説明

シリコンウェーハの製造方法

【課題】光加熱式のアニール炉の低コスト化および光加熱源の長寿命化が図れ、ウェーハ表面のボイド欠陥を消滅させ、ウェーハの表面粗さを小さく可能なシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】ウェーハ表層にイオン注入して形成されたアモルファスシリコン領域部が、単結晶シリコンに比べて吸光係数が高いので、シリコンウェーハより低い加熱温度で、アモルファスシリコン領域部のみを溶融できる。その結果、仮にウェーハ表面にボイド欠陥が存在しても、ウェーハより低温でボイド欠陥を消滅させ、その表面粗さを小さくできる。しかも、従来より低出力の光加熱式のアニール炉でこれらの効果が得られ、アニール炉の低コスト化および光加熱源の長寿命化が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はシリコンウェーハの製造方法、詳しくはシリコンウェーハの表層の高品質化が図れるシリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶のインゴットの引き上げ時に、過剰の空孔や格子間シリコン原子がこのインゴットに導入されボイド欠陥やシリコン原子が凝集した転位クラスタなどが生成する。
近年のデバイスの高集積化や微細化に伴い、デバイスが形成されるシリコンウェーハの表層から、ボイド欠陥を完全に消滅させたボイドフリーのウェーハの要請がなされている。これは、ボイド欠陥がデバイス形成時の歩留低下を招くためである。一方、転位クラスタが発生した結晶部位からなるシリコンウェーハは製品として適用できないため、ウェーハ加工されていない。
【0003】
そこで、結晶引き上げ時の単結晶インゴットの温度勾配や引上げ速度などを制御し、点欠陥の発生を抑えてボイド欠陥を縮小または消滅させる技術が、ウェーハの量産プロセスで実施されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−044087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現状、結晶引き上げの制御のみでは、インゴットの一部だけしか欠陥フリーのシリコン単結晶は達成されていない。しかも、表面検査装置の高感度化が進めば、今日ではボイドフリーと呼ばれる領域であっても、微小なボイド欠陥が存在する領域と判定される可能性もある。
特に、直径が300mmを超える大口径ウェーハになれば、COPを含まないインゴットの引き上げがさらに困難になることから、ボイドフリーのシリコンウェーハの作製は、さらに難しくなると予想される。
【0006】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、吸光係数が単結晶シリコンに比べて1桁ほど高くなるアモルファスシリコンに着目した。すなわち、まず単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表層にアモルファス(非晶質)シリコン領域部を形成する。その後、アモルファスシリコン領域部にレーザ光またはランプ光などの高エネルギ光を、単結晶シリコンは溶融しないが、吸光係数が高いアモルファスシリコンは溶融する条件で照射する。これにより、アモルファスシリコン領域部のみを溶融させ、ウェーハ表面のボイド欠陥を消滅することができる。
【0007】
しかも、融点が1410℃の単結晶シリコンを溶融可能な高出力の光加熱源から光を照射してもよいが、この高出力光発生装置に比べて、低出力の光加熱式のアニール炉を用いてこれらの効果が得られるので、アニール炉の低コスト化および光加熱源の長寿命化が図れることを知見し、この発明を完成させた。
【0008】
