説明

ハイブリッド車両の発進制御装置及び発進制御装置付きハイブリッド車両

【課題】 ハイブリッド車両の発進制御装置及び発進制御装置付きハイブリッド車両に関し、運転者の負担を軽減しながら、簡素な構成で、停車中のエンジンを自動的に停止及び再始動制御し迅速に発進させる。
【解決手段】
エンジン6,クラッチ7,電動機8及びトランスミッション9を備えた車両10において、車両10が停車状態にあるか否かを判定する停車状態判定手段3bと、停車状態時に発進要求を検出する発進要求検出手段3aと、停車状態時にエンジン6を停止させる手段4と、発進要求が検出されるまでクラッチ7を切断状態とし変速段を走行段に保持する発進待機制御手段4と、停車状態時に発進要求が検出されるとクラッチ7を切断状態としたまま電動機8を駆動する微動発進制御手段5Bと、微動発進制御手段5Bによる電動機8の駆動後に変速段を中立段とし、クラッチ7を締結方向へ駆動して電動機8を駆動する強制始動制御手段5Cと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの停止状態からの発進時における制御に係るハイブリッド車両の発進制御装置及び発進制御装置付きハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジン及び電動機の双方を車両の駆動源として搭載するパラレル方式のハイブリッド車両が知られている。この種のハイブリッド車両では、電動機がバッテリの電力で回転するモータとしての機能と、回転運動によって生じる電気エネルギをバッテリへ充電するジェネレータとしての機能とを併せ持っており、走行状態に応じてエンジン及び電動機の駆動力を組み合わせて、効率よく車両を走行させるようになっている。
【0003】
例えば特許文献1には、エンジンと電動機との間にクラッチを介装した車両において、発進時にクラッチを切離して電動機のみで車両を駆動するとともに、停車時にクラッチを接続しエンジンで電動機を駆動することによってバッテリを充電する構成が開示されている。
ところで近年、地球環境への配慮から、車両の排出ガスを削減するとともに燃費を向上させるべく、停車中はエンジンを自動的に一時停止させ、発進時にはエンジンを始動させるアイドリングストップ・スタート制御装置が数多く開発されている。特許文献2には、車両のシフトレバー操作や走行速度等の条件に応じてアイドリング状態のエンジンを停止させるとともに、エンジン停止後に所定条件で始動させるアイドリングストップ・スタート制御装置が開示されている。このような制御装置を前述のハイブリッド車両に対して適用する場合には、電動機の動力を利用してエンジンを始動させることで、スタータの負荷を減らして(あるいはスタータを省略して)静粛なエンジン始動が可能となる。このように、電動機を車両駆動とエンジン始動との両方に利用するためには、以下のような制御内容が考えられる。
【0004】
例えば、停車中に運転者によってシフトレバーがNレンジへ操作されたとき(つまりトランスミッションが中立段へ操作されたとき)に、エンジンを一時的に停止させ、その後シフトレバーがDレンジへ操作されたとき(つまりトランスミッションが走行段へ操作されるとき)に、エンジンを走行用モータで再始動させるようにする。このような制御手法によって、運転者の意思に応じてアイドリングストップ・スタート制御を実施することができるようになる。
【特許文献1】特開平5−176405号公報
【特許文献2】特開2004−169588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の制御構成では、アイドリングストップ・スタート制御を行いたいという運転者の意思がシフトレバー操作によって把握されるようになっている。つまり、主にアクセル,ブレーキ及びステアリング操作によって運用されている車両の通常運転下において、アイドリングストップのための特別な操作が運転者に要求されることになるため、運転者への負担が大きくなる。特に、頻繁に渋滞が発生する市街地においては、アイドリングストップ・スタート制御のための操作が運転者にとって煩雑となり、アイドリングストップ・スタート制御が実施されにくいという課題がある。
【0006】
このような課題に対し、シフトレバー操作の代わりにブレーキ操作によって運転者の意思を把握する構成とすることも考えられる。すなわち、エンジンがアイドリング状態にあり、かつ、ブレーキペダルが踏み込まれて車両が停止しているときにエンジンを一時停止させ、ブレーキペダルの踏み込みが解除されたことを以て走行用モータでエンジンを再始動させる制御を行うものである。このような構成によって、運転者が特別な操作をしなくてもアイドリングストップ・スタート制御を行うことができるようになる。
【0007】
しかし、このような構成とすると、アイドリングストップ状態からの車両の発進性が損なわれるおそれがある。すなわち、ブレーキペダルを放してからアクセル操作を開始するまでの時間は、通常の運転操作では極めて短く、その間にエンジンの再始動を完了させることは困難である。したがって、アクセル操作がなされても走行用モータはエンジンの始動を完了できず、車両の駆動源たるモータ,エンジンの両方ともが、駆動源としての機能をドライバのアクセル操作後速やかには発揮できない。
【0008】
また、例えば特許文献1には、発進時には電動機(モータ)のみで車両を駆動する技術が記載されているが、この場合、エンジンと電動機(モータ)との間のクラッチが切断されるため、電動機(モータ)の駆動力を利用したエンジン始動ができない。
なお、このような課題に対して、エンジン始動用のセルモータ(小型電動スタータ)等を上記の電動機とは別個に用意することにより、電動機による車両の発進とセルモータによるエンジンの始動とを同時に行うことも考えられる。しかしこの場合、装置構成が複雑となり、コストが上昇してしまうとともに、アイドリングストップ・スタート制御のたびにセルモータが回動されてしまい、静粛性やセルモータの寿命等の面で不利となる。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、運転者の負担を軽減しながら、簡素な構成で、停車中のエンジンを自動的に停止及び再始動制御し、迅速に発進させることができるハイブリッド車両の発進制御装置及び発進制御装置付きハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目標を達成するため、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項1)は、駆動輪へ動力伝達可能に連結されたエンジンと、上記のエンジンと駆動輪との間の動力伝達を断接可能に配設されたクラッチと、該クラッチを介さずに前記駆動輪へ動力伝達可能に連結された電動機(例えば、モータやモータ・ジェネレータ)と、前記エンジン及び前記電動機から入力される動力を前記駆動輪へ伝達するための走行段及び前記動力を非伝達とするための中立段を変速段として有するトランスミッションと、を備えたハイブリッド車両の発進制御装置であって、前記車両が停車状態にあるか否かを判定する停車状態判定手段(停車状態判定部)と、前記停車状態判定手段により前記車両が前記停車状態にあると判定されているときに、前記車両への発進要求を検出する発進要求検出手段(発進要求検出部)と、前記停車状態判定手段により前記車両が停車状態にあると判定されると、前記エンジンを停止させるアイドリングストップ手段(発進待機制御部)と、前記アイドリングストップ手段による前記エンジンの停止後であって、前記発進要求検出手段により前記発進要求が検出されるまでの間、前記クラッチを切断状態とするとともに前記トランスミッションの変速段を前記走行段に保持する発進待機制御手段(発進待機制御部)と、前記発進要求検出手段により前記発進要求が検出されて前記発進待機制御手段による制御が終了すると、前記クラッチを切断状態としたまま前記電動機を駆動して前記駆動輪に動力伝達する発進制御(微動発進制御)を実施する発進制御手段(微動発進制御部)と、前記発進制御手段による前記電動機の駆動後に、前記クラッチを切断状態としたまま前記トランスミッションの変速段を前記中立段に制御し、その後前記クラッチを締結方向へ駆動して前記電動機を駆動することにより前記エンジンを始動する制御を実施する始動制御手段(強制始動制御部)とを備えたことを特徴としている。
【0011】
つまり、前記発進制御手段は、前記エンジンを停止させたまま電動機の駆動力のみで前記車両を発進させる機能を有する。また、前記始動制御手段は、前記車両が前記電動機の駆動力によって動き始めた後に、慣性を利用して前記エンジンを始動させる機能を有する。
好ましくは、前記電動機が前記駆動輪と前記クラッチとの間に介装されるとともに、前記トランスミッションが前記電動機と前記駆動輪との間に介装される。つまり、前記車両において、前記エンジン,前記クラッチ,前記電動機,前記トランスミッション及び前記駆動輪が順に直列に接続されていることが好ましい。
【0012】
また、前記始動制御手段による制御(強制始動制御)下において、前記クラッチを切断状態としたまま前記トランスミッションの変速段を中立段に制御するとともに前記クラッチを締結方向へ駆動して完全締結状態に制御し、その後前記電動機を駆動することが好ましい。
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項2)は、請求項1記載のハイブリッド車両の発進制御装置において、前記車両発進時の加速要求の大きさを判定する加速要求判定手段(加速要求判定部)を備え、前記発進制御手段が、前記加速要求判定手段で検出された前記加速要求が予め設定された所定加速要求よりも小さい場合に、前記発進制御を実施することを特徴としている。
【0013】
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項3)は、請求項2記載のハイブリッド車両の発進制御装置において、アクセル操作量を検出するアクセル操作量検出手段(アクセル操作量検出部)を備え、前記発進要求検出手段が、前記アクセル操作量検出手段で検出されたアクセル操作量に基づいて前記発進要求を検出することを特徴としている。
なおこの場合、前記アクセル操作量検出手段がアクセル操作速度を検出するとともに、前記加速要求判定手段が、前記アクセル操作量及び前記アクセル操作速度に基づいて前記車両への加速要求の大きさを判定することが好ましい(請求項4)。
【0014】
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項5)は、請求項2〜4の何れか1項に記載のハイブリッド車両の発進制御装置において、前記発進要求検出手段により前記発進要求が検出されて前記発進待機制御手段による制御が終了した後に、前記電動機を駆動して前記駆動輪に動力伝達するとともに前記クラッチを締結方向へ駆動する押しがけ発進制御を実施する押しがけ発進制御手段(押しがけ発進制御部)を備え、前記押しがけ発進制御手段が、前記加速要求が予め設定された所定加速要求よりも大きい場合に、前記押しがけ発進制御を実施することを特徴としている。
【0015】
なお、前記押しがけ発進制御手段が、前記押しがけ発進制御において、前記電動機を駆動するとともに前記クラッチを締結方向へ駆動して半締結状態に制御することが好ましい。
この場合、前記発進制御手段による前記発進制御下において、前記加速要求が予め設定された所定加速要求よりも大きくなった場合に、前記発進制御手段が前記発進制御を停止させるとともに前記押しがけ発進制御手段が前記押しがけ発進制御を実施することが好ましい(請求項6)。
【0016】
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項7)は、請求項3〜6の何れか1項に記載のハイブリッド車両の発進制御装置において、前記発進制御手段が、前記発進要求に応じた要求トルクを算出する要求トルク算出手段(電動機駆動トルク算出部)と、所定の微動トルクを設定する微動トルク設定手段と、前記要求トルク算出手段で算出された前記要求トルクに前記微動トルクを加えた電動機駆動トルクが前記電動機から出力されるように前記電動機を駆動する電動機駆動制御手段(電動機駆動制御部)とを有することを特徴としている。
【0017】
この場合、前記要求トルク算出手段が、前記アクセル操作量検出手段で検出された前記アクセル操作量に基づいて前記要求トルクを設定することが好ましい(請求項8)。
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項9)は、請求項7又は8記載のハイブリッド車両の発進制御装置において、路面勾配を判定する路面勾配判定手段を備え、前記微動トルク設定手段が、前記路面勾配判定手段で判定された前記路面勾配に応じて前記微動トルクを設定することを特徴としている。
【0018】
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項10)は、駆動輪へ動力伝達可能に連結されたエンジンと、上記のエンジンと駆動輪との間の動力伝達を断接可能に配設されたクラッチと、該クラッチを介さずに前記駆動輪へ動力伝達可能に連結された電動機と、前記エンジン及び前記電動機から入力される動力を前記駆動輪へ伝達するための走行段及び前記動力を非伝達とするための中立段を変速段として有するトランスミッションと、を備えたハイブリッド車両の発進制御装置であって、前記車両の停車時において前記車両への発進要求が検出されるまでの間、前記エンジンを停止させたまま前記クラッチを切断状態とするとともに前記トランスミッションの変速段を前記走行段に保持する発進待機制御手段と、前記発進待機制御手段による制御が終了した後に、前記クラッチを切断状態としたまま前記電動機を駆動して前記駆動輪に動力伝達する発進制御手段と、前記発進制御手段による前記電動機の駆動後に、前記クラッチを切断状態としたまま前記トランスミッションの変速段を前記中立段に制御するとともに前記クラッチを締結方向へ駆動し、その後前記電動機を駆動することにより前記エンジンを始動する始動制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0019】
また、本発明の発進制御装置付きハイブリッド車両(請求項11)は、駆動輪へ動力伝達可能に連結されたエンジンと、上記のエンジンと駆動輪との間の動力伝達を断接可能に配設されたクラッチと、該クラッチを介さずに前記駆動輪へ動力伝達可能に連結された電動機と、前記エンジン及び前記電動機から入力される動力を前記駆動輪へ伝達するための走行段及び前記動力を非伝達とするための中立段を変速段として有するトランスミッションと、を備えたハイブリッド車両において、前記車両の発進状態を制御する発進制御装置を備え、該発進制御装置が、前記車両が停車状態にあるか否かを判定する停車状態判定手段と、前記停車状態判定手段により前記車両が前記停車状態にあると判定されているときに、前記車両への発進要求を検出する発進要求検出手段と、前記停車状態判定手段により前記車両が停車状態にあると判定されると、前記エンジンを停止させるアイドリングストップ手段と、前記アイドリングストップ手段による前記エンジンの停止後であって、前記発進要求検出手段により前記発進要求が検出されるまでの間、前記クラッチを切断状態とするとともに前記トランスミッションの変速段を前記走行段に保持する発進待機制御手段と、前記発進要求検出手段により前記発進要求が検出されて前記発進待機制御手段による制御が終了すると、前記クラッチを切断状態としたまま前記電動機を駆動して前記駆動輪に動力伝達する発進制御手段と、前記発進制御手段による前記電動機の駆動後に、前記クラッチを切断状態としたまま前記トランスミッションの変速段を前記中立段に制御し、その後前記クラッチを締結方向へ駆動して前記電動機を駆動することにより前記エンジンを始動する始動制御手段とを備えて構成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明のハイブリッド車両の発進制御装置及び発進制御装置付きハイブリッド車両(請求項1,10及び11)によれば、ドライバの発進要求に応じて車両を速やかに発進させることができるとともに、発進し始めた車両が慣性を利用しながら走行している間に電動機の動力でエンジンを始動させるので、比較的穏やかに車両を発進・走行させながら(微動発進させながら)、速やか且つ静粛にエンジンを始動させることができる。
【0021】
また、車両の発進前にエンジンを始動させるような制御と比べてエンジンの停止時間が長くなるため、停車時の静粛性や燃費を向上させることができる。
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項2)によれば、運転者の意図したとおりに車両を微動発進させることができる。
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項3)によれば、運転者の発進意思を的確に把握することができる。また、車両の発進時に特別な操作を要することなく発進制御及び始動制御を実施することができ、運転者の操作負担を軽減することができ、ドライブフィーリングを向上させることができる。
【0022】
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項4)によれば、運転者の加速要求を的確に把握することができる。
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項5)によれば、加速要求が大きい場合には、車両の発進と同時にエンジンを始動させる(押しがけする)ことができる。また、加速要求が小さい場合には車両をゆっくりと発進させることができる。このように、運転者の意図に応じてエンジンが始動するタイミングを変更させることが可能となり、車両を速やかに発進させることができる。
【0023】
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項6)によれば、ドライバの発進要求に応じて制御内容を変更することができる。例えば、発進制御下において加速要求が増加した場合には、微動発進制御を停止させて押しがけ発進制御を実施することができる。
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項7)によれば、車両の発進要求に応じた要求トルクに、微動トルクを加えた電動機駆動トルクが電動機から出力されるので、トランスミッションの変速段が中立段となって車両が惰性で走行している間に電動機によるエンジン始動を完了させることが一層容易となる。
【0024】
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項8)によれば、運転者のアクセル踏み込み量に応じた大きさのトルクを電動機へ付与することができ、車両始動時の自然な操作フィーリングを実現できる。
