説明

ダイシング・ダイボンドフィルム及び半導体装置の製造方法

【課題】
ダイシング時の保持力と、半導体チップの剥離性とのバランス特性に優れるダイシング・ダイボンドフィルムを提供する。
【解決手段】
ダイシング・ダイボンドフィルムは、基材上に粘着剤層を有するダイシングフィルムと、前記粘着剤層上に設けられたダイボンドフィルムとを有しており、前記ダイシングフィルムは、粘着剤層が、下記のアクリル系ポリマーAと発泡剤とを含む熱膨張性粘着剤により形成され、且つ表面自由エネルギーが30mJ/m2以下である熱膨張性粘着剤層であり、前記ダイボンドフィルムは、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物により構成されている。
アクリルポリマーA:CH2=CHCOOR(式中、Rは炭素数が6〜10のアルキル基である)で表されるアクリル酸エステル50重量%以上と、ヒドロキシル基含有モノマー1〜30重量%を含み且つカルボキシル基含有モノマーを含まないモノマー組成物によるアクリル系ポリマー

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ状ワーク(半導体チップ等)と電極部材とを固着するための接着剤を、ダイシング前にワーク(半導体ウェハ等)に付設した状態で、ワークのダイシングに供するダイシング・ダイボンドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
回路パターンを形成した半導体ウェハ(ワーク)は、必要に応じて裏面研磨により厚さを調整した後、半導体チップ(チップ状ワーク)にダイシングされる(ダイシング工程)。ダイシング工程では、切断層の除去のため半導体ウェハを適度な液圧(通常、2kg/cm2程度)で洗浄するのが一般的である。次いで、前記半導体チップを接着剤にてリードフレームなどの被着体に固着(マウント工程)した後、ボンディング工程に移される。前記マウント工程においては、従来、接着剤をリードフレームや半導体チップに塗布していた。しかし、この方法では接着剤層の均一化が困難であり、また接着剤の塗布に特殊装置や長時間を必要とする。このため、ダイシング工程で半導体ウェハを接着保持するとともに、マウント工程に必要なチップ固着用の接着剤層をも付与するダイシング・ダイボンドフィルムが提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のダイシング・ダイボンドフィルムは、支持基材上に接着剤層を剥離可能に設けてなるものである。すなわち、接着剤層による保持下に半導体ウェハをダイシングしたのち、支持基材を延伸して半導体チップを接着剤層とともに剥離し、これを個々に回収してその接着剤層を介してリードフレームなどの被着体に固着させるようにしたものである。
【0004】
この種のダイシング・ダイボンドフィルムの接着剤層には、ダイシング不能や寸法ミスなどが生じないように、半導体ウェハに対する良好な保持力と、ダイシング後の半導体チップを接着剤層と一体に支持基材から剥離しうる良好な剥離性と、剥離後に半導体ウェハと接着剤層へ粘着剤の付着がない低汚染性が望まれる。しかし、これらの特性をバランス良く発揮させることは決して容易なことではなかった。特に、半導体ウェハを回転丸刃などでダイシングする方式などのように、接着剤層に大きな保持力が要求される場合には、上記特性を満足するダイシング・ダイボンドフィルムを得ることは困難であった。
【0005】
そこで、このような問題を克服するために、種々の改良法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、支持基材と接着剤層との間に紫外線硬化が可能な粘着剤層を介在させ、これをダイシング後に紫外線硬化して、粘着剤層と接着剤層との間の接着力を低下させ、両者間の剥離により半導体チップのピックアップを容易にする方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、この改良法によっても、ダイシング時の保持力とその後の剥離性とをうまくバランスさせたダイシング・ダイボンドフィルムとすることは困難な場合がある。例えば、10mm×10mm以上の大型の半導体チップを得る場合には、その面積が大きいことから、一般のダイボンダーでは容易に半導体チップをピックアップすることができない。
【特許文献1】特開昭60−57642号公報
【特許文献2】特開平2−248064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、半導体ウェハが薄型の場合にも、当該薄型ワークをダイシングする際の保持力と、ダイシングにより得られる半導体チップをそのダイボンドフィルムと一体に剥離する際の剥離性と、剥離後に半導体ウェハと接着剤層へ粘着剤の付着がない低汚染性とのバランス特性に優れるダイシング・ダイボンドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者等は、上記従来の問題点を解決すべく、ダイシング・ダイボンドフィルムについて検討した。その結果、粘着剤層が特定のモノマー組成物によるアクリル系ポリマーを含む熱膨張性粘着剤により形成され、且つ特定の表面自由エネルギーを有する熱膨張性粘着剤層からなるダイシングフィルムと、エポキシ樹脂組成物により構成されたダイボンドフィルムとを有する形態のダイシング・ダイボンドフィルムを用いると、薄型ワークを保持して有効にダイシングさせるための保持力と、該ダイシングにより得られる半導体チップをダイボンドフィルムと一体にして容易に剥離させるための剥離性と、該剥離後に半導体ウェハとダイボンドフィルム(接着剤層)に粘着剤成分の付着を抑制又は防止するための低汚染性とのバランス特性が優れていることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、基材上に粘着剤層を有するダイシングフィルムと、前記粘着剤層上に設けられたダイボンドフィルムとを有するダイシング・ダイボンドフィルムであって、
ダイシングフィルムは、粘着剤層が、下記のアクリル系ポリマーAと発泡剤とを含む熱膨張性粘着剤により形成され、且つ表面自由エネルギーが30mJ/m2以下である熱膨張性粘着剤層であり、
アクリルポリマーA:CH2=CHCOOR(式中、Rは炭素数が6〜10のアルキル基である)で表されるアクリル酸エステル50重量%以上と、ヒドロキシル基含有モノマー1重量%〜30重量%を含み且つカルボキシル基含有モノマーを含まないモノマー組成物によるアクリル系ポリマー
ダイボンドフィルムは、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物により構成されていることを特徴とするダイシング・ダイボンドフィルムである。
【0010】
このように、本発明のダイシング・ダイボンドフィルムは、ダイシングフィルムの粘着剤層が、所定の組成のアクリル系ポリマーにより形成され且つ表面自由エネルギーが所定の大きさを有する熱膨張性粘着剤層であるので、熱膨張性を有しており、熱膨張性より、剥離力の低減を図ることができ、その結果、剥離性が良好であり、良好なピックアップ性を可能にすることができるとともに、前記粘着剤層が所定の大きさの表面自由エネルギーを有していることにより、低汚染性を向上させることができる。もちろん、熱膨張性粘着剤層は、粘着性(保持力)を有しており、ダイシングする際には、薄型ワーク(半導体ウェハ)を良好に保持させることができる。しかも、剥離後は、半導体ウェハにダイボンドフィルムが貼着しているため、次工程で、ダイボンドフィルムを利用して半導体チップを所定の被着体に接着固定させ、次工程以降で適宜な処理等を有効に施して、半導体装置を製造することができる。
【0011】
なお、ダイシングフィルムの熱膨張性粘着剤層に関して、ベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーAにおいて、モノマー組成物としてのアクリル酸エステルとして、CH2=CHCOOR(式中、Rは炭素数が6〜10のアルキル基である)を用いることにより、剥離力が大きくなり過ぎてピックアップ性が低下するのを防止することができる。また、ヒドロキシル基含有モノマーを10重量%〜30重量%の範囲にすることにより、ピックアップ性や低汚染性の低下を効果的に防止することができる。
【0012】
本発明では、前記発泡剤としては、熱膨張性微小球を好適に用いることができる。
【0013】
本発明のダイシング・ダイボンドフィルムでは、前記ダイシングフィルムの熱膨張性粘着剤層が、23℃〜150℃における弾性率が5×104Pa〜1×106Paである粘着剤層を形成可能な粘着剤と、発泡剤とを含む熱膨張性粘着剤により形成されており、前記ダイボンドフィルムの弾性率が、前記ダイシングフィルムの熱膨張性粘着剤層の発泡開始温度(T0;℃)〜T0+20℃において1×105Pa〜1×1010Paであることが好適である。ダイシングフィルムの熱膨張性粘着剤層の弾性率(特に、アクリルポリマーAの弾性率)を前記範囲内とすることにより、熱膨張性が良好になり、ピックアップ性の低下を防ぐことができる。また、ダイボンドフィルムの弾性率を前記範囲内とすることにより、熱膨張に伴うダイシングフィルムとダイボンドフィルムの接触面積の低下を妨げることを防止することができ、ダイシングフィルムとダイボンドフィルムの接触面積を有効に低下させることができる。
【0014】
また、本発明は、ダイシング・ダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法であって、ダイシング・ダイボンドフィルムとして、前記のダイシング・ダイボンドフィルムを用いたことを特徴とする半導体装置の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のダイシング・ダイボンドフィルムは、薄型ワークをダイシングする際の保持力と、ダイシングにより得られる半導体チップをそのダイボンドフィルムと一体に剥離する際の剥離性と、剥離後に半導体ウェハと接着剤層へ粘着剤の付着がない低汚染性とのバランス特性が優れている。しかも、剥離後は、半導体チップにはダイボンドフィルムが貼着しているため、次工程で、ダイボンドフィルムを利用して半導体チップを接着固定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図1〜図2を参照しながら説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。図1は、本発明のダイシング・ダイボンドフィルムの一例を示す断面模式図である。図2は、本発明の他の例のダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。但し、説明に不要な部分は省略し、また、説明を容易にするために拡大又は縮小等して図示した部分がある。
