつける電磁石は強力で、弁体を弁座から短時間で引き外して大きな開口を形成させることができ、また、弁体を弁座に押し付けるバネも強力であるので、弁の開閉は2〜3ms程度の速い応答性を有する。
【0033】
燃料供給弁26の出口は、給気ポート13に開口しており、給気ポート13の給気中に気体燃料を噴射して混入する。
なお、燃料供給弁26の開弁時間により、気体燃料の供給量を高い再現性を持って設定することができる。
【0034】
各シリンダの制御は、エンジン制御装置40により実施される。エンジン制御装置40には、たとえば給気ポート13に設けられた圧力発信器42から供給される給気圧力信号や、クランク軸21の回転位相を測定する回転位相計41から供給されるクランク角度信号や、発電機22の性能を測定する諸元の指標などを入力して、ガスエンジン10の状況を把握する。
【0035】
これらの情報に基づき、発電機22の現状出力を算定して、設定された目標出力と比較し、偏差がある場合は、その偏差を解消するように各種の制御変数を調整する。エンジン制御装置40は、給気圧力を用いて給気中に供給する気体燃料の量を調整し、燃焼室中の空燃比を制御することができる。また、クランク角度に基づいて、点火プラグ19、給気弁15、排気弁16、燃料供給弁26などの開閉タイミングを算定したり、これらに作動指令を発したりする機能を有する。
なお、エンジン制御装置40は、必要なときには、全てのシリンダにおける燃料供給弁26に閉弁指令を与えるなどして、エンジンの緊急停止を行うことができる。
【0036】
本実施例に係る燃料供給弁の異常検知装置は、燃料供給弁26の異常を動作中に検出することができる機能を有することを特徴とする。
燃料供給弁26は、平板で形成された弁座と、弁座の平板の平面と接して流路を遮断する平板で形成された弁体を有し、0.3mm未満の極めて小さなストロークで開閉の切り替えをする。
このため、極めて小さな異物が嵌入しただけでも弁体の平面と弁座の平面が密着して閉止することができなくなり、弁の閉止不良となって、大量の気体燃料が漏洩して給気中に混入する。
【0037】
燃料供給弁26にガス漏洩異常が発生すると、燃焼室における混合気のガス濃度が可燃範囲より濃い側にずれて燃焼しなくなったり、未燃の混合気が排気マニホールド24に流れ下って他のシリンダからの排気ガスと集合して、排気ガス中の酸素と混合したときに、排気マニホールド24内の混合気の空燃比が可燃範囲に入るようになったりするおそれがある。
また、給気弁15が閉止した後でも気体燃料が供給されて、給気ポート13に燃料過濃の混合気が生成するので、次の給気行程で燃焼室に供給されても燃焼せずに排気ポート14に排出され、他のシリンダからの排気ガスと集合する排気マニホールド24において可燃範囲にある混合気が継続的に生成するおそれをもたらす。
【0038】
排気マニホールド24における混合気が可燃範囲にあって排気マニホールド24で着火し燃焼することにより余剰のエネルギーが放出されると、下流に存在する過給機35の構造、脱臭脱硝装置36の吸着剤や触媒、ボイラ37の熱交換器、消音機38の構造などを損傷させるおそれがある。
これらの装置が損傷を受ければ、大がかりな補修工事が必要となり、大きな被害を受けることになる。
【0039】
このため、本実施例では、燃料供給弁26の閉弁時にガス漏洩が生じたときに、直ちにそれを検知して報知する異常検知装置を備えて、エンジン制御装置40に警報信号を伝送して予め決められた緊急停止措置などをとるようにしたり、運転員に報知して高度な判断の下に、エンジンの緊急停止など、適宜な対策をとるようにしたりすることを可能にしている。
本実施例の異常検知装置は、給気ポート13に設けた酸素濃度センサ51と、酸素濃度センサ51の酸素濃度信号を入力し、給気ポート13の酸素濃度が予め記憶された閾値より低い場合に燃料供給弁26の異常と判定して異常信号を出力する異常発信装置50と、を備える。
【0040】
図2は、給気ポート13における酸素濃度を測定する酸素濃度センサ51を設置する位置を説明する一部切り欠き正面図である。
燃料ヘッダー25から気体燃料を計量して供給する燃料供給管29が燃料供給弁26の入り口に接続されている。燃料供給弁26の出口は給気ポート13に開口され、燃料供給弁26が開弁状態のときに給気ポート13の給気中に気体燃料を噴射して混合させるようになっている。
