説明

フレキシブルプリント基板材料およびフレキシブルプリント基板材料の製造方法

本発明は、ポリマー基板(2)と銅層(4)とを含むフレキシブルプリント基板材料およびこのようなフレキシブルプリント基板材料の製造方法に関し、前記ポリマー基板と前記銅層との間に酸化チタンからなる層(3)が堆積され、前記酸化チタンからなる層および前記層層は真空プロセスによって堆積される。前記ポリマー基板は例えばポリイミド、PEN、PEEK、PET、またはフルオロポリマーから形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅被覆を備えるポリマー基板を含むフレキシブルプリント基板材料、および、このようなフレキシブルプリント基板材料の製造方法に関する。
【0002】
フレキシブルプリント基板を製造するために、優先的に、銅によって被覆されたポリイミドが使用される。ポリイミドは、高い温度耐久性および化学的耐久性を特徴としており、したがって、プリント基板材料を製造する際の個々の処理ステップ、例えば被着された銅層の亜鉛メッキによる補強、これに引き続くエッチング剤による前記銅層の構造化、ウェーブソルダリングまたはディップソルダリングによる機能素子のプリント基板材料への装着など、の負荷に耐えうる。
【0003】
上記処理ステップの経過中におけるポリイミドの耐久性以外にも、加工中における銅層のポリイミドへの付着力、およびプリント基板材料の寿命は、非常に重要である。銅層の、ポリイミドへの付着良好な結合を達成するために、これまで種々異なる方法が試行されてきた。しかしながら、満足のいく解決方法はこれまで発見されていなかった。
【0004】
従来技術
ポリイミドフィルムの上に銅層を堆積させる前に、ポリイミドフィルムの表面に反応性のイオンエッチング処理を施すことが公知である(Arthur L. Ruoff et al., Improvement of adhesion of copper on polyimide by reactive ion-beam etching, IBM J. Res. Develop., 1988年, Vol. 32, 626-630頁)。イオンエッチング処理による基板のポリマー構造の破壊は、確かに、その上に堆積される銅層の付着能力を促進させるが、しかしながら同時に、基板の材料特性の変化をも引き起こしてしまう。
【0005】
さらに銅層の付着特性を改善するために、ポリイミド基板と銅層との間に接着層を堆積させることが提案されている。例えば、銅層の付着力改善のために、CrまたはNiCrからなる下部層が公知である(K. J. Blackwell et al., Enhancement of Chromium-to- Polyimide Adhesion by Oxygen DC Glow Treatment Prior to Roll-Sputter Seeding, Society of Vacuum Coaters, 1992年, 279-283頁)このような解決方法の欠点は、導体路構造のエッチングの際に、銅層の下にあるCrないしNiCr層も一緒にエッチング除去しなければならず、発ガン性のあるCr−Vl結合が生じてしまうことである。さらなる欠点は、銅に適合するエッチング剤がCrないしNiCr層に接すると、前記エッチング剤によって導体路構造のアンダーカットが行われることである。
【0006】
JP2003011272Aには、ポリイミドフィルムと銅層の間の接着剤として適当な別の金属材料が開示されている。このようなプリント基板材料を構造化する際には、このような下部層は、銅製の導体路外へ完全に除去する必要がある。なぜならそうでなければ、導電性の下部層は、複数の導体路間において電気的短絡を形成してしまうからである。しかしながらプリント基板材料を構造化するためのエッチング剤は、該エッチング剤のエッチング効果においてとりわけ銅のエッチング用に定められている。このことにより、金属製の下部層が、使用されたエッチング剤によって複数の導体路間において完全には除去されないことが多い、もしくはここでも既に上に述べた導体路構造のアンダーカッティングが引き起こされてしまう、という結果に至ってしまう。
【0007】
本発明の課題提起
したがって、本発明の基礎となる技術的課題は、従来技術の欠点を克服するフレキシブルプリント基板材料およびフレキシブルプリント基板材料の製造方法を提供することである。とりわけプリント基板材料の銅層を、基板材料に対して高い付着強度を有するようにしたい。また、プリント基板材料上の導体路の構造化を、エッチング処理によって実施できるようにしたい。
【0008】
この技術的課題の解決方法は、請求項1および20に記載の特徴的構成を備える特許請求対象によって得られる。本発明のさらに有利な実施形態は、従属請求項から得られる。
【0009】
ポリマー基板および銅層を含むフレキシブルプリント基板材料を製造するための本発明の方法においては、前記ポリマー基板と前記銅層との間に、閉鎖された層として絶縁層が堆積され、該絶縁層および前記銅層は、真空プロセスによって堆積される。
【0010】
このようにして堆積された絶縁性の中間層は2つの利点を併せ持つ。一方では、100nmまでの層厚さを以て堆積することができるこのような中間層は、ポリマー基板と銅層との間にて優れた接着剤として機能する。他方では、このような絶縁層は導電性を有さないので、導体路の構造化の際に複数の導体路間において除去する必要がない。したがって導体路の構造化の際に、とりわけ銅材料のエッチング用に定められた通常のエッチング剤を使用することが可能となる。