【0017】
図1に示されるように、本発明のダイシング・ダイボンドフィルムは、基材1a上に熱膨張性粘着剤層1bが設けられたダイシングフィルム2と、前記熱膨張性粘着剤層1b上に設けられたダイボンドフィルム3とを有する構成のダイシング・ダイボンドフィルム10である。また、図2に示されるように、本発明のダイシング・ダイボンドフィルムは、熱膨張性粘着剤層1bの表面全面ではなく、半導体ウェハ貼付け部分にのみダイボンドフィルム31が形成された構成のダイシング・ダイボンドフィルム11であってもよい。
【0018】
なお、熱膨張性粘着剤層1bは、下記のアクリル系ポリマーAと発泡剤とを含む熱膨張性粘着剤により形成され、且つ表面自由エネルギーが30mJ/m2である特性を有している。
【0019】
アクリルポリマーA:CH2=CHCOOR(式中、Rは炭素数が6〜10のアルキル基である)で表されるアクリル酸エステル50重量%以上と、ヒドロキシル基含有モノマー1重量%〜30重量%を含み且つカルボキシル基含有モノマーを含まないモノマー組成物によるアクリル系ポリマー
(ダイシングフィルム)
(基材)
基材は、ダイシング・ダイボンドフィルムの強度母体となるものである。基材としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、アクリル系樹脂、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリフェニルスルフイド、アラミド(紙)、ガラス、ガラスクロス、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、セルロース系樹脂、シリコーン樹脂、金属(箔)、紙等が挙げられる。
【0020】
また基材の材料としては、前記樹脂の架橋体等のポリマーも用いることができる。
【0021】
これらの樹脂によるプラスチックフィルムは、無延伸で用いてもよく、必要に応じて一軸又は二軸の延伸処理を施したものを用いてもよい。延伸処理等により熱収縮性を付与した樹脂シートによれば、ダイシング後にその基材を熱収縮させることにより熱膨張性粘着剤層とダイボンドフィルムとの接着面積を低下させて、半導体チップの回収の容易化を有効に図ることができる。
【0022】
基材としては、透明な樹脂からなるシート、網目状の構造を有するシート、孔が開けられたシートなどを用いることができる。
【0023】
基材の表面は、隣接する層との密着性、保持性等を高める為、慣用の表面処理、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的又は物理的処理、下塗剤(例えば、後述する粘着物質)によるコーティング処理を施すことができる。
【0024】
基材は、同種又は異種の樹脂を適宜に選択して使用することができ、必要に応じて複数種の樹脂をブレンドしたものを用いることができる。また、基材には、帯電防止能を付与する為、前記の基材上に金属、合金、これらの酸化物等からなる厚さが30Å〜500Å程度の導電性物質の蒸着層を設けることができる。なお、基材は単層あるいは2種以上の複層の形態を有していてもよい。
【0025】
基材の厚さは、特に制限されず適宜に決定できるが、一般的には5μm〜200μm程度である。
【0026】
なお、基材には、本発明の効果等を損なわない範囲で、各種添加剤(着色剤、充填剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、界面活性剤、難燃剤など)が含まれていてもよい。
【0027】
(熱膨張性粘着剤層)
熱膨張性粘着剤層は、粘着性を有しているとともに、熱膨張性とを有しており、熱膨張性粘着剤(組成物)により形成することができる。なお、熱膨張性粘着剤層に所定の熱処理を施すことにより、熱膨張性粘着剤層の形状変化が発生し、熱膨張性粘着剤層とダイボンドフィルムの粘着力が著しく低下し、該粘着力をほぼゼロにすることができ、優れたピックアップ性を付与することができる。
【0028】
熱膨張性粘着剤層を形成するための熱膨張性粘着剤は、粘着剤と、発泡剤とを含有する熱膨張性粘着剤を用いることができる。本発明では、粘着剤としては、下記のアクリル系ポリマーAを含む粘着剤を用いることが重要である。従って、熱膨張性粘着剤は、下記のアクリル系ポリマーAと発泡剤とを含む熱膨張性粘着剤である。
【0029】
アクリルポリマーA:CH2=CHCOOR(式中、Rは炭素数が6〜10のアルキル基である)で表されるアクリル酸エステル50重量%以上と、ヒドロキシル基含有モノマー1重量%〜30重量%を含み且つカルボキシル基含有モノマーを含まないモノマー組成物によるアクリルポリマー
粘着剤(又は熱膨張性粘着剤)としては、ベースポリマー又はポリマー主成分として前記アクリルポリマーAを含んでいる粘着剤(又は熱膨張性粘着剤)を用いることが重要である。アクリルポリマーAは、主モノマー成分として、化学式CH2=CHCOOR(式中、Rは炭素数6〜10のアルキル基である)で表されるアクリル酸アルキルエステル(「アクリル酸C6−10アルキルエステル」と称する場合がある)が用いられている。なお、アクリル酸アルキルエステルにおいて、アルキル基の炭素数が6未満のアクリル酸アルキルエステルを主モノマー成分として用いると、剥離力が大きくなり過ぎてピックアップ性が低下する場合がある。一方、アルキル基の炭素数が10を超えるアクリル酸アルキルエステルを主モノマー成分として用いると、ダイボンドフィルムとの接着性又は密着性が低下し、その結果、ダイシングの際にチップ飛びが発生する場合がある。
【0030】
アクリル酸C6−10アルキルエステルとしては、具体的には、例えば、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸イソデシルなどが挙げられる。アクリル酸C6−10アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が8〜9のアクリル酸アルキルエステルが特に好ましく、中でも、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチルが最適である。アクリル酸C6−10アルキルエステルは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
また、本発明では、アクリル酸C6−10アルキルエステルとしては、その含有量は、モノマー成分全量に対して50重量%(wt%)以上であることが重要であり、好ましくは70wt%〜99wt%である。アクリル酸C6−10アルキルエステルの含有量がモノマー成分全量に対して50wt%未満であると、剥離力が大きくなり過ぎ、ピックアップ性が低下する。
【0032】
アクリルポリマーAとしては、アクリル酸C6−10アルキルエステル以外のアクリル酸エステルがモノマー成分として用いられていてもよい。このようなアクリル酸エステルとしては、アクリル酸C6−10アルキルエステル以外のアクリル酸アルキルエステルの他、芳香族環を有するアクリル酸エステル(アクリル酸フェニル等のアクリル酸アリールエステルなど)、脂環式炭化水素基を有するアクリル酸エステル(アクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸シクロアルキルエステルや、アクリル酸イソボルニルなど)などが挙げられ、アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸シクロアルキルエステルが好適であり、特にアクリル酸アルキルエステルを好適に用いることができる。このようなアクリル酸エステルは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸イソペンチル等のアルキル基の炭素数が5以下のアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸ウンデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸テトラデシル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸エイコシルなどのアルキル基の炭素数が11以上(好ましくは11〜30)のアクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
【0034】
なお、アクリル酸C6−10アルキルエステルなどのアクリル酸アルキルエステルは、直鎖状のアクリル酸アルキルエステル、分岐鎖状のアクリル酸アルキルエステルの何れの形態のアクリル酸アルキルエステルであってもよい。
【0035】
本発明では、アクリルポリマーAは、前記アクリル酸C6−10アルキルエステルと共重合可能なヒドロキシル基含有モノマーを含んでいる。ヒドロキシル基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ヒドロキシル基含有モノマーは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
ヒドロキシル基含有モノマーの含有量は、モノマー成分全量に対して1wt%〜30wt%の範囲内であることが重要であり、3wt%〜10wt%の範囲内であることが好ましい。ヒドロキシル基含有モノマーの含有量がモノマー成分全量に対して1wt%未満であると、粘着剤の凝集力が低下し、ピックアップ性が低下する。その一方、ヒドロキシル基含有モノマーの含有量がモノマー成分全量に対して30wt%を超えると、粘着剤の極性が高くなり、ダイボンドフィルムとの相互作用が高くなることによりピックアップ性が低下する。
【0037】
前記アクリルポリマーAは、凝集力、耐熱性等の改質を目的として、必要に応じ、前記アクリル酸C6−10アルキルエステルやヒドロキシル基含有モノマーと共重合可能な他のモノマー成分(「共重合可能な他のモノマー成分」と称する場合がある)に対応する単位を含んでいてもよい。ただし、本発明では、カルボキシル基含有モノマーを用いないことが重要である。カルボキシル基含有モノマーが用いられていると、そのカルボキシル基とダイボンドフィルム中のエポキシ樹脂におけるエポキシ基とが反応することにより、熱膨張性粘着剤層とダイボンドフィルムとの接着性が高くなり、両者の剥離性が低下する。このようなカルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸などが挙げられる。
