説明

ドライバモデル作成装置

【課題】ドライバが案内経路に迷って緊張状態にあるドライバモデルを作成する。
【解決手段】ドライバがナビゲーションの案内に迷うと、車両の走行に関しては、車速が低下したり、車両の走行が不安定になったりなどのいつもと違う運転行動の特徴が現れ、一方、ドライバの生理現象に関しては、心拍数が上がったり、視線があちこちに彷徨うなどの特徴が現れる。そのため、緊張状態を示す生体データに対応する走行データでドライバモデルを作成すると、緊張状態にある場合の運転行動の特徴をモデル化することができる。そこで、情報処理システム1は、走行データとドライバの生体データを対応付けて記録し、車両が案内経路から逸脱し、かつ、生体データからドライバが緊張状態である場合の走行データを用いて緊張状態ドライバモデルを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバモデル作成装置に関し、例えば、ナビゲーション装置によって経路を案内するものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナビゲーション装置を用いた経路案内が盛んに行われている。
一般に、これらのナビゲーション装置では、固定的な案内を行っているが、次の特許文献1の「車両用音声案内装置」のように、心拍数などの生体情報を計測してドライバの精神状態を検出し、当該精神状態に応じた音声案内を行う技術が提案されている。
【特許文献1】特開平10−288532公報
【0003】
また、近年では、次の特許文献2の「運転行動推定装置、運転支援装置、及び車両評価システム」のように、アクセルペダル操作やブレーキペダル操作などの運転操作(運転行動)をモデル化したドライバモデルを作成し、これによってドライバの運転操作を支援する技術が提案されている。
【特許文献2】特開2007−176396号公報
【0004】
この技術は、GMM(混合ガウスモデル)を用いて、ドライバの運転操作をモデル化するものである。
このドライバモデルは、ドライバが実際に行った走行データを統計学的な手法によって解析して当該ドライバの運転操作をモデル化するものであり、当該ドライバの運転操作の特性(個性)をモデル化することができる。
例えば、このドライバモデルを用いて車両に前方車両の追随走行を行わせると、モデルとなったドライバと同様な運転操作を自動的に行うことができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドライバがナビゲーションによる案内を頼りに運転操作を行っている際に、例えば、交差点での左折案内に対して対象となる交差点を認知できないなど、案内経路に迷って不安な状態で運転操作を行う場合がある。
このような場合には、ドライバは案内内容を理解できていない状態で進路を判断しなければならず、不安や焦りなどの精神的な負荷のために、頻繁に案内表示と実際の環境を見比べたりするなどし、運転に集中できない状態になることがある。
【0006】
そこで、普段は通常の案内を行っているが、ドライバがこのような非平常時の心理状態にあることを検出して、早めに案内を開始したり、より詳細な案内を行ったりなど、案内方法を変更することができれば、ドライバに安全・安心を提供することができる。
【0007】
このため、本願発明者らは、ドライバがこのように不安、焦りや高タスク・高負荷の状況で運転に集中していない状態にある場合の運転動作/行動を学習してモデル化し、これを現在の運転行動と比較することにより、ドライバが案内経路に迷って緊張状態にあることを検出しようと考えた。
【0008】
ドライバが案内経路に迷って緊張状態にある場合の緊張状態ドライバモデルを作成すると、現在のドライバの運転動作などを緊張状態ドライバモデルに適用することにより、ドライバが案内経路に迷って緊張状態にあるか否かを推測することができる。
そして、ドライバが緊張状態にあると推測した場合に、より詳細に経路案内を行うなど、ドライバの緊張状態に応じた経路案内を行うことが可能となる。
また、ドライバモデルを用いると、ドライバに緊張状態を検出するためのセンサを常時装着することは必ずしも必要なくなる。
【0009】
このような緊張状態ドライバモデルを作成するためには、ドライバが案内経路に迷って緊張している状態のデータを用いてドライバモデルを作成する必要があり、これを如何に行うかという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、ドライバが案内経路に迷って緊張状態にあるドライバモデルを作成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、車両を案内する経路を取得する経路取得手段と、前記取得した経路を案内する案内手段と、前記車両が前記案内に係る経路から逸脱したことを検出する逸脱検出手段と、生体情報からドライバが緊張状態か否かを判断する緊張状態判断手段と、前記逸脱検出手段で逸脱を検出し、かつ、前記緊張状態判断手段が緊張状態であると判断した場合の緊張状態走行データを取得する緊張状態走行データ取得手段と、前記取得した緊張状態走行データを用いて緊張状態ドライバモデルを作成する緊張状態ドライバモデル作成手段と、を具備したことを特徴とするドライバモデル作成装置を提供する。
(2)請求項2に記載の発明では、逸脱地点の経路の形状によって、前記取得した緊張状態走行データを分類する緊張状態走行データ分類手段を具備し、前記緊張状態ドライバモデル作成手段は、前記分類した緊張状態走行データを用いて前記経路の形状ごとに緊張状態ドライバモデルを作成することを特徴とする請求項1に記載のドライバモデル作成装置を提供する。
(3)請求項3に記載の発明では、前記車両が経路から逸脱した方向によって、前記取得した緊張状態走行データを分類する第2の緊張状態走行データ分類手段を具備し、前記緊張状態ドライバモデル作成手段は、前記逸脱した経路の形状と、前記逸脱した方向ごとに緊張状態ドライバモデルを作成することを特徴とする請求項2に記載のドライバモデル作成装置を提供する。
(4)請求項4に記載の発明では、前記緊張状態ドライバモデルは、前記車両の走行に伴い検出されるN種類の特徴量の時系列データを学習データとし、N次元空間における各データが存在する確率分布によって規定されていることを特徴とする請求項1、請求項2、又は請求項3に記載のドライバモデル作成装置を提供する。
