説明

ハイブリッド車両の内燃機関制御装置及び方法

【課題】 ハイブリッド車両を効率良く動作させる。
【解決手段】 ハイブリッドシステム10において、トルク算出部100bはモータジェネレータMG1のトルク反力からエンジン200のトルクを算出する。また、燃費率算出部100cは、係る算出されたエンジントルクと、燃料噴射量及びエンジン回転数とに基づいて、エンジン200における瞬間的な燃料消費率を算出する。動作線更新部100dは、この算出された燃料消費率に基づいて動作点学習処理を実行し動作線を更新する。動作点設定部100fは、通常この動作線上で動作点を設定するが、要求駆動力が、車速と要求駆動力との関係を表す制御マップ31上でエネルギ再循環が発生するとされる領域に存在する場合には、エンジン200の動作点を、駆動系の効率を含めたシステム効率が最大となる動作点に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源として内燃機関及びモータジェネレータを備えるハイブリッド車両において内燃機関の動作状態を制御する、ハイブリッド車両の内燃機関制御装置及び方法の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1に開示された車両の駆動力制御装置(以下、「従来の技術」と称する)がある。従来の技術によれば、ハイブリッド車において、予め設定された最適燃費線に基づいてエンジンの動作状態が制御されるため、目標となるエンジン回転数に応じて、燃料消費率が最小となるようなエンジントルクを求めることが可能であるとされている。
【0003】
尚、ハイブリッド車において、駆動パワー要求値に対し、予め記憶されたエンジン特性マップより最適効率点となる動作点を取得し、この動作点が維持されるようにスロットル開度を制御する技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、ハイブリッド車において、消費電力と蓄電状態とに基づいて、運転領域全体でエンジンの燃料消費率が最小となるように内燃機関及び電動機の動作状態を制御する技術も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
更に、ディーゼルエンジンにおいて、燃料の噴射量と走行距離から瞬間的な燃料消費率を算出する技術も提案されている(例えば、特許文献4又は5参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2000−179371号公報
【特許文献2】特開平10−98803号公報
【特許文献3】特開2002−171604号公報
【特許文献4】特開平8−334052号公報
【特許文献5】特開平8−334051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
内燃機関における最適燃費線は、例えば大気圧や湿度などの環境条件によって変化する。然るに、従来の技術においてはこのような変化が考慮されていない為、予め設定された最適燃費線に基づいて燃料消費率が最小となるように内燃機関を動作させても、効率が相対的に劣化し燃料が無駄に消費されることがある。
【0008】
一方、最適燃費線が正しいものである場合、内燃機関自体は確かに高効率に動作させることが可能である。ところが実際には、内燃機関の動作状態によって駆動系の効率が変化するため、内燃機関を最適燃費線上に基づいて動作させることによって、駆動系の効率を含めた総合的な効率はかえって悪くなる場合がある。即ち、内燃機関のみの効率を考慮しても、ハイブリッド車両を真に効率良く動作させることが場合によっては困難であるという技術的な問題点がある。
【0009】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、ハイブリッド車両を効率良く動作させ得るハイブリッド車両の内燃機関制御装置及び方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御装置は、動力源としてモータジェネレータ及び内燃機関を備えるハイブリッド車両において、前記内燃機関を制御するハイブリッド車両の内燃機関制御装置であって、前記内燃機関のトルクを特定するトルク特定手段と、該特定されたトルク、前記内燃機関の回転数及び前記内燃機関における燃料噴射量に基づいて、前記内燃機関における瞬間的な燃料消費率を算出する燃料消費率算出手段と、前記トルク及び前記回転数を夫々第1軸及び第2軸とする座標平面上で予め設定される動作線を、該動作線上で前記内燃機関の出力に対応する点における前記燃料消費率が小さくなるように更新する動作線更新手段と、前記内燃機関の動作点を、(i)前記更新が行われた動作線上で前記内燃機関に要求される出力に対応する点又は(ii)前記座標平面において前記要求される出力に対応して描かれる等出力線上で前記モータジェネレータを含む駆動系の伝達効率と前記内燃機関の効率とに基づいて規定されるシステム効率が高くなる点に設定するための夫々第1設定処理又は第2設定処理を選択的に行う動作点設定手段と、前記内燃機関の動作状態を該設定された動作点によって規定される状態に制御する制御手段とを具備することを特徴とする。
【0011】
本発明におけるモータジェネレータは、バッテリから供給される電気エネルギを機械エネルギに変換することによって、電動機として動作する機能と、機械エネルギを電気エネルギに変換することによって、例えばバッテリ等に電力を供給する発電機として動作する機能とを有する。尚、モータジェネレータは予め、主として電動機(モータ)として使用されるモータジェネレータと、主として発電機(ジェネレータ)として使用されるモータジェネレータの二種類搭載されていてもよい。このような内燃機関とモータジェネレータとを具備する本発明に係るハイブリッド車両においては、モータジェネレータによって適宜内燃機関の動力をアシストすることが可能な所謂パラレル方式の制御が好適に行われる。
【0012】
本発明における「内燃機関」とは、燃料の燃焼を動力に変換する機関を総称するが、好適にはガソリン、ディーゼル、LPG等を燃料とするエンジンなどを指す。
【0013】
内燃機関には予め動作線が設定されている。ここで、本発明における「動作線」とは、内燃機関のトルク及び内燃機関の回転数を夫々第1軸及び第2軸とする座標平面上で内燃機関の動作状態を規定する線であり、予め内燃機関の出力値に対応付けられた複数の点によって規定される、好適にはこれら複数の点を繋げて得られる線を表す。これら動作線を規定する個々の点は、対応関係にある内燃機関の出力値において燃料消費率(以下、適宜「燃費率」と称する)が小さくなる、即ち効率が大きくなるトルクと回転数との組み合わせを表す点として設定されている。好適には、内燃機関の出力値毎に、この燃料消費率が最も小さくなる点、即ち効率が最も大きくなる点(燃費率最小動作点)として設定されている。本発明に係る動作点設定手段は、例えばこの動作線上で(即ち、好適には動作線を規定する複数の点の中から)、内燃機関に要求される出力に対応する点を動作点として設定する。そして、制御手段が、内燃機関の動作状態を係る設定された動作点によって規定される状態に制御している。
【0014】
ここで特に、燃費率最小動作点は、例えば、大気圧、湿度、或いは内燃機関の燃料性状などに応じて若干、或いは明らかに変化する。従って、従来の技術の如く、動作線が予め設定された固定な動作線である場合、内燃機関は、燃料消費率が最小とならない動作点で使用される可能性がある。
【0015】
