説明

ハイブリッド車両の能動型制振制御装置

【課題】モータ補助型ハイブリッド車両において、モータ補助の静トルクの応答性を損なうことなく、エンジンのトルク変動を抑制する。
【解決手段】クランク軸110の回転周波数fから基準信号生成器12により生成された調波の基準信号に応じて適応ノッチフィルタ14から出力される制御信号yと、ジェネレータ・モータ104の駆動信号(いわゆる静トルクを与える信号)Sm(n)とを合成器39により合成し電力制御部101を介してジェネレータ・モータ104に供給する。さらに、ジェネレータ・モータ104の伝達関数Hを有する補正フィルタ41〜44に前記基準信号を入力して参照信号Cを出力し、クランク軸110の回転変動を表す誤差信号eが最小となるように適応ノッチフィルタ14のフィルタ係数を逐次更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両走行用の駆動源としてのエンジンにジェネレータ・モータ(発電電動機)を一体的に備え、前記ジェネレータ・モータのモータがエンジンの出力を補助する補助駆動源として使用されるモータ補助型のハイブリッド車両の能動型制振制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンは、シリンダ内の爆発力をクランク軸(出力軸)の回転に変換し、そのクランク軸の回転トルクを出力するものであるため、爆発に同期して回転トルクの変動が不可避的に発生する。この回転トルクの変動を抑制するために、クランク軸のトルク増大時を検出して、クランク軸にトルク授受可能に連結されるジェネレータ・モータに界磁電流を供給し、トルク増大時にクランク軸に逆トルクを発生させ回転トルクの変動を抑制するようにしたトルク変動抑制装置が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特公平4−24538号公報
【特許文献2】特開昭61−135936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術に係るトルク変動抑制装置では、クランク角センサにより検出されるエンジン回転数変動によりモータをフィードフォワード制御して逆トルクを発生するように制御しているに過ぎなく、例えば吸気温度が変化してエンジン点火時期が変動した場合等には制御にずれが発生し振動低減性能が低下してしまうおそれがあるという問題がある。
【0005】
また、従来技術に係るトルク変動抑制装置では、アクセルを一定に踏んでいてスロットル開度が一定のときに制振のための制御データを決定しているので、アクセルを変化させてスロットル開度が変化しているときには制振性能が大幅に低下するという問題がある。
【0006】
この発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、ジェネレータ・モータのモータがエンジンの出力を補助する補助駆動源として使用されるモータ補助型ハイブリッド車両において、モータ補助の静トルクの応答性を損なうことなく、クランク軸のトルク変動に即応してこのトルク変動を抑制して制振することを可能とする新規な構成のハイブリッド車両の能動型制振制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るハイブリッド車両の能動型制振制御装置は、クランク軸を回転するエンジンを補助してクランク軸を回転させるジェネレータ・モータを備えたハイブリッド車両の能動型制振制御装置において、前記クランク軸の回転周波数から調波の基準信号を生成する基準信号生成器と、前記基準信号が入力され、制御信号を出力する適応ノッチフィルタと、前記制御信号と前記ジェネレータ・モータの駆動信号とを合成して前記ジェネレータ・モータに供給する合成器と、前記クランク軸の回転変動を検出し、誤差信号として出力する誤差信号検出器と、前記モータの伝達関数を有し、前記基準信号が入力されて参照信号を出力する補正フィルタと、前記誤差信号と前記参照信号とが入力されて、前記誤差信号が最小となるように前記適応ノッチフィルタのフィルタ係数を逐次更新するフィルタ係数更新手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、クランク軸の回転周波数から基準信号生成器により生成された調波の基準信号に応じて適応ノッチフィルタから制御信号を出力し、合成器により前記制御信号とジェネレータ・モータの駆動信号(いわゆる静トルクを与える信号)とを合成してジェネレータ・モータに供給する構成とした上で、さらに、前記ジェネレータ・モータの伝達関数を有する補正フィルタに前記基準信号を入力して参照信号を出力し、誤差信号検出器により検出される前記クランク軸の回転変動を表す誤差信号と前記参照信号とから前記誤差信号が最小となるように適応ノッチフィルタのフィルタ係数をフィルタ係数更新手段により逐次更新する構成としたので、ジェネレータ・モータのモータがエンジンの出力を補助する補助駆動源として使用されるモータ補助型ハイブリッド車両において、モータ補助の静トルクの応答性を損なうことなく、クランク軸のトルク変動に即応してトルク変動を抑制することができる。