説明

パターン形成方法及び洗浄装置

【課題】基板表面を好適に洗浄可能なパターン形成方法を提供する。
【解決手段】基板上にレジスト膜を形成し、洗浄の際に洗浄液と前記基板との界面に作用するせん断応力が、液浸露光の際に液浸液と前記基板との界面に作用するせん断応力よりも大きくなるような制御の下、前記基板の表面を洗浄し、前記レジスト膜を前記液浸露光により露光して、前記レジスト膜に潜像を形成し、前記レジスト膜を現像して、前記基板上にレジスト膜パターンを形成することを特徴とするパターン形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン形成方法及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の回路パターンは、年々微細化される傾向にある。これに伴い、露光装置の改良が検討されている。現在、193nm波長のArFレーザーを光源する露光装置が、先端露光装置として量産や開発に広く用いられている。
【0003】
露光装置の投影レンズと露光対象のレジスト膜との間の光路を占める媒質を、光路媒質と呼ぶ。液浸露光法は、光路媒質を液体とする露光法である。液浸露光では、光路媒質の屈折率を大きくすることで、レーザー光の臨界角を大きくすることが可能である。これにより、光路媒質が空気である通常の露光の限界を超えるような微細な回路パターンが形成可能になる。液浸露光は一般に、基板表面の全体を光路媒質に浸漬する方式と、基板表面の光路周辺部のみを局所的に光路媒質に浸漬する方式とに分類される。現在、活発に開発が進められている液浸露光装置は、後者の方式の液浸露光装置である。
【0004】
光路媒質に求められる重要な特性は、露光波長における高い透明性である。193nm光源の液浸露光装置においては、屈折率が約1.43の超純水が、光路媒質の最有力候補とされている。また、屈折率が更に高い有機薬液等も開発されつつある。
【0005】
液浸露光では、光路媒質とレジスト膜とが接触することに起因して不都合が生じることが懸念される。例えば、レジスト膜の表面に存在する光酸発生材等のコンタミネーションが、レジスト膜と光路媒質とが接触することで光路媒質中に溶解する可能性がある。さらには、このような光路媒質が露光ステージ上に残留した場合、光路媒質中に溶解していたコンタミネーションが、露光ステージ上に付着して汚染源になる可能性がある。
【0006】
特許文献1には、被処理基板上に化学増幅型レジスト膜を形成する工程と、前記化学増幅型レジスト膜の表層に偏析している光酸発生剤を純水、オゾン水、及び過酸化水素水の何れか一つ以上を含む洗浄液により除去する洗浄工程と、前記化学増幅型レジスト膜に潜像を形成するために、前記化学増幅型レジスト膜の所定の位置にエネルギー線を照射する工程と、前記潜像に基づく化学増幅型レジスト膜パターンを形成するために前記化学増幅型レジスト膜を現像する工程と、を含むことを特徴とするパターン形成方法が開示されている。特許文献1には更に、前記エネルギー線を照射する工程は、化学増幅型レジスト膜と投影露光装置の光学系との間の光路中に形成した水層を介した液浸露光により行われることを特徴とするパターン形成方法が開示されている。当該パターン形成方法は、上記の問題に対処するのに有効である。
【0007】
特許文献2には、基板保持部により基板を保持したまま、基板表面に洗浄液ノズルから洗浄液を供給し、基板表面を洗浄する方法が開示されている。当該方法による基板表面の洗浄は、基板表面に付着する光酸発生材等の物質が露光装置に搬入され、露光装置内(例えば露光ステージ上)が汚染されるのを防止することを目的とする。しかしながら、当該洗浄の際に洗浄液が基板表面に与えるインパクトが小さいと、液浸露光の際に基板表面が液浸液で洗われて、洗われた物質により露光装置が汚染される可能性がある。
【0008】
特許文献3には、ウエハ上に形成されたレジスト膜の表面を洗浄する洗浄部と、前記レジスト膜と露光レンズとの間に液体を配してパターン露光を行なう露光器とを備えていることを特徴とする露光装置が開示されている。特許文献3には更に、それぞれが上面に前記ウエハを保持可能な第1ステージと第2ステージとを更に備え、前記第1ステージ及び第2ステージのうち、一方は前記露光部に含まれ、他方は前記洗浄部に含まれることを特徴とする露光装置が開示されている。
【特許文献1】特許第3857692号公報