そこで、本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御装置(以下、適宜「内燃機関制御装置」と称する)によれば、以下に説明する如く動作線の更新が可能となっている。即ち、本発明に係る内燃機関制御装置によれば、その動作時には、先ずトルク特定手段により内燃機関のトルクが特定される。更に、燃料消費率算出手段により、この特定されたトルク、内燃機関の回転数及び内燃機関の燃料噴射量に基づいて内燃機関の瞬間的な燃料消費率が算出される。
【0016】
本発明における「トルク特定手段」とは、例えば、直接的又は間接的に内燃機関のトルクを測定又は検出する態様を有していてもよいし、これら測定又は検出されたトルクを単に電気信号として数値的に取得する態様を有していてもよいし、或いは、直接的又は間接的に測定又は検出された、トルク又はトルクとの関連性を有する何らかの物理量、電気量、又は化学量からトルクを数値演算的に算出する態様を有していてもよく、最終的に内燃機関のトルクを特定可能である限りにおいてその態様は自由に決定されてよい趣旨である。尚、直接的又は間接的にトルクを測定又は検出する際には、例えば公知である接触式又は非接触式のトルクセンサが使用されてもよい。尚、ハイブリッド車両が、ハイブリッド車両に備わるモータジェネレータによって、内燃機関のトルクを所謂トルク反力と称される形で検出することが可能に構成されている場合には、トルクセンサ等を別個に設ける必要はなく極めて効率的である。
【0017】
本発明における「燃料消費率」とは、内燃機関における単位電力量(例えば、単位はkWh)当りの燃料噴射量を表す指標値である。また、本発明における「内燃機関の効率(又は単に効率)」とは、この燃料消費率の逆数であり、単位燃料噴射量当りの電力量を表す指標値である。従って、「効率が良い」とは燃料消費率が相対的に小さいことを表す。
【0018】
尚、内燃機関の出力(即ち、電力)は、内燃機関のトルクと回転数との積に比例する。また、「瞬間的な」とは、予め定められた条件下において、固定又は可変である所定種類の周期毎に訪れる時刻に、或いは全く任意の時刻において燃料消費率を算出することが可能であることを表す趣旨である。
【0019】
ここで、本発明に係る動作線更新手段は、この算出される燃料消費率に基づいて、動作線において内燃機関の出力に対応する点における燃料消費率が小さくなるように動作線を更新することが可能である。即ち、内燃機関の環境条件や、内燃機関に生じる経時的な変化などに応じて、動作線を規定する点各々を、常に燃費率の小さい(効率の大きい)点に設定することが可能となるのである。好適には、それら点各々を、内燃機関の出力値毎に、
その時点における燃費率最小動作点に設定することが可能となるのである。従って、動作点設定手段が係る更新された動作線上で内燃機関の動作点を設定することにより、内燃機関は常に効率良く動作することが可能となっているのである。
【0020】
尚、ここで述べられる「動作線の更新」とは、動作線を単に変更するのみに限らず、変更された動作線を随時記憶することも含む趣旨である。このように変更された動作線を記憶することにより、動作線を常に最適な形に維持することも容易にして可能である。また、動作線の更新を行う際の判断基準である、動作点毎の燃料消費率も適当な形態で記憶される。尚、燃料消費率を記憶することによって当然ながら内燃機関の効率も記憶される。このように動作線に関する情報を記憶することによって、本発明に係る各手段は、各動作点における燃料消費率又は効率をいつでも参照することが可能となっている。
【0021】
また、このように動作線の変更を記憶しておく期間は何ら限定されない。例えば、ハイブリッド車両が一定期間不使用状態であれば記憶内容が消去されて、再び動作点が予め設定されていた初期値に戻ってもよい。この場合には、次回ハイブリッド車両が運転される際に、その時の状況に応じて動作線が更新されることとなる。一方、動作線はハイブリッド車両の使用環境、使用目的、又は使用頻度などに適応する形で常にアクティブに更新され続けてもよい。即ち、動作線の更新を何ら行わない場合と比較して、燃料の消費量を幾らかなりとも低減し得る(効率を改善し得る)限りにおいて、動作線の更新は一時的なものであっても永続的なものであってもよい。
【0022】
内燃機関を効率良く動作させる観点から言えば、このように適宜更新される動作線上で規定される点で(好適には燃費率最小動作点で)内燃機関を動作させるのが好ましいが、一方でハイブリッド車両全体の効率を考えた場合には、必ずしも動作線上の点で内燃機関を動作させることが好ましいとは限らない。このような効率のミスマッチが生じる一因として、駆動系の伝達効率が、内燃機関の動作状態(即ち、設定された動作点)、換言すれば内燃機関の使用域によって変化してしまうことが挙げられる。ここで、本発明に係る「駆動系」とは、内燃機関を除き、ハイブリッド車両を駆動するための機構を総称する概念であり、例えば、モータジェネレータやトランスミッションを含んでなる。これら駆動系の伝達効率が内燃機関の動作点によって変化するならば、ハイブリッド車両を真に効率良く駆動するためには、これらを加味した総合的な効率を勘案する必要が生じる。
【0023】
そこで、本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御装置においては、動作点設定手段が第1設定処理又は第2設定処理を選択的に行うことによって動作点を設定するように構成されている。
【0024】
第1設定処理とは、即ち、動作線上の点を動作点として設定する処理であり、この場合には内燃機関を比較的効率良く或いは最も効率良く動作させることが可能となる。第2設定処理とは、動作線を規定する座標系平面において内燃機関に要求される出力に対応して描かれる等出力線上で、駆動系の伝達効率と内燃機関の効率とに基づいて規定されるシステム効率が高くなる点を動作点として設定する処理である。ここで、第2設定処理における「システム効率」とは、駆動系の伝達効率と内燃機関の効率とに基づいて規定される効率である限りにおいて如何なる値であってもよいが、例えば内燃機関の効率と駆動系の伝達効率とを乗算した値である。
【0025】
尚、駆動系の伝達効率は、例えば、動作線を規定する座標平面と同様に、予めマップなどの形式で然るべき記憶手段に記憶されていてもよい。このような場合には、内燃機関の動作点に応じて係るマップから適合する値を参照することにより、駆動系の伝達効率を容易に取得することが可能である。
【0026】
また、駆動系の伝達効率は、駆動系として規定される全ての機構に関して得られていなくともよい。即ち、このような駆動系の伝達効率が何ら考慮されない場合と比較して、幾らかなりとも効率良くハイブリッド車両を駆動可能な限りは本発明に係る効果は担保されるものである。例えば、駆動系の一であるモータジェネレータの効率のみが与えられていてもよいし、トランスミッション、例えば、内燃機関の使用域を自由に選定可能なCVT(Continuously Variable Transmission)やトルクコンバータなどの伝達効率のみが与えられていてもよい。
【0027】
更には、システム効率は、これら伝達効率と内燃機関の効率とに加えて他の効率に基づいて規定されてもよい。例えば、タイヤから路面への効率などを加味することも可能であり、理想的には、ハイブリッド車両のシステム全体についての効率が、ここにいうシステム効率ということになり、実践上は、測定や取扱が可能又は容易な効率をここにいうシステム効率とみなしてもよい趣旨である。
【0028】