【0038】
共重合可能な他のモノマー成分としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸t−ブチル等のメタクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等のリン酸基含有モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体;エチレン、ブタジエン、イソプレン、イソブチレンなどのオレフィン又はジエン類;塩化ビニルなどのハロゲン原子含有単量体;フッ素(メタ)アクリレートなどのフッ素原子含有単量体;アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。
【0039】
また、共重合可能な他のモノマー成分は、1種又は2種以上を使用できる。これら共重合可能なモノマーの使用量は、全モノマー成分の40wt%以下が好ましい。
【0040】
アクリルポリマーAは、単一モノマー又は2種以上のモノマー混合物を重合に付すことにより得られる。重合は、溶液重合(例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合など)、乳化重合、塊状重合、懸濁重合、光重合(例えば、紫外線(UV)重合など)等の何れの方式で行うこともできる。清浄な被着体への汚染防止等の点から、低分子量物質の含有量が小さいのが好ましい。この点から、アクリルポリマーAの重量平均分子量は、好ましくは35万〜100万、更に好ましくは45万〜80万程度である。
【0041】
また、粘着剤(又は膨張性粘着剤)には、粘着力を調整する為、外部架橋剤を適宜に用いることもできる。外部架橋方法の具体的手段としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、メラミン系架橋剤等のいわゆる架橋剤を添加し反応させる方法が挙げられる。外部架橋剤を使用する場合、その使用量は、架橋すべきベースポリマーとのバランスにより、更には、粘着剤としての用途によって適宜決定される。外部架橋剤の使用量は、一般的には、前記ベースポリマー100重量部に対して、20重量部以下(好ましくは0.1重量部〜10重量部)である。更に、粘着剤(又は熱膨張性粘着剤)には、必要により、前記成分のほかに、従来公知の各種の粘着付与剤、老化防止剤等の添加剤が配合されていてもよい。
【0042】
また、アクリルポリマーAとしては、前記例示のヒドロキシ基含有モノマーの他、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングルコールモノビニルエーテルのヒドロキシル基含有エーテル系化合物(エーテル系のヒドロキシ基含有モノマー)等を共重合したものなどが用いられる。
【0043】
本発明では、熱膨張性粘着剤層は熱膨張性を付与するための発泡剤を含有していることが重要である。そのため、ダイシング・ダイボンドフィルムの粘着面上にダイボンドフィルムを介して被着物(特に複数個の被着物)が貼着された状態で、任意な時にダイシング・ダイボンドフィルムを少なくとも部分的に加熱して、該加熱された熱膨張性粘着剤層の部分に含有されている発泡剤を発泡及び/又は膨張させることにより、熱膨張性粘着剤層が少なくとも部分的に膨張し、この熱膨張性粘着剤層の少なくとも部分的な膨張により、該膨張した部分に対応した粘着面が凹凸状に変形して、該粘着面と被着物が貼着しているダイボンドフィルムとの接着面積が減少し、これにより、前記凹凸状に変形した粘着面と被着物が貼着しているダイボンドフィルムとの間の接着力が減少し、該粘着面に貼着しているダイボンドフィルム(被着物付きダイボンドフィルム)をダイシングフィルムから剥離させることができる。なお、熱膨張性粘着剤層を部分的に加熱させる場合、この部分的に加熱させる部分は、剥離又はピックアップさせるべき半導体チップがダイボンドフィルムを介して貼着している部分を少なくとも含む部分であればよい。
【0044】
熱膨張性粘着剤層において用いられている発泡剤としては、特に制限されず、公知の発泡剤から適宜選択することができる。発泡剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。発泡剤としては、熱膨張性微小球を好適に用いることができる。
【0045】
熱膨張性微小球としては、特に制限されず、公知の熱膨張性微小球(種々の無機系熱膨張性微小球や、有機系熱膨張性微小球など)から適宜選択することができる。熱膨張性微小球としては、混合操作が容易である観点などより、マイクロカプセル化されている発泡剤を好適に用いることができる。このような熱膨張性微小球としては、例えば、イソブタン、プロパン、ペンタンなどの加熱により容易にガス化して膨張する物質を、弾性を有する殻内に内包させた微小球などが挙げられる。前記殻は、熱溶融性物質や熱膨張により破壊する物質で形成される場合が多い。前記殻を形成する物質として、例えば、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホンなどが挙げられる。
【0046】
熱膨張性微小球は、慣用の方法、例えば、コアセルベーション法や、界面重合法などにより製造できる。なお、熱膨張性微小球には、例えば、松本油脂製薬株式会社製の商品名「マツモトマイクロスフェアー」のシリーズ(例えば、商品名「マツモトマイクロスフェアーF30」、同「マツモトマイクロスフェアーF301D」、同「マツモトマイクロスフェアーF50D」、同「マツモトマイクロスフェアーF501D」、同「マツモトマイクロスフェアーF80SD」、同「マツモトマイクロスフェアーF80VSD」など)の他、エクスパンセル社製の商品名「051DU」、同「053DU」、同「551DU」、同「551−20DU」、同「551−80DU」などの市販品を使用することができる。
【0047】
本発明では、発泡剤としては、熱膨張性微小球以外の発泡剤も用いることもできる。このような発泡剤としては、種々の無機系発泡剤や有機系発泡剤などの各種発泡剤を適宜選択して使用することができる。無機系発泡剤の代表的な例としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水酸化ホウ素ナトリウム、各種アジド類などが挙げられる。
【0048】
また、有機系発泡剤の代表的な例としては、例えば、水;トリクロロモノフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタンなどの塩フッ化アルカン系化合物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレートなどのアゾ系化合物;パラトルエンスルホニルヒドラジド、ジフェニルスルホン−3,3´−ジスルホニルヒドラジド、4,4´−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)などのヒドラジン系化合物;p−トルイレンスルホニルセミカルバジド、4,4´−オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)などのセミカルバジド系化合物;5−モルホリル−1,2,3,4−チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物;N,N´−ジニトロソペンタメチレンテロラミン、N,N´−ジメチル−N,N´−ジニトロソテレフタルアミドなどのN−ニトロソ系化合物などが挙げられる。
【0049】
本発明では、加熱処理により、熱膨張性粘着剤層の接着力を効率よく且つ安定して低下させるため、体積膨張率が5倍以上、なかでも7倍以上、特に10倍以上となるまで破裂しない適度な強度を有する発泡剤が好ましい。
【0050】
発泡剤(熱膨張性微小球など)の配合量は、熱膨張性粘着剤層の膨張倍率や接着力の低下性などに応じて適宜設定しうるが、一般には熱膨張性粘着剤層を形成するベースポリマー100重量部に対して、例えば1重量部〜150重量部(好ましくは10重量部〜130重量部、さらに好ましくは25重量部〜100重量部)である。
【0051】
なお、発泡剤として熱膨張性微小球を用いた場合、該熱膨張性微小球の粒径(平均粒子径)としては、熱膨張性粘着剤層の厚みなどに応じて適宜選択することができる。熱膨張性微小球の平均粒子径としては、例えば、100μm以下(好ましくは80μm以下、さらに好ましくは1μm〜50μm、特に1μm〜30μm)の範囲から選択することができる。なお、熱膨張性微小球の粒径の調整は、熱膨張性微小球の生成過程で行われていてもよく、生成後、分級などの手段により行われてもよい。熱膨張性微小球としては、粒径が揃えられていることが好ましい。
【0052】
本発明では、発泡剤としては、発泡開始温度(熱膨張開始温度)(T0)が80℃〜210℃の範囲のものを好適に用いることができ、好ましくは90℃〜200℃(より好ましくは95℃〜200℃、特に好ましくは100℃〜170℃)の発泡開始温度を有するものである。発泡剤の発泡開始温度が80℃より低いと、ダイシング・ダイボンドフィルムの製造時や使用時の熱により発泡剤が発泡してしまう場合があり、取り扱い性や生産性が低下する。一方、発泡剤の発泡開始温度が210℃を超える場合には、ダイシングフィルムの基材やダイボンドフィルムに過度の耐熱性が必要となり、取り扱い性、生産性やコスト面で好ましくない。なお、発泡剤の発泡開始温度(T0)は、熱膨張性粘着剤層の発泡開始温度(T0)に相当する。
【0053】
なお、発泡剤を発泡させる方法(すなわち、熱膨張性粘着剤層を熱膨張させる方法)としては、公知の加熱発泡方法から適宜選択して採用することができる。
【0054】
本発明では、熱膨張性粘着剤層は、加熱処理前の適度な接着力と加熱処理後の接着力の低下性のバランスの点から、発泡剤を含有しない形態での弾性率が23℃〜150℃において5×104Pa〜1×106Paであることが好ましく、さらに好ましくは5×104Pa〜8×105Paであり、特に5×104Pa〜5×105Paであることが好適である。熱膨張性粘着剤層の発泡剤を含有しない形態での弾性率(温度:23℃〜150℃)が5×104Pa未満であると熱膨張性が劣り、ピックアップ性が低下する場合がある。また、熱膨張性粘着剤層の発泡剤を含有しない形態での弾性率(温度:23℃〜150℃)が1×106Paより大きい場合、初期接着性が劣る場合がある。
【0055】
