説明

スパッタターゲット

【課題】バリア膜としての特性や品質に優れるTi−Al−N膜を再現性よく形成することを可能にしたスパッタターゲットを提供する。
【解決手段】Alを1〜30原子%の範囲で含有するTi−Al合金により構成されたスパッタターゲットであって、前記Ti−Al合金中のAlは、Ti中に固溶した状態、およびTiと金属間化合物を形成した状態の少なくとも一方の状態で存在しており、かつ前記Ti−Al合金の平均結晶粒径が500μm以下であると共に、ターゲット全体としての結晶粒径のバラツキが30%以内、前記Ti−Al合金の平均酸素含有量が1070ppmw以下であることを特徴とするスパッタターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板などに対するバリア材の形成に好適なスパッタターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、記憶媒体として強誘電体薄膜を用いた記憶装置、いわゆる強誘電体メモリ(FRAM)の開発が盛んに行われている。強誘電体メモリは不揮発性であり、電源を落とした後も記憶容量が失われないという特徴を有する。さらに、強誘電体薄膜の膜厚が十分に薄い場合には、自発分極の反転が速く、DRAM並みの高速の書き込みおよび読み出しが可能である。1ビットのメモリセルを1つのトランジスタと1つの強誘電体キャパシタで作製することができることから、強誘電体メモリは大容量化にも適している。
【0003】
強誘電体材料としては、主としてペロブスカイト型構造を有するジルコン酸チタン酸鉛(PbZrO3とPbTiO3の固溶体(PZT))が用いられている。しかし、PZTはキュリー温度が高い(300℃程度)、自発分極が大きいなどの特徴を有する反面、主成分であるPbの拡散および蒸発が比較的低い温度(500℃程度)で起こりやすいという問題を有しており、微細化には対応しにくいと言われている。PZT以外ではチタン酸バリウム(BaTiO3(BTO))が代表的な強誘電体として知られている。しかし、BTOはPZTと比べて残留分極が小さく、しかもキュリー温度が低い(120℃程度)ために、残留分極の温度依存性が大きいなどの難点を有している。
【0004】
これに対して、Pt/MgO(100)基板上にBTOをエピタキシャル成長させることによって、例えば膜厚60nmのBTO膜が200℃以上のキュリー温度を示すことが見出されている。さらに、Ptやルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3(SRO))からなる下部電極上に、チタン酸バリウムストロンチウム(BaaSr1-aTiO3(BSTO))をエピタキシャル成長させると、本来強誘電性を示さないはずの組成領域(a≦0.7)で強誘電性が発現することが確認されている。これはBSTO結晶のc軸方向の格子が伸長することに由来する。
【0005】
このようなBaリッチのBSTO膜は、強誘電キュリー温度が高温側にシフトするため、室温領域で大きな残留分極が得られ、かつ85℃程度まで温度を上げても十分大きな残留分極を保持することができる。従って、FRAMの記憶媒体に好適な強誘電体膜を実現することが可能となる。一方、SrリッチのBSTOを用いた場合には、多結晶膜でキャパシタを作製したときの誘電率の数倍(例えば800以上)に達する誘電率を有する薄膜キャパシタを得ることができる。このような誘電特性はDRAMに好適である。
【0006】
上述したように、エピタキシャル成長させたBTO膜やBSTO膜などを有する薄膜キャパシタを用いて、FRAMやDRAMなどの半導体メモリを実用化することが期待されている。これらを実用化するにあたっては、スイッチ用トランジスタを形成した半導体基板とペロブスカイト型酸化物膜を用いたメモリセル(薄膜キャパシタ)とを組合せる必要がある。この際、薄膜キャパシタの下部電極や誘電体薄膜を構成するPt、Ru、Sr、Baなどの元素がトランジスタ中に拡散すると、スイッチング動作に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0007】
このようなことから、半導体基板との間には相互拡散を防ぐバリア膜を形成する必要がある。さらに、上述したようなエピタキシャル効果を得るためには、バリア膜自体を半導体基板上にエピタキシャル成長させる必要がある。このようなバリア膜としては、窒化チタン(TiN)膜やTiNと窒化アルミニウム(AlN)との固溶体であるTil-xAlxN(Ti−Al−N)膜を用いることが検討されている。
【0008】
TiNはAlなどに対するバリア性が高く、通常のSiデバイスにおいてもバリアメタルとして利用されている。さらに、高融点の化合物(3000℃以上)であるために熱的安定性も高く、また比抵抗が多結晶膜で50μΩ・cm程度、エピタキシャル膜で18μΩ・cm程度と非常に低いことから、膜厚方向の電気特性を利用する場合にコンタクト抵抗が下げられるという利点がある。
【0009】
しかしながら、薄膜キャパシタのバリア膜としてTiNを用いた場合、素子製造工程中に例えば強誘電体膜の結晶制御のために実施される高温下(例えば600℃以上)でのアニールによって、TiN膜上に酸素が拡散してTiN中の窒素(N)と酸素(O)が置換して酸化膜、つまりTiO2が形成されてしまう。PtやSROなどからなる下部電極は、TiN膜表面に生成するTiO2に基づいて体積が膨張したり、またN2ガスが発生することなどに起因して付着力が低下してしまう。その結果として、下部電極に剥がれが生じてしまうという問題がある。
【0010】