尚、本発明における第1設定処理とは即ち、内燃機関を比較的或いは最も効率良く動作させることが可能な処理なのであり、その意味では、ハイブリッド車両をある程度効率良く駆動する効果は予め担保されている。従って、動作点設定手段が、第1設定処理及び第2設定処理のいずれの処理を選択するかについては比較的自由に決定されてよい。例えば、第1設定処理及び第2設定処理のうちいずれの処理によって動作点を設定した方がハイブリッド車両を総合的に効率良く駆動可能であるのかを表す指標が予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどの手法によって与えられているならば、そのような指標に基づいてこれら処理が選択されてもよい。また、内燃機関の動作点を設定するに際して、常に、或いは高頻度で第2設定処理を行ってもよい。本発明においては、燃料消費率算出手段によって、常に内燃機関の燃費率(或いは効率)を算出可能なのであり、このように常に第2設定処理を行うことも容易にして可能である。
【0029】
本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御装置の一の態様では、前記動作線更新手段は、前記動作線上で前記内燃機関の出力に対応する点における燃料消費率が、前記等出力線上で最小となるように前記動作線の更新を行う。
【0030】
この態様によれば、動作線上の点が等出力線上で燃費率が最小な点となるように動作線が更新されるので、通常、或いは第1設定処理が行われるに際して、内燃機関を最も効率良く動作させることが可能となる。尚、ここで述べられる「最小」とは、文字通りの最小(即ち、燃費率最小動作点)である他、何らかの制約が考慮された実質上の最小を含む趣旨である。
【0031】
本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御装置の他の態様では、前記動作線更新手段は、前記第2設定処理において、前記内燃機関の動作点を、前記等出力線上で前記システム効率が最も高くなる点に設定する。
【0032】
この態様によれば、第2設定処理において、等出力線上でシステム効率が最も高くなる点が動作点として設定されるので、ハイブリッド車両を最も効率良く動作させることが可能となる。尚、ここで述べられる「最小」とは、文字通りの最小である他、何らかの制約が考慮された実質上の最小を含む趣旨である。
【0033】
本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御装置の一の態様では、前記動作点設定手段は、前記駆動系においてエネルギ再循環が発生するか否かを判別すると共に、該エネルギ再循環が発生すると判別した場合に前記第2設定処理を行う。
【0034】
モータジェネレータを2基以上、典型的には2基備えるハイブリッド車両においては、内燃機関からタイヤ又はそれに準じる駆動軸に直達されるトルクが大き過ぎる場合に、内燃機関から直達されるエネルギとモータジェネレータがアシストするエネルギとのバランスが崩れ、所謂「エネルギ再循環」と称される現象が発生することがある。エネルギ再循環が発生した場合、例えば、一のモータジェネレータが係る内燃機関から直達されるトルクの一部によって回生を行ってバッテリの充電を行うと共に、その充電された電力によって他のモータジェネレータが駆動され、再びエネルギが駆動系に戻される現象が生じ得る。即ち、駆動系の伝達効率が低下し、ハイブリッド車両全体としての効率的なエネルギ利用が困難になる。この場合、具体的には内燃機関を低トルク側で動作させることが必要となる。言い換えれば、動作線を規定する座標平面における、要求される出力に対応する等出力線上で、予め設定される動作点よりも低トルク側に動作点を設定する必要が生じる。
【0035】
この態様によれば、動作点設定手段が、駆動系においてエネルギ再循環が発生するか否かを判別すると共に、エネルギ再循環が発生すると判別した場合にのみ第2設定処理を行うので、ハイブリッド車両を効率良く動作させることが可能である。
【0036】
ここで、「エネルギ再循環が発生するか否か」の判別とは、例えば、エネルギ再循環が発生したという事実に基づいた判別であってもよいし、明らかに、或いは比較的高い確率でエネルギ再循環が発生するとの予測に基づいた判別であってもよい。また、このような予測は、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどよって適切な判断基準が与えられているならば、そのような判断基準に従ってなされてもよい。例えば、そのような判断基準として、予め車速と要求駆動力を夫々横軸及び縦軸に配してなる座標平面上で、エネルギ再循環が発生する領域が規定されていてもよい。この場合、動作点設定手段は、その時点における車速と要求駆動力とに基づいて一義的に決定される点が、係る領域内に存在する場合に第2設定処理を行うことになる。従って、第2設定処理を極めて効果的に実行することが可能となり、一層効率的である。
【0037】
本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御装置の他の態様では、前記動作点設定手段は、前記モータジェネレータが負回転且つ負トルクである場合に前記エネルギ再循環が発生すると判別する。
【0038】
この態様によれば、エネルギ再循環が発生するか否かの判別が、モータジェネレータが負回転且つ負トルクであるか否かの判別に基づいてなされる。通常、モータジェネレータの回転状態及びトルク状態は、モータジェネレータの動作を制御するために絶えず監視されているから、この場合エネルギ再循環が発生するか否かの判別が簡便にして可能となる。
【0039】
尚、モータジェネレータが負回転且つ負トルクである状態とは、例えば、ハイブリッド車両が、主として発電機として機能するモータジェネレータ(MG1とする)と、主として電動機として機能するモータジェネレータ(MG2とする)とを備える場合には、MG1が力行している(即ち、内燃機関をアシストしている)状態、或いはMG2が回生している(即ち、バッテリを充電している)状態を含む。
【0040】
上述した課題を解決するため、本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御方法は、動力源としてモータジェネレータ及び内燃機関を備えるハイブリッド車両において、前記内燃機関を制御するハイブリッド車両の内燃機関制御方法であって、前記内燃機関のトルクを特定するトルク特定工程と、該特定されたトルク、前記内燃機関の回転数及び前記内燃機関における燃料噴射量に基づいて、前記内燃機関における瞬間的な燃料消費率を算出する燃料消費率算出工程と、前記トルク及び前記回転数を夫々第1軸及び第2軸とする座標平面上で予め設定される動作線を、該動作線上で前記内燃機関の出力に対応する点における前記燃料消費率が小さくなるように更新する動作線更新工程と、前記内燃機関の動作点を、(i)前記更新が行われた動作線上で前記内燃機関に要求される出力に対応する点又は(ii)前記座標平面において前記要求される出力に対応して描かれる等出力線上で前記モータジェネレータを含む駆動系の伝達効率と前記内燃機関の効率とに基づいて規定されるシステム効率が高くなる点に設定するための夫々第1設定処理又は第2設定処理を選択的に行う動作点設定工程と、前記内燃機関の動作状態を該設定された動作点によって規定される状態に制御する制御工程とを具備することを特徴とする。
【0041】
本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御方法によれば、その動作時には、上述した本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御装置における動作を実現する各工程により、本発明に係るハイブリッド車両の内燃機関制御装置と同様の効果を得ることが可能である。
