説明

スタビライザーブッシュの製造方法

【課題】インサート成形工程時におけるゴム状弾性材の射出圧によりライナーにしわが発生するのを抑制する。
【解決手段】筒状のライナー42に支持ピン76を嵌合する嵌合工程と、支持ピン76が嵌合されたライナー42をキャビティ70内にインサートした状態で、このライナー42の外周面にゴム状弾性部を射出成形するインサート成形工程と、ゴム状弾性部を加硫してゴム状弾性体とすることによって、車両に設けられるスタビライザーバーを、内周面にライナー42が固着された軸受孔で支持するスタビライザーブッシュを形成する加硫工程と、を有するスタビライザーブッシュの製造方法であって、インサート成形工程は、支持ピン76が嵌合されたライナー42を、支持ピン76に対してその中心軸線O回りにねじった状態で、ゴム状弾性部を射出成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられるスタビライザーバーを支持するスタビライザーブッシュの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に車両には、旋回時の車体のロール角を抑えたり、直進走行時の乗り心地を向上させるために、例えばばね鋼等からなるスタビライザーバーが設けられている。このスタビライザーバーを支持するスタビライザーブッシュとして、例えば下記特許文献1に示されるような、内周面にライナーが固着された軸受孔を有するゴム状弾性体が知られており、このようなスタビライザーブッシュは、筒状のライナーに支持ピンを嵌合する嵌合工程と、前記支持ピンが嵌合されたライナーをキャビティ内にインサートした状態で、このライナーの外周面にゴム状弾性部を射出成形するインサート成形工程と、前記ゴム状弾性部を加硫してゴム状弾性体とする加硫工程と、をこの順に経ることによって形成されている。
【特許文献1】特開2001−221284号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来のスタビライザーブッシュの製造方法では、インサート成形工程時におけるゴム状弾性材の射出圧によりライナーにしわが発生し、形成されたスタビライザーブッシュの耐久性を低下させたり、騒音を発生させるおそれがあった。すなわち、前記射出圧によって、ライナーの外周面側を構成する繊維のうち、その中心軸線方向に沿って編まれた各繊維がライナーの周方向に流され、このライナーの外周面において、キャビティ内に開口した射出孔に対向する対向部分から、この対向部分の、前記中心軸線を径方向で挟んだ反対側に位置する部分に、ライナーの周方向に沿って向かうに従い、前記繊維の編目が漸次狭められて密になることにより、前記反対側に位置する部分でしわが発生するおそれがあった。
【0004】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、インサート成形工程時におけるゴム状弾性材の射出圧によりライナーにしわが発生するのを抑制することができるスタビライザーブッシュの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明のスタビライザーブッシュの製造方法は、筒状のライナーに支持ピンを嵌合する嵌合工程と、前記支持ピンが嵌合されたライナーをキャビティ内にインサートした状態で、このライナーの外周面にゴム状弾性部を射出成形するインサート成形工程と、前記ゴム状弾性部を加硫してゴム状弾性体とすることにより、車両に設けられるスタビライザーバーを、内周面に前記ライナーが固着された軸受孔で支持するスタビライザーブッシュを形成する加硫工程と、を有するスタビライザーブッシュの製造方法であって、前記インサート成形工程は、前記支持ピンが嵌合されたライナーを、支持ピンに対してその中心軸線回りにねじった状態で、前記ゴム状弾性部を射出成形することを特徴とする。
この発明では、インサート成形工程において、支持ピンが嵌合されたライナーを、支持ピンに対してその中心軸線回りにねじった状態でゴム状弾性部を射出成形するので、ライナーの外周面側を構成する繊維のうち、その中心軸線方向に沿って編まれた各繊維を、その延在する方向に引張した状態で支持ピンに強固に巻き付けて前記射出成形することが可能になり、このライナーの外周面に作用した射出圧によって前記各繊維がライナーの周方向に流されるのを抑えることができ、このライナーにしわが発生するのを抑制することができる。
さらに、インサート成形工程でライナーを前記のようにねじるので、ライナーの外周面の全周にわたって前記の作用効果を容易かつ確実に奏効させることができる。すなわち、射出成形時に、単にライナーをその中心軸線方向に引張するだけでは、ライナーをその全周にわたって均等に引張して前記の作用効果を奏効させるのは、装置上相当の困難を伴い現実的ではない。
【0006】
ここで、前記インサート成形工程は、前記支持ピンが嵌合されたライナーを、その中心軸線方向に引張り、かつ前記ねじった状態で、前記ゴム状弾性部を射出成形してもよい。
この場合、ライナーにしわが発生するのをより一層確実に抑制することができる。
【0007】
また、前記ライナーは、ポリテトラフルオロエチレン系の繊維、およびポリアミド系の繊維の少なくとも一方が編まれた織布であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、インサート成形工程時におけるゴム状弾性材の射出圧によりライナーにしわが発生するのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係るスタビライザーブッシュの製造方法の一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。
