説明

サスペンション用軸受

【課題】 直進走行時の走行安定性を損なわないような回転抵抗を簡単な構造で安価に得ることのできるサスペンション用軸受を提供する。
【解決手段】 内輪1の内側円筒部11及び外側円筒部12の玉収容空間K対向面には、玉収容空間K内に突出する膨出部11a,12aが形成されている。外輪2の内側円筒部21及び外側円筒部22の玉収容空間K対向面には、玉収容空間K内に突出する膨出部21a,22aが形成されている。内側シール5の第一リップ部51には、膨出部11aの上面に接触して摩擦力を増加させる延長部51aが形成されている。内側シール5の第二リップ部52には、膨出部21aの下面に接触して摩擦力を増加させる延長部52aが形成されている。外側シール6の第一リップ部61には、膨出部12aの上面に接触して摩擦力を増加させる延長部61aが形成されている。外側シール6の第二リップ部62には、膨出部22aの下面に接触して摩擦力を増加させる延長部62aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサスペンション用軸受、特にストラット式サスペンション用の軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のサスペンション形式の一つであるストラット式サスペンションには、ストラット軸の上端部と車体側支持部との間にサスペンション用の軸受が介装されている。一般に、車両のサスペンション装置では、操舵時(ハンドル操作時)において軽快なステアリング操作が求められる一方、直進走行時(ハンドル中立時)においては、路面の凹凸等によって生じる車輪の振れがハンドルに伝達されて走行安定性が損なわれないことが求められる。
【0003】
従来のストラット式サスペンション用軸受は、操舵時において一対の軌道輪が相対回転することにより、ステアリング操作時の回転トルク(回転抵抗)を小さくする機能を有している。しかしながら、直進走行時においても操舵時と同等の回転抵抗であるため、走行安定性が保てない傾向がある。そのため、これまではステアリング機構そのものに回転トルクの可変構造(例えば、遊星ギアとモータとを用いたバリアブルギアレシオ機構)を組み込んで、直進走行時の回転抵抗を得ているが、構造が複雑でコストが高くなる問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、直進走行時の走行安定性を損なわないような回転抵抗を簡単な構造で安価に得ることのできるサスペンション用軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係るサスペンション用軸受は、
ストラット軸の上端部に固定されるとともに複数の転動体を支持する環状の第一軌道面を形成する第一軌道輪と、車体側支持部に固定されるとともに前記転動体を挟んで前記第一軌道面に対向する環状の第二軌道面を形成する第二軌道輪とを有するサスペンション用軸受であって、
前記第一及び第二軌道面で囲まれかつ潤滑剤で満たされた転動体収容空間を閉鎖する環状のシール部材が設けられ、
前記第一及び/又は第二軌道輪には、前記転動体収容空間内に突出する突出部が周方向の所定角度範囲にわたって形成される一方、
前記シール部材には、前記第一及び第二軌道輪が相対回転する際に、前記突出部との接触有無に応じて摩擦力を調整可能な摩擦調整部が周方向の所定角度範囲にわたって形成され、
前記シール部材の摩擦調整部が前記突出部に接触するときに増大する摩擦力によって、両軌道輪の特定の相対回転角度範囲での回転トルクを増大させることを特徴とする。
【0006】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るサスペンション用軸受の具体的態様は、
ストラット軸の上端部に固定されるとともに複数の転動体を支持する環状の第一軌道面を形成する第一軌道輪と、車体側支持部に固定されるとともに前記転動体を挟んで前記第一軌道面に対向する環状の第二軌道面を形成する第二軌道輪とを有するサスペンション用軸受であって、
前記第一及び第二軌道面で囲まれかつ潤滑剤で満たされた転動体収容空間内に前記転動体の相互間隔を保持する環状の保持器が配置され、さらにその保持器には前記転動体収容空間を閉鎖する環状のシール部材が固定配置され、