なお、発泡剤を含有しない形態の熱膨張性粘着剤層は、粘着剤(発泡剤は含まれていない)により形成された粘着剤層に相当する。従って、熱膨張性粘着剤層の発泡剤を含有していない形態での弾性率は、粘着剤(発泡剤は含まれていない)を用いて測定することができる。なお、熱膨張性粘着剤層は、23℃〜150℃における弾性率が5×104Pa〜1×106Paである粘着剤層を形成可能な粘着剤と、発泡剤とを含む熱膨張性粘着剤により形成することができる。
【0056】
熱膨張性粘着剤層の発泡剤を含有しない形態での弾性率は、発泡剤が添加されていない形態の熱膨張性粘着剤層(すなわち、発泡剤が含まれていない粘着剤による粘着剤層)(サンプル)を作製し、レオメトリック社製動的粘弾性測定装置「ARES」を用いて、サンプル厚さ:約1.5mmで、φ7.9mmパラレルプレートの治具を用い、剪断モードにて、周波数:1Hz、昇温速度:5℃/分、歪み:0.1%(23℃)、0.3%(150℃)にて測定し、23℃および150℃で得られた剪断貯蔵弾性率G´の値とした。
【0057】
熱膨張性粘着剤層の弾性率は、粘着剤のベースポリマーの種類、架橋剤、添加剤などを調節することによりコントロールすることができる。
【0058】
また、本発明では、前記熱膨張性粘着剤層は、ダイボンドフィルムが形成される側の表面(特に、ダイボンドフィルムが接触する部位の表面)の表面自由エネルギーが30mJ/m2以下(例えば、1mJ/m2〜30mJ/m2)であることが重要である。熱膨張性粘着剤層の表面自由エネルギーとしては、更に好ましくは15mJ/m2〜30mJ/m2であり、特に20mJ/m2〜28mJ/m2であることが好適である。熱膨張性粘着剤層の表面自由エネルギーが30mJ/m2を超える場合、熱膨張性粘着剤層とダイボンドフィルムの間の接着性が高くなり、ピックアップ性が低下する。なお、熱膨張性粘着剤層の表面自由エネルギー(mJ/m2)は、熱膨張前の熱膨張性粘着剤層に係る表面自由エネルギーである。
【0059】
なお、本発明において、熱膨張性粘着剤層の表面自由エネルギーとは、熱膨張性粘着剤層の表面に対して水およびヨウ化メチレンを用いてそれぞれ接触角[θ(rad)]を測定し、この測定値と接触角測定液体の表面自由エネルギー値として文献より既知である値{水[分散成分(γLd):21.8(mJ/m2)、極性成分(γLp):51.0(mJ/m2)]、ヨウ化メチレン[分散成分(γLd):49.5(mJ/m2)、極性成分(γLp):1.3(mJ/m2)]}と、下記の式(1a)〜(1c)とを利用して得られる二つの式を連立一次方程式として解くことにより、求められる表面自由エネルギー値(γS)を意味するものである。
【0060】
γS=γSd+γSp (1a)
γL=γLd+γLp (1b)
(1+cosθ)γL=2(γSdγLd1/2+2(γSpγLp1/2 (1c)
ただし、式(1a)〜(1c)中の各記号は、それぞれ以下の通りである。
【0061】
・θ:水又はヨウ化メチレンの液滴より測定された接触角(rad)
・γS:粘着剤層(熱膨張性粘着剤層)の表面自由エネルギー(mJ/m2
・γSd:粘着剤層(熱膨張性粘着剤層)の表面自由エネルギーにおける分散成分(mJ/m2
・γSp:粘着剤層(熱膨張性粘着剤層)の表面自由エネルギーにおける極性成分(mJ/m2
・γL:水又はヨウ化メチレンの表面自由エネルギー(mJ/m2
・γLd:水又はヨウ化メチレンの表面自由エネルギーにおける分散成分(mJ/m2
・γLp:水又はヨウ化メチレンの表面自由エネルギーにおける極性成分(mJ/m2
また、熱膨張性粘着剤層の表面に対する水およびヨウ化メチレンの接触角の測定は、JIS Z 8703に記載されている試験場所(温度:23±2℃,湿度:50±5%RH)の環境下において、熱膨張性粘着剤層表面に、約1μLの水(蒸留水)またはヨウ化メチレンの液滴を滴下し、表面接触角計「CA−X」(FACE社製)を用いて、滴下30秒後に3点法より接触角を測定した。
【0062】
なお、熱膨張性粘着剤層の表面自由エネルギーは、粘着剤のベースポリマーの種類、添加剤などを調節することによりコントロールすることができる。
【0063】
熱膨張性粘着剤層は、例えば、粘着剤(感圧接着剤)と、発泡剤(熱膨張性微小球など)と、必要に応じて溶媒やその他の添加剤などとを混合して、シート状の層に形成する慣用の方法を利用し形成することができる。具体的には、例えば、粘着剤、発泡剤(熱膨張性微小球など)、および必要に応じて溶媒やその他の添加剤を含む混合物を、基材や、後述するゴム状有機弾性中間層上に塗布する方法、適当なセパレータ(剥離紙など)上に前記混合物を塗布して熱膨張性粘着剤層を形成し、これを基材又はゴム状有機弾性中間層上に転写(移着)する方法などにより、熱膨張性粘着剤層を形成することができる。
【0064】
熱膨張性粘着剤層の厚さは、特に制限されず、接着力の低減性などにより適宜に選択することができ、例えば、5μm〜300μm(好ましくは20μm〜150μm)程度である。但し、発泡剤として熱膨張性微小球が用いられている場合、熱膨張性粘着剤層の厚さは、含まれている熱膨張性微小球の最大粒径よりも厚いことが重要である。熱膨張性粘着剤層の厚さが薄すぎると、熱膨張性微小球の凹凸により表面平滑性が損なわれ、加熱前(未発泡状態)の接着性が低下する。また、加熱処理による熱膨張性粘着剤層の変形度が小さく、接着力が円滑に低下しにくくなる。一方、熱膨張性粘着剤層の厚さが厚すぎると、加熱処理による膨張乃至発泡後に、熱膨張性粘着剤層に凝集破壊が生じやすくなり、被着物に糊残りが発生する場合がある。
【0065】
なお、熱膨張性粘着剤層は単層、複層の何れであってもよい。
【0066】
本発明では、熱膨張性粘着剤層には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤(例えば、着色剤、増粘剤、増量剤、充填剤、粘着付与剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、界面活性剤、架橋剤など)が含まれていても良い。
【0067】
本発明では、熱膨張性粘着剤層は、加熱により熱膨張させることができる。加熱処理方法としては、例えば、ホットプレート、熱風乾燥機、近赤外線ランプ、エアードライヤーなどの適宜な加熱手段を利用して行うことができる。加熱処理時の加熱温度は、熱膨張性粘着剤層中の発泡剤(熱膨張性微小球など)の発泡開始温度(熱膨張開始温度)以上であればよいが、加熱処理の条件は、発泡剤(熱膨張性微小球など)の種類等による接着面積の減少性、基材、ダイボンドフィルム、半導体ウエハ等の耐熱性、加熱方法(熱容量、加熱手段等)などにより適宜設定できる。一般的な加熱処理条件としては、温度100℃〜250℃で、1秒間〜90秒間(ホットプレートなど)または5分間〜15分間(熱風乾燥機など)である。なお、加熱処理は使用目的に応じて適宜な段階で行うことができる。また、加熱処理時の熱源としては、赤外線ランプや加熱水を用いることができる場合もある。
【0068】
(中間層)
本発明では、基材と熱膨張性粘着剤層の間に中間層が設けられていても良い。このような中間層としては、密着力の向上を目的とした下塗り剤のコーティング層などが挙げられる。また、下塗り剤のコーティング層以外の中間層としては、例えば、良好な変形性の付与を目的とした層、被着物(半導体ウェハなど)への接着面積の増大を目的とした層、接着力の向上を目的とした層、被着物(半導体ウェハなど)の表面形状に良好に追従させることを目的とした層、加熱による接着力低減の処理性の向上を目的とした層、加熱後の被着物(半導体ウエハなど)よりの剥離性の向上を目的とした層などが挙げられる。
【0069】
特に、熱膨張性粘着剤層を有するダイシングフィルムの変形性の付与や加熱後の剥離性の向上などの点より、基材と熱膨張性粘着剤層との間にゴム状有機弾性中間層が設けられていることが好ましい。このように、ゴム状有機弾性中間層を設けることにより、ダイシング・ダイボンドフィルムを被着物に接着する際に、前記ダイシング・ダイボンドフィルムの表面を被着物の表面形状に良好に追従させて、接着面積を大きくすることができ、また、ダイシングフィルムから被着物付きダイボンドフィルムを加熱剥離させる際に、熱膨張性粘着剤層の加熱膨張を高度に(精度よく)コントロールし、熱膨張性粘着剤層を厚さ方向へ優先的に且つ均一に膨張させることができる。すなわち、ゴム状有機弾性中間層は、ダイシング・ダイボンドフィルムを被着物に接着する際にその表面が被着物の表面形状に追従して大きい接着面積を提供する働きと、ダイシングより被着物付きダイボンドフィルムを剥離するために熱膨張性粘着剤層を加熱して発泡及び/又は膨張させる際にダイシングフィルムの面方向における発泡及び/又は膨張の拘束を少なくして熱膨張性粘着剤層が三次元的構造変化することによるウネリ構造形成を助長する働きをすることができる。
【0070】
なお、ゴム状有機弾性中間層は、前述のように、必要に応じて設けられる層であり、必ずしも設けられていなくてもよい。ゴム状有機弾性中間層としては、被着物の加工時の固定性及び加熱後の剥離性を高めるためには、設けられていることが好ましい。
【0071】
ゴム状有機弾性中間層は、熱膨張性粘着剤層の基材側の面に、熱膨張性粘着剤層に重畳させた形態で設けることが好ましい。なお、基材と熱膨張性粘着剤層との間の中間層以外の層としても設けることができる。
【0072】
なお、ゴム状有機弾性中間層は、基材の片面又は両面に介在させることができる。
【0073】
ゴム状有機弾性中間層は、例えば、ASTM D−2240に基づくD型シュアーD型硬度が、50以下、特に40以下の天然ゴム、合成ゴム又はゴム弾性を有する合成樹脂により形成することが好ましい。なお、ポリ塩化ビニルなどのように本質的には硬質系ポリマーであっても、可塑剤や柔軟剤等の配合剤との組み合わせによりゴム弾性が発現しうる。このような組成物も、前記ゴム状有機弾性中間層の構成材料として使用できる。
【0074】
ゴム状有機弾性中間層は、例えば、前記天然ゴム、合成ゴム又はゴム弾性を有する合成樹脂などのゴム状有機弾性層形成材を含むコーティング液を基材上に塗布する方式(コーティング法)、前記ゴム状有機弾性層形成材からなるフィルム、又は予め1層以上の熱膨張性粘着剤層上に前記ゴム状有機弾性層形成材からなる層を形成した積層フィルムを基材と接着する方式(ドライラミネート法)、基材の構成材料を含む樹脂組成物と前記ゴム状有機弾性層形成材を含む樹脂組成物とを共押出しする方式(共押出し法)などの形成方法により形成することができる。
【0075】
なお、ゴム状有機弾性中間層は、天然ゴムや合成ゴム又はゴム弾性を有する合成樹脂を主成分とする粘着性物質で形成されていてもよく、また、かかる成分を主体とする発泡フィルム等で形成されていてもよい。発泡は、慣用の方法、例えば、機械的な攪拌による方法、反応生成ガスを利用する方法、発泡剤を使用する方法、可溶性物質を除去する方法、スプレーによる方法、シンタクチックフォームを形成する方法、焼結法などにより行うことができる。
