説明

ガスバリア積層体の製造方法およびガスバリア積層体

【課題】ガスバリア性のみならず耐久性にも優れる、無機/有機のガスバリア積層体を提供する。
【解決手段】気相成膜法で無機化合物層を形成した後、逆スパッタリング等で粗面化処理を行い、粗面化処理を行なった無機化合物層の上に、フラッシュ蒸着によって有機化合物層を形成することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の膜を積層してなるガスバリア積層体に関し、詳しくは、無機化合物層と、その上の有機化合物層とを有するガスバリア積層体において、無機化合物層と有機化合物層との密着性に優れたガスバリア積層体および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池等の各種の装置における防湿性を要求される部位や部品、食品、衣料品、電子部品等の包装に用いられる包装材料に、ガスバリア膜(水蒸気バリア膜)が形成されている。また、PET等のプラスチックフィルムにガスバリア膜を成膜してなるガスバリアフィルムが、前記用途を含め、各種の用途に利用されている。
ガスバリア膜としては、窒化珪素、酸化硅素、酸窒化硅素、酸化アルミニウム等の各種の物質からなる膜が知られている。このようなガスバリア膜は、一般的に、プラズマCVD等の気相成膜法によって形成される。
【0003】
また、より高いガスバリア性や耐酸化性等を得ることを目的として、有機化合物層と無機化合物層など、前記複数の膜を積層してなるガスバリア積層体(積層型ガスバリア膜)も知られている。
当然の事であるが、十分な機械的な強度や、目的とするガスバリア性等を実現するためには、このようなガスバリア積層体には、良好な膜と膜との密着性(層間密着性)が要求される。特に、長尺な基板を巻回してなる基板ロールから基板を送り出し、搬送しながら成膜を行い、成膜済みの基板を再度ロール状に巻き取る、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による装置では、ロールからの送り出しやロールへの巻取りなどのウエブハンドリングによって、層間にストレスがかかるので、高い密着性が要求される。
しかしながら、無機化合物層の上に有機層化合物層を形成する場合には、膜界面での密着力が弱く、層間剥離が生じ易いという問題点が有る。
【0004】
このような問題点を解決するために、各種の提案がされている。
例えば、特許文献1には、無機化合物層の上に、フラッシュ蒸着によって有機化合物層を形成するガスバリア積層体の製造において、有機化合物層の形成に先立って、無機化合物層にプラズマを照射する、いわゆるプラズマトリートメントを行なうことにより、無機化合物層と有機化合物層との密着性を向上することが記載されている。
また、特許文献2には、酸化珪素膜や窒化珪素膜等の無機化合物層の上に、有機化合物からなる保護膜を形成するガスバリア積層体において、有機化合物層として、フラッシュ蒸着によって2種以上の(メタ)アクリル化合物の混合物を成膜することにより、有機化合物層と、珪素を含む無機化合物との親和性を高めて、無機化合物層と有機化合物層との密着性を向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−235930号公報
【特許文献2】特開2006−95932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラズマトリートメントは、表面にOH基などを付着させる親水化処理や、表面のクリーニングを行なうことにより、密着性を向上の向上を図るものである。
しかしながら、プラズマトリートメントのように、無機化合物層の表面を親水化すると、水蒸気を吸着し易くなってしまい、ガスバリア性(水蒸気バリア性)が低下してしまうという問題が生じる。
また、ガスバリア膜としては、窒化珪素膜や酸化珪素膜などの珪素を含む無機化合物が利用される。ここで、珪素を含む無機化合物は、Si−O結合の状態が最も安定した状態である。そのため、膜の最表面では、経時によって、未結合種の酸化が進み、これにより密着力が低下してしまう。すなわち、プラズマトリートメント等の処理を行なうことにより、成膜当初は、ある程度、良好な密着性が得られるものの、経時と共に、密着力が低下してしまう。
【0007】
また、周知のように、フラッシュ蒸着は、成膜材料を蒸発させて、その蒸気を基板に付着させて、冷却/凝縮して液体状の膜を形成し、この膜を紫外線や電子線によって硬化することで、成膜を行なうものである。そのため、凝縮時の硬化収縮率が大きく、応力によって密着性が低下してしまい、高い密着性を得ることが、より困難である。
加えて、特許文献2に示されるように、2種以上の混合物からなる膜をフラッシュ蒸着によって成膜する場合には、各化合物の蒸気圧が異なることにより、目的とする膜組成を得ることが困難である。そのため、有機化合物層と無機化合物との親和性を高めることで密着性を向上させる機能が、減少してしまう。
【0008】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、無機化合物層の上に、フラッシュ蒸着による有機化合物層を形成してなるガスバリア積層体において、有機化合物層の形成に、密着性の点では不利であるフラッシュ蒸着を利用しているにも関わらず、非常に良好な有機化合物層と無機化合物との密着性を得ることができ、また、無機化合物として、ガスバリア膜として汎用される珪素化合物を利用した場合に、経時によって無機化合物層表面の酸化が進行しても、長期に渡って十分な密着性を確保できる、ガスバリア積層体の製造方法およびガスバリア積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のガスバリア積層体の製造方法は、基板の表面に気相成膜法によって無機化合物層を形成し、この無機化合物層の表面の粗面化処理を行なった後、無機化合物層の上に、フラッシュ蒸着によって有機化合物層を形成することを特徴とするガスバリア積層体の製造方法を提供する。
【0010】
このような本発明のガスバリア積層体の製造方法において、前記粗面化処理を、逆スパッタリング処理によって行なうのが好ましく、この際において、前記逆スパッタリング処理を、Arガス、Heガス、Neガス、Krガス、Xeガス、Rnガス、および、N2ガスから選択される1以上のガスを用いて行なうのが好ましい。
また、前記粗面化処理によって、無機化合物層の表面の平均表面粗さRaを10〜100nmとするのが好ましい。また、有機化合物からなる表面を有する基板に、前記無機化合物層を形成するのが好ましく、この際において、前記基板の有機化合物からなる表面が、フラッシュ蒸着による有機化合物層であるのが好ましい。
