説明

フェノール性樹脂、エポキシ樹脂、それらの製造方法、エポキシ樹脂組成物及び硬化物

【課題】高熱分解安定性、高耐熱性、低熱膨張性、難燃性、低吸湿性等に優れた硬化物を与えるフェノール性樹脂、エポキシ樹脂、その製造方法、このエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物並びにその硬化物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂、並びにこのフェノール性樹脂とエピクロルヒドリンを反応させて得られるエポキシ樹脂、このエポキシ樹脂及び硬化剤を必須成分とするエポキシ樹脂組成物及びこれを硬化させて得られた硬化物である。式中、Aはナフチレン基を示し、mは1から15の数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱分解安定性、高耐熱性、低熱膨張性、難燃性、低吸湿性等に優れた硬化物を与えるエポキシ樹脂、その製造方法、このエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物並びにその硬化物に関するものであり、半導体封止、プリント配線板、放熱基板等の電気電子分野の絶縁材料等に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器においては、半導体パッケージの高密度実装化、LSIの高集積化及び高速化等が図られており、より寸法安定性の高い材料が求められている。さらには、パッケージの片面実装化の進展により、パッケージの反り低減も重要な課題となってきており、より低熱膨張性のベース樹脂の開発が求められている。また、上記動向に対応して、素子から発生する熱の放熱対策が非常に重要な課題になっている。さらに最近では、車載用電子部品においては、長時間、高温環境下にさらされることから、従来のガラス転移点に代表される物理的耐熱性に加えて、熱分解安定性に代表される化学的耐熱性の向上が強く求められている。
【0003】
しかしながら、従来より知られているエポキシ樹脂には、これらの要求を満足するものは未だ知られていない。例えば、周知のビスフェノール型エポキシ樹脂は、常温で液状であり、作業性に優れていることや、硬化剤、添加剤等との混合が容易であることから広く使用されているが、耐熱性、耐湿性の点で問題がある。また、耐熱性を改良したものとして、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が知られているが、耐湿性や耐衝撃性に問題がある。また、特許文献1には耐湿性、耐衝撃性の向上を目的に、フェノールアラルキル樹脂のエポキシ化合物が提案されているが耐熱性や難燃性の点で十分でない。
【0004】
特許文献2には、芳香族構造の含有率を高めたビフェニルおよびナフタレン構造を有するエポキシ樹脂が難燃性に優れたものとして提案されているが、依然、熱分解安定性、低熱膨張性の点で十分ではない。また、特許文献3には、ナフトールをナフチレン基で連結した構造を持つナフトールアラルキル型エポキシ樹脂が提案されているが、全ての芳香族構造がナフタレン環であるために、粘度、軟化点が高くなり、取扱い性および成形性を低下させる問題があった。また、依然として、熱分解安定性、低熱膨張性の点で十分ではない。
【0005】
熱分解安定性に優れたものとしては、例えば、非特許文献1にはエーテルエーテルケトン基を持つエポキシ樹脂が示されているが、強い結晶性を有することから、融点が185℃と高融点であるため、エポキシ樹脂組成物の調整が困難であるとともに成形性にも問題があった。例えば、当該エポキシ樹脂単独での使用が困難であるため、その他のエポキシ樹脂と併用して使用する例が示されているが、当該エポキシ樹脂の使用割合は15mol%に留まっている。なお、両者のエポキシ当量はほぼ同じなので重量割合としても15wt%となる。また、この場合の硬化剤としては酸無水物に限定されている。また、非特許文献2にも同構造のエポキシ樹脂の合成例が示されているが、得られたエポキシ樹脂の融点は175℃と高融点であるとともに、溶剤に溶解させてワニスとして使用するためには、極性の高いDMF、NMP、m−クレゾール等を必要とし、実用性の観点からの制約が大きい。また、エポキシ樹脂組成物としては、相溶性の観点から硬化剤にも選定に制約があった。硬化剤としてはジアミン化合物を用いて得られたエポキシ硬化物の物性が開示されているが、アミン系硬化剤は、ポットライフおよび電気絶縁性等の観点から、電子材料用途に適用するには問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−238122号公報
【特許文献2】特開平2000−273281号公報
【特許文献3】特開2004−59792号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.H.Hwang,et.al.,Polym.Adv.Technol.,12,441(2001)
【非特許文献2】K.S.Lee,et.al.,Bull.Korean Chem.Soc.,22,424(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、成形性、溶剤溶解性に優れるとともに、高熱分解安定性、高耐熱性、低熱膨張性、難燃性、低吸湿性、及び高熱伝導性等に優れた硬化物を与えるエポキシ樹脂及びその製造法並びにこれを用いたエポキシ樹脂組成物、更にはその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂である。また、本発明は、下記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂である。さらに本発明は、下記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂とエピクロルヒドリンを反応させて得られるエポキシ樹脂である。
