説明

ドリル検査装置、ドリル検査方法、およびそのプログラム

【課題】ドリルの研磨や破棄のタイミングをバラツキなく判断することは難しい。
【解決手段】撮像部20は、ドリルの刃先を回転軸に沿う方向に撮像する。測定部34は、撮像部20により撮像された画像内の刃先領域の形状情報を測定する。記憶部36は、ドリルのライフサイクル上の研磨回数を反映させたステージごとに、そのドリルの刃先領域の形状情報の参照データを保持する。判定部38は、測定部34により測定された形状情報から、ドリルの刃先の状態を判定する。たとえば、測定部34により測定された形状情報と、記憶部36に保持されたステージごとの参照データを照合することにより、検査対象のドリルが該当するステージを特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント基板などに穴を空けるためのドリルを検査するためのドリル検査装置、ドリル検査方法、およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスの微細化が進むなか、プリント基板に空けられる穴も益々高い精度が要求されている。穴の大きさや形状はドリルの刃先が摩耗したり欠損したりすると変化してしまうため、ドリルの刃先を検査して、必要に応じて研磨して再利用したり、破棄したりする必要がある。ドリルの研磨や破棄のタイミングは、空けた穴数により判断することが一般的である。
【0003】
特許文献1は、参照値とドリル刃データから求めた値との比較を行って良否を判別する手法を開示する。
【特許文献1】特開平1−216752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ドリルの研磨や破棄のタイミングを穴数で判断する場合、穴を空けた基板の硬度や材質の違いなどにより、本来の研磨や破棄すべきタイミングからずれてしまう場合がある。また、研磨や破棄のタイミングを人為的に判断する場合、熟練の検査員が必要であり、作業自体も煩雑である。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ドリルの状態を簡素な処理で的確に判定することができるドリル検査装置、ドリル検査方法、およびそのプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のドリル検査装置は、撮像されたドリルの刃先画像内の刃先領域の形状情報を測定する測定部と、測定部により測定された形状情報から、ドリルの刃先の状態を判定する判定部と、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ドリルの状態を簡素な処理で的確に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明の実施形態を詳細に説明する前に、ドリルのライフサイクルについて説明する。ドリルは使用回数が増大するにしたがって、それぞれの切刃が摩耗し、回転軸に沿う方向にみた切刃の幅が細くなっていく。空ける穴の精度が損なわれる程度に切刃が摩耗すると、刃先部分を研磨で鋭くして、繰り返し利用することにより、ドリルの寿命を延ばす作業が行われる。このような研磨は費用を抑えるため、ドリルが破棄されるまでに複数回行われることが多い。この観点から、ドリルのライフサイクルを研磨の回数に応じて複数のステージに分類することができる。また、同じ回数の研磨が施されたドリルを使用可能な状態と、摩耗が進むなどして使用すべきでない状態に分類することができる。
【0010】
図1は、二枚の切刃をもつドリルの刃先をライフサイクル上のステージ別に示す図である。図1Aは新品のドリルの刃先を回転軸に沿う方向に撮像した図であり、図1Bは新品の使用により摩耗が進んだドリルの刃先を撮像した図であり、図1Cは研磨一回後のドリルの刃先を撮像した図であり、図1Dは研磨一回後の使用により摩耗が進んだドリルの刃先を撮像した図であり、図1Eは研磨二回後のドリルの刃先を撮像した図であり、図1Fは研磨二回後の使用により摩耗が進んだドリルの刃先を撮像した図であり、図1Gは欠損状態にあるドリルの刃先を撮像した図である。ここでは、研磨二回後のドリルが使用により摩耗が進んだ状態になると破棄することを前提としているため、欠損状態を除くと、ドリルは刃先の状態に応じて六つのステージに分類される。研磨の回数は、刃先や利用者の判断により前後する。以下、本実施の形態では、ドリルのライフサイクルを六つのステージに分類する例を説明する。
【0011】