【0042】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態により明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、図面を参照して本発明の好適な各種実施形態について説明する。
<1:第1実施形態>
<1−1:実施形態の構成>
<1−1−1:ハイブリッドシステムの構成>
始めに、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係るハイブリッドシステム10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッドシステム10のブロック図である。
【0044】
図1において、ハイブリッドシステム10は、制御装置100、エンジン200、モータジェネレータMG1、モータジェネレータMG2、動力分割機構300、インバータ400、バッテリ500、及び車速センサ600を備え、ハイブリッド車両20を制御するシステムである。
【0045】
制御装置100は、動作状態制御部100a、トルク算出部100b、燃費率算出部100c、動作線更新部100d、記憶部100e及び動作点設定部100fを備えると共に、ハイブリッドシステム10の動作全体を制御する、例えばECU(Engine Controlling Unit)等の制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の内燃機関制御装置」の一例として機能する。
【0046】
動作状態制御部100aは、エンジン200、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2各々の動作状態を制御することが可能に構成された、本発明に係る「制御手段」の一例である。
【0047】
トルク算出部100bは、エンジン200のトルクを算出することが可能に構成された、本発明に係る「トルク特定手段」の一例である。
【0048】
燃費率算出部100cは、エンジン200の燃料消費率を算出することが可能に構成された、本発明に係る「燃料消費率算出手段」の一例である。
【0049】
動作線更新部100dは、記憶部100eに格納される制御プログラムに従って、本発明に係る「動作線の更新」の一例たる動作点学習処理を実行することが可能に構成された、本発明に係る「動作線更新手段」の一例である。尚、動作点学習処理については後述する。
【0050】
記憶部100eは、例えばROM(Read Only Memory)などで構成された不揮発性記憶領域と、RAM(Random Access Memory)などで構成された揮発性記憶領域を有する記憶媒体である。記憶部100eにおいて、不揮発性領域には、予め定められた各種制御プログラムや、後述する制御マップなどが格納されている。また、揮発性領域には、後述する動作点学習処理が行われた際の学習結果が適宜記憶される。
【0051】
動作点設定部100fは、エンジン200の動作点を設定することが可能に構成された本発明に係る「動作点設定手段」の一例であり、動作点設定部100fによって設定された動作点に従って、動作状態制御部100aはエンジン200の動作状態を制御することが可能である。
【0052】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両20の主たる動力源として機能する。尚、エンジン200の詳細な構成については後述する。
【0053】
モータジェネレータMG1は、本発明に係る「モータジェネレータ」の一例であり、バッテリ500を充電するための発電機として、或いはエンジン200の駆動力をアシストする電動機として機能するように構成されている。
【0054】
モータジェネレータMG2は、本発明に係る「モータジェネレータ」の他の一例であり、エンジン200の出力をアシストする電動機として、或いはバッテリ500を充電するための発電機として機能するように構成されている。
【0055】
尚、これらモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。但し、他の形式のモータジェネレータであっても構わない。
【0056】
動力分割機構300は、図示せぬサンギア、プラネタリキャリア、ピニオンギア、及びリングギアを備えた遊星歯車機構である。これら各ギアのうち、内周にあるサンギアの回転軸はモータジェネレータMG1に連結されており、外周にあるリングギアの回転軸は、モータジェネレータMG2に連結されている。サンギアとリングギアの中間にあるプラネタリキャリアの回転軸はエンジン200に連結されており、エンジン200の回転は、このプラネタリキャリアと更にピニオンギアとによって、サンギア及びリングギアに伝達され、エンジン200の動力が2系統に分割されるように構成されている。ハイブリッド車両20において、リングギアの回転軸は、ハイブリッド車両20における伝達機構21に連結されており、この伝達機構21を介して車輪22に駆動力が伝達される。
【0057】
インバータ400は、バッテリ500から取り出した直流電力を交流電力に変換してモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ500に供給することが可能に構成されている。
【0058】
バッテリ500はモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を駆動するための電源として機能することが可能に構成された充電可能な蓄電池である。バッテリ500には、バッテリ500の残容量を検出するSOCセンサ510が設置されており、制御装置100と電気的に接続されている。
【0059】
車速センサ600は、ハイブリッド車両20の速度を検出するセンサであり、制御装置100と電気的に接続されている。
【0060】
<1−1−2:エンジンの詳細構成>
次に、図2を参照して、エンジン200の詳細な構成をその基本的な動作と共に説明する。ここに、図2は、エンジン200の半断面システム系統図である。
【0061】
図2において、エンジン200は、シリンダ201内において点火プラグ202により混合気を爆発させると共に、爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクションロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。以下に、エンジン200の要部構成を説明する。
【0062】
シリンダ201内における燃料の燃焼に際し、外部から吸入された空気は吸気管206を通過し、インジェクタ207から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。インジェクタ207には、燃料(ガソリン)が燃料タンク223からフィルタ224を介して供給されており、インジェクタ207は、この供給される燃料を、制御装置100の制御に従って吸気管206内に噴射することが可能に構成されている。尚、燃料タンク223には、燃料残量を検出するための燃料センサ225が設置されている。
【0063】
シリンダ201内部と吸気管206とは、吸気バルブ208の開閉によって連通状態が制御されている。シリンダ201内部で燃焼した混合気は排気ガスとなり吸気バルブ208の開閉に連動して開閉する排気バルブ209を通過して排気管210を介して排気される。