【化1】

(但し、Aはナフチレン基を表し、mは1から15の数を示す)
【化2】

(但し、Aはナフチレン基を表し、mは1から15の数を示し、nは0から15の数を示す)
【0010】
また、本発明は上記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂とエピクロルヒドリンを反応させることを特徴とするエポキシ樹脂の製造方法である。ここで、上記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂はジヒドロキシナフタレン類と一般式(3)で表される縮合剤を反応させて得る方法が適する。
【化3】

(但し、Xはハロゲン原子を示す)
【0011】
さらに本発明は、エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂成分として上記一般式(2)のエポキシ樹脂を配合したことを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。またさらに本発明は、エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤成分として上記一般式(1)のフェノール性樹脂を配合したことを特徴とするエポキシ樹脂組成物である。これらのエポキシ樹脂組成物には無機充填材を配合することができる。また、本発明はこのエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエポキシ樹脂は、大きな化学結合エネルギーを持つとともに、分子間力の大きな芳香族エーテルエーテルケトンユニットを主鎖構造中に導入するとともに、縮合多環芳香族構造を有するナフタレン骨格を導入することで、熱分解安定性、耐熱性及び低熱膨張性に優れるとともに、高い芳香族性に由来して、難燃性、低吸湿性に優れた硬化物を与える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のフェノール性樹脂のGPCチャート
【図2】実施例1のフェノール性樹脂の赤外吸収スペクトル
【図3】実施例2のエポキシ樹脂のGPCチャート
【図4】実施例2のエポキシ樹脂の赤外吸収スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明のフェノール性樹脂について説明する。一般式(1)において、Aはナフチレン基を表し、たとえば、1,2−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基、1,4−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基、1,6−ナフチレン基、1,7−ナフチレン基、1,8−ナフチレン基、2,3−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基を挙げることができるが、好ましくは、1,4−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基、1,6−ナフチレン基、1,7−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、又は2,7−ナフチレン基である。その中でも、硬化物物性の観点からは、対称性に優れる1,4−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基が好ましく、溶融混合性、溶剤溶解性等の観点からは、1,6−ナフチレン基、又は1,7−ナフチレン基が好ましい。
【0016】
一般式(1)において、mは1から15の数を示すが、この数は平均値(数平均)である。好ましくは1から10、より好ましくは1から5、更に好ましくは1から2の範囲である。また、本発明のフェノール性樹脂は、mが1種の整数のみからなることができ、この場合、mは1から15の整数、好ましくは1又は2の整数である。
【0017】
また一般式(1)において、mが0であるものは、ジヒドロキシナフタレン類であって、本発明でいう一般式(1)で表わされるフェノール性樹脂には該当しないが、粘度を低下させるための成分(希釈剤)として、存在させることができる。仮にmが0であるものを、本発明でいう一般式(1)で表わされるフェノール性樹脂の一つとして計算する場合は、mの数平均値として0.1〜5、好ましくは0.2〜2となるようにmが0であるフェノール性化合物を存在させることがよい。この場合、mが1のものが30wt%以上含まれるものであることがよい。mが0であるものを存在させた場合、本発明のフェノール性樹脂は、これを存在させたフェノール性樹脂混合物となる。
【0018】
本発明のフェノール性樹脂は、エポキシ樹脂製造用の原料、または硬化剤として使用される。そして、好ましいmの値は、適用する用途に応じて異なる。例えば、フィラーの高充填率化が要求される半導体封止材の用途には、低粘度であるものが望ましく、mの値は、1〜5、好ましくは1〜2、更に好ましくは、mが1のものが50wt%以上含まれるものであることがよい。本発明のエポキシ樹脂をmが0であるフェノール性化合物を存在させたフェノール性樹脂混合物として使用する場合は、mの数平均値として0.1〜5、好ましくは0.2〜2、更に好ましくは、mが1のものが30wt%以上含まれるものであることがよい。
【0019】
