説明

トンネル磁気抵抗効果素子及びトンネルバリア層の製造方法

【課題】トンネルバリア層の膜厚を薄くすることなく低抵抗化を図ることができ、所要のMR比が得られるトンネル磁気抵抗効果素子を提供する。
【解決手段】トンネルバリア層27と、該トンネルバリア層27を挟む配置に設けられた磁化固定層26と磁化自由層28とを備え、前記トンネルバリア層27が、MgO/Mg/MgZnOの三層構造からなる。前記トンネルバリア層27におけるMg層の厚さは、0.5〜2.0Åである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル磁気抵抗効果素子及びトンネルバリア層の製造方法に関し、より詳細にはトンネルバリア層の膜厚を薄くすることなくトンネルバリア層の低抵抗化を図ることができ、所要のMR比を得ることができるトンネル磁気抵抗効果素子及びトンネルバリア層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルバリア層に岩塩型MgOを使用した磁気抵抗効果素子は、非常に大きな磁気抵抗変化(MR比)を有することが知られている。このため、高記録密度が求められる磁気記録装置においては、トンネルバリア層にMgOを使用した磁気ヘッドが使用されている。
しかしながら、磁気記録媒体の記録密度が増大すると、これにともなって磁気抵抗効果素子のサイズを小さくしなければならなくなるため、トンネルバリア層の膜厚を変えることなく磁気抵抗効果素子を小さくしていくと、トンネルバリア層の抵抗が大きくなってしまう。トンネルバリア層の抵抗が大きくなると、磁気抵抗効果素子の高速応答特性が劣化するという問題が生じる。
【0003】
したがって、磁気抵抗効果素子を小さくしても素子の特性が劣化しないようにするには、トンネルバリア層の膜厚を薄くして低抵抗化を図る必要がある。たとえば、500 Gbit/in2程度の記録密度を実現するには、トンネル磁気抵抗効果素子の面積抵抗RA(素子抵抗と素子面積との積)を0.6Ωμm2以下にする必要がある。
【0004】
【非特許文献1】S.Yuasa et al., Nat.Mater.3(2004)868
【非特許文献2】S.S.P.Parkin et al.,Nat.Mater.3(2004)862
【非特許文献3】D.D.Djayaprawira et al.,Appl.Phys.Lett.86(2005)092502
【特許文献1】特開2007−305768号公報
【特許文献2】特開2007−305771号公報
【特許文献3】特開2007−142424号公報
【特許文献4】特開2007−305610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トンネルバリア層の膜厚を薄くすると低抵抗にはなるものの、トンネルバリア層にピンホールなどの欠陥が生じやすくなり、ブレイクダウン電圧が低下して素子破壊をひきおこしやすくなるという問題が生じる。
このため、ブレイクダウン電圧の低下を招かない程度の厚さにトンネルバリア層の膜厚を維持することができ、かつ、所要のMR比特性が得られ、あわせて低抵抗化を図ることができるトンネル磁気抵抗効果素子が求められる。
【0006】
本発明は、トンネルバリア層の膜厚を薄くすることなく低抵抗化を図ることができ、所要のMR比が得られるトンネル磁気抵抗効果素子及びトンネルバリア層の製造方法及び磁気記憶装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一観点によれば、トンネルバリア層と、該トンネルバリア層を挟む配置に設けられた磁化固定層と磁化自由層とを備え、前記トンネルバリア層が、MgO/Mg/MgZnOの三層構造からなるトンネル磁気抵抗効果素子が提供される。
【0008】