また、本発明のハイブリッド車両の発進制御装置(請求項9)によれば、路面勾配に応じた最適な微動トルクを電動機へ付与することができる。例えば、下り坂では要求トルクを比較的小さく設定することにより電動機駆動に係るバッテリ消費量を低減させることができ、一方、登り坂では微動トルクを比較的大きく設定して、車両の後退を防止しながら迅速に発進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図14は本発明の一実施形態にかかる車両の発進制御装置を示すものであり、図1はその全体構成を示す制御ブロック図、図2は本装置における電動機の駆動トルクを設定するためのマップ、図3〜図10は本装置による制御内容を説明するためのフローチャート、図11〜図14は本装置による車両発進時の作用,効果を説明するためのグラフである。
【0026】
[構成]
《全体構成》
本発進制御装置としてのコントローラ1は、図1に示すように、エンジン6,クラッチ7,モータ・ジェネレータ8及びトランスミッション9を備えたハイブリッド車両(以下、単に車両と呼ぶ)10に適用されている。
【0027】
エンジン6は、一般的な内燃機関として構成されている。エンジン6の駆動力は、クラッチ7を介してモータ・ジェネレータ8へ伝達され、トランスミッション9及び図示しないディファレンシャル装置を介して左右の駆動輪11へ伝達されて、車両10を駆動するようになっている。なお、本車両10には、エンジン6を動力源として駆動される補機15が備えられている。この補機15は、運転操作を補助するための補機であって、例えばステアリング操作をアシストするためのパワーステアリングポンプや、ブレーキ操作をアシストするためのブレーキアキュームレータ等である。
【0028】
クラッチ7はエンジン6とモータ・ジェネレータ8との間に介装されたクラッチ装置であり、エンジン6の出力軸側に連結された回転要素とモータ・ジェネレータ8の入力軸側に連結された回転要素とを内装して構成され、各回転要素を断接制御することによって互いの駆動力の伝達を断接可能となっている。例えば、各回転要素が切断状態の時には、エンジン6の駆動力がモータ・ジェネレータ8側へ伝達されず、また、モータ・ジェネレータ8の駆動力もエンジン6側へ伝達されないようになっている。
【0029】
なお、本実施形態のクラッチ7は、並設された一対の回転要素を接触(係合,締結)させることによって生じる摩擦力により動力を伝達させるとともに、回転要素同士を離隔(解放,切断)することによって動力伝達を遮断する摩擦式のクラッチ装置であるが、このクラッチ装置の代わりに湿式多板クラッチ装置やパウダークラッチ装置等を用いてもよい。
【0030】
クラッチ7は、後述するコントローラ1から入力される制御電圧Vの大きさに応じて、回転要素同士の締結の度合いを調整しうるようになっている。まず、制御電圧Vが第1電圧V1以下の場合には、回転要素同士が完全に締結した状態となる。また、制御電圧Vが第2電圧V2の場合(ただしV1<V2)には、回転要素同士に所定の差回転が生じる状態(すなわち回転要素同士がスリップする半締結状態)となる。さらに、制御電圧Vが第3電圧V3の場合(ただしV2<V3)には、回転要素同士の差回転がより大きな状態(すなわち回転要素同士のスリップの度合いがより大きい弱締結状態)となる。そして、制御電圧Vが第4電圧V4以上の場合(ただしV3<V4)には、回転要素同士が完全に切断された状態となる。
【0031】
なお、本実施形態では、クラッチ7の制御電圧Vが第2電圧V2のときに所謂半クラッチの状態となりトルク伝達がなされるが、制御電圧Vが第3電圧V3のときにはトルク伝達が殆どなされない程度の締結状態となるような設定がなされている。
モータ・ジェネレータ8は、モータ(電動機)としての機能とジェネレータ(発電機)としての機能を兼ね備えた電動・発電機である。ジェネレータとして機能する時には、エンジン6から入力されるトルクを利用し回転して発電を行い、あるいは、減速時において駆動輪11からのトルクを利用し回転して発電を行い、図示しないバッテリへ充電する。またモータとして機能する時には、図示しないバッテリの電力を利用して回転し、エンジン6から入力された駆動力にモータによる駆動力を付加してトランスミッション9側へと出力するようになっている。あるいは、エンジン6が停止している場合には、モータ・ジェネレータ8による駆動力を利用してエンジン6を回転させることもできるようになっている。なお、モータ・ジェネレータ8の上流側,下流側の駆動力伝達軸は、モータ・ジェネレータ8内部において直接又はギヤを介して連結され、一体回転するようになっている。以下、このモータ・ジェネレータ8のことを指して、単にモータ8と呼ぶ。
【0032】
トランスミッション9は、エンジン6やモータ8から入力される回転を変速する変速機である。この変速機としては、機械式の有段変速機を用いてもよく、また、ベルト式やトロイダル式の無段変速機を用いてもよい。
本車両10は、上記のエンジン6,クラッチ7,モータ8,トランスミッション9及び駆動輪11が順に直列に接続されたパラレル式のハイブリッド車両であり、車両10の走行状態に応じ、エンジン6及びモータ8の駆動力を組み合わせて走行できるようになっている。
【0033】
コントローラ1は、車両10の走行状態に応じてエンジン6,クラッチ7,モータ8及びトランスミッション9を協調制御するための電子制御装置である。コントローラ1の内部には、図示しない各種センサからの信号を処理するための制御部や、クラッチ7,モータ8及びトランスミッション9を作動させるための制御信号を出力するための制御部、制御プログラムや制御マップ等を記憶するための記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)及び計時カウンタ等を備えて構成されている。
【0034】
なお、図1に示すように、コントローラ1の外部入力側には、アクセルペダルの操作量(アクセル開度A)を検出するためのアクセル開度センサ12やブレーキペダルの操作量(ブレーキ踏み込み量B)を検出するための液圧センサ13,車両10の前後加速度Gを検出する前後加速度センサ14が接続されている。また、コントローラ1には、エンジン6のエンジン回転数Ne,モータ8の回転数Nm,モータ8からトランスミッション9側へ出力されるトルクの大きさTm,トランスミッション9の変速段の情報(例えば、Dレンジ1速やDレンジ2速,Nレンジ,Rレンジ等)及びトランスミッション9からディファレンシャル側へ伝達される回転数Ntが入力されるようになっている。
【0035】
《コントローラ構成》
続いてコントローラ1の内部構成について詳述する。図1に示すように、コントローラ1は、検出部2と、判定部3と、発進待機制御部(発進待機制御手段,待機トルク付加手段,アイドリングストップ手段)4及び発進制御部(発進制御手段)5を備えて構成される。
【0036】
検出部2は、車両10に設けられた図示しない各種センサからの情報を処理するためのものであり、判定部3は、車両10の状態や運転者による操作状態を把握するためのものである。また、発進待機制御部4は、停車中にエンジン6を一時停止させる(いわゆるアイドリングストップ制御を実施する)ための制御部であり、一方、発進制御部5は、アイドリングストップ制御を終了させてエンジン6を再始動させる(いわゆるアイドリングスタート制御を実施する)ための制御部である。なお、これらの制御は、まとめてアイドリングストップ・スタート制御(ISS制御)と呼ばれている。
次にコントローラ1の各機能要素について説明する。
【0037】
〈検出部2〉
検出部2は、アクセル操作量検出部(アクセル操作量検出手段)2a,前後加速度算出部(前後加速度算出手段,路面勾配判定手段)2b,実電動機トルク検出部(実電動機トルク検出手段)2c,電動機回転数検出部(電動機回転数算出手段)2d,エンジン回転数検出部(エンジン回転数検出手段)2e,車両走行速度検出部(車両走行速度検出手段)2f,制動操作検出部(制動操作検出手段)2g,変速段検出部(変速段検出手段)2h及び時間計測部(計時手段)2iを備えて構成される。
【0038】
アクセル操作量検出部2aは、運転者によるアクセルペダルの操作量を把握するためのものであり、アクセル開度センサ12から入力される情報に基づきアクセル開度Aをアクセル操作量として検出する。なおここでは、アクセル開度Aがアクセルペダルのフルストロークに対する踏み込み量の百分率(%)として検出されるようになっている。また、アクセル操作量検出部2aは、アクセル操作量Aの時間変化量からアクセルペダルの操作速度(アクセル操作速度)Av(%/s)を算出するようになっている。
【0039】
前後加速度算出部2bは、前後加速度センサ14から入力される情報に基づき、車両10に作用する前後加速度Gを算出するものである。なお、前後加速度センサ14は、重力加速度を含めた加速度を検出しうるセンサであるため、例えば車両10の停車時には、前後加速度算出部2bにおいて車両10が停車している路面の傾斜(路面勾配)に応じた前後加速度Gが算出されることになる。また、前後加速度Gは加速度が正の値で与えられ、減速度が負の値で与えられるようになっている。このため、路面の傾斜が上り勾配である時には前後加速度Gが正の値をとり、下り勾配であるときには負の値をとる。そして、勾配が急であるほど、算出される前後加速度Gの絶対値が大きくなる。このように、前後加速度算出部2bは、路面勾配を判定する機能を備えている。
【0040】
実電動機トルク検出部2cは、モータ8からトランスミッション9側へ出力されるトルク(実モータトルク)Tmを検出するものである。また、電動機回転数検出部2dは、モータ8の回転数(実モータ回転数)Nmを検出する。なお、実電動機トルク検出部2c及び電動機回転数検出部2dのうちの何れか一方のみを備えた構成としてもよい。つまり、実電動機トルク検出部2c及び電動機回転数検出部2dのうちの何れか一方が、モータ8の回転特性に基づき、モータ8のトルクTm及び回転数Nmの何れか一方から他方を算出する構成としてもよい。
【0041】
エンジン回転数検出部2eは、エンジン6から入力されるエンジン回転数Neを検出するものである。また、車両走行速度検出部2fは、トランスミッション9からディファレンシャルへ出力される回転数Ntに基づき、車両の走行速度Vcを算出(又は検出)するようになっている。
制動操作検出部2gは、運転者によるブレーキペダルの操作を把握するためのものであり、液圧センサ13から入力されるブレーキ踏み込み量Bと予め設定された閾値(例えば0)とを比較することによって、ブレーキ操作(制動操作)が行われたか否かを検出(又は判定)するようになっている。
【0042】
変速段検出部2hは、トランスミッション9の変速段を検出するものである。本実施形態では、トランスミッション9で選択されうる変速段として、中立段(Nレンジ),走行段(Dレンジ)及び後退段(Rレンジ)が設定されており、変速段検出部2hはトランスミッション9においてこれらの変速段のうち何れのポジションが選択されて制御されているかを検出する。なお、走行段には1速(発進段),2速,3速等、一般的な多段階の変速比ポジションが設定されている
また、時間測定部2iは、コントローラ1内の制御に用いられる計時カウンタであり、任意の時刻からの経過時間を計測するようになっている。本実施形態では、互いに独立して時間の計測が可能な3つのタイマ、第1タイマct,第2タイマct′,及び第3タイマct″が用意されている。以下、それぞれの計時カウンタで計測される時間を第1タイマ計測時間t,第2タイマ計測時間t′及び第3タイマ計測時間t″と表記する。なお、第1タイマctは主に、後述するアイドリングスタート制御の各実施モードの実行開始からの経過時間を計測し、第2タイマct′及び第3タイマct″は、運転者による操作状態(例えば、ブレーキペダルやアクセルペダルの踏み込み操作状態)や特定の走行状態(例えば、エンジンの燃焼状態やクラッチの締結状態)が検出された時点からの経過時間を計測するようになっている。
【0043】
〈判定部3〉
判定部3は、発進要求検出部(発進要求検出手段)3a,停車状態判定部(停車状態判定手段)3b及び燃焼維持状態判定部(燃焼維持状態判定手段)3cを備えて構成される。
発進要求検出部3aは、運転者の運転操作として車両10へ入力される発進要求を検出するものである。ここでは、アクセル操作量検出部2aでアクセル操作が検出された場合、すなわち、検出されたアクセル開度Aが0%よりも大きい場合(A>0)に、それを運転者の発進要求として検出する。なお以下、本コントローラ1内での制御判断に係る判定条件に番号を付し、記号〔 〕で示すものとする。
【0044】
〔1〕アクセル開度Aが0%よりも大きい
また、アクセル操作量検出部2aでアクセル操作が検出されない場合、すなわち、アクセル開度Aが0%の場合には、発進要求がないものとみなすようになっている。ここで検出された発進要求の有無は、発進待機制御部4及び発進制御部5へ入力される。なお、発進要求の有無の判定に係るアクセル開度の閾値として微少な所定値A1を予め設定しておき、アクセル操作量検出部2aにおけるセンシングの誤差等を吸収しうる構成としてもよい。例えば、アクセル開度Aが1%以上である場合(A≧1%)に発進要求を検出し、アクセル開度Aが1%未満である場合には発進要求がないとみなすようにしてもよい。
【0045】
停車状態判定部3bは、車両10が停車状態にあるか否かを判定するものである。ここでは、アクセル操作量検出部2a,前後加速度検出部2b,車両走行速度検出部2f,制動操作検出部2g及び変速段検出部2hでの検出情報に基づいて、停車状態の判定を行う。具体的な判定条件を次に示す。
〔2〕走行速度Vcが所定速度Vc1未満である
〔3〕ブレーキ操作がなされてる(つまりB>0である)
〔4〕アクセル操作がなされていない(つまりA=0である)
〔5〕変速段が走行段(Dレンジ)である
〔6〕前後加速度Gが所定値G3未満(G<G3)である
なお、所定値G3は路面が急な登り坂か否かを判定するための値であって、例えば「アイドルストップ制御を行うには勾配が急すぎるか否か」を判断基準にして所定値を定めればよい。
【0046】
これらの判定条件〔2〕〜〔6〕の全てが成立する状態で、予め設定された所定時間(所定の第2時間)tbが経過した場合に、停車状態判定部3bは車両10が停車状態にあると判定する。また、この状態が所定時間tb継続しない場合や、少なくとも上記の判定条件〔2〕〜〔6〕の何れかが成立しない場合には、車両10が停車状態にないと判定する。なお、停車状態判定部3bにおける判定結果は、発進待機制御部4及び発進制御部5へ入力される。この判定条件を条件〔7〕として以下に示す。
【0047】
〔7〕条件〔2〕〜〔6〕が所定の第2時間tb以上継続
なお、ここでの停車状態の判定は、後述するアイドリングストップ制御を開始するための必要条件となっているため、モータ8を駆動するための図示しないバッテリ充電量に係る判定条件を上記の判定条件に加えてもよい。例えば、バッテリ充電量が十分でない場合には、車両10が停車状態にあると判定しないこと等が考えられる。
【0048】
燃焼維持状態判定部3cは、エンジン6が完爆状態であるか否かを判定するものである。完爆状態(燃焼維持状態)とは、エンジン6が燃料供給を受けて自ら燃焼サイクルを維持するアイドリング状態のことをいい、例えば、エンジン6がエンストすることなくアイドリング状態を保持しうるようなエンジン回転数Neに達したエンジン6の燃焼状態のことを指す。この燃焼維持状態判定部3cは、以下に示す条件に基づき判定を行うようになっている。
【0049】
〔8〕エンジン回転数Neが予め設定された所定回転数Ne1以上
(Ne≧Ne1)である
〔9〕条件〔8〕が予め設定された所定時間(所定の第1時間)ta以上継続
燃焼維持状態判定部3cは、上記の条件〔8〕及び〔9〕がともに成立した場合に、エンジン6が完爆状態であると判定する。ここでの完爆状態の判定結果は、発進制御部5へ入力されて、エンジン6の始動が成功したか否か(つまり、エンジン6が掛かったか否か)の判断時に参照されるようになっている。
【0050】
〈発進待機制御部4〉
発進待機制御部4は、車両10の停車時にエンジン6を一時停止させるためのものである。ここでは、停車状態判定部3bにおいて車両10が停車状態にあると判定されると、発進要求検出部3aで発進要求が検出されるまでの間、トランスミッション9の変速段を走行段に保持したまま、クラッチ7を切断状態に保持するとともにエンジン6への燃料供給を遮断してエンジン6を停止させる、アイドリングストップ制御を実施する。なお、本実施形態では、発進待機制御部4からクラッチ7へ第4電圧V4以上の制御電圧Vが出力されて、クラッチ7が切断されるようになっている。
【0051】
この制御により、運転者がブレーキペダルを踏み込んだ状態で車両10がアイドリング状態になり暫くすると、自動的にエンジン6が一時停止することになる。なお、エンジン6がこの制御によって一時停止した際には、トランスミッション9の変速段が走行段に設定されたままの状態となっているが、本実施形態では、発進待機制御部4によってトランスミッション9の変速段が車両発進用の変速段である発進段(本実施の形態においては1速)に設定されるようになっている。このとき、前後加速度Gの検出値に基づいて、発進段を選択するようにしても良い。例えば、下り坂のときには通常時よりも高速段を選択するようにすることで、発進時の静粛性を向上し、発進後の変速回数を減らすことができる。
【0052】
また、発進待機制御部4は、アイドリングストップ制御下においては、モータ8へ僅かなトルク(待機トルク)ΔTを付与してトランスミッション9のガタ詰めを行うようになっている。ここでいう待機トルクΔTとは、駆動輪11の停止が維持される程度(駆動輪11を駆動しない程度)に小さく、かつ、モータ8からトランスミッション9の下流側まで伝達される程度の大きさを持つトルクである。これにより、エンジン6が停止した状態にありながら、クラッチ7のモータ側の回転要素からモータ8,トランスミッション9及びその下流側の駆動輪11へ至る動力経路上には、全くガタが生じていないことになる。
つまり、発進待機制御部4は、車両10の発進時よりも前に、モータ8を駆動して第2トルクを発生させる待機トルク付加手段としての機能を備えている。車両10の発進時には、後述する発進制御部5において車両10を発進させるための大きなトルクがモータ8へ与えられるため、その前段階の制御として、発進待機制御部4では、待機トルクΔTがモータ8へ与えられるようになっているのである。これにより、発進制御部5によるトルクが与えられた時には、モータ8の駆動力が駆動輪11へ至る動力伝達経路上を即座に伝達されることになる。
【0053】
また、発進待機制御部4は、エンジン6を停止させた後に前後加速度算出部2bで算出された前後加速度Gを記憶するようになっている。つまりここでは、車両10が停車している路面の勾配が記憶されることになる。また、記憶された前後加速度Gは、発進制御部5へ入力される。
なお、発進待機制御部4の制御は、発進要求検出部3aにより発進要求が検出されると制御を終了し、発進制御部5へと制御を移行させるようになっている。
【0054】
〈発進制御部5〉
一方、発進制御部5は、アイドリングストップ制御下にある車両10を再発進させる(アイドリングスタート制御を実施する)ための制御部である。発進制御部5は、発進待機制御部4による制御がドライバの発進要求を受けて終了すると開始される制御、すなわち、車両10を再発進させるとともにエンジン6を再始動させるための制御を担う。