ここで、各研磨回数のドリルにて、使用により摩耗が進んだ状態か使用可能な状態にあるかを分類するために、ドリルの使用度、たとえば空けた穴数を用いて判断する。たとえば、この穴数が穴の品質が保証されなくなる実験的、経験的に求められた基準値を超えたとき、使用により摩耗が進んだ状態と判断することができる。
【0012】
図2は、本発明の実施の形態におけるドリル検査装置100の構成を示す図である。ドリル検査装置100は、撮像部20、演算部30および表示部40を備える。演算部30は、画像処理部32、測定部34、記憶部36および判定部38を含む。演算部30の構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた画像処理プログラムや数値解析プログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。また、演算部30は、撮像部20を搭載した観測装置と汎用コンピュータの連携で実現されてもよく、画像処理部32および測定部34を観測装置に含め、記憶部36および判定部38を汎用コンピュータに含めてもよい。
【0013】
撮像部20は、ドリル10の刃先を回転軸に沿う方向に撮像する。撮像部20は、CCD(Charge Coupled Devices)センサまたはCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)イメージセンサを含み、図示しない光源により投影されたドリル10の刃先の画像を取得する。本実施の形態では、後述するように単純なパラメータを使用するため、低解像度の画像でよく、たとえばφ0.5のドリルを光学30倍程度で撮像する。撮像部20は、取得したドリル10の刃先を含む画像を電気信号に変換し、画像処理部32に出力する。
【0014】
演算部30は、撮像部20により撮像された画像内の刃先が写った領域(以下、刃先領域という)を参照して所定のパラメータを特定し、そのパラメータからドリルの摩耗の程度や、ドリルのライフサイクル上のステージを求める。所定のパラメータはn(nは自然数)次元で規定され、刃先領域の長さ、幅、ならびに切刃の幅を結んだ形状曲線から得られる面積、平均および分散のうち、少なくとも一つを含む。また、切刃の長さを結んだ形状曲線から得られる面積、平均および分散のいずれか一つを含んでもよい。また、刃先領域の輪郭の接線または角度を含んでもよい。また、刃先の形状から得られ情報に限らず、空けた穴数などを含んでもよい。これらパラメータの詳細は後述する。
【0015】
画像処理部32は、撮像部20から入力された画像の濃度値を調整する。具体的には、所定のしきい値を用いて各画素値を二値化し、刃先領域を「0」または「1」、背景領域を「1」または「0」に調整する。
【0016】
画像処理部32は、二値化した画像の位置合わせを行う。たとえば、画像内における切刃の中心側の先端(以下、本明細書では単に先端という)の位置、および切刃の外周側の先端(以下、本明細書ではエッジという)の位置が所定の基準位置に合わさるよう、刃先領域を移動または回転させる。
【0017】
測定部34は、画像処理部32により処理された画像内の刃先領域の形状情報を測定する。形状情報は、上記パラメータのうち刃先の形状から得られる情報である。詳細は後述する。
【0018】
記憶部36は、ドリルのライフサイクル上のステージごとに、そのドリルの刃先領域の形状情報の参照データを保持する。この参照データは、ステージごとに、多数たとえば100枚程度のサンプリング画像から学習して生成したデータである。参照データとして、たとえば、多数のサンプリング画像から得られる刃先領域の形状情報、たとえば長さおよび幅のそれぞれの平均値をステージごとに求め、刃先領域の長さおよび幅で規定された二次元パラメータ空間における各ステージの中心座標としてもよい。また、その二次元パラメータ空間に、各ステージのサンプリング画像から得られる刃先領域の形状情報をプロットしていき、その結果をもとに所定の線形識別器または非線形識別器、たとえばニューラルネットワークやサポートベクトルマシーンなどを構築して、上記二次元パラメータ空間をステージごとに領域分割してもよい。この場合、各領域の境界線など、各領域を特定するためのデータが上記参照データとなる。
【0019】
また、記憶部36は、ドリルのライフサイクル上のステージごとに、そのドリルの使用による、その刃先領域の形状情報で規定された変化特性をさらに保持してもよい。各ステージにおけるドリルの使用度は、空けた穴数で特定される。たとえば、研磨一回済みのドリルが実験的、経験的に3000穴の穴を空けると使用により摩耗が進んだ状態のステージに遷移させると定めた場合、1500穴の穴を空けた状態が使用度50%の状態となる。