また、実施形態の他の観点によれば、ダイレクトスパッタリング法によりMgO層を成膜する工程と、前記MgO層上にMg層を形成する工程と、前記Mg層上に、ダイレクトスパッタリング法によってMgZnO層を成膜する工程と、前記MgZnO層を成膜した後、大気開放することなく、真空中において、前記MgO層とMg層とMgZnO層とからなる積層膜を加熱処理する工程とを備えるトンネルバリア層の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るトンネル磁気抵抗効果素子によれば、トンネルバリア層の膜厚を薄くすることなく、磁気抵抗効果素子に求められる所要のMR比特性を備え、かつトンネル磁気抵抗効果素子の低抵抗化を図ることができる。これにより、素子破壊電圧が低下することを防止し、信頼性の高いトンネル磁気抵抗効果素子として提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(トンネル磁気抵抗効果素子)
図1、2、3は、本発明に係るトンネル磁気抵抗効果素子の膜構成例を示す。図1〜3において、同一の構成層については、同一の番号を付している。
図1に示すトンネル磁気抵抗効果素子10は、下部シールド層21、反強磁性下地層22、反強磁性層23、磁化固定層26、トンネルバリア層27、磁化自由層28、キャップ層29、上部シールド層30からなる。なお、下部シールド層21は下部電極を兼ね、上部シールド層30は上部電極を兼ねる。
【0011】
下部シールド層21には軟磁性材料、たとえばNiFeが使用される。反強磁性下地層22には、たとえばTaとRuを積層して形成する。反強磁性層23にはIrMnが使用される。反強磁性下地層22は、反強磁性層23に使用するIrMnを(111)方向に結晶配向させるために設けている。反強磁性層23には、PtMn、PdPtMn等の反強磁性材も使用される。
磁化固定層26は、強磁性材たとえばCoFeB、もしくはCoFeB/CoFeの積層構造に形成される。磁化固定層26は反強磁性層23との交換結合によって磁化方向が固定される。
【0012】
トンネルバリア層27は、MgO層と、Mg層と、MgZnO層をこの順に成膜して三層構造に形成する。
MgO層をダイレクトスパッタリング法によって形成する場合は、MgOをターゲットとし、たとえばArを希釈ガスとしてスパッタリングする。Mg層は、Mgターゲットを用い、たとえばArを希ガス種としてスパッタリングによって形成する。MgZnO層は、MgZnOをターゲットとし、ダイレクトスパッタリング法によって成膜する。希釈ガスにはたとえば、Arを使用する。
【0013】
MgO層、Mg層、MgZnO層をこの順に成膜した後、超高真空を維持したまま、大気開放することなく、加熱温度を200℃〜400℃の範囲に設定して加熱処理を施す。加熱処理としては、たとえば基板の温度を300℃まで昇温させ、300℃に加熱した状態で5分間保持し、その後室温まで冷却する方法によればよい。この加熱処理により、トンネルバリア層27の結晶性が改善され、トンネル磁気抵抗効果膜のMR比を向上させることができる。
【0014】
本実施形態におけるトンネルバリア層27の構造において特徴的な構成は、MgO層上に形成するMg層の厚さを、Mgの1原子層厚に満たない2Å以下、たとえば膜厚1Åといったきわめて薄い膜厚にすることにある。Mg層を薄く成膜することにより、MgO/Mg/MgZnOからなるトンネルバリア層27は絶縁層として作用する。
【0015】
トンネルバリア層に用いられるMgOは、(001)方向に結晶配向させることによって大きなMR比が得られることが知られている。MgO/Mg/MgZnOの三層構造からなるトンネルバリア層27についても、MgO層については岩塩型(001)方向に結晶配向していることが望ましい。MgOはアモルファスの下地層上に成膜することによって岩塩型の(001)方向に結晶配向する。
前述した磁化固定層26に使用するCoFeBはアモルファスとして成膜されるから、磁化固定層26、もしくは磁化固定層26のトンネルバリア層27に接する層をCoFeBによって形成することにより、トンネルバリア層27のMgO層を(001)方向に結晶配向させることができる。
【0016】
図1において、磁化自由層28は、CoFe、CoFeB、Ta、NiFeの4層構造とした。磁化自由層28はNiFeの単層構造とすることも可能である。磁化自由層28を4層構造としているのは、磁化自由層28の特性を向上させるためである。キャップ層29は、保護層として作用するものであり、TaとRuの2層構造とした。上部シールド層30は、下部シールド層21と同様にNiFeによって形成した。