(5)請求項5に記載の発明では、前記逸脱検出手段で逸脱を検出し、かつ、前記緊張状態判断手段が緊張状態でないと判断した場合の平常状態走行データを取得する平常状態走行データ取得手段と、前記取得した平常状態走行データを用いて平常状態ドライバモデルを作成する平常状態ドライバモデル作成手段と、を具備したことを特徴とする請求項1から請求項4までのうちの何れか1の請求項に記載のドライバモデル作成装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
(1)請求項1に記載の発明によれば、車両が案内経路を逸脱し、かつ、ドライバが緊張状態にある走行データを取得することにより、ドライバが経路に迷って緊張状態にある走行データを取得することができ、これによって適切な緊張状態ドライバモデルを作成することができる。
(2)請求項2に記載の発明によれば、逸脱地点の経路の形状ごとに走行データを分類することにより、経路の形状ごとの緊張状態ドライバモデルを作成することができる。
(3)請求項3に記載の発明によれば、走行データを車両が逸脱した方向によっても分類することにより、逸脱地点の経路の形状と、逸脱した方向による緊張状態ドライバモデルを作成することができる。
(4)請求項4に記載の発明によれば、確率分布によって緊張状態ドライバモデルを構成することができる。
(5)請求項5に記載の発明によれば、ドライバが意図して経路を逸脱した場合の走行データを取得することにより、これによって、ドライバが意図して経路を逸脱した場合のドライバモデルを作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)実施の形態の概要
ドライバがナビゲーションの案内に迷うと、車両の走行に関しては、車速が低下したり、車両の走行が不安定になったりなどのいつもと違う運転行動の特徴が現れ、一方、ドライバの生理現象に関しては、心拍数が上がったり、視線があちこちに彷徨うなどの特徴が現れる。
【0014】
そのため、緊張状態を示す生体データに対応する走行データでドライバモデルを作成すると、緊張状態にある場合の運転行動の特徴をモデル化することができる。
そこで、情報処理システム1(図1)は、走行データとドライバの生体データを対応付けて記録し、車両が案内経路から逸脱し、かつ、生体データからドライバが緊張状態である場合の走行データを用いて緊張状態ドライバモデルを作成する。
【0015】
ここで、車両が案内経路から逸脱し、かつ、ドライバが緊張状態にある場合のデータを抽出して用いるのは以下の理由による。
車両が案内経路から逸脱した場合には、ドライバが案内経路に迷って逸脱した場合と、意図的に逸脱した場合があると考えられる。
そして、ドライバが緊張状態にあった場合(ストレスを受けている場合)、ドライバは案内経路に迷って逸脱したと推定でき、一方、ドライバが平常状態にあった場合(ストレスを受けていない場合)ドライバは意図して逸脱したと推定できるからである。
【0016】
緊張状態ドライバモデルには、ドライバが案内経路に迷って緊張状態にある時の運転特性がモデル化されているため、緊張状態ドライバモデルを作成した後は、現在の運転の特性と緊張状態ドライバモデルからドライバが緊張状態であるか否かを判断することができる。
そして、ドライバが案内経路に迷って緊張状態にあると判断された場合、情報処理システム1は、より詳細な経路案内を行い、ドライバに安心感を与え、適切に車両を案内する。
【0017】
(2)実施の形態の詳細
図1は、本実施の形態に係るドライバモデル作成装置が組み込まれた情報処理システム1の構成を説明するための図である。情報処理システム1は、例えば、車両に搭載されている。
情報処理システム1は、ECU(Electronic Control Unit)2、生体計測装置3、車両情報取得装置4、環境情報取得装置5、GPS(Global Positioning Systems)6、画像入力装置7、記憶装置8、入力装置9、表示装置10、音声出力装置11、通信装置12などから構成されており、ドライバモデル作成装置として機能している。
【0018】
なお、以下では、ドライバが案内経路に迷って緊張状態(非平常状態)にある場合のドライバモデルを緊張状態ドライバモデルと呼び、ドライバが平常状態にある場合のドライバモデルを平常状態ドライバモデルと呼び、これらを特に区別しない場合には単にドライバモデルと呼ぶことにする。
【0019】
ECU2は、例えば、CPU、ROM、RAM、記憶装置などを備えたコンピュータであって、走行データを収集してドライバモデルを作成したり、所定のプログラムに従って車両の各部を制御したり、ナビゲーション機能によって車両を経路案内したりする。
なお、本実施の形態では、これらの機能をECU2が全て行うこととして説明するが、例えば、ドライバモデルを作成するコンピュータ、車両を制御する制御システム、車両を案内するナビゲーション装置などを個別に形成してこれらを組み合わせて構成してもよい。
【0020】
生体計測装置3は、心拍センサ、視線センサ、発汗センサなど、生体データ(生体情報)を検出するセンサを備えており、ドライバの身体の生体データを計測する。
心拍センサは、例えば、ドライバの胸部に電極を装着し、ドライバの心拍数や心電図を計測するのに用いられる。
【0021】
視線センサは、例えば、眼鏡状のセンサをドライバに装着してドライバの視線を検出する。また、後述するように、視線センサを用いず、カメラでドライバの顔面を撮影し、顔の輪郭や瞳の向いている方向などを画像処理にて抽出して視線を検出することもできる。
【0022】
発汗センサは、例えば、ドライバの身体に発汗センサを装着したり、あるいは、ハンドルなどユーザの身体が接する部分に発汗センサを設けたりして、ドライバの皮膚抵抗を計測するなどして、ドライバの発汗状態を検出する。
【0023】
これらのセンサで計測されたデータは、走行データの収集に際してドライバが緊張状態であるか否かを判断するのに用いられる。
そのため、一旦、ドライバモデルを作成してしまえば、生体計測装置3を使用しなくてもドライバが緊張状態であるか否かをドライバモデルとドライバの運転操作から推測することができるため、ドライバモデル作成後には、ドライバはこれらのセンサを装着する必要はなくなる。
なお、これら全てのセンサを用いる必要はなく、ドライバが緊張状態であるか否かを判断できれば、何れのセンサを用いてもよい。
【0024】
