説明

シート用駆動装置

【課題】シート用駆動装置の減速機構部での異音の発生を防止する構成を簡略化する。
【解決手段】シート用駆動装置1の減速機構部4は、モータの回転軸に取り付けられたウォーム12に噛み合うヘリカルギヤ13を備える。ヘリカルギヤ13を回転自在に支持するボールベアリング14の内輪14Bは、ワッシャ21によって軸線方向外側に押圧されている。内輪14Bは、ゴムワッシャ25を押圧してブラケット3の逃げ部23に押し付けている。ヘリカルギヤ13が回転すると、ボールベアリング14の内輪14Bが回転し、ゴムワッシャ25と内輪14Bがブラケット3に対して摺動する。このため、ゴムワッシャ25がヘリカルギヤ13のブレーキとして作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動によってシートをスライドさせるシート用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などには、乗員が着座するシートを電動で移動させるシート用駆動装置が搭載されているものがある。この種のシート用駆動装置は、モータの回転を減速機構で減速させ、シートの移動を案内するリードスクリューを回転させるように構成されている。減速機構は、モータの回転軸に取り付けられるウォームを有し、ウォームがリードスクリューに固定されたヘリカルギヤに噛み合わされている。したがって、モータを回転させると、ウォーム及びヘリカルギヤを介してリードスクリューが回転させられる。
【0003】
ここで、シート用駆動装置でシートを移動させているときに乗員の自重等によってリードスクリューにマイナス負荷が作用することがある。この場合、モータによって制御された回転数よりもリードスクリューが回されてしまい、リードスクリューに連結されたヘリカルギヤとモータに取り付けられたらウォームの回転が一致しなくなる。この結果、ヘリカルギヤとウォームが干渉して異音が発生する。
このように異音の発生を防止するため、従来のシート用駆動装置では、リードスクリューの先端に金属製のカラーを挿入し、カラーの外周面にOリングを嵌合させ、Oリングを軸受けの内周面に摺接させることでリードスクリューに安定したブレーキ力を作用させ、ヘリカルギヤとウォームの回転の不一致を抑制していた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−114773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のシート用駆動装置では、カラーを設けたことで部品点数が多くなっていた。さらに、リードスクリューを金属製のカラーを介して軸受けに支持させていたので、径方向に大きくなってレイアウト性が悪かった。
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、シート用駆動装置の減速機構部での異音の発生を防止する構成を簡略化することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決する本発明の請求項1に係る発明は、モータの回転を減速機構部で減速させてから出力軸に伝達し、前記出力軸の回転によって車両のシートを移動させるシート用駆動装置であって、前記減速機構部は、ケース内に前記モータの回転軸に取り付けられたウォームに噛み合わされ、前記出力軸に連結されるギヤを備え、前記ギヤは前記ケースにベアリングを介して回転自在に支持されており、前記ギヤに接する前記ベアリングの内輪によって前記ケースに押し付けられる制動部材を備えることを特徴とするシート用駆動装置とした。
このシート用駆動装置では、外的負荷によって出力軸が回されたときに、出力軸に連結されたギヤを支持するベアリングの内輪に、制動部材をケースに押し当てるような力が作用する。制動部材は、ベアリングの内輪の回転を抑制するブレーキとして働き、ギヤの回転にブレーキがかけられる。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のシート用駆動装置において、前記ベアリングの前記内輪を前記制動部材に向けて押圧するワッシャを備えることを特徴とする。
このシート用駆動装置は、ベアリングの内輪が制動部材をケースに押し当てる力をワッシャで発生させる。安定した力を制動部材に与えることが可能になる。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載のシート用駆動装置において、前記制動部材は、前記ケースと前記ベアリングの前記内輪が直接接触することを防止するように前記ケースに設けた凹部に収容されていることを特徴とする。
このシート用駆動装置は、請求項1又は2の効果に加え、ケースに形成された凹部を利用して制動部材を収容しているので、制動部材を収容するスペースを別途設ける必要がない。
【0008】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシート用駆動装置において、前記出力軸が前記シートを昇降させる機構に連結されており、前記シートを下降させるときに前記出力軸が移動する方向に順番に前記内輪、前記制動部材、前記ケースが配置されていることを特徴とする。