前記第一及び/又は第二軌道輪には、前記転動体収容空間内に突出する突出部が周方向の所定角度範囲にわたって形成される一方、
前記シール部材には、前記第一及び第二軌道輪が相対回転する際に、前記突出部との接触有無に応じて摩擦力を調整可能な摩擦調整部が周方向の所定角度範囲にわたって形成され、
前記シール部材の摩擦調整部が前記突出部に接触するときに増大する摩擦力によって、両軌道輪の特定の相対回転角度範囲での回転トルクを増大させることを特徴とする。
【0007】
これらのサスペンション用軸受によれば、シール部材の摩擦調整部と突出部とが特定の相対回転角度範囲で接触(例えば摺動)するときに摩擦力が増大し、両軌道輪の回転トルクを増大させることができるので、直進走行時(ハンドル中立時)において、路面の凹凸等によって車輪の振れが生じてもハンドルに伝達されにくくなり、走行安定性が損なわれなくなる。しかも、従来のように回転トルクの可変構造をステアリング機構に組み込まなくても、突出部と摩擦調整部とを形成するだけですむため、直進走行時に走行安定性を損なわないような回転抵抗を簡単な構造で安価に得ることができる。
【0008】
そして、転動体の相互間隔を保持する保持器に、このような摩擦調整部を有するシール部材を固定配置する場合には、一層簡素で安価な構造とすることができる。また、もともと所定の精度で製造・組付けされる保持器に摩擦調整部を有するシール部材を固定すればよいので、摩擦調整部の取付精度等も確保しやすい。
【0009】
なお、本発明のサスペンション用軸受として、ラジアル玉軸受等のラジアル軸受や、スラスト玉軸受、プレス製総ボール形スラスト玉軸受等のスラスト軸受が使用できる。
【0010】
また、潤滑剤として、操舵時にシール部材や保持器が受ける粘性抵抗を軽減するために、例えば、JIS K2220(2003)に基づく混和ちょう度(グリースの硬さ)が300以上の比較的軟らかいグリースや、グリースよりも粘度の低い潤滑油、ポリマー潤滑剤等が推奨される。この場合、潤滑油としては、ポリαオレフィン、ジエステル、パーフロロポリエーテル、合成炭化水素、エーテル油、エステル油、シリコン油、フッ素油等の合成油や鉱油等を用いることができる。ポリマー潤滑剤としては、上記潤滑油に、ポリマーとして、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂を混合したものを用いることができる。
【0011】
さらに、操舵感覚を軽快にするため及び軸受内摩擦面の焼き付きを防止するために、極圧添加剤及び/又は摩耗防止剤を添加してもよい。これら極圧添加剤及び/又は摩耗防止剤としては、Moジチオカルバメート、Znジチオフォスフェートなどの有機金属錯体全般、ジエステルサルファイド、ベンジルサルファイドなどの硫黄系、トリクレジルフォスフェート、リン酸エステルなどのリン系、塩化アルキルベンゼンなどのハロゲン系等、全ての極圧添加剤や摩耗防止剤を使用することができる。
【0012】
これらのサスペンション用軸受において、摩擦調整部が突出部に接触する相対回転角度範囲はストラット軸に連係される車輪の中立位置を基準として定められ、直進走行時においては摩擦調整部と突出部との接触により回転トルクを増大させ、操舵時においては摩擦調整部と突出部との接触が解消されて回転トルクを消滅ないし減少させることが望ましい。これによって、両軌道輪の回転トルクを増大させる相対回転角度範囲を、車輪の中立位置を基準とする直進走行時の車輪振れ角に対応付けることが容易となり、より安定した直進走行時の走行が可能になる。
【0013】
そして、シール部材の摩擦力(両軌道輪の回転トルク)が、摩擦調整部と突出部との接触によるシール部材の接触面積の増加及び/又は接触面圧の増加に基づいて増大する場合には、シール部材の接触面積や接触面圧の調整によってシール部材(摩擦調整部)の摩擦力(すなわち両軌道輪の回転トルク)を容易に調整できる。例えば、摩擦調整部と突出部との接触により相対回転角度範囲でのシール部材の接触面積を拡大したり、摩擦調整部の厚み拡大により相対回転角度範囲でのシール部材の接触面圧を増加させたりすることができる。
【0014】