【0055】
具体的には、発進制御部5は、モータ8を駆動することによってトルクを発生させて車両10を発進させるように機能するとともに、クラッチ7を半締結状態に制御することによってモータ8のトルクをエンジン6側へ伝達しエンジン6を始動させる機能を有している。なお、車両の発進時にモータ8で発生させるトルク(第1トルク)の大きさは、前述の発進待機制御部4における第2トルクよりも大きくなるように設定されている。
【0056】
この発進制御部5の内部にはさらに、モード判定部(加速要求判定手段,選択手段)5a,電動機駆動トルク算出部(電動機駆動トルク算出手段,要求トルク算出手段)5b,電動機駆動制御部(電動機駆動制御手段)5c,クラッチ制御部(クラッチ制御圧制御手段)5d,変速段制御部(変速段制御手段)5e,電動機駆動トルク補正部(電動機駆動トルク補正手段)5f及びフェイルセーフ制御部5gが設けられている。
【0057】
また、本実施形態では、アイドリングスタート制御の実施モードとして、押しがけモード,微動モード及び強制始動モードの3種類のモードが用意されており、各モードに応じた車両10の発進方法,エンジン6の始動方法が選択されるようになっている。具体的には、以下に詳述する通り、発進制御部5によって制御されるクラッチ7の締結度合い,モータ8の駆動トルク及びトランスミッション9の変速段が、各モード毎に異なっている。
【0058】
これらの各モードに応じた制御方法を統括管理する制御部として、発進制御部5内には、押しがけ発進制御部(押しがけ発進制御手段)5A,微動発進制御部(微動発進制御手段)5B及び強制始動制御部(強制始動制御手段)5Cが設けられている。
押しがけ発進制御部5Aは、押しがけモード時の制御(押しがけ発進制御)を司るための制御部であり、また、微動発進制御部5B,強制始動制御部5Cはそれぞれ、微動モード時の制御(微動発進制御,発進制御),強制始動モード時の制御(強制始動制御)を司るための制御部である。
【0059】
なお、押しがけモードとは、車両10を発進させるとともに、動き始めた車両10の慣性を利用してエンジン6を始動させる(すなわち押しがけする)ための制御モードである。つまり、押しがけモードでは、押しがけ発進制御部5Aにより、車両10の発進とエンジン6の始動とが略同時に行われるような制御がなされるようになっている。
一方、微動モードは、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じて徐行走行する(すなわち微動運転する)ための制御モードである。つまり、微動モードでは、微動発進制御部5Bにより、エンジン6の始動に先立ち車両10が緩やかに発進するような制御がなされるようになっている。
【0060】
また、強制始動モードとは、モータ8の駆動力を主にエンジン6の始動にあてがう制御モードである。この強制始動モードでは、強制始動制御部5Cにより、車両10の発進よりもエンジン6の始動が優先されることになる。
上記の押しがけ発進制御部5A,微動発進制御部5B及び強制始動制御部5Cは、以下に詳述する電動機駆動トルク算出部5b,電動機駆動制御部5c,クラッチ制御部5d,変速段制御部5e及び電動機駆動トルク補正部5fへ指示を出して、その時点で選択されている実施モードに対応する制御を実施させるようになっている。なお、押しがけ発進制御部5A,微動発進制御部5B及び強制始動制御部5Cについては後述する。
【0061】
上述の発進待機制御部4及び発進制御部5は、予め設定された条件に基づいてエンジン6を作動及び停止させるエンジン制御手段として機能している。具体的には、発進待機制御部4及び発進制御部5が、車両10の停車時にエンジン6を停止させるとともに、車両10の発進時にエンジン6を始動させるよう機能している。なお、ここでいうエンジン6を作動及び停止させる条件とは、停車状態判定部3bにおける停車状態に係る判定条件と、発進要求検出部3aにおける発進要求の判定条件のことを意味している。
【0062】
〈詳細・モード判定部5a〉
モード判定部5aは、アイドリングスタート制御の3種類の実施モードのうちの何れか1つを選択するための制御部であり、アクセル開度A,アクセル操作速度Av,前後加速度G及び変速段(シフトレバーの操作状態)に応じて、以下に示す条件に基づいて各実施モードの選択を行う。
【0063】
(I)変速段が走行段である場合(条件〔5〕が成立する場合)
〔10〕 G<G1(路面が下り坂)であって
A≧A2が一度でも成立する
〔11〕 G1≦G<G2(路面が平坦)であって
A≧A1 かつ Av≧Av1 が一度でも成立する
〔12〕G2≦G<G3(路面が登り坂)であって
A≧A3 かつ Av≧Av2 が一度でも成立する
〔13〕G3≦G(路面が急な登り坂)である(A及びAvの条件付けなし)
ただし、上記の条件〔10〕〜〔13〕において、第1所定加速度G1<0,第2所定加速度G2>0,第3所定加速度G3>0に設定されている。つまり、これらの大小関係はG1<0<G2<G3となっている。また、第1所定開度A1,第2所定開度A2,第3所定開度A3の大小関係は、A2<A3<A1となっており、第1所定開度速度Av1,第2所定開度速度Av2については、Av2<Av1となっている。
【0064】
つまり、モード判定部5aは、車両10へ入力された加速要求の大きさを、アクセル開度A,アクセル操作速度Av及び前後加速度Gに基づいて把握し、その加速要求が所定加速要求よりも大きい(又は、以上である)場合に押しがけモードを選択し、所定加速要求よりも小さい(又は、以下である)場合に微動モードを選択するようになっている。ここでいう所定加速要求とは、例えばG<G1である場合にはA=A2となるアクセル操作と同義であり、また例えばG1≦G<G2である場合にはA=A1かつAv=Av1となるアクセル操作と同義である。また、G<G1である場合にはA≧A2となるアクセル操作がなされたときに、加速要求が所定加速要求よりも大きいと判定されることになり、G1≦G<G2である場合にはA≧A1かつAv≧Av1となるアクセル操作がなされたときに、加速要求が所定加速要求よりも大きいと判定されることになる。このようにモード判定部5aは、車両への加速要求の大きさを判定してモードを選択する機能を備えている。
【0065】
なお、条件〔10〕〜〔12〕に示すように、モード判定部5aでの判定に係る所定加速要求の大きさは、前後加速度Gすなわち路面勾配の大きさに応じて異なる値が設定されている。
上記の条件〔10〕〜〔13〕のうち、条件〔13〕が成立した場合には、モード判定部5aは強制始動モードを選択するようになっている。また、条件〔13〕が成立しない場合には、モード判定部5aは条件〔10〕〜〔12〕の何れかが成立すれば、押しがけモードを選択し、条件〔10〕〜〔12〕の何れも成立しなければ微動モードを選択するようになっている。
【0066】
これらの条件の設定に関して、条件〔10〕において第2所定開度A2が他の第1所定開度A1,第3所定開度A3よりも小さく設定されているのは、この条件が下り勾配の路面での判定条件であることに由来している。下り坂では、運転者がブレーキペダルから足を放すと車両10の自重により自然と微動を開始するため、積極的に微動モードを選択して制御する必要性が低いためである。つまり、ブレーキペダルから足を離すだけで微動発進できる下り坂においてあえてアクセルペダルを踏み込むということは、微動発進よりも速やかな発進が望まれている場合が多いと考えられる。このような実情を考慮して、下り坂では、小さめのアクセル踏み込みでも押しがけモードが選択されやすくなるように条件を設定している。
【0067】
また、条件〔11〕において第1所定開度A1が他の第2所定開度A2,第3所定開度A3よりも大きく設定されているのも、この条件が平坦な路面での判定条件であることに由来しており、アクセルペダルの操作領域をある程度大きめに設定することで、運転者にとって微動モードと押しがけモードとを選択しやすくすることができ、これにより運転者の意志に応じた発進(加速)をすることができるようになっている。
【0068】
また、微動モードは後述するように所定時間で終了し、強制始動モードへと移行する。強制始動モードのエンジン始動時には、トランスミッション9が中立段とされて車両10が惰性走行する状態があるため、第3所定開度A3は第1所定開度A1よりも小さく設定してあり、押しがけモードが選択されやすくしている。これは、小さなアクセル踏み込みで微動モードを選択してしまうと、登り路面勾配の大きさによっては発進時の初速が足りず、惰性走行時に車体が後方へ下がってしまうおそれがあるからである。
なお、各所定開度速度Av1,Av2の設定についても同様の趣旨でその大きさが定められている。
【0069】
(II)変速段が走行段以外である場合(条件〔5〕が不成立)
この場合、上記の条件〔10〕〜〔13〕を検討することなく、モード判定を行わずに直ちにエンジン6を始動させる制御が実施されるようになっている。この場合、後述する変速段制御部5eが変速段を一旦Nレンジへ制御し、続いて、後述するクラッチ制御部5dがクラッチ7へ第1電圧V1以下の制御電圧を出力してクラッチ7を締結する。そして、後述する電動機駆動制御部5cが予め設定された所定の大きさのトルクをモータ8へ付与して、エンジン6を始動させるようになっている。なお、ここで設定されるトルクの大きさは、後述する第2始動トルクTe2と同一に設定されている。
【0070】
このモード判定部5aは、押しがけモードを選択した場合に、押しがけモードに対応する制御を実施させるための信号を押しがけ発進制御部5Aへ出力するようになっている。また、微動モードを選択した場合には、微動モードに対応する制御を実施させるための信号を微動発進制御部5Bへ出力し、強制始動モードを選択した場合には、強制始動モードに対応する制御を実施させるための信号を強制始動制御部5Cへ出力するようになっている。
【0071】
〈詳細・電動機駆動トルク算出部5b〉
電動機駆動トルク算出部5bは、モータ8が発生する駆動トルク(電動機駆動トルク)Tを算出するものである。駆動トルクTは、運転者のアクセル操作やモータ8の回転数によって決まる要求トルクTrと、停止状態にあるエンジン6を再始動させるのに必要な駆動力としての始動トルクTeと、所定の微動トルクTbと、を考慮して算出される。
【0072】
本実施形態において、電動機駆動トルク算出部5bには、要求トルクTr,モータ回転数Nm及びアクセル開度Aの対応グラフとして図2に示されるマップが記憶されている。要求トルクTrの大きさは、この図2に示すように、アクセル開度Aが大きいほど大きく設定される一方、モータ回転数Nmが大きいほど小さく設定されるようになっている。
始動トルクTeは、エンジン6の始動に係るトルクであって、本実施の形態においてはアイドリングスタート制御の各実施モードに応じて予め設定されている。具体的には、電動機駆動トルク算出部5bに2種類の始動トルク、Te1(第1始動トルク)及びTe2(第2始動トルク)が設定されており、押しがけモード時には押しがけ発進制御部5Aからの指示により始動トルクTeをTe=Te1に設定するようになっている。同様に、強制始動モード時には強制始動制御部5Cからの指示により始動トルクTeをTe=Te2に設定するようになっている。
【0073】
第1始動トルクTe1の大きさは、エンジン6を始動させることができる程度の大きさに設定されており、押しがけモードではこの第1始動トルクTe1と車両発進時に運転者のアクセル操作に応じた要求トルクTrとが加算された駆動トルクTが、モータ8から出力されるようになっている。
また、第2始動トルクTe2の大きさは、第1始動トルクTe1よりも大きい値(Te2>Te1)、すなわち、確実にエンジン6を始動させることができる程度の大きさに設定されている。
【0074】
一方、微動トルクTbは、エンジン6の始動に係るトルクではなく、車両10の発進に係るトルクである。この微動トルクTbの大きさは、例え要求トルクTrが極めて小さな値であったとしても要求トルクTrに加算することで車両10がある程度惰性で走行しうる程度の大きさに設定されており、このにエンジン始動が確実に行えるようになることを狙って、微動発進制御部5Bからの指示により設定されるようになっている。
【0075】
なお、電動機駆動トルク算出部5bは、モード判定部5aにおいて実施モードの移行が選択された場合に、そのモード変更に応じて電動機駆動トルクTを変更して設定し直すようになっている。つまり、電動機駆動トルクTの大きさはアイドリングスタート制御下において随時更新,設定されうるようになっている。
押しがけモード,微動モード及び強制始動モードの各モード時に設定される電動機駆動トルクTの大きさを式に示すと、以下の通りとなる。
(1) 押しがけモード時 T=Tr+Te1 ・・・ (式1)
(2) 微動モード時 T=Tr+Tb ・・・ (式2)
(3) 強制始動モード時 T=Te2 ・・・ (式3)
【0076】
〈詳細・電動機駆動制御部5c〉
電動機駆動制御部5cは、電動機駆動トルク算出部5bで算出された電動機駆動トルクTがモータ8から出力されるように、モータ8を駆動する制御部である。つまり、電動機駆動制御部5cは、アイドリングスタート制御の各実施モードに応じてモータ8を電動機駆動トルクTで駆動する。
なお、電動機駆動制御部5cは、モード判定部5aにおいて実施モードの移行が選択された場合には、そのモード変更に応じて変更された電動機駆動トルクTでモータ8を駆動するようになっている。
【0077】
〈詳細・クラッチ制御部5d〉
クラッチ制御部5dは、アイドリングスタート制御の各実施モードに応じてクラッチ7の締結度合いを制御する制御部である。まず、クラッチ制御部5dは、アイドリングスタート制御が開始されると直ちにクラッチ7へ第3電圧V3の制御電圧Vを出力し、クラッチ7を弱締結状態に制御するようになっている。これにより、モータ8とエンジン6との間ではほとんど互いに駆動力が伝達されない状態となる。
【0078】
また、モード判定部5aにおいて押しがけモードが選択された後には、押しがけ発進制御部5Aからの指示により、クラッチ制御部5dがクラッチ7へ第2電圧V2の制御電圧Vを出力して、クラッチ7を半締結状態に制御する。これにより、モータ8の駆動力は、モータ8よりも下流側のトランスミッション9へ伝達されるとともに、半締結状態のクラッチ7を介してエンジン6にも伝達されるようになっている。
【0079】
一方、微動モード時には、微動発進制御部5Bからの指示により、第3電圧V3の制御電圧Vを出力して、クラッチ7を弱締結状態に制御するようになっている。つまり、微動モード時には、押しがけモード時よりもクラッチ7がよりスリップした状態(より切断側へ制御された状態)となっている。これにより、モータ8とエンジン6との間ではほとんど互いに駆動力が伝達されない状態となる。
【0080】
また、強制始動モード時には、強制始動制御部5Cからの指示により、一旦クラッチ7へ第4電圧V4以上の制御電圧Vを出力した後に第1電圧V1以下の制御電圧Vを出力するようになっている。つまり、強制始動モード時には、一旦クラッチ7が完全に切断された後、完全に締結した状態へ制御されることになる。これにより、モータ8の駆動力がロスなくエンジン6へ伝達されて、エンジン6の始動のために供される状態となる。
【0081】
なお、このクラッチ7の切断から締結までの間に、次に説明する変速段制御部5eによるトランスミッション9の変速段切り換えが行われるようになっており、強制始動制御部5Cによってこのような切換のタイミングが制御されるようになっている。つまり、強制始動制御部5Cは、クラッチ7が完全に切断されてから完全に締結されるまでの間に、変速段制御部5eへ変速段を変更させる指示を出力するようになっている。
【0082】
また、クラッチ制御部5dは、押しがけモード時において、エンジン6の燃焼状態に応じてクラッチ7へ出力する制御電圧Vの大きさを変更するようになっている。ここで判定される条件は後述する条件〔16〕であり、この条件〔16〕が成立する場合に、押しがけ発進制御部5Aによりクラッチ制御部5dへ指示が出力され、クラッチ制御部5dは制御電圧Vを第3電圧V3へ変更するようになっている。
【0083】
なお、条件〔16〕が成立しない場合には、クラッチ制御部5dが制御電圧Vを第1電圧V1以下へ変更するとともに、後述するフェイルセーフ制御部5gへ、制御を引き継ぐようになっている。これらの制御は、押しがけ発進制御部5Aによって実施されるようになっている。
さらに、クラッチ制御部5dは、強制始動モード時においても、エンジン6の燃焼状態に応じてクラッチ7へ出力する制御電圧Vの大きさを変更するようになっている。ここで判定される条件は後述する条件〔19〕であり、この条件〔19〕が成立する場合に、強制始動制御部5Cによりクラッチ制御部5dへ指示が出力され、クラッチ制御部5dは制御電圧Vを第3電圧V3へ変更するようになっている。また、条件〔19〕が成立しない場合には、条件〔19〕が成立するまで制御電圧Vを変更しないようになっている。
【0084】
〈詳細・変速段制御部5e〉
変速段制御部5eは、トランスミッション9の変速段の切り換え制御を行うための制御部であるが、強制始動モード時にのみ、強制始動制御部5Cからの指示により変速段を切り換える制御を行い、押しがけモード時及び微動モード時には変速段を切り換えないようになっている。つまり、押しがけ発進制御部5A及び微動発進制御部5Bは、変速段制御部5eへ制御指示を出力しないようになっている。
【0085】
まず、強制始動モード時において、クラッチ制御部5dによりクラッチ7が完全に切断されてから完全に締結されるまでの間に、強制始動制御部5Cからの指示が入力されると、変速段制御部5eは変速段をN(ニュートラル)レンジへ制御する。一方、押しがけモード時及び微動モード時には、変速段を切り換えず、1速の発進段を保持するようになっている。
【0086】
〈詳細・電動機駆動トルク補正部5f〉
電動機駆動トルク補正部5fは、電動機駆動トルク算出部5bで算出された電動機駆動トルクTを補正する制御部である。ここでは、以下に示す条件に基づき制御がなされる。
〔14〕燃焼維持状態判定部3cで完爆状態であると判定される
なお、この条件〔14〕が成立することは、前述の条件〔8〕及び〔9〕がともに成立することと同値である。上記の条件〔14〕が成立した場合に、電動機駆動トルク補正部5fは、電動機駆動トルク算出部5bで算出された電動機駆動トルクTが電動機駆動トルク算出部5bで設定された要求トルクTrへ漸近するように補正する。つまり、この補正により、電動機駆動トルク算出部5bで算出される電動機駆動トルクTの大きさが補正されることになり、通常状態(アイドルストップ・スタート制御の終了)へスムーズに移行することができる。
【0087】
本実施形態において、電動機駆動トルクTが要求トルクTrよりも大きい場合には、予め設定された所定量のトルクを電動機駆動トルクTから減算する補正を行い、これを電動機駆動トルクTが要求トルクTr以下になるまで繰り返すようになっている。逆に、電動機駆動トルクTが要求トルクTrよりも小さい場合には、予め設定された所定量のトルクを電動機駆動トルクTに加算する補正を行い、これを電動機駆動トルクTが要求トルクTr以上となるまで繰り返す。