車両情報取得装置4は、ハンドル舵角センサ、ブレーキ踏力センサ、アクセル踏力センサ、車速センサ、加速度センサなどの各種センサ類を車載LAN(Local Area Network、例えば、CAN、MOST、FlexRayなど)によって接続し、車両に関する情報を検出する装置である。
車両情報取得装置4によって、ドライバによるハンドル操作、アクセル操作、ブレーキ操作や、車両の速度、加速度などを検出することができる。
【0025】
環境情報取得装置5は、現在の車両の環境に関する情報を取得する装置であって、車間距離・相対速度測定装置、画像処理装置、道路交通状況受信装置、走行車線判定装置などを備えている。
車間距離・相対速度測定装置は、前方の車両との車間距離と相対速度や、後方・側方の車両との車間距離と相対速度を、例えば、レーザやミリ波などを用いて計測する。
【0026】
画像処理装置は、画像入力装置7から入力された画像データを処理する装置であって、例えば、ドライバの顔面を撮影した画像から、ドライバの視線方向を解析したりなどする。ここで、解析した視線方向は生体データとして利用することができる。
道路交通状況受信装置は、道路交通状況に関する情報を、例えば、サーバやビーコンから無線により受信する。
走行車線判定装置は、例えば、道路センサなどを用いて車両が現在走行している車線を判定する。
【0027】
GPS6は、上空を周回するGPS衛星から発信される信号を受信し、これを解析して車両の現在位置を検出する装置である。
また、ビーコン受信装置を備え、これによって車両の現在位置を検出するように構成することもできる。
画像入力装置7は、カメラを備えており、例えば、ドライバの顔面を撮影する。
【0028】
入力装置9は、例えば、タッチパネル、キーボード、マイクロフォンなどを備えており、ユーザ(ドライバや車両のその他の搭乗者)が情報処理システム1に対して情報やコマンドを入力するのに用いる。
ユーザは、入力装置9から、目的地を設定したり、これから運転するドライバのドライバモデルを選択したりすることができる。
【0029】
表示装置10は、例えば、液晶パネルなどの表示デバイスを備えており、地図を表示して案内経路を指示したり、メニュー画面を表示してユーザに所望のメニューを選択させたりなど、各種情報を表示することができる。
音声出力装置11は、スピーカを備えており、ドライバに対して音声による経路案内などを行うことができる。
【0030】
通信装置12は、図示しない基地局と無線回線を確立し、通信ネットワーク上のサーバと通信することができる。
本実施の形態では、ドライバモデルは情報処理システム1で作成するが、走行データを通信装置12によってサーバに送信し、サーバでドライバモデルを作成するように構成することもできる。
また、情報処理システム1は、サーバと通信することにより、最新の地図データをダウンロードしたり、その他各種サービスを受けることができる。
【0031】
記憶装置8は、例えば、ハードディスクや半導体メモリなどを用いて構成された大容量の記憶装置で、各種プログラムやデータを記憶することができる。
生体情報処理プログラムは、生体計測装置3で検出したデータを処理して生体データDB(データベース)に格納するプログラムである。
【0032】
車両情報処理プログラムは、車両情報取得装置4で検出したデータを処理して車両データDBに格納するプログラムである。
環境情報処理プログラムは、環境情報取得装置5で検出したデータを処理して環境データDBに格納するプログラムである。
【0033】
ナビゲーションプログラム(ルート計算/案内プログラム)は、出発地から目的地までの経路探索を行ったり、音声や表示などによってドライバに経路案内を行ったりする通常の経路案内機能のほか、ドライバモデルを用いてドライバが迷って案内経路を外れる程度を推定し、これに応じた経路案内を行う機能などをECU2に発揮させる。
【0034】
ドライバモデル作成プログラムは、車両の走行データを用いてドライバモデルを作成する機能をECU2に発揮させるプログラムである。
走行データには、環境情報取得装置5や車両情報取得装置4で検出され、記憶装置8に蓄積されているデータを用いる。
本実施の形態では、一例として、環境情報取得装置5で検出された車間距離F、車両情報取得装置4で検出された車速V、アクセル操作量G、ブレーキ操作量Bなどを走行データとして用いる。
【0035】
ドライバモデルDBは、ドライバモデル作成プログラムによって作成されたドライバモデルを記憶するデータベースであって、車両の個々のドライバごとにドライバモデルを記憶している。個々のドライバごとにドライバモデルを作成するのは、運転の特徴が個々のドライバによって異なるからである。
【0036】
ドライバモデルには、ドライバが分岐点において、迷って案内方向と異なる方向に進行する場合に、当該ドライバが分岐点の前で行う運転操作などの特徴をモデル化した緊張状態ドライバモデルと、ドライバが分岐点において、意図して案内方向と異なる方向に進行する場合に、当該ドライバが分岐点の前で行う運転操作などの特徴をモデル化した平常状態ドライバモデルがある。
【0037】
車両データDBは、車両情報取得装置4で検出された車両データを記憶するデータベースである。
環境データDBは、環境情報取得装置5で検出された環境データを記憶するデータベースである。
生体データDBは、生体計測装置3で検出された生体データを記憶するデータベースである。
画像データDBは、環境情報取得装置5の画像処理装置で処理した画像データを記憶するデータベースである。
【0038】
これらのデータベースに記憶されているデータは、例えば、日時・時刻などをキーとして検出タイミングを対応づけることができるようになっている。
これにより、例えば、生体データによってドライバが緊張状態となっていると判断した場合に、当該生体データを検出した際の環境データや車両データを特定することができる。すなわち、ドライバが緊張状態にあった場合の環境データや車両データを特定することができる。
【0039】
地図DBは、経路探索したり車両を経路案内したりするための各種データファイルを記憶したデータベースである。地図データファイル、交差点を記録した交差点データファイル、経路をリンクやノードで表したノードデータファイルなど、各種のものがある。
また、図示しないが、記憶装置8には、この他に、車両データや環境データから走行データを生成する走行データプログラムや、ドライバを特定するためのドライバ登録情報DBなど、その他のプログラムやデータベースも記憶されている。