また、長尺な基板を円筒状のドラムの側面に巻き掛けた状態で、前記基板を長手方向に搬送しつつ、前記ドラムの側面に対面して設けられた気相成膜法による成膜手段、前記ドラムの側面に対面して設けられた粗面化処理手段、および、前記基板搬送方向の前記成膜手段の下流に前記ドラムの側面に対面して設けられたフラッシュ蒸着手段によって、前記無機化合物層の形成、前記無機化合物層の粗面化処理、および、有機化合物層の形成を、順次、行なうのが好ましく、この際において、前記基板搬送方向の成膜手段の上流に前記ドラムに対面して設けられたフラッシュ蒸着手段によって、前記無機化合物層の形成に先立って、有機化合物層を形成するのが好ましい。
さらに、前記無機化合物層をプラズマCVDによって形成するのが好ましい。
【0011】
また、本発明のガスバリア積層体は、気相成膜法によって形成された、表面の平均表面粗さRaが10〜100nmの無機化合物層と、この無機化合物層の上に形成された、フラッシュ蒸着によって形成された有機化合物層とを有することを特徴とするガスバリア積層体を提供する。
【0012】
このような本発明のガスバリア積層体において、前記無機化合物層が、有機化合物からなる表面を有する基板に形成されるのが好ましく、また、前記有機化合物からなる表面が、フラッシュ蒸着によって形成された有機化合物層であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
このような本発明によれば、窒化珪素膜や酸化珪素膜などの無機化合物層の上にアクリル系樹脂等の有機化合物層を形成したガスバリア積層体において、プラズマCVD等の気相成膜法によって無機化合物層を形成した後、逆スパッタリング処理等によって無機化合物層の表面を粗面化処理を行い、粗面化した無機化合物層の上に、フラッシュ蒸着によって、有機化合物層を形成する。
【0014】
そのため、粗面化された無機化合物層の表面の凹凸に入り込むように、有機化合物層が形成されるため、アンカー効果を発生させることができ、これにより、非常に高い無機化合物層を有機化合物層との密着性を得ることができる。また、アンカー効果によって、物理的に高い密着性を得ているので、例えば、無機化合物層として窒化珪素膜や酸化珪素膜等の珪素化合物からなる層を形成した場合に、経時によって酸化が進行しても、密着性が大きく低下することがなく、長期に渡って、十分な密着性を確保できる。
さらに、プラズマトリートメント等のように、主にガスバリア性を発現する無機化合物層の表面を親水化することも無いので、水蒸気の付着によるガスバリア性の低下も無い。
従って、本発明によれば、十分な機械的強度を有し、長期に渡って、目的とするガスバリア性を発揮するガスバリア積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のガスバリア積層体の製造方法を実施する製造装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】本発明のガスバリア積層体の一例を概念的に示す図である。
【図3】本発明のガスバリア積層体の製造方法に利用される基板の一例の構成を概念的に示す図である。
【図4】図1に示す製造装置における有機層形成部の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のガスバリア積層体の製造方法、および、ガスバリア積層体について、添付の図面に示される好適例を基に、詳細に説明する。
【0017】
図1に、本発明のガスバリア積層体の製造方法を実施して、本発明のガスバリア積層体を製造する、製造装置の一例を概念的に示す。
図示例のガスバリア積層体の製造装置10は、長尺な基板Z(フィルム原反)を長手方向に搬送しつつ、この基板Zの表面にプラズマCVDによってガスバリア性を発現する無機化合物層20を形成(成膜)し、次いで、この無機化合物層20の表面を逆スパッタリング処理によって粗面化処理して、粗面化処理を行なった無機化合物層20の表面に、フラッシュ蒸着によって有機化合物層24を形成して、図2に概念的に示すような、基板Zの表面に、無機化合物層20と有機化合物層24とを有するガスバリア積層体を形成してなるガスバリアフィルム(あるいは、ガスバリアフィルムの原料や中間製品)を製造するものである。
この製造装置10は、長尺な基板Zをロール状に巻回してなる基板ロール30から基板Zを送り出し、長手方向に搬送しつつ無機化合物層20と有機化合物層24とを有するガスバリア積層体を形成して、ガスバリア積層体を形成した基板Z(すなわち、ガスバリアフィルム)をロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)による成膜を行なう装置である。
【0018】
なお、本発明の製造方法において、基板(成膜基板)は、図示例のような長尺なシート状物が好適に例示されるが、それ以外にも、所定長に切断されたシート状物(カットシート)、レンズや光学フィルタなどの光学素子、有機ELや太陽電池などの光電変換素子、液晶ディスプレイや電子ペーパーなどのディスプレイパネル等、各種の物品(部材/基材)も、基板として好適に利用可能である。
【0019】
また、基板の材料にも、特に限定はなく、プラズマCVDによるガスバリア膜の形成が可能なものであれば、各種の材料が利用可能であり、プラスチックフィルム(樹脂フィルム)等の有機物からなる基板でも、金属やセラミック等の無機物からなる基板でもよい。
ここで、本発明は、図示例のようなガスバリアフィルムの製造に好適であり、従って、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの有機物からなるシート状の基板(プラスチックフィルム)を用いるのが、好適である。
【0020】
また、本発明においては、プラスチックフィルムやレンズ等を基材として、その上に、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が形成されている物を基板として用いてもよい。
この際においては、基材の上に1層のみの膜が形成された物を基板として用いてもよく、あるいは、図3に概念的に示すように、基材Bの上に、層a〜層fのような複数の膜を形成した物を基板Zとして用いてもよい。
また、基材Bの上に1層もしくは複数層の膜が形成されている基板Zにおいては、その中の2層(例えば、図3であれば層bと層cなど)が、本発明の製造方法で形成した本発明のガスバリア積層体であってもよく、さらに、本発明の製造方法で形成した本発明のガスバリア積層体が複数(繰り返しでも可)、形成された基板Zであってもよい。
【0021】