【0017】
図2に示すトンネル磁気抵抗効果素子11は、下層側から、下部シールド層21、反強磁性下地層22、反強磁性層23、第1の磁化固定層26a、反強磁性結合層25、第2の磁化固定層26b、トンネルバリア層27、磁化自由層28、キャップ層29、上部シールド層30からなる。
本実施形態のトンネル磁気抵抗効果素子11は、磁化固定層を、第1の磁化固定層26a、反強磁性結合層25、第2の磁化固定層26bによって形成した点が、上述したトンネル磁気抵抗効果素子10と相異する。
【0018】
磁化固定層は、外部磁界が作用してもできるだけ磁化方向が固定されている必要がある。図2に示す磁化固定層は、反強磁性結合層25を介して磁化固定層を積層する構造とすることによって磁化固定層の磁化方向をより安定させた構造としている。
第1の磁化固定層26aとしては、IrMnからなる反強磁性層23と強い交換結合作用を有するCoFeを使用し、反強磁性結合層25にRu、第2の磁化固定層26bとしてCoFeBを使用することができる。
本実施形態においても、トンネルバリア層27は前述した実施形態と同様に、MgO/Mg/MgZnOの三層構造に形成する。
【0019】
図3に示すトンネル磁気抵抗効果素子12は、下層側から、下部シールド層21、磁化自由層28、トンネルバリア層27、第2の磁化固定層26b、反強磁性結合層25、第1の磁化固定層26a、反強磁性層23、キャップ層29、上部シールド層30からなる。
本実施形態のトンネル磁気抵抗効果素子12は、下層側に磁化自由層28とトンネルバリア層27を配置し、トンネルバリア層27の上層に第2の磁化固定層26b等からなる磁化固定層を配置している。これら各層の配置は、図2に示すトンネル磁気抵抗効果素子11と逆の配置となっている。磁気抵抗効果素子の層構成としては、本実施形態のように、積層方向を逆にすることも可能である。
【0020】
本実施形態のトンネル磁気抵抗効果素子12においても、トンネルバリア層27は前述した実施形態と同様に、MgO/Mg/MgZnOの三層構造に形成する。
なお、本実施形態においては磁化自由層28がトンネルバリア層27の下地層となるから、磁化自由層28のトンネルバリア層27に接する層(下地となる層)はアモルファスとして成膜される層とし、トンネルバリア層27のMgO層が(001)方向に結晶配向するようにするのがよい。
【0021】
図1、2、3に示したトンネル磁気抵抗効果素子10、11、12は、トンネル磁気抵抗効果素子の層構成として典型的な例を示したものである。トンネル磁気抵抗効果素子は、上述した構成以外に種々の層構成とすることが可能である。本発明において特徴とするトンネルバリア層27についての構成は、層構成が上記例とは異なるトンネル磁気抵抗効果素子についても同様に適用することができる。
また、前述した実施の形態において示したトンネル磁気抵抗効果素子に用いる反強磁性材、強磁性材等は一例を示したもので、トンネル磁気抵抗効果素子を構成する材料は適宜選択可能である。なお、従来のトンネル磁気抵抗効果素子は、上述したトンネル磁気抵抗効果素子10、11、12において、トンネルバリア層27をMgO単層に置き換えたものとみればよい。
【0022】
(トンネルバリア層)
図4はトンネルバリア層を形成するフロー図を示す。
トンネルバリア層は、MgO層(ステップ40)、Mg層(ステップ41)、MgZnO層(ステップ42)をそれぞれダイレクトスパッタリング法により順次成膜し、次いで、1×10-5Pa以下の真空下において加熱処理を施して(ステップ43)形成する。
【0023】
トンネルバリア層の膜厚(全厚)は、トンネルバリア層の抵抗値を考慮して設定する。たとえば、トンネルバリア層の面積抵抗(RA)を0.6Ωμm2程度にする場合は、トンネルバリア層の膜厚は7.5Å程度とする。
前述したように、Mg層は1原子層厚以下(0.5Å〜2.0Å)に形成する。成膜レートが0.1Å/secとなるような条件を設定してスパッタすることによって、制御性良くMg層を形成することができる。
【0024】
MgZnO層におけるZn濃度は、MgZnOターゲットのZn濃度によって制御することができる。本実施形態においては、Mg45Zn5O50(at.%表記)をターゲットとしてMgZnO層を形成した。