なお、電動機駆動トルクTを要求トルクTrに漸近させるための制御手法として、実電動機トルク検出部2cで検出される実モータトルクTmに基づき、公知のフィードバック制御やフィードフォワード制御を用いてもよい。
【0088】
〈詳細・フェイルセーフ制御部5g〉
フェイルセーフ制御部5gは、押しがけモード下において後述する押しがけ発進制御部5Aで条件〔16〕が成立しなかった場合に、押しがけモードから強制始動モードへの移行制御を行うための制御部である。つまり、このフェイルセーフ制御部5gは、押しがけ発進制御部5Aの指示による押しがけモード下において、エンジン6がアイドリング状態の直前の状態にまでは至らなかった(エンジンが掛かりそうになかった)場合のフェイルセーフとしての制御を実施するようになっている。
【0089】
具体的には、要求トルクTrをそのまま電動機駆動トルクTとして設定するとともに、、クラッチ制御部5dからクラッチ7へ出力される制御電圧Vを第1電圧V1に変更させるようになっている。つまりここでは、電動機駆動トルク算出部5bで算出された電動機駆動トルクTを、始動トルクTeを加算することなく、T=Trとして算出し直すとともに、クラッチ7を締結させる。換言すると、ここでは始動トルクTeが0に設定される。これにより、モータ8の駆動力は、クラッチ7を介してエンジン6へ供給されるとともに、トランスミッション9を介して駆動輪11へも供給されることになる。
【0090】
このように、フェイルセーフ制御部5gは、押しがけモードでのエンジン6の始動に失敗した場合でも、クラッチ7を締結方向へ駆動してモータ8の駆動力を補機15の駆動源であるエンジン6へ動力伝達するので、補機15を稼働させて安全に車両を走行させることができるようになっている。すなわち、フェイルセーフ制御部5gは、モータ8の動力を始動していないエンジン6へ伝達しエンジン6及び補機15を駆動する電動機動力伝達手段(補機駆動制御手段)として機能している。また、これらのフェイルセーフ制御部5g及びクラッチ7は、エンジン制御手段によるエンジン6の始動に失敗した場合に、モータ8の動力をエンジン6へ伝達しエンジン6を駆動する電動機動力伝達制御手段としての機能を備えている。
【0091】
また、フェイルセーフ制御部5gは、以上のような制御を行った上で、以下の条件に基づいて制御モードの移行を行う。
〔3〕ブレーキ操作がなされている
〔15〕車両停止状態である
上記の条件〔3〕及び〔15〕の全てが成立した場合に、フェイルセーフ制御部5gはモード判定部5aに押しがけモードから強制始動モードへの移行を指示するとともに、強制始動モードに対応する制御を実施させるための信号を強制始動制御部5Cへ出力するようになっている。これにより、押しがけ発進制御部5Aによる押しがけモードが終了することとなり、強制始動制御部5Cにより改めて強制始動モードが開始されるようになっている。なお、これらの条件〔3〕及び〔15〕の全てが成立しない場合には、クラッチ7の制御電圧Vを第1電圧V1に維持するとともに電動機駆動トルクTをT=Trとしたままのフェイルセーフ制御を継続するようになっている。
【0092】
なお、フェイルセーフ制御中においては、要求トルクTrは車両10の駆動トルクTのみならず、始動していないエンジン6を回転させるトルク及び補機駆動トルクとしても消費されるため、エンジン始動に成功してフェイルセーフ制御に移らなかった場合と比較して、ドライブフィーリングが異なる。このように、ドライブフィーリングの変化によって、フェイルセーフ制御へ移ったことを運転者に実感させることができ、いち早く車両を停止させてエンジンを始動させるよう促す効果も期待できる。
【0093】
〈押しがけ発進制御部5A〉
押しがけ発進制御部5Aは、モード判定部5aで判定された実施モードが押しがけモードである場合に、各制御部5b〜5fにおける制御内容を調整する制御部である。
本実施形態では、上述の通り、クラッチ7がクラッチ制御部5dにより制御され、モータ8が主に電動機駆動トルク算出部5b,電動機駆動制御部5c及び電動機駆動トルク補正部5fにより制御され、トランスミッション9が変速段制御部5eにより制御されるようになっている。そして、モード判定部5aで選択される各実施モードに応じて、これらの各制御部5b〜5fの制御内容が、押しがけ発進制御部5A,微動発進制御部5B及び強制始動制御部5Cからの指示により適宜調節されるようになっている。
【0094】
押しがけ制御は、モード判定部5aにおいて、所定加速要求よりも大きい加速要求が検出された場合に選択される。また、この押しがけ制御時には、トランスミッション9では発進段が選択されており、電動機駆動制御部5cによりモータ8に電動機駆動トルクTが付与されるとともに、クラッチ制御部5dによりクラッチ7が切断状態から半締結状態へ移行する(制御電圧Vを第2電圧V2とする)ように制御される。
【0095】
したがって、押しがけ発進制御部5Aは、モータ8を駆動してトランスミッション9を介して駆動輪11を回転させる(車両を発進させる)とともに、クラッチ7を締結方向へ駆動してモータ8の駆動軸の回転がエンジン6の出力軸に伝達されるようにしてエンジン6を始動させる。
ここで、クラッチ7を締結方向へ駆動して、モータ8の駆動軸の回転がエンジン6の出力軸に伝達され始めるときには、車両10が発進し始めており、車両自体が持つ慣性エネルギーがクラッチ7を介してエンジン6へ伝達されることになる。換言すれば、車両の慣性力を利用してエンジン6を始動させるアイドリングストップ・スタート制御が実施されていることになる。
【0096】
また、押しがけ発進制御部5Aは、押しがけモード時において、押しがけモードから強制始動モードへの所定の移行条件を判定し、モード判定部5aにおけるモードの選択を変更させるようになっている。この所定の判定条件としては、例えば以下のような条件が考えられる。
〔4〕アクセル操作がなされていない(つまりA=0である)
押しがけ発進制御部5Aは、上記の条件〔4〕が成立した場合には、モード判定部5aに押しがけモードから強制始動モードへの移行を選択させる(モード選択を変更させる)ようになっている。つまり、アクセル操作がなされていなければ発進要求がないものとみなされるため、モータ8の駆動力を主にエンジン6の始動に利用する強制始動制御を行うことで、より効率的にエンジン6を始動させることができることになる。
【0097】
なお、本実施形態では、押しがけモードから微動モードへの移行制御は行われないようになっている。これは、実際の運転操作において、一端発進した車両10の速度を落としたい場合には、運転者はブレーキペダルを踏んで速度調節を行おうとするものであるからである。つまり、本実施形態の微動発進制御とは、車両発進時の微動発進のための制御であってアクセル操作に応じて車両10を微動させるものであるため、押しがけモードから微動モードへの移行制御を設定してしまうと、却って操作フィーリングが不自然になってしまうおそれがある、ということである。
【0098】
また、押しがけモード時において、押しがけ発進制御部5Aは、下記の条件に基づく判定を行ってクラッチ7を制御するようになっている。
〔16〕押しがけモードが開始されてから所定の第3時間tc以内
かつエンジン回転数Neが前述の所定回転数Ne1以上となる
上記の条件〔16〕が成立する場合に、押しがけ発進制御部5Aはクラッチ制御部5dへ指示を出し、クラッチ7への制御電圧Vを第3電圧V3へ変更させるようになっている。なお、条件〔16〕は、燃焼維持状態判定部3cの完爆状態の判定条件のうちの一部であり、条件〔16〕が成立する状態とは、エンジン6が完爆状態となる直前の状態を意味している。つまり、押しがけ発進制御部5Aは、エンジン6の燃焼状態が安定したアイドリング状態となる直前にクラッチ制御部5dに指示を出して、クラッチ7を弱締結状態に制御させることによって、エンジン6の状態変化に伴うトルク変動の伝達を抑制する。このような制御により、エンジン6が完爆状態となる際に生じうるショックを低減させるようになっている。
【0099】
なお、条件〔16〕が成立しない場合、押しがけ発進制御部5Aはクラッチ制御部5dに制御電圧Vを第1電圧V1以下へ変更させるとともに、フェイルセーフ制御部5gへ指示を出して、フェイルセーフ制御を実施させるようになっている。
【0100】
〈微動発進制御部5B〉
微動発進制御部5Bは、モード判定部5aで判定された実施モードが微動モードである場合に、各制御部5b〜5fにおける制御内容を調整する制御部である。
本実施形態では、上述の通り、加速要求が所定加速要求よりも小さい場合に選択される微動モードでは、電動機駆動制御部5cによりモータ8に電動機駆動トルクTが付与されるとともに、クラッチ制御部5dによりクラッチ7が切断状態から弱締結状態(つまり、トルク伝達のほとんどない状態であって切断状態と実質的に同一とみなせる状態)へと制御される。
【0101】
したがって、微動発進制御部5Bは、アイドリングストップ制御下において発進要求が検出された場合に、クラッチ7を切断したままモータ8を駆動する(エンジン6を停止させたままモータ8の駆動力のみで車両10を発進させる)よう機能しているということができる。さらにこのとき、微動発進制御部5Bは、加速要求が所定の加速要求より小さい場合に、クラッチ7を切断したままモータ8を駆動するように機能しているといえる。
【0102】
本実施形態では、押しがけモード及び強制始動モードは、それ単独でアイドリングスタート制御として完結しうる制御モード(すなわち、単独でエンジン6を再始動させ、かつ、車両10を発進させることが可能な制御モード)となっている一方、微動モードは、それ単独ではアイドリングスタート制御として完結せず、予め設定された所定の移行条件に応じて押しがけモード、あるいは、強制始動モードへ移行するようになっている。これは、微動モードの目的とする制御内容が、運転者のアクセルペダルの操作量に応じて車両10を緩やかに微動させることにあって、必ずしもエンジンを再始動させる点にあるわけではないからである。
【0103】
本実施の形態においては、以下の何れかの条件が満たされると、強制始動モードへと移行する。
〔17〕微動モードが開始されてから所定の第4時間td経過する
〔18〕微動モード下において運転者によるアクセル開度Aが検出されない
なお、上記所定の第4時間tdは、ある程度短めに設定することが好ましい。これは、エンジン6が始動していない状態でいつまでも車両10を推進させることは、補機15が稼働していないために好ましくないからである。
【0104】
一方、微動発進制御部5Bにおいて、上記の条件〔10〕〜〔12〕の何れかが成立した場合には、微動発進制御部5Bがモード判定部5aに押しがけモードへの移行を選択させる(つまり、モード選択を変更させる)ようになっている。
つまり、押しがけ発進制御部5Aは、微動モード下で運転者による車両10への加速要求が所定加速要求よりも大きくなったときには、微動発進制御部5Bによる制御を終了させて、微動モードから押しがけモードへの移行をモード判定部5aに促すように機能する。
【0105】
また、上記の条件〔10〕〜〔12〕の何れも成立することがないまま条件〔17〕又は〔18〕が成立した場合には、微動発進制御部5Bがモード判定部5aに強制始動モードへの移行を選択させるようになっている。
つまり、微動モードから強制始動モードへ移行した場合には、強制始動制御部5Cが、微動発進制御部5Bによるモータ8の駆動制御の後に、クラッチ7を切断状態としたままトランスミッション9の変速段をニュートラルに制御するとともにクラッチ7を締結方向へ駆動し、その後モータ8を駆動するように機能することになる。
【0106】
〈強制始動制御部5C〉
また、本実施形態では、強制始動時にはクラッチ制御部5dによりクラッチ7が切断状態に制御され、変速段制御部5eによりトランスミッション9の変速段がNレンジへ制御され、さらにクラッチ制御部5dによりクラッチ7が完全締結の状態に制御されて、その後電動機駆動制御部5cによりモータ8へトルクが付与される。
【0107】
したがって、強制始動制御部5Cは、クラッチ7を切断状態としたままトランスミッション9の変速段を中立段に制御するとともにクラッチ7を締結方向へ駆動し、その後モータを駆動するように機能しているといえる。
また、強制始動モード時において、強制始動制御部5Cは、下記の条件に基づく判定を行ってクラッチ7を制御するようになっている。
【0108】
〔19〕エンジン回転数Neが前述の所定回転数Ne1以上となる
上記の条件〔19〕が成立する場合に、強制始動制御部5Cはクラッチ制御部5dへ指示を出し、クラッチ7への制御電圧Vを第3電圧V3へ変更させるようになっている。また、条件〔19〕が成立しない場合には、条件〔19〕が成立するまで制御電圧Vを変更させないように制御する。
なお、本実施形態では、強制始動モードから微動モードへの移行制御は行われないようになっている。これは、押しがけモードから微動モードへの移行制御がないのと同様に、操作フィーリングを向上させるためである。
【0109】
〈備考〉
なお、モード判定部5aでの判定に係る所定加速要求の大きさは、路面勾配の大きさに応じて異なる値が設定されている。また、押しがけモード時には電動機駆動トルク算出部5bにおいて始動トルクTeがTe1に設定され、微動モード時には、電動機駆動トルク算出部5bにおいて微動トルクTbが設定されるようになっているが、これらの始動トルクTe1や微動トルクTbは路面勾配に応じた大きさに設定するようになっている。このようにすることで、より適切なエンジン始動トルクが与えられ、あるいは、微動発進後の強制始動モードにおける惰性走行に対して適切な初速が与えられて、エンジンをより確実に始動させることができる。
【0110】
[フローチャート]
本発明の一実施形態に係る車両の発進制御装置は上述のように構成されており、図3〜図10に示すフローチャートに従って制御を実施する。なお、これらのフローチャートはコントローラ1内において繰り返し実行されるようになっており、車両10の通常走行時(アイドリングストップ制御及びアイドリングスタート制御が実施されていない時)には、図3に示すエンジン停止フローが実施されている。
【0111】
《A.エンジン停止フロー》
まず、図3に示すエンジン停止フローを説明する。このフローは、発進待機制御部4内における制御内容に対応するものである。
ステップA10では、停車状態判定部3bにおいて、車両10が停車状態にあるか否かが判定される。このステップでは、上記の条件〔2〕〜〔6〕の全てが成立するか否かが判定されることになる。条件〔2〕〜〔6〕の全てが成立する場合には、ステップA20へ進み、少なくとも何れか1つの条件が成立しない場合には、ステップA50へ進んで、アイドリングストップ制御を実施することなくこのフローを終了する。
【0112】
また、ステップA20では、条件〔2〕〜〔6〕が成立した状態で所定時間tbが経過したか否かが判定される。つまりこのステップでは、上記の条件〔7〕が成立するか否かが判定されることになる。この条件が成立した場合には、ステップA30へ進んでアイドリングストップ制御が実施されることになり、一方、成立しない場合には、ステップA50へ進んでアイドリングストップ制御を実施することなくこのフローが終了する。つまりこのステップA10及びステップA20では、アイドリングストップ制御の開始条件が判定されていることになる。なおこの場合、停車状態判定部3bにおいて、所定の周期で本エンジン停止フローが繰り返し実行されることになる。
【0113】
ステップA30では、発進待機制御部4からクラッチ7へ第4電圧V4以上の制御電圧Vが出力されてクラッチ7が切断状態に保持されるとともに、トランスミッション9の変速段が発進段(本実施の形態においては、1速)に制御(又は保持)され、さらにエンジン6への燃料供給が遮断されてエンジンが停止する。また、続くステップA40では、エンジン停止時に車両に作用する前後加速度Gが前後加速度算出部2bにおいて算出され、発進待機制御部4に記憶される。そして、図4に示される再始動判定フローが実行される。
【0114】
《B.再始動判定フロー》
図4に示す再始動判定フローは、アイドリングストップ制御からアイドリングスタート制御への切り換え条件を判定するフローである。まず、ステップB10では、発進制御部5において、変速段検出部2hで検出されたトランスミッション9の変速段が走行段(D)であるか否かが判定される。ここで、変速段が走行段である場合には、ステップB20へ進み、走行段でない場合には、ステップB70へ進む。
【0115】
ステップB20では、制動操作検出部2gにおいてブレーキ操作が行われたか否かが判定される。ここでブレーキ操作が行われたと判定された場合には、ステップB30へ進み、ブレーキ操作が行われなかったと判定された場合には、そのままこのフローが終了し、所定の周期で本再始動判定フローが繰り返し実行される。
ステップB30では、発進待機制御部4において、モータ8へ待機トルクΔTが付与されて、トランスミッション9及び駆動輪11へ至るまでの動力経路上のガタ詰めがなされる。ここでは、駆動輪11の停止が維持される程度に小さく、かつ、モータ8からトランスミッション9の下流側まで伝達される程度に大きなトルクがモータ8へ与えられるため、クラッチ7のモータ側の回転要素から駆動輪11へ至る動力経路上にガタ(ギヤトレーンのガタ)が詰められた状態となる。
【0116】
続くステップB40では、発進要求検出部3aにおいて、アクセル開度Aに基づき、発進要求が検出されたか否かが判定される。つまりこのステップでは、条件〔1〕が成立するか否かが判定されることになる。ここで、発進要求が検出された場合には、ステップB50へ進み、一方発進要求が検出されない場合には、そのままこのフローが終了し、所定の周期で本再始動判定フローが繰り返し実行される。
【0117】
つまり、運転者によるシフトレバー操作がなされていない場合には、ブレーキペダルから足を放してアクセルペダルを踏み込まない限り、この再始動判定フローのステップB10〜ステップB40が繰り返し実行されることになる。
なお、ステップB10でトランスミッション9の変速段が走行段でないと判定された場合、ステップB70では、変速段制御部5eにより変速段が一旦Nレンジへ制御され、続くステップB80では、クラッチ制御部5dによりクラッチ7へ第1電圧V1以下の制御電圧が出力されてクラッチ7が締結状態に制御される。そして続くステップB90では、電動機駆動制御部5cによりモータ8へ所定量のトルクTe2が付与される。
【0118】
つまりこの場合、トランスミッション9はNレンジに制御された状態でクラッチ7が締結されているため、モータ8のトルクはエンジン6の回転のみのために用いられることになる。これにより、エンジン6は直ちに再始動することになる。なお、続くステップB100においてアイドリングストップ制御が終了し、エンジン停止フローへと戻ることになる。
【0119】
ステップB40で発進要求が検出された場合、ステップB50では、アクセル操作量検出部2aにおいてアクセル開度A及びアクセル操作速度Avが検出,算出される。そして続くステップB60では、モード判定部5aにおいてエンジン停止時の前後加速度Gが第3所定加速度G3以上であるかが判定される。つまりここでは、上記の条件〔13〕が判定されて、運転者による加速要求が把握されることになる。