【0064】
吸気管206上には、クリーナ211が配設されており、外部から吸入される空気が浄化される。クリーナ211の下流側(シリンダ側)には、エアフローメータ212が配設されている。エアフローメータ212は、ホットワイヤー式と称される形態を有しており、吸入された空気の質量流量を直接測定することが可能に構成されている。吸気管206には更に、吸入空気の温度を検出するための吸気温センサ213が設置されている。
【0065】
吸気管206におけるエアフローメータ212の下流側には、シリンダ201内部への吸入空気量を調節するスロットルバルブ214が配設されている。このスロットルバルブ214には、スロットルポジションセンサ215が電気的に接続されており、その開度が検出可能に構成されている。更に、スロットルバルブ214の周囲には、運転者によるアクセルペダル226の踏み込み量を検出するアクセルポジションセンサ216、及びスロットルバルブ214を駆動するスロットルバルブモータ217も配設されている。
【0066】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置を検出するクランクポジションセンサ218が設置されている。クランクポジションセンサ218は、クランクシャフト205の位置を検出することが可能に構成されたセンサであり、制御部100は、クランクポジションセンサ218の出力信号に基づいてピストン203の位置及びエンジン200の回転数などを取得することが可能に構成されている。このピストン203の位置は、前述した点火プラグ202における点火時期の制御などに使用される。点火プラグ202における点火時期は、例えば、ピストン203の位置に対応付けられて予め設定される基本値に対し遅角又は進角制御される。
【0067】
また、シリンダ201を収容するシリンダブロックには、エンジン200のノック強度を測定することが可能なノックセンサ219が配設されており、係るシリンダブロック内のウォータージャケット内には、エンジン200の冷却水温度を検出するための水温センサ220が配設されている。
【0068】
排気管210には、三元触媒222が設置されている。三元触媒222は、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能な触媒である。排気管210における三元触媒222の上流側には、空燃比センサ221が配設されている。空燃比センサ221は、排気管210から排出される排気ガスから、エンジン200の空燃比を検出することが可能に構成されている。
【0069】
<1−2:実施形態の動作>
<1−2−1:ハイブリッドシステムの基本動作>
図1のハイブリッドシステム10においては、主として発電機として機能するモータジェネレータMG1と、主として電動機として機能するモータジェネレータMG2と、エンジン200とのそれぞれの駆動力配分が動作状態制御部100a及び動力分割機構300により制御されてハイブリッド車両20の走行状態が制御される。以下に、幾つかの状況に応じたハイブリッドシステム10の動作について説明する。
【0070】
<1−2−1−1:始動時>
例えば、ハイブリッド車両20の始動時においては、バッテリ500の電気エネルギを用いて駆動されるモータジェネレータMG1が電動機として機能する。この動力によって、エンジン200がクランキングされエンジン200が始動する。
【0071】
<1−2−1−2:発進時>
発進時には、バッテリ500の蓄電状態に応じて2種類の態様を採り得る。バッテリ500の蓄電状態は、SOCセンサ510の出力信号に基づいて動作状態制御部100aによって把握されている。例えば、通常の(即ち、SOCが良好な)発進時においては、モータジェネレータMG1によってバッテリ500を充電する必要は生じないため、エンジン200は暖機のためだけに始動し、ハイブリッド車両20は、モータジェネレータMG2による駆動力により発進する。一方、蓄電状態が良好ではない(即ち、SOCが低下している)場合、エンジン200の動力によりモータジェネレータMG1が発電機として機能し、バッテリ500が充電される。
【0072】
<1−2−1−3:軽負荷走行時>
例えば、低速走行や緩やかな坂を下っている場合には、比較的エンジン200の効率が悪い為、エンジン200は停止され、ハイブリッド車両20は、モータジェネレータMG2による駆動力のみで走行する。尚、この際、SOCが低下していれば、エンジン200はモータジェネレータMG1を駆動するために始動し、モータジェネレータMG1によりバッテリ500の充電が行われる。
【0073】
<1−2−1−4:通常走行時>
エンジン200の効率が比較的良好な運転領域においては、ハイブリッド車両20は主としてエンジン200の動力によって走行する。この際、エンジン200の動力は、動力分割機構300によって2系統に分割され、一方は、伝達機構21を介して車輪22に伝達され、他方は、モータジェネレータMG1を駆動して発電を行う。更に、この発電された電力により、モータジェネレータMG2が駆動され、モータジェネレータMG2によりエンジン200の動力がアシストされる。尚、この際、SOCが低下している場合には、エンジン200の出力を上昇させて、モータジェネレータMG1により発電された電力の一部がバッテリ500へ充電される。
【0074】
<1−2−1−5:制動時>
減速が行われる際には、車輪22から伝達される動力によってモータジェネレータMG2を回転させ、発電機として動作させる。これにより、車輪22の運動エネルギが電気エネルギに変換され、バッテリ500が充電される、所謂「回生」が行われる。
【0075】
<1−2−2:実施形態におけるエンジンの基本制御動作>
次に、エンジン200の基本的な制御動作について説明する。
【0076】
動作状態制御部100aは、エンジン200に要求される出力であるエンジン要求出力を一定の周期で繰り返し演算している。動作状態制御部100aは、スロットルポジションセンサ215及び車速センサ600の出力信号に基づいてアクセル開度と車速とを取得し、アクセル開度及び車速に対応した出力軸トルク(要求駆動力)を求める。また、動作状態制御部100aはSOCセンサ510の出力信号に基づいて要求発電量を求める。そして、要求発電量と各種の補機類(A/Cやパワーステアリングなど)の要求量とを参照して要求駆動力を補正することにより、エンジン要求出力を求める。なお、エンジン要求出力の演算方法は公知のハイブリッド車両で実行されている通りでよく、その細部は必要に応じて種々変更してよい。
【0077】
<1−2−3:動作点学習処理>
<1−2−3−1:動作線及び動作点>
次に、図3を参照して、本発明の動作点学習処理に係る動作線及び動作点について説明する。ここに、図3は、制御マップ30の模式図である。
【0078】
図3において、制御マップ30は、縦軸(即ち、本発明に係る「第1軸」の一例)にエンジン200のトルクTe、横軸(即ち、本発明に係る「第2軸」の一例)にエンジン200の回転数Neを表してなる座標平面であり、本発明に係る「座標平面」の一例である。制御マップ30は、予め制御装置100の記憶部100eにおける不揮発性領域に格納されている。
【0079】
制御マップ30上には、様々なパラメータに対するエンジントルクTeとエンジン回転数Neとの関係を表すことが可能である。このうち、等出力線Pi(i=1,2,・・・,9)はエンジン200の出力値を一定とした場合の、エンジントルクTeとエンジン回転数Neとの関係線である。尚、本実施形態中においては、等出力線Piに対応するエンジン200の出力を適宜「出力Pi」と称することとする。また、図3においては、説明の簡略化のため、等出力線は9本しか描かれていないが、実際にはより細かく設定することが可能である。