この発明は、光加熱式のアニール炉の低コスト化および光加熱源の長寿命化が図れ、しかもウェーハ表面のボイド欠陥を消滅させ、さらに現状製品として適用できなかった転位クラスタ領域の結晶からなるウェーハの表面転位クラスタも消滅させ、ウェーハの表面粗さを小さくすることができるシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表層の全域または一部に非ドーパントをイオン注入し、前記表層の全域または一部をアモルファス化させたアモルファスシリコン領域部を形成するアモルファス化工程と、前記シリコンウェーハのうち、前記アモルファスシリコン領域部のみを、高エネルギ光の照射により溶融させ、ウェーハ表面のボイド欠陥や転位クラスタを消滅させる溶融工程とを備えたシリコンウェーハの製造方法である。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表層の全域または一部に、例えばイオン注入装置により非ドーパントイオン、例えばシリコンやアルゴンをイオン注入する。これにより、イオン注入部分がアモルファス化し、アモルファスシリコン領域部となる。その後、アモルファスシリコン領域部を高エネルギ光の照射により溶融し、冷却して固化させる。アモルファスシリコンは、吸光係数が単結晶シリコンに比べて1桁高いと言われている。そのため、光加熱式のアニール炉を使用すれば、単結晶のシリコンウェーハより低い加熱温度で、アモルファスシリコン領域部のみを溶融させることができる。これにより、仮にウェーハ表面にボイド欠陥や転位クラスタが存在しても、単結晶シリコンの場合に比べて低温で、ボイド欠陥を消滅させることができる。しかも、融点が1410℃の単結晶シリコンを溶融させるために高出力の光加熱源を有したものに比べて低出力の光加熱式のアニール炉を用いてこれらの効果が得られるので、アニール炉の低コスト化および光加熱源の長寿命化が図れる。
【0011】
シリコンウェーハは、単結晶シリコンウェーハまたはSOIウェーハである。
アモルファスシリコン領域部は、シリコンウェーハの表層の平面視した全域に形成しても、その平面視した一部に形成してもよい。
アモルファスシリコン領域部の厚さ(シリコンウェーハの表層の深さ)は、ウェーハ表面から5μmである。5μmを超えれば、イオン注入に高エネルギが必要となり、さらにビーム電流値が低いため、生産性が大幅に低下する。アモルファスシリコン領域部の好ましい厚さは2μm以下である。この範囲であれば、市販のイオン注入装置を用いて生産性を低下させずにアモルファス化することができる。また、イオン注入方式としては加速電圧を変えた多段方式を採用してもよい。
【0012】
ここでいう「イオン注入」とは、イオン注入装置によるシリコン、窒素、炭素、またはアルゴンのような非ドーパントのイオン注入を採用することができる。その他、イオンドーピング装置による前記のイオン注入でもよい。イオンドーピングとは、イオン生成室で生成されたイオン種を質量分離せず、例えば、シリコンウェーハの表面に高速で注入する技術である。
シリコン単結晶にシリコンまたはアルゴンなどをイオン注入することで、層状に整列したシリコンの単結晶が無秩序に崩れ、非晶質となる。
【0013】
溶融工程では、光加熱方式のアニール装置によりシリコンウェーハの表層が溶融される。
光加熱方式としては、例えば各種のランプアニール法(スパイククランプアニール法、フラッシュランプアニール法など)、レーザアニール法(レーザスパイクアニール法など)を採用することができる。
高エネルギ光としては、例えばランプ光、レーザ光などを採用することができる。高エネルギ光の照射エネルギは装置仕様により大きく変わるものの、可能な限り高エネルギの方が処理時間が短縮されて好ましい。例えば、エキシマレーザ光またはYAGレーザ光などの場合、レーザエネルギ密度は0.1〜20J/cmである。0.1J/cm未満では、溶融時間が長くなりすぎて生産性が低下する。また、20J/cmを超えれば、生産性は高まるが装置コストの問題が生じる。エキシマレーザ光またはYAGレーザ光などの好ましい照射エネルギは、0.5〜5J/cmである。この範囲であれば、市販のレーザ装置を使用することができる。
【0014】
また、レーザ種はエキシマレーザ、固体レーザ、半導体レーザなどシリコン内部に侵入できる波長を有するレーザが適用される。また、2種類以上の波長のレーザ光をシリコン表面から照射してもよい。
溶融されたアモルファスシリコン領域部は、固化後に単結晶シリコンとなる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、前記非ドーパントはシリコンまたはアルゴンで、前記アモルファス化工程では、前記シリコンウェーハに、前記シリコンまたは前記アルゴンを1×1014〜1×1017atoms/cmでイオン注入する請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法である。
【0016】