一方、TiNにAlを添加してTil-xAlxN(Ti−Al−N)膜とすることで耐酸化性を高めることができる。Ti−Al−N膜は、Ti1-xAlx合金(Ti−Al合金)ターゲットを用いて、アルゴン(Ar)および窒素(N)雰囲気中で化相スパッタすることにより形成される。Ti−Al合金ターゲットに関して、例えば特開平6-322530号公報には高純度Tiと高純度Alとの拡散反応層のみで構成されたTi−Al合金ターゲットが記載されている。
【0011】
また、特開平8-134635号公報には、切削工具や摺動部品などの耐摩耗性や耐酸化性の向上を目的として、相対密度が99.0〜100%であり、かつ表面から底面まで連続した欠陥が無いTi−Al合金ターゲット材が記載されている。特開2000-100755号公報には、Oを15〜900ppmの範囲で含有する半導体装置のバリア膜形成用Ti−Al合金ターゲットが記載されている。
【0012】
さらに、特開2000-273623号公報にはAlを5〜65wt%含有し、U、Thなどの放射性元素が0.001ppm以下、Na、Kなどのアルカリ金属が0.1ppm以下、遷移金属であるFeが10.0ppm以下、Niが5.0ppm以下、Coが2.0ppm以下、Crが2.Oppm以下であり、その不純物を含めて99.995%以上の純度を有するTi−Al合金ターゲットが、特開2000-328242号公報にはAlを15〜40原子%、あるいはAlを55〜70原子%含有し、Ti3Al金属間化合物の面積率が30%以上である金属組織を有し、かつ径が0.1mm以上の欠陥が10個/100cm2以下であるTi−Al合金ターゲットが記載されている。このように、各種のTi−Al合金ターゲットが開発されている。
【0013】
しかしながら、従来のTi−Al合金ターゲットを化相スパッタすることにより得られたTi−Al−N膜は、Si基板に対するエピタキシャル成長性が低く、その結果としてBTO膜やBSTO膜のエピタキシャル成長が阻害されるという問題がある。このようなBTO膜やBSTO膜を使用したFRAMでは、残留分極などの強誘電特性を十分に得ることができず、FRAMの特性や製造歩留りを低下させることになる。DRAMに適用した場合においても、同様に特性や製造歩留りの低下を招くことになる。
【0014】
さらに、従来のTi−Al合金ターゲットを用いて、化相スパッタでTi−Al−N膜を成膜した場合、スパッタ成膜中に突発的に巨大なダストが発生しやすく、その結果としてFRAMやDRAMの製造歩留りを低下させるという問題がある。このような問題は薄膜キャパシタのバリア膜としてTi−Al−N膜を利用する場合に限らず、通常の半導体素子のバリア膜としてTi−Al−N膜を使用した場合にも同様に問題となる。
【0015】
上述したように、Ti−Al−N膜は本質的には耐酸化性に優れるという特性を有しているものの、その形成に使用するTi1-xAlx合金ターゲットの組成や性状などについては必ずしも十分に検討されているとは言えない。このため、Si基板に対するTi−Al−N膜のエピタキシャル成長性が低下したり、さらには巨大ダストが突発的に発生するというような問題などを招いている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、バリア膜としての特性や品質に優れるTi−Al−N膜を再現性よく形成することを可能にしたスパッタターゲットを提供することにある。より具体的には、Ti−Al−N膜を再現性よくエピタキシャル成長させることを可能にしたスパッタターゲット、またダストの発生を抑制することを可能にしたスパッタターゲットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は上記した課題を解決するために、Ti−Al合金ターゲット中のAl組成や結晶粒径などがTi−Al−N膜に及ぼす影響について検討した結果、まずTi−Al合金中のAlをTi中に固溶させるか、あるいはTiとの金属間化合物として存在させて、均一な合金組織(ターゲット組織)を得ることによって、Ti−Al−N膜のエピタキシャル成長性を高めることができると共に、ダストの発生も抑制することが可能であることを見出した。
【0018】
特に、Ti−Al−N膜のエピタキシャル成長性については、ターゲット全体としてのAl含有量のバラツキを低減することによって、エピタキシャル成長性が大幅に向上することを見出した。言い換えると、Alの偏析を低減することによって、Ti−Al−N膜のエピタキシャル成長性が向上する。一方、ダストの発生については、ターゲット全体としての結晶粒径のバラツキを低減することによって、ダストの発生が大幅に減少することを見出した。
【0019】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものである。
本発明の第2のスパッタターゲットは、Alを1〜30原子%の範囲で含有するTi−Al合金により構成されたスパッタターゲットであって、前記Ti−Al合金中のAlは、Ti中に固溶した状態、およびTiと金属間化合物を形成した状態の少なくとも一方の状態で存在しており、かつ前記Ti−Al合金の平均結晶粒径が500μm以下であると共に、ターゲット全体としての結晶粒径のバラツキが30%以内、前記Ti−Al合金の平均酸素含有量が1070ppmw以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、バリア膜としての特性や品質に優れるTi−Al−N膜を再現性よく形成することを可能にしたスパッタターゲットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態による電子部品の概略構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0023】