【0020】
判定部38は、測定部34により測定された形状情報から、ドリルの刃先の状態を判定する。具体的には、測定部34により測定された形状情報と、記憶部36に保持されたステージごとの参照データを照合することにより、検査対象のドリルが該当するステージを特定する。
【0021】
たとえば、各ステージの中心座標が参照データとして保持されている場合、判定部38は、測定された長さおよび幅からなる形状情報で規定される座標と、各ステージの中心座標を比較し最も近い中心座標を特定し、その中心座標のステージを、検査対象のドリルが位置するステージに特定する。また、刃先領域の長さおよび幅からなる形状情報で規定された二次元パラメータ空間がステージごとにあらかじめ領域分割されている場合、判定部38は、測定された長さおよび幅からなる形状情報で規定される座標がいずれの領域に属するか判断することにより、検査対象のドリルが該当するステージを特定する。
【0022】
また、判定部38は、測定部34により測定された形状情報と、記憶部36に保持された変化特性を照合することにより、検査対象のドリルが該当するステージにおける摩耗の程度を求めてもよい。すなわち、当該変化特性を表す、刃先領域の長さおよび幅からなる形状情報で規定された推移曲線上において、測定された長さおよび幅からなる形状情報で規定された座標から最も近い座標を特定し、その推移曲線上の座標の位置から使用の程度、換言すれば摩耗の程度を特定する。
【0023】
表示部40は、演算部30により特定された、検査対象のドリルが該当するライフサイクル上のステージ、およびそのステージにおける摩耗の程度を表示する。また、検査員に刃先の状態を知らせ、研磨や破棄を促すメッセージを表示してもよい。さらに、撮像部20で撮像した刃先領域の画像を表示してもよい。あるいは、複数の刃先をカートリッジにまとめて検査する場合、各ドリルの状態を表形式などにして表示してもよい。
【0024】
図3は、刃先領域を含む画像から特定されるパラメータを説明するための図である。図3にて、二枚の切刃で構成される刃先領域の長さLは、二枚の切刃のそれぞれエッジ側において、最も尖った位置の長手方向の座標値間の長さで規定される。ドリル刃の直径とほぼ一致する。刃先領域の幅Wは、二枚の切刃において、最も外側に膨らんだ位置の短手方向の座標値間の長さで規定される。図3における二つの座標軸は画素数で規定される。この画素数は、撮影倍率や画像処理における拡大率または縮小率を参照することにより、実際の長さに変換することができる。
【0025】
測定部34は、刃先領域の長さLおよび幅Wに加えて、各切刃の幅X1〜Xm(mは自然数)を長手方向に行ごとに測定してもよい。また、各切刃の長さY1〜Yp(pは自然数)を短手方向に列ごとに測定してもよい。各切刃の行ごとの幅X1〜Xmを結んでいくと、後述する幅X1〜Xmに関する形状曲線を得ることができる。
【0026】
図4は、刃先領域の形状情報で規定された二次元パラメータ空間にサンプルデータをプロットした図である。この二次元パラメータ空間は、縦軸に幅、横軸に長さをとる。図4を参照すると、各ステージのサンプルデータから有意な領域分割が可能であることが分かる。
【0027】
図5は、サンプルデータのアスクペクト比(幅/長さ)と、使用の程度との関係を示す図である。縦軸はサンプルデータのアスペクト比を示し、横軸はステージの遷移と各ステージにおける穴数の推移を示す。図5では、左の目盛りから、新品のドリルで空けた穴が0穴、新品で1000穴、新品で2000穴、新品で4000穴、研磨一回済みの再利用のドリルで0穴、研磨一回済みの再利用のドリルで1000穴と、使用の程度が上がる方向に続いていく。図5に示すように、新品、研磨一回済みの再利用、研磨二回済みの再利用のそれぞれのステージについて、右下に傾く推移曲線を得ることができる。判定部38は、これら推移曲線上において、検査対象ドリルのアスペクト比が最も近い点を特定することにより、刃先のライフサイクル上のステージや摩耗の程度を精度よく推測することができる。
【0028】
図6は、表示部40に表示されるドリルの検査結果画面50の一例を示す。この画面50は、検査対象ドリルの該当するステージ、およびそのステージにおける摩耗度を少なくとも表示する。ステージ欄52は、検査対象ドリルの該当する現在のステージを示し、図6の例では研磨一回済みの再利用のステージに該当することを示している。利用状況欄54は、そのドリルの利用状況を示し、未使用、使用中および利用不可のいずれかを表示する。第1摩耗度欄56は、そのステージにおける摩耗度を数値で表示する。第2摩耗度欄58は、そのステージにおける摩耗度をゲージで表示する。