前述したようにトンネルバリア層のMgO層は岩塩型(001)方向に結晶配向することが望ましい。同様に、Mg層及びMgZnO層を成膜した状態において、MgZnO層も岩塩型(001)方向に結晶配向することが望ましい。MgZnO層はZnの濃度が12.5 at.%以下の場合に岩塩型(001)方向に結晶配向する。したがって、トンネルバリア層のMgZnO層のZn濃度は、12.5 at.%以下に設定するのがよい。このとき岩塩型MgZnOが単相で得られ、Zn濃度の増加とともに低抵抗となる。これはZn濃度の増加とともにバンドギャップが小さくなるためである。したがってMgZnO層の場合、トンネルバリア層の厚みだけでなくZn濃度でも抵抗値を制御できる。
【0025】
ステップ43における加熱処理は、MgO層、Mg層、MgZnO層を成膜した時点で行う処理であり、熱エネルギーを利用して積層膜の結晶性を改善することを目的とする。加熱温度としては、磁気抵抗効果素子の磁化特性に影響を与えないように400℃以下に設定する。加熱温度を400℃以上にすると、下部シールド層21と上部シールド層30の軟磁性材の結晶化を招き、軟磁気特性が劣化する。また、400℃以上の高温になると反強磁性層が壊れるおそれがある。したがって、バリア層を加熱する温度は400℃以下に設定するのがよい。また、熱エネルギーによる作用が結晶性の改善に寄与するように加熱温度は200℃以上に設定するのがよい。したがって、良好なMR比を得るためのバリア層の加熱温度としては、200℃以上400℃以下、好ましくは250℃以上350℃以下に設定するのがよい。
【0026】
図5はMgO/Mg/MgZnOの三層構造からなる積層膜をトンネルバリア層とした磁気抵抗効果素子を作成し、MR比と、面積抵抗RA(素子抵抗と素子面積との積)を測定した結果を示す。
測定に使用したサンプルは、シリコン基板上に、反強磁性下地層としてTa(3nm)/Ru(2nm)、反強磁性層としてIrMn(6nm)、第1の磁化固定層としてCoFe(1.8nm)、反強磁性結合層としてRu(0.9nm)、第2の磁化固定層としてCoFeB(1.8nm)/CoFe(0.5nm)、トンネルバリア層、自由磁化層としてCoFe(0.3nm)/CoFeB(1.5nm)/Ta(0.25nm)/NiFe(3.5nm)、キャップ層としてTa(5nm)/Cu(20nm)/Ru(7nm)をそれぞれスパッタリング法により成膜して形成したものである。
【0027】
トンネルバリア層の構成は、MgO(0.45nm)/Mg(0.05-0.20nm)/MgZnO(0.2nm)、MgO(0.5nm)/Mg(0.05-0.20nm)/MgZnO(0.2nm)とした。
グラフ中に、MgO 4.5/Mg 0.5-2/MgZnO 2Åとあるのは、MgO(0.45nm)/Mg(0.05-0.20nm)
/MgZnO(0.2nm)についてのサンプルについての測定結果を示す。グラフの各点は、RA値が小さい方から、Mg層の厚さを、0.5nm、1.0nm、1.5nm、2.0nmとしたサンプルに対応する。
同様に、グラフ中に、MgO 5/Mg 0.5-2/MgZnO 2Åとあるのは、MgO(0.5nm)/Mg(0.05-0.20nm)
/MgZnO(0.2nm)についてのサンプルについての測定結果であり、各点は、RA値が小さい方から、Mg層の厚さを、0.5Å、1.0Å、1.5Å、2.0Åとしたサンプルについての測定結果を示す。
【0028】
図5には、比較のために、上述した磁気抵抗効果素子の構成において、トンネルバリア層をMgO(0.5nm)/Mg(0.0-0.20nm)/ZnO(0.2nm)によって形成したサンプルと、MgO(0.5-0.7nm)によって形成したサンプルについて測定した結果もあわせて示している。
トンネルバリア層をMgO(0.5nm)/Mg(0.0-0.20nm)/ZnO(0.2nm)によって形成したサンプルについての各測定点は、Mg層を設けない場合、Mg層の厚さを0.5Å、1.0Å、1.5Å、2.0Åとした場合に対応する。
【0029】
トンネルバリア層をMgOによって形成したサンプルと、MgO/Mg/ZnOによって形成したサンプルについてみると、面積抵抗RAが0.5Ωμm2から大きくなるにしたがって、MR比が急激に増大している。