【特許文献2】特開2005−294520号公報
【特許文献3】特開2005−353763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、基板表面を好適に洗浄可能なパターン形成方法及び洗浄装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施例は例えば、基板上にレジスト膜を形成し、洗浄の際に洗浄液と前記基板との界面に作用するせん断応力が、液浸露光の際に液浸液と前記基板との界面に作用するせん断応力よりも大きくなるような制御の下、前記基板の表面を洗浄し、前記レジスト膜を前記液浸露光により露光して、前記レジスト膜に潜像を形成し、前記レジスト膜を現像して、前記基板上にレジスト膜パターンを形成することを特徴とするパターン形成方法である。
【0011】
本発明の実施例は例えば、基板の表面を洗浄液により洗浄するための洗浄冶具と、前記洗浄冶具に設けられた、前記洗浄液を供給するための洗浄液供給部と、前記洗浄冶具に設けられた、前記洗浄液を排出するための洗浄液排出部と、前記基板と前記洗浄冶具との間に前記洗浄液が介在している状態で前記基板と前記洗浄冶具とを相対移動させることで、前記基板の表面を洗浄する洗浄制御部とを備えることを特徴とする洗浄装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、基板表面を好適に洗浄可能なパターン形成方法及び洗浄装置を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1A乃至Dは、基板(ウェハ基板)101の側方断面図である。本実施例のパターン形成方法ではまず、図1A乃至Dのいずれかのように、基板101上にレジスト膜121が形成される。基板101は例えば、バルク半導体基板でもSOI(Semiconductor On Insulator)基板でも構わない。レジスト膜121は、ここでは化学増幅型のレジスト膜とするが、化学増幅型以外のレジスト膜でも構わない。
【0014】
図1Aでは、基板101上にレジスト膜121がダイレクトに形成されている。図1Aの場合、レジスト膜121は、基板101を加工するのに利用される。図1Bでは、基板101上に被加工膜111を介してレジスト膜121が形成されている。図1Bの場合、レジスト膜121は、被加工膜111を加工するのに利用される。図1A又はBの場合、基板101の表面にはレジスト膜121が露出している。即ち、基板101の表面がレジスト膜121で構成されている。被加工膜111は、1層の膜を含む単層膜でも2層以上の膜を含む積層膜でも構わない。
【0015】
図1Cでは、図1Aのレジスト膜121上にカバー膜131が形成されている。図1Cの場合、レジスト膜121は、基板101を加工するのに利用される。図1Dでは、図1Bのレジスト膜121上にカバー膜131が形成されている。図1Dの場合、レジスト膜121は、被加工膜111を加工するのに利用される。図1C又はDの場合、基板101の表面にはカバー膜131が露出している。即ち、基板101の表面がレジスト膜121で構成されている。カバー膜131は、塗布膜の一例であり、1層の膜を含む単層膜でも2層以上の膜を含む積層膜でも構わない。
【0016】
なお、基板101と被加工膜111との間には、1層以上の何らかの膜が介在していても構わない。このような膜の例として、既に加工済の膜、エッチングストッパ、ストレスライナが挙げられる。また、被加工膜111とレジスト膜121との間にも、1層以上の何らかの膜が介在していても構わない。このような膜の例として、被加工膜111の表面の凹凸を平坦にする有機樹脂膜、加工用のマスクとなるカーボンCVD膜、アモルファスシリコン層、SOG層が挙げられる。このような1層以上の膜が、図1A又はCの場合において、基板101とレジスト膜121との間に介在していてもよい。被加工膜111の例としては、ゲート電極層、コンタクトプラグ層、ビアプラグ層、配線層、層間絶縁膜等が挙げられる。
【0017】
以下、本実施例のパターン形成方法について説明を続ける。以下の説明中の基板101は、図1A乃至Dのいずれかの基板101、即ち、被加工膜111の形成処理、レジスト膜121の形成処理、カバー膜131の形成処理等が既に実施された基板101であるとする。以下のパターン形成処理では、基板101の洗浄処理、液浸露光処理、現像処理等が実施される。