その際、突出部を第一及び第二軌道輪にそれぞれ形成するとともに、シール部材には各突出部に対応させて摩擦調整部を各々形成し、各軌道輪に形成される突出部の相対回転角度範囲を周方向において一致するように配置すれば、摩擦調整部が各軌道輪の突出部にそれぞれ同期して接触することができる。このように、突出部を第一及び第二軌道輪にそれぞれ形成することによって、相対回転角度範囲でのシール部材(の摩擦調整部)と突出部との接触面積の拡大を容易に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施例1)
次に、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例を参照して説明する。図1はストラット式サスペンションの一例を示す斜視図、図2はそのP部の拡大断面図である。図1に示すように、ストラット式サスペンションは、支持メンバー81に装着されて車体の一部を支持するストラット軸83(サスペンション部)と、ストラット軸83に組み込まれタイヤ側からの振動や衝撃を吸収するコイルスプリング82と、車体の上部に固定されるスタビライザーサポート84(車体側支持部)とを備えている。このストラット式サスペンションは、その下側が車体側の支持メンバー81に取り付けられ、車体全体を車軸等に対して浮上支持する役割を有する。そして、この支持メンバー81周りには、車軸93と、車軸93に固定され車輪を装着するハブ90と、ハブ90に固定されるブレーキディスク91と、ブレーキディスク91に油圧により圧接させるパッドを内部に設けたキャリパボディ92とが配置されている。
【0016】
ストラット式サスペンション上部の内部構造は、図2に示すように、コイルスプリング82のばね座82aを保持するコイルばねシート85と、ストラット軸83の上端部に保持されるプレス製総ボール形スラスト玉軸受100(サスペンション用軸受;以下単に軸受ともいう)と、軸受100を保持する軸受ハウジング89(車体側支持部)と、これら軸受100や軸受ハウジング89を囲むように保持するスタビライザーサポート84等で構成されている。尚、スタビライザーサポート84は、弾性材84aと弾性材84aの外周周りを覆う外筒部84bとで構成され、軸受ハウジング89に固定されている。
【0017】
そして、ストラット軸83の上端部に固定されたコイルばねシート85に軸受100の円環状の内輪1(第一軌道輪)を嵌合固定し、ナット88でリング部材86(弾性材84a内で回動可能)をストラット軸83に固定するようになっている。一方、軸受100の円環状の外輪2(第二軌道輪)は軸受ハウジング89に嵌合固定され、軸受ハウジング89はスタビライザーサポート84を介して車体側に固定されている。
【0018】
次に、図3は本発明に係るサスペンション用軸受の一例を示す正面断面図、図4はその要部拡大図である。図3に示す軸受100は、複数(例えば8個)の玉3(転動体)を支持し円環状の内側軌道面10(第一軌道面)を形成する金属プレス製の内輪1(第一軌道輪)と、玉3を挟んで内側軌道面10に対向する円環状の外側軌道面20を形成する金属プレス製の外輪2(第二軌道輪)とを有している。上記したように、内輪1はストラット軸83の上端部に固定され、外輪2は車体側支持部であるスタビライザーサポート84(軸受ハウジング89)に固定されている(図2参照)。
【0019】
内側軌道面10と外側軌道面20とで囲まれた玉収容空間K(転動体収容空間)にはグリース等の潤滑剤L(例えば混和ちょう度が300以上)が充填されている。また、この玉収容空間K内には、玉3の相互間隔を保持するために金属製で環状の保持器4が配置されている。この保持器4には、玉3を保持する複数(ここでは8個)の貫通孔4aが周方向に等間隔に形成され(図5,図6参照)、貫通孔4a間を連結する連結部4bは両軌道面10,20に対して斜めに傾斜して傘状に形成されている。さらに、保持器4には、両軌道輪1,2(玉収容空間K)を内周側及び外周側で(すなわち、両軌道面10,20の両側で)閉鎖(密封)する円環状の内側シール5(シール部材)及び円環状の外側シール6(シール部材)が固定して配置されている。
【0020】
