説明

トールボット干渉計およびその調整方法

【課題】トールボット干渉計のセンサ部の傾きを精度良く調整する。
【解決手段】トールボット干渉計は、光源1から発せられて被検光学系Lを通った光を、回折格子3および撮像素子4を含むセンサ部Mに導き、被検光学系の波面を計測する。該干渉計は、光軸OAに沿った方向における被検光学系とセンサ部との位置関係を、波面の計測時とは異なる位置関係であって被検光学系の像点位置に撮像素子が配置されるように設定する機構7,8と、回折格子からの回折光の撮像素子上での光量分布を該撮像素子を用いて測定する測定部5と、光量分布の測定結果を用いてセンサ部の傾き補正量を算出する補正量算出部5と、傾き補正量に応じた光軸に対するセンサ部の傾き調整を行う機構9とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トールボット干渉計におけるセンサ部の傾き調整を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トールボット干渉計は、光学素子等の被検光学系の透過波面や反射波面といった波面を計測するのに用いられる(非特許文献1参照)。トールボット干渉計のセンサ部は、回折格子と撮像素子を含む。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ミツオ・タケダ、外1名、「デジタルトールボット干渉計による横収差測定」、米国、1984年、アプライド・オプティックス、第23巻、第11号、p.1760−1764(Mitsuo Takeda and Seiji Kobayashi, “Lateral aberration measurements with a digital Talbot interferometer,” U.S.A., 1984, Applied Optics, Vol. 23, No. 11, p. 1760-1764)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、回折格子は、基板ガラス上に形成され、撮像素子には、撮像面を覆う保護カバーガラスが取り付けられる。基板ガラスと保護カバーガラスが光軸(光量分布の中心)に対して傾くと、計測波面に非回転対称波面が重畳されて誤差となる。このため、光軸に対するセンサ部の傾きを精度良く調整する必要がある。
【0005】
しかしながら、従来においては、トールボット干渉計のセンサ部の傾きを精度良く調整する有効な方法が提案されていない。
【0006】
本発明は、トールボット干渉計のセンサ部の傾きを精度良く調整できるようにした調整方法および該調整方法の適用が可能なトールボット干渉計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての調整方法は、光源から発せられて被検光学系を通った光を、回折格子および撮像素子を含むセンサ部に導き、被検光学系の波面を計測するトールボット干渉計に適用される。該調整方法は、光軸に沿った方向における被検光学系とセンサ部との位置関係を、波面の計測時とは異なる位置関係であって被検光学系の像点位置に撮像素子が配置されるように設定するステップと、光源から発せられて被検光学系を通った光を回折格子により回折させ、撮像素子上での回折光の光量分布を該撮像素子を用いて測定する測定ステップと、光量分布の測定結果を用いてセンサ部の傾き補正量を算出する補正量算出ステップと、傾き補正量に応じて光軸に対するセンサ部の傾きを調整するステップとを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の他の一側面としてのトールボット干渉計は、光源から発せられて被検光学系を通った光を、回折格子および撮像素子を含むセンサ部に導き、被検光学系の波面を計測する。該トールボット干渉計は、光軸に沿った方向における被検光学系とセンサ部との位置関係を、波面の計測時とは異なる位置関係であって被検光学系の像点位置に撮像素子が配置されるように設定する機構と、回折格子からの回折光の撮像素子上での光量分布を該撮像素子を用いて測定する測定部と、光量分布の測定結果を用いてセンサ部の傾き補正量を算出する補正量算出部と、傾き補正量に応じた光軸に対するセンサ部の傾き調整を行う機構とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新たに調整用の部材や素子を導入することなく、トールボット干渉計のセンサ部の傾きを簡単に高精度に調整することができる。この結果、トールボット干渉計による波面計測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例1であるトールボット干渉計の波面計測時の構成を示す図。