【0018】
図2は、液浸露光中の基板101を示した上面図である。液浸露光の方式はここでは、基板表面の光路周辺部のみを局所的に光路媒質(液浸液)に浸漬する方式とするが、基板表面の全体を光路媒質(液浸液)に浸漬する方式としても構わない。図2には、液浸領域201が示されている。液浸領域201は、液浸露光の際に局所的に液浸液に浸漬される領域である。液浸液はここでは、純水、例えば、屈折率が約1.43の超純水とする。
【0019】
基板101の真下には液浸露光ステージ211が存在しており、基板101は液浸露光ステージ211上に保持されている。図2では、液浸露光ステージ211は、基板101の裏に隠れている。また、基板101の外周部を露光するときには液浸領域201が基板101の外にはみ出すため、基板101の周囲には液浸補助ステージ212が配置されている。これにより、基板101の外で液浸領域201が乱れないようになっている。
【0020】
図2にはさらに、露光領域221が示されている。露光領域221は、液浸露光の際にエネルギー線が照射される領域である。エネルギー線はここでは、レーザー光、例えば、193nm波長のArFレーザー光とする。図2の露光領域221は、基板101の外周部に位置している。よって、図2の液浸領域201は、基板101の外にはみ出ている。しかし、基板101の周囲には液浸補助ステージ212が配置されているため、液浸液は液浸領域201から流れ出ないようになっている。
【0021】
図3には、個々の露光領域221の位置を示す露光マップが、破線Aで示されている。図3にはさらに、該露光マップに基づく液浸露光の際に液浸領域201が少なくとも一度接触する領域が、点線Bで示されている。点線Bは、液浸領域接触領域と液浸領域非接触領域との境界線に相当する。図3の点線Bは、液浸補助ステージ212上に位置している事が解る。よって、図3の露光マップに基づく液浸露光によれば、基板表面の全体が液浸領域201に少なくとも一度接触することになる。即ち、基板101の全表面が液浸液で洗われることになる。
【0022】
本実施例の液浸露光処理は、以下のように実施される。まず、基板101の上方の所定位置に、液浸領域201が形成される。図1A又はBの場合には、レジスト膜121上の所定位置に液浸領域201が形成される。図1C又はDの場合には、カバー膜131上の所定位置に液浸領域201が形成される。次に、液浸領域201の液浸液を介して、レジスト膜121にエネルギー線が照射される。このように、本実施例の液浸露光処理では、レジスト膜121を液浸露光により露光して、レジスト膜121に潜像を形成する。
【0023】
なお、図1C又はDの場合、レジスト膜121上のカバー膜131は、上記の液浸露光後に除去される。図4Aには、図1Cの基板101からカバー膜131が除去された様子が示されている。図4Bには、図1Dの基板101からカバー膜131が除去された様子が示されている。図1C又はDの場合、レジスト膜121上のカバー膜131は、後述の現像前に除去される。
【0024】
図5X及びYはそれぞれ、液浸露光装置301の側面図及び上面図である。図5Xは、図5YのA−B断面図に相当する。図5X,Yには、基板101と、液浸領域201と、液浸液311と、液浸露光冶具321と、露光レンズ331とが示されている。液浸露光装置301には、液浸露光冶具321と、露光レンズ331と、図2の液浸露光ステージ211と、図2の液浸補助ステージ212とが設けられている。
【0025】
液浸露光冶具321は、液浸液311を保持して液浸領域201を形成するための冶具である。図5Xでは、液浸露光冶具321が、露光レンズ331を囲むように配置されている。液浸露光冶具321には、不図示の液浸液供給部と、Pで示す液浸液排出部(液浸液吸引排出部)が設けられている。図5Xでは、液浸液排出部が、液浸露光冶具321の下面に設けられている。液浸液311は、液浸液供給部から供給され、液浸液排出部から排出される。なお、基板101の表面における液浸液311の流れは、おおむね液浸領域201の中心から外周に向かうよう調整される。
【0026】
図5Xのように、液浸液311は、基板101の上面と液浸露光冶具321の下面との間に介在している。図5Xには、液厚Dが図示されている。液厚Dは、基板101と液浸露光冶具321との間に介在する液浸液311の液厚である。