【0040】
図2は、本実施形態によるドライバモデルの作成と、作成したドライバモデルに基づく運転操作の推定に関する概念を説明するための図である。
本実施の形態では、ドライバの運転操作は、所定の特徴量によって記述されると仮定している。
具体的には、ドライバは、現在の車速V、車間距離F、これらの1次の動的特徴量ΔV、ΔF(時間による1階微分値)、2次の動的特徴量ΔΔV、ΔΔF(時間による2階微分値)といった特徴量に基づいてアクセルペダルの操作(アクセル操作量Gと次の動的特徴量ΔG)とブレーキペダルの操作(ブレーキ操作量Bと1次の動的特徴量ΔB)を行っていると仮定する。
ここで、1次や2次の量を考慮してモデル化したのは、時間的に滑らかでより自然なドライバモデルを作成するためである。
【0041】
ドライバモデルは、次のようにして作成される。
まず、車両が走行する際に、所定のサンプリングレート(例えば、0.1秒)にて、時刻t1、t2、・・・におけるアクセル操作量、ブレーキペダル操作量、車速、車間距離をサンプリングする。1階微分値、2階微分値は、これらから計算することができる。
これにより、ドライバの運転操作を時系列に記録した走行データ101が得られる。
走行データ101は、ドライバモデルを作成するに際して、ドライバの運転操作を学習するための学習データとして機能している。
【0042】
このようにして収集された走行データに対してEMアルゴリズムを適用すると混合ガウス分布を用いたGMMによるドライバモデル102が作成される。
収集したデータにEMアルゴリズムを適用してGMMを作成(推定)する手法に関しては、例えば、中川聖一著、「確率モデルによる音声認識」(電子情報通信学会 1988、P51〜P54)に記載されている。
【0043】
より詳細には、走行データ101に対する同時確率密度分布をEMアルゴリズムを使用して算出し、算出した同時確率密度関数のパラメータ={λi,→μi,Σi|i=1,2,3,…M}をGMMによるドライバモデル102とする。
ここで、λiは重みを、→μiは平均ベクトル群を、Σiは分散共分散行列群を、Mは混合数を表す。また、→μiのように前に→を表示したものはベクトルを意味する。
このように、本実施形態のGMMでは特徴次元間の相関も考慮して、全角共分散行列を用いている。
【0044】
以上、ドライバモデルの生成方法について説明したが、ドライバが緊張状態のときにサンプリングした走行データ101を用いてドライバモデルを作成すると緊張状態ドライバモデルが生成され、平常状態のときにサンプリングした走行データ101を用いてドライバモデルを作成すると平常状態ドライバモデルが生成される。
そして、測定や測定値を計算することにより時刻tでのデータ103を取得し、データ103を両ドライバモデルにパラメータとして入力して事後確率104を計算すると、両モデルによる事後確率105(事後確率P1、P2)が得られる。
【0045】
ここで、緊張状態ドライバモデルによる事後確率P1は、ドライバが緊張状態ドライバモデルで規定される状態である確率、即ち、案内経路に迷って緊張している確率を表し、平常状態ドライバモデルによる事後確率P2は、ドライバが平常状態ドライバモデルで規定される状態である確率、即ち、後述するように意図して案内経路を逸脱しようとしている確率を表す。
【0046】
このように、本実施の形態で用いるドライバモデル(緊張状態ドライバモデル、平常状態ドライバモデル)は、一般に、車両走行に伴い検出されるN種類の特徴量の時系列データを学習データとし、N次元空間における各データが存在する確率分布によって規定されている。
【0047】
ところで、緊張状態ドライバモデルを作成するためには、ドライバモデル作成用のデータ収集に際してドライバが経路案内に迷って緊張状態にあることを判断する必要がある。
そこで、本実施の形態では、緊張状態ドライバモデルを作成するためにドライバが案内経路から逸脱した場合のデータを用いることとした。案内経路から逸脱する場合は、ドライバが案内に迷った場合と考えられるからである。
ただし、ドライバが自らの意思により意図的に案内経路を逸脱する場合も考えられるため、本実施の形態では、生体データを用いてドライバの緊張状態を測定し、ドライバが案内に迷って案内経路を逸脱したのか、意図的に逸脱したのかを判別することとした。
【0048】
そこで、次に、生体データを用いてドライバが緊張状態にあるか否かを判断する方法について説明する。
図3は、心拍数の揺らぎによってドライバの緊張状態を判断する例である。
図に示したように、一般に、緊張状態では心拍数の揺らぎが小さく、平常状態では揺らぎが大きいことが知られている。
このため、ドライバの心拍数の揺らぎを測定することにより、ドライバが緊張状態であるのか、あるいは、平常状態であるのかを判断することができる。
【0049】
図4の各図は、心電図を解析することによりドライバの緊張状態を判断する例である。
一般に心電図(図4(a))にR−Rインタバル解析とよばれる解析を行い(図4(b))、これをフーリエ変換して周波数領域に変換すると、周波数の低い側と高い側にピークが現れる(それぞれ、図4(c)のLFとHF)。
【0050】
この解析において、図5に示したように、ドライバが平常状態にある場合にはHFが検出され、ドライバが緊張状態にある場合にはHFの強度が低下することが知られており、これによってドライバの緊張状態を判断することができる。
なお、図4の各図は、「ドライバ評価手法の現状と将来(2001年7月16日)、自動車技術会」における早野氏の講演資料によるものであり、図5は講演資料を基に作成した模式図である。
【0051】
以上、心拍、及び心電図を用いた判断方法について説明したが、その他、発汗の状態、視線の移動状態などを検出して、ドライバが緊張状態にあるか否かを判断するように構成することもできる。
【0052】
次に、分岐点の形状による走行データの分類について説明する。
情報処理システム1は、車両が案内経路から逸脱した場合、その走行データを分岐点の形状によって分類し、分岐点の形状ごとにドライバモデルを作成する。
これは、例えば、先の分岐点がT字路の場合と五差路の場合では、案内経路に迷った場合、緊張による運転の特性が異なると考えられるからである。
【0053】
このように、分岐点の形状ごとにドライバモデルを作成すると、当該ドライバモデルを用いて、ドライバがT字路で迷って緊張しているのか、あるいは、五差路で迷って緊張しているのかなど、ドライバが緊張している分岐点の形状を推測することが可能になると考えられる。