【0080】
エンジン200を動作させる際、動作点設定部100fによって動作点が設定される。通常、動作点設定部100fは、その都度求められる要求出力値に対応する等出力線上で予め設定されている動作点をエンジン200の動作点として設定する。動作状態制御部100aは、この設定された動作点によって表されるエンジントルクTe及びエンジン回転数Neの組み合わせとなるようにエンジン200の動作状態を決定する。本実施形態に係る動作線とは、これら予め設定されている動作点を繋げたものとして規定される。
【0081】
図3において、動作線Qは、初期値として設定された動作線であり、等出力線Piに対応する動作点Qi(i=1,2,・・・,9)によって規定されている。夫々の等出力線上において、動作点Qiは、予め燃料消費率が最小となる(即ち、最も効率が高い)点に設定されており、例えば、工場出荷時などにおいて、標準的な環境条件で最適化されている。
【0082】
しかしながら、ハイブリッド車両20の使用条件は、画一的なものとなり得ないから、このように予め設定された動作点でエンジン200を動作させる場合には、エンジン200の燃費率は必ずしも最小とはならない。これは、制御マップ30上で燃費率が等しい領域を表した等燃費率線Sの分布が、エンジン200の環境条件や制御条件に応じて変化してしまうことによる。等燃費率線Sの分布が変化した結果、例えば、夫々の等出力線Piにおける動作点は、動作点Ri(i=1,2,・・・,9)へと変化する。その結果、エンジン200を効率良く動作させ得る動作線は、動作線Rへと変化する。
【0083】
このような、燃費率が最小となる動作点が諸条件に応じて変化してしまう事態に対応するために、本実施形態に係るハイブリッドシステム10においては、動作線更新部100dによって動作点学習処理が行われる。この動作点学習処理により、ハイブリッドシステム10は、常に効率良くエンジン200を動作させることが可能となっている。
【0084】
<1−2−3−2:動作点学習処理の概要>
本実施形態に係る動作点学習処理は、以下(1)〜(3)の工程を備える。
【0085】
(1)等出力線Pi上でエンジン200の動作点を変化させる工程。
【0086】
(2)変化させた動作点各々における燃費率を算出する工程。
【0087】
(3)最も燃費率が小さい動作点(燃費率最小動作点)を確定して当該等出力線Pi上の動作点として再設定(即ち、更新)する工程。
【0088】
本実施形態において、動作状態制御部100aは、制御マップ30を記憶部100eの不揮発性領域から揮発性領域へとコピーし、このコピーされた制御マップ30を使用してエンジン200の制御を行っている。動作点学習処理は、この揮発性領域上で適宜制御マップ30を書き換える処理である。上記(1)〜(3)の工程が行われることにより、一の等出力線Pi上においてエンジン200を動作させる際の動作点が、燃費率最小動作点に更新される。従って、エンジン200は比較的効率の良い状態を、或いは最も効率の良い状態を維持し続けることが可能となる。尚、本実施形態においては、一旦動作点学習処理が行われれば、エンジン200においてバッテリ500がリセットされるまで動作点の更新結果は保存される。但し、動作点学習処理の効力が及ぶ時間範囲は上述のものに限定されない。例えば、運転者の要求に応じて、或いはエンジン200が停止する毎に、動作線はリセットされ初期状態(記憶部100eの不揮発性領域に格納される制御マップ30によって規定される状態)に復帰してもよい。
【0089】
<1−2−3−3:動作点学習処理の詳細>
次に、図4を参照して、本実施形態に係る動作点学習処理の詳細について説明する。ここに図4は、動作点学習処理のフローチャートである。
【0090】
図4において、例えばハイブリッド車両20の通常走行中に、動作線更新部100dは、エンジン200の動作点を現在の等出力線Pi上で比較対象の一となる動作点に設定する(ステップA11)。具体的には、エンジン200の動作点が係る動作点に設定されるように動作線更新部100dが動作点設定部100fを制御する。これに応じて、エンジン200の制御状態は、動作状態制御部100aにより、この設定された動作点によって規定される動作状態に制御される。ここで、「比較対象の一となる動作点」とは、動作点学習処理を行うための燃費率の比較対象となる動作点のうちの一つを指す。動作点学習処理が開始されて最初に訪れるステップA11においては、その時点で等出力線Pi上で動作点として設定されている動作点(即ち、前回の動作点学習処理による更新値又は初期値Qi)が動作点として設定される。
【0091】
次に、燃費率算出部100cが、設定された動作点におけるエンジン200の燃費率を算出する(ステップA12)。燃費率は、エンジン200の単位電力量当りの燃料噴射量である。従って、インジェクタ207の燃料噴射量を、エンジン200の出力値(kW)から算出される電力量(kWh)で除算したものと等価である。
【0092】
燃料噴射量は、動作状態制御部100aが、エンジン200の回転数及び負荷率から記憶部100eの不揮発性領域に格納される基本噴射量マップに基づいて決定する基本噴射量に対して更に様々な補正を行った結果として得られる。燃費率算出部100cは、この燃料噴射量を動作状態制御部100aから取得する。
【0093】
一方、トルク算出部100bは、モータジェネレータMG1を介して検出されるエンジン200のトルク反力からエンジン200のトルクを算出する。燃費率算出部100cは、この算出されたトルクを取得すると共に、クランクポジションセンサ218の出力値に基づいて算出されるエンジン200の回転数を動作状態制御部100aから取得して、これらの値からエンジン200の出力を算出する。
【0094】
燃費率算出部100cは、このエンジン200における燃料噴射量とエンジン200の出力とに基づいて、現在設定されている動作点における燃費率を算出する。
【0095】
一の動作点について燃費率が算出されると、動作線更新部100dは、燃費率最小動作点が確定したか否かを判別する(ステップA13)。
【0096】
この判別は、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどにより与えられてなる判断基準に基づいてなされる。例えば、等出力線上で一定の方向に動作点を動かした際に、燃費率が徐々に小さくなり、ある動作点を境に徐々に大きくなっている場合には、図3における等燃費率線Sの形状から言っても、係る動作点を燃費率最小動作点と考えてよい。
【0097】
従って、ステップA13に係る判別は、明確に何らかの閾値と比較して大小関係を判別すると言うよりも、燃費率の算出値の前後関係から判断されるべきものであり、一の動作点学習処理毎に態様は異なるものである。但し、動作点学習処理の開始後最初に訪れるステップA13に係る処理では、比較対象は存在しないので、条件分岐は「NO」となる。
【0098】
燃費率最小動作点が確定しない場合には(ステップA13:NO)、動作線更新部100dは、処理をステップA11に戻し、燃費率最小動作点が確定するまでステップA11からステップA13に係る処理を繰り返す。
【0099】