本発明のスパッタターゲットはTi−Al合金からなり、例えばTi−Al−N膜の形成に用いられるものである。Ti−Al合金中のAlは、Ti中に固溶させるか、あるいはTiとの金属間化合物として存在させたものである。TiとAlとの金属間化合物としては、TiAl、TiAl3、TiAl2、Ti3Alなどが挙げられる。
【0024】
このように、Alを固溶相や金属間化合物相として存在させることによって、均一な合金組織を得ることができる。すなわち、スパッタターゲットの組織を、均一なTiとAlの固溶体組織、均一なTiとAlの金属間化合物組織、あるいは均一な固溶体と金属間化合物との混合組織とすることができる。これらの均一なターゲット組織を得ることによって、Ti−Al−N膜のエピタキシャル成長性が向上する。
【0025】
これに対して、Ti−Al合金(スパッタターゲット)中にAlが単相として析出したり、またAlの偏析が生じていたりすると、エピタキシャル成長を妨げることになる。Alは固溶限まではTi中に固溶し、それを超えた分はTiとの金属間化合物として存在するが、Al組成や製造方法によってはAlの偏析が生じるおそれが大きい。本発明ではAlの析出や偏析を防止している。
【0026】
ここで、Ti−Al合金ターゲット中のAlが固溶相または金属間化合物相として存在することは、X線回折により確認することができる。すなわち、Ti−Al合金ターゲットの任意の位置から試験片を採取した後、表面を#1000まで研磨し、さらにバフ研磨する。このような試験片のX線回折パターンにおいて、実質的にTiのピークとTi−Al金属間化合物(TiAl、TiAl3、TiAl2など)のピークのみであればよい。言い換えると、Alのピークが実質的に現れなければ、Alは固溶相および金属間化合物相の少なくとも一方として存在していることが確認される。
【0027】
なお、X線回折パターンにおける有効ピークは最大強度ピークの1/20以上の強度比を有するものとする。X線回折の測定条件は、X線:Cu,K−α1、電圧:50kV、電流:100mA、縦型ゴニオメータ、発散スリット:1deg、散乱スリット:1deg、受光スリット:0.15mm、走査モード:連続、スキャンスピード:5°/min、スキャンステップ:0.05°である。
【0028】
本発明のスパッタターゲットを構成するTi−Al合金は、Alを1〜30原子%の範囲で含有することが好ましい。Ti−Al合金ターゲット中のAl量が30原子%を超えると、本来Ti中に固溶する、もしくはTiと金属間化合物を形成するはずのAlが単相として析出するおそれが大きくなる。すなわち、Alの偏析が生じやすくなる。Alが単相として析出すると、Ti−Al合金ターゲットを用いてTi−Al−N膜などをスパッタ成膜した際に、そのエピタキシャル成長性が低下する。さらに、Ti−Al−N膜の抵抗率なども増加し、バリア膜としての特性低下を招くことになる。
【0029】
Ti−Al合金ターゲット中のAl量を30原子%以下とすることで、ターゲット組織を均一なTiとAlとの固溶体組織、均一なTiとAlとの金属間化合物組織、あるいは均一な固溶体と金属間化合物との混合組織とするができる。このような均一なターゲット組織とすることによって、得られるTi−Al−N膜の膜組織についても、均一なTiNとAlとの固溶体組織、もしくはTiNとAlNとの固溶体組織とするができる。
【0030】
一方、Ti−Al合金ターゲット中のAl量が1原子%未満であると、本来の耐酸化性の向上効果を十分に得ることができない。例えば、Al組成が1原子%未満のTi−Al合金ターゲットを用いて形成したTi−Al−N膜は酸化が進行しやすく、その上に形成した膜との付着力が低下して剥がれなどが生じやすくなる。例えば、Ti−Al−N膜と薄膜キャパシタの下部電極との付着力が低下する。
【0031】
さらに、Ti−Al−N膜中のAlは膜自体の耐酸化性を高めるだけでなく、酸素のトラップ材としても機能する。例えば、Ti−Al−N膜上にSROなどの導電性酸化物からなる電極膜を形成した場合、この導電性酸化物中の酸素が半導体基板などの成膜基板中に拡散することが抑制される。このような点からも、Ti−Al合金ターゲット中のAl量は1原子%以上とすることが好ましい。
【0032】
本発明のスパッタターゲットを構成するTi−Al合金のAl含有量(Al組成)は、バリア膜自体の酸化をより良好に抑制し、かつ得られる膜のエピタキシャル成長性を一層高める上で、1〜20原子%の範囲とすることがより好ましい。さらに、Al組成は5〜15原子%の範囲とすることが望ましい。
【0033】
さらに、本発明のスパッタターゲットにおいては、Ti中に固溶させるか、あるいはTiとの金属間化合物とした存在させたAl含有量のターゲット全体としてのバラツキを10%以内としている。ターゲット全体のAl含有量のバラツキを低く抑えることによって、平滑なエピタキシャル成長膜を再現性よく得ることが可能となる。Al含有量のバラツキが10%を超えると、得られる膜のAl組成が部分的に異なることから、例えばTi−Al−Nの結晶成長性に差が生じ、膜全体としてのエピタキシャル成長性が低下することになる。ターゲット全体のAl含有量のバラツキは5%以内とすることがより好ましく、さらに好ましくは1%以内である。
【0034】
ここで、ターゲット全体としてのAl含有量のバラツキは、以下のようにして求めた値を指すものとする。すなわち、ターゲットが円盤状の場合、ターゲットの中心部と、中心部を通り円周を均等に分割した2本の直線上の外周から10%の各位置(中心部を入れて合計5箇所)からそれぞれ試験片を採取し、これら5点の試験片のAl含有量をそれぞれ10回測定し、この10回の測定値の平均値を各試験片のAl含有量とする。そして、これらの測定値の最大値および最小値から、{(最大値−最小値)/(最大値+最小値)}×100の式に基づいて、本発明で規定するバラツキ[%]を求めるものとする。Al含有量は通常使用されている誘電結合プラズマ発光分光法により測定した値とする。