【図2】実施例1のトールボット干渉計のセンサ部の傾き調整時の構成を示す図。
【図3】実施例1のトールボット干渉計のセンサ部を拡大した図。
【図4】実施例1におけるセンサ部の傾き調整処理を示すフローチャート。
【図5】実施例1におけるセンサ部の傾きと評価関数との関係を示す図。
【図6】本発明の実施例2であるトールボット干渉計のセンサ部の傾き調整処理を示すフローチャート。
【図7】本発明の実施例3であるトールボット干渉計のセンサ部の傾き調整時の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0012】
図1には、本発明の実施例1であるトールボット干渉計の構成であって、被検光学系Lの波面計測時の構成を示している。また、図1には、光源からの光が後述するセンサ部に至る光路も示している。
【0013】
該トールボット干渉計では、収差が既知である光を被検光学系Lに照射し、該光の収差に被検光学系Lの収差を重畳させる。そして、被検光学系Lの後方に配置された回折格子3で被検光学系Lを通った(透過または反射した)光の波面を分割し、該分割された波面を重ね合わせて得られる干渉縞から被検光学系Lからの波面を復元する。
【0014】
被検光学系Lは屈折系、反射屈折系および反射系のいずれでもよい。また、被検光学系Lが有する光学パワーは、正および負のいずれでもよい。本実施例では、被検光学系Lは、負の光学パワーを持ったレンズである。
【0015】
本実施例のトールボット干渉計は、光の進行方向に順に、光源1と、ピンホール2と、照明光学系11と、回折格子3および撮像素子4を含むセンサ部Mとを有する。照明光学系11とセンサ部Mとの間には、被検光学系Lが配置される。
【0016】
また、該トールボット干渉計は、コンピュータにより構成される演算部(測定部および補正量算出部)5と、それぞれアクチュエータを含む移動機構7,8,10と、アクチュエータを含む傾き調整機構9とを有する。
【0017】
図1に示すように、波面計測時には、回折格子3と撮像素子4は、トールボット条件を満たすように配置される。具体的には、回折格子3の格子周期をdとし、光源1から発せられる光の波長をλとすると、回折格子3と撮像素子4との間の光軸OAに沿った方向での距離(間隔)をd/λとするのがトールボット条件である。なお、光軸OAは、ピンホール2と照明光学系11の主点を通る直線である。被検光学系の主点も光軸OAの延長線上にある。また、光軸OAは、撮像素子4上に形成される干渉縞又は後述する回折光量分布の中心と一致しているとする。
【0018】
また、図2には、上記トールボット干渉計においてセンサ部Mの傾き調整時の構成を示している。図2にも、光源1からの光がセンサ部Mに至る光路を示している。
【0019】
センサ部Mの傾き調整時には、光軸OAに沿った方向での被検光学系Lとセンサ部Mの位置関係を、被検光学系Lから回折格子3に入射し回折(分割)された回折光同士が、波面計測時の干渉縞とは異なるように、撮像素子4上にて空間的に分離されるような位置関係に設定する。具体的には、移動機構7を用いて被検光学系Lを波面計測時の位置から光軸OAに沿った方向に移動させて、被検光学系Lからの射出光が収束光となるようにする。また、移動機構10を用いて撮像素子4を波面計測時の位置から光軸OAに沿った方向に移動させて、被検光学系Lの像点位置に配置する。
【0020】
このような配置により、撮像素子4上には空間的に分離された回折光による光学像、つまりは光量分布(以下、回折光量分布という)が形成される。該回折光量分布は、撮像素子4により光電変換される。撮像素子4からの出力信号は、ケーブル6を介して演算部5に入力される。演算部5は、撮像素子4からの出力信号に基づいて、上記回折光量分布を示す画像データを生成する。
【0021】
光源1は、例えばレーザで構成されて、コヒーレント光を発する。ピンホール2は、その口径が十分に小さく、球面波で近似される波面を生成する。照明光学系11は、ピンホール2からの光波を収差が既知である波面に変換する。被検光学系Lは、上述したように移動機構7によって光軸OAに沿った方向に移動が可能である。