シリコンまたはアルゴン(非ドーパント)のイオン注入量は、1×1014〜1×1017atoms/cmである。1×1014atoms/cm未満では、イオンドーズ量が少なくてアモルファス化が困難となる。また、1×1017atoms/cmを超えれば、イオン注入時間が長くなり生産性が低下する。好ましいイオン注入量は、5×1015〜5×1016atoms/cmである。この範囲であれば、生産性低下を抑制可能で、かつアモルファス領域を確実に実現できる。
【0017】
シリコンまたはアルゴン(非ドーパント)のイオン注入エネルギは、10〜4000keVである。10keV未満では、イオンが表層数nmの位置で止まってしまう。また、4000keVを超えれば、大きなビーム電流が取れずに生産性が大幅に低下する。好ましいイオン注入エネルギは、市販の中電流イオン注入装置の仕様に依存するが、50〜3000keV程度である。この範囲であれば、ビーム電流も大きく取れ生産性低下を防止できる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、前記シリコンウェーハの表層は、ウェーハ表面から深さ5μmまでの部分がアモルファスシリコン領域部である請求項1または請求項2に記載のシリコンウェーハの製造方法である。
【0019】
ウェーハ表層が、ウェーハ表面から5μmを超えれば、イオン注入装置のイオン電流を大きくできないため生産性が大幅に低下する。ウェーハ表層の好ましい深さ領域は、ウェーハ表面から2μmまでである。この範囲であれば、中電流イオン注入装置が適用でき、かつイオン電流も大きく取れるため生産性の低下を防止できる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記アモルファスシリコン領域部は、前記シリコンウェーハの表面から深さ方向へ離間した位置に形成される請求項1〜請求項3のうち、何れか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法である。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、アモルファスシリコン領域部がシリコンウェーハの表面から深さ方向へ離間した位置に形成される。必然的に、アモルファス化工程後、ウェーハ表面とアモルファスシリコン領域部との間には、単結晶シリコンからなる最表層が形成される。
ところで、シリコンやアルゴンのイオン注入を伴うアモルファス化工程では、ウェーハ表面から所定深さ位置に、シリコンやアルゴンの注入ピーク領域を中心とした所定のシリコンまたはアルゴン注入濃度領域からなるアモルファスシリコン領域部(イオン注入領域部)が形成される。このことは、アモルファスシリコン領域部の周辺に、イオン注入の損傷でアモルファス化はしていないが、シリコン単結晶の格子が崩れた領域が存在することを意味する。
【0022】
結晶構造の崩れた領域部は、溶融工程において、アモルファスシリコン領域部の溶融後、単結晶シリコンが溶融する前に溶融可能な領域と予想している。すなわち、最表層領域は不完全アモルファスシリコン領域部に該当し、溶融工程を施すことで、シリコンウェーハの溶融前にこれを溶かせると推察される。
【0023】
請求項5に記載の発明は、前記アモルファスシリコン領域部は、シリコンの表面から深さ方向へ0.01μm以上離間した位置に形成される請求項1〜請求項3のうち、何れか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法である。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、アモルファスシリコン領域部がシリコンウェーハの表面から深さ方向へ0.01μm以上離間した位置に形成されるので、ウェーハ表面とアモルファスシリコン領域部との間に形成される前記最表層の厚さは、0.01μm以上となる。
【0025】
請求項6に記載の発明は、前記高エネルギ光がレーザ光またはランプ光である請求項1〜請求項5のうち、何れか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法である。
【0026】
レーザ光を採用した場合には、ランプ炉によるウェーハ全面高温加熱処理を施さないのでスリップと呼ばれる結晶欠陥の発生を防止できる。