これに対して、MgO/Mg/MgZnOをトンネルバリア層とした実施形態のサンプルの場合は、低RAの領域においてMgOの曲線と交差し、MgOよりも大きなMR比を有している。とくに、MgO(0.5nm)/Mg(0.05nm)/ MgZnO(0.2nm)をトンネルバリア層とした場合の面積抵抗RAは0.5Ωμm2であり、そのときのMR比は70%である。このサンプルの面積抵抗RA値 0.5Ωμm2は、500 Gbit/in2の記録密度の仕様を満たしている。
【0030】
図6(a)、(b)は、トンネルバリア層をMgO/Mg/MgZnOの積層膜によって形成したサンプルについて、MgO層の厚さを4.5Åまたは5.0Åとし、Mg層の厚さを0.5Å、1.0Å、1.5Å、2.0Åと変えたときのRA値(図6(a))と、MR比(図6(b))を測定した結果を示す。MgZnO層の膜厚は2Åに固定している。
図6(a)、(b)には、比較例として、トンネルバリア層をMgO/Mg/ZnOの積層膜としたサンプル(MgO層の厚さ5Å、ZnO層の厚さ2Å)についての測定結果を合わせて示している。
【0031】
図6(a)に示すRA値に着目すると、MgO/Mg/MgZnOバリアではMgの膜厚が増加するとともにRA値が増大するのに対し、MgO/Mg/ZnOバリアではMgの厚さの変化によりRA値はほとんど変化しない。
この測定結果は、MgO/Mg/MgZnOバリアでは最上層に形成されるMgZnO層においては過剰な酸素が存在し、それが酸化して抵抗が増大したことを示唆している。
【0032】
図6(b)に示すMR値に着目すると、MgO/Mg/MgZnOバリアではMgの膜厚が増加するとともにMR比が徐々に増大するのに対し、MgO/Mg/ZnOバリアではMgの膜厚が1Å付近でMR比が極大となっている。
【0033】
図7は、MgO/Mg/MgZnOをトンネルバリア層とした場合に、トンネルバリア層の厚さに対するRA値の変化を測定した結果を示す。図7には、比較のために、トンネルバリア層をMgO単層によって形成した場合、MgO/Mg/ZnOの積層膜によって形成した場合の測定結果をあわせて示す。
図7の測定結果は、トンネルバリア層をMgO単層とした場合、本実施例のMgO/Mg/MgZnOの三層構造とした場合のいずれも、トンネルバリア層の膜厚が増加するとともにRA値が増加することを示す。
ただし、トンネルバリア層をMgO/Mg/MgZnOの三層構造とした場合は、MgO単層とした場合と比較して、同一のRA値をとる膜厚がより厚くなる。すなわち、トンネルバリア層をMgO/Mg/MgZnOの三層構造とすることにより、MgO単層によってトンネルバリア層を形成する場合と比較して、膜厚をより厚く形成して、かつRA値を低く抑えることが可能である。
【0034】
このように、MgO/Mg/MgZnOの三層構造としたトンネルバリア層を備えた磁気抵抗効果素子によれば、MgO単層によってトンネルバリア層を形成した場合と比較して、トンネルバリア層の厚さを薄厚化することなく低抵抗化を図ることができ、所要のMR比を得ることが可能となる。トンネルバリア層の膜厚を厚くすることにより層間結合磁界Hinを低減させて磁気特性を安定化させることができ、また素子破壊電圧が低下することを抑えることが可能となる。
【0035】
(Mg層、MgZnO層の機能)
図8にトンネルバリア層を形成する過程のモデル図を示す。
図8(a)は、スパッタリングによりMgO層を成膜した状態を示す。MgO層は膜厚が4.5〜5.0Å程度と薄いから、格子欠陥等によりMgOの結晶性が悪いものと予想される。
図8(b)は、MgO層にMgをスパッタリングしている状態を示す。Mgは1原子層厚以下の厚さに成膜することと、Mgは濡れ性が良いことから、MgO層の格子欠陥を埋めるように、Mgは島状に成長し、酸化するものと考えられる。これによって、MgO層の結晶性が改善される。
【0036】
図8(c)は、Mgをスパッタリングした後、、酸化物であるMgZnO層をスパッタリングする過程を示す。MgZnOをスパッタリングすることにより、Mgの酸化反応が促進されるものと考えられる。