シートを下降させるときに、モータの回転よりもギヤを多く回転させようとするようなマイナスの負荷が作用することがある。このときに、制動部材がギヤを支持するベアリングの内輪の回転にブレーキをかけるので、ギヤが回り過ぎることが防止される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シートを移動させるときにウォームとギヤの干渉が防止され、ギヤの干渉に起因する異音が発生しなくなる。従来のようにカラーを設ける必要がなくなるので、部品点数を削減できる。径方向に部品を多数配置する必要がなくなるので装置を小型化でき、レイアウトの自由度を高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、シート用駆動装置1は、乗員が着座する不図示のシート側に取り付けられるブラケット2,3を含んで構成される減速機構部4と、減速機構部4に連結されたモータ5とを備え、モータ5を回転させると、出力軸であるリードスクリュー6が回転させられるようになっている。リードスクリュー6は、シートを昇降させる不図示のリンクに連結される。
【0011】
モータ5は、正逆回転可能に構成されたブラシモータなどが用いられている。このモータ5は、不図示の制御装置によって、例えばシートを上昇させるときは正回転し、シートを下降させるときは逆回転するように回転制御が行われる。
モータ5は、ブラケット5Aが減速機構部4のケース本体7にボルト等によって固定されている。モータ5の回転軸は、ブラケット5Aを貫通して減速機構部4内に挿入されており、ケース本体7に回転自在に支持されている。さらに、図2に示すように、モータ5の回転軸11には、ウォーム12が取り付けられている。
【0012】
減速機構部4は、ケース本体7の両端部が2つのブラケット2,3で閉塞されたケース8を有する。ブラケット2,3は、端部が折り曲げられてシートフレームに取り付ける際に使用される取り付け部2A,2Bになっている。
ケース8内には、ウォーム12と、ウォーム12に噛み合わされるヘリカルギヤ13が収容されている。ヘリカルギヤ13は、モータ5の回転軸11に直交して配置されている。ヘリカルギヤ13は、円筒部13Aの一部が径方向外側に膨出しており、この膨出部分がウォーム12と噛み合う歯が外周に形成されたギヤ部13Bになっている。ギヤ部13Bは、ヘリカルギヤ13の軸線方向の略中央部分に設けられており、ギヤ部13Bを挟む円筒部12Aの両端部のそれぞれがボールベアリング14によって回転自在に支持されている。ボールベアリング14は、外輪14Aがケース8に圧入固定され、内輪14Bで円筒部12Aを支持している。さらに、円筒部12Aの内側には、リードスクリュー6がねじ込まれている。
【0013】
リードスクリュー6は、モータ5の回転軸11と直交する方向に、減速機構部4を貫通している。より詳細には、リードスクリュー6は、ブラケット2に形成された孔からケース本体7内に挿入され、ケース7内及びヘリカルギヤ13の内孔を通ってブラケット3に形成された孔からケース8外に引き出されている。ケース8外にあるリードスクリュー6の両端部には、ストッパ15,16が設けられており、いずれかのストッパ15,16がケース8に当接するまでの間でリードスクリュー6を往復移動させることができる。さらに、一方のストッパ16側の端部からは、不図示のシートを昇降させるリンクに連結される連結部17が延設されている。
【0014】
ここで、2つのボールベアリング14のそれぞれの内輪14Bとヘリカルギヤ13のギヤ部13Bの間には、ワッシャ21が挿入されている。ワッシャ21は、ギヤ部13Bの軸線と直交する面に面接触している。また、ボールベアリング14に対しては、内輪14Bのみに当接しており、内輪14Bを反対側に、つまりブラケット2,3側に押圧している。
各ブラケット2,3において、リードスクリュー6が貫通する孔の周縁部は、軸線方向の外側に折り曲げられて凹部である逃げ部22,23を形成している。逃げ部22,23は、内輪14Bをワッシャ21でブラケット2,3側に偏らせたときに内輪14Bがブラケット2,3に直接当たらない形状になっている。
【0015】
図2及び図3に示すように、逃げ部22,23のうち、リードスクリュー6の連結部17側の逃げ部23には、制動部材であるゴムワッシャ25が配設されている。ゴムワッシャ25は、予め設定された圧縮量で圧縮された状態で内輪14B及びブラケット3のそれぞれに面接触させられている。
【0016】
次に、シート用駆動装置1の動作について説明する。
シートを上昇させるときは、モータ5を正転させる。回転軸11に取り付けられたウォーム12に噛み合わされているヘリカルギヤ13が正方向に回転させられる。ヘリカルギヤ13によってリードスクリュー6が回転させられ、連結部17がリンクを駆動させる。リードスクリュー6は、図2の左方向に移動させられる。不図示のシートフレームが車体側のレールに対して持ち上げられ、シートフレームに固定されたシートが上昇する。
シートを下降させるときは、モータ5を逆回転させる。ウォーム12に噛み合わされているヘリカルギヤ13が上昇時と反対向きに回転させられる。ヘリカルギヤ13によってリードスクリュー6が逆回転させられ、連結部17がリンクを駆動させる。リードスクリュー6は、図2の右方向に移動させられる。シートフレームがレールに向かって下がり、シートフレームに固定されたシートが下降する。