【0027】
図6X及びYはそれぞれ、洗浄装置401の側面図及び上面図である。図6Xは、図6YのA−B断面図に相当する。図6X,Yには、基板101と、洗浄液411と、洗浄冶具421と、洗浄液供給部422と、洗浄液排出部(洗浄液吸引排出部)423と、洗浄制御部431とが示されている。洗浄装置401には、洗浄冶具421と、洗浄液供給部422と、洗浄液排出部423と、洗浄制御部431と、図7の洗浄ステージ511と、図7の洗浄補助ステージ512とが設けられている。洗浄装置401による洗浄処理は、液浸露光装置301による液浸露光処理の実施前に実施される。
【0028】
図6Xでは、洗浄冶具421が、基板101の上方に配置されている。洗浄冶具421は、基板101の表面を洗浄液411により洗浄するための冶具である。洗浄冶具421の下面には、洗浄液411を供給するための洗浄液供給部422と、洗浄液411を排出するための洗浄液排出部423とが設けられている。洗浄液供給部422と洗浄液排出部423はここでは、共に帯状の形状を有しており、互いに平行に配置されている。洗浄液411は、洗浄液供給部422から供給され、洗浄液排出部423から排出される。これによって、基板101と洗浄冶具421との間に洗浄液411が供給される。洗浄制御部431は、洗浄処理を制御するための制御部である。洗浄制御部431は、基板101と洗浄冶具421との間に洗浄液411が介在している状態で基板101と洗浄冶具421とを相対移動させることで、基板101の表面を洗浄することができる。
【0029】
図6Xのように、洗浄液411は、基板101の上面と洗浄冶具421の下面との間に介在している。図6Xには、液厚dが図示されている。液厚dは、基板101と洗浄冶具421との間に介在する洗浄液411の液厚である。
【0030】
図7は、洗浄中の基板101を示した上面図である。図7には、洗浄領域501が示されている。洗浄領域501は、洗浄の際に局所的に洗浄冶具で覆われる領域である。洗浄液はここでは、液浸液と同じ液体とする。即ち、洗浄液はここでは、純水、例えば、屈折率が約1.43の超純水とする。
【0031】
基板101の真下には洗浄ステージ511が存在しており、基板101は洗浄ステージ511上に保持されている。図7では、洗浄ステージ511は、基板101の裏に隠れている。また、基板101の外周部を洗浄するときには洗浄領域501が基板101の外にはみ出すため、基板101の周囲には洗浄補助ステージ512が配置されている。これにより、基板101の外で洗浄領域501が乱れないようになっている。
【0032】
図7の洗浄領域501は、基板101の外周部に位置している。よって、図7の洗浄領域501は、基板101の外にはみ出ている。しかし、基板101の周囲には洗浄補助ステージ512が配置されているため、洗浄液は洗浄領域501から流れ出ないようになっている。
【0033】
本実施例の洗浄処理では、洗浄制御部431による制御の下、基板101の表面を洗浄する。詳細には、洗浄の際に基板101の表面に作用する洗浄液の力が、液浸露光の際に基板101の表面に作用する液浸液の力よりも大きくなるような制御の下、基板101の表面を洗浄する。具体的には、洗浄の際に洗浄液と基板101との界面に作用するせん断応力が、液浸露光の際に液浸液と基板101との界面に作用するせん断応力よりも大きくなるような制御の下、基板101の表面を洗浄する。図1A又はBの場合、基板101の表面にはレジスト膜121が露出しているため、当該洗浄処理によってレジスト膜121の表面が洗浄される。図1C又はDの場合、基板101の表面にはカバー膜131が露出しているため、当該洗浄処理によってカバー膜131の表面が洗浄される。
【0034】
このように、本実施例の洗浄処理では、洗浄液の力(洗浄液のせん断応力)が、液浸液の力(液浸液のせん断応力)よりも大きくなるよう制御される。これにより、本実施例の液浸露光処理では、液浸液で洗われた物質によって露光装置301が汚染される可能性が低減される。理由は、洗浄の際に洗浄液が基板表面に与えるインパクトが、液浸露光の際に液浸液が基板表面に与えるインパクトよりも大きくなるからである。
【0035】
このような洗浄処理には、上記の洗浄装置401が適している。上記の洗浄装置401は、洗浄液の力を液浸液の力よりも大きくするような制御が比較的容易に実行可能だからである。以下、このような制御の具体例について説明する。露光装置301については、図5X及びYに基づいて説明する。洗浄装置401については、図6X及びYに基づいて説明する。