この際、ステップA11において設定される動作点は、例えば、等出力線上における離散的な、即ち、適当に距離の離れた動作点であってもよいし、連続的な、即ち極めて近接した動作点であってもよい。これら動作点をどのように変化させるかについては、例えば予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによりその手法が与えられていてもよいし、その都度、動作線更新部100dが動作点学習処理の進捗に鑑みて決定してもよい。
【0100】
このような過程を繰り返した結果、燃費率最小動作点が確定されると(ステップA13:YES)、動作線更新部100dは動作点を更新する(ステップA14)。この際、揮発性領域にコピーされた制御マップ30において、この動作点学習処理が行われた等出力線上における動作点が書き換わり、動作線がそれに応じて変化する。動作点及び動作線が更新されると動作点学習処理は終了する。
【0101】
このように、ハイブリッドシステム10においては、動作線更新部100dが動作点学習処理を行うことによって、ハイブリッド車両20が走行中であってもエンジン200の動作点を燃費率が最小となる点に設定することが可能であり、エンジン200を効率良く動作させることが容易にして可能となっているのである。
【0102】
<1−2−4:動作点の設定>
動作線上で動作点が設定される際、動作点設定部100fは制御マップ30に表される動作線上で、エンジン要求出力に対応する動作点を動作点として設定する。この動作点は燃費率最小動作点であり、エンジン200の効率が最も高いとされる動作点である。従って、駆動系(例えば、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2など)の伝達効率が変わらなければ、ハイブリッド車両20を最も効率良く動作させ得る動作点である。然るに、既に述べたようなエネルギ再循環が発生することによって、必ずしも動作点を動作線上で設定することが好ましくない状況が起こり得る。そこで、本実施形態においては、動作点設定部100fが、以下に説明する動作点設定処理を実行するように構成されている。ここで、図5を参照して、動作点設定処理の詳細について説明する。ここに、図5は、動作点設定処理のフローチャートである。尚、図5における動作点設定処理に先駆けて、前述した動作点学習処理が実行されているものとする。
【0103】
図5において、始めに、動作点設定部100fは、エンジン200の要求駆動力(要求出力とは異なる)が、エネルギ再循環領域に該当する値であるか否かを判別する(ステップB11)。この際、動作点設定部100fは、記憶部100eの不揮発性領域から制御マップ31を取得し、係る制御マップ31に基づいて係る判別を行っている。
【0104】
ここで、図6を参照して制御マップ31について説明する。ここに、図6は、制御マップ31の模式図である。
【0105】
図6において、制御マップ31は、縦軸及び横軸に夫々要求駆動力及び車速を配してなる座標平面である。制御マップ31には、エネルギ再循環が発生するとされる領域が、予めエネルギ再循環領域として設定されている(図6における網掛け部分)。尚、係るエネルギ再循環領域は、予め、実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどによって与えられている。動作点設定部100fは、車速センサ600及びスロットルポジションセンサ215の出力に基づいて動作状態制御部100aにより求められた要求駆動力と現在の車速とに対応する点が、係るエネルギ再循環領域内に存在するか否かを判別する。
【0106】
図5に戻り、要求駆動力がエネルギ再循環領域に該当しない場合(ステップB11:NO)、動作点設定部110fは、動作線上で要求出力(要求駆動力から動作状態制御部100aにより算出される値)に対応する点、即ち、燃費率最小動作点を動作点として設定する(ステップB18)。尚、ステップB18に係る処理は本発明に係る「第1設定処理」の一例である。
【0107】
一方、要求駆動力がエネルギ再循環領域に該当する場合(ステップB11:YES)、動作点設定部100fは、動作線を規定する制御マップ30において、要求出力に対応する等出力線上で仮の動作点を設定する(ステップB12)。この際、動作点設定処理が開始されてから最初に訪れるステップB12においては、動作線上の点(即ち、燃費率最小動作点)が設定される。
【0108】
次に、動作点設定部100fは、仮の動作点として設定された動作点に対応するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2各々の使用域を算出する(ステップB13)。ここで、モータジェネレータの使用域とは、即ち、回転数とトルクを指す。尚、係る回転数及びトルクは、夫々正負いずれの値も採り得る。
【0109】
各モータジェネレータの使用域を算出すると、動作点設定部100fは予め記憶部100eの不揮発性領域に記憶される各モータジェネレータの効率マップを参照して、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2の夫々の使用域に対応付けられた伝達効率を取得し、駆動系の伝達効率ηtを算出する(ステップB14)。ここで、駆動系の伝達効率ηtは、モータジェネレータMG1の伝達効率とモータジェネレータMG2の伝達効率の乗算結果に基づいて算出される。
【0110】
駆動系の伝達効率ηtが算出されると、動作点設定部100fは、ハイブリッド車両20全体の効率であるシステム効率ηsを算出する(ステップB15)。ここで、システム効率ηsは、現在設定されている動作点(仮の動作点)におけるエンジン200の効率ηeと、駆動系の伝達効率ηtとの乗算により算出される。この際、エンジン200の効率ηeは、この燃費率算出部100cによって算出される燃料消費率の逆数として与えられる。尚、前述した動作点学習処理において、設定された燃費率最小動作点の燃費率が係る動作点の情報と対応付けられて記憶されている場合には、その値が読み込まれてもよい。算出されたシステム効率ηsは記憶部100eにおけるバッファ領域に格納される。尚、このバッファ領域には、例えば、システム効率ηsを2個分格納することができる。
【0111】
システム効率ηsが算出されると、動作点設定部100fは、係るシステム効率ηsが前回値よりも向上したか否かを判別する(ステップB16)。ここで、前回値とは、バッファに格納されるシステム効率ηsのうち古い方の値であり、等出力線上で前回設定された動作点に対応するシステム効率を指す。また、「システム効率が向上する」とは、典型的にはシステム効率が相対的に高いことを意味する。動作点設定処理において最初に訪れるステップB16においては、バッファに前回値は格納されていないので、強制的に判断分岐は「YES」となり、処理はステップB12に復帰し、再びステップB12からステップB16に至る処理がループ処理される。この際、ステップB12において設定される仮の動作点は、等出力線上において低トルク側に向って離散的に選択される。
【0112】
このようにループ処理が行われた結果、システム効率ηsが前回値よりも向上しなかった場合(ステップB16:NO)、動作点設定部100fは、バッファに格納されるシステム効率ηsのうち古い方の値を与える動作点(即ち、前回設定された動作点)を動作点として設定する(ステップB17)。尚、ここでは、前回値よりもシステム効率ηsが向上したか否かによって、動作点が決定され、動作点設定手段により動作点として設定されるが、システム効率ηsが最も高い点であるか否かの判別基準は、システム効率ηsが最も高くなる点を特定し得る限りにおいてどのように与えられていてもよい。尚ステップB12からステップB17に至る処理は本発明に係る「第2設定処理」の一例である。ステップB17又はステップB18によって動作点が設定されると、動作点設定処理が終了する。