なお、基板の表面に、ガスバリア膜の膜厚を大きく上回るサイズの凹凸や異物があると、ガスバリア性が劣化し、高い耐酸化性が得られても、目的のガスバリア性が得られない可能性が生じる。
そのため、用いる基板は、表面が十分に平滑で異物の付着が少ないものが好ましい。
【0022】
前述のように、図1に示す製造装置10は、長尺な基板Zを巻回してなる基板ロール30から基板Zを送り出し、基板Zを長手方向に搬送しつつガスバリア積層体を形成して、再度、ロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロールによる成膜を行なう装置である。この製造装置10は、供給室12と、成膜室14と、巻取り室16とを有する。
なお、製造装置10は、図示した部材以外にも、各種のセンサ、搬送ローラ対や基板Zの幅方向の位置を規制するガイド部材など、基板Zを所定の経路で搬送するための各種の部材(搬送手段)等、プラズマCVDによる成膜を行なう装置が有する各種の部材を有してもよい。
【0023】
供給室12は、回転軸32と、ガイドローラ34と、真空排気手段35とを有する。
長尺な基板Zを巻回した基板ロール30は、供給室12の回転軸32に装填される。
回転軸32に基板ロール30が装填されると、基板Zは、供給室12から、成膜室14を通り、巻取り室16の巻取り軸36に至る所定の搬送経路を通される(送通される)。
製造装置10においては、基板ロール30からの基板Zの送り出しと、巻取り室16の巻取り軸36における基板Zの巻き取りとを同期して行なって、長尺な基板Zを所定の搬送経路で長手方向に搬送しつつ、成膜室14において、基板Zに、無機化合物層20の形成、逆スパッタリング処理による無機化合物層20の表面の粗面化処理、および、有機化合物層24の形成を、順次、行なう。
【0024】
図示例の製造装置10においては、好ましい態様として、供給室12に真空排気手段35を、巻取り室16に真空排気手段96を、それぞれ設けている。これらの室に真空排気手段を設け、成膜中は、後述する成膜室14と同じ真空度(圧力)とすることにより、隣接する室の圧力が、成膜室14の真空度(ガスバリア膜の成膜)に影響を与えることを防止している。
真空排気手段35には、特に限定はなく、ターボポンプ、メカニカルブースターポンプ、ロータリーポンプ、ドライポンプなどの真空ポンプ、さらには、クライオコイル等の補助手段、到達真空度や排気量の調整手段等を利用する、真空成膜装置に用いられている公知の(真空)排気手段が、各種、利用可能である。この点に関しては、後述する他の真空排気手段も、全て、同様である。
【0025】
なお、本発明においては、全ての室に真空排気手段を設けるのに限定はされず、処理として真空排気が不要な供給室12および巻取り室16には、真空排気手段は設けなくてもよい。但し、これらの室の圧力が成膜室14の真空度に与える影響を小さくするために、スリット38a等の基板Zが通過する部分を可能な限り小さくし、あるいは、室と室との間にサブチャンバを設け、このサブチャンバ内を減圧してもよい。
また、全室に真空排気手段を有する図示例の製造装置10においても、スリット38a等の基板Zが通過する部分を可能な限り小さくするのが好ましい。
【0026】
基板Zは、ガイドローラ34によって案内され、隔壁38によって供給室12と隔てられる成膜室14に搬送される。前述のように、成膜室14は、搬送される基板Zに、無機化合物層20の形成、逆スパッタリング処理による無機化合物層20の表面の粗面化処理、および、有機化合物層24の形成を、順次、行なう部位である。
このような各処理を行なう成膜室14は、ガイドローラ40と、無機化合物層形成部42(以下、無機層形成部42とする)と、粗面化処理部46と、有機化合物層形成部48(以下、有機層形成部48とする)と、ガイドローラ50と、ドラム52とを有して構成される。また、無機層形成部42は隔壁54aおよび54bによって、粗面化処理部46は隔壁54bおよび54cによって、他の領域とは略機密に隔離される。
【0027】
成膜室14のドラム52は、中心線を中心に図中反時計方向に回転する円筒状の部材で、ガイドローラ40によって所定の経路に案内された基板Zを、周面の所定領域に掛け回して、所定位置に保持しつつ長手方向に搬送して、無機層形成部42、粗面化処理部46、および、有機層形成部48に、順次、搬送して、ガイドローラ50に送る。
【0028】
ここで、ドラム52は、後述する無機層形成部42におけるシャワー電極56、および、粗面化処理部46におけるシャワー電極64の対向電極としても作用(すなわち、ドラム56と、これらのシャワー電極とで、電極対を形成)する。そのため、ドラム52には、バイアス電源が接続され、あるいは、接地(アース)されている(共に、図示省略)。もしくは、ドラム52は、バイアス電源の接続と接地とが切り換え可能であってもよい。
また、ドラム52は、有機層形成部48において、噴霧された有機化合物の液体の凝集のためや、成膜中の基板温度上昇の抑制など、基板Zの温度調整手段も兼ねる。そのため、ドラム52は、温度調整手段を内蔵する。ドラム52の温度調節手段には、特に限定はなく、冷媒等を循環する温度調節手段、ピエゾ素子等を用いる冷却手段等、各種の温度調節手段が、全て利用可能である。
【0029】
無機層形成部42は、気相成膜法によって基板Zの表面に無機化合物層20(以下、無機層20とも言う)を形成する部位である。図示例においては、無機層形成部42は、CCP(Capacitively Coupled Plasma 容量結合プラズマ)−CVDによって、無機層20を形成(成膜)する。
なお、本発明において、プラズマCVDは、図示例のようなCCP−CVDに限定はされず、ICP(Inductively Coupled Plasma 誘導結合プラズマ)−CVD、マイクロ波CVD、ECR(Electron Cyclotron Resonance)−CVD、大気圧バリア放電CVD等、各種のプラズマCVDが、全て利用可能である。また、Cat(Catalytic 触媒)−CVDも利用可能である。また、本発明において、無機層20の形成方法は、プラズマCVDに限定はされず、各種のスパッタリングや真空蒸着など、いわゆる気相成膜法が全て利用可能である。中でも、各種のプラズマCVDは、好適に利用される。
【0030】
図示例において、無機層形成部42は、基本的に、公知のCCP−CVD法によって、無機層20を形成するものであり、シャワー電極56と、原料ガス供給部58と、高周波電源60と、真空排気手段62とを有する。
【0031】
シャワー電極56は、CCP−CVDによる成膜に利用される、公知のシャワー電極である。