本発明のフェノール性樹脂は、公知の方法で得ることができる。有利には、ジヒドロキシナフタレン類と一般式(3)で表される縮合剤を反応させる方法がある。ジヒドロキシナフタレン類と縮合剤のモル比は、ジヒドロキシナフタレン類1モルに対して、縮合剤0.1〜0.9モルであることが好ましい。一般式(3)でXはハロゲン原子であるが、好ましくは弗素原子または臭素原子であり、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジブロモベンゾフェノンを例示することができる。また、ジヒドロキシナフタレン類としては、ナフタレン骨格に水酸基が2個有するものであればよく、単一化合物であっても2種類以上の異性体の混合物であってもよい。単一化合物としては、例えば1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレンを挙げることができる。
【0020】
縮合剤に対しジヒドロキシナフタレン類を2倍モル使用すれば、一般式(1)においてmが1以上のフェノール性樹脂を主とするフェノール性樹脂を得ることができる。ジヒドロキシナフタレン類を2倍モルを超えて使用すれば、mが0であるジヒドロキシナフタレン類を含むフェノール性樹脂を得ることができる。両末端を確実にフェノール性基とするためには、ジヒドロキシナフタレン類を2倍モルより多く、好ましくは3〜10倍モル使用することがよい。反応後、系内に残存するジヒドロキシナフタレン類は除かれることなくジヒドロキシナフタレン類を含んだフェノール性樹脂として、そのままエポキシ化反応用の原料、あるいは硬化剤として使用しても良いし、除去しても良い。除去の方法としては、減圧蒸留、または水洗等の方法が適用できる。なお、一般式(1)のフェノール性樹脂を合成するに際して、フェノール化合物としてジヒドロキシナフタレン類以外に、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の二官能性のフェノール化合物を混合使用してもよい。この場合、フェノール性化合物中、ジヒドロキシナフタレン類の含有率は50wt%以上であり、好ましくは80wt%以上である。
【0021】
mが2以上のフェノール性樹脂を選択的に得る場合は、ジヒドロキシナフタレン類と縮合剤のモル比を1:1に近づけることがよく、1:1に近いほどmが大きいフェノール性樹脂を得ることができる。そして、mが1〜15の整数のフェノール性樹脂を得る場合は、mが異なる成分の混合物からなるフェノール性樹脂を得た後、これを蒸留やクロマト分離することが有利である。なお、mが0であるフェノール性化合物は、ジヒドロキシナフタレン類であり、これは上記したように一般式(1)又は(2)において、nが0であるフェノール性樹脂又はエポキシ樹脂を与えるので、低粘度性の観点からは一部を残すことがよい。
【0022】
次に、本発明のエポキシ樹脂について説明する。
【0023】
一般式(2)におけるA、mは、一般式(1)のフェノール性樹脂におけるAおよびmと同じ意味である。
【0024】
一般式(2)において、nは0から15の数を表し、好ましいnの値は、適用する用途に応じて異なる。この数は平均値(数平均)である。例えば、フィラーの高充填率化が要求される半導体封止材の用途には、低粘度であるものが望ましく、nの値は、0〜5、好ましくは0〜2、更に好ましくは、nが0のものが30wt%以上含まれるものである。また、本発明のエポキシ樹脂は、nが1種の整数のみからなることができ、この場合、nは0から15の整数であるが、好ましくは0又は1の整数である。
【0025】
また一般式(2)において、mが0であるものは、ジヒドロキシナフタレン類のエポキシ樹脂であって、本発明でいう一般式(1)で表わされるエポキシ樹脂には該当しないが、粘度を低下させるための樹脂(希釈剤)として、存在させることができる。仮にmが0であるものを、一般式(1)で表わされるエポキシ樹脂の一つとして計算する場合は、mの数平均値として0.1〜5、好ましくは0.2〜2となる範囲となるようにmが0であるものを存在させることがよい。この場合、mが1のものが30wt%以上含まれるものであることがよい。mが0であるものを存在させた場合、本発明のエポキシ樹脂は、これを存在させたエポキシ樹脂混合物となる。
【0026】
mとnの和は、適用する用途に応じて異なる。例えば、フィラーの高充填率化が要求される半導体封止材の用途には、低粘度であるものが望ましく、mとnの和は1〜15の範囲が好ましい。有利にはm+nは1〜5、好ましくは1〜2、更に好ましくは、その和が1であるのものが50wt%以上含まれるものであることがよい。そして、mが1であり、nが0の各整数であるエポキシ樹脂は、低い粘度を与える。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂は、例えば、上記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂とエピクロルヒドリンを反応させることにより製造される。一般式(1)で表されるフェノール性樹脂とエピクロルヒドリンを反応させることにより製造されるエポキシ樹脂は、一般式(2)で表されるエポキシ樹脂を主成分とする。一般式(1)で表されるフェノール性樹脂は、異性体の混合物であってもよい。
【0028】
一般式(1)で表されるフェノール性樹脂とエピクロルヒドリンを反応させて、本発明のエポキシ樹脂を製造する場合、フェノール性樹脂とエピクロルヒドリンとの反応には、フェノール性樹脂中の水酸基に対して0.80〜1.20倍当量、好ましくは0.85〜1.05倍当量の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が用いられる。これより少ないと残存加水分解性塩素の量が多くなり好ましくない。金属水酸化物としては、水溶液又は固体の状態で使用される。
【0029】