レーザ光としては、シリコン、特にアモルファスシリコンによる吸光係数が高い領域のもの(紫外領域のレーザ光)を採用することができる。レーザ発振源としては、例えば、YAGレーザの第3高調波(波長355nm)のパルスレーザ光、Nd:YAGレーザの第2高調波、第3高調波、第4高調波やエキシマレーザなどを出力するものを採用することができる。
レーザ光の照射エネルギ、レーザ光の照射パルス数、レーザ光のパルス幅は、レーザ光の種類に応じてそれぞれ選択される。また、2波長以上のレーザ照射を行ってもよい。
【0027】
請求項7に記載の発明は、前記溶融工程後、前記シリコンウェーハの表面を研磨する請求項1〜請求項6のうち、何れか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法である。
【0028】
請求項7に記載の発明によれば、溶融工程後、シリコンウェーハの表面を研磨するので、仮に溶融工程後のウェーハ表面に微小な凹凸欠陥が存在しても、市販のシリコンウェーハと同等の表面平坦度を得ることができる。
【0029】
シリコンウェーハの表面の研磨量は、0.01μm以上からレーザ溶融深さ未満である。0.01μm未満では、現状のCMPではウェーハ全面を均一に研磨できない。将来的に高精度CMP装置が市販されれば、さらに研磨代を低減することができる。好ましい研磨量は0.01〜0.1μmである。この範囲であれば、精度劣化を防止でき、かつ生産性も低下しない。
【発明の効果】
【0030】
請求項1に記載の発明によれば、単結晶シリコンからなるウェーハ表層の全域または一部に非ドーパントをイオン注入してアモルファスシリコン領域部を形成し、その後、この領域部を高エネルギ光の照射により溶融し、冷却して固化する。このとき、アモルファスシリコンは単結晶シリコンに比べて吸光係数が高いので、単結晶シリコンのシリコンウェーハより低い加熱温度で、アモルファスシリコン領域部のみを溶融させることができる。これにより、仮にウェーハ表面にボイド欠陥や転位クラスタが存在しても、シリコンウェーハより低温でウェーハ表面のボイド欠陥や転位クラスタを消滅させ、ウェーハの表面粗さを小さくすることができる。しかも、融点が1410℃の単結晶シリコンを溶融可能な高出力の光加熱式のアニール炉に比べて、低出力の光加熱式のアニール炉を用いてこれらの効果が得られるため、アニール炉の低コスト化および光加熱源の長寿命化が図れる。もちろん、アモルファスシリコン領域部直下の下地単結晶シリコン領域部分を溶融させてもよいが、この場合には加熱源の高出力が要求される。
【0031】
特に、請求項4および請求項5に記載の発明によれば、アモルファスシリコン領域部が、シリコンウェーハの表面から深さ方向へ離間した位置に形成されるので、最終製品を研磨する場合、溶融されなかった表層単結晶シリコンは研磨除去される。これにより、イオン注入時のドーズ量を減少させることができ、製品ウェーハの生産性が高まる。
【0032】
また、請求項6に記載の発明によれば、高エネルギ光としてレーザ光またはランプ光を採用するが、特にレーザ光を採用した場合には、ランプ光を採用した場合とは異なり、ウェーハ全面を高温加熱することがなく、スリップが発生しない。
【0033】
請求項7に記載の発明によれば、溶融工程後、シリコンウェーハの表面を研磨するので、仮に溶融工程後のウェーハ表面に微小な凹凸欠陥が存在しても、市販のシリコンウェーハと同等の表面平坦度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0035】
この発明の実施例1に係るシリコンウェーハの製造方法を説明する。
チョクラルスキー法により直径200mm、初期酸素濃度1.0×1018/cmの空孔リッチなボイド欠陥が存在するシリコン単結晶インゴットを引き上げる。その際、ドーパントとしてボロンを、シリコン単結晶インゴットの比抵抗が10mΩ・cmとなるまで添加する。得られたシリコン単結晶インゴットには、ブロック切断、外径研削およびスライスの各工程が順次施される。これにより、表面にボイド欠陥(図1および図2中、×で示す)が多数存在するシリコンウェーハが得られる。
【0036】
次に、図1のフローシートを参照して、ウェーハ加工を含むその後のシリコンウェーハの製造方法を説明する。
まず、上述した製造方法によりシリコンウェーハ10を準備する。
次に、シリコンウェーハ10の表面を中電流イオン注入装置の炉内に挿入し、150keVの加速電圧で、10×1015atoms/cmのシリコンを、シリコンウェーハ10の表面からイオン注入する(図1(a)、アモルファス化工程)。