図8(d)は、トンネルバリア層に加熱処理を施している状態である。図8(e)は、加熱後、室温まで冷却した状態である。トンネルバリア層に対して加熱処理を施すことにより、トンネルバリア層全体の結晶性が改善する。これによって高いMR比を発現させることができたものと考えられる。
【0037】
(磁気抵抗デバイスへの適用例)
本発明に係るトンネル磁気抵抗効果素子は磁気抵抗デバイスとして、磁気ヘッドのリード素子、不揮発性メモリ等に利用することができる。
図9は、上述したトンネル磁気抵抗効果素子を備える磁気ヘッドの構成を、ABS面に対して垂直な面方向の断面図として示したものである。
この磁気ヘッドは、再生ヘッド50と記録ヘッド60とを備える。再生ヘッド50は、下部シールド層51及び上部シールド層52と、下部シールド層51及び上部シールド層52に挟まれて配置されている磁気抵抗効果膜53とを備える。下部シールド層51、上部シールド層52及び磁気抵抗効果膜53が上述したトンネル磁気抵抗効果素子10、11、12に相当する。磁気抵抗効果膜53には、上述したMgO/Mg/MgZnOの三層構造からなるトンネルバリア層27が形成されている。
【0038】
記録ヘッド60は、主磁極61、第1リターンヨーク63及び第2リターンヨーク62とを備える。主磁極61のABS面から離間する側の下面に磁極層64が設けられ、主磁極61と磁極層64にコイル65が巻回されている。
【0039】
図10は上述した磁気ヘッドを備える磁気記憶装置70を示す。
磁気記憶装置70は、矩形の箱状に形成されたケーシング71内に、スピンドルモータによって回転駆動される複数の磁気記録媒体72を備える。磁気記録媒体72の側方には、媒体面に平行に揺動可能に支持されたアクチュエータアーム73が配されている。アクチュエータアーム73の先端には、アクチュエータアーム73の延長方向にサスペンション74が取り付けられ、サスペンション74の先端に、磁気記録媒体72の媒体面に向けてヘッドスライダ75が取り付けられている。
【0040】
ヘッドスライダ75には、前述したトンネルバリア層を備えたトンネル磁気抵抗効果素子を備える磁気ヘッドが形成されている。
磁気ヘッドはサスペンション74に形成された配線、及びアクチュエータアーム73に付設されたフレキシブルケーブル76を介して、磁気記録媒体に信号を記録し、磁気記録媒体に記録された信号を再生する制御回路に接続される。
磁気ヘッドにより磁気記録媒体72に情報を記録し、情報を再生する処理は、アクチュエータ77により、アクチュエータアーム73を所定位置に揺動させる操作(シーク動作)とともになされる。
【0041】
上記トンネル磁気抵抗効果素子を不揮発メモリ用の磁気抵抗デバイスとして使用する場合は、トンネルバリア層を挟んで固定磁化層と自由磁化層を配置した磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction)を備えた構造とすればよい。
自由磁化層の磁化方向はビット線によって制御され、自由磁化層の磁化方向によってトンネル磁気抵抗が異なることを利用して記録信号を検出する。自由磁化層の磁化状態を利用することにより不揮発性となる。この不揮発メモリに前記MgO/Mg/MgZnOの三層構造としたトンネルバリア層を用いることにより、絶縁バリア層が厚膜化でき、層間磁気結合を弱め、トンネル磁気抵抗のばらつきを抑えてメモリの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】トンネル磁気抵抗効果素子の層構成を示す説明図である。
【図2】トンネル磁気抵抗効果素子の層構成の他の例を示す説明図である。
【図3】トンネル磁気抵抗効果素子の層構成のさらに他の例を示す説明図である。
【図4】トンネルバリア層を形成する工程のフロー図である。
【図5】Mg層の膜厚を変えたときのRA値とMR比の測定結果を示すグラフである。
【図6】トンネルバリア層のMg層の厚さに対するRA値とMR比を示すグラフである。
【図7】トンネルバリア層の厚さに対するRA値を示すグラフである。
【図8】トンネルバリア層を形成する工程におけるモデル図である。
【図9】トンネル磁気抵抗効果素子を備える磁気ヘッドの構造を示す断面図である。