【0076】
ゴム状有機弾性中間層等の中間層の厚さは、例えば、5μm〜300μm、好ましくは20μm〜150μm程度である。なお、中間層が、例えば、ゴム状有機弾性中間層である場合、ゴム状有機弾性中間層の厚さが薄すぎると、加熱発泡後の3次元的構造変化を形成することができず、剥離性が悪化する場合がある。
【0077】
ゴム状有機弾性中間層等の中間層は単層であってもよく、2以上の層で構成されていてもよい。また、ゴム状有機弾性中間層等の中間層としては、活性エネルギー線の透過を阻害しないものを使用することが好ましい。
【0078】
なお、中間層には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤(例えば、着色剤、増粘剤、増量剤、充填剤、粘着付与剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、界面活性剤、架橋剤など)が含まれていても良い。
【0079】
(ダイボンドフィルム)
ダイボンドフィルムは、該ダイボンドフィルム上に圧着されている半導体ウエハの加工(例えば、チップ状に切断する切断加工など)の際には、半導体ウエハに密着して支持し、半導体ウエハの加工体(例えば、チップ状に切断加工される半導体チップなど)をマウントする際には、該半導体ウエハの加工体と、各種キャリアとの接着層として作用する機能を有していることが重要である。特に、ダイボンドフィルムとしては、半導体ウエハの加工(例えば、切断加工などの加工)の際に、切断片を飛散させない接着性を有していることが重要である。
【0080】
本発明では、ダイボンドフィルムは、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物により構成されている。該樹脂組成物において、エポキシ樹脂の割合としては、ポリマー成分全量に対して5重量%以上(好ましくは7重量%以上、さらに好ましくは9重量%以上)の範囲から適宜選択することができる。なお、エポキシ樹脂の割合の上限としては、特に制限されず、ポリマー成分全量に対して100重量%以下であってもよいが、好ましくは50重量%以下(さらに好ましくは40重量%以下)である。
【0081】
エポキシ樹脂は、半導体素子を腐食させるイオン性不純物等の含有が少ない点で好ましい。エポキシ樹脂としては、接着剤組成物として一般に用いられるものであれば特に限定は無く、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオンレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂等の二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂、又はヒダントイン型エポキシ樹脂、トリスグリシジルイソシアヌレート型エポキシ樹脂若しくはグリシジルアミン型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂は単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0082】
エポキシ樹脂としては、前記例示のうちノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂が特に好ましい。これらのエポキシ樹脂は、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み、耐熱性等に優れるからである。
【0083】
また、ダイボンドフィルムは、適宜必要に応じてその他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を併用させることができる。前記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。また、エポキシ樹脂の硬化剤としてはフェノール樹脂が好ましい。
【0084】
更に、前記フェノール樹脂は、前記エポキシ樹脂の硬化剤として作用するものであり、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらのフェノール樹脂のうちフェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂が特に好ましい。半導体装置の接続信頼性を向上させることができるからである。
【0085】
前記エポキシ樹脂とフェノール樹脂の配合割合は、例えば、前記エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たりフェノール樹脂中の水酸基が0.5当量〜2.0当量になるように配合することが好適である。より好適なのは、0.8当量〜1.2当量である。即ち、両者の配合割合が前記範囲を外れると、十分な硬化反応が進まず、エポキシ樹脂硬化物の特性が劣化し易くなるからである。
【0086】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリブタジエン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロン等のポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、PETやPBT等の飽和ポリエステル樹脂、ポリアミドイミド樹脂、又はフッ素樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらの熱可塑性樹脂のうち、イオン性不純物が少なく耐熱性が高く、半導体素子の信頼性を確保できるアクリル樹脂が特に好ましい。
【0087】
前記アクリル樹脂としては、特に限定されるものではなく、炭素数30以下、特に炭素数4〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基を有するアクリル酸又はメタクリル酸のエステルの1種又は2種以上を成分とする重合体等が挙げられる。前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0088】
また、前記アクリル樹脂を形成するための他のモノマー(炭素数30以下のアクリル酸又はメタクリル酸のエステル以外のモノマー)としては、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸若しくはクロトン酸等の様なカルボキシル基含有モノマー、無水マレイン酸若しくは無水イタコン酸等の様な酸無水物モノマー、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル若しくは(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート等の様なヒドロキシル基含有モノマー、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート若しくは(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等の様なスルホン酸基含有モノマー、又は2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等の様な燐酸基含有モノマーなどが挙げられる。
【0089】
本発明では、熱可塑性樹脂(特にアクリル樹脂)は、エポキシ樹脂を含むポリマー成分全量に対して90重量%未満(例えば、1重量%〜90重量%)の割合で用いることができる。アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂の割合としては、ポリマー成分全量に対して20重量%〜85重量%であることが好ましく、さらに好ましくは40重量%〜80重量%である。
【0090】
ダイボンドフィルムの接着剤層(エポキシ樹脂を含む樹脂組成物による接着剤層)には、予めある程度架橋をさせておく為、作製に際し、重合体の分子鎖末端の官能基等と反応する多官能性化合物を架橋剤として添加させておくのが好ましい。これにより、高温下での接着特性を向上させ、耐熱性の改善を図る。
【0091】
なお、ダイボンドフィルムの接着剤層(エポキシ樹脂を含む樹脂組成物による接着剤層)には、必要に応じて他の添加剤を適宜に配合することができる。他の添加剤としては、例えば、難燃剤、シランカップリング剤、イオントラップ剤の他、着色剤、増量剤、充填剤、老化防止剤、酸化防止剤、界面活性剤、架橋剤などが挙げられる。前記難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。難燃剤は、単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。前記シランカップリング剤としては、例えば、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。前記イオントラップ剤としては、例えばハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等が挙げられる。イオントラップ剤は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0092】
ダイボンドフィルムは、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物により形成されていればよく、例えば、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物により形成された接着剤層(ダイ接着層)の単層のみからなる構成とすることができる。また、ダイボンドフィルムは、エポキシ樹脂の他、ガラス転移温度の異なる熱可塑性樹脂、熱硬化温度の異なる熱硬化性樹脂を適宜に組み合わせて、2層以上の多層構造にしてもよい。
【0093】
尚、半導体ウェハのダイシング工程では切削水を使用することから、ダイボンドフィルムが吸湿して、常態以上の含水率になる場合がある。この様な高含水率のまま、基板等に接着させると、アフターキュアの段階で接着界面に水蒸気が溜まり、浮きが発生する場合がある。従って、ダイボンドフィルムとしては、透湿性の高いコア材料をダイ接着用接着剤層により挟んだ構成とすることにより、アフターキュアの段階では、水蒸気がフィルムを通じて拡散して、かかる問題を回避することが可能となる。かかる観点から、ダイボンドフィルムはコア材料の片面又は両面に接着剤層を形成した多層構造にしてもよい。
【0094】