【0041】
ここで、酸素濃度センサ51は、給気ポート13における燃料供給管29の直ぐ下流の側壁に取り付けられて、給気の酸素濃度を測定して酸素濃度信号を異常発信装置50に伝送する。酸素濃度センサ51は、燃料供給弁26からの燃料噴射を直接受ける位置でなく、正常時には噴射された気体燃料と空気が混合される前の位置に設置されている。したがって、燃料供給弁26が正常に作動しているときには、酸素濃度センサ51の測定出力は、給気として取り込んだ空気の酸素濃度に対応する値になる。
【0042】
しかし、燃料供給弁26に、異物の噛み込みなどで閉弁期間においても気体燃料を給気ポート13に流し込むような故障が発生したときは、給気行程が終わって給気弁15が閉弁し新しい空気が給気ポート13に流入しなくなると、給気ポート13に滞留する給気における気体燃料の割合が急激に増大し、酸素濃度が減少することになる。
【0043】
図3は、燃料供給弁が異物を噛み込んで密閉ができなくなった時の給気ポート13における酸素濃度を表すグラフである。グラフは、横軸にエンジン回転数と負荷をとり、縦軸に酸素濃度をとって、燃料供給弁26が正常なときと異常なときの酸素濃度をエンジン回転数と負荷をパラメータとして棒グラフで表したものである。
燃料供給弁26が異常なときの酸素濃度は、1サイクルの期間だけ燃料が蓄積される値を算定して表示している。
【0044】
エンジン回転数が小さい間は、1サイクル期間が長く気体燃料の漏洩時間が長くなるため、酸素の残留量がより大きく減少して給気ポート13の中の酸素濃度は殆どゼロになる。エンジン回転数が大きくなると1サイクル毎の酸素漏洩量が少なくなり酸素濃度の低下量が小さくなるが、エンジン回転数が722rpmあるいは720rpmのときにも、1サイクル期間後の酸素濃度は15%程度まで低下することが分かる。
【0045】
また、図4は、横軸に時間、縦軸に酸素濃度を示すグラフで、給気ポート13における酸素濃度変化を概念的に表して本実施例の異常検出原理を説明するグラフである。
燃料供給弁26が正常である間は、給気ポート13における酸素濃度は大気とほぼ同じ20〜21%になる。燃料供給弁26が作動して気体燃料の噴射があっても、酸素濃度センサ51が検出する酸素濃度は、余り変動しない。
【0046】
燃料供給弁26に異常が発生して閉弁状態でも気体燃料が給気ポート13に供給されるようになると、給気行程が終了した途端に給気ポート13における酸素濃度が急減する。燃料過濃になった給気は、次の給気行程を迎えると外気から吸引する新鮮な空気に押されて燃焼室に送入される。このとき、普通は、図4に表示したように、給気ポート13の容積と燃焼室の容積の関係から、給気ポート13の混合気と空気が入れ替わって酸素濃度が回復するところまで至らない。給気行程中に、給気ポート13の混合気が全て新しい給気と入れ替わる場合も、燃料供給弁26が閉弁状態で漏洩する故障が解消されていなければ、給気行程が終了した時点で再び酸素濃度が急減することになる。
【0047】
このように、給気ポートにおける酸素濃度は、燃料供給弁26が正常なときは空気と同程度の値を示し、燃料供給弁26に故障があるときは給気行程が終了した時点で急激に低下するので、適宜な閾値を設定して、酸素濃度が閾値を下回るときに異常があると判定することができる。酸素濃度の閾値は、エンジン回転数により適値を選択するようにすればよいが、たとえば閾値を17%とすればエンジン回転数が720rpmになっても利用することができる。
【0048】
なお、酸素濃度センサ51の特性や給気ポート13における設置状況によっては、検出される酸素濃度が燃料噴射によって低下する場合がある。このような場合には、酸素濃度低下量だけに基づいて判断するのでは、正常な燃料供給弁26を異常と誤認する可能性がある。そこで、酸素濃度を監視するタイミングを適宜なサイクル位相時点に設定して、噴射による酸素濃度低下現象のノイズを回避し酸素濃度低下が燃料供給弁26の異常により生じるとみなせる場合に限定して正しい判定をすることができる。
【0049】