【0022】
センサ部Mは、回折格子3と撮像素子4とを一体的に保持している。センサ部Mは、傾き調節機構9よって、光軸OA(つまりは被検光学系Lの光軸)に対して回折格子3の入射面および撮像素子4の撮像面の法線がなす角度を変更(調整)可能となっている。光軸OAに対して回折格子3の入射面および撮像素子4の撮像面の法線がなす角度を、以下、センサ部Mの傾きという。また、回折格子3の入射面および撮像素子4の撮像面の法線を、以下、センサ部Mの法線ともいう。
【0023】
さらに、センサ部Mは、前述したように、移動機構10よって光軸OAに沿った方向に移動が可能である。
【0024】
被検光学系Lを透過した光束を複数の次数の回折光に分割する回折格子3は、互いに直交する2方向に周期を有する直交格子を持つ。これにより、被検光学系Lを通った光は、該直交する2方向に分割される。したがって、センサ部Mの傾き調整も、該2方向に延びる軸回りでの傾きを対象としている。回折格子3は、センサ部M内において、移動機構8により、撮像素子4に対して光軸OAに沿った方向に移動が可能である。
【0025】
撮像素子4は、回折格子3が分割した回折光により形成される干渉縞や回折光量分布を光電変換する2次元光電変換素子であり、CCDセンサやCMOSセンサにより構成されている。
【0026】
演算部5は、前述したようにケーブル6を介して撮像素子4と接続されている。演算部5は、記憶部と表示部をも含む。記憶部は、演算部5が移動機構7,8,10の動作を制御するために用いる制御情報を格納する。また、記憶部は、演算部5が撮像素子4からの出力信号に基づいて生成した、回折光量分布を示す画像データを格納する。表示部は、該回折光量分布を示す画像データを表示する。
【0027】
そして、演算部5は、該画像データから回折光量分布を測定し、その測定結果を用いて、回折光量分布を特定の光量分布にするためのセンサ部Mの傾き補正量を算出する。
【0028】
図3を用いて、センサ部Mの傾き補正量の算出原理について説明する。図3には、回折格子3における直交する2つの格子周期方向のうち1つの方向に沿ったセンサ部Mの断面を示している。また、図3には、撮像素子4における光軸OA上の像点に収束する光線のみを示している。
【0029】
被検光学系Lを通った光線は、回折格子3によって回折されて複数の次数の回折光(ここでは0次回折光と±n次回折光とする)に分割される。0次回折光と±n次回折光の撮像素子4上での位置をそれぞれ、I,I−n,Iとする。nは1以上の整数である。
【0030】
撮像素子4上(つまりは回折光量分布を示す画像データ上)での0次回折光の位置から+n次回折光の位置までの距離をdIとし、0次回折光の位置から−n次回折光の位置までの距離をdI−nとする。被検光学系Lの光軸に対するセンサ部Mの傾き角度をθとすると、dI−nとdIはそれぞれ、
【0031】
【数1】

【0032】
で表される。ただし、λは光源1の波長であり、dは回折格子3の格子周期であり、zは回折格子3と撮像素子4の光軸OAに沿った方向での距離(間隔)である。
【0033】
また、本実施例では、dIとdI−nの比較のための評価関数φを用いる。評価関数φとしては、以下に例示するように、dIとdI−nの差を表すもの(評価関数φ)を用いてもよいし、dIとdI−nの比を表すもの(評価関数φ)を用いてもよい。
(評価関数φ
【0034】
【数2】

【0035】
(評価関数φ
【0036】
【数3】

【0037】
評価関数φ=0または評価関数φ=1が目標値であり、該目標値は、被検光学系Lの光軸に対するセンサ部Mの傾きが0となること、言い換えれば被検光学系Lの光軸とセンサ部Mの法線とが一致することに対応する。そして、評価関数φ≠0または評価関数φ≠1である場合に、評価関数φ=0または評価関数φ=1とするように被検光学系Lの光軸に対してセンサ部Mの傾きを戻すべき量が、センサ部Mの傾き補正量となる。
【0038】
なお、上記原理説明では、0次回折光と±n次回折光の撮像素子4上での位置関係を表す評価関数を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施例では、原理的には、センサ部Mの傾きを、撮像素子4上の光量分布の0次光に関する非対称性(特定の光量分布に対するずれ)で判断している。言い換えれば、センサ部Mの傾きが0である場合とは、撮像素子4上の光量分布が0次光に関して対称性を有する(特定の光量分布が得られる)場合に相当する。したがって、例えば、撮像素子4上でのn次回折光の位置からn+1次回折光の位置までの距離と−n次回折光の位置から−(n+1)次回折光の位置までの距離との差や比を表す評価関数を用いてもよい。