まず、本発明に係るスタビライザーブッシュの製造方法により形成されたスタビライザーブッシュ10の一実施形態について図3を参照しながら説明する。このスタビライザーブッシュ10は、内周面にライナー42が固着された軸受孔20を有するゴム状弾性体12とされ、軸受孔20は、スタビライザーブッシュ10をその両端面10a、10a各々に開口するように貫通している。また、図示の例では、スタビライザーブッシュ10に、軸受孔20の内周面からこのスタビライザーブッシュ10の側面10bに至るスリット22が、この軸受孔20の中心軸線方向全域にわたって形成されており、スタビライザーバー50を軸受孔20内にその径方向外方から配置できるようになっている。
【0010】
そして、このスタビライザーブッシュ10は、軸受孔20に車両のサスペンション装置に備えられたスタビライザーバー50が同軸上に配置された状態で、ブラケット14および車体52側により上下方向に挟み込まれることによって、車体52に取り付けられるようになっている。なお、ライナー42は、耐磨耗性に優れ、摩擦係数が小さく、しかも後述する加硫工程で完全には溶融しない程度の耐熱性を具備する材質、例えばポリテトラフルオロエチレン系の繊維、およびポリアミド系の繊維の少なくとも一方が編まれた織布とされている。また、筒状のライナー42の中心軸線と、軸受孔20の中心軸線とは一致しており、以下、これらの中心軸線をともに中心軸線Oという。
【0011】
次に、以上のように構成されたスタビライザーブッシュ10の製造方法について図1および図2を参照しながら説明する。
まず、円筒状のライナー42に支持ピン76を嵌合する(嵌合工程)。ここで、この嵌合前のライナー42の内径は支持ピン76の外径よりもやや小さくされている。また、この嵌合前のライナー42の外周面には、熱硬化性樹脂からなる接着剤が塗布されている。さらに、本実施形態では、ライナー42の外周面側を構成する繊維のうち、その中心軸線O方向に沿って編まれた各繊維42aは、図1(A)に示されるように、この中心軸線Oと平行に延在している。
【0012】
次に、支持ピン76が嵌合されたライナー42を、加硫成形金型60のキャビティ70内にインサートした状態で、このライナー42の外周面にゴム状弾性部12aを射出成形する(インサート成形工程)。この際、支持ピン76およびライナー42は、前記中心軸線O方向におけるそれぞれの両端部がキャビティ70の外部に位置されるように、このキャビティ70を貫くように配置する。また、キャビティ70内にゴム状弾性材を射出する射出孔72は、キャビティ70を画成する壁面のうち、前記インサートされたライナー42の外周面とその径方向で対向する壁面に形成され、このライナー42の外周面に向けて開口している。そして、この射出孔72からキャビティ70内に射出されたゴム状弾性材は、ライナー42の外周面上にその径方向外方から到達すると、図2(B)の矢印に示されるように、ライナー42の横断面視において、その外周面上を、射出孔72と対向する部分から、この周方向に沿って左回りおよび右回りのそれぞれに分散させられつつ、その全周にわたって流動するとともに、中心軸線O方向の全域にわたって流動して、キャビティ70内の全域に充填される。
【0013】
次に、射出成形されたゴム状弾性部12aをキャビティ70内で加硫してゴム状弾性体12とすることによってスタビライザーブッシュ10を形成する(加硫工程)。なお、この際、軸受孔20の内周面に、前記接着剤によってライナー42の外周面が固着される。その後、このスタビライザーブッシュ10にスリット22を形成する。
【0014】
ここで、本実施形態では、前記インサート成形工程において、支持ピン76が嵌合されたライナー42を、支持ピン76に対してその中心軸線O回りにねじった状態で、ゴム状弾性部12aを射出成形する。すなわち、ライナー42の外周面側を構成する繊維のうち、その中心軸線O方向に沿って編まれた各繊維42aを、図1(B)に示されるように、この中心軸線Oに対して傾斜する方向に延在させるように、ライナー42の中心軸線O方向における両端部をそれぞれ、この中心軸線O回りに互いに逆向きにねじった状態で、ゴム状弾性部12aを射出成形する。本実施形態では、支持ピン76が嵌合されたライナー42をキャビティ70内にインサートした後に、図示されないねじり手段でこのライナー42を前記のようにねじり、その後、この状態を維持しつつ射出孔72からゴム状弾性材を射出した後に前記加硫工程を経る。
【0015】
そして、このようにして形成されたスタビライザーブッシュ10では、ライナー42の外周面側を構成する前記各繊維42aは、軸受孔20の中心軸線Oに対して傾斜する方向に延在させられた状態で、軸受孔20の内周面に固着している。
【0016】
以上説明したように、本実施形態によるスタビライザーブッシュの製造方法によれば、インサート成形工程において、支持ピン76が嵌合されたライナー42を、支持ピン76に対してその中心軸線O回りにねじった状態でゴム状弾性部12aを射出成形するので、ライナー42の外周面側を構成する繊維のうち、その中心軸線O方向に沿って編まれた各繊維42aを、その延在する方向に引張した状態で支持ピン76に強固に巻き付けて前記射出成形することが可能になり、このライナー42の外周面に作用した射出圧によって前記各繊維42aがライナー42の周方向に流されるのを抑えることができ、このライナー42にしわが発生するのを抑制することができる。
【0017】
さらに、インサート成形工程でライナー42を前記のようにねじるので、ライナー42の外周面の全周にわたって前記の作用効果を容易かつ確実に奏効させることができる。すなわち、射出成形時に、単にライナー42を中心軸線O方向に引張するだけでは、ライナー42をその全周にわたって均等に引張して前記の作用効果を奏効させるのは、装置上相当の困難を伴い現実的ではない。