【0054】
例えば、生体情報を用いてドライバの緊張を検出する方式では、ドライバが緊張していることは検出できても、ドライバが緊張している内容を推測することは困難である。
しかし、本実施の形態のようにドライバモデルを用いると、ドライバが緊張している対象をも推測することが可能となると考えられる。
【0055】
図6は、情報処理システム1が場合分けを行う分岐の形状の一覧を表した表である。
分岐点の形状は、まず、「大項目」に大きく分類することができ、「大項目」は、「交差点」、「立体分岐/合流」、「連続交差点」、「進行方向限定レーンのある交差点」から構成されている。
「大項目」は、更に「詳細項目」に細分類されており、「交差点」の場合には、「十字」、「三差路」、「五差路以上」に細分されている。
そして、「十字」は、経路が90度に交差する「90度交差」と、その他の十字路の「その他十字」に更に分類されている。
【0056】
また、「三差路」は、「T字」、「Y字」、「左折のみ」、「右折のみ」、「その他三差路」に分類され、これらのうち、「左折のみ」、「右折のみ」は、更に、それぞれ左折、右折の角度が0度以上60度未満の「0−60度」、同様に「60−120度」、「120−150度」、及び「150−180度」に分類されている。
【0057】
一方、「進行方向限定レーンのある交差点」は、「右折専用レーン」、「左折専用レーン」、「右折、左折専用レーン」、「直右折専用レーン」、「直左折専用レーン」、「左折、直右折連用レーン」、「右折、直左折連用レーン」、「直右折、直左折連用レーン」、「その他専用レーン」に更に分類されている。
【0058】
図7は、図6の分類に係る分岐点の形状を模式的に示した図である。図7の各図の番号は、図6の項目「番号」に対応させてある。
なお、図7の16番で示したように、本実施の形態では、進行方向の100m以内の距離に複数の交差点が存在する場合を「連続交差点」とする。
【0059】
以上のように、情報処理システム1は、車両が案内経路を逸脱した交差点の形状によって走行データを分類するが、どの程度細分するかは、種々の実験などにより決定することができ、ドライバの運転の特性に統計的に優位な差が認められる程度まで走行データを細分化することができる。
また、運転の特性の差の出方も個人差があると考えられるため、どの程度細分化できるかは、ドライバ個人にもよると考えられる。
【0060】
以上では、走行データを分岐点の形状によって分類したが、更に、車両が逸脱した方向に応じて走行データを分類することも可能である。
これは、ドライバが左折をしようとして迷っている場合と、右折をしようとして迷っている場合では、例えば、左折の場合には車両が左側による傾向がでるなど、運転の特性が異なると考えられるからである。
車両が案内経路から逸脱するパターンとしては、例えば、ナビゲーションによる案内はある交差点での左折を指示しているのに対し、車両が手前の交差点で左折してしまう場合や、あるいは、左折を指示している交差点を通過してしまう場合などがある。
【0061】
以上のように走行データを分類する方法としては、「分岐の形状」で分類する場合、「分岐点の形状」で分類して、更に、「逸脱した方向」で分類する場合、及び「逸脱した方向」で分類する場合などがある。
どのような分類が最も効果的であるかは、実験などによって決められる。
以上の例は、走行データを「分岐の形状」と「逸脱した方向」によって分類するものであるが、他の方法によって分類してもよい。
【0062】
図8(a)は、情報処理システム1がドライバモデル作成のために用いるデータを収集するデータ収集処理を説明するためのフローチャートである。
まず、情報処理システム1は、ドライバが目的地を設定すると、現在の位置から目的地に至る経路を探索するなどして、案内経路を設定する。
そして、情報処理システム1は、車両が走行を開始すると、ナビゲーション機能によって経路案内を開始する(ステップ2)。
このように、情報処理システム1は、車両を案内する経路を取得する経路取得手段と、当該取得した経路を案内する案内手段を備えている。
【0063】
次に、情報処理システム1は、ドライバに経路案内を行いながら、環境情報取得装置5、車両情報取得装置4、生体計測装置3で各種データを取得し、これらを記憶装置8の環境データDB、車両データDB、生体データDBに記憶する。
また、後ほど、ドライバが案内経路を逸脱したか判断するために、案内経路と、これに対して車両が実際に走行した経路も記憶する(ステップ4)。
【0064】
次に、情報処理システム1は、車両が走行を終了したか判断し、走行を終了していない場合には(ステップ6;N)、ステップ4にてデータの取得と記憶を行い、走行を終了した場合には(ステップ6;Y)、データ収集処理を終了する。
以上の処理によって、環境データ、車両データ、生体データ、車両が走行した経路が所定のサンプリングレートにて時系列に従って記憶されると共に、情報処理システム1が設定した案内経路も記憶される。
情報処理システム1は、このようなデータ収集を一定期間行い、データの蓄積を行う。蓄積されるデータが多いほど、適切なドライバモデルが作成される。
【0065】
図8(b)は、情報処理システム1が、ドライバモデル作成のためにデータを抽出するデータ抽出処理を説明するためのフローチャートである。
まず、情報処理システム1は、記憶装置8に記憶した案内経路と実際に車両が走行した経路のデータを読み出す。
そして、情報処理システム1は、出発地点から到達地点に向けて交差点などの案内経路の分岐点を特定し、当該分岐点にて車両の走行した経路が案内経路から逸脱しているか判断する(ステップ8)。
【0066】
車両の走行経路が案内経路から逸脱していない場合(ステップ8;N)、情報処理システム1は、引き続きステップ8に戻って、次の分岐点にて同様の判断処理を継続する。
一方、車両が案内経路から逸脱していた場合(ステップ8;Y)、情報処理システム1は、当該分岐点の前後のデータを環境データDB、車両データDB、生体データDBから抽出して(ステップ10)、ドライバモデル作成用のデータとして記憶装置8に記憶する。
なお、環境データと車両データに関しては、走行データに係るデータを抽出してこれを記憶するように構成してもよい。
このように、情報処理システム1は、車両が案内に係る経路から逸脱したことを検出する逸脱検出手段を備えている。
【0067】