【0120】
このステップB60でG≧G3である場合には、図9に示す強制始動フローへ進む。一方、G<G3である場合、すなわち、路面が急な登り坂である場合には、ステップB110へ進む。つまり、条件〔13〕が成立した場合には、モード判定部5aにおいて強制始動モードが選択され、条件〔13〕が成立しない場合には、ステップB110以降のステップで条件〔10〕〜〔12〕が順に判定される。
【0121】
なお、エンジン停止フローにおいて、車両停車時に路面勾配を判定して、急な登り坂と判定されたときには、エンジン停止は行われないため、通常は、ステップB60において急な登り坂であると判定されることはない。しかし、停車時には車両のサスペンションの弾性等によりGが揺動する場合が考えられ、たまたま急な登り勾配であるにもかかわらずエンジンが停止させられる場合もあり得る。このような場合であっても、再びGを検出して急な登り坂と判定された場合には、車両発進要求がなくてもエンジンを始動させるようになっている。
【0122】
ステップB110では、前後加速度Gが第2所定加速度G2以上かつ第3所定加速度G3未満であるか否かが判定される。ここで、G2≦G<G3である場合、すなわち路面が登り坂であるとみなせる場合には、ステップB120へ進んで、アクセル開度Aが第3開度A3以上かつアクセル操作速度Avが第2開度速度Av2以上であるかが判定される。なお、G2≦G<G3でない場合には、ステップB130へ進む。
【0123】
ステップB120において、A≧A3かつAv≧Av2である場合には、モード判定部5aにおいて押しがけモードが選択されて図5に示す押しがけ発進フローへ進み、一方、A<A3又はAv<Av2である場合には、モード判定部5aにおいて微動モードが選択されて図8に示す微動発進フローへと進む。なお、ステップB110及びステップB120は、条件〔12〕に対応する判定が行われるステップである。
【0124】
また、ステップB130では、前後加速度Gが第1所定加速度G1以上かつ第2所定加速度G2未満であるか否かが判定される。ここで、G1≦G<G2である場合、すなわち路面が平坦であるとみなせる場合には、ステップB140へ進んで、アクセル開度Aが第1開度A1以上かつアクセル操作速度Avが第1開度速度Av1以上であるかが判定される。なお、G1≦G<G2でない場合には、ステップB150へ進む。
【0125】
ステップB140において、A≧A1かつAv≧Av1である場合には、モード判定部5aにおいて押しがけモードが選択されて図5に示す押しがけ発進フローへ進み、一方、A<A1又はAv<Av1である場合には、モード判定部5aにおいて微動モードが選択されて図8に示す微動発進フローへと進む。なお、ステップB130及びステップB140は、条件〔11〕に対応する判定が行われるステップである。
【0126】
ステップB150では、前後加速度Gが第1所定加速度G1未満であるか否かが判定される。ここで、G<G1である場合、すなわち路面が下り坂であるとみなせる場合には、ステップB160へ進み、アクセル開度Aが第2開度A2以上であるかが判定される。このステップB160において、A≧A2である場合には、モード判定部5aにおいて押しがけモードが選択されて図5に示す押しがけ発進フローへ進み、一方、A<A2である場合には、モード判定部5aにおいて微動モードが選択されて図8に示す微動発進フローへと進む。なお、ステップB150及びステップB160は、条件〔10〕に対応する判定が行われるステップである。
【0127】
上述のように、アイドリングストップ制御時には、ステップB10〜ステップB40の各条件が繰り返し判定され、その判定結果(発進要求)に応じてアイドリングストップ制御が終了させられてアイドリングスタート制御が開始される。この際、アイドリングスタート制御の実施モードは、加速要求に応じたものが選択される。
【0128】
《C.押しがけ発進フロー》
図5に示す押しがけ発進フローは、アイドリングスタート制御のうちの押しがけモードの制御内容に対応するフローである。なお、他のフローから本押しがけフローに進んできた場合の最初の本フローの開始時には、時間測定部2iにおいて第1タイマctの計測時間tがt=0にリセットされる。これにより、リセットされた時点、つまり、押しがけフローが開始された時点からの経過時間が第1タイマctで計測されることになる。
【0129】
まず、ステップC10では、アクセル操作量検出部2aにおいて、アクセル開度Aが検出される。なお、前述の再始動判定フローにおけるステップB50での検出結果を流用することで、本ステップを省略することも可能である。
続くステップC20では、電動機回転数検出部2dにおいて実モータ回転数Nmが検出されて、ステップC30へ進む。
【0130】
ステップC30では、電動機駆動トルク算出部5bにおいて始動トルクTeが設定される。このフローの制御時には前述の再始動判定フローで押しがけモードが選択されているため、押しがけ発進制御部5Aの指示により、このステップC30で設定される始動トルクTeはTe=Te1となる。
続くステップC40では、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、ステップC10及びステップC20で検出されたアクセル操作量A及び実モータ回転数Nmに基づき、図2に示されるようなマップを用いて要求トルクTrが算出される。
【0131】
そして、ステップC50では、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、電動機駆動トルクTがT=Te1+Trとして算出される。続くステップC60では、クラッチ制御部5dにおいて、クラッチ7が制御される。ここでは、押しがけモードが選択されているため、押しがけ発進制御部5Aの指示により、クラッチ制御部5dから第2電圧V2の制御電圧Vが出力されて、クラッチ7が半締結状態に制御される。その後、ステップC70では、ステップC50で算出された電動機駆動トルクTがモータ8から出力されるように、電動機駆動制御部5cによってモータ8が駆動される。
【0132】
続いてステップC80では、押しがけ発進制御部5Aにおいて、アクセル操作量検出部2aで検出されたアクセル開度AがA=0であるか否かが判定される。つまりここでは、アクセルペダルが踏み込まれていない状態であるか否かの判定により、押しがけモードから強制始動モードへの移行条件が判定される。アクセルペダルが踏み込まれていない場合(A=0)には、モード判定部5aにおいて強制始動モードが選択されて、図9に示す強制始動フローへと進む。一方、アクセルペダルが踏み込まれている場合には、ステップC90へ進む。
【0133】
ステップC90では、フェイルセーフ制御部5gにおいて、第1タイマ計測時間tが所定の第3時間tc進んだか否かが判定される。つまりここでは、押しがけモードが開始されてからtc秒経過したか否かが判定される。ここでt≦tcである場合には、そのままこのフローを終了する。つまり、所定の周期で本押しがけフローが繰り返し実行されることになる。一方、t>tcである場合には、ステップC100へ進む。
【0134】
ステップC100では、エンジン回転数検出部2eにおいてエンジン回転数Neが検出される。そして続くステップC110では、フェイルセーフ制御部5gにおいて、エンジン回転数Neが所定回転数Ne1以上であるか否かが判定される。つまり、ステップC90〜ステップC110では、条件〔16〕が成立するか否かが判定されている。ここでNe≧Ne1である場合には、ステップC120へ進み、一方Ne<Ne1である場合には、図7に示すフェイルセーフフローへと進む。
【0135】
ステップC120では、クラッチ制御部5dにおいてクラッチ7の制御電圧Vが第2電圧V2から第3電圧V3へ変更されて、クラッチ7が弱締結の状態に制御される。つまり、エンジン6の燃焼状態が、安定したアイドリング状態となる直前にクラッチ7がさらに切断方向へ制御されるため、エンジン6側のトルク変動がクラッチ7よりも下流側(すなわち、モータ8,トランスミッション9及び駆動輪11側)へ伝達されにくくなる。
【0136】
なお、他のフローから本押しがけフローに進んで来た場合の最初のステップC110の成立時には、時間測定部2iにおいて第2タイマct′の計測時間t′がt′=0にリセットされる。これにより、リセットされた時点、つまり、エンジン6がアイドリング状態の直前の状態であると判定された時点からの経過時間が第2タイマct′によって計測されることになる。
【0137】
また、続くステップC130では、エンジン回転数Neが所定回転数Ne1以上で、かつ、第2タイマ計測時間t′が所定の第1時間ta以上進んだか否かが判定される。ここでステップC130の条件が成立した場合は、エンジン6が完爆状態であるとみなされて、図6に示すトルク調整フローへと進む。また、ステップC130が成立しなかった場合には、エンジンが完爆状態まで至らなかったものとしてステップC140へ進み、エンジン回転数Neが所定回転数Ne1以上であるか否かが判定される。
【0138】
ここで、Ne≧Ne1である場合は、第2タイマ計測時間t′がカウントされ、ステップC130へ戻り再度比較される。Ne<Ne1である場合には、そのままこのフローを終了する。つまり、所定の周期で本押しがけ発進フローが繰り返し実行されることになる。
なお、ステップC130及びステップC140では、条件〔8〕及び〔9〕が判定されていることになる。
【0139】
《D.トルク調整フロー》
図6に示すトルク調整フローは、電動機駆動トルクTを補正する電動機駆動トルク補正部5f内における、押しがけモード時の制御内容に対応するフローである。
ステップD20では、電動機駆動トルク補正部5fにおいて、電動機駆動トルクTがこれまでのフローで算出された要求トルクTrよりも大きいか否かが判定される。ここでT>Trである場合にはステップD30へ進み、T≦Trの場合にはステップD40へ進む。
【0140】
ステップD30では、電動機駆動トルクTの大きさが予め設定された所定量だけ減算補正される。一方、ステップD40では、電動機駆動トルクTの大きさが予め設定された所定量だけ加算補正される。つまりこれらのステップでは、電動機駆動トルクTが要求トルクTrに漸近するように補正されることになる。そしてこれにより、電動機駆動トルクTと要求トルクTrとの差が小さくなる。
【0141】
そして、ステップD30に続くステップD50では、電動機駆動トルクTが要求トルクTr以下になったか否かが判定され、T≦Trが成立する場合にはステップD90へ進んでアイドリングスタート制御を終了して、図3に示すエンジン停止フローへと戻る。つまりここでは、電動機駆動トルクTが要求トルクTrよりも大きい場合に、電動機駆動トルクTが要求トルクTr以下になるまで減算補正が行われることになる。
【0142】
なお、ステップD50においてT>Trである場合にはステップD60へ進み、アクセル操作量検出部2aでアクセル開度Aが検出されるとともに、A=0であるか否かが判定される。ここでA=0の場合には、ステップD70へ進んでアイドリングスタート制御を終了し、図3に示すエンジン停止フローへと戻る。つまりこの場合、電動機駆動トルクTの大きさに関わらず、直ちにアイドリングスタート制御が終了することになる。一方、A>0の場合には、そのままこのフローを終了する。つまり、所定の周期で本トルク調整フローが繰り返し実行されることになる。
【0143】
なお、ステップD40に続くステップD80では、電動機駆動トルクTが要求トルクTr以上になったか否かが判定され、T≧Trが成立する場合にはステップD90へ進んでアイドリングスタート制御を終了する。つまり、ステップD40及びステップD80での制御内容は、ステップD30及びステップD50での制御と逆の制御であり、電動機駆動トルクTが要求トルクTrよりも小さい場合に、電動機駆動トルクTが要求トルクTr以上になるまで加算補正が行われることになる。
【0144】
なお、ステップD80においてT<Trである場合にはステップD100へ進み、アクセル操作量検出部2aでアクセル開度Aが検出されるとともに、A=0であるか否かが判定される。ここでA=0の場合には、ステップD110へ進んでアイドリングスタート制御を終了し、図3に示すエンジン停止フローへと戻る。つまりこの場合、電動機駆動トルクTの大きさに関わらず、直ちにアイドリングスタート制御が終了することになる。一方、A>0の場合には、そのままこのフローを終了する。つまり、所定の周期で本トルク調整フローが繰り返し実行されることになる。
【0145】
《E.フェイルセーフフロー》
図7に示すフェイルセーフフローは、フェイルセーフ制御部5g内における、押しがけモードから強制始動モードへの移行時の制御内容に対応するフローである。
ステップE10では、アクセル操作量検出部2aにおいて、アクセル開度Aが検出される。なお、前述の再始動判定フローにおけるステップB50での検出結果を流用することで、本ステップを省略することも可能である。
【0146】
続くステップE20では、電動機回転数検出部2dにおいて実モータ回転数Nmが検出されて、ステップE30へ進む。
ステップE30では、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、図2に示されるようなマップを用いて要求トルクTrが算出され、次にステップE40では、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、電動機駆動トルクTがT=Trとして算出される。そして、ステップE50では、クラッチ制御部5dにおいて、クラッチ7が制御される。ここでは、クラッチ制御部5dから第1電圧V2以下の制御電圧Vが出力されて、クラッチ7が締結状態に制御される。その後、ステップE60では、ステップE40で算出された電動機駆動トルクTがモータ8から出力されるように、電動機駆動制御部5cによってモータ8が駆動される。
【0147】
続いてステップE70では、制動操作検出部2gにおいてブレーキ操作が検出されたか否かが判定される。つまりこのステップでは、上記の条件〔3〕が成立するか否かが判定されることになる。ここで、ブレーキ操作が検出された場合には、ステップE80へ進み、検出されない場合には、そのままこのフローが終了する。
また、ステップE80では、電動機駆動トルクTがT=0に設定され、ステップE90へ進む。つまりこのステップでは、モータ8の動作を停止させることになる。
【0148】
さらに、ステップE90では、停車状態判定部3bにおいて車両10が停車状態にあるか否かが判定される。つまりこのステップでは、上記の条件〔15〕が成立するか否かが判定されることになる。ここで、停車状態にあると判定された場合には、図9に示す強制始動モードへ制御が移行される。つまり、押しがけモードから強制始動モードへの移行時には、ステップE70〜ステップE90の各判定条件を満たして完全に車両10が停車した状態となることが要求されている。また、このフェイルセーフフローにおいては、例えば押しがけフローのように電動機駆動トルクTに始動トルクTeが加算されていないため、アクセル操作に対する車両10の始動時の挙動の違い(押しがけモード時に比べるとモータ8のトルクが小さい、という相違)が運転者に認識され、運転者によるブレーキ操作が促されることになる。
【0149】
《F.微動発進フロー》
図8に示す微動発進フローは、電動機駆動制御部5c内における微動モード時の制御内容に対応するフローである。なお、他のフローから本微動発進フローに進んできた場合の最初の本フローの開始時には、押しがけ発進フローの開始時と同様に、時間測定部2iにおいて第1タイマctの計測時間tがt=0にリセットされる。これにより、リセットされた時点、つまり、微動発進フローが開始された時点からの経過時間が第1タイマctによって計測されることになる。
【0150】
まず、ステップF10では、アクセル操作量検出部2aにおいて、アクセル開度Aが検出される。なお、前述の再始動判定フローにおけるステップB50での検出結果を流用することで、本ステップを省略することも可能である。
続くステップF20では、電動機回転数検出部2dにおいて実モータ回転数Nmが検出されて、ステップF30へ進む。
【0151】
ステップF30では、電動機駆動トルク算出部5bにおいて微動トルクTbが設定される。この微動トルクTbは、続くステップF40で算出される要求トルクTrを補うトルクであり、強制始動フローへ移ってトランスミッション9が中立段とされても、ある程度の間(エンジン6を始動してから完爆するまでの間)惰性で走行できるように最低限の駆動トルクを保証するものである。
【0152】
続くステップF40では、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、ステップF10及びステップF20で検出されたアクセル操作量A及び実モータ回転数Nmに基づき、図2に示されるようなマップを用いて要求トルクTrが算出される。
そして、ステップF50では、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、電動機駆動トルクTがT=Tr+Tbとして算出される。続くステップF60では、クラッチ制御部5dにおいて、クラッチ7が制御される。ここでは、微動モードが選択されているため、クラッチ制御部5dから第3電圧V3の制御電圧Vが出力されて、クラッチ7が弱締結状態に制御される。すなわち、モータ駆動力はエンジン6へ伝達されない状態となる。その後、ステップF70では、ステップF50で算出された電動機駆動トルクTがモータ8から出力されるように、電動機駆動制御部5cによってモータ8が駆動される。
【0153】
続いてステップF80では、微動発進制御部5Bにおいて、アクセル操作量検出部2aで検出されたアクセル開度AがA=0であるか否かが判定される。つまりここでは、アクセルペダルが踏み込まれていない状態であるか否かが判定されており、つまりここでは、条件〔18〕が判定されていることになる。アクセルペダルが踏み込まれていない場合(A=0)には、モード判定部5aにおいて強制始動モードが選択されて図9に示す強制始動フローへと進む。一方、アクセルペダルが踏み込まれている場合には、ステップF90へ進む。
【0154】
ステップF90では、微動発進制御部5Bにおいて、モード判定部5aに微動モードが開始されてから所定の第4時間td経過したか否かが判定される。つまりここでは、条件〔17〕が判定されていることになる。ここで第1タイマ計測時間tがt≦tdである場合にはステップF100へ進む。一方、t>tdである場合には、図9に示す強制始動フローへと進む。つまり、微動モードの制御は、所定の第4時間td以上継続して実施されることはなく、押しがけモード又は強制始動モードへと移行することになる。
【0155】
なお、ステップF100以降では、微動モード時に押しがけモードへの移行条件が成立するか否かを判定するフローであり、微動発進制御部5Bにおいて条件〔10〕〜〔12〕が順に判定される。