【0037】
これにより、ウェーハ表面から深さ0.4μm付近の領域までを、単結晶シリコンに比べて吸光係数が高いアモルファスシリコン領域部11に変質させる。なお、アモルファスシリコン領域部11の周辺には、前述したように完全にアモルファスシリコン化されていないが損傷を受けた領域部12が形成されている。
【0038】
次に、前記シリコンウェーハ10を、真空下、あるいはヘリウムガス雰囲気またはアルゴンガス雰囲気のレーザアニール炉(パルス方式)に挿入する。ここで、エキシマレーザ光(KrFレーザ、波長248nm、照射エネルギ0.5〜5J/cmを、ウェーハ表面に照射する(図1(b)、溶融工程)。
前述したように、アモルファスシリコン領域部11は、単結晶シリコンに比べて吸光係数が高いアモルファスシリコンからなる。そこで、レーザアニール炉を使用し、エキシマレーザ光(高エネルギ光)を照射すれば、シリコンウェーハ10は溶けず、アモルファスシリコン領域部11のみが溶融する。その後、損傷を受けた領域部12も溶融する(図1(c))。アモルファスシリコンより吸光係数が低い単結晶シリコン製のシリコンウェーハ10は、融点に達しないため、溶融しない。
【0039】
その後、溶融したウェーハ表層を冷却し、固化させる。これにより、アモルファスシリコン領域部11および損傷を受けた領域部12のみが単結晶シリコン領域部13に変質する(図1(d))。
次に、シリコンウェーハ10を、その溶融された部分を下に向け、キャリアプレートを介して、枚葉式の研磨装置の研磨ヘッドの下面に貼着し、ウェーハ表層を例えば研磨量0.05μm程度で化学的機械的研磨する(図1(d))。
【0040】
これにより、仮にレーザ照射後のシリコン表面に凹凸が生じたとしても、溶融時に単結晶シリコンの場合より低い温度でボイド欠陥や転位クラスタを消滅させ、ウェーハの表面粗さを小さくすることができる。しかも、このような効果が、単結晶シリコン(融点1410℃)を溶融可能な高出力の光加熱式のアニール炉に比べて低出力の光加熱式のアニール炉で得られる。そのため、アニール炉の低コスト化および光加熱源の長寿命化が図れる。
【0041】
次に、図2のフローシートを参照して、この発明の実施例2に係るシリコンウェーハの製造方法を説明する。
実施例2のシリコンウェーハの製造方法の特徴は、図2(a)に示すように、アモルファス化工程でシリコンウェーハ10の表層に例えばアルゴンをイオン注入する際、シリコンウェーハ10の表面から深さ方向へ例えば0.05μm離間した位置にアモルファスシリコン領域部11を形成し、ウェーハ表面とアモルファスシリコン領域部11との間に単結晶シリコンからなる最表層10aを形成するようにした点である。
【0042】
具体的には、ウェーハ加熱温度が200keVの加速電圧で、アルゴンをシリコンウェーハ10の表面からイオン注入し、ウェーハ表面から深さ0.4μm付近の位置をアルゴンの注入ピーク領域となるようにする。このように構成したことで、イオン注入時のイオンドーズ量を低減することができ、その結果、ウェーハの生産性が高まる。
その他の構成、作用および効果は、実施例1と略同じであるので説明を省略する。
【0043】
以下、この発明のシリコンウェーハの製造方法を、試験例および比較例に基づき、具体的に説明する。
実施例1の成長条件で得られた直径300mm、初期酸素濃度1.0×1018atoms/cm、比抵抗10Ω・cmの空孔リッチなボイド欠陥が存在するシリコンインゴットをウェーハ加工した。これにより、表面にボイド欠陥が存在する多数枚のシリコンウェーハが得られた。
得られたシリコンウェーハの一部の領域に、銅デコレーション法と呼ばれる微小欠陥評価を行った。その結果、多数のボイド欠陥がリングパターン状に発生していることが確認された(図3)。
【0044】
一方、レーザテック社製のMagicsと呼ばれる表面欠陥観察装置を用い、上記多数枚のシリコンウェーハの中から8枚のシリコンウェーハを抜き取り、表面に存在するボイド欠陥の位置を記録した。これにより、リングパターン状のボイド欠陥の発生を確認することができた。さらに、この8枚中の1枚のシリコンウェーハを抜き取り、銅デコレーション法により微小欠陥の評価を行った。その結果、同様にボイド欠陥のリングパターンが観察され、Magics測定結果の妥当性を確認した。また、シリコンウェーハの表面上に存在した欠陥等は、Magics測定装置により全て座標を確認した(比較例1)。