したがって、アクセルを一定に踏んでいてスロットル開度が一定のときと、アクセルを変化させてスロットル開度が変化しているときのいずれの場合においても同等の制振性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、ジェネレータ・モータのモータがエンジンの出力を補助する補助駆動源として使用されるモータ補助型ハイブリッド車両において、モータ補助の静トルクの応答性を損なうことなく、クランク軸のトルク変動に即応してトルク変動を抑制することができる。したがって、アクセルを一定に踏んでいてスロットル開度が一定のときと、アクセルを変化させてスロットル開度が変化しているときのいずれの場合においても同等の制振性能を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、この発明の一実施形態に係る能動型制振制御装置100を含むジェネレータ・モータ制御装置10の電気的構成を示すブロック図である。
【0012】
ジェネレータ・モータ制御装置10は、それぞれがマイクロコンピュータにより構成される能動型制振制御装置100とモータアシスト回生制御装置200とから構成される。
【0013】
図2は、この発明の一実施形態に係る能動型制振制御装置100を含むジェネレータ・モータ制御装置10が搭載されたモータ補助型ハイブリッド車両30の模式的な構成を示す説明図である。
【0014】
図2に示すように、モータ補助型ハイブリッド車両30は、内燃機関であるエンジン(ディーゼルエンジンも含む)102に、モータ(電動機)及びジェネレータ(発電機)として機能するジェネレータ・モータ(発電電動機)104と自動あるいは手動のトランスミッション106とが一体的に連結されており、トランスミッション106の出力により駆動輪108が駆動される。
【0015】
ジェネレータ・モータ104にはバッテリ114が接続され、ジェネレータ・モータ制御装置10は、ジェネレータ・モータ104がモータとして機能するときにバッテリ114からジェネレータ・モータ104に電気を供給する制御を行う一方、ジェネレータ・モータ104がジェネレータとして機能するときにジェネレータ・モータ104からバッテリ114に電気を供給する充電の制御を行う。すなわち、ジェネレータ・モータ制御装置10は、バッテリ114の充放電を制御する。
【0016】
モータ補助型ハイブリッド車両30は、例えば、(1)発進時にはエンジン102を上回る力でジェネレータ・モータ104がエンジン102を補助し、(2)低速クルーズ時にはエンジン102の気筒を全て停止しジェネレータ・モータ104だけで走行し、(3)ゆっくりした加速時又は高速クルーズ時はエンジン102の燃費がよくなるためジェネレータ・モータ104を休止してエンジン102のみで走行し、(4)急加速時にはエンジン102とジェネレータ・モータ104の両方で走行し、又(5)減速時にはエンジン102を停止しジェネレータ・モータ104をジェネレータとして動作させバッテリ114に対する充電(回生)を行うように制御される。(6)ブレーキをかけている停車時には、エンジン102とジェネレータ・モータ104の両方が停止され、ブレーキを離したときにエンジン102のみが始動するようになっている。能動型制振制御装置100は、エンジン102が燃焼している上記(1)、(3)、(4)、(6)の動作状態において、クランク軸のトルク変動に即応してトルク変動を抑制する処理を行っている。
【0017】
図1及び図2に示すように、ジェネレータ・モータ104の回転軸でもあるエンジン102のクランク軸(出力軸)110にクランク角センサ112が取り付けられている。クランク角センサ112は、クランク軸110の1回転につき、例えば24個、つまりクランクアングルの15゜毎に1個、クランクパルス(エンジンパルス)Epを出力する。従って、クランク軸110の回転周波数[rps]は、1秒毎のクランクパルスEpの個数を24で割った値になる。実際には、周波数カウンタ(周波数検出器)32によりクランクパルスEpを取得する毎に更新したクランク軸回転周波数fが検出され出力される。
【0018】
一方、クランク軸110の回転変動は、単位を角速度ω[rad/sec]とすると、隣り合うクランクパルスEpの時間間隔がT[sec]であるとき、カウンタ・タイマ116により時間間隔Tが検出され、回転変動検出手段117により角速度ω={15×(π/180)/T}値の変化として検出される。具体的には、回転変動としての角速度ωの値の変化は、今回計算したωn+1から前回計算したωnを引き、差を前回計算したωnで割った値{(ωn+1−ωn)}/ωn]として検出され、誤差信号eとして出力される。