反応に際しては、フェノール性樹脂中の水酸基に対して過剰量のエピクロルヒドリンが使用される。通常、フェノール性樹脂中の水酸基1モルに対して、1.5〜15倍モルのエピクロルヒドリンが使用されるが、好ましくは2〜8倍モルの範囲である。これより多いと生産効率が低下し、これより少ないとエポキシ樹脂の高分子量体の生成量が増え、粘度が高くなる。
【0030】
反応は、通常、120℃以下の温度で行われる。反応の際、温度が高いと、いわゆる難加水分解性塩素量が多くなり高純度化が困難になる。好ましくは100℃以下であり、更に好ましくは85℃以下の温度である。
【0031】
反応の際、四級アンモニウム塩あるいはジメチルスルホキシド、ジグライム等の極性溶媒を用いてもよい。四級アンモニウム塩としては、例えばテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド等があり、その添加量としては、フェノール性樹脂に対して、0.1〜2.0wt%の範囲が好ましい。これより少ないと四級アンモニウム塩添加の効果が小さく、これより多いと難加水分解性塩素の生成量が多くなり、高純度化が困難になる。また、極性溶媒の添加量としては、フェノール性樹脂に対して、10〜200wt%の範囲が好ましい。これより少ないと添加の効果が小さく、これより多いと容積効率が低下し、反応性、収率等が低下するため好ましくない。
【0032】
反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンや溶媒を留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、濾過し、水洗して無機塩や残存溶媒を除去し、次いで溶剤を留去することによりエポキシ樹脂とすることができる。
【0033】
有利には、得られたエポキシ樹脂を更に、残存する加水分解性塩素に対して、1〜30倍量の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を加え、再閉環反応が行われる。この際の反応温度は、通常、100℃以下であり、好ましくは90℃以下である。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂、一般式(1)で表されるフェノール性樹脂とエピクロルヒドリンを反応させることにより製造されたエポキシ樹脂(以下、これらをまとめて本発明のエポキシ樹脂という)、または硬化剤成分として上記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂の少なくともいずれか一方を必須成分として配合したものである。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂を必須成分とする本発明のエポキシ樹脂組成物に配合する硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものはすべて使用できる。例えば、ジシアンジアミド、多価フェノール類、酸無水物類、芳香族及び脂肪族アミン類等がある。
【0036】
具体的に例示すれば、多価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF(異性体混合物)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フルオレンビスフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、1,5−ナフタレンジオール、1,6−ナフタレンジオール、2,6−ナフタレンジオール、2,7−ナフタレンジオール等の2価のフェノール類、あるいは、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン混合物、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ポリビニルフェノール等に代表される3価以上のフェノール類がある。更には、フェノール、o−クレゾール等のフェノール類、ナフトール類等の1価のフェノール類や、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール等の2価のフェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、1,4−ジヒドロキシメチルベンゼン、1,4−ジメトキシメチルベンゼン、1,4−ビスクロロメチルベンゼン、4,4’−ジヒドロキシメチルビフェニル、4,4’−ジメトキシメチルビフェニル、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル、1,5−ビスクロロメチルナフタレン、1,4−ビスクロロメチルナフタレン等の縮合剤により合成される多価フェノール性化合物等がある。また、上記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂を硬化剤の一部、または全部として用いても良い。
【0037】
酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチル無水ハイミック酸、無水ナジック酸、無水トリメリット酸等がある。
【0038】
また、アミン類としては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン等の芳香族アミン類、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族アミン類がある。
【0039】