【図10】磁気記憶装置の内部構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0043】
10、11、12 トンネル磁気抵抗効果素子
21 下部シールド層
23 反強磁性層
25 反強磁性結合層
26 磁化固定層
27 トンネルバリア層
28 磁化自由層
30 上部シールド層
50 再生ヘッド
53 磁気抵抗効果膜
60 記録ヘッド
70 磁気記憶装置
75 ヘッドスライダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルバリア層と、該トンネルバリア層を挟む配置に設けられた磁化固定層と磁化自由層とを備え、
前記トンネルバリア層が、MgO/Mg/MgZnOの三層構造からなることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記トンネルバリア層におけるMg層の厚さが、0.5〜2.0Åであることを特徴とする請求項1記載のトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記トンネルバリア層におけるMgO層が、岩塩型(001)方向に結晶配向していることを特徴とする請求項1または2記載のトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記トンネルバリア層におけるMgZnO層が、岩塩型(001)方向に結晶配向していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のトンネル磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
ダイレクトスパッタリング法によりMgO層を成膜する工程と、
前記MgO層上にMg層を形成する工程と、
前記Mg層上に、ダイレクトスパッタリング法によってMgZnO層を成膜する工程と、
前記MgZnO層を成膜した後、大気開放することなく、真空中において、前記MgO層とMg層とMgZnO層とからなる積層膜を加熱処理する工程と
を備えることを特徴とするトンネルバリア層の製造方法。
【請求項6】
前記Mg層を形成する工程においては、Mg層を0.5〜2.0Åの厚さに形成することを特徴とする請求項5記載のトンネルバリア層の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理工程においては、前記積層膜を200〜400℃の範囲の加熱温度まで昇温させて加熱した後、室温まで冷却することを特徴とする請求項5または6記載のトンネルバリア層の製造方法。
【請求項8】
前記MgO層を成膜する工程において、アモルファス状態の下地層を使用し、岩塩型(001)方向に結晶配向させてMgO層を成膜することを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項記載のトンネルバリア層の製造方法。
【請求項9】
再生ヘッドと記録ヘッドとを備える磁気ヘッドが形成されたヘッドスライダと、
該ヘッドスライダを媒体上で支持するサスペンションと、
該サスペンションを支持するアクチュエータアームと、
前記磁気ヘッドに電気的に接続され、前記磁気記録媒体に情報を記録・再生する制御回路とを備え、
前記磁気ヘッドの再生ヘッドは、
トンネルバリア層と、該トンネルバリア層を挟む配置に設けられた磁化固定層と磁化自由層とを備え、前記トンネルバリア層が、MgO/Mg/MgZnOの三層構造からなるトンネル磁気抵抗効果素子を備えることを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項10】
前記トンネルバリア層におけるMg層の厚さが、0.5〜2Å未満であることを特徴とする請求項9記載の磁気記憶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−97977(P2010−97977A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264987(P2008−264987)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】