【0019】
この場合、カウンタ・タイマ116と回転変動検出手段117とは、誤差信号検出器120を構成し、回転変動値(ωn+1−ωn)}/ωnを誤差信号eとして出力する。より高速処理が可能なCPUを使用できる場合には、クランクパルスEpを逓倍し、より短い時間間隔にしたパルスから回転変動値を算出して誤差信号eとして出力することで、回転変動値検出精度の向上を図ることもできる。
【0020】
ジェネレータ・モータ制御装置10を構成する能動型制振制御装置100は、基本的には、クランク軸110の回転周波数fから調波の基準信号{正弦波信号及び(又は)余弦波信号}を生成する基準信号生成器12と、基準信号が入力されてサンプリング周期毎に時点nでクランク軸110の回転変動を相殺するための逆トルクに係わる制御信号y(n)を出力する適応ノッチフィルタ14と、制御信号y(n)と静トルクに係わるモータアシスト信号(ジェネレータ・モータ104の駆動信号)Sm(n)とを合成して合成信号y(n)+Sm(n)を出力する合成器39と、合成信号y(n)+Sm(n)が供給されてクランク軸110の回転数と回転変動を制御して制振制御を行うとともに回生エネルギをバッテリ114に充電する制御を行う電力制御部101と、電力制御部101により駆動制御されるジェネレータ・モータ104と、ジェネレータ・モータ104とエンジン102により回転されるクランク軸110の回転変動をクランク角センサ112からのクランクパルスEpにより検出し、上述した誤差信号e(n)として出力する誤差信号検出器120と、ジェネレータ・モータ104の伝達関数Hを有し前記基準信号が入力されて参照信号を出力する参照信号生成回路20と、誤差信号e(n)と参照信号とが供給され適応ノッチフィルタ14のフィルタ係数W(n+1)を更新するフィルタ係数更新手段(LMSアルゴリズム演算器)22とから構成される。
【0021】
フィルタ係数更新手段22は、フィルタ係数更新手段22Aとフィルタ係数更新手段22Bとから構成されている。
【0022】
電力制御部101は、例えば3相インバータ回路と界磁電流供給・回生回路を含み、ジェネレータ・モータ104の3相ステータコイルと界磁コイル(ロータコイル)の回転磁界制御・界磁制御・回生制御を行う。
【0023】
ジェネレータ・モータ制御装置10を構成するモータアシスト回生制御装置200は、図示しないアクセルペダルの操作によるスロットル開度等の車両状態情報に応じて、格納しているマップから付与トルク(静トルク)を検索し、付与トルクに応じた駆動信号Sm(n)を出力する。
【0024】
基本的には以上のように構成されかつ動作する能動型制振制御装置100とモータアシスト回生制御装置200とからなるジェネレータ・モータ制御装置10を備えるモータ補助型ハイブリッド車両30のジェネレータ・モータ制御装置10のさらに詳しい動作について説明する。
【0025】
図1において、クランクパルスEpから周波数カウンタ32によりクランク軸110の回転周波数fが検出され、基準信号生成器12及び参照信号生成回路20に供給される。
【0026】
基準信号生成器12は、回転周波数fから調波の基準信号である余弦波cos{2π(f,n)}を生成する余弦波生成器34と、回転周波数fの調波の基準信号である正弦波sin{2π(f,n)}を生成する正弦波生成器36とから構成されている。
【0027】
適応ノッチフィルタ14は、余弦波cos{2π(f,n)}が入力される適応ノッチフィルタ(第1適応ノッチフィルタ)14Aと、正弦波{2π(f,n)}が入力される適応ノッチフィルタ(第2適応ノッチフィルタ)14Bとから構成されている。余弦波cos{2π(f,n)}が入力される適応ノッチフィルタ14Aから出力される制御信号(第1制御信号)y1(n)と、正弦波sin{2π(f,n)}が入力される適応ノッチフィルタ14Bから出力される制御信号(第2制御信号)y2(n)とを合成器38で加算して制御信号y(n)を生成することで、任意の位相と振幅を有する制御信号y(n)を生成する。
【0028】
モータアシスト回生制御装置200は、図示しないアクセルペダルの操作によるスロットル開度等の車両状態情報(スロットル開度の他、車速、シフト位置、ブレーキ踏量等)に応じて、格納しているマップから付与トルクを検索する。一般にスロットル開度と付与トルクは比例する。
【0029】
付与トルクを計算した後、モータアシスト回生制御装置200は、計算した付与トルクとクランク角センサ112から供給されるクランクパルスEpから計算したクランク軸110の回転周波数fとに基づいて、格納しているマップからロータ側の界磁コイルに供給しようとする界磁電流値を検索する。検索した付与トルクに対応する界磁電流値と回転数を表す駆動信号Sm(n)を合成器39を介して電力制御部101に供給する。
【0030】