図示例において、シャワー電極56は、一例として、中空の略直方体状であり、1つの最大面をドラム52の周面に対面して、この最大面の中心からの垂線がドラム52の法線と一致するように配置される。また、シャワー電極56のドラム52との対向面には、多数の貫通穴が全面的に形成される。さらに、このドラム52との対向面は、好ましい態様として、ドラム52の周面に沿う様に湾曲している。
【0032】
なお、図示例において、無機層形成部42には、シャワー電極(CCP−CVDによる成膜手段)が、1個、配置されているが、本発明は、これに限定はされず、基板Zの搬送方向に、複数のシャワー電極を配列してもよい。この点に関しては、CCP−CVD以外のプラズマCVDを利用する際も同様であり、例えば、ICP−CVDによってガスバリア膜を成膜(製造)する際には、誘導電界(誘導磁場)を形成するため(誘導)コイルを、基板Zの搬送方向に、複数、配置してもよい。
また、本発明は、シャワー電極を用いてICP−CVD法による無機層20の形成を行なうのにも限定はされず、通常の板状の電極と、ガス供給ノズルとを用いるものであってもよい。
【0033】
原料ガズ供給部58は、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる公知のガス供給部であり、シャワー電極56の内部に、原料ガスを供給する。
前述のように、シャワー電極56のドラム52との対向面には、多数の貫通穴が供給されている。従って、シャワー電極56に供給された原料ガスは、この貫通穴から、シャワー電極56とドラム52との間に導入される。
【0034】
本発明において、形成する無機層20には、特に限定はなく、酸化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素、酸窒化炭化珪素、酸化アルミニウム等、ガスバリア性(水蒸気バリア性)を発現する、各種の無機化合物からなる層が、全て利用可能である。
中でも、窒化珪素および酸化珪素は、好適に例示される。
【0035】
従って、原料ガス供給部58は、形成する無機層20に応じた公知の原料ガスを、シャワー電極56に供給すればよい。
例えば、無機層20として窒化珪素膜を形成する際であれば、シランガスと、アンモニアガスおよび/または窒素ガスとを、酸化珪素膜を形成する際であれば、シランガスと酸素ガスとを、酸窒化珪素膜を形成する際であれば、シランガスと、アンモニアガスおよび/または窒素ガスと、酸素とを、それぞれ、シャワー電極16に供給すればよい。
また、原料ガスには、必要に応じて、これらに加え、Arガス、Heガス、Neガス、Krガス、Xeガス、Rnガス、および、N2ガスなどの不活性ガスを併用してもよい。
【0036】
高周波電源60は、シャワー電極56に、プラズマ励起電力を供給する電源である。高周波電源60も、各種のプラズマCVD装置で利用されている、公知の高周波電源が、全て利用可能である。
さらに、真空排気手段62は、プラズマCVDによるガスバリア膜の成膜のために、無機層形成部42内、すなわち、隔壁54a、隔壁54b,および、ドラム52の周面で形成される閉空間内を排気して、所定の成膜圧力に保つものであり、前述のように、真空成膜装置に利用されている、公知の真空排気手段である。
【0037】
原料ガスの流量、プラズマ励起電力、成膜圧力等、無機層20の形成条件(成膜条件)には、特に限定はなく、形成する無機層20の種類や膜厚、使用する原料ガス、目標とする成膜速度(成膜レート)等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0038】
また、本発明において、無機層20の厚さには、特に限定はなく、ガスバリア積層体の用途、要求されるガスバリア性、形成する無機層20や有機層24の種類等に応じて、適宜、設定すればよいが、10〜200nmが好ましい。
無機層20の厚さを、上記範囲とすることにより、ガスバリア性、成膜時における基板搬送速度の高速化等の点で好ましい結果を得る。
【0039】
なお、本発明の製造方法においては、基板の温度を120℃以下にして、ガスバリア膜を成膜するのが好ましい。さらに、基板の温度を80℃以下にして、ガスバリア膜を成膜するのが、特に好ましい。
基板温度を120℃以下にしてガスバリア膜を成膜することにより、耐熱性の低いPEN等のプラスチックフィルム基板や、耐熱性の低い有機材料を基材として用いる基板にも、好適に高いバリア性および耐酸化性を有するガスバリア膜を成膜でき、また、低応力のガスバリア膜を成膜できる等の点で好ましい結果を得る。さらに、基板温度を80℃以下にしてガスバリア膜を成膜することにより、より耐熱性の低いPET等のプラスチックフィルム基板にも、好適に高バリア性で高耐酸化性を有するガスバリア膜を成膜することができ、また、低応力のガスバリア膜を成膜できる等の点で好ましい結果を得る。
【0040】
粗面化処理部46は、無機層形成部42で形成した無機層20の表面に逆スパッタリング処理を施すことにより、無機層20の表面を粗面化するものであり、シャワー電極64と、スパッタガス供給部68と、DCパルス電源70と、真空排気手段72とを有する。
シャワー電極64およびスパッタガス供給部68は、基本的に、無機層形成部42に配置される、シャワー電極56および原料ガス供給部58と同じものであり、また、DCパルス電源70も、スパッタリング装置等に利用される公知のDCパルス電源である。なお、粗面化処理部46においては、DCパルス電源70に変えて、無機層形成部42に配置される電源と同様の高周波電源を用いてもよい。
【0041】
粗面化処理部46は、基本的に、公知の逆スパッタリング処理によって、無機層20の表面を粗面化するものである。すなわち、真空排気手段72によって、粗面化処理部46内(隔壁54b、隔壁54c、およびドラム52の周面で形成される閉空間内)を所定圧力に保ちつつ、スパッタガス供給部68からシャワー電極64にスパッタガスを供給することで、基板Zの表面すなわち無機層20の表面とシャワー電極64との間にスパッタガスを導入し、DCパルス電源70からシャワー電極64にプラズマ励起電力を供給し、あるいはさらに、ドラム52に負の電圧を印加する。これにより、無機層20の表面とシャワー電極64との間でスパッタガスのプラスイオンが生成され、このプラスイオンが無機層20の表面に衝突して、無機層20の表面が粗面化される。
【0042】
使用するスパッタガス(スパッタリングガス)には、特に限定は無いが、Arガス、Heガス、Neガス、Krガス、Xeガス、Rnガス、および、N2ガスから選択される1以上のガスが、好適に例示される。
また、スパッタガスの供給量にも、特に限定はなく、無機層20の種類、目的とする無機層20の表面粗さ等に応じて、適宜、設定すればよいが、安定して、目的とする粗面化処理を行なうことができる等の点で、10〜50ml/minとするのが好ましい。