上記硬化剤の中では、電気絶縁性、低吸湿性、高熱伝導性、低熱膨張性等の観点から、フェノール性化合物を用いることが好ましい。特に、硬化物の熱分解安定性、低熱膨張性、低吸湿性の観点からは、フェノール類を1,4−ジヒドロキシメチルベンゼン、4,4’−ジメトキシメチルビフェニル等で縮合して得られるアラルキル型フェノール樹脂、または上記一般式(2)で表されるフェノール性樹脂を用いることが望ましい。また、耐熱性、高熱伝導性の観点からは、フェノールノボラック、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン類、1,1,2,2−テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン類等の多価フェノール性化合物が望ましい。
【0040】
本発明の樹脂組成物には、上記の硬化剤の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物中には、エポキシ樹脂成分として、本発明のエポキシ樹脂以外に別種のエポキシ樹脂を配合してもよい。この場合のエポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂はすべて使用できる。例を挙げれば、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、ビスフェノールA、ビスフェノールF(異性体混合物)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、フルオレンビスフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、1,5−ナフタレンジオール、1,6−ナフタレンジオール、2,6−ナフタレンジオール、2,7−ナフタレンジオール等の2価のフェノール類、あるいは、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラック、o‐クレゾールノボラック、m‐クレゾールノボラック、p‐クレゾールノボラック、キシレノールノボラック、ポリ‐p‐ヒドロキシスチレン、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン混合物、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フルオログリシノール、ピロガロール、t‐ブチルピロガロール、アリル化ピロガロール、ポリアリル化ピロガロール、1,2,4―ベンゼントリオール、2,3,4―トリヒドロキシベンゾフェノン、フェノールアラルキル樹脂、4,4’−ビフェニレン基を持つアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂等の3価以上のフェノール類、又は、テトラブロモビスフェノールA等のハロゲン化ビスフェノール類から誘導されるグルシジルエーテル化物等がある。これらのエポキシ樹脂は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。そして、本発明のエポキシ樹脂を必須成分とする組成物の場合、本発明のエポキシ樹脂の配合量はエポキシ樹脂全体中、30〜100wt%、好ましくは60〜100wt%の範囲であることがよい。これより少ないと硬化物とした際の高熱分解安定性、高耐熱性、低熱膨張性、難燃性、低吸湿性、及び高熱伝導性等の向上効果が小さい。
【0042】
一般式(1)で表されるフェノール性樹脂を硬化剤成分の必須成分とする場合のエポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂はすべて使用できる。例えば、本発明のエポキシ樹脂を必須とするエポキシ樹脂組成物の説明で例示したエポキシ樹脂を挙げることができる。また、本発明のエポキシ樹脂を用いることもできる。
【0043】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物中には、硬化剤成分として、本発明のフェノール性樹脂以外に別種の硬化剤を配合してもよい。別種の硬化剤としては、本発明のエポキシ樹脂を必須とするエポキシ樹脂組成物の説明で例示したものが全て使用できるが、中でもフェノール性の硬化剤を使用することが好ましい。そして、本発明のフェノール性樹脂を必須成分とする組成物の場合、本発明のフェノール性樹脂の配合量は硬化剤全体中、30〜100wt%、好ましくは60〜100wt%の範囲であることがよい。これより少ないと硬化物とした際の高熱分解安定性、高耐熱性、低熱膨張性、難燃性、低吸湿性、及び高熱伝導性等の向上効果が小さい。
【0044】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、無機充填材を適量配合することができる。無機充填材としては、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭素材料等が挙げられる。金属としては、銀、銅、金、白金、ジルコン等、金属酸化物としてはシリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、三酸化タングステン等、金属窒化物としては窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等、金属炭化物としては炭化ケイ素等、金属水酸化物としては水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等、炭素材料としては炭素繊維、黒鉛化炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、球状黒鉛粒子、メソカーボンマイクロビーズ、ウィスカー状カーボン、マイクロコイル状カーボン、ナノコイル状カーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が挙げられる。無機充填材の形状としては、破砕状、球状、ウィスカー状、繊維状のものが適用できるが、高充填率化を図るためには球状のものが好ましい。エポキシ樹脂硬化物の絶縁性と高熱伝導性を確保するためには、無機充填材としては金属酸化物が好ましく、特にはアルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウムが好ましい。これらの無機充填材は単独で配合してもよく、二種以上を組み合わせて配合してもよい。また、無機充填材とエポキシ樹脂との濡れ性の改善、無機充填材の界面の補強、分散性の改善等の目的で無機充填材に通常のカップリング剤処理を施してもよい。