電力制御部101は、このようにして求めた駆動信号Sm(n)が表す界磁電流値になるようにジェネレータ・モータ104の界磁電流を制御し、かつ内蔵の3相インバータ回路の各トランジスタを駆動信号Sm(n)が表す回転数となるようにスイッチングすることによりジェネレータ・モータ104をモータとして動作させ、この駆動信号Sm(n)により静トルク付与を実行すると同時に、制御信号y(n)による逆トルク(動トルク)をジェネレータ・モータ104に付与する。
【0031】
駆動信号Sm(n)と制御信号y(n)の合成信号y(n)+Sm(n)が電力制御部101に供給される。
【0032】
制御信号y(n)の生成の仕方について説明する。
【0033】
参照信号生成回路20は、4つの補正フィルタ41〜44と、加算器46、48とから構成されている。
【0034】
補正フィルタ41、43は、ジェネレータ・モータ104の伝達関数Hの実数部の特性ReH(f)を有し、補正フィルタ42、44は、伝達関数Hの虚数部の特性ImH(f)を有する。
【0035】
ジェネレータ・モータ104の伝達関数Hは、エンジン102を停止させた状態で、界磁電流の大きさをパラメータとしてロータであるクランク軸110のトルクの周波数特性(回転磁界周波数)を実測あるいはシミュレーションにより求めることができる。
【0036】
伝達関数Hの実数部の特性ReH(f)と虚数部のImH(f)は、それぞれ回転周波数fに依存して特性値が変化する。
【0037】
また、補正フィルタ41〜44は、回転周波数fによりゲインが調整される。
【0038】
加算器46から余弦波cos{2π(f,n)}に係る参照信号(補正値)Cx(n)がフィルタ係数更新手段22Aに出力され、加算器48から正弦波sin{2π(f,n)}に係る参照信号(補正値)Cy(n)がフィルタ係数更新手段22Bに出力される。
【0039】
参照信号Cx(n)、Cy(n)は、参照信号生成回路20の回路接続を参照すれば、以下の式で得られることが分かる。
Cx(n)=cos{2π(f,n)}・ReH(f)
−sin{2π(f、n)}・ImH(f)
Cy(n)=cos{2π(f,n)}・ImH(f)
+sin{2π(f、n)}・ReH(f)
【0040】
なお、参照信号Cx(n)、Cy(n)の両方又はいずれかを示す場合には、参照信号C(n)という。
【0041】
フィルタ係数更新手段22Aは、更新したフィルタ係数Wx(n+1)を適応ノッチフィルタ14Aに新たなフィルタ係数W(n)=Wx(n)として設定し(n←n+1)、フィルタ係数更新手段22Bは、更新したフィルタ係数Wy(n+1)を適応ノッチフィルタ14Bに新たなフィルタ係数W(n)=Wy(n)として設定する(n←n+1)。
【0042】
この場合、フィルタ係数更新手段22A、22Bは、それぞれ、誤差信号e(n)と参照信号Cx(n)、Cy(n)とが入力されて、誤差信号e(n)が最小となるように時点n毎にフィルタ係数W(n)を逐次更新する。
【0043】
更新したフィルタ係数W(n+1)を、W(n+1)=W(n)+ΔWとすれば、更新量ΔWは、μを定数として、ΔW=−μ・e(n)C(n)と表され、参照信号C(n)と誤差信号e(n)とに基づき誤差信号e(n)の2乗が最小値となるような適応アルゴリズム(LMSアルゴリズム)により算出される。
【0044】
制御信号y(n)=y1(n)+y2(n)が電力制御部101に供給される。
【0045】
電力制御部101は、制御信号y(n)と駆動信号Sm(n)の合成信号から求められる界磁電流の値になるようにジェネレータ・モータ104の界磁電流を制御し、かつ合成信号から求められる3相インバータのオンオフ信号により内蔵の3相インバータ回路の各トランジスタをスイッチングすることによりジェネレータ・モータ104をモータとして動作させ、これにより静トルク付与と逆トルク付与を併せて実行する。
【0046】
以上説明したように、上述した実施形態によれば、クランク軸110の回転周波数fから基準信号生成器12により生成された調波の基準信号に応じて適応ノッチフィルタ14から制御信号yを出力し、合成器39により制御信号yとジェネレータ・モータの駆動信号(いわゆる静トルクを与える信号)Sm(n)とを合成して電力制御部101を介してジェネレータ・モータ104に供給する構成とした上で、さらに、ジェネレータ・モータ104の伝達関数Hを有する補正フィルタ41〜44に前記基準信号を入力して参照信号Cを出力し、誤差信号検出器120により検出されるクランク軸110の回転変動を表す誤差信号eと参照信号Cとから誤差信号eが最小となるように適応ノッチフィルタ14のフィルタ係数をフィルタ係数更新手段22により逐次更新する構成とし、クランク軸110の回転変動の周波数成分のみ制御信号yを変化させるようにしたので、ジェネレータ・モータ104のモータがエンジン102の出力を補助する補助駆動源として使用されるモータ補助型ハイブリッド車両30において、モータ補助の静トルクの応答性を損なうことなく、クランク軸110のトルク変動に即応してトルク変動を抑制することができる。このため、エンジン102の爆発(燃焼)を原因とするモータ補助型ハイブリッド車両30の振動を抑制して制振することができる。