【0036】
本実施例の洗浄処理ではまず、次のような設定を行う。第1に、基板101と洗浄冶具421との間に介在する洗浄液の液厚が、基板101と液浸露光冶具321との間に介在する液浸液の液厚よりも薄くなるように、洗浄液の液厚を設定する。すなわち、図6Xの液厚dを図5Xの液厚Dよりも薄くする。第2に、洗浄液と基板101との相対速度が、液浸液と基板101との相対速度とほぼ同じになるように、洗浄冶具421の移動速度を設定する。
【0037】
ここで、液浸液と基板101との相対速度について考察する。ここではまず、液浸露光冶具321が基板101上で静止している場合を想定し、この場合に生じる液浸液の流れを考える。この場合、液浸液が液浸領域201の中心から外周に流れるとすると、液浸液の流れは、液浸領域201の中心から外周に向かうにつれて、径の増加分だけ徐々に遅くなる。よって、この場合、液浸領域201の中心における液浸液の流速が、液浸液の最大流速となり、液浸液と基板101との最大相対速度となる。この最大流速をvと表す事にする。液浸液の流速は、液浸液の供給速度Q[m/s]と、液浸液の流れに直交する流速断面積S[m]とを用いて、Q/S[m/s]と表される。最大流速vはおおむね、流速断面積Sが最も小さい部分の流速となる。次に、考察を一般化すべく、液浸露光冶具321が基板101上で動いている場合を想定する。ここで、液浸露光冶具321の最大移動速度はVであるとする。この場合、液浸液と基板101との最大相対速度は、v+Vとなる。
【0038】
そして、洗浄冶具421の移動速度は、液浸液と基板101との最大相対速度v+Vに基づいて設定される。洗浄冶具421の移動速度の設定方法については、図8に示されている。図8は、洗浄冶具421の移動速度について説明するための上面図である。以下、洗浄冶具421の移動速度をBと表す事にする。
【0039】
図8には、洗浄液の流れる方向と、洗浄液の流速aとが示されている。洗浄液の流速aは、洗浄液の供給速度q[m/s]と、洗浄液の流れに直交する流速断面積s[m]とを用いて、q/s[m/s]と表される。本実施例の洗浄処理では、洗浄冶具421の移動速度Bが次のように設定される。以下の移動速度Bは、洗浄液が洗浄冶具421で保持される場合の移動速度の例である。洗浄冶具421の移動方向と洗浄液の流れる方向とが同方向のときには、洗浄液と基板101との相対速度はB+aとなる。この場合には、この相対速度B+aを、液浸液と基板101との最大相対速度v+Vと同じにすべく、B=v+V−aと設定される。一方、洗浄冶具421の移動方向と洗浄液の流れる方向とが逆方向のときには、洗浄液と基板101との相対速度はB−aとなる。この場合には、この相対速度B−aを、液浸液と基板101との最大相対速度v+Vと同じにすべく、B=v+V+aと設定される。また、洗浄冶具421の移動方向と洗浄液の流れる方向とが直交方向のときには、洗浄液と基板101との相対速度はBとなる。この場合には、この相対速度Bを、液浸液と基板101との最大相対速度v+Vと同じにすべく、B=v+Vと設定される。これらの場合にはいずれも、洗浄液と基板101との相対速度は、v+Vとなる。即ち、洗浄液と基板101との相対速度は、液浸液と基板101との相対速度(詳細には、液浸液と基板101との最大相対速度)と同一速度となる。
【0040】
本実施例の洗浄処理では次に、以上のような設定の下、基板101の表面の洗浄を実施する。本実施例では、洗浄液の液厚dを液浸液の液厚Dよりも薄くしている。そのため、本実施例では、洗浄液の力が液浸液の力よりも強く、洗浄冶具421の移動により生じるメニスカス作用が、液浸露光冶具321の移動により生じるメニスカス作用よりも強いと考えられる。このことは例えば、基板101上にポリエチレン等の真球ビーズを散布しておき、洗浄冶具421が移動したときの真球ビーズの除去率と液浸露光冶具321が移動したときの真球ビーズの除去率とを比較することで、検証可能である。
【0041】