【0035】
本発明のスパッタターゲットは、高純度のTi−Al合金で構成することが好ましい。Ti−Al合金に含まれる不純物のうち、特に酸素は得られるTi−Al−N膜のエピタキシャル成長性を低下させるため、Ti−Al合金の平均酸素含有量は900ppm以下とすることが好ましい。さらに、酸素は得られるTi−Al−N膜の酸化を促進し、その上に形成される膜(例えば薄膜キャパシタの下部電極)の付着力を低下させる。このような点からもTi−Al合金の平均酸素含有量は900ppm以下とすることが好ましい。
【0036】
ただし、Ti−Al合金ターゲットから完全に酸素を除去してしまうと、得られるTi−Al−N膜のバリア性が低下するおそれがあることから、微量の酸素を含んでいることが好ましい。具体的には、Ti−Al合金ターゲットは10〜500ppmの範囲の酸素を含むことが好ましい。より好ましい酸素含有量は50〜400ppmの範囲である。このような量の酸素はTi−Al−N膜のバリア性に対して有効に機能する。
【0037】
Ti−Al合金ターゲット中の酸素含有量のバラツキは、ターゲット全体として30%以内とすることが好ましい。ターゲット全体の酸素含有量のバラツキを低く抑えることによって、それを用いて形成したTi−Al−N膜のエピタキシャル成長性や耐酸化性などを全体的に再現性よく向上させることができる。さらに、得られるTi−Al−N膜のバリア性を均質化することができる。ターゲット全体の酸素含有量のバラツキは、前述したAl含有量のバラツキと同様にして求めるものとする。酸素含有量は通常使用されている不活性ガス融解赤外線吸収法により測定した値とする。
【0038】
なお、本発明のスパッタターゲット(Ti−Al合金ターゲット)中の酸素以外の不純物元素については、一般的な高純度金属材のレベル程度であれは多少含んでいてもよい。ただし、酸素と同様にエピタキシャル成長性の向上などを図る上で、他の不純物元素量についても低減することが好ましい。
【0039】
本発明のスパッタターゲットにおいて、Ti−Al合金を構成している結晶粒の平均粒径(平均結晶粒径)は500μm以下であることが好ましい。さらに、ターゲット全体としての結晶粒径のバラツキは30%以内であることが好ましい。Ti−Al合金ターゲットを構成する結晶粒を比較的微細化し、かつターゲット全体としての結晶粒径のバラツキを低減することによって、ダストの発生を抑制することができる。
【0040】
ターゲットの結晶粒径とダストとの関係は数多く報告されている。通常、ダストと呼ばれているものは、スパッタリングにより飛散した粒子がスパッタ装置内に配置された防着板やターゲットの非エロージョン領域に付着し、これらが剥離して生じるフレーク状ものや、結晶粒間のギャップに生じた電位差により異常放電が発生し、これに基づいて生じるスプラッシュと呼ばれる溶融粒子などである。いずれにしても、通常は大きさが0.2〜0.3μm程度のものを指している。
【0041】
しかし、従来のTi−Al合金ターゲットから突発的に発生するダストは、大きさが1μm以上とこれまでのダストと比較して大きい。また、形状も岩石のような塊状である。この塊状のダストは、結晶粒の一部もしくは結晶粒自体がスパッタリングにより抽出されたようなモードになっている。そして、ターゲット全体としての結晶粒径にバラツキが生じていると、このような巨大なダストの発生率が増大する。
【0042】
これに対して、Ti−Al合金ターゲットの平均結晶粒径を500μm以下とすると共に、ターゲット全体としての結晶粒径のバラツキを30%以内とすることによって、熱応力などの影響による結晶粒の一部もしくは結晶粒自体の飛散を抑えることが可能となる。その結果として、巨大ダストの発生が抑制され、Ti−Al−N膜の歩留りを大幅に向上させることができる。
【0043】
Ti−Al合金ターゲットの結晶粒径は300μm以下がより好ましく、さらに好ましくは200μm以下である。また、ターゲット全体としての結晶粒径のバラツキは15%以内とすることがより好ましく、さらに好ましくは10%以内である。なお、前述したように、AlをTi中に固溶させた均一な固溶体組織やTiとAlの均一な金属間化合物組織も、巨大ダストの抑制に効果を及ぼしている。
【0044】
ここで、Ti−Al合金ターゲットの平均結晶粒径は、以下のようにして求めた値とする。まず、スパッタターゲットの表面から試験片を採取し、試験片の表面をHF:HNO3:H2O=2:2:1のエッチング液でエッチングした後、光学顕微鏡で組織観察を行う。光学顕微鏡の測定視野または写真上に面積が既知の円(直径79.8mm)を描き、円内に完全に含まれる結晶粒の個数(個数A)と、円周により切断される結晶粒の個数(個数B)とを数える。測定倍率は円の中に完全に含まれる結晶粒の個数が30個以上となるように設定する。結晶粒の個数Bは1/2に換算して、円内の結晶粒の総数nは個数A+個数B/2とする。この円内の結晶粒の総数nと測定倍率Mと円の面積A(mm2)とから、
d=(A/n)1/2/M
の式に基づいて、平均結晶粒径d(mm)を算出する。
【0045】
ターゲット全体としての結晶粒径のバラツキは、ターゲットの中心部と、中心部を通り円周を均等に分割した2本の直線上の各外周近傍位置およびその1/2の距離の各位置(中心部を入れて合計9箇所)からそれぞれ試験片を採取し、これら9点の試験片それぞれの平均結晶粒径を上記した方法で10回測定し、この10回の測定値の平均値を各試験片の結晶粒径とする。そして、これらの測定値の最大値および最小値から、{(最大値−最小値)/(最大値+最小値)}×100の式に基づいて、本発明で規定する結晶粒径のバラツキ[%]を求めるものとする。なお、試験片の形状は長さ10mm、幅10mmとする。