【0047】
このように、周波数追従型適応制御を利用し、クランク軸110の回転変動に関係する対象周波数のみに影響を与える(逆トルクをかける)ようにしているので、駆動信号(モータアシスト信号)Sm(n)と制御信号y(n)を合成器39で合成し、電力制御部101を介してジェネレータ・モータ104を駆動する構成であっても、駆動信号Sm(n)に係わる0[Hz]〜数[Hz]程度以下の静トルクの応答性に影響を与えることがない。
【0048】
また、モータ補助型ハイブリッド車両30における能動型制振制御装置100において、クランク回転変動を誤差信号eとした周波数領域型の適応ノッチフィルタ14のフィルタ係数Wの更新による適応フィードフォワード制御を採用することにより、図1例のように単一(基本調波:本実施例)周波数のみあるいは必要に応じて複数(基本調波+高調波)の周波数のみを対象とした低減を行うことが可能となるので、モータ静トルクの追従性を損なうことなく、振動低減性能の向上が図れる。したがって、アクセルを一定に踏んでいてスロットル開度が一定のときと、アクセルを変化させてスロットル開度が変化しているときのいずれの場合においても同等の制振性能を得ることができる。
【0049】
また、上述した実施形態においては、基準信号生成器12により余弦波cos{2π(f,n)}と、正弦波sin{2π(f,n)}を生成しているが、他の実施形態として、いずれか一方、例えば、図3に示すように、余弦波cos{2π(f,n)}のみを発生する構成の能動型制振制御装置100Rの構成としても、即応性及び制振抑制量については、図1例の能動型制振制御装置100に劣るが、一定の効果を発揮することができる。この実施形態のジェネレータ・モータ制御装置10Rの場合には、基準信号生成器12R、参照信号生成回路20R、適応ノッチフィルタ14R、フィルタ係数更新手段22Rの各部品コストを略半減できる。
【0050】
この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の一実施形態に係る能動型制振制御装置を含むジェネレータ・モータ制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の一実施形態に係る能動型制振制御装置を含むジェネレータ・モータ制御装置が搭載されたモータ補助型ハイブリッド車両の模式的な構成を示す説明図である。
【図3】この発明の他の実施形態に係る能動型制振制御装置を含むジェネレータ・モータ制御装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0052】
10、10R…ジェネレータ・モータ制御装置 12…基準信号生成器
14…適応ノッチフィルタ 22…フィルタ係数更新手段
30…モータ補助型ハイブリッド車両 38、39…合成器
41〜44…補正フィルタ
100、100R…能動型制振制御装置 101…電力制御部
102…エンジン 106…トランスミッション
110…クランク軸 114…バッテリ
120…誤差信号検出器
200…モータアシスト回生制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸を回転するエンジンを補助してクランク軸を回転させるジェネレータ・モータを備えたハイブリッド車両の能動型制振制御装置において、
前記クランク軸の回転周波数から調波の基準信号を生成する基準信号生成器と、
前記基準信号が入力され、制御信号を出力する適応ノッチフィルタと、
前記制御信号と前記ジェネレータ・モータの駆動信号とを合成して前記ジェネレータ・モータに供給する合成器と、
前記クランク軸の回転変動を検出し、誤差信号として出力する誤差信号検出器と、
前記モータの伝達関数を有し、前記基準信号が入力されて参照信号を出力する補正フィルタと、
前記誤差信号と前記参照信号とが入力されて、前記誤差信号が最小となるように前記適応ノッチフィルタのフィルタ係数を逐次更新するフィルタ係数更新手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の能動型制振制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−253774(P2007−253774A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80357(P2006−80357)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】