前記コア材料としては、フィルム(例えばポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等)、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維で強化された樹脂基板、シリコン基板又はガラス基板等が挙げられる。
【0095】
ダイボンドフィルムは、ダイシングフィルムの熱膨張性粘着剤層の発泡開始温度(T0)〜T0+20℃における弾性率(特に、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物により形成された接着剤層の弾性率)が1×105Pa〜1×1010Paであることが好ましい。ダイボンドフィルムの弾性率(特に、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物により形成された接着剤層の弾性率)は、T0〜T0+20℃において、1×105Pa〜1×108Paがさらに好ましく、特に1×105Pa〜1×107Paであることが好適である。ダイボンドフィルム(特に、接着剤層)の弾性率(温度:T0〜T0+20℃)が1×105Pa未満であると、熱膨張性粘着剤層を加熱処理し発泡剥離する時に、熱膨張による粘着剤表面形状変化にダイボンドフィルムが追随し剥離力の低下が阻害される場合がある。なお、ダイボンドフィルムの弾性率(Pa)は、熱硬化により接着力を発現させる前のダイボンドフィルムに係る弾性率である。
【0096】
また、「(T0+20℃)におけるダイボンドフィルムの弾性率」/「(T0+20℃)における熱膨張性粘着剤層の弾性率」(「ダイボンドフィルムの弾性率/熱膨張性粘着剤層の弾性率(T0+20℃)」と称する場合がある)が1〜200000であることが好ましい。ダイボンドフィルムの弾性率/熱膨張性粘着剤層の弾性率(T0+20℃)としては、好ましくは1〜2000(更に好ましくは1〜150)である。ダイボンドフィルムの弾性率/熱膨張性粘着剤層の弾性率(T0+20℃)が、1未満であると熱膨張による熱膨張性粘着剤層の表面形状変化にダイボンドフィルムが追随しピックアップ性が低下する場合がある。また、ダイボンドフィルムの弾性率/熱膨張性粘着剤層の弾性率(T0+20℃)が、200000より大きいと熱膨張による熱膨張性粘着剤層の表面形状変化が不十分となる場合がある。
【0097】
ダイボンドフィルムの弾性率は、ダイシングフィルムに積層させずに、ダイボンドフィルムを作製し、レオメトリック社製の動的粘弾性測定装置「Solid Analyzer RS A2」を用いて、引張モードにて、サンプル幅:10mm、サンプル長さ:22.5mm、サンプル厚さ:0.2mmで、周波数:1Hz、昇温速度:10℃/分、窒素雰囲気下、所定の温度(T0℃、(T0+20)℃)にて測定し、得られた引張貯蔵弾性率E´の値とした。
【0098】
なお、熱膨張性粘着剤層の発泡開始温度(T0)は、加熱処理により、発泡剤(熱膨張性微小球など)を含有する熱膨張性粘着剤層による接着力を加熱前の粘着力の10%以下に低下させることができる最低の加熱処理温度のことを意味している。
【0099】
従って、前記発泡開始温度は、発泡剤(熱膨張性微小球など)を含有する熱膨張性粘着剤層による接着力(粘着力)を加熱前の接着力の10%以下に低下させることができる最低の加熱処理温度を測定することにより、求めることができる。具体的には、ダイシングフィルムの発泡剤(熱膨張性微小球など)が含まれている熱膨張性粘着剤層の表面に、幅が20mmで且つ厚みが25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム[商品名「ルミラーS10#25」(東レ社製);「PETフィルム」と称する場合がある]を、ハンドローラで気泡が混入しないように貼り合わせて、試験片を作製する。この試験片を、PETフィルムを貼り合わせてから30分後に、PETフィルムを180°の剥離角度で引き剥がして、その際の粘着力(測定温度:23℃、引張速度:300mm/min、剥離角度:180°)を測定し、該粘着力を「初期粘着力」とする。また、前記方法にて作製した試験片を、各温度(加熱処理温度)に設定された熱循環式乾燥機に1分間入れて、熱循環式乾燥機から取り出した後、23℃に2時間放置させ、その後、PETフィルムを180°の剥離角度で引き剥がして、その際の粘着力(測定温度:23℃、引張速度:300mm/min、剥離角度:180°)を測定し、該粘着力を「加熱処理後の粘着力」とする。そして、加熱処理後の粘着力が、初期粘着力の10%以下になる最低の加熱処理温度を発泡開始温度(T0)とする。
【0100】
なお、ダイボンドフィルムの弾性率は、ダイボンドフィルム又は接着剤層のベースポリマーの種類や、架橋乃至硬化の状態などを調節することによりコントロールすることができる。
【0101】
ダイボンドフィルムの厚さは特に限定されないが、例えば、5μm〜100μm程度、好ましくは5μm〜50μm程度である。
【0102】
前記ダイシング・ダイボンドフィルムのダイボンドフィルムは、セパレータ(剥離ライナー)により保護されていることが好ましい(図示せず)。セパレータは、実用に供するまでダイボンドフィルムを保護する保護材としての機能を有している。また、セパレータは、更に、熱膨張性粘着剤層にダイボンドフィルムを転写する際の支持基材として用いることができる。セパレータはダイシング・ダイボンドフィルムのダイボンドフィルム上にワークを貼着する際に剥がされる。セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンや、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルム(ポリエチレンテレフタレートなど)や紙等も使用可能である。なお、セパレータは従来公知の方法により形成することができる。また、セパレータの厚さ等も特に制限されない。
【0103】
なお、本発明では、ダイシング・ダイボンドフィルムには、帯電防止能を持たせることができる。これにより、その接着時及び剥離時等に於ける静電気の発生やそれによるワーク(半導体ウェハ等)の帯電で回路が破壊されること等を防止することができる。帯電防止能の付与は、基材、熱膨張性粘着剤層乃至ダイボンドフィルムへ帯電防止剤や導電性物質を添加する方法、基材への電荷移動錯体や金属膜等からなる導電層の付設等、適宜な方式で行うことができる。これらの方式としては、半導体ウェハを変質させるおそれのある不純物イオンが発生しにくい方式が好ましい。導電性の付与、熱伝導性の向上等を目的として配合される導電性物質(導電フィラー)としては、銀、アルミニウム、金、銅、ニッケル、導電性合金等の球状、針状、フレーク状の金属粉、アルミナ等の金属酸化物、アモルファスカーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。ただし、前記ダイボンドフィルムは、非導電性であることが、電気的にリークしないようにできる点から好ましい。
【0104】
本発明のダイシング・ダイボンドフィルムは、シート状、テープ状などの適宜な形態を有することができる。
【0105】
(ダイシング・ダイボンドフィルムの製造方法)
本発明のダイシング・ダイボンドフィルムの製造方法について、ダイシング・ダイボンドフィルム10を例にして説明する。先ず、基材1aは、従来公知の製膜方法により製膜することができる。当該製膜方法としては、例えばカレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法等が例示できる。
【0106】
次に、基材1a上に熱膨張性粘着剤を含む熱膨張性粘着剤組成物を塗布し、乾燥させて(必要に応じて加熱架橋させて)熱膨張性粘着剤層1bを形成する。塗布方式としては、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。なお、熱膨張性粘着剤組成物の塗布は、直接基材1a上に行って、基材1a上に熱膨張性粘着剤層1bを形成してもよく、また、熱膨張性粘着剤組成物を表面に剥離処理を行った剥離紙等に塗布した後、基材1aに転写させて、基材1a上に熱膨張性粘着剤層1bを形成してもよい。
【0107】
一方、ダイボンドフィルム3を形成する為の形成材料を剥離紙上に所定厚みとなる様に塗布し、更に所定条件下で乾燥して塗布層を形成する。この塗布層を前記熱膨張性粘着剤層1b上に転写することにより、ダイボンドフィルム3を熱膨張性粘着剤層1b上に形成する。なお、前記熱膨張性粘着剤層1b上に、ダイボンドフィルム3を形成する為の形成材料を直接塗布した後、所定条件下で乾燥することによっても、ダイボンドフィルム3を熱膨張性粘着剤層1b上に形成することができる。以上により、本発明に係るダイシング・ダイボンドフィルム10を得ることができる。
【0108】
(半導体ウェハ)
半導体ウェハ(半導体ウエハ)としては、公知乃至慣用の半導体ウェハであれば特に制限されず、各種素材の半導体ウェハから適宜選択して用いることができる。本発明では、半導体ウェハとしては、シリコンウエハを好適に用いることができる。
【0109】
(半導体装置の製造方法)
本発明の半導体装置の製造方法は、前記ダイシング・ダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法であれば特に制限されない。例えば、本発明のダイシング・ダイボンドフィルムを、ダイボンドフィルム上に任意に設けられたセパレータを適宜に剥離して、次の様に使用することにより、半導体装置を製造することができる。なお、以下では、図3を参照しながらダイシング・ダイボンドフィルム11を用いた場合を例にして説明する。先ず、ダイシング・ダイボンドフィルム11におけるダイボンドフィルム31上に半導体ウェハ4を圧着し、これを接着保持させて固定する(マウント工程)。本工程は、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。
【0110】
次に、半導体ウェハ4のダイシングを行う。これにより、半導体ウェハ4を所定のサイズに切断して個片化(小片化)し、半導体チップ5を製造する。ダイシングは、例えば半導体ウェハ4の回路面側から常法に従い行われる。また、本工程では、例えば、ダイシング・ダイボンドフィルム11まで切込みを行なうフルカットと呼ばれる切断方式等を採用できる。本工程で用いるダイシング装置としては特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。また、半導体ウェハ4は、ダイシング・ダイボンドフィルム11により接着固定されているので、チップ欠けやチップ飛びを抑制できると共に、半導体ウェハ4の破損も抑制できる。なお、ダイボンドフィルムがエポキシ樹脂を含む樹脂組成物により形成されているため、ダイシングにより切断されても、その切断面においてダイボンドフィルムの接着剤層の糊はみ出しが生じるのが抑制又は防止されている。その結果、切断面同士が再付着(ブロッキング)することを抑制又は防止することができ、後述のピックアップを一層良好に行うことができる。