具体的には、図4に拡大して示すように、内側シール5は、内輪1の内側円筒部11の玉収容空間K対向面全周に接触してシールする第一リップ部51(図6参照)と、外輪2の内側円筒部21の玉収容空間K対向面全周に接触してシールする第二リップ部52(図5参照)と、焼付・接着等により保持器4に固定するための取付部53とを有する。同様に、外側シール6は、内輪1の外側円筒部12の玉収容空間K対向面全周に接触してシールする第一リップ部61(図6参照)と、外輪2の内側円筒部21の玉収容空間K対向面全周に接触してシールする第二リップ部52(図5参照)と、焼付・接着等により保持器4に固定するための取付部63とを有する。
【0021】
内輪1の内側円筒部11及び外側円筒部12の玉収容空間K対向面には、内側軌道面10を周方向に等分割する形態で、玉収容空間K内に突出する膨出部11a,12a(突出部)が周方向の角度範囲θ(例えば10°;図10参照)にわたってそれぞれ複数ヶ所(ここでは2ヶ所ずつ)形成されている。同様に、外輪2の内側円筒部21及び外側円筒部22の玉収容空間K対向面には、外側軌道面20を周方向に等分割する形態で、玉収容空間K内に突出する膨出部21a,22a(突出部)が周方向の角度範囲θ(例えば10°;図9参照)にわたってそれぞれ複数ヶ所(ここでは2ヶ所ずつ)形成されている。
【0022】
内側シール5の第一リップ部51には、内輪1及び外輪2が相対回転する際に、膨出部11aの上面に接触して摩擦力を増加させるための延長部51a(摩擦調整部)が、保持器4を周方向に等分割する形態で、周方向の角度範囲θ(例えば10°;図6参照)にわたって複数ヶ所(ここでは2ヶ所)形成されている。同様に、内側シール5の第二リップ部52には、内輪1及び外輪2が相対回転する際に、膨出部21aの下面に接触して摩擦力を増加させるための延長部52a(摩擦調整部)が、保持器4を周方向に等分割する形態で、周方向の角度範囲θ(例えば10°;図5参照)にわたって複数ヶ所(ここでは2ヶ所)形成されている。
【0023】
一方、外側シール6の第一リップ部61には、内輪1及び外輪2が相対回転する際に、膨出部12aの上面に接触して摩擦力を増加させるための延長部61a(摩擦調整部)が、保持器4を周方向に等分割する形態で、周方向の角度範囲θ(例えば10°;図6参照)にわたって複数ヶ所(ここでは2ヶ所)形成されている。同様に、外側シール6の第二リップ部62には、内輪1及び外輪2が相対回転する際に、膨出部22aの下面に接触して摩擦力を増加させるための延長部62a(摩擦調整部)が、保持器4を周方向に等分割する形態で、周方向の角度範囲θ(例えば10°;図5参照)にわたって複数ヶ所(ここでは2ヶ所)形成されている。
【0024】
つまり、これらの延長部51a,52a,61a,62aは、膨出部11a,12a,21a,22aと接触することによって内側シール5及び外側シール6の接触面積を増加させ、摩擦力を増大させる。
【0025】
ここで、両シール5,6の延長部51a,52a,61a,62aと両軌道輪1,2の膨出部11a,12a,21a,22aとが接触する相対回転角度範囲はストラット軸83(図2参照)に連係される車輪(図示せず)の中立位置Cを基準として上記角度範囲θ(例えば、中立位置Cを中心として±5°)に定められている。そして、延長部51a,52a,61a,62aと膨出部11a,12a,21a,22aとの計4組の組合せは、ほぼ同時に接触(摺動)を開始し、ほぼ同時に接触(摺動)を停止する。
【0026】
したがって、直進走行時においては、図7に示すように、延長部51a,52a,61a,62aが膨出部11a,12a,21a,22aに接触するときに増大する摩擦力によって、相対回転角度範囲θでの両軌道輪1,2の回転トルクを増大させる。それによって両軌道輪1,2は相対回転しにくくなり、走行安定性が保たれる。一方、操舵時においては、図8に示すように、ステアリング操作によって延長部51a,52a,61a,62aと膨出部11a,12a,21a,22aとの接触が解消されるので、両軌道輪1,2の回転トルクが消滅(又は減少)し、ステアリング操作力が軽減される。
【0027】
しかも、両シール5,6の延長部51a,52a,61a,62aと両軌道輪1,2の膨出部11a,12a,21a,22aとを形成するだけですむため、簡単な構造で安価に構成することができる。なお、延長部51a,52a,61a,62aと膨出部11a,12a,21a,22aとは、対応するいずれか1組だけ設けてもよい。
【0028】
(実施例2)