燃料供給弁26の異常を原因として給気ポート13の酸素濃度が低下する現象は、たとえば、給気弁15が閉じた直後のタイミングや給気後の圧縮行程が始まるピストン12の下死点位置近傍のタイミングにおける酸素濃度を使うことにより確実に検知できる。このため、異常発信装置50がさらにサイクル位相情報を取り込んで、燃料噴射のタイミングを避けて、給気弁15が閉止した後の酸素濃度低下を評価するようにすることができる。
【0050】
サイクル位相情報は、クランク軸21に設置した回転位相計41から直接受信して酸素濃度を評価する時刻の指定に利用するようにしてもよい。
また、エンジン制御装置40が、燃料供給弁26の閉弁指令信号を供給し、ピストン12の下死点通過情報を利用して弁に対する指令信号を発生したりするので、異常発信装置50はエンジン制御装置40から燃料供給弁26の閉弁指令信号やピストン12の下死点通過情報を入力して利用するようにしてもよい。
【0051】
この判定手順は単純であるが、燃料供給弁26に異常が発生したら給気行程が終了した直後に検出することができるので、排気ガスの後処理工程に重大な影響を与える前に適切な対策をとる余裕が生じる。
異常発信装置50が、異常検出時に異常発生を報知する信号をエンジン制御装置40に供給して、エンジン制御装置40が直ちにエンジンを緊急停止する措置をとるようにすれば、排気マニホールド24における混合気の燃焼は起こらず、排ガス処理工程における各機器に損傷を与えないようにすることができる。
また、異常発信装置50とエンジン制御装置40を直接接続しないで、異常発信装置50が異常発生の報知をし、操作員がその報知を受けてエンジン制御装置40を介し適宜の対策を施すようにしてもよい。
【0052】
図5は、本実施例の給気ポートにおける異常時の酸素濃度変化例を示すグラフである。図は、横軸にピストンが上死点にある時をゼロとしたクランク角度をとり、縦軸に酸素濃度をとって、起動時において、ピストンが上死点にあるときに燃料供給弁26が閉止できなくなって燃料が漏洩したときに給気ポート13における酸素濃度が減少する様子を酸素濃度センサ51で測定した結果を示したものである。
図に表された例では、初め19%程度あった酸素濃度が急激に減少して、クランク角度が240°になるところでほぼゼロになり、酸素濃度減少に基づく燃料漏洩は1回転内で十分検出が可能であることが分かる。
【0053】
図6は、燃料供給弁の異常検知装置が実行する異常検出手順を例示して説明する流れ図である。
本実施例の異常検知装置は、エンジン制御装置40からサイクル位相の情報を取り込んで(S11)、たとえば対象とするシリンダの給気および圧縮行程における下死点のタイミングなど、給気弁15が閉じている時点であれば(S12)、給気ポート13内の酸素濃度を測定して出力する酸素濃度センサ51の、給気弁15が閉じているタイミングにおける測定信号を取り込んで(S13)、この測定値を所定の閾値と比較して(S14)、酸素濃度が閾値より低くなったら燃料供給弁26に異常が発生したと判断して異常検出信号を発生する(S15)。なお、現時点が給気弁の閉弁期間でないときや(S12)、酸素濃度が閾値より高いときは(S14)、本作業の初め段階に戻って、再び第1の段階(S11)に戻って次の作業手順における初めの操作に入る。
異常検出信号は、エンジン制御装置40に供給して、緊急停止操作を開始させるようにしてもよい。あるいは、操業者の判断を求めるために警報に留めるようにしてもよい。
【0054】
図6に表した手順は、異常発信装置50が、エンジン制御装置40から取得する位相信号に基づいて酸素濃度測定値を評価するタイミングを選択するようにしたものである。
酸素濃度センサが正常時における燃料噴射時の濃度低下に応答しない場合には、位相信号に基づく手順(S11,S12)が不要になる。
また、サイクル位相信号は、クランク軸21に設置した回転位相計41から異常検知装置に直接受信するようにすることもできる。
【0055】
燃料供給弁26の閉弁状態を判定するため、燃料供給弁26の作動指令信号や給気弁15の閉弁時のサイクル位相信号を使う方法もある。たとえば、燃料供給弁26を閉じる指令が発せられた後、適宜な時間が経過すれば、通常は完全に気体燃料の流れが止まって、給気ポート13の酸素濃度はほぼ空気の酸素濃度に戻っている。したがって、エンジン制御装置40から燃料供給弁26の閉弁指令信号を取得することにより、簡単に判定に使用するタイミング信号を得ることができる。あるいは、燃料供給弁26が閉じた後、適宜な時間が経過した後に給気弁15が閉じるので、給気弁15が閉じる時あるいは閉じている間のサイクル位相信号を利用してもよい。