本実施例では、洗浄時のメニスカス作用が強い場合には、洗浄液の流速を低くする事が許容される。理由は、メニスカス作用が強い場合には、低い流速の洗浄液でも十分な洗浄効果が得られるからである。洗浄液の流速の値を決定する際には、メニスカス作用の強さを定量的に評価する事が有用である。メニスカス作用の強さは例えば、真球ビーズの除去率から定量的に評価可能である。この場合、洗浄液の流速の値は、メニスカス作用の強さに応じて決定可能である。なお、洗浄液の流速は、基板表面の状態に依存するので、基板表面の状態を考慮して最適化するのが好ましい。
【0042】
図9A及びBは、基板(ウェハ基板)101の側方断面図である。本実施例のパターン形成方法では、洗浄処理及び液浸露光処理の実施後に現像処理が実施される。本実施例の現像処理では、レジスト膜121を現像して、基板101上にレジスト膜パターン141を形成する。即ち、レジスト膜121をレジスト膜パターン141に加工する。
【0043】
図9Aには、図1A又はCの基板101の現像後の様子が示されている。図1Cの基板101は、カバー膜131の除去により、図4Aのような基板101となり、レジスト膜121の現像により、図9Aのような基板101となる。
【0044】
図9Bには、図1B又はDの基板101の現像後の様子が示されている。図1Dの基板101は、カバー膜131の除去により、図4Bのような基板101となり、レジスト膜121の現像により、図9Bのような基板101となる。
【0045】
本実施例のパターン形成方法は、半導体装置の製造方法に適用可能である。図9Aでは例えば、レジスト膜パターン141をマスクとして基板101をエッチング加工することにより、素子分離層の溝等を形成することができる(図10A)。図9Bでは例えば、レジスト膜パターン141をマスクとして被加工膜111をエッチング加工することにより、ゲート電極、コンタクトホール、ビアホール、配線用の溝等を形成することができる(図10B)。図9Bでは、レジスト膜パターン141をマスクとして被加工膜111及び基板101をエッチング加工しても構わない。
【0046】
以上のように、本実施例の洗浄処理では、洗浄の際に洗浄液と基板101との界面に作用するせん断応力が、液浸露光の際に液浸液と基板101との界面に作用するせん断応力よりも大きくなるような制御の下、基板101の表面を洗浄する。以下、このような制御について更に説明する。
【0047】
上述のように、洗浄液の流速aは、洗浄液の供給速度q[m/s]と、洗浄液の流れに直交する流速断面積s[m]とを用いて、q/s[m/s]と表される。同様に、液浸液の流速は、液浸液の供給速度Q[m/s]と、液浸液の流れに直交する流速断面積S[m]とを用いて、Q/S[m/s]と表される。流速Q/Sの最大値が、最大流速vである。液浸液の供給速度Qが一定であれば、液浸液の上流から下流において流速断面積Sが最小となる部分の流速Q/Sが、最大流速vとなる。
【0048】
本実施例の洗浄処理では例えば、洗浄の際に基板101と洗浄冶具421との間に介在する洗浄液の液厚が、液浸露光の際に基板101と液浸露光冶具321との間に介在する液浸液の液厚よりも小さくなるような制御の下、基板101の表面を洗浄してもよい。洗浄液の液厚を薄くすることで、洗浄液の洗浄効果が向上するからである。本実施例の洗浄処理では例えば、洗浄液と基板101との相対速度を液浸液と基板101との相対速度と同じにしつつ、洗浄液の液厚dを液浸液の液厚Dよりも薄くする。これにより、洗浄液の力が液浸液の力よりも大きくなる。これは、図8で説明した具体例と同様である。
【0049】
本実施例の洗浄処理では例えば、洗浄の際の洗浄液と基板101との相対速度が、液浸露光の際の液浸液と基板101との相対速度よりも大きくなるような制御の下、基板101の表面を洗浄してもよい。洗浄液と基板101との相対速度を速くすることで、洗浄液の洗浄効果が向上するからである。本実施例の洗浄処理では例えば、洗浄液の液厚dを液浸液の液厚Dと同じにしつつ、洗浄液と基板101との相対速度を液浸液と基板101との相対速度よりも速くする。これにより、洗浄液の力が液浸液の力よりも大きくなる。なお、図8では、B=v+V−a,B=v+V+a,B=v+Vをそれぞれ、B>v+V−a,B>v+V+a,B>v+Vと置き換えることで、洗浄液と基板101との相対速度が、v+Vよりも大きくなる。即ち、洗浄液と基板101との相対速度が、液浸液と基板101との相対速度(詳細には、液浸液と基板101との最大相対速度)よりも速い速度となる。
【0050】