【0045】
無機充填材の配合量としては50wt%以上が好ましく、更に好ましくは70wt%以上である。これより少ないと熱伝導率の向上効果が小さい。また、無機充填材の使用量は、低吸湿性、高半田耐熱性の観点からは、通常、75wt%以上であるが、特には80wt%以上であることが好ましい。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、従来より公知の硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等があり、具体的には、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−へプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートなどのテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などがある。添加量としては、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.2〜10重量部の範囲である。
【0047】
更に、本発明のエポキシ樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデンクマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を適宜配合してもよいし、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤、等の添加剤を配合してもよい。顔料としては、有機系又は無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができる。また更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、臭素化エポキシ等のハロゲン系難燃剤、赤リン、リン酸エステル、リン原子含有エポキシ樹脂等のリン系難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、カルナバワックス、エステル系ワックス等の離型剤、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、シリコンオイル等の低応力化剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤、エポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、アルキルシラン、有機チタネート、アルミニウムアルコレート等の添加剤を使用できる。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、一般的には、上記エポキシ樹脂、硬化剤成分等の配合成分を所定の配合量で、ミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押し出し機などによって混練し、冷却、粉砕することによって得ることができる。
【0049】
あるいは、上記配合成分をベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール等のアルコール溶剤、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の極性溶剤に溶解させてワニス状のエポキシ樹脂組成物とすることができる。ワニス状のエポキシ樹脂組成物は、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の繊維状充填材に含浸後、乾燥により有機溶剤を除いて、プリプレグ状のエポキシ組成物とすることもできる。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて硬化物を得るためには、例えば、トランスファー成形、プレス成形、注型成形、射出成形、押出成形等の方法が適用される。また、プリプレグ状のエポキシ樹脂組成物を硬化させるための手法としては真空プレス等の方法が取られる。この際の温度は通常、120〜220℃の範囲である。
【0051】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、上記成形方法により加熱硬化させることにより得ることができるが、通常、成形温度としては80℃から250℃であり、成形時間は1分から20時間である。エポキシ樹脂硬化物の結晶化度を上げるためには、低い温度で長時間かけて硬化させることが望ましい。好ましい硬化温度は100℃から180℃の範囲であり、より好ましくは120℃から160℃である。また、好ましい硬化時間は10分から6時間であり、より好ましくは30分から3時間である。更に成形後、ポストキュアにより、更に結晶化度を上げることができる。通常、ポストキュア温度は130℃から250℃であり、時間は1時間から20時間の範囲であるが、好ましくは、示差熱分析における吸熱ピーク温度よりも5℃から40℃低い温度で、1時間から24時間かけてポストキュアを行うことが望ましい。