ステップF100では、前後加速度Gが第2所定加速度G2以上かつ第3所定加速度G3未満であるか否かが判定される。ここで、G2≦G<G3である場合、すなわち路面が登り坂であるとみなせる場合には、ステップF110へ進んで、アクセル開度Aが第3開度A3以上かつアクセル操作速度Avが第2開度速度Av2以上であるかが判定される。なお、G2≦G<G3でない場合には、ステップF120へ進む。
【0156】
ステップF110において、A≧A3かつAv≧Av2である場合には、モード判定部5aにおいて押しがけモードが選択されて図5に示す押しがけ発進フローへ進み、一方、A<A3又はAv<Av2である場合には、そのままこのフローを終了して、微動発進フローを繰り返し実行する。なお、ステップF100及びステップF110は、条件〔12〕に対応する判定が行われるステップである。
【0157】
また、ステップF120では、前後加速度Gが第1所定加速度G1以上かつ第2所定加速度G2未満であるか否かが判定される。ここで、G1≦G<G2である場合、すなわち路面が平坦であるとみなせる場合には、ステップF130へ進んで、アクセル開度Aが第1開度A1以上かつアクセル操作速度Avが第1開度速度Av1以上であるかが判定される。なお、G1≦G<G2でない場合には、ステップF140へ進む。
【0158】
ステップF130において、A≧A1かつAv≧Av1である場合には、モード判定部5aにおいて押しがけモードが選択されて図5に示す押しがけ発進フローへ進み、一方、A<A1又はAv<Av1である場合には、そのままこのフローを終了して、微動発進フローを繰り返し実行する。なお、ステップF120及びステップF130は、条件〔11〕に対応する判定が行われるステップである。
【0159】
ステップF140では、前後加速度Gが第1所定加速度G1未満であるか否かが判定される。ここで、G<G1である場合、すなわち路面が下り坂であるとみなせる場合には、ステップF150へ進み、アクセル開度Aが第2開度A2以上であるかが判定される。このステップF150において、A≧A2である場合には、モード判定部5aにおいて押しがけモードが選択されて図5に示す押しがけ発進フローへ進み、一方、A<A2である場合には、そのままこのフローを終了して、微動発進フローを繰り返し実行する。なお、ステップF140及びステップF150は、条件〔10〕に対応する判定が行われるステップである。
【0160】
《G.強制始動フロー》
図9に示す強制始動フローは、電動機駆動制御部5c内における強制始動モード時の制御内容に対応するフローである。
ステップG10では、エンジン回転数検出部2eにおいて、エンジン6のエンジン回転数Neが検出される。続くステップG20では、クラッチ制御部5dにおいて、クラッチ7へ第4電圧V4の制御電圧Vが出力されて、クラッチ7が切断状態に制御される。その後、ステップG30では、変速段制御部5eにより変速段が一旦Nレンジへ制御され、続くステップG40では、クラッチ制御部5dによりクラッチ7へ第1電圧V1以下の制御電圧が出力されてクラッチ7が締結状態に制御される。さらに、続くステップG50では、電動機駆動制御部5cによりモータ8へ所定量のトルクTe2(すなわち、強制始動モード時において設定される前述の第2始動トルク)が付与される。
【0161】
その後、ステップG60では、フェイルセーフ制御部5gにおいて、エンジン回転数Neが所定回転数Ne1以上であるか否かが判定される。つまりこのステップでは、条件〔19〕が成立するか否かが判定されている。ここでNe≧Ne1である場合には、ステップG70へ進み、一方Ne<Ne1である場合には、そのままこのフローを終了する。つまり、所定の周期で本強制始動フローが繰り返し実行されることになる。
【0162】
ステップG70では、クラッチ制御部5dにおいてクラッチ7の制御電圧Vが第1電圧V1から第3電圧V3へ変更されて、クラッチ7が弱締結の状態に制御される。つまり、エンジン6の燃焼状態が、安定したアイドリング状態となる直前にクラッチ7がさらに切断方向へ制御されるため、エンジン6側のトルク変動がクラッチ7よりも下流側(すなわち、モータ8,トランスミッション9及び駆動輪11側)へ伝達されにくくなる。
【0163】
なお、他のフローから本強制始動フローに進んで来た場合の最初のステップG60の成立時には、時間測定部2iにおいて第3タイマct″の計測時間t″がt″=0にリセットされる。これにより、リセットされた時点、つまり、アイドリング状態の直前の状態であると判定された時点からの経過時間が第3タイマct″によって計測されることになる。
【0164】
また、続くステップG80では、エンジン回転数Neが所定回転数Ne1以上、かつ、第3タイマ計測時間t″が所定の第1時間ta以上進んだか否かが判定される。ここでステップG80の条件が成立した場合には、エンジン6が完爆状態にあるとみなされて、図10に示すトルク調整フロー2へと進む。また、ステップG80の条件が成立しなかった場合には、エンジンが完爆状態まで至らなかったものとして、ステップG90へ進み、エンジン回転数Neが所定回転数Ne1以上であるか否かが判定される。
【0165】
ここで、エンジン回転数NeがNe≧Ne1である場合には、第3タイマ計測時間t″がカウントされて、ステップG80へ戻って再度比較される。また、エンジン回転数NeがNe<Ne1である場合には、そのままこのフローを終了する。つまり、所定の周期で本強制始動フローが繰り返し実行されることになる。
なお、ステップG80及びステップG90では、押しがけフローにおけるステップC130及びステップC140と同様に、条件〔8〕及び〔9〕が判定されていることになる。
【0166】
《H.トルク調整フロー2》
図10に示すトルク調整フロー2は、電動機駆動トルクTを補正する電動機駆動トルク補正部5f内における、強制始動モード時の制御内容に対応するフローである。
まず、ステップH10では、アクセル操作量検出部2aにおいて、アクセル開度Aが検出される。なお、前述の再始動判定フローにおけるステップB50での検出結果を流用することで、本ステップを省略することも可能である。続くステップH20では、電動機回転数検出部2dにおいて実モータ回転数Nmが検出されて、ステップH30へ進む。
【0167】
ステップH30では、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、ステップH10及びステップH20で検出されたアクセル操作量A及び実モータ回転数Nmに基づき、図2に示されるようなマップを用いて要求トルクTrが算出され、ステップH50へ進む。
ステップH50では、アクセル操作量検出部2aでアクセル開度Aが検出されるとともに、A≠0であるか否かが判定される。ここで、A≠0(すなわち、A>0であって、アクセルペダルが踏み込まれている状態)の場合には、ステップH60へ進み、一方、A=0(アクセルペダルが踏み込まれていない状態)の場合には、ステップH80へ進む。
【0168】
ステップH60では、クラッチ制御部5dから第4電圧V4の制御電圧Vが出力されてクラッチ7が一旦切断状態に制御され、その後ステップH70で変速段制御部5eにより目標変速段を2速へ制御されて、ステップH100へ進む。一方、ステップH80へ進んだ場合には、クラッチ制御部5dから第4電圧V4の制御電圧Vが出力されてクラッチ7が一旦切断状態に制御され、その後ステップH90で変速段制御部5eにより目標変速段を1速へ制御されて、ステップH100へ進む。つまり、本トルク調整フロー2が実施されている時点で、既にエンジン6は始動しているため、アクセルペダルの踏み込みに応じた走行段が選択されて、始動後の走行性が確保されることになる。
【0169】
ステップH100では、電動機駆動トルクTをゼロとしてギヤを入れやすくされ、続くステップH120では、電動機駆動トルクTが要求トルクTr以上になったか否かが判定される。ここで、T≧Trである場合にはステップH130へ進んでアイドリングスタート制御を終了し、このフローを終了する。なお、本フローの終了後には、再びエンジン停止フローへ戻るようになっている。
【0170】
一方、ステップH120においてT<Trである場合には、ステップH140へ進んで、電動機駆動トルクTの大きさが予め設定された所定量だけ加算補正される。つまりこのステップでは、電動機駆動トルクTが要求トルクTrに漸近するように補正されることになる。そしてこれにより、電動機駆動トルクTと要求トルクTrとの差が小さくなる。
なお、本トルク調整フロー2の実行時、電動機駆動トルクTを一度ゼロにしているため、要求トルクTrに徐々に近づけることでショック(振動)を低減している。電動機駆動トルクTが要求トルクTr以上となったことを以てアイドリングスタート制御を終了するようになっている。
【0171】
[作用]
図11〜図13を用いて、本車両の発進制御装置の具体的な制御作用を説明する。図11は本装置による押しがけモードでの車両始動時のパラメータ経時変動を示し、同様に、図12は微動モードから押しがけモードへの移行時におけるパラメータ経時変動、図13は微動モードから強制始動モードへの移行時におけるパラメータ経時変動を示している。
【0172】
《押しがけモード時》
本発進制御装置1を備えた車両10が略平坦な路面を走行中に信号待ちで停車しようとした場合の制御例を詳述する。
まず、運転者による制動操作により、図11(f)に示すように、車両の走行速度Vcが徐々に低下し、時刻t0において走行速度Vcが第1速度Vc1以下となったとする。図11(a)に示すように、運転者がアクセルペダルを踏み込んでいないためアクセル開度AがA=0であり、一方、図11(b)に示すように、ブレーキペダルの踏み込み量Bが検出されている。また、エンジン6は、図11(c)に示すように、燃焼維持状態でアイドリングしており、図11(d)に示すように、クラッチ7には第1電圧V1の制御電圧Vが入力されてクラッチ7が締結状態から第4電圧V4の制御電圧Vに変更されて切断状態となっている。また、図11(e)に示すように、モータ8は非駆動の状態となっている。
【0173】
このとき、コントローラ1内部では、図3に示されたエンジン停止フローが実行されており、車両10の停車状態が随時判定されている。時刻t0までは条件〔3〕〜〔6〕が成立しているが、条件〔2〕が不成立となっており、停車状態判定部3bでは停車状態にないと判定されている。また、時刻t0を過ぎると条件〔2〕が成立するが、この状態で所定の第2時間tbが経過するまでは、まだ車両10が停車状態にあるとは判定されない。
【0174】
一方、時刻t0から所定の第2時間tb経過後の時刻t1になると、停車状態判定部3bにおいて車両10が停車状態にあると判定され、発進待機制御部4によりアイドリングストップ制御が開始される。その結果、トランスミッション9の変速段が1速に保持され、エンジン6への燃料供給が遮断される。これにより、図11(c)に示すように、エンジン回転数Neが徐々に低下して0となる。また、運転者によってブレーキペダルが踏み込まれているため、走行速度Vcも徐々に低下して0となる。なお、アイドリングストップ制御が開始されると、コントローラ1内部では図4に示された再始動判定フローが実行される。
【0175】
なお、エンジン6が停止し車両10も停止した状態になってから、例えば図11(b)に示すように、運転者が時刻t1′にブレーキペダルから足を放したとしても、アイドリングスタート制御が開始することはない。これは、再始動判定フローにおいて、シフトレバーの操作又は発進要求の有無に応じてエンジン6を再始動させるように制御されているからである。したがって、例えば、アイドリング中に車両10の移動を防止すべく、ブレーキペダル操作の代わりにサイドブレーキ操作を行うような運転者に対しても、操作フィーリングのよい自然なアイドリングストップ制御が提供されることになる。
【0176】
なお、ブレーキペダルの踏み込みが解除された時刻t1′以降は、図11(e)に示すように、発進待機制御部4によりモータ8へ待機トルクΔTが付与される。これにより、ギヤトレーンのガタ詰めがなされる。なお、待機トルクΔTは駆動輪11を駆動しない程度の大きさに設定されているため、これにより車両10が動き出すようなことはない。
次に、時刻t2に運転者によってアクセルペダルが踏み込まれると、図11(a)に示すように、アクセル開度Aが増加する。これを受けて、発進要求検出部3aにより運転者による車両10の発進要求が検出され、発進制御部5によりアイドリングスタート制御が開始される。
【0177】
まず、クラッチ制御部5dにおいては、直ちにクラッチ7へ第3電圧V3の制御電圧Vが出力される。これにより、時刻t2から僅かなタイムラグを伴ってクラッチ7の締結度合いが弱締結の状態となる。
一方、モード判定部5aにおいて、アイドリングスタート制御の実施モードが選択される。アイドリングスタート制御が開始された時刻t2直後においては、条件〔11〕が成立しないため、一時的に微動モードが選択される。つまり、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、アクセル開度A,モータ8のモータ回転数Nm及び図2に示されたマップに基づき、要求トルクTrが算出されるとともに、微動モードの微動トルクTbが読み込まれ、電動機駆動トルクTがT=Tr+Tbとして算出される。なお、時刻t2には要求トルクTrがTr=0であるから、図11(e)に示すように、モータトルクは微動トルクTb分だけ立ち上がることになる。そして、図11(f)に示すように、時刻t2から車両10が動き始める。
【0178】
続いて、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作量が増加して、時刻t3に条件〔11〕が成立し、押しがけモードが選択されたものとする。この場合、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、押しがけモード時の始動トルクTe1が読み込まれ、電動機駆動トルクTがT=Te1+Trとして算出される。そして、図11(e)に示すように、電動機駆動制御部5cによって、電動機駆動トルクTが生成されるようにモータ8が駆動される。
【0179】
また、クラッチ制御部5dにおいて、時刻t2直後にはクラッチ7へ第3電圧V3の制御電圧Vが出力され、その後時刻t3に押しがけモードが選択されると、第2電圧V2の制御電圧Vが出力される。これにより、時刻t3から僅かなタイムラグを伴いつつ時刻t4にクラッチ7の締結度合いが半締結のスリップ状態となる。したがって、モータ8のトルクがエンジン6側へ伝達されうる状態となり、図11(c)に示すように、時刻t3から徐々にエンジン回転数Neが上昇することになる。
【0180】
なお、モータ8へ付与される電動機駆動トルクTのうちの第1始動トルクTe1の大きさは、たとえ要求トルクTrが0であったとしても、車両10を発進させかつエンジン6を始動させることができる程度の大きさに設定されている。このため、要求トルクTrの大きさに関わらず、つまり、時刻t3以降におけるアクセルペダルの操作変化(踏み増し操作や踏み戻し操作等)に関わらず、車両10が発進しかつエンジン6が始動することになる。つまり、図11(f)に示すように、時刻t3以降、走行速度Vcが上昇して車両10が発進し始め、また、図11(c)に示すようにエンジン回転数Neが増大する。
【0181】
時刻t4から後述する時刻t5間において、エンジン6は、モータ8によってトルクを与えられることになるが、それに加えて、発進して移動を開始した車両10の慣性力がトランスミッション9,モータ8及びクラッチ7を介してエンジン6側へ伝達されることになる。つまり本発進制御装置においては、単にモータ8の駆動力によってエンジン6を始動させるだけでなく、車両10の慣性を利用した所謂「押しがけ」が同時になされることになる。このような制御によって、エンジン回転数Neの上昇速度が高まり、エンジン6の始動時間が短縮される。
【0182】
その後、時刻t5にクラッチ制御部5dにおいて条件〔16〕が成立すると、クラッチ7の制御電圧Vが第3電圧V3へ引き上げられ弱締結状態に制御される。条件〔16〕は、燃焼維持状態判定部3cの完爆状態の判定条件のうちの一部であり、条件〔16〕が成立する状態とは、エンジン6が完爆状態となる直前の状態である。したがって、時刻t5にクラッチ7を弱締結状態に制御することによって、エンジン6の状態変化に伴うトルク変動の伝達が抑制される。
【0183】
なお、条件〔8〕及び〔9〕が成立すると、燃焼維持状態判定部3cにおいてエンジン6が完爆状態であると判定される。この判定時刻は、時刻t5よりも少なくとも所定の第1時間ta以上が経過した後(時刻t6)となる。
一方、電動機駆動トルク補正部5fにおいて、条件〔14〕、すなわち、エンジン6が完爆状態であると判定されると、電動機駆動トルクTが要求トルクTrへ漸近するように補正される。つまり、この補正により、図11(e)に示すように、モータ8の制御目標としての電動機駆動トルクTの大きさと要求トルクTrの大きさとの差が小さくなるように制御される。
そして時刻t7に電動機駆動トルクTの大きさと要求トルクTrの大きさとが等しくなり、アイドリングスタート制御が終了し、通常制御へ移行する。
【0184】
《微動モードから押しがけモードへの移行時》
次に、図11(a)〜(f)に示された上述の制御例のうち、時刻t2以降における運転者のアクセル踏み込み操作の相違によって、微動モードが選択されその後押しがけモードへ移行した場合の制御例を、図12(a)〜(f)を用いて詳述する。
【0185】
図12(a)に示すように、時刻t2にアクセルペダルが踏み込まれると、発進要求検出部3aにおいて運転者による車両10の発進要求が検出され、発進制御部5によりアイドリングスタート制御が開始される。ここで、モード判定部5aにおいて条件〔11〕が成立せず、微動モードが選択されたものとする。つまりここでは、運転者によるアクセルペダルの踏み込みが弱い場合(アクセル開度AがA<A2である場合)の制御が実施される。
【0186】
この場合、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、アクセル開度A,モータ8のモータ回転数Nm及び図2に示されたマップに基づき、要求トルクTrが算出されるとともに、微動トルクTbが読み込まれ、電動機駆動トルクTがT=Tr+Tbとして算出される。そして、図12(e)に示すように、電動機駆動制御部5cによって、電動機駆動トルクTが生成されるようにモータ8が駆動される。なお、時刻t2には要求トルクTrがTr=0であるから、図12(e)に示すように、モータトルクは微動トルクTb分だけ立ち上がることになる。そして、図12(f)に示すように、時刻t2から車両10が動き始める。
【0187】
また、微動モードが選択されたことにより、クラッチ制御部5dにおいて、時刻t2からクラッチ7へ第3電圧V3の制御電圧Vが出力される。したがって、図12(c)に示すように、この時点ではまだエンジン回転数Neが上昇せずエンジンは始動していないが、図12(f)に示すように、走行速度Vcが僅かに上昇して車両10が微動走行を開始する。つまり、微動モードにおいては、モータ8のトルクが車両の微動走行のみに宛がわれることになり、換言すれば、電動機駆動制御部5cは車両を微動させうる大きさのトルクだけを発生させるように、モータ8を制御していることになる。これにより、車両10が穏やかに発進(すなわち微動発進)する。