【0039】
図4のフローチャートには、本実施例において演算部5が行うセンサ部Mの傾き調整処理(調整方法)を示している。この傾き調整処理は、演算部5がコンピュータプログラムに従って実行する。なお、以下の説明において、「S」はステップを意味する。
【0040】
まず、演算部5は、移動機構7,8を動作させて被検光学系Lとセンサ部Mとを、前述したセンサ部Mの傾き調整時の位置関係となるように移動させる(S1)。これにより、撮像素子4が被検光学系Lの像点位置に配置されることになるが、ここにいう像点位置は、厳密な像点位置でなくてもよく、像点位置の近傍であって回折格子3からの回折光同士が撮像素子4上で干渉縞とは異なるように分離できる位置であればよい。感度を向上させるために、回折格子3と撮像素子4の距離をできる限り大きくするとよい。
【0041】
次に、演算部5は、傾き調節機構9を動作させてセンサ部Mを能動的に傾き角度θ1に傾ける(S2)。能動的にセンサ部Mに傾きを与える理由は、撮像素子4のピクセルサイズによる傾き検出分解能の制限を回避するためである。
【0042】
次に、演算部5は、撮像素子4に像点位置での回折光量分布を光電変換させ、該回折光量分布を示す画像データを生成する(S3)。すなわち、回折光量分布の測定を行う。S3から後述するS7までが、測定ステップに相当する。
【0043】
そして、演算部5は、生成した画像データ(撮像素子4)上での0次回折光と±n次回折光の座標位置を検出する(S4)。撮像素子4上での回折光のスポット形状は、被検光学系Lの収差や回折格子4で生ずる格子収差(回折格子3への光線の入射角度が異なることによって生じる回折光の歪み)によって広がった光量分布を有する。したがって、0次回折光と±n次回折光の撮像素子4上での座標位置は、光量分布の重心計算や、0次回折光と±n次回折光の光量分布を関数によって近似して求める。
【0044】
近似関数の例として、シンク関数の2乗や、ガウシアン関数が挙げられる。より高次の回折光と0次回折光の座標位置を検出することによって、センサ部Mの傾き調整感度を向上させることができる。
【0045】
次に、演算部5は、検出した0次回折光と±n次回折光の座標位置から、0次回折光の位置から+n次回折光の位置までの距離dIと0次回折光の位置から−n次回折光の位置までの距離dI−nを求める(S5)。さらに、演算部5は、dIとdI−nの差分をとり、評価関数φ(評価関数φ)の値φを求める。前述したように、評価関数の値は、dIとdI−nの比で求めてもよい。また、回折格子3として、格子周期が小さいものを使うと、回折角が大きくなり、センサ部Mの傾き調整感度が上がる。
【0046】
次に、演算部5は、回折光量分布の測定回数が所定の複数回に達したか否かを判定する(S6)。所定の複数回に達していない場合はS7に進み、所定の複数回に達した場合はS8に進む。
【0047】
S7では、演算部5は、再び傾き調整機構9を動作させてセンサ部Mを能動的に傾き角度θiに傾ける。iは2以上の整数である。そして、再びS3〜S5の処理を行うことで、評価関数の値φiが得られる。最初のS2〜S5の処理とS7からS3〜S5の処理を複数の所定回行うことによって、S5において、図5に示すようなセンサ部Mの傾きθと評価関数の値φとの関係図を描くことができる。
【0048】
図5において、センサ部Mの傾き角度θが大きくなるほど評価関数の値φの0との差が大きくなる。なお、θとφの関係は、θが大きいほど、また回折格子3に入射する光束の開口数が大きいほど、線形関数からのずれが大きくなる。したがって、θiをセンサ部Mの傾きが0となる状態がおおむね中心となるような範囲で変化させると、後述する評価関数の値φが0となるゼロクロス点の算出精度が上がる。
【0049】
S8において、演算部5は、複数の所定回の測定により得られたセンサ部Mの傾き角度θiと評価関数の値φiの関係から、評価関数の値が0となるゼロクロス点を算出する。ゼロクロス点は、評価関数の値φiに対して関数近似を行うことによって算出する。近似に用いる関数は、線形近似でもよいし、他の関数でもよい。例えば、評価関数φを用いた場合の近似関数としては、