【0043】
逆スパッタリング処理における処理圧力にも、特に限定はなく、使用するガス、無機層20の種類、目的とする無機層20の表面粗さ等に応じて、適宜、設定すればよいが、安定して、目的とする無機層20の粗面化処理を行なうことができる等の点で、0.3〜10Pa、特に、2Paとするのが好ましい。
【0044】
逆スパッタリング処理におけるプラズマ励起電力にも、特に限定はなく、使用するガス、無機層20の種類、目的とする無機層20の表面粗さ等に応じて、適宜、設定すればよいが、安定して、目的とする無機層20の粗面化処理を行なうことができる等の点で、10〜100Wとするのが好ましい。
なお、電源として、DCパルス電源を用いた場合には、スパッタガスイオンの衝突を強めるために、−200〜−10Vの電位をシャワー電極64(スパッタリングを行なうための電極)に印加するのが好ましい。
【0045】
ここで、逆スパッタリング処理(粗面化処理)では、無機層20の表面を、平均表面粗さRaで10〜100nmとするのが好ましい。
後に詳述するが、本発明においては、無機層20の上に、フラッシュ蒸着によって有機化合物層22(以下、有機層24とする)を形成する。粗面化処理によって、無機層20の平均表面粗さRaを10〜100nmとすることにより、フラッシュ蒸着で凝集する有機化合物の表面積が増大し、非常に良好なアンカー効果を得ることができ、無機層20と有機層24との密着性を、より強固なものにできる。
また、逆スパッタリング処理による無機層20の平均表面粗さRaは10〜50nmとするのが、より好ましい。粗面化処理を行なうと、無機層20のガスバリア性は、若干、低下するが、無機層20の表面粗さをこの範囲とすることにより、上記密着力向上の効果に加え、ガスバリア性の低減を好適に抑制することができ、すなわち、良好なガスバリア性を有するガスバリア積層体を、より安定して得ることができる。
【0046】
なお、本発明のガスバリア積層体の製造方法において、無機層20の表面の粗面化処理は、逆スパッタリング処理に限定はされず、ドライエッチング、ウエットエッチング、転写等、無機層20の表面を、目的とする状態に粗面化できるものであれば、各種の粗面化処理手段が全て、利用可能である。
【0047】
有機層形成部48は、粗面化処理を行なわれた無機層20の表面に、フラッシュ蒸着によって有機層24を形成(成膜)する部位であり、有機層原料蒸着部74と、硬化手段76と、有機層原料供給部78と、真空排気手段80とを有して構成される。
真空排気手段80は、成膜室14内を排気して、成膜室14内の圧力を、有機層形成部48におけるフラッシュ蒸着に対応する圧力とするものである。
【0048】
有機層原料供給部78は、有機層24の原料となる、液体状の有機化合物のモノマーを(あるいは、有機化合物のモノマーを溶媒に溶解してなる塗料)を蒸発させて、その有機化合物蒸気を配管86aを通して有機層原料蒸着部74に供給するものである。
この有機層原料供給部78は、図4に概念的に示すように、液体状の有機化合物が貯留され、所定の減圧された圧力に保たれるとともに、内部を所定の圧力に減圧する排気手段と攪拌手段が設けられたタンク82と、このタンク82に接続されたシリンジポンプ84と、このタンク82に配管86を介して接続された液体噴射部(加熱チャンバ)88とを有する。
【0049】
タンク82内の液体状の有機化合物は、減圧下で攪拌手段により攪拌されて、脱泡されることで余分なガスが取り除かれる。この有機化合物が、シリンジポンプ84により、タンク82から液体噴射部88に圧送される。このシリンジポンプ84によるシリンジポンプ圧と送液量は、形成する有機層24の厚さや形成する有機層24の種類等により、適宜、設定されすればよいが、シリンジポンプ圧が50〜300PSI、送液量が0.1〜10ml/minであるのが好ましい。
【0050】
図示例において、液体噴射部88は、中空の円柱状の構成を有し、内部に加熱板90が設けられている。また、図示は省略するが、液体噴射部88には、内部を真空にする排気手段、および加熱板90を加熱する加熱手段が設けられている。
また、液体噴射部88は、配管86との接続部に液滴噴射口86aが設けられている。図示は省略するが、この液滴噴射口86aには、超音波印加手段および冷却手段が設けられている。
【0051】
液体噴射部88では、内部を真空にした状態で、シリンジポンプ84により圧送された液体状の有機化合物が、超音波が印加された液滴噴射口86aで微小な液滴状態にされて、加熱板90に向かって噴射される。なお、この超音波の出力には、特に限定はないが、有機化合物を、より微小な液滴に噴霧できる等の点で、1〜10Wとするのが好ましい。
微小な液滴状態の有機化合物は、加熱板90に接触すると蒸発し、蒸発体となる。この蒸発体となった有機化合物は、配管74aを通り、有機層原料蒸着部74に供給される。
【0052】
なお、超音波を印加して、液体状の有機化合物を微粒子化することにより、有機化合物の蒸発効率を向上させることができる。また、噴射口86aに超音波が印加されることによる急激な温度上昇によって、有機化合物が熱硬化してしまうのを防ぐため、冷却手段で、例えば、噴射口86aを温度5〜50℃にすることが好ましい。
さらに、加熱板90は、液体状の有機化合物の蒸発効率を考慮し、温度150〜300℃にすることが好ましい。さらに、蒸発体を効率良く噴射部(有機層原料蒸着部74)に供給する目的で、液体噴射部88内の圧力は、2×10-3〜1×10-2Paとするのが好ましい。
【0053】
有機層原料蒸着部74は、有機層原料供給部78から供給された有機層24となる有機化合物のモノマーの蒸気体を、ドラム52に巻き掛けられた基板Zの表面すなわち粗面化された無機層20に噴射して、凝集させるものである。
なお、液体噴射部88から有機層原料蒸着部74への蒸気体の移送、および、有機層原料蒸着部74からの蒸気体の噴射は、液体噴射部88と有機層形成部48(すなわち、成膜室14)との差圧によって行なわれる。
【0054】
図示は省略するが、有機層原料蒸着部74は加熱制御手段を備え、周囲が凝集温度以上蒸発温度以下の温度に加熱される加熱ノズル74bを有する。
有機層原料供給部78から供給されたモノマーの蒸発体が、加熱ノズル74bを通過し、基板Z上に一定量凝集される。この場合、加熱ノズル74bの温度を150〜300℃に保持するのが好ましい。
また、凝集効率を向上させるために、ドラム52を冷却して,基板Zを、例えば、−15〜25℃に保持するのが好ましい。
【0055】
硬化部76は、基板Z上に凝集された有機化合物を硬化して、有機層24とする。この硬化部76は、例えば、UV光(紫外線)76a(図3参照)を照射するUV照射手段が用いられる。このUV照射手段においては、UV照度は10〜100mW/cm2であることが好ましい。