本実施の形態では、例えば、分岐点の1km手前でドライバの緊張を検出して、詳細な案内を行うなど、分岐点の前の所定距離からドライバの状態に応じた詳細な経路案内を行うことを考えているため、分岐点の前のデータに関しては、当該所定距離よりも更に前の地点からのデータを抽出することが望ましい。
例えば、分岐点の1km手前から詳細な経路案内を行う場合、分岐点の1km以上手前の地点から(例えば、分岐点の1.5km手前から)のデータを抽出する。
【0068】
情報処理システム1は、データを抽出した後、車両が走行した経路の全ての分岐点で逸脱を判断したか確認し(ステップ12)、まだ未判断の分岐点がある場合には(ステップ12;N)、ステップ8に戻って次の分岐点について車両が案内経路から逸脱したか判断する。
【0069】
一方、全ての分岐点について案内経路からの逸脱の有無を判断した場合(ステップ12;Y)、データ抽出処理を終了する。
情報処理システム1は、以上の処理をデータ抽出処理で蓄積したデータの全てについて行う。
以上の処理によって、迷ってか、あるいは、意図的にかを問わず、車両が分岐点にて案内経路から逸脱した際のデータを抽出することができる。
【0070】
図9は、情報処理システム1がドライバモデルを作成する手順を説明するためのフローチャートである。
情報処理システム1は、抽出した生体データを取得し(ステップ20)、ドライバが緊張状態であったか否かを判断する(ステップ22)。
このように、情報処理システム1は、生体情報からドライバが緊張状態か否かを判断する緊張状態判断手段を備えている。
【0071】
ドライバが緊張状態でなかった場合(ステップ22;N)、ドライバは意図して案内経路を逸脱したと考えられるため、情報処理システム1は、当該生体データと、当該生体データと共に抽出された環境データ、車両データを、平常状態ドライバモデル作成用のデータに分類する(ステップ24)。
【0072】
ここで、平常状態ドライバモデル作成用に分類されたデータのうち走行データして使用されるものは、平常状態走行データとして機能し、このように、情報処理システム1は、逸脱検出手段で逸脱を検出し、かつ、緊張状態判断手段が緊張状態でないと判断した場合の平常状態走行データを取得する平常状態走行データ取得手段を備えている。
【0073】
一方、ドライバが緊張状態であった場合(ステップ22;Y)、ドライバは迷って案内経路を逸脱したと考えられるため、情報処理システム1は、当該生体データと、当該生体データと共に抽出された環境データ、車両データを、緊張状態ドライバモデル作成用のデータに分類する(ステップ26)
【0074】
ここで、緊張状態ドライバモデル作成用に分類されたデータのうち走行データして使用されるものは、緊張状態走行データとして機能し、このように、情報処理システム1は、逸脱検出手段で逸脱を検出し、かつ、緊張状態判断手段が緊張状態であると判断した場合の緊張状態走行データを取得する緊張状態走行データ取得手段を備えている。
なお、本実施の形態では、生体データなどはドライバモデル作成のための特徴量として利用しないため、これら分類では、環境データ、車両データから走行データに係るデータを抽出し、当該走行データを記憶するように構成してもよい。
【0075】
データを分類した後、情報処理システム1は、抽出した全てのデータを分類したか判断し(ステップ28)、まだ分類していないデータがある場合は(ステップ28;N)、ステップ20に戻って引き続きデータの分類を行う。
一方、全てのデータを分類した場合(ステップ28;Y)、情報処理システム1は、平常状態ドライバモデル作成用に分類したデータを分岐点の種類によって更に分類し、また、緊張状態ドライバモデル作成用に分類したデータも分岐点の種類によって更に分類する(ステップ30)。
このように、情報処理システム1は、逸脱地点の経路の形状によって、緊張状態走行データを分類する緊張状態走行データ分類手段を備えている。
【0076】
なお、分岐点の種類によって分類した平常状態ドライバモデル作成用のデータと緊張状態ドライバモデル作成用のデータを更に逸脱した方向で分類してもよい。
あるいは、平常状態ドライバモデル作成用に分類したデータと、緊張状態ドライバモデル作成用に分類したデータを、分岐点の種類によっては分類せず、逸脱した方向によってのみ分類する構成も可能である。
このように、情報処理システム1は、車両が経路から逸脱した方向によって、緊張状態走行データを分類する第2の緊張状態走行データ分類手段を備えることも可能である。
【0077】
情報処理システム1は、このように各データを分類すると、平常状態ドライバモデル作成用に分類され、更に分岐点の種類ごとに分類されたデータを用いて、分類されたデータごとに平常状態ドライバモデルを作成する(ステップ32)。
このように、情報処理システム1は、平常状態走行データを用いて平常状態ドライバモデルを作成する平常状態ドライバモデル作成手段を備えている。
【0078】
次に、情報処理システム1は、緊張状態ドライバモデル作成用に分類され、更に分岐点の種類ごとに分類されたデータを用いて、分類されたデータごとに緊張状態ドライバモデルを作成する(ステップ34)。
このように、情報処理システム1は、緊張状態走行データを用いて緊張状態ドライバモデルを作成する緊張状態ドライバモデル作成手段を備えている。
【0079】
なお、ドライバの緊張状態を推定するためには、緊張状態ドライバモデルのみを用いて行うことも可能であるが、ドライバが緊張状態にある場合のドライバモデルと、平常状態にある場合のドライバモデルを用いることにより、現在のドライバの心理的な状態がどちらの状態に近いかを判断することができ、これにより、より適切な判断ができるため、本実施の形態では、緊張状態ドライバモデルと平常状態ドライバモデルの両方を作成することとした。
【0080】
また、先に述べたように、本実施の形態では、一例として、取得したデータのうち、車速V、車間距離F、これらの1次の動的特徴量ΔV、ΔF(時間による1階微分値)、2次の動的特徴量ΔΔV、ΔΔF(時間による2階微分値)、アクセルペダルの操作(アクセル操作量Gと次の動的特徴量ΔG)、ブレーキペダルの操作(ブレーキ操作量Bと1次の動的特徴量ΔB)といった走行データを用いてドライバモデルを作成する。
【0081】
このように、生体データを除いてドライバモデルを作成することにより、一端、ドライバモデルを作成した後には、ドライバに対して、心拍センサや発汗センサ、視線センサなどを用いずに、車速Vやアクセルペダル・ブレーキペダルの操作量などを用いて、ドライバの緊張状態を推定することができる。