【0188】
その後、時刻t8にアクセルペダルがさらに踏み込まれ、アクセル開度AがA≧A2となった場合、条件〔11〕が成立する。これを受けてモード判定部5aにおいて押しがけモードが選択されると、第2電圧V2の制御電圧Vがクラッチ7へ出力される。これにより、時刻t8から僅かなタイムラグを伴いつつ、時刻t9にクラッチ7の締結度合いが半締結のスリップ状態に制御される。
【0189】
したがって、モータ8のトルクがエンジン6側へ伝達されうる状態となり、図12(c)に示すように、時刻t8から徐々にエンジン回転数Neが上昇することになる。
時刻t9から後述する時刻t10間は、モータ8の駆動力がエンジン6を始動せしめるよう働くとともに、動き始めた車両10の慣性力もエンジン6を始動せしめるよう働き、エンジン回転数Neの上昇速度が高まり、エンジン6の始動時間が短縮される。つまりここでは、モータ8の駆動力に慣性の力を上乗せした駆動力により、効率的にエンジン6が始動することになる。なお、このような押しがけ制御に関する作用は前述の通りである。
【0190】
その後、時刻t10にクラッチ制御部5dにおいて条件〔16〕が成立すると、クラッチ7の制御電圧Vが第3電圧V3へ引き上げられ弱締結状態に制御される。条件〔16〕が成立する状態とは、エンジン6が完爆状態となる直前の状態であるから、時刻t10にクラッチ7を弱締結状態に制御することによって、エンジン6の状態変化に伴うトルク変動の伝達が抑制される。
【0191】
なお、条件〔8〕及び〔9〕が成立すると、燃焼維持状態判定部3cにおいてエンジン6が完爆状態であると判定される。この判定時刻は、時刻t10よりも少なくとも所定の第1時間ta以上が経過した後(時刻t11)となる。
一方、電動機駆動トルク補正部5fにおいて、条件〔14〕、すなわち、エンジン6が完爆状態であると判定されると、電動機駆動トルクTが要求トルクTrへ漸近するように補正される。つまり、この補正により、図12(e)に示すように、モータ8の制御目標としての電動機駆動トルクTの大きさと要求トルクTrの大きさとの差が小さくなるように制御される。
そして時刻t12に電動機駆動トルクTの大きさと要求トルクTrの大きさとが等しくなり、アイドリングスタート制御が終了し、通常制御へ移行する。
【0192】
《微動モードから強制始動モードへの移行時》
次に、図12(a)〜(f)に示された上述の制御例のうち、微動モードから押しがけモードへ移行しなかった場合の制御例を、図13(a)〜(g)を用いて詳述する。
【0193】
図13(a)に示すように、時刻t2にアクセルペダルが踏み込まれると、発進要求検出部3aにおいて運転者による車両10の発進要求が検出され、発進制御部5によりアイドリングスタート制御が開始される。運転者によるアクセルペダルの踏み込みが弱い場合(アクセル開度AがA<A2である場合)、モード判定部5aにおいて微動モードが選択される。
【0194】
これにより、電動機駆動トルク算出部5bにおいて、アクセル開度A,モータ8のモータ回転数Nm及び図2に示されたマップに基づき、要求トルクTrが算出されるとともに、微動トルクTbが読み込まれ、電動機駆動トルクTがT=Tr+Tbとして算出される。そして、図13(e)に示すように、電動機駆動制御部5cによって、電動機駆動トルクTが生成されるようにモータ8が駆動され、時刻t2から車両10が動き始める。一方、クラッチ制御部5dでは、時刻t2からクラッチ7へ第3電圧V3の制御電圧Vが出力される。
【0195】
アイドリングスタート制御が開始された時刻t2から所定の第4時間tdが経過した時刻t13の時点でまだ条件〔11〕が成立しない場合、つまり、図13(a)に示すように、アクセルペダルの踏み込みが弱くアクセル開度AがA≧A2とならない場合、モード判定部5aにおいて微動モードから強制始動モードへの移行が選択される。
このとき、クラッチ制御部5dでは、一旦クラッチ7へ第4電圧V4以上の制御電圧Vが出力され、その後時刻t14に第1電圧V1の制御電圧Vが出力される。また、クラッチ7の切断から締結までの間(時刻t13〜t14の間)には、変速段制御部5eによりトランスミッション9の変速段切り換えが行われ、図13(g)に示すように、変速段が中立段(Nレンジ)へ変更される。
【0196】
一方、時刻t14において、電動機駆動トルク算出部5bでは、始動トルクTeが第2始動トルク(Te=Te2)に設定されるとともに、電動機駆動トルクTがT=Tr+Te2として算出される。そして、電動機駆動制御部5cによりモータ8が駆動される。
時刻t14から後述する時刻t15間においては、モータ8とエンジン6とがクラッチ7を介して完全に締結されて、モータ8のトルクがエンジン6側へ直接伝達されうる状態となる。またこのとき変速段がNレンジに制御されているため、モータ8のトルクが駆動輪11側へは伝達されず、車両の発進のために用いられることがない。
【0197】
したがって、図13(c)に示すように、時刻t14から迅速にエンジン回転数Neが上昇することになる。なお、第2始動トルクTe2の大きさは、確実にエンジン6を始動させることができる大きさに設定されているため、たとえ要求トルクTrの大きさがエンジン6を始動させるのに十分でない場合であっても、第2始動トルクTe2が加算された値となっている電動機駆動トルクTによりエンジン6が始動を開始することになる。なお、図13(g)に示すように、時刻t13〜t15間では微動モードで発進した車両10が惰性で移動しており、走行速度Vcは上昇しない。
【0198】
その後、時刻t15にクラッチ制御部5dにおいて条件〔19〕が成立すると、クラッチ制御部5dにより制御電圧Vが第3電圧V3へ変更されて、クラッチ7が弱締結状態に制御される。このときエンジン6は完爆状態の直前の状態となっている。
なお、燃焼維持状態判定部3cにおいて条件〔8〕及び〔9〕が成立すると、エンジン6が完爆状態であると判定される。この判定時刻は、時刻t15よりも少なくとも所定の第1時間ta以上が経過した後(時刻t16)となる。
【0199】
一方、電動機駆動トルク補正部5fにおいて、条件〔14〕、すなわち、エンジン6が完爆状態であると判定されると、電動茎道トルクTがゼロに設定されてギヤが入れやすくなり、ギヤ入り確認後にクラッチ7が締結状態に制御されるとともに、電動機駆動トルクTが要求トルクTrへ漸近するように補正される。つまり、この補正により、図13(e)に示すように、モータ8の制御目標としての電動機駆動トルクTの大きさと要求トルクTrの大きさとの差が小さくなるように制御される。
そして時刻t17に電動機駆動トルクTの大きさと要求トルクTrの大きさとが等しくなり、アイドリングスタート制御が終了して、通常制御へ移行する。
【0200】
《フェイルセーフ制御を介した強制始動モードへの移行時》
続いて、図11(a)〜(f)に示された上述の制御例のうち、エンジンがうまく始動しなかった場合に実施されるフェイルセーフ制御及びこの制御を介して強制始動モードへ移行した場合の制御例を、図14(a)〜(g)を用いて詳述する。
【0201】
図14(a)に示すように、時刻t2にアクセルペダルが踏み込まれてアイドリングスタート制御が開始され、続いて時刻t3に条件〔11〕が成立し、押しがけモードが選択される。これにより、図14(c)に示すように、時刻t3から徐々にエンジン回転数Neが上昇し、一方モータ8のトルクは図14(e)に示すように変動する。
本来であれば、この押しがけモードにおいてモータ8へ付与されるトルクTの大きさは、少なくとも車両10を発進させかつエンジン6を始動させることができる程度の大きさに設定されているため、エンジン6が完爆状態に近づくことになる。しかし、ここでは何らかの理由により、エンジン6の燃焼状態が完爆状態の直前の状態にならなかった場合(すなわち、条件〔16〕を満たさない場合)のフェイルセーフ制御について説明する。
【0202】
押しがけモードが開始された時刻t3から所定の第3時間tcが経過した時刻t18の時点で、まだエンジン回転数Neが前述の所定回転数Ne1以上とならない場合、押しがけ発進制御部5Aによりフェイルセーフ制御部5gへ指示されて、フェイルセーフ制御が開始される。
まず、フェイルセーフ制御部5gにより、電動機駆動トルク算出部5bにおいて要求トルクTrがそのまま電動機駆動トルクTとして(つまり、T=Trとして)設定される。これにより、図14(e)に示すように、時刻t18に電動機駆動トルクTの大きさが第1始動トルクTe1の大きさ分だけ減少することになる。また、クラッチ制御部5dではクラッチ7へ出力される制御電圧Vが第1電圧V1に変更される。これにより、車両10の走行速度Vcは、図14(f)に示すようにアクセル操作量(アクセル開度Aの大きさ)の割に上昇しにくくなり、通常時との操作フィーリングの違いが運転者によって認識されることになる。つまり、時刻t18以降、運転者はフェイルセーフ制御が実施されていることを把握することができる。
【0203】
なおこの時刻t18以降、クラッチ7が締結された状態では、モータ8の駆動力がそのままエンジン6へ伝達されるため、エンジン6によって駆動される補機15についても連れ回されて駆動されることになる。つまり、補機15に対して直接の接続関係にないモータ8が補機15を駆動している状態となる。したがって、例えばパワーステアリングポンプを搭載した車両10の場合にはこの強制始動モード時に(たとえエンジン6がまだ完爆状態となっていなくても)ステアリング操作がアシストされ、また、ブレーキアキュームレータを搭載した車両10の場合には、ブレーキ操作がアシストされることになる。
【0204】
一方、フェイルセーフ制御部5gでは、条件〔3〕及び〔15〕の判定が開始される。この時点では、まだこれらの条件全てが成立していないため、フェイルセーフ制御が継続される。
その後、運転者のアクセルペダルの踏み込みが一旦解除されて時刻t19にアクセル開度がA=0になると、モータ8へ付与されるトルクTの大きさもT=0となる。なお、時刻t20に運転者によりブレーキペダルが踏み込まれると電動機駆動トルクTがT=0に設定される。つまり、例えばアクセルペダルの踏み戻し直後など、電動機駆動トルクTがT>0である場合であっても、時刻t20にはモータ8の作動が停止することになる。その後、時刻t21に走行速度Vcが所定速度Vc1未満となると、条件〔3〕及び〔15〕が成立することになる。
【0205】
したがって、時刻t21には、押しがけ発進制御部5Aによる押しがけモードが終了され、強制始動制御部5Cにより改めて強制始動モードが開始される。
このとき、クラッチ制御部5dでは、図14(d)に示すように、一旦クラッチ7へ第4電圧V4以上の制御電圧Vが出力され、クラッチ7が完全に切断された後、完全に締結した状態へ制御される。このクラッチ7の切断から締結までの間に、図14(g)に示すように、変速段制御部5eによるトランスミッション9の変速段の切り換えが行われてNレンジへ制御される。このような制御により、モータ8の駆動力によって車両10が駆動することがなくなり(つまり、モータ8の駆動力が車両10を発進させる推進力として消費されることがなくなり)、モータ8の駆動力がクラッチ7を介してロスなくエンジン6へ伝達されて、エンジン6を強制的に始動させることができる状態となる。
【0206】
そして、クラッチ7が完全に締結した状態に制御された(時刻t21′)後、図14(e)に示すように、電動機駆動トルク算出部5bにおいて電動機駆動トルクTの大きさがT=Te2に設定される。
その後、時刻t22にクラッチ制御部5dにおいて条件〔19〕が成立すると、クラッチ制御部5dにより制御電圧Vが第3電圧V3へ変更されて、クラッチ7が弱締結状態に制御される。このときエンジン6は完爆状態の直前の状態となっている。
【0207】
なお、燃焼維持状態判定部3cにおいて条件〔8〕及び〔9〕が成立すると、エンジン6が完爆状態であると判定される。この判定時刻は、時刻t22よりも少なくとも所定の第1時間ta以上が経過した後(時刻t23)となる。
一方、電動機駆動トルク補正部5fにおいて、条件〔14〕、すなわち、エンジン6が完爆状態であると判定されると、電動機駆動トルクTがゼロに設定されてギヤが入れやすくされ、ギヤ入り確認後、電動機駆動トルクTの大きさと要求トルクTrとの大きさが等しくなるように制御され、アイドリングスタート制御が終了して通常制御へと移行する。
【0208】
なお、このときクラッチ7は切断状態であり、例えば時刻t24に運転者によってアクセルペダルが踏み込まれると、アクセル開度Aが電動機駆動トルク算出部5bにおける要求トルクTrの算出に参照される。すなわち、クラッチ7の制御も、発進時に半クラッチとした後締結状態に制御するような、通常制御が実施される。
【0209】
[効果]
《実施モードによらない効果》
このように、本車両の発進制御装置によれば、まず車両10の停車状態としてエンジン6のアイドリング状態を的確に把握することができ、アイドリングストップ制御を実施することができる。なお、アイドリングストップ制御下において、発進待機制御部4がモータ8へ僅かなトルク(待機トルク)ΔTを付与するようになっているため、クラッチ7よりも下流側のモータ8,トランスミッション9及びその下流側の駆動輪11へ至る動力経路上におけるガタを詰めておくことができる。これにより、簡素な構成で発進時のガタつき感を抑制することができ、滑らかに車両10を発進させることができる。
【0210】
また、アイドリングストップ状態からのエンジン再始動のための制御(アイドリングスタート制御)において、運転者の加速要求の大きさに応じて、制御内容を変更することができる。つまり、加速要求が大きい場合には、車両の発進と同時にエンジンを始動させる(押しがけする)ことができる。また、加速要求が小さい場合には、車両を微動発進させることができる。このように、運転者の意図に応じてエンジンが始動するタイミングを変更させることが可能となり、車両を速やかに発進させることができる。
【0211】
なお、上述の実施形態では、加速要求の大きさだけでなく、路面勾配をも考慮した制御内容となっている。つまり、条件〔10〕〜〔13〕に示すように、路面勾配に応じて所定加速要求の大きさが定められており、例えば下り坂では微動モードよりも押しがけモードが選択されやすくなるように、平坦地では微動モードが選択される操作量域が確保されるように、また登り坂では平坦地の場合よりも押しがけモードが選択されやすくなるように、各所定加速要求が設定されている。
【0212】
また、路面勾配に応じた最適な大きさのトルクがモータ8へ付与されるようになっているため、路面勾配に関わらず車両10の発進性及び発進後の走行性を向上させると共により確実にエンジンを始動させることができる。
また、要求トルクTrの大きさが運転者のアクセル踏み込み量に応じた大きさに設定されるため、車両発進時の自然な操作フィーリングを実現できる。
【0213】
さらに、アイドリングスタート制御においては、エンジン6が完爆状態になる直前にクラッチ7を弱締結状態へ制御して、エンジン6からのトルク伝達を弱めるようになっているため、エンジン6が完爆状態となった際にトルク変動が生じたとしてもその変動がクラッチ7よりも下流側(駆動輪11側)へ伝達しにくくする(又は、略完全に遮断する)ことができる。つまり、エンジン8の燃焼状態に応じて生じうるトルクショックを低減させることが可能となる。
【0214】
また、アクセル操作及びブレーキ操作という通常の運転操作に基づいて発進要求を把握しているため、アイドリングストップ制御,アイドリングスタート制御のための特別な操作を要さず、運転者の操作負担を軽減することができる。なお、シフトレバー操作を必要としない点についても操作性の向上に寄与している。
また、上述の実施形態では、運転者の発進要求がアクセル操作量に基づいて判定されるようになっているため、運転者による発進の意志を的確に把握することができ、運転者の意図した通りに車両10を発進させることができる。
【0215】
《押しがけモード時の効果》
アイドリングストップ状態からのエンジン再始動のための制御(アイドリングスタート制御)において、運転者の発進要求が比較的大きい場合には、車両10を発進させるとともに、車両10の慣性を利用しながらモータ8を駆動して、迅速にエンジン6を始動させることが可能となる。つまり、運転者の発進要求に応じて速やかに車両10を発進させつつ、発進と略同時にエンジン6を始動させる(いわゆる押しがけをする)ことができる。
【0216】
また、運転者の発進要求を検出してからエンジン6の始動を開始するため、アイドリングストップ制御においては、従来の制御よりも長い時間エンジン6を一時停止させておくことができるようになり、停車時の静粛性及び燃費を向上させることができる。
また、従来のシフトレバー操作に依らない制御では、アイドリングストップ状態からの車両の発進性を向上させることが困難であるが、本発明に係る制御によれば、トランスミッション9の変速段を走行段に保持した状態でエンジン6を一時停止させるようになっており、さらに、押しがけモード時には、エンジン6の再始動時にも変速段が走行段に保持されたままである。したがって、クラッチ7の締結度合いとモータトルクとを協調制御することによって、車両10の発進性を向上させることが容易となる。なお、変速段の制御は押しがけモード及び微動モードで同一であるから、微動モード時においても同様の効果が得られる。
【0217】
また、押しがけモード時においては、アイドリングスタート制御が開始した時刻t2の時点でクラッチ7は切断状態に制御されており、その後時刻t3では弱締結状態,時刻t4では半締結状態に制御されるようになっている。つまり、クラッチ7の締結度合いを段階的に強める制御を行うことによって、クラッチ7を介して上流方向又は下流方向へ伝達されるトルク変動を抑制することができる。
【0218】
《微動モード時の効果》
運転者の発進要求が比較的小さい場合には、エンジン6の始動に先立って、エンジン6よりも応答性に優れたモータ8の駆動力を用いて車両10を発進させることができ、車両10を微動させることができる。つまり、例えば押しがけモードでは、モータ8の駆動力がエンジン6の始動と車両10の発進との2種類の動作に供されることになるため、モータ8に要求される駆動力(すなわち、電動機駆動トルクT)が比較的大きくなり、車両10をゆっくりと徐行発進させるような制御が難しい。これは、アイドリングストップ制御下にある車両10を迅速に発進させながらエンジン6を始動させたい場合に、押しがけモードが適していることを意味している。
【0219】
一方、微動モードでは、モータ8の駆動力が車両10の発進にのみ供されることになるため、モータ8で車両10の発進に必要な大きさのトルクさえ発生させれば、穏やかに車両10を発進させることが可能となり、車両10の発進性を向上させることができ、運転フィーリングを高めることができる。つまり、微動モードは、車両10をゆっくりと発進させたい(微速走行させたい)場合に向いている。
【0220】
また、微動モード時にはクラッチ7が弱締結状態に制御されてクラッチ7を介したトルク伝達がほとんどなされないため、モータ8は少なくとも車両10を動かすために必要な駆動力のみを生じさせることができればよく、車両10を低速で微動させることができるようになる。