【0011】
絶縁層は、例えば酸化物または混合酸化物として堆積することができる。このような酸化物または混合酸化物のための元素として、例えばTi、Zn、Nb、Mo、SnまたはTaが適当である。酸化物または混合酸化物層には、別の元素をドーピングすることも可能である。絶縁層として特に適当であるのは、酸化チタンからなる層である。なぜなら酸化チタンは、ポリマー基板と銅層との間において特に優れた接着剤として機能するからである。
【0012】
1つの実施形態においては、ポリマー基板と銅層との間にある酸化チタン層は、二酸化チタン層として堆積される。
【0013】
択一的に絶縁層を、窒化物または酸窒化物から堆積させることも可能である。このような窒化物または酸窒化物からなる層は、例えばTi、Zn、Nb、Mo、Sn、Ta、またはSiの元素から形成することができる。
【0014】
絶縁性の中間層を堆積させるために、マグネトロンスパッタリング方法が適当である。なぜならこの方法によれば、わずか数ナノメータの非常に薄い層厚さでも、同一に保たれた層特性を以て堆積させることができるからである。このようにして例えば、5kHz〜250kHzの中間周波数領域において作動されるデュアルマグネトロンを、層堆積のために使用することができる。しかしながら択一的に、RFマグネトロンを使用することもできる。マグネトロンスパッタリング方法は、反応性にも非反応性にも実施することができる。
【0015】
別の実施形態においては、反応性ガスの酸素の存在下でチタンターゲットをスパッタリングすることによって、酸化物層が堆積される。チタンターゲットを完全反応性モード(Vollreaktivmode)においてスパッタリングする場合には、該完全性反応モードは安定的な処理状態であるので、特に簡単な処理制御を実行することができる。さらに完全反応性モードによれば、完全化学量論的組成の酸化チタン層が堆積されることが保証される。
【0016】
しかしながら絶縁層を堆積するために、電子ビーム蒸発法またはCVD法を使用することも可能である。これらの方法はそれぞれ、プラズマを使用して、またはプラズマを使用せずに、実行することができる。
【0017】
銅層の堆積の際にも、択一的に、ボートからの、または電子ビームを用いての蒸発またはマグネトロンスパッタリングを使用することができる。ここでも蒸発は、プラズマを使用して、またはプラズマを使用せずに、実行することができる。
【0018】
絶縁層および銅層を、直接連続して、かつ真空間隙なしに堆積させると特に有利である。なぜならこれによって特に付着良好な層結合が達成されるからである。
【0019】
ポリマー基板の表面全体において層特性を同一に保ちたい場合には、ポリマー基板を、被覆プロセスの間一定速度で動かすべきである。
【0020】
別の実施形態においては、銅層は、真空プロセスによる堆積の後、亜鉛メッキ方法によって補強される。
【0021】
本発明によるフレキシブルプリント基板材料は、ポリマー基板と銅層とを含み、前記ポリマー基板と前記銅層との間に絶縁層が形成されている。
【0022】
ポリマー基板は、ポリイミド、PEN、PEEK、PET、またはフルオロポリマーから形成することができ、フィルムとして形成することも、択一的に不織布もしくは織物として形成することも可能である。
【0023】
絶縁層のために、100nmまでの層厚さが適当である。絶縁層は、例えばTi、Zn、Nb、Mo、Sn、またはTaの元素の酸化物または混合酸化物から形成することができ、この酸化物または混合酸化物は別のドーピング元素を有することができる。絶縁層が二酸化チタン層から形成されている場合、上限として75nmの層厚さでも充分である。しかし、接着層として二酸化チタンからなる層を用いると、層厚さ30nmより薄くても非常に良好な付着結果が達成される。
【0024】
択一的に、絶縁層を、例えばTi、Si、Zn、Nb、Mo、Sn、またはTaの元素から形成されるような窒化物または酸窒化物として形成することも可能である。
【0025】
1つの実施形態においては、フレキシブルプリント基板材料の銅層は、IPC規格650にしたがって測定する場合、少なくとも6N/cmの付着力を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明によるフレキシブルプリント基板材料1の概略断面図である。
【0027】
実施例
以下本発明を、有利な実施例に基づき詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明によるフレキシブルプリント基板材料1の概略断面図である。25μm厚のポリイミド(カプトンHN)基板2の上に、MFスパッタリングによって6nm厚のTiO層が堆積された。この際、40kHzの中間周波数領域において作動されたダブルマグネトロンによる第1真空チャンバにおいて、チタンターゲットが、反応性ガスの酸素の存在下において、酸化物モードにてスパッタリングされる。真空の中断なしに直接引き続いて第2真空チャンバにおいて、100nm厚の銅層4の堆積が行われた。銅層4の堆積のために、直流電圧によって作動されるシングルマグネトロンが使用された。堆積された銅層4は、引き続き、亜鉛メッキ方法により約20μmの全体厚さまで補強された。