【0017】
ヘリカルギヤ13が回転するとき、ボールベアリング14の内輪14Bと、ゴムワッシャ25がブラケット3の逃げ部23の内面に対して摺動するので、ヘリカルギヤ13の回転に対するブレーキとして働く。シートを下降させるときは、シートや乗員による荷重がかかるので、モータ5による回転よりも、リードスクリュー6やヘリカルギヤ13をさらに回転させるようなマイナス荷重が作用する。このとき、ゴムワッシャ25がブレーキとして作用することで、ヘリカルギヤ13が回され過ぎることが防止される。その結果、ヘリカルギヤ13とウォーム12の干渉が防止され、異音が発生しなくなる。
【0018】
なお、反対側の逃げ部22にはゴムワッシャ25は挿入されていないので、リードスクリュー6を中央から逃げ部22に向かう方向に移動させるときは、ブレーキ力は殆ど発生しない。この方向は、シートを持ち上げる方向なので、マイナス負荷が作用することがなく、ヘリカルギヤ13が外部負荷で回され過ぎることがない。このため、ブレーキ力がなくても安定した動作が可能である。
【0019】
この実施の形態によれば、ボールベアリング14の内輪14Bがゴムワッシャ25をブラケット3に向けて軸線方向に押圧するようにしたので、スラスト方向のがたつきが防止され、安定してブレーキ力を発生させることができる。従来のように円筒状のカラーが不要になるので、部品点数の増加が抑えられる。軸方向にブレーキ力を発生させるようにしたので、従来のようにブレーキ力を作用させる構成を径方向に配置した場合に比べて、径方向の小型化が図れる。また、ヘリカルギヤ13をボールベアリング14で直接受けるようにしたので、従来のようにケース内にリードスクリューをベアリングで軸支するためのスペースを設ける必要がなくなり、軸長を短くできる。
【0020】
さらに、ワッシャ21がボールベアリング14の内輪14Bに与える圧力が、ゴムワッシャ25によって緩和されるので、ボールベアリング14に過度の応力が作用することがなくなる。ゴムワッシャ25は、シートを下降させるときに、より内輪14Bによってブラケット3に押し付けられてブレーキ力を発生するように配置されているので、シート下降時の異音の発生を防止できる。
ボールベアリング14の内輪14Bがブラケット3に直接干渉しないように凹設した逃げ部23を利用してゴムワッシャ25を収容しているので、従来のようにOリングを配置するスペースを専用に確保する場合に比べて装置を小型化できる。
【0021】
なお、本発明は、前記の実施の形態に限定されずに広く応用することができる。
例えば、シートを昇降させる代わりに、シートを前後にスライドさせるシート用駆動装置であっても良い。
制動部材は、Oリング等のリング状部材でも良い。制動部材は、両方の逃げ部22,2に挿入しても良い。ヘリカルギヤ13の代わりに、ウォームギヤを使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係るシート用駆動装置の外観図である。
【図2】減速機構部の構成を示す断面図である。
【図3】ヘリカルギヤ、ワッシャ、ボールベアリング、ゴムワッシャ及びブラケットの配置を説明するための拡大図である。
【符号の説明】
【0023】
1 シート用駆動装置
4 減速機構部
5 モータ
6 リードスクリュー(出力軸)
8 ケース
12 ウォーム
13 ヘリカルギヤ
14 ボールベアリング
14A 外輪
14B 内輪
21 ワッシャ
22,23 逃げ部
25 ゴムワッシャ(制動部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの回転を減速機構部で減速させてから出力軸に伝達し、前記出力軸の回転によって車両のシートを移動させるシート用駆動装置であって、
前記減速機構部は、前記モータが取り付けられるケースを有し、前記ケースには前記モータの回転軸に形成されたウォームに噛み合わされると共に前記出力軸に連結されるギヤがベアリングを介して回転自在に支持されており、前記ギヤに接する前記ベアリングの内輪の側面と前記ケースの間に制動部材を備えることを特徴とするシート用駆動装置。
【請求項2】
前記ベアリングの前記内輪を前記制動部材に向けて押圧するワッシャを備えることを特徴とする請求項1に記載のシート用駆動装置。
【請求項3】
前記制動部材は、前記ケースと前記ベアリングの前記内輪との間に形成された凹部に収容されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシート用駆動装置。
【請求項4】
前記出力軸が前記シートを昇降させる機構に連結されており、前記シートを下降させるときに前記出力軸が移動する方向に順番に前記内輪、前記制動部材、前記ケースが配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシート用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−179203(P2009−179203A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20797(P2008−20797)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】