なお、心拍や発汗などの生体データを、例えば、平均化するなどしてEMMに組み込めるように加工し、これらをも特徴量として含むドライバモデルを作成することも可能である。
【0082】
更に、本実施の形態では、一例として、ドライバの緊張程度を検出する地点近傍のデータを用いてドライバモデル(緊張状態ドライバモデルと平常状態ドライバモデル)を作成する。
例えば、交差点から1km手前でドライバの緊張程度の確率を計算する場合、交差点から1kmの近傍(例えば、±200m)の区間でのデータを用いてドライバモデルを作成する。
そして、例えば、交差点から500m手前、200m手前、100m手前で更にドライバの緊張程度を推測する場合には、これら推測する地点の近傍のデータを用いて、それぞれの地点におけるドライバモデルを作成する。
【0083】
これによって、例えば、交差点から1km手前では、1km手前近傍のデータを用いて作成したドライバモデルを用いて緊張程度の推定を行い、500m手前では500m手前近傍のデータを用いて作成したドライバモデルを用いて緊張程度の推定を行う、という、推定地点に応じたドライバモデルを用いることができる。
例えば、ドライバが緊張している場合、交差点から手前500mの地点では、交差点から手前1kmよりもブレーキ操作やアクセル操作が神経質になってくると考えられる。
そのため、交差点からの距離に応じたドライバモデルを作成しておき、これらドライバモデルを当該距離における緊張程度の推定に用いることにより、より正確な推定が行えることを期待できる。
【0084】
また、ドライバモデル作成方法の他の例として、分岐点の手前から分岐点を通過した後のデータを用いて1つのドライバモデル(1つの緊張状態ドライバモデルと1つの平常状態ドライバモデル)を作成するように構成することもできる。
この場合、例えば、交差点の1km手前から交差点の通過後500mまでの区間で取得したデータを用いて1つのドライバモデルを作成する。
そして、ドライバの緊張程度を推定する地点で、このドライバモデルを共通して用いる。
【0085】
このように、交差点の手前から通過後までのデータを用いて1つのドライバモデルを作成することにより、交差点の手前でドライバの緊張が高まり始めてから、迷って、又は意図して案内経路を逸脱するまでの特徴を1つのドライバモデルに盛り込むことができる。
そのため、当該ドライバモデルの推定値によって、交差点の手前1km程度手前から、当該ドライバが迷って案内経路を逸脱する程度と、意図して逸脱する程度を見積もることができる。
【0086】
図10は、情報処理システム1が分岐点の手前で行う経路案内処理を説明するためのフローチャートである。
ここでは、分岐点の1km手前でドライバの緊張程度を推定し、これに基づいて経路案内を行う場合について説明する。
【0087】
まず、情報処理システム1は、ドライバから目的地の設定を受けるなどして、経路探索を行い、案内経路を設定する。
このように、情報処理システム1は、経路を取得する経路取得手段を備えている。
そして、情報処理システム1は、車両が案内経路の分岐点に接近すると、例えば、その1km手前にて、走行データを取得する(ステップ45)。
【0088】
次に、情報処理システム1は、進行方向に存在する分岐点の種類を判断し(ステップ50)、当該分岐点に対応する緊張状態ドライバモデルをドライバモデルDBから選択する(ステップ55)。
次に、情報処理システム1は、取得した走行データを緊張状態ドライバモデルにパラメータとして入力し、その事後確率P1を計算する(ステップ60)。
事後確率P1は、現在のドライバの状態が緊張状態ドライバモデルで規定される緊張状態である確率を表しており、事後確率P1が100%に近いほど、ドライバの緊張程度が高いと推定され、0%に近いほどドライバの緊張程度が低いと推定される。
【0089】
事後確率P1が80%未満の場合(ステップ65;N)、情報処理システム1は、ドライバの心理状態が平常であると判断し、通常通りに案内を行う(ステップ70)。
一方、事後確率P1が80%以上の場合(ステップ65;Y)、情報処理システム1は、ドライバが緊張状態にあると判断し、道路状況と事後確率P1に応じた詳細な案内を行う(ステップ75)。
【0090】
事後確率P1に応じた詳細な案内としては、例えば、通常の案内に加えて、早いタイミングでの音声案内(案内方法A)、ランドマークを参照物として案内(案内方法B)、右左折、レーンチェンジまでの信号機の数で案内(案内方法C)などを行う方法が可能である。
例えば、車両が連続交差点を左折する場合、従来のナビゲーション装置では、「○○m先の交差点を左へ」などと音声案内するが、案内方法Aでは、早めに「1km先の交差点を左へ」などと音声案内し、案内方法Bでは「進行方向左側のガソリンスタンドの次の交差点で左へ」などと音声案内し、案内方法Cでは「2つ目の信号機を左へ」などと音声案内することになる。
【0091】
更に、例えば、事後確率P1が80%以上85%未満の場合には、案内方法Aで案内を行い、事後確率P1が85%以上90%未満の場合には、案内方法Aと案内方法Bで案内を行い、事後確率P1が90%以上の場合には、案内方法A、案内方法B、及び案内方法Cで案内を行うといったように、事後確率P1が大きいほど詳細な案内を行うように構成することもできる。
【0092】
例えば、案内方法A、B、Cで案内する場合、情報処理システム1は、交差点の1km手前で「1km先の交差点を左へ」など音声案内した後、交差点に接近するにつれて、「3つ目の信号機を左へ」、「2つ目の信号機を左へ」、「進行方向左側のガソリンスタンドの次の交差点で左へ」、「次の信号機を左へ」などと案内する。
この他にも、例えば、通常はレーン案内がないところをレーン案内を開始したり、案内交差点までの距離を10m単位で音声案内したり、現在の進路でリルートを行ったり、更には、ドライバが運転操作に集中できるように案内を中止するように構成することも可能である。
【0093】
以上では、事後確率P1によってドライバの緊張状態を推定したが、緊張状態ドライバモデルによる事後確率P1と、平常状態ドライバモデルによる事後確率P2を用いてより精密な推定を行うことも可能である。
図11は、事後確率P1、P2を用いてドライバの緊張状態を推定する場合の経路案内処理を説明するためのフローチャートである。