【0018】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前記実施形態では、ライナー42として、その外周面に接着剤が塗布されたものを示したが、この接着剤が塗布されていないものを採用してもよい。すなわち、例えばライナー42を構成する繊維の材質や編目密度等によっては、この接着剤が塗布されていなくても、前記インサート成形工程時、あるいは前記加硫工程時の熱により繊維の一部を溶融させて軸受孔20の内周面に溶着させることによって、このライナー42を軸受孔20の内周面に固着することができる。
【0019】
また、支持ピン76が嵌合されたライナー42を、支持ピン76に対してその中心軸線O回りにねじるのは、前記インサート成形工程時にゴム状弾性材を射出する前であればいつでもよく、例えば、支持ピン76が嵌合されたライナー42をキャビティ70内にインサートする前であってもよい。
さらに、ライナー42を構成する繊維として、ポリテトラフルオロエチレン系の繊維、およびポリアミド系の繊維を示したが、耐磨耗性に優れ、摩擦係数が小さく、しかも前記加硫工程で完全には溶融しない程度の耐熱性を具備する材質であれば、これらの材質に限られるものではない。
【0020】
また、前記インサート成形工程において、支持ピン76が嵌合されたライナー42を、その中心軸線O方向に引張り、かつ前記実施形態のようにねじった状態で、ゴム状弾性部12aを射出成形してもよい。この場合、ライナー42にしわが発生するのをより一層確実に抑制することができる。
さらに、前記実施形態では、ライナー42として、その外周面側を構成する繊維のうち、その中心軸線O方向に沿って編まれた各繊維42aが、図1(A)に示されるように、この中心軸線Oと平行に延在したものを示したが、これに代えて、例えば、ライナー42をねじる前から、前記各繊維42aが中心軸線Oに対して傾斜する方向に延在しているライナー42を採用してもよい。この場合、前記各繊維42aの延在している方向と前記中心軸線Oとがなす傾斜角度がさらに大きくなるようにライナー42を支持ピン76に対してねじるのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
インサート成形工程時におけるゴム状弾性材の射出圧によりライナーにしわが発生するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る一実施形態として示したスタビライザーブッシュの製造方法において、(A)支持ピンをライナーに嵌合した状態を示す斜視図、および(B)支持ピンが嵌合されたライナーを、支持ピンに対してその中心軸線回りにねじった状態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る一実施形態として示したスタビライザーブッシュの製造方法において、インサート成形工程および加硫工程を示す(A)一部縦断面図、および(B)A−A線矢視断面図である。
【図3】図1および図2に示すスタビライザーブッシュの製造方法により形成されたスタビライザーブッシュを、その軸受孔にスタビライザーバーを配置した状態で、車体に取り付けたときの(A)正面図、および(B)B−B線矢視断面図である。
【符号の説明】
【0023】
10 スタビライザーブッシュ
12 ゴム状弾性体
12a ゴム状弾性部
20 軸受孔
42 ライナー
50 スタビライザーバー
52 車体
70 キャビティ
76 支持ピン
O 中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のライナーに支持ピンを嵌合する嵌合工程と、
前記支持ピンが嵌合されたライナーをキャビティ内にインサートした状態で、このライナーの外周面にゴム状弾性部を射出成形するインサート成形工程と、
前記ゴム状弾性部を加硫してゴム状弾性体とすることにより、車両に設けられるスタビライザーバーを、内周面に前記ライナーが固着された軸受孔で支持するスタビライザーブッシュを形成する加硫工程と、を有するスタビライザーブッシュの製造方法であって、
前記インサート成形工程は、前記支持ピンが嵌合されたライナーを、支持ピンに対してその中心軸線回りにねじった状態で、前記ゴム状弾性部を射出成形することを特徴とするスタビライザーブッシュの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のスタビライザーブッシュの製造方法であって、
前記インサート成形工程は、前記支持ピンが嵌合されたライナーを、その中心軸線方向に引張り、かつ前記ねじった状態で、前記ゴム状弾性部を射出成形することを特徴とするスタビライザーブッシュの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスタビライザーブッシュの製造方法であって、
前記ライナーは、ポリテトラフルオロエチレン系の繊維、およびポリアミド系の繊維の少なくとも一方が編まれた織布からなることを特徴とするスタビライザーブッシュの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−126287(P2009−126287A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301955(P2007−301955)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(398037664)ブリヂストンエラステック株式会社 (20)
【Fターム(参考)】