【0046】
本発明のスパッタターゲットの製造方法は、特に限定されるものではないが、以下に示すような溶解法を適用して作製することが好ましく、さらには各溶解法の種々の条件を制御してAl含有量のバラツキを低減させることが好ましい。
【0047】
まず、4N程度の高純度のTiおよびAlを用意し、これらをアーク溶解法、電子ビーム(EB)溶解法、コールドウォール溶解法などの方法で溶解して、Ti−Al合金インゴットを作製する。これら溶解法のうち、特にコールドウォール溶解法を適用することが好ましい。コールドウォール溶解法によれば、その溶解条件を制御することによって、Alの偏析を抑えて均一な合金組織を再現性よく得ることができる。コールドウォール溶解法は、不純物元素の減少およびそのバラツキの低減に対しても効果を発揮する。
【0048】
コールドウォール溶解法を適用する際の具体的な条件としては、まず溶解開始前の圧力を1×10-6Pa程度(1×10-4〜1×10-7Pa)とし、溶解前に脱ガス処理(ベーキング)を2回程度実施する。溶解開始時には圧力を1×10-5Pa程度(1×10-4〜1×10-6Pa)とし、溶解中の圧力は1×10-4Pa程度(1×10-3〜1×10-5Pa)とする。溶解開始時の電力は5kW程度とし、溶解時の最大圧力は230kW程度に設定する。溶解時間は40分程度とすることが好ましい。
【0049】
さらに、コールドウォール溶解を実施した後に、Al含有量のバラツキを低減するために、Ti−Al合金の融点の80〜90%の範囲の温度で溶体化処理を行うことが好ましい。溶体化処理は1×10-1Pa以下の真空中またはAr雰囲気中で24時間以上実施することが好ましい。このような溶体化処理はAl含有量のバラツキの抑制に限らず、酸素含有量のバラツキの低減、結晶粒径の微細化や平均化に対しても効果を示すものである。
【0050】
ここで、溶体化処理温度があまり高すぎると、結晶粒の成長が急激に起こるために割れが生じやすくなる。一方、溶体化処理温度があまり低すぎると、Alの分散効果を十分に得ることができない。このようなことから、溶体化処理温度はTi−Al合金の融点の80〜90%の範囲の温度とすることが好ましい。より好ましい温度は融点の85〜90%の範囲である。また、溶体化処理時の真空度が不十分であるとTi−Al合金が酸化しやすくなるため、その際の圧力は1×10-1Pa以下とする。さらに、溶体化処理の時間があまり短いとAlの分散効果が不十分となるため、その時間は24時間以上とすることが好ましい。
【0051】
なお、アーク溶解法やEB溶解法では、Alの偏析が発生するおそれが大きいため、複数回(例えば2〜3回)溶解を実施することが好ましい。このように、アーク溶解やEB溶解を複数回実施することによって、Alの偏析を減少させることができる。
【0052】
次に、得られたインゴットに対して、必要に応じて鍛造や圧延などの塑性加工を施す。この際の加工率は例えば60〜95%とする。このような塑性加工によれば、インゴットに適当量の熱エネルギーを与えることができ、そのエネルギーによってAlや酸素の均質化を図ることができる。加工率があまり高いと、加工時に割れが発生しやすくなる。逆に、加工率があまり低いと、後工程での再結晶化が不十分となる。このようなことから、塑性加工時の加工率は60〜95%の範囲とすることが好ましい。より好ましい加工率は70〜90%の範囲であり、さらに好ましくは80〜90%の範囲である。
【0053】
この後、Ti−Al合金素材を900〜1200℃の温度でアニールして再結晶化させる。再結晶化の条件を調整することによって、平均結晶粒径やそのバラツキを本発明の範囲内に制御することができる。アニール温度があまり高いと、再結晶粒の粒径が大きくなりすぎる。逆に、アニール温度があまり低いと、再結晶化が不十分となる。従って、アニール温度は900〜1200℃の範囲とすることが好ましい。より好ましいアニール温度は950〜1150℃の範囲であり、さらに好ましくは1000〜1100℃の範囲である。
【0054】
上述した溶解法により得られるTi−Al合金からなるターゲット素材を所望のターゲット形状に機械加工し、例えばAlやCuからなるバッキングプレートと接合することによって、目的とするスパッタターゲットが得られる。バッキングプレートとの接合には拡散接合、あるいはIn、ZnおよびSnの少なくとも1種、あるいはそれらを含むろう材を用いたろう付け接合などを採用することができる。また、別個のバッキングプレートを使用するのではなく、スパッタターゲットの作製時にバッキングプレート形状を同時に形成した一体型のスパッタターゲットであってもよい。
【0055】
本発明のバリア膜は、上述した本発明のスパッタターゲット(Ti−Al合金ターゲット)を用いて、例えばArとN2の混合ガスによる化相スパッタにより成膜したTi−Al−N膜(Ti1-xAlxN膜(0.01≦x≦0.3))を具備するものである。このようにして得られるTi−Al−N膜は、Si基板などの半導体基板に対するエピタキシャル成長性に優れ、バリア膜として良好な特性を有すると共に、ダストの発生数も大幅に低減されたものである。本発明のTi−Al合金ターゲットを用いることによって、特性および品質に優れるバリア膜(Ti−Al−N膜)を歩留りよく得ることができる。
【0056】