図10と同じ処理には同じステップ番号を付し、説明を簡略化又は省略することにする。
【0094】
ステップ45とステップ50は、図10と同じである。
次に、情報処理システム1は、進行方向に存在する分岐点の種類を判断すると(ステップ50)、当該分岐点に対応する緊張状態ドライバモデルと平常状態ドライバモデルをドライバモデルDBから選択する(ステップ55)。
次に、情報処理システム1は、走行データを緊張状態ドライバモデルP1にパラメータとして入力して事後確率P1を計算し(ステップ60)、更に、走行データを平常状態ドライバモデルにパラメータとして入力して事後確率P2を計算する(ステップ63)。
【0095】
次に、情報処理システム1は、確率P=P1/(P1+P2)を計算し、これが70%より大きいか否かを判断する(ステップ67)。
このように、この例では、ドライバの緊張程度を確率P=P1/(P1+P2)で定義した。
確率Pが100%に近いほど、ドライバの緊張程度が高いと推定され、0%に近いほどドライバの緊張程度が低いと推定される。
【0096】
確率Pが70%未満の場合(ステップ67;N)、情報処理システム1は、ドライバの心理状態が平常であると判断し、通常通りに案内を行う(ステップ70)。
一方、確率Pが70%以上の場合(ステップ67;Y)、情報処理システム1は、ドライバが緊張状態にあると判断し、道路状況と確率Pに応じた詳細な案内を行う(ステップ75)。
【0097】
以上に説明した本実施の形態によって次のような効果を得ることができる。
(1)案内経路からの逸脱と、生体情報による緊張の検出により、ドライバが迷って案内経路から逸脱したのか、あるいは、意図して逸脱したのかを識別することができる。
(2)案内経路からの逸脱と、生体情報による緊張の検出により、ドライバが案内経路に迷って緊張状態にある場合の走行データや他のデータを取得することができる。
(3)ドライバが案内経路に迷って緊張状態にある場合のデータを用いて緊張状態ドライバモデルを自動的に作成することができる。
【0098】
(4)ドライバが意図して案内経路を逸脱した場合のデータを用いて平常状態ドライバモデルを作成することができる。
(5)緊張状態ドライバモデル、あるいは、緊張状態ドライバモデルと平常状態ドライバモデルの組合せにより、ドライバが案内経路に迷って緊張している確率を計算することができる。
(6)ドライバモデルを作成した後は、生体情報を用いずとも、ドライバの緊張状態を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】情報処理システムの構成を説明するための図である
【図2】ドライバモデルの作成と、作成したドライバモデルに基づく運転操作の推定に関する概念を説明するための図である。
【図3】ドライバの緊張状態を心拍数で判断する方法を説明するための図である。
【図4】ドライバの緊張状態を心電図で判断する方法を説明するための図である。
【図5】ドライバの緊張状態を心電図で判断する方法を説明するための図である。
【図6】情報処理システムが場合分けを行う分岐の形状の一覧を表した表である。
【図7】分岐点の形状を模式的に示した図である。
【図8】データ収集処理などを説明するためのフローチャートである。
【図9】ドライバモデルを作成する手順を説明するためのフローチャートである。
【図10】事後確率P1を用いて経路案内処理を説明するためのフローチャートである。
【図11】事後確率P1、P2を用いて経路案内処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0100】
1 情報処理システム
2 ECU
3 生体計測装置
4 車両情報取得装置
5 環境情報取得装置
6 GPS
7 画像入力装置
8 記憶装置
9 入力装置
10 表示装置
11 音声出力装置
12 通信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を案内する経路を取得する経路取得手段と、
前記取得した経路を案内する案内手段と、
前記車両が前記案内に係る経路から逸脱したことを検出する逸脱検出手段と、
生体情報からドライバが緊張状態か否かを判断する緊張状態判断手段と、
前記逸脱検出手段で逸脱を検出し、かつ、前記緊張状態判断手段が緊張状態であると判断した場合の緊張状態走行データを取得する緊張状態走行データ取得手段と、
前記取得した緊張状態走行データを用いて緊張状態ドライバモデルを作成する緊張状態ドライバモデル作成手段と、
を具備したことを特徴とするドライバモデル作成装置。
【請求項2】
逸脱地点の経路の形状によって、前記取得した緊張状態走行データを分類する緊張状態走行データ分類手段を具備し、
前記緊張状態ドライバモデル作成手段は、前記分類した緊張状態走行データを用いて前記経路の形状ごとに緊張状態ドライバモデルを作成することを特徴とする請求項1に記載のドライバモデル作成装置。
【請求項3】
前記車両が経路から逸脱した方向によって、前記取得した緊張状態走行データを分類する第2の緊張状態走行データ分類手段を具備し、
前記緊張状態ドライバモデル作成手段は、前記逸脱した経路の形状と、前記逸脱した方向ごとに前記緊張状態ドライバモデルを作成することを特徴とする請求項2に記載のドライバモデル作成装置。
【請求項4】
前記緊張状態ドライバモデルは、前記車両の走行に伴い検出されるN種類の特徴量の時系列データを学習データとし、N次元空間における各データが存在する確率分布によって規定されていることを特徴とする請求項1、請求項2、又は請求項3に記載のドライバモデル作成装置。
【請求項5】
前記逸脱検出手段で逸脱を検出し、かつ、前記緊張状態判断手段が緊張状態でないと判断した場合の平常状態走行データを取得する平常状態走行データ取得手段と、
前記取得した平常状態走行データを用いて平常状態ドライバモデルを作成する平常状態ドライバモデル作成手段と、
を具備したことを特徴とする請求項1から請求項4までのうちの何れか1の請求項に記載のドライバモデル作成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−264880(P2009−264880A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113767(P2008−113767)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】