【0029】
図7は、本実施の形態に係るドリル検査装置100の基本動作を示すフローチャートである。画像処理部32は、撮像部20で撮像されたドリルの刃先画像の濃度値を調整する(S60)。画像処理部32は、濃度値を調整して二値化した画像の位置合わせを行う(S62)。なお、濃度値の調整を行わず、原画像を用いて以降の処理を行ってもよい。測定部34は、画像処理部32により処理された画像内の刃先領域の形状情報を測定する(S64)。判定部38は、測定された刃先領域の形状情報と、記憶部36に登録されているステージごとの参照データとを照合する(S66)。判定部38は、照合の結果、検査対象ドリルの刃先の状態を判定する(S68)。たとえば、そのドリルがライフサイクル上のどのステージにいるか特定する。
【0030】
以上説明したように本実施の形態によれば、ドリルの状態を簡素な処理で的確に判定することができる。すなわち、検査対象ドリルが該当するライフサイクル上のステージを、刃先領域の長さおよび幅などの形状情報を用いて定量的に判定することができるため、研磨や破棄のタイミングを的確に判定することができる。定量的に判定することができるため、穴数に依存した研磨や破棄のタイミング判定より精度よく判定することができる。
【0031】
また、刃先領域の長さおよび幅からなる形状情報といった簡単に測定することができる値をパラメータとして使用するため、簡素な処理で判定することができ、高速処理が可能である。
【0032】
また、刃先領域の形状情報で規定された変化特性を使用することにより、摩耗の程度を推測することができる。上記特許文献1は、不良品を検出する処理しか行っておらず、摩耗の程度まで特定することができない。
【0033】
また、図4、図5に示したように、ステージごとのサンプルデータから統計的に得た刃先領域の形状情報で分割される各ステージの領域、およびステージ単位で求めた変化特性は、ステージや摩耗度を特定するのに良好なものであり、検査対象ドリルの該当するステージを精度よく判定することができる。
【0034】
また、刃先領域の形状情報をパラメータとして使用するため、外周座標を求めるような厳密性は必要なく、比較的、低解像度の画像でも判定精度を保つことができる。よって、カメラのスペックを上げる必要がなく、簡素な構成で精度の高い検査を実現することができる。
【0035】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0036】
以下、代表的な変形例について説明する。本変形例は、刃先領域の長さおよび幅といった形状情報に加えて、他のパラメータを追加することにより精度をさらに向上させるものである。本変形例では、追加パラメータとして図3に示した、刃先領域に含まれる切刃の幅X1〜Xmを長手方向に測定して、それを結んだ形状曲線から得られるパラメータを使用する。より具体的には、刃先領域に含まれる切刃の幅を長手方向に所定の行数、積分して得た面積を使用する。
【0037】
記憶部36は、刃先領域に含まれる切刃の幅X1〜Xmを長手方向に所定の行数分(m行)、積分して得た面積を参照データの一部として、ステージ単位でさらに保持する。ここで、所定の行数とは、各切刃のエッジから先端までのすべての画素数であってもよいし、対称となる一方の切刃のエッジから他方の切刃のエッジまでのすべての画素数であってもよいし、各切刃のエッジから数十画素程度であってもよい。なお、二枚の切刃のうち、両方について上記面積を求めてもよいし、一方についてのみ面積を求めてもよい。
【0038】
測定部34は、検査対象のドリルの刃先領域に含まれる切刃の幅を長手方向に少なくとも所定の行数、測定する。
【0039】
記憶部36は、当該参照データとして、多数のサンプリング画像から得られた刃先領域の長さ、幅および当該面積のそれぞれの平均値をステージごとに求め、刃先領域の長さ、幅および当該面積で規定された三次元パラメータ空間における各ステージの中心座標としてもよい。また、その三次元パラメータ空間に、各ステージのサンプリング画像から得られる刃先領域の長さ、幅および当該面積をプロットしていき、その結果をもとに所定の線形識別器または非線形識別器、たとえばニューラルネットワークやサポートベクトルマシーンなどを構築して、上記三次元パラメータ空間をステージごとに領域分割してもよい。この場合、各領域の境界平面など、各領域を特定するためのデータが上記参照データとなる。