【0050】
【数4】

【0051】
(ただし、A,Bは係数)
を用いることができる。
また、評価関数φを用いた場合の近似関数としては、
【0052】
【数5】

【0053】
(ただし、Cは係数)
を用いることができる。
【0054】
次に、演算部5は、算出したゼロクロス点と現在の評価関数の値φおよびセンサ部Mの傾き角度θとから、センサ部Mの傾きをゼロクロス点まで戻す(補正する)ための傾き補正量を算出する(S9)。S8〜S9は、補正量算出ステップに相当する。
【0055】
そして、最後に、演算部5は、傾き調整機構9を動作させて、傾き補正量だけセンサ部Mの傾きを調整する(S10)。なお、評価関数φとφのうちどちらを用いても、最終的に撮像素子4上での回折光量分布が0次光に関して対称になるようにセンサ部Mの傾きが補正される。
【0056】
こうして直交2方向のうち一方に延びる軸回りでのセンサ部Mの傾き調整が終了すると、他方に延びる軸回りでの傾きも同様の手順で調整する。
以上説明したように、本実施例では、撮像素子上での回折光量分布の測定を光軸に対するセンサ部の傾きを異ならせて複数回行う。そして、複数回の回折光量分布の測定結果を用いてセンサ部の傾き補正量を算出する。本実施例によれば、新たに調整用の部材や素子を導入することなく、センサ部の傾きを簡単に高精度に調整することができる。
【実施例2】
【0057】
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例では、センサ部Mを能動的に傾けた状態で回折光量分布を測定する。また、回折格子3の格子周期と、回折格子3上での光量分布と、回折格子3に入射する光束の開口数と、光源1の波長と、回折格子3から撮像素子4までの光軸に沿った方向での距離(間隔)とを計算パラメータとして用いる。そして、上記測定結果と計算パラメータとを用いて、センサ部Mの傾き補正量を算出する。
【0058】
本実施例におけるトールボット干渉計の構成は、実施例1(図1)に示したものと同じである。
【0059】
図6のフローチャートには、本実施例において演算部5が行うセンサ部Mの傾き調整処理(調整方法)を示している。この傾き調整処理は、演算部5がコンピュータプログラムに従って実行する。また、計算パラメータとしての回折格子3の格子周期、回折格子3上での光量分布、回折格子3に入射する光束の開口数、光源1の波長および回折格子3と撮像素子4との間の距離は、別の方法で計測して既知であるとする。
【0060】
S1〜S5での処理は、実施例1にて説明したものと同じであるので、説明を省略する。
【0061】
S61では、演算部5は、前述したように、測定ステップSとしてのS3〜S5で得られた回折光量分布の測定結果と上記計算パラメータとを用いた計算によって、センサ部Mの傾きθ1を求める。
【0062】
図3に示すように回折格子3に入射する光線の角度をαとすると、0次回折光の位置から+n次回折光の位置までの距離dIと0次回折光の位置から−n次回折光の位置までの距離dI−nおよび評価関数φは、
【0063】
【数6】

【0064】
【数7】

【0065】
【数8】

【0066】
と表すことができる。I(α)は回折格子3上での光量分布である。そして、既知のパラメータを最下の式(数8)に代入して、評価関数φ=φの方程式を解けば、センサ部Mの傾きθ1を求めることができ、センサ部Mの傾き補正量としての−θ1を求めることができる。
【0067】
最後に、演算部5は、傾き調整機構9を動作させて、傾き補正量だけセンサ部Mの傾きを調整する(S10)。
【0068】
本実施例でも、1方向の軸周りの傾き調整が終わったら、もう一方の軸周りの傾きも同様の手順で調整する。
【0069】
以上説明したように、本実施例では、撮像素子上での回折光量分布の測定を1回行う。そして、該回折光量分布の測定結果と既知の計算パラメータ(回折格子の格子周期、回折格子上での光量分布、回折格子に入射する光束の開口数、光源の波長および回折格子と撮像素子との間の距離)とを用いてセンサ部の傾き補正量を算出する。本実施例によれば、新たに調整用の部材や素子を導入することなく、センサ部の傾きを簡単に高精度に調整することができる。
【実施例3】
【0070】
次に、本発明の実施例3について、図7を用いて説明する。図7には、被検光学系L′が正の光学パワーを有するレンズであるトールボット干渉計の構成を示している。図7において、図1に示した実施例1と共通する構成要素には、図1と同符号を付す。