なお、硬化部76としては、電子線を照射する電子線照射手段、またはマイクロ波を照射するマイクロ波照射手段を用いてもよい。
【0056】
ラズマCVDやスパッタリング等の気相成膜法によって形成された無機層20の表面は、一般的に、平均表面粗さRaで0.1〜9nmと非常に平滑性が高い。従来は、無機層の上に有機層を形成する場合には、この平滑性を生かし、かつ、特許文献1等にも示されるように、プラズマトリートメント等によって出来るだけ表面を清浄化するのが、密着性の向上に繋がると考えられていた。
しかしながら、本発明者の検討によれば、気相成膜法による無機層は、高い平滑性を有するが故に、逆に十分な密着性を得られない場合が多く、しかも、塗膜やフラッシュ蒸着等における濡れ性も悪い。しかも、フラッシュ蒸着は、成膜面に成膜材料の蒸気を付着させて、冷却/凝縮して成膜材料の膜を形成し、この膜を紫外線等で硬化する成膜法であるので、凝縮時の硬化収縮率が大きく、応力によって密着性が低下してしまい、高い密着性を得ることが、より困難である。
【0057】
これに対して、本発明においては、気相成膜法による無機層20の上に有機層24を形成してなるガスバリア積層体の製造において、無機層20の表面を逆スパッタリング処理等によって粗面化(好ましくは平均表面粗さRaを10〜100nmまで粗面化)した後、フラッシュ蒸着によって有機層24を形成する。
この粗面化処理によって、フラッシュ蒸着で凝集する有機化合物の表面積が増大し、かつ、粗面化された無機層20表面の凹凸に有機層24となる有機化合物が入り込むような状態になるので、非常に良好なアンカー効果を得ることができ、無機層20と有機層24との密着性を、より強固なものにできる。
【0058】
本発明において、粗面化した無機層20の上に形成する有機層24には、特に限定はなく、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等、有機化合物からなる、各種の機能を得るための層が、各種、利用可能である。
また、有機層24の形成材料にも特に限定はなく、目的とする有機層24の機能に応じた有機化合物を、適宜、選択して使用すればよい。一例として、有機層24として成膜される有機化合物は、アクリル樹脂あるいはメタクリル樹脂、ポリエステル、メタクリル酸―マレイン酸共重合体、ポリスチレン、透明フッ素樹脂、ポリイミド、フッ素化ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、セルロースアシレート、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリカーボネート、脂環変性ポリカーボネート、フルオレン環変性ポリエステル等の高分子化合物が例示される。このような高分子化合物すなわちモノマー混合物の重合体は、モノマー混合物を重合することによって得られる。
有機層24の好ましい高分子化合物は、アクリレートおよび/またはメタクリレートモノマーの重合体を主成分とするアクリル樹脂或いはメタクリル樹脂である。
【0059】
以下に、本発明の有機層24に好ましく用いられるアクリレート、メタクリレートの具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0060】
【化1】

【0061】
【化2】

【0062】
【化3】

【0063】
【化4】

【0064】
【化5】

【0065】
また、本発明において、有機層24の厚さには、特に限定はなく、ガスバリア積層体の用途、要求されるガスバリア性等に応じて、適宜、設定すればよいが、100〜700nmが好ましい。
有機層24の厚さを、上記範囲とすることにより、基板Z表面の欠陥の被覆、有機層24表面の平滑性等の点で好ましい結果を得る。
【0066】
ドラム52に巻き掛けられた状態で長手方向に搬送され、無機層形成部42における無機層20の形成、粗面化処理部46における無機層20表面の粗面化処理、および、有機層形成部48における無機層20の表面への有機層24の形成を、順次、行なわれた基板Zは、ガイドローラ50に案内されて、巻取り室16に搬送される。
【0067】
なお、本発明を実施する製造装置10においては、無機層形成部42の上流に、同様のフラッシュ蒸着による有機層形成部を設けてもよい。
すなわち、この際には、まず、基板Zの表面にフラッシュ蒸着によって有機層を形成し、次いで、無機層形成部42において、この有機層の上に無機層20を形成し、次いで、粗面化処理部46において、無機層20の表面に粗面化処理を施し、さらに、有機層形成部48によって、表面を粗面化した無機層20の上に有機層24を形成する。
【0068】
以下、成膜室14におけるガスバリア積層体の形成を説明することにより、本発明について、より詳細に説明する。
前述のように、回転軸32に基板ロール30が装填されると、基板Zは、基板ロール30から引き出され、供給室12からガイドローラ34によって案内されて成膜室14に至り、成膜室14において、ガイドローラ40に案内されて、ドラム52の周面の所定領域に掛け回され、ガイドローラ42によって案内されて巻取り室16に至り、ガイドローラ58に案内されて巻取り軸36に至る所定の搬送経路を通される。
なお、ドラム52は、温度調節手段によって、所定の温度に調節されている。
【0069】
供給室12から供給され、ガイドローラ40によって所定の経路に案内された基板Zはドラム52に支持/案内されつつ、所定の搬送経路を搬送される。
また、有機層形成部48(成膜室14内)は真空排気手段80によってフラッシュ蒸着による有機層24の形成に対応する所定の真空度に減圧され、無機層形成部42は真空排気手段62によって無機層20の形成に対応する所定の真空度に減圧され、粗面化処理部46は真空排気手段72によって逆スパッタリング処理に対応する対応する所定の真空度に減圧されている。さらに、供給室12は真空排気手段35によって、巻取り室16は真空排気手段96によって、それぞれ所定の真空度に減圧されている。
さらに、無機層形成部42のシャワー電極56には、原料ガス供給部58から、成膜する無機層20に応じた原料ガスが供給され、また、粗面化処理部46のシャワー電極64には、スパッタガス供給部68から、逆スパッタリング処理を行なうためのスパッタガスが供給される。
【0070】
原料ガスおよびスパッタガスの供給量、ならびに、無機層形成部42、粗面化処理部46および有機層形成部48の真空度が安定したら、高周波電源60からシャワー電極56にプラズマ励起電力が供給され、また、DCパルス電源70からシャワー電極64にプラズマ励起電力が供給され、さらに、有機原料供給部78から有機層原料蒸着部74(加熱ノズル74b)への有機層24となる有機化合物蒸気の噴射、および、硬化部76からのUV光の照射が開始される。