本発明のTi−Al−N膜は、例えばSrやBaなどをはじめとする各種元素に対するバリア性に優れ、かつ抵抗率が200μΩ・cm以下というような低抵抗を有する。従って、このようなTi−Al−N膜を半導体基板と各種素子とのバリア膜として用いることによって、半導体基板と素子構成層との間の相互拡散を良好に抑制することができる。さらに、高温アニール(例えば600℃以上)によるTi−Al−N膜の酸化を防ぐことができるため、Ti−Al−N膜と素子構成層との界面での付着力の低下を抑制することが可能となる。すなわち、Ti−Al−N膜上の素子構成層の剥がれなどを抑制することができる。さらに、素子構成層のエピタキシャル成長を阻害することがないため、素子構成層の特性向上を図ることができる。
【0057】
上述したTi−Al−N膜は、半導体基板に対するバリア材として好適である。このような本発明のバリア膜は、各種の電子部品に使用することができる。具体的には、スイッチ用トランジスタを形成した半導体基板と、ペロブスカイト型酸化物からなる誘電体薄膜を用いた薄膜キャパシタ(メモリセル)とを組合せた、FRAMやDRAMなどの半導体メモリに対して、本発明のバリア膜は効果的に使用される。
【0058】
図1は本発明の電子部品の一実施形態としての半導体メモリのキャパシタ部分を模式的に示す断面図である。同図において、1は図示を省略したスイッチ用トランジスタが形成された半導体基板(Si基板)である。この半導体基板1上にはバリア膜2として、上述した本発明のTi−Al−N膜(Ti1-xAlxN膜(0.01≦x<0.3))が形成されており、さらにその上に薄膜キャパシタ3が形成されている。
【0059】
薄膜キャパシタ3は、バリア膜2上に順に形成された、下部電極4、誘電体薄膜5および上部電極6を有している。下部電極4には、Pt、Au、Pd、Ir、Rh、Re、Ruなどの貴金属、およびそれらの合金(Pt−RhやPt−Ruなど)、あるいはSrRuO3、CaRuO3、BaRuO3およびこれらの固溶系(例えば(Ba,Sr)RuO3や(Sr,Ca)RuO3)などの導電性ペロブスカイト型酸化物などが使用される。上部電極6の構成材料は特に限定されるものではないが、下部電極4と同様な貴金属(合金を含む)や導電性ペロブスカイト型酸化物などを使用することが好ましい。
【0060】
誘電体薄膜5としては、ペロブスカイト型結晶構造を有する誘電体材料が好適である。このような誘電体材料としては、ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物が挙げられる。特に、チタン酸バリウム(BaTiO3(BTO))を主成分とし、そのAサイト元素(Ba)の一部をSrやCaなどの元素で置換したり、またBサイト元素(Ti)の一部をZr、Hf、Snなどの元素で置換したペロブスカイト型酸化物(BSTOなど)が好ましく用いられる。
【0061】
BTOを主成分とするペロブスカイト型酸化物は、Bサイト元素やAサイト元素の置換量、さらには格子歪に基づく歪量によって、強誘電体もしくは常誘電体となる。従って、ペロブスカイト型酸化物の組成や歪量を適宜設定することによって、薄膜キャパシタ3の使用目的に応じた誘電体薄膜5を得ることができる。例えば、BaaSr1-aTiO3(BSTO)の場合、Baのモル分率aが0.3〜1の範囲であると強誘電性を示す。一方、Baのモル分率aが0〜0.3の範囲であると常誘電性を示す。これらはBサイト元素の置換量によっても変化する。
【0062】
なお、誘電体薄膜5にはBTOやBSTO以外のペロブスカイト型酸化物、例えばSrTiO3、CaTiO3、BaSnO3、BaZrO3などの単純ペロブスカイト型酸化物、Ba(Mg1/3Nb2/3)O3、Ba(Mg1/3Ta2/3)O3などの複合ペロブスカイト型酸化物、およびこれらの固溶系などを適用することも可能である。ペロブスカイト型酸化物の組成については、化学量論比からの多少のずれは許容されることは言うまでもない。
【0063】
このような半導体メモリにおいては、バリア特性および耐酸化性に優れるTi−Al−N膜からなるバリア膜2によって、半導体基板1上にその特性を低下させることなく薄膜キャパシタ3を良好に形成することが可能となる。特に、薄膜キャパシタ3の下部電極4とバリア膜2との間の剥離などを良好に抑制することができる。バリア層2の膜厚は、拡散防止効果が得られる範囲内で薄い方がよく、具体的には10〜50nmの範囲とすることが好ましい。
【0064】
さらに、バリア膜2としてのTi−Al−N膜はエピタキシャル成長膜であり、その上の下部電極4および誘電体薄膜5のエピタキシャル成長を促進するため、例えばエピタキシャル成長時に導入される歪により誘起された強誘電特性や高誘電特性を利用した薄膜キャパシタを、半導体基板1上に良好な膜質で作製することが可能となる。従って、このような薄膜キャパシタとトランジスタとを半導体基板上に高度に集積することによって、実用性が高くかつ信頼性の高いFRAMやDRAMなどの半導体メモリを高歩留りで作製することができる。
【0065】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0066】
実施例1
高純度のTi片とAl片をコールドウォール溶解法で溶解して、表1に示すAl含有量を有する各合金インゴット(直径105mm)をそれぞれ作製した。コールドウォール溶解工程は、まず溶解開始前の圧力を1×10-6Paとし、溶解前に脱ガス処理(ベーキング)を2回実施した。溶解開始時に圧力を1×10-5Paに調整し、溶解中の圧力は1×10-4Paとした。溶解開始時の電力は5kWとし、溶解時の最大圧力は230kWとした。溶解時間は40分に設定した。このようなコールドウォール溶解により得られた各合金インゴットに、表1に示す温度と時間で溶体化処理を施した。
【0067】