図11に軸受100の他の例を示す。図11の軸受100では、両シール5,6が両軌道輪1,2の内側円筒部11,21及び外側円筒部12,22の玉収容空間K対向面全周に配置されている。具体的には、内輪1の内側円筒部11の玉収容空間K対向面全周に焼付・接着等により固定された内側シール5(シール部材)の先端部に、周方向の角度範囲θ(例えば10°)にわたって延長部5a(摩擦調整部)が形成されている。また、内輪1の外側円筒部12の玉収容空間K対向面全周に焼付・接着等により固定された外側シール6(シール部材)の先端部に、周方向の角度範囲θ(例えば10°)にわたって延長部6a(摩擦調整部)が形成されている。そして、これらの延長部5a,6aは、両軌道輪1,2が相対回転する際に、外輪2の内側円筒部21及び外側円筒部22の玉収容空間K対向面に周方向の角度範囲θ(例えば10°;図9参照)にわたって形成された膨出部21a,22a(突出部)にそれぞれ接触する。
【0029】
したがって、直進走行時においては、延長部5a,6aが膨出部21a,22aに接触するときに増大する摩擦力によって、相対回転角度範囲θでの両軌道輪1,2の回転トルクを増大させる。それによって両軌道輪1,2は相対回転しにくくなり、走行安定性が保たれる。一方、操舵時においては、ステアリング操作によって延長部5a,6aと膨出部21a,22aとの接触が解消されるので、両軌道輪1,2の回転トルクが消滅(又は減少)し、ステアリング操作力が軽減される。
【0030】
(実施例3)
図12に軸受100のさらに他の例を示す。図12の軸受100では、両シール5,6が両軌道輪1,2の内側円筒部11,21及び外側円筒部12,22の玉収容空間K対向面全周に配置されている。具体的には、外輪2の内側円筒部21の玉収容空間K対向面全周に焼付・接着等により固定された内側シール5(シール部材)の先端部に、周方向の角度範囲θ(例えば10°)にわたって延長部5a(摩擦調整部)が形成されている。また、外輪2の外側円筒部22の玉収容空間K対向面全周に焼付・接着等により固定された外側シール6(シール部材)の先端部に、周方向の角度範囲θ(例えば10°)にわたって延長部6a(摩擦調整部)が形成されている。そして、これらの延長部5a,6aは、両軌道輪1,2が相対回転する際に、内輪1の内側円筒部1及び外側円筒部1の玉収容空間K対向面に周方向の角度範囲θ(例えば10°;図10参照)にわたって形成された膨出部11a,12a(突出部)にそれぞれ接触する。
【0031】
したがって、直進走行時においては、延長部5a,6aが膨出部11a,12aに接触するときに増大する摩擦力によって、相対回転角度範囲θでの両軌道輪1,2の回転トルクを増大させる。それによって両軌道輪1,2は相対回転しにくくなり、走行安定性が保たれる。一方、操舵時においては、ステアリング操作によって延長部5a,6aと膨出部11a,12aとの接触が解消されるので、両軌道輪1,2の回転トルクが消滅(又は減少)し、ステアリング操作力が軽減される。
【0032】
以上の実施例ではサスペンション用軸受としてプレス製総ボール形スラスト玉軸受を用いた場合のみについて説明したが、スラスト玉軸受等の他のスラスト軸受やラジアル玉軸受を用いてもよいことはもちろんである。また、実施例のように両シール5,6の接触面積を増加させる他に、両シール5,6の厚み変化等により接触面圧(接触圧力)を増加させることによって摩擦力を増大させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ストラット式サスペンションの一例を示す斜視図。
【図2】図1のP部の拡大断面図。
【図3】本発明に係るサスペンション用軸受の一例を示す正面断面図。
【図4】図3の要部拡大図。
【図5】図3の保持器の平面図。
【図6】図3の保持器の底面図。
【図7】図5のA−A断面図。
【図8】図5のB−B断面図。
【図9】図3の外輪の底面図。
【図10】図3の内輪の平面図。
【図11】本発明に係るサスペンション用軸受の他の例を示す正面断面図。
【図12】本発明に係るサスペンション用軸受のさらに他の例を示す正面断面図。
【符号の説明】
【0034】
1 内輪(第一軌道輪)
10 内側軌道面(第一軌道面)
11 内側円筒部
11a 膨出部(突出部)
12 外側円筒部
12a 膨出部(突出部)
2 外輪(第二軌道輪)