【0045】
次に、比較例1の10枚のシリコンウェーハに、実施例1の溶融工程でのレーザ照射条件でエキシマレーザ光をウェーハ表面に照射し、ウェーハ表面の温度を1300℃程度まで高めた(比較例2)。
また、比較例1の10枚のシリコンウェーハの表面に、実施例1のイオン注入条件でシリコンをイオン注入し、その後、実施例1の溶融工程でのレーザ照射条件でエキシマレーザ光をウェーハ表面に照射し、ウェーハ表面の温度を1300℃程度まで高めた(試験例1)。
さらに、比較例1,2のシリコンウェーハおよび試験例1のシリコンウェーハを各2枚ずつ抜き取り、ウェーハ表層を下に向け、各シリコンウェーハをキャリアプレートを介して、枚葉式の研磨装置の研磨ヘッドの下面に貼着し、ウェーハ表層を研磨量0.1μm程度で化学的機械的研磨した(比較例3,4、実施例2)。
【0046】
化学的機械的研磨後の各シリコンウェーハ(比較例1〜4、実施例1,2)に対して、Magics測定装置を用いて表面欠陥を測定した。その結果、比較例1〜4のシリコンウェーハでは、図3に示すようなリングパターン状の多数のボイド欠陥が観察されたが、実施例1,2のシリコンウェーハでは、ボイド欠陥が何れも観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の実施例1に係るシリコンウェーハの製造方法のフローシートである。
【図2】この発明の実施例2に係るシリコンウェーハの製造方法のフローシートである。
【図3】従来手段に係るシリコンウェーハの製造方法により得られたシリコンウェーハの表面のボイド欠陥の発生状態を示す表面欠陥検出画像である。
【符号の説明】
【0048】
10 シリコンウェーハ、
11 アモルファスシリコン領域部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコンからなるシリコンウェーハの表層の全域または一部に非ドーパントをイオン注入し、前記表層の全域または一部をアモルファス化させたアモルファスシリコン領域部を形成するアモルファス化工程と、
前記シリコンウェーハのうち、前記アモルファスシリコン領域部のみを、高エネルギ光の照射により溶融させ、ウェーハ表面のボイド欠陥や転位クラスタを消滅させる溶融工程とを備えたシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記非ドーパントはシリコンまたはアルゴンで、
前記アモルファス化工程では、前記シリコンウェーハに、前記シリコンまたは前記アルゴンを1×1014〜1×1017atoms/cmでイオン注入する請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記シリコンウェーハの表層は、ウェーハ表面から深さ5μmまでの部分がアモルファスシリコン領域部である請求項1または請求項2に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記アモルファスシリコン領域部は、前記シリコンウェーハの表面から深さ方向へ離間した位置に形成される請求項1〜請求項3のうち、何れか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記アモルファスシリコン領域部は、シリコンの表面から深さ方向へ0.01μm以上離間した位置に形成される請求項1〜請求項3のうち、何れか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記高エネルギ光がレーザ光またはランプ光である請求項1〜請求項5のうち、何れか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記溶融工程後、前記シリコンウェーハの表面を研磨する請求項1〜請求項6のうち、何れか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−109190(P2010−109190A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280395(P2008−280395)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】