【0111】
なお、ダイシング・ダイボンドフィルムのエキスパンドを行う場合、該エキスパンドは従来公知のエキスパンド装置を用いて行うことができる。エキスパンド装置は、ダイシングリングを介してダイシング・ダイボンドフィルムを下方へ押し下げることが可能なドーナッツ状の外リングと、外リングよりも径が小さくダイシング・ダイボンドフィルムを支持する内リングとを有している。このエキスパンド工程により、後述のピックアップ工程において、隣り合う半導体チップ同士が接触して破損するのを防ぐことが出来る。
【0112】
ダイシング・ダイボンドフィルム11に接着固定された半導体チップ5を回収する為に、半導体チップ5のピックアップを行う。ピックアップの方法としては特に限定されず、従来公知の種々の方法を採用できる。例えば、個々の半導体チップ5をダイシング・ダイボンドフィルム10の基材1a側からニードルによって突き上げ、突き上げられた半導体チップ5をピックアップ装置によってピックアップする方法等が挙げられる。
【0113】
ここでピックアップは、熱膨張性粘着剤層1bを所定の熱処理を行って熱膨張させた後に行う。これにより、熱膨張性粘着剤層1bのダイボンドフィルム31に対する粘着力(接着力)が低下し、半導体チップ5の剥離が容易になる。その結果、半導体チップ5を損傷させることなくピックアップさせることが可能となる。なお、加熱処理で使用可能な加熱装置としては、特に制限されず、前記に例示の加熱装置(ホットプレート、熱風乾燥機、近赤外線ランプ、エアードライヤー等)などが挙げられる。
【0114】
ピックアップした半導体チップ5は、ダイボンドフィルム31を介して被着体6に接着固定する(ダイボンド)。被着体6はヒートブロック9上に載置されている。被着体6としては、リードフレーム、TABフィルム、基板又は別途作製した半導体チップ等が挙げられる。被着体6は、例えば、容易に変形されるような変形型被着体であってもよく、変形することが困難である非変形型被着体(半導体ウェハ等)であってもよい。
【0115】
前記基板としては、従来公知のものを使用することができる。また、前記リードフレームとしては、Cuリードフレーム、42Alloyリードフレーム等の金属リードフレームやガラスエポキシ、BT(ビスマレイミド−トリアジン)、ポリイミド等からなる有機基板を使用することができる。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、半導体素子をマウントし、半導体素子と電気的に接続して使用可能な回路基板も含まれる。
【0116】
ダイボンドフィルム31は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物により形成されているため、加熱硬化により接着力を高め、半導体チップ5をダイボンドフィルム31を介して被着体6に接着固定し、耐熱強度を向上させることができる。尚、半導体ウェハ貼り付け部分31aを介して半導体チップ5が基板等に接着固定されたものは、リフロー工程に供することができる。その後、基板の端子部(インナーリード)の先端と半導体チップ5上の電極パッド(図示しない)とをボンディングワイヤー7で電気的に接続するワイヤーボンディングを行い、更に半導体チップ5を封止樹脂8で封止し、当該封止樹脂8をアフターキュアする。これにより、本実施の形態に係る半導体装置が作製される。
【実施例】
【0117】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。また、各例中、部は特記がない限りいずれも重量基準である。
【0118】
(実施例1)
<ダイシングフィルムの作製>
冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌装置を備えた反応容器に、アクリル酸2−エチルヘキシル(「2EHA」と称する場合がある):95部、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル(「HEA」と称する場合がある):5部及びトルエン:65部を入れ、窒素気流中で61℃にて6時間重合処理をしてアクリル系ポリマーXを得た。
【0119】
次に、アクリル系ポリマーX:100部に対し、ポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン工業株式会社製):3部、及び発泡剤としての熱膨張性微小球(商品名「マイクロスフェアF−50D」松本油脂製薬株式会社製;発泡開始温度:120℃):35部を加えて、熱膨張性粘着剤の粘着剤溶液を調製した。
【0120】
前記で調製した粘着剤溶液を、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)に塗布し、80℃で3分間加熱架橋して厚さ40μmの粘着剤層(熱膨張性粘着剤層)を形成し、ダイシングフィルムとしての熱膨張性粘着シートを作製した。
【0121】
<ダイボンドフィルムの作製>
アクリル酸エチル−メチルメタクリレートを主成分とするアクリル酸エステル系ポリマー(商品名「パラクロンW−197CM」根上工業株式会社製):100部に対して、エポキシ樹脂1(商品名「エピコート1004」ジャパンエポキシレジン(JER)株式会社製):59部、エポキシ樹脂2(商品名「エピコート827」ジャパンエポキシレジン(JER)株式会社製):53部、フェノール樹脂(商品名「ミレックスXLC−4L」三井化学株式会社製):121部、球状シリカ(商品名「SO−25R」株式会社アドマテックス製):222部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分の濃度が23.6重量%となる接着剤組成物の溶液を調製した。
【0122】
この接着剤組成物の溶液を、剥離ライナー(セパレータ)としてシリコーン離型処理した厚さが38μmのPETフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ25μmのダイボンドフィルムAを作製した。更に、ダイボンドフィルムAを前述のダイシングフィルムにおける活性エネルギー線硬化型熱膨張性粘着剤層側に転写して、本実施例1に係るダイシング・ダイボンドフィルムを得た。
【0123】
(実施例2)
<ダイボンドフィルムの作製>
アクリル酸エチル−メチルメタクリレートを主成分とするアクリル酸エステル系ポリマー(商品名「パラクロンW−197CM」根上工業株式会社製):100部に対して、エポキシ樹脂1(商品名「エピコート1004」JER株式会社製):102部、エポキシ樹脂2(商品名「エピコート827」JER株式会社製):13部、フェノール樹脂(商品名「ミレックスXLC−4L」三井化学株式会社製):119部、球状シリカ(商品名「SO−25R」株式会社アドマテックス製):222部をメチルエチルケトンに溶解して、固形分の濃度が23.6重量%となる接着剤組成物の溶液を調製した。
【0124】
この接着剤組成物の溶液を、剥離ライナー(セパレータ)としてシリコーン離型処理した厚さが38μmのPETフィルムからなる離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ25μmのダイボンドフィルムBを作製した。
【0125】
ダイボンドフィルムAの代わりにダイボンドフィルムBを使用したこと以外は、前記実施例1と同様にしてダイシング・ダイボンドフィルムを作製した。
【0126】
(実施例3〜4)
各実施例3〜4については、ダイシングフィルムAを、表1に示す組成及び含有量によるダイシングフィルムに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてダイシング・ダイボンドフィルムを作製した。
【0127】
(比較例1〜5)
各比較例1〜5については、ダイシングフィルムAを、表1に示す組成及び含有量によるダイシングフィルムに変更したこと以外は、実施例1と同様にしてダイシング・ダイボンドフィルムを作製した。
【0128】
(比較例6)
比較例6については、ダイシングフィルムの粘着剤に、テルペンフェノール系樹脂(商品名「PR−12603」住友ベークライト株式会社製):20部を加えたこと以外は、実施例1と同様にしてダイシング・ダイボンドフィルムを作製した。
【0129】
【表1】

なお、表1中に記載されている略称の意味は次の通りである。
【0130】
2EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
BA:アクリル酸n−ブチル
AA:アクリル酸
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
C/L:ポリイソシアネート化合物(商品名「コロネートL」日本ポリウレタン工業株式会社製)
スミライト:テルペンフェノール系樹脂(商品名「PR−12603」住友ベークライト株式会社製)
(評価)
実施例1〜9及び比較例1〜4に係るダイシング・ダイボンドフィルムについて、ダイシングフィルム中の粘着剤層の表面自由エネルギー、ダイシングフィルム中の粘着剤層に関する弾性率、ダイボンドフィルムの弾性率、ダイボンドフィルムの弾性率/ダイシングフィルム中の粘着剤層に関する弾性率(T0+20℃)、ダイシング性、ピックアップ性を、下記の評価又は測定方法により評価又は測定した。評価又は測定結果は表1に併記した。
【0131】
<表面自由エネルギーの評価方法>
JIS Z 8703に記載されている試験場所(温度:23±2℃,湿度:50±5%RH)の環境下において、ダイシングフィルム中の粘着剤層(熱膨張性粘着剤層(実施例1〜4、比較例1〜4、比較例6)の場合は、熱膨張前の熱膨張性粘着剤層)の表面に、約1μLの水(蒸留水)またはヨウ化メチレンの液滴を滴下し、表面接触角計「CA−X」(FACE社製)を用いて、滴下30秒後に3点法より接触角[θ(rad)]を測定した。得られた2つの接触角と、水、ヨウ化メチレンの表面自由エネルギー値として文献より既知である値と、下記の式(1a)〜(1c)とを利用して得られる二つの式を連立一次方程式として解くことにより、ダイシングフィルム中の熱膨張性粘着剤層の表面自由エネルギー(γS)を算出した。
【0132】
γS=γSd+γSp (1a)
γL=γLd+γLp (1b)