【0052】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、別種の基材と積層させることができる。積層させる基材としては、シート状、フィルム状のものであり、銅箔、アルミニウム箔、ステンレス箔等の金属基材、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等の高分子基材が例示される。
【実施例】
【0053】
以下実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、例中の分子量及び物性等の測定は以下に示す方法により試料調製及び測定を行った。
【0054】
1)フェノール性樹脂、エポキシ樹脂の分子量分布
GPC測定装置(日本ウォーターズ製、515A型GPC)を用い、カラムにTSKgel G2000HXL(東ソー製)3本、TSKgel G4000HXL(東ソー製)1本を使用し、検出器をRIとし、溶媒にテトラヒドロフラン、流量1.0ml/min、カラム温度38℃として測定した。
【0055】
2)溶融粘度
BROOKFIELD製、CAP2000H型回転粘度計を用いて、150℃にて測定した。
【0056】
3)水酸基当量の測定
電位差滴定装置を用い、1,4−ジオキサンを溶媒に用い、1.5mol/L塩化アセチルでアセチル化を行い、過剰の塩化アセチルを水で分解して0.5mol/L−水酸化カリウムを使用して滴定した。
【0057】
4)エポキシ当量の測定
電位差滴定装置を用い、溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、電位差滴定装置にて0.1mol/L過塩素酸−酢酸溶液を用いて測定した。
【0058】
5)加水分解性塩素
試料0.5gをジオキサン30mlに溶解後、1N-KOH、10mlを加え30分間煮沸還流した後、室温まで冷却し、更に80%アセトン水100mlを加えたものを、0.002N-AgNO3水溶液で電位差滴定を行うことにより測定した。
【0059】
6)組成物の状態
調整したエポキシ樹脂組成物を目視にて観察し、混合の均一性を評価した。○;均一性良好、△;わずかに未溶解部分が残存、×;エポキシ樹脂の未溶解部分が多く残存し、均一性悪い。
【0060】
7)熱重量測定
セイコー電子工業製TG/DTA6200型,示差熱熱重量測定装置を用いて,窒素気流下,昇温速度10℃/分で行った。5wt%重量減少時の温度(T-5%)、10wt%重量減少時の温度(T-10%)、および700℃での残炭率を求めた。
【0061】
8)線膨張係数、ガラス転移点(Tg)
セイコーインスツル製TMA120C型熱機械測定装置により、昇温速度10℃/分の条件で求めた。
【0062】
9)吸水率
85℃、相対湿度85%の条件で100時間吸湿させた後の重量変化率とした。
【0063】
10)曲げ強度
JIS−K−6911に従い測定した。
【0064】
実施例1
2Lセパラブルフラスコに4,4'−ジフルオロベンゾフェノン60 g(0.28 mol)、1,6−ジヒドロキシナフタレン176.2 g(1.10 mol)、無水炭酸カリウム152 g 、N−メチルピロリドン(NMP)1000 g 、トルエン150gを仕込み窒素気流下において室温で一時間攪拌した。その後、140℃に昇温し水を留去しながら、4時間攪拌した。その後さらに160℃に昇温し、減圧下、NMPを留去しながら4時間攪拌した。その後、室温に戻し1000gのMIBKを加え溶解させ、30%硫酸水溶液で中和した後、水洗を繰り返した。その後、MIBK層からMIBKを減圧下除去し、樹脂状固体196g(フェノール樹脂A)を得た。軟化点は44℃、150℃の溶融粘度は85mPa・s、OH当量は212g/eq.であった。GPCチャートを図1に示す。GPC測定から、生成物の成分比は、未反応の1,6−ナフタレンジオールが35.1%、一般式(1)のm=1が30.0%、m=2が17.7%、m=3が8.5%、m=4が3.9%、m≧5が2.4%、その他2.3%であった。赤外吸収スペクトルを図2に示す。
【0065】
実施例2
実施例1で得たフェノール樹脂A、40.0g、エピクロルヒドリン174.5g、ジエチレングリコールジメチルエーテル26.2gを仕込み、減圧下(約130Torr)、65℃にて48.8%水酸化ナトリウム水溶液15.8gを3時間かけて滴下した。この間、生成する水はエピクロルヒドリンとの共沸により系外に除き、留出したエピクロルヒドリンは系内に戻した。滴下終了後、さらに1時間反応を継続し脱水した。その後、エピクロルヒドリンを減圧下除去し、これにMIBK200gを加えて溶解させ、ろ過により生成塩を除去し、さらに水洗を行った後、MIBK溶液を回収した。これに、48.8%水酸化カリウム水溶液2.4gを加えて、80℃にて2時間反応させた。その後、水洗を繰り返した後、MIBK層よりMIBKを減圧下除去し、樹脂状固体(エポキシ樹脂A)31.5gを得た。軟化点は55℃、150℃の溶融粘度は79mPa・s、エポキシ当量は236g/eq.であった。GPCチャートを図1に示す。得られたエポキシ樹脂は、MIBK、トルエンに易溶性であり、50wt%以上の樹脂溶液の調整が可能であった。
【0066】
比較例1
2Lセパラブルフラスコに4,4'−ジフルオロベンゾフェノン87.3g(0.4 mol)、ヒドロキノン176.2 g(1.6 mol)、86.0%炭酸カリウム98.7g 、N−メチルピロリドン(NMP) 941 g 、トルエン145gを仕込み窒素気流下において室温で一時間攪拌した。その後、140℃に昇温し水を留去しながら、4時間攪拌した。その後さらに205℃に昇温し、NMPを留去しながら4時間攪拌した。冷却後、大量の水(5L)に少しずつ反応物を滴下し、生成物をガラスフィルターでろ過した。さらに1500mlの水で水洗し、生成物を回収した。その後、30%硫酸水溶液で中和した後、乾燥して固体 150.8gを得た。キャピラリー法に基づく融点のピークは208.3℃から215.4℃であった。OH当量は214.0g/eqであった。