【0040】
また、記憶部36は、ドリルのライフサイクル上のステージごとに、そのドリルの使用による、その刃先領域の長さ、幅および上記面積で規定された変化特性をさらに保持してもよい。
【0041】
判定部38は、測定部34により測定された行数分の切刃の幅X1〜Xmを積分して面積を求める。この面積を求める際、切刃の幅X1〜Xmを結んだ形状曲線を所定のフィルタを用いて平滑化することで、演算量を軽減することができる。詳細は後述する。
【0042】
判定部38は、測定部34により測定された長さ、幅および上記面積と、記憶部36に保持された参照データを照合することにより、検査対象のドリルが該当するステージを特定する。
【0043】
たとえば、各ステージの中心座標が参照データとして保持されている場合、判定部38は、測定された刃先領域の長さ、幅および求めた面積で規定される座標と、各ステージの中心座標を比較し最も近い中心座標を特定し、その中心座標のステージを、検査対象のドリルが該当するステージに特定する。また、刃先領域の長さ、幅および上記面積で規定された三次元パラメータ空間がステージごとにあらかじめ領域分割されている場合、判定部38は、測定された長さ、幅および求めた面積で規定される座標がいずれの領域に属するか判断することにより、検査対象のドリルが該当するステージを特定する。
【0044】
また、判定部38は、測定部34により測定された長さ、幅および求めた面積と、記憶部36に保持された推移曲線とを比較し、最も近い曲線上の位置を特定するなどして、測定された長さなどと変化特性を照合することにより、検査対象のドリルが該当するステージにおける摩耗の程度を求めてもよい。
【0045】
図8は、切刃の幅X1〜Xmを結んだ形状曲線を示す図である。縦軸は切刃の幅X1〜Xmを偏差で示し、横軸は切刃の長手方向の行数を示す。ここでの偏差は、それぞれの切刃の幅X1〜Xmから、それら切刃の幅X1〜Xmの平均値を引いた値である。図8を参照すると、切刃のエッジ部分と先端部分が細くなることが分かる。なお、判定部38は、実験的、経験的に求めたしきい値を超える偏差が出現した場合、欠損があると判定することができる。また、隣接する偏差間に、実験的、経験的に求めたしきい値を超える変化があった場合に欠損があると判定してもよい。
【0046】
図9は、切刃の幅X1〜Xmを結んだ形状曲線から面積を求める様子を示す図である。図9は、エッジから40行分、偏差で規定された切刃の幅X1〜Xmを積分して面積を求める例を示す。この面積を求める際、当該形状曲線をGaussianフィルタを用いて、平滑化してもよい。また、各偏差を0から1までの値に正規化する。あるいは、面積の代わりに標準偏差や分散を用いてもよい。
【0047】
図10は、切刃の幅X1〜Xmを結んだ形状曲線から得た面積のサンプルデータを示す図である。図10では、欠損状態を含めた七つのステージについて、七つずつサンプルデータを得ている。各面積は、エッジから40行分、積分して得たものである。ステージごとに一定の傾向が存在することが分かる。当然のことながら、新品や研磨済みのドリルは面積が大きい傾向をもつ。
【0048】
以上説明したように本変形例によれば、上述した実施の形態より検査の精度をさらに高めることができる。すなわち、刃先領域の長さおよび幅に加えて、ステージを特定するのに有意な、上記面積をパラメータに含めることにより、どのステージに該当するかをより高精度に特定することができる。また、欠損状態を容易に検出することもできる。
【0049】
なお、上記変形例では、刃先領域の長さおよび幅に加えて、切刃の幅X1〜Xmを結んだ形状曲線から求まる面積を用いたが他のパラメータを採用してもよい。たとえば、切刃の幅X1〜Xmの平均値、分散または標準偏差を用いてもよい。また、撮像された画像から得られる刃先領域に含まれる切刃の幅X1〜Xm、基準画像の対応する切刃の幅との差分の平均値、分散、標準偏差またはそれら差分を結んだ曲線の面積を用いてもよい。また、切刃の幅X1〜Xmではなく、切刃の長さY1〜Xpについての同様のパラメータを用いてもよい。さらに、三次元パラメータ空間ではなく、これらを組合わせて四次元以上のパラメータ空間を用いてもよい。
【0050】
また、別な変形例について説明する。本変形例では、刃先領域の長さおよび幅や面積といった形状情報に加えて、またはその少なくとも一つに代えて他のパラメータを用いることにより判定を行ったり、精度をさらに向上させたりするものである。本変形例では、追加パラメータとして、刃先領域の輪郭の接線ならびに角度を測定して、パラメータとして使用する。以下、具体例を示す。