次に、上記した各合金インゴットに対して、表1に示す加工率で1000℃にて熱間圧延を施した後、900℃で1時間アニールして再結晶化させた。再結晶化後の各合金素材を研削、研磨した後、Al製バッキングプレートとホットプレスにより拡散接合し、さらに機械加工を施すことによって、直径320mm×厚さ10mmのTi−Al合金ターゲットをそれぞれ作製した。
【0068】
このようにして得た各Ti−Al合金ターゲットのX線回折を実施したところ、いずれのX線回折パターンにもTiピークとTi−Al金属間化合物のピークしか出現していないことを確認した。すなわち、各Ti−Al合金ターゲットは、Ti−Al固溶体とTi−Al金属間化合物組織とからなる均一な組織を有していた。さらに、これら各Ti−Al合金ターゲットのAl含有量のバラツキ、平均酸素含有量、酸素含有量のバラツキを、前述した方法にしたがってそれぞれ測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例2
高純度のTiとAl片をアーク溶解法で溶解して、表2に示すAl含有量を有する各合金インゴット(直径105mm)をそれぞれ作製した。アーク溶解は、まず6.65×10-3Paまで真空引きし、Arを1.9×104Paまで導入した後、出力150kWで実施した。アーク溶解の回数はそれぞれ表2に示した通りである。次いで、アーク溶解により得られた各合金インゴットに対して、表2に示す温度で30時間の溶体化処理を施した。これらの合金素材に1000℃で熱間圧延を施した後、実施例1と同様にして、直径320mm×厚さ10mmのTi−Al合金ターゲットをそれぞれ作製した。
【0071】
このようにして得た各Ti−Al合金ターゲットのX線回折を実施したところ、いずれのX線回折パターンにもTiピークとTi−Al金属間化合物のピークしか出現していないことを確認した。すなわち、各Ti−Al合金ターゲットは、Ti−Al固溶体とTi−Al金属間化合物組織とからなる均一な組織を有していた。さらに、これら各Ti−Al合金ターゲットのAl含有量のバラツキ、平均酸素含有量、酸素含有量のバラツキを、前述した方法にしたがってそれぞれ測定した。これらの測定結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
実施例3
高純度のTiとAl片をEB溶解法で溶解(真空度1.33×103Pa、出力80kW)して、表3に示すAl含有量を有する各合金インゴット(直径105mm)をそれぞれ作製した。EB溶解の回数は表3に示す通りである。次いで、EB溶解により得られた各合金インゴットに、表3に示す温度で30時間の溶体化処理を施した。これら各合金素材に対して1000℃で熱間圧延を施した後、実施例1と同様にして、直径320mm×厚さ10mmのTi−Al合金ターゲットをそれぞれ作製した。
【0074】
このようにして得た各Ti−Al合金ターゲットのX線回折を実施したところ、いずれのX線回折パターンにもTiピークとTi−Al金属間化合物のピークしか出現していないことを確認した。すなわち、各Ti−Al合金ターゲットは、Ti−Al固溶体とTi−Al金属間化合物組織とからなる均一な組織を有していた。さらに、これら各Ti−Al合金ターゲットのAl含有量のバラツキ、平均酸素含有量、酸素含有量のバラツキを、前述した方法にしたがってそれぞれ測定した。これらの測定結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
比較例1〜4
本発明との比較例1として、緻密化焼結したTi−Al合金素材(焼結体)を用いる以外は、実施例1と同様にしてTi−Al合金ターゲット作製した。比較例2および比較例3として、アーク溶解またはEB溶解の回数をそれぞれ1回とする以外は、実施例2の試料No.13および実施例3の試料No.3と同様にして、Ti−Al合金ターゲットをそれぞれ作製した。
【0077】
さらに比較例4として、コールドウォール法で溶体化処理を行わない以外は、実施例1の試料No.9と同様にしてTi−Al合金ターゲットを作製した。これら比較例1〜4による各Ti−Al合金ターゲットのAl含有量のバラツキ、平均酸素量、酸素量のバラツキを、前述した方法にしたがってそれぞれ測定した。これらの測定結果を表4に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
次に、上述した実施例1〜3および比較例1〜3の各Ti−Al合金ターゲットを用いて、Si(100)基板上に化相スパッタによりTi−Al−N膜を10〜100nm程度の厚さで成膜した。スパッタガスにはN2とArの混合ガス(N2=3sccm,Ar=30sccm)を用い、基板温度は600℃とした。Si(100)基板には、1%HF溶液で3分間表面エッチングを行い、超純水にて30分リンスオフしたものを用いた。Ti−Al−N膜を成膜したSi基板の枚数はそれぞれ500枚とした。
【0080】
このようにして成膜した各Ti−Al−N膜の結晶性を真空チャンバ内に装備したRHEED(Reflection High Energy Electron Diffrection:反射高速電子回折)により確認した。すなわち、RHEEDの回折パターンからエピタキシャル膜かそうでないかを判定した。各例でそれぞれ成膜した500枚のSi基板について、各Ti−Al−N膜がエピタキシャルしているかどうかを観察した。その結果を表5にまとめて示す。表5の値は500枚中のエピタキシャル成長した枚数をパーセント(%)で表したものである。
【0081】
次に、上述した各Ti−Al−N膜をバリア膜として、その上にそれぞれPt膜をRFマグネトロンスパッタ(基板温度500℃)により形成して下部電極とした。Pt膜の厚さは約100nmとした。さらに、その上に誘電体膜としてBaTiO3膜(膜厚約200nm)をRFマグネトロンスパッタにより形成した。この際、基板温度は600℃、スパッタガスはO2 100%で行った。