20 外側軌道面(第二軌道面)
21 内側円筒部
21a 膨出部(突出部)
22 外側円筒部
22a 膨出部(突出部)
3 玉(転動体)
4 保持器
5 内側シール(シール部材)
51 第一リップ部
51a 延長部(摩擦調整部)
52 第二リップ部
52a 延長部(摩擦調整部)
6 外側シール(シール部材)
61 第一リップ部
61a 延長部(摩擦調整部)
62 第二リップ部
62a 延長部(摩擦調整部)
83 ストラット軸(サスペンション部)
84 スタビライザーサポート(車体側支持部)
89 軸受ハウジング(車体側支持部)
100 プレス製総ボール形スラスト玉軸受(サスペンション用軸受)
K 玉収容空間(転動体収容空間)
L 潤滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストラット軸の上端部に固定されるとともに複数の転動体を支持する環状の第一軌道面を形成する第一軌道輪と、車体側支持部に固定されるとともに前記転動体を挟んで前記第一軌道面に対向する環状の第二軌道面を形成する第二軌道輪とを有するサスペンション用軸受であって、
前記第一及び第二軌道面で囲まれかつ潤滑剤で満たされた転動体収容空間を閉鎖する環状のシール部材が設けられ、
前記第一及び/又は第二軌道輪には、前記転動体収容空間内に突出する突出部が周方向の所定角度範囲にわたって形成される一方、
前記シール部材には、前記第一及び第二軌道輪が相対回転する際に、前記突出部との接触有無に応じて摩擦力を調整可能な摩擦調整部が周方向の所定角度範囲にわたって形成され、
前記シール部材の摩擦調整部が前記突出部に接触するときに増大する摩擦力によって、両軌道輪の特定の相対回転角度範囲での回転トルクを増大させることを特徴とするサスペンション用軸受。
【請求項2】
ストラット軸の上端部に固定されるとともに複数の転動体を支持する環状の第一軌道面を形成する第一軌道輪と、車体側支持部に固定されるとともに前記転動体を挟んで前記第一軌道面に対向する環状の第二軌道面を形成する第二軌道輪とを有するサスペンション用軸受であって、
前記第一及び第二軌道面で囲まれかつ潤滑剤で満たされた転動体収容空間内に前記転動体の相互間隔を保持する環状の保持器が配置され、さらにその保持器には前記転動体収容空間を閉鎖する環状のシール部材が固定配置され、
前記第一及び/又は第二軌道輪には、前記転動体収容空間内に突出する突出部が周方向の所定角度範囲にわたって形成される一方、
前記シール部材には、前記第一及び第二軌道輪が相対回転する際に、前記突出部との接触有無に応じて摩擦力を調整可能な摩擦調整部が周方向の所定角度範囲にわたって形成され、
前記シール部材の摩擦調整部が前記突出部に接触するときに増大する摩擦力によって、両軌道輪の特定の相対回転角度範囲での回転トルクを増大させることを特徴とするサスペンション用軸受。
【請求項3】
前記摩擦調整部が前記突出部に接触する相対回転角度範囲は前記ストラット軸に連係される車輪の中立位置を基準として定められ、
直進走行時においては前記摩擦調整部と前記突出部との接触により前記回転トルクを増大させ、操舵時においては前記摩擦調整部と前記突出部との接触が解消されて前記回転トルクを消滅ないし減少させる請求項1又は2に記載のサスペンション用軸受。
【請求項4】
前記シール部材の摩擦力は、前記摩擦調整部と前記突出部との接触による前記シール部材の接触面積の増加及び/又は接触面圧の増加に基づいて増大する請求項1ないし3のいずれか1項に記載のサスペンション用軸受。
【請求項5】
前記突出部は前記第一及び第二軌道輪にそれぞれ形成されるとともに、前記シール部材には各突出部に対応させて前記摩擦調整部が各々形成され、
各軌道輪に形成される突出部の前記相対回転角度範囲が周方向において一致するように配置されている請求項1ないし4のいずれか1項に記載のサスペンション用軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−322556(P2006−322556A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147049(P2005−147049)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】