【0051】
上記図1に示したように、ドリルの刃先は使用前のものは角が鋭利なのに対し、使用により摩耗が進んだものは滑らかになる。この性質を、Gaborフィルタを用いて方向特性として抽出する。すなわち、刃先画像にGaborフィルタをかけて水平方向成分を抽出し、その成分をHough変換して直線を抽出する。その直線の傾きを当該パラメータとする。このパラメータを上記参照データの一部として含めることができる。
【0052】
ここで、Gaborフィルタについて説明する。下記(式1)は、Gabor関数を示す。
F(x,y)=e−π(x2a2+y2b2)cos(u+v) ・・・(式1)
u=fcosθ,v=fsinθ,f:frequency
【0053】
出力画像F(x,y)は、入力画像をGabor関数のウェーブレットで表現したものと考えられ、そのウェーブレットの範囲特性をパラメータa,b、その周期特性をパラメータu,vによって変化させることができる。このように、Gaborフィルタはフィルタの方向が変化することにより方位選択性を持つことができ、フィルタの周波数が変化することにより、全体的な特徴から局所的な特徴までを抽出することができる。
【0054】
また、上述した実施の形態では、判定部38は、測定して得た座標と、ステージごとの中心座標を照合する際、単純なユークリッド距離を算出して、最も近いステージの中心座標を求めた。この点、学習データの分散、すなわち広がりを考慮したマハナノビス距離を算出してもよい。
【0055】
また、上記図6では一本のドリルの検査結果画面50の例を示した。図11は、表示部40に表示される複数本のドリルの検査結果画面60の一例を示す図である。この画面60は、複数のドリルをカートリッジにまとめて連続して検査した場合などに適した表示方法である。図11は、4×4のカートリッジに計16本、装着されているドリルを連続して検査したときの検査結果を一画面に示したものである。各表示窓61は、各ドリルの摩耗度を示している。塗りつぶし領域の大きさで摩耗度を視覚的に示している。その他、色分けを行って摩耗度を表示してもよい。たとえば赤に近づくほど摩耗度が高い状態を示すといった表示方法が可能である。図11の表示形態と図6の表示形態を合わせて表示し、該当するステージも同一画面で認識できるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1A】新品のドリルの刃先を回転軸に沿う方向に撮像した図である。
【図1B】新品の使用により摩耗が進んだドリルの刃先を撮像した図である。
【図1C】研磨一回後のドリルの刃先を撮像した図である。
【図1D】研磨一回後の使用により摩耗が進んだドリルの刃先を撮像した図である。
【図1E】研磨二回後のドリルの刃先を撮像した図である。
【図1F】研磨二回後の使用により摩耗が進んだドリルの刃先を撮像した図である。
【図1G】欠損状態にあるドリルの刃先を撮像した図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるドリル検査装置の構成を示す図である。
【図3】刃先領域を含む画像から特定されるパラメータを説明するための図である。
【図4】刃先領域の形状情報で規定された二次元パラメータ空間にサンプルデータをプロットした図である。
【図5】サンプルデータのアスクペクト比(幅/長さ)と、使用の程度との関係を示す図である。
【図6】表示部に表示されるドリルの検査結果画面の一例を示す図である。
【図7】本実施の形態に係るドリル検査装置の基本動作を示すフローチャートである。
【図8】切刃の幅を結んだ形状曲線を示す図である。
【図9】切刃の幅を結んだ形状曲線から面積を求める様子を示す図である。
【図10】切刃の幅を結んだ形状曲線から得た面積のサンプルデータを示す図である。
【図11】表示部に表示される複数本のドリルの検査結果画面の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
10 ドリル、 20 撮像部、 30 演算部、 32 画像処理部、 34 測定部、 36 記憶部、 38 判定部、 40 表示部、 100 ドリル検査装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像されたドリルの刃先画像内の刃先領域の形状情報を測定する測定部と、
前記測定部により測定された形状情報から、前記ドリルが該当する、研磨回数を反映させたライフサイクル上のステージ、および前記ドリルの摩耗の程度の少なくとも一方を特定する判定部と、