本実施例の洗浄処理では例えば、洗浄液の液厚dを液浸液の液厚Dよりも薄くすると共に、洗浄液と基板101との相対速度を液浸液と基板101との相対速度よりも速くしてもよい。これにより、洗浄液の力を液浸液の力よりも大幅に大きくすることができる。
【0051】
本実施例の洗浄処理では逆に、洗浄液の液厚dを液浸液の液厚Dよりも厚くしても構わない。この場合、洗浄液の液厚を厚くすることで、洗浄液の速度低下が生じる。洗浄液の速度は、上述のように、洗浄液の供給速度qと、洗浄液の流れに直交する流速断面積sとを用いて、q/sと表されるからである。そこで、この場合には、液厚を厚くすることで生じる速度低下を十分補うよう、洗浄液の供給速度及び排出速度を増加させ、洗浄液と基板101との相対速度を液浸液と基板101との相対速度よりも速くする。即ち、液厚がd/D倍になるため、相対速度をd/D倍より大きくする。これにより、洗浄液の力を液浸液の力よりも大きくすることができる。
【0052】
洗浄液の液厚の変化により洗浄液の速度変化が生じることは、上述のいずれの洗浄処理でも問題となり得る。よって、洗浄液の速度を所望の速度にするよう、洗浄液の供給速度及び排出速度を適切に設定することが望まれる。加えて、洗浄冶具421の移動速度Bも適切に設定することが望まれる。このようにして、洗浄液の力を液浸液の力よりも大きくすることができる。
【0053】
なお、洗浄液と基板101との相対速度はここでは、洗浄液と基板101との界面における相対速度とする。理由は、本実施例では、洗浄液と基板101との界面に作用するせん断応力の大きさを問題とするからである。また、液浸液と基板101との相対速度はここでは、液浸液と基板101との界面における相対速度とする。理由は、本実施例では、液浸液と基板101との界面に作用するせん断応力の大きさを問題とするからである。また、液浸液と基板101との相対速度はここでは、液浸液と基板101との最大相対速度とする。この場合、洗浄液と基板101との相対速度を液浸液と基板101との最大相対速度よりも速くすることで、洗浄液と基板101との相対速度は常に液浸液と基板101との相対速度よりも速くなる。
【0054】
ここでは、洗浄液と液浸液は同じ液体であるが、本実施例において、洗浄液と液浸液は異なる液体でもよい。基板表面に付着している洗浄対象物質が有機物質である場合には、洗浄液は、酸化性を有する液体とする事が好ましい。こうした液体の例として、オゾン水や過酸化水素水が挙げられる。こうした液体により、レジスト膜121の表層に偏析している光酸発生剤や溶解抑止剤や、カバー膜131上のコンタミネーション等が、より強力な洗浄作用で除去される。また、コンタミネーションやパーティクルの持つ電荷を相殺する効果のある炭酸水を用いても、同様の強力な除去作用が得られる。
【0055】
レジスト膜121は、化学増幅型のレジスト膜でも、化学増幅型以外のレジスト膜でも構わない。ただし、本実施例の洗浄処理は特に、化学増幅型のレジスト膜の洗浄に有効である。理由は、化学増幅型のレジスト膜は、コンタミネーションが特に問題になりやすいレジスト膜であるからである。本実施例の洗浄方法によれば、化学増幅型のレジスト膜におけるコンタミネーションの問題が、効果的に抑制されることになる。
【0056】
本実施例では、洗浄作用の評価方法の例として、真球ビーズを用いた実験について取り上げた。しかし、洗浄作用の評価方法としては、洗浄作用を定量的に評価可能なその他の評価方法を採用しても構わない。このような評価方法により、上記液厚や上記相対速度を適切に設定することができる。
【0057】
洗浄液と基板101との相対流速を制御する手法としては、種々の方法が考えられる。例えば、平口を有し、液厚を制御可能なジェットノズルを用いてもよい。この場合には、基板101を回転させた状態で、洗浄液を所望の流速でジェットノズルから基板101の表面に供給し、当該ノズルを基板101の径方向に走査させてもよい。
【0058】
本実施例の洗浄処理は、上記の洗浄装置401以外の洗浄装置で実行しても構わない。本実施例の洗浄処理は例えば、通常の回転洗浄で実行してもよい。この場合には例えば、回転速度や洗浄液供給量の制御により、洗浄液の液厚dや、洗浄液と基板101との相対速度を制御可能である。ただし、この場合、液厚dは、基板101と洗浄冶具421との間に介在する洗浄液の液厚ではなく、より一般的に、基板101上に形成される洗浄液の層の液厚となる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1A】基板の側方断面図である(洗浄前)。