なお、製造装置10においては、ドラム52が対向電極となり、ドラム52とシャワー電極56とで、CCP−CVDにおける電極対を構成し、ドラム52とシャワー電極64とで逆スパッタリング処理における電極対を構成するのは、前述のとおりである。
【0071】
これにより、ドラム52に巻き掛けられた状態で搬送される基板Zの表面に、無機層形成部42におけるCCP−CVDによる無機層20の形成、粗面化処理部46における逆スパッタリング処理による無機層20の表面粗面化処理、および、有機層形成部48における粗面化された無機層20の表面への有機層24の形成が、順次、行なわれ、本発明の製造方法によって、本発明のガスバリア積層体が形成される。
【0072】
成膜室14で無機層20と有機層24とからなるガスバリア積層体を形成された基板Zは、ガイドローラ50に案内されて、スリット92aから隔壁92で隔てられた巻取り室16に搬送される。図示例において、巻取り室16は、ガイドローラ94と、巻取り軸36と、真空排気手段96とを有する。
巻取り室16に搬送されたガスバリア積層体を形成された基板Zは、ガイドローラ94に案内されて巻取り軸36に搬送され、巻取り軸36によってロール状に巻回され、例えば、ガスバリアフィルムの中間製品として次の工程に供される。
また、先の供給室12と同様、巻取り室16にも真空排気手段96が配置され、ガスバリア積層体の形成中は、巻取り室16も、成膜室14における成膜圧力に応じた真空度に減圧される。
【0073】
以上の例は、本発明のガスバリア積層体の製造方法を、ロール・ツー・ロールによる製造装置に利用した例であるが、本発明は、これに限定はされず、シート状の基板や、レンズやディスプレイ等の光学素子、太陽電池等にガスバリア積層体を成膜してもよいのは、前述のとおりである。すなわち、本発明は、いわゆるバッチ式による、ガスバリア積層体の製造に利用してもよい。
【0074】
以上、本発明のガスバリア積層体の製造方法、およびガスバリア積層体について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0075】
[実施例1]
基板Zとして、厚さ100μmのPENフィルム(帝人デュポンフィルム社製 Q65FA)の表面に、トリメチロールプロパントリアクリレートからなる厚さ500nmの有機層が形成されているフィルムを用意した。
なお、この有機層は、後述する有機層24と同様にして形成したものである。
【0076】
この基板Zの表面に、CCP−CVD法によって、厚さ60nmの窒化硅素膜を無機層20として形成した。
原料ガスは、シランガス(SiH4)、アンモニアガス(NH3)、窒素ガス(N2)、および水素ガス(H2)を用い、流量は、シランガスおよびアンモニアガスは100ml/min、窒素ガスは850ml/min、水素ガスは350ml/minとした。
また、成膜圧力は80Pa、プラズマ励起電力は周波数13.56MHz、1600Wとした。
【0077】
次いで、基板Zに形成した無機層20の表面に逆スパッタリング処理を行い、無機層20の表面を粗面化処理した。
スパッタガスはArガスを用い、ガス流量は30ml/minとした。
また、処理圧力は2Paとした。さらに、プラズマ励起電力として、電極に、−200VのDCパルス電圧を印加した。処理時間は30秒とした。
粗面化処理前後の無機層20の平均表面粗さRaを測定したところ、処理前の平均表面粗さRaは1.5nm、処理後の平均表面粗さRaは30nmであった。
【0078】
次いで、フラッシュ蒸着によって粗面化処理を行なった無機層20の上に有機化合物の液膜を形成し、この液膜に紫外線を照射して有機化合物を硬化することにより、無機層20の上に、厚さ250nmの有機層24を形成して、基板Zの上に本発明のガスバリア積層体を形成したガスバリアフィルムを作製した。
原料の液体状の有機化合物は、モノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート(共栄社化学(株)製、TMP−A)を98重量%、重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾファノンと4−メチルベンゾフェノンとの混合物(日本シイベルヘグナー製、ESACURE TZT)を2重量%、混合したものを用いた。
また、この液体状の有機化合物を圧送するシリンジポンプの圧力は130PSI、送液量は3ml/minとした。
液体噴射部(加熱チャンバ)内の圧力は2×10-2Pa、加熱板の温度は200℃とし、液体噴射部に液滴を噴射する噴射液滴噴射口における超音波の出力は7Wとした。
なお、フラッシュ蒸着中は、基板Zの温度は15℃に維持した。
さらに、紫外線照射は、照度の70mW/cm2の紫外線を、10秒間照射した。
【0079】
[実施例2]
無機層20の厚さを30nmとした以外には、実施例1と全く同様にして、基板Zの表面に無機層20および有機層24を形成して、ガスバリアフィルムを作製した。
粗面化処理前後の無機層20の平均表面粗さRaを測定したところ、処理前の平均表面粗さRaは1.5nm、処理後の平均表面粗さRaは15nmであった。
【0080】
[比較例1]
逆スパッタリング処理による無機層20の粗面化処理を行なわない以外は、実施例1と全く同様にして、基板Zの表面に無機層20および有機層24を形成して、ガスバリアフィルムを作製した。
【0081】
[比較例2]
逆スパッタリング処理に代えて、無機層20の表面にプラズマトリートメントを行なった以外は、実施例1と全く同様にして、基板Zの表面に無機層20および有機層24を形成して、ガスバリアフィルムを作製した。
なお、プラズマトリートメントは、Arガス(流量15ml/min)、O2ガス(流量5ml/min)およびN2ガス(流量5ml/min)を用い、処理圧力が5Pa、プラズマ励起電力が周波数13.56MHz、50Wの条件で行なった。
【0082】
[比較例3]
原料の液体状の有機化合物として、モノマーとして、トリメチロールプロパントリアクリレート(共栄社化学(株)製、TMP−A)を88重量%、および、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM5103)を10重量%、重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾファノンと4−メチルベンゾフェノンとの混合物(日本シイベルヘグナー製、ESACURE TZT)を2重量%、混合したものを用い、かつ、逆スパッタリング処理による無機層20の粗面化処理を行なわない以外は、実施例1と全く同様にして、基板Zの表面に無機層20および有機層24を形成し、ガスバリアフィルムを作製した。