を備えることを特徴とするドリル検査装置。
【請求項2】
ドリルのライフサイクル上における研磨回数を反映させたステージごとに、そのドリルの刃先領域の長さおよび幅の参照データを保持する記憶部をさらに備え、
前記測定部は、前記刃先画像内の刃先領域の長さおよび幅を測定し、
前記判定部は、前記測定部により測定された長さおよび幅と、前記記憶部に保持されたステージごとの参照データを照合することにより、検査対象のドリルが該当するステージを特定することを特徴とする請求項1に記載のドリル検査装置。
【請求項3】
前記記憶部は、ドリルの使用による、その刃先領域の長さおよび幅で規定された変化特性を前記ステージ単位でさらに保持し、
前記判定部は、前記測定部により測定された長さおよび幅と、前記記憶部に保持された変化特性を照合することにより、前記検査対象のドリルが該当するステージにおける摩耗の程度を求めることを特徴とする請求項2に記載のドリル検査装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記刃先領域に含まれる切刃の幅を長手方向にその切刃のエッジから所定の長さだけ積分して得た面積を前記参照データの一部として、前記ステージ単位でさらに保持し、
前記測定部は、前記検査対象のドリルの刃先領域に含まれる切刃の幅を長手方向に少なくとも前記所定の長さ分、測定し、
前記判定部は、前記測定部により測定された切刃の幅を積分して面積を求め、前記測定部により測定された長さ、幅および前記面積と、前記記憶部に保持された参照データを照合することを特徴とする請求項2または3に記載のドリル検査装置。
【請求項5】
撮像されたドリルの刃先画像内の刃先領域を参照して所定のパラメータを特定し、そのパラメータから前記ドリルの摩耗の程度を求める演算部と、
を備えることを特徴とするドリル検査装置。
【請求項6】
検査対象のドリルが該当する、研磨回数を反映させたライフサイクル上のステージ、およびそのステージにおける摩耗の程度を特定する演算部と、
前記演算部により特定された、前記ステージおよび前記摩耗の程度を表示する表示部と、
を備えることを特徴とするドリル検査装置。
【請求項7】
撮像されたドリルの刃先画像内の刃先領域の長さおよび幅を測定する測定ステップと、
前記測定ステップにより測定された形状情報から、前記ドリルが該当する、研磨回数を反映させたライフサイクル上のステージ、および前記ドリルの摩耗の程度の少なくとも一方を特定する判定する判定ステップと、
を備えることを特徴とするドリル検査方法。
【請求項8】
ドリルのライフサイクル上の研磨回数を反映させたステージごとに、そのドリルの刃先領域の長さおよび幅の参照データをあらかじめ登録する登録ステップをさらに備え、
前記測定ステップは、前記刃先画像内の刃先領域の長さおよび幅を測定し、
前記判定ステップは、前記測定ステップにより測定された長さおよび幅と、前記登録ステップにより登録されたステージごとの参照データを照合することにより、検査対象ドリルが該当するステージを特定することを特徴とする請求項7に記載のドリル検査方法。
【請求項9】
撮像されたドリルの刃先画像内の刃先領域の長さおよび幅を測定する測定処理と、
前記測定処理により測定された形状情報から、前記ドリルが該当する、研磨回数を反映させたライフサイクル上のステージ、および前記ドリルの摩耗の程度の少なくとも一方を特定する判定処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とするドリル検査プログラム。

【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図1G】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−292429(P2008−292429A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141072(P2007−141072)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【特許番号】特許第4024832号(P4024832)
【特許公報発行日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(507173872)株式会社リミックスポイント (4)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】