【0067】
比較例2
比較例1で得たフェノール性化合物40.0g、エピクロルヒドリン864.5g、ジエチレングリコールジメチルエーテル120gを仕込み、減圧下(約130Torr)、65℃にて48.8%水酸化ナトリウム水溶液18.0gを3時間かけて滴下した。この間、生成する水はエピクロルヒドリンとの共沸により系外に除き、留出したエピクロルヒドリンは系内に戻した。滴下終了後、さらに1時間反応を継続し脱水した。その後、エピクロルヒドリンを濃縮し、これを2LのMeOHに滴下して生じた生成物をろ過、エタノール洗浄、乾燥して、白色粉末状のエポキシ樹脂(エポキシ樹脂B)、29.5gを得た。GPC測定から、n=1が97.9%、n=2体が2.1%であった。エポキシ当量は262g/eq.、キャピラリー法により昇温速度2℃/分で得られる融点は192.7℃から194.6℃であった。得られたエポキシ樹脂は、MIBK、トルエンに難溶性であり10wt%以上の樹脂溶液の調整ができなかった。
【0068】
実施例3〜5及び比較例3〜6
エポキシ樹脂成分として、実施例2で合成したエポキシ樹脂(エポキシ樹脂A)、比較例2で合成したエポキシ樹脂(エポキシ樹脂B)、2−ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂(エポキシ樹脂C;新日鐵化学製、ESN−185、エポキシ当量 280、軟化点84℃)を用い、硬化剤成分として、実施例1で合成したフェノール樹脂(フェノール樹脂A)、フェノールアラルキル樹脂(フェノール樹脂B;明和化成製、MEH−7800SS、OH当量175、軟化点67℃)、フェノールノボラック(フェノール樹脂C;群栄化学製、PSM−4261;OH当量103、軟化点 82℃)を用いた。これらの樹脂成分を粉砕機にて1mmパスの微粉にしたものを使用し、さらに硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを用いて表1に示す配合で混合し、100℃の加熱ロールにて混練しエポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物を用いて150℃にて成形し、175℃にて6時間ポストキュアを行い、硬化物試験片を得た後、各種物性測定に供した。表1に評価結果を示す。調整したエポキシ樹脂組成物の均一性は目視にて観察した。なお、表1に示す配合量は重量部である。
【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂。
【化1】

(但し、Aはナフチレン基を表し、mは1から15の数を示す)
【請求項2】
下記一般式(2)で表されるエポキシ樹脂。
【化2】

(但し、Aはナフチレン基を表し、mは1から15の数を示し、nは0から15の数を示す)
【請求項3】
一般式(2)において、mとnの和が1から15の数である請求項2に記載のエポキシ樹脂。
【請求項4】
下記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂とエピクロルヒドリンを反応させて得られる請求項2記載のエポキシ樹脂。
【化3】

(但し、Aはナフチレン基を表し、mは1から15の数を示す)
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるフェノール性樹脂とエピクロルヒドリンを反応させることを特徴とするエポキシ樹脂の製造方法。
【化4】

(但し、Aはナフチレン基を表し、mは1から15の数を示す)
【請求項6】
ジヒドロキシナフタレン類1モルに対して、一般式(3)で表される縮合剤を0.1〜0.9モル反応させて、一般式(1)で表されるフェノール性樹脂を得て、次いでこのフェノール性樹脂とエピクロルヒドリンを反応させることを特徴とする請求項5に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
【化5】

(但し、Xはハロゲン原子を示す)
【請求項7】
エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物であって、エポキシ樹脂成分として請求項2〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂を配合したことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
硬化剤成分として、フェノール性化合物を配合したことを特徴とする請求項7に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
エポキシ樹脂及び硬化剤よりなるエポキシ樹脂組成物であって、硬化剤成分として下記一般式(1)のフェノール性樹脂を配合したことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化6】

(但し、Aはナフチレン基を表し、mは1から15の数を示す)
【請求項10】
無機充填材が配合された請求項7〜9のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−46616(P2012−46616A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189367(P2010−189367)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】