【0071】
本実施例でも、センサ部Mの傾き調整時には、波面計測時に対して、移動機構7,8を用いて被検光学系L′とセンサ部Mとを光軸OAに沿った方向に移動させる。そして、被検光学系L′からの射出光が収束光となるようにし、また撮像素子4を被検光学系L′の像点位置に配置する。こうして、被検光学系L′とセンサ部Mとを、被検光学系L′から回折格子3に入射し回折されて分割された回折光同士が、干渉縞とは異なるように、撮像素子4上にて空間的に分離されるような位置関係に配置する。像点位置が厳密な像点位置でなくてもよいことは、実施例1と同じである。
【0072】
本実施例において、センサ部Mの傾き調整処理は、実施例1,2(図4,図6)で説明した手順で、直交する2方向に延びる軸回りで行われる。
【0073】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
波面計測精度が高いトールボット干渉計を提供できる。
【符号の説明】
【0075】
1 光源
3 回折格子
4 撮像素子
5 演算部
7,8,10 移動機構
9 傾き調整機構
L 被検光学系
M センサ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から発せられて被検光学系を通った光を、回折格子および撮像素子を含むセンサ部に導き、前記被検光学系の波面を計測するトールボット干渉計の調整方法であって、
光軸に沿った方向における前記被検光学系と前記センサ部との位置関係を、前記波面の計測時とは異なる位置関係であって前記被検光学系の像点位置に前記撮像素子が配置されるように設定するステップと、
前記光源から発せられて前記被検光学系を通った光を前記回折格子により回折させ、前記撮像素子上での回折光の光量分布を、該撮像素子を用いて測定する測定ステップと、
前記光量分布の測定結果を用いて前記センサ部の傾き補正量を算出する補正量算出ステップと、
前記傾き補正量に応じて前記光軸に対する前記センサ部の傾きを調整するステップとを有することを特徴とするトールボット干渉計の調整方法。
【請求項2】
前記測定ステップにおいて、前記光量分布の測定を前記光軸に対する前記センサ部の傾きを異ならせて複数回行い、
前記補正量算出ステップにおいて、前記複数回の前記光量分布の測定結果を用いて前記傾き補正量を算出することを特徴とする請求項1に記載のトールボット干渉計の調整方法。
【請求項3】
前記補正量算出ステップにおいて、前記測定ステップでの前記光量分布の測定結果と、前記回折格子の格子周期と、前記回折格子上での光量分布と、前記回折格子に入射する光束の開口数と、前記光源の波長と、前記回折格子から前記撮像素子までの前記光軸に沿った方向での距離とを用いて、前記傾き補正量を算出することを特徴とする請求項1に記載のトールボット干渉計の調整方法。
【請求項4】
前記撮像素子上での前記回折光の光量分布を特定の光量分布にするように前記センサ部の傾きの調整を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のトールボット干渉計の調整方法。
【請求項5】
光源から発せられて被検光学系を通った光を、回折格子および撮像素子を含むセンサ部に導き、前記被検光学系の波面を計測するトールボット干渉計であって、
光軸に沿った方向における前記被検光学系と前記センサ部との位置関係を、前記波面の計測時とは異なる位置関係であって前記被検光学系の像点位置に前記撮像素子が配置されるように設定する機構と、
前記回折格子からの回折光の前記撮像素子上での光量分布を、該撮像素子を用いて測定する測定部と、
前記光量分布の測定結果を用いて前記センサ部の傾き補正量を算出する補正量算出部と、
前記傾き補正量に応じた前記光軸に対する前記センサ部の傾き調整を行う機構とを有することを特徴とするトールボット干渉計。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−257360(P2011−257360A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134137(P2010−134137)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】