【0113】
以上、説明したように、本発明に係るハイブリッドシステム10によれば、動作点設定部100fは、駆動系の伝達効率を勘案した総合的な効率であるシステム効率ηsに基づいて動作点を設定することができる。従って、エネルギ再循環が発生することなどによって駆動系の伝達効率が低下する場合であっても、ハイブリッド車両20を効率良く動作させることが可能なのである。
【0114】
尚、本実施形態においては、動作点設定部100fが制御マップ31を参照することによって、予めエネルギ再循環が発生することが自明な、或いは発生すると予測される場合にのみシステム効率に基づいて(即ち、第2設定処理によって)動作点を設定するので非常に効率的である。但し、動作点設定部100fは、日常的にシステム効率ηsに基づいて動作点を設定してもよい。
【0115】
また、本実施形態においては、制御マップ31に基づいてエネルギ再循環が発生するか否かの判別が行われているが、エネルギ再循環が発生するか否かの判別は他の方法で行われてもよい。例えば、モータジェネレータMG1又はモータジェネレータMG2が、負回転且つ負トルクである場合には、エネルギ再循環が発生すると推定することが可能であり、従って、エンジン200の動作点が決定され、各モータジェネレータの使用域が算出された時点で、係る判別を行うことも可能である。
【0116】
尚、本実施形態においては、駆動系としてモータジェネレータのみを取り上げているが、駆動系とは、エンジン200を除く、ハイブリッド車両20を駆動させるための機構を広く規定する概念であり、従って、駆動系の伝達効率としてCVT或いはトルクコンバータなどトランスミッションにおける伝達効率が参照されてもよい。
【0117】
尚、本発明において、動作点学習処理は、予め事前の処理として行われており、動作線はあくまで燃費率最小動作点によって規定されているが、例えば、動作線を規定する動作点を、予めシステム効率ηsに基づいて設定するような動作点学習処理が行われてもよい。
【0118】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の内燃機関制御装置及び方法もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の第1実施形態に係るハイブリッドシステムのブロック図である。
【図2】図1のハイブリッドシステムにおけるエンジンの半断面システム系統図である。
【図3】図1のハイブリッドシステムにおける制御マップの模式図である。
【図4】図1のハイブリッドシステムにおける動作点学習処理のフローチャートである。
【図5】図1のハイブリッドシステムにおける動作点設定処理のフローチャートである。
【図6】図1のハイブリッドシステムにおける他の制御マップの模式図である。
【符号の説明】
【0120】
10…ハイブリッドシステム、11…ハイブリッドシステム、20…ハイブリッド車両、21…伝達機構、22…車輪、30…制御マップ、31…制御マップ、100…制御装置、200…エンジン、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ、300…動力分割機構、400…インバータ、500…バッテリ、510…SOCセンサ、600…車速センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてモータジェネレータ及び内燃機関を備えるハイブリッド車両において、前記内燃機関を制御するハイブリッド車両の内燃機関制御装置であって、
前記内燃機関のトルクを特定するトルク特定手段と、
該特定されたトルク、前記内燃機関の回転数及び前記内燃機関における燃料噴射量に基づいて、前記内燃機関における瞬間的な燃料消費率を算出する燃料消費率算出手段と、
前記トルク及び前記回転数を夫々第1軸及び第2軸とする座標平面上で予め設定される動作線を、該動作線上で前記内燃機関の出力に対応する点における前記燃料消費率が小さくなるように更新する動作線更新手段と、
前記内燃機関の動作点を、(i)前記更新が行われた動作線上で前記内燃機関に要求される出力に対応する点又は(ii)前記座標平面において前記要求される出力に対応して描かれる等出力線上で前記モータジェネレータを含む駆動系の伝達効率と前記内燃機関の効率とに基づいて規定されるシステム効率が高くなる点に設定するための夫々第1設定処理又は第2設定処理を選択的に行う動作点設定手段と、
前記内燃機関の動作状態を該設定された動作点によって規定される状態に制御する制御手段と
を具備することを特徴とするハイブリッド車両の内燃機関制御装置。
【請求項2】
前記動作線更新手段は、前記動作線上で前記内燃機関の出力に対応する点における燃料消費率が、前記等出力線上で最小となるように前記動作線の更新を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の内燃機関制御装置。
【請求項3】
前記動作線更新手段は、前記第2設定処理において、前記内燃機関の動作点を、前記等出力線上で前記システム効率が最も高くなる点に設定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の内燃機関制御装置。
【請求項4】
前記動作点設定手段は、前記駆動系においてエネルギ再循環が発生するか否かを判別すると共に、該エネルギ再循環が発生すると判別した場合に前記第2設定処理を行う
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の内燃機関制御装置。
【請求項5】
前記動作点設定手段は、前記モータジェネレータが負回転且つ負トルクである場合に前記エネルギ再循環が発生すると判別する
ことを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の内燃機関制御装置。
【請求項6】
動力源としてモータジェネレータ及び内燃機関を備えるハイブリッド車両において、前記内燃機関を制御するハイブリッド車両の内燃機関制御方法であって、
前記内燃機関のトルクを特定するトルク特定工程と、
該特定されたトルク、前記内燃機関の回転数及び前記内燃機関における燃料噴射量に基づいて、前記内燃機関における瞬間的な燃料消費率を算出する燃料消費率算出工程と、
前記トルク及び前記回転数を夫々第1軸及び第2軸とする座標平面上で予め設定される動作線を、該動作線上で前記内燃機関の出力に対応する点における前記燃料消費率が小さくなるように更新する動作線更新工程と、
前記内燃機関の動作点を、(i)前記更新が行われた動作線上で前記内燃機関に要求される出力に対応する点又は(ii)前記座標平面において前記要求される出力に対応して描かれる等出力線上で前記モータジェネレータを含む駆動系の伝達効率と前記内燃機関の効率とに基づいて規定されるシステム効率が高くなる点に設定するための夫々第1設定処理又は第2設定処理を選択的に行う動作点設定工程と、
前記内燃機関の動作状態を該設定された動作点によって規定される状態に制御する制御工程と
を具備することを特徴とするハイブリッド車両の内燃機関制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−170055(P2006−170055A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362966(P2004−362966)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】