また、本実施例における異常発信装置は、専用の電子回路により構成してもよく、また汎用のマイクロコンピュータにより構成することもできる。さらに、ガスエンジンのための制御装置を構成する電子回路の一部により構成するようにしてもよい。
【0056】
本実施例は、副室を備えた4サイクルガスエンジンを例にとって発明を説明するものであるが、副室がなくても、また2サイクルエンジンであっても、発明に係る技術的思想を適用できることはいうまでもない。また、図で説明するガスエンジンは発電機を駆動するものであるが、車輪やスクリューなどを駆動して車両や船舶の運行に利用するものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置および方法は、燃料供給弁の異常を発生直後に検出するので、検出信号をそのまま制御装置に供給して緊急停止をしたり、操作員に報知して適切な対処を促したりして、燃焼ガス処理工程の諸装置や触媒などを破損することを防止することができるので、ガスエンジンを利用する発電や回転動力分野などにおいて、効果的に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 ガスエンジン
11 エンジンシリンダ
12 ピストン
13 給気ポート
14 排気ポート
15 給気弁
16 排気弁
17 主燃焼室
18 副室
19 点火プラグ
20 シリンダヘッド
21 クランク軸
22 発電機
23 給気マニホールド
24 排気マニホールド
25 燃料ヘッダー
26 燃料供給弁
28 燃料供給管(枝管)
29 燃料供給管
31 気体燃料貯留装置
32 遮断弁
33 レギュレータ
34 絞り
35 過給機
36 脱臭脱硝装置
37 ボイラ
38 消音機
40 エンジン制御装置
41 回転位相計
42 圧力センサ
50 異常発信装置
51 酸素濃度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスエンジンにおいて気体燃料を給気ポートに供給する燃料供給弁の異常を検知する異常検知装置であって、
給気ポートに設置した酸素濃度センサと、
該酸素濃度センサの酸素濃度信号を入力し、前記給気ポートの酸素濃度が予め記憶された閾値より低い場合に前記燃料供給弁の異常と判定して異常信号を出力する異常発信装置と、
を備えることを特徴とするガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置。
【請求項2】
前記異常発信装置が、前記ガスエンジンのサイクル位相信号を取得して、クランク軸の回転位相が適宜な位相位置になったときに、前記酸素濃度信号を取得すること
を特徴とする請求項1記載のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置。
【請求項3】
前記ガスエンジンのサイクル位相信号は、前記ガスエンジンで回転するクランクの回転位相を検出するセンサから直接にあるいはエンジン制御装置を介して間接に取得することを特徴とする請求項1または2記載のガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知装置。
【請求項4】
ガスエンジンにおいて気体燃料を給気ポートに供給する燃料供給弁の異常を検知する異常検知方法であって、
前記給気ポートにおける酸素濃度を測定し、
該酸素濃度が予め設定された閾値より低下した場合に前記燃料供給弁の異常と判定して異常検知信号を出力する、
ことを特徴とするガスエンジンにおける燃料供給弁の異常検知方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料供給弁の異常検知装置を備えたガスエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−132419(P2012−132419A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287568(P2010−287568)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】