【0082】
各BaTiO3膜がエピタキシャルしているかどうかを、Ti−Al−N膜と同様にして観察した。その結果を表5に併せて示す。表5の値は500枚中のエピタキシャル成長した枚数をパーセント(%)で表したものである。さらに、リフトオフを用いたRFマグネトロンスパッタにより、室温にて上部電極としてPt膜を形成することによって、FRAM用の薄膜キャパシタを作製した。
【0083】

【表5】

【0084】
表5から明らかのように、実施例1〜3による各スパッタターゲットを用いて成膜したTi−Al−N膜は、いずれもエピタキシャル成長性に優れ、それに基づいてBaTiO3膜についても良好にエピタキシャル成長させることが可能であることが分かる。さらに、実施例1〜3による各BaTiO3膜はいずれも良好な残留分極を有していることが確認された。
【0085】
実施例4
高純度のTiとAl片をコールドウォール溶解法で溶解して、Al含有量が9原子%の合金インゴット(直径75〜105mm)を複数作製した。次に、これら合金インゴットに対して1000℃で熱間圧延(加工率80%)を施した後、表2に示す温度でそれぞれ1時間のアニール処理を施して再結晶化させた。
【0086】
これら各合金インゴットを研削、研磨した後、それぞれAl製バッキングプレートとホットプレスにより拡散接合し、さらに機械加工を施すことによって、直径320mm×厚さ10mmのTi−Al合金ターゲットをそれぞれ作製した。
【0087】
このようにして得た各Ti−Al合金ターゲットの平均結晶粒径およびそのバラツキを、前述した方法にしたがって測定した。これらの測定結果を表6に示す。なお、各Ti−Al合金ターゲットは、実施例1と同様に、Ti−Al固溶体とTi−Al金属間化合物組織とからなる均一な組織を有していた。さらに、Al含有量のバラツキについても、実施例1と同様であった。
【0088】
上述した各Ti−Al合金ターゲットをそれぞれ用いて、Si(100)基板上に化相スパッタによりTi−Al−N膜を10〜100nm程度の厚さで成膜した。Ti−Al−N膜の成膜条件は上述した通りである。Si基板の枚数はそれぞれ500枚とした。
【0089】
このようにして得た各Ti−Al−N膜中に存在する、大きさ1μm以上のダスト数をパーティクルカウンタで測定した。その結果を表6に併せて示す。表6のダスト数は500枚の平均値である。なお、各膜の結晶性を真空チャンバ内に装備したRHEEDにより確認したところ、エピタキシャル膜の回折パターンであり、かつストリークが観察され、平滑なエピタキシャル膜が形成されていることを確認した。
【0090】
【表6】

【0091】
表6から明らかなように、実施例4による各スパッタターゲットを用いて成膜したTi−Al−N膜は、いずれもダスト数が少ないことが分かる。従って、このようなTi−Al−N膜をバリア膜として使用することによって、各種デバイスの製造歩留りを向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上の実施形態からも明らかなように、本発明のスパッタターゲットによれば、バリア膜としての特性や品質に優れるTi−Al−N膜などを再現性よく形成することが可能となる。従って、このようなTi−Al−N膜からなるバリア膜を使用することによって、各種電子部品の特性や歩留りの向上を図ることが可能となる。本発明のバリア膜は、特に誘電体膜としてペロブスカイト型酸化物膜を用いたFRAMやDRAMに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを1〜30原子%の範囲で含有するTi−Al合金により構成されたスパッタターゲットであって、
前記Ti−Al合金中のAlは、Ti中に固溶した状態、およびTiと金属間化合物を形成した状態の少なくとも一方の状態で存在しており、かつ前記Ti−Al合金の平均結晶粒径が500μm以下であると共に、ターゲット全体としての結晶粒径のバラツキが30%以内、前記Ti−Al合金の平均酸素含有量が1070ppmw以下であることを特徴とするスパッタターゲット。
【請求項2】
請求項1記載のスパッタターゲットにおいて、
ターゲット全体としての酸素含有量のバラツキが30%以内であることを特徴とするスパッタターゲット。
【請求項3】
請求項1または2記載のスパッタターゲットにおいて、
ターゲット全体としてのAl含有量のバラツキが10%以内であることを特徴とするスパッタターゲット。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載のスパッタターゲットにおいて、
前記スパッタターゲットはバッキングプレートと接合されていることを特徴とするスパッタターゲット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72496(P2012−72496A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227676(P2011−227676)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【分割の表示】特願2001−578717(P2001−578717)の分割
【原出願日】平成13年4月20日(2001.4.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FRAM
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】