また、このようなモード選択が、車両10への加速要求の大きさに応じてなされるようになっているため、車両10の発進時の挙動を運転者の意図したとおりとすることができる。
【0221】
さらに、車両10が発進して微動している状態からエンジンを始動させるような制御がなされるため、車両10の発進と同時にエンジンを始動させるような制御と比較すると、エンジン6の停止時間が長くなり、より燃費や静粛性を向上させることができる。
また、本実施形態におけるアイドリングスタート制御では、微動モードの後に押しがけモード又は強制始動モードへ移行するようになっているため、一旦発進を開始した車両10に働く慣性を利用して、より効率的にエンジン6を始動させることができる。
【0222】
また、微動発進制御下において、条件〔10〕〜〔12〕が成立した場合には、モード判定部5aにおいて押しがけモードへの移行が選択されるようになっているため、車両10への発進要求に応じて制御内容を変更することができる。一方、条件〔10〕〜〔12〕が成立することなく条件〔17〕,〔18〕が成立した場合には、モード判定部5aにおいて強制始動モードへの移行が選択されるようになっているため、エンジン6を確実に始動させることができる。
【0223】
《フェイルセーフ制御時の効果》
何らかの理由でアイドリングスタート制御におけるエンジン6の始動に失敗した場合であっても、フェイルセーフ制御が実施されるようになっているため、車両を停止させるまで、安全に車両を走行させることができる。
すなわち、パワーステアリング装置やブレーキ装置をアシストするための補機15がモータ8により強制的に駆動されるため、モータ8の駆動力は、クラッチ7及びエンジン6を介して補機15へと伝達されることになる。したがって、たとえエンジン6が始動していない状態であったとしても、簡素な構成で補機15を速やかに駆動することができ、車両走行時における安全性を向上させることができる。
【0224】
また、本制御装置では、フェイルセーフ時における電動機駆動トルクTの大きさがT=Trに設定されるようになっているため、フェイルセーフ制御が実施されると、運転者の操作フィーリングに変化を与えて、運転者にこれを認識させることができ、安全な場所まで車両を走行させて停車させる操作を運転者に促すことができる。これにより、一層安全性を確保することができるようになる。
またこの場合、アイドリングスタート制御がフェイルセーフ制御を介して強制始動モードに移行するようになっているため、エンジンを確実に始動させることができる。
【0225】
《強制始動モード時の効果》
運転者の発進要求が小さいままであったり、路面勾配が所定量以上であるために押しがけモードを選択することが適さない場合や、押しがけモードによるエンジン6の始動に失敗した場合には、変速段をNレンジに制御することによりモータ8の駆動力を主にエンジン6の始動のための供給して、エンジン6を始動させることができる。つまりこのときには、車両10の発進よりもエンジン6の始動を優先して、確実にエンジン6を始動することができる。
【0226】
また、強制始動モード時には、クラッチ7が完全に締結された状態でモータ8が駆動されるため、たとえエンジン6か完爆状態になくてもモータ8の駆動力によって補機15が駆動されることになる。つまり、エンジン6の始動前であっても運転操作を補助するための補機15を作動させることが可能となり、車両操作性をより向上させることができる。
【0227】
[その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0228】
例えば上述の実施形態では、発進要求検出部3aにおいて、アクセル開度Aの大きさに応じて発進要求の有無を判定するようになっているが、発進要求の判定に係るこの条件設定はあくまで一例であって、これ以外の判定条件を加味した判定を行うようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、アイドリングスタート制御が開始されると、クラッチ7が半締結状態,弱締結状態へ制御されているが、締結状態の設定は任意であって、切断状態のクラッチ7を締結方向へ駆動する構成であればよい。
【0229】
また、上述の実施形態では、アイドリングスタート制御が開始されると、直ちにクラッチ制御部5dがクラッチ7へ第3電圧V3の制御電圧Vを出力し、クラッチ7を弱締結状態に制御するようになっている。一方、アイドリングスタート制御が開始された時点で運転者によるアクセルペダルの踏み込みが検出されている。そこで、第3電圧V3の制御電圧Vの代わりに、アクセル操作量検出部2aで検出されたアクセル開度Aに応じた所定の制御電圧を出力するように構成することも考えられる。
【0230】
この場合、例えば、アクセル開度Aが予め設定された第4所定開度A4以上である場合(A≧A4)にはクラッチ制御部5dから出力される制御電圧Vを第3電圧V3に設定するが、アクセル開度Aが第4所定開度A4未満である場合(A<A4)には、制御電圧Vを第5電圧V5(ただしV3<V5<V4)とすることが考えられる。このような構成によって、発進要求の大きさに応じたクラッチ制御が可能となる。
【0231】
すなわち、発進要求検出部3aにおいて、アクセル開度Aが大きいほど発進要求も大きいと判断するように構成する。モード判定部5aにおける実施モードの選択において、発進要求が大きいほど押しがけモードが選択されやすく、一方、発進要求が小さいほど微動モードが選択されやすいため、発進要求の大きさをアイドリングスタート制御の開始時に把握することによって、モード判定を待たずにクラッチ7を締結方向へ駆動して、制御の準備をしておくことができるのである。
【0232】
なお、このような制御により、発進要求が大きい場合には、図11(d)における時刻t2〜t3間の制御電圧Vを下げてより時刻t4以降の制御電圧に近づくように制御することができ、あるいは、発進要求が小さい場合には、図12(d)における時刻t2〜t8間の制御電圧Vを上げて微動モード時にモータ8からエンジン6側へトルクが全く伝達されないようにすることもできる。
【0233】
また、上述の実施形態では、電動機駆動トルク算出部5bにおける始動トルクTe1や微動トルクTbの設定値を前後加速度G、つまり、路面勾配に応じて設定する構成としたが、要求トルクTrの設定において、前後加速度Gを加味した値に設定する構成とすることも考えられる。
例えばこの場合、路面勾配が下り坂の場合には、電動機駆動トルクTを比較的小さく設定することにより、モータ8の駆動に係るバッテリの消費量を低減させることができ、一方、登り坂では電動機駆動トルクTを比較的大きく設定して、車体の後退(後方への滑り落ち)を防止しながら迅速に車両10を発進させることができるようになる。このように、路面勾配に応じた最適な電動機駆動トルクTをモータ8へ付与して、スムーズに車両10を発進させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車両の発進制御装置の全体構成を示す制御ブロック図である。
【図2】本装置における電動機の駆動トルクを設定するためのマップである。
【図3】本装置によるエンジン停止時の制御内容を説明するためのフローチャートであり、
【図4】本装置によるエンジン再始動時の制御内容を説明するためのフローチャートである。
【図5】本装置による押しがけモードに係る制御内容を説明するためのフローチャートである。
【図6】本装置によるモータトルク調整に係る制御内容を説明するためのフローチャートである。
【図7】本装置によるフェイルセーフ制御の内容を説明するためのフローチャートである。
【図8】本装置による微動モードに係る制御内容を説明するためのフローチャートである。
【図9】本装置による強制始動モードに係る制御内容を説明するためのフローチャートである。
【図10】本装置によるモータトルク調整に係る制御内容を説明するためのフローチャートである。
【図11】本装置による押しがけモードでの車両発進時のパラメータ経時変動を説明するためのグラフであり、(a)はアクセル開度、(b)はブレーキペダルの踏み込み量、(c)はエンジン回転数、(d)はクラッチストロークの制御電圧、(e)は電動機のトルク変動、(f)は車両の走行速度を示す。
【図12】本装置による微動モードから押しがけモードへの移行時における車両発進時のパラメータ経時変動を説明するためのグラフであり、(a)はアクセル開度、(b)はブレーキペダルの踏み込み量、(c)はエンジン回転数、(d)はクラッチストロークの制御電圧、(e)は電動機のトルク変動、(f)は車両の走行速度を示す。
【図13】本装置による微動モードから強制始動モードへの移行時における車両発進時のパラメータ経時変動を説明するためのグラフであり、(a)はアクセル開度、(b)ブレーキペダルの踏み込み量、(c)はエンジン回転数、(d)はクラッチストロークの制御電圧、(e)は電動機のトルク変動、(f)は車両の走行速度、(g)はトランスミッションの変速段を示す。
【図14】本装置による押しがけモードからフェイルセーフ制御を介した強制始動モードへの移行時における車両発進時のパラメータ経時変動を説明するためのグラフであり、(a)はアクセル開度、(b)ブレーキペダルの踏み込み量、(c)はエンジン回転数、(d)はクラッチストロークの制御電圧、(e)は電動機のトルク変動、(f)は車両の走行速度、(g)はトランスミッションの変速段を示す。
【符号の説明】
【0235】
1 コントローラ(発進制御装置)
2 検出部
2a アクセル操作量検出部(アクセル操作量検出手段)
2b 前後加速度算出部(前後加速度算出手段,路面勾配判定手段)
2c 実電動機トルク検出部(実電動機トルク検出手段)
2d 電動機回転数検出部(電動機回転数検出手段)
2e エンジン回転数検出部(エンジン回転数検出手段)
2f 車両走行速度検出部(車両走行速度検出手段)
2g 制動操作検出部(制動操作検出手段)
2h 変速段検出部(変速段検出手段)
2i 時間測定部
3 判定部
3a 発進要求検出部(発進要求検出手段)
3b 停車状態判定部(停車状態判定手段)
3c 燃焼維持状態判定部(燃焼維持状態判定手段)
4 発進待機制御部(発進待機制御手段,待機トルク付加手段,エンジン制御手段,アイドリングストップ手段)
5 発進制御部(発進制御手段,エンジン制御手段)
5a モード判定部(加速要求判定手段,選択手段)
5b 電動機駆動トルク算出部(電動機駆動トルク算出手段,要求トルク算出手段)
5c 電動機駆動制御部(電動機駆動制御手段)
5d クラッチ制御部(クラッチ制御手段)
5e 変速段制御部(変速段制御手段)
5f 電動機駆動トルク補正部(電動機駆動トルク補正手段)
5g フェイルセーフ制御部(クラッチ制御手段,電動機動力伝達制御手段)
5A 押しがけ発進制御部(押しがけ発進制御手段,発進待機解除制御手段)
5B 微動発進制御部(微動発進制御手段,発進待機解除制御手段)
5C 強制始動制御部(強制始動制御手段)
6 エンジン
7 クラッチ(電動機動力伝達制御手段)
8 モータ・ジェネレータ(モータ,電動機)
9 トランスミッション
10 ハイブリッド車両(車両)
11 駆動輪
12 アクセル開度センサ
13 液圧センサ
14 前後加速度センサ
15 補機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪へ動力伝達可能に連結されたエンジンと、上記のエンジンと駆動輪との間の動力伝達を断接可能に配設されたクラッチと、該クラッチを介さずに前記駆動輪へ動力伝達可能に連結された電動機と、前記エンジン及び前記電動機から入力される動力を前記駆動輪へ伝達するための走行段及び前記動力を非伝達とするための中立段を変速段として有するトランスミッションと、を備えたハイブリッド車両の発進制御装置であって、
前記車両が停車状態にあるか否かを判定する停車状態判定手段と、
前記停車状態判定手段により前記車両が前記停車状態にあると判定されているときに、前記車両への発進要求を検出する発進要求検出手段と、
前記停車状態判定手段により前記車両が停車状態にあると判定されると、前記エンジンを停止させるアイドリングストップ手段と、
前記アイドリングストップ手段による前記エンジンの停止後であって、前記発進要求検出手段により前記発進要求が検出されるまでの間、前記クラッチを切断状態とするとともに前記トランスミッションの変速段を前記走行段に保持する発進待機制御手段と、
前記発進要求検出手段により前記発進要求が検出されて前記発進待機制御手段による制御が終了すると、前記クラッチを切断状態としたまま前記電動機を駆動して前記駆動輪に動力伝達する発進制御を実施する発進制御手段と、
前記発進制御手段による前記電動機の駆動後に、前記クラッチを切断状態としたまま前記トランスミッションの変速段を前記中立段に制御し、その後前記クラッチを締結方向へ駆動して前記電動機を駆動することにより前記エンジンを始動する制御を実施する始動制御手段と
を備えたことを特徴とする、ハイブリッド車両の発進制御装置。
【請求項2】
前記車両発進時の加速要求の大きさを判定する加速要求判定手段を備え、
前記発進制御手段が、前記加速要求判定手段で検出された前記加速要求が予め設定された所定加速要求よりも小さい場合に、前記発進制御を実施する
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド車両の発進制御装置。
【請求項3】
アクセル操作量を検出するアクセル操作量検出手段を備え、
前記発進要求検出手段が、前記アクセル操作量検出手段で検出されたアクセル操作量に基づいて前記発進要求を検出する
ことを特徴とする、請求項2記載のハイブリッド車両の発進制御装置。
【請求項4】
前記アクセル操作量検出手段がアクセル操作速度を検出するとともに、
前記加速要求判定手段が、前記アクセル操作量及び前記アクセル操作速度に基づいて前記車両への加速要求の大きさを判定する
ことを特徴とする、請求項3記載のハイブリッド車両の発進制御装置。
【請求項5】
前記発進要求検出手段により前記発進要求が検出されて前記発進待機制御手段による制御が終了した後に、前記電動機を駆動して前記駆動輪に動力伝達するとともに前記クラッチを締結方向へ駆動する押しがけ発進制御を実施する押しがけ発進制御手段を備え、
前記押しがけ発進制御手段が、前記加速要求が予め設定された所定加速要求よりも大きい場合に、前記押しがけ発進制御を実施する
ことを特徴とする、請求項2〜4の何れか1項に記載のハイブリッド車両の発進制御装置。
【請求項6】
前記発進制御手段による前記発進制御下において、前記加速要求が予め設定された所定加速要求よりも大きくなった場合に、前記発進制御手段が前記発進制御を停止させるとともに前記押しがけ発進制御手段が前記押しがけ発進制御を実施する
ことを特徴とする、請求項5記載のハイブリッド車両の発進制御装置。
【請求項7】
前記発進制御手段が、
前記発進要求に応じた要求トルクを算出する要求トルク算出手段と、
所定の微動トルクを設定する微動トルク設定手段と、
前記要求トルク算出手段で算出された前記要求トルクに前記微動トルクを加えた電動機駆動トルクが前記電動機から出力されるように前記電動機を駆動する電動機駆動制御手段とを有する
ことを特徴とする、請求項3〜6の何れか1項に記載のハイブリッド車両の発進制御装置。
【請求項8】
前記要求トルク算出手段が、前記アクセル操作量検出手段で検出された前記アクセル操作量に基づいて前記要求トルクを設定する
ことを特徴とする、請求項7記載のハイブリッド車両の発進制御装置。
【請求項9】
路面勾配を判定する路面勾配判定手段を備え、
前記微動トルク設定手段が、前記路面勾配判定手段で判定された前記路面勾配に応じて前記微動トルクを設定する
ことを特徴とする、請求項7又は8記載のハイブリッド車両の発進制御装置。
【請求項10】
駆動輪へ動力伝達可能に連結されたエンジンと、上記のエンジンと駆動輪との間の動力伝達を断接可能に配設されたクラッチと、該クラッチを介さずに前記駆動輪へ動力伝達可能に連結された電動機と、前記エンジン及び前記電動機から入力される動力を前記駆動輪へ伝達するための走行段及び前記動力を非伝達とするための中立段を変速段として有するトランスミッションと、を備えたハイブリッド車両の発進制御装置であって、
前記車両の停車時において前記車両への発進要求が検出されるまでの間、前記エンジンを停止させたまま前記クラッチを切断状態とするとともに前記トランスミッションの変速段を前記走行段に保持する発進待機制御手段と、
前記発進待機制御手段による制御が終了した後に、前記クラッチを切断状態としたまま前記電動機を駆動して前記駆動輪に動力伝達する発進制御手段と、
前記発進制御手段による前記電動機の駆動後に、前記クラッチを切断状態としたまま前記トランスミッションの変速段を前記中立段に制御するとともに前記クラッチを締結方向へ駆動し、その後前記電動機を駆動することにより前記エンジンを始動する始動制御手段と
を備えたことを特徴とする、ハイブリッド車両の発進制御装置。
【請求項11】
駆動輪へ動力伝達可能に連結されたエンジンと、上記のエンジンと駆動輪との間の動力伝達を断接可能に配設されたクラッチと、該クラッチを介さずに前記駆動輪へ動力伝達可能に連結された電動機と、前記エンジン及び前記電動機から入力される動力を前記駆動輪へ伝達するための走行段及び前記動力を非伝達とするための中立段を変速段として有するトランスミッションと、を備えたハイブリッド車両において、
前記車両の発進状態を制御する発進制御装置を備え、
該発進制御装置が、
前記車両が停車状態にあるか否かを判定する停車状態判定手段と、
前記停車状態判定手段により前記車両が前記停車状態にあると判定されているときに、前記車両への発進要求を検出する発進要求検出手段と、
前記停車状態判定手段により前記車両が停車状態にあると判定されると、前記エンジンを停止させるアイドリングストップ手段と、
前記アイドリングストップ手段による前記エンジンの停止後であって、前記発進要求検出手段により前記発進要求が検出されるまでの間、前記クラッチを切断状態とするとともに前記トランスミッションの変速段を前記走行段に保持する発進待機制御手段と、
前記発進要求検出手段により前記発進要求が検出されて前記発進待機制御手段による制御が終了すると、前記クラッチを切断状態としたまま前記電動機を駆動して前記駆動輪に動力伝達する発進制御手段と、
前記発進制御手段による前記電動機の駆動後に、前記クラッチを切断状態としたまま前記トランスミッションの変速段を前記中立段に制御し、その後前記クラッチを締結方向へ駆動して前記電動機を駆動することにより前記エンジンを始動する始動制御手段と
を備えて構成される
ことを特徴とする、発進制御装置付きハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−196764(P2007−196764A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15496(P2006−15496)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】