【0083】
このようにして作成した4種のガスバリアフィルムについて、ガスバリア性、および、無機層20と有機層24との密着性を調べた。
【0084】
[ガスバリア性]
カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)によって、ガスバリアフィルムの水蒸気透過率[g/(m2・day)]を測定した。
水蒸気透過率が1.0×10-2以上のものを×;
水蒸気透過率が1.0×10-5以上1.0×10-2未満のものを○;
水蒸気透過率が1.0×10-5未満のものを◎; と評価した。
【0085】
[密着性]
JIS 5400に準拠して、有機層24を1mm角で碁盤目100マスに切断後、テープによって180°剥離を行い、残存率を測定した。
有機層24が100%残っているものを○;
有機層24が50%程度残っているものを△;
有機層24が全く残っていないものを×; と評価した。
なお、密着性は、作製直後および1週間経過後を測定した。
【0086】
[総合評価]
ガスバリア性が「◎」もしくは「○」で、かつ、作成直後および1週間経過後の密着性が「○」もしくは「△」であるものを「○」;
ガスバリア性および密着性で1つでも「×」が有るものを「×」; と評価した。
結果を下記表1に示す。
【0087】
【表1】

上記表に示されるように、無機層20を粗面化処理した後に、有機層24を形成する本発明によれば、ガスバリア性のみならず、有機層24と無機層20との密着性が非常に優れるガスバリア積層体を作製することができる。
また、粗面化処理を行なわない比較例1や3は、ガスバリア性は、良好であるものの、有機層24と無機層20との密着性が悪く、無機層20のプラズマトリートメントを行なった比較例2は、作製直後の密着性は良好であるが、経時と共に密着性が低下し、また、ガスバリア性も不十分である。
以上の結果より、本発明の効果は、明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0088】
高いガスバリア性を長期に渡って維持することが要求される、無機/有機のガスバリア積層体が要求される各種の製品の生産に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0089】
10 製造装置
12 供給室
14 成膜室
16 巻取り室
20 無機(化合物)層
24 有機(化合物)層
30 基板ロール
32 回転軸
34,40,50,94 ガイドローラ
35,62,72,80,96 真空排気手段
36 巻取り軸
38,54a,54b,54c,92 隔壁
42 無機(化合物)層形成部
46 粗面化処理部
48 有機(化合物)層形成部
52 ドラム
56,64 シャワー電極
58 原料ガス供給部
60 高周波電源
68 スパッタガス供給部
70 DCパルス電源
74 有機層原料蒸着部
76 硬化手段
78 有機層原料供給部
82 タンク
84 シリンジポンプ
86 配管
88 液体噴射部
90 加熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に気相成膜法によって無機化合物層を形成し、この無機化合物層の表面の粗面化処理を行なった後、無機化合物層の上に、フラッシュ蒸着によって有機化合物層を形成することを特徴とするガスバリア積層体の製造方法。
【請求項2】
前記粗面化処理を、逆スパッタリング処理によって行なう請求項1に記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項3】
前記逆スパッタリング処理を、Arガス、Heガス、Neガス、Krガス、Xeガス、Rnガス、および、N2ガスから選択される1以上のガスを用いて行なう請求項2に記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項4】
前記粗面化処理によって、無機化合物層の表面の平均表面粗さRaを10〜100nmとする請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項5】
有機化合物からなる表面を有する基板に、前記無機化合物層を形成する請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項6】
前記基板の有機化合物からなる表面が、フラッシュ蒸着による有機化合物層である請求項5に記載のガスバリア膜の製造方法。
【請求項7】
長尺な基板を円筒状のドラムの側面に巻き掛けた状態で、前記基板を長手方向に搬送しつつ、前記ドラムの側面に対面して設けられた気相成膜法による成膜手段、前記ドラムの側面に対面して設けられた粗面化処理手段、および、前記基板搬送方向の前記成膜手段の下流に前記ドラムの側面に対面して設けられたフラッシュ蒸着手段によって、前記無機化合物層の形成、前記無機化合物層の粗面化処理、および、有機化合物層の形成を、順次、行なう請求項1〜6のいずれかに記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項8】
前記基板搬送方向の成膜手段の上流に前記ドラムに対面して設けられたフラッシュ蒸着手段によって、前記無機化合物層の形成に先立って、有機化合物層を形成する請求項7に記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項9】
前記無機化合物層をプラズマCVDによって形成する請求項1〜8のいずれかに記載のガスバリア積層体の製造方法。
【請求項10】
気相成膜法によって形成された、表面の平均表面粗さRaが10〜100nmの無機化合物層と、この無機化合物層の上に形成された、フラッシュ蒸着によって形成された有機化合物層とを有することを特徴とするガスバリア積層体。
【請求項11】
前記無機化合物層が、有機化合物からなる表面を有する基板に形成される請求項10に記載のガスバリア積層体。
【請求項12】
前記有機化合物からなる表面が、フラッシュ蒸着によって形成された有機化合物層である請求項11に記載のガスバリア積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−247369(P2010−247369A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96906(P2009−96906)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】