(1+cosθ)γL=2(γSdγLd1/2+2(γSpγLp1/2 (1c)
ただし、式(1a)〜(1c)中の各記号は、それぞれ以下の通りである。
【0133】
・θ:水又はヨウ化メチレンの液滴より測定された接触角(rad)
・γS:粘着剤層の表面自由エネルギー(mJ/m2
・γSd:粘着剤層の表面自由エネルギーにおける分散成分(mJ/m2
・γSp:粘着剤層の表面自由エネルギーにおける極性成分(mJ/m2
・γL:水又はヨウ化メチレンの表面自由エネルギー(mJ/m2
・γLd:水又はヨウ化メチレンの表面自由エネルギーにおける分散成分(mJ/m2
・γLp:水又はヨウ化メチレンの表面自由エネルギーにおける極性成分(mJ/m2
・水(蒸留水)の表面自由エネルギー値として既知である値:[分散成分(γLd):21.8(mJ/m2)、極性成分(γLp):51.0(mJ/m2)]
・ヨウ化メチレンの表面自由エネルギー値として既知である値:[分散成分(γLd):49.5(mJ/m2)、極性成分(γLp):1.3(mJ/m2)]
<ダイシングフィルムの粘着剤層の弾性率の測定方法>
ダイシングフィルム中の粘着剤層に関する弾性率は、発泡剤を含有していないこと以外は同様の粘着剤層(サンプル)を作製して評価又は測定を行った。弾性率の測定は、レオメトリック社製の動的粘弾性測定装置「ARES」を用いて、サンプル厚さ:約1.5mmで、φ7.9mmパラレルプレート[素材:ステンレス(SUS316)]の治具を用い、剪断モードにて、周波数:1Hz、昇温速度:5℃/分、歪み:0.1%(23℃)、0.3%(150℃)にて測定し、23℃および150℃で得られた剪断貯蔵弾性率G´の値とした。
【0134】
<ダイボンドフィルムの弾性率の測定方法>
ダイボンドフィルムの弾性率は、ダイシングフィルムに積層させずに、ダイボンドフィルムを作製し、レオメトリック社製の動的粘弾性測定装置「Solid Analyzer RS A2」を用いて、引張モードにて、サンプル幅:10mm、サンプル長さ:22.5mm、サンプル厚さ:0.2mmで、周波数:1Hz、昇温速度:10℃/分、窒素雰囲気下、所定の温度(T0℃、T0+20℃)にて測定し、得られた引張貯蔵弾性率E´の値とした。
【0135】
なお、T0は以下の如く決定した。
【0136】
ダイシングフィルムの粘着剤層(熱膨張性粘着剤層)の表面に、厚み25μmのPETフィルムを、ハンドローラで気泡が混入しないように貼り合わせて、試験片を作製する。この試験片を、PETフィルムを貼り合わせてから30分後に、PETフィルムを180°の剥離角度で引き剥がして、その際の粘着力(測定温度:23℃、引張速度:300mm/min、剥離角度:180°)を測定し、該粘着力を「初期粘着力」とする。
【0137】
また、前記方法にて作製した試験片を、各温度(加熱処理温度)に設定された熱循環式乾燥機に1分間入れて、熱循環式乾燥機から取り出した後、23℃に2時間放置させ、その後、PETフィルムを180°の剥離角度で引き剥がして、その際の粘着力(測定温度:23℃、引張速度:300mm/min、剥離角度:180°)を測定し、該粘着力を「加熱処理後の粘着力」とする。
【0138】
「加熱処理後の粘着力」が、「初期粘着力」の10%以下になる最低の加熱処理温度を発泡開始温度(T0)とした。
【0139】
なお、実施例1〜4、比較例1〜4及び比較例6に係るダイシングフィルムの粘着剤層の発泡開始温度T0は、120℃であった。比較例5に係るダイシングフィルムの粘着剤層は発泡剤を含有していないため、該ダイシングフィルムには発泡開始温度はないが、弾性率を比較するため、該ダイシングフィルムの発泡開始温度は、実施例や他の比較例と同様に、120℃とした。従って、この場合、T0+20℃は140℃となる。
【0140】
<弾性率比の評価方法>
ダイボンドフィルムの弾性率/ダイシングフィルム中の粘着剤層の弾性率(T0+20℃)は、前記の<ダイシングフィルムの粘着剤層の弾性率の測定方法>や、<ダイボンドフィルムの弾性率の測定方法>にて評価又は測定して得られた「(T0+20℃)におけるダイボンドフィルムの弾性率」と、「(T0+20℃)におけるダイシングフィルム中の粘着剤層の弾性率」より計算して算出した。
【0141】
<ダイシング性・ピックアップ性の評価方法>
実施例及び比較例のそれぞれのダイシング・ダイボンドフィルムを用いて、以下の要領で、実際に半導体ウェハのダイシングを行ってダイシング性を評価し、その後に剥離性の評価を行い、各ダイシング・ダイボンドフィルムのダイシング性能とピックアップ性能を評価とした。
【0142】
半導体ウェハ(直径8インチ、厚さ0.6mm;シリコンミラーウエハ)を裏面研磨処理し、厚さ0.025mmのミラーウェハをワークとして用いた。ダイシング・ダイボンドフィルムからセパレータを剥離した後、そのダイボンドフィルム上にミラーウェハ(ワーク)を40℃でロール圧着して貼り合わせ、更にダイシングを行った。また、ダイシングは10mm角のチップサイズとなる様にフルカットした。なお、半導体ウェハ研削条件、貼り合わせ条件、ダイシング条件は、下記のとおりである。
【0143】
(半導体ウェハ研削条件)
研削装置:商品名「DFG−8560」ディスコ社製
半導体ウェハ:8インチ径(厚さ0.6mmから0.025mmに裏面研削)
(貼り合わせ条件)
貼り付け装置:商品名「MA−3000II」日東精機株式会社製
貼り付け速度計:10mm/min
貼り付け圧力:0.15MPa
貼り付け時のステージ温度:40℃
(ダイシング条件)
ダイシング装置:商品名「DFD−6361」ディスコ社製
ダイシングリング:「2−8−1」(ディスコ社製)
ダイシング速度:30mm/sec
ダイシングブレード:
Z1;ディスコ社製「NBC−ZH226J27HAAA」
ダイシングブレード回転数:
Z1;30,000rpm
カット方式:シングルステップカット
ウェハチップサイズ:10.0mm角
このダイシングで、ミラーウェハ(ワーク)が剥離せずにダイシング・ダイボンドフィルムにしっかりと保持され、ダイシングを良好に行うことができたどうかを確認し、ダイシングを良好に行うことができた場合を「○」とし、ダイシングを良好に行うことができなかった場合を「×」として、ダイシング性を評価した。
【0144】
次に、各ダイシング・ダイボンドフィルムをT0+20℃(実施例1〜4及び比較例1〜6では140℃)のホットプレート上に、ダイシング・ダイボンドフィルムの基材側の面がホットプレートの表面に接触するように置き、1分間、粘着剤層(熱膨張性粘着剤層など)に加熱処理を行った。その後、ダイシング・ダイボンドフィルムを空中で上下が反対になるように裏返しにし(チップが下になる様に)、ダイシングフィルムからダイボンドフィルム付きチップを自然落下により剥離させた。この時のチップ(全個数:400個)の剥離率(%)を求め、ピックアップ性を評価した。従って、ピックアップ性は、剥離率が100%に近いほど良好である。
【0145】
表1より、実施例1〜4に係るダイシング・ダイボンドフィルムは、ダイシング性及びピックアップ性が優れており、ダイシングの際には、半導体ウェハ等の被着体をしっかりと保持して、良好にダイシングを行うことができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明のダイシング・ダイボンドフィルムは、半導体チップ等のチップ状ワークを電極部材に固着させるための接着剤を、ダイシング前の半導体ウェハ等のワークに予め付設した状態で、ワークをダイシングさせる際に用いることができる。本発明のダイシング・ダイボンドフィルムにより、半導体チップを電極部材に固着させた半導体装置を容易に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明の実施の一形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。
【図3】前記ダイシング・ダイボンドフィルムに於けるダイボンドフィルムを介して半導体チップを実装した例を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0148】
10,11 ダイシング・ダイボンドフィルム
1a 基材
1b 熱膨張性粘着剤層
2 ダイシングフィルム
3,31 ダイボンドフィルム
4 半導体ウェハ
5 半導体チップ
6 被着体
7 ボンディングワイヤー
8 封止樹脂
9 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に粘着剤層を有するダイシングフィルムと、前記粘着剤層上に設けられたダイボンドフィルムとを有するダイシング・ダイボンドフィルムであって、
ダイシングフィルムは、粘着剤層が、下記のアクリル系ポリマーAと発泡剤とを含む熱膨張性粘着剤により形成され、且つ表面自由エネルギーが30mJ/m2以下である熱膨張性粘着剤層であり、
アクリルポリマーA:CH2=CHCOOR(式中、Rは炭素数が6〜10のアルキル基である)で表されるアクリル酸エステル50重量%以上と、ヒドロキシル基含有モノマー1重量%〜30重量%を含み且つカルボキシル基含有モノマーを含まないモノマー組成物によるアクリル系ポリマー
ダイボンドフィルムは、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物により構成されていることを特徴とするダイシング・ダイボンドフィルム。
【請求項2】
前記発泡剤が、熱膨張性微小球である請求項1記載のダイシング・ダイボンドフィルム。
【請求項3】
前記ダイシングフィルムの熱膨張性粘着剤層が、23℃〜150℃における弾性率が5×104Pa〜1×106Paである粘着剤層を形成可能な粘着剤と、発泡剤とを含む熱膨張性粘着剤により形成されており、前記ダイボンドフィルムの弾性率が、前記ダイシングフィルムの熱膨張性粘着剤層の発泡開始温度(T0)〜T0+20℃において1×105Pa〜1×1010Paであることを特徴とする請求項1又は2記載のダイシング・ダイボンドフィルム。
【請求項4】
ダイシング・ダイボンドフィルムを用いた半導体装置の製造方法であって、ダイシング・ダイボンドフィルムとして、請求項1〜3の何れか1項に記載のダイシング・ダイボンドフィルムを用いたことを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−126598(P2010−126598A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301557(P2008−301557)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】