【図1B】基板の側方断面図である(洗浄前)。
【図1C】基板の側方断面図である(洗浄前)。
【図1D】基板の側方断面図である(洗浄前)。
【図2】液浸露光中の基板を示した上面図である。
【図3】露光マップを示した上面図である。
【図4A】基板の側方断面図である(液浸露光後)。
【図4B】基板の側方断面図である(液浸露光後)。
【図5X】液浸露光装置の側面図である。
【図5Y】液浸露光装置の上面図である。
【図6X】洗浄装置の側面図である。
【図6Y】洗浄装置の上面図である。
【図7】洗浄中の基板を示した上面図である。
【図8】洗浄冶具の移動速度について説明するための上面図である。
【図9A】基板の側方断面図である(現像後)。
【図9B】基板の側方断面図である(現像後)。
【図10A】基板の側方断面図である(エッチング加工後)。
【図10B】基板の側方断面図である(エッチング加工後)。
【符号の説明】
【0060】
101 基板
111 被加工膜
121 レジスト膜
131 カバー膜
141 レジスト膜パターン
201 液浸領域
211 液浸露光ステージ
212 液浸補助ステージ
221 露光領域
301 液浸露光装置
311 液浸液
321 液浸露光冶具
331 露光レンズ
401 洗浄装置
411 洗浄液
421 洗浄冶具
422 洗浄液供給部
423 洗浄液排出部
431 洗浄制御部
501 洗浄領域
511 洗浄ステージ
512 洗浄補助ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にレジスト膜を形成し、
洗浄の際に洗浄液と前記基板との界面に作用するせん断応力が、液浸露光の際に液浸液と前記基板との界面に作用するせん断応力よりも大きくなるような制御の下、前記基板の表面を洗浄し、
前記レジスト膜を前記液浸露光により露光して、前記レジスト膜に潜像を形成し、
前記レジスト膜を現像して、前記基板上にレジスト膜パターンを形成することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
前記制御は、
前記洗浄の際に前記基板上に形成される前記洗浄液の層の液厚が、
前記液浸露光の際に前記基板と液浸露光冶具との間に介在する前記液浸液の液厚よりも小さくなるような制御であることを特徴とする請求項1に記載のパターン形成方法。
【請求項3】
前記制御は、
前記洗浄の際の前記洗浄液と前記基板との相対速度が、
前記液浸露光の際の前記液浸液と前記基板との相対速度よりも大きくなるような制御であることを特徴とする請求項1又は2に記載のパターン形成方法。
【請求項4】
前記洗浄前に、前記レジスト膜上に塗布膜を形成し、
前記液浸露光後に、前記レジスト膜上の前記塗布膜を除去することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のパターン形成方法。
【請求項5】
基板の表面を洗浄液により洗浄するための洗浄冶具と、
前記洗浄冶具に設けられた、前記洗浄液を供給するための洗浄液供給部と、
前記洗浄冶具に設けられた、前記洗浄液を排出するための洗浄液排出部と、
前記基板と前記洗浄冶具との間に前記洗浄液が介在している状態で前記基板と前記洗浄冶具とを相対移動させることで、前記基板の表面を洗浄する洗浄制御部とを備えることを特徴とする洗浄装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5X】
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【図5Y】
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【図6X】
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【図6Y】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【公開番号】特開2009−33042(P2009−33042A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197795(P2007−197795)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】