【0029】
基板2の上の銅層4の付着力に関して、IPC規格650によれば、12.0N/cmの値を測定することができた。これに比べて対照実験においてTiO層3がない場合、4N/cmの付着力しか達成されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー基板(2)と銅層(4)とを含むフレキシブルプリント基板材料の製造方法において、
前記ポリマー基板(2)と前記銅層(4)との間に、酸化チタンからなる層(3)が堆積され、
前記酸化チタンからなる層(3)および前記銅層(4)は、真空プロセスによって堆積される、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記ポリマー基板(2)と前記銅層(4)との間に、二酸化チタンからなる層(3)が堆積される、
ことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記酸化チタンからなる層(3)は、マグネトロンスパッタリングによって堆積される、
ことを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
5kHz〜250kHzの中間周波数領域において作動されるデュアルマグネトロンが使用される、
ことを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
RFマグネトロンが使用される、
ことを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項6】
チタンターゲットが使用され、
該チタンターゲットが、反応性ガスの酸素の存在下でスパッタリングされる、
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項7】
前記チタンターゲットは、完全反応性モードにおいてスパッタリングされる、
ことを特徴とする請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記銅層(4)が、マグネトロンスパッタリングによって堆積される、
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項9】
前記酸化チタンからなる層と前記銅層とが、直接連続して真空間隙なしに堆積される、
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項10】
前記酸化チタンからなる層は、100nmよりも薄い厚さを以て堆積される、
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項11】
ポリマー基板(2)と銅層(4)とを含むフレキシブルプリント基板材料において、
前記ポリマー基板(2)と前記銅層(4)との間に酸化チタンからなる層(3)が形成されている、
ことを特徴とするフレキシブルプリント基板材料。
【請求項12】
前記ポリマー基板(2)は、ポリイミド、PEN、PEEK、PET、またはフルオロポリマーから形成されている、
ことを特徴とする請求項11記載のフレキシブルプリント基板材料。
【請求項13】
前記酸化チタンからなる層(3)は、100nmよりも薄い厚さを有する、
ことを特徴とする請求項11または12記載のフレキシブルプリント基板材料。
【請求項14】
前記酸化チタンからなる層(3)は、二酸化チタン層として形成されている、
ことを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項記載のフレキシブルプリント基板材料。
【請求項15】
前記二酸化チタンからなる層(3)は、75nmよりも薄い厚さを有する、
ことを特徴とする請求項14記載のフレキシブルプリント基板材料。
【請求項16】
前記二酸化チタンからなる層(3)は、30nmよりも薄い厚さを有する、
ことを特徴とする請求項15記載のフレキシブルプリント基板材料。
【請求項17】
前記銅層(4)は、IPC規格650に従って測定した場合に、少なくとも6N/cmの付着力を有する、
ことを特徴とする請求項11〜16のいずれか一項記載のフレキシブルプリント基板材料。

【図1】
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【公表番号】特表2010−530612(P2010−530612A)
【公表日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506851(P2010−506851)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003678
【国際公開番号】WO2008/138532
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.カプトン
【出願人】(594102